説明

多コンパートメント真核生物発現系

【課題】新規な核酸発現系、発現構築物、それらを生成するための方法、およびそれらを利用し、生物学的に活性の核酸、および、必要に応じて、ポリペプチドを製造する方法を提供する。
【解決手段】多コンパートメント発現系を使用する真核細胞における目的とする異種配列を発現させるための方法および構築物。単一の構築物または複数の構築物から成りうるこれらの系では、同じ真核細胞の異なる細胞内コンパートメント内で各々活性である少なくとも2つの異なるプロモーターが利用される。該構築物は、標的遺伝子の発現を調節できるRNA分子のインビボ発現の増強を達成するために特に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書で援用される、2003年8月22日出願の米国仮出願第60/497,304号の利点を請求する。
【0002】
本発明は分子生物学および発現系の分野に関する。特に、本発明は、多コンパートメント発現系、例えば、各々同じ真核細胞の異なる細胞内コンパートメント内で活性である、少なくとも2つの異なるプロモーターを集合的に利用する1つもしくはそれ以上の発現構築物を使用する真核細胞における目的とする異種配列の発現に関する。
【背景技術】
【0003】
核酸は、ヒトおよび動物における病態の予防および/または治療における治療部分としてのその使用を含め、重要かつ多様な生物学的活性を有するきわめて価値がある作用物として認識されるようになった。例えば、アンチセンス機序に作用するオリゴヌクレオチドが標的mRNAとハイブリッド形成させ、それによってmRNAの活性を調節するように設計されている。治療として核酸を利用する他の方法では、トリプレックスもしくは三重鎖形成を駆使するように設計されており、ここでは一本鎖オリゴマー(例えば、DNAまたはRNA)が二重鎖DNA標的に結合し、所望の結果、例えば、DNA標的からの転写の阻害を生じるように設計されている。さらに治療として核酸を利用する他の方法では、リボザイムを駆使するように設計されており、ここでは構造化RNAまたは修飾オリゴマーがRNAまたは二本鎖DNA標的に結合し、所望の結果、例えば、RNAの標的切断またはDNA標的を生じ、したがってその発現を阻害するように設計されている。核酸は、免疫応答を誘発することが可能なタンパク質を発現させる生物のDNA分子の組織または細胞へ導入することによって免疫化作用物としても使用されうる。核酸は、生物学的機能を有するタンパク質を生じるように翻訳されるRNAを生成するためにも加工されうる。
【0004】
最近になって、RNAiまたは二本鎖RNA(dsRNA)介在遺伝子サイレンシングの現象が認識されており、それによって細胞または生物における標的遺伝子の領域に補完的なdsRNAは標的遺伝子の発現を阻害する(例えば、1999年7月1日公開の特許文献1、Fireら、および特許文献2:「Genetic Inhibition by Double−Standard RNA」、特許文献3:「Methods and Compositions for Inhibiting the Function of Polynucleotide Sequences」PachukとSatishchandran、および2002年10月18日出願の特許文献4を参照)。dsRNA遺伝子サイレンシングは、核酸ベースの技術の特に刺激的な潜在的用途を示す。二本鎖RNAは、多くの異なる生物において遺伝子サイレンシングを誘発することが証明されている。遺伝子サイレンシングはさまざまな機序により起こりうるが、その1つは転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)である。転写後遺伝子サイレンシングにおいては、標的遺伝子座の転写は影響されないが、RNA半減期は減少する。外因性dsRNAは、線虫、トリパノソーマ属、昆虫、および哺乳類を含む植物および動物におけるPTGSの強力な誘導因子として作用することが証明されている。転写遺伝子サイレンシング(TGS)は、それによって遺伝子発現が調節されうる他の機序である。TGSにおいては、遺伝子の転写が阻害される。研究、治療、および予防的適用へのdsRNA介在遺伝子サイレンシングを生かす可能性は莫大である。標的mRNA分解の見事な配列特異性およびPTGSと関係がある体系的特性は、この現象を機能的ゲノムおよび創薬に理想的にする。
【0005】
遺伝子をサイレンスする脊椎動物細胞におけるdsRNAを使用するための一部の現行方法は、結果としてインターフェロン反応を含むdsRNA介在ストレス反応による望ましくない非特異的細胞毒性または細胞死がもたらされる。dsRNA介在ストレス反応の誘導は迅速であり、かつ細胞アポトーシスまたは抗増殖効果をもたらしうる。dsRNAが脊椎動物細胞における毒性を引き起こす可能性に加えて、dsRNA遺伝子サイレンシング法は、非特異的または非効率的なサイレンシングをもたらしうる。しかし、出願人は、脊椎動物細胞における毒性を誘発することが報告されている長dsRNAを含むdsRNAの細胞内発現が、dsRNA介在毒性を引き起こすことがない条件下に達成されることを明らかにした。しかし、かかるdsRNA法の実際の実施はdsRNA発現構築物からのdsRNAの有効な細胞内産生および送達を必要とするという点で引き続き課題を残している。
【0006】
生物学的活性のこれらすべての機序のために、核酸発現構築物から細胞内に生物学的活性の核酸を発現させることがしばしば望ましい。かかる方法の有効性は、治療上適切な方で、例えば、インビボまたはインビトロで所望の標的細胞に対して生物学的に活性、非毒性の形態、所望の細胞内位置または複数の位置での有効量および持続時間で標的宿主細胞において選択された核酸を有効に発現させる能力によって決まる。これはトランスフェクトするのが困難である細胞、例えば、一次細胞、一部の細胞系、例えば、K5625、ヒト白血病細胞系、およびインビボ使用における特定の課題を示す。したがって、改良された発現系、発現構築物、および方法が、真核生物における核酸発現構築物からの核酸の細胞内発現に必要である。好ましくは、これらの方法は、所望のポリペプチドおよび/または所望のRNA、例えば、インビトロサンプル、細胞培養、および無傷動物(例えば、ヒトを含む哺乳類など脊椎動物)におけるリボザイム、アンチセンス、トリプレックス形成、および/またはdsRNAの産生を含む、その多様な生物学的機能のいずれかを達成することが可能な核酸を提供するために使用されうる。
【0007】
バイオテクノロジーの出現以来の数十年間、環状プラスミド、線形プラスミド、コスミド、ウイルスゲノム、組換えウイルスゲノム、人工的染色体等を含む多様なベクター、発現構築物、および発現系が、原核生物および/または真核生物における使用に開発されている。細菌細胞培養におけるこれら発現系に使用により、インターフェロン(アルファ)、インターフェロン(ベータ)、エリトロポイエチン、第VIII因子、ヒトインスリン、t−PA、および医療器具のヒト成長ホルモンa標準部品など組換えタンパク質が製造されている。
【0008】
バイオテクノロジーおよび分子生物学の分野において開発されているきわめて多様な発現ベクターおよび発現系の中には、同じベクター上の多重プロモーターを含有する発現系がある。かかる型の多重プロモーター発現系では、原核生物において、または真核細胞の同じ細胞内コンパートメントにおいて活性である多重プロモーター(すなわち、2つもしくはそれ以上のプロモーター)を含有するベクターが利用される。例えば、当技術分野におけるかかる多重プロモーター系は、同じ細胞の同じコンパートメントにおける2つ以上の配列(例えば、dsRNAを形成するように設計された2つの異なった配列またはセンスおよびアンチセンス配列)の発現を可能にするように開発されており、またはそれらを使用して、異なる細胞または生物(例えば、原核生物および真核生物)内に同じ配列を発現させ、または単一の作動可能に結合される配列のより有効な転写を得ることができる。しばしば確認されるのは、例えば、バクテリオファージT7プロモーターおよびバクテリオファージSP6プロモーター(その各々は真核細胞の細胞質において活性である)など同じプラスミド上の多重RNAポリメラーゼIIプロモーター、または同じプラスミド上のバクテリオファージプロモーターである。
【0009】
さらに、かかる多重プロモーターは、任意の数の方向および構成のベクター内に配置されうる。例えば、プロモーターは互いに対して発散的に配置されうるが、この場合、それらはベクター内の同じ方向で転写をドライブする。あるいは、多重プロモーターは、同じベクターにおいて互いに対して収束的に配置されうるが、この場合、転写はベクター内の対向部位で進行する。さらに、当技術分野で単一ベクター内の多重プロモーターの相対位置を表現するさまざまな用語が開発されている。「タンデム」という語は、すべてが転写される配列の5’末端に存在し、かつすべて作動可能に結合される多重プロモーターを表現するために使用されている。タンデムプロモーターは、同じまたは異なるプロモーターでありうる。「フランキング」プロモーターという語により、各プロモーターが、転写活性である場合、転写される配列の1つの鎖を転写することが可能であるような方法で、プロモーターによって転写される配列が5’および3’末端の両方で側面に位置する多重プロモーターの方向が表現される。フランキングプロモーターは、同じまたは異なるプロモーターでありうる。例えば、配列の5’末端および3’末端をフランキングする一連のバクテリオファージT7 RNAポリメラーゼプロモーターが、センスおよびアンチセンス鎖を発現させ、二重二本鎖RNA(dsRNA)を形成する一般的な方法である(特許文献1、Fireら、1999年7月1日公開)。
【0010】
多重タンデムプロモーターが、例えば、異なったRNAポリメラーゼによって認識され、かつ各々RNA転写配列の発現を促進することが可能である、2つもしくはそれ以上のタンデムプロモーターから下流に位置したRNA転写配列を含むDNAベクターを開示する特許文献5に記載されている。この開示におけるベクターが、例えば、各々がRNA転写配列を受入れることが可能なクローニング部位の上流に位置し、作動可能に結合される、バクテリオファージSP6、T7、およびT3プロモーターをコード化するプラスミドである。
【0011】
酵母において哺乳類コラーゲンまたはプロコラーゲンを製造するための方法が、逆方向で、単一または二重の種々の異種プロモーターに作動可能に結合される2つの哺乳類コラーゲン遺伝子を含んで成る構築物を使用する特許文献6に開示されている。2つのコラーゲン遺伝子をドライブするプロモーターは同じプロモーター、または異なるプロモーターでありうるが、これらを使用して2つのコラーゲン遺伝子の同程度の、好ましくは、同時の発現を提供することができる。
【0012】
タンデムで配置され、所望のポリペプチドをコード化する異種核酸に作動可能に結合される二重細菌プロモーターを含有する発現ベクターが、特許文献7に記載されている。二重プロモーターは、tac関連プロモーター由来の第1の成分(それ自体、lacおよびtrpプロモーターの組合せである)およびガラクトース代謝に関与する酵素をコード化する細菌遺伝子またはオペロン由来の第2のプロモーターを含んで成る。二重細菌プロモーター系は相乗的に作用し、大腸菌(E.coli)など原核細胞において結合された配列の高レベルの転写を提供する。
【0013】
特許文献8は、真核生物および原核宿主細胞における挿入コーディング配列の翻訳を提供するベクターを開示している。詳しくは、かかるベクターは、原核および真核細胞における有効な発現のための二機能性プロモーター(真核生物および原核生物において機能性)または二重プロモーター(真核生物および原核生物において個別に機能性のプロモーター)のいずれかを含む。
【0014】
同じベクターで使用される多重プロモーターのテーマに関する変形物を開示する当技術分野における他の無数の例がある。しかし、多重細胞内コンパートメントを有する真核細胞の2つ以上のコンパートメントにおいて特に活性に適合されるより有効な発現系の必要性が依然として存在する。タンパク質へ翻訳されるように設計された核酸を含む真核生物における核酸の細胞内発現は、重要な新しい課題を示す。医薬用途、例えば、DNAワクチンおよびdsRNA、および核酸発現の調節用のアンチセンス部分のかかる期待を示す核酸ベースの組成物により、真核細胞におけるより有効なRNA発現のための方法を開発することが決定的に重要である。これは、細胞へのDNA取込み、およびトランスフェクトすることが困難である一次細胞および細胞系の有効な系が存在しないため、特にインビボ送達用途に当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第99/32619号パンフレット
【特許文献2】米国特許第6,506,559号明細書
【特許文献3】国際公開第00/63364号パンフレット
【特許文献4】米国特許出願第60/419,532号明細書
【特許文献5】米国特許第5,547,862号明細書
【特許文献6】米国特許第6,472,171号明細書
【特許文献7】米国特許第6,117,651号明細書
【特許文献8】米国特許第5,874,242号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
一般に、本発明は、新規な核酸発現系、発現構築物、それらを生成するための方法、およびそれらを利用し、生物学的に活性の核酸、および、必要に応じて、ポリペプチドを製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、真核細胞、植物、または動物(例えば、ヒトなど哺乳類)における核酸(例えば、DNA、RNA、ハイブリッド、ヘテロ二本鎖、および修飾核酸)の発現のための方法および組成物に関する。本発明の核酸発現系および発現構築物は、生物学的に活性の核酸が、核酸がその所望の生物学的機能を実行することを可能にする方法や形態でインビトロおよびインビボで真核細胞および生物において有効に発現されることを可能にする。特に、核酸発現系は、その細胞内局在に関係なく真核細胞において有効に機能する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
より詳しくは、本発明は、1つもしくはそれ以上の発現構築物を含んで成る多コンパートメント真核生物発現系を提供し、ここで構築物または集合的に系を含んで成る構築物は、各々同じ真核細胞の異なる細胞内コンパートメント内で活性である少なくとも2つのプロモーターを含む少なくとも2つの異なるプロモーターを含む。多コンパートメント真核生物発現系は、各々が異なる細胞内コンパートメント、例えば、細胞質、ミトコンドリア、核小体、核(非核小体)、および同じ真核細胞の特定の細胞内コンパートメント内の機能的ドメインにおいて転写活性である少なくとも2つのプロモーターを含む2つもしくはそれ以上の異なるプロモーターを含む多重発現構築物または単一の発現構築物を含みうる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】2つもしくはそれ以上のプロモーターの制御下に同じ配列を含有するプラスミド発現ベクターを示す概略図である。各々が異なる物理的細胞内コンパートメントおよび/または細胞内コンパートメントの個別の機能的ドメインにおいて活性である、少なくとも2つのプロモーターが使用され、ベクターがインビトロまたはインビボでのトランスフェクション後の局在する細胞内環境に関係なく転写される配列の高い可能性があるようになっている。例えば、図1Aのプラスミドは、T7プロモーター(T7p)に作動可能に結合される(ヘアピンdsRNAをコード化する)配列Aの1つのコピー、およびヒトU6プロモーター(U6p)などRNA pol III プロモーターの制御下に配列Aの第2のコピーを含む。各転写ユニットは、それぞれ、適切なターミネーター配列、T7tおよびU6tを含む。図1Aにおいては、プロモーターは互いに対して異なる(すなわち、転写は同じ方向で進行する)。図1Bにおいては、T7プロモーターおよびU6プロモーターはコード化dsRNA配列Aをフランキングし、互いに対して異なる。(ターミネーターは図示されていないが、図8におけるように配置される。)矢印は転写の方向を示す。
【図2】単一の配列が、各プロモーターが転写活性を有する場合に前記配列の1つの鎖を転写することが可能であるように、プロモーターによって各端でフランキングされている「隣接したプロモーター配列」を示す図である。P1およびP2は、各々が単一の真核細胞の異なる細胞内コンパートメントまたは単一の細胞内コンパートメントの異なる機能的ドメインにおいて転写活性である、2つの異なるプロモーターを表す。目的とする配列は、例えば、RNAヘアピンまたはmRNAをコード化する。
【図3】所望のRNAコード領域の1つのコピーがT7プロモーターによって1つの端で、もう一方の端ではU6プロモーターによってフランキングされるように選択された配列Aの2つのコピーが配置されている三重プロモーター構築物を示す図である。(ターミネーターは図示されていない。)ベクターのほかの場所に位置しているコード化RNA配列の第2のコピーが、MCMV(マウスサイトメガロウイルス)最初期プロモーターまたはHCMV(ヒトサイトメガロウイルス)最初期プロモーターなどRNA pol II プロモーターの制御下にある。
【図4】T7 RNAポリメラーゼ遺伝子の5’末端でタンデムに位置している組込まれたHCMVおよびT7プロモーターを有するプラスミド発現ベクターを示す図である。(ターミネーターおよびポリアデニル化部位は図示されていない。)
【図5】目的とする配列の5’末端でタンデムに配置された3つのプロモーター、P1、P2、およびP3を示す図である。それらは互いに転写活性を有する細胞コンパートメントの点で異なる。
【図6】RNA pol II プロモーターHCMVおよび細胞質T7プロモーターをタンデムで利用し、目的とする配列をドライブするプラスミド発現構築物を示す図である。HCMVプロモーターからの核転写産物は、5’キャップ、T7プロモーター配列、および目的とする配列を含む。T7プロモーターからの細胞質転写産物は、目的とする配列のみを含む。
【図7】実施例1に詳しく記載されているように、4つの個別のシストロンを有するプラスミド発現ベクターを示す概略図である。配列Aの2つのコピーと配列Bの2つのコピーがあり、各々、「ループ」領域によって分離される逆センスおよびアンチセンスHBV配列を含む異なるヘアピンdsRNAをコード化する。配列Aの一方のコピーはバクテリオファージT7プロモーター(T7p)およびT7ターミネーター(T7t)に作動可能に結合されており、もう一方のコピーはヒトU6プロモーター(U6p)およびU6ターミネーター(U6t)に作動可能に結合されている。配列Bの一方のコピーはバクテリオファージT7プロモーター(T7p)およびT7ターミネーター(T7t)に作動可能に結合されており、もう一方のコピーはヒトU6プロモーター(U6p)およびU6ターミネーター(U6t)に作動可能に結合されている。矢印は転写の方向を示す。
【図8】隣接したプロモーター配列を有する(実施例2にさらに詳しく記載)2シストロン性プラスミド発現ベクターを示す概略図である。すなわち、2つの異なるサブコンパートメント特異的プロモーター、バクテリオファージT7(T7p)、およびヒトU6(U6p)がフランキングし、HBV(B型肝炎ウイルス)特異的ヘアピンdsRNAをコード化する配列(配列A)に作動可能に結合されている。「T7t」はT7ターミネーターを示し、「U6t」はU6ターミネーターを示す。矢印は転写の方向を示す。T7転写産物は、5’〜3’、U6ターミネーターに対する逆相補鎖、配列Aヘアピンを含有する。U6転写産物は5’〜3’U7ターミネーターに対する逆相補鎖、配列Aヘアピンを含有する。
【図9】各シストロンがプラスミド上に物理的に個別の位置を占有する2シストロン性プラスミド発現ベクター(実施例5にさらに詳しく記載)を示す概略図である。各シストロンは、アンチセンスRNAのみが転写されているプロモーターに作動可能に結合されている、配列Aのコピー、HBV配列を含有する。2つのシストロンが異なるサブコンパートメント特異的プロモーターによってドライブされる。一方のシストロンはバクテリオファージT7 プロモーター(T7p)およびT7ターミネーター(T7t)を含み、もう一方のシストロンはMCMVおよびBGH(ウシ成長ホルモン)ポリアデニル化部位を含む。矢印は転写の方向を示す。
【図10a】3つのシストロンに配置された3つのプロモーター、すなわち、バクテリオファージT7 RNAポリメラーゼの発現をドライブする核プロモーター(RSV(ラウス肉腫ウイルス))、および1つはHBV特異的センスRNAを発現し、もう1つはHBV特異的アンチセンスRNAを発現する、2つの細胞質T7プロモーターを利用するプラスミド発現ベクター(図6により詳しく記載)を示す概略図である。RSVプロモーターはBGHポリアデニル化部位と対をなし、T7ターミネーターが各T7シストロンの末端に位置している。矢印は転写の方向を示す。センスおよびアンチセンスRNAは、互いにハイブリッド形成し、二本鎖dsRNAを形成することが可能である。
【図10b】RSVプロモーター、5’UTR、T7 RNAポリメラーゼコード領域、およびBGHポリアデニル化部位を含んで成る図10a、および実施例6のプラスミド発現ベクターにおいて利用されるT7 RNAポリメラーゼ発現カセットの配列を示す図である。
【図10c】図10b続き
【図10d】図10b続き
【図10e】図10b続き
【図11】二重/組込みプロモーター系を有するプラスミド発現ベクターを示す概略図である。バクテリオファージT7プロモーターは、MCMVプロモーターの3’末端で17ヌクレオチドを置換し、T7プロモーターの5’ヌクレオチドがMCMVプロモーターのヌクレオチド1123に隣接している。MCMVプロモーターおよびT7プロモーターは各々、HBV特異的アンチセンス配列、配列Aに作動可能に結合されている。T7ターミネーター(T7t)およびBGHポリアデニル化部位が、図示されているように配列Aの3’に位置している。発現構築物が細胞質位置している場合、T7プロモーターが配列Aの転写を開始するが、核に位置した発現構築物は、RNA pol IIプロモーターであるMCMVプロモーターからアンチセンスRNAを発現する。
【図12】実施例7および図11に記載された二重/組込みプロモーターの配列を示す図である。欠失MCMVプロモーター(nts 1−1123)は、nt 1123が直接、T7プロモーターの最大の5’ヌクレオチドに接するように配置されている。矢印は転写の方向を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
出願人は、本開示における全引例の全内容を具体的に援用する。さらに、量、濃度、もしくは他の値またはパラメータが、範囲、好ましい範囲、または上限の好ましい値および下限の好ましい値のリストで示されている場合、これは範囲が個別に開示されているにかかわらず、範囲の上限または好ましい値および範囲の下限または好ましい値の任意の対から形成されるすべての範囲を具体的に開示すると理解すべきである。一連の数値が本明細書で列挙されている場合、特に明記しない限り、範囲はその終点、およびその範囲内の整数と分数を含むことが意図されている。本発明の範囲が範囲を規定する場合に列挙された特定の値に限定されることは意図されていない。
【0020】
特に真核細胞におけるインビボ使用の、核酸ベースの医薬品を含む生物学的に活性の核酸の多大な将来性の実現は、大体において、より有効な送達および発現系を開発するわれわれの能力によって決まる。出願人の発明は、真核細胞における異種核酸配列の有効な発現のために設計された多コンパートメント真核生物発現系に関する。特に、本発明は、多コンパートメント真核生物発現系、例えば、少なくとも2つの異なるプロモーターを利用する1つもしくはそれ以上の発現構築物を使用し、ここで少なくとも2つの異なるプロモーターが各々、同じ真核細胞の異なる細胞内コンパートメント内で転写活性を有する、真核細胞における目的とする配列の発現のための方法に関する。多コンパートメント特異的プロモーターは、単一の発現ベクターまたは発現構築物、例えば、プラスミド、組換えウイルス等に位置し、またはそれらは単一の組成物内の異なる発現構築物、または単一の真核細胞内に位置している異なる発現構築物に位置しうる。「多重プロモーター」という語を使用することにおいて、出願人は2つ以上の異なるプロモーター配列を具体的に意味する。かかる異なるプロモーター配列は、各々、単一の真核細胞の異なる細胞内コンパートメント内で活性である。本発明の発現系では、発現系が全体として異なる細胞内コンパートメント(例えば、T7プロモーターおよびヒトミトコンドリア軽鎖プロモーター)において活性の少なくとも2つのプロモーターを含む限り、同じプロモーター(例えば、2つのT7プロモーター)の2つ以上のコピー、および/または同じ細胞内コンパートメント(例えば、T7プロモーターおよびSP6プロモーター)において活性の2つ以上のプロモーターが利用されうることが予想される。本発明の発現系では、同じ構造の細胞内コンパートメント内に存在する異なるドメインにおいて活性のある2つもしくはそれ以上のプロモーター、すなわち核の異なるドメイン内で転写活性の2つのプロモーターを含むプロモーターの組合せが利用されることも考えられる。
【0021】
目的とするさまざまな配列の発現のための多くの真核生物系に一般に適用可能であるが、出願人の多コンパートメント真核生物発現系は特に本明細書では生物学的に活性のRNA分子(場合によりポリペプチドへ翻訳)の有効な細胞内発現に関するものとして記載されている。本発明の重要な態様は、細胞当たりより多くの核酸(かつ場合によりポリペプチド)を発現する能力に関する。本発明の他の重要な態様は、2つ、3つ、4つ、もしくは、必要に応じて、それ以上の細胞内コンパートメントにおける核酸の発現を方向づけることによって生物学的活性を調節する能力に関する。
【0022】
本発明の真核生物における核酸発現系の有効性への適用は、特にいくつかの理由で有用である。真核細胞のトランスフェクションまたは核酸発現構築物の真核生物へのインビボ送達の後、発現構築物は主にその中の細胞質および機能的コンパートメントに分布し、はるかに少ない部分が核および核コンパートメント、例えば核小体に局在することが認識されている。したがって、発現構築物は異なる細胞内コンパートメント内にきわめて不均一な方法で分散し、さらに、分散は静的ではない(すなわち、一部の細胞質核酸は最終的に核に入り、かつ一部の核の核酸は最終的に細胞質に局在しうる)。これは、それらがコード化プロモーターが活性ではない細胞内コンパートメントに位置しているという理由のみによって、発現構築物の集団(多くの場合、細胞に及ぶ発現構築物の大部分)が非機能的である状態をもたらす。例えば、RNAポリメラーゼII(RNA pol II)によってドライブされる広く使用されているHCMV(ヒトサイトメガロウイルス)最初期プロモーターを含むプロモーターが、最大数に発現構築物が位置している細胞質ではなく核においてのみ活性である。したがって、細胞(細胞質コンパートメントにおけるもの)における大部分のかかる発現構築物は活性ではない。真核細胞の異なる細胞内コンパートメントにおいて各々活性である2つもしくはそれ以上の、例えば数個のプロモーターを含むことによって、多コンパートメント真核生物発現系、例えば、細胞においてプラスミドが局在されていても転写活性であるプラスミド、またはプラスミドの組合せを加工することが可能である。一部の態様においては、単一の発現構築物が、例えば、転写が起こり、または起こるようになされうる真核細胞の2つ、3つ、4つ、またはすべての細胞内コンパートメントにおいて転写活性であるように設計されうる。本発明の他の態様においては、2つもしくはそれ以上の発現構築物を含んで成る真核生物発現系が、例えば、転写が起こり、または起こるようになされうる真核細胞の、単一細胞内コンパートメント内の機能的ドメインを含む2つ、3つ、4つ、またはすべての細胞内コンパートメントにおいて転写活性である異なるサブコンパートメントプロモーターの組合せを含むように設計されうる。
【0023】
真核細胞における非効率の発現のこの問題は、特に一次細胞など特定の細胞、および特定のトランスフェクトし難い細胞系におけるインビトロ使用に重要でありうるが、しかし、核酸送達が比較的不十分になる傾向があるインビボ使用に重要である。特に、インビボ送達法はDNAの細胞への有効な取込みを提供することはない。例えば、わずかに約10−10のDNA分子が、1014もの数の分子の注入後に細胞へ内在化される。これは、トランスフェクトされたきわめてわずかな細胞だけではなく、トランスフェクトされている細胞も唯一ないし多くてもいくつかのトランスフェクトDNAの分子を有する状態をもたらす。DNAが適切な細胞内コンパートメントにはない限り、これは発現されない。正確なコンパートメントにある確率は、細胞当たりのトランスフェクト細胞の数が減少するとともに低下する。したがって、多重プロモーターが使用され、プロモーターが異なる細胞内コンパートメントで個別に活性である系が、トランスフェクトされている細胞が所望のRNAを発現させうる可能性を増大させる。同様の状態は、トランスフェクトが困難である一次細胞、および特定の細胞系、例えば、トランスフェクトがやはり困難であるK562細胞のトランスフェクションを含む多くのインビトロ使用について存在する。
【0024】
多重の異なるサブコンパートメント特異的プロモーターの使用は、PTGSおよびTGSの誘導が望ましい場合に追加の利点を提供する。このような状況において、dsRNAの発現は細胞質および核ならびに核小体において少なくとも最小レベルで起こる必要がある。
【0025】
本発明の多コンパートメント真核生物発現系および方法は、細胞によって利用されるすべてのプラスミドの発現の可能性を大幅に増大させる機会、およびトランスフェクト細胞当たりの発現を大幅に増大させる方法を示し、例えば、約50%、100%、200%、500%、1000%、5000%まで、およびさらに潜在的には約10,000%もしくはそれ以上までの発現レベルの増大を示す。プラスミドなど発現構築物は通常、真核細胞内できわめて不均等に分布され、99%もしくはそれ以上が細胞質に位置しており、1%未満(多くの場合、1%をはるかに下回る)が核内に位置しているため、細胞質の転写能力を増すことにより、潜在的に発現が10倍ないし1000倍もしくはそれ以上増大することが予想されうる。
【0026】
同じ細胞内コンパートメントにおいて活性である多重プロモーターを含有するベクターが一般的に使用されている。例えば、多重RNA pol IIプロモーターが使用され、または、多重バクテリオファージプロモーター、例えば、T7およびSP6プロモーター(その各々が細胞質において活性である)が使用されている。これら周知の発現系の大部分は多重配列を発現させるように設計されている。かかる周知の発現構築物は多くの制限および不利点を有する。すなわち、これらの方法は、その細胞内コンパートメント化とは無関係に真核細胞における発現構築物の転写を可能にしない。また、同じ核酸分子で同時に存在する同じコンパートメントにおいて活性の2つもしくはそれ以上のプロモーターの使用は、多くの理由で非効率的であり、かつ望ましくない可能性がある。すなわち、
a)DNA分子からの転写は、成長鎖の前方で、かつ正当な転写鎖の後方でテンプレートDNAの超らせん形成に影響を及ぼす(Marietta DunawayとElaine A.Ostrander、Nature 361:746−748頁(1993年)、Jocelyn E.KrebsとMarietts Dunaway、Mol.Cell.Biol.16:5821−5829頁(1996年))。超らせん形成におけるこれらの変化はプラスミド全体に影響を及ぼす。超らせん形成における変化は、多くのプロモーターの活性に悪影響を及ぼし、現に活性を無効にしうる。これは発現構築物における1つのプロモーターからの活性が、他のプロモーターの活性に対して悪影響を及ぼしうるとともに、逆の場合も同じであることを意味する。
b)単一の発現構築物における多重プロモーターは、同じコンパートメントにおいていずれも活性であり、同じ方向に連続している場合、プロモーターの閉塞またはプロモーターの干渉をもたらしうる。プロモーターの干渉は、プロモーターが互いの近く(数百ヌクレオチド以内)に位置していると起こる。1つのプロモーターにおける転写因子および他の因子の核形成は、第2のプロモーターにおける因子の核形成を妨害する。プロモーターの閉塞は特にターミネーターが1つのシストロンの末端、および次のプロモーターの前に位置していない系で問題となる。RNA pol IIは有効なターミネーション系を有さないため、これは同じ発現構築物における多重RNA pol IIプロモーターの使用で潜在的な問題である。プロモーターの閉塞が起こるのは、1つのシストロンからの転写がシストロンの末端で終止せず、第2のプロモーターを通過し、そのプロモーターの転写開始を阻止する場合である。
c)転写の干渉が起こるのは、同じ細胞内コンパートメントでいずれも活性である2つの活性プロモーターが互いに収束方向で対向している場合である。また、転写の干渉は、下流プロモーターが上流プロモーター(その両方は同じ分子において同時に活性でなければならない)の存在によって抑制される場合にも起こりうる。上流プロモーターから開始された伸張転写産物は、伸張転写産物が下流プロモーターを横断すると下流プロモーターからの開始を抑制する(Proudfoot、N.J.、Nature 322:562−565(1986年))。一方のプロモーターからの転写は、他方のプロモーターからの転写を干渉しうるとともに、転写産物の早期ターミネーションを誘発しうる。
【0027】
本発明の多コンパートメント真核生物発現系は、2つもしくはそれ以上の異なる細胞内コンパートメント特異的プロモーターの制御下に、真核細胞の2つもしくはそれ以上の異なった細胞内コンパートメントにおける目的とする1つもしくはそれ以上の配列を発現させるために有利に使用されうる。本発明の1つの態様においては、第1の配列が第1の選択細胞内コンパートメント発現し、第2の配列が第2の細胞内コンパートメントで発現し、ここで第1および第2のコンパートメントは単一の真核細胞の異なる細胞内コンパートメントである。
【0028】
二重または多重プロモーターは、単一の発現構築物または2つもしくはそれ以上の発現構築物を含んで成る発現系において使用し、2つもしくはそれ以上の転写シストロンから成る系を生成することができる。概念的には、構築物は、例えば、以下の一般的な原理に従って考案されうる。すなわち、
クラス1。これらのベクターは、2つもしくはそれ以上のプロモーターの制御下に同じ核酸配列を含有する。各プロモーターは、真核細胞の個別の機能的ドメインおよび/または物理的サブコンパートメントにおいて活性である。これは、ベクターがインビトロまたはインビボ投与のトランスフェクション後に局在する細胞内環境に関係なく転写される配列の可能性を増大させ、細胞によって製造されるRNAの増大をもたらしうる。プロモーターの適切な選択も、必須の細胞内位置に転写活性を集中することによって所望の生物学的活性を達成する可能性を増大させうる。
【0029】
現在のプラスミドベクター系の1つの問題は、インビトロまたはインビボでの細胞のトランスフェクト後、プラスミド/ベクターの多重コピーが細胞に入るが、すべてのプラスミド/ベクターが同じ細胞内コンパートメントに共局在するわけではなく、したがって、単一型のプロモーターを含有するすべてのプラスミド/ベクター分子が転写されるわけではない。2つ以上の細胞内コンパートメントで転写されることが可能なプラスミド/ベクターは、高率のトランスフェクトされたプラスミド/ベクターが発現されることを可能にする。
【0030】
2つの型のプロモーターを有するプラスミドの例が図1Aに示されている。配列A(ループ領域によって分離される逆センスおよびアンチセンス領域を有するdsRNAヘアピンをコード化する)の1つのコピーが、T7プロモーター(T7p)の制御下にあると同時に、配列Aヘアピンの第2のコピーがU6プロモーターなどRNA pol IIIプロモーターの制御下にあると考えられる。(ターミネーターは示されていないが、図7におけるように配置されるであろう。)ベクターがT7RNAポリメラーゼを発現する細胞の細胞質コンパートメントに局在すると、シストロンによってドライブされるT7プロモーターは転写される。RNA pol IIIプロモーターによってドライブされる転写ユニットは、それらが細胞質コンパートメントにある間は転写されない。しかし、核小体に局在するベクターは、U6プロモーターによって転写され、T7プロモーターによっては転写されない。あるいは、配列Aヘアピンに1つのコピーがT7プロモーターによって一端でフランキングされ、他の一端でU6プロモーターによってフランキングされると考えられる(図1B)。(ターミネーターが示されていないが図8におけるように配置されるであろう。)細胞質に位置しているベクターはT7プロモーター末端から転写されるが、核小体におけるベクターはU6プロモーター末端から転写される。異なる細胞内コンパートメントにおけるプロモーター転写活性を利用するかかる多コンパートメント発現系は、細胞がより多くの特異的ヘアピンRNAを作ることを可能にする。RNAがタンパク質を作るように設計されている場合は、より多くのタンパク質が細胞によって作られる。単一の配列が、各プロモーターが転写活性である場合に前記配列の1つの鎖を転写することが可能であるような方法で各端でプロモーターによってフランキングされる組成物は、図2に示されているように、「隣接したプロモーター配列」を有するとして見なされる。P1およびP2は2つの異なるプロモーターを表し、各々が異なる細胞内コンパートメントにおいて、または単一の細胞内コンパートメントの異なる機能的ドメインにおいて転写活性である。目的とする配列は、例えば、RNAヘアピンまたはmRNAをコード化する。
【0031】
三重プロモーターの組合せも、例えば、T7プロモーター、RNA pol IIIプロモーター、およびRNA pol IIプロモーターの制御下に目的とする1つもしくはそれ以上の核酸をコード化する発現構築物におけるように使用されうる。所望のRNAコード領域の単一コピーがT7プロモーターによって一端でフランキングされ、他の一端ではU6プロモーターによってフランキングされるかかるベクターが設計されうる。ベクターのほかの場所に位置しているコード化RNA配列の第2のコピーが、MCMVまたはHCMVプロモーターなどRNA pol IIプロモーターの制御下にある(図3を参照)。あるいは、同じ配列の3つのコピーをベクターに含めることができるが、各配列は個別プロモーターの転写制御下にある。他の実施形態においては、2つもしくは3つの異なる配列が、三重プロモーターの組合せの制御下に配置されうる。
【0032】
上記は、本発明の多コンパートメント真核生物発現系の説明に役立つ実例にすぎず、多くの追加の実施形態は分子生物学の当業者によって容易に想定されうる。
【0033】
クラス1ベクターに関して考慮すべき原理:
1)一斉に使用される1つもしくはそれ以上の発現構築物を含んで成る多コンパートメント真核生物発現系は、単一のベクターまたは一連のベクターにおいて少なくとも2つのプロモーターエレメントを含む必要があり、ここで各プロモーターは単一の真核細胞の異なる細胞内コンパートメント(異なる物理的サブコンパートメントまたは単一の物理的サブコンパートメント内の異なる機能的ドメインのいずれか)において活性を有する。前記発現系において使用される他のプロモーターは、同じまたは異なる細胞内コンパートメントにおいて活性でありうる。例えば、ベクターまたはベクターの組合せは、RNA pol IIIベースのプロモーター(核小体において活性)およびRNA pol IIプロモーター(核の非核小体コンパートメントにおいて活性)など2つのプロモーターを含有しうる。プロモーターは互いに対して収束的または発散的でありうる。
2)発現系または発現構築物は、発現系または発現構築物が異なるコンパートメントにおいて転写活性を有する少なくとも1つのプロモーターをも含む場合には、同じ型の2つ以上のコンパートメント特異的プロモーター(例えば、2つのRNA pol IIプロモーター)を含有しうる。
3)好ましくは、「隣接したプロモーター配列」において、各プロモーターは、プロモーターが活性である細胞内コンパートメントに関して配列の点で他のプロモーターと異なる必要がある。例えば、2つのT7プロモーターは使用すべきでなく、2つのRNA pol IIプロモーターも使用できない。しかし、1つのT7プロモーターをRNA pol IIまたはRNA pol IIIプロモーターとともに使用することができる。同様に、RNA pol IIIプロモーターをRNA pol IIプロモーターとともに使用することができ、またはミトコンドリアプロモーターをT7プロモーターとともに使用することができる。このプロモーター配列は、転写後遺伝子サイレンシング、転写遺伝子サイレンシング、RNAi等に使用されるものなど長または短のヘアピンRNAを転写する場合に有用である。
4)「隣接したプロモーター配列」が使用される場合、目的とする配列の単一のコピーが存在しうるが、その他の場合には目的とする配列の少なくとも2つのコピーが必要となる。
5)この系を使用して目的とする2つの異なる配列を生じることもできる。例えば配列Aは核において転写され、配列Bは細胞質において転写されうる。例えば、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子(配列A)を含有するベクターが、中初期プロモーターにおけるHCMVなどRNA pol IIプロモーターの転写制御下にありうるとともに、ヘアピンRNAをコード化する配列(配列B)がT7プロモーターの制御下にありうる(図4)。T7 RNAポリメラーゼmRNAは核において転写され、細胞質において翻訳され、ここで細胞質に位置しているベクターから配列Bの転写を導くことができる。第2の例が、MCMV最初期(ie)プロモーターなどRNA pol IIプロモーターの制御下のヒトまたはマウスミトコンドリアRNAポリメラーゼ遺伝子(配列A)、およびヒトまたはマウスミトコンドリアプロモーターの制御下のヘアピンRNA(配列B)を含有するベクターである。種には2つのみの周知のミトコンドリアプロモーター、すなわち、重鎖プロモーターと軽鎖プロモーターがある。これらのプロモーターのいずれかを構築物において使用されうる。
【0034】
クラスII:
これらの発現構築物においては、2つもしくはそれ以上のプロモーターが、互いに対してタンデムに位置している。プロモーターは、スペーサーヌクレオチドによって直接、並列され、または分離されうる。最も好ましくは、2つのプロモーター間にスペーサーが存在せず、あまり好ましくないのは、1−100bpのスペーサーが存在し、最も好ましくないのは、101−500bpのスペーサーが存在することである。場合によっては、1つのプロモーターを第2のプロモーターに組込むことができる。例えば、T7プロモーターまたはSP6プロモーターを、例えば、2、3例を挙げれば、HCMV ie、MCMV ie、シミアンサイトメガロウイルス(SCMV)ieなどRNA pol IIプロモーター、またはRSVプロモーターのヌクレオチド−1〜約−20内に配置されうる。T7 RNAポリメラーゼ遺伝子の5’末端でタンデムに位置している組込まれたHCMVおよびT7プロモーターを示す図4を参照。(ターミネーターおよびポリアデニル化部位は示されていない。)この配列におけるプロモーターは、それらが活性である細胞内コンパートメントの点で互いに対して異なる必要がある。この配列においては、単一の配列が2つもしくはそれ以上のプロモーターによってフランキングされている(その各々/すべてが目的とする配列の5’末端に位置している)。図5は、目的とする配列の5’末端でタンデムに配置されている3つのプロモーター、P1、P2、およびP3を示す。それらは、転写活性である細胞内コンパートメントの点で互いに異なる。他の例においては、HCMVなどRNA pol IIプロモーターにはT7プロモーターが付随しうる。T7 RNAポリメラーゼを発現する細胞の細胞質においては、目的とする配列はT7 RNAポリメラーゼによって転写される。核の非核小体コンパートメントに局在するベクターは、RNA pol IIによって転写されうる。かかる配列は、例えば、RNA pol IIプロモーターHCMVおよび細胞質T7プロモーターをタンデムで利用し、目的とする配列をドライブする、例えば図6において確認される。HCMVプロモーターからの核転写産物は、5’キャップ、T7プロモーター配列、および目的とする配列を含む。T7プロモーターからの細胞質転写産物は、目的とする配列のみを含む。1つのベクターにつき1つもしくはそれ以上のこれら配列が存在しうる。
【0035】
本発明のためのプロモーターは、RNA pol I、II、またはIIIなど内因性RNAポリメラーゼによって認識されるものでありうる。それらは、ウイルスおよびバクテリオファージRNAポリメラーゼなど外部から加えられたRNAポリメラーゼによって認識されるものでもありうる。応用としては、mRNA、リボザイム、ヘアピンRNA、構造化RNAなどRNA、および遺伝子サイレンシングに関与するものなど他の機能的RNAの転写が挙げられる。ベクターとしては、例えば、DNAプラスミドおよびエピソームが挙げられ、ウイルスベクターでありうる。
【0036】
プロモーターの分類
RNA pol IおよびRNA pol IIIはいずれも核小体プロモーターであるが、RNA pol IおよびRNA pol IIIは互いに対して異なった機能的ドメインで転写され、したがって、特許請求された発明の範囲に含まれるのは、RNA pol IプロモーターがRNA pol IIIプロモーターと使用される場合である。
【0037】
本発明の特定の実施形態においては、U6プロモーターを含むポリメラーゼIIIプロモーターが使用される。しかし、U6プロモーターそれ自体だけではなく、RNAポリメラーゼIII、2型、および3型プロモーター、すなわち、「U6型」プロモーターの他のクラスのメンバー(そのうちU6遺伝子の1つにおけるU6プロモーターが十分に特徴付けられたメンバーである)がU6プロモーターの代わりに使用されうることが理解されるであろう。他の「U6型」プロモーターの例としては、SchrammとHernadez(Genes Dev.16:2593−2620頁(2002年))およびPauleとWhite(Nucleic Acids Res.28:1283−98頁(2000年))によって検討されるH1、7SK、およびMRPが挙げられる。また、U6型ポリメラーゼIIIプロモーターに関しては、その開示が参照によって本明細書で援用される、米国特許第5,624,803号明細書、Noonbergらを参照。
【0038】
RNA pol IIプロモーターは、核の非核小体コンパートメントにおいて転写される。しかし、これらのプロモーターは、核ドメイン/核機能的サブコンパートメントに関して上記のように細分されうる。具体的な例が提供されている。
【0039】
DNA依存RNAポリメラーゼのための細胞質プロモーターは、例えば、T7、SP6、およびSP3を含むバクテリオファージプロモーターである。RNA依存RNAポリメラーゼによって転写されるプロモーターは、RNA分子上に含まれ、例えば、アルファウイルス、フラビウイルス、トガウイルス、コロナウイルス、およびラブドウイルス由来など多くのRNAウイルスプロモーターを含む。
【0040】
ミトコンドリアプロモーターとしては、重鎖および軽鎖プロモーターが挙げられる。
【0041】
定義:
本開示においては、以下の用語が、本明細書でより具体的に定義されているように、当業者の慣例の理解に従って使用される。
【0042】
真核細胞の「コンパートメント」、「細胞内コンパートメント」、または「細胞コンパートメント」は、例えば、主に膜および特殊機能を実行する能力によって定義され、ならびに転写活性と関連した特異的多タンパク質複合体、例えば、細胞質、ミトコンドリア、核(非核小体)、および核小体を有する真核細胞内の細胞内位置を意味する。「コンパートメント」もしくは「細胞内コンパートメント」または「細胞コンパートメント」は、例えば、細胞膜によって他のコンパートメントから物理的に分離されないが、特定のプロモーターからの転写など特定の機能を実行する特異的タンパク質複合体の存在によって生化学的に定義される「機能的コンパートメント」または「機能的ドメイン」でもありうる(Yamagoe S.ら、Mol.Cell.Biol.23:1025−103頁(2003年))。
【0043】
細胞内の機能的細胞内コンパートメントである核ドメインが同定されており、特異的機能はそれらと関係がある(Ascoli C.A.およびMaul G.G.、J.Cell Biol.112:785−795頁(1991年)、Pomboら、EMBO J.18:2241頁(1999年))。本発明のために、関係のある唯一の機能的プロモーターは、特異的プロモーターまたはプロモーターの特異的クラスの転写と関係があるものである。例えば、RNA pol IIによるヘルペスウイルス1ゲノムの転写が、ND10として周知の特異的核ドメイン内で起こることが証明されている(Tangら、J.Virol.77:5821−5828頁(2003年))。したがって、2つのRNA pol IIプロモーターを、それらのプロモーターが機能的に異なったドメインで転写される場合にのみ、化学的多コンパートメントプロモーター系(他のプロモーターの非存在下)においてともに使用されうる。例えば、ヘルペスプロモーターを、やはりRNA pol II、例えば、アクチンプロモーターによって転写される非ヘルペスプロモーターとともに使用されうる。
【0044】
「転写」は、DNAの1つの鎖に含まれる遺伝子情報が用いられて、RNA鎖における塩基の相補的配列、例えば、mRNA、アンチセンスRNA、dsRNA形成RNA、リボザイムが特定される酵素によるプロセスを意味する。
【0045】
「転写ユニット」または「シストロン」は、その中で転写が起こるユニットを意味する。通常、「転写ユニット」は、場合によりターミネーターまたはポリアデニル化シグナルで転写される核酸配列に作動可能に結合されるプロモーター配列を意味する。単一の核酸配列の転写を開始するために作動可能に結合される2つのプロモーター、例えば、核酸配列をフランキングする2つのプロモーターは、2つの転写ユニットまたは2つのシストロンを構成し、転写される単一の核酸配列に作動可能に結合される3つのプロモーターは3つの転写ユニット等を構成する。発現構築物または発現ベクターは一般的に多重転写ユニットまたはシストロンを含有するように加工されるが、例えば、4つの個別のシストロンを有するプラスミドを示す図7を参照。
【0046】
「転写活性」は、プロモーター配列が、例えば、バクテリオファージプロモーター、例えば、T7、SP6、T3などプロモーターのための必須非内因性RNAポリメラーゼの供給を含む適切な状況下、もしくは他の適切な条件下、または、例えば、誘導性プロモーターを有するシグナル下に転写を開始することが可能であることを意味する。
【0047】
「発現系」は、細胞の異なる細胞内コンパートメントにおいて活性である少なくとも2つの転写ユニットを有する単一の真核細胞を提供するために一斉に使用される1つもしくはそれ以上の発現構築物またはベクターを意味する。発現系は、2つもしくはそれ以上の転写ユニットを含む単一の発現構築物から成り、または一斉に使用される2つ、3つ、4つ、もしくはそれ以上の発現構築物を含んで成りうる。一部の態様においては、2つもしくはそれ以上の発現構築物は、単一の組成物、例えば、医薬組成物、または研究用試薬として使用される。一部の態様においては、2つもしくはそれ以上の発現構築物は、真核細胞に送達される各構築物の生成物間に何らかの機能的相互作用がある限り、一斉に使用される、例えば、同時に、または互いに数分、数時間、または数日以内、例えば、1日、2日、3日、またはさらに互いに1週間以内に投与される2つもしくはそれ以上の組成物において使用される。発現構築物は、その各々が単一の真核細胞の異なる細胞内コンパートメント内で転写活性である少なくとも2つのプロモーターを含む2つもしくはそれ以上のプロモーターを集合的に含んで成る。発現系は、同じ真核細胞の少なくとも2つの細胞内コンパートメントにおいて活性である2つもしくはそれ以上の転写ユニットを含んで成る1つもしくはそれ以上の発現構築物を有する単一の真核細胞を提供するのに役立つ。本出願において、「転写ユニット」は、場合によりターミネーターまたはポリアデニル化シグナルで転写される核酸配列に作動可能に結合されるプロモーター配列を意味ずる。単一の核酸配列に作動可能に結合される2つのプロモーターは2つの転写ユニットを構成し、単一の転写ユニットに作動可能に結合される3つのプロモーターが3つの転写ユニット等を構成する。本発明の1つ態様においては、単一の真核細胞の少なくとも2つの細胞内コンパートメントにおいて同時に、または実質的に同時に存在し、かつ転写活性である2つもしくはそれ以上の発現構築物を有する単一の真核細胞が提供される。他の態様においては、2つもしくはそれ以上の異なる発現構築物、または2つもしくはそれ以上の転写ユニットを含有する単一の発現構築物が、単一の真核細胞に同時に、または実質的に同時に存在するが、転写ユニットは、例えば、誘導性プロモーターにより、1つもしくはそれ以上の転写ユニットからの転写のタイミングが調節されるように、例えば、1つもしくはそれ以上のプロモーターからの転写を調節するのが望ましい場合には、同時に転写活性であってはならない。1つの態様においては、発現系は単一の発現構築物または2つもしくはそれ以上の発現構築物、例えば、2つもしくはそれ以上のプロモーター、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、もしくはそれ以上を含んで成るプラスミドまたは複数のプラスミドであり、少なくともそのうち2つは同じ真核細胞の異なる細胞内コンパートメントにおいて転写活性である。好ましい実施形態においては、発現系は、同じ真核細胞の異なる細胞内コンパートメント、例えば、細胞質、核、ミトコンドリア、および核小体のほか、特異的プロモーター、例えば、細胞質および核、細胞質および核小体、細胞質およびミトコンドリア、ミトコンドリアおよび核、ミトコンドリアおよび核小体、核および核小体、細胞質、核、および核小体、細胞質、核、およびミトコンドリア、細胞質、核小体、およびミトコンドリア、ミトコンドリア、核小体、およびミトコンドリアのほか、細胞質、核、ミトコンドリア、および核小体からの転写など明確な機能を実行することが可能な特異的多タンパク質複合体の存在によって生化学的に定義された機能的細胞内コンパートメントを含むがこれに限定されない、2つ、3つ、4つ、5つ、もしくはそれ以上において転写活性のプロモーターを含んで成る。また、本発明では、単一の細胞内コンパートメントの異なる機能的ドメインにおいて転写活性のプロモーターの組合せを使用することが想定されている。
【0048】
「ミトコンドリア」は、エネルギーを産生し、かつその独自のDNAゲノムを含有するが、ミトコンドリアRNAポリメラーゼを含む核ゲノムによってコード化されるタンパク質のための細胞に依存している真核細胞の細胞質に存在する膜結合細胞小器官を意味する。
【0049】
「核」または「核の」は、核膜によって取囲まれ、染色体を含有する真核細胞の内部コンパートメントを意味する。本特許出願においては、核は核小体と明確に異なると見なされる。
【0050】
「核小体」、「核小体の」、または「核小体非核の」は、そのリボソームRNA(rRNA)遺伝子がRNAポリメラーゼIによって猛烈な速度で転写されるDNAの大きなループを含有する真核細胞の核内の大きな拡散した構造を意味する。かかるrRNAはリボソームタンパク質で核小体に直ちにパッケージされ、リボソームを生成する。本特許出願において、核小体は核と明確に異なると見なされる。
【0051】
「真核生物」または「真核細胞」は、いくつもの染色体および核を有する、高等生物、植物または動物、無脊椎動物および脊椎動物の高度な細胞を意味する。
【0052】
「原核細胞」または「原核細胞」は、単一の染色体のみを含有し、核膜を有さない細菌など下等生物の原始的型の細胞を意味する。
【0053】
「RNAポリメラーゼ」は、RNAを合成する酵素を意味する。DNA依存RNAポリメラーゼは、DNAテンプレートからRNA転写産物を合成する。RNA依存RNAポリメラーゼは、RNAテンプレートからRNA転写産物を合成する。真核細胞におけるDNA依存RNAポリメラーゼ活性の一般的な例としては、RNAポリメラーゼI(RNA pol I)、RNAポリメラーゼII(RNA pol II)、RNA ポリメラーゼIII(RNA pol III)、ミトコンドリアポリメラーゼのほか、真核細胞に提供される他のポリメラーゼ、例えば、バクテリオファージポリメラーゼが挙げられる。
【0054】
「センス」および「アンチセンス」:「センス」は、mRNAに存在するのと同じ配列および方向を有する核酸配列を意味する。「アンチセンス」は、相補的な核酸、およびセンス核酸との反対方向を意味する。
【0055】
「発現構築物」は、RNAを転写するように設計された二本鎖DNAまたは二本鎖RNA、例えば、下流遺伝子または目的とするコード領域(例えば、タンパク質、または目的とするRNAをコード化するcDNAまたはゲノムDNA断片)に作動可能に結合された少なくとも1つのプロモーターを含有する構築物を意味する。発現構築物の受容細胞へのトランスフェクションまたはトランスフォーメーションは、細胞が発現構築物によってコード化されるRNAまたはタンパク質を発現することを可能にする。発現構築物は、遺伝子操作されたプラスミド、ウイルス、または、例えば、バクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、またはヘルペスウイルス由来の人工的染色体、またはさらに以下で「発現ベクター」に記載された実施形態でありうる。発現構築物は、生きた細胞において複製され、または合成的に製造されうる。本出願において、「発現構築物」、「発現ベクター」、「ベクター」、および「プラスミド」という語は同義的に使用され、一般的な説明的な意味で本発明の用途を示し、発現構築物の特定の型に本発明を限定することは意図されていない。
【0056】
「発現ベクター」は、下流遺伝子またはコード領域(例えば、タンパク質をコード化し、場合により、コード領域、アンチセンスRNAコード領域の外側に位置する配列、またはコード領域の外側に位置するRNA配列に作動可能に結合されたcDNAまたはゲノムDNA断片)に作動可能に結合された少なくとも1つのプロモーターを含有するDNA構築物を意味する。発現ベクターの受容細胞へのトランスフェクションまたはトランスフォーメーションは、細胞が発現ベクターによってコード化されるRNAを発現することを可能にする。発現ベクターは、遺伝子操作されたプラスミド、ウイルス、または、例えば、バクテリオファージ、アデノウイルス、レトロウイルス、ポックスウイルス、またはヘルペスウイルス由来の人工的染色体でありうる。かかる発現ベクターは、細菌、ウイルス、またはファージからの配列を含みうる。かかるベクターとしては、染色体、エピソーム、およびウイルス由来ベクター、例えば、細菌プラスミド、バクテリオファージ、酵母エピソーム、酵母染色体エレメント、およびウイル由来ベクター、プラスミドおよびバクテリオファージ遺伝子エレメント、コスミドおよびファージミド由来など、その組合せ由来のベクターが挙げられる。したがって、1つの例示としてのベクターは二本鎖DNAファージベクターである。他の例示としてのベクターは二本鎖DNAウイルスベクターである。
【0057】
この二本鎖または部分的に二本鎖の分子は、DNAベクター、DNAプラスミド、または、細胞における発現のために細胞にポリヌクレオチド配列を送達するように設計された二本鎖DNA構築物でありうる。この二本鎖分子は1つの実施形態においては線状であり、他の実施形態においては、この二本鎖分子が環状である。DNA分子は、RNA pol I、および/またはRNA pol II、および/またはRNA pol III、および/またはミトコンドリアプロモーター、および/またはウイルス、細菌、およびバクテリオファージプロモーターを含む、本明細書のほかの場所に記載されたプロモーターの所望の組合せの制御下に配列を含有する二本鎖プラスミドまたはベクターでありうる。好ましくは、プロモーターがRNA pol IIプロモーターである場合、RNA分子をコード化する配列は、約300のヌクレオチドよりも大きい読み取り枠を有し、非センスmRNAサーベイランス分解機序によって核の分解を回避する。かかるプラスミドまたはベクターは、細菌、ウイルス、またはファージからの配列を含みうる。
【0058】
「単離」という語は、実質的にまたは基本的に、その自然な状態で存在する物質を通常伴う成分を含まない物質を指すことが意味される。したがって、単離タンパク質は、その原位置の環境に通常付随する物質を含まない。単離核酸は、その内部に通常、自然な状態で存在する配列、例えば、通常、自然な状態でフランキングされる他の染色体配列から単離された遺伝子を実質的に含まず、またはタンパク質および他の分子を含む他の細胞物質を含まない。一般的に、本発明の単離タンパク質または核酸は、純度を測定するための一般に認められた分析的方法によって測定されるように、少なくとも約80%の純度、通常、少なくとも約90%、好ましくは、少なくとも約95%もしくは、さらに99%超の純度である。本発明において、ポリペプチドはトランスジェニック細胞から精製される。
【0059】
本明細書で使用される「異種配列」または「異種核酸」は、外来源(または種)由来のもの、または、同じ源由来である場合は、その元の形態から修飾されている。したがって、プロモーターに作動可能に結合されている異種核酸は、プロモーターの由来とは異なる源由来であり、または同じ源由来である場合は、その元の形態から修飾されている。例えば、UDPグルコース4−エピメラーゼ遺伝子プロモーターは、天然のUDPグルコース4−エピメラーゼとは別のポリペプチドをコード化する構造的遺伝子に結合されうる。異種配列の修飾は、例えば、DNAを制限酵素で処理し、プロモーターに作動可能に結合されることが可能であるDNA断片を生成することによって起こりうる。部位特異的突然変異誘発法などの方法も異種配列を修飾するために有用である。
【0060】
「作動可能に結合され」という語は、核酸発現制御配列(プロモーター、シグナル配列、エンハンサー、または転写因子結合部位のアレイ)と第2の核酸配列との間の機能的結合を指し、ここで発現制御配列は、適切な分子(例えば、転写アクティベータータンパク質)が発現制御配列に結合されている場合、第2の配列に対応する核酸の転写および/または翻訳に影響を及ぼす。
【0061】
細胞に関して使用される場合、「組換え」という語は、細胞が異種核酸を複製し、または異種核酸によってコード化されるペプチドまたはタンパク質を発現することを示す。組換え細胞は、細胞の天然の(非組換え)形態内には存在しない遺伝子を発現しうる。組換え細胞は、細胞の天然の形態において存在する遺伝子も発現しうるが、ここで遺伝子は修飾され、人工的手段によって細胞へ再導入される。
【0062】
「少なくとも部分的に二本鎖RNAを提供する作用物」は、細胞または動物において少なくとも部分的に二本鎖(ds)RNAを生成する組成物を意味する。例えば、作用物は、dsRNA、細胞または動物内部での2本鎖構造(例えば、ヘアピン)が想定される一本鎖RNA分子、または同時にもしくは連続的に投与され、かつ細胞または動物内部での2本鎖構造が想定される2つの一本鎖RNA分子の組合せでありうる。他の例示的作用物としては、DNA分子、プラスミド、ウイルスベクター、または少なくとも部分的にdsRNAをコード化する組換えウイルスである。他の作用物は、2000年4月19日出願の国際公開第00/63364号パンフレットに開示されている。一部の実施形態においては、作用物は、1ng〜20mg、1ng〜1μg、1μg〜1mg、または1mg〜20mgのDNAおよび/またはRNAを含む。
【0063】
「アンチセンス」または「アセンチセンス用途」または「アンチセンス技術」または「アンチセンス治療」は、腫瘍遺伝子発現、ウイルス遺伝子発現等を含む遺伝子発現を阻害する方法を意味する。「アンチセンス」RNA分子は、標的細胞に存在するタンパク質コード化RNAの相補物を含有し、したがって、これとハイブリッド形成するものである。アンチセンスRNAのその細胞RNA相補物へのハイブリダイゼーションは、おそらくその翻訳可能性を制限することによって、細胞RNAの発現を阻止しうると考えられている。さまざまな研究が、遺伝子発現の阻害のためにRNAの処理またはアンチセンスRNAオリゴヌクレオチドの細胞への直接導入に及んでいる(Brownら、Oncogene Res.4:243−52頁(1989年)、Wickstromら、Proc. Natl.Acad.Sci.USA 85:1028−32頁(1988年)、Smithら、1986年、Buvoliら、Nucleic Acids Res.15:9091頁(1987年))が、これまでのアンチセンスRNAの細胞導入のより有望な手段は、ベクターが細胞へ導入されるとアンチセンスRNAを発現する組換えベクターの構成によるものである。したがって、本発明の多コンパートメント発現系は、特にインビボ使用のための真核細胞におけるアンチセンス分子のより有効な発現にきわめて重要である。
【0064】
アンチセンスRNA技術の主な用途は、特異的遺伝子の発現に影響を及ぼす試みに関連している。例えば、Delauneyらは、トランスジェニック植物における遺伝子発現を阻害するアンチセンス転写産物の使用を報告している(Delauneyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:4300−04頁(1988年))。これらの著者らは、アンチセンス技術の適用によるCAT配列でトランスフォームしたタバコ植物におけるクロラムフェニコール・アセチル・トランスフェラーゼのダウンレギュレーションを報告している。
【0065】
アンチセンス技術は、さまざまな腫瘍遺伝子の発現を阻害する試みにも適用されている。例えば、Kasidら、Science 243:1354−6頁(1989年)は、アデノウイルス2後期プロモーターの制御下にもたらされるアンチセンス方向でのCraf−1 cDNA断片を使用する組換えベクター構築物の調製を報告している。これらの著者らは、この組換え構築物のヒト扁平上皮細胞癌への導入により制御センストランスフェクタントでトランスフェクトした細胞に対して腫瘍形成能の大幅な削減がもたらされたと報告している。同様に、Prochownikら、Mol.Cell Biol.8:3683−95頁(1988年)は、分化を加速し、フレンドマウス白血病細胞における分化を加速し、G増殖を阻害するcmycアンチス構築物の使用を報告している。それに対して、Khokhaら、Science 243:947−50頁(1989年)は、マウス組織阻害剤またはメタロプロテイナーゼのレベルを削減するアンチセンスの使用による3T3細胞に対して発癌性を与えるアンチセンスRNAの使用を開示している。
【0066】
アンチセンス法では、核酸が「相補的」配列と対を成す傾向があることが駆使される。相補的配列は、標準のワトソン・クリック相補性法則に従って塩基対が可能であるポリヌクレオチドのものである。すなわち、より大きなプリンがより小さなピリミジンと塩基対をなし、シトシンと対をなしたグアニン(G:C)、DNAの場合にチミンと対をなしたアデニン(A:T)、またはRNAの場合にウラシルと対をなしたアデニン(A:U)のいずれかの組合せを形成する。例えば、ハイブリッド形成配列におけるイノシン、5−メチルシトシン、6−メチルアデニン、ヒポキサンチンなど一般的ではない塩基の包含は、ペアリングを妨げることはない。ポリヌクレオチドによる二本鎖DNAのターゲティングは、3本鎖らせん形成をもたらす。RNAのターゲティングは、2本鎖らせん形成をもたらす。アンチセンスポリヌクレオチドは、標的細胞へ導入されると、その標的ポリヌクレオチドに特異的に結合し、転写、RNA処理、輸送、翻訳、および/または安定性を妨げる。かかるアンチセンスRNAをコード化するDNAは、インビトロまたはインビボのいずれかで、ヒト対象を含む宿主動物内など、遺伝子転写もしくは翻訳または宿主細胞内での両方を阻害するために使用されうる。
【0067】
「DNAワクチン」または「DNA免疫法」または「DNAベースのワクチン」または「遺伝子免疫法」は、例えば、免疫法のために、ヒトなど哺乳類生物を含む、宿主生物への抗原の送達用の手段としてのDNA、例えば、発現構築物の使用を意味する。ワクチン接種および免疫法は、一般に、個体の免疫系が病原体によるチャレンジに対する防御が利用できる免疫応答を開始しうる非毒性剤の導入を指す。免疫系は、主に、通常は個体には存在しないタンパク質および他の大きな分子を識別することによって侵入する「外来」組成物および作用物を識別する。外来タンパク質は、それに対して免疫応答がなされる標的を表す。
【0068】
DNAワクチンは、インビボ、またはエキソビボで個体の細胞のいずれかで個体に直接投与される免疫原性ペプチドまたはタンパク質をコード化する遺伝物質を利用する。遺伝物質は、標的される免疫原性タンパク質と少なくともエピトープを共有するペプチドまたはタンパク質をコード化する。遺伝物質は、個体の細胞によって発現され、免疫応答を誘発する免疫原性標的タンパク質を形成する。結果として生じる免疫応答は広範囲にわたり、液性免疫応答に加えて、細胞免疫応答の両側が誘発される。したがって、DNAベースのワクチン接種法によって誘発される免疫応答は、病原体感染に対して保護するか、過剰増殖性疾患または自己免疫疾患と関連した細胞に対処するのに特に有効である。
【0069】
個体におけるワクチン接種細胞で生じる標的タンパク質によって誘発される免疫応答は、細胞毒性T細胞(CTL)反応を含むB細胞およびT細胞反応を含む広範囲にわたる免疫応答である。宿主の細胞内に生じる標的抗原が細胞内で処理される。すなわち、小さいペプチドに分解され、クラスI MHC(主要組織適合複合体)分子によって結合され、細胞表面で発現される。クラスI MHC標的抗原複合体は、表現型的にキラー/サプレッサ細胞であるCD8+T細胞を刺激することが可能である。したがって、遺伝子による免疫法は、CTL反応(キラー細胞反応)を誘発することが可能である。遺伝子による免疫法は他の免疫法よりもCTL反応を有する可能性がより高いことが確認されている。
【0070】
DNAの動物への直接注入は免疫法のための特異的抗原を送達する有望な方法である(Barryら、BioTechniques 16:616−619頁(1994年)、Davisら、Hum.Mol.Genet.11:1847−1851頁(1993年)、Tangら、Nature 356:152−154年(1992年)、Wangら、J.Virol.670:3338−3344頁(1993年)、およびWolffら、Science 247:1465−1468頁(1990年))。この方法は、マウスおよびニワトリにおけるインフルエンザウイルスに対する、マウスおよびウシにおけるウシヘルペスウイルス1に対する、およびマウスにおける狂犬病に対する保護的免疫を生成するために有効に使用されている(Coxら、J.Virol.67:5664−5667頁(1993年)、Fynanら、DNA Cell Biol.12:785−789年(1993年)、Ulmerら、Science 259:1745−1749頁(1993年)、およびXiangら、Virology 199:132−140頁(1994年))。ほとんどの場合、強く、さらにきわめて多様な抗体および細胞毒性T細胞反応が感染の制御と関係があった。実際に、持続的なメモリーCTLを生成する可能性が、不活化ワクチンを含み、かつ抗体反応を生成するものと比べ、この方法を特に魅力的にしている。しかし、核酸送達が比較的不良である傾向がある他のインビボ使用と同様、DNAワクチンの有効性は本発明の方法によって大いに改善されうる。したがって、本発明の多コンパートメント発現系は、特にインビボ使用のために、真核細胞におけるDNAワクチン分子からの免疫原性ペプチドまたはタンパク質のより有効な発現にきわめて重要である。
【0071】
「遺伝子発現のレベルの変化」は、遺伝子の生成物、すなわち、mRNAまたはポリペプチドの全体的な量が増加または減少するように、転写、翻訳、もしくはmRNAまたはタンパク質の安定性における変化を意味する。
【0072】
「細菌感染」は、病原性細菌による宿主細胞の侵襲を意味する。例えば、感染は、動物の体内または体上に通常存在する細菌の過度の成長、または動物内もしくは動物上に通常存在しない細菌の成長を含みうる。より一般的に、細菌感染は、細菌集団の存在が宿主動物に有害である状況でありうる。したがって、動物は、過度の量の細菌集団が動物の体内または体上に存在している場合、または細菌集団の存在が動物の細胞または組織に損傷を与えていると、細菌感染に「かかっている」。1つの実施形態においては、細菌の特定の属または種の数は、動物において通常存在する数の少なくとも2倍、4倍、6倍、または8倍である。細菌感染は、グラム陽性および/またはグラム陰性細菌による場合もある。
【0073】
「減少」は、a)タンパク質(例えば、ELISAまたはウェスタンブロット分析によって測定)、b)レポーター遺伝子活性(例えば、レポーター遺伝子アッセイによって測定、例えば、β−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質、またはルシフェラーゼ活性)、c)mRNA(例えば、RT−PCR、または内部制御に対してノーザンブロット分析によって測定、例えば「ハウスキーピング」遺伝子生成物、例えば、β−アクチン、またはグリセルアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)など)、またはd)細胞機能、例えば、試験サンプルにおけるアポトーシス細胞、移動細胞、増殖細胞、細胞周期停止細胞、侵入性細胞、分化細胞、または脱分化細胞の数によって測定のレベルの低下を意味する。すべての場合に、低下は、好ましくは、少なくとも20%、より好ましくは、少なくとも30%、40%、50%、60%、75%、かつ最も好ましくは、少なくとも90%である。本明細書で使用される減少は、PTGS、TGS、または他の遺伝子サイレンシング事象の直接または間接の結果である。
【0074】
「核酸分子」は、1つもしくはそれ以上のリン酸分子が糖質(例えば、ペントースまたはヘキソース)と結合され、これらが次いでプリン由来の塩基(例えば、アデニンまたはグアニン)およびピリミジン由来の塩基(例えば、チミン、シトシン、またはウラシル)と結合される化合物を意味する。特定の天然由来核酸分子としては、ゲノムデオキシリボ核酸(DNA)およびゲノムリボ核酸(RNA)のほか、後者のいくつかの異なる形態、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、およびリボソームRNA(rRNA)のほか、リボザイムなど触媒RNA構造が挙げられる。異なるRNA分子に相補的である異なるDNA分子(cDNA)も含まれる。合成DNA、またはその天然由来DNAとハイブリッドのほか、DNA/RNAハイブリッド、およびPNA分子(Gambari、Curr.Pharm.Des.7:1839−62頁(2001年))も「核酸分子」の定義内に含まれる。
【0075】
核酸は一般的に2つもしくはそれ以上の共有結合天然由来もしくは修飾デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドの配列を有する。修飾核酸としては、例えば、ペプチド核酸および非天然塩基を有するヌクレオチドが挙げられる。修飾としては、以下で「dsRNA」の定義に記載される化学的および構造的修飾が挙げられる。例えば、「dsRNA」、「発現ベクター」、および「発現構築物」の定義内、および本明細書のほかの場所に記載されているさまざまな構造も含まれる。
【0076】
「dsRNA」は、17もしくはそれ以上の、好ましくは、少なくとも19もしくはそれ以上の、二本鎖構造である塩基対の領域を含有する核酸分子を意味する。さまざまな実施形態においては、dsRNAは完全にリボヌクレオドから成り、または、例えば、2000年4月19日出願の国際公開第00/63364号パンフレット、または1999年4月21日出願の米国特許出願第60/130,377号明細書によって開示されているRNA/DNAハイブリッドなど、リボヌクレオチドとデオキシヌクレオチドの混合物から成る。dsRNAは、分子の一部分のヌクレオチドが分子の他の部分におけるヌクレオチドと塩基対を成すように自己相補の領域を有する単一の分子でありうる。さまざまな実施形態においては、単一の分子から成るdsRNAは完全にリボヌクレオチドから成り、またはデオキシリボヌクレオチドの領域と相補的であるリボヌクレオチドの領域を含む。あるいは、dsRNAは二本鎖dsRNAであり、すなわち互いと相補的な領域を有する2つの異なる鎖を含んで成りうる。さまざま実施形態においては、両方の鎖が完全にリボヌクレオチドから成り、一方の鎖が完全にリボヌクレオチドから成り、かつもう一方が完全にデオキシヌクレオチドから成り、または一方もしくは両方がリボヌクレオチドとデオキシヌクレオチドの混合物から成る。好ましくは、相補性の領域は、少なくとも70、80、90、95、98、または100%相補性である。好ましくは、二本鎖構造で存在するdsRNAの領域は、少なくとも19、20、30、50、75、100、200、500、1000、2000、または5000のヌクレオチドを含み、またはdsRNAで表されるcDNAにおけるヌクレオチドのすべてを含む。一部の実施形態においては、dsRNAは、一本鎖末端など一本鎖領域を含有せず、またはdsRNAがヘアピンである。他の実施形態においては、dsRNAは1つもしくはそれ以上の一本鎖領域またはオーバーハングを有する。好ましいRNA/DNAハイブリッドとしては、アンチセンス鎖または領域である(例えば、標的核酸と少なくとも70、80、90、95、98、または100%相補性を有する)DNA鎖または領域、およびセンス鎖または領域である(例えば、標的核酸と少なくとも70、80、90、95、98、または100%同一性を有する)RNA鎖または領域、またはその逆もまた同様に挙げられる。さまざまな実施形態においては、RNA/DNAハイブリッドは、本明細書に記載され、または2000年4月19日出願の国際公開第00/63364号パンフレット、または1999年4月21日出願の米国特許出願第60/130,377号明細書に記載されているものなど酵素または化学合成法を使用してインビトロで行われる。他の実施形態においては、インビトロ合成されたDNA鎖が、DNA鎖の細胞へのトランスフォーメーション前後または同時にインビボまたはインビトロで作られたRNA鎖と複合される。さらに他の実施形態においては、dsRNAはセンスおよびアンチセンス領域を含有する単一環状核酸であるか、dsRNAは環状核酸、および第2の環状核酸または線状核酸のいずれかを含む(例えば、2000年4月19日出願の国際公開第00/63364号パンフレット、または1999年4月21日出願の米国特許出願第60/130,377号明細書を参照)。例示としての環状核酸としては、ヌクレオチドの遊離5’ホスホリル基がループバック式に他のヌクレオチドの2’ヒドロキシル基に結合されることになるラリアート構造が挙げられる。好ましいdsRNAとしては、2003年7月31日出願の米国仮出願第60/399,998号明細書、「Use of Double−Stranded RNA for Identifying Nucleic Acid Sequences that Modulate the Function of a Cell」、および2003年7月31日出願のPCT/US03/1240028号明細書、「Double Stranded RNA Structures and Constructs and Methods for Generating and Using the Same」に開示されている「強制(forced)ヘアピン」および「部分的(partial)ヘアピン」が挙げられる。他の好ましいヘアピンdsRNAは、ダイサー(Dicer)または他の同様の酵素と無関係にsiRNA(19−17塩基対の短鎖干渉dsRNA)へ開裂されうる長dsRNAであり、参照によって本明細書で援用される、2002年10月18日出願の米国仮出願第60/419,532号明細書、および2003年10月20日出願のPCTUS2003/33466号明細書を参照。
【0077】
他の実施形態においては、dsRNAは、糖における2’位置がハロゲン(フッ素基など)を含有するか、または対応する2’位置が水素またはヒドロキシル基を含有する対応するdsRNAと比べインビトロまたはインビボでdsRNAの半減期を増大させる、アルコキシ基(メトキシ基など)を含有する1つもしくはそれ以上の修飾ヌクレオチドを含む。さらに他の実施形態においては、dsRNAは、天然由来のホスホジエステル結合以外の隣接したヌクレオチド間の1つもしくはそれ以上の結合を含む。かかる結合の例としては、ホスホルアミド、ホスホロチオエート、およびホスホロジチオエート結合を含む。他の実施形態においては、dsRNAが、例えば、2000年4月19日出願の国際公開第00/63364号パンフレット、または1999年4月21日出願の米国特許出願第60/130,377号明細書によって開示されているように、1つもしくは2つのキャップド鎖または非キャップド鎖を含有する。他の実施形態においては、dsRNAはコード配列または非コード配列、例えば、調節配列(例えば、mRNAの転写因子結合部位、プロモーター、または5’または3’非翻訳領域(UTR))を含有する。また、dsRNAは、2000年4月19日出願の国際公開第00/63364号パンフレット(例えば、8−22頁を参照)に開示されている少なくとも部分的に二本鎖RNA分子のいずれかでありうる。dsRNA分子のいずれかは、本明細書に記載されている方法を使用して、または2000年4月19日出願の国際公開第00/63364号パンフレット(例えば、16−22頁を参照)に記載されているものなど標準の方法を使用してインビトロまたはインビボで発現されうる。
【0078】
「dsRNA発現ライブラリー」は、核酸配列、例えば、核酸配列の発現と同時のdsRNAを形成することが可能であるcDNA配列またはランダム化核酸配列を含有する核酸発現ベクターのコレクションを意味する。好ましくは、dsRNA発現ライブラリーは、少なくとも10,000の独自の核酸配列、より好ましくは、少なくとも50,000、100,000、または500,000の独自の核酸配列、かつ最も好ましくは、少なくとも1,000,000の独自の核酸配列を含有する。「独自の核酸配列」は、dsRNA発現ライブラリーの核酸配列が、完全長配列が比較される場合、dsRNA発現ライブラリーの他の核酸配列と好ましくは、50%未満、より好ましくは、25%または20%未満、かつ最も好ましくは、10%の未満の核酸同一性を有することを意味する。配列同一性は、一般的にBLAST(登録商標)(ベーシック・ローカル・アラインメント・サーチ・ツール(Basic Local Alignment Search Tool))またはBLAST(登録商標)2を使用して測定されるが、デフォルトパラメータは中に指定されている(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403−410頁(1990年)、およびTatianaら、FEMS Microbiol.Lett.174:247−250頁(1999年)を参照)。このソフトウェアプログラムは、さまざまな置換、欠失、および他の修飾との相同の程度を指定することによって同様の配列にマッチさせる。保存的置換としては一般的に以下の群内の置換が挙げられる。すなわち、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リシン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0079】
dsRNA発現ライブラリーを生成するためのcDNAの調製は、例えば、米国公開出願第2002/0132257号明細書および欧州公開出願第1229134号明細書における「Use of post−transcriptional gene silencing for identifying nucleic acid sequences that modulate the function of a cell」に記載されており、その開示は参照によって本明細書で援用される。ランダム化核酸ライブラリーは、例えば、その開示が参照によって本明細書で援用される、米国特許第5,639,595号明細書に記載されているようにも生成され、かつdsRNA介在機能的ゲノム用途に利用されうる。dsRNA発現ライブラリーは、核で転写され、または細胞の細胞質で転写される核酸配列を含有しうる。dsRNA発現ライブラリーは、本明細書に記載されている方法を使用して生成されうる。
【0080】
「強制ヘアピン」は、5’から3’への順で、目的とする第1の領域、第1の塩基対領域、ループ領域、および第2の塩基対領域を有する、核酸分子(例えば、DNA分子またはベクター)またはRNAをコード化する核酸分子の集団(例えば、部分または完全ヘアピン)を意味する。第1および第2の塩基対領域は互いに塩基対を成す。好ましくは、核酸はさらに第2の塩基対領域の下流で目的とする第2の領域を含む。目的とする第2の領域が存在する場合は、目的とする第1および第2の領域は互いに塩基対を成す。好ましくは、目的とする第1および第2の領域におけるヌクレオチドの少なくとも50、60、70、80、90、95、または100%が、互いとワトソン・クリック塩基対合に関与する。これら2つの領域は、同じ長さである場合もあり、または1つもしくはそれ以上のヌクレオチドによって長さが異なる場合もある。例えば、目的とする1つの領域が、目的とする他の領域のいずれかの部分におけるヌクレオチドと塩基対を成していない領域の一端で追加のヌクレオチドを有しうる。関連態様においては、本発明は、これらの核酸によってコード化されるRNA分子またはRNA分子の集団を特徴とする。参照によって本明細書で援用される、2002年7月31日出願の米国仮出願第60/399,998号明細書、「Use of Double−Stranded RNA for Identifying Nucleic Acid Sequences that Modulate the Function of a Cell」、および2002年7月31日出願のPCT/US03/1240028号明細書、「Double Stranded RNA Structures and Constructs and Methods for Generating and Using the Same」の開示を参照。
【0081】
「完全RNAヘアピン」は、一本鎖オーバーハングなしのヘアピンを意味する。
【0082】
「細胞の機能」は、測定または評価されうる細胞活性を意味する。細胞機能の例としては、細胞移動性、アポトーシス、細胞成長、細胞侵襲、血管形成、細胞周期事象、細胞分化、細胞脱分化、神経細胞再生、およびウイルス複製を支持する細胞の能力が挙げられるが、これらに限定されない。細胞の機能は、他の細胞、例えば、隣接細胞、細胞と接触している細胞、または細胞が含まれている培地または他の細胞外液と接触している細胞の機能、遺伝子発現、またはポリペプチド生物学的活性に影響を及ぼす場合もある。
【0083】
「高い厳密性条件」によって、少なくとも40ヌクレオチドのDNAのプローブ長さで40℃下での2×SSCにおけるハイブリダイゼーションが意味される。高い厳密性条件の他の定義については、参照によって本明細書で援用される、F.Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、6.3.1−6.3.6頁、John Wiley & Sons、ニューヨーク、ニューヨーク州(NY)、1994年を参照。
【0084】
「単離核酸」、「単離核酸配列」、「単離核酸分子」、「単離dsRNA核酸配列」、または「単離dsRNA核酸」は、本発明の核酸配列が由来する生物の天然由来ゲノムにおいて、遺伝子をフランキングする遺伝子を含んでいない核酸分子、またはその部分を意味する。したがって、この用語は、例えば、ベクター、例えば、dsRNA発現ベクターへ、自己複製プラスミドまたはウイルスへ、または原核生物または真核生物のゲノムDNAへ組込まれ、または他の配列とは無関係に個別の分子(例えば、PCRまたは制限エンドヌクレアーゼ消化によって生成されるcDNAもしくはゲノムまたはcDNA断片)として存在する、5’または3’フランキング配列の有無による組換えDNAを含む。
【0085】
「増加」は、a)タンパク質(例えば、ELISAまたはウェスタンブロット分析によって測定)、b)レポーター遺伝子活性(例えば、レポーター遺伝子アッセイによって測定、例えば、β−ガラクトシダーゼ、緑色蛍光タンパク質、またはルシフェラーゼ活性)、c)mRNA(例えば、RT−PCR、または内部制御に対してノーザンブロット分析によって測定、例えば「ハウスキーピング」遺伝子生成物、例えば、β−アクチン、またはグリセルアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)など)、またはd)細胞機能、例えば、試験サンプルにおけるアポトーシス細胞、移動細胞、増殖細胞、細胞周期停止細胞、侵入性細胞、分化細胞、または脱分化細胞の数による測定のレベルの上昇を意味する。好ましくは、増加は、少なくとも1.5倍〜2倍、より好ましくは、少なくとも3倍、かつ最も好ましくは、少なくとも5倍である。本明細書で使用される増加は、PTGS、TGS、または他の遺伝子サイレンシング事象の間接的結果でありうる。例えば、dsRNAは、その他の場合には他の核酸分子の発現を阻害しうるサプレッサタンパク質など、タンパク質の発現を阻害しうる。
【0086】
「長鎖dsRNA」は、長さが少なくとも40、50、100、200、500、1000、2000、5000、10000、もしくはそれ以上のヌクレオチドであるdsRNAを意味する。一部の実施形態においては、包括的に、長鎖dsRNAは、30〜100、100〜10000、100〜1000、200〜1000、または200〜500隣接ヌクレオチド間の二本鎖領域を有する。一部の実施形態においては、長鎖dsRNAは、結果としてヘアピン構造の形成がもたらされる、自己相補の領域(例えば、逆方向反復またはタンデムセンスおよびアンチセンス配列)によって二本鎖構造を達成する一本鎖である。1つの実施形態においては、長鎖dsRNA分子は、機能的タンパク質を産生せず、翻訳されていない。例えば、長鎖dsRNAは翻訳に関与する細胞因子と相互作用するように設計されてはならない。例示としての長鎖dsRNA分子は、ポリ−アデニル化配列、タンパク質翻訳に必要なKozak領域、メチオニン開始コドン、および/またはキャップ構造を欠く。他の実施形態においては、dsRNA分子はキャップ構造、1つもしくはそれ以上のイントロン、および/またはポリアデニル化配列を有する。他のかかる長鎖dsRNA分子としては、RNA/DNAハイブリッドが挙げられる。本発明の方法およびその調製と送達のためのさまざまな手段において使用されうる他のdsRNA分子は、その開示が参照によって本明細書で援用される、2000年4月11出願の国際公開第00/63364号パンフレットに記載されている。
【0087】
「調節する」は、減少または増加のいずれかによる変更を意味する。本明細書で使用されるように、好ましくは、核酸分子は細胞の機能、細胞における標的核酸分子の発現、または細胞における標的ポリペプチドの生物学的活性を、少なくとも20%、より好ましくは、少なくとも30%、40%、50%、60%または75%、かつ最も好ましくは、少なくとも90%減少させる。また本明細書で使用されるように、好ましくは、核酸分子は細胞の機能、細胞における標的核酸分子の発現、または細胞における標的ポリペプチドの生物学的活性を、少なくとも1.5倍〜2倍、より好ましくは、少なくとも3倍、かつ最も好ましくは、少なくとも5倍、増加させる。
【0088】
「多重クローニング部位」は、1つもしくはそれ以上の制限酵素の単一の特異的制限酵素認識部位を含有し、かつ核酸配列の挿入部位として役立つDNAプラスミド構築物内の周知の配列を意味する。多重クローニング部位は、ポリリンカーまたはポリクローニング部位とも称される。さまざまなこれら部位が当技術分野で周知である。
【0089】
「多重エピトープdsRNA」は、多重標的核酸由来の部分を有するか、同じ標的核酸からの非隣接部分を有するRNA分子を意味する。例えば、多重エピトープdsRNAは、(i)単一生物の多重遺伝子を表す配列、(ii)さまざまな異なる生物からの1つもしくはそれ以上の遺伝子を表す配列、および/または(iii)特定の遺伝子の異なる領域を表す配列(例えば、プロモーターからの1つもしくはそれ以上の配列、およびエクソンなどコード領域からの1つもしくはそれ以上の配列)由来の部分を有しうる。好ましくは、各部分は、標的核酸の対応する領域と実質的な同一配列を有する。さまざまな好ましい実施形態においては、標的核酸と実質的な同一配列を有する部分は、長さが少なくとも30、40、50、100、200、500、750、もしくはそれ以上のヌクレオチドである。好ましい実施形態においては、多重エピトープdsRNAは、少なくとも2、4、6、8、10、15、20、もしくはそれ以上の標的遺伝子の発現を、少なくとも20、40、60、80、90、95、または100%阻害する。一部の実施形態においては、多重エピトープdsRNAは、これらの部分の天然に存在する5’から3’への順にあるかどうかにかかわらず同じ標的遺伝子からの非隣接部分を有し、かつdsRNAは、唯一の部分を有するdsRNAと比べ少なくとも50、100、200、500、または1000%多く、核酸の発現を阻害する。
【0090】
「部分RNAヘアピン」は、5’または3’オーバーハングなど一本鎖オーバーハングを有するヘアピンを意味する。好ましくは、部分ヘアピンは、核酸(例えば、DNA分子またはベクター)によってコード化される。コード化RNA分子は、5’〜3’の順で、目的とする第1の領域(領域1)、ループ領域、および目的とする第2の領域(領域2)を有する。目的とする領域は長さが異なり、領域1は、目的とする他の領域(領域2)におけるヌクレオチドと塩基対を成していない領域の一端で追加のヌクレオチドを有する。目的とする一方の領域は標的遺伝子と実質的同一性の配列を含んで成り、目的とする他方の領域は標的遺伝子と実質的相補性の配列を含んで成る。また、「部分」ヘアピンRNAは「強制」ヘアピンRNAでありうるが、この場合、標的遺伝子に対してセンスまたはアンチセンスのいずれかの配列を含む領域1は配列Aも含み、かつ領域2は、配列Aの少なくとも一部分と塩基対を成すように設計された配列Bを含み、これは「強制して」RNAをヘアピン構造と見なす働きをする。場合により、領域2は領域1のヌクレオチドと相補的な追加の3’ヌクレオチドを含む。関連態様においては、本発明はこれらの核酸によってコード化されるRNA分子またはRNA分子の集団を特徴とする。好ましくは、コード化RNAは、細胞または動物における標的遺伝子の発現を阻害する。好ましくは、部分RNAヘアピンは、RNA依存RNAポリメラーゼにより(例えば、細胞または動物において)インビトロまたはインビボで伸張される。好ましくは、部分ヘアピンの伸張は完全ヘアピンをもたらす。参照によって本明細書で援用される、2003年7月31日出願の米国仮出願第60/399,998号明細書、「Use of Double−Stranded RNA for Identifying Nucleic Acid Sequences that Modulate the Function of a Cell」、および2002年7月31日出願のPCT/US03/1240028号明細書、「Double Stranded RNA Structures and Constructs and Methods for Generating and Using the Same」の開示を参照。
【0091】
「表現型」は、例えば、分子、高分子、構造、代謝、エネルギー利用、組織、器官、反射、および挙動など検出可能または観察可能な外面上の物理的な発現のほか、検出可能な構造、機能、または細胞、組織、または生物の挙動の一部であるすべてを意味する。本発明の方法において特に有用なのは、dsRNA介在変化であり、ここでは検出可能な表現型は、細胞の機能の調節、標的核酸の発現の調節、または標的核酸分子に対するdsRNA効果による標的ポリペプチドの生物学的活性の調節に由来する。
【0092】
「ポリペプチド生物学的活性」は、細胞機能を調節する標的ポリペプチドの能力を意味する。ポリペプチド生物学的活性のレベルは、当技術分野で周知の標準アッセイを使用することによって直接測定されうる。例えば、ポリペプチド生物学的活性の相対レベルは、標的ポリペプチドをコード化するmRNAのレベル(例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)増幅またはノーザンブロット分析によって)、標的ポリペプチドのレベル(例えば、ELISAまたはウェスタンブロット分析によって)、標的ポリペプチド転写調節領域の転写調節下のレポーター遺伝子の活性(例えば、下記のとおり、レポーター遺伝子アッセイによって)、他の分子、例えば、標的ポリペプチドによって活性化され、または標的ポリペプチド活性を阻害するポリペプチドと標的ポリペプチドの特異的相互作用(例えば、2ハイブリッドアッセイ)、または標的ポリペプチドのリン酸化またはグリコシル化状態を測定することによって評価されうる。細胞、細胞抽出物、または他の実験サンプル内の標的ポリペプチドのレベル、標的ポリペプチドをコード化するmRNA、またはレポーター遺伝子活性を増加させるdsRNAなどの化合物は、標的ポリペプチドの生物学的活性を刺激するか、増加させる化合物である。細胞、細胞抽出物、または他の実験サンプル内の標的ポリペプチドのレベル、標的ポリペプチドをコード化するmRNA、またはレポーター遺伝子活性を減少させるdsRNAなどの化合物は、標的ポリペプチドの生物学的活性を減少させる化合物である。
【0093】
「プロモーター」は、pol Iプロモーター、pol IIプロモーター、pol IIIプロモーター、ミトコンドリアプロモーター、およびウイルス、細菌、および転写をドライブすることが可能な他のプロモーター配列を含む遺伝子の転写を誘導するのに十分な最小の配列を意味する。この定義には、細胞型特異的、組織特異的、または時間特異的方法で制御可能なプロモーター依存遺伝子発現を与えるのに十分であるか、または外部シグナルもしくは作用物によって誘導性である、転写制御エレメント(例えば、エンハンサー)も含まれ、当業者には公知であるかかるエレメントは、遺伝子の5’または3’領域またはイントロン内にありうる。好ましくは、プロモーターが作動可能に核酸配列、例えば、cDNAまたは遺伝子、または生物学的活性のRNAをコード化する核酸配列に、例えば、mRNA、dsRNA(二本鎖dsRNAおよび一本鎖ヘアピン形成dsRNAを含む)、リボザイム、アンチセンスRNA、トリプレックス形成RNA、および、場合により、ポリペプチド生成物へ翻訳することが可能であるmRNAとして核酸配列の発現を可能にするような方法で結合される。本発明において、プロモーターは、プロモーターが転写活性である真核細胞の特異的細胞内コンパートメント、例えば、細胞質(細胞質プロモーター)、ミトコンドリア(ミトコンドリアプロモーター)、核(核プロモーター)、および非核核小体(核小体プロモーター)のほか、HDAC(ヒストンデアセチラーゼ複合体)など機能的に異なったコンパートメントに従って分類される。プロモーターは、それらが真核細胞の異なった細胞内コンパートメントで転写活性であるため、「サブコンパートメント特異的」または「コンパートメント特異的」である。例えば、RNA pol IIプロモーター(RNA pol IIによって転写を開始する)は核(非核小体)プロモーターであり、RNA pol IIIプロモーター(RNA pol IIIによって転写を開始する)は核小体プロモーターであり、RNA pol Iプロモーター(RNA pol Iによって転写を開始する)は核小体プロモーターであり、SP6、T7、T3、および他のバクテリオファージプロモーターはそのそれぞれのRNAポリメラーゼ(SP6、T7、T3RNAポリメラーゼ)の存在下に細胞質において活性であり、ミトコンドリアプロモーター、例えば、ヒト軽鎖プロモーター、ヒト重鎖プロモーター、および、ミトコンドリアにおいて転写活性であるマウス、モルモット、ウサギ、およびさまざまな霊長類プロモーターなど動物プロモーターである(2002年9月6日公開の国際公開第02/068629号パンフレット、Satishchandranらの開示を参照)。本発明において、適切なプロモーターは周知の天然由来のプロモーターだけではなく、選択された細胞内コンパートメントにおいて転写を開始するように設計された合成的および半合成的プロモーターを含むことが理解されるであろう。例えば、PachukとSatishchandranの2003年4月22日出願の米国特許出願第60/464,434号明細書、および2002年4月22日出願のPCT US02/33669号明細書「トランスフェクション動力学および構造的プロモーター(Transfection Kinetics and Structural Promoters)」の強制開放パドロックプロモーター、およびキメラプロモーターを含む構造的プロモーターを参照。
【0094】
1つもしくはそれ以上のプロモーターが、lac(Croninら、Genes Dev.15:1506−1517頁(2002年))、ara(Khlebnikovら、J.Bacteriol.182:7029−34頁(2000年))、ecdysone(レオジェン(Rheogen)、www.rheogene.com)、RU48(メフェプリストン(mefepristone))(コルチコステロイド拮抗薬)(Wangら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:8483−88頁(1999年))、またはtetプロモーター(Rendalら、Hum.Gene.Ther.13:335−42頁(2002年)、Larnartinaら、Hum.Gene Ther.13:199−210頁(2002年))、または200年4月19日出願の国際公開第00/63364号パンフレットに開示されているプロモーターなどの誘導性プロモーターでありうる。誘導性プロモーターが使用される場合、適切なシグナルまたは刺激の供給によって必要に応じて誘発されることが可能であるという点で「転写活性」と考えられる。
【0095】
「タンパク質」または「ポリペプチド」または「ポリペプチド断片」は、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)に関係なく3個のアミノ酸以上の鎖を意味し、天然由来ポリペプチドまたはペプチドの全部または部分を構成し、または非天然由来ポリペプチドまたはペプチドを構成する。
【0096】
「レポーター遺伝子」は、その発現が検出可能であり、かつ/または免疫学的、化学的、生化学的、または生物学的アッセイによって定量化されうる生成物をコード化する遺伝子を意味する。レポーター遺伝子生成物は、例えば、以下の属性の1つを制限なしに有しうる:蛍光(例えば、緑色蛍光タンパク質)、酵素活性(例えば、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)、毒性(例えば、リシンA)、または追加の分子(例えば、非標識抗体、次いで標識二次抗体、またはビオチン、または検出可能標識抗体)によって特異的に結合される能力。当業者が容易に利用可能であるレポーター遺伝子の加工変形も制限なしに前記定義に包含されることが理解される。
【0097】
「リボザイム」は、特異的配列でRNA切断の触媒が可能である触媒RNAポリヌクレオチドを意味する。リボザイムは、例えば、特定のmRNAを攻撃するために有用である。例えば、慢性骨髄性白血病においては、遺伝子bcrおよびabl(フィラデルフィア染色体)を含む染色体転座の結果として、bcr−abl融合タンパク質の発現が生じ、これはabl腫瘍タンパク質の異常な機能の結果と考えられている。bcr遺伝子とabl遺伝子との融合は2つのイントロンの1つの内部の部分で起こるため、スプライスされたbcr−abl融合転写産物はbcrエクソンとablエクソンとの間のスプライス部位で2つのみの可能な配列を含有する。bcr−abl mRNAがこの発癌性染色体転座を受けたリンパ球様細胞においてのみ生じると、2つのbcr−abl融合mRNAスプライス部位のいずれかに特異的なリボザイムが調製され、したがって、対応する腫瘍タンパク質の発現を阻害しうる。米国特許第6,080,851号明細書、「Ribozyme with linked anchor sequences」、Pachukらを参照。
【0098】
「選択的条件」によって、特異的細胞または細胞群が選択を受けることができる条件が意味される。例えば、蛍光活性化細胞選別装置(FACS)のパラメータを調節し、特異的細胞または細胞群を識別することができる。当業者に周知の方法である細胞パニングが、選択的条件を使用する他の方法である。
【0099】
「短鎖dsRNA」は、二本鎖構造である長さが45、40、35、30、27、25、23、21、20、19、18、最小17個のヌクレオチドを有するdsRNAを意味する。好ましくは、短鎖dsRNAは少なくとも長さが19塩基対である。好ましい実施形態においては、二本鎖領域は、包括的に、長さが19〜45、19〜40、19〜30、19〜20、19〜25、20〜25、21〜23、25〜30、または30〜40の隣接塩基対である。一部の実施形態においては、短鎖dsRNAは、包括的に、全長が38〜50、50〜100、100〜200、200〜300、400〜500、500〜700、700〜1000、1000〜2000、または2000〜5000個のヌクレオチドであり、独立して、包括的に、長さが17、18、または19および45個の隣接塩基対である、1つもしくはそれ以上の二本鎖領域を有する。1つの実施形態においては、短鎖dsRNAは完全に二本鎖である。一部の実施形態においては、短鎖dsRNAは長さが19〜30個の塩基対であり、完全なdsRNAは二本鎖である。他の実施形態においては、短鎖dsRNAgは1つもしくはそれ以上の一本鎖領域を有する。特定の実施形態においては、短鎖dsRNAは、dsRNA介在ストレス反応経路においてPKR(タンパク質キナーゼRNA誘導性)または他のタンパク質に結合する。好ましくは、短鎖dsRNAは、PKRの二量化および活性化を少なくとも20、40、60、80、90、または100%阻害する。一部の好ましい実施形態においては、短鎖dsRNAは、長鎖dsRNAのPKRまたはdsRNA介在ストレス反応経路の他の成分への結合を少なくとも20、40、60、80、90、または100%阻害する。
【0100】
「特異的にハイブリッド形成する」は、標的核酸分子をハイブリッド形成するが、もちろん、変性条件下に評価されると、標的核酸分子を含む、実質的にサンプル(例えば、細胞からのサンプル)における他の核酸分子をハイブリッド形成することがないdsRNAを意味する。1つの実施形態においては、dsRNAをハイブリッド形成し、これと関連した標的核酸分子の量は、標準アッセイを使用して測定すると、dsRNAをハイブリッド形成し、またはこれと関連した対照核酸分子の量の2倍、好ましくは、5倍、より好ましくは、10倍、および最も好ましくは、50倍多い。
【0101】
「標的核酸分子の発現を特異的に阻害する」は、細胞または生物学的サンプルにおける標的核酸分子の発現の阻害が、標的核酸分子のそれと99、95、90、80、または70%未満同一または相補的である配列を有する非標的核酸分子の発現の阻害よりも大きな程度に生じることを意味する。好ましくは、非標的分子の発現の阻害は、標的核酸分子の発現の阻害よりも2倍、好ましくは、5倍、より好ましくは、10倍、かつ最も好ましくは、50倍少ない。
【0102】
ヌクレオチド配列が実質的に同一である指標は、2つの分子が互いに厳密性条件下にハイブリッド形成する場合である。厳密性条件は配列依存であり、異なる環境において異なる。一般に、厳密性条件は、明確なイオン強度およびpHでの特異的配列に対する熱融点(Tm)よりも低い、約5℃〜約20℃、通常、約10℃〜約15℃であるように選択される。Tmは、標的配列の50%が完全にマッチしたプローブをハイブリッド形成する(明確なイオン強度およびpH下の)温度である。一般的に、厳密性条件は、塩分濃度がpH7で約0.02モルであり、温度が少なくとも約60℃である条件である。例えば、標準のサザンハイブリダイゼーション法においては、厳密性条件は、42℃下での6×SSCでの初期洗浄後、少なくとも約55℃、一般的には約60℃、かつしばしば約65℃の温度での0.2×SSCにおける1回もしくはそれ以上の追加の洗浄を含む。
【0103】
「実質的な配列相補性」は、核酸が標的核酸分子の発現を阻害するために、dsRNAまたは他の生物学的活性核酸と標的核酸分子との間の十分な配列相補性を意味する。好ましくは、dsRNAの配列は、標的核酸分子の領域の配列と少なくとも40、50、60、70、80、90、95、または100%相補性である。
【0104】
「実質的な配列同一性」は、dsRNAが核酸分子の発現を阻害するために、dsRNAまたはアンチセンスRNAと標的核酸分子との間の十分な配列同一性を意味する。好ましくは、dsRNAまたはアンチセンスRNAの配列は、標的核酸分子の領域の配列と少なくとも40、50、60、70、80、90、95、または100%同一性である。
【0105】
「標的」、「標的核酸」、「標的遺伝子」、「標的ポリヌクレオチド」、または「標的ポリヌクレオチド配列」は、その発現が転写後遺伝子サイレンシング、転写遺伝子サイレンシング、またはアンチセンス、リボザイム切断等など他の配列特異的dsRNA介在阻害の結果調節される、天然由来、かつ場合により欠陥のあるポリヌクレオチド配列、または細胞内もしくは細胞外の病原性感染または疾患により存在する異種配列に関係なく、真核細胞、植物または動物、脊椎動物または無脊椎動物、哺乳類、鳥類等に存在する核酸配列を意味する。本明細書で使用される「標的」、「標的核酸」、「標的遺伝子」、または「標的ポリヌクレオチド配列」は、PTGS、転写遺伝子サイレンシング(TGS)、または他の遺伝子サイレンシング事象が起こる細胞においてか、または隣接細胞において、またはPTGS、TGS、または他の遺伝子サイレンシング事象を受けた細胞が含まれる培地または他の細胞外液と接触する細胞においてありうる。かかる「標的」、「標的核酸」、「標的遺伝子」、または「標的ポリヌクレオチド配列」はコード配列でありうる、すなわち、タンパク質またはその機能的断片を発現するように翻訳されるかどうかに関係なく、mRNAを含むRNAへ転写される。あるいは、非コードであるが、プロモーター、エンハンサー、レプレッサ、または他の調節エレメントを含む調節機能を有しうる。「遺伝子」という語は、プロモーターなど調節配列を含む、転写および/または翻訳されているかどうかに関係なく、「サイレンスされる」ことが意図された標的配列を含むことが意図されている。
【0106】
例示としての「標的」、「標的核酸」、「標的遺伝子」、または「標的ポリヌクレオチド配列」分子としては、腫瘍遺伝子など癌または異常な細胞成長と関連した核酸分子、および常染色体優性または劣勢疾患と関連した核酸分子が挙げられる(例えば、国際公開第00/63364号パンフレット、国際公開第00/44914号パンフレット、および国際公開第99/32619号パンフレットを参照)。好ましくは、アンチセンスRNA、トリプレックス形成RNA、またはdsRNAは、優性疾患と関連した突然変異を有する核酸分子の対立遺伝子の発現を阻害し、実質的に核酸分子の他の対立遺伝子(例えば、疾患と関連した突然変異なしの対立遺伝子)を阻害することはない。他の例示としての「標的」、「標的核酸」、「標的遺伝子」、または「標的ポリヌクレオチド配列」分子としては、ウイルス、細菌、酵母、原虫、または寄生虫など病原体の感染または増殖に必要とされるコードおよび非コード領域を含む宿主細胞核酸分子および病原体核酸分子が挙げられる。
【0107】
「標的ポリペプチド」は、その生物学的活性が、アンチセンス、リボザイム切断等などを含む遺伝子サイレンシングまたは他の配列特異的RNA介在機序の結果として調節されるポリペプチドを意味する。本明細書で使用される標的ポリペプチドは、PTGS、TGS、または他の配列特異的調節が起こる細胞においてあり、または隣接細胞において、またはPTGS、TGS、または他の遺伝子サイレンシング事象を受けた細胞が含まれる培地または他の細胞外液と接触する細胞においてありうる。
【0108】
「トランスフォーメーション」または「トランスフェクション」は、外来分子を細胞(例えば、細菌、酵母、真菌、藻類、植物、昆虫、または動物細胞、特に脊椎動物または哺乳類細胞)へ導入するための方法を意味する。リポフェクション、DEAE−デキストラン介在トランスフェクション、マイクロインジェクション、原形質融合、リン酸カルシウム沈殿、ウイルスまたはレトロウイルス送達、エレクトロポレーション、および遺伝子銃トランスフォーメーションは、当業者に周知のトランスフォーメーション/トランスフェクション法のほんの一部である。RNAまたはRNA発現ベクターは裸のRNAもしくはDNAまたは局所麻酔複合RNAまたはDNAでありうる(Pachukら、Biochim.Biophys.Acta 1468:20−30頁(2000年))。他の標準トランスフォーメーション/トランスフェクション法および他のRNAおよび/またはDNA送達剤(例えば、陽イオン性脂質、リポソーム、またはブピバカイン)は、2000年4月19日出願の国際公開第00/63364号パンフレット(例えば、18−29頁を参照)に記載されている。dsRNAまたはdsRNA発現構築物は、米国特許第5,837,533号明細書、同第6,127,170号明細書、または同第6,379,965号明細書(Boutin)の多機能分子複合体、または2003年5月6日出願のPCT/US03/14288号明細書(Satishchandran)の多機能分子複合体または油/水陽イオン両親媒性エマルジョンとも複合されうる。市販のキットも使用し、RNAまたはDNAを細胞に送達することができる。例えば、キアゲン社(Qiagen,Inc.)(Valencia、カリフォルニア州(Cal.)のトランスメッセンジャーキット、キセラゴン社(Xeragon Inc.)のRNAキット(キアゲン(Qiagen)から入手可能)、およびDNAエンジン社(DNA Engine Inc.)(Seattle、ワシントン州(WA))のRNAキットを使用し、単一またはdsRNAを細胞へ導入することができる。
【0109】
「形質転換細胞」または「トランスフェクト細胞」は、核酸分子、例えば、dsRNAまたは二本鎖発現ベクターが、組換え核酸法によって導入されている細胞(または細胞の子孫)を意味する。かかる細胞は、安定して、または一時的にトランスフェクトされうる。
【0110】
「癌を治療、安定化、または予防する」は、腫瘍のサイズの削減を引き起こすか、腫瘍のサイズの増大を遅延または阻止するか、腫瘍の消失とその再出現との疾患のない生存時間を増大するか、腫瘍の初期またはその後の発生を阻止するか、または腫瘍と関連した有害な症状を削減または安定化することを意味する。1つの実施形態においては、治療を生き残る癌細胞のパーセンテージは、標準のアッセイを使用して測定されるように、癌細胞の初期の数よりも少なくとも20、40、60、80、または100%低い。好ましくは、本発明の組成物の投与によってもたらされる癌細胞の数の減少は、非癌細胞の数の減少よりも少なくとも2、5、10、20、または50倍多い。さらに他の実施形態においては、本発明の組成物の投与後に存在する癌細胞の数は、賦形剤対照の投与後に存在する癌細胞の数よりも少なくとも2、5、10、20、または50倍少ない。好ましくは、本発明の方法は、標準の方法を使用して測定される腫瘍のサイズの20、40、60、80、または100%の減少をもたらす。好ましくは、治療対象の少なくとも20、40、60、80、90、または95%が、癌の全証拠が消失する完全寛解を示す。好ましくは、癌は再発することなく、または少なくとも5、10、15、または20年後に再発する。他の好ましい実施形態においては、患者が癌と診断され、本発明の組成物で治療された後に生存する期間は、(i)未治療患者が生存する平均期間、または(ii)他の療法で治療された患者が生存する平均期間と比べ少なくとも20、40、60、80、100、200、または500%長い。
【0111】
「疾患または障害を治療、安定化、または予防する」は、疾患または障害の初期またはその後の発生を阻止するか、または遅延させるか、病状の消失とその再発との間の疾患のない生存期間を増大させるか、病状と関連した有害な症状を安定化または削減するか、または病状の進行を抑制または安定化することを意味する。これは、ウイルス、細菌、または真菌など感染性病原体による感染前の治療が確立しており、感染の重篤度または期間を阻止するか、または削減する予防的治療を含む。好ましくは、治療対象の少なくとも20、40、60、80、90、または95%が、疾患の全証拠が消失する完全寛解を示す。他の実施形態においては、患者が病気と診断され、本発明の組成物で治療された後に生存する期間は、(i)未治療患者が生存する平均期間、または(ii)他の療法で治療された患者が生存する平均期間と比べ少なくとも20、40、60、80、100、200、または500%長い。
【0112】
「インターフェロン反応またはdsRNAストレス反応を阻害または阻止する条件下」は、細胞毒性、細胞死、抗増殖反応、またはPTGSまたはTGS事象を行うdsRNAの能力減少を含む1つもしくはそれ以上のインターフェロン反応または細胞RNAストレス反応を阻止または阻害する条件を意味する。これらの反応としては、インターフェロン誘導(I型およびII型)、1つもしくはそれ以上のインターフェロン刺激遺伝子の誘導、PKR活性化、2’5’−OAS(オリゴアデニル酸シンセターゼ)活性化、および下流細胞および/またはこれらの反応の1つもしくはそれ以上の活性化/誘導に起因する生物続発症が挙げられるが、これらに限定されない。「生物続発症」は、ストレス反応によって引き起こされる動物全体、器官、またはより局所(例えば、注入部位)における効果を意味する。例示としての徴候としては、サイトカイン産生の上昇、局所炎症、および壊死が挙げられる。好ましくは、これらの反応を阻害する条件は、状態を阻害するかかるインターフェロン反応にさらされていない細胞と比べ95%、90%、80%、75%、60%、40%、または25%以下、かつ最も好ましくは、10%以下の細胞が細胞毒性、細胞死、またはPTGS、TGS、または他の遺伝子サイレンシング事象を行う能力減少を受けるようにすることであり、他の状態はすべて同等である(例えば、同じ細胞型、同じdsRNA発現ライブラリーによる同じトランスフォーメーション)。
【0113】
アポトーシス、インターフェロン誘導、2’5’−OAS活性化/誘導、PKR誘導/活性化、抗増殖反応、および細胞変性効果はすべてRNAストレス反応経路の指標である。本明細書に記載されるRNAストレス反応の誘導を測定するために使用されうる例示としてのアッセイとしては、アポトーシス細胞を検出するTUNELアッセイ、アルファ、ベータ、およびガンマインターフェロンの誘導を検出するELISAアッセイ、2’5’−OASの活性化を検出するリボソームRNA断面化分析、PKR活性化の指標としてのリン酸化elF2aの測定、細胞増殖の変化を検出する増殖アッセイ、および細胞の細胞変性効果を確認する細胞の顕微鏡分析が挙げられる。好ましくは、dsRNAまたはdsRNA発現ベクターにより形質転換された細胞におけるインターフェロン反応またはdsRNAストレス反応のレベルは、本明細書に記載されたアッセイの1つを使用して測定されるように、同じ条件下に偽トランスフェクト対照細胞における対応するレベルよりも20、10、5、または2倍未満大きい。他の実施形態においては、本発明の方法を使用するdsRNAまたはdsRNA発現ベクターにより形質転換された細胞におけるインターフェロン反応またはdsRNAストレス反応のレベルは、他のすべての状態が同等である、状態を阻害するかかるインターフェロン反応にさらされていない対応する形質転換細胞における対応するレベルよりも500%、200%、100%、50%、25%、または10%未満大きい。好ましくは、dsRNAは、細胞転写または翻訳の広範囲の阻害を誘発することはない。
【0114】
「ウイルス感染」は、宿主細胞のウイルスによる侵襲を意味する。例えば、感染は、動物の体内または体上に通常存在するウイルスの過剰な成長、または動物内または上に通常存在しないウイルスの成長を含みうる。より一般には、ウイルス感染は、ウイルス集団の存在が宿主動物に有害である状態でありうる。したがって、動物は、過剰量のウイルス集団が動物の体内または体上に存在する場合、またはウイルス集団の存在が動物の細胞または他の組織に有害である場合に、ウイルス感染に「罹って」いる。
【0115】
好ましい実施形態においては、本発明の方法に関するウイルス感染は、以下のウイルスの1つもしくはそれ以上による感染である。すなわち、B型肝炎、C型肝炎、ピコルナリルス(picornarirus)、ポリオ、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、コクサッキー、単純ヘルペスウイルス1型および2型、セントルイス脳炎、エプスタイン・バー、ミクソウイルス、JC、コクサッキーウイルスB、トガウイルス、麻疹、パラミクソウイルス、エコーウイルス、ブンヤウイルス、サイトメガロウイルス、水痘−帯状疱疹、ムンプス、馬脳炎、リンパ球性脈絡髄膜炎、狂犬病、サルウイルス40、ヒトポリオーマウイルス、パルボウイルス、パピローマウイルス、霊長類アデノウイルス、コロナウイルス、レトロウイルス、デング熱、黄熱病、日本脳炎ウイルス、および/またはBKを含むラボドウイルス(rhabodoviruses)。一部の実施形態においては、第1のdsRNAは、ウイルスに感染した細胞または動物におけるウイルス核酸の発現を阻害する。
【0116】
本発明の治療および予防的方法に特に適切なのは、DNAウイルス、または中間DNA段階を有するウイルスである。かかるウイルスの中には、限定されることなく、レトロウイルス種、ヘルペスウイルス種、ヘパデノウイルス種、ポックスウイルス種、パルボウイルス種、パピロルナウイルス種、およびパポバウイルス種のウイルスが含まれる。特に、この方法で治療するより好ましいウイルスの一部としては、限定されることなく、HIV、HBV、単純ヘルペスウイルス(HSV)、サイトメガロウイルス(CMV)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、(ヒトT−リンパ球ウイルス(HTLV)、およびエプスタイン・バー(EBV)が挙げられる。この方法で使用される薬剤は、哺乳類の細胞に少なくとも部分的に本明細書に記載された二本鎖RNA分子を提供し、これは感染哺乳類細胞におけるウイルスの複製および/または病原に必要なウイルスポリヌクレオチド配列である標的ポリヌクレオチドと実質的に相同の二本鎖配列を含む。かかる標的ポリオヌクレオチド配列の中には、ウイルスの増殖に必要なタンパク質の配列、例えば、特に、HIVgag、env、およびpol遺伝子、HPV16LIおよびE2遺伝子、HPV11LIおよびE2遺伝子、HPV16E6およびE7遺伝子、BPV18E6およびE7遺伝子、HBV表面抗原、HBVコア抗原、HBV逆転写酵素、HSVgD遺伝子、HSVvp16遺伝子、HSVgC、gH、gLおよびgB遺伝子、HSVICPO、ICP4およびICP6遺伝子、水痘帯状疱疹gB、gCおよびgH遺伝子、およびBCR−abl染色体配列、および細胞から細胞への感染の移動に必要な調節機能を提供する非コードウイルスポリヌクレオチド配列、例えば、HIVLTR、および他のウイルスプロモーター配列、例えば、HSVvp16プロモーター、HSV−ICPOプロモーター、HSV−ICP4、ICP6、およびgDプロモーター、HBV表面抗原プロモーター、HBVプレ−ゲノムプロモーターをコード化するタンパク質がある。
【0117】
したがって、この方法を使用し、HIVなどのウイルスにすでに感染した哺乳類対象を治療し、HIVgagなどウイルス複製および/または病原に必須のウイルス遺伝子機能を停止し、または阻害することができる。あるいは、この方法を使用し、潜在ウイルス、例えば、水痘帯状疱疹ウイルスとして哺乳類に存在し、かつ帯状疱疹として周知の疾患の原因物質であるウイルスの機能を阻害することができる。同様に、少なくとも部分的に、ウイルス、細菌、または他の病原体によって引き起こされることが証明されているアテローム性動脈硬化、潰瘍、慢性疲労症候群、および自己免疫疾患、HSV−1およびHSV−2の再発、HPV持続感染、例えば、陰部疣贅、および特に慢性BBV感染などの疾患が、哺乳類対象におけるウイルス複製および/または病原に必須の特定のウイルスポリヌクレオチド配列を標的することによって、この方法に従って治療されうる。
【0118】
さらに本発明の上記の「抗ウイルス」法の他の類似の実施形態としては、哺乳類においてウイルス誘発性癌の治療または予防の方法が挙げられる。かかる癌としては、HPV E6/E7ウイルス誘発性子宮頸癌、HTLV誘発性癌、および、特にバーキットリンパ腫などEBV誘発性癌が挙げられる。この方法は、本明細書に記載されている、標的ポリヌクレオチドが腫瘍抗原またはその機能的断片をコード化する配列であるか、その抗原または配列機能が哺乳類における腫瘍の維持に必要である非発現制御配列である組成物を哺乳類に投与することによって達成される。かかる配列の中には、限定されることなく、HPV16E6およびE7配列およびHPV18E6およびE7配列が含まれる。その他は当業者によって容易に選択されうる。組成物は、哺乳類における抗原も機能を削減または阻害するのに有効な量で投与され、好ましくは、本明細書に記載されている組成成分、投与量、および投与経路を使用する。
【0119】
転写および転写後遺伝子サイレンシング
転写遺伝子サイレンシング(TGS)は、遺伝子発現のサイレンシングがRNA転写のレベルで起こる現象である。二本鎖RNAは、TGSおよび転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)を仲介するが、dsRNAは核(好ましくは、核小体、より好ましくは、核コンパートメントと核小体)に位置していることが必要であり、好ましくは、TGSを仲介するために核で作られる。PTGSは細胞質で起こる。本明細書では、TGS、PTGS、または両方を仲介しうる多くのdsRNA構造およびdsRNA発現ベクターが描写されている。TGS、PTGS、または両方のさまざまな方法が以下に示されている。
【0120】
本明細書に記載されている細胞質dsRNA発現ベクターのすべては、dsRNAが標的mRNAと干渉する細胞質でdsRNAを生成するため、PTGSを仲介する。これらのベクターによって作られるdsRNAの一部は受動的過程によって核にトランスロケーションするため(例えば、有糸分裂中の核エンベロープ変性および矯正により)、これらのベクターは分裂細胞において低効率でTGSに影響を及ぼすことも予想される。
【0121】
TGSを増強するために、発現ベクターにはさらに、これら選択ポリヌクレオチド配列を転写が起こる分子でトランスフェクトした細胞の核にターゲットする核局在化シグナルが提供されうる。適切な核局在化シグナルは当業者に周知であり、本発明の限定ではない[例えば、D.A.Dean、Exp.Cell Res.230:293−302頁(1997年)を参照]。
【0122】
RNA pol IIベクターは、細胞質に入るさまざまな能力で核におけるRNA分子を発現する。必要に応じて、1つもしくはそれ以上の構成的輸送エレメント(CTE)配列を添加し、RNA pol IIによって核で作られる異なるエフェクターRNA分子(例えば、mRNA、アンチセンスRNA、ヘアピン、または二本鎖dsRNA)の細胞質輸送を可能にする。イントロンおよび/またはポリA配列の代わりに、かつ/またはそれに加えてCTEを使用し、輸送を促進することができる。CTEの好ましい位置は、RNA分子の3’末端近くである。必要に応じて、多重CTE配列(例えば、2、3、4、5、6、もしくはそれ以上の配列を使用することができる)。好ましいCTEは、Mason−Pfizerサルウイルス由来である(米国特許第5,880,276号明細書および同第5,585,263号明細書)。
【0123】
ポリアデニル化シグナルと組合わせて機能的イントロンまたはCTEをコード化するベクターは、より有効にdsRNAを細胞質に輸出する。(i)イントロンまたはCTEのみを有し、ポリアデニル化シグナルを有さず、または(ii)ポリアデニル化シグナルのみを有し、イントロンまたはCTEを有さないベクターは、より低い効率でRNAを細胞質へ輸出し、結果として細胞質により少ないRNAおよびPTGSのより低い効率が生じる。イントロン、CTE、およびポリアデニル化シグナルなしにRNAをコード化するベクターは、細胞質に最小有効に輸送されるRNA分子がもたらされる。RNAの細胞質レベルが低いほど、核におけるRNA保持は多く、TGSが誘発される効率が高くなる。したがって、これらベクターのすべては、細胞質輸送および核保持のレベルに従って、それぞれ、上記のように、異なる効率でPTGSおよびTGSを誘発する。
【0124】
場合により1つもしくはそれ以上のイントロンを有し、またはイントロンを有さず、かつポリAテイルを有し、またはポリAテイルを有さないRNA pol IIIベクターは、核で作られ、主に核で保持されるRNA分子をコード化する。この核RNAはTGSを誘発する。しかし、転写RNAのパーセンテージは細胞質に達し、したがって、PTGSを誘発しうる。TGS誘導のためには、dsRNAは、好ましくは、プロモーター、またはプロモーター配列の一部を含有し、かつ核に保持される。あるいは、dsRNAはコードまたはUTR配列のみを含有し、または好ましくは、コードまたはUTR配列とプロモーター配列の組合せを含有しうる。かかる「融合標的」dsRNAは、例えば、プロモーター配列、および同時TGSおよびPTGSがターゲットされる結合遺伝子配列を含有しうる。本発明の多コンパートメント発現系は、かかる「融合標的」配列が関連コンパートメント、例えば、細胞質、核、および核小体のすべてにおいて、必須コンパートメント特異的プロモーターを使用し、転写を開始することによって発現することを確実にしうる。PTGSのためには、dsRNAはRNA由来の配列(例えば、mRNAからのコードまたはUTR配列)を含有し、プロモーター配列を含有することはない。また、より有効なPTGSは、細胞質転写を可能にするベクター、または結果としてより有効な細胞質輸送RNAがもたらされるベクターによって誘発される。必要に応じて、PTGSおよびTGSは、本明細書に記載された方法、かつ当業者に周知の方法を使用することにより、これらベクターの組合せで同時に誘発されうる。
【0125】
他の発現制御配列としては、適切な転写開始、末端、プロモーター、およびエンハンサー配列、スプライシングおよびポリアデニル化(ポリA)シグナルなど有効なRNA処理シグナル、細胞質mRNAを安定化する配列、翻訳効率を増強する配列(すなわち、Kozakコンセンサス配列)、タンパク質安定性を増強する配列、および必要に応じて、コード化生成物の分泌を増強する配列が挙げられる。
【0126】
本明細書に記載されたベクターのいずれか、または他の標準のベクターを使用し、本発明の所望の生物学的に活性の核酸構造物、例えば、dsRNA、mRNA(必要に応じて、ポリペプチドへ翻訳される)、アンチセンスRNA、およびリボザイムRNAを生成し、本発明の方法で使用されうる。
【0127】
転写後遺伝子サイレンシングを増強するための方法
RNA pol IIによって核において転写されたdsRNAによってPTGSを増強するために、1つもしくはそれ以上のイントロンおよび/またはポリアデニル化シグナルをdsRNAに添加し、転写RNAの処理を可能にすることができる。この処理は、スプライシングおよびポリアデニル化が核から細胞質への輸出を促進するため好ましい。また、ポリアデニル化はRNA pol II転写産物を安定化する。これらの同じ方法は、タンパク質へ翻訳される機能的mRNAの発現に有用となる。一部の実施形態においては、原核抗生物質耐性遺伝子、例えば、ゼオマイシン発現カセットが、イントロンに位置している。他の例示としての原核の選択可能なマーカーとしては、米国特許第5,851,804号明細書のキメラカナマイシン耐性遺伝子を含むカナマイシンなど他の抗生物質耐性遺伝子、アミノグリコシド、テトラサイクリン、およびアンピシリンが挙げられる。ゼオマイシン遺伝子は原核プロモーターの調節制御下にあり、かつ宿主細菌におけるゼオマイシンの翻訳は、開始ATGの上流の約10個の塩基対以内に位置しているシャイン・ダルガノ配列の存在によって確実にされる。あるいは、ゼオマイシン発現カセットは、ヘアピンの逆方向反復配列間(すなわち、サイレンスされる標的核酸と実質的に同一のセンスとアンチセンス配列との間)の位置に配置されうる。
【0128】
逆方向反復配列は通常、ベクターが細菌において増殖するとDNA組換えによってDNAから削除されるが、少数の細菌は、逆方向反復を有するDNAを安定して維持することを可能にする組換え経路での突然変異を有しうる。これらの珍しい細菌をスクリーニングするために、ゼオマイシン選択が培養に追加される。逆方向反復を除去することが可能である望ましくない細菌は、ゼオマイシン発現カセットも組換え中に削除されるため殺傷される。無傷ゼオマイシン発現カセットを有する所望の細菌のみがこれらの選択を生き延びる。
【0129】
DNAがこれら選択細菌から単離され、RNAの発現のために真核生物(例えば、哺乳類細胞培養)または動物(例えば、成体哺乳類)へ挿入された後、イントロンはRNA転写産物からスプライスされる。ゼオマイシン発現カセットがイントロンに位置している場合は、このカセットはRNAスプライシングによって除去される。無効なスプライシングの場合には、ゼオマイシン発現カセットは、この遺伝子の転写および翻訳のための真核生物シグナルがないため発現しない。抗生物質耐性カセットの除去は、カセットの除去がdsRNA分子のサイズを減少させるため、短鎖dsRNAを含む用途に好ましい。ゼオマイシンカセットは、イントロン内部ではなくイントロンのいずれか末端のそばに位置している。この場合、ゼオマイシン発現カセットは、イントロンがスプライスされた後に残存し、ヘアピンのループ構造に関与するために使用されうる。これらのRNA pol II転写産物は核で作られ、細胞質へ輸送され、ここでPTGSをもたらしうる。しかし、一部のRNA分子は核に保持されうる。これらの核RNA分子はTGSをもたらしうる。TGS用途のために、コード化dsRNAは、好ましくは、プロモーターまたはプロモーターの一部を含有する。核内にRNAをより有効に保持するために、イントロンおよび/またはポリアデニル化シグナルは除去されうる。
【0130】
細胞質および核の局在化のための別の方法が、「上流」または内部RNA pol IIIプロモーターを使用することである(例えば、Gene regulation:A Eukaryotic Perspective、第3版、David Latchman(編)Stanley Thomes:Cheltenham、英国、1998年)。これらのプロモーターは、結果として核転写RNA転写産物をもたらし、その一部は輸出され、かつその一部は核に保持され、したがってPTGSおよび/またはTGSに使用されうる。これらのプロモーターを使用し、本発明の部分および強制ヘアピン構造を含むヘアピン、または二本鎖RNAを、変換プロモーターの使用または2つのベクターもしくは2つのシストロン系の使用により生成することができる。1つのプロモーターはセンス鎖の合成を誘導し、他のプロモーターはアンチセンスRNAの合成を誘導する。これらのプロモーターによって転写されるRNAの長さは、一般に数百個のヌクレオチド(250−500個)に制限される。また、転写終結シグナルは、有効な転写終結を可能にするこれらベクターにおいて使用されうる。
【0131】
本出願において必要とされる大部分の用語および一般の実験手順は、Sambrook J.ら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第3版)、第1−3巻、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、Cold Spring Harbor、ニューヨーク(N.Y.)、2000年に見られる。このマニュアルを以下、「Sambrookら」と呼ぶ。
【0132】
クローニング、DNA単離、増幅および精製、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼなどを含む酵素反応のための標準法、およびさまざまな分離法は、例えば、参照によって本明細書で援用される、以下の引例におけるように分子生物学の当業者によって周知であり、一般的に使用されている。すなわち、多くの標準法は、Ausubelら(1994年)Current Protocols in Molecular Biology、グリーン・パブリッシング社(Green Publishing,Inc.)、およびワイリー・アンド・サンズ(Wiley and Sons)、ニューヨーク、ニューヨーク州(N.Y.)、Sambrookら(上記)、Maniatisら(1982年)Molecular Cloning、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、Plainview、ニューヨーク、Wu(編)(1993年)Meth. Enzymol.218、第I部、Wu(編)(1979年)Meth Enzymol.68、Wuら(編)(1983年)Meth.Enzymol.100および101、GrossmanとMoldave(編)Meth.Enzymol.65、Miller(編)(1972年)Experiments in Molecular Genetics、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、Cold Spring Harbor、ニューヨーク、OldとPrimrose(1981年)Principles of Gene Manipulation、カリフォルニア大学プレス(University of California Press)、Berkeley、SchleifとWensink(1982年)Practical Methods in Molecular Biology、Glover(編)(1985年)DNA Cloning第I巻およびII巻、IRLプレス(Press)、Oxford、英国(UK)、HamesとHiggins(編)(1985年)Nucleic Acid Hybridization、IRLプレス(Press)、Oxford、英国(UK)、およびSetlowとHollaender(1979年)Genetic Engineering: Principles and Methods、第1−4巻、プレナム・プレス(Plenum Press)、ニューヨークに記載されている。「連鎖反応クローニング」と呼ばれる、ここで使用される特に有用な方法は、米国特許第6,143,527号明細書、「Chain reaction cloning using a bridging oligonucleotide and DNA ligase」、Pachukらに記載されている。使用される略語および用語は、現場で標準と見なされ、本明細書で引用されているものなど専門誌で一般的に使用されている。
【0133】
医薬組成物
本発明の多コンパートメント発現系は、本明細書のほかの場所で記載されているようにさまざまな医薬用途に有利に使用されうる。さまざまな実施形態においては、医薬組成物は約1ng〜約20mgの核酸、例えば、RNA、DNA、プラスミド、ウイルスベクター、組換えウイルス、またはその混合物を含み、これらは所望量の核酸分子(標的核酸、mRNA、アンチセンスRNA、トリプレックス形成RNA等と相同のdsRNA)を提供する。一部の実施形態においては、組成物は、約10ng〜約10mgの核酸、約0.1mg〜約500mg、約1mg〜約350mg、約25mg〜約250mg、または約100mgの核酸を含有する。臨床薬剤学の当業者は、ルーチンの実験を使用してかかる投与量に容易に到達することができる。
【0134】
適切な担体としては、生理食塩水、緩衝食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノール、およびその組合せが挙げられるが、これらに限定されない。組成物は投与方法に適合させることができ、例えば、丸剤、錠剤、カプセル、スプレー、粉末、または液体の形でありうる。一部の実施形態においては、この医薬組成物は、投与の選択された経路および方法に適した、1つもしくはそれ以上の薬剤として許容される添加剤を含有する。これらの組成物は、限定されることなく、静脈内(IV)、動脈内、筋内(IM)、皮下(SC)、皮内、腹腔内、髄腔内を含む任意の非経口経路のほか、局所、経口、および鼻腔内、吸入、直腸、膣、口内、および舌下など粘膜の送達経路によって投与されうる。一部の実施形態においては、本発明の医薬組成物は、注入用の滅菌、非発熱性液体、エマルジョン、粉末、エアロゾル、錠剤、カプセル、腸溶性製剤、または坐剤を含む液体の形で脊椎動物(例えば、哺乳類)対象に対する投与のために調製される。
【0135】
本明細書に記載されているように、例えば、バクテリオファージT7プロモーターの制御下に、例えば、天然痘ウイルスおよび炭疽毒素のヒト細胞受容体配列からの1つもしくはそれ以上の遺伝子と実質的に相同のdsRNAを発現するDNAプラスミド構築物を含んで成る医薬組成物を調製することができる。T7RNAポリメラーゼは、適切なプロモーター、例えば、hCMV、サルCMV、またはSV40の制御下に同じまたは他のプラスミドから同時送達および発現されうる。一部の実施形態においては、同じまたは他の構築物は、標的遺伝子(例えば、標的天然痘遺伝子)を標的天然痘遺伝子と相同のdsRNAと同時に発現する。この医薬組成物は、特定の投与経路に適切な医薬ビークルで調製される。IM、SC、IV、皮内、髄腔内、または他の非経口の投与経路のために、注入用の滅菌水など滅菌、非毒性、発熱物質を含まない水溶液、および、場合により、さまざまな濃度の塩、例えば、NaCl、および/またはブドウ糖、(例えば、塩化ナトリウム注射、リンガー液、ブドウ糖輸液、ブドウ糖および塩化ナトリウム注射、および乳酸加リンガー液)が一般的に使用される。場合により、薬剤学の当業者に周知の他の薬剤として適切な添加剤、防腐剤、または緩衝剤も使用される。注入用の1回量のバイアルで供給される場合は、用量は薬理学の当業者によって決定されるとおり変動するが、一般的に5mcg〜500mcgの活性構築物を含有する。必要に応じて、相当に大量を毒性なしに、例えば、5−10mgまで投与されうる。
【0136】
本発明の医薬組成物および本発明に従って使用するための医薬組成物は、薬剤として許容される賦形剤または担体を含みうる。本明細書で使用される「薬剤として許容される担体」は、非毒性、不活性固体、半固体、または液体充填剤、希釈剤、封入材料、または任意の型の製剤助剤を意味する。薬剤として許容される担体として使用されうる材料の一部の例は、乳糖、ブドウ糖、およびショ糖などの糖、コーンスターチおよびジャガイモでんぷんなどのでんぷん、セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシルメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロース、トラガント粉末、モルト、ゼラチン、タルク、カカオバターや坐剤用ワックスなどの賦形剤、ピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、および大豆油などの油、プロピレングリコールなどのグリコール、オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル、寒天、Tween80などの洗剤、水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム、アルギン酸、発熱物質を含まない水、等張食塩水、リンガー液、エチルアルコール、およびリン酸緩衝液などの緩衝剤のほか、ラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなど他の非毒性適合性潤滑剤、着色剤、解除剤、被覆剤、甘味剤、香味剤および香料、防腐剤および抗酸化剤も製剤者の判断に従って組成物に存在しうる。
【0137】
注射製剤は、例えば、細菌保持フィルタによるろ過によって、または滅菌水もしくは他の滅菌注入溶剤中に使用前に溶解または分散されうる滅菌固体組成物の形で滅菌剤を組込むことによって滅菌されうる。
【0138】
直腸または膣投与のための組成物は、好ましくは、周囲温度では固体であるが、体温では液体であり、したがって、直腸または膣腔で融解し、微粒子を放出するカカオバター、ポリエチレングリコール、または坐剤用ワックスなど適切な非刺激性賦形剤または担体と発現構築物を混合することによって調製されうる坐剤である。
【0139】
経口投与のための固体剤形としては、カプセル、錠剤、丸剤、粉末および顆粒が挙げられる。かかる固体剤形においては、発現構築物は、少なくとも1つの不活性の薬剤として許容される賦形剤または担体、例えばクエン酸ナトリウムまたは第二リン酸カルシウム、および/または、a)充填剤または増量剤、例えば、でんぷん、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトール、およびケイ酸、b)結合剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、ショ糖、およびアカシア、c)湿潤剤、例えばグリセロール、d)崩壊剤、例えば、寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカでんぷん、アルギン酸、特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウム、e)パラフィンなどの溶液緩和剤、f)第四級アンモニウム化合物など吸収促進剤、g)湿潤剤、例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロール、h)吸収剤、例えばカオリンおよびベントナイト粘土、およびi)潤滑剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、およびその混合物と混合される。カプセル、錠剤、および丸剤の場合は、剤形が緩衝剤も含んで成りうる。
【0140】
本発明による医薬組成物の局所または経皮投与の剤形としては、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉末、溶液、スプレー、吸入剤、またはパッチが挙げられる。発現構築物は、滅菌条件下、薬剤として許容される担体および必要な防腐剤または緩衝剤と必要に応じて混合される。眼科用製剤、点耳剤、および点眼剤も本発明の範囲内であると考えられる。
【0141】
経皮パッチは、化合物の体内への制御された送達を提供する追加の利点を有する。かかる剤形は、適切な溶剤で発現構築物を溶解または分散することによって行われうる。吸収促進剤を使用し、皮膚上の化合物の流束を増大させることもできる。速度は、速度制御膜を提供し、または発現構築物をポリマーマトリクスまたはゲルに分散させることによって制御されうる。
【0142】
発現構築物の投与の好ましい方法
本発明のDNAおよび/またはRNA構築物は、トランスフェクション促進剤なしに医薬ビークルで調製された「裸の」DNA、RNA、またはDNA/RNAとして宿主細胞/組織/生物に投与される。より有効な送達は、例えば、RNAおよび/またはDNA送達の当業者に周知の、かかるポリヌクレオチドトランスフェクション促進剤を使用することにより、DNAおよびRNA送達の当業者に周知にように達成されうる。以下は例示として薬剤である:ブピバカイン、陽イオン性脂質、リポソーム、または脂質粒子など局所麻酔薬を含む陽イオン性両親媒性分子、ポリリシンなどポリカチオン、デンドリマーなど分岐三次元ポリカチオン、糖質、洗剤、またはベンジルコニウム塩化物などベンジルアンモニウム界面活性剤を含む界面活性剤。本発明において有用なかかる促進剤または共存する剤の非排他的例は、その開示が参照によって本明細書で援用される、米国特許第5,593,972号明細書、同第5,703,055号明細書、同第5,739,118号明細書、同第5,837,533号明細書、同第5,962,482号明細書、同第6,127,170号明細書、および同第6,379,965号明細書のほか、2003年5月6日出願の国際特許出願第PCT/US03/14288号明細書(multifunctional molecular complexes and oil/water cationic amphiphile emulsion)、およびPCT/US98/22841号明細書に記載されている。米国特許第5,824,538号明細書、同第5,643,771号明細書、および同第5,877,159号明細書(参照によって本明細書で援用される)は、ポリヌクレオチド組成物以外の組成物、例えば、本発明の発現構築物を含有するトランスフェクトドナー細胞または細菌の送達を開示している。
【0143】
一部の実施形態においては、本発明の発現構築物は、米国特許第4,897,355号明細書(Eppsteinら、1987年10月29日出願)、同第5,264,618号明細書(Felgnerら、1991年4月16日出願)、または米国特許第5,459,127号明細書(Felgnerら、1993年9月16日出願)において開示されている組成物など、1つもしくはそれ以上の陽イオン性資質または陽イオン性両親媒性分子と複合される。他の実施形態においては、発現構築物は、陽イオン性脂質を含み、かつ場合により、中性脂肪など別の成分を含むリポソーム/リポソーム組成物と複合される(例えば、米国特許第5,279,833号明細書(Rose)、同第5,283,185号明細書(Epand)、および同第5,932,241号明細書(Gorman)を参照)。他の実施形態においては、発現構築物は、米国特許第5,837,533号明細書、同第6,127,170号明細書、および同第6,379,965号明細書(Boutin)の多機能分子複合体と、または、好ましくは、その開示が参照によって本明細書で援用される、2002年5月6日出願の米国仮出願第60/378,191号明細書、および2003年5月6日出願のPCT/US03/14288号明細書(Satishchandran)の多機能分子複合体または油/水陽イオン性両親媒性エマルジョンと複合される。後者の出願は、核酸を含む組成物、コレステロールまたは脂肪酸を含むエンドソーム溶解スペルミン、および細胞表面分子のためのリガンドを含む標的スペルミンを開示している。組成物の正負電荷比は、包括的に、0.5〜1.5であり、エンドソーム溶解スペルミンは組成物中に少なくとも20%のスペルミン含有分子を構成し、標的スペルミンは組成物中に少なくとも10%のスペルミン含有分子を構成する。好ましくは、正負電荷比は、包括的に、0.8〜0.9など、包括的に、0.8〜1.2である。標的スペルミンは、組成物を目的とする特定の細胞または組織に局在するように設計されている。エンドソーム溶解スペルミンは、エンドサイトーシス中の組成物を封入するエンドソーム小胞を崩壊させ、エンドソーム小胞からおよび細胞の細胞質または核への核酸の放出を促進する。
【0144】
さらに他の実施形態においては、発現構築物は、薬剤学および分子生物学の当業者によって発明されている他の組成物と複合される。一部の実施形態においては、構築物またはベクターが陽イオン性脂質と複合体化されない。
【0145】
細胞のトランスフォーメーション/トランスフェクションは、リポフェクション、DEAE−デキストラン介在トランスフェクション、マイクロインジェクション、原形質融合、リン酸カルシウム沈殿、ウイルスまたはレトロウイルス送達、エレクトロポレーション、または遺伝子銃トランスフォーメーションを含むが、これらに限定されないさまざまな手段により起こりうる。発現構築物(DNA)は、裸のDNAまたは局所麻酔複合DNAでありうる(Pachukら、Biochim.Biophys.Acta 1468:20−30頁(2000年))。好ましくは、真核細胞は、例えば、脊椎動物(例えば、哺乳類)は、インビボであり、または少数の継代のみ(例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションから直接得られている30継代未満の細胞系)培養されている細胞であり、または一次細胞である。
【0146】
好ましい細胞
本発明のいずれかの態様のさらに別の実施形態においては、細胞は真核植物細胞または動物細胞である。好ましくは、動物細胞は、無脊椎動物または脊椎動物細胞(例えば、哺乳類細胞、例えば、ヒト細胞)である。細胞はエクソビボまたはインビボでありうる。細胞は配偶子または体細胞、例えば、癌細胞、幹細胞、免疫系の細胞、神経細胞、筋細胞、または含脂肪細胞である。一部の実施形態においては、ダイサー(Dicer)またはアルゴナウト(Argonaut)など遺伝子サイレンシングに関与する1つもしくはそれ以上のタンパク質が細胞または動物において過剰発現または活性化し、遺伝子発現の阻害量を増大させる。
【0147】
哺乳類の複製開始点の包含
複製開始点は、DNAプラスミドが核局在化と同時に複製され、したがって発現を強化することを可能にする。その利点は、より多くのプラスミドが核転写のために利用可能であり、したがって、より多くのエフェクター分子が作られることである(例えば、より多くのアンチセンス、mRNA、dsRNAヘアピンおよび/またはより多くのdsRNA二本鎖)。多くの起源が種特異的であり、哺乳類のすべての種ではなく、一部の種で機能している。例えば、複製のSV40T起源(例えば、クローンテック(Clonetech)からのプラスミドpDsRed1−Mito由来、米国特許第5,624,820号明細書)は、マウスで機能的であるが、ヒトでは機能的ではない。したがって、この起源は、マウスにおいて使用されるか、試験されるベクターのために使用されうる。エプスタイン・バー核抗原(EBNA)起源などヒト用に使用されうる他の起源(例えば、キアゲン(Qiagen)からのプラスミドpSES.TkおよびpSES.B)。これらのエレメントを含有するDNAベクターは市販されており、起源をコード化するDNA部分は、起源を含有する制限断片を分離し、または起源をPCR増幅することによって標準の方法を用いて獲得されうる。これらのベクターの制限マップおよび配列は、公的に入手可能であり、当業者はこれらの配列を増幅させ、または適切な制限断片を単離することが可能である。これらのベクターは、SV40TAgおよびEBNAなど適切なアクセサリー因子を発現する細胞の核において複製する。これらの因子の発現は、複製の対応する起源を含有する市販のベクターの一部(例えば、キアゲン(Qiagen)からのpSES.TkおよびpSES.B)もSV40TagまたはEBNAのいずれかを発現するため、容易に達成される。複製開始点を含有するこれらのDNA分子は、当業者によって目的とするベクター(例えば、ヘアピンまたは二本鎖などdsRNAを発現するベクター)へ容易にクローン化されうる。次いで、これらのベクターが同時トランスフェクトされ、注入され、または、それぞれ、複製のEBNAまたはTag起源を有するプラスミドの複製を可能にするEBNAまたはTagを発現するベクターとともに投与される。あるいは、EBNAまたはTagをコード化する遺伝子は、標準の方法を使用して目的とする細胞、動物、または生物における機能するように設計された他の発現ベクターへクローン化される。EBNAまたはTagをコード化する遺伝子は、複製開始点を有する同じベクターもクローン化されうる。複製の適切な起源はEBNAまたはTagに限定されず、例えば、モントリオールのレプリコル(Replicor)は、複製を伴うDNA配列を可能にする36個の塩基対の哺乳類起源コンセンサス配列を同定した(1999年8月16日付BioWorld Today、第10巻、157号で論評)。この配列は、複製を可能にする補助配列の共発現を必要としない。
【0148】
本発明の範囲には、本発明の発現構築物を含有する組成物を含んで成るキットも含まれるが、ここでかかるキットは、場合により、発現構築物の安定性、送達、使いやすさ、または有効性を補助する溶媒、溶液、および他の組成物を含んで成る。
【実施例】
【0149】
本発明はさらに以下の実施例において説明される。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すと同時に、例示のみを目的として示されている。上記の検討およびこれらの実施例から当業者は本発明の好ましい特徴を理解し、かつその精神および範囲を逸脱することなく、本発明のさまざまな変更および改造を行って、さまざまな使用および条件に適合させることができる。
【0150】
実施例1
各々が個別のシストロン内に位置している2つの異なるHBV由来ヘアピンdsRNAの2つのコピーをコード化するプラスミド多コンパートメント真核生物発現系
2つの異なるHBV特異的ヘアピンRNA(「ループ」配列によって分離される逆センスおよびアンチセンス配列を含んで成ることによって二本鎖構造をとることが可能なRNA鎖)の各々の2つのコピーをコード化するプラスミドが構成されている。かかる配列Aおよび配列Bの各々は、真核細胞の異なる細胞内コンパートメントにおいて各々転写活性である2つの別個の異なったプロモーター、すなわち、バクテリオファージT7プロモーター(T7p)(細胞質においてT7RNAポリメラーゼによって転写を促進する)およびヒトU6プロモーター(核小体において転写活性であるRNA pol IIIプロモーター)の制御下にある。転写ユニット(シストロン)は、4つのシストロンのすべてについて各シストロンの別個の位置が存在するように配置されている(図7)。T7プロモーターは、市販のベクターで供給される異なる種類の1つでありうるが、本実施例および以下の実施例に記載されたものは以下のとおりである(5’〜3’):5’TAATACGACTCACTATAGGG3’(配列番号1)。ここで留意すべきは、T7プロモーターの定義が、+1および+2および+3部位に位置した1つ、2つ、または3つのG残基(イタリック体で示される)を含み、有効な転写開始を確実にする。これらのGは、T7プロモーターの「コア」ヌクレオチドに対する+1、または+1および+2、または+1、+2、および+3の位置にあるようにプロモーターの3’末端に直接位置している。T7ターミネーター(T7t)(Lyakhovら[1])は、図7に示されているように各T7シストロンの末端に含まれうる。
【0151】
ベクターの説明:
第1のヘアピン(配列A)は、GenBank登録番号V01460およびJ02203の配位2905−2929に位置する(すなわち、ヘアピンはTTCAAAAGAのループ構造によって分離されるこの配列のセンスおよびアンチセンス種類を含有する)。U6ベースのベクター系の説明はLeeら[2]で見られる。第2のベクターコード化ヘアピン(配列B)は、GenBank登録番号V01460およびJ02203の配位1215−1239に位置する。第1のヘアピンと同様、これはTTCAAAAGAのループ構造によって分離されるこの配列のセンスおよびアンチセンス種類をコード化する。このベクターは、以下に記載されるHBVレプリコンモデルで評価される。クローニングは標準の方法を使用して実行され、または必要に応じて、方向性ライゲーションクローニング、CRCが使用される[3](参照によって本明細書で援用される、米国特許第6,143,527号明細書「Chain reaction cloning using a bridging oligonucleotide and DNA ligase」、Pachukらの開示を参照)。この実験のために、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミドは、T7RNAポリメラーゼ源を供給するために実験的プラスミドと共トランスフェクされる。このベクターは本実施例の最後近くに記載されている。
【0152】
HBVレプリコンモデル:複製適格細胞培養モデルにおけるサイレンシングHBV複製および発現
細胞培養モデルの簡単な説明:
Huh7細胞系などヒト肝由来細胞系が、ウイルスRNAのすべてを転写し、感染性ウイルスを産生することが可能である末端が重複するウイルスゲノムから成るHBVの感染性分子クローンとトランスフェクトされる[4−6]。これらの試験で使用されるレプリコンは、GenBank登録番号V01460およびJ02203に存在するウイルス配列由来である。肝細胞への内在化および核局在化の後、一部のウイルスプロモーターからの感染性HBVプラスミドの転写は、HBV複製を反映させる一連の事象を開始することが証明されている。これらの事象としては、転写ウイルスmRNAの翻訳、転写プレゲノムRNAのコア粒子へのパッケージング、プレゲノムRNAの逆転写、およびビリオンとHBsAg(B型肝炎表面抗原)粒子のトランスフェクト細胞の培地への集合と分泌が挙げられる。このトランスフェクションモデルは、感染肝細胞内のHBV複製の大部分の態様を再現し、したがって、HBV発現および複製のサイレンシングを観察するには優れた細胞培養モデルである。
【0153】
本モデルでは、細胞が評価されるHBVの感染性分子クローンおよびエフェクターRNA構築物と同時トランスフェクトされる。次いで、細胞がHBV発現および複製の喪失について下記のとおりモニタリングされる。
【0154】
実験手順:トランスフェクション
トランスフェクションの時点で80−90%密集度となるように、Huh7細胞を6ウェルプレートへ接種する。すべてのトランスフェクションは、リポフェクタミン(商標)ポリカチオン性脂質/中性脂肪リポソーム製剤(インビトロジェン(Invitrogen))をメーカーの指示に従って使用して行われる。本実験では、感染性HBVプラスミド50ng、T7 RNAポリメラーゼ発現プラスミド1μg(以下にプラスミドの説明)、および図7に示された実施例1の実験プラスミド1.5μgで細胞をトランスフェクトする。対照細胞は、HBVプラスミド50ngおよびT7 RNAポリメラーゼ発現プラスミド1μgでトランスフェクトする。不活性フィラーDNA、pGL3−ベーシック(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))をすべてのトランスフェクションに添加し、全DNA/トランスフェクションを2.5μg DNAまでにする。
【0155】
HBV発現の喪失についての細胞のモニタリング
トランスフェクション後、HBsAg分泌およびDNA含有ウイルス粒子分泌を測定することによってHBV発現および複製の喪失または削減について細胞をモニタリングする。dsRNA投与後2日で開始し、その後3週間一日おきにトランスフェクト細胞の培地を評価することによって細胞をモニタリングする。アボットラボラトリーズ(Abbott Labs)(Abbott Park、イリノイ州(IL))から市販のAuszyme ELISAを使用し、HBV表面Ag(sAg)を検出する。sAgを測定するのは、表面Agがウイルス複製だけではなく、トランスフェクト感染性HBVクローンにおける表面AgシストロンのRNAポリメラーゼII開始転写とも関係があるためである。表面Ag合成はHBV複製の非存在下に持続しうるため、かつ慢性HBV感染における表面抗原の持続産生が肝細胞癌の発症と関係があるため、ウイルス複製だけではなくsAgの複製依存合成もダウンレギュレートすることが重要である。カプシドで包まれたHBVゲノムDNAを含有するビリオン粒子の分布も測定される。カプシドで包まれたDNAを含有するビリオン粒子の喪失は、HBV複製の喪失を示す。
【0156】
ビリオン分泌の分析は、裸の未熟コア粒子とエンベロープを持った感染性HBVビリオンを区別する方法を含む[7]。手短に言えば、培養細胞の培地からのペレットウイルス粒子をプロテイナーゼK消化にさらし、コアタンパク質を分解させる。プロテイナーゼKの不活性化後、サンプルをRQ1DNase(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))でインキュベートし、コア粒子から遊離されたDNAを分解する。SDSの存在下にプロテイナーゼKでサンプルを再び消化し、DNaseを不活性化するとともに、感染性のエンベロープを持ったビリオン粒子を崩壊、分解させる。次いで、フェノール/クロロホルム抽出によってDNAを精製し、エタノール沈殿させる。HBV特異的DNAをゲル電気泳動後のサザンブロット分析によって検出する。
【0157】
予測結果は、HBVプラスミドT7RNAポリメラーゼ発現プラスミドおよびフィラーDNAのみでトランスフェクトされた細胞に対して、HBVプラスミド、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミド、および実験的プラスミドでトランスフェクトされた細胞の培地におけるsAgおよびウイルス粒子分泌における70−95%の減少を示す。
【0158】
実験で使用されたベクター
T7RNAポリメラーゼ遺伝子の配列:
配列番号2は、pCEP4(インビトロジェン(Invitrogen)、Carlsbad、カリフォルニア州(CA))など哺乳類発現ベクターへクローン化されるT7RNAポリメラーゼ遺伝子の配列である。クローニングは当業者によって容易になされうる。当業者は、Kozak配列を有するリーダー配列がT7RNAポリメラーゼ遺伝子から直接上流でクローン化される必要があることも認識するであろう。
【0159】
実施例2
隣接したプロモーター配列におけるHBV由来ヘアピンRNAをコード化するベクター
2つの別個の異なるコンパートメントプロモーター、すなわち、バクテリオファージT7プロモーター(T7RNAポリメラーゼも供給される場合に細胞質)およびヒトU6プロモーター(RNA pol III、核小体)の制御下に、HBV特異的ヘアピンRNA(実施例1からの配列A)をコード化するプラスミドが構成されている。配列はT7プロモーターによって1つの方向で転写され、U6プロモーターによって逆方向で転写される。T7ターミネーターは、T7プロモーターに対して配列Aの3’末端でクローン化され、U6ターミネーターは、U6ターミネーターに対して配列Aの3’末端でクローン化される。T7転写産物は、5’から3’まで、すなわち、U6ターミネーターに対する逆相補鎖および配列Aヘアピン(例えば、センス−ループ−アンチセンス)を含有する。U6転写産物は5’から3’まで、すなわち、T7ターミネーターに対する逆相補鎖、および配列Aヘアピン(例えば、アンチセンス−ループ−センス)を含有する。T7転写産物内にコード化されたHBVヘアピン配列はU6転写産物によってコード化されるものの逆相補鎖であるが、両方の転写産物は二本鎖構造で同じセンスおよびアンチセンスHBV配列を含有し、したがって、HBV特異的サイレンシングに対して機能的に同等であることが予想される。
【0160】
ベクターの説明:
ヘアピン(配列A)は、GenBank登録番号V01460およびJ02203の配位2905−2929に位置する(すなわち、ヘアピンはTTCAAAAGAのループ構造によって分離されるこの配列のセンスおよびアンチセンス種類を含有する)。クローニングは、標準の方法を使用して実行され、または必要に応じて、方向性ライゲーションクローニング、CRCが使用される[3](参照によって本明細書で援用される、米国特許第6,143,527号明細書「Chain reaction cloning using a bridging oligonucleotide and DNA ligase」、Pachukらの開示を参照)。ベクターはHBVレプリコンモデルにおいて評価される。この実験のために、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミドは(上記の実施例1に示されているように)、T7RNAポリメラーゼ源を供給するために実験的プラスミドと同時トランスフェクトされる。
【0161】
HBVレプリコンモデル:複製適格細胞培養モデルにおけるサイレンシングHBV複製および発現
細胞培養モデルの簡単な説明:
Huh7細胞系などヒト肝由来細胞系が、ウイルスRNAのすべてを転写し、感染性ウイルスを産生することが可能である末端が重複するウイルスゲノムから成るHBVの感染性分子クローンとトランスフェクトされる[4−6]。これらの試験で使用されるレプリコンは、GenBank登録番号V01460およびJ02203に存在するウイルス配列由来である。肝細胞への内在化および核局在化の後、一部のウイルスプロモーターからの感染性HBVプラスミドの転写は、HBV複製を反映させる一連の事象を開始することが証明されている。これらの事象としては、転写ウイルスmRNAの翻訳、転写プレゲノムRNAのコア粒子へのパッケージング、プレゲノムRNAの逆転写、およびビリオンとHBsAg粒子のトランスフェクト細胞の培地への集合と分泌が挙げられる。このトランスフェクションモデルは、感染肝細胞内のHBV複製の大部分の態様を再現し、したがって、HBV発現および複製のサイレンシングを観察するには優れた細胞培養モデルである。
【0162】
本モデルでは、細胞が評価されるHBVの感染性分子クローンおよびエフェクターRNA構築物と同時トランスフェクトされる。次いで、細胞がHBV発現および複製の喪失について下記のとおりモニタリングされる。
【0163】
実験手順:トランスフェクション
トランスフェクションの時点で80−90%密集度となるように、Huh7細胞を6ウェルプレートへ接種する。すべてのトランスフェクションは、リポフェクタミン(商標)(インビトロジェン(Invitrogen))をメーカーの指示に従って使用して行われる。本実験では、感染性HBVプラスミド50ng、T7 RNAポリメラーゼ発現プラスミド1μg(以下にプラスミドの説明)、および図8に示された実験プラスミド1.5μgで細胞をトランスフェクトする。対照細胞は、HBVプラスミド50ngおよびT7 RNAポリメラーゼ発現プラスミド1μgでトランスフェクトする。不活性フィラーDNA、pGL3−ベーシック(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))をすべてのトランスフェクションに添加し、全DNA/トランスフェクションを2.5μg DNAまでにする。
【0164】
HBV発現の喪失についての細胞のモニタリング
トランスフェクション後、HBsAg分泌およびDNA含有ウイルス粒子分泌を測定することによってHBV発現および複製の喪失または削減について細胞をモニタリングする。dsRNA投与後2日で開始し、その後3週間一日おきにトランスフェクト細胞の培地を評価することによって細胞をモニタリングする。アボットラボラトリーズ(Abbott Labs)(Abbott Park、イリノイ州(IL))から市販のAuszyme ELISAを使用し、表面Ag(sAg)を検出する。sAgを測定するのは、表面Agがウイルス複製だけではなく、トランスフェクト感染性HBVクローンにおける表面AgシストロンのRNAポリメラーゼII開始転写とも関係があるためである。表面Ag合成はHBV複製の非存在下に持続しうるため、ウイルス複製だけではなくsAgの複製依存合成もダウンレギュレートすることが重要である。カプシドで包まれたHBVゲノムDNAを含有するビリオン粒子の分布も測定される。カプシドで包まれたDNAを含有するビリオン粒子の喪失は、HBV複製の喪失を示す。
【0165】
ビリオン分泌の分析は、裸の未熟コア粒子とエンベロープを持った感染性HBVビリオンを区別する方法を含む[7]。手短に言えば、培養細胞の培地からのペレットウイルス粒子をプロテイナーゼK消化にさらし、コアタンパク質を分解させる。プロテイナーゼKの不活性化後、サンプルをRQ1DNase(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))でインキュベートし、コア粒子から遊離されたDNAを分解する。SDSの存在下にプロテイナーゼKでサンプルを再び消化し、DNaseを不活性化するとともに、感染性のエンベロープを持ったビリオン粒子を崩壊、分解させる。次いで、フェノール/クロロホルム抽出によってDNAを精製し、エタノール沈殿させる。HBV特異的DNAをゲル電気泳動後のサザンブロット分析によって検出する。
【0166】
予測結果は、HBVプラスミドT7RNAポリメラーゼ発現プラスミドおよびフィラーDNAのみでトランスフェクトされた細胞に対して、HBVプラスミド、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミド、および実験的プラスミドでトランスフェクトされた細胞の培地におけるsAgおよびウイルス粒子分泌における70−90%の減少を示す。本発明の多コンパートメント真核生物発現系は、単一T7シストロンまたは単一UP6シストロンのいずれからの配列Aを発現する制御プラスミドに対して、HBVのより大きな阻害をもたらすことも予想される。
【0167】
実施例3
2つのHBVヘアピンRNAをコード化する多コンパートメント真核生物発現ベクターはインビボで有効性を示す
以下に記載される実験では、実施例1に記載され、図7に示されており、2つのHBVヘアピンRNA分子をコード化し、各々がサブコンパートメントの異なったプロモーター、および実施例1のT7RNAポリメラーゼ発現プラスミドを有する2つの異なるシストロン由来である、多コンパートメント真核生物発現ベクターとともに複製成分HBVaywプラスミドを同時送達する方法として流体力学的送達が利用される。流体力学的送達は、肝への核酸の有効な送達がもたらされるため、本実験に理想的である[8]。同じ製剤へのdsRNAエフェクタープラスミドと複製適格HBVプラスミドの組合せは、すべてのプラスミドが同じ細胞によって取込まれる可能性を増大させる。発現エフェクターdsRNAは、複製HBVプラスミドを有する大部分の細胞に存在するため、観察結果は、送達有効性の違いではなくエフェクタープラスミドの性能に起因しうる。本実験は、特定の構築物が感染肝において有効であることのみを示す。製剤および送達が本実施例によって扱われない。eiRNAベクター(発現干渉dsRNA)の製剤、投与、および送達情報は、本明細書のほかの場所、およびトランスジェニックマウスが使用されているインビボ実施例4に記載されているとおりである。
【0168】
実験手順(インビボ):
ウイルスRNAのすべてを転写し、感染性ウイルスを産生することが可能である末端が重複するウイルスゲノムから成るHBV(ayw亜型)の感染性分子クローンとともに対照B10.D2マウスを流体力学的に注入する[4−6]。肝細胞への内在化および核局在化の後、一部のウイルスプロモーターからのHBVaywプラスミドの転写は、HBV複製を反映させる一連の事象を開始することが証明されている[4]。これらの事象としては、転写ウイルスmRNAの翻訳、転写プレゲノムRNAのコア粒子へのパッケージング、プレゲノムRNAの逆転写、およびビリオンとHBsAg粒子の注入動物の血清への集合と分泌が挙げられる。動物に対し、4つの用量のHBVレプリコンプラスミド(1μg、3μg、5μg、および10μg)を注入する。これらの用量は、それらが流体力学的送達後にレポータープラスミドの検出可能な発現を誘発することが可能である非飽和用量を示すため選択される。動物に対し、7−16μg用量の多コンパートメントdsRNA発現ベクター(eiRNA)(図7)および3μg T7RNAポリメラーゼ発現プラスミドを同時注入し、各群の動物が20μgの総DNA量を投与するようにする。例えば、HBVレプリコン用量3μg+T7RNAポリメラーゼ発現プラスミド3μgが投与されるマウスでは、eiRNAベクター14μgが合計20μgの注入DNAのために注入される。したがって、このeiRNAベクター用量の量は、使用されるHBVプラスミドの用量に依存する。対照動物には、HBVレプリコンおよびT7 RNAポリメラーゼ発現プラスミドが注入されるが、eiRNAベクターは注入されない。対照マウスには、その代わりに不活性フィラーDNA、pGL3ベーシック(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))がいっしょに注入され、製剤でのDNAの総量が20μgで維持されるようにする。
【0169】
肝サンプルを注入後1日目に注入動物から採取し、HBV RNAの存在について分析する。この時点は、流体力学的送達後のマウスにおけるHBVaywプラスミド複製の動態を詳述し、ピークRNA発現が流体力学的送達後1日目の肝において生じることを明らかにするChisari博士の研究室からの公表結果に基づき選択されている[4]。肝サンプルにおけるHBV RNAの存在は、ノーザンブロット分析によって確認されている。肝組織は、HBV RNA発現のダウンレギュレーションについて評価される。また、HBsAgおよびDNA含有ウイルス粒子の測定のために4日目のマウスから血清を収集する。アッセイは細胞培養レプリコン実験(実施例1)について記載され、かつYangらにおけるように実行される[4]。各ベクターおよび対照群は2セットの動物で構成され、各セットは収集時点に対応する。各セットの動物は5匹である。
【0170】
予測結果:
HBVレプリコンおよびeiRNA構築物が注入されるマウスは、HBV特異的RNA、およびHBsAgおよびHBVウイルス粒子を対照動物と比べて減少させた。個々の動物においては、減少範囲は約70%〜ほぼ100%である。
【0171】
実施例4
トランスジェニックマウス試験:背景
Chisari博士の研究室で開発されたHBVトランスジェニックマウスモデルを使用する[9−10]。これらのマウスは大量のHBV DNAを複製し、ヒト用に有効であることの予測因子である抗ウイルススクリーンとしての有用性を明らかにした[11]。これらの動物は、抗原のHBVインテグラント介在発現のモデルであり、したがって、ウイルス複製だけではなく、抗原のRT依存発現のためのモデルとして使用されうるという点でも理想的である。これはわれわれがウイルス複製だけではなくエレメント介在抗原発現のターゲティングにも興味があるため重要である。これらの実験は、エフェクタープラスミドが臨床的に適切な核酸送達法を使用して動物に投与されるという点で流体力学的送達実験と異なる。このモデルにおける有効性は、マウス肝細胞へのエフェクタープラスミドの有効な送達を示す。
【0172】
実験
文献[9]に記載されたマウスに対し、流体力学的送達実施例(実施例3)に記載されたベクターを含有する製剤を静脈内(IV)注射する。
【0173】
注入されるDNAの調製
2002年5月6日出願の米国仮出願60/378,191号明細書、および2003年5月6日出願のPCT/US03/14288明細書(Satishchandran)に示されているように、トリラクトシルスペルミンおよびコレステリルスペルミンでDNAを調製する。手短に言えば、すべて1.2の電荷比(正負電荷)を使用して3つの製剤を作る。しかし、包括的に0.8〜1.2の電荷比を有する製剤はすべて有効性を示すことが予想される。引用特許出願は、核酸と、コレステロールまたは脂肪酸を含むエンドソーム溶解スペルミンと、細胞表面分子用のリガンドを含む標的スペルミンとを含む組成物を開示している。組成物の正負電荷比は、包括的に0.5〜1.5であり、エンドソーム溶解スペルミンは組成物中のスペルミン含有分子の少なくとも20%を構成する。標的スペルミンは組成物中のスペルミン含有分子の少なくとも10%を構成する。好ましくは、正負電荷比は、包括的に0.8〜0.9など、包括的に0.8〜1.2である。標的スペルミンは、目的とする特定の細胞または組織に組成物を局在するように設計されている。エンドソーム溶解スペルミンは、エンドサイトーシス中の組成物を封入するエンドソーム小胞を崩壊させ、エンドソーム小胞からおよび細胞の細胞質または核への核酸の放出を促進する。
【0174】
各プラスミドのためのDNA開始原液は4mg/mlの濃度を有する。2つのプラスミド原液を同等量で混合し、各プラスミドが2mg/mlになるようにする。このプラスミド混合液を最終調製用に使用する。製剤は、2002年5月6日出願の米国仮出願60/378,191号明細書、および2003年5月6日出願のPCT/US03/14288明細書(Satishchandran)に示されているとおりである。製剤A)35%トリラクトシルスペルミン、65%コレステリルスペルミン、製剤B)50%トリラクトシルスペルミン、50%コレステリルスペルミン、および製剤C)80%トリラクトシルスペルミン、20%コレステリルスペルミン。ここで、すべての結果として生じる製剤は各々1mg/mlでプラスミドを含有する。
【0175】
マウスに対し、100μl調製DNAをIV注入する。第1群のマウスには製剤Aを投与し、第2群には製剤Bを投与し、第3群には製剤Cを投与する。3群の対照マウスに対し、同様に対照DNA、pGL3ベーシック(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))を含有する同じ製剤、製剤D、E、およびFを注入する。注入は、4日間連続で1日1回行う。1−3日間のみの注入は有効であるが、しかし、4日注入プロトコールでより強い効果が予想される。
【0176】
投与後、HBV RNAおよびウイルス粒子を含有するHBsAgおよびDNAの血清レベルを第1の注入後5日および9日に定量する。すべての分析は、流体力学的送達試験用に記載されている。
【0177】
予想結果:
HBV特異的RNAレベル、HBsAg、およびDNA粒子を含有するウイルスは、対照に対して製剤A、B、およびC群で減少する。
【0178】
実施例5
二重プロモーターの制御下に単一のHBV由来アンチセンスRNAをコード化するベクター
2つの異なるプロモーターの制御下に、単一のHBV特異的アンチセンスRNAをコード化する多コンパートメント真核生物プラスミド発現ベクターが構成されている。アンチセンスRNAの転写を誘導するプロモーターは、T7プロモーター(実施例1に記載)およびMCMV最初期プロモーター(GenBank登録番号L06570)である。転写ユニット(シストロン)は、2つの別個の位置に配置された2つのシストロンが存在するように配置されている(図9)。
【0179】
ベクターの説明:
HBV特異的RNA(配列A)は、マップをGenBank登録番号V01460およびJ02203の2600−2990に調整する。配列は、図9に示されているようにプラスミドの2つの遺伝子座に位置するようにプラスミドベクターへクローン化される。配列は、アンチセンスRNA(HBV mRNAに対して)鎖のみが転写されるようにして誘導プロモーターに対して配置される。一方の配列はT7プロモーター(T7RNAポリメラーゼが存在し、または提供される場合細胞質プロモーター)の転写制御下にあり、他方の配列はMCMV IEプロモーター(核、非核小体、RNA pol IIプロモーター)の転写制御下にある。T7ターミネーターは図9に示されているようにT7シストロンの末端に位置しており、ウシ成長ホルモン(BGH)ポリA部位がMCMVシストロンの末端に位置している。BGHポリA部位は、インビトロジェン(Invitorogen)(Carlsbad,カリフォルニア州(CA))からのpVAX1など多くの市販のベクターで利用可能であり、例えば、PCR増幅によって容易に生成され、かつ当業者によって容易に実行されうる。ポリA部位が本実施例に含まれ、有効な細胞質輸送を可能にしたが、1つもしくはそれ以上も連続的輸送エレメント、すなわちCTEによって置換され[12]、または削除されうる。(必要に応じて、1つもしくはそれ以上の連続的輸送エレメント(CTE)配列を添加し、RNA pol IIによって核で作られる異なるエフェクターRNA分子(例えば、mRNA、ヘアピン、または二本鎖dsRNA)の細胞質輸送を可能にする。CTEを、イントロンおよび/またはポリA配列の代わりに、かつ/またはそれに加えて使用し、輸送を促進することができる。CTEのための好ましい位置がRNA分子の3’末端近くにある。必要に応じて、多重CTE配列(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、もしくはそれ以上の配列を使用することができる)。好ましいCTEが、参照によって本明細書で援用される、米国特許第5,880,276号明細書および同第5,585,263号明細書で開示されているMason−Pfizerサルウイルス由来である。)このベクターは、HBVレプリコンモデルにおいて評価される。クローニングは、標準の方法を使用して実行され、または必要に応じて、方向性ライゲーションクローニング、CRCが使用される[3](参照によって本明細書で援用される、米国特許第6,143,527号明細書「Chain reaction cloning using a bridging oligonucleotide and DNA ligase」、Pachukらの開示を参照)。
【0180】
これらのベクターは、実施例1に示されているように、HBVレプリコンモデルにおいて評価される。この実験のために、上記のT7RNAポリメラーゼ発現プラスミドが、T7RNAポリメラーゼ源を提供するために実験的プラスミドと同時トランスフェクトされる。
【0181】
HBVレプリコンモデル:複製適格細胞培養モデルにおけるサイレンシングHBV複製および発現
細胞培養モデルの簡単な説明:
Huh7細胞系などヒト肝由来細胞系が、ウイルスRNAのすべてを転写し、感染性ウイルスを産生することが可能である末端が重複するウイルスゲノムから成るHBVの感染性分子クローンとトランスフェクトされる[4−6]。これらの試験で使用されるレプリコンは、GenBank登録番号V01460およびJ02203に存在するウイルス配列由来である。肝細胞への内在化および核局在化の後、一部のウイルスプロモーターからの感染性HBVプラスミドの転写は、HBV複製を反映させる一連の事象を開始することが証明されている。これらの事象としては、転写ウイルスmRNAの翻訳、転写プレゲノムRNAのコア粒子へのパッケージング、プレゲノムRNAの逆転写、およびビリオンとHBsAg粒子のトランスフェクト細胞の培地への集合と分泌が挙げられる。このトランスフェクションモデルは、感染肝細胞内のHBV複製の大部分の態様を再現し、したがって、HBV発現および複製のサイレンシングを観察するには優れた細胞培養モデルである。
【0182】
本モデルでは、細胞が評価されるHBVの感染性分子クローンおよびエフェクターRNA構築物と同時トランスフェクトされる。次いで、細胞がHBV発現および複製の喪失について下記のとおりモニタリングされる。
【0183】
実験手順:
トランスフェクション。トランスフェクションの時点で80−90%密集度となるように、Huh7細胞を6ウェルプレートへ接種する。すべてのトランスフェクションは、リポフェクタミン(商標)(インビトロジェン(Invitrogen))をメーカーの指示に従って使用して行われる。本実験では、感染性HBVプラスミド50ng、T7 RNAポリメラーゼ発現プラスミド1μg(実施例1のプラスミドの説明)、および図9に示された実験プラスミド1.5μgで細胞をトランスフェクトする。対照細胞は、HBVプラスミド50ngおよびT7 RNAポリメラーゼ発現プラスミド1μgでトランスフェクトする。不活性フィラーDNA、pGL3−ベーシック(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))をすべてのトランスフェクションに添加し、全DNA/トランスフェクションを2.5μg DNAまでにする。
【0184】
HBV発現の喪失についての細胞のモニタリング
トランスフェクション後、HBsAg分泌およびDNA含有ウイルス粒子分泌を測定することによってHBV発現および複製の喪失または削減について細胞をモニタリングする。dsRNA投与後2日で開始し、その後3週間一日おきにトランスフェクト細胞の培地を評価することによって細胞をモニタリングする。アボットラボラトリーズ(Abbott Labs)(Abbott Park、イリノイ州(IL))から市販のAuszyme ELISAを使用し、表面Ag(sAg)を検出する。sAgを測定するのは、表面Agがウイルス複製だけではなく、トランスフェクト感染性HBVクローンにおける表面AgシストロンのRNAポリメラーゼII開始転写とも関係があるためである。表面Ag合成はHBV複製の非存在下に持続しうるため、ウイルス複製だけではなくsAgの複製依存合成もダウンレギュレートすることが重要である。カプシドで包まれたHBVゲノムDNAを含有するビリオン粒子の分布も測定される。カプシドで包まれたDNAを含有するビリオン粒子の喪失は、HBV複製の喪失を示す。
【0185】
ビリオン分泌の分析は、裸の未熟コア粒子とエンベロープを持った感染性HBVビリオンを区別する方法を含む[7]。手短に言えば、培養細胞の培地からのペレットウイルス粒子をプロテイナーゼK消化にさらし、コアタンパク質を分解させる。プロテイナーゼKの不活性化後、サンプルをRQ1DNase(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))でインキュベートし、コア粒子から遊離されたDNAを分解する。SDSの存在下にプロテイナーゼKでサンプルを再び消化し、DNaseを不活性化するとともに、感染性のエンベロープを持ったビリオン粒子を崩壊、分解させる。次いで、フェノール/クロロホルム抽出によってDNAを精製し、エタノール沈殿させる。HBV特異的DNAをゲル電気泳動後のサザンブロット分析によって検出する。
【0186】
予想結果は、HBVプラスミドT7RNAポリメラーゼ発現プラスミドおよびフィラーDNAのみでトランスフェクトされた細胞に対して、HBVプラスミド、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミド、および実験的プラスミドでトランスフェクトされた細胞の培地におけるsAgおよびウイルス粒子分泌における減少を示す。
【0187】
実施例6
プロモーターを利用するベクター:T7RNAポリメラーゼの発現をドライブする核プロモーター、ならびにセンスおよびアンチセンスRNAの発現をそれぞれドライブする2つのT7プロモーター
HBV特異的RNA配列のセンスおよびアンチセンス鎖をコード化するプラスミド(図10a参照)が構成されている。センスおよびアンチセンスRNAの発現は、2つの別個のシストロンに位置している2つのT7プロモーターの制御下にある。T7RNAポリメラーゼ遺伝子も同じベクター上でRNA pol IIプロモーター、RSVプロモーターの制御下にコード化される。細胞においては、RNA pol IIは核(非核小体)におけるRSVプロモーターからT7RNAポリメラーゼ遺伝子を転写する。次いで、T7RNAポリメラーゼmRNAは細胞質に輸送され、かつ翻訳され、そこで活性であり、かつT7ドライブセンスおよびアンチセンスRNAを細胞質的に局在したプラスミドから転写する。次いで、センスおよびアンチセンスRNAは互いに塩基対を成し、二本鎖dsRNAを形成する。
【0188】
ベクターの説明:
HBV特異的RNA(配列A)は、マップを登録番号V01460およびJ02203の2600−2990に調整する。配列は、図10aに示されているようにプラスミドの2つの遺伝子座に位置するようにプラスミドベクターへクローン化される。配列は、アンチセンスRNA(HBV mRNAに対して)が1つのT7プロモーターによって転写され、センスRNAがその他によって転写されるようにして誘導プロモーターに対して配置される。T7ターミネーターは各T7シストロンの末端に位置している。T7RNAポリメラーゼ発現カセットの配列が図10b(配列番号3)に示されており、RSVプロモーター、5’UTR、T7RNAポリメラーゼコード領域、およびBGHポリアデニル化部位で構成されている。ベクターの図が図10aに示されている。このベクターは、以下に記載されているHBVレプリコンモデルで評価される。クローニングは、標準の方法を使用して実行され、または必要に応じて、方向性ライゲーションクローニング、CRCが使用される[3](参照によって本明細書で援用される、米国特許第6,143,527号明細書「Chain reaction cloning using a bridging oligonucleotide and DNA ligase」、Pachukらの開示を参照)。
【0189】
HBVレプリコンモデル:複製適格細胞培養モデルにおけるサイレンシングHBV複製および発現
細胞培養モデルの簡単な説明:
Huh7細胞系などヒト肝由来細胞系が、ウイルスRNAのすべてを転写し、感染性ウイルスを産生することが可能である末端が重複するウイルスゲノムから成るHBVの感染性分子クローンとトランスフェクトされる[4−6]。これらの試験で使用されるレプリコンは、GenBank登録番号V01460およびJ02203に存在するウイルス配列由来である。肝細胞への内在化および核局在化の後、一部のウイルスプロモーターからの感染性HBVプラスミドの転写は、HBV複製を反映させる一連の事象を開始することが証明されている。これらの事象としては、転写ウイルスmRNAの翻訳、転写プレゲノムRNAのコア粒子へのパッケージング、プレゲノムRNAの逆転写、およびビリオンとHBsAg粒子のトランスフェクト細胞の培地への集合と分泌が挙げられる。このトランスフェクションモデルは、感染肝細胞内のHBV複製の大部分の態様を再現し、したがって、HBV発現および複製のサイレンシングを観察するには優れた細胞培養モデルである。
【0190】
本モデルでは、細胞が評価されるHBVの感染性分子クローンおよびエフェクターRNA構築物と同時トランスフェクトされる。次いで、細胞がHBV発現および複製の喪失について下記のとおりモニタリングされる。
【0191】
実験手順:トランスフェクション
トランスフェクションの時点で80−90%密集度となるように、Huh7細胞を6ウェルプレートへ接種する。すべてのトランスフェクションは、リポフェクタミン(商標)(インビトロジェン(Invitrogen))をメーカーの指示に従って使用して行われる。本実験では、感染性HBVプラスミド50ngおよび図10aに示された実験プラスミド2.5μgで細胞をトランスフェクトする。対照細胞は、HBVプラスミド50ngでトランスフェクトする。不活性フィラーDNA、pGL3−ベーシック(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))をすべてのトランスフェクションに添加し、全DNA/トランスフェクションを2.5μg DNAまでにする。
【0192】
HBV発現の喪失についての細胞のモニタリング
トランスフェクション後、HBsAg分泌およびDNA含有ウイルス粒子分泌を測定することによってHBV発現および複製の喪失または削減について細胞をモニタリングする。dsRNA投与後2日で開始し、その後3週間一日おきにトランスフェクト細胞の培地を評価することによって細胞をモニタリングする。アボットラボラトリーズ(Abbott Labs)(Abbott Park、イリノイ州(IL))から市販のAuszyme ELISAを使用し、表面Ag(sAg)を検出する。sAgを測定するのは、表面Agがウイルス複製だけではなく、トランスフェクト感染性HBVクローンにおける表面AgシストロンのRNAポリメラーゼII開始転写とも関係があるためである。表面Ag合成はHBV複製の非存在下に持続しうるため、ウイルス複製だけではなくsAgの複製依存合成もダウンレギュレートすることが重要である。カプシドで包まれたHBVゲノムDNAを含有するビリオン粒子の分布も測定される。カプシドで包まれたDNAを含有するビリオン粒子の喪失は、HBV複製の喪失を示す。
【0193】
ビリオン分泌の分析は、裸の未熟コア粒子とエンベロープを持った感染性HBVビリオンを区別する方法を含む[7]。手短に言えば、培養細胞の培地からのペレットウイルス粒子をプロテイナーゼK消化にさらし、コアタンパク質を分解させる。プロテイナーゼKの不活性化後、サンプルをRQ1DNase(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))でインキュベートし、コア粒子から遊離されたDNAを分解する。SDSの存在下にプロテイナーゼKでサンプルを再び消化し、DNaseを不活性化するとともに、感染性のエンベロープを持ったビリオン粒子を崩壊、分解させる。次いで、フェノール/クロロホルム抽出によってDNAを精製し、エタノール沈殿させる。HBV特異的DNAをゲル電気泳動後のサザンブロット分析によって検出する。
【0194】
予想結果は、HBVプラスミド、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミド、およびフィラーDNAのみでトランスフェクトされた細胞に対して、HBVプラスミド、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミド、および実験的プラスミドでトランスフェクトされた細胞の培地におけるHBsAgおよびウイルス粒子分泌における減少を示す。
【0195】
実施例7
二重/組込みプロモーター発現系:組込みプロモーター系を利用する多コンパートメント真核生物発現:MCMVプロモーター内に組込まれるT7プロモーター
HBV特異的アンチセンスRNA配列をコード化するプラスミドが構成されている。アンチセンスRNAの発現は、組込みプロモーターの制御下にある(図11)。この発現プラスミドは、実施例1に示されているように、T7RNAポリメラーゼ発現ベクターといっしょに送達される。二重/組込みプロモーターを生成するには、MCMVプロモーター(GenBank登録番号X03922)の3’末端における最後の17個のヌクレオチドが削除され、図11に示されているようにT7プロモーターで置換される。細胞質においては、組込みプロモーターベクターがT7プロモーターからアンチセンスRNAを発現するが、核に局在したベクターは、核において活性であるRNA pol IIプロモーターであるMCMVプロモーターからアンチセンスRNAを発現する。
【0196】
ベクターの説明:
HBV特異的RNA(配列A)は、マップを登録番号V01460およびJ02203の2600−2990に調整する。配列は、アンチセンス鎖がプロモーターに対して転写されるような方向でプラスミドベクターへクローン化される。MCMVプロモーターは、GenBank登録番号X03922を含めて座標1−1123にマッピングする配列を含有する。T7プロモーター(実施例1に記載されているように)は、この配列と直接並列し、GenBank登録番号X03922の座標1123にマッピングするMCMVヌクレオチドの直後のヌクレオチドがT7プロモーターの第1のヌクレオチドであるようになっている(図12)。T7ターミネーターおよびBGHポリアデニル化シグナルは、図11に示されているようにベクターに位置している。
【0197】
このベクターは、以下に記載されているHBVレプリコンモデルで評価される。クローニングは、標準の方法を使用して実行され、または必要に応じて、方向性ライゲーションクローニング、CRCが使用される[3](参照によって本明細書で援用される、米国特許第6,143,527号明細書「Chain reaction cloning using a bridging oligonucleotide and DNA ligase」、Pachukらの開示を参照)。
【0198】
HBVレプリコンモデル:複製適格細胞培養モデルにおけるサイレンシングHBV複製および発現
細胞培養モデルの簡単な説明:
Huh7細胞系などヒト肝由来細胞系が、ウイルスRNAのすべてを転写し、感染性ウイルスを産生することが可能である末端が重複するウイルスゲノムから成るHBVの感染性分子クローンとトランスフェクトされる[4−6]。これらの試験で使用されるレプリコンは、GenBank登録番号V01460およびJ02203に存在するウイルス配列由来である。肝細胞への内在化および核局在化の後、一部のウイルスプロモーターからの感染性HBVプラスミドの転写は、HBV複製を反映させる一連の事象を開始することが証明されている。これらの事象としては、転写ウイルスmRNAの翻訳、転写プレゲノムRNAのコア粒子へのパッケージング、プレゲノムRNAの逆転写、およびビリオンとHBsAg粒子のトランスフェクト細胞の培地への集合と分泌が挙げられる。このトランスフェクションモデルは、感染肝細胞内のHBV複製の大部分の態様を再現し、したがって、HBV発現および複製のサイレンシングを観察するには優れた細胞培養モデルである。
【0199】
本モデルでは、細胞が評価されるHBVの感染性分子クローンおよびエフェクターRNA構築物と同時トランスフェクトされる。次いで、細胞がHBV発現および複製の喪失について下記のとおりモニタリングされる。
【0200】
実験手順:トランスフェクション
トランスフェクションの時点で80−90%密集度となるように、Huh7細胞を6ウェルプレートへ接種する。すべてのトランスフェクションは、リポフェクタミン(商標)(インビトロジェン(Invitrogen))をメーカーの指示に従って使用して行われる。本実験では、感染性HBVプラスミド50ngおよび図11に示された実験プラスミド2.5μgで細胞をトランスフェクトする。対照細胞は、HBVプラスミド50ngでトランスフェクトする。不活性フィラーDNA、pGL3−ベーシック(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))をすべてのトランスフェクションに添加し、全DNA/トランスフェクションを2.5μg DNAまでにする。
【0201】
HBV発現の喪失についての細胞のモニタリング
トランスフェクション後、HBsAg分泌およびDNA含有ウイルス粒子分泌を測定することによってHBV発現および複製の喪失または削減について細胞をモニタリングする。dsRNA投与後2日で開始し、その後3週間一日おきにトランスフェクト細胞の培地を評価することによって細胞をモニタリングする。アボットラボラトリーズ(Abbott Labs)(Abbott Park、イリノイ州(IL))から市販のAuszyme ELISAを使用し、HBV表面Ag(sAg)を検出する。HBsAgを測定するのは、表面Agがウイルス複製だけではなく、トランスフェクト感染性HBVクローンにおける表面AgシストロンのRNAポリメラーゼII開始転写とも関係があるためである。表面Ag合成はHBV複製の非存在下に持続しうるため、ウイルス複製だけではなくsAgの複製依存合成もダウンレギュレートすることが重要である。カプシドで包まれたHBVゲノムDNAを含有するビリオン粒子の分布も測定される。カプシドで包まれたDNAを含有するビリオン粒子の喪失は、HBV複製の喪失を示す。
【0202】
ビリオン分泌の分析は、裸の未熟コア粒子とエンベロープを持った感染性HBVビリオンを区別する方法を含む[7]。手短に言えば、培養細胞の培地からのペレットウイルス粒子をプロテイナーゼK消化にさらし、コアタンパク質を分解させる。プロテイナーゼKの不活性化後、サンプルをRQ1DNase(プロメガ(Promega)、Madison、ウィスコンシン州(WI))でインキュベートし、コア粒子から遊離されたDNAを分解する。SDSの存在下にプロテイナーゼKでサンプルを再び消化し、DNaseを不活性化するとともに、感染性のエンベロープを持ったビリオン粒子を崩壊、分解させる。次いで、フェノール/クロロホルム抽出によってDNAを精製し、エタノール沈殿させる。HBV特異的DNAをゲル電気泳動後のサザンブロット分析によって検出する。
【0203】
予想結果は、HBVプラスミドT7RNAポリメラーゼ発現プラスミド、およびフィラーDNAのみでトランスフェクトされた細胞に対して、HBVプラスミド、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミド、および実験的プラスミドでトランスフェクトされた細胞の培地におけるsAgおよびウイルス粒子分泌における減少を示す。
[1] Lyakhov, D.L., et al., Pausing and termination by bacteriophage T7 RNA polymerase. J. Mol. Biol. 280:201-213 (1998).
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【配列表フリーテキスト】
【0204】
配列番号1は、T7プロモーターを表す。
配列番号2は、T7 RNAポリメラーゼ遺伝子を表す。
配列番号3は、RSVプロモーター、5’UTR、T7 RNAポリメラーゼコード領域、およびBGHポリアデニル化部位を含んで成るT7 RNAポリメラーゼ発現ユニットを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つもしくはそれ以上の発現構築物を含んで成る真核生物発現系であって、前記1つもしくはそれ以上の発現構築物が集合的に少なくとも第1および第2のプロモーターを含んで成り、かつ前記第1および第2のプロモーターが各々同じ真核細胞の異なる細胞内コンパートメント内で転写活性である真核生物発現系。
【請求項2】
前記第1および第2のプロモーターが異なる分子をコード化する核酸配列に作動可能に結合されている、請求項1に記載の発現系。
【請求項3】
前記第1および第2のプロモーターが同じ分子をコード化する核酸配列に作動可能に結合されている、請求項1に記載の発現系。
【請求項4】
前記第1および第2のプロモーターがいずれも前記核酸配列の単一コピーに作動可能に結合されている、請求項3に記載の発現系。
【請求項5】
前記第1および第2のプロモーターが前記核酸配列の異なるコピーに作動可能に結合されている、請求項3に記載の発現系。
【請求項6】
前記細胞内コンパートメントが、細胞質、ミトコンドリア、核、核小体、細胞質内の機能的ドメイン、核内の機能的ドメイン、および核小体内の機能的ドメインから選択される、請求項1に記載の発現系。
【請求項7】
前記第1および第2のプロモーターが、核および細胞質において、核およびミトコンドリアにおいて、核および核小体において、細胞質およびミトコンドリアにおいて、細胞質および核小体において、ミトコンドリアおよび核小体において、または核小体の異なる機能的コンパートメントにおいて転写活性である、請求項1に記載の発現系。
【請求項8】
第3のプロモーターをさらに含んで成る、請求項1に記載の発現系。
【請求項9】
前記第3のプロモーターが、前記第1および第2のプロモーターと異なる細胞内コンパートメント内で転写活性を有する、請求項8に記載の発現系。
【請求項10】
前記第1、第2、および第3のプロモーターが、細胞質、核、および核小体において、細胞質、核、およびミトコンドリアにおいて、細胞質、核小体、およびミトコンドリアにおいて、またはミトコンドリア、核小体、およびミトコンドリアにおいて転写活性を有する、請求項8に記載の発現系。
【請求項11】
前記プロモーターが、RNA pol I、RNA pol III、RNA pol II、T7、SP6、SP3、RNAウイルスプロモーター、ミトコンドリア重鎖プロモーター、ミトコンドリア軽鎖プロモーター、RNA pol III型2プロモーター、およびRNA pol III型3プロモーターから選択される、請求項1に記載の発現系。
【請求項12】
前記第1および第2のプロモーターが単一の発現構築物に位置している、請求項1に記載の発現系。
【請求項13】
前記第1および第2のプロモーターが2つの異なる発現構築物に位置している、請求項1に記載の発現系。
【請求項14】
前記真核細胞が哺乳類細胞である、請求項1に記載の発現系。
【請求項15】
前記哺乳類細胞がヒト細胞である、請求項14に記載の発現系。
【請求項16】
前記発現構築物が同じ組成物から前記真核細胞に送達される、請求項1に記載の発現系。
【請求項17】
前記発現構築物が2つの異なる組成物から前記真核細胞に送達される、請求項1に記載の発現系。
【請求項18】
前記2つの組成物が前記真核細胞に同時に送達される、請求項17に記載の発現系。
【請求項19】
前記2つの組成物が前記真核細胞に異なる時点で送達される、請求項17に記載の発現系。
【請求項20】
前記第1のプロモーターまたは前記第2のプロモーターが、標的遺伝子の発現を調節することが可能な分子をコード化する核酸配列に作動可能に結合されている、請求項1〜19のいずれか1項に記載の発現系。
【請求項21】
前記第1のプロモーターおよび前記第2のプロモーターが、標的遺伝子の発現を調節することが可能な分子をコード化する核酸配列に各々作動可能に結合されている、請求項1〜19のいずれか1項に記載の発現系。
【請求項22】
前記標的遺伝子がウイルス遺伝子である、請求項20に記載の発現系。
【請求項23】
前記標的遺伝子がウイルス遺伝子である、請求項21に記載の発現系。
【請求項24】
請求項1〜13の発現構築物の1つもしくはそれ以上を真核細胞に送達することを特徴とする、目的とする分子を真核細胞に送達する方法であって、発現構築物の少なくとも1つが、目的とする分子の少なくとも一部分をコード化する核酸配列を含んで成るものである、方法。
【請求項25】
前記1つもしくはそれ以上の発現構築物が、異なる組成物から前記真核細胞に送達される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記1つもしくはそれ以上の発現構築物が、同じ組成物から前記真核細胞に送達される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記目的とする分子が、標的遺伝子の発現を調節することが可能である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記目的とする分子が、標的遺伝子の発現を調節することが可能である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記標的遺伝子がウイルス遺伝子である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記標的遺伝子がウイルス遺伝子である、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記真核細胞が哺乳類細胞である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記真核細胞が哺乳類細胞である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記哺乳類細胞がヒト細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記哺乳類細胞がヒト細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
少なくとも第1および第2のプロモーターを含んで成り、前記第1および第2のプロモーターが同じ真核細胞の異なる細胞内コンパートメント内で各々転写活性を有する、発現構築物。
【請求項36】
請求項35に記載の構築物を含んで成る哺乳類細胞。
【請求項37】
請求項35に記載の構築物を含んで成るヒト細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図10e】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−80889(P2012−80889A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−256122(P2011−256122)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【分割の表示】特願2006−524062(P2006−524062)の分割
【原出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(505369158)アルナイラム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (51)
【氏名又は名称原語表記】ALNYLAM PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】