説明

多孔質シートの製造方法

【課題】多孔質シートの製造方法および多孔質シートからなる電気化学素子用セパレータを提供する。
【解決手段】多孔質基材の表面および内部にポリアミドイミドからなる網状構造体が存在し、多孔質基材を構成する繊維と該網状構造体とが絡合してなる多孔質シートの製造方法であって、多孔質基材に、ポリアミドイミド溶液を含浸または塗工する工程、アルコール30〜65質量%と良溶媒70〜35質量%の混合溶液からなる凝固液に接触させて、繊維と絡合するポリアミドイミドからなる網状構造体を多孔質基材の表面および内部に析出させる工程を経ることを特徴とする多孔質シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスキャパシタ、電解コンデンサ、固体電解コンデンサ等の電気化学素子用セパレータとして好適な多孔質シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスキャパシタ、電解コンデンサ、固体電解コンデンサ等の電気化学素子用セパレータとしては、溶剤紡糸セルロース繊維や再生セルロース繊維が叩解処理されてなる繊維を主体とする紙製セパレータが使用されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
近年、電気二重層キャパシタは、静電容量の大容量化や高電圧化が進み、自動車や鉄道車両の補助電源などの高エネルギー密度、高出力密度が必要とされる用途での利用が期待されている。高エネルギー密度にするには、セパレータを薄くして収納できる電極の面積を大きくすることが手段の1つであるが、紙製セパレータは厚みが35μm以下になると強度が弱い問題と自己放電しやすくなる問題があった。本発明者らは、薄くて、電解液浸透性と耐ドライアップ性のバランスが良く、ハイレート特性に優れた多孔質シートおよびその製造方法について開示したが、皮膜が形成されることなく、多孔質基材の両面に網状構造体を形成させるには、多孔質基材と多孔質支持体とを積層してポリマー溶液を含浸または塗工する必要があり、製造効率に改善の余地があった(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−267103号公報
【特許文献2】特開平11−168033号公報
【特許文献3】特開2000−3834号公報
【特許文献4】国際公開第WO2008/153117号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、上記実情を鑑みたものであって、電気化学素子用セパレータとして好適な多孔質シートの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、この課題を解決するために鋭意研究を行った結果、多孔質基材の表面と内部にポリアミドイミドからなる網状構造体が存在してなる多孔質シートの製造方法において、網状構造体を形成させるための凝固液の組成を特定の条件にすることにより、多孔質シートを効率良く製造できることを見出し、本発明に至ったものである。
【0007】
即ち、本発明は、多孔質基材の表面および内部にポリアミドイミドからなる網状構造体が存在し、繊維と該網状構造体とが絡合してなる多孔質シートの製造方法であって、多孔質基材に、ポリアミドイミド溶液を含浸または塗工する工程、アルコール30〜65質量%と良溶媒70〜35質量%の混合溶液からなる凝固液に接触させる工程を経ることを特徴とする多孔質シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、特許文献4に開示されている製造方法のように、多孔質基材と多孔質支持体を積層してポリマー溶液を含浸または塗工する必要がなく、多孔質シートを効率良く製造することができる。本発明の製造方法で製造された多孔質シートは、多孔質基材の表面および内部にポリアミドイミドの網状構造体が形成され、皮膜が形成されないため、電解液浸透性や電解液保持性に優れ、電気化学素子用セパレータとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における網状構造体の模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の多孔質シートの製造方法は、多孔質基材にポリアミドイミド溶液を含浸または塗工する工程、多孔質基材をアルコール30〜65質量%と良溶媒70〜35質量%の混合溶液からなる凝固液に接触させる工程を経ることを特徴とする。この製造方法により、多孔質基材の表面全体に貫通孔を持たない皮膜が形成されることなく、多孔質基材の表面および内部に孔面積率の高い網状構造体が効率良く形成され、該網状構造体は多孔質基材を構成する繊維と絡合してなる。
【0011】
ポリアミドイミド溶液の媒体としては、ポリアミドイミドを溶解する良溶媒を用いる。良溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられ、これらは単独で使用しても良いし、混合して使用しても良い。ポリアミドイミド溶液には、メタノール、エタノール、ブタノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、水などの貧溶媒が含まれていても良い。水はイオン交換水や蒸留水が好ましい。ポリアミドイミド溶液における貧溶媒の含有率は、0〜20質量%が好ましい。貧溶媒の含有率が20質量%を超えるとポリアミドイミドが析出してしまう場合がある。また、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カルシウムなどの金属ハロゲン化物を溶解させても良いが、多孔質シートを電気二重層キャパシタ用セパレータや電解コンデンサ用セパレータとして用いる場合には、塩素イオンがアルミニウム集電体を腐食する場合があるため、塩素化合物は使用しない方が好ましい。
【0012】
ポリアミドイミド溶液におけるポリアミドイミドの固形分濃度は、1.0〜10.0質量%が好ましい。固形分濃度が1.0質量%未満では、網状構造体の形成が不十分になる場合があり、10.0質量%より高いと、ポリアミドイミド溶液の粘度が高くなりすぎて、多孔質基材への含浸性や塗工性に支障を来たす場合や必要以上のポリアミドイミドが析出して網状構造体が形成されにくい場合がある。
【0013】
網状構造体を析出させるために使用する凝固液は、アルコール30〜65質量%と良溶媒70〜35質量%の混合溶液である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、ブタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。良溶媒としては、上記したポリアミドイミド溶液の媒体が挙げられる。アルコールの含有率が30質量%未満だと、ポリアミドイミドが凝固液に混和してしまい、網状構造体が形成されにくくなる。65質量%を超えると多孔質基材の少なくとも片面に皮膜が形成されてしまう。本発明の凝固液の組成範囲において、アルコール比率が高くなるほど網状構造体の孔径が小さくなり、良溶媒比率が高くなるほど孔径が大きくなる傾向がある。
【0014】
本発明の多孔質シートの製造方法において、多孔質基材にポリアミドイミド溶液を含浸させるには、例えばディップコーター等の含浸機を用いることができる。多孔質基材にポリアミドイミド溶液を塗工するには、例えばトランスファロールコーター、リバースロールコーター、ブレードコーター、エアドクターコーター、ロッドコーター、グラビアコーター、ダイコーター、ノッチバーコーター等の塗工機を用いることができる。
【0015】
多孔質基材にポリアミドイミド溶液を含浸または塗工させた後は、多孔質基材表面の余剰ポリアミドイミド溶液を除去することが好ましい。余剰ポリアミドイミド溶液を除去する方法としては、2本のニップロール間に通して搾り取る方法、ブレードで掻き取る方法などがある。多孔質基材表面の余剰ポリアミドイミド溶液を除去するために使用するロールの材質は、ゴム、樹脂、金属のいずれでも良い。このとき、2本のロールを1組として、これを2組以上用いても良く、ブレードを2本以上用いても良い。
【0016】
凝固液に多孔質基材を接触させる方法としては、多孔質基材を凝固液に浮かべる方法、トランスファロールコーターやリバースロールコーターなどを使い、凝固液で濡らしたロールに接触させる方法、凝固液をシャワー状やカーテン状に多孔質基材に当てる方法、凝固液を多孔質基材に噴霧する方法、凝固液に浸漬する方法等が挙げられる。シャワー状やカーテン状に当てる場合は、ポリアミドイミド溶液が多孔質基材から流れ落ちたり、ポリアミドイミドの析出が斑になることがある。多孔質基材を連続で通す場合には、トランスファロールコーターやリバースロールコーターを使う方法や凝固液に浸漬する方法が好ましい。多孔質基材を連続して凝固液に通す場合は、断続的または連続的に排液と新液供給とを実施することが好ましい。凝固液の温度は特に限定されるものではないが、0〜60℃の範囲が好ましい。凝固液に多孔質基材を接触させる時間としては、5秒以上が好ましく、1分以上がより好ましい。多孔質基材を凝固液に所定時間接触させた後は、多孔質基材を水洗する。
【0017】
多孔質基材の乾燥方法としては、熱風ドライヤー、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤーなどを用いて行えば良い。必要に応じて赤外線ヒーターを併用しても良い。熱風ドライヤーの場合は、相対的に多孔質シートの裂断長が短めになる傾向があり、シリンダードライヤーとヤンキードライヤーの場合は、多孔質シートの裂断長が相対的に長めになる傾向がある。シリンダードライヤーとヤンキードライヤーの場合は、熱風ドライヤーよりも低温で効率良く乾燥できる傾向がある。
【0018】
多孔質基材は、湿式抄紙法、エレクトロスピニング法、メルトブローン法、フラッシュ紡糸法、スパンボンド法、湿式スパンボンド法、これらの組み合わせなどの方法で製造することができる。多孔質基材は必要に応じて、予めカレンダー処理、熱カレンダー処理、熱処理などが施される。
【0019】
多孔質基材を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらの誘導体、芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルなどのポリエステル、ポリオレフィン、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、脂肪族ポリケトン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリ(パラ−フェニレンベンゾビスチアゾール)、ポリ(パラ−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルなどの樹脂からなる繊維、キュプラレーヨン、再生セルロース、セルロース、柔細胞繊維、天然繊維などの有機繊維、ガラス、アルミナ、シリカ、ジルコニア、炭化珪素、各種セラミックスからなる無機繊維が挙げられる。有機繊維は、フィブリルを有しても良く、フィブリッドや非フィブリルでも良い。有機繊維は、短繊維でも連続繊維でも良い。
【0020】
有機繊維の中でも、耐溶剤性や耐熱性、多孔質基材の製造安定性に優れることから、ポリエステル、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、キュプラレーヨン、フィブリル状セルロースが好ましい。また、多孔質基材がポリオレフィン繊維を含有する場合には、電気化学素子内部の温度がポリオレフィン繊維の融点以上になったときに、ポリオレフィン繊維が溶融して正負電極間の電流を遮断する、いわゆるシャットダウン機能を付与できるため好ましい。
【0021】
芳香族ポリアミドや芳香族ポリエステルなどの芳香族とは、全芳香族とは違って主鎖の一部または全部に例えば脂肪鎖などを有するものを指す。全芳香族ポリアミドは、パラ型、メタ型のいずれでも良い。ポリ(パラ−フェニレンベンゾビスチアゾール)はトランス型、シス型のいずれでも良い。本発明におけるアクリルとは、アクリロニトリル100%の重合体からなるもの、アクリロニトリルに対して、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体、酢酸ビニルなどを共重合させたものを指す。セルロースとしては、溶剤紡糸セルロース、再生セルロース、麻、柔細胞繊維などが挙げられる。柔細胞繊維とは、植物の茎、葉、根、果実等に存在する柔細胞を主体とした部分をアルカリで処理する等して得られるセルロースを主成分とし、水に不溶な繊維である。
【0022】
多孔質基材は、バブルポイント法で測定される最大孔径が0.1〜80μmであることが好ましく、0.5〜50μmであることがより好ましい。多孔質基材の坪量は5〜40g/mが好ましく、8〜20g/mがより好ましい。多孔質基材の坪量が5g/m未満では、多孔質基材の強度が不十分になりやすく、網状構造体を形成する際のポリマー溶液の含浸性や塗工性に問題が生じる場合があり、40g/mを超えると多孔質シートの厚みを薄くしにくくなる。
【0023】
本発明におけるポリアミドイミドからなる網状構造体とは、貫通孔が連続的に網状に形成され、厚みを持って広がっていて、孔面積率が10%以上である構造体を指す。図1に網状構造体の模式図を示す。図1で、11は、網状構造体10の中で連続的に形成されている貫通孔であり、これを網状構造体の貫通孔と定義する。一方、12は単独で存在している貫通孔であり、有しても有さなくても良いが、本発明の網状構造体を構成する貫通孔とは見なさない。13は多孔質基材を構成する繊維を表す。
【0024】
本発明における孔面積率とは、網状構造体の電子顕微鏡写真を撮影し、所定面積S1の網状構造体に存在する貫通孔の総平面積S2の割合を意味する。S1は撮影倍率によって適宜決定すれば良い。例えば、撮影倍率が1000倍であれば、2500〜10000μmの範囲が好ましく、5000倍であれば25〜200μmの範囲が好ましい。孔面積率が10%未満だと、多孔質シートの電解液浸透性が悪くなる場合や電極との接触抵抗が大きくなる場合がある。
【0025】
本発明における網状構造体の貫通孔の孔径分布は、0.01〜50μmの範囲が好ましい。網状構造体の貫通孔の形は円形、楕円形、多角形などがある。貫通孔の孔径が0.01μm未満だと多孔質シートの電解液浸透性が悪くなる場合や電極との接触抵抗が大きくなる場合があり、50μmより大きいと多孔質シートの強度が不十分になる場合や漏れ電流が大きくなる場合がある。多孔質シートを、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスキャパシタ、電解コンデンサ、リチウムイオン電池、ポリアセン電池などのセパレータとして使用する場合、網状構造体の貫通孔の孔径分布は0.01〜10μmの範囲が好ましく、固体電解コンデンサ用セパレータとして使用する場合、0.01〜50μmの範囲が好ましく、0.04〜50μmの範囲がより好ましい。ここで、孔径とは、電子顕微鏡写真で確認される貫通孔の平断面を同面積の円形に換算したときの直径を意味する。
【0026】
網状構造体は網状、蓮根を薄く輪切りにした断面のような形状、蜂の巣状、蜘蛛の巣状、スポンジ状などの形状をとり、単層のものもあれば多層のものもある。また、一部が単層で一部が多層の場合もある。網状構造体は貫通孔の形状や大きさ、厚みなどが均質でなくても良い。
【0027】
本発明における網状構造体は、多孔質基材の表面と内部の繊維間空隙にポリアミドイミドが析出して形成される。このとき、多孔質基材を構成する繊維と網状構造体が絡合し、網状構造体は多孔質シートから物理的に単離することができないため、多孔質基材から網状構造体が分離したり離散したりすることがない。ここで、絡合とは、網状構造体が繊維の少なくとも一部を包み込んだ状態や、網状構造体が繊維の少なくとも一部に絡まった状態を意味する。本発明の多孔質シートにおいて、網状構造体は、多孔質基材の表面および内部に満遍なく存在することが好ましいが、多孔質基材の表面と内部に部分的に存在していても良い。網状構造体が多孔質基材の表裏面に存在する場合には、表裏面に存在する網状構造体の面積が異なっていても良い。
【0028】
本発明における多孔質シート中の網状構造体の含有率は1〜40質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましい。網状構造体の含有率が1質量%未満の場合、多孔質シートを電気化学素子用セパレータとして用いたときに漏れ電流が大きくなる場合がある。40質量%より多い場合、多孔質シートを電気化学素子用セパレータとして用いたときに電解液浸透性が悪くなる場合や内部抵抗が高くなる場合がある。網状構造体の厚みは、0.01〜10μmが好ましく、0.1〜5μmがより好ましい。網状構造体の厚みが0.01μm未満では、多孔質シートの強度が不十分になる場合がある。網状構造体の厚みが10μmより厚いと、電解液浸透性に問題が生じる場合がある。網状構造体の厚みは、多孔質シートの表面または断面を500倍以上、好ましくは5000倍以上の倍率で撮影した電子顕微鏡写真を観察することにより確認することができる。
【0029】
本発明における多孔質シートは、厚みが9〜100μmであることが好ましく、15〜60μmであることがより好ましい。本発明の多孔質シートの密度は0.250〜0.900g/cmであることが好ましく、0.280〜0.850g/cmであることがより好ましい。厚みが9μm未満では、取り扱い時や加工時に破れたり、穴があいたりすることがあり、100μmより厚いと、電気化学素子用セパレータとして用いたときに収納できる電極面積が小さくなり、容量が不十分になる場合がある。密度が0.250g/cm未満だと、電気化学素子用セパレータとして用いたときに、漏れ電流が大きくなる場合があり、0.900g/cmより大きいと、電気化学素子用セパレータとして用いたときに、電解液浸透性が悪くなる場合や内部抵抗が高くなる場合がある。
【0030】
本発明における多孔質シートは、ガーレー透気度が0.01〜100s/100mlであることが好ましい。多孔質シートが電気二重層キャパシタ用セパレータ、リチウムイオンキャパシタ用セパレータ、レドックスキャパシタ用セパレータ、ハイブリッドキャパシタ用セパレータとして使用される場合には、ガーレー透気度は1.0〜40s/100mlであることが好ましい。多孔質シートが導電性高分子を用いる固体電解コンデンサ用セパレータとして使用される場合には、ガーレー透気度は0.01〜5s/100mlであることが好ましい。多孔質シートがリチウムイオン電池用セパレータとして使用される場合には、ガーレー透気度は1.0〜100s/100mlであることが好ましい。
【0031】
多孔質シートのガーレー透気度が0.01s/100ml未満では、電気化学素子用セパレータとして用いたときに漏れ電流が大きくなる場合や内部短絡する場合がある。100s/100mlより大きいと、電気化学素子用セパレータとして用いたときに内部抵抗が高くなる場合や、導電性高分子を用いる固体電解コンデンサ用セパレータとして用いたときに、導電性高分子が担持されにくくなる場合がある。
【0032】
多孔質シートのガーレー透気度が0.01〜100s/100mlの範囲であっても、ポリアミドイミドの皮膜が形成されている場合には内部抵抗が高くなる場合や導電性高分子が担持されにくくなる場合がある。ここでいう皮膜とは、貫通孔を有さず、少なくとも2000μm以上の面積を有する膜を指す。本発明においては、多孔質シート表面の所定面積S3に存在する皮膜の総面積S4の割合を皮膜面積率とする。皮膜の総面積を求めるには、多孔質シート表面の電子顕微鏡写真を撮影し、面積を計測すれば良い。所定面積S3は撮影倍率によって適宜決定すれば良い。例えば、撮影倍率が500倍であれば46000μm、1000倍であれば12000μm、2000倍であれば3000μmを目安にすれば良い。本発明においては、ポリアミドイミドの皮膜面積率が小さい程好ましい。
【0033】
本発明の製造方法で製造された多孔質シートは、多孔質基材の表面および内部に網状構造体が形成され、皮膜が形成されないため、電解液浸透性および電解液保持性に優れる。従って本発明における多孔質シートを電気化学素子用セパレータとして使用すると、内部抵抗が低く、漏れ電流の小さい電気化学素子が得られる。本発明における電気化学素子とは、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスキャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、電解コンデンサ、固体電解コンデンサ、リチウムイオン電池、ポリアセン電池などを指す。
【0034】
電解液には、イオン解離性の塩を溶解させた水溶液、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセルソルブ、これらの混合溶媒などの有機溶媒にイオン解離性の塩を溶解させたもの、イオン性液体(固体溶融塩)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。水溶液系と有機溶媒系のいずれも利用できる電気化学素子の場合は、水溶液系は耐電圧が低いため、有機溶媒系の方が好ましい。電解液の代わりにポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、これらの誘導体などの導電性高分子膜を用いても良い。
【0035】
電気二重層キャパシタの電極活物質としては、例えば活性炭、カーボンブラック、カーボンエーロゲル、カーボンナノチューブ、非多孔性炭素などが挙げられる。リチウムイオンキャパシタの負極活物質としては、例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、ポリアセン系有機半導体などが挙げられ、正極活物質としては、例えばポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、活性炭、ポリアセン系有機半導体などが挙げられる。レドックスキャパシタの電極活物質としては、例えば酸化ルテニウム、酸化イリジウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化コバルトなどの金属酸化物、これら金属酸化物の複合物、これら金属酸化物の水和物、これら金属酸化物と炭素材料との複合物、窒化モリブデン、窒化モリブデンと金属酸化物との複合物などが挙げられる。
【0036】
ハイブリッドキャパシタとは、正極か負極のどちらかにファラデー反応を利用したキャパシタである。電極活物質としては、例えば活性炭、カーボンブラック、カーボンエーロゲル、カーボンナノチューブ、非多孔性炭素、チタン酸リチウムなどが挙げられる。固体電解コンデンサは固体電解質として導電性高分子を用いるものを指す。導電性高分子としては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアセン、これらの誘導体が挙げられる。固体電解コンデンサは、これら導電性高分子と電解液を併用したものでも良い。
【0037】
リチウムイオン電池の負極としては炭素材料が用いられ、正極にはリチウム金属酸化物などが用いられる。リチウム金属酸化物としては、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、チタン酸リチウムが挙げられる。電解液には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン、これらの混合溶媒などの有機溶媒にリチウム塩を溶解させたものが用いられる。リチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウムや4フッ化ホウ酸リチウムが挙げられる。固体電解質としては、ポリエチレングリコールやその誘導体、ポリメタクリル酸誘導体、ポリシロキサンやその誘導体、ポリフッ化ビニリデンなどのゲル状ポリマーにリチウム塩を溶解させたものが用いられる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0039】
多孔質基材A〜Fを使用した。
【0040】
<多孔質基材A>
繊度0.06dtex、繊維長3mmのポリエステル繊維(帝人ファイバー製、商品名:TP04PN)、繊度0.2dtex、繊維長3mmの熱融着性ポリエステル繊維(帝人ファイバー製、商品名:TK08PN)、質量平均繊維長0.39mm、カナディアンスタンダードフリーネス0mlのフィブリル状セルロースからなる厚み40μm、密度0.30g/cmの湿式不織布を作製し、多孔質基材Aとした。
【0041】
<多孔質基材B>
繊度0.06dtex、繊維長3mmのポリエステル繊維(帝人ファイバー製、商品名:TP04PN)、繊度0.2dtex、繊維長3mmの熱融着性ポリエステル繊維(帝人ファイバー製、商品名:TK08PN)、質量平均繊維長0.39mm、カナディアンスタンダードフリーネス0mlのフィブリル状セルロース、質量平均繊維長0.61mm、カナディアンスタンダードフリーネス0mlのフィブリル状パラアラミド繊維からなる厚み35μm、密度0.29g/cmの湿式不織布を作製し、多孔質基材Bとした。
【0042】
<多孔質基材C>
繊度0.1dtex、繊維長3mmのポリエステル繊維(帝人ファイバー製、商品名:TM04PN)、繊度0.6dtex、繊維長5mmのポリエステル繊維(帝人ファイバー製、商品名:TM04PN)、繊度1.1dtex、繊維長5mmの熱融着性ポリエステル繊維(帝人ファイバー製、商品名:TJ04CN)、質量平均繊維長0.39mm、カナディアンスタンダードフリーネス0mlのフィブリル状セルロースからなる厚み45μm、密度0.29g/cmの湿式不織布を作製し、多孔質基材Cとした。
【0043】
<多孔質基材D>
湿式スパンボンド法で作製された厚み45μm、密度0.31g/cmのキュプラレーヨン不織布(旭化成せんい製、商品名:ベンリーゼSA14G)を多孔質基材Dとした。
【0044】
<多孔質基材E>
スパンボンド法で作製された厚み50μm、密度0.25g/cmのポリエステル製不織布を多孔質基材Eとした。
【0045】
<多孔質基材F>
メルトブローン法で作製された厚み50μm、密度0.25g/cmのナイロン製不織布を多孔質基材Fとした。
【0046】
<ポリアミドイミド溶液1>
ポリアミドイミド溶液(東洋紡製、商品名:バイロマックスHR16NN)をN−メチル−2−ピロリドンで希釈し、ポリアミドイミドの固形分濃度を3質量%に調製し、これをポリアミドイミド溶液1とした。
【0047】
<ポリアミドイミド溶液2>
ポリアミドイミド溶液(東洋紡製、商品名:バイロマックスHR16NN)をN−メチル−2−ピロリドンで希釈し、ポリアミドイミドの固形分濃度を6質量%に調製し、これをポリアミドイミド溶液2とした。
【0048】
<凝固液1>
エタノール65質量%、N−メチル−2−ピロリドン35質量%の混合溶液を20℃にしたものを凝固液1とした。
【0049】
<凝固液2>
エタノール50質量%、N−メチル−2−ピロリドン50質量%の混合溶液を20℃にしたものを凝固液2とした。
【0050】
<凝固液3>
エタノール30質量%、N−メチル−2−ピロリドン70質量%の混合溶液を20℃にしたものを凝固液3とした。
【0051】
<凝固液4>
メタノール65質量%、N−メチル−2−ピロリドン35質量%の混合溶液を5℃にしたものを凝固液4とした。
【0052】
<凝固液5>
メタノール50質量%、N−メチル−2−ピロリドン50質量%の混合溶液を5℃にしたものを凝固液5とした。
【0053】
<凝固液6>
メタノール30質量%、N−メチル−2−ピロリドン70質量%の混合溶液を5℃にしたものを凝固液6とした
【0054】
<凝固液7>
エタノール25質量%、N−メチル−2−ピロリドン75質量%の混合溶液を20℃にしたものを凝固液7とした。
【0055】
<凝固液8>
エタノール70質量%、N−メチル−2−ピロリドン30質量%の混合溶液を20℃にしたものを凝固液8とした。
【0056】
<凝固液9>
イオン交換水50質量%、N−メチル−2−ピロリドン50質量%の混合溶液を20℃にしたものを凝固液9とした。
【0057】
<凝固液10>
イオン交換水50質量%、エタノール50質量%の混合溶液を20℃にしたものを凝固液10とした。
【0058】
<凝固液11>
20℃のイオン交換水を凝固液11とした。
【0059】
(実施例1)
ディップコーターを用いてポリマー溶液1を含浸させた多孔質基材Aを、直径50mmの2本のゴムロール間に線圧30N/cmで通して余剰ポリマー溶液を除去し、さらに、凝固液1に1分間浸漬して網状構造体を析出させた。その後、イオン交換水で洗浄し、110℃の熱風乾燥機で乾燥し、カレンダー処理して厚み20μmの多孔質シート1を得た。
【0060】
(実施例2、3、7〜9)
多孔質基材、ポリマー溶液、凝固液の組み合わせを表1の通りにした以外は、実施例1と同様にして多孔質シート2、3、7〜9を作製した。
【0061】
(実施例4)
ブレードコーターを用いて多孔質基材Aの両面にポリマー溶液1を塗工し、さらに、凝固液1に1分間浸漬して網状構造体を析出させた。その後、イオン交換水で洗浄し、110℃の熱風乾燥機で乾燥し、カレンダー処理して厚み20μmの多孔質シート4を得た。
【0062】
(実施例5、6)
多孔質基材、ポリマー溶液、凝固液の組み合わせを表1の通りにした以外は、実施例4と同様にして多孔質シート5、6を作製した。
【0063】
(実施例10)
ディップコーターを用いてポリマー溶液1を含浸させた多孔質基材Cを、直径50mmの2本のゴムロール間に線圧30N/cmで通して余剰ポリマー溶液を除去し、さらに、凝固液4に1分間浸漬して網状構造体を析出させた。その後、イオン交換水で洗浄し、110℃の熱風乾燥機で乾燥して厚み45μmの多孔質シート10を得た。
【0064】
(実施例11〜21)
多孔質基材、ポリマー溶液、凝固液の組み合わせを表1の通りにした以外は、実施例10と同様にして多孔質シート11〜21を作製した。
【0065】
【表1】

【0066】
(比較例1)
ディップコーターを用いてポリマー溶液2を含浸させた多孔質基材Aを、直径50mmの2本のゴムロール間に線圧30N/cmで通して余剰ポリマー溶液を除去し、さらに凝固液7に1分間浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、110℃の熱風乾燥機で乾燥し、カレンダー処理して厚み20μmの多孔質シート22を作製した。
【0067】
(比較例2〜26)
多孔質基材、ポリマー溶液、凝固液の組み合わせを表2の通りにした以外は、比較例1と同様にして多孔質シート23〜47を作製した。
【0068】
(比較例27)
多孔質基材Aを多孔質支持体として用い、多孔質基材Aと多孔質支持体を1枚ずつ積層した状態で、ディップコーターを用いてポリマー溶液1を含浸させ、直径50mmの2本のゴムロール間に線圧30N/cmで通して余剰ポリマー溶液を除去し、さらに凝固液11に1分間浸漬した後、イオン交換水で洗浄し、110℃の熱風乾燥機で乾燥し、カレンダー処理して厚み20μmの多孔質シート48を作製した。
【0069】
【表2】

【0070】
多孔質シート1〜48について、下記の試験方法により評価を行い、その結果を表3および表4に示した。
【0071】
<厚み>
多孔質シート1〜48の厚みをJIS C2111に準拠して測定した。
【0072】
<透気度>
外径28.6mmの円孔を有するガーレー透気度計を用いて、多孔質シート1〜48のガーレー透気度をJIS P8117に準拠して測定した。
【0073】
<形状>
多孔質シート1〜48の表面および内部を電子顕微鏡で観察し、ポリアミドイミドの形状について調べた。表裏面および内部にポリアミドイミドの網状構造体が形成されている場合をA、片面に網状構造体はあるが、反対面には網状構造体が無く皮膜が形成されている場合をB、表裏面とも網状構造体が無く皮膜が形成されている場合をC、表面および内部に網状構造体も皮膜も形成されていない場合をDとした。B、Cの場合は多孔質基材の内部は無視した。
【0074】
<含有率>
多孔質シート1〜48についてポリアミドイミドの含有率を算出した。ポリアミドイミドの含有率は、ポリアミドイミドを析出させた後の多孔質シートの質量W1から多孔質基材の質量W2を差し引いて得られる値W3をW1で除して100倍して得られる値とした。
【0075】
<孔面積率1>
多孔質シート1〜48の表面Aに存在する網状構造体の電子顕微鏡写真を撮り、所定面積の網状構造体に対する貫通孔の総平面積率を孔面積率1として算出した。ここで、表面Aとは、多孔質シートの任意の表面を意味する。
【0076】
<孔面積率2>
多孔質シート1〜48の表面Bに存在する網状構造体の電子顕微鏡写真を撮り、所定面積の網状構造体に対する貫通孔の総平面積率を孔面積率2として算出した。ここで、表面Bとは、表面Aの反対面を意味する。
【0077】
<孔径1>
多孔質シート1〜48の表面Aに存在する網状構造体の電子顕微鏡写真を撮り、網状構造体の孔径範囲を調べた。
【0078】
<孔径2>
多孔質シート1〜48の表面Bに存在する網状構造体の電子顕微鏡写真を撮り、網状構造体の孔径範囲を調べた。
【0079】
<皮膜面積率1>
多孔質シート1〜48の表面Aの電子顕微鏡写真を撮り、所定面積に対する皮膜の総面積率を皮膜面積率1として算出した。
【0080】
<皮膜面積率2>
多孔質シート1〜48の表面Bの電子顕微鏡写真を撮り、所定面積に対する皮膜の総面積率を皮膜面積率2として算出した。
【0081】
【表3】

【0082】
【表4】

【0083】
<電気二重層キャパシタ1〜19>
正極および負極として、表面をエッチング処理した厚み30μmのアルミニウム箔集電体に厚み120μmの電極活物質層が形成されてなる電極を用いた。電極活物質層は、平均粒径5μm、BET比表面積1400m/gの粉末状活性炭85質量%、平均粒径200nmのアセチレンブラック7質量%、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)8質量%からなる。多孔質シート1〜9、22〜30、48を負極と正極の間に介して積層し、これをアルミニウムラミネート型収納袋に収納してスタック型素子を形成した。この素子ごと200℃で10時間真空乾燥し、電極および多孔質シートに含まれる水分を除去した。これを真空中で室温まで放冷した後、素子内に電解液を注入し、注入口を密栓した後、0.5MPaで加圧してスタック型素子を固定し、電気二重層キャパシタ(EDLC)1〜19をそれぞれ100個作製した。電解液には、プロピレンカーボネートに1.5mol/lになるように(C(CH)NBFを溶解させたものを用いた。
【0084】
<リチウムイオンキャパシタ負極>
難黒鉛化炭素粉末(クレハ製、商品名:カーボトロンP)90質量%、PVDF10質量%の比率で、N−メチル−2−ピロリドンに分散させたスラリーを調製した。厚さ32μm(気孔率57%)の銅製エキスパンドメタルからなる負極集電体の両面に、アプリケータを用いて該スラリーを塗工、乾燥した後に、ロールプレス装置を用いてプレス処理し、厚み90μmのリチウムイオンキャパシタ負極を作製した。
【0085】
<リチウムイオンキャパシタ正極>
フェノール樹脂を出発原料とする平均粒径5.0μm、比表面積2000m/gの粉末状活性炭88質量%、平均粒径200nmのアセチレンブラック4質量%、エチレン−メタクリル酸共重合体からなるアクリル系バインダー5質量%、カルボキシメチルセルロース3質量%の比率で、イオン交換水に分散させたスラリーを調製した。厚み38μm(気孔率47%)のアルミニウム製エキスパンドメタル集電体の両面に、アプリケータを用いて上記のスラリーを塗工、乾燥した後に、ロールプレス装置を用いてプレス処理し、厚み173μmのリチウムイオンキャパシタ正極を作製した。
【0086】
<リチウムイオンキャパシタ1〜19>
リチウムイオンキャパシタ負極を50mm×80mmに切りそろえ、リチウムイオンキャパシタ正極を48mm×78mmに切りそろえ、多孔質シート1〜9、22〜30、48を負極と正極の間に介して積層し、200℃で10時間真空乾燥し、リチウムイオンキャパシタ素子を作製した。負極活物質質量に対してドープ量が350mAh/gのイオン供給になるような金属リチウムを厚み70μmの銅ラスに圧着し、負極と対向するように上記リチウムイオンキャパシタ素子の最外部に1枚配置した。このように金属リチウムを配置したリチウムイオンキャパシタ素子をアルミニウム製収納袋に挿入後、プロピレンカーボネートに1.5mol/lになるようにLiPFを溶解した電解液を注入し、真空封止してリチウムイオンキャパシタ(LIC)1〜19をそれぞれ100個作製した。
【0087】
<固体電解コンデンサ1〜29>
エッチング処理の後に化成処理されて酸化皮膜を有するアルミニウム陽極箔とエッチング処理されたアルミニウム陰極箔とを多孔質シート10〜21、31〜47を介して巻回し、コンデンサ素子を作製した。コンデンサ素子をアジピン酸溶液に浸漬し、電圧8.2Vを180分間印加して再化成処理した。コンデンサ素子を120℃で乾燥させた後、3,4−エチレンジオキシチオフェンとp−トルエンスルホン酸第二鉄のブタノール50質量%溶液を質量比で1:20になるように混合した溶液に浸漬し、引き上げて200℃で10分間加熱して重合反応させ、セパレータに導電性高分子であるポリチオフェンを形成させた。ポリチオフェンを形成させたコンデンサ素子をメタノールで洗浄して、セパレータに残留している未反応の3,4−エチレンジオキシチオフェンとp−トルエンスルホン酸第二鉄を除去した後、120℃で乾燥させ、これをアルミニウム製の外装缶に入れて封口し、定格電圧6.3V、定格静電容量470μFの固体電解コンデンサ1〜29をそれぞれ1000個作製した。
【0088】
電気二重層キャパシタ1〜19、リチウムイオンキャパシタ1〜19、固体電解コンデンサ1〜29について、下記の試験方法により評価を行い、その結果を表5〜7に示した。
【0089】
<内部抵抗>
電気二重層キャパシタ1〜19を充電電流1Aで3.5Vまで定電流充電し、3.5V到達後、1時間定電圧充電した。充電完了後、放電電流20Aで放電開始し、放電開始直後の電圧降下より内部抵抗を算出し、100個の平均値を表5に示した。
【0090】
リチウムイオンキャパシタ1〜19を充電電流1Aで3.8Vまで定電流充電し、3.8V到達後、1時間定電圧充電した。充電完了後、放電電流20Aで放電開始し、放電開始直後の電圧降下より内部抵抗を算出し、100個の平均値を表6に示した。
【0091】
<漏れ電流>
電気二重層キャパシタ1〜19を充電電流1Aで3.5Vまで定電流充電し、3.5Vで24時間保持したときに計測される電流値を漏れ電流とし、100個の平均値を表5に示した。
【0092】
固体電解コンデンサ1〜29に20℃で6.3Vを印加して120秒後の漏れ電流を測定し、1000個の平均値を表7に示した。
【0093】
<静電容量維持率>
リチウムイオンキャパシタ1〜19を充電電流1Aで3.8Vになるまで定電流充電し、3.8V到達後、1時間定電圧充電した。充電完了後、放電電流1Aで2.2Vになるまで放電した。この充放電サイクルを繰り返し、10回目の放電における静電容量を初期静電容量とした。その後、3.8V、60℃にて1000時間の連続充電を行った。充電完了後、放電せずに25℃で3時間放置した後、3.8V−2.2Vの充放電サイクルを1回行って静電容量を算出し、初期静電容量に対する割合、即ち静電容量維持率を求め、100個の平均値を表6に示した。
【0094】
<ESR>
周波数100kHz、温度20℃のときの固体電解コンデンサ1〜29の等価直列抵抗ESRを測定し、1000個の平均値を表7に示した。
【0095】
<誘電正接>
周波数100kHz、温度20℃のときの固体電解コンデンサ1〜29の誘電正接を測定し、1000個の平均値を表7に示した。誘電正接の値が小さいほど好ましい。
【0096】
【表5】

【0097】
【表6】

【0098】
【表7】

【0099】
実施例1〜21で作製した多孔質シートは、多孔質基材に、ポリアミドイミド溶液を含浸または塗工する工程、アルコール30〜65質量%と良溶媒70〜35質量%の混合溶液からなる凝固液に接触させて、繊維と絡合するポリアミドイミドからなる網状構造体を多孔質基材の表面および内部に析出させる工程を経て製造されたため、多孔質基材と多孔質支持体を積層して処理する必要が無く、多孔質基材の表面および内部にポリアミドイミドからなる網状構造体が効率良く形成された。実施例1〜21で作製した多孔質シートに存在する網状構造体は、いずれも孔面積率が10%以上であった。
【0100】
実施例1〜9で作製した多孔質シートは、表裏面にポリアミドイミドの皮膜が無く、表面および内部に網状構造体が形成されており、ガーレー透気度が1.0〜30s/100mlの範囲にあり、網状構造体の孔径が0.01〜10μmの範囲にあるため電気二重層キャパシタやリチウムイオンキャパシタ用のセパレータとして有用であった。実施例1〜9で作製した多孔質シートを具備してなる電気二重層キャパシタおよびリチウムイオンキャパシタは、内部抵抗が低く、漏れ電流が小さく、静電容量維持率が高く優れていた。
【0101】
実施例10〜21で作製した多孔質シートは、表裏面にポリアミドイミドの皮膜が無く、表面および内部に網状構造体が形成されており、ガーレー透気度が0.01〜5s/100mlの範囲にあり、網状構造体の孔径が0.01〜50μmの範囲にあるため電解質として導電性高分子を用いる固体電解コンデンサ用のセパレータとして有用であった。実施例10〜21で作製した多孔質シートを具備してなる固体電解コンデンサは、ESRが低く、漏れ電流が小さく、誘電正接が小さく優れていた。
【0102】
比較例1、6、10、14、19、23で作製した多孔質シートは、本発明外の組成の凝固液を用いて製造されたため、ポリアミドイミドが凝固液中に溶出してしまい、多孔質基材の表面および内部にポリアミドイミドからなる網状構造体が形成されなかった。該多孔質シートを具備してなる電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、固体電解コンデンサは漏れ電流、静電容量維持率が悪かった。
【0103】
比較例2、3、5、7、8、11、12、16、18、20、21、24、25で作製した多孔質シートは、本発明外の組成の凝固液を用いて製造されたため、多孔質基材の片面にはポリアミドイミドの網状構造体が形成されたが、反対面にはポリアミドイミドの皮膜が形成されてしまい、本発明の目的とする多孔質シートは得られなかった。該多孔質シートを具備してなる電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、固体電解コンデンサは内部抵抗、静電容量維持率、ESR、誘電正接が悪かった。
【0104】
比較例4、9、13、15、17、22、26で作製した多孔質シートは、本発明外の組成の凝固液を用いて製造されたため、多孔質基材の両面ともポリアミドイミドからなる網状構造体が形成されずに皮膜が形成されてしまい、本発明の目的とする多孔質シートは得られなかった。該多孔質シートを具備した電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、固体電解コンデンサは内部抵抗、静電容量維持率、ESR、誘電正接が悪かった。
【0105】
比較例27で作製した多孔質シートは、多孔質基材と多孔質支持体とを積層した状態でポリアミドイミド溶液を含浸しているため、本発明の実施例1〜21で作製した多孔質シートよりも明らかに製造効率が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の活用例としては、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ、レドックスキャパシタ、電解コンデンサ、固体電解コンデンサ、リチウムイオン電池、ポリアセン電池などの電気化学素子用セパレータや限外濾過膜やエアフィルター、オイルフィルター、血液フィルター、逆浸透膜などが好適である。
【符号の説明】
【0107】
10 網状構造体
11 網状構造体を構成する貫通孔
12 網状構造体を構成すると見なさない貫通孔
13 多孔質基材を構成する繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材の表面および内部にポリアミドイミドからなる網状構造体が存在し、多孔質基材を構成する繊維と該網状構造体とが絡合してなる多孔質シートの製造方法であって、多孔質基材にポリアミドイミド溶液を含浸または塗工する工程、アルコール30〜65質量%とポリアミドイミドの良溶媒70〜35質量%の混合溶液からなる凝固液に接触させる工程を経ることを特徴とする多孔質シートの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−272560(P2010−272560A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120611(P2009−120611)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】