説明

多孔質材料、及び多孔質材料の製造方法

【課題】サブミクロンオーダの貫通孔を有するとともに、前記貫通孔中に媒体を流した際に圧力損失を生じることなく、また、化学的に不活性かつ十分な強度を有し、長期間に亘って安定して使用可能な多孔質材料を提供する。
【解決手段】厚さ方向と略平行な貫通孔を有し、結晶性のアルミナを含むようにして多孔質材料を得る。この多孔質材料は、例えば、アルミニウム基材を電解液に浸漬させて電解処理を行い、前記アルミニウム基材の表面にアモルファスの陽極酸化膜を形成し、次いで、前記陽極酸化膜を前記アルミニウム基材より剥離し、一対の板状部材間に配置するとともに、前記一対の板状部材によって拘束し、前記陽極酸化膜を、前記一対の板状部材で拘束した状態で熱処理して結晶化させて得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルター、断熱材、吸音材、衝撃緩衝材等として好適に用いることができる多孔質材料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に多数の空隙を含有する構造を有する多孔質材料は、その特性から、気相・液相に係らず各種流体のフィルター、断熱材、吸音材、衝撃緩衝材等、広範囲の用途に使われている。また、上記の物理的特性のみならず、内部の表面積が大きいことから、触媒の担持体、もしくは多孔質材料が直接触媒として機能する等、化学反応場としての利用もなされている。
【0003】
多孔質材料の特性は、孔径、孔径分布、孔形状、等の構造により決定されるため、多くの用途において、複数の構造を持つ多孔質体を組合せて使用している。例えば、異物分離を目的とするフィルターでは、複数の多孔質体を、孔径の大きい順に積層してなる構造の多孔質構造体から構成することが提案されている。また、水の浄化目的に使われているセラミック製フィルターでは、孔径がサブミクロンオーダの微細な多孔質膜と数〜数百ミクロンオーダーの孔径の多孔質の基材とを含むような多孔質構造体としている。この例では、複数層の構造が全てセラミックス系の同質材料であるため一体焼結することが可能である。
【0004】
一方、ファインケミカル用途や、飲料水の製造、その他工業プロセス用水の製造等の目的から、微小な粒子のろ過が必要とされる場面が多くなっている。その際、孔径がサブミクロンオーダのろ過膜が必要とされるが、この領域では媒体が孔を通過する際の抵抗が大きく、前記ろ過膜における圧力損失が大きくなるという課題がある。また、一般的に有機系の膜で構成されたろ過材料では、ろ過材料内部のランダムに配列した樹脂や繊維の空隙部で、粒子を捕捉することから、一度捕捉された粒子を脱離させることが困難であり、汚染されやすいという傾向がある(例えば、特許文献1及び2など参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2000−70683号
【特許文献2】特開2005−319376号
【0006】
上述した問題に鑑み、厚さ方向に沿って略平行な貫通孔を有する多孔質材料を、アルミニウム等の金属材料の陽極酸化処理を用いて製造する試みがなされている。この場合、多孔質材料を構成する貫通孔は、その厚さ方向に沿って略平行に直線的に形成されているため、前記貫通孔の孔径がサブミクロンサイズであっても、前記貫通孔内を流れる際の圧力損失が増大するということがない。
【0007】
なお、孔径は電解液の組成、電圧等の条件により制御可能であり、孔径分布の揃った貫通孔を有する多孔質材料を得ることができる。
【0008】
しかしながら、上述のように陽極酸化処理で形成した多孔質材料は、非晶質のアルミニウム酸化物であり、硬いが比較的脆いという欠点がある。そのため、薄膜では非常に扱いにくく、実用的に使用する場合には、製造時、使用時の応力におけるクラックの発生、破壊の恐れがある。また、化学的に活性であり、水または薬品に接触すると、溶解する性質がある。
【0009】
さらに、多孔質材料の内部に水分及び電解時に使用した電解液の組成物を含んでいるので、水または薬品に接触する場合、これらの残留物質が水中に溶出したり、水または薬品に含まれる成分と反応したりする可能性がある。これらの現象により、貫通孔の孔壁の溶解、膜厚の減少、膜の微細構造の変化が発生し、最終的には膜の破損に至る場合もある。
【0010】
よって、アルミニウムの陽極酸化膜からなる多孔質材料をろ過フィルターとして使用する場合、常温の媒体に対する短期間の使用は可能であっても、長期間、流束、分離孔径、強度といった膜の性能を維持することは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、サブミクロンオーダの貫通孔を有するとともに、前記貫通孔中に媒体を流した際に圧力損失を生じることなく、また、化学的に不活性かつ十分な強度を有し、長期間に亘って安定して使用可能な多孔質材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成すべく、本発明は、厚さ方向と略平行な貫通孔を有し、結晶性のアルミナを含むことを特徴とする、多孔質材料に関する。
【0013】
本発明者らは、上述した従来技術に関する問題に鑑み、例えば、陽極酸化処理によって形成したアルミナからなる多孔質材料は、厚さ方向に沿って略平行なサブミクロンオーダーの貫通孔を有することができるが、その化学的活性は前記多孔質材料がアモルファスであることが原因であることに着目した。かかる観点より、以下に示すような製造方法に基づいて前記多孔質材料を結晶化させることを試み、陽極酸化処理で形成したように、厚さ方向と略平行な貫通孔を有し、結晶性のアルミナを含む多孔質材料を得ることに成功した。
【0014】
本発明の多孔質材料によれば、貫通孔が厚さ方向に沿って略平行に直線的に形成されているため、前記貫通孔の孔径がサブミクロンサイズであっても、前記貫通孔内を流れる際の圧力損失が増大するということがない。また、前記多孔質材料は結晶性のアルミナからなるので化学的に不活性であり、水または薬品に接触しても溶解するようなことがない。
【0015】
さらに、前記多孔質材料の内部に水分及び電解時に使用した電解液の組成物を含んでいる場合に、これらの残留物質が水中に溶出したり、水または薬品に含まれる成分と反応したりしても、貫通孔の孔壁の溶解、多孔質材料の厚さの減少及び微細構造の変化が発生することなく、前記多孔質材料の破損に至るようなことがない。
【0016】
また、前記多孔質材料は結晶性であるので強度も高く、使用時の応力におけるクラックの発生、破壊の恐れがない。
【0017】
なお、上述した多孔質材料は、結晶化のために基本的には熱処理を介して製造することになる。一方、厚さ方向に沿って略平行な貫通孔を有する多孔質材料を簡易に製造できるという観点から、アルミニウム等の金属材料の陽極酸化処理を用いることが好ましい。しかしながら、結晶性のアルミナからなる多孔質材料を形成するためには、少なくとも600℃以上、目的に応じては900℃以上あるいは1200℃以上に加熱する必要がある。
【0018】
したがって、単に陽極酸化処理と熱処理とを併用したのみでは、前記熱処理中にアルミナ材(陽極酸化膜)が変形してしまい、得られた多孔質材料の表面側及び裏面側での貫通孔の孔径が互いに異なるようになってしまうとともに、厚さ方向に沿って略平行な貫通孔を形成することができない。
【0019】
かかる観点より、本発明では、陽極酸化処理によって得たアルミナ材(陽極酸化膜)を一対の板状部材で挟み込んで拘束し、この状態の下、熱処理して結晶化させる。
【0020】
すなわち、アルミニウム基材を電解液に浸漬させて電解処理を行い、前記アルミニウム基材の表面にアモルファスの陽極酸化膜を形成する工程と、前記陽極酸化膜を前記アルミニウム基材より剥離し、一対の板状部材間に配置するとともに、前記一対の板状部材によって拘束する工程と、前記陽極酸化膜を、前記一対の板状部材で拘束した状態で熱処理して結晶化させる工程と、を具えることを特徴とする多孔質材料の製造方法に基づいて製造する。
【0021】
この方法によれば、陽極酸化処理によって得たアルミナ材(陽極酸化膜)を600℃以上で熱処理した場合においても、前記熱処理中における前記アルミナ材の変形を抑制することができ、厚さ方向に沿って略平行な貫通孔を有する結晶性のアルミナを含む多孔質材料を得ることができる。
【0022】
なお、上記製造方法はあくまでも一例であって、上述した多孔質材料はその他の方法によっても製造することもできる。例えば、陽極酸化処理の際に電圧印加プロファイルを制御して、初期の電解電圧を低く(10V)、その後、電解電圧を高く(40V)し、次いで、電解電圧を低く(10V〜5V)としたり、昇温速度を極低速にしたりするなどの方法によっても製造することができる。
【0023】
しかしながら、上述した製造方法によれば、上述した本発明の結晶性の多孔質材料を簡易かつ確実に製造することができる。
【0024】
また、本発明における“多孔質材料の厚さ方向に沿って略平行な貫通孔”における略平行とは、前記厚さ方向と完全に平行の場合に限定されるものではなく、−30度〜30度の範囲で傾斜している場合をも含む。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明によれば、サブミクロンオーダの貫通孔を有するとともに、前記貫通孔中に媒体を流した際に圧力損失を生じることなく、また、化学的に不活性かつ十分な強度を有し、長期間に亘って安定して使用可能な多孔質材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の詳細、その他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて説明する。
【0027】
(多孔質材料)
最初に、本発明の多孔質材料の構成の概略について説明する。図1は、本発明の多孔質材料の一例を示す構成図である。図1は、前記多孔質材料の一部を切り取って拡大して示す斜視図である。
【0028】
図1に示すように、本例の多孔質材料10は、結晶性のアルミナからなるセル11からなり、各セル11内には、多孔質材料10の厚さ方向に沿って略平行な貫通孔12が形成されている。なお、“略平行”とは、完全に平行の場合のみならず、−30度〜30度の範囲で傾斜している場合をも含むものである。
【0029】
本例の多孔質材料10では、貫通孔12が厚さ方向に沿って略平行に直線的に形成されているため、貫通孔12の孔径がサブミクロンサイズであっても、貫通孔12内を流れる際の圧力損失が増大するということがない。また、多孔質材料10は結晶性のアルミナからなるので化学的に不活性であり、水または薬品に接触しても溶解するようなことがない。
【0030】
さらに、多孔質材料10の内部に水分及び電解時に使用した電解液の組成物を含んでいる場合に、これらの残留物質が水中に溶出したり、水または薬品に含まれる成分と反応したりしても、貫通孔12の孔壁の溶解、多孔質材料10の厚さの減少及び微細構造の変化が発生することなく、多孔質材料10破損に至るようなことがない。
【0031】
また、多孔質材料10は結晶性であるので強度も高く、使用時の応力におけるクラックの発生、破壊の恐れがない。
【0032】
なお、本例では、貫通孔12は、多孔質材料10の厚さ方向の全体に亘って均一な孔径を有している。この場合、多孔質材料10の両面での貫通孔12の構造が同一となり、両面近傍での空隙率がほぼ同一となる。一般に、空隙率が小さいと体積収縮が大きくなり、空隙率が大きいと体積収縮が小さくなる。しかしながら、本例の場合は、多孔質材料10の両面における空隙率がほぼ同一であるので、以下に詳述する製造時の熱処理による変形
(反り)を抑制することができる。貫通孔12における圧力損失をさらに低減できる。
【0033】
但し、以下に示す本発明の製造方法によれば、上述のように多孔質材料10の厚さ方向の全体に亘って均一な孔径を有しておらず、多孔質材料10の両面での貫通孔12の構造が同一でなく、両面近傍での空隙率が同一でないような場合においても、熱処理時の変形を十分に抑制することができる。しかしながら、上述した態様を採ることによって、熱処理時の変形をより効果的に抑制することができるようになる。
【0034】
また、多孔質材料10の厚さtは50μm以上であることが好ましい。もし、多孔質材料10の厚さtが50μm未満であると、多孔質材料10が結晶性であっても強度が十分でなく、場合によっては自立した材料として用いることができない場合がある。
【0035】
なお、多孔質材料10の厚さtの上限は特に限定されるものではないが、例えば200μmとすることができる。これは主として以下に詳述する製造方法に起因したものである。すなわち、熱処理に先立って陽極酸化処理によって非晶質のアルミナ材を作製することになるが、多孔質材料10、すなわちアルミナ材が200μmを超えて厚くなると、陽極酸化処理において電圧を全体に負荷することができず、均一な電解処理を行うことができない場合があるからである。
【0036】
貫通孔12の孔径は10nm〜200nmとすることができる。これは、多孔質材料10の貫通孔12内に媒体を流して、例えばフィルター等として使用する場合の実用的観点から好ましく決定されるものである。
【0037】
多孔質材料10は、αアルミナを含むことができる。結晶性のアルミナは、安定・準安定な構造を含め、多くの種類の構造が存在する。その中でαアルミナは、完全に脱水された最も安定な構造であり、化学的な安定性にも優れる。その他の準安定なアルミナは、常温の中性水に対してはある程度耐性を示すものの、高温水、及び低pH,高pHの薬品に対しては反応性を示し、溶解したり変性したりする。
【0038】
それに対し安定相であるαアルミナは高温水、薬品に対してもほとんど安定であり、ほとんど変質しない。そのため、多孔質材料10中のαアルミナの含有率を高くすることにより、理想的には全てαアルミナから構成される膜とすることにより、高温水に対する耐性、耐薬品性を向上することができる。実際、αアルミナからなる多孔質材料10を100℃以上の高温水中に封入した状態で保管したところ、外観の変化はほとんど認められず、試験前後でほとんど変質は見られなかった。
【0039】
また、多孔質材料10は、γアルミナを含むことができる。このγアルミナは触媒活性を有することから、この場合は、上述した圧力損失とは別に、多孔質材料10の貫通孔12内を通過する粒子を吸着することができるようになる。
【0040】
図2は、図1に示す多孔質材料10の変形例である。なお、同一あるいは類似の構成要素に関しては、同一の参照数字を用いている。
【0041】
図1に関する例では、貫通孔12は、多孔質材料10の厚さ方向の全体に亘って均一な孔径を有しているが、図2に関する例では、貫通孔12の、多孔質材料10の表面側の孔径と裏面側の孔径とのみが略同一となっている。この場合においても、多孔質材料10の両面での貫通孔12の構造が同一となり、両面近傍での空隙率がほぼ同一となる。したがって、以下に詳述する製造時の熱処理による変形(反り)を抑制することができる。
【0042】
なお、陽極酸化時の電解電圧と貫通孔の孔径との間には相関があることが知られており、電解電圧を変化させることにより任意の孔径とすることが可能である。したがって、図2に示すような貫通孔12を形成するには、以下に詳述する陽極酸化処理において、電解の初期に低電圧(例えば10V)で電解を行い、その後高電圧(例えば40V)で電解を行った後、最終的に再度低電圧(例えば10V〜5V)で電解を行う。
【0043】
その他の特徴については、図1に示す例と同様である。
【0044】
(多孔質材料の製造方法)
次に、本発明の多孔質材料の製造方法について説明する。図3〜6は、本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【0045】
最初に、図3に示すように、アルミニウム基材110を準備し、必要に応じてアセトン中で超音波洗浄する等の方法で脱脂する。その後、アルミニウム基材110に対向するようにして電極21を配置するとともに、電極21及びアルミニウム基材110をそれぞれ電源22に接続する。さらに電極21及びアルミニウム基材110を所定の電解液中に浸漬する。その後、電極15及びアルミニウム基材110間で電解を行い、アルミニウム基材110を陽極酸化し、多孔質化して多孔質中間体(陽極酸化膜)121を得る。
【0046】
なお、図2に示すように、目的とする多孔質材料の表面側の孔径と裏面側の孔径とのみが略同一とする場合は、電解の初期に低電圧(例えば10V)で電解を行い、その後高電圧(例えば40V)で電解を行った後、最終的に再度低電圧(例えば10V〜5V)で電解を行う。
【0047】
また、電極21は、カーボン、ステンレス鋼等から構成することができる。電解液は、硫酸、リン酸、シュウ酸等の適度の溶解力を持つ酸の電解液を用いる。
【0048】
なお、電解液としては、特にりん酸電解液を用いることが好ましい。りん酸電解液を用いて形成した多孔質中間体121は、しゅう酸電解液を用いて形成した多孔質中間体121と比較して、残留している水分及びアニオンが少なく、変態にともなう重量変化が小さい。その結果、寸法の変化も比較的少なく、熱処理時に割れ、クラックが少ないという特徴がある。
【0049】
上述のようにして、多孔質中間体121を作製した後、残存するアルミニウム基材110を塩化水銀(II)塗布や、酸もしくはアルカリによる溶解処理により除去することにより、多孔質中間体121のみを分離して取り出すことが可能となる。また、陽極酸化の電解時の電解電圧を徐々に低くし、さらに、逆極性の条件で電解することにより、水素発生によるガスの圧力で剥離させる方法によっても、残存するアルミニウム基材11を除去し、多孔質中間体121のみを分離して取り出すことが可能となる(図4)。
【0050】
残存するアルミニウム基材110から分離された多孔質中間体121は、その下部にバリア層121Aと呼ばれる、細孔が貫通していない層が残存する。このバリア層121Aは、例えば、研磨加工等によって機械的に除去する他、クロム酸及びリン酸の混合溶液やリン酸溶液、又はNaOH溶液、HSO溶液を用いて除去することができる。溶液を用いる場合は、前記溶液を室温から60℃前後にまで加熱し、このような状態の溶液に対して多孔質中間体121を数分から数十分浸漬させることによって行う。
【0051】
なお、現段階において、多孔質中間体121は、厚さ方向に沿って略平行な貫通孔を有する非晶質アルミナである。
【0052】
次いで、図5に示すように、多孔質中間体121を一対の板状部材24間に配置し、図6に示すように、一対の固定部材26によって板状部材24の両端を挟み込むとともに、上下方向に締結する。これによって、多孔質中間体121が一対の板状部材24間に拘束されるようになる。なお、板状部材24の厚さ、重さ等については特に限定されるものではない。
【0053】
また、板状部材24は、アルミナを含有するセラミック材質であることが望ましい。アルミナの中でも、線膨張係数が陽極酸化膜と同等であり、化学的安定性に優れ、今回の熱処理により変質することがない、αアルミナが特に優れている。アルミナ以外の成分としては、マグネシア、シリカ等の成分を含んでいるものを適用することができる。ただし、アルミナの含有率が高い方が、線膨張係数を陽極酸化膜と適合させる点で有利であることから、概ね90%以上のαアルミナを含むことが望ましい。
【0054】
次に、図6に示す状態の多孔質中間体121を電気炉等の加熱炉内に入れて、熱処理する。この際、多孔質中間体121は、板状部材24で上下方向に締結及び固定されているので、熱によって変形するようなことがなく、目的とするような結晶化を行うことができる。
【0055】
なお、上記熱処理温度は目的に応じて任意に設定することができる。例えば、前記熱処理を1200℃以上の温度とすることによって、多孔質中間体121をαアルミナからなる多孔質材料120とすることができる。αアルミナの特徴については、上述したとおりである。この場合の熱処理温度の上限は1400℃とすることができる。
【0056】
また、前記熱処理は、900℃以上、1200℃未満の温度で行うことができる。この場合は、多孔質中間体121をγアルミナを含む多孔質材料120とすることができる。なお、この場合は、稀にその他の結晶相が含まれる場合がある。γアルミナの特徴については、上述したとおりである。
【0057】
さらに、前記熱処理は、600℃以上、900℃未満の温度で行うことができる。この場合、多孔質中間体121はγアルミナとアモルファス相との混相となる。したがって、γアルミナの特徴を奏しながら、加熱温度が低いことに起因して熱変形をさらに抑制することができる。すなわち、多孔質中間体121を板状部材24間で拘束しているとは言っても、熱処理温度が高くなりすぎると、ある程度熱変形する場合がある。しかしながら、本例では、比較的低い温度で熱処理を行うので、上述のように熱変形をより低減することができる。
【0058】
なお、熱処理温度と相変態との関係を図7に示す。図7において、約900℃付近に出現しているピークがγアルミナに起因したピークと推察される。なお、図7は熱重量分析の結果得られた、微分熱重量曲線である。また、熱重量分析においては、αアルミナに相当するピークが出現しないので、上記熱処理を1200℃付近で実施した後に、X線回折を施した。これによって、αアルミナに相当する回折ピークが得られ、1200℃以上の温度での熱処理によって、多孔質材料120はαアルミナからなることが確認された。
【0059】
本例では、前記熱処理の際の昇温速度を、100℃/時間以下とすることが好ましい。昇温速度を小さくし、温度を徐々に上昇させることによって、熱処理過程にある多孔質中間体121の急激な温度変化による割れ、クラックを防止するのに有効である。昇温速度の下限値は、実用的な観点から例えば50℃/時間とすることができる。
【0060】
また、本例では、前記熱処理の昇温過程において、アルミナの変態温度付近、例えば800℃〜900℃の温度範囲で昇温操作を中断した後、再度昇温操作を行い、設定温度まで昇温することができる。この場合、陽極酸化膜の熱処理の際に、アルミナが変態を起こす温度において、電解時に多孔質中間体121に残留した水分及びアニオンが放出される。この温度領域においては、重量変化が大きく、それに伴い寸法の変化も発生するが、当該温度領域において、一定時間保持することにより、前記水分及び前記アニオンの放出を徐々に行うことができ、重量及び寸法の変化を徐々に進めることによって、割れ、クラックを防止するのに有効な手段となる。
【0061】
さらに、本例では、前記熱処理の昇温過程において、アルミナの変態温度付近、例えば800℃〜900℃で昇温速度を50℃/時間以下に低下させることができる。この場合も、上記同様に、当該温度領域において、一定時間保持することにより、多孔質中間体121に残留した水分及びアニオンを徐々に放出し、重量及び寸法の変化を徐々に進めることによって、割れ、クラックを防止するのに有効な手段となる。
【0062】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の多孔質材料の一例を示す構成図である。
【図2】図1に示す多孔質材料の変形例を示す構成図である。
【図3】本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【図4】同じく、本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【図5】同じく、本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【図6】同じく、本発明の多孔質材料の製造方法に関する工程図である。
【図7】アルミナの、熱処理温度と相変態との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
10,120 多孔質材料
11 アルミナセル
12 貫通孔
21 電極
22 電源
24 板状部材
26 固定部材
110 アルミニウム基材
121 多孔質中間体
121A バリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向と略平行な貫通孔を有し、結晶性のアルミナを含むことを特徴とする、多孔質材料。
【請求項2】
前記アルミナはαアルミナを含むことを特徴とする、請求項1に記載の多孔質材料。
【請求項3】
前記アルミナはγアルミナを含むことを特徴とする、請求項1に記載の多孔質材料。
【請求項4】
多孔質材料の厚さが50μm以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の多孔質材料。
【請求項5】
前記貫通孔の、前記多孔質材料の表面側の孔径と裏面側の孔径とが略同一であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一に記載の多孔質材料。
【請求項6】
前記貫通孔は、前記多孔質材料の前記厚さ方向の全体に亘って均一な孔径を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の多孔質材料。
【請求項7】
前記貫通孔の孔径が10nm〜200nmであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の多孔質材料。
【請求項8】
アルミニウム基材を電解液に浸漬させて電解処理を行い、前記アルミニウム基材の表面にアモルファスの陽極酸化膜を形成する工程と、
前記陽極酸化膜を前記アルミニウム基材より剥離し、一対の板状部材間に配置するとともに、前記一対の板状部材によって拘束する工程と、
前記陽極酸化膜を、前記一対の板状部材で拘束した状態で熱処理して結晶化させる工程と、
を具えることを特徴とする、多孔質材料の製造方法。
【請求項9】
前記電解液は、りん酸電解液であることを特徴とする、請求項8に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項10】
前記陽極酸化膜の剥離は、前記アルミニウム基材を溶解除去して行うことを特徴とする、請求項8又は9に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項11】
前記一対の板状部材は、アルミナを含む材料からなることを特徴とする、請求項8〜10いずれか一に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項12】
前記一対の板状部材は、αアルミナを90モル%以上の割合で含有することを特徴とする、請求項11に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項13】
前記熱処理は、1200℃以上の温度で行うことを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項14】
前記熱処理は、900℃以上、1200℃未満の温度で行うことを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項15】
前記熱処理は、600℃以上、900℃未満の温度で行うことを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項16】
前記熱処理の際の昇温速度が、100℃/時間以下であることを特徴とする、請求項8〜15のいずれか一に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項17】
前記熱処理の昇温過程において、アルミナの変態温度付近で昇温操作を中断した後、再度昇温操作を行い、設定温度まで昇温することを特徴とする、請求項8〜16のいずれか一に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項18】
前記昇温操作の中断は、800℃〜900℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項17に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項19】
前記熱処理の昇温過程において、アルミナの変態温度付近で昇温速度を50℃/時間以下に低下させることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の多孔質材料の製造方法。
【請求項20】
前記昇温速度の低下は、800℃〜900℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項19に記載の多孔質材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−64924(P2010−64924A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232830(P2008−232830)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】