説明

多孔プレート、機能的透過膜および人工臓器

【課題】バリアメンブレンやその他の用途に利用できる多孔プレート、および、かかる多孔プレートを利用した機能的透過膜および人工臓器を提供する。
【解決手段】板状のプレートに複数の貫通孔2が形成されたプレート1であって、複数の貫通孔2の孔径が、φ1〜φ50μmであり、隣接する貫通孔2の中心軸間距離が、3〜300μmである。粉末焼結多孔質体が有する空孔や流体通路と同等の径を有する貫通孔を有しており、しかも、貫通孔密度が粉末焼結多孔質体における空孔等と同程度の密度であるから、粉末焼結多孔質体と同等の機能を有しつつ、粉末焼結多孔質体に比べて流体が通過するときに発生する圧力損失を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔プレート、機能的透過膜および人工臓器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体は損傷や疾病によって失われた組織を自律回復する能力を有する一方で、損傷を迅速に回復するため、まずは損傷部を上皮組織などの増殖速度の速い組織に被覆させ、創面を閉鎖することを優先する傾向がある。そのため、損失した組織部分を元来のものではない組織が支配してしまい、損傷前の形態や機能が回復できないことがしばしば生じる。
【0003】
たとえば慢性辺縁性歯周炎(歯周病)では、歯を支持する歯槽骨が炎症反応によって破壊され、失われた歯槽骨部分が肉芽組織や上皮粘膜に置換されると、たとえ炎症反応が消失してもひとたび失われた歯槽骨は回復しない。歯槽骨には増殖、回復能力が備わっているが、かつての自らのスペースは他の組織に支配されている以上、それを排除して増殖・回復していくまでのポテンシャルは持ち合わせていないからである。
【0004】
既に安定して存在する他の組織を浸食しないという、生体組織の恒常性を維持するための大原則が、この場合は本来の組織形態への回復を妨げることになってしまう。ちなみにこの大原則を無視して他の組織を浸食するのが悪性腫瘍である。
【0005】
しかし裏を返せば、ひとたび他組織に支配された空間を何らかの手段で解放することで、元来あるべき組織がその空間に進捗して再支配を行えることが明らかとなっている。歯周病によって失われた歯槽骨を回復する手段として、1982年にNymanらはミリポアフィルターを用いたスペースメイキング法によって、かつて歯槽骨が支配して空間を退行した歯槽骨側に解放することで歯槽骨の増殖と伸展を誘導することに成功した。この方法は現在、歯周組織再生誘導法(GTR:guided tissue regeneration)として歯科臨床に普及している。
【0006】
現在の歯周組織再生誘導法では、疾病や外傷に陥って喪失した歯周組織を再生し回復する方法の一つとして、細胞を通過させず、栄養や生理活性物質のみを透過できるフィルター作用を持つ生体組織再生用隔壁膜(バリアメンブレン)を用いて、歯周組織内にスペースメイキングを施し、歯槽骨を再生するGTRが行われている。
【0007】
バリアメンブレンとしては、その開発当初より、生体に対する親和性ならびに安全性を有する高分子材料が素材として利用され、その製品の多くは、上記の条件を満たすためにその素材を繊維として重層化することで構成されるミリポアフィルターとなっている。
【0008】
また、このようなフィルター型バリアメンブレンは安全性と生体親和性に加え,再生を誘導する組織に栄養を供給しながらそれ以外の細胞や組織の侵入を阻止する機能が要求されるので,現状ではその素材はPTFE(テフロン)やポリ乳酸などの生体親和性高分子素材に限られる。そのため,膜自体の強度の問題が常に付きまとっている。
【0009】
フィルター型バリアメンブレンは、生体内における組織再生するスペースを維持するため、形状を維持する物理的強度が確保されなければならず、その膜厚は工場出荷時には200ミクロン以上、生体内に埋設された後は膨潤作用により約400ミクロンの厚さ(Biomend)を占める。
【0010】
その膜厚が必要な理由とは、生体内においてバリアメンブレンが周囲組織からの圧力と拮抗し,所望する再生組織が伸長をするスペースを維持するための強度が充分でなければ,バリアメンブレンは押しつぶされ組織再生は望めないためである。実際,バリアメンブレンには、チタニウム製の補強フレームを併せることで強度を確保している製品すら存在する。
【0011】
しかし、これを生体内への埋設する際に、その厚みのゆえに、たとえ生体親和性を有していてもバリアメンブレンそのもののボリュームが、周囲組織への圧迫などの障害を与え、本来の目的である組織再生に悪影響を及ぼす可能性がある。従って、バリアメンブレンには組織再生スペースを確保する強度を保ちながら、再生を意図する組織への栄養供給を維持する機能を有する、かつ、より厚みの少ない新規材料が求められている。
【0012】
かかる新規材料として、200ミクロン以上の厚さを有する生体親和性高分子素材と同程度の膜強度を有しながら、膜厚さを50ミクロン程度まで菲薄化することを可能とする、金属等からなるバリアメンブレンを使用することが考慮される。
【0013】
バリアメンブレンには生体親和性が必要になるので、医学領域において広く利用されているチタニウム、とくに、高い生体親和性を有する純チタニウムの適用が考えられる。
【0014】
一方、金属性のバリアメンブレンをフィルター型バリアメンブレンと使用するには、前述した生体親和性高分子素材性のバリアメンブレンが具備する条件の中で特に重要なフィルター機能を金属性のバリアメンブレンに付与する必要がある。かかるフィルター機能を金属性のバリアメンブレンに付与するには、ミクロンオーダーの微細精密加工を金属性のプレート等に施す必要がある。
【0015】
しかし、現状では、純チタニウムやチタニウム合金は、非常に加工が困難であり、ミクロンオーダー微細精密加工はさらに困難と言わざるを得ない。
【0016】
レーザー等による熱切削や熱穿孔が行えば、純チタニウムやチタニウム合金であっても精密加工を行うことができる可能性があるものの、素材に熱変性が生じることで、本来チタニウムが有する良好な生体親和性が損なわれ、物性も劣化する恐れがある。例えば、純チタニウムは熱加工によって周囲雰囲気に含まれる酸素や他の元素と容易に結合し変性してしまうという問題がある。かかる問題は、他の金属性の材料をレーザー等による加工を行った場合でも生じる可能性がある。
【0017】
以上のごとき問題があるので、薄く充分な強度な有し、かつ良好な生体親和性を有するバリアメンブレンは開発されておらず、かかるバリアメンブレンが求められている。
【0018】
そして、上述したバリアメンブレンのように、薄く充分な強度な有しかつミクロンオーダー細孔が多数設けられた多孔プレートは、GTRのスペースメイキング以外にも、多種多様な用途が考えられる。例えば、半導体製造装置(流量コントローラー)、メンブレンリアクター(膜利用反応プロセス)、精密濾過膜、電気分解(電解反応電極)、バイオ(細胞分離)、食品(酵母濾過)、医療(除菌濾過)等において流体を通過させる部材として使用することができる。
しかし、現在のところ、上記用途を十分に満たすような多孔プレートは開発されておらず、その開発が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は上記事情に鑑み、バリアメンブレンやその他の用途に利用できる多孔プレート、および、かかる多孔プレートを利用した機能的透過膜および人工臓器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
第1発明の多孔プレートは、板状のプレートに複数の貫通孔が形成されたプレートであって、前記複数の貫通孔の孔径が、φ1〜φ50μmであり、隣接する前記貫通孔の中心軸間距離が、3〜300μmであることを特徴とする。
第2発明の多孔プレートは、第1発明において、前記プレートの板厚が、2〜100μmであることを特徴とする。
第3発明の多孔プレートは、第1または第2発明において、前記貫通孔の一端部には、テーパ面が形成されていることを特徴とする。
第4発明の多孔プレートは、第1、第2または第3発明において、組織隔離用薄型金属製透過膜またはバリアメンブレンとして使用されるプレートであり、該プレートの素材が、生体親和性を有する金属、セラミックス、プラスチックまたはポリマーであり、前記複数の貫通孔の孔径が、φ1〜φ10μmであることを特徴とする。
第5発明の多孔プレートは、第1、第2または第3発明において、組織隔離用薄型金属製透過膜またはバリアメンブレンとして使用されるプレートであり、該プレートの素材が、生体親和性を有する金属、セラミックス、プラスチックまたはポリマーであり、前記複数の貫通孔の孔径が、φ10μm以上であり、該プレートの表面には、孔径がφ1〜φ10μmの貫通孔を有するポリマー薄膜層が設けられていることを特徴とする。
第6発明の機能的透過膜は、金属製または金属・ポリマー複合製の第1乃至5発明記載の多孔プレートであって、該多孔プレートにおける貫通孔に、生理活性物質および/または薬品を含有させていることを特徴とする。
第7発明の人工臓器は、第1乃至5発明記載の多孔プレートによって形成された外枠と、該外枠内に収容された、人工的に培養された臓器細胞群とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
第1発明によれば、粉末焼結多孔質体が有する空孔や流体通路と同等の径を有する貫通孔を有しており、しかも、貫通孔密度が粉末焼結多孔質体における空孔等と同程度の密度であるから、粉末焼結多孔質体と同等の機能を有しつつ、粉末焼結多孔質体に比べて流体が通過するときに発生する圧力損失を低減することができる。
第2発明によれば、プレートの強度を高くすることができる。
第3発明によれば、テーパが形成されているので、細孔表面にメッキ等でパラジュームを被覆すれば、水素の水蒸気改質に使用するリアクターとして使用した場合に、水素を高純度で分離精製することができる。
第4発明によれば、プレートの素材が、純チタニウムあるいはチタニウム合金等、生体親和性を有する金属やセラミックス、プラスチック、ポリマーであるから、生体内に配置しても、生体に悪影響を与えることがない。また、プレートに形成されている貫通孔の孔径がφ1〜φ10μmであるから、ヒトの細胞の通過を防ぎつつ、細胞増殖および分化を制御するサイトカイン等生理活性物質、栄養およびガス成分を通過させることができる。このため、プレートによって、生体内に空間を形成しかつその空間内に特定の細胞が侵入することを防ぎつつ、空間内に栄養分などを供給することが可能となる。
第5発明によれば、プレートの素材が、純チタニウムあるいはチタニウム合金等、生体親和性を有する金属やセラミックス、プラスチック、ポリマーであるから、生体内に配置しても、生体に悪影響を与えることがない。また、プレート表面のポリマー薄膜層に形成されている貫通孔の孔径がφ1〜φ10μmであるから、ヒトの細胞の通過を防ぎつつ、細胞増殖および分化を制御するサイトカイン等生理活性物質、栄養およびガス成分を通過させることができる。このため、プレートによって、生体内に空間を形成しかつその空間内に特定の細胞が侵入することを防ぎつつ、空間内に栄養分などを供給することが可能となる。
第6発明によれば、プレートの貫通孔に、組織成長因子やサイトカイン等生理活性物質の他、抗生物質や抗癌剤等各種薬品を含有させているので、プレートを生体内に配置し、プレートの金属部分に荷電すれば、電気泳動によって貫通孔内の生理活性物質や薬品を生体内に放出させることができる。
第7発明によれば、外枠内に培養された臓器細胞群を収容しているので、生体内に配置し、臓器細胞群を血管系と接続すれば、外枠内に封止された細胞群の生活を維持するとともに、血液中に細胞群に由来する生理活性物質を放出あるいは血液中の老廃物を除去ないしは浄化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の多孔プレート1の概略平面図である。
【図2】本発明の多孔プレート1の概略説明図である。
【図3】本発明の多孔プレート1を歯周組織再生誘導法におけるスペースメイキングに使用した状況の概略説明図である。
【図4】本発明の多孔プレート1を歯周組織再生誘導法におけるスペースメイキングに使用した状況において、本発明の多孔プレート1と栄養分8および細胞9との関係を説明した図である。
【図5】歯周組織内部に設置する本発明の多孔プレート10の一例を示した図である。
【図6】本発明の多孔プレート10を歯周組織内部に設置する手術の概略説明図である。
【図7】本発明の多孔プレート10を歯周組織内部に設置する手術の概略説明図である。
【図8】本発明の多孔プレート10を歯周組織内部に設置する手術の概略説明図である。
【図9】本発明の多孔プレート10を歯周組織内部に設置する手術の概略説明図である。
【図10】本発明の多孔プレートの顕微鏡写真である。
【図11】本発明の多孔プレート1においてプレートの表面に設けられるポリマー薄膜層の概略説明図である。
【図12】本実施形態の多孔プレート1を加工する加工装置101の概略斜視図である。
【図13】多孔プレート1を加工する状況における加工装置101の概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は(A)のB−B線矢視図である。
【図14】加工装置101によって多孔プレート1を加工する状況の概略説明図である。
【図15】パンチPを加工する状況における加工装置101の概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は(A)のB−B線矢視図である。
【図16】加工装置101によってパンチPを加工する状況の概略説明図である。
【図17】ダイスDを加工する状況における加工装置101の概略説明図であって、(A)は正面図であり、(B)は加工状況の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の多孔プレート1は、板状のプレートに多数の微細孔が形成されたプレートである。
本発明の多孔プレート1は、種々の用途に使用することが可能なプレートである。例えば、医科における再生医療材料や医療機器(例えば、機能的透過膜や人工臓器の細胞を保持する枠等)や、半導体製造装置(流量コントローラー)、メンブレンリアクター(膜利用反応プロセス)、精密濾過膜、電気分解(電解反応電極)、バイオ(細胞分離)、食品(酵母濾過)、医療(除菌濾過)等において流体を通過させる部材として使用することができる。
【0024】
とくに、本発明の多孔プレート1は、歯科における歯周再生治療を目的として、歯周病や、歯の喪失によって破壊・吸収された歯槽骨を増生・復元する外科手術に用いる組織隔壁膜、臓器由来培養細胞の格納シェルとして利用することに適している。
例えば、GTRにおけるスペースメイキングの際に、再生を目的とする組織を呼び入れるために使用される、生体組織内に空間を囲繞して確保する際に用いられるバリアメンブレンでは、1)生体親和性ならびに安全性に優れていること、2)スペースを維持し続ける強度を有すること、3)誘導する組織に栄養を供給しうる半透過性(フィルター機能)を有すること、4)誘導する以外の細胞の進入が阻止できること、という機能が必要である。かかるバリアメンブレンに、本発明の多孔プレート1は適している。
【0025】
(多孔プレート1の説明)
図1に示すように、本発明の多孔プレート1は、板状の部材(以下、本体という)に対して多数の貫通孔2を形成したものである。
【0026】
(本体の説明)
本体は、板状に形成された部材である。この本体は、板状であればその板厚はとくに限定されない。しかし、上述した用途で使用する場合であれば、その板厚が、2〜100μm程度、好ましくは、2〜30μm程度に形成されていることが好ましい。
本体の素材もとくに限定されず、各用途に応じた最適なものを採用することができる。例えば、再生医療材料や医療機器等、生体に使用する場合であれば、純チタニウムあるいはチタニウム合金等の生体親和性を有する金属や、セラミックス、プラスチック、ポリマーとすることが好ましい。かかる素材とすると、多孔プレート1を生体内に配置しても、生体に悪影響を与えることがない。とくに、純チタニウムを用いれば、優れた生体親和性と細胞生育促進能力が期待できる。具体的には、歯科臨床における新規歯周組織再生材料としての用途はもちろん、再生医療用の材料、例えば、人工臓器の材料としても優れた機能を発揮させることができる。
【0027】
(貫通孔2の説明)
また、多孔プレート1には、複数の貫通孔2が設けられている。複数の貫通孔2は、各用途において所定の機能を発揮するように適切に形成されればよく、その直径や隣接する貫通孔2の中心軸間距離(つまり、貫通孔2を設ける密度)はとくに限定されない。しかし、上述したような用途で使用する場合であれば、孔径(直径)φaが約φ1〜φ50μm程度(好ましくはφ1〜φ30μm)であって、隣接する貫通孔2の中心軸間距離D1,D2が、3〜300μmであることが好ましい。
かかる直径、密度とすれば、貫通孔2が粉末焼結多孔質体の有する空孔や流体通路と同等の径を有するものとなり、しかも、貫通孔密度が粉末焼結多孔質体における空孔等と同程度の密度となる。よって、粉末焼結多孔質体と同等の機能を有しつつ、粉末焼結多孔質体に比べて、流体が通過するときに発生する圧力損失を低減することができる。
【0028】
とくに、再生医療材料や医療機器に使用するのであれば、貫通孔2の孔径(直径)φaが約φ1〜φ10μm程度であることが好ましい。
貫通孔2の孔径を上述したような大きさとすると、貫通孔2をヒトの細胞が通過することを防ぎつつ、細胞増殖および分化を制御するサイトカイン等生理活性物質、栄養およびガス成分を通過させることができる。このため、多孔プレート1によって、生体内に空間を形成しかつその空間内に特定の細胞が侵入することを防ぎつつ、空間内に栄養分などを供給することが可能となる。
そして、純チタニウムあるいはチタニウム合金等、生体親和性を有する金属を用いて貫通孔2の孔径が上記のごとき多孔プレート1を形成した場合には、従来のバリアメンブレン、例えば、歯周組織再生用バリアメンブレンに比べて大幅に薄く(約50μm)、かつ同等の機能・強度・抗菌性を有する歯周組織再生バリアメンブレンとすることができる。
【0029】
さらに、貫通孔2の一端部にテーパ面が形成されていてもよい。この場合には、細孔表面にメッキ等でパラジュームを被覆すれば、水素の水蒸気改質に使用するリアクターとして使用した場合に、水素を高純度で分離精製することができるという利点が得られる。
【0030】
(機能的透過膜)
上述したような本発明の多孔プレート1は多数の貫通孔2を有しているので、本体を金属で形成しかつこの貫通孔に生理活性物質や薬品を含有させれば、多孔プレート1を機能的透過膜とすることができる。
つまり、多孔プレート1の貫通孔2に、組織成長因子やサイトカイン等生理活性物質の他、抗生物質や抗癌剤等各種薬品を含有させた状態で、多孔プレート1を生体内に配置し、多孔プレート1の本体に荷電すれば、電気泳動によって貫通孔内の生理活性物質や薬品を生体内に放出させることも可能となる。
【0031】
(人工臓器)
また、本発明の多孔プレート1を人工臓器の基礎として使用することも可能である。
例えば、本発明の多孔プレート1をその内部に中空な部分ができるような形状とし、その中に人工的に培養された臓器細胞群を収容して人工臓器を形成したり、複数の多孔プレート1によって臓器細胞群を囲んだり挟んだりして人工臓器を形成することができる。つまり、本発明の多孔プレート1によって外枠を形成し、人工的に培養された臓器細胞群をその中に収容して人工臓器を形成することもできる。
すると、上記のごとき人工臓器を生体内に配置し、臓器細胞群を血管系と接続すれば、外枠内に封止された細胞群の生活を維持するとともに、血液中に細胞群に由来する生理活性物質を放出あるいは血液中の老廃物を除去ないしは浄化することが可能となる。
【0032】
すなわち、細胞は多孔プレート1を超えて移動することはできないので、多孔プレート1内に培養各種臓器あるいは組織由来細胞を封入できる。そして、封入されている培養各種臓器あるいは組織由来細胞を血管循環系に隣接させることで、封入された細胞は生体内部において血液循環系と機能的に連携することが可能となる。すると、多孔プレート1を介して隣在する細胞・血液あるいは組織に対して栄養のほか、ホルモン、サイトカインをはじめとする生体情報伝達物質およびメディエーターを送達・受諾あるいは交換することができる。また酸素・二酸化炭素ガスの交換が可能となるので、多孔プレート1内に封入されている培養各種臓器あるいは組織由来細胞を、いわゆる人工臓器あるいは組織として機能させることができる。例えば、多孔プレート1の有する細胞隔離機能は、格納される細胞が血管循環系に移動・流出して体内の他の組織に移動する事を厳密に防止できることから、多数の臓器細胞への分化誘導が可能でありながら、それ自身が腫瘍化のリスクが高いため、これまではヒト体内における直接的な利用が困難であったiPS細胞(人工多能性幹細胞: Induced pluripotent stem cells)を元にした、安全な体内型人工臓器を創生することができる。すなわちiPS細胞から誘導された臓器細胞を、多孔プレート1によって1重あるいは多重に封止された格納容器内部に封入した上で、上記の方法により体内循環系と接続すれば、万一iPS細胞由来の臓器に腫瘍が発生しても、それが血管に流出するおそれがないため、生体への安全は確保される。
なお、多孔プレート1内に培養各種臓器あるいは組織由来細胞を封入せず、多孔プレート1内に中空な空間を形成した状態で生体内に配置すれば、その空間に新たな臓器や組織を人工的に生成させることが可能である。
【0033】
(ポリマー層)
上記多孔プレート1を再生医療材料や医療機器に使用するのであれば、本体に直径φaが約φ1〜φ10μm程度の貫通孔2を形成するのが好ましいが、多孔プレート1を以下のごとき構成としても、同様の効果を得ることができる。
つまり、多孔プレート1の本体には、直径φaが約φ10μm以上の貫通孔2を形成し(図10参照)、本体の表面に、孔径がφ1〜φ10μmの貫通孔を有するポリマー薄膜層(図11参照)を設けてもよい。
すると、本体に形成する貫通孔2を大径にできるので本体の加工が容易になる一方、貫通孔2が大型化することで失われた細胞を通過させないフィルター機能については、ポリマー薄膜層によって維持することができる。
【0034】
かかるポリマー薄膜層には、ポリカーボネートやプリブタジエン等の生体親和性高分子材料からなるハニカムフィルムを利用することが可能である。例えば、富士フィルム株式会社(神奈川県南足柄市中沼210)にて製造販売されているポリブタジエン材による貫通型ハニカムフィルムは、厚さ10ミクロン程度でありながら、直径10ミクロン以下の微細かつ一定のポアサイズを有する貫通孔が、密集してアレイ化されている。このフィルムを本体に貼り付けてポリマー薄膜層とすれば、本体に形成する貫通孔2が大径でも、十分なフィルター機能を有した多孔プレート1とすることができる。
なお、上述したような生体親和性高分子材料は、金属板に対しては熱処理によって融着、固定することが可能であるから、本体が金属製であれば、本体へのポリマー薄膜層の固定は容易に行うことができる。
【0035】
また、ハニカムフィルムは5〜10ミクロンの任意サイズにて孔径を均一に揃えることが可能であり、フィルター機能を担保するパフォーマンスとしては申し分が無い。とくに、図11に示すようなハニカムフィルムをポリマー薄膜層とした場合、ハニカムフィルムを貫通する方向のみならず、隣接する各貫通孔間に連絡路が確保されている。よって、何らかの原因で貫通孔2あるいはハニカムフィルムの一部の孔に目詰まりが生じたとしても、ハニカムフィルム内の連絡路が迂回路となることで、多孔プレート1が閉塞状態になることを防ぐことができる。
【0036】
とくに、ポリマー薄膜層は、その内部に豊富な空洞が存在している。そこで、ポリマー薄膜層を有する多孔プレート1を機能的透過膜として使用すれば、ポリマー薄膜層を設けていない多孔プレート1と同様に、空洞内に成長因子やホルモン、サイトカインなどの他、時には培養細胞そのものを格納して生体内に用いることが可能となるから、組織再生をさらに能動的に制御することが可能となる。
【0037】
ポリマー薄膜層に封入された材料は、本発明の多孔プレート1を生体内に設置後、生体内に徐放されることで、組織再生を促す生理活性効果を作用させることが可能である。
また、本体が金属であれば、この本体を電極として通電を行うことにより生成される電位差に応じて、ポリマー薄膜層内に格納された薬物ないし生理活性物質が泳動して組織内に放出される。
すると、通電のタイミングや強度を調整することで随時薬物の放出や効果を調整できるから、組織再生に至る様々なプロセス毎に適した薬物放出行程をプログラムすることもできる。よって、より効果的な組織再生効果をもたらすことが可能である。
【0038】
なお、本体にポリマー薄膜層を設けた場合、多孔プレート1は二層構造となるが、それでも従来のバリアメンブレンに比べれば大幅に厚みが抑えることができる。よって、医療器具として使用した場合において、多孔プレート1のボリュームが与える組織再生への悪影響を低く抑えることが可能である。
【0039】
(多孔プレート1の加工方法)
上述したような本発明の多孔プレート1を加工する方法はとくに限定されないが、所定の厚さを有する板状の部材に対して、マイクロピアス技術によって小孔を多数形成すれば、本発明の多孔プレート1を設けることができる。
かかるマイクロピアス技術によって小孔を多数形成する場合には、冷間加工により多孔プレート1を形成することができる。すると、板状の部材が純チタニウムであっても、純チタニウムの持ち味である良好な生体親和性が保つことができる。
【0040】
(加工装置101)
上述したように、本発明の多孔プレート1をマイクロピアス技術により加工する場合、以下のごとき加工装置101を用いれば、熱によって容易に変性するためレーザー等による熱可能が困難であったチタニウムのような金属材料にたいしても、この冷間加工により例えばチタニウムであればその本来の良好な生体親和性という望ましい性質を100%担保しながら、高精度で本発明の多孔プレート1を加工することができる。
【0041】
図12および図13に示すように、加工装置101は、鉛直方向に沿って昇降可能に設けられた主軸102と、この主軸102の昇降方向と直交する方向、つまり水平方向に移動可能に設けられたテーブル103とを備えたものである。かかる加工装置101には、例えば、公知のマシニングセンタやNCフライス盤等を使用することができるが、上述したように作動する主軸102とテーブル103とを備えている装置であれば、加工装置101に採用することは可能である。
【0042】
図12および図13に示すように、加工装置101における前記主軸102の下端には、軸保持部102aが設けられている。この軸保持部102aは、パンチPの一端をその軸方向が鉛直方向と平行となるように保持することができるものである。例えば、公知のチャックやコレットチャック等を挙げることができるが、とくに限定されない。
なお、主軸102は、軸保持部102aに保持された状態におけるパンチPを、その中心軸まわりに回転させる軸状部材回転機構を備えているが、その理由は後述する。
【0043】
一方、図13に示すように、前記テーブル103上には、ダイスDをテーブル103に固定するダイス保持部103aが設けられている。このダイス保持部103aは、テーブル103が基準位置(原点)に配置されたときに、前記軸保持部102aの鉛直下方に位置するように配置されている。つまり、ダイス保持部103aは、テーブル103を基準位置に戻すと(原点復帰)、必ず軸保持部102aの鉛直下方に配置されるようにテーブル103上に配設されているのである。
【0044】
また、テーブル103上には、ダイス保持部103aの周囲に保持テーブル105が設けられている。この保持テーブル105は、パンチPとダイスDによって加工される被加工部材W(つまり、多孔プレート1の原材料)を加工中保持しておくものであり、主軸102によってパンチPが昇降される経路に被加工部材Wを配置できるように配設されている。そして、この保持テーブル105は、被加工部材Wをテーブル103の上面に沿って移動させることができる機能を有している。
【0045】
上述した加工装置101による被加工部材Wの加工は、以下のように行うことができる。
まず、テーブル103を原点復帰させた状態で、パンチPおよびダイスDを、主軸102およびダイス保持部103aに対してそれぞれ取り付ける。このとき、パンチPの中心軸とダイスDのダイス穴Dhの中心軸が同軸上に位置し、かつ、この軸が主軸102の中心軸CL(言い換えれば、主軸102の移動方向)と一致または平行となるように、両者を位置決めする(図13)。
ついで、加工装置101の保持テーブル105上に被加工部材Wを配置する(図13)。そして、保持テーブル105によって被加工部材Wを移動させて、被加工部材Wにおいて貫通孔hを形成する位置が中心軸CL上に配置する。
そして、被加工部材Wが所定の位置に配置されると、主軸102を昇降させる。すると、パンチPによって被加工部材Wに貫通孔hを形成することができるのである(図14(A)〜(C))。
【0046】
また、被加工部材Wは、保持テーブル105によってテーブル103の上面に沿って移動させることができるから、パンチPおよびダイスDはその位置を固定したまま被加工部材Wに貫通孔hを形成する位置を変えることができる。言い換えれば、被加工部材Wだけを移動させて、パンチPの中心軸(主軸102の中心軸CL)と被加工部材Wの位置を変えることができる。
このため、被加工部材Wにおいて貫通孔hを形成する位置を変えても、パンチPとダイスDの相対的な位置は加工開始前に位置決めした状態に保たれる。すると、パンチPとダイスDの相対的な位置を一旦正確に合わせてしまえば、軸径が非常に細いパンチPや孔径が非常に小さいダイス穴Dhを有するダイスDを使用した場合でも、被加工部材Wに複数の貫通孔hを形成したときに両者の相対的な位置にずれは生じない。
したがって、孔径の非常に小さい貫通孔h(例えば、直径1〜30μm程度)を形成する場合でも、パンチPを昇降させつつ被加工部材Wを移動させれば、被加工部材Wの異なる位置に貫通孔hを複数連続して形成することができるから、図1および図2に示すような、複数の貫通孔2が整然と配列された金属性の多孔プレート1を形成することができる。
【0047】
なお、パンチPによって多孔プレート1に貫通孔h(図1では貫通孔2)を形成する場合、その貫通孔hの孔径φaは、その孔径φaと多孔プレート1の厚さTとの比(T/φa、以下、単にアスペクト比という)が、1〜3程度が限界である。よって、アスペクト比が上記範囲以上となるような厚さのプレートに対して、パンチPによって複数の貫通孔hを形成し、多孔プレート1を製造する場合には、以下のようにすればよい。
【0048】
図14(D)〜(E)に示すように、多孔プレート1の材料となる板状の被加工部材Wにおいて、貫通孔h1を形成する部分に、予め、パンチ2の軸径φ2よりも上端開口の内径φ5が大きい凹みDTを形成しておく。すると、凹みDTの部分の厚さT1は、被加工部材Wの厚さTに比べて薄くなるので、パンチ2によって形成される貫通孔h1の実質的なアスペクト比(T1/φa)は1〜3程度とすることができる。
よって、多孔プレート1の厚さTが約2〜100μm程度であっても、約1〜30μm程度の貫通孔h1を有する多孔プレート1を形成することができる。
【0049】
また、上記方法で多孔プレート1を形成すれば、貫通孔h1の一端部にはテーパ面が形成されることになる。つまり、テーパ面を有する複数の貫通孔h1が形成された多孔プレート1を形成することができる。すると、かかる多孔プレート1は、圧力損失が小さくなるから、貫通孔h1の表面にメッキ等でパラジュームを被覆すれば、水素の水蒸気改質に使用するリアクターとして使用した場合に、水素を高純度で分離精製することができる。
【0050】
なお、凹みDTをどのような方法を用いて形成してもよく、とくに限定されないが、例えば、切削(ドリル)加工、エッチング加工、マイクロショットブラスト加工、プレス加工等を挙げることができる。さらにチタニウム等、熱変性を伴うことによってその材質の性質に著しい変化を生ずる可能性のある材料を対象とした際、熱変性の影響を考慮する必要が無い場合に限りレーザー加工を用いることが可能である。
【0051】
また、上述した保持テーブル105は、被加工部材をテーブル103の上面と水平に移動させることができるものであればよく、特に限定されない。
しかし、上述したような孔径の非常に小さい貫通孔を正確な位置に複数形成する場合には、例えば、数値制御装置付XYテーブル等のように、0.1〜5μm程度の精度で被加工部材Wを水平に移動させることができるものを使用することが好ましい。そして、かかる保持テーブル105を使用すれば、加工装置101によって、半導体製造装置(流量コントローラー)、メンブレンリアクター(膜利用反応プロセス)、精密濾過膜、電気分解(電解反応電極)、バイオ(細胞分離)、食品(酵母濾過)、医療(除菌濾過)等において流体を通過させる部材として使用される多孔プレート1であっても製造することができる。
【0052】
(機上装置の説明)
加工装置101は、上述したように、軸径の非常に細いパンチPによって被加工部材を加工することができるのであるが、軸径の非常に細いパンチPは、軸径の太いパンチPに比べて、その位置(中心軸)を上述した主軸102の中心軸CLに精度よく合わせることが非常に難しい。よって、比較的位置合わせの行い易い軸径の太いパンチ(原パンチ)をその中心軸が主軸102の中心軸CLと一致するように取り付けた上で、パンチPを所望の軸径に加工すれば、パンチPの配置を容易にしつつその位置精度も高くすることができる。
したがって、加工装置101によって上述したような多孔プレート1を加工するのであれば、加工装置101に、装置1の主軸102に取り付けられた原パンチを主軸102に取り付けたまま所望の軸径となるように加工する軸加工機構を設けることが好ましい。
以下に、加工装置101に設ける軸加工機構を説明する。
【0053】
(軸加工機構110の説明)
図12において、符号110は加工装置101に設けた軸加工機構を示している。この軸加工機構110は、加工装置101のテーブル103上において、前記ダイス保持部103aおよび前記保持テーブル105から離間した位置、つまり、パンチPによる被加工部材Wの加工の障害とならない位置に設けられている。
このため、テーブル103を移動させれば、軸加工機構110を、パンチPが昇降する経路(つまり主軸102の中心軸CLの位置、図15参照)とこの経路から離間した位置(図12参照)との間で移動させることができるのである。
【0054】
図15に示すように、軸加工機構110は、パンチPの側面を加工する研磨手段111を備えている。
【0055】
この研磨手段111は、略円筒状に形成された砥石112aと、この砥石112aが取り付けられた軸12bとからなる一対の砥石車112,112を有している。この一対の砥石車112,112は、その基端が一対の砥石車回転部113,113の主軸にそれぞれ取り付けられている。つまり、一対の砥石車回転部113,113が作動すると、一対の砥石車112,112はそれぞれその中心軸まわりに回転するようになっているのである。
【0056】
前記一対の砥石車回転部113,113は、例えば、スピンドルなどであり、それぞれ砥石車移動部114を介して、テーブル103に固定されたベース15に取り付けられている。この一対の砥石車回転部113,113は、その主軸がテーブル103の上面と平行な同一平面IP内に位置し、しかも、その主軸同士が互いに平行となるように配設されている。
【0057】
また、各砥石車移動部114は、一対の砥石車回転部113,113の主軸同士を互いに平行に保ったままテーブル103の上面と平行に移動させることができるように構成されている。この砥石車移動部114には、例えば、2軸平行配置のリニアサーボモータを備えた移動機構を採用することができ、この一対のリニアサーボモータをフィードバック制御することにより同期させて移動させれば、一対の砥石車回転部113,113の主軸同士を互いに平行に保ったままテーブル103の上面と平行に移動させることができる。
【0058】
そして、前記一対の砥石車回転部113,113および前記砥石車移動部114は、その作動を制御する制御部116に電気的に接続されている。
この制御部116は、一対の砥石車回転部113,113を制御して、一対の砥石車112,112の回転方向や回転速度を調整することができるものである。例えば、前記一対の砥石車112,112が、中心軸CLを含む面内で互いに逆方向であって、かつ、同じ回転速度で回転するように、一対の砥石車回転部113,113を制御することができる。つまり、両者の対向する外周面同士が互いに同じ方向に移動し、かつ、同じ周速度となるように一対の砥石車回転部113,113を制御することができる。
また、制御部116は、一対の砥石車移動部114,114を制御して、一対の砥石車112,112の移動方向や移動量等を調整することができるものである。例えば、一対の砥石車112,112の中間となる位置が常に一定の位置となるように、一対の砥石車移動部114,114の作動を制御することができる。例えば、図15の状況では、一対の砥石車112,112の中間となる位置が、主軸102の中心軸CLの位置となるように制御することができる。
【0059】
上記軸加工機構110は、以下のようにして主軸102に取り付けられているパンチPを加工する。
【0060】
まず、軸加工機構110を主軸102に加工すべきパンチP(原パンチ)を取り付ける。このとき、主軸102の中心軸CLが加工すべきパンチPの中心軸と同軸上または平行となるように配置する。
主軸102に加工すべきパンチPを取り付けると、テーブル103を移動させて、軸加工機構110を主軸102の下方に設置する。このとき、制御部116は、パンチPの中心軸と、一対の砥石車112,112の中間位置とが一致するように砥石車移動部114を作動させる(図15)。
なお、制御部116は、一対の砥石車112,112間の空間ARがパンチPを配置できる程度の距離だけ離れた状態となるように、砥石車移動部114によって一対の砥石車112,112を配置する(図16参照)。
【0061】
ついで、主軸102を下降させてパンチPを一対の砥石車112,112間に配置し、前述した軸状部材回転機構によってパンチPをその中心軸周りに回転させる。そして、一対の砥石車回転部113,113を作動させて一対の砥石車112,112を回転させながら、砥石車移動部114によって一対の砥石車112,112をパンチPに向かって(図16(A)の矢印a方向)移動させる(図16(A)、(B))。
このとき、制御部116は、一対の砥石車112,112におけるパンチP側に位置する外周面、つまり、一対の砥石車112,112における互いに向かい合っている周面が、パンチPの基端から先端に向かって(図16では上方から下方に向かって)移動するように一対の砥石車112,112を回転させる。
【0062】
やがて、一対の砥石車112,112の砥石112aがパンチPの側面に両側方から接触し、この砥石112aによってパンチPの側面が研磨される(図16(B))。このとき、主軸102を上下に昇降(図16(B)の矢印b方向)させながら加工すれば、パンチPをその軸方向に沿って同じ軸径となるように加工することができる。
【0063】
そして、一対の砥石車112,112の外周面間の距離Lが所望の軸径と同じ距離になるまで、砥石車移動部114によって一対の砥石車112,112を移動させる。すると、軸状部材回転機構によってパンチPはその中心軸周りに回転されているから、パンチPは、円形断面かつ所望の軸径に加工されるのである。
【0064】
ここで、一対の砥石車112,112の砥石112aによってパンチPの側面を研磨する場合、砥石112aがパンチPに押し付けられるので、パンチPに対して、一対の砥石車112,112の砥石112aからパンチPの半径方向に沿っての力が加わる。しかし、一対の砥石車112,112は互いに平行かつパンチPの中心軸(主軸102の中心軸CL)と直交する同一平面IP上に位置しており、しかも、一対の砥石車回転部113,113が逆向きかつ同じ量だけ移動するように砥石車移動部114が制御されているから、一方の砥石112aからパンチPに対して加わる力と同じ大きさかつ逆向きの力が他方の砥石112aからパンチPに対して加わる。すると、一方の砥石112aからパンチPに対して加わる力を他方の砥石112aによって支持することができるから、一対の砥石車112,112の砥石112aをパンチPに押し付けて研磨しても、パンチPが半径方向に撓んだり曲がったりすることを防ぐことができる。
【0065】
しかも、一対の砥石車112,112はそのパンチP側に位置する外周面がパンチPの基端から先端に向かって移動するように回転するので、一対の砥石車112,112の回転力に起因する力は、パンチPの軸方向に沿ってのみ発生し、パンチPの半径方向や周方向には発生しない。すると、一対の砥石車112,112の回転に起因するパンチPの半径方向への撓みや歪み、ねじれやひねりの発生を防ぐことができるので、軸径が非常に細いパンチPを加工する場合でも、損傷することなく精度よくパンチPを加工することができる。
【0066】
また、制御部116によって、一対の砥石車回転部113,113が逆向きかつ同じ量だけ移動するように一対の砥石車移動部114,114の作動を制御している。すると、一対の砥石車112,112によってパンチPが挟まれた状態となっても、パンチPの中心軸と一対の砥石車112,112の中間位置とを常に一致させておくことができる。
すると、軸状部材回転手段によってパンチPを回転させてもパンチPの触れ回りが発生しないから、加工前のパンチPの中心軸と加工後のパンチPの中心軸とがズレることを防ぐことができる。
なお、形成するパンチPの断面は円形断面に限られず、軸状部材回転手段によってパンチPを所定の角度ごとに加工すれば、多角形断面のパンチであっても形成することができる。例えば、多角形断面のパンチを加工する場合であれば、パンチPがを回転させる軸状部材回転手段にインデックス機構を持たせれば、断面が四角形や五角形のパンチPでも加工することができる。
【0067】
(ダイス加工の説明)
また、上記のごとき軸加工機構110を備えている場合には、パンチPによってダイスDのダイス穴Dhを加工すれば、パンチPの中心軸とダイスDのダイス穴Dhの中心軸を簡単かつ確実に一致させることができるので、好ましい。
【0068】
具体的には、図17(B)に示すように、ダイスDに、ダイスDの下面から上面近傍まで形成されたパンチPの軸径φ2よりも内径φ1が大きい基礎孔部Aと、この基礎孔部AからダイスDの上面に向かって縮径した縮径部Bとを有するダイス穴Dhを形成しておく。この縮径部Bは、その上端開口部の直径φ3がパンチPの軸径φ2よりも小さくなるように形成しておく。
そして、このダイス穴Dhの基礎孔部Aの中心軸およびパンチPの中心軸を主軸102の中心軸CLと一致させた状態で、パンチPをダイスDに移動させる。すると、パンチPによって、縮径部Bの上端開口部の直径φ3がパンチPの軸径φ2と同じ大きさに加工される。つまり、ダイス穴Dhの上端開口部が、パンチPの軸径φ2と同じであって完全にパンチPの中心軸が一致した状態にすることができる。
【0069】
パンチPの軸径φ2が細い場合、ダイス穴Dhの開口径も小さくしなければならないため、ダイス穴Dhの中心軸と主軸102の中心軸CLとを合わせるのは非常に難しい。しかし、上記の方法の場合、パンチPの中心軸と主軸102の中心軸CLとを正確に位置決めしておけば、ダイス穴Dhの中心軸が主軸102の中心軸CLと若干ずれていても、パンチPの中心軸、ダイス穴Dhの上端開口部の中心軸および主軸102の中心軸CLを一致させることができる。
【0070】
とくに、パンチPを軸加工機構110によって所望の軸径まで加工する場合であれば、パンチPの位置決めはさらに容易になるので、熟練した作業者でなくても、正確かつ簡単にパンチPの中心軸とダイス穴Dhの中心軸(上端開口部の中心軸)、および主軸102の中心軸CLを一致させることができる。
そして、パンチPの軸径φ2を軸加工機構110によって加工する場合、ダイスDにダイス穴Dhを加工した後、さらに軸加工機構110によってパンチPを加工すれば、ダイスDの上端開口部とパンチPのクリアランスを調整できる。すると、パンチPによって被加工部材Wに貫通孔が形成されるときの状態を最適な状態に調整することができるので、被加工部材Wの貫通孔の加工精度を向上させることもでき、好適である。
【0071】
(機上測定器120の説明)
また、図12に示すように、加工装置101のテーブル103上において、前記ダイス保持部103aおよび前記保持テーブル105から離間した位置、つまり、パンチPによる加工の障害とならない位置には機上測定器120が設けられている。この機上測定器120は、主軸102に取り付けられているパンチPの寸法を測定する機器である。具体的には、パンチPの軸径φ2、側面の表面粗さ、先端部外径テーパ形状部等を測定することができる機器である。この機上測定器120には、例えば、ピクセル測定方式を使った超微細加工ツール測定装置等を採用することができるが、上記形状等をナノオーダの精度で測定できるものであれば、とくに限定されない。
この機上測定器120も、テーブル103上に設けられているので、前記軸加工機構110と同様に、テーブル103を移動させれば、パンチPが昇降する経路(つまり中心軸CLの位置)とこの経路から離間した位置との間で移動させることができるのである。
【0072】
したがって、前記軸加工機構110によってパンチPを加工した場合、パンチPを主軸102に取り付けたままでパンチPの寸法を測定できるから、パンチPを取り外しての検査する場合に必要となる、検査終了後のパンチPの取り付け作業が不要になる。すると、検査終了後のパンチPの取り付けに伴う位置合わせが不要になるので、パンチPの検査後、加工作業に迅速に復帰させることができるし、パンチPの中心軸と、主軸102の中心軸CL等の位置がずれることも防ぐことができる。
【0073】
(歯周組織再生治療への適用)
以下では、本発明の多孔プレートを歯周組織再生治療に用いる場合について、より具体的に説明する。
【0074】
歯周組織再生治療に使用する場合には、バリアメンブレンとしての条件が満たされたチタニウム製の薄板1(本発明の多孔プレート)を、図3に示すようにヒト歯周組織中に設置する。
図3における符号4はヒト歯周組織の歯肉組織、符号5は歯の歯根部、符号6は歯を支持する歯槽骨である。薄板1は歯槽骨6の歯槽骨表層に貼付するように設置した上で、歯根部5の歯根表面との間には空間7を形成する。
【0075】
空間7は元々健常時には歯槽骨が占めていたスペースであり歯根部5の歯根面と結合して歯を支持していた。しかし歯周病に罹患したことよって歯槽骨6が喪失し、薄板1が設置される術前には、空間7のスペースは歯肉組織4の一部が占めていた。
【0076】
歯肉組織4内に設置された薄板1は、歯肉組織4を排除して歯根部5との間に空間7を設けることができる。この空間7を維持することにより、歯槽骨6が空間7に向かって伸張することが可能となり、やがて空間7は歯槽骨6に占められ、歯根面と結合することで歯の支持を回復する。すなわち薄板1は、歯周病によって歯槽骨6が消失し、周囲の歯肉組織4に占拠されていたスペースを、占拠していた歯肉組織4を排除することで、かつて健常時にここを占めていた歯槽骨に再び占有させ、原状回復を行って歯周病を完全に治癒しようとする歯周組織再生療法に寄与する。
【0077】
その際は、薄板1は歯槽骨6が原状回復するまで空間7を維持する機能に加え、空間7において歯槽骨6が迅速に再構築されるには、その組織化を涵養するため、そのリソースとなる栄養素を外部から供給しなければならない。そのための手段として、薄板1は、排除した歯肉組織4からの組織・細胞の進入は排除しながらも、歯肉組織4の組織内の血管系に循環する栄養分8を、空間7に向かって透過させる機能が必要となる。
【0078】
そのため図4に示すように、薄板1は、栄養分8を透過することはできるけれども、歯槽骨を再生させるため、いったん排除した歯肉組織4に由来する細胞9の通過を阻止する必要がある。従ってそのフィルター作用を提供するため、貫通孔2は、細胞サイズより小さな孔径10ミクロン以下としなければならない。
【0079】
このようなバリアメンブレンのフィルター機能が満たされた多孔金属薄板を、生体に設ける術式を説明する。
図3に示すように、歯周組織再生療法は外科的術式によって多孔金属薄板を歯周組織内部に設置した上で、歯槽骨を回復するスペースを確保する。その術式において、多孔金属薄板は歯槽骨の表面形状にフィットする外形に形成される。具体的には、図5の薄板10のような形状に形成される。
【0080】
図5の薄板10は、およそ30x25mmの長方形ではあるが、2カ所に切れ込み11が形成されるため、中央12の狭搾部で左右の翼が連絡した蝶翼状の形態となる。この幅約8mmの2つの切れ込みは、歯槽骨に薄板10を貼付する際に、薄板10が歯の歯根を避けるように配慮することで、薄板10が歯槽骨表面の形状にフィットするように設けられている。また薄板10の外縁部12は、薄板10の固定を行うためのカラーとするため貫通孔は設けられていない。
【0081】
上記薄板10を歯周組織再生治療に実際に適用する方法を図6〜9に示す。図5は歯周組織の概略図であり、符号51は歯列であり符号52は歯肉である。歯周組織再生治療では外科的術式によって薄板10を歯周組織内部に設置する。そのため、まず、図6に示すように、歯肉に53の切開線を加えた上、54部の歯肉を弁状にして剥離・開窓する。
【0082】
図7は歯周組織の内部の概略図であり、符号61は歯槽骨面、符号62は歯周病によって喪失した歯槽骨欠損部分である。図7に示すように、54部の歯肉を歯肉弁として剥離・開窓すると歯肉下にある歯槽骨表面61が露出するとともに、歯周病に罹患した部位では歯槽骨の破壊、吸収が生じており、62のような骨欠損部位が認められる。62には歯肉組織由来の肉芽等の不良な組織が充満していることが多く、そのような不良組織は歯槽骨回復を妨げるので、この時点で掻爬・除去される。
【0083】
図8は歯周組織内部に、薄板10を設置した際の概略図である。薄板10は、歯槽骨の欠損した部位を被覆するとともに、そこに歯槽骨が再構成されるよう、図3において示したように、隔壁となって欠損部位を囲繞し、歯槽骨を誘導するスペースを確保する。
【0084】
薄板10は金属製ゆえ可塑性があり、また穿孔加工によって生じた粗造面によって歯槽骨表面に固定されるが、さらに固定の安定性を得るため、外縁部12をスクリューピンや釘等を用いて歯槽骨表層に固定、あるいは51の歯に接する外縁部については、歯科用の修復材料に用いられる接着材あるいはボンディング材等によって固定し、さらに安定化することが可能である。
【0085】
図9は歯周組織内部に薄板10を設置、固定した後、切開・剥離した54の歯肉弁を復位した際の概略図である。81は54を復位し、手術創を閉鎖するための縫合である。歯肉によって薄板10は完全に被覆され、歯周組織内部に埋設されるけれども、薄板10によって歯槽骨が回復するスペースが維持されている。設置後、5週間〜7週間経過後に2次手術によって膜の取り出しを行う。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の多孔プレートは、歯科における歯周再生治療を目的として、歯周病や、歯の喪失によって破壊・吸収された歯槽骨を増生・復元する外科手術に用いる組織隔壁膜に適している。
【符号の説明】
【0087】
1 多孔プレート
2 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のプレートに複数の貫通孔が形成されたプレートであって、
前記複数の貫通孔の孔径が、φ1〜φ50μmであり、
隣接する前記貫通孔の中心軸間距離が、3〜300μmである
ことを特徴とする多孔プレート。
【請求項2】
前記プレートの板厚が、2〜100μmである
ことを特徴とする請求項10記載の多孔プレート。
【請求項3】
前記貫通孔の一端部には、テーパ面が形成されている
ことを特徴とする請求項1または2記載の多孔プレート。
【請求項4】
組織隔離用薄型金属製透過膜またはバリアメンブレンとして使用されるプレートであり、
該プレートの素材が、
生体親和性を有する金属、セラミックス、プラスチックまたはポリマーであり、
前記複数の貫通孔の孔径が、φ1〜φ10μmである
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の多孔プレート。
【請求項5】
組織隔離用薄型金属製透過膜またはバリアメンブレンとして使用されるプレートであり、
該プレートの素材が、
生体親和性を有する金属、セラミックス、プラスチックまたはポリマーであり、
前記複数の貫通孔の孔径が、φ10μm以上であり、
該プレートの表面には、孔径がφ1〜φ10μmの貫通孔を有するポリマー薄膜層が設けられている
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の多孔プレート。
【請求項6】
金属製または金属・ポリマー複合製の第1乃至5発明記載の多孔プレートであって、
該多孔プレートにおける貫通孔に、生理活性物質および/または薬品を含有させている
ことを特徴とする機能的透過膜。
【請求項7】
請求項1乃至5記載の多孔プレートによって形成された外枠と、
該外枠内に収容された、人工的に培養された臓器細胞群とからなる
ことを特徴とする人工臓器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−142831(P2011−142831A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4545(P2010−4545)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(592129486)株式会社長峰製作所 (18)
【Fターム(参考)】