説明

外耳道および鼓膜の再建部材

【課題】皮膚、皮下軟部組織、粘膜、鼓膜、外耳道という異なる組織と異物反応や排除もなく生長させ、強度が高く、取扱性の容易な、外耳道および鼓膜を再建するための再建部材の提供。
【解決手段】リン酸カルシウムなどのセラミックスを主成分とした、厚さ方向に複数の貫通孔を有する薄片状のセラミックス成形体からなる再建部材。その貫通孔内および/または表面にはにコラーゲンなどの充填材または皮膜が配置されていてもよい。さらにその充填材または皮膜に骨形成因子が配合されていてもよい。成形体の形状は、単純な板状のほか、L字構造などにして、外耳道と鼓膜とを同時に再建することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外耳道の一部と鼓膜とを再建するための再建部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中耳手術においては、視野や操作スペースを確保するために、外耳道の一部だけでなく中耳腔まで削除することがある。あるいは病傷害などにより外耳道の一部と鼓膜が損傷を受けることがある。これらの理由のために外耳道または鼓膜が欠損した場合にはそれらを再建する必要が生ずる。
【0003】
ここでこれらの欠損部位を再建するための部材としては、皮膚、骨部外耳道を含む側頭骨、軟骨部外耳道、皮下軟部組織、および粘膜の5種類の組織からなる外耳道、ならびに鼓膜というそれぞれ異なる組織と生着させることのできる部材が必要となる。このような要求に応えるために、軟骨板などの自家材料やハイドロキシアパタイトなどの人工材料が検討されている。しかし、採取が困難であったり、早期吸収による変形あるいは組織との親和性に改善の余地があり、さらに異物反応が起こりえる。この異物反応とは、生体に再建部材を埋入したときに、生体がそれを異物として組織外に排出しようとする反応である。この異物反応を解消するために、コラーゲンと骨形成因子との組成物からなる成形品を再建部材として用いることが知られている(特許文献1参照)。この特許文献によれば、そのような成形品は、組織親和性に優れ、異物反応の出現もない良好な外耳道および鼓膜再建用の部材となるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−125252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、上記成形品は成形体としての強度に改良の余地があった。そのため手術時の取扱いが困難であり、また生体に埋入した時に変形する可能性があった。またこれまで外耳道と鼓膜とを同時に、任意の形状に成形しながら再建する方法は見出されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による再建部材は、外耳道または鼓膜の欠損部分を再建するためのものであって、前記再建部材が厚さ方向に複数の貫通孔を有する、セラミックスからなる薄片状成形体であり、前記再建部材が埋入される場合に、前記貫通孔の開口部がある面が前記欠損部分に接するように埋入されることを特徴とするものである。
【0007】
本発明による別の再建部材は、外耳道および鼓膜の欠損部分を再建するためのものであって、前記再建部材が厚さ方向に複数の貫通孔を有する、セラミックスからなる薄片状成形体であり、かつ前記再建部材の一方の端部が折曲しており、前記再建部材が埋入される場合に、前記折曲された端部を鼓膜側に向け、前記貫通孔の開口部がある面を前記外耳道欠損部分に接するように埋入されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明による再建部材は、セラミックスからなるので強度が高く、そのため手術時の取扱いが容易となり、埋入後の変形はほとんど生じない。さらに複数の貫通孔が設けられているため、その貫通孔に細胞等が進入、固着して、安定した外耳道または鼓膜を再建することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施態様による再建部材を示す斜視図である。
【図2】本発明の他の実施態様による再建部材を示す断面図である。
【図3】本発明のさらに他の実施態様による再建部材を示す斜視図である。
【図4】本発明による再建部材の埋入状態の一例を示す概念断面図である。
【図5】本発明による再建部材の埋入状態の別の一例を示す概念断面図である。
【図6】実施例4による再建部材の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例5による再建部材の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図8】実施例6による再建部材の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例7による再建部材の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図10】実施例8による再建部材の破断面の電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例9による再建部材の破断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による再建部材を図面に沿って説明すると以下のとおりである。
【0011】
図1は、本発明の一実施態様である再建部材1を示す斜視図である。本発明の再建部材1は、セラミックスからなる薄片状成形体2からなり、この成形体2の厚み方向に複数の貫通孔3が形成されている。
【0012】
本発明において、セラミックスからなる成形体2は、薄片状であればその外形形状は任意であるが、再建しようとする外耳道などの形態に沿うような形状であることが好ましい。すなわち、本発明による再建部材は一般的には直方体状または板状とされるが、外耳道の内側曲面に合わせた湾曲した形状なども好ましい。また、円盤状などの形状であってもよい。また、再建部材の大きさは、適用しようとする動物の種類などに応じて適切に決められる。例えば、ヒトの外耳道および鼓膜の再建に用いられる場合、再建部材の厚みは子供から大人までの外耳道の厚み以下であることが好ましく、たとえば0.5〜5mm、特には1〜3mmの範囲が好適である。また、幅および長さは治療しようとする部位に応じて決められるが、幅は一般に2.0〜15.0mm、好ましくは3.0〜10.0mmであり、長さは一般に2.0〜25.0mm、好ましくは3.0〜20.0mmである。
【0013】
また、本発明による再建部材1には厚み方向に、複数の貫通孔3が設けられている。この貫通孔3を設けることで、外耳道の欠損部位に埋入した際に骨芽細胞や血管などが貫通孔3内に進入して、骨形成性および周辺組織への生着性が良好となり、強固で安定した再建がなされるのである。貫通孔3の断面形状は任意であり、たとえば円形、楕円形、三角形、四角形など任意の形状とすることができる。しかし、細胞や血管等が貫通孔に進入して貫通孔の内壁に均一に付着することにより、骨形成などにおいてほぼ同心円状に層生長させることができるので、貫通孔の断面形状は円形であることが特に好ましい。
【0014】
貫通孔3の孔径は、細胞、血管、骨などが十分に生成し、生長できる範囲であることが好ましく、使用条件に応じて適宜設定できる。具体的には、貫通孔の孔径は、10〜1000μmであることが好ましく、特には細胞進入に適切な径である200〜600μmの範囲がより好ましい。また、貫通孔の数は複数であることが必須であるが、一般に孔の数が多いほど接合効果は大きくなる傾向にあるので好ましい。また、貫通孔の断面形状あるいは孔径は揃っていてもよいし、異なったものが混在していてもよい。さらに、貫通孔の配置は規則的であっても、ランダムであってもよい。
【0015】
再建部材に設ける貫通孔の数は再建部材の大きさによっても変化するが、単位面積あたりの貫通孔の数は多い方が好ましい。このとき、特定された孔径範囲からはずれた貫通孔が存在しても良いが、貫通孔の大部分が特定された孔径範囲に含まれることが好ましい。単位面積あたりの貫通孔の数が多ければ、孔内に入る血管、細胞の総数が多くなり、骨形成がより改良される傾向があり、また貫通孔の孔径が特定された範囲内にあることで各貫通孔における骨形成が良好になるからである。仮に開口面積が同等になるような孔径の大きな貫通孔をひとつだけ設けても、各貫通孔における骨形成が悪くなってしまううえ、貫通孔内部の総表面積が少なくなるため、表面に形成される骨量も減少し、良好な骨形成が得られなくなってしまうことが多い。以上の理由により、特定された孔径範囲に含まれる孔径の貫通孔が多数形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明による再建部材の主材であるセラミックスとしては、金属の酸化物、珪化物、窒化物、弗化物、硼化物など種々のものを用いることができる。これらのうち、いずれを用いてもよいが、骨補填材や細胞培養担体などに用いられているセラミックスが好ましい。例えば酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、リン酸カルシウムなどが挙げられ、このうち特にはリン酸カルシウム系セラミックが生体組織に近い特質を有することから好適である。より具体的には例えば第一リン酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウム、ハイドロキシアパタイト、Ca不足ハイドロキシアパタイトなどが挙げられる。そして、この中でリン酸三カルシウムが好適である。このリン酸三カルシウムにはα−リン酸三カルシウム(以下、α−TCPということがある)とβ−リン酸三カルシウム(以下、β−TCPということがある)があるが、炎症反応の防止の観点から、β−TCPの含有率が高いことが好ましく、特にβ−TCPの含有率が100%であることが最も好ましい。セラミックスとしてβ−TCPを用いることにより、さらに生体親和性に特に優れ、自身も骨化すると共に異物反応の出現も生じにくいという効果がある。この結果、皮膚、骨部外耳道を含む側頭骨、軟骨部外耳道、皮下軟部組織、または粘膜という異なる組織との生着性が改善される。
【0017】
本発明による再建部材において、セラミックス成形体は微小な空隙を含んでおり、その空隙の量が多いほど生体内での溶解性が高く、生体親和性も高い傾向にある。このため、空隙の量を示す気孔率は2%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であるとさらに好ましい。また、気孔率が低いほど緻密となり、機械的強度が高くなる傾向にある。このため、気孔率は40%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましい。
【0018】
ここで、セラミックス成形体の気孔率は、具体的にはアルキメデス法により測定することができる。本発明においては、セラミックス成形体の乾燥質量W1、水中質量W2、および飽水質量W3を測定し、下記の式により求めることができる。
気孔率(%) = (W3−W1)/(W3−W2)×100
【0019】
セラミックス成形体中の貫通孔内に骨芽細胞や血管などを進入させることを意図する場合、少なくともひとつの、好ましくはすべての貫通孔の内部に適切な充填材を配置させることでさらに良好な組織再建効果が期待される。このような充填材としては、高分子化合物や抗菌効果を有する血液などが挙げられる。ここで好ましい高分子化合物は親水性ポリマーからなる高分子ハイドロゲルであり、このような高分子化合物は骨芽細胞や血管の生長を促進させるという特徴を有している。好ましい高分子化合物としては、具体的にはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース誘導体、コラーゲン、ゼラチンなどのタンパク質およびその誘導体、アルギン酸、デンプン、デキストラン、プルランなどの多糖およびその誘導体、ヘパリン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸などのグリコサミノグルカン、キチン、キトサンなどの多糖類、ムコ多糖類などが挙げられ、これらを単独もしくは組み合わせて用いることができる。また血液は、炎症を防御するという点で好ましい。また、この充填材に炎症などの治療薬を配合することも可能である。
【0020】
図2は本発明の別の実施態様である再建部材の断面図である。図2における再建部材は充填材5により貫通孔内部が満たされており、さらに貫通孔の開口部がある二つの表面が皮膜4により被覆されたものである。このように生体組織に接触する表面に皮膜4を設けることにより、皮膚や骨部外耳道および軟骨部外耳道からなる外耳道、皮下軟部組織、粘膜あるいは鼓膜というそれぞれ異なる組織と生着しやすくすることができる。このような適切な皮膜の材質としては前記した充填材と同じものを挙げることができる。
【0021】
なお、皮膜を配置する場合には、貫通孔3内にも充填材5が配置されていたほうがより好ましい。このとき充填材の材質は皮膜4と同じであっても、異なっていてもよい。また、皮膜は異なった材料を用いて2層以上に積層することもできる。
【0022】
上記皮膜および/または充填材を用いる場合には、その材料中に、さらに骨形成因子を配合することが好ましい。骨形成因子により、細胞や骨などの生長にさらに好ましい効果を期待することができるためである。利用が可能な具体的な骨形成因子としては、たとえばBMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−9、BMP−10、BMP−11、BMP−12、BMP−13、BMP−14、BMP−15、BMP−3b、OP−2、OP−3、DPP、Vg−1、Vgr−1、60Aプロテイン、GDF−1、GDF−2、GDF−3、GDF−5、GDF−6、GDF−7、GDF−8、GDF−9、GDF−10、GDF−11、FGF、M−CSF、IL−10、IL−12、IL−17、IL−21などが用いられる。なかでもBMPが好ましく、特にはBMP−2が好適である。骨形成因子の配合量は、多いほうが骨形成促進効果が大きくなるので、皮膜および/または充填材に用いる材量の全質量に対し、一般に0.0001質量%以上、好ましくは0.001質量%以上、特に好ましくは0.01質量%以上である。また、骨形成因子の配合量が少ないほうが骨形成促進効果に対するコストの点で有利となるので、一般に1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、特に好ましくは0.2質量%以下とされる。
【0023】
図3は、本発明のさらに別の実施態様による再建部材を示すものある。この再建部材はその一端が折曲したL字型構造を有している。すなわち、直方体または板状の薄片の長手方向の一端が約90°の角度で折り曲げられた形状となっている。このような形状は再建部材が埋入される部位の形状に対応して決定されることが好ましい。特に図3に示されるような構造を有する再建部材は、鼓膜と外耳道との結合部位に埋入し、両方を同時に治療するのに適したものである。折り曲げられた部分2Aは、主に外耳道骨組織と連なった鼓膜に接合して鼓膜を保護または再建するためのものであり、特に鼓膜とその周辺組織との結合が弱い箇所においては好ましい効果をもたらす。このような折曲構造は平板面の組合せとして得ることもできるし、一体成型により得ることもできる。このような構造を有する再建部材において、折り曲げられた部分2Aの折曲角度および装着向きは、欠損部の大きさや再建される骨組織と鼓膜との角度によって決められる。比較的正常に近い外耳道に施術する場合には、折り曲げられた部分2Aの折曲部付近で鼓膜と接合することが多く、欠損量が多い場合は、反対の向きに装着し、折り曲げられた部分2Aの先端部付近で鼓膜と接合することが多いと思われる。ここで、骨組織と鼓膜との角度は外耳道内の位置によって異なるため、その位置や欠損量にしたがって適宜設定する必要がある。従って、折り曲げられる角度は直角でなく、鋭角や鈍角であってもよい。また再建部材と鼓膜との接合を向上させるためには、前記した皮膜を設けておくことが好ましい。
【0024】
また、必要に応じて、T字型構造や矩形構造とすることもできる。これらの構造は治療する部分にあわせて適宜採用することができる。さらには、これらの再建部材はあらかじめL字型などの必要な形状のものを埋入するだけでなく、例えば板状の再建部材をL字型に配置して埋入することによって、L字型構造を有する再建部材と同様の効果を得ることもできる。
【0025】
本発明による再建部材の埋入状態は、例えば図4または5に示されるものである。ここでは、L字型構造を有する再建部材を用いた例を示すが、その他の構造を有する場合にもこれに準じて埋入することができる。
【0026】
図4に示された例では、外耳道の欠損部分に対して再建部材の長手部分が接するように埋入されている。ここで、外耳道の欠損部に接しているのは、再建部材の貫通孔の開口部がある長い部分の面である。また、この例では再建部材の折曲部は鼓膜側に配置されるように埋入されている。一方、図5の例では折り曲げ部が図4とは反対側になるように埋入されている。これらの配置は、外耳道や鼓膜の欠損状態によって適当に調整される。なお、必要に応じて、外耳道または鼓膜のいずれか必要な側、すなわち長手部分と折曲部のいずれかだけに貫通孔が設けられていてもよい。
【0027】
なお、図4および図5は、正常な状態の外耳道の構造に対する再建部材の埋入位置を示している。しかしながら実際に損傷を受けている外耳道または鼓膜の形状は様々であり、外耳道が閉塞していたり、いびつな形状となっていたりすることがある。したがって、このような場合に再建部材を用いる場合には、その状態に応じて適切に埋入位置が調整されるのが一般的である。
【0028】
本発明による再建部材は任意の方法で製造することができるが、好ましい方法として、以下のような方法で製造することができる。
セラミックスを含む組成物を準備し、
前記組成物を用いて、成形加工により薄片状セラミックス素材を作製し、
前記薄片状セラミックス素材に、厚さ方向に伸びる複数の貫通孔を形成させ、
前記セラミックス素材を乾燥もしくは600℃以上の温度で焼成する。
【0029】
この方法をより具体的に説明すると以下の通りである。まずセラミックスなどの主材に必要に応じて樹脂などの結合材や水などの溶媒を加えた組成物を準備する。次いでその組成物を用いて、押出成形、射出成形、またはプレス成形などの成形加工により薄片状のセラミックス素材を作製し、このセラミックス素材の厚み方向にドリル等により適宜の数の貫通孔を形成させる。必要に応じて、貫通孔の形成の前または後に、外耳道等の形状に合わせて、薄片を湾曲させたり折り曲げたりする。得られたセラミックス素材を乾燥もしくは800℃以上の温度で焼成することによって、セラミックス成形体としれ再建部材を得る。この後、必要に応じて貫通孔内及び/又はセラミックス成形体の表面に高分子化合物を含む皮膜を形成させることもできる。
【0030】
ここで、セラミックス成形体を得るときの焼成温度は、前記した気孔率やセラミックス組成などと密接に関係している。通常、セラミックスの焼結が始まるのは600℃ぐらいからといわれているが、焼成温度と気孔率とセラミックス組成とはある一定の関係を有しており、前記した好ましい気孔率の範囲から、本発明の外耳道再建部材を製造する場合には、セラミックス成形体を得るための焼成温度は800〜2000℃であることが好ましい。下限値を下回ると、表面に粉状の付着物が生成して、ハンドリングが悪くなる傾向があり、上限値を超えると、装置に貼着したりすることがあるので、好ましくない。また、セラミックスとしてリン酸三カルシウムを用いる場合、β−TCPの生成量が多く、α−TCPが全く生成しないか、生成しても少量となる焼成温度を選択することが好ましい。β−TCPの生成量からみて好ましい温度範囲は、800〜1500℃であり、1150〜1400℃であるとより好ましい。
【0031】
本発明を諸例を用いて説明すると以下のとおりである。なお、以下、特に断らない限り「部」は「質量部」を意味するものとする。
【0032】
実施例1
主材としてβ−リン酸三カルシウム80部と結合材であるポリビニルアルコール20部とに水100部を加え、混練後に押出成形して、長さ4.0mm、幅3.0mmで、厚さ1.0mmのセラミックス素材を作製した。このセラミックス素材にドリルで300μmの径を有する孔を厚み方向に25個穿孔した。この素材を酸素雰囲気中において1190℃で焼成し、β−リン酸三カルシウムからなるセラミックス成形体とした。このセラミックス成形体の気孔率は23%であった。
【0033】
次に、高分子化合物として骨形成因子であるrhBMP−2が配合されたコラーゲンのゲル水溶液を調製し、このゲル液を前記セラミックス体の孔内に充填し、さらに同じゲル液を用いてセラミックス成形体の表面に皮膜を形成させて再建部材とした。
【0034】
この再建部材をラットの外耳道の骨欠損部に埋設し、4週目に観察したところ、十分な骨形成がなされ、皮膚、皮下軟部組織、粘膜とも生着していた。また、異物反応や部材の排出なども認められなかった。
【0035】
以上の通り、実施例1の再建部材は、生体親和性に優れ、また形態を維持するのに十分な強度を有し、取扱性が容易であるなど、きわめて良好なものであることが確認された。
【0036】
実施例2
実施例1と同様の方法で貫通孔を設け、長さ方向の一方の端部を0.5mm分折曲したセラミックス素材を製造した。このセラミックス素材を実施例1と同様の工程で焼成し、ゲル液の充填、皮膜の形成を行って再建部材とした。この再建部材をラットの外耳道の鼓膜接合部にある骨欠損部に、鼓膜と外耳道との両方に接するように埋設し、4週目に観察したところ、実施例1と同様の特徴を有するとともに、折曲部が鼓膜に生着し、鼓膜の偏位は生じなかった。
【0037】
実施例3
実施例1に対して、セラミックス成形体を製造する際の焼成温度を1300℃に変更して、再建部材を製造した。この再建部材を実施例1と同様に評価したところ、ほとんどの貫通孔内で骨形成が認められ、十分な効果が認められた。しかし、実施例1に比較すると、問題ないレベルではあるが若干の炎症性細胞浸潤が認められた。
【0038】
実施例4〜9
実施例1に対して、セラミックス成形体を製造する際の焼成温度を1100℃(実施例4)、1140℃(実施例5)、1250℃(実施例7)、または1500℃(実施例9)に変更したほかは実施例1と同様にして再建部材を製造した。
また、充填材および皮膜を伴わない例として、実施例1、3に対して、セラミックス成形体を製造する際の焼成温度は変えず{1190℃(実施例6)、1300℃(実施例8)}、充填材および皮膜を伴わないほかは実施例1と同様にして再建部材を製造した。
これらの再建部材を実施例1と同様に評価した。
【0039】
得られた評価結果は表1に示す通りであった。表1には、実施例1〜3の結果も併せて記載した。表中の「評価」の欄は、骨形成および生着性から総合的に判定された評価を示すものである。また、実施例4〜9の再建部材の破断面を電子顕微鏡により観察したところ、図6〜11に示すとおりであった。また、実施例1〜3の再建部材に関しても同様に電子顕微鏡により観察したところ、実施例1および2は実施例6と、実施例3は実施例8と同様の構造であることが確認された。
【0040】
【表1】

【0041】
いずれの実施例も、再建部材として機能しえるものであった。焼成温度を高くしていくと、気孔率が低くなっていき、セラミックス組成においてα−TCPの生成量が増えていくが、気孔率が低く、α−TCPの組成比率が高くなっていくと、埋入部分の炎症の程度が変化することがわかり、実施例1〜3、6〜8が炎症が少なく良好な結果を奏し、実施例1、2で最良となった。また、実施例1〜3、6〜8では骨形成が認められ、特に実施例1、2においては旺盛な骨形成が確認された。一方、再建部材としては機能しえるものの実施例9においては埋入物が溶けてしまう例の所見が見られた。
【0042】
実施例10
実施例1よりも少ない7個の貫通孔を放射状に設けたほかは、実施例1と同様にして実施例10の再建部材を製造した。各貫通孔の孔径は実施例1と同じ300μmとした。この再建部材を実施例1と同様に評価したところ、骨形成が認められ、再建部材として十分機能することが確認された。しかし、再建部材の貫通孔の内側表面における骨形成は実施例1に比較して少なかった。これは貫通孔の数が少ないため、孔内に入る血管、細胞の総数が少なくなり、かつ孔の内部の総表面積が少なくなるためと推定される。
【0043】
比較例1
実施例1に対して、複数の貫通孔に代えて孔径1000μmの貫通孔を1個設けた単穴構造としたほかは、実施例1と同様にして比較例1の再建部材を製造した。この再建部材を実施例1と同様に評価したところ、実施例1に比較すると骨形成の評価が良くない傾向となった。これは貫通孔の孔径が特定の範囲からはずれたために、貫通孔内部における骨形成性が悪く、また、貫通孔の数が少ないために内部の総表面積も少なくなるため、表面に形成される骨量の総量が減少するためと考えられる。
【0044】
比較例2
コラーゲンを用いて比較例2の再建部材を製造して評価した。このような再建部材は、生体親和性が高い、骨組織に置換容易である、吸収が早い、骨の主成分(コラーゲン)と同様の蛋白であるため骨形成に有利に働く、などの長所を有するといわれている。しかし、比較例2の再建部材は従来から知られていた課題を有するものであった。具体的には、強度が低いために骨形成完了まで治療部位の機能がほとんど望めず、蛋白であるために変性等を考慮しなくてはならず、また形成が難しかった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明による再建部材は、血管の形成や細胞の増殖を促進し、かつ皮膚や鼓膜、外耳道、皮下軟部組織、粘膜という異なる組織との優れた生着性を実現できるものであり、医療分野の要請に対して十分適用できるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 再建部材
2 セラミックス成形体
3 貫通孔
4 皮膜
5 充填材
2A セラミックス成形体の折曲部
41 鼓膜
42 外耳道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外耳道の欠損部分を再建するための再建部材であって、前記再建部材が厚さ方向に複数の貫通孔を有する、セラミックスからなる薄片状成形体であり、前記再建部材が埋入される場合に、前記貫通孔の開口部がある面が前記欠損部分に接するように埋入されることを特徴とする再建部材。
【請求項2】
外耳道および鼓膜の欠損部分を再建するための再建部材であって、前記再建部材が厚さ方向に複数の貫通孔を有する、セラミックスからなる薄片状成形体であり、かつ前記再建部材の一方の端部が折曲しており、前記再建部材が埋入される場合に、前記折曲された端部を鼓膜側に向け、前記貫通孔の開口部がある面を前記(外耳道)欠損部分に接するように埋入されることを特徴とする再建部材。
【請求項3】
前記セラミックスの主成分がリン酸カルシウムである請求項1または2に記載の再建部材。
【請求項4】
前記成形体の貫通孔内に充填材が配置されている、請求項1〜3のいずれか1項記載の再建部材。
【請求項5】
前記充填材が骨形成因子を含んでなる、請求項4に記載の再建部材。
【請求項6】
前記成形体の貫通孔開口部を有する面の少なくとも一方に皮膜が形成されている、請求項1〜5のいずれか1項記載の再建部材。
【請求項7】
前記皮膜に骨形成因子が配合されている、請求項6に記載の再建部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−110204(P2011−110204A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268868(P2009−268868)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【出願人】(509326371)
【Fターム(参考)】