説明

外科的癒着の治療のためのサーファクタント調剤の使用

本発明は、リン脂質及び肺サーファクタントタンパク質を含有するサーファクタントの、外科的癒着の治療のための使用を記載している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は外科的癒着の治療のためのサーファクタント調剤の新規の使用に関する。
【0002】
従来技術
一般に、肺サーファクタントの機能は肺胞の空気と水との界面の表面張力を低下させることであると認められている。長年にわたり、肺サーファクタント調剤を未熟児の肺に導入することによりIRDS(新生児呼吸促迫症候群)を治療することが適していることが判明している。また肺サーファクタント調剤がALI(急性肺損傷)、例えばARDS(成人性呼吸促迫症候群)に臨床的に有効であることが予備試験から知られている[概観、例えばB. Lachmann, D. Gommers and E. P. Eijking: Exogenous surfactant therapy in adults, Atemw.-Lungenkrkh. 1993, 19: 581-91; D. Walmrath et al.: Bronchoscopic surfactant administration in patients with severe adult respiratory distress syndrome and sepsis, Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1996, 154: 57-62; T. J. Gregory et al.: Bovine surfactant therapy for patients with acute respiratory distress syndrome, Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1997, 155: 1309-15]。
【0003】
また、リン脂質調剤を外科的癒着の予防のために使用できることが先行技術から知られている。WO91/12026号は、リン脂質、例えばホスホグリセライド、リン糖脂質、ホスホジオール脂質又はホスホスフィンゴ脂質、有利にはレシチンのようなホスファチジルコリンの、例えば水、生理食塩水又はプロピレングリコール又はそれらの混合物のような外科的に許容できる担体中の懸濁液又は溶液で組織を被覆することにより不所望な外科的癒着を低減又は防止する方法を開示している。
【0004】
WO99/51244号は、術後癒着の可能性を減らすにあたっての界面活性リン脂質の使用を記載している。有利には、粉末製剤であって、リン脂質[例えばDPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン)、不飽和PG(ホスファチジルグリセロール)を単独で又は種々の比率で]を含有する術後癒着の防止のための製剤を指す。
【0005】
US6133249号は、プロピレングリコール中に分散されたリン脂質を含有する液体組成物を用いた哺乳動物の関節の潤滑方法を記載している。
【0006】
WO03/000344号は、一定のリン脂質、例えばDPPC、DPPCとPG又はDPPGの、生理学的に認容性の担体中に分散された液状、半液状又はペースト状の組成物の外科的癒着の危険を減らすための使用を開示している。
【0007】
発明の要旨
本発明は、必要とする患者における外科的癒着の予防又は外科的癒着の可能性の防止のための更なる医薬品調剤の使用に関する。
【0008】
驚くべきことに、リン脂質調剤であって、付加的にサーファクタントタンパク質を含有する調剤が、外科的癒着の治療において公知のリン脂質調剤と同等であるか、又はそれよりも良好であることが判明した。また驚くべきことに、粉末サーファクタント調剤は、特に外科的癒着の治療のために適していることが判明した。
【0009】
本発明の第一の実施態様では、少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有するサーファクタント調剤の、外科的癒着の治療用薬剤の製造のための使用が提供される。特に、肺サーファクタントタンパク質が組み換え的に製造された肺サーファクタントタンパク質であるサーファクタント調剤の使用が好ましい。肺サーファクタントタンパク質の修飾誘導体の使用は好ましく、かつrSP−C(FF/I)がかかるサーファクタント調剤においては特に好ましい。
【0010】
本発明の更なる一実施態様では、少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有する粉末状サーファクタント調剤の、外科的癒着の治療用薬剤の製造のための使用が提供される。特に、噴霧乾燥によって得られた粉末状サーファクタント調剤が好ましい。
【0011】
本発明の更なる一実施態様では、必要とする患者において外科的癒着を治療するための方法において、少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質及び場合により賦形剤を含有するサーファクタント調剤をそれを必要とする患者に投与する工程を含む方法が提供される。特に、必要とする患者において外科的癒着を治療するための方法において、サーファクタント調剤を局所的に投与する方法が好ましい。
【0012】
本発明の更なる一実施態様では、外科的癒着の治療に適したサーファクタント調剤を含有し、その際、該サーファクタント調剤が少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有する医薬品組成物が提供される。
【0013】
また本発明は、慣用の二次包装、一次包装、及び場合により添付文書を含む市販製品であって、一次包装は少なくとも1種のリン脂質と肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−Cのサーファクタント調剤を含み、サーファクタント調剤が必要とする患者における外科的癒着の治療のために適している市販製品に関する。
【0014】
発明の詳細な説明
本発明の対象である医薬品調剤の新規の使用は、リン脂質及び肺サーファクタントタンパク質を含有するサーファクタント調剤をそれを必要とする患者に投与することを含む。このように、本発明は癒着の治療用薬剤の製造のためのサーファクタント調剤の使用に関する。
【0015】
用語“癒着”とは、外科的癒着並びに手術無しに生ずる癒着を指す。縫合後に組織の癒着が防止されることが望ましい腹部又は胸部の手術及び他の形態の皮膚損傷(例えば外傷後)及び他の創傷は、皮膚での切開に引き続き、ことによると更により深部組織への切開を伴う。手術完了後又は皮膚損傷後に、各切開部の2縁部を縫合又は他の技術手段により結合して、細胞の増殖を可能にし、開放端で共に融合させることによって治癒過程を促進させる。組織癒着は切開により創られた同じ組織縁部間で生ずるだけでなく、異なる隣接組織の縁部間でも生ずるという問題が生ずる。これらの線維性癒着は血管化されて、いわゆる組織“ブリッジ”(“外科的癒着”としても知られる)を形成し、これらは互いに強固に結合され、そして通常は互いに滑り合う2つの組織の癒着を表すことがある。これらの癒着はたいてい望ましくなく、その癒着は隣接組織界面の相対運動を妨げ、しばしば剛直性又は不動性として顕在化する。強制的な運動の場合に、外科的癒着は痛みをもたらすか、又は癒着が破断して出血が起こることがある。
【0016】
本発明は、隣接組織間(例えば胸腔間)に直接接触がなく、そして隣接組織が摩擦無く自由に動けるのであれば組織ブリッジは形成しないことを考慮している。従って、本発明の課題は、少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有するサーファクタント調剤であって、滑り材として有用であり、かつ組織表面又は組織を摩擦無く動かすことを可能にするサーファクタント調剤を提供することである。
【0017】
従って、本発明によれば外科的癒着“を治療する”又は“の治療”という用語は、外科的癒着の予防及び/又は外科的癒着の可能性の防止を指す。
【0018】
従って、本発明は、外科的癒着の予防及び/又は外科的癒着の可能性の防止のための薬剤の製造のためのサーファクタント調剤の使用であって、サーファクタント調剤が少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有する使用に関する。少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有するサーファクタント調剤の使用は、通常最小の摩擦で滑り合う組織表面が互いにくっつき合うことを防止する。このように、少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有するサーファクタント調剤は癒着防止活性を有する。前記手法は、組織ブリッジの形成と運動制限を防止し、とりわけ痛みと出血を防止する。それ自体による痛みと出血はまた癒着をもたらすことがあり、その悪循環は本発明のサーファクタント調剤の使用によって止めることができる。
【0019】
少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有するサーファクタント調剤を含む医薬品組成物が外科的癒着に関してサーファクタント調剤と同じ界面活性と同じ接着防止活性を有することは当然のことである。
【0020】
本発明によれば、用語“必要とする患者”とは、外科的癒着を生ずる危険性を孕んだヒトを指す。外科的癒着は手術並びに他の形態の皮膚損傷又は創傷から生じ得るので、“必要とする患者”とは、特に、手術直前のヒト又はまさに術中にあるヒト又は皮膚に傷を負い、その損傷した皮膚の縁部を縫合により結合させる必要があるヒトを指す。特に、腹部の手術の直前のヒト又はまさに腹部の術中にあるヒトが挙げられる。また特に、胸部の手術の直前のヒト又はまさに胸部の術中にあるヒトが挙げられる。特に開胸への介入を受けている患者及び開腹への介入を受けている患者を挙げることができる。
【0021】
例としては、開胸への介入を受ける患者における本発明のサーファクタント調剤の使用が提供される。特に、心臓への介入、例えばバイパス手術又は心臓弁手術を受ける患者における本発明のサーファクタント調剤の使用が挙げられる。
【0022】
また、必要とする患者の例は、肺への介入が行われる患者である。
【0023】
特に、肺移植又は肺切除が挙げられる。本発明によれば、肺が移植される患者の治療に関連した外科的癒着の可能性を、移植前に肺を本発明のサーファクタント調剤で被覆することによって減らすことができる。この治療は、サーファクタント調剤の粉末製剤を用いて、外植器官に直接的にその移植前に局所的に投与することによって実施することが好ましい。肺が移植される患者の胸腔にはまた、移植前にサーファクタント調剤が振りかけられる。
【0024】
必要とする患者の更なる例は、腹部手術、例えば腸管又は結腸の手術を受ける患者である。
【0025】
必要とする患者の更なる例は、腱手術を控え、それによる腱と腱鞘との癒着を避ける必要がある患者である。
【0026】
必要とする患者の更なる例は、美容整形を控え、皮膚組織とその下にある組織の変形を避ける必要がある患者である。
【0027】
本発明によれば、必要とする患者は、有利には如何なる癒着もまだ発生していない患者である。
【0028】
“サーファクタント調剤”は、本発明によれば、リン脂質、肺サーファクタントタンパク質及びそれらの修飾物を含有し、天然のサーファクタントの機能を有する多くの公知の組成物を意味すると解される。
【0029】
天然のサーファクタントは界面活性特性を有し、例えば肺胞において表面張力を低下させる。簡単かつ迅速で、サーファクタントの界面活性を測定できるインビトロ試験は、例えばいわゆるウィルヘルミーバランス(Wilhelmy balance)[Goerke, J. Biochim. Biophys. Acta, 344: 241-261 (1974), King R.J. and Clements J.A., Am. J. Physicol. 223: 715-726(1972)]である。この方法は肺サーファクタントの質についての情報を与え、これはほぼゼロmN/mの表面張力を達成する肺サーファクタント作用として測定される。サーファクタントの界面活性を測定するためのもう一つの測定装置は、脈動気泡表面張力計[Possmayer F., Yu S. and Weber M., Prog. Resp. Res., Ed. v. Wichert, Vol. 18: 112-120 (1984)]である。
【0030】
有利な組成物は、例えば前記の試験において活性を有するものである。特に有利な組成物は、かかる試験において天然の、特にヒトのサーファクタントと比較して高められた活性を示すものである。
【0031】
本発明による有利な“リン脂質”は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、パルミトイルオレイルホスファチジルグリセロール(POPG)及び/又はホスファチジルグリセロール(PG)である。特に有利には、リン脂質は、種々のリン脂質の混合物、特にジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)とパルミトイルオレイルホスファチジルグリセロールとの、有利には7:3〜3:7の比の混合物である。
【0032】
好適な“肺サーファクタントタンパク質”は、天然源、例えば肺洗浄又は羊水からの抽出により得られるタンパク質、及び遺伝子工学(組み換えによる)又は化学合成によって製造されるタンパク質の両者である。本発明によれば、特にSP−B(サーファクタントタンパク質B)及びSP−C(サーファクタントタンパク質C)と呼ばれる肺サーファクタントタンパク質並びにそれらの修飾誘導体に関心が持たれる。これらの肺サーファクタントタンパク質のアミノ酸配列、それらの単離又は遺伝子工学による組み換え型の製造は公知である(例えばWO86/03408号、EP0251449号、WO89/04326号、WO87/06943号、WO88/03170号、WO91/00871号、EP0368823号及びEP0348967号)。ヒトのSP−Cとは幾つかのアミノ酸置換によって異なる、SP−Cと呼ばれる肺サーファクタントの修飾誘導体は、例えばWO91/18015号及びWO95/32992号に記載されている。この関連で特に強調されるべきは組み換えSP−C誘導体であり、これらはWO95/32992号に記載され、特にヒトのSP−Cとは4位と5位においてシステインがフェニルアラニンに置換され、かつ32位においてメチオニンがイソロイシンによって置換されることで異なっている[そこではrSP−C(FF/I)又はルスプルチド(INN)と呼ばれる]。肺サーファクタントタンパク質の“修飾誘導体”は、例えばEP0593094号及びWO92/22315号に記載されるような、肺サーファクタントタンパク質に関連して完全に最初から設計されたアミノ酸配列を有するタンパク質を意味するとも解される。有利には、この関連でポリペプチドKL4(INN:シナプルチド)を挙げることができる。本発明による肺サーファクタントタンパク質という名称は、種々の肺サーファクタントタンパク質の混合物も含むものである。
【0033】
本発明によれば、1種以上のサーファクタントタンパク質を含有するサーファクタント調剤が好ましい。
【0034】
インビトロ試験によって(ウィルヘルミーバランス又は脈動気泡表面張力計又は最大気泡圧表面張力計(MPT)[V.B. Fainerman and R. Miller, The maximum bubble pressure technique, monograph in "Drops and Bubbles in Interfacial Science", in "Studies of Interface Science", D. Moebius and R. Miller (Eds.), Vol. 6, Elsevier, Amsterdam, 1998, p. 279-326)]のいずれかを使用することによって)、サーファクタントタンパク質、特にrSP−Cを、リン脂質を含有するサーファクタント調剤に添加することで表面張力が低下し、従って滑り活性の増強に関する組成物の効力が、リン脂質単独を含有するサーファクタント調剤と比較して高まることが示された(図1を参照)。リン脂質とサーファクタントタンパク質rSP−Cを含有するサーファクタント調剤を増強させる手法は、rSP−Cの活性による拡散活性の増大にあり、その増大はウィルヘルミーバランス又は脈動気泡表面張力計又は最大気泡圧表面張力計(MPT)で最小の表面張力がより迅速に達成されることで測定される。本発明のサーファクタント調剤は、それぞれ、異なる組織(例えば肺と胸膜との間の胸腔中の)間の運動を、公知のリン脂質調剤と比較して少なくとも同等に良好に可能にする。特に、本発明のサーファクタント調剤は、隣接組織間の運動を、公知のリン脂質調剤と比較して改善する。このように、本発明のサーファクタント調剤、特にrSP−Cを含有する調剤は、必要とする患者における外科的癒着の治療(予防及び/又は防止)のために適している。
【0035】
サーファクタント調剤中に存在してよい更なる成分又は“賦形剤”として、脂肪酸、例えばパルミチン酸が挙げられる。サーファクタント調剤は、有利な粘性を達成するために、電解質、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩及び/又はナトリウム塩(例えば塩化カルシウム、塩化ナトリウム及び/又は炭酸水素ナトリウム)を含有してもよい。本発明による有利な調剤は、80〜85質量%のリン脂質、0.1〜3.0質量%の肺サーファクタントタンパク質、3〜15質量%の脂肪酸、有利にはパルミチン酸及び0〜3質量%の塩化カルシウムを含有する。
【0036】
サーファクタント調剤は、自体公知の方法及び当業者によく知られた方法、例えばWO95/32992号に記載された方法によって製造される。本発明によれば、サーファクタント調剤を凍結乾燥及び噴霧乾燥することができる。凍結乾燥された調剤は、例えばWO97/35882号、WO91/00871号及びDE3229179号に開示されている。WO97/26863号は、噴霧乾燥により粉末化された肺サーファクタント調剤の製造方法を記載している。粉末状のサーファクタント調剤の組成は本発明の実施例1〜6に例示されている。
【0037】
本発明によれば、少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有するサーファクタント調剤をそれを必要とする患者に投与することは、場合に応じて自体公知でかつ当業者によく知られるように決定する必要がある。サーファクタント調剤を粉末、懸濁液、溶液又はペーストとして、又は肺サーファクタント溶液もしくは肺サーファクタント懸濁液の噴霧化の形で又は肺サーファクタント粉末の霧化によって投与するかどうかは、介入の種類と規模に依存し、こうして外科的癒着の種類と規模に依存する。
【0038】
溶液又は懸濁液の場合には、該溶液又は懸濁液は使用直前に調製されて、適切な装置、有利にはシリンジ又はアンプル又は絞り出し容器中に充填される。該溶液又は懸濁液は該当組織、すなわち腔中の又は皮膚損傷又は創傷における各組織又は組織層に、各組織又は組織層が懸濁液又は溶液により被覆されるように直接局所的に投与される。本発明のサーファクタント調剤を含有する懸濁液又は溶液をシリンジ又は絞り出し容器を使用して投与することが好ましい。
【0039】
特に、少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有する凍結乾燥されたサーファクタント調剤の使用が挙げられ、その凍結乾燥されたサーファクタント調剤は本発明のサーファクタント調剤の懸濁液又は溶液のための出発材料として使用される。本発明によれば、凍結乾燥されたサーファクタント調剤は、一回配分型(sinble-serving)絞り出し容器中に一回使用によい量で充填されうる。使用直前に、凍結乾燥されたサーファクタント調剤は好適な溶剤を添加することによって溶解される。溶解されたサーファクタント調剤(本願で呼称される医薬品組成物の例)は絞り出し容器の使用によって投与される。本発明によれば、かかる医薬品組成物は、創傷又は切開又は他の形の皮膚損傷を閉じる直前及び/又はその間に使用して、外科的癒着の発生を防止することができる。
【0040】
本発明のサーファクタント調剤のペースト状製剤の場合に、該ペーストは該当組織に局所的に投与されるが、その粘性のため器具、例えばスパチュラによって組織又は組織層がサーファクタント調剤のペースト状製剤によって完全に被覆されるように施される。
【0041】
サーファクタント調剤を粉末として配合し、それを腔中又は皮膚損傷又は創傷中の各組織又は組織層に、各組織又は組織層が粉末状のサーファクタント調剤によって被覆されるように局所的に投与することが特に好ましい。本発明のサーファクタント調剤を含有する粉末を、絞り出し容器又は粉末スプレー又はシフタートップパッケージ(sifter-top package)又はシフタートップ容器を使用することによって投与することが好ましい。
【0042】
粉末の適用は、開胸への介入を受ける患者又は腹部手術を受ける患者において特に好ましい。広い身体領域における癒着の場合には溶液又は懸濁液又はペーストとして配合されたサーファクタント調剤が不適であることが示されている。本発明のサーファクタント調剤の溶液又は懸濁液は恐らく付着せず、損傷領域から流れ落ちる可能性がある。ペーストの使用が適切でないと示されているのは、ペーストは粘度が高く、ペーストを広い身体領域(組織又は組織層)上に器具、例えばスパチュラを用いて被覆する必要が生じ、これは時間を消耗し、かつ損傷した身体領域における感染又はサーファクタント調剤の不均一な拡散のような付加的な問題を導くことがあるからである。粉末状のサーファクタント調剤を絞り出し容器又は粉末スプレー又はシフタートップ容器を用いて使用することは、損傷した身体領域に直接接触することなく実施でき、こうして感染の危険性を低下させることができる。粉末状の製剤としての本発明のサーファクタント調剤の投与は、広い身体領域の場合でさえも組織又は組織層にわたってサーファクタント調剤の拡散を最適にできる。また、損傷した身体領域に適用された粉末状のサーファクタント調剤は、その白色又は黄色の色のため確認可能であり、こうして医師のサーファクタント調剤の均一な適用の助けとなることが利点である。
【0043】
本発明のサーファクタント調剤の局所投与の結果として、隣接組織又は組織層の滑りが高まる。こうして、本発明は、必要とする患者における癒着の治療(癒着の可能性の防止)方法において、本発明によるサーファクタント調剤をそれを必要とする患者に局所的に投与する工程を含む方法に関する。
【0044】
有利には、本発明によるサーファクタント調剤は、好適な溶剤又は再懸濁媒体中に、特に調剤が凍結乾燥又は噴霧乾燥された形で存在するのであれば溶解又は懸濁される。好ましくは、好適な再懸濁媒体は生理学的食塩溶液である。サーファクタント調剤の懸濁液又は溶液であって、懸濁液1mlあたり25〜100mgのリン脂質を含有するものを投与することが好ましいと判明した。有利には、サーファクタント調剤は、1回適用あたり、リン脂質の量が体重kgあたり12.5〜200mgとなる量で投与される。本発明のサーファクタント調剤が0.1〜2.0mgのrSP−C(FF/I)を1mlの溶剤当たりに含有することが好ましい。特に、1mlの溶剤当たりに0.1〜1.5mgのrSP−C(FF/I)を含有するサーファクタント調剤が挙げられる。
【0045】
必要とする患者において癒着を治療するための方法において、本発明のサーファクタント調剤は少なくとも1回で投与される。本発明のサーファクタント調剤の、癒着の予防及び/又は癒着の可能性の防止のための投与は一回で実施されることが好ましい。
【0046】
本発明の更なる対象は“市販製品”である。本発明によれば、二次包装、医薬品調剤を含む一次包装並びに市販製品の患者パッケージは、当業者がこの種の医薬品調剤に標準的な市販製品として見なすであろうものに相当する。
【0047】
好適な“一次包装”は、サーファクタント調剤の配合に依存するが、原則的に当業者に公知であり、かつ当業者によく知られている。例えば、溶液又は懸濁液はシリンジ又は絞り出し容器又はアンプル中に充填されるが、一方でペーストはビン又はグラス又は容器中に充填され、そしてサーファクタント調剤の粉末製剤は絞り出し容器又は粉末スプレー容器又はシフタートップ容器又はシフタートップパッケージ中に充填されてよい。
【0048】
例としてあげられる好適な“二次包装”は、折り畳み箱である。更なる包装はペーストの適用に使用されるような包装であってもよい。
【0049】

図1:サーファクタント調剤の界面活性特性は、最大気泡圧表面張力計(MPT)[V.B. Fainerman and R. Miller, The maximum bubble pressure technique, monograph in "Drops and Bubbles in Interfacial Science", in "Studies of Interface Science", D. Moebius and R. Miller (Eds.), Vol. 6, Elsevier, Amsterdam, 1998, p. 279-326)]によって37℃で1秒間の表面圧を測定することにより調べた。測定は、25mgPL(リン脂質)/mlのサーファクタント濃度で実施した。使用されるサーファクタント調剤は:(1)リン脂質(PL)マトリクス;(2)ベンチキュート(登録商標)(VENTICUTE)(INN:ルスプルチド)(アルタナ・ファルマ社)、rSP−C(FF/I)を含有する合成サーファクタント;(3)エキソサーフォ(登録商標)(EXOSURFO)(INN:パルミチン酸コルフォセリル)(グラクソスミスクライン社)、賦形剤を含有する合成リン脂質;(4)サーバンタ(登録商標)(SURVANTA)(INN:ベラクタント)(アボット・ゲーエムベーハー(Abbott GmbH)社、ヴィースバーデン)、ウシ肺の抽出物;(5)アルベオファクト(登録商標)(ALVEOFACTO)(INN:ボバクタント(BOVACTANT))(ベーリンガーインゲルハイム社)、ウシ肺の抽出物;(6)インファサーフ(登録商標)(INFASURF)(INN:カルファクタント(CALFACTANT)(フォレスト・ファーマシューティカル社(Forest Pharmaceutical))、仔ウシ肺から抽出されたサーファクタント;及び(6)ブレス(登録商標)(BLESS)(ブレス・バイオケミカル・インク社(BLES Biochemical Inc.))、ウシ脂質抽出物サーファクタントである。
【0050】
実施例
A)粉末状のサーファクタント調剤の製造
粉末状のサーファクタント調剤はWO97/26863号に記載の方法によって製造される。
【0051】
実施例1
7.0gの1,2−ジパルミトイル−3−sn−ホスファチジルコリン、2.5gの1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−ホスファチジルグリセロールナトリウム、205mgの塩化カルシウム二水和物及び250mgのパルミチン酸を300mlのエタノール/水(85:15)中に60℃に温めながら溶解させ、室温に冷却し、そしてrSP−C(FF/I)をクロロホルム/メタノール9:1(c=429mg/l)中に溶かした溶液350mlと混合する。得られた溶液をBuechi B 191型の研究用噴霧乾燥器中で噴霧乾燥させる。噴霧条件:乾燥ガスは空気、入口温度は90℃、出口温度は52〜54℃。比較的緩い粉末が得られる。
【0052】
実施例2
ウシ肺から得られたサーファクタント(例えばEP406732号に記載される抽出と精製の工程によって得られる)をクロロホルム/メタノール中に溶かした溶液を以下の条件下に噴霧乾燥する:Buechi B 191型の研究用噴霧乾燥器、乾燥ガスは窒素、入口温度は80℃、出口温度は50〜52℃。微細な帯黄色の粉末が得られる。
【0053】
実施例3
10.95gの1,2−ジパルミトイル−3−sn−ホスファチジルコリン、4.6gの1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−ホスファチジルグリセロールアンモニウム、418mgの塩化カルシウム二水和物及び750mgのパルミチン酸を330mlの2−プロパノール/水(85:15)中に50℃で溶解させ、そして30℃に冷却した後に、rSP−C(FF/I)をイソプロパノール/水(95:5、c=484mg/l)中に溶かした溶液620mlと混合する。得られた溶液をBuechi B 191型の研究用噴霧乾燥器中で噴霧乾燥させる。噴霧条件:乾燥ガスは窒素、入口温度は100℃、出口温度は58〜60℃。無色の粉末が得られる。
【0054】
実施例4
3.74g(5.1ミリモル)の1,2−ジパルミトイル−3−sn−ホスファチジルコリン、2.81g(3.7ミリモル)の1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−ホスファチジルコリン、2.90g(3.9ミリモル)の1,2−ジパルミトイル−3−sn−ホスファチジルグリセロールナトリウム、234mgのパルミチン酸及び279mg(1.9ミリモル)の塩化カルシウム二水和物を160mlの2−プロパノール/水(85:15)中に50℃で溶解させ、そして30℃に冷却した後に、rSP−C(FF/I)をイソプロパノール/水(92:8、c=330mg/l)中に溶かした溶液566mlと30℃で混合する。得られた溶液をBuechi B 191型の研究用噴霧乾燥器中で噴霧乾燥させる。噴霧条件:乾燥ガスは窒素、入口温度は90℃、出口温度は58〜60℃。無色の粉末が得られる。
【0055】
実施例5
0.5gのKL4(INN:シナプルチド)、7.125gの1,2−ジパルミトイル−3−sn−ホスファチジルコリン及び2.43gの1−パルミトイル−2−オレオイル−3−sn−ホスファチジルグリセロールアンモニウムを500mlのクロロホルム/メタノール1:1中に45℃に温めながら溶解させ、次いでBuechi B 191型の研究用噴霧乾燥器中で噴霧乾燥させる。噴霧条件:乾燥ガスは窒素、入口温度は85℃、出口温度は55℃。無色の粉末が得られる。
【0056】
実施例6
実施例1、3又は4に従って得られたリン脂質、パルミチン酸及び塩化カルシウム二水和物の溶液を、rSP−C(FF/I)の溶液を添加せずに、実施例1、3又は4に相応して噴霧乾燥させる。粉末が得られる。
【0057】
B)市販製品の製造
実施例7
0.1〜10gの実施例1に従って得られた粉末を容量100〜250mlのビンに計量分配し、そのビンを密封する。そのビンを添付文書と一緒に、好適な折り畳み箱中に包装する。
【0058】
実施例8
0.1〜10gの実施例1に従って得られた粉末を容量100mlの絞り出し容器に計量分配し、その絞り出し容器を密封する。その絞り出し容器を添付文書と一緒に、好適な折り畳み箱中に包装する。
【0059】
実施例9
0.1〜10gの実施例1に従って得られた粉末を容量100mlのシフタートップ容器に計量分配し、そのそのシフタートップ容器を密封する。そのシフタートップ容器を添付文書と一緒に、好適な折り畳み箱中に包装する。
【0060】
C)粉末状のサーファクタント調剤の使用
実施例10
実施例8の絞り出し容器を開梱し、密封を解き、そして粉末状のサーファクタント調剤を、絞り出し容器を押して、絞り出し容器から粉末状のサーファクタント調剤を押し出すことによって損傷した身体領域に直接適用する。
【0061】
実施例11
実施例9のシフタートップ容器を開梱し、密封を解き、そして粉末状のサーファクタント調剤を損傷した身体領域に直接的に、シフタートップ容器を振って、シフタートップ容器から粉末状のサーファクタント調剤を該当組織に直接排出させることによって適用する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、各サーファクタント調剤(PLマトリクス;ベンチキュート;エキソサーフォ;サーバンタ;アルベオファクト;インファサーフ及びブレス)の界面活性特性を示すグラフである

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科的癒着の治療用薬剤の製造のためのサーファクタント調剤の使用であって、該サーファクタント調剤が、
・ 少なくとも1種のリン脂質、
・ 肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び
・ 場合により賦形剤
を含有する使用。
【請求項2】
肺サーファクタントタンパク質が組み換え的に製造された肺サーファクタントタンパク質である、請求項1記載の使用。
【請求項3】
肺サーファクタントタンパク質が肺サーファクタントタンパク質の修飾誘導体である、請求項2記載の使用。
【請求項4】
肺サーファクタントタンパク質がrSP−C(FF/I)である、請求項3記載の使用。
【請求項5】
サーファクタント調剤が粉末の形態である、請求項1から4までのいずれか1項記載の使用。
【請求項6】
粉末が噴霧乾燥によって得られる、請求項5記載の使用。
【請求項7】
必要とする患者において外科的癒着を治療するための方法において、
・ 少なくとも1種のリン脂質、サーファクタントタンパク質及び場合により賦形剤を含有するサーファクタント調剤をそれを必要とする患者に投与する工程
を含む方法。
【請求項8】
サーファクタント調剤を局所的に投与する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の使用又は方法に適したサーファクタント調剤を含有する医薬品組成物であって、該サーファクタント調剤が、少なくとも1種のリン脂質、肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−C及び/又はそれらの修飾誘導体及び場合により賦形剤を含有する医薬品組成物。
【請求項10】
市販製品であって、
・ 慣用の二次包装、
・ 少なくとも1種のリン脂質と肺サーファクタントタンパク質SP−B及び/又はSP−Cとの医薬品調剤を含む一次包装、及び場合により
・ 添付文書
を含み、前記医薬品調剤が、必要とする患者における外科的癒着の治療のために適している市販製品。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2007−504116(P2007−504116A)
【公表日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524369(P2006−524369)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2004/051947
【国際公開番号】WO2005/021011
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(390019574)アルタナ ファルマ アクチエンゲゼルシャフト (69)
【氏名又は名称原語表記】ALTANA Pharma AG
【住所又は居所原語表記】Byk−Gulden−Str. 2、 D−78467 Konstanz、 Germany
【Fターム(参考)】