説明

多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体、多孔質ポリイミドおよび絶縁材料

【課題】より簡便な条件で(温和な反応条件で)合成可能な多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体、多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体を加熱処理して得られる多孔質ポリイミド、および前記多孔質ポリイミドを含有する絶縁材料を提供する。
【解決手段】ポリイミドユニット(A)と、熱分解温度が300℃未満であるビニルポリマーユニット(B)を有する多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体であって、重合開始剤として、前記ポリイミドユニット(A)となる部分の末端に、直接または連結基を介してハロゲン原子を含む有機基を有する、ガラス転移温度が300℃以上であるテレケリックポリイミドを用い、ラジカル重合性ビニルモノマーを重合して得られることを特徴とする多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体、この多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体を加熱処理して得られる多孔質ポリイミド、および前記多孔質ポリイミドを含有する絶縁材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子における低誘電率絶縁膜材料として有用な多孔質ポリイミドを簡便に作製することが可能な多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体、このブロック共重合体を加熱処理して得られる多孔質ポリイミド、およびこの多孔質ポリイミドを含有する絶縁材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高性能化に伴い、半導体集積回路における多層配線化による高集積化が進められている。このような多層配線技術において信号遅延(RC遅延)時間は、配線を被覆する層間絶縁膜の誘電率の平方根に比例する。従ってRC遅延を抑制させ、ICの高速化を図る為には層間絶縁材料の誘電率を低下させる必要がある。また層間絶縁材料には上述のような電気的性質に加え、400℃以上の高温環境下においても分解物を発生させない耐熱分解性なども求められている。
【0003】
ポリイミドは高い熱的・機械的安定性などを有することから、層間絶縁材料用高分子材料の有力候補の一つであるが、層間絶縁材料として用いる場合、上述の理由からポリイミドの低誘電率化が必要である。
【0004】
低誘電率化を図る有効な手法として、多孔質ポリイミドを用いた低密度化が知られている。このような多孔質ポリイミド形成の有力な方法の一つとして、ポリイミドブロックと熱分解性重合体ブロックとを有するブロック共重合体を成形してブロック共重合体フィルムを得た後、このブロック共重合体フィルムを加熱して、上記熱分解性重合体を分解させることにより、多孔質ポリイミドを得る方法が挙げられる(特許文献1)。この方法は、他の多孔質ポリイミドを製造する方法に比べ、サイズの小さな空孔を形成することができ、ポリイミドの機械特性を低下させないものである。
【0005】
しかしながら、このようなブロック共重合体の合成は、比較的厳しい合成条件(極低温、高真空、危険性の高い化合物の使用など)が必要となる場合が多く(例えば、特許文献1、非特許文献1、2など参照)、その製造が必ずしも容易であるとはいえなかった。
【0006】
したがって、より簡便な条件で(温和な反応条件で)合成することが可能な多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2531906号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Polymer Preprints,Japan,Vol.54,No.1(2005)p378
【非特許文献2】Polymer Preprints,Japan,Vol.53,No.2(2004)p2678
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、より簡便な条件で(温和な反応条件で)合成可能な多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体、多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体を加熱処理して得られる多孔質ポリイミド、および前記多孔質ポリイミドを含有する絶縁材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、分子末端にハロゲン原子を有し、ガラス転移温度が300℃以上であるテレケリックポリイミドを合成し、このテレケリックポリイミドをマクロ重合開始剤として、ラジカル重合性ビニルモノマーを重合することにより、前記テレケリックポリイミドからなるユニット(A)と、熱分解温度が300℃未満の熱分解性重合体からなるユニット(B)とを有するブロック共重合体を効率よく製造できることを見出した。さらに、このブロック共重合体を加熱処理することにより、低誘電率且つ耐熱性(耐熱分解性)に優れた多孔質ポリイミドを得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明の第1によれば、下記(1)〜(8)の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体が提供される。
(1)ポリイミドユニット(A)と、熱分解温度が300℃未満であるビニルポリマーユニット(B)を有する多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体であって、重合開始剤として、前記ポリイミドユニット(A)となる部分の末端に、直接または連結基を介してハロゲン原子を含む有機基を有する、ガラス転移温度が300℃以上であるテレケリックポリイミドを用い、ラジカル重合性ビニルモノマーを重合して得られることを特徴とする多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
(2)前記ポリイミドユニット(A)が、式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Rは4価の有機基を表し、Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロアルキル基、または炭素数1〜6のハロアルコキシ基を表し、mは0〜4の整数を表し、nは任意の自然数を表す。)で示されるポリイミド構造を有する(1)に記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
(3)前記テレケリックポリイミドが、式(2)
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R、R、m、nは前記と同じ意味を表し、Rは炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数6〜20のアリーレン基、またはこれらの組合せからなる2価の基を表し、Rは炭素数1〜20のハロアルキル基、または炭素数1〜6のハロアルキル基で置換されたアリール基を表す。)で示される化合物である(1)または(2)に記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
(4)前記ビニルポリマーユニット(B)が、前記テレケリックポリイミドをマクロ重合開始剤として用い、ラジカル重合性ビニルモノマーを原子移動ラジカル重合法により重合して得られるものである(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
(5)前記ラジカル重合性ビニルモノマーが、アクリル系化合物である(1)〜(4)のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【0016】
(6)ビニルポリマーユニット(B)−ポリイミドユニット(A)−ビニルポリマーユニット(B)型となるトリブロック構造を有する(1)〜(5)のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
(7)式(3)
【0017】
【化3】

【0018】
〔式中、R、R、R、mおよびnは前記と同じ意味を表し、R41は前記Rからハロゲン原子が除かれた2価の基を表し、Bは、式(4a)または(4b)
【0019】
【化4】

【0020】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素数1〜20のアルキル基を表し、*はXと結合する方向を表す。)で表される基の少なくとも一方を表し、Xはハロゲン原子を表し、lは任意の自然数を表す。lが2以上のとき、B同士は同一であっても、相異なっていてもよい。〕
で示される化合物である(1)〜(6)のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
(8)数平均分子量(Mn)が15,000〜200,000であり、かつ、前記ポリイミドユニット(A)とビニルポリマーユニット(B)の重量比が、ポリイミドユニット(A):ビニルポリマーユニット(B)=60:40〜95:5である(1)〜(7)のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【0021】
本発明の第2によれば、下記(9)に記載の多孔質ポリイミドが提供される。
(9)前記(1)〜(8)のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体を加熱処理して得られる多孔質ポリイミド。
本発明の第3によれば、下記(10)に記載の絶縁材料が提供される。
(10)前記(9)に記載の多孔質ポリイミド含有する絶縁材料。
【発明の効果】
【0022】
本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体は、比較的温和な反応条件により、収率よく得られるものである。
本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体は、熱分解性ブロックの鎖長が制御されたものであり、これにより得られる多孔質ポリイミドの空孔率(密度)を制御することが可能なものである。
本発明のブロック共重合体を加熱処理することにより、低誘電率で、かつ耐熱性(耐熱分解性)に優れた多孔質ポリイミドを得ることができる。
本発明の多孔質ポリイミドは低誘電率で、かつ耐熱性に優れているので、絶縁材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で得たテレケリックポリイミド(2)のH−NMRスペクトルチャートである。
【図2】実施例1で得た多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(3)のH−NMRスペクトルチャートである。
【図3】実施例1で得た多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(3)のTGA曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を、1)多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体、2)多孔質ポリイミド、および、3)絶縁材料に項分けして詳細に説明する。
【0025】
1)多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体
本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(以下、「本発明のブロック共重合体」と略記することがある。)は、ポリイミドユニット(A)と、熱分解温度が300℃未満であるビニルポリマーユニット(B)を有する多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体であって、重合開始剤として、前記ポリイミドユニット(A)となる部分の末端に、直接または連結基を介してハロゲン原子を含む有機基を有する、ガラス転移温度が300℃以上であるテレケリックポリイミドを用い、ラジカル重合性ビニルモノマーを重合して得られることを特徴とする。
【0026】
本発明のブロック共重合体は、少なくとも前記ポリイミドユニット(A)(以下、「ユニット(A)」と略記する。)およびビニルポリマーユニット(B)(以下、「ユニット(B)」と略記する。)を有するものであればよく、ブロックの数やブロックの配置順序などは特に制限されない。本発明のブロック共重合体としては、ユニット(B)−ユニット(A)−ユニット(B)型となるトリブロック構造を有する高分子であることが好ましい。
【0027】
(i)ユニット(A)
本発明のブロック共重合体において、ユニット(A)は、ポリイミド構造を有するユニットである。
【0028】
ポリイミド構造は、主鎖中に酸イミド結合をもつ高分子構造の総称であり、テトラカルボン酸無水物とジアミンとの環化重縮合により得ることができる。
本発明においては、後述するように、ガラス転移温度が300℃以上であるテレケリックポリイミドを重合開始剤として用いる観点から、ユニット(A)が、下記式(1)
【0029】
【化5】

【0030】
で示されるポリイミド構造を有するものであることが好ましい。
式(1)中、Rは4価の有機基を表す。後述するように、テレケリックポリイミドをマクロ重合開始剤として、適当な有機溶媒中でラジカル重合性ビニルモノマーの重合反応を行う場合には、テレケリックポリイミドが該有機溶媒に可溶であることが好ましいことから、有機溶媒に対する溶解度の高いテレケリックポリイミドを得ることができる基が好ましい。
の好ましい具体例としては、次のものが挙げられる。
【0031】
【化6】

【0032】
は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基などの炭素数1〜6のアルコキシ基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基などの炭素数1〜6のハロアルキル基;又は、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基等の炭素数1〜6のハロアルコキシ基;を表す。これらの中でも、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
mは0〜4の整数を表し、4が特に好ましい。
nは任意の自然数を表す。
【0033】
(ii)ユニット(B)
ユニット(B)は、重合開始剤として、後述するテレケリックポリイミドを用い、ラジカル重合性ビニルモノマーを重合して得られるビニルポリマーユニットである。
【0034】
(iii)テレケリックポリイミド
テレケリックポリイミドは、一般的には、反応性を有する両末端基を通して、更なる重合に関与しうる、ポリイミド構造を有するプレポリマー分子である。
【0035】
本発明に用いるテレケリックポリイミドは、前記ポリイミドユニット(A)となる部分の末端に、直接又は連結基を介してハロゲン原子を含む有機基を有し、ガラス転移温度が300℃以上の高分子である。
【0036】
前記ハロゲン原子を含む有機基としては、反応性官能基としてハロゲン原子を有する有機基であれば特に限定されない。例えば、炭素数1〜20のハロアルキル基または炭素数1〜6のハロアルキル基で置換されたアリール基が挙げられる。
【0037】
炭素数1〜20のハロアルキル基としては、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、1−クロロエチル基、1−ブロモエチル基、1−ヨードエチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−ヨードエチル基、3−クロロ−n−プロピル基、3−ブロモ−n−プロピル基、3−ヨード−n−プロピル基、2−クロロ−イソプロピル基、2−ブロモイソプロピル基、4−クロロ−n−ブチル基、5−クロロ−n−ペンチル基、6−クロロ−n−ヘキシル基、7−クロロ−n−ヘプチル基、8−クロロ−n−オクチル基、9−ブロモ−n−ノニル基などが挙げられる。
【0038】
炭素数1〜6のハロアルキル基で置換されたアリール基としては、4−クロロメチルフェニル基、4−ブロモメチルフェニル基、4−ヨードメチルフェニル基、4−(1−クロロエチル)フェニル基、4−(1−ブロモエチル)フェニル基、4−(2−クロロエチル)フェニル基、4−(2−ブロモエチル)フェニル基、4−クロロエチル−1−ナフチル基、4−ブロモエチル−1−ナフチル基などが挙げられる。
【0039】
本発明においては、前記テレケリックポリイミドが、前記式(1)で表されるポリイミド構造の両末端に、連結基を介してハロゲン原子を含む有機基を有するものが好ましい。
【0040】
前記連結基としては、前記式(1)で表されるポリイミド構造とハロゲン原子を含む有機基とを連結する基であれば特に制限されない。
【0041】
例えば、−(CH−(pは1〜10の整数を表す。以下も同じ。)、−(CH−O−、−(CH−C(=O)−、−(CH−O−C(=O)−、−(CH−C(=O)−O−、−O−、−S−、−(CH−NR−(Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。以下も同じ。)、−C(=O)−NR−、および、下記式で表される基が挙げられる。
【0042】
【化7】

【0043】
本発明においては、前記テレケリックポリアミドが、下記式(2)
【0044】
【化8】

【0045】
で示される化合物であることが特に好ましい。
前記式(1)中、R、R、n、mは前記と同じ意味を表し、Rは連結基を表す。Rの具体例としては、上記したものと同様のものが挙げられる。なかでも、
【0046】
【化9】

【0047】
(pは前記と同じ意味を表す。)で表される基が好ましい。
は、炭素数1〜20のハロアルキル基又は炭素数1〜6のハロアルキル基で置換されたアリール基を表す。これらの具体例としては、前記ハロゲン原子を含む有機基の具体例として列挙したものと同様のものが挙げられる。
【0048】
前記式(2)で表されるテレケリックポリアミドは、例えば、式(5)で示される酸無水物、式(6)で示される芳香族ジアミン、および、式(7)で表されるアミノアルコールを反応させて、式(8)で表されるポリアミック酸を得、得られたポリアミック酸のイミド化反応を行って、式(9)で表されるポリイミド化合物を得、さらに、このものに、塩基の存在下、式:RC(=O)L(Lはハロゲン原子を表す)で表される酸ハライド、または、式:〔RC(=O)〕Oで表される酸無水物を反応させて得ることができる。以下、詳細に説明する。
先ず、式(5)
【0049】
【化10】

【0050】
で表される酸無水物、式(6)
【0051】
【化11】

【0052】
で表される芳香族ジアミン、および、式(7)
【0053】
【化12】

【0054】
で表されるアミノアルコールを反応させて、式(8)
【0055】
【化13】

【0056】
で表されるポリアミック酸を得る。
前記式(5)で示される酸無水物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0057】
【化14】

【0058】
【化15】

【0059】
これらの中でも、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)が特に好ましい。
【0060】
式(6)で示される芳香族ジアミンとしては、1,4−フェニレンジアミン、2−メチル−1,4−フェニレンジアミン、2−エチル−1,4−フェニレンジアミン、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン、2−トリフルオロメトキシ−1,4−フェニレンジアミン、2−メトキシ−1,4−フェニレンジアミン、2−t−ブトキシ−1,4−フェニレンジアミン、2,3−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,3−ジエチル−1,4−フェニレンジアミン、2,3−ビストリフルロメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラキストリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン、2,3−ビストリフルオロメチル−5,6−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、5,6−ビストリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミンなどが挙げられる。これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、高Tg化といった観点から、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミンが特に好ましい。
【0061】
式(6)で示される芳香族ジアミンの使用量は、式(5)で示される酸無水物1モルに対して、通常0.8〜1.0倍モル、好ましくは0.90〜0.98倍モルである。
【0062】
式(7)で表されるアミノアルコールとしては、2−アミノエチルアルコール、2−アミノ−1−メチルエチルアルコール、2−アミノ−n−プロピルアルコール、3−アミノ−n−プロピルアルコール、4−アミノ−n−ブチルアルコール、2−(p−アミノフェニル)エチルアルコール、2−(m−アミノフェニル)エチルアルコール、3−(p−アミノフェニル)プロピルアルコール、3−(m−アミノフェニル)プロピルアルコール、2−(4−アミノ−1−ナフチル)エチルアルコールなどが挙げられる。これらは一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、2−(p−アミノフェニル)エチルアルコールが特に好ましい。
【0063】
式(7)で表されるアミノアルコールの使用量は、式(5)で示される酸無水物1モルに対して、通常0.02〜0.4倍モル、好ましくは0.1〜0.2倍モルである。
【0064】
式(6)及び(7)で表される芳香族ジアミンとアミノアルコールとの比率を変化させることによって、得られるテレケリックポリイミドの分子量を調整することができる。すなわち、式(7)で表されるアミノアルコールの比率を増やすことにより、テレケリックポリイミドの分子量を小さくすることができ、式(7)で表されるアミノアルコールの比率を減らすことにより、テレケリックポリイミドの分子量を大きくすることができる。
【0065】
式(8)で表されるポリアミック酸を得る反応は、適当な溶媒中で行うことができる。用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、フェニルエチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル類;クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、アミド類の使用が好ましい。
【0066】
式(8)で表されるポリアミック酸を得る反応は、−10℃〜+50℃で円滑に進行する。反応時間は、通常1時間から数十時間である。
【0067】
次いで、下記反応式のようにポリアミック酸のイミド化反応を行うことにより、式(9)で表されるポリイミド化合物を得ることができる。
【0068】
【化16】

【0069】
式(8)で表されるポリアミック酸のイミド化反応は、例えば、ポリアミック酸を含む反応液に、トルエン、キシレンなどの共沸溶媒を添加して、反応混合物を還流することにより行うことができる。この場合、反応混合物から、共沸溶媒とともに水を除去しながら反応を行うことが好ましい。
イミド化反応の反応時間は、通常、1時間から数十時間である。
【0070】
以上のようにして得られた反応混合物から、式(9)で表されるポリイミド化合物を単離することができる。式(9)で表されるポリイミド化合物を単離する方法としては、式(9)で表されるポリイミド化合物を含む反応混合物を、メタノールなどの貧溶媒中に添加することにより、式(9)で表されるポリイミド化合物を析出させる方法が挙げられる。
【0071】
次いで、下記反応式のように得られた式(9)で表されるポリイミド化合物に、塩基の存在下、式:RC(=O)L(Lはハロゲン原子を表す。以下にて同じ。)で表される酸ハライド、または、式:〔RC(=O)〕Oで表される酸無水物を反応させることで、目的とする式(2)で表されるテレケリックポリイミドを得ることができる。
【0072】
【化17】

【0073】
式:RC(=O)Lで表される酸ハライド、および式:〔RC(=O)〕Oで表される酸無水物において、Rは前記と同じ意味を表す。
【0074】
式:RC(=O)Lで表される酸ハライドの具体例としては、クロロアセチルクロライド、2−クロロプロピオニルクロライド、4−クロロメチルベンゾイルクロライド、4−ブロモメチルベンゾイルクロライド、4−(2−クロロエチル)ベンゾイルクロライド、4−(2−ブロモエチル)ベンゾイルクロライド、1−クロロメチル−4−ナフトエ酸クロライドなどが挙げられる。
【0075】
式:〔RC(=O)〕Oで表される酸無水物の具体例としては、無水クロロ酢酸、2−クロロプロピオン酸無水物、4−クロロメチル安息香酸無水物、4−ブロモメチル安息香酸無水物、1−クロロメチル−4−ナフトエ酸無水物などが挙げられる。
【0076】
式:RC(=O)Lで表される酸ハライド、または、式:〔RC(=O)〕Oで表される酸無水物の使用量は、前記式(9)で表されるポリイミド化合物1モルに対し、通常、2〜10倍モルである。
【0077】
用いる塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジンなどが挙げられる。塩基の使用量は、前記式(9)で表されるポリイミド化合物1モルに対し、通常、2〜10倍モルである。
【0078】
前記式(9)で表されるポリイミド化合物と、式:RC(=O)Lで表される酸ハライド、または、式:〔RC(=O)〕Oで表される酸無水物との反応は、適当な溶媒中で行うことができる。用いる溶媒としては、前記式(8)で表されるポリアミック酸を得る反応で用いることができる溶媒として列記したものと同様のものが挙げられる。
【0079】
反応温度は、通常0℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲である。また、反応時間は、通常、数分から数時間である。
【0080】
反応終了後は、反応液から不溶物を除去した後、得られた溶液をメタノールなどの貧溶媒中に添加して、式(2)で表されるテレケリックポリイミド化合物を析出させることにより、目的物を単離することができる。
【0081】
(iv)ユニット(B)の形成
次いで、上記で得たテレケリックポリイミドをマクロ重合開始剤として用い、ラジカル重合性ビニルモノマーを重合することによりブロック(B)を形成する。
【0082】
ラジカル重合性ビニルモノマーをラジカル重合する方法としては特に限定されず、公知のリビングラジカル重合法を採用できる。本発明においては、原子移動ラジカル重合法(以下、「ATRP法」という。)を用いることが好ましい。
【0083】
ATRP法はリビングラジカル重合法の一つであって、成長ラジカルが共有化学種と可逆的に反応してラジカルを生成させて重合する方法である。ATRP法による重合はリビング的に進行し、一般的に比較的分子量分布の狭い重合体が得られるという利点をもつ。本発明においては、分子末端にハロゲン原子を含む有機基を有するテレケリックポリイミドが重合開始剤であり、ラジカル重合性ビニルモノマーがラジカル重合性化合物となる。
【0084】
ATRP法は、一般的には、有機ハロゲン化合物を重合開始剤とし、遷移金属錯体からなるレドックス触媒の存在下、ラジカル重合性化合物を重合させる。ここで用いるレドックス触媒(レドックス共役錯体)は、中心金属の原子価が低原子価と高原子価との間を可逆的に変化する錯体である。
【0085】
本発明に用いる遷移金属錯体としては特に制限されないが、好ましくは周期律表第7族、第8族、第9族、第10族、第11族元素を中心金属とする遷移金属の錯体が挙げられる。
【0086】
本発明に用いる遷移金属錯体の中心金属としては、Cu、Ni、Ni、Ni2+、Pd、Pd、Pt、Pt、Pt2+、Rh、Rh2+、Rh3+、Co、Co2+、Ir、Ir、Ir2+、Ir3+、Fe2+、Ru2+、Ru3+、Ru4+、Ru5+、Os2+、Os3+、Re2+、Re3+、Re4+、Re6+、Mn2+、Mn3+からなる群から選ばれる一種以上の金属が挙げられる。これらの中でも、Cu、Ru2+、Fe2+、Ni2+が好ましく、Cuが特に好ましい。Cuの化合物の具体例としては、塩化第1銅、臭化第1銅、ヨウ化第1銅、シアン化第1銅などが挙げられる。
【0087】
上記遷移金属錯体は、遷移金属の塩に有機配位子を作用させることにより調製することができる。有機配位子は、重合溶媒への可溶化及びレドックス共役錯体の可逆的な変化を可能にするため使用される。有機配位子としては、窒素原子、酸素原子、リン原子及び/又はイオウ原子を含有する有機配位子が挙げられるが、窒素原子またはリン原子を含有する有機配位子が好ましく、窒素原子を含有する有機配位子がより好ましい。
【0088】
窒素原子を含有する有機配位子の具体例としては、2,2'−ビピリジル及びその誘導体;1,10−フェナントロリン及びその誘導体;テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリス(2−ジメチルアミノエチル)アミン等のポリアミン化合物;下記式(10)、(11)で表される含窒素複素環化合物;等が挙げられる。これらの中でも、式(10)で表される化合物((−)−Spartaine)の使用が特に好ましい。
【0089】
【化18】

【0090】
前記遷移金属の塩と有機配位子とは、別々に添加して重合系中で金属錯体を生成させてもよいし、予め前記遷移金属の塩と有機配位子とから調製した遷移金属錯体を重合系中へ添加してもよい。遷移金属が銅である場合には前者の方法が好ましく、ルテニウム、鉄、ニッケルの場合は後者の方法が好ましい。
【0091】
予め調製される遷移金属錯体の具体例としては、トリストリフェニルホスフィノ二塩化ルテニウム、ビストリフェニルホスフィノ二塩化鉄、ビストリフェニルホスフィノ二塩化ニッケル、ビストリブチルホスフィノ二臭化ニッケル等が挙げられる。
【0092】
遷移金属錯体の使用量は、反応系中の濃度として、通常1×10−4〜1モル/リットル、好ましくは1×10−3〜1×10−1モル/リットルとなる量である。また、遷移金属錯体(遷移金属の塩)として1価の銅化合物を使用した場合、有機配位子の添加量は、当該銅化合物に対し、通常1〜3モル当量、好ましくは1〜2モル当量である。
【0093】
ラジカル重合性ビニルモノマー(以下、「ビニルモノマー」と略記することがある。)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ペンチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクレート、ドデシル(メタ)アクリレート、メトキシメチル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリε−カプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ[(メタ)アクロイルオキシエチル]アシッドホスフェート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシアルキル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニルオキシエチル(メタ)アクリレート、モルホリン(メタ)アクリレート、N,N'−ジメチルアクリルイミド等の単官能性(メタ)アクリレート化合物;
【0094】
スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、4−t−ブトキシスチレン、3−クロロスチレン等の芳香族ビニル化合物;
アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルニトリル化合物;
ビニルメチルケトン、ビニルフェニルケトン等のビニルケトン化合物;
エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;
ビニルメチルスルホン等のビニルスルホン化合物;
酢酸ビニル等のビニルエステル化合物;などが挙げられる。
【0095】
また本発明においては、上記ビニルモノマーの2種以上を組み合わせて用いることもできる。この場合には、重合反応液に種類の異なるビニルモノマーを段階的に添加することにより、分子末端に、ビニルモノマーのブロック共重合体がグラフトしたグラフト重合体を得ることもできる。
【0096】
これらの中でも、メタクリル酸の炭素数1〜6のアルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0097】
ビニルモノマーの使用量は、前記テレケリックポリイミド1モルに対し、通常、6〜100倍モル、好ましくは10〜90倍モルの範囲である。
【0098】
ビニルモノマーの使用量を変化させることにより、熱分解性のブロック(B)の重合度を変化させることができる。これにより得られる多孔質ポリイミドの空孔率(密度)を制御することが可能である。
【0099】
ビニルモノマーの重合は、前記テレケリックポリイミドの溶液に、遷移金属錯体(又は遷移金属の塩及び有機配位子)、及びボニルモノマーの所定量を添加して、全容を撹拌することにより実施することができる。この反応は窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
【0100】
用いる溶媒としては、反応に不活性なものであれば特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソール、フェニルエチルエーテル、ジフェニルエーテル等のエーテル類;クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセタミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0101】
溶媒の使用量は、前記テレケリックポリイミド1gあたり、通常、0.1〜1,000ml、好ましくは1〜100mlである。
【0102】
反応温度は特に制約されないが、通常0℃から用いるビニルモノマー及び溶媒の沸点までの温度範囲、好ましくは20〜100℃である。
反応時間は、通常数分から数十時間、好ましくは1時間〜20時間である。
また、2種類以上のビニルモノマーを重合反応液に順次添加して、ビニルモノマーのブロック共重合体がグラフトしたグラフト重合体を得る場合には、ビニルモノマーの種類に応じて、重合反応温度及び反応時間を変化させることもできる。
【0103】
重合後、周知の方法に従って、残存モノマー及び/又は溶媒を留去し、適当な溶媒中で再沈殿させ、沈殿した重合体を濾過又は遠心分離して目的とする重合体を単離することができる。
【0104】
また、遷移金属錯体は、重合反応液からアルミナ、シリカ又はクレーのカラムまたはパッドに通すことにより除去することができる。また、重合反応液に金属吸着剤を分散させて処理する方法も採用し得る。必要ならば金属成分は重合体中に残っていてもよい。
【0105】
再沈殿に使用する溶媒としては、水;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロヘキサン等の炭素数5〜8の脂肪族炭化水素類又は脂環式炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等の炭素数1〜6のアルコール類等が挙げられる。これらの中では、水、n−ヘキサン、メタノール又はこれらの混合溶媒が好適である。
【0106】
(v)多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体
以上のようにして得られる本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体としては、下記式(3)で示される化合物が好ましい。
【0107】
【化19】

【0108】
〔式中、R、R、R、R41、m、n、Xは前記と同じ意味を表し、Bは、式(4a)または(4b)
【0109】
【化20】

【0110】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜20のアルキル基を表し、*はXとの結合方向を表す。)で表される基の少なくとも一方を表し、lは任意の自然数を表す。lが2以上のとき、B同士は同一であっても相異なっていてもよい。〕
【0111】
本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体の数平均分子量(Mn)は、通常、15,000〜200,000、好ましくは20,000〜180,000である。
また、分子量分布(Mw/Mn)は、狭いほうが好ましい。
【0112】
本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体においては、前記ユニット(A)とユニット(B)の重量比が、ユニット(A):ユニット(B)=60:40〜95:5であることが好ましい。ユニット(B)の重量比が30%を超えると独立孔が得られ難くなり、また5%未満では十分な低誘電率化を行うことが困難となる。
【0113】
本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体としては、数平均分子量(Mn)が15,000〜200,000であり、かつ、前記ユニット(A)とユニット(B)の重量比が、ユニット(A):ユニット(B)=60:40〜95:5であることが好ましい。
【0114】
2)多孔質ポリイミド
本発明の第2は、本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体を加熱処理して得られる多孔質ポリイミドである。
【0115】
本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体を加熱処理するときの温度は、前記ユニット(A)が熱により変形することが無く、かつ、前記ユニット(B)のみが熱分解する温度であればよい。本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体においては、ユニット(A)はガラス転移温度が300℃以上であり、ユニット(B)は熱分解温度が300℃未満の熱分解性重合体からなるものであるため、前期ユニット(A)のガラス転移温度未満で、かつ、ユニット(B)が熱分解する温度以上であればよい。
【0116】
多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体の加熱処理は、具体的には、支持基材上に、本発明の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体の層をキャスト製膜や、スピンコートなどの手法で形成した積層物を加熱処理することにより行うことができる。
【0117】
用いる支持基材としては、多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体の層を担持でき、
かつ、多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体の加熱処理温度において安定な基材であれば、特に制限されない。
【0118】
用いる支持基材の材料としては、シリコン、セラミックス、ガラス、石英、合成樹脂などが挙げられる。支持基材の大きさや厚みなどは、特に制限されない。
【0119】
以上のようにして得られる多孔質ポリイミドは耐熱性に優れ、400℃以上の高温環境下においても分解物を発生させない。
【0120】
本発明の多孔質ポリイミドは、孔径が10〜200nmの空孔を有し、低誘電率で、かつ耐熱性に優れているので、絶縁材料として有用である。
【0121】
本発明の多孔質ポリイミドの1MHzにおける誘電率は、通常、2.2〜3.0、好ましくは2.2〜2.5である。
【0122】
3)絶縁膜
本発明の第3は、本発明の多孔質ポリイミド含有する絶縁材料である。
本発明の多孔質ポリイミドは、単独で絶縁材料として使用することも出来る。また、他の絶縁材料と混合して使用することも出来る。
本発明の絶縁材料における本発明の多孔質ポリイミドの含有量は、絶縁材料に対して、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下、より好ましくは70〜10重量%である。90重量%を超えると、機械特性が低下してしまい、10重量%より少ないと空孔が得難くなる。
【0123】
本発明の絶縁材料は、低誘電率で、かつ耐熱性に優れる本発明の多孔質ポリイミドを含有するものであるので、半導体集積回路の層間絶縁膜の形成材料として有用である。
【実施例】
【0124】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0125】
(1)核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)の測定
核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)の測定は、核磁気共鳴スペクトル測定装置(Bruker Biospin製、AVANCE−500(500MHz))を用い、測定溶媒として、重クロロホルム(CDCl)またはジメチルスルホキシド(DMSO)を使用して行った。
(2)赤外吸収スペクトル(IR)の測定
IRの測定は、フーリエ変換式赤外吸収スペクトル測定装置(Perkin Elmer製、Spectrum One)を用いて、測定分解能4.0cm−1でATR法により行った。
(3)ポリマーの分子量の測定
ポリマーの分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、東ソー(株)製HLC−8220を使用し、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液、ポリスチレンを標準試料として用いて行った。
【0126】
(4)熱重量測定(TGA)
熱重量測定(TGA)は、熱重量測定装置((株)島津製作所製、DTG−60)を使用し、空気中または窒素雰囲気中にて昇温速度10℃/minで行った。
(5)Tgの測定
ガラス転移温度(Tg)の測定は、示差走査熱量計(DSC)(TA instruments製、DSC Q2000)を用い、昇温速度10℃/minで行った。
【0127】
(6)比誘電率の測定
誘電率測定装置(Hewlett Packard製、4149Aインピーダンスアナライザー)を用い、23℃50%RH環境下、1MHzの周波数におけるフィルムの比誘電率を測定した。
【0128】
(合成例1)テレケリックポリイミドの合成
2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン1.05g(6.41mmol)と2−(p−アミノフェニル)エチルアルコール0.09g(0.66mmol)をN−メチルピロリドン20ml中に溶解し窒素気流下で約30分撹拌した。その後6FDA(3.0g,6.75mmol)を加え、室温で約24時間撹拌させることによりポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液に共沸溶媒としてp−キシレンを加え、180℃で約6時間還流してイミド化反応を行った。得られた反応液をメタノール中に滴下しポリイミドを析出させ、両末端に水酸基を有するポリイミド(1)を得た。
【0129】
更に合成したポリイミド(1)3.0gとピリジン0.28gを30mlのTHFに溶解し、4−クロロメチルベンゾイルクロリド0.66g(3.5mmol)を加え60℃で約6時間還流した。得られた溶液を濾過後、ろ液をメタノール中に滴下し再沈殿させて、目的とする両末端にエステル結合を介して結合したクロロメチルフェニル基を有するテレケリックポリイミド(2)を得た。収率は91%。テレケリックポリイミド(2)の構造はH−NMRおよびIRにより確認した。得られたテレケリックポリイミド(2)の推定構造式を下記に示す。また、テレケリックポリイミド(2)のH−NMRスペクトルチャートを図1に示す。
【0130】
【化21】

【0131】
(式中、n1は分子量を満たす自然数を表す。)
図1に示すH−NMRスペクトルチャートより、3.12ppm(−CH−Ph)、4.53ppm(−CH−O−)および4.83ppm(−CH−Cl)に末端クロロメチルフェニル基に起因するシグナルが確認された。
また、IRスペクトルから、イミド環起因の1784cm−1、1724cm−1(C=O伸縮振動)、1354cm−1(C−N伸縮振動)および724cm−1(C−N変角振動)の吸収が確認された。
GPC測定による分子量(Mn)は、16,500g/mol、分子量分布は,Mw/Mn=1.87であった。
また、DSC測定では390.1℃のガラス転移温度を示した。
【0132】
(実施例1)トリブロック構造を有する多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(ユニット(B):ユニット(A)=25/75)の合成
メチルメタクリレート(MMA)(0.366g,3.66mmol)および(−)−sparteine(0.075g,0.32mmol)の溶解した10mlのN,N−ジメチルホルムアミド溶液に、合成例1で得たテレケリックポリイミド(2)(1.128g,0.080mmol)と臭化銅(I)(0.023g,0.16mmol)を加え、窒素雰囲気下90℃で約24時間撹拌して重合を行った。その後、反応液にTHFを加えて反応を終了させ、メタノール中に沈殿させた。メタノール/THF系で3回再沈澱精製を行った後80℃で減圧乾燥を行い、ポリメチルメタクリレート(PMMA)をユニット(B)とする多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(3)を得た。得られた共重合体の収率は82%であった。得られた多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(3)の推定構造式を下記に示す。また、多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(3)のH−NMRスペクトルチャートを図2に示す。
【0133】
【化22】

【0134】
(n1は前記と同じ意味を表し、l1は分子量を満たす自然数を表す。
図2に示すH−NMRスペクトルチャートより、0.84−1.22ppm(−CH)、1.44−2.14ppm(−CH−)および3.60ppm(−OCH)に、ユニット(B)のPMMAブロック由来のシグナルが確認されたことから、目的とする共重合体が得られていることがわかる。またGPC測定より求めたMnは22,100g/mol、Mw/Mnは2.09であった。
【0135】
また、合成したブロック共重合体(3)のTGA曲線を図3に示す。図3に示すように、合成したブロック共重合体(3)は各ブロックで熱分解性が異なる為、TGA測定では二段階の重量減少挙動が観察された。
TGA曲線から算出したブロック共重合体(3)中の、ユニット(B)とユニット(A)の重量比は23:77であった。
【0136】
(実施例2)多孔質ポリイミドフィルムの形成
実施例1で得たブロック共重合体(3)の3重量%クロロホルム溶液を調製し、この溶液を用いてポリテトラフルオロエチレン製のシャーレへキャスト製膜を行った。得られた共重合体キャストフィルムの膜厚は約120μmであり、その密度は1.31g/cmであった。これらの共重合体フィルムに真空中で150℃1時間、200℃1時間および240℃1時間の熱処理を行った後、更に空気中300℃で約12時間熱処理を行い、多孔質ポリイミドフィルムを得た。
【0137】
得られたキャストフィルムの密度は1.17g/cmとなり、空孔形成による低密度化が確認された。また1MHzにおけるフィルムの比誘電率は2.36であった。
【0138】
また、3重量%クロロホルム溶液をガラス基板上へスピンコートし、真空中で150℃1時間、200℃1時間および240℃1時間の熱処理を行った後、更に空気中300℃で約12時間熱処理したスピンコート膜の表面をSPMにて観察したところ、約50〜100nmの空孔を確認した。
【0139】
(実施例3)トリブロック構造を有する多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(ユニット(B):ユニット(A)=20/80)の合成
実施例1において、使用するMMA量を0.310g(3.10mmol)とした以外は実施例1と同様の方法により多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(4)を収率80%で合成した。
GPC測定より求めたMnおよびMw/Mnはそれぞれ20,600g/molおよび2.01であった。
またTGA曲線から算出した共重合体(4)中のユニット(B)とユニット(A)の重量比は17:83であった。
【0140】
(実施例4)
実施例3で得た多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体(4)を用いて、実施例2と同様にしてキャストフィルムを作製した。得られたキャストフィルムの密度は1.33g/cmであった。
【0141】
次いで、実施例2と同様にして熱処理を行い、多孔質ポリイミドフィルムを得た。得られた多孔質ポリイミドフィルムの密度は1.20g/cmであり、1MHzのフィルムの比誘電率は2.41であった。また、実施例2と同様にしてスピンコート膜を作製した。スピンコート膜の表面形状測定により約30〜80nmの空孔が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドユニット(A)と、熱分解温度が300℃未満であるビニルポリマーユニット(B)を有する多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体であって、重合開始剤として、前記ポリイミドユニット(A)となる部分の末端に、直接または連結基を介してハロゲン原子を含む有機基を有する、ガラス転移温度が300℃以上であるテレケリックポリイミドを用い、ラジカル重合性ビニルモノマーを重合して得られることを特徴とする多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【請求項2】
前記ポリイミドユニット(A)が、式(1)
【化1】

(式中、Rは4価の有機基を表し、Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロアルキル基、または炭素数1〜6のハロアルコキシ基を表し、mは0〜4の整数を表し、nは任意の自然数を表す。)
で示されるポリイミド構造を有する請求項1に記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【請求項3】
前記テレケリックポリイミドが、式(2)
【化2】

(式中、R、R、mおよびnは前記と同じ意味を表し、Rは炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数6〜20のアリーレン基、またはこれらの組合せからなる2価の基を表し、Rは炭素数1〜20のハロアルキル基、または炭素数1〜6のハロアルキル基で置換されたアリール基を表す。)
で示される化合物である請求項1または2に記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【請求項4】
前記ビニルポリマーユニット(B)が、前記テレケリックポリイミドをマクロ重合開始剤として用い、ラジカル重合性ビニルモノマーを原子移動ラジカル重合法により重合して得られるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【請求項5】
前記ラジカル重合性ビニルモノマーが、アクリル系化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【請求項6】
ビニルポリマーユニット(B)−ポリイミドユニット(A)−ビニルポリマーユニット(B)型となるトリブロック構造を有する請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【請求項7】
式(3)
【化3】

〔式中、R、R、R、mおよびnは前記と同じ意味を表し、R41は前記Rからハロゲン原子が除かれた2価の基を表し、Bは、式(4a)または(4b)
【化4】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Rは炭素数1〜20のアルキル基を表し、*はXと結合する方向を表す。)で表される基の少なくとも一方を表し、Xはハロゲン原子を表し、lは任意の自然数を表す。lが2以上のとき、B同士は同一であっても、相異なっていてもよい。〕
で示される化合物である請求項1〜6のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【請求項8】
数平均分子量(Mn)が15,000〜200,000であり、かつ、前記ポリイミドユニット(A)とビニルポリマーユニット(B)の重量比が、ポリイミドユニット(A):ビニルポリマーユニット(B)=60:40〜95:5である請求項1〜7のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の多孔質ポリイミド形成用ブロック共重合体を加熱処理して得られる多孔質ポリイミド。
【請求項10】
請求項9に記載の多孔質ポリイミドを含有する絶縁材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−202679(P2010−202679A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46252(P2009−46252)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】