説明

多孔フィルムの製造方法

【課題】多孔フィルムを効率よく製造する。
【解決手段】溶液調製工程81ではポリマーが溶媒に均一に溶解した溶液をつくる。溶媒はポリマーの良溶媒と貧溶媒とを含む。膜形成工程82では溶液が塗布ダイから支持体に向けて流出する。流出した溶液は支持体上で塗布膜となる。塗布膜に湿潤空気をあてて、水滴形成工程83と流動性低下工程85とを平行して行う。水滴形成工程83により、塗布膜の表面に水滴が形成する。流動性低下工程85により、塗布膜から良溶媒が蒸発し、塗布膜をなす溶液の流動性が低下する。水滴蒸発工程84では、塗布膜に乾燥空気をあてる。塗布膜から溶媒及び水滴が蒸発し、塗布膜から多孔フィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、光学分野や電子分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、これらの分野に用いられるフィルムに対しては、より微細な構造(微細パターン構造)を形成すること(微細パターニング)が強く求められている。また、再生医療分野の研究においては、表面に微細な構造を有するフィルムが、細胞培養の場となる材料として有効である。
【0003】
フィルムの微細パターニングには、マスクを用いた蒸着法、光化学反応ならびに重合反応を用いた光リソグラフィ技術、レーザーアブレーション技術など種々の方法が実用化されている。
【0004】
上記以外のフィルムの微細パターニングとして、ポリマーの溶液からなる塗布膜に湿った空気をあてて、多数の孔を有する多孔フィルムをつくる方法が知られている(例えば、特許文献1、2参照)。この多孔フィルムの製造方法の概略について簡単に説明する。まず、多孔フィルムの原料となる疎水性ポリマー及び疎水性溶媒を含む溶液を支持体上に塗布して、支持体上に塗布膜を形成する。次に、塗布膜の表面のうち露出する面(以下、露出面と称する)に湿潤空気をあてると、露出面には結露により水滴が形成する。形成した水滴は毛細管力等により配列する。引き続き、湿潤空気を供給することにより、形成した水滴は成長する。そして、水滴が所望の寸法まで成長した後、湿潤空気の供給を止める。その後、所定の気体を供給して、塗布膜から溶媒を蒸発させる。これにより、塗布膜を構成する溶液の流動性が低下する結果、水滴が鋳型となって多数の孔を有する前駆体を得ることができる。最後に、前駆体に乾燥空気をあてて、水滴及び残留した溶媒を蒸発させることにより、多孔フィルムを得ることができる。
【0005】
上記の方法で得られる多孔フィルムの孔の寸法や形成密度は、製造過程における、水滴の核形成や核成長の進行度に影響を受けることが知られている。また、露出面の温度TSと露出面の近傍の空気の露点TDとによって表されるパラメータΔTw(=TD−TS)を適宜調節することにより、水滴の核形成や核成長の進行度を調節できることが知られている。したがって、適宜調節されたパラメータΔTwの条件の下、露出面に水滴を形成する、或いは水滴を成長させることにより、最終的に得られる多孔フィルムの孔の寸法や形成密度を所望のものにすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−157574号公報
【特許文献2】特開2007−291367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような多孔フィルムの製造方法において、塗布膜における水滴の形成、成長や配列を可能にするために、塗布膜を構成する溶液の粘度はできるだけ低いことが好ましい。したがって、この多孔フィルムの製造方法では、溶媒の含有量が疎水性ポリマーの含有量に対して極めて大きい溶液を用いる必要がある。
【0008】
このように、溶媒の含有量が極めて高い溶液を用いて多孔フィルムを造る場合、塗布膜に含まれる溶媒のほとんどを蒸発するためには、膨大な時間が必要となる。このため、多孔フィルムの生産効率の向上が困難であった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するものであり、効率よく多孔フィルムを製造することができる多孔フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の多孔フィルムの製造方法は、疎水性ポリマー及び溶媒を含む溶液からなる膜を支持体上に形成する膜形成工程と、結露により水滴を前記膜に形成する水滴形成工程と、前記膜をなす前記溶液の流動性を低下するために、前記膜から前記溶媒を蒸発させる流動性低下工程と、この流動性低下工程を経た前記膜に前記水滴を鋳型とする孔を形成するために、前記膜から前記水滴を蒸発させる水滴蒸発工程とを有し、前記膜形成工程における前記溶媒には前記疎水性ポリマーの良溶媒及び前記疎水性ポリマーの貧溶媒が含まれ、前記流動性低下工程では前記良溶媒を前記膜から蒸発させ、前記水滴形成工程と前記流動性低下工程とを並行して行うことを特徴とする。
【0011】
また、前記貧溶媒は疎水性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前記疎水性ポリマーの良溶媒及び前記疎水性ポリマーの貧溶媒が含まれる溶媒を用いるため、従来に比べて、水滴形成工程の開始から水滴蒸発工程の完了までに要する時間を短くすることができる。したがって、本発明によれば、多孔フィルムを効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は、複数の貫通孔を有する多孔フィルムの概要を示す平面図であり、(B)はB−B線断面図、(C)はC−C線断面図である。(D)は、複数のくぼみを有する多孔フィルムの平面図である。
【図2】多孔フィルム製造設備の概要を示す説明図である。
【図3】第1の多孔フィルムの製造方法の概要を示す説明図である。
【図4】多孔フィルム製造設備における塗布膜の概要を示す説明図である。(A)は第1室における塗布膜の概要を示す説明図であり、(B)は第2室における塗布膜の概要を示す説明図であり、(C)は第3室における塗布膜の概要を示す説明図である。
【図5】第2の多孔フィルムの製造方法の概要を示す説明図である。
【図6】第3の多孔フィルムの製造方法の概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1(A)に示すように、本発明により得られる多孔フィルム10は、表面に孔11を有する。孔11は、ハチの巣状、いわゆるハニカム構造となるように多孔フィルム10に密に配列する。そして、図1(B)及び図1(C)に示すように、孔11は、多孔フィルム10の両表面を突き抜けるように形成される。多孔フィルム10には、隣り合う孔11が連通しないもの(図1(B)参照)及び隣り合う孔11が連通するもの(図1(C)参照)が含まれる。なお、図1(D)のように、孔11の代わりに、窪み13が片方の表面側に形成される多孔フィルム14も本発明の多孔フィルムに含まれる。
【0015】
なお、本明細書において、ハニカム構造とは、上記のように、一定形状、一定サイズの孔が連続かつ規則的に配列している構造を意味する。この規則配列は単層の場合には二次元的であり、複層の場合は三次元的にも規則性を有する。この規則性は二次元的には1つの孔の周囲を複数(例えば、6つ)の孔が取り囲むように配置され、三次元的には結晶構造の面心立方や六方晶のような構造を取って、最密充填されることが多いが、製造条件によってはこれら以外の規則性を示すこともある。なお、同一平面上において、1つの孔の周囲に形成される孔の数は、6個に限らず、3〜5個或いは7個以上でも良い。
【0016】
本発明により製造される多孔フィルム10の形態は特に限定されるものではないが、本発明は、例えば、多孔フィルム10の厚みTH1が0.05μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上30μm以下であることが特に好ましい。そして、この孔11の寸法や形成ピッチは、後述する製造条件によって異なるが、特に限定されるものではなく、例えば、孔11の径D1が0.05μm以上100μm以下であることが好ましく、0.1μm以上50μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上30μm以下であることが特に好ましい。孔11の形成ピッチP1が0.1μm以上120μm以下であることが好ましく、0.1μm以上60μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0017】
(多孔フィルム製造設備)
図2に示すように、多孔フィルム製造設備20は、支持体送出装置21、塗布室22、及び製品カット装置23から構成されている。支持体送出装置21は、支持体ロール26から帯状の支持体27を塗布室22に送り出す。塗布室22は、溶液28の塗布により、支持体27の上に塗布膜29を形成し、所定の処理によって塗布膜29から多孔フィルム10を製造する。こうして、多孔フィルム10が、塗布室22から製品カット装置23へ支持体27とともに送り出される。製品カット装置23は、得られた多孔フィルム10を、支持体27とともに所定のサイズに切断し、中間製品とする。この中間製品に対し各種加工を施すことで、最終製品が得られる。支持体27としては、ステンレス製やガラス製、さらにはポリマー製の板材が用いられる。なお、支持体送出装置21、製品カット装置23は、連続的に大量に多孔フィルム10を製造する場合に用いられるものであり、製造規模に応じて適宜省略してもよい。
【0018】
溶液28は、溶媒とこの溶媒に溶解する疎水性ポリマーとを含む。必要に応じて、溶液28に添加剤を添加してもよい。溶媒には、疎水性ポリマーの良溶媒及び疎水性ポリマーの貧溶媒が含まれる。疎水性ポリマー、良溶媒及び貧溶媒等の詳細については後述する。
【0019】
(塗布室)
塗布室22は、支持体27の走行方向(以下、X方向と称する)の上流側から順に、第1室31、第2室32、第3室33に区画されている。第1室31には、塗布ダイ35が設けられる。第2室32には送風吸引ユニット36が設けられ、第3室33には送風吸引ユニット38が設けられている。
【0020】
塗布ダイ35は、溶液28が流出するスロットを有する。スロットは、配管43を介して溶液28を貯留するタンク(図示しない)と連通する。この配管43にはポンプ44が設けられる。溶液28が流出するスロットの出口は、支持体27と対向するように塗布ダイ35に設けられる。なお、塗布ダイ35の各部の温度を調節する温調機を設けてもよい。この温調機により、スロットを流れる溶液28の温度を所定の範囲に調整することや、塗布ダイ35、特にリップ先端部45における結露を防止することが可能となる。
【0021】
第2室32には、2つの送風吸引ユニット36が、X方向に並ぶように設けられている。送風吸引ユニット36は、送風口51及び吸気口52を有するダクトと、送風部53とを備える。送風部53は、湿潤空気400の温度、露点TD、溶媒凝縮点や風量を制御する。更に、送風吸引ユニット36は、送風口51から湿潤空気400を送り出し、吸気口52から塗布膜29の周辺の気体を吸気する。なお、第2室32に送風吸引ユニット36を設ける数は、1つ、或いは3つ以上であってもよい。ここで、溶剤凝縮点とは、溶剤を含む気体を冷却していったときに、気体に含まれる溶剤の凝縮が開始する温度をいう。
【0022】
第3室33には、4つの送風吸引ユニット38が、X方向に並ぶように設けられている。送風吸引ユニット38は、送風口61及び吸気口62を有するダクトと、送風部63とを備える。送風部63は、乾燥空気404の温度、露点、溶媒凝縮点や風量を制御する。更に、送風吸引ユニット38は、送風口61から乾燥空気404を送り出し、吸気口62から塗布膜29の周辺の気体を吸気する。なお、第3室33に送風吸引ユニット38を設ける数は、1つ、2つ、3つ、或いは5つ以上であってもよい。
【0023】
各室31〜33には、複数のローラ65が適宜設けられている。ローラ65は主要なもののみ図示し、その他は省略している。このローラ65は、駆動ローラとフリーローラとから構成されている。駆動ローラが適宜配置されることにより、各室31〜33内で支持体27が一定速度で搬送される。また、各ローラ65は、図示しない温度コントローラにより各室毎に温度制御されている。また、各ローラ65の間で、支持体27に近接して表面27a(図4参照)とは反対側に、図示しない温度制御板が配置されている。温度制御板の温度は、支持体27の表面27aの温度が所定の範囲内となるように調節されている。
【0024】
塗布室22の各室31〜33には図示しない溶媒回収装置が設けられており、各室31〜33の雰囲気に含まれる溶媒を回収する。回収した溶媒は、図示しない再生装置で再生されて、溶液28の調製等に再利用される。
【0025】
次に、図2及び図3を用いて、多孔フィルムの製造方法について説明する。多孔フィルムの製造方法では、溶液調製工程81、膜形成工程82、水滴形成工程83及び水滴蒸発工程84が順次行われる。また、流動性低下工程85は、水滴形成工程83と並行して行われる。以下、各工程の詳細について説明する。
【0026】
(溶液調製工程)
溶液調製工程81では、疎水性ポリマー、良溶媒及び貧溶媒を用いて溶液28を調製する。調製された溶液28はタンクに貯留する。
【0027】
多孔フィルム製造設備20では、ローラ65は回転駆動し、支持体送出装置21は支持体27を塗布室22に送る。図示しない温度制御板により、支持体27の表面27aの温度は、所定の範囲内(0℃以上30℃以下)でほぼ一定となるように保持される。支持体27は、第1室31、第2室32、及び第3室33を、所定の速度(0.001m/分以上50m/分以下)で順次通過する。ポンプ44は、温度が所定の範囲(0℃以上30℃以下)内でほぼ一定に調節された溶液28を、タンクから塗布ダイ35へ所定の流量で供給する。
【0028】
(膜形成工程)
第1室31では膜形成工程82が行われる。膜形成工程82では、塗布ダイ35が溶液28を支持体27の表面27a上に塗布し、厚みTH0の塗布膜29を表面27a上に形成する(図4(A)参照)。厚みTH0は、溶液28の粘度及び流量、スリットのクリアランスや、支持体の移動速度などにより調節することができる。形成直後の塗布膜29の厚みTH0は1500μm以下であることが好ましく、1000μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることが特に好ましい。なお、膜厚が均一の塗布膜29を形成するためには、厚みTH0を10μm以上とすることが好ましい。
【0029】
(水滴形成工程及び流動性低下工程)
送風吸引ユニット36は、所定の条件に調節された湿潤空気400を、塗布膜29に向けて送る。塗布膜29が湿潤空気400と接触する。湿潤空気400との接触により、水滴形成工程83と流動性低下工程85とが並行して行われる。水滴形成工程83と流動性低下工程85とを並行して行うためには、例えば、送風吸引ユニット36のうちX方向上流側にあるものは水滴形成工程83のみを行い、送風吸引ユニット36のうちX方向下流側にあるものは水滴形成工程83及び流動性低下工程85を同時に行えばよい。
【0030】
第2室32における塗布膜29には溶媒403が多量に含まれるため、塗布膜29を構成する溶液は、結露による水滴402の形成、形成した水滴402の移動が可能な程度の流動性を有する。ここで水滴402の移動とは、形成した水滴402が、塗布膜29の厚み方向、またはこの厚み方向に交差する方向に移動することを含む。したがって、水滴形成工程83では、塗布膜29には水滴402が形成する。そして、形成した水滴402は、塗布膜29の中にもぐったり、塗布膜29の表面に沿って移動する。この結果、水滴402は塗布膜29においてハニカム状に並ぶ(図4(B)参照)。
【0031】
また、流動性低下工程85では、塗布膜29から溶媒403が蒸発する(図4(B)参照)。塗布膜29における溶媒403の蒸発により、塗布膜29を構成する溶液の流動性が低下するため、結露により新たな水滴402の形成や、水滴402の移動が抑えられる。流動性低下工程85は、水滴402の形成や移動が停止するまで行われる。本発明に用いる溶媒403には疎水性ポリマーの良溶媒及び疎水性ポリマーの貧溶媒が含まれるため、流動性低下工程85において塗布膜29から良溶媒が蒸発することにより、貧溶媒を含む溶液の流動性はより低下しやすくなる。したがって、本発明によれば、水滴形成工程83を従来に比べて短い時間で行うことが可能となり、従来に比べ短い時間で多孔フィルムを製造することができる。
【0032】
水滴形成工程83の開始時において、塗布膜29を構成する溶液の残留溶媒量は、400質量%以上であることが好ましい。残留溶媒量は、対象となる塗布膜からサンプル膜を採取し、採取時のサンプル膜の重量をx、サンプル膜を乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で表される。なお、溶液の残留溶媒量の算出を、サンプル膜の重量に代えて、サンプル膜の厚みから求めることも可能である。サンプル膜の厚みは、非接触方式の膜厚計測器(例えば、レーザ変位計)を用いて計測することができる。また、水滴形成工程83の開始時において、塗布膜29を構成する溶液の粘度は、100Pa・s以下であることが好ましく、10Pa・s以下であることがより好ましく、1Pa・s以下であることが特に好ましい。
【0033】
(水滴蒸発工程)
第3室33では水滴蒸発工程84が行われる。水滴蒸発工程84では、送風吸引ユニット38が、所定の条件に調節された乾燥空気404を塗布膜29に向けて送る。乾燥空気404との接触により、塗布膜29から水滴402が蒸発する。こうして、水滴蒸発工程84により、塗布膜29から多孔フィルム10が得られる。
【0034】
更に、本発明によれば、流動性低下工程85と水滴形成工程83とを並行して行うため、流動性低下工程85における各条件の制御より、水滴形成工程83の完了タイミングを調節することができる。また、水滴形成工程83に要する溶液の流動性が、膜形成工程82に要する溶液の流動性に比べて低い場合には、流動性低下工程85と水滴形成工程83とを並行して行うことにより、所望の寸法の水滴が形成した後に塗布膜から溶媒を蒸発していた従来の方法に比べて、水滴蒸発工程84を早く完了することが可能となる。したがって、本発明によれば、短時間で多孔フィルムを製造することができる。
【0035】
なお、水滴形成工程83及び水滴蒸発工程84を連続して行ってもよい。また、膜形成工程82及び水滴形成工程83を連続して行ってもよい。
【0036】
上記実施形態では、流動性低下工程85を水滴形成工程83の途中で開始したが、本発明はこれに限られず、図5に示すように、流動性低下工程85の開始を水滴形成工程83の開始よりも前にしてもよい。流動性低下工程85の開始を水滴形成工程83の開始よりも前にするためには、例えば、図2に示す多孔フィルム製造設備20において、送風吸引ユニット36のうちX方向上流側にあるものは流動性低下工程85のみを行い、送風吸引ユニット36のうちX方向下流側にあるものは、水滴形成工程83及び流動性低下工程85を同時に行えばよい。また、図6に示すように、流動性低下工程85の開始を水滴形成工程83の開始と同時にしてもよい。流動性低下工程85の開始を水滴形成工程83の開始と同時にするためには、例えば、図2に示す多孔フィルム製造設備20において、それぞれの送風吸引ユニット36が、水滴形成工程83及び流動性低下工程85を同時に行えばよい。
【0037】
なお、流動性低下工程85の完了時は、塗布膜29を構成する溶液の流動性は消失していることが好ましいが、水滴の形成または成長が抑えられる程度のものであれば流動性を有していてもよい。したがって、流動性低下工程85の完了時において、塗布膜29を構成する溶液から全ての溶媒が蒸発した状態、或いは、塗布膜29を構成する溶液に溶剤が残留している状態のいずれでもよい。流動性低下工程85の完了時において、塗布膜29を構成する溶液に溶剤が残留している場合には、塗布膜29に残留する溶媒403の蒸発タイミングは、水滴402の蒸発前でもよいし、水滴402の蒸発後でもよいし、水滴402の蒸発と同時でもよい。
【0038】
上記実施形態では、水滴形成工程83において塗布膜29の表面29aに水滴402を形成したが、本発明はこれに限られず、水滴形成工程83において水滴402の成長を行ってもよい。かかる場合には、流動性低下工程85により、水滴402の形成や移動のみならず、水滴402の成長も抑えることができる。
【0039】
(湿潤空気の条件)
水滴402の核形成、または核成長の進行度は、湿潤空気400の露点TDと、塗布膜29の表面29aの温度TSとによって表されるパラメータΔTw(=TD−TS)により調節することができる。温度TSは、支持体27の表面27aの温度や溶液28の温度により調節することができる。結露を生じさせる点から、第2室32におけるΔTwは、少なくとも0℃以上であることが好ましい。また、ΔTwは0.5℃以上30℃以下であることが好ましく、1℃以上25℃以下であることがより好ましく、1℃以上20℃以下であることが特に好ましい。
【0040】
また、湿潤空気400との接触により、塗布膜29から溶媒を蒸発させるためには、湿潤空気400の溶媒凝縮点TRと塗布膜29の近傍の雰囲気温度TAとによって表されるパラメータΔTs(=TR−TA)を所定の範囲に調節することができる。そして、このΔTsにより、流動性低下工程85の完了タイミングを調節することができるため、結果として、水滴形成工程83の完了タイミングを調節することができる。なお、雰囲気温度TAは、第2室32における雰囲気温度や湿潤空気400の温度によって調節することができる。溶媒凝縮点TRは、送風吸引ユニット36の他、溶媒回収装置により調節することができる。例えば、ΔTsは0℃より小さいことが好ましい。なお、パラメータΔTsの算出において、温度TAに代えて、湿潤空気400の温度や、表面29aの温度TSとしてもよい。
【0041】
流動性低下工程85では、塗布膜29から良溶媒を蒸発させればよく、塗布膜29から貧溶媒と良溶媒との両方を蒸発させればよい。塗布液から良溶媒を蒸発させるためには、良溶媒についてのΔTsr(=TRr−TA)を所定の範囲にすればよく、例えば、ΔTsrが0℃より小さくなる範囲にすればよい。一方、塗布膜29から貧溶媒を蒸発させるためには、貧溶媒についてのΔTsh(=TRh−TA)を所定の範囲にすればよく、例えば、ΔTshが0℃より小さくなる範囲にすればよい。なお、溶媒凝縮点TRhは貧溶媒についての凝縮点TRであり、溶媒凝縮点TRrは良溶媒についての凝縮点TRである。また、良溶媒の蒸発を貧溶媒の蒸発に比べて優先的に行うことにより、流動性低下が促進されるため好ましい。良溶媒の蒸発を貧溶媒の蒸発に比べて優先的に行うためには、例えば、ΔTsrをΔTshよりも小さくすることなどが挙げられる。
【0042】
更に、良溶媒の蒸発を貧溶媒の蒸発よりも先に行うことにより、溶液の流動性の低下がより促進されるため好ましい。良溶媒の蒸発を貧溶媒の蒸発よりも先に行うためには、例えば、送風吸引ユニット36のうちX方向上流側にあるものを用いて良溶媒の蒸発を行い、送風吸引ユニット36のうちX方向下流側にあるものを用いて貧溶媒の蒸発を行ってもよい。
【0043】
このように、ΔTw及びΔTsの値を適宜組み合わせることにより、塗布膜29について、水滴形成工程83及び流動性低下工程85のいずれか一方を行う、或いは、水滴形成工程83及び流動性低下工程85を同時に行うことができる。
【0044】
このようなΔTw及びΔTsの値の組み合わせによる制御は、従来のパラメータΔTwによる制御に比べて、孔11(図1参照)の径D1の調節が容易になること、孔11の配列の規則性が向上する点でメリットがある。
【0045】
上記実施形態では、湿潤空気を用いたが、本発明はこれに限られず、湿った気体を用いてもよい。同様に、乾燥空気に代えて、乾いた気体を用いてもよい。気体としては、窒素のほか、希ガスなどを用いてもよい。
【0046】
上記実施形態では、図2に示すように、製品カット装置23は、多孔フィルム10を支持体27とともに所定の寸法に切断したが、本発明はこれに限られない。例えば、支持体27が、ステンレス製のエンドレスバンドやドラム、その他のポリマー製フィルムなどのように、第1室31〜第3室33を順次エンドレスに走行する場合には、多孔フィルム10を支持体27から剥ぎ取った後、多孔フィルム10を製品カット装置23に導入すればよい。また、少量生産の場合には、帯状の支持体27の代わりに、シート状の支持体を用いてもよい。
【0047】
(溶液)
図3及び図4に示すように、膜形成工程82において、溶液28に含まれる疎水性ポリマーの質量濃度は、支持体27の表面27a上に、膜厚が均一の塗布膜29が形成できる範囲内であれば良く、例えば、0.01質量%以上30質量%以下の範囲であることが好ましい。前記疎水性ポリマーの質量濃度が0.01質量%未満であると、フィルムの生産性に劣り工業的大量生産に適さないおそれがある。また、前記疎水性ポリマーの質量濃度が30質量%を超える質量濃度であると、溶液28の粘性が塗布膜29の形成が困難となる程度になってしまうため好ましくない。また、疎水性ポリマーの質量濃度は5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上5質量%以下であることがより好ましく、0.05質量%以上3質量%以下であることが更に好ましく、0.1質量%以上2質量%以下であることが特に好ましい。
【0048】
溶液28と水との界面張力は、5mN/m以上20mN/m以下であることが好ましい。溶液28と水との界面張力が20mN/mを超えると、溶液28の液面上に微小な水滴を形成することが困難になる点で好ましくない。溶液28と水との界面張力が5mN/m未満であると、水滴の径を大きくすることが困難となる点で好ましくない。
【0049】
(良溶媒)
良溶媒は、有機溶媒など、疎水性ポリマーを溶解させることができる溶媒であれば特に制限はなく、例えば、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン等のハロゲン系有機溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルイソブチルケトン等の非水溶性ケトン類、二硫化炭素などが挙げられる。良溶媒は単一の化合物を用いても良いし、2種以上の化合物の混合物で良い。
【0050】
(貧溶媒)
貧溶媒は、疎水性ポリマーを溶解させない溶媒で、良溶媒と相溶性を有するものが望ましい。例えば、アルコールやケトン、エーテルのような親水性溶媒や、ハイドロフルオロエーテル類等のフッ素系溶剤やペンタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタンのような常温で液体の飽和炭化水素(アルカン)のような疎水性溶媒を用いてもよい。水滴の安定性の観点から、貧溶媒として疎水性溶媒を用いることが好ましい。貧溶媒は単一の化合物を用いても良いし、2種以上の化合物の混合物で良い。
【0051】
ある物質がポリマーの貧溶媒であるか良溶媒であるかを、温度5℃以上30℃以下の範囲内において、ポリマーが全重量の5質量%となるように当該物質とポリマーとを混合することにより判断することができる。そして、その混合物中に不溶解物が有る場合には当該物質は貧溶媒であり、その混合物中に不溶解物がない場合には当該物質は良溶媒であると判断することができる。
【0052】
溶媒における良溶媒の質量濃度をMrとし、溶媒における貧溶媒の質量濃度をMhとするときに、Mh/Mrの値は0.01以上2以下であることが好ましく、0.05以上1以下であることがより好ましい。
【0053】
良溶媒の沸点BPr及び貧溶媒の沸点BPhは、いずれか一方が大きくてもよいし、等しくてもよい。また、水滴蒸発工程84開始前に流動性低下工程85を完了させるために、沸点BPr及び沸点BPhは水の沸点よりも低いことが好ましい。
【0054】
貧溶媒は、疎水性及び親水性のいずれを有してもよいが、疎水性を有することが特に好ましい。疎水性を有する貧溶媒を用いる場合には、親水性を有する貧溶媒を用いる場合に比べて、水滴が球形の状態で安定化しやすいこと、及び水滴のサイズのばらつきが抑えられることに起因して孔11(図1参照)の径D1が均一になることの点でメリットがあるためである。
【0055】
(ポリマー)
多孔フィルムの原料としては、疎水性ポリマーを用いることが好ましい。また、前記疎水性ポリマーだけでも多孔フィルムを形成することができるが、塗布膜29に形成した水滴の安定性の点から、両親媒性ポリマーを共に用いることが好ましい。
【0056】
(疎水性ポリマー)
前記疎水性ポリマーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。なお、これらのポリマーは必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
【0057】
(両親媒性ポリマー)
前記両親媒性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つ両親媒性ポリマー、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマー、などが挙げられる。
【0058】
前記疎水性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。該疎水性側鎖としては、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。前記親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0059】
前記疎水性側鎖と前記親水性側鎖との比率は、その大きさや非極性、極性の強さ、疎水性有機溶媒の疎水性の強さなどに応じて異なり一概には規定できないが、ユニット比(親水基:疎水基)=0.1:9.9〜4.5:5.5であることが好ましい。また、コポリマーの場合、疎水性側鎖の親水性側鎖の交互重合体よりも、疎水性溶媒への溶解性に影響しない範囲で疎水性側鎖と親水性側鎖がブロックを形成するブロックコポリマーであることが好ましい。
【0060】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの数平均分子量(Mn)は、1,000〜10,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。
【0061】
前記疎水性ポリマーと前記両親媒性ポリマーとの組成比率(質量比率)は、99:1〜50:50が好ましく、98:2〜70:30がより好ましい。前記両親媒性ポリマーの比率が1質量%未満であると、均一な多孔フィルムが得られなくなることがある。一方、前記両親媒性ポリマーの比率が50質量%を超えると、塗布膜の安定性、特に力学的な安定性が十分に得られなくなることがある。
【0062】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーであることも好ましい。また、前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーとともに、重合性の多官能モノマーを配合し、この配合物によりハニカム膜を形成した後、熱硬化法、紫外線硬化法、電子線硬化法等の公知の方法によって硬化処理を施すことも好ましい。
【0063】
前記疎水性ポリマー及び/又は前記両親媒性ポリマーと併用される多官能モノマーとしては、反応性の点から多官能(メタ)アクリレートが好ましい。前記多官能(メタ)アクリレートの例としては、ジペンタエリスリトールペンタアクリレ−ト、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールカプロラクトン付加物へキサアクリレート又はこれらの変性物、エポキシアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマ−、N−ビニル−2−ピロリドン、トリプロピレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、又はこれらの変性物などが使用できる。これらの多官能モノマーは耐擦傷性と柔軟性のバランスから、単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0064】
前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーは、分子内に重合性基を有する重合性(架橋性)ポリマーである場合には、前記疎水性ポリマー及び前記両親媒性ポリマーの重合性基と反応しうる重合性の多官能モノマーを併用することも好ましい。
【0065】
前記エチレン性不飽和基を有するモノマーの重合は、光ラジカル開始剤又は熱ラジカル開始剤の存在下、電離放射線の照射又は加熱により行うことができる。従って、エチレン性不飽和基を有するモノマー、光ラジカル開始剤あるいは熱ラジカル開始剤、マット粒子及び無機フィラーを含有する塗液を調製し、該塗液を透明支持体上に塗布後電離放射線又は熱による重合反応により硬化して反射防止フィルムを形成することができる。
【0066】
前記光ラジカル開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−アルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類や芳香族スルホニウム類が挙げられる。
【0067】
前記アセトフェノン類としては、例えば、2,2−エトキシアセトフェノン、p−メチルアセトフェノン、1−ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−4−メチルチオ−2−モルフォリノプロピオフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノンなどが挙げられる。
【0068】
前記ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0069】
前記ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4−クロロベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、p−クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0070】
前記ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0071】
前記光ラジカル開始剤としては、最新UV硬化技術(P.159,発行人;高薄一弘,発行所;(株)技術情報協会,1991年発行)にも種々の例が記載されている。また、市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製のイルガキュア(651,184,907)等が好ましい例として挙げられる。
【0072】
前記光ラジカル開始剤は、多官能モノマー100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜10質量部の範囲で使用することがより好ましい。
【0073】
なお、前記光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。外光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーのケトン、チオキサントン、などが挙げられる。
【0074】
前記熱ラジカル開始剤としては、例えば、有機過酸化物、無機過酸化物、有機アゾ化合物、有機ジアゾ化合物、などを用いることができる。
【0075】
具体的には、有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ハロゲンベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化アセチル、過酸化ジブチル、クメンヒドロぺルオキシド、ブチルヒドロぺルオキシドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等が挙げられる。前記アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(プロピオニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等が挙げられる。前記ジアゾ化合物としては、例えば、ジアゾアミノベンゼン、p−ニトロベンゼンジアゾニウム等が挙げられる。
【実施例】
【0076】
次に、本発明の実施例を説明する。各実験の説明は実験1で詳細に行い、実験2〜7については、実験1と同じ条件の箇所の説明は省略する。
【0077】
(実験1)
実験1では、以下組成の溶液28を調製した。そして、この溶液28に濾過処理を行い、異物を除去した。
疎水性ポリマー(ポリスチレン) 1.0質量%
両親媒性ポリマー(ポリアクリルアミド) 0.1質量%
良溶媒A(トリクロロメタン) 68.9質量%
貧溶媒B(ノルマルヘキサン) 30.0質量%
【0078】
図2に示すように、塗布ダイ35は、温度が10℃以上30℃以下の範囲内でほぼ一定の保持された溶液28を支持体27に吐出し、支持体27の表面27aに塗布膜29を形成し、膜形成工程82を行った。塗布膜29の厚みTH0は500μmであった(図4参照)。
【0079】
送風部53は、ΔTsが−30℃以上−20℃以下、ΔTwが5.0℃以上6.0℃以下の範囲内でそれぞれほぼ一定となるように湿潤空気400を調節した。そして、送風吸引ユニット36は、塗布膜29に湿潤空気400をあてて、水滴形成工程83及び流動性低下工程85を同時に行った。送風吸引ユニット36から送り出された湿潤空気400の風速は、0.5m/秒であった。
【0080】
送風部63は、ΔTsが−30℃以上−20℃以下、ΔTwが−6.0℃以上−5.0℃以下の範囲内でそれぞれほぼ一定となるように乾燥空気404を調節した。そして、送風吸引ユニット38は、塗布膜29に乾燥空気404をあてて、水滴蒸発工程84を行った。送風吸引ユニット38から送り出された乾燥空気404の風速は、5.0m/秒であった。
【0081】
水滴形成工程83及び流動性低下工程85の所要時間T1(図3参照)、及び水滴蒸発工程84の所要時間T2(図3参照)の和である時間Txを測定した。
【0082】
得られた多孔フィルム10の厚みTH1が約3.0μmであり、孔11の径D1が約5.0μmであり、孔11の形成ピッチP1が約6.0μmであった。
【0083】
(実験2〜7)
実験2〜7では、表1に示す値にしたこと以外は実験1と同様にして多孔フィルム10を製造した。表1に、実験1〜7に用いた、疎水性ポリマーの化合物名、良溶媒Aの化合物名、良溶媒Aの濃度Mr、貧溶媒Bの化合物名、貧溶媒Bの濃度Mh、及びMh/Mrを示す。濃度Mrは溶液における良溶媒の質量濃度を表し、濃度Mhは溶液における貧溶媒の質量濃度を表す。実験6において、貧溶媒Bとして用いたフッ素系溶剤は、旭硝子社製の「アサヒクリン AK−225」である。
【0084】
【表1】

【0085】
(評価)
実験1〜7において、以下の項目について評価した。各項目についての評価結果は表1に示す。表1における評価結果の番号は、以下の項目に付された番号を表す。
【0086】
1.生産性の評価
実験1〜7について、以下基準で評価した。
A:Txの値が5分以内であった。
B:Txの値が5分より大きく10分以内であった。
C:Txの値が10分より大きく20分以内であった。
D:Txの値が20分より大きかった。
【0087】
2.品質の評価
実験1〜7により得られた多孔フィルム10の表面の光学顕微鏡写真(倍率は2500倍)において、縦120μm、横90μmの範囲に存在する孔について画像解析を行い、それぞれの孔の径を測定し、孔の径の平均値DAV、孔の径の標準偏差σD、及び孔径変動係数Xを算出した。孔径変動係数Xは、(σD/DAV)×100で示される。そして、孔径変動係数Xを、下記の基準に基づいて評価した。なお、孔径変動係数Xの評価結果を表1に示す。
A:孔径変動係数Xが5%以下であった。
B:孔径変動係数Xが5%より大きく10%以下であった。
C:孔径変動係数Xが10%より大きく15%以下であった。
D:孔径変動係数Xが15%より大きかった。
【0088】
実験1〜7の結果より、本発明によれば、効率よく多孔フィルムを製造できることができることがわかった。
【符号の説明】
【0089】
10、14 多孔フィルム
11 孔
20 多孔フィルム製造設備
22 塗布室
27 支持体
28 溶液
29 塗布膜
81 溶液調製工程
82 膜形成工程
83 水滴形成工程
84 水滴蒸発工程
85 流動性低下工程
88 水滴成長工程
400 湿潤空気
402 水滴
403 溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ポリマー及び溶媒を含む溶液からなる膜を支持体上に形成する膜形成工程と、
結露により水滴を前記膜に形成する水滴形成工程と、
前記膜をなす前記溶液の流動性を低下するために、前記膜から前記溶媒を蒸発させる流動性低下工程と、
この流動性低下工程を経た前記膜に前記水滴を鋳型とする孔を形成するために、前記膜から前記水滴を蒸発させる水滴蒸発工程とを有し、
前記膜形成工程における前記溶媒には前記疎水性ポリマーの良溶媒及び前記疎水性ポリマーの貧溶媒が含まれ、
前記流動性低下工程では前記良溶媒を前記膜から蒸発させ、
前記水滴形成工程と前記流動性低下工程とを並行して行うことを特徴とする多孔フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記貧溶媒は疎水性を有することを特徴とする請求項1記載の多孔フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−32314(P2011−32314A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177535(P2009−177535)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】