説明

多孔質体の製造方法

【課題】 孔の目詰まり発生を防止でき、また比較的小さい圧力で十分な透水量を確保できるとともに、膜の熱安定性及び耐薬品性に優れ、かつ十分な強度も備えた多孔質体の製造方法を提供する。
【解決手段】 この発明の製造方法は、ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂及び溶媒を含有した混合物を加熱して均一な高分子液を得る工程と、前記高分子液を所定形状に成形して成形物を得る工程と、前記成形物を冷却することによって相分離を生じさせる工程と、前記溶媒を溶解させることのできる抽出剤を用いて前記相分離した成形物中に存在する溶媒を抽出除去する工程とを包含することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、水処理用の分離膜等として用いられる多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルフォン等の疎水性ポリマーの多孔質膜で製作されたものが知られている。
【0003】
しかるに、このような疎水性ポリマーで構成された多孔質膜では、溶質の吸着や孔の目詰まりにより膜性能が比較的短期間で低下するという問題があった。また、疎水性ポリマーの多孔質膜では、処理対象の水等を通過させるのに比較的大きな圧力を要するという問題もあった。
【0004】
そこで、このような問題を解決するものとして、ポリビニルアルコール系の多孔質膜からなる分離膜を用いることが提案されている(特許文献1参照)。この膜では、素材としてポリビニルアルコールを用いているので、膜の親水性が大きく、これにより孔の目詰まり発生の問題や膜の通水圧力が大きいという問題は解消される。
【0005】
しかるに、上記ポリビニルアルコール系の多孔質膜では、膜の熱安定性が良好ではないし、耐薬品性に劣るという問題があった。更に、ポリビニルアルコール系の多孔質膜では、十分な膜強度が得られないことから十分な耐久性能を確保できないという問題もあった。
【特許文献1】特開平8−208878号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者らは、上記諸問題を解決しつつ、孔の目詰まり発生を防止でき、比較的小さい圧力での通水が可能である多孔質体を製造する方法として、ポリビニルアセタール系樹脂及び溶媒を含有した混合物を加熱して均一な高分子液を得る工程と、前記高分子液を所定形状に成形して成形物を得る工程と、前記成形物を冷却することによって相分離を生じさせる工程と、前記溶媒を溶解させることのできる抽出剤を用いて前記相分離した成形物中に存在する溶媒を抽出除去する工程とを含むことを特徴とする多孔質体の製造方法を開発し、特許出願している(特願2004−79515号)。この製造方法で得られた多孔質体は、比較的小さい圧力での通水が可能であり、例えば分離膜としての適用が可能である。
【0007】
ところで、このような多孔質体を例えば精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜などとして用いる場合には、多孔質体としては、小さい圧力でその透水量がより多いものが望ましいことは言うまでもなく、前記特願2004−79515号に記載の製法で製造される多孔質体としてもその透水量をさらに増大させることが望ましかった。
【0008】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、孔の目詰まり発生を防止でき、また比較的小さい圧力で十分な透水量を確保できるとともに、膜の熱安定性及び耐薬品性に優れ、かつ十分な強度も備えた多孔質体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0010】
[1]ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂及び溶媒を含有した混合物を加熱して均一な高分子液を得る工程と、前記高分子液を所定形状に成形して成形物を得る工程と、前記成形物を冷却することによって相分離を生じさせる工程と、前記溶媒を溶解させることのできる抽出剤を用いて前記相分離した成形物中に存在する溶媒を抽出除去する工程とを包含することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【0011】
[2]ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂及び溶媒を含有した混合物を加熱して均一な高分子液を得る工程と、前記高分子液を冷却しつつ所定形状に成形することによって相分離した成形物を得る工程と、前記溶媒を溶解させることのできる抽出剤を用いて前記相分離した成形物中に存在する溶媒を抽出除去する工程とを包含することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【0012】
[3]前記高分子液における樹脂成分の混合割合は、ポリビニルアセタール系樹脂100質量部に対してエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂が0質量部を超えて25質量部以下である前項1または2に記載の多孔質体の製造方法。
【0013】
[4]前記高分子液における樹脂成分の合計濃度が1〜60質量%の範囲である前項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【0014】
[5]前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂におけるエチレン含有率が28〜44モル%である前項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【0015】
[6]前記溶媒としてアルコール系溶媒を用いる前項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【0016】
[7]前記アルコール系溶媒としてポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールを用いる前項6に記載の多孔質体の製造方法。
【0017】
[8]前記アルコール系溶媒の平均分子量が100〜1000の範囲である前項7に記載の多孔質体の製造方法。
【0018】
[9]前記抽出剤として水を用いる前項6〜8のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【0019】
[10]前記ポリビニルアセタール系樹脂は、ビニルアルコール単位の官能性水酸基が40モル%以上アセタール化されたものである前項1〜9のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【0020】
[11]前記ポリビニルアセタール系樹脂の平均重合度が1000〜10000の範囲である前項1〜10のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【0021】
[12]前記ポリビニルアセタール系樹脂は、共重合成分としてエチレン単位を含有しないものである前項1〜11のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【0022】
[13]前記ポリビニルアセタール系樹脂としてポリビニルブチラール系樹脂を用いる前項1〜12のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【0023】
[14]前記高分子液を膜状または中空糸状に成形して成形物を得る前項1〜13のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【0024】
[15]前記冷却の際、前記高分子液又は成形物を100〜200℃の温度範囲から平均降温速度1〜10000℃/分の条件下で0〜60℃の温度範囲まで冷却する前項1〜14のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
[1]及び[2]の発明では、多孔質体の構成素材としてポリビニルアセタール系樹脂を用いているから、ビニルアセタール単位による疎水性の寄与によって膜の熱安定性及び耐薬品性を十分に確保できると共に、ビニルアルコール単位による親水性の寄与によって孔の目詰まり発生を防止できる上に比較的小さい圧力での通水も可能となる。更に、多孔質体の構成素材としてエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂も含有せしめているから、多孔質体の親水性をより向上させることができて比較的小さい圧力でより大きな透水量を確保できると共に、多孔質体の強度、弾性率等の機械的特性も向上させることができる。また、熱誘起相分離法(TIPS法)を用いて樹脂成分と溶媒とを相分離させるものであるから、樹脂濃度、冷却速度等の制御によって様々な孔径の多孔質体を設計できる利点がある。
【0026】
[3]の発明では、高分子液における樹脂成分の混合割合は、ポリビニルアセタール系樹脂100質量部に対してエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂が0質量部を超えて25質量部以下の割合に設定されているから、両樹脂の相溶性がより良好になると共に、得られた多孔質体の親水性が十分に大きいものとなり、これによって比較的小さい圧力で十分な透水量を確保することができる。また、多孔質体の強度、弾性率等の機械的特性もさらに向上させることができる。
【0027】
[4]の発明では、高分子液における樹脂成分の合計濃度が1質量%以上であるから、十分な成形性(製膜性等)を確保できるし、同60質量%以下であるから多孔質構造を十分に発現させることができる。
【0028】
[5]の発明では、エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂におけるエチレン含有率が28〜44モル%であるから、ポリビニルアセタール系樹脂とエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂の相溶性をより良好な状態に維持できると共に、多孔質体の親水性が十分に大きいものとなって小さい圧力で十分な透水量を確保できる。
【0029】
[6]の発明では、溶媒としてアルコール系溶媒を用いるので、相分離を十分に生じさせることができ、これにより多孔度の大きい多孔質体を製造できる。
【0030】
[7]の発明では、アルコール系溶媒としてポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールを用いるので、相分離をより十分に生じさせることができ、これにより多孔度のさらに大きい多孔質体を製造できる。
【0031】
[8]の発明では、アルコール系溶媒の平均分子量が100〜1000の範囲であるから、成形性(製膜性等)が向上し、これにより品質の一定したものを効率良く製造することができる。
【0032】
[9]の発明では、抽出剤として水を用いるので、アルコール系溶媒の抽出除去を速やかに行うことができるし、且つアルコール系溶媒を余すことなく十分に抽出除去することができる。
【0033】
[10]の発明では、ビニルアルコール単位の官能性水酸基が40モル%以上アセタール化されているので、即ちビニルアルコール単位及びビニルアセタール単位の合計モル数に占めるビニルアセタール単位の割合が40モル%以上であるので、強度を大きく向上させることができ、これにより耐久性に優れた多孔質体を製造することができる。
【0034】
[11]の発明では、ポリビニルアセタール系樹脂の平均重合度が1000〜10000の範囲であるから、強度をさらに向上させることができる。
【0035】
[12]の発明では、ポリビニルアセタール系樹脂は共重合成分としてエチレン単位を含有しないから、多孔質体として十分な強度を確保することができる。
【0036】
[13]の発明では、精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜として特に好適なものを製造することができる。
【0037】
[14]の発明では、膜状または中空糸状の多孔質体が得られるから、精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜として特に好適なものを製造することができる。
【0038】
[15]の発明では、確実に相分離を生じさせることができるし、前記特定範囲の平均降温速度で冷却するので孔径のばらつきの少ない多孔質体を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
この発明に係るポリビニルアセタール系多孔質体の製造方法について説明する。まず、ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂及び溶媒を含有した混合物を加熱することによって均一な高分子液(樹脂と溶媒が相溶した状態の高分子液)を得る。この時、混合物を混練機で加熱混練するのが、より均一な高分子液が速やかに得られる点で、好ましい。
【0040】
前記ポリビニルアセタール系樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば下記化学式で示される共重合体等を挙げることができる。
【0041】
【化1】

【0042】
前記ポリビニルアセタール系樹脂は、通常、ポリビニルアセタール単位及びポリビニルアルコール単位を有する共重合体樹脂であり、ポリビニルアセタール単位及びポリビニルアルコール単位のみからなる共重合体であっても良いし、或いはこれら以外に他の共重合成分が1ないし複数種共重合された共重合体であっても良い。後者の例としては、例えば上記化学式(化1)で示される共重合体を例示できる。即ち、この化学式で示される共重合体は、ポリビニルアセタール単位、ポリビニルアルコール単位及びポリ酢酸ビニル単位からなる共重合体である。
【0043】
前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばエチレンとビニルアルコールを共重合した2元共重合体(即ちエチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂)が挙げられる。勿論、この発明の効果を阻害しない範囲であれば、これら2つの共重合成分(エチレンとビニルアルコール)以外に他の共重合成分が1ないし複数種共重合された共重合体であっても良い。
【0044】
前記溶媒としては、加熱して高温状態において前記両樹脂(ポリビニルアセタール系樹脂およびエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂)との間で均一な高分子液(樹脂と溶媒が相溶した状態の高分子液)を形成できる一方、冷却過程において前記両樹脂との間で相分離を生じ得る溶媒を用いる。このような溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリブチレングリコール、グリセリンなどのアルコール系溶媒等を例示することができる。
【0045】
前記アルコール系溶媒の中でも、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールを用いるのが好ましく、この場合には前記両樹脂(ポリビニルアセタール系樹脂およびエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂)との間で相分離をより十分に生じさせることができるので、多孔度の大きい多孔質体を製造することができる。
【0046】
次に、前記高分子液を所定形状に成形して成形物を得る。通常、膜状または中空糸状に成形する。膜状に成形する場合には、金属板、ガラス板、樹脂板等の基板の上に前記高分子液(加熱により均一になった高分子液)を塗布する等の方法を用いる。また、中空糸状に成形する場合には、前記高分子液(加熱により均一になった高分子液)を二重円環ノズルより押出して中空糸状に押出成形する等の方法を用いる。
【0047】
次いで、前記成形物を冷却し、この冷却によって相分離を生じさせる(冷却工程)。この時、成形物におけるミクロ構造は、通常、樹脂成分(ポリビニルアセタール系樹脂およびエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂)のマトリックス中に溶媒が島状に分散して相分離した海島構造となる。冷却方法としては、特に限定されないが、例えば窒素、アルゴン、ヘリウム、空気、二酸化炭素等のガス(気体)による冷却のほか、液体との接触による冷却等が挙げられる。前記冷却用液体としては、前記両樹脂成分及び前記溶媒を実質的に溶解させない液体を用いる。かかる液体としては、特に限定されるものではないが、例えば水、水/PEG混合溶液等が挙げられる。
【0048】
前記冷却工程は、次のような条件で実施するのが好ましい。即ち、前記成形物を100〜200℃の温度範囲から平均降温速度1〜10000℃/分の条件下で0〜60℃の温度範囲まで冷却するのが好ましい。このような条件下で冷却すれば、確実に相分離を生じさせることができると共に、孔径のばらつきが少なく品質の安定した多孔質体を製造することができる。中でも、前記平均降温速度は5〜500℃/分の範囲に設定するのがより好ましい。なお、一般に、前記平均降温速度を大きくすると、得られる多孔質体の孔径は小さくなる。
【0049】
なお、前記成形工程の後に冷却工程を実施するのが好ましいが、特にこれらの工程を分けて行う必要はなく、成形工程と冷却工程を同時並行的に実施するようにしても良い。即ち、前記高分子液を冷却しつつ所定形状に成形することによって相分離を生じた成形物を得るようにしても良い。
【0050】
次に、前記相分離した成形物中に存在する溶媒を抽出剤を用いて抽出除去する。こうして溶媒を抽出除去することによって、ポリビニルアセタール系樹脂及びエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂からなる多孔質体を得ることができる。前記抽出剤としては、前記ポリビニルアセタール系樹脂及びエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂を実質的に溶解させることなく、前記溶媒を溶解させることのできる抽出剤を用いる。このような抽出剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、エタノール、アセトン等が挙げられる。しかる後、必要に応じて、孔に存在する前記抽出剤を揮散させる等して除去する。このようにして得られた多孔質体は、必要に応じて、延伸処理が施されても良い。
【0051】
この発明において、前記アルコール系溶媒としては、平均分子量が100〜1000のものを用いるのが好ましく、この場合には成形性(製膜性等)が向上するので、品質の一定したものを効率良く製造することができる。中でも、前記アルコール系溶媒としては、平均分子量が150〜700のものを用いるのが特に好ましく、例えば平均分子量200のポリエチレングリコール、平均分子量400のポリエチレングリコール、平均分子量600のポリエチレングリコール、平均分子量200のポリプロピレングリコール、平均分子量400のポリプロピレングリコール、平均分子量600のポリプロピレングリコール等を例示できる。なお、一般に、使用するアルコール系溶媒の平均分子量が大きくなると、得られる多孔質体の孔径は小さくなる。
【0052】
前記高分子液における樹脂成分の混合割合は、ポリビニルアセタール系樹脂100質量部に対してエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂が0質量部を超えて25質量部以下であるのが望ましい。このような範囲に設定すれば、両樹脂の相溶性がより良好になると共に、得られた多孔質体の親水性が十分に大きいものとなり、これによって比較的小さい圧力で十分な透水量を確保することができる。更に、多孔質体の強度、弾性率、伸び等の機械的特性もさらに向上させることができる。中でも、前記高分子液における樹脂成分の混合割合は、ポリビニルアセタール系樹脂100質量部に対してエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂が0.5〜15質量部であるのが特に望ましい。
【0053】
また、前記高分子液における樹脂成分の合計濃度は1〜60質量%の範囲とするのが好ましい。この場合には、樹脂成分の合計濃度が1質量%以上であるから十分な成形性(製膜性等)を確保することができ、且つ同60質量%以下であるから多孔質構造を十分に発現させることができる。中でも、前記高分子液における樹脂成分の合計濃度は5〜40質量%の範囲とするのが特に好ましい。なお、一般に、前記高分子液における樹脂成分の濃度を高くすると、得られる多孔質体の孔径は小さくなる。
【0054】
前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂としては、特に限定されるものではないが、エチレン含有率が28〜44モル%であるものを用いるのが好ましい。この場合には、ポリビニルアセタール系樹脂とエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂の相溶性をより良好状態に維持できると共に、多孔質体の親水性が十分に大きいものとなって小さい圧力で十分な透水量を確保できる利点がある。
【0055】
前記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ビニルアルコール単位の官能性水酸基が40モル%以上アセタール化されてなるポリビニルアセタール系樹脂(ビニルアルコール単位及びビニルアセタール単位の合計モル数に占めるビニルアセタール単位の割合が40モル%以上であるポリビニルアセタール系樹脂)を用いるのが好ましい。この場合には、得られる多孔質体の強度を顕著に向上させることができる。前記アセタール化としては、例えばホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒドによるアセタール化処理が一般的である。
【0056】
前記ポリビニルアセタール系樹脂としてはポリビニルブチラール系樹脂を用いるのが好ましく、この場合には精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜として特に好適なものを提供できる。
【0057】
また、前記ポリビニルアセタール系樹脂としては、その平均重合度が1000〜10000であるものを用いるのが好ましく、これにより多孔質体の強度をさらに向上させることができる。中でも、前記ポリビニルアセタール系樹脂の平均重合度は3000〜5000の範囲であるのが特に好ましい。
【0058】
また、前記ポリビニルアセタール系樹脂としては、共重合成分(共重合単位)としてエチレン単位を含有しないものを用いるのが好ましい。この場合には、多孔質体として十分な強度を確保することができる。即ち、エチレン単位を共重合させたものでは強度低下を招く恐れがあるので、共重合成分(共重合単位)としてエチレン単位を含有せしめるのは好ましくない。
【0059】
上記のようにして得られた多孔質体の孔径は、通常0.01〜5μmである。また、得られた多孔質膜を精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜として用いる場合には、その膜厚は50〜200μmに設定するのが好ましい。また、得られた多孔質中空糸を精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜として用いる場合には、その外径を200〜2500μmに設定するのが好ましく、また膜厚(チューブ厚さ)を50〜300μmに設定するのが好ましい。
【0060】
この発明の製造方法で製造された多孔質体は、精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜として好適に用いられるが、特にこのような用途に限定されるものではなく、様々な用途に用いられる。
【実施例】
【0061】
次に、この発明の具体的実施例について説明する。
【0062】
<実施例1>
前記化学式(化1)で示されるポリビニルブチラール系樹脂(ポリビニルアセタール系樹脂)(平均重合度4000、ビニルアルコール単位の官能性水酸基が73モル%アセタール化されたもの、組成比がポリビニルアセタール単位/ポリビニルアルコール単位/ポリ酢酸ビニル単位=81/17/2(質量%)であるもの)20質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(エチレン含有率32モル%)0.2質量部、及び平均分子量200のポリエチレングリコール(溶媒)79.8質量部を混合してなる混合物を、混練機中で150℃の温度で混練することによって、均一な高分子液を得た。
【0063】
前記均一な高分子液(150℃)を金属板上に塗布して100μm厚さに製膜した後、窒素ガスとの接触により平均降温速度20℃/分の条件下で25℃まで冷却して、相分離した成形物を得た。
【0064】
次に、前記相分離した成形物を水中に24時間浸漬した後、これを取り出して凍結乾燥を行って、多孔質膜を得た。
【0065】
<実施例2>
混合物として、ポリビニルブチラール系樹脂20質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂0.5質量部、及び平均分子量200のポリエチレングリコール79.5質量部を混合してなる混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
【0066】
<実施例3>
混合物として、ポリビニルブチラール系樹脂20質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂1質量部、及び平均分子量200のポリエチレングリコール79質量部を混合してなる混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
【0067】
<実施例4>
混合物として、ポリビニルブチラール系樹脂20質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂1.5質量部、及び平均分子量200のポリエチレングリコール78.5質量部を混合してなる混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
【0068】
<実施例5>
混合物として、ポリビニルブチラール系樹脂20質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂2質量部、及び平均分子量200のポリエチレングリコール78質量部を混合してなる混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
【0069】
<実施例6>
エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂として、エチレン含有率40モル%であるものを用いた以外は、実施例2と同様にして多孔質膜を得た。
【0070】
<実施例7>
エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂として、エチレン含有率55モル%であるものを用いた以外は、実施例2と同様にして多孔質膜を得た。
【0071】
<実施例8>
溶媒として、平均分子量200のポリエチレングリコールに代えて平均分子量300のポリエチレングリコールを用いた以外は、実施例2と同様にしてポリビニルアセタール系多孔質膜を得た。
【0072】
<実施例9>
溶媒として、平均分子量200のポリエチレングリコールに代えて平均分子量400のポリエチレングリコールを用いた以外は、実施例2と同様にしてポリビニルアセタール系多孔質膜を得た。
【0073】
<実施例10>
前記化学式(化1)で示されるポリビニルブチラール系樹脂(ポリビニルアセタール系樹脂)(平均重合度4000、ビニルアルコール単位の官能性水酸基が73モル%アセタール化されたもの、組成比がポリビニルアセタール単位/ポリビニルアルコール単位/ポリ酢酸ビニル単位=81/17/2(質量%)であるもの)10質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂(エチレン含有率32モル%)0.5質量部、及び平均分子量200のポリエチレングリコール(溶媒)89.5質量部を混合してなる混合物を、混練機中で150℃の温度で混練することによって、均一な高分子液を得た。
【0074】
前記均一な高分子液(150℃)を金属板上に塗布して100μm厚さに製膜した後、窒素ガスとの接触により平均降温速度10℃/分の条件下で25℃まで冷却して、相分離した成形物を得た。
【0075】
次に、前記相分離した成形物を水中に24時間浸漬した後、これを取り出して凍結乾燥を行って多孔質膜を得た。
【0076】
<実施例11>
混合物として、ポリビニルブチラール系樹脂20質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂0.5質量部、及び平均分子量200のポリエチレングリコール79.5質量部を混合してなる混合物を用いた以外は、実施例10と同様にして多孔質膜を得た。
【0077】
<実施例12>
混合物として、ポリビニルブチラール系樹脂30質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂0.5質量部、及び平均分子量200のポリエチレングリコール69.5質量部を混合してなる混合物を用いた以外は、実施例10と同様にして多孔質膜を得た。
【0078】
<実施例13>
溶媒として、平均分子量200のポリエチレングリコール(PEG)に代えて平均分子量200のポリプロピレングリコール(PPG)を用いた以外は、実施例2と同様にして多孔質膜を得た。
【0079】
<実施例14>
溶媒として、平均分子量200のポリエチレングリコール(PEG)に代えて平均分子量600のポリプロピレングリコール(PPG)を用いた以外は、実施例2と同様にしてポリビニルアセタール系多孔質膜を得た。
【0080】
<実施例15>
ポリビニルブチラール系樹脂として、ビニルアルコール単位の官能性水酸基が77モル%アセタール化されたポリビニルブチラール系樹脂(ポリビニルアセタール単位及びポリビニルアルコール単位のみからなる共重合体であって、ビニルアルコール単位及びビニルアセタール単位の合計モル数に占めるビニルアセタール単位の割合が77モル%であるもの)を用いた以外は、実施例2と同様にして多孔質膜を得た。
【0081】
<実施例16>
実施例2で得られたのと同じ高分子液(150℃)を金属板上に塗布して100μm厚さに製膜するまでの過程において、窒素ガスとの接触により平均降温速度20℃/分の条件下で150℃から25℃まで冷却することによって、即ち冷却しつつ成形することによって、相分離した成形物を得た。次に、前記相分離した成形物を水中に24時間浸漬した後、これを取り出して凍結乾燥を行って、多孔質膜を得た。
【0082】
<実施例17>
実施例2で得られたのと同じ高分子液(150℃)を二重円環ノズルより押出速度7g/mで押出して中空糸状に押出成形した後、窒素ガスとの接触により平均降温速度20℃/分の条件下で25℃まで冷却した。次に、水中に24時間浸漬した後、これを取り出して凍結乾燥を行って、多孔質中空糸(外径1.58mm、内径0.83mm、チューブ厚さ0.38mm)を得た。
【0083】
なお、上記のようにして得られた実施例1〜17の各多孔質体は、いずれも孔径が1〜10μm程度の多孔質構造を有していた。
【0084】
<比較例1>
混合物として、ポリビニルブチラール系樹脂20質量部及び平均分子量200のポリエチレングリコール80質量部を混合してなる混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
【0085】
<比較例2>
混合物として、ポリビニルブチラール系樹脂20質量部、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂10質量部、及び平均分子量200のポリエチレングリコール70質量部を混合してなる混合物を用いた以外は、実施例1と同様にしたが、樹脂相互の相溶性が悪く、均一な高分子液が得られなかったので、製膜できなかった。
【0086】
<比較例3>
混合物として、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂20質量部及び平均分子量200のポリエチレングリコール80質量部を混合してなる混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして多孔質膜を得た。
【0087】
上記のようにして得られた各多孔質膜に対し、下記評価法に基づいて評価を行った。これらの結果を表2、3に示す。
【0088】
<製膜性の評価法>
製膜された多孔質膜の膜厚が均一で表面平坦性に優れているものを「○」、全体的に表面平坦性が良好であるものの膜の厚さの不均一な箇所が認められるものを「△」、多孔質膜の膜厚が不均一で表面に凹凸が顕著に認められるものを「×」とした。
【0089】
<多孔性の評価法>
走査電子顕微鏡(SEM)で断面を観察し、良好な多孔質構造を有しているものを「○」、全体としてはほぼ良好な多孔質構造を備えているものを「△」、多孔質構造が殆ど認められなかったものを「×」とした。
【0090】
<透水量の測定方法>
円筒管の長さ方向の中間部に多孔質膜を漏れのない状態で固定し、円筒管の一端側から一定の加圧条件下(0.5〜1.0気圧の範囲)で水を通水して、多孔質膜を透過して円筒管の他端側に移動した水の質量を測定することによって透水量(L/m2/atm/h)を算出した。また、多孔質中空糸の場合には、中空糸膜の内側に一定の加圧条件下(0.5〜1.0気圧の範囲)で水を通水して、中空糸膜の外側に透過した水の質量を測定することによって透水量(L/m2/atm/h)を算出した。
【0091】
<接触角の評価法>
実施例1〜5及び比較例1の多孔質膜について接触角を測定した。多孔質膜の表面に水滴を1滴垂らして、接触角測定装置で水と膜の接触角を測定した。表3から明らかなように、エチレン−ビニルアルコール共重合体樹脂の混合比率が増大するのに伴い、接触角が漸次小さくなっており多孔質膜の親水性が向上しているのが判る。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
【表3】

【0095】
表から明らかなように、この発明の製造方法で製造された実施例1〜16の多孔質膜は、製膜性に優れ、良好な多孔質構造を備えていると共に、小さい圧力で十分な透水量が得られており、また十分な強度、弾性率、伸びを有していた。従って、これら多孔質膜は、精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜としての利用が期待できる。また、この発明の製造方法で製造された実施例17の多孔質中空糸体は、成形性に優れ、良好な多孔質構造を備えていると共に、小さい圧力で十分な透水量が得られており、また十分な強度、弾性率、伸びを有していたので、この多孔質中空糸体は、精密濾過膜、限外濾過膜等の分離膜としての利用が期待できる。
【0096】
これに対し、比較例1の多孔質膜は、多孔質構造を有しているものの、十分な透水量が得られなかった。また、比較例3の多孔質膜は、膜の弾性率が低く不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂及び溶媒を含有した混合物を加熱して均一な高分子液を得る工程と、
前記高分子液を所定形状に成形して成形物を得る工程と、
前記成形物を冷却することによって相分離を生じさせる工程と、
前記溶媒を溶解させることのできる抽出剤を用いて前記相分離した成形物中に存在する溶媒を抽出除去する工程とを包含することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項2】
ポリビニルアセタール系樹脂、エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂及び溶媒を含有した混合物を加熱して均一な高分子液を得る工程と、
前記高分子液を冷却しつつ所定形状に成形することによって相分離した成形物を得る工程と、
前記溶媒を溶解させることのできる抽出剤を用いて前記相分離した成形物中に存在する溶媒を抽出除去する工程とを包含することを特徴とする多孔質体の製造方法。
【請求項3】
前記高分子液における樹脂成分の混合割合は、ポリビニルアセタール系樹脂100質量部に対してエチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂が0質量部を超えて25質量部以下である請求項1または2に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項4】
前記高分子液における樹脂成分の合計濃度が1〜60質量%の範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項5】
前記エチレン−ビニルアルコール系共重合体樹脂におけるエチレン含有率が28〜44モル%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒としてアルコール系溶媒を用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項7】
前記アルコール系溶媒としてポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコールを用いる請求項6に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項8】
前記アルコール系溶媒の平均分子量が100〜1000の範囲である請求項7に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項9】
前記抽出剤として水を用いる請求項6〜8のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項10】
前記ポリビニルアセタール系樹脂は、ビニルアルコール単位の官能性水酸基が40モル%以上アセタール化されたものである請求項1〜9のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項11】
前記ポリビニルアセタール系樹脂の平均重合度が1000〜10000の範囲である請求項1〜10のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項12】
前記ポリビニルアセタール系樹脂は、共重合成分としてエチレン単位を含有しないものである請求項1〜11のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項13】
前記ポリビニルアセタール系樹脂としてポリビニルブチラール系樹脂を用いる請求項1〜12のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項14】
前記高分子液を膜状または中空糸状に成形して成形物を得る請求項1〜13のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。
【請求項15】
前記冷却の際、前記高分子液又は成形物を100〜200℃の温度範囲から平均降温速度1〜10000℃/分の条件下で0〜60℃の温度範囲まで冷却する請求項1〜14のいずれか1項に記載の多孔質体の製造方法。

【公開番号】特開2006−169457(P2006−169457A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367273(P2004−367273)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000137982)株式会社メイスイ (5)
【Fターム(参考)】