説明

多孔体の冷却用ボックスおよび多孔体の冷却方法

【課題】連通細孔を有する多孔体の内外冷却を、少量の冷却ガスで、かつ短時間に、エネルギー効率よく行う技術を提供する。
【解決手段】冷却ファンから一定風量で排出される冷却ガスが供給される風量調整スペースと、該風量調整スペースの天井面に設けられた冷却ガス吹き出しスリットから吹き出した冷却ガスが供給される風速調整スペースと、該風速調整スペースの天井面に、該天井面の上面に配置される多孔体に向けて冷却ガスを吹き出す、冷却ガス吹き出し細孔を有する多孔体の冷却用ボックス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とくに連通細孔を有する多孔体の冷却に好適に用いられる多孔体の冷却用ボックスおよび多孔体の冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
連通細孔を有する多孔体は、一般に焼成炉内の雰囲気温度が該多孔体中心部に伝動され難く、該多孔体に内外温度差がつき易い構造となっている。
【0003】
焼成時に発生する該温度差は、クラック等の発生要因となることが知られている。これに対し、焼成炉内雰囲気の昇温速度や、降温速度を厳密に制御して、多孔体の内外温度差を所定範囲内とする技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、特に、冷却工程に関し、炉内全体の雰囲気温度を制御する従来技術では、大量の冷却ガスが必要となる問題があった。
【0005】
また、冷却工程の後工程として、有機溶剤を該多孔体にコーティングする工程等が設けられる場合、できる限り速やかに該多孔体の内外温度を共に50℃程度まで降下させることが望まれる。これに対し、従来は、焼成後の多孔体に直接冷風を吹き付けて冷却を行っていた。
【0006】
図1には、中心温度が400度程度(表面温度は200度程度)の多孔体に直接冷風を吹き付けて冷却を行い、内外温度分布を測定した結果を示している。ここで、多孔体1は、図2に示すように、格子状の載置台2に多孔体の連通細孔が垂直方向となるように配置し、該載置台の下側から冷風を送風している。また、冷風の送風口から多孔体の下面までの距離は一律200mmとした。図1において、Aは風速1.5m/s、Bは風速2m/s、Cは風速2.5m/s、Dは風速3m/sで送風した結果を示している。
【0007】
図1に示すように、多孔体に直接冷風を吹き付けて冷却する従来手法では、風速1.5m/s〜2.5m/sでは、1時間の冷却後もなお、中心温度が100℃程度を維持しており、一方、風速を最大3m/sとした場合であっても、中心温度を50℃程度まで降下させるには1時間近くの冷却が必要となっていた。
【0008】
このように、長時間の冷却は、大量の冷風送付を伴い、エネルギー効率の観点から好ましくない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2006/006667
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、前記問題を解決し、連通細孔を有する多孔体の内外冷却を、少量の冷却ガスで、かつ短時間に、エネルギー効率よく行う技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る多孔体の冷却用ボックスは、冷却ファンから一定風量で排出される冷却ガスが供給される風量調整スペースと、該風量調整スペースの天井面に設けられた冷却ガス吹き出しスリットから吹き出した冷却ガスが供給される風速調整スペースと、該風速調整スペースの天井面に、該天井面の上面に配置される多孔体に向けて冷却ガスを吹き出す、冷却ガス吹き出し細孔を有することを特徴とするものである。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の多孔体の冷却用ボックスにおいて、冷却ガス吹き出し細孔は、断面積が0.3〜500mmの細孔であって、該冷却ガス吹き出し細孔が所定間隔に配列した細孔列を、風速調整スペースの天井面に複数列配列したことを特徴とするものである。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の多孔体の冷却用ボックスを用いる多孔体の冷却方法であって、該冷却ガス吹き出し細孔を備える風速調整スペースの天井面上面に、連通細孔を有する多孔体の連通細孔を垂直方向に配置し、風量調整スペースには、5〜20m/minの冷却ガスを供給し、冷却ガス吹き出し細孔から吹き出す、風速1.5〜20m/sの冷却ガスを、多孔体の連通細孔の下端面に導き、連通細孔の上端面から排出ファンで吸引排出することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の多孔体の冷却用ボックスは、冷却ファンから一定風量排出される冷却ガスを供給する風量調整スペースと、該風量調整スペースの天井面に設けた冷却ガス吹き出しスリットと、該冷却ガス吹き出しスリットから吹き出した冷却ガスを導入する風速調整スペースと、該風速調整スペースの天井面に、該天井面の上面に配置される多孔体に向けて冷却ガスを吹き出す、冷却ガス吹き出し細孔を有する構成により、所定の風速の冷却ガスを多孔体の連通細孔に吹き込むことができる。連通細孔を有する多孔体は、冷却ガスの温度が中心部にまで伝動され難い構造を有するが、本発明の該構成によれば、連通細孔内を少量の冷却ガスで、かつ短時間に、エネルギー効率よく冷却することができる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、断面積が0.3〜500mmの冷却ガス吹き出し細孔が所定間隔に配列した細孔列を、風速調整スペースの天井面に複数列配列した構成により、多孔体の断面サイズが変化する場合であっても、冷却ガス吹き出し細孔が多孔体の断面に配置されている確率をおよそ均一に維持可能であって、同一設備を用いて、上記効果を奏することができる。即ち、各種の多孔体サイズに応じた設備変更作業が不要となり、作業性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の冷却方法により内外温度分布を測定した結果である。
【図2】従来の冷却方法の説明図である。
【図3】本発明の冷却方法の説明図である。
【図4】本発明の方法に用いる冷却ガス集中導入プレートの説明図である。
【図5】本発明の冷却方法により内外温度分布を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0018】
図3には、本発明の多孔体の冷却用ボックスの説明図を示している。図4には、冷却ガス吹き出しスリットおよび冷却ガス吹き出し細孔の形状説明図を示している。1は連通細孔を有する多孔体(かさ比重:0.1〜0.5)、4は多孔体の冷却用ボックス、5は冷却ファン、6は風量調整スペース、7は風量調整スペースの天井面、8は風速調整スペース、9は風速調整スペースの天井面、10は冷却ガス吹き出しスリット、11は冷却ガス吹き出し細孔である。該冷却ガス吹き出し細孔11は、図4に示すように、断面積が0.3〜500mmの細孔である。
【0019】
本発明の多孔体の冷却方法では、多孔体1は、図3に示すように、多孔体の冷却用ボックス4の風速調整スペースの天井面9上に多孔体の連通細孔が垂直方向となるように配置されている。このように配置することにより、冷却ファンから所定の風量で送風された冷却ガスを、効率よく連通細孔内に導き、多孔体の中心部を集中的に冷却することができる。また、多孔体1の高さサイズが変更する場合であっても、均一な冷却を行うことができる。
【0020】
冷却ファンから所定の風量で送風された冷却ガスは、風量調整スペース6に供給されたのち、該風量調整スペースの天井面7に設けた冷却ガス吹き出しスリット7から風速調整スペース8に供給される。
【0021】
冷却ガス吹き出しスリット10の形状は、図4に示すように、1mm幅・90mm長さのスリットが幅方向に10mm間隔で3列並んだものをスリット単位列10Aとし、該スリット単位列10Aが5列並んだ形状を有している。なお、各スリット単位列10Aを構成する隣接スリット列(10a,10b,10c)において、ある列(例えば10a)のスリット端部は、隣接する他の列(例えば10b)のスリット長さ中心部付近に位置している。
【0022】
冷却ガス吹き出しスリット10から風速調整スペース8に吹き出した冷却ガスは、風速調整スペース8に供給されたのち、該風速調整スペースの天井面9に設けた冷却ガス吹き出し細孔11から多孔体1に供給される。
【0023】
冷却ガス吹き出し細孔11の形状は、図4に示すように、φ5mmの細孔が幅方向に10mm間隔で3列並んだものを細孔単位列11Aとし、該細孔単位列11Aが5列並んだ形状を有している。なお、各細孔単位列11Aを構成する隣接細孔列(11a,11b,11c)において、一方の列(例えば11a)の細孔は、他方の列(例えば11b)の細孔と細孔の間に位置している。断面積が*〜*mの冷却ガス吹き出し細孔が所定間隔に配列した細孔列を、風速調整スペースの天井面に複数列配列することにより、多孔体の断面サイズが変化する場合であっても、冷却ガス吹き出し細孔が多孔体の断面に配置されている確率をおよそ均一に維持することができる。
【実施例】
【0024】
500℃に加熱された連通細孔を有する多孔体(製品サイズ:φ15in×15in.L)を、本発明の多孔体の冷却用ボックス4の9は風速調整スペースの天井面9の上面に、多孔体の連通細孔が垂直方向となるように配置し、該多孔体の表面温度が200℃になった後、冷却ファンの運転を開始した。冷却ガス吹き出しスリット10から冷却ガス吹き出し細孔11までの距離は一律200mmとした。
【0025】
冷却ファンからは、10℃の冷却ガスを、風量10m/minで送風した。該冷却ガスは、風量調整スペース6に供給されたのち、冷却ガス吹き出しスリット10を通して風速調整スペース8に供給した。冷却ガス吹き出し細孔11から吹き出す、風速1.5〜20m/sの冷却ガスを、多孔体11の連通細孔の下端面に導き、連通細孔の上端面から排出ファンで吸引排出した。
【0026】
6分送風後、1分停止のサイクルを9回(63分)繰り返し、自然冷却を2回(14分)繰り返した。
【0027】
上記実施例の結果を、図5のEに示し、風速調整スペースの天井面9に冷却ガス吹き出し細孔11を形成する代わりに、単純な格子形状として、その他の全条件を上記実施例と同様とした比較例の結果を図5のAに示している。
【0028】
図5より、本発明の方法(図5:E)によれば、特に連通細孔を有する多孔体の中心付近を効果的に冷却可能となり、冷却開始21分後にはすでに、多孔体の全部分で温度を50℃程度以下とすることができる。
【符号の説明】
【0029】
1 連通細孔を有する多孔体
2 格子状の載置台
4 多孔体の冷却用ボックス
5 冷却ファン
6 風量調整スペース
7 風量調整スペースの天井面
8 風速調整スペース
9 風速調整スペースの天井面
10 冷却ガス吹き出しスリット
11 冷却ガス吹き出し細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却ファンから一定風量で排出される冷却ガスが供給される風量調整スペースと、
該風量調整スペースの天井面に設けられた冷却ガス吹き出しスリットから吹き出した冷却ガスが供給される風速調整スペースと、
該風速調整スペースの天井面に、該天井面の上面に配置される多孔体に向けて冷却ガスを吹き出す、冷却ガス吹き出し細孔を有する
ことを特徴とする多孔体の冷却用ボックス。
【請求項2】
冷却ガス吹き出し細孔は、断面積が0.3〜500mmの細孔であって、
該冷却ガス吹き出し細孔が所定間隔に配列した細孔列を、風速調整スペースの天井面に複数列配列したことを特徴とする請求項1記載の多孔体の冷却用ボックス。
【請求項3】
請求項1または2記載の多孔体の冷却用ボックスを用いる多孔体の冷却方法であって、
該冷却ガス吹き出し細孔を備える風速調整スペースの天井面上面に、連通細孔を有する多孔体の連通細孔を垂直方向に配置し、
風量調整スペースには、5〜20m/minの冷却ガスを供給し、
冷却ガス吹き出し細孔から吹き出す、風速1.5〜20m/sの冷却ガスを、多孔体の連通細孔の下端面に導き、連通細孔の上端面から排出ファンで吸引排出することを特徴とする多孔体の冷却方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−223562(P2010−223562A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74575(P2009−74575)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(591076109)エヌジーケイ・キルンテック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】