説明

多周波共用アンテナ

【課題】異なる周波数帯で電波を放射するアンテナ素子間で誘起される電流に起因して生じる指向性の劣化を、アンテナのサイズを大きくすることなく抑制可能な多周波共用アンテナを提供する。
【解決手段】1つ以上の周波数帯で電波を放射する第1のアンテナ素子と第1のアンテナ素子とは異なる1つ以上の周波数帯で電波を放射する第2のアンテナ素子が、それぞれ直線上に複数配列されることによって構成される多周波共用アンテナにおいて、第1のアンテナ素子には、長手方向の途中で枝分かれしたサブエレメントが設けられ、当該サブエレメントは、そこを流れる電流の向きが第1のアンテナ素子に流れる電流の向きと逆になるように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動通信における基地局アンテナとして用いられる多周波共用アンテナ関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、多周波を共用するアンテナのうち、1つ以上の周波数帯で電波を放射する第1のアンテナ素子と第1のアンテナ素子とは異なる1つ以上の周波数帯で電波を放射する第2のアンテナ素子とがそれぞれ直線上(例えば、水平方向または垂直方向)に複数配列されることによって構成される多周波共用アンテナに係るものである。
【0003】
図16は、複数の第1のアンテナ素子10と複数の第2のアンテナ素子20と反射板30からなる従来技術による多周波共用アンテナ1の構成例を示したものであり、(a)が斜視図、(b)が上面図である。各アンテナ素子は、反射板30から所定の距離dをおいて配列される。なお、各アンテナ素子は、図示は省略するが任意の方法により反射板30等に固定されているものとする。
【0004】
例えば、第1のアンテナ素子10は800MHz帯、第2のアンテナ素子20は1.5GHz帯、1.7GHz帯、及び2GHz帯で電波を放射するものとする。図17(a)は図16(a)に示す隣接する第1のアンテナ素子10と第2のアンテナ素子20の部分を抜粋した正面図であり、図17(b)は第2のアンテナ素子20に給電したときに各アンテナ素子に流れる電流のイメージを図17(a)に対応させて表現したものである。図17(b)からわかるように、第2のアンテナ素子20に給電すると第1のアンテナ素子10に電流が誘起されるが、この誘起された電流が原因で第2のアンテナ素子20から放射される電波の指向性の劣化が生じる。
【0005】
図18に、図16の第1のアンテナ素子10と反射板30との距離dをパラメータにした時の、前記の誘起電流によって第1のアンテナ素子10から放射される第2のアンテナ素子20の周波数帯での水平面内における指向性パターンを示す。図18は第2のアンテナ素子20の最大放射方向(素子に対し垂直方向)を90度として表したものである。図18でいう0.3λ、0.45λ、0.6λは、dを固定値として周波数を波長比で表現したもの、すなわち周波数f1、f2、f3(f1<f2<f3)に対して、d=0.3λ1=0.45λ2=0.6λ3であり、波長比が大きいほど周波数が高いことを意味する。図18より、第1のアンテナ素子10と反射板30との距離が波長比で大きくなると、指向性パターンが歪むことがわかる。更に、このような歪んだ指向性パターンが第2のアンテナ素子20自身の指向性パターンに足し合わされることで、アンテナ全体として指向性劣化が生じる。しかし、これを回避するために第1のアンテナ素子10と反射板30との距離を小さくすると、第1のアンテナ素子10の指向性劣化やインピーダンスの不整合を招く。
【0006】
第2のアンテナ素子20への給電により第1のアンテナ素子10に誘起される電流によって生じる第2のアンテナ素子20の指向性への影響を確認するため、図16の構成から第1のアンテナ素子10を除き、第2のアンテナ素子20のみを配置したアンテナ2を図19に示す。図20は、図16と図19に示す第2のアンテナ素子20の1.5GHz帯、1.7GHz帯、及び2GHz帯の水平面内半値幅を比較したものである。図20より、第1のアンテナ素子10がない図19のアンテナ2と比較して、第1のアンテナ素子10に電流が誘起される図16の多周波共用アンテナ1では、2GHz帯における水平面内半値幅の周波数変動が大きいことから、水平面内指向性が劣化していることが確認できる。また、図19のアンテナ2では2GHz帯の垂直面内指向性利得は8.1dBiであるのに対し、図16の多周波共用アンテナ1では7.7dBiと劣化する。前記のとおり、第1のアンテナ素子10と反射板との距離が波長比で大きくなると、すなわち周波数が高いほど、第1のアンテナ素子10から放射される第2のアンテナ素子20の周波数帯での指向性パターンが歪むため、この影響による指向性の劣化は2GHz帯において特に顕著である。
【0007】
上記の従来技術に関連する特許として、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1では、共振する周波数が異なるアンテナ素子が、電気的に相互に影響し合って指向性などの電気的特性の劣化を生じることを問題として挙げている。同文献では、2種類のアンテナ素子を千鳥状に配置して水平方向の素子間隔が大きくし、これにより一方のアンテナ素子から他方のアンテナ素子に誘起される電流量を小さくすることでアンテナ素子相互の電気的な干渉を抑制することにより問題を解決する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−111662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の構成は、2種類のアンテナ素子の水平方向の素子間隔を大きくすることで素子間の電気的な干渉を抑制するものである。しかし、風圧荷重等の観点からアンテナの直径は小さいことが望ましいため、水平方向には限られた素子間隔しか確保できず、結局、指向性の劣化を十分に改善できない可能性がある。
一方、垂直方向の素子間隔を従来より大きくすることも考えられるが、アンテナ長の増大やグレーティングローブの増大を生じることなどから現実的には困難である。
【0010】
本発明は、異なる周波数帯で電波を放射するアンテナ素子間で誘起される電流に起因して生じる指向性の劣化を、アンテナのサイズを大きくすることなく抑制可能な多周波共用アンテナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の多周波共用アンテナは、1つ以上の周波数帯で電波を放射する第1のアンテナ素子と第1のアンテナ素子とは異なる1つ以上の周波数帯で電波を放射する第2のアンテナ素子が、それぞれ直線上に複数配列されることによって構成され、第1のアンテナ素子には、素子の長手方向の途中で枝分かれしたサブエレメントが設けられ、当該サブエレメントは、そこを流れる電流の向きが前記第1のアンテナ素子に流れる電流の向きと逆になるように設けられている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多周波共用アンテナによれば、アンテナ素子に簡単な枝分かれ構造を設けることで、他のアンテナ素子からの誘起電流がアンテナ素子と枝分かれ構造部分に互い逆向きに流れて指向性への影響を打ち消し合うため、アンテナのサイズを大きくすることなく、指向性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の多周波共用アンテナ100の構成例を示す図。
【図2】図1の構成において第2のアンテナ素子20に給電したときに第1のアンテナ素子10およびサブエレメントSに流れる電流のイメージを示す図。
【図3】多周波共用アンテナ1とアンテナ2と多周波共用アンテナ100の1.5GHz帯、1.7GHz帯、2GHz帯の水平面内半値幅の比較を示す図。
【図4】L字形のサブエレメントの別の形状の例を示す図。
【図5】サブエレメントの別の取り付け位置の例を示す図。
【図6】本発明の多周波共用アンテナ100の変形例1の構成を示す図。
【図7】F字形のサブエレメントの変形例を示す図。
【図8】本発明の多周波共用アンテナ100の変形例2の構成を示す図。
【図9】本発明の多周波共用アンテナ100の変形例3の構成を示す図。
【図10】本発明の多周波共用アンテナ200の構成例を示す図。
【図11】図10の構成において第2のアンテナ素子20に給電したときに第1のアンテナ素子10に流れる電流のイメージを示す図。
【図12】L字形の切り込みの別の形状の例を示す図。
【図13】本発明の多周波共用アンテナ200の変形例1の構成を示す図。
【図14】本発明の多周波共用アンテナ200の変形例2の構成を示す図。
【図15】図1の構成において第2のアンテナ素子20を45°偏波素子とした場合の構成例を示す図。
【図16】従来技術による多周波共用アンテナ1の構成例を示す図。
【図17】図16の構成において第2のアンテナ素子20に給電したときに各アンテナ素子に流れる電流のイメージを示す図。
【図18】図16の構成において第2のアンテナ素子20に給電したときに第1のアンテナ素子10に誘起される電流が作る水平面内指向性パターンと、第1のアンテナ素子10と反射板30との距離と、の関係を示す図面である。
【図19】図16の構成から第1のアンテナ素子10を除去し、第2のアンテナ素子20のみとしたアンテナ2の構成を示す図。
【図20】多周波共用アンテナ1とアンテナ2の1.5GHz帯、1.7GHz帯、2GHz帯の水平面内半値幅の比較を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の多周波共用アンテナ100の構成例を示す斜視図である。多周波共用アンテナ100は、1つ以上の周波数帯で電波を放射する第1のアンテナ素子10と第1のアンテナ素子10とは異なる1つ以上の周波数帯で電波を放射する第2のアンテナ素子20が、それぞれ直線上(例えば、水平方向または垂直方向)に複数配列されることによって構成される点については、図16に示す従来の多周波共用アンテナ1と同様であるが、第1のアンテナ素子10に素子の長手方向の途中で枝分かれしたサブエレメントSが設けられている点において異なる。
【0016】
このように第1のアンテナ素子10にサブエレメントSが設けられている場合、第2のアンテナ素子20に給電されると、第1のアンテナ素子10に電流が誘起されるとともに、サブエレメントSにも電流が誘起される。そこで、サブエレメントSを、それに誘起される電流の向きが第1のアンテナ素子10に誘起される電流の向きと逆になるように設けることで、第1のアンテナ素子10への誘起電流が指向性に与える影響とサブエレメントSへの誘起電流が指向性に与える影響とが互いに打ち消し合うため、指向性の劣化を抑制することができる。
【0017】
以下、第1のアンテナ素子10および第2のアンテナ素子20がダイポールアンテナである場合を例にとって説明するが、アンテナの種別は特に問わない。
【0018】
図2(a)は、図1に示す第1のアンテナ素子10及びサブエレメントSの部分を抜粋した正面図である。第1のアンテナ素子10は、第1エレメント11と第2エレメント12とが給電部13を挟んで設けられたダイポールアンテナである。また、第1エレメント11には第1サブエレメントS1が、第2エレメント12には第2サブエレメントS2が、それぞれエレメント11、12の長手方向の途中で枝分かれする形で設けられる。枝分かれする位置は任意であり、また、各サブエレメントについて給電部13を挟んで対称でなくても構わない。
【0019】
サブエレメントが無い場合、第1のアンテナ素子には図17(b)に示すように例えば左向きの電流が誘起されるため、サブエレメントS1、S2にその逆の右向きの電流が誘起されるよう、例えば図2(a)に示すように、サブエレメントS1、S2をL字形とし、L字形の一辺がエレメント11、12と平行になるように、かつ、サブエレメントS1、S2の延伸された先端が互いに向かい合うように設ける。図2(b)は第2のアンテナ素子20に給電したときに第1のアンテナ素子10(第1エレメント11及び第2エレメント12)及びサブエレメントS(第1サブエレメントS1及び第2サブエレメントS2)に流れる電流のイメージを図2(a)に対応させて表現したものである。図2(b)から、第1のアンテナ素子10とサブエレメントSには逆向きの電流が流れていることがわかる。
【0020】
図3は、図16に示す従来の多周波共用アンテナ1と、図19に示す多周波共用アンテナ1から第1のアンテナ素子10を取り除き第2のアンテナ素子20のみとされたアンテナ2と、図1に示す本発明の多周波共用アンテナ100のそれぞれの、1.5GHz帯、1.7GHz帯、及び2GHz帯の水平面内半値幅を比較したものである。この比較においては、第1のアンテナ素子10のサブエレメントS1、S2の長さは、第2のアンテナ素子20が電波を放射する2GHz帯において0.19λ〜0.21λに設定しており、サブエレメントS1、S2に2GHz帯で最も電流が流れる一方、第1のアンテナ素子10が電波を放射する800MHz帯でほとんど電流が流れない。このように、サブエレメントS1、S2の長さを適切に設定することで、図3に示すように、本発明の多周波共用アンテナ100の特性が、第1のアンテナ素子10による影響が存在しない場合(アンテナ2)の特性に大幅に近づくことがわかる。また、2GHz帯の垂直面内指向性利得も8.1dBiと図19に示すアンテナ2と同等にすることができる。
【0021】
なお、多周波共用アンテナ100のサブエレメントS1、S2の形状は、延伸方向の幅が図2(a)に示すような等幅であるものに限られず、例えば図4に示すように延伸方向にテーパ状に広がっていくものであっても構わない。また、多周波共用アンテナ100のサブエレメントS1、S2は、図1ではエレメント11、12の側面に、すなわちL字形が反射面に平行になるように設けられているが、例えば図5(a)の斜視図に示すようにエレメント11、12の正面に、すなわちL字形が反射面に垂直になるように(上面から見たとき図5(b)のようになるように)設けても構わない。また、ここでは1つのエレメントにサブエレメントを1つ設ける構成を説明したが、複数個設けても構わない。
【0022】
以上のように、本発明の多周波共用アンテナ100によれば、アンテナ素子に簡単な枝分かれ構造を設けることで、他のアンテナ素子からの誘起電流がアンテナ素子と枝分かれ構造部分に互い逆向きに流れて指向性への影響を打ち消し合うため、アンテナのサイズを大きくすることなく、指向性の劣化を抑制することができる。
【0023】
<変形例1>
図6(a)は、図1に示す多周波共用アンテナ100の変形例1を示す斜視図であり、図6(b)は、図6(a)に示す第1のアンテナ素子10及びサブエレメントSの部分を抜粋した正面図である。変形例1は、サブエレメントS1、S2の形状がF字形である点において図1の構成と異なる。しかし、F字形のサブエレメントS1、S2を、図6(b)に示すように、それぞれの2辺がエレメント11、12と平行になるように、かつ、サブエレメントS1、S2の延伸された先端が互いに向かい合うように設けることで、図1に示す構成と同様に、誘起電流がアンテナ素子と枝分かれ構造部分に互い逆向きに流れて指向性への影響を打ち消し合うため、指向性の劣化を抑制することができる。
【0024】
なお、図6ではサブエレメントS1、S2がF字形の1端でエレメント11、12に接続されている構成例を示したが、図7(a)に示すようにF字形の2端でエレメント11、12に接続され、1端をサブエレメント11、12と平行になるように延伸しても構わない。また、F字形を変形して図7(b)のように構成しても構わない。この場合、例えばエレメント11にサブエレメントS1aとS1bとからなるサブエレメントS1が設けられているとすると、枝分かれ部分から見てエレメント11の給電部13側とサブエレメントS1aとに互いに逆向きの電流が流れ、枝分かれ部分から見てエレメント11の先端側とサブエレメントS1bとに互いに逆向きの電流が流れる。
【0025】
<変形例2>
図8(a)は、図1に示す多周波共用アンテナ100の変形例2を示す斜視図であり、図8(b)は、図8(a)に示す第1のアンテナ素子10及びサブエレメントSの部分を抜粋した正面図である。変形例2は、サブエレメントS1、S2の形状がL字形であるのは図1の構成と同様であるが、サブエレメントS1、S2が第1のアンテナ素子10(第1エレメント11及び第2エレメント12)を挟んで互いに逆側に設けられる点において異なる。
【0026】
図1の構成のようにサブエレメントS1、S2が第1のアンテナ素子10から見て同じ側にある場合、対称性が崩れ、指向性が特定方向に傾く可能性がある。しかし、図8に示すようにサブエレメントS1、S2を第1のアンテナ素子10を挟んで互いに逆側に設けることで対称性を保てるため、図1の構成と同等の指向性改善効果を得つつ、指向性が特定方向に傾くのを防ぐことができる。更に、図8(a)に示すように、第1のアンテナ素子10と隣接する第1のアンテナ素子10nについて、サブエレメントS1、S2が接続される側を、第1のアンテナ素子10において接続される側と反転させることで、アンテナ全体として対称性を高めることができる。
【0027】
<変形例3>
図9(a)は、図1に示す多周波共用アンテナ100の変形例3を示す斜視図であり、図9(b)は、図9(a)に示す第1のアンテナ素子10及びサブエレメントSの部分を抜粋した正面図である。変形例3は、サブエレメントの形状がL字形であるのは図1の構成と同様であるが、サブエレメントを第1のアンテナ素子10(第1エレメント11及び第2エレメント12)を挟んで両側に、すなわちサブエレメントS1、S2に加え、第1エレメント11を挟んで第1サブエレメントS1と対称な位置に第3サブエレメントS3を設け、第2エレメント12を挟んで第2サブエレメントS2と対称な位置に第4サブエレメントS4を設ける点において異なる。
【0028】
このようにサブエレメントを第1のアンテナ素子10(第1エレメント11及び第2エレメント12)を挟んで対称に設けることで、アンテナ全体として対称性を確保できるため、図1の構成と同等の指向性改善効果を得つつ、指向性が特定方向に傾くのを防ぐことができる。
【0029】
なお、1つのエレメントに1組のサブエレメントを設ける構成を説明したが、複数組設けても構わない。
【実施例2】
【0030】
図10は、本発明の多周波共用アンテナ200の構成例を示す斜視図である。多周波共用アンテナ200は、1つ以上の周波数帯で電波を放射する第1のアンテナ素子10と第1のアンテナ素子10とは異なる1つ以上の周波数帯で電波を放射する第2のアンテナ素子20が、それぞれ直線上(例えば、水平方向または垂直方向)に複数配列されることによって構成される点については、図16に示す従来の多周波共用アンテナ1と同様であるが、第1のアンテナ素子10に、長手方向の縁部の一部を開口部とする切り込みKが、当該切り込みKを挟んだ両側を流れる電流が互いに逆向きになるように形成されている点において異なる。
【0031】
第2のアンテナ素子20に給電されると、第1のアンテナ素子10にも電流が誘起される。しかし、第1のアンテナ素子10に先端が第1のアンテナ素子10の長手方向に延伸されている切り込みKが形成されていると、切り込みKの長手方向部分を挟んだ一方の側と他方の側とで逆向きの電流が流れ、これらの電流が指向性に与える影響が互いに打ち消し合うため、指向性の劣化を抑制することができる。つまり、第1のアンテナ素子10において誘起電流が流れる経路を2つにし、それぞれに逆向きの電流が流れるように構成して、放射電波の指向性への影響が相殺されるようにすることで、指向性の劣化を抑制するという点において実施例1と共通する。
【0032】
以下、第1のアンテナ素子10および第2のアンテナ素子20がダイポールアンテナである場合を例にとって説明するが、アンテナの種別は特に問わない。
【0033】
図11(a)は、図10に示す第1のアンテナ素子10の部分を抜粋した正面図である。第1のアンテナ素子10は、第1エレメント11と第2エレメント12とが給電部13を挟んで設けられたダイポールアンテナである。また、第1エレメント11には第1の切り込みK1が、第2エレメント12には第2の切り込みK2が、それぞれエレメント11、12の長手方向の縁部の一部を開口部とし、先端が第1のアンテナ素子10の長手方向に延伸形成されている。なお、長手方向の縁部において切り込みを形成する位置は任意であり、また、各切り込みは給電部13を挟んで対称でなくても構わない。
【0034】
切り込みが無い場合、第1のアンテナ素子には図17(b)に示すように例えば左向きの電流が誘起されるが、例えば図11(a)に示すように、切り込みK1、K2をL字形とし、L字形の一辺がエレメント11、12の長手方向になるように、かつ、切り込みK1、K2の延伸された先端が互いに向かい合うように設ける。図11(b)は第2のアンテナ素子20に給電したときに第1のアンテナ素子10(第1エレメント11及び第2エレメント12)に流れる電流のイメージを図11(a)に対応させて表現したものである。図11(b)から、第1のアンテナ素子10において、切り込みK(切り込みK1、K2)の長手方向部分を挟んだ一方の側と他方の側とで逆向きの電流が流れていることがわかる。
【0035】
なお、多周波共用アンテナ200の切り込みK1、K2の形状は、延伸方向の幅が図11(a)に示すような等幅であるものに限られず、例えば図12に示すように延伸方向にテーパ状に広がっていくものであっても構わない。
【0036】
以上のように、本発明の多周波共用アンテナ200によれば、アンテナ素子に簡単な切り込みを形成することで、他のアンテナ素子からの誘起電流が切り込みを挟んだ一方の側と他方の側で互い逆向きに流れて指向性への影響を打ち消し合うため、アンテナのサイズを大きくすることなく、指向性の劣化を抑制することができる。
【0037】
<変形例1>
図13(a)は、図10に示す多周波共用アンテナ200の変形例1を示す斜視図であり、図13(b)は、図13(a)に示す第1のアンテナ素子10の部分を抜粋した正面図である。変形例1は、切り込みK1、K2の形状がT字形である点において図10の構成と異なる。しかし、T字形の切り込みK1、K2を、図13(b)に示すように、それぞれのT字の両端をエレメント11、12と平行になるように延伸形成することで、図10に示す構成と同様に、誘起電流が切り込みK(切り込みK1、K2)の長手方向部分を挟んだ一方の側と他方の側とで逆向きに流れて指向性への影響を打ち消し合うため、指向性の劣化を抑制することができる。
【0038】
<変形例2>
図14(a)は、図10に示す多周波共用アンテナ100の変形例2を示す斜視図であり、図14(b)は、図14(a)に示す第1のアンテナ素子10の部分を抜粋した正面図である。変形例2は、切り込みの形状がL字形であるのは図10の構成と同様であるが、切り込みを第1のアンテナ素子10(第1エレメント11及び第2エレメント12)の長手方向の両側の縁部から、すなわち切り込みK1、K2に加え、第1エレメント11の中心軸を挟んで第1の切り込みK1と対称な位置に第3の切り込みK3を設け、第2エレメント12の中心軸を挟んで第2の切り込みK2と対称な位置に第4の切り込みK4を設ける点において異なる。
【0039】
図10の構成のように切り込みK1、K2が第1のアンテナ素子10の中心軸から見て同じ側にある場合、対称性が崩れ、指向性が特定方向に傾く可能性がある。そこで、切り込みを第1のアンテナ素子10(第1エレメント11及び第2エレメント12)の中心軸を挟んで対称に設けることで、アンテナ全体として対称性を確保できるため、図10の構成と同等の指向性改善効果を得つつ、指向性が特定方向に傾くのを防ぐことができる。
【実施例3】
【0040】
実施例1、2では、各アンテナ素子に水平偏波素子を用いた場合について説明したが、垂直偏波素子、+45°偏波素子、−45°偏波素子、垂直・水平偏波共用素子、±45°偏波共用素子のいずれでも適用可能である。例えば、図15に示すように、第2のアンテナ素子20を45°偏波素子としても同様の効果が期待できる。
また、実施例1、2では、第1のアンテナ素子10を水平方向に1素子、垂直方向に3素子配置し、第2のアンテナ素子20を水平方向に1素子、垂直方向に4素子配置する構成について説明したが、第1のアンテナ素子10と第2のアンテナ素子20は共に任意の数に設定可能である。
【0041】
また、アンテナに無給電素子を設けた場合、その無給電素子にも想定外の周波数帯の電流が流れる可能性があるが、このような場合にも本発明を無給電素子に適用することで、その影響を抑制することができる。
【0042】
また、実施例1のサブエレメントSと実施例2の切り込みKを1つの素子またはアンテナにおいて組み合わせて適用しても指向性改善効果が期待できる。
【0043】
以上説明した、本発明の多周波共用アンテナ100の構成は、上記の実施例の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1、100 多周波共用アンテナ
2 アンテナ
10、10n 第1のアンテナ素子
11 第1エレメント
12 第2エレメント
13 給電部
20 第2のアンテナ素子
30 反射板
S1、S1a、S1b、S2、S3、S4 サブエレメント
K1、K2、K3、K4 切り込み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の周波数帯で電波を放射する第1のアンテナ素子と第1のアンテナ素子とは異なる1つ以上の周波数帯で電波を放射する第2のアンテナ素子が、それぞれ直線上に複数配列されることによって構成される多周波共用アンテナであって、
前記第1のアンテナ素子には、長手方向の途中で枝分かれしたサブエレメントが設けられ、
前記サブエレメントは、そこを流れる電流の向きが前記第1のアンテナ素子に流れる電流の向きと逆になるように設けられている
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項2】
請求項1に記載の多周波共用アンテナであって、
前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子はダイポールアンテナ素子であり、
前記第1のアンテナ素子は、給電部を挟んで第1エレメントと第2エレメントを備え、
前記サブエレメントは、前記第1エレメントと前記第2エレメントにそれぞれ設けられている
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項3】
請求項2に記載の多周波共用アンテナであって、
前記第1エレメントのサブエレメントと前記第2エレメントのサブエレメントは、前記第1のアンテナ素子を挟んで互いに逆側に設けられる
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項4】
請求項2に記載の多周波共用アンテナであって、
前記第1エレメントのサブエレメントは、前記第1エレメントを挟んで両側に設けられ、
前記第2エレメントのサブエレメントは、前記第2エレメントを挟んで両側に設けられる
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の多周波共用アンテナであって、
前記サブエレメントはL字形又はL字形を含む形状である
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の多周波共用アンテナであって、
前記サブエレメントの長さは、前記第1のアンテナ素子の使用周波数帯において前記サブエレメントに流れる電流がより少なくなり、かつ、前記第2のアンテナ素子の使用周波数帯において電流がより多くなる長さに設定される
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項7】
1つ以上の周波数帯で電波を放射する第1のアンテナ素子と第1のアンテナ素子とは異なる1つ以上の周波数帯で電波を放射する第2のアンテナ素子が、それぞれ直線上に複数配列されることによって構成される多周波共用アンテナであって、
前記第1のアンテナ素子は、長手方向の縁部の一部を開口部とする切り込みが、当該切込みを挟んだ両側を流れる電流が互いに逆向きになるように形成されている
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項8】
請求項7に記載の多周波共用アンテナであって、
前記第1のアンテナ素子と前記第2のアンテナ素子はダイポールアンテナ素子であり、
前記第1のアンテナ素子は、給電部を挟んで第1エレメントと第2エレメントを備え、
前記切り込みは、前記第1エレメントと前記第2エレメントにそれぞれ設けられている
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項9】
請求項8に記載の多周波共用アンテナであって、
前記第1エレメントの切り込みは、前記第1エレメントの長手方向の両側の縁部からそれぞれ形成され、
前記第2エレメントの切り込みは、前記第2エレメントの長手方向の両側の縁部からそれぞれ形成される
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかに記載の多周波共用アンテナであって、
前記切り込みはL字形又はL字形を含む形状である
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の多周波共用アンテナであって、
前記第1のアンテナと前記第2のアンテナは、垂直偏波アンテナ素子、水平偏波アンテナ素子、+45°偏波素子、−45°偏波素子、垂直・水平偏波共用アンテナ素子、又は±45°偏波共用素子のいずれかである
ことを特徴とする多周波共用アンテナ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図2】
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【図11】
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【図17】
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