説明

多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法及びこれにより得られた多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒

【課題】白金の分散度をより向上させることにより、触媒活性を更に向上させ、高表面積、高気孔率及び高耐熱性を維持することができるとともに、安全性やコストの削減に寄与しつつ、大量合成することができる多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法及びこれにより得られた多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒を提供する。
【解決手段】アルミナ源からベーマイトゾルを作製する工程(1)と、シュウ酸アンモニウム水溶液を、塩化白金酸水溶液に投入後、加熱・攪拌し、シュウ酸アンモニウムが白金イオンに配位したキレート溶液を作製し、得られたキレート溶液にアンモニアを添加する工程(2)と、ベーマイトゾルに、アンモニアが添加されたキレート溶液を加え、更に尿素を添加し、ゲル化反応によりゲル化物を作製する工程(3)と、工程(3)で得られたゲル化物を凍結乾燥する工程(4)と、工程(4)で得られた凍結乾燥ゲルを焼成する工程(5)と、から構成される多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法及びこれにより得られた多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関、ボイラー等の排気ガス中の微粒子や有害物質は、環境への影響を考慮して排気ガス中から除去する必要性が高まりつつあり、各種排ガス浄化技術が提案されている。例えば、自動車の排気系には、酸化触媒、三元触媒、NOX吸蔵還元型触媒等が配置され、主として貴金属の触媒作用によって排ガス中のNOX、HC、CO等の有害成分を浄化している。特に、酸化触媒としては、例えば、アルミナやシリカ等の担体に酸化活性の高いPtを担持したものが知られている。
【0003】
従来、アルミナやシリカの多孔質担体に白金等の触媒成分を担持させる場合、通常、アルミナやシリカの多孔質担体を、触媒成分を含有する溶液、例えば、触媒成分の塩の溶液に浸漬し、乾燥し、必要により焼成する方法が採用されている。
【0004】
最近では、多孔質担体として、アルミナ系エアロゲルが好適に用いられている。このようなアルミナ系エアロゲルを製造する方法としては、例えば、アルミニウムアルコキシド等から加水分解して得られた湿潤なアルミナ系ゲル(ウエットゲル)を有機溶媒で満たし、超臨界条件下で乾燥する方法(超臨界乾燥)が提案されており、この方法で得られたエアロゲルは、高表面積、高気孔率及び高耐熱性を有することが知られている。
【0005】
しかしながら、アルコキシドの加水分解とゲル化等の方法により作製されたウエットゲルの場合、水とエタノール等のアルコールとの混合物の液相を有するウエットゲルであり、乾燥時の収縮による構造破壊を超臨界乾燥法で回避させるためには、前記ウエットゲルを超臨界乾燥する前段階として、まず、ウエットゲルの液相中の水を前記有機溶媒に置換することが必要不可欠であった。
【0006】
また、超臨界乾燥中にゲル中の金属イオンがゲル外に流出したり、あるいは白金等の貴金属イオンが系中の有機溶媒により還元を受けて白金黒が析出することも懸念される。更には、現在使用されているエアロゲルは、耐水性に劣り、水にエアロゲルを浸した瞬間に構造破壊してしまうため、使用用途も大幅に限定されてしまうという問題点があった。
【0007】
そして、超臨界乾燥法は、臨界点以上の高温・高圧を必要とするため、安全性の問題や高コストであるという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、白金の分散度をより向上させることにより、触媒活性を更に向上させ、高表面積、高気孔率及び高耐熱性を維持することができるとともに、安全性やコストの削減に寄与しつつ、大量合成することができる多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法及びこれにより得られた多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、先ず、本発明によれば、主組成がアルミナ(Al2)で構成され、且つ白金(Pt)が分散された多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒であって、アルミナ源からベーマイトゾルを作製する工程(1)と、シュウ酸アンモニウム水溶液を、塩化白金酸水溶液に投入後、加熱・攪拌し、シュウ酸アンモニウムが白金イオンに配位したキレート溶液を作製し、得られたキレート溶液にアンモニアを添加する工程(2)と、アルミナゾルに、アンモニアが添加されたキレート溶液を加え、更に尿素を添加し、ゲル化反応によりゲル化物を作製する工程(3)と、工程(3)で得られたゲル化物を凍結乾燥する工程(4)と、工程(4)で得られた凍結乾燥ゲルを焼成する工程(5)と、から構成される多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法が提供される。
【0010】
このとき、工程(2)では、白金イオンに対し、シュウ酸アンモニウム5〜8倍モルを添加することが好ましい。
【0011】
また、工程(2)では、キレート溶液にアンモニアを添加し、キレート溶液のpHを7.6〜9.0の範囲に調整することが好ましい。
【0012】
更に、工程(2)では、ベーマイトに対し硝酸を0.08〜0.22(酸/ベーマイトのモル比)の割合で添加することが好ましい。
【0013】
また、本発明の製造方法では、ゲル化物をトラップ部冷却温度が−80℃以下、且つ乾燥完了時の真空度が10Pa以下で凍結乾燥することが好ましく、また、ゲル化物が凍結乾燥後、大気雰囲気下及び/又は水素雰囲気下で焼成されることが好ましい。
【0014】
次に、本発明によれば、上記の製造方法で製造され、主組成がアルミナ(Al2)の骨格構造を有し、且つ前記骨格を構成する基材に白金微粒子又は白金酸化物微粒子もしくはそれら両方が分散されており、且つ白金の分散度が40〜60%である多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒が提供される。
【0015】
このとき、本発明の触媒は、白金の添加量が0.5〜5質量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法及びこれにより得られた多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒は、白金の分散度をより向上させ、触媒活性を更に向上させたままで、高表面積、高気孔率及び高耐熱性を維持することができるとともに、安全性やコストの削減に寄与しつつ、大量合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法について詳細に説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0018】
本発明に係る多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法は、アルミナ源からベーマイトゾルを作製する工程(1)と、シュウ酸アンモニウム水溶液を、塩化白金酸水溶液に投入後、加熱・攪拌し、シュウ酸アンモニウムが白金イオンに配位したキレート溶液を作製し、得られたキレート溶液にアンモニアを添加する工程(2)と、ベーマイトゾルに、アンモニアが添加されたキレート溶液を加え、更に尿素を添加し、ゲル化反応によりゲル化物を作製する工程(3)と、工程(3)で得られたゲル化物を凍結乾燥する工程(4)と、工程(4)で得られた凍結乾燥ゲルを焼成する工程(5)と、から構成されていることにある。
【0019】
本発明の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法の主な特徴は、シュウ酸アンモニウム水溶液を、塩化白金酸水溶液に投入後、加熱・攪拌し、シュウ酸アンモニウムが白金イオンに配位したキレート溶液を作製し、得られたキレート溶液にアンモニアを添加した白金ソースを、ベーマイトゾル(アルミナゾル)に加え、更に尿素を添加し、ゲル化反応によりゲル化物を作製することにある。
【0020】
これにより、本発明の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル(Pt/Al23クリオゲル)触媒の製造方法は、白金源である白金酸水溶液に、アンモニアを含むシュウ酸水溶液を混合したものを使用する製造方法(例えば、得られた触媒の白金の分散度:30〜40%、埋没度:45〜60%、収率:最大5g程度)と比較して、白金酸水溶液とシュウ酸アンモニウム水溶液とを反応させ、キレート溶液にしておいてから、更に一定量のアンモニウムを加えて調整した白金ソース(アンモニアが添加されたキレート溶液)を、ベーマイトゾルに加えることにより、触媒活性の損なう原因である白金黒の析出を抑制することができ、最終的に得られる触媒の白金の分散度をより向上することができるだけでなく、大量合成できることを新たに見出した(例えば、本発明で得られた触媒の分散度:40〜60%、埋没度:17〜45%、収率:30〜50g程度)。
【0021】
これは、シュウ酸アンモニウムとアンモニア双方が白金イオンに対して相互作用することで、白金イオンのキレート化合物が安定化されると同時に、ベーマイトゾル(アルミナゾル)との最適な親和性も生まれ、結果として、得られた触媒の白金(Pt)の分散度の向上がもたらされたものと推測される。
【0022】
更に詳細には、本発明の製造方法におけるベーマイトゾルに加える白金ソースの作製(工程2)について、以下の条件で作製することが、最終的に得られる多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の特性を維持するうえで重要である。
【0023】
(a)白金イオンに対し、シュウ酸アンモニウム5〜8倍モル(より好ましくは、5〜6倍モル)を添加して、シュウ酸アンモニウムが白金イオンに配位したキレート溶液を作製することが好ましい。これより少なすぎる場合、白金イオンへのシュウ酸アンモニウムの配位が不十分となり、キレート保護の効果が無くなってしまう。一方、これより、多すぎる場合、キレート溶液のpHが高くなっているため、ベーマイトゾル(アルミナゾル)に投入した際(工程3)、一瞬でゲル化してしまう。
【0024】
(b)(a)で得られたキレート溶液にアンモニアを添加し、キレート溶液のpHを7.6〜9.0(より好ましくは、pHを7.8〜8.5)の範囲に調整することが好ましい。これより小さすぎると、アンモニアの配位効果が現れず、一方、これより大きすぎると、シュウ酸アンモニウムの配位効果が無くなってしまうからである。
【0025】
尚、本発明の製造方法(工程1)は、ベーマイトゾル(アルミナゾル)の酸の解こう(解膠)プロセスにおいて、ベーマイトに対し硝酸を0.08〜0.22(酸/ベーマイトのモル比)、より好ましくは、0.12〜0.20の割合で添加することが好ましい。これより少ないと、酸による解こう(解膠)が十分進行せず、一方、これより多いと、pHの低下により白金ソースを投入する前に、ベーマイトゾル(アルミナゾル)がゲル化してしまう。
【0026】
また、本発明の製造方法(工程4)は、上記で得られたゲル化物を、トラップ部冷却温度が−80℃以下、且つ真空度が10Pa以下で凍結乾燥することが好ましい。これは、トラップ部冷却温度が−80℃を超過する場合、湿潤ゲルの凍結乾燥が不完全となり、乾燥収縮による微構造の破壊が発生するためである。また、真空度は、真空に近ければ近いほど良いが、乾燥完了時の真空度が10Paを超過すると、凍結乾燥が完了しておらず、乾燥収縮による微構造の破壊が発生してしまう。
【0027】
更に詳細には、上記凍結乾燥は、初めに、ゲル化物(ウエットゲル)を、−80℃以下で冷却し、ゲル化物(ウエットゲル)の凍結を確認した後、真空に引き、トラップ部冷却温度を−80℃以下にて、5〜7日程度保持することが好ましい。このとき、上記保持時間は、対象となるゲル化物(ウエットゲル)の大きさ、密度や形状によって様々であるが、少なくとも真空度が10Pa以下になる保持時間が望ましい。また、ゲル化物(ウエットゲル)の初期冷却には、フリーザーを用いてもよいが、ドライアイス−エタノールや液体窒素等の冷媒で、できるだけ瞬間冷却する方が、凍結時間の短縮及びゲル化物(ウエットゲル)の凍結時における構造破壊を抑制することができるため好ましい。
【0028】
尚、本発明の製造方法(工程5)は、臨界点以上の高温・高圧を用いる超臨界乾燥を行わないため、安全性に優れているとともに、低温・低圧下での凍結乾燥を採用することにより、超臨界乾燥よりも省エネであり、且つウエットゲルの液相中の水をアルコール等で置換することなくそのまま乾燥(凍結乾燥)することができるため、工程や設備の簡略化が可能であるため、コストを大幅に削減することができる。
【0029】
次に、本発明の製造方法で得られた多孔質白金−アルミナ系クリオゲル(Pt/Al23クリオゲル)触媒は、主組成がアルミナ(Al2)の骨格構造を有し、且つ骨格を構成する基材に白金微粒子が分散されており、且つ白金の分散度が40〜60%である。また、乾燥中に金属イオンのゲル外への流出はなく、白金黒等の析出もない。
【0030】
これにより、本発明の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒は、白金の分散度をより向上させ、触媒活性を更に向上させたままで、高表面積、高気孔率及び高耐熱性を維持することができる。
【0031】
尚、本発明の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒における白金の分散度と、ゲル中に埋没された白金の割合(埋没度)について説明する。
【0032】
【数1】

【0033】
数1式に示すアンダーソンの式により、アルミナゲル中に埋没された白金粒子の割合、即ち埋没度を算出した。この式は、「担体上に全金属粒子が球状で存在する」という仮定のもとに、担持金属触媒の金属粒子径を金属の分散度から求める際に使用されるものである。まず、埋没度の算出に当たり、TEM写真により観察した白金の粒子径(1nm)から、数1式を用いて計算上の白金の分散度を予め算出した後、白金がアルミナクリオゲル担体表面に存在する割合を算出し、全体の白金割合から、白金がアルミナクリオゲル担体表面に存在する割合を除したものが、白金ゲル中に埋没された白金の割合(埋没度)として算出される。
【0034】
従って、本発明の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の白金の分散度が40〜60%の場合、白金の埋没度が17〜45%と算出することができる。
【実施例】
【0035】
本発明を実施例に基づいて、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0036】
(評価方法)
(1)CO吸着法による金属の分散度(露出度)評価
ガスクロマトグラフ(GC)を用い、0.100g、反応管(φ4mm)に充填したサンプルに対し、HeをキャリアとしてCO(0.5ml)を5分毎に6回流し、COの総吸着量をGCプロットの結果より算出した。尚、サンプルは、一度、ペレット化(φ20mm、20MPa/2min保持)した後、粉砕・分級し、300〜400μmに調整したものである。CO1分子は、金属白金1原子に吸着する特性があるため、COの総吸着量からサンプル表面に存在する金属白金の量を算出することができる。また、サンプルに含まれる白金量も組成から算出することができる。これらから、サンプル(触媒)に含まれる金属白金原子の内、表面に露出している金属白金の割合(露出度=表面露出率=分散度[%])を算出した。
【0037】
(2)CH4酸化能評価(酸化触媒能評価)
Ar及びOを79:20(疑似大気組成)で混合し、それにCHを1%(v/v)含むガスを作成した。これをサンプル(0.1g)に通じ、各温度でメタン酸化触媒活性を測定した。測定温度は、400〜700℃の範囲で、50℃刻みとした。各温度で25分流通させた後、サンプリングした。尚、サンプルは、H2還元処理、CO吸着測定を行ったものを用い、実サンプル重量(約0.10g)の10倍重量の石英砂(WAKO試薬)と混合・希釈し、それを反応管(φ8mm)に充填して用いた。評価は、FID(水素炎イオン検出器)及びTCD(熱伝導度検出器)で行った。FIDの結果から、CH→COの転化率(メタン転化率)を算出した。TCDは、検出感度が低いため、発生したガス組成の確認(CH、CO)と、転化率(メタン転化率)算出のバックアップを目的として使用した。
【0038】
(実施例1及び実施例2:多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法1)
オイルバス80℃中にて、アルミナ源であるアルミニウムブトキシド(Al(sec−BuO))1molを蒸留水800mlに加えて加水分解した。次いで、1Mの硝酸160mlを加えて、86℃で1時間、オイルバス中にて攪拌し、濁ったゾルが解こう(解膠)して半透明なベーマイトゾル(AlOOH)を作製した。
【0039】
0.00689Mのシュウ酸水溶液に25質量%のアンモニア水2mlを加えて、86℃で攪拌することにより、シュウ酸アンモニウム水溶液を調製した。これに、2質量%の塩化白金酸水溶液28.9gを投入し、86℃で加熱・攪拌することにより、シュウ酸アンモニウムが白金イオンに配位したキレート溶液を作製した。このキレート溶液に25質量%のアンモニウム水を1.4ml添加し、更に86℃で加熱・攪拌することにより、一定量のアンモニウムを加えて調整した白金ソース(アンモニアが添加されたキレート溶液)を作製した。
【0040】
得られたアンモニアが添加されたキレート溶液を、ベーマイトゾル(AlOOH)に加え、更に尿素を9.5g添加した後、オイルバス86℃で1日放置することにより、均一なウエットゲル(ゲル化物)を作製した。
【0041】
得られたウエットゲルを、液体窒素を用いて初期冷却を行った。初期冷却は、液体窒素中にウエットゲルを30分以上保持し、凍結を目視で確認した。次に、得られた凍結ゲルを、凍結乾燥機を用いて、7日間、真空下、トラップ部冷却温度−80℃で保持した後、10Pa以下で取り出し、大気開放することにより、凍結乾燥ゲルを得た。尚、上記凍結乾燥機には、EYELA社製 FDU−810を用いた。この凍結乾燥機は、トラップ部冷却温度−80℃を維持可能で、凍結ゲルを収容したサンプルルームの大きさは、φ230mm、H=200mmであった。また、サンプルルーム内を真空に引くために使用した真空ポンプには、ULVAC社製 GCD−051Xを用いた。この真空ポンプのカタログ上の真空到達度は、6.7×10−2Paであった。
【0042】
得られた凍結乾燥ゲルを、アルミナルツボに収め、電気炉で大気雰囲気下、500℃、1時間焼成を行うことにより、多孔質白金−アルミナ系クリオゲル(1質量%−Pt/Al23クリオゲル)触媒を得た(実施例1)。また、アルミナ源であるアルミニウムブトキシド(Al(sec−BuO))0.6molを用いて実施例1と同様に作製することにより、多孔質白金−アルミナ系クリオゲル(1質量%−Pt/Al23クリオゲル)触媒を得た(実施例2)。
【0043】
(参照例:多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法2)
80℃下での作業環境で、アルミナ源であるASB(Al(sec−BuO)3)26.2mlを溶媒である水80mlに混合し、アルコキシド加水分解後、HNO3溶液(1.0M)を12ml加えて、2時間保持することにより、ベーマイトゾル(AlOOH)を作製した。
【0044】
アンモニアを少量含む0.0689Mのシュウ酸水溶液0.6mlに、2質量%塩化白金酸水溶液0.36g投入し、86℃で加熱・攪拌する。この水溶液を上記で作製されたベーマイトゾルに投入し、その後、尿素0.2gを添加して一晩放置すると、薄黄色の均一なゲルが生成した。
【0045】
得られた塩化白金酸/ベーマイトゲル(AlOOH)を、−80℃で凍結した後、得られた凍結ゲルを更にトラップ部冷却温度−80℃の真空下(真空度1〜2Pa)で24時間凍結乾燥した。尚、使用した凍結法及び乾燥法は、実施例1及び実施例2と同様の方法を用いた。
【0046】
得られた凍結乾燥ゲルを、アルミナルツボに収め、電気炉で大気雰囲気下、500℃、1時間焼成を行うことにより、多孔質白金−アルミナ系クリオゲル(1質量%−Pt/Al23クリオゲル)触媒を得た(参照例)。
【0047】
(白金の分散度)
次に、それぞれ得られた1質量%−Pt/Al23クリオゲル触媒(実施例1及び実施例2、参照例)を500℃と700℃で焼成後、500℃で水素還元して、室温でCO吸着測定を行い、白金の分散度を算出した。その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法2で製造した参照例の白金の分散度は、30.0%(500℃焼成)及び36.5%(700℃焼成)であった。一方、本発明の製造方法(多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法1)で製造した実施例1の白金の分散度は、60.7%(500℃焼成)及び55.7%(700℃焼成)、また、実施例2の白金の分散度は、45.1%(500℃焼成)及び42.7%(700℃焼成)であり、参照例と比較して、白金の分散度をより向上させることができた。
【0050】
次に、白金の分散度から、ゲル中に埋没された白金の割合(埋没度)を検討すると、参照例では、45〜60%程度の白金粒子が埋没しているのに対して、実施例1及び実施例2では、17〜45%程度の白金の埋没度であるため、より多くの白金(Pt)粒子が触媒表面に露出していることが示唆された。
【0051】
(白金の高温耐熱性)
それぞれ得られた1質量%−Pt/Al23クリオゲル触媒(実施例1及び実施例2、参照例)を、500℃焼成後及び700℃焼成後に、X線回折測定を行った。その結果を図1及び図2に示す。
【0052】
図1は、1質量%−Pt/Al23クリオゲル触媒(実施例1及び実施例2、参照例)の500℃焼成後のX線回折スペクトル、図2は、1質量%−Pt/Al23クリオゲル触媒(実施例1及び実施例2、参照例)の700℃焼成後のX線回折スペクトルである。
【0053】
図1及び図2に示すように、実施例1及び実施例2では、表1に示すように、白金の高い分散度を示しながらも、白金の耐熱性が、参照例の耐熱性に劣らないことが判明した。また、実施例1及び実施例2では、白金が触媒表面により多く露出しても、白金とアルミナクリオゲル担体とのより強い相互作用により、このような高い耐熱性が発現したものと考えられる。
【0054】
(BET比表面積)
それぞれ得られた1質量%−Pt/Al23クリオゲル触媒(実施例1及び実施例2、参照例)を、500℃焼成後及び700℃焼成後に、BET比表面積の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
表2の結果から、実施例1及び実施例2の500℃焼成後及び700℃焼成後におけるBET比表面積は、参照例と同じレベルの高い数値であることが判明した。即ち、実施例1及び実施例2は、参照例と比べても、白金のみならず、アルミナクリオゲル担体の耐熱性にも性能低下が認められなかった。
【0057】
(メタン酸化反応による触媒試験)
実施例1及び参照例におけるメタン酸化反応による触媒試験(CH4酸化能評価)の結果を、図3に示す。実施例1では、図3に示すように、参照例と比べて、より高い触媒活性を示すことが判明した。これは、白金の耐熱性(図1及び図2)や触媒の表面積(表2)がほとんど同じでありながら、このような高い触媒活性を示したのは、表1に示すように、白金の分散度(表面露出率)の向上が触媒活性の向上に寄与したものと考えられるからである。
【0058】
(多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の収量)
多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法2で製造した参照例の白金の収量は、5g程度しか得られなかった。一方、本発明の製造方法(多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法1)で製造した実施例1の白金の収量は50g、また、実施例2の白金の収量は30gと、参照例と比較して、Pt/Al23クリオゲル触媒を大量合成することができた。多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法1の手法では、シュウ酸アンモニウムとアンモニアが白金イオンに対し適切な相互作用を及ぼして白金イオンがより安定化されるため、ベーマイト作製過程で発生する大量のsec−ブタノールによっても白金イオンが還元を受けず、従って、ゲル調整時に白金黒を析出したりしないため、大量合成が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法及びこれにより得られた多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒は、例えば、排ガス処理用の触媒の製造に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】1質量%−Pt/Al23クリオゲル触媒(実施例1及び実施例2、参照例)の500℃焼成後のX線回折スペクトルである。
【図2】1質量%−Pt/Al23クリオゲル触媒(実施例1及び実施例2、参照例)の700℃焼成後のX線回折スペクトルである。
【図3】1質量%−Pt/Al23クリオゲル触媒(実施例1及び参照例)におけるCH4酸化能評価(メタン転化率)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主組成がアルミナ(Al2)で構成され、且つ白金(Pt)が分散された多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法であって、
アルミナ源からベーマイトゾルを作製する工程(1)と、
シュウ酸アンモニウム水溶液を、塩化白金酸水溶液に投入後、加熱・攪拌し、前記シュウ酸アンモニウムが白金イオンに配位したキレート溶液を作製し、得られたキレート溶液にアンモニアを添加する工程(2)と、
前記ベーマイトゾルに、アンモニアが添加された前記キレート溶液を加え、更に尿素を添加し、ゲル化反応によりゲル化物を作製する工程(3)と、
前記工程(3)で得られたゲル化物を凍結乾燥する工程(4)と、
前記工程(4)で得られた凍結乾燥ゲルを焼成する工程(5)と、
から構成される多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法。
【請求項2】
前記工程(2)が、白金イオンに対し、シュウ酸アンモニウム5〜8倍モルを添加する請求項1に記載の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法。
【請求項3】
前記工程(2)が、キレート溶液にアンモニアを添加し、キレート溶液のpHを7.6〜9.0の範囲に調整する請求項1又は2に記載の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法。
【請求項4】
前記工程(2)が、ベーマイトに対し硝酸を0.08〜0.22(酸/ベーマイトのモル比)の割合で添加する請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法。
【請求項5】
前記ゲル化物を、トラップ部冷却温度が−80℃以下、且つ乾燥完了時の真空度が10Pa以下で凍結乾燥する請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法。
【請求項6】
前記ゲル化物が、凍結乾燥後、大気雰囲気下及び/又は水素雰囲気下で焼成される請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法で製造され、主組成がアルミナ(Al2)の骨格構造を有し、且つ前記骨格を構成する基材に白金微粒子又は白金酸化物微粒子もしくはそれら両方が分散されており、且つ白金の分散度が40〜60%である多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒。
【請求項8】
前記白金の添加量が、0.5〜5質量%である請求項7に記載の多孔質白金−アルミナ系クリオゲル触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−18225(P2009−18225A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180775(P2007−180775)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】