説明

多丁杼織機と杼

【課題】現行の多丁杼織機の大規模な改造を伴うことなく、西陣織に代表される意匠性の高い美術工芸織物を効率よく製織することが出来る多丁杼織機を得る。
【解決手段】スレー11の左右に複数の杼箱N1、N2、N3………を集積した杼枠12を有する多丁杼織機において、その複数の杼箱の中の少なくとも1つの杼箱N1の杼S1を収容する杼収容スペース13の内部高さHと、他の杼箱N3〜N10の杼収容スペース13の内部高さKとを変える。又、その杼収容スペースの内部高さ(H,K)の異なる各杼箱に収容される各杼Sの外部高さ(h、k)を、杼収容スペース13の内部高さ(H,K)に応じて変える。杼Sの外部高さ(h、k)の異なる各杼(S1,S2)の先端のピッカー14に打ち当る尖端15に至る杼収容スペースの底板16からの高さLを同じにするとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緯糸を巻いた木管を中に入れた杼を経糸間の開口に打ち込んで織物を織成する有杼織機に関する。
【背景技術】
【0002】
使用する緯糸の種類が多い西陣織に代表される意匠性の高い美術工芸織物を有杼織機によって織成する場合、スレーの左右に杼箱をそれぞれ12段に集積した多丁杼織機が一般に使用される。しかし、杼箱の数の多い多丁杼織機を用いても、杼箱の数より多くの種類の緯糸を使用して意匠性の極めて高い美術工芸織物を織成する場合には、製織過程で織機を一時停止させて杼を交換することが必要になるが、その交換は手作業によるので非常に手間取り、それが高級美術工芸織物の製織効率を低下させる原因となっている(例えば、特許文献1,2参照)。 そのような問題を回避するために、不本意ながら緯糸の種類を集約して製織しているのが実情である。
【0003】
【特許文献1】特許第2510896号公報
【特許文献2】特許第2549037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、杼箱の数を更に増やすべきことになるが、美術工芸織物を織成するために必要な種々の機構が集約された現行の多丁杼織機の杼箱の数を増やす場合には、スレーの左右の杼枠全体の占有スペースが増大し、他の駆動装置や機構との間で占有スペースが干渉し合い、それを回避するためには織機の大幅な改造が必要となる。そして、多丁杼織機では、左右の杼箱間で往復走行する緯糸の干渉が屡々問題になり、それを出来るだけ回避するために、意匠図において緯糸の干渉が起き難い杼の動作順序や、織物に描出すべき図柄と色糸を装填した杼および杼箱との位置関係等を周到に検討して織物を設計することになる。しかし、そのような設計作業は高度な熟練者であっても多くの工数を要し、幾ら周到に検討して設計しても、数多くの種類の緯糸を使用する製織過程では緯糸の干渉が一切起こらないとの保証はなく、製織過程で生じる緯糸の干渉が多丁杼織機における製織効率低下の要因となっている。
【0005】
そこで、本発明は、現行の多丁杼織機の大規模な改造を伴うことなく、西陣織に代表される意匠性の高い美術工芸織物を効率よく製織することが出来る多丁杼織機を構成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る多丁杼織機は、スレー11の左右に複数の杼箱N1,N2,N3………を集積した杼枠12を有する多丁杼織機において、その複数の杼箱の中の少なくとも1つの杼箱N1の杼S1を収容する杼収容スペース13の内部高さHが、他の杼箱N3〜N10の杼収容スペース13の内部高さKと異なることを第1の特徴とする。
【0007】
本発明に係る多丁杼織機の第2の特徴は、上記第1の特徴に加えて、杼収容スペース13の内部高さKの低い杼箱N3,N4,N5………の数が、杼収容スペース13の内部高さHの高い杼箱N1,N2の数よりも多い点にある。
【0008】
本発明に係る多丁杼織機の第3の特徴は、上記第1、第2の何れかの特徴に加えて、杼収容スペース13の内部高さHの高い杼箱N1,N2が杼枠12の下側に位置し、杼収容スペース13の内部高さKの低い杼箱N3,N4,N5………が杼枠12の上側に位置する点にある。
【0009】
本発明に係る多丁杼織機の第4の特徴は、上記第1、第2、第3の何れかの特徴に加えて、(a) 杼収容スペース13の内部高さKの低い杼箱N3,N4,N5………と、杼収容スペース13の内部高さHの高い杼箱N1,N2に、外部高さ(h,k)の異なる各杼(S1,S2)が収容されており、
(b) 杼収容スペース13の内部高さKの低い杼箱N3,N4,N5………に収容されている杼(S2)の外部高さ(k)が、杼収容スペース13の内部高さHの高い杼箱N1,N2に収容されている杼(S1)の外部高さ(h)よりも低く、
(c) 杼収容スペース13の内部高さKの低い杼箱N3,N4,N5………に収容されている杼(S2)の底面から杼金24の尖端15までの高さと、杼収容スペース13の内部高さHの高い杼箱N1,N2に収容されている杼(S1)の底面から杼金24の尖端15までの高さが等しい点にある。
【0010】
本発明に係る多丁杼織機の第5の特徴は、上記第4の特徴に加えて、杼収容スペース13の内部高さKの低い杼箱N3,N4,N5………に収容されている杼(S2)の杼金24の尖端15の位置が、杼(S2)の横断面を通る中心線26よりも、杼(S2)の天端面側へと偏っている点にある。
【0011】
本発明に係る多丁杼織機の第6の特徴は、上記第4の特徴に加えて、杼収容スペース13の内部高さHの高い杼箱N1,N2に収容されている杼(S1)の杼金24の尖端15の位置が、杼(S1)の横断面を通る中心線26よりも、杼(S1)の底面側へと偏っている点にある。
【0012】
本発明に係る多丁杼織機の第7の特徴は、上記第4、第5、第6の何れかの特徴に加えて、杼収容スペースの内部高さ(H,K)の異なる各杼箱に収容される各杼Sの外部高さ(h,k)が、杼収容スペース13の内部高さ(H,K)に応じて異なっており、その杼Sの外部高さ(h,k)の異なる各杼(S1,S2)の先端のピッカー14に打ち当る尖端15に至る杼収容スペースの底板16からの高さLが同じになっている点にある。
【0013】
本発明に係る多丁杼織機の第8の特徴は、上記第1、第2、第3、第4、第5、第6の何れかの特徴に加えて、杼箱交換のために杼枠を昇降駆動する杼箱交換駆動装置の昇降駆動部17と杼枠12とを接続する垂直桿18が、杼枠12を昇降駆動する補助駆動装置を具備する点にある。
【0014】
本発明に係る多丁杼織機の第9の特徴は、上記第8の特徴に加えて、杼枠12を昇降駆動する補助駆動装置が、垂直桿18の長さ方向に摺動するスライダー19と、そのスライダー19を垂直桿18の長さ方向に導くガイド20と、スライダー19を駆動する螺旋機構と、螺旋機構の螺旋軸21を回転駆動するパルス制御するモーター22を具備し、その垂直桿18が杼枠側の垂直桿18aと昇降駆動部側の垂直桿18bとに分割されており、スライダー19とガイド20との何れか一方が杼枠側の垂直桿18aに接続され、その他方が昇降駆動部側の垂直桿18bに接続されており、その分割された杼枠側の垂直桿18aと昇降駆動部側の垂直桿18bが補助駆動装置を介して接続されている点にある。
【0015】
本発明に係る杼は、杼金24の尖端15の位置が、杼(S2)の横断面を通る中心線26よりも、杼(S2)の天端面側へと偏っていることを第1の特徴とする。
【0016】
本発明に係る杼の第2の特徴は、杼金24の尖端15の位置が、杼(S1)の横断面を通る中心線26よりも、杼(S1)の底面側へと偏っている点にある。
【発明の効果】
【0017】
スレー左右の杼箱が10段以上となり、杼の数が15丁を超える美術工芸織物用多丁杼織機では、常に全ての杼が使用される訳ではなく、5丁前後の杼は常時使用されるとしても、残りの10丁前後の杼は、織物に描出される図柄の色合いを変えるために部分的に使用される。
従って、長時間にわたって不使用の杼を杼箱に納めた状態で製織することになる訳だが、意匠性の高い織物ほど杼の数が多くなるので不使用の杼の数も多くなり、又、杼箱の数を超える多くの杼を必要とする場合もある。
そこで、前記の通り、常時は不使用の杼を部分的に必要とされる杼に交換することになるが、その交換作業は製織効率を著しく低下させる。
そして、杼箱の数を増やすにしてもスペース的に自ずと限度がある。
【0018】
この点、本発明では、杼箱Nの高さ(H,K)を変えたので、織物に描出される絵柄を囲む織地に織り込んで織物全体の色調を整えるために絶えず織り込まれる緯糸(以下、全体彩色緯糸と言う。)を外部高さが高く厚い杼S1(以下、厚杼と言う。)に納め、織物の絵柄を多彩に彩るために局部的に織り込まれ、長時間にわたって連続して織り込まれることのない緯糸(以下、細部彩色緯糸と言う。)を外部高さが低く薄い杼S2(以下、薄杼と言う。)に納め、そうすることによって全体彩色緯糸と細部彩色緯糸の使い分けが可能となる。
そして、その結果、杼箱の数が同じであっても、薄杼S2を収容する内部高さKの低い杼箱N3〜N10(以下、薄杼箱と言う。)を使用頻度の少ない薄杼S2の数に応じて増やすことによって、杼枠12の高さを低くすることが可能となる。
又、杼枠12の高さを変えることなく杼箱Nの数を増やすことも可能となり、スレー左右の杼枠12のそれぞれに16丁を超える杼Sを収容することが可能となる。
【0019】
その場合、細部彩色緯糸は局部的に使用されるので、木管に巻き取られる緯糸の巻き量は少なくてもよく、それを納める緯糸木管収納室23の狭い薄杼S2を使用しても不都合は生じない。
【0020】
本発明では、杼Sの外部高さ(h,k)の異なる各杼(S1,S2)の先端のピッカー14に打ち当る尖端15に至る杼収容スペースの底板16からの高さLを同じにしたので、ピッカー14に当る尖端15の位置が厚杼S1と薄杼S2とで変わらず、厚杼S1と薄杼S2を区別することなく経糸間の開口へと打ち込むことが出来る。
【0021】
本発明では、杼箱交換のために杼枠を昇降駆動する杼箱交換駆動装置の昇降駆動部17と杼枠12とを接続する垂直桿18に、杼枠12を昇降駆動する補助駆動装置を適用することとしたので、同じ高さの杼箱を一定のピッチで昇降駆動する在来の交換駆動装置の垂直枠に補助駆動装置を付設するだけで済み、本発明の実施において、交換駆動装置自体の改造を必要とせず、本発明の実施が容易になる。
同時に、在来の多丁杼織機に本発明を適用し、在来の交換駆動装置による杼箱昇降ピッチと杼枠内の上下の杼箱間の間隔との間に不一致が生じても、その間の差を調整することが出来、在来の多丁杼織機への本発明の適用が容易になる。
【0022】
本発明では、その補助駆動装置に、パルス制御するモーターに駆動される螺旋機構を適用したので、補助駆動装置が嵩張らず、パルス制御するモーター22に杼箱昇降ピッチと上下杼箱間隔の情報信号を組み込むだけで、ピッカー14の所定の作用位置に所要の杼箱Nを確実に設定することが出来る。
【0023】
本発明では、細部彩色緯糸用の薄杼S2を収容する薄杼箱N3,N4,N5………の数を、全体彩色緯糸用の厚杼S1を収容する厚杼箱N1,N2の数よりも多くしたので、数多くの種類の細部彩色緯糸を使用し、絵柄の細部を多彩に彩って意匠性の極めて高い美術工芸織物を効率的に織成することが出来る。
【0024】
本発明によると、消費量が多く巻き量の多い全体彩色緯糸用の厚杼S1を収容する厚杼箱N1,N2を杼枠12の下側に配置したので、その全体彩色緯糸の補給のための厚杼S1の交換作業がし易くなる。
又、本発明によると、杼枠全体12の重心が巻き量の多い全体彩色緯糸用の厚杼S1を収容する厚杼箱側(N1,N2)に位置するので、織前に向けてスレーと一体になって絶えず往復駆動されて筬打ち毎に杼枠全体12に作用する慣性モーメントも緩和される。
そのため、杼枠全体12が安定に支えられ、多丁杼織機の高速化に対応し易くなる。
【0025】
本発明では、薄杼箱N3,N4,N5………に収容されている薄杼(S2)の杼金24の尖端15を薄杼(S2)の横断面を通る中心線26よりも薄杼(S2)の天端面側へと偏らせ、或いは、厚杼箱N1,N2に収容されている厚杼(S1)の杼金24の尖端15を厚杼(S1)の横断面を通る中心線26よりも厚杼(S1)の底面側へと偏らせて、薄杼箱N3,N4,N5………に収容されている薄杼(S2)の底面から杼金24の尖端15までの高さと、厚杼箱N1,N2に収容されている厚杼(S1)の底面から杼金24の尖端15までの高さを等しくしている。
このため、本発明によると、ピッキング時には厚杼S1と薄杼S2との種類の如何を問わず全ての杼金24の尖端15がピッカー14の所定の箇所に突き当たって経糸開口へと打ち込まれることとなり、ピッキング時に杼S1・S2が経糸開口の外側に飛び出すことがなく、製織工程が安定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
杼Sのピッカー14に打ち当る尖端15は杼金24で構成され、ピッカー14の杼Sに打ち当る部位には杼金の尖端15が遊嵌する窪み25が付けられている。
杼Sの外部高さ(h,k)を杼箱Nの杼収容スペース13の内部高さ(H,K)に応じて変えると、薄杼S2では、その尖端15が杼Sの横断面を通る中心線26よりも杼の天端面側へと偏り、ピッキング時にピッカー14から杼金24に作用する衝撃応力の作用線27とピッカーの中心線26(重心)との間に偏りが生じる(図2)。
その偏りを無くするためには、緯糸木管収納室23の底面側を発泡樹脂等で嵩上げし、ピッキング時の衝撃応力の作用線27が杼Sの重心を通るようにする。
同様に、杼Sの外部高さ(h,k)を杼箱Nの杼収容スペース13の内部高さ(H,K)に応じて変えると、厚杼S1では、その尖端15が杼Sの横断面を通る中心線26よりも杼の底面側へと偏り、ピッキング時にピッカー14から杼金24に作用する衝撃応力の作用線27とピッカーの中心線26(重心)との間に偏りが生じる(図3)。
その偏りを無くするためには、緯糸木管収納室23の底面に重り板28(例えば金属板)を装着し、ピッキング時の衝撃応力の作用線27が杼Sの重心を通るようにするとよい(図4)。
【0027】
図1は、在来の多丁杼織機の杼箱交換駆動装置の機構と、この垂直桿18に付設された補助駆動装置を図示する。
杼枠12は、底板によって上下10段の杼箱N1,N2,N3,……… N10に仕切られており、上側8段の杼箱N3〜N10は薄杼箱になっており、下側2段の杼箱N1〜N2は厚杼箱になっている。
薄杼箱N3〜N10には薄杼S2が収容されており、厚杼箱N1〜N2には厚杼S1が収容されている。図中、32はピッキングステッキである。
【0028】
補助駆動装置は、螺旋軸21と、その螺旋軸を回転駆動するサーボモーター22と、螺旋軸21に螺合する雌螺子29と、雌螺子29に突設されたスライダー19と、スライダー19を垂直桿18の長さ方向に導くガイド20と、そのガイド20とサーボモーター22を支持するホルダー30とから成り、サーボモーター22と螺旋軸21の間には減速機31が設けられている。
垂直桿18は杼枠側と杼箱交換駆動装置側とに2分されており、スライダー19は杼枠側の垂直桿18aに、ガイド20はホルダー30を介して杼箱交換駆動装置側の垂直桿18bに接続されている。
而して、螺旋軸21が回転すると、雌螺子29と共にガイド20に導かれてスライダー19が垂直桿18の長さ方向に移動して杼枠12が昇降駆動される。
2分された上下の垂直桿18a,18bの何れか一方の垂直桿は、図1に図示するように桿状にせず、杼箱交換駆動装置にガイド20またはスライダー19を取り付ける台座、或いは、杼枠にガイド20またはスライダー19を取り付ける台座を成すものであってもよい。
即ち、垂直桿18a,18bの長さや形は、適宜設定される。
【0029】
杼箱交換駆動装置は、5基の梃子クランク機構(41〜45)で合成されている。
各クランク41〜45は、ピッキングサイクル毎にジヤカード装置からの指示を受けて作動するクラッチによって操作される不完全歯車に成る間欠運動機構を介して選択的に半回転する。
第1クランク41に駆動される第1連結桿51と、第2クランク42に駆動される第1連結桿51は、同じ第1揺動桿61にピン接合されている。
同様に、第3クランク43に駆動される第1連結桿51と、第4クランク44に駆動される第1連結桿51は、同じ第1揺動桿61にピン接合されている。
それら2つの第1揺動桿61の両端のピン接合点36とピン接合点37の間の中点(二等分点)40には、第2連結桿52がそれぞれピン接合されている。
第1クランク41と第2クランク42に第1揺動桿61を介して駆動される第2連結桿52と、第3クランク43と第4クランク44に第1揺動桿61を介して駆動される第2連結桿52とは、同じ第2揺動桿62にピン接合されている。
その第2揺動桿62の両端のピン接合点46とピン接合点47の間の中点50には、第3連結桿53がピン接合されている。
この第3連結桿53と、第5クランク45に駆動される第4連結桿54とは、同じ第3揺動桿63にピン接合されている。
第3揺動桿63の両端のピン接合点66とピン接合点67の間は、揺動可能にフレーム33にピン接合されて揺動する駆動桿17に原動桿55を介してピン接合されている。
杼枠12を昇降駆動する垂直桿18は、その駆動桿17の先端Pにピン接合されている。
76は、駆動桿17とフレーム33とのピン接合点である。
【0030】
第1クランク41と第2クランク42と第3クランク43と第4クランク44の各回転半径は同じになっている。各第1連結桿51,51,51,51と各第2連結桿52,52は、それぞれ同じ長さになっている。
このため、第1揺動桿61,61の中点40,40の位置は、対を成す第1クランク41と第2クランク42がそれぞれ半回転するか否か、又、対を成す第3クランク43と第4クランク44がそれぞれ半回転するか否かによってそれぞれ等間隔に3段階に変動し、それに応じて第2揺動桿62の中点50の位置は、等間隔に5段階に変動し、第2揺動桿62の変位に従って、第3揺動桿63の第3連結桿53とピン接合点66も等間隔に5段階に変動する。
【0031】
第5クランク45の回転半径(r)は、等間隔に5段階に変動する第3揺動桿63の第3連結桿53とピン接合点66の各段の変動量(間隔q)の半分(q/2)と第5クランク45の直径(2r)との比が、原動桿55と第3揺動桿63とのピン接合点60から第4連結桿54と第3揺動桿63とのピン接合点67に至る距離(n)と、原動桿55と第3揺動桿63とのピン接合点60から第3連結桿53と第3揺動桿63とのピン接合点66に至る距離(m)との比に等しくなるように設定されている(2r:q/2=4r:q=n:m)。
このため、第5クランク45が半回転するか否かによって、原動桿55と第3揺動桿63とのピン接合点60の位置は、等間隔に10段階に変動し、その各段の変動量に応じて駆動桿17と垂直桿18とのピン接合点Pが等間隔に10段階(P1 ,P2 ,P3 ,……… P10)に昇降する。
【0032】
駆動桿17と垂直桿18とのピン接合点Pが10段階に変動する各段の変動量は、杼枠12の上側の薄杼箱N3〜N10の各段の間の間隔と同じになっている。
このため、杼枠12が杼箱交換駆動装置に昇降駆動されるとき、薄杼箱N3〜N10は、ピッカー14の所定の作用位置に設定される。
厚杼箱N1〜N2の間隔や薄杼箱N3〜N10の各段の間の間隔と、杼箱交換駆動装置によるピン接合点Pの各段の変動量と異なるので、厚杼箱N1〜N2や薄杼箱N3〜N10を杼箱交換駆動装置だけではピッカー14の所定の作用位置に設定することは出来ず、厚杼箱N1〜N2や薄杼箱N3〜N10とピッカー14の作用位置との間にズレが生じることになる。。
そこで、本発明では、補助駆動装置が作動して、厚杼箱N1〜N2や薄杼箱N3〜N10とピッカー14の作用位置との間に生じるズレ相応分だけ杼枠12を昇降駆動し、厚杼箱N1〜N2や薄杼箱N3〜N10をピッカー14の所定の作用位置に設定することとしている。
このように、本発明によると、厚杼箱N1〜N2と薄杼箱N3〜N10の上下間の間隔が異なっていても、全ての杼箱Nがピッカーの所定の作用位置に選択的に設定されることになる。
【0033】
図示する実施例では、杼Sと杼箱Nがそれぞれ2種類になっているが、杼Sの外部高さ(h,k)や杼箱Nの内部高さ(H,K)は、杼の緯糸木管収納室23のサイズに応じて変えることが出来、その杼Sの外部高さ(h,k)と杼箱Nの内部高さ(H,K)に応じて杼Sと杼箱Nの種類を3種類以上にすることが出来、そうすることによって、杼に装填する太さ(緯糸の巻き量)の異なる緯糸木管に対処することが出来る。
図示する実施例では、杼箱Nを杼枠12に上下10段に集積しているが、その数は本発明の技術的範囲を左右するものではなく、その数を15段以上にして色数の多い美術工芸織物用多丁杼織機の自動化に応えることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る多丁杼織機の杼箱交換駆動装置の機構と杼枠を昇降駆動する補助駆動装置の機構との関係を示す概念図である。
【図2】本発明に係る杼枠の要部断面図である。
【図3】本発明に係る杼枠の要部断面図である。
【図4】本発明に係る杼の要部断面図である。
【符号の説明】
【0035】
11:スレー
12:杼枠
13:杼収容スペース
14:ピッカー
15:尖端
16:底板
17:駆動部(駆動桿)
18:垂直桿
19:スライダー
20:ガイド
21:螺旋軸
22:サーボモーター
23:緯糸木管収納室
24:杼金
25:窪み
26:中心線
27:応力作用線
28:重り板
29:雌螺子
30:ホルダー
31:減速機
32:ピッキングステッキ
33:フレーム
36,37:第1揺動桿左右のピン接合点
40:第1揺動桿の中点
41:第1クランク
42:第2クランク
43:第3クランク
44:第4クランク
45:第5クランク
46,47:第2揺動桿左右のピン接合点
50:第2揺動桿の中点
51:第1連結桿
52:第2連結桿
53:第3連結桿
54:第4連結桿
55:原動桿
60:第3揺動桿と原動桿とのピン接合点
61:第1揺動桿
62:第2揺動桿
63:第3揺動桿
66,67:第3揺動桿左右のピン接合点
76:駆動桿のピン接合点
H :厚杼箱の高さ
h :厚杼の外部高さ
K :薄杼箱の高さ
k :薄杼の外部高さ
L :尖端の高さ
N :杼箱
N1,N2:厚杼箱
N3〜N10:薄杼箱
P :ピン接合点
S :杼
S1:厚杼
S2:薄杼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スレー(11)の左右に複数の杼箱(N1,N2,N3………)を集積した杼枠(12)を有する多丁杼織機において、その複数の杼箱の中の少なくとも1つの杼箱(N1)の杼(S1)を収容する杼収容スペース(13)の内部高さ(H)が、他の杼箱(N3〜N10)の杼収容スペース(13)の内部高さ(K)と異なることを特徴とする多丁杼織機。
【請求項2】
杼収容スペース(13)の内部高さ(K)の低い杼箱(N3,N4,N5………)の数が、杼収容スペース(13)の内部高さ(H)の高い杼箱(N1,N2)の数よりも多いことを特徴とする前掲請求項1に記載の多丁杼織機。
【請求項3】
杼収容スペース(13)の内部高さ(H)の高い杼箱(N1,N2)が杼枠(12)の下側に位置し、杼収容スペース(13)の内部高さ(K)の低い杼箱(N3,N4,N5………)が杼枠(12)の上側に位置することを特徴とする前掲請求項1と2の何れかに記載の多丁杼織機。
【請求項4】
(a) 杼収容スペース(13)の内部高さ(K)の低い杼箱(N3,N4,N5………)と、杼収容スペース(13)の内部高さ(H)の高い杼箱(N1,N2)に、外部高さ(h,k)の異なる各杼(S1,S2)が収容されており、
(b) 杼収容スペース(13)の内部高さ(K)の低い杼箱(N3,N4,N5………)に収容されている杼(S2)の外部高さ(k)が、杼収容スペース(13)の内部高さ(H)の高い杼箱(N1,N2)に収容されている杼(S1)の外部高さ(h)よりも低く、
(c) 杼収容スペース(13)の内部高さ(K)の低い杼箱(N3,N4,N5………)に収容されている杼(S2)の底面から杼金(24)の尖端(15)までの高さと、杼収容スペース(13)の内部高さ(H)の高い杼箱(N1,N2)に収容されている杼(S1)の底面から杼金(24)の尖端(15)までの高さが等しいことを特徴とする前掲請求項1と2と3の何れかに記載の多丁杼織機。
【請求項5】
杼収容スペース(13)の内部高さ(K)の低い杼箱(N3,N4,N5………)に収容されている杼(S2)の杼金(24)の尖端(15)の位置が、杼(S2)の横断面を通る中心線(26)よりも、杼(S2)の天端面側へと偏っていることを特徴とする前掲請求項4に記載の多丁杼織機。
【請求項6】
杼収容スペース(13)の内部高さ(H)の高い杼箱(N1,N2)に収容されている杼(S1)の杼金(24)の尖端(15)の位置が、杼(S1)の横断面を通る中心線(26)よりも、杼(S1)の底面側へと偏っていることを特徴とする前掲請求項4に記載の多丁杼織機。
【請求項7】
杼収容スペースの内部高さ(H,K)の異なる各杼箱に収容される各杼(Sの外部高さ(h,k)が、杼収容スペース(13)の内部高さ(H,K)に応じて異なっており、その杼(S)の外部高さ(h,k)の異なる各杼(S1,S2)の先端のピッカー(14)に打ち当る尖端(15)に至る杼収容スペースの底板(16)からの高さ(L)が同じになっていることを特徴とする前掲請求項4と5と6の何れかに記載の多丁杼織機。
【請求項8】
杼箱交換のために杼枠を昇降駆動する杼箱交換駆動装置の昇降駆動部(17)と杼枠(12)とを接続する垂直桿(18)が、杼枠(12)を昇降駆動する補助駆動装置を具備することを特徴とする前掲請求項1と2と3と4と5と6と7の何れかに記載の多丁杼織機。
【請求項9】
杼枠(12)を昇降駆動する補助駆動装置が、垂直桿(18)の長さ方向に摺動するスライダー(19)と、そのスライダー(19)を垂直桿(18)の長さ方向に導くガイド(20)と、スライダー(19)を駆動する螺旋機構と、螺旋機構の螺旋軸(21)を回転駆動するパルス制御するモーター(22)を具備し、その垂直桿(18)が杼枠側の垂直桿(18a)と昇降駆動部側の垂直桿(18b)とに分割されており、スライダー(19)とガイド(20)との何れか一方が杼枠側の垂直桿(18a)に接続され、その他方が昇降駆動部側の垂直桿(18b)に接続されており、その分割された杼枠側の垂直桿(18a)と昇降駆動部側の垂直桿(18b)が補助駆動装置を介して接続されていることを特徴とする前掲請求項8に記載の多丁杼織機。
【請求項10】
杼金(24)の尖端(15)の位置が、杼(S2)の横断面を通る中心線(26)よりも、杼(S2)の天端面側へと偏っていることを特徴とする杼。
【請求項11】
杼金(24)の尖端(15)の位置が、杼(S1)の横断面を通る中心線(26)よりも、杼(S1)の底面側へと偏っていることを特徴とする杼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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