説明

多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維

【課題】得られる布帛の遮熱性を向上させることができるパラ型全芳香族ポリアミド繊維を提供すること。
【解決手段】繊維中の空孔サイズが特定値以下であり、空隙率が特定範囲にあるパラ型全芳香族ポリアミド繊維とする。すなわち、繊維中の空孔サイズが0.5μm以下であり、空隙率が5〜30%であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性のパラ型全芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される芳香族ポリアミドが耐熱性および難燃性に優れていることは周知であり、また、これらの芳香族ポリアミドがアミド系極性溶媒に可溶であり、全パラ型全芳香族ポリアミドを該溶媒に溶解した重合体溶液から乾式紡糸、湿式紡糸、半乾半湿式紡糸などの方法により繊維となし得ることもよく知られている。
【0003】
芳香族ポリアミド繊維は、耐熱・難燃性繊維として特に有用なものであり、これらの特性を発揮する分野、例えば、フィルター、電子部品などの産業用途や、耐熱性、防炎性、耐炎性が重視される防護衣などの防災安全衣料用途など、幅広く用いられている。
【0004】
なかでも、芳香族ポリアミド繊維からなる防護衣としては、溶鉱炉、電気炉、焼却炉などの高温炉前で着用するための防護衣、消火作業に従事する人のための消防衣料、高温火花を浴びる溶接作業用の溶接防護衣、引火性の強い薬品を取り扱う人のための難燃作業服など、幅広く使用されている。
【0005】
しかしながら、現在の全芳香族ポリアミド繊維布帛からなる防護衣は、高温の炎に隣接し、または火に接触した際に、繊維そのものの遮熱性が十分でないため、外部からの熱伝播によって防護衣内の人体に著しい火傷を及ぼす場合があった。
【0006】
そこで、外部からの熱伝播を抑制し、遮熱性を確保することを目的として、防護衣となる布帛の目付けを上げる方法が検討されている。しかしながら、布帛の目付けを上げた場合には、防護衣自体の重量が増して消火作業に著しく弊害を及ぼすばかりか、防護衣内の熱を外部に放出できず、消火作業時にヒートストレスを発生させていた。このため、布帛の目付けを上げる方法では、消火活動・人命救助活動の範囲に限界が生じていた。
【0007】
したがって、芳香族ポリアミド繊維布帛からなる防護衣素材には、遮熱性能の向上が強く求められていた。しかしながら、従来、防護衣となる布帛を構成する芳香族ポリアミド繊維自体により、遮熱性を向上させる方法は提案されていない。
【0008】
なお、繊維内部に空隙を持たせる方法としては、例えば、メタ型全芳香族ポリアミド繊維について、製造の途中段階で繊維に多孔性を持たせて、後に緻密化する方法が提案されている(特許文献1〜3参照)。しかしながら、特許文献1〜3に記載された多孔質のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、強度が弱く、消防服などの防護衣布帛用の素材としては使用に耐えないものであった。また、パラ型全芳香族ポリアミドについては、多孔性を持たせたフィルムが提案されている(特許文献4および5参照)。しかしながら、多孔性を有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維については、これまでに提案がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−303365号公報
【特許文献2】特開2003−301326号公報
【特許文献3】特開2005−232598号公報
【特許文献4】特開2007−277580号公報
【特許文献5】特開2007−204518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のごとき従来技術を背景になされたもので、その目的とするところは、得られる布帛の遮熱性を向上させることができるパラ型全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、繊維中の空孔サイズが特定値以下であり、空隙率が特定範囲にあるパラ型全芳香族ポリアミド繊維とすれば、当該繊維を用いて得られる布帛の遮熱性が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、繊維中の空孔サイズが0.5μm以下であり、空隙率が5〜30%であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維によれば、非常に優れた遮熱性を示す布帛を得ることができる。このため、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、遮熱性に優れた各種繊維製品を提供することができ、とりわけ、遮熱性の要求が強い防護衣料用途として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、パラ型全芳香族ポリアミドからなる繊維であり、繊維中の空孔サイズ(X)が特定値以下であり、かつ、空隙率(Y)が特定範囲にある繊維である。
【0014】
なお、本発明においては、パラ型全芳香族ポリアミドのほか、種々の添加剤、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤などの劣化防止剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、可塑剤、顔料などの着色剤などが配合されていてもよい。添加剤の使用量は、得られる繊維本来の物性を損なわない範囲で、添加剤の種類に応じて適宜選択することができる。
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の物性について、以下に説明する。
【0015】
[空孔サイズ(X)、および空隙率(Y)]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維中の空孔サイズ(X)が0.5μm以下であり、かつ、空隙率(Y)が5〜30%の範囲である。空孔サイズ(X)が0.5μmを超える場合には、機械強度の低下が大きいため消防服用素材としての使用に耐えない。また、空隙率(Y)が5%未満の場合には、必要とする遮熱性効果が得られず、一方で30%を超える場合には、機械強度の低下が大きいため消防服用素材としての使用に耐えない。
【0016】
本発明においては、好ましくは、空孔サイズ(X)が0.4μm以下、かつ、空隙率(Y)が10〜25%の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、空孔サイズ(X)が0.3μm以下、かつ、空隙率(Y)が12〜23%の範囲である。
なお、本発明における空孔サイズ(X)とは、繊維を繊維長に対して直角方向に切断し、当該切断面を電子顕微鏡によって倍率1万倍で観察することにより求められる値である。具体的には、空孔サイズ(X)は、25μmの観察断面積当りの平均空隙面積S(μm)を求め、下記式により算出される値である。
X(μm)=2×√(S/π)
【0017】
また、本発明における空隙率(Y)とは、繊維を繊維長に対して直角方向に切断し、当該切断面を電子顕微鏡によって倍率1万倍で観察することにより求められる値である。具体的には、空隙率(Y)は、25μmの観察断面積当りの全空隙面積T(μm)を求め、下記式により算出される値である。
Y(%)=[T/25]*100
【0018】
繊維中における空孔サイズ(X)および空隙率(Y)を上記の範囲内にするには、繊維中に有機溶剤に可溶なポリマー成分若しくは有機分子を含有させ、繊維成型後に、当該有機溶剤により可溶なポリマー成分を溶出させる手法、あるいは、繊維中に金属粒子を含有させ、繊維成型後に強酸により溶出させる手法等を挙げることができる。
【0019】
[単糸繊度]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、0.5〜50dtexの範囲であることが好ましい。0.5dtex未満の場合には、製糸性が不安定となる場合があり、また、繊維の比表面積が大きくなるため耐光劣化を受けやすい。一方、50dtexを超える場合には、製糸工程において凝固が不完全になりやすく、その結果、紡糸や延伸工程で工程調子が乱れやすく、得られる最終繊維の物性も低下しやすい。
【0020】
[引張強度]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、空隙率、空孔サイズを上げるにつれて低下する傾向にあるが、高強度繊維としてのパラ型全芳香族ポリアミド繊維の特性を活かすためには、繊維の引張強度は高い程好ましい。本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、8cN/dtex以上であることが好ましく、8cN未満では高強度繊維としての特長が不足する。さらに好ましくは、10cN/dtex以上である。
【0021】
[破断伸度]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の破断伸度は、3.0%以上であることが好ましい。3.0%未満の場合には、撚糸して使用する場合に撚り歪が大きくなり、得られる撚糸コードの強力利用率が低下する。耐光性が特に要求される屋外使用のロープやネットに本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いる場合には、高強力耐久性が要求される。このため、破断伸度は、3.5〜5.0%の範囲とすることが好ましい。
【0022】
<パラ型全芳香族ポリアミド>
本発明の繊維の材料となるパラ型全芳香族ポリアミドは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、アミド結合により直接連結されたポリマーである。芳香族基には、2個の芳香環が酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたもの、あるいは、2個以上の芳香環が直接結合したものも含む。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、クロル基等のハロゲン基等が含まれていてもよい。なお、2価の芳香族基を直接連結するアミド結合の位置は、パラ型である。
【0023】
<パラ型全芳香族ポリアミドの製造方法>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸クロライド成分と、芳香族ジアミン成分とを反応せしめることにより、芳香族ポリアミドのポリマー溶液を得ることができる。
【0024】
(芳香族ジアミン成分)
本発明において使用される芳香族ジアミン成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、p−フェニレンジアミン、2−クロルp−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロルp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンなど挙げることができる。これらは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。
【0025】
これらのなかでは、得られる繊維の機械的強度の観点から、p−フェニレンジアミン、および、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを単独で使用、あるいは併用することが好ましく、p−フェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが最も好ましい。
【0026】
パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくは、それぞれ45〜55モル%、55〜45モル%とする。
【0027】
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
本発明において使用される芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライドなどを挙げることができる。また、これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。これらのなかでは、汎用性や得られる繊維の機械的物性等の観点から、テレフタル酸ジクロライドが好ましい。
【0028】
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分と芳香族ジアミン成分の組み合わせ)
したがって、本発明に用いられるパラ型全芳香族ポリアミドとしては、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、ポリパラフェニレンテレフタルアミドなどを挙げることができる。
【0029】
[原料組成比]
芳香族ポリアミドの原料となる上記の芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0030】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、−25℃〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0031】
[重合溶媒]
本発明に用いられるパラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPという場合もある)、N−メチルカプロラクタム等の有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、用いられる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0032】
本発明に用いられるパラ型全芳香族ポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族ポリアミドに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0033】
[その他重合条件等]
生成するパラ型全芳香族ポリアミドの溶解性を挙げるために、重合前、途中、終了時のいずれかに、一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。
また、パラ型全芳香族ポリアミドの末端は、封止することもできる。末端封止剤を用いて末端を封止する場合には、例えば、フタル酸クロライドおよびその置換体、アニリンおよびその置換体などを用いることができる。
【0034】
また、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために、脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩等を併用することもできる。
反応の終了後は、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムなどを添加し、中和反応を実施してもよい。
【0035】
[重合後処理等]
上記のようにして得られるパラ型全芳香族ポリアミドは、アルコール、水などの貧溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたパラ型全芳香族ポリアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得たポリマー溶液をそのまま紡糸用溶液(ドープ)に調整して用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、パラ型全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記パラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0036】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、パラ型全芳香族ポリアミド、有機溶剤に可溶なポリマーまたは強酸により溶出可能な金属、および溶媒とを混合して紡糸用溶液(ポリマードープ)を調製し、得られた紡糸用溶液を用いて湿式紡糸あるいは乾式紡糸して凝固糸を形成した後、凝固糸に含まれる溶媒を除去し、さらに、有機溶剤に可溶なポリマー成分または強酸により溶出可能な金属を溶出させ、最終的な多孔性パラ型全芳香族ポリアミド系繊維を得る。また、本発明においては、延伸、熱処理などの後処理を実施することにより、得られる繊維の物性を向上させることができる。
【0037】
以下、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法について、工程ごとに分けて説明する。
【0038】
[紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整]
パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得るにあたっては、先ず、パラ型全芳香族ポリアミド、有機溶剤に可溶なポリマーまたは強酸により溶出可能な金属、および溶媒を含む紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する。
【0039】
紡糸用溶液(ドープ)を調整する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、有機溶剤に可溶なポリマーが溶解している溶液を、パラ型全芳香族ポリアミドが溶解している溶液に一定の圧力で注入し、ダイナミックミキシングおよび/またはスタティックミキシングする方法が挙げられる。
【0040】
なお、繊維に機能性等を付与する目的で、紡糸用溶液には、本発明の要旨を超えない範囲において、添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、パラ型全芳香族ポリアミド、有機溶剤に可溶なポリマーまたは強酸により溶出可能な金属、および溶媒を含む紡糸用溶液(ポリマードープ)に対して、ルーダーやミキサ等を使用して配合する方法が挙げられる。
【0041】
なお、紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度、すなわちパラ型全芳香族ポリアミドの濃度は、0.5〜30質量%の範囲とすることが好ましく、1〜20質量%の範囲とすることがさらに好ましい。紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度が0.5質量%未満の場合には、ポリマーの絡み合いが少ないため紡糸に必要な粘度を得ることができず、紡糸時の吐出安定性が低下してしまう。一方で、ポリマー濃度が30質量%を超える場合には、ドープの粘性が急激に増加することから紡糸時の吐出安定性が低下し、紡糸パック内の圧が急激に上昇するため、安定的に紡糸することが困難となる。
【0042】
紡糸用溶液の固形分濃度(パラ型全芳香族ポリアミド、および有機溶剤可溶ポリマーまたは強酸可溶金属の合計濃度)は、通常、0.5〜30質量%、好ましくは3〜15重量%程度である。
【0043】
〔有機溶剤に可能なポリマー〕
本発明に用いうる有機溶剤に可溶なポリマーとしては、一般的に公知の可溶性有機ポリマーであれば、特に限定されるものではない。例えば、ポリ塩化ビニル、エポキシ、メラミン、尿素、不飽和ポリエステル、ポリイミド、ポリスルフィド、ポリウレタン、ポリエチレン,ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリスチレン、ABS、酢酸ビニル、フッ素系樹脂、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、環状オレフィン系、ナイロン6,ナイロン66などの脂肪族ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート,ポリトリメチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルなどを挙げることができる。
【0044】
〔強酸により溶出可能な金属〕
本発明に用いうる強酸により溶出可能な金属としては、一般的に公知の金属であれば、特に限定されるものではない。例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属炭酸塩、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウムなどのアルカリ金属酢酸塩、酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウムなどのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属酢酸塩などが挙げられる。
【0045】
〔溶媒〕
紡糸用溶液(ドープ)の調製に用いられる溶媒としては、上記したパラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒を使用することが好ましい。なお、用いられる溶媒は、1種単独であっても、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒であってもよい。本発明においては、パラ型全芳香族ポリアミドの製造によって得られたポリマー溶液から当該ポリマーを単離することなく、そのまま用いることも可能である。
【0046】
[紡糸・凝固]
次に、上記で得られた紡糸用溶液(ポリマードープ)を紡糸口金から吐出し、凝固液中を通過させることにより凝固させ、凝固糸を得る。紡糸にあたっては、紡糸用溶液(ポリマードープ)を凝固浴中に直接吐出してもよいし、あるいは、空気または不活性気体からなるエアギャップを設け、エアギャップを介して凝固浴中に吐出してもよい。
【0047】
凝固浴に充填される凝固液としては、一般的に、芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられる。このとき、芳香族ポリアミドドープから溶媒があまりに急速に抜け出して、形成される凝固糸に欠陥ができないように、良溶媒を添加して凝固速度を調節するのが通常である。貧溶媒としては水、良溶媒としては芳香族ポリアミドドープ用の溶媒を用いることが好ましい。良溶媒/貧溶媒の組成比は、用いる芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性によって適宜選択すればよいが、一般的に15/85〜40/60の範囲とすることが好ましい。
なお、凝固液の温度としては特に限定されるものではなく、凝固液の組成、および、用いる芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性によって、適宜設定することができる。
【0048】
[熱延伸]
パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造にあたっては、機械的強度を向上させることを目的として、熱延伸により、繊維に配向を与えるとともに結晶化させることが好ましい。配向度、結晶化度のどちらか一方、または両方が低い場合には、得られる繊維の機械的物性が不充分となりやすい。
熱延伸の温度は、パラ型全芳香族ポリアミドのポリマー骨格にもよるが、300℃以上550℃以下であることが好ましく、また、延伸倍率は6倍以上とすることが好ましい。
【0049】
[有機溶剤に可溶なポリマーまたは強酸により溶出可能な金属の溶出]
本発明においては、得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維から、有機溶剤に可溶なポリマー成分または強酸により溶出可能な金属を溶出させて、最終的な多孔性パラ型全芳香族ポリアミド系繊維を得る。
【0050】
溶出させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、溶出媒体となる有機溶剤または強酸に、得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を一定時間浸漬するなどの方法が挙げられる。溶出する際の温度は、20℃〜60℃程度とすることが好まし。溶出温度が高すぎる場合には、繊維の機械強度の低下を招き、低すぎる場合には溶出が不十分となる。また、溶出時間は、溶出させるポリマー成分または金属の種類や含有量によって異なるが、24時間以上とすることが好ましい。
【0051】
<全芳香族ポリアミド繊維の用途>
かくして得られる本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、織物、編物、不織布などの布帛のほか、組紐、ロープ、撚糸コード、ヤーン、綿などの繊維構造物の構成材料として好適に用いることができ、とりわけ、遮熱性を必要とする防護衣料などの分野においては、有用性が高い。
【実施例】
【0052】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0053】
<測定・評価方法>
実施例および比較例における各特性値は、以下の方法で測定・評価を実施した。
【0054】
(1)空孔サイズ(X)
繊維を繊維長に対して直角方向に切断し、当該切断面を電子顕微鏡により倍率1万倍で観察した。25μmの観察断面積当りの平均空隙面積S(μm)を求め、得られた結果を用いて、下記式により空孔サイズ(X)を算出した。
X(μm)=2×√(S/π)
【0055】
(2)空隙率(Y)
繊維を繊維長に対して直角方向に切断し、当該切断面を電子顕微鏡により倍率1万倍で観察した。25μmの観察断面積当りの全空隙面積T(μm)を求め、得られた結果を用いて、下記式により空隙率(Y)を算出した。
Y(%)=T/25*100
【0056】
(3)繊度
JIS−L−1015 B法に準じ、測定した。
【0057】
(4)繊維の引張強度
引張試験機(オリエンテック社製、商品名:テンシロン万能試験機、型式:RTC−1210A)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件にて測定を実施した。
[測定条件]
測定試料長 :500mm
初荷重 :0.2cN/dtex
引張速度 :250mm/min
【0058】
(5)遮熱性
[評価用積層体の製造]
評価にあたり、以下の表地層、中間層、裏地層からなる3層構造の積層体を作製した。
〔表地層〕ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)と、コパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ会社製、商標名:テクノーラ)とを、混合比率が90:10となる割合で混合して作製された紡績糸(番手:20/2)を用いて、2/1の綾織に織成した織物(目付:280g/m
〔中間層〕ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製、商標名:コーネックス)とコパラフェニレン・3、4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ会社製、商標名:テクノーラ)とを、混合比率が95:5となる割合で混合して作製された繊維(番手:40/―)を平織りに織成した織布(目付:80g/m)に、ポリテトラフルオロエチレン製の透湿防水性フィルム(ジャパンゴアテックス社製)をラミネートした積層布帛
〔裏地層〕実施例および比較例で得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を、筒網にした布帛
[測定]
上記で作製した評価用積層体について、ISO9151に準拠し、熱流束を45kW/mとした場合のHTI24(24度温度上昇するまでの時間(秒))を測定した。
【0059】
<実施例1>
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、市販のポリ塩化ビニルを濃度20質量%となるように、プラネタリーミキサー(淺田鉄工(株)製、商品名:PVM−5)を用いて溶解させた。このとき、メディアとしては、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。
得られた溶液を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dLの溶液について30℃で測定した固有粘度(IV)は3.4)の濃度6質量%のNMP溶液中に添加し、プラネタリーミキサー使用して、60℃で2時間、攪拌機の周速度を0.25m/sの条件として撹拌混合し、紡糸用溶液(ポリマードープ)を得た。このとき、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに対するポリ塩化ビニルの配合量は、20質量%となるようにした。
得られたドープを用い、孔数25ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に紡出して凝固させた後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度530℃下で8倍に延伸した後、巻き取った。
続いて、得られた繊維を、アセトン中に室温で48時間浸漬し、80℃で10分乾燥することにより、多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。
得られた多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の測定・評価結果を、表1に示す。
【0060】
<実施例2>
ポリ塩化ビニルの含有量を10質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の測定・評価結果を、表1に示す。
【0061】
<実施例3>
ポリ塩化ビニルの含有量を25質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の測定・評価結果を、表1に示す。
【0062】
<比較例1>
ポリ塩化ビニルを配合することなく、実施例1と同様の方法により、多孔性コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。得られた多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の測定・評価結果を、表1に示す。
【0063】
<比較例2>
ポリ塩化ビニルの含有量を5質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の測定・評価結果を表に示す。
【0064】
<比較例3>
ポリ塩化ビニルの含有量を40質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた多孔性パラ型全芳香族ポリアミド繊維の測定・評価結果を、表1に示す。
【0065】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維によれば、遮熱性に優れた布帛を得ることができる。このため、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、溶接防護衣、炉前服、工場やガソリンスタンドなどの耐熱性防護服を構成する繊維として、好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維中の空孔サイズが0.5μm以下であり、空隙率が5〜30%であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
上記パラ型全パラ型全芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
引張強度が8.0cN/dtex以上である請求項1または2に記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
延伸配向されてなる、請求項1〜3いずれか記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2011−252238(P2011−252238A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124512(P2010−124512)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】