説明

多孔質膜およびその製造方法

【課題】高い膜強度でありながら所望の気孔率を備えることのできる多孔質膜とその製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂材料を延伸して多孔質化した膜Aを、膜と同じ材料の微粒子が分散している溶液B中に浸漬する。浸漬後の多孔質膜A1を乾燥させ、乾燥した多孔質膜を加熱処理して、多孔質膜の繊維化した部分に付着している微粒子を溶融することにより、繊維化した部分を太化する。高延伸することにより高強度化が得られ、太化することにより所望の低気孔率化することができる。また、太化することにより多孔質膜の膜強度も高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃料電池用の電解質膜等において補強膜等として用いられる多孔質膜と、そのような多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料を延伸製膜して作られる多孔質膜は知られている。この種の多孔質膜は種々の分野で用いられており、例えば、燃料電池の分野では電解質膜の機械的強度を補うための補強膜として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂を延伸して孔質化した多孔質膜が用いられている(特許文献1等参照)。
【0003】
ところで、一般的に、樹脂材料を延伸して多孔質化するときの挙動は、構造的に弱い非晶質部分が引き伸ばされ、一部のラメラの解除も起こり、ミクロフィブリルを形成しながらラメラの間に微細孔を形成すると考えられる。また、延伸により、折り畳まれた分子は引き伸ばされ、延伸方向に高配向して繊維化することでバルクの強度は向上する。そのために、高強度の多孔質膜を得るためには高延伸させることが必要となるが、必然的に気孔率も高くなる。このことは、ポリテトラフルオロエチレン等の多孔質膜においても同様である。
【0004】
【特許文献1】特開平8−13179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば燃料電池の電解質膜に用いられる補強用多孔質膜の場合、膜として高い強度が必要であると同時に所望する気孔率であることも必要である。例えばポリテトラフルオロエチレンの多孔質膜の場合、延伸倍率を変化させることでの膜の気孔率を制御することができる。しかし、前記のように、膜の物性(機械物性)は延伸倍率と大きな相関があり、所望の気孔率にまで延伸したときに、延伸倍率が低いことから樹脂の繊維化が十分に進行せず、所望の強度が得られないことが起こる。逆に、高延伸倍率として十分な強度が得られたときに、その気孔率が所望する値よりも高くなっていることも起こり得る。すなわち、多孔質膜の強度と気孔率とは相反する事象であり、両者を満足する多孔質膜を作り出すことは容易でなく、どちらかを犠牲にせざるを得ないのが現状である。
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、高い膜強度でありながら所望の気孔率を備えることのできる多孔質膜とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による多孔質膜は、基本的に、樹脂材料を延伸製膜して形成される多孔質膜であって、少なくとも延伸により樹脂が繊維化した部分に多孔質膜と同じ材料が融着することにより繊維の太化がなされていることを特徴とする。
【0008】
本発明による多孔質膜では、樹脂材料を延伸して多孔質化した膜における少なくとも繊維化した部分は、同じ材料が融着することによって太化しており、それにより、多孔質膜の気孔率は、延伸製膜時の気孔率よりも低くなっている。すなわち、本発明による多孔質膜は、高倍率延伸により高い分子配向が進行した多孔質膜(結果として高気孔率化している)を低気孔率化させるようにしており、同じ気孔率の多孔質膜を単に延伸処理のみで製膜する従来のものと比較して、より膜強度の向上した多孔質膜が得られる。
【0009】
延伸製膜する樹脂材料は、従来の多孔質膜に使用されている樹脂材料をそのまま用いることができる。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオレフィン系ポリマー等が挙げられる。中でも、化学的安定性、耐熱性等の観点からポリテトラフルオロエチレンは好ましい。
【0010】
例えば、多孔質膜を構成する樹脂材料がポリテトラフルオロエチレンであり、繊維化した部分に融着している材料がポリテトラフルオロエチレンである場合には、燃料電池の電解質膜用の多孔質補強膜として有効な多孔質膜となる。この場合、前記のように高倍率延伸により薄膜化かつ高強度化が可能であり、結果として電解質膜の膜厚を薄くすることができる。それにより、膜電極接合体としたときに電池性能を大きく左右する膜抵抗を低減することが可能となる。
【0011】
本発明は上記した多孔質膜の製造方法として、樹脂材料を延伸して多孔質化する工程と、多孔質化した膜を膜と同じ材料の微粒子が分散している溶液中に浸漬する工程と、浸漬後の多孔質膜を乾燥させる工程と、乾燥した多孔質膜を加熱処理する工程、とを少なくとも含むことを特徴とする多孔質膜の製造方法をも開示する。
【0012】
上記の製造方法において、樹脂材料を延伸して多孔質化する工程は、従来知られている延伸工程であってよく、1軸延伸でも2軸延伸でもよい。前記したように、高倍率延伸して多孔質化することはより好ましい。また、延伸直後に熱処理を行い膜収縮抑制のための固定化処理を行うようにしてもよい。
【0013】
多孔質化した膜を浸漬する溶液は、膜と同じ材料の微粒子が溶媒中に分散している溶液であればよく、溶液濃度は特に限定されない。濃度の高い分散溶液の場合には、一度の浸漬で多くの量の微粒子を多孔質膜に付着させることができるが、均質な付着は難しい。濃度の低い分散溶液の場合には、浸漬と乾燥あるいは後記する加熱処理を複数回反復して行うことにより、均質に付着させることができるとともに、回数に応じて付着量を調整することもできる。両者を組み合わせて浸漬してもよい。
【0014】
分散溶液に延伸した多孔質膜を浸漬することにより、多孔質膜の少なくとも延伸により繊維化した部分には、溶液中に分散した微粒子が分散付着する。より均質かつ短時間での分散付着が得られるように、浸漬を真空含浸処理で行うことは好ましい。浸漬後の多孔質膜に乾燥処理を施して溶媒を揮発させ、付着した微粒子を安定化させる。次ぎに、乾燥した多孔質膜に対して加熱処理を行う。加熱処理の温度は、付着している微粒子の融点以上の温度であることが望ましく、それにより、付着粒子は溶融して繊維化した部分に融着する。場合によっては、周辺の繊維化した部分も溶融する。それによって、多孔質膜の繊維化した部分の太化が進行し、この太化によりバルク強度が向上するとともに、気孔率の調整(低気孔率化)が図られる。
【0015】
上記の製造方法において、粒子径は浸漬する多孔質膜の開口径よりも小さいことは必要である。多孔質膜により均一に分散付着させるために、多孔質膜の貫通細孔径よりも小さい粒径の微粒子であることは、より好ましい。
【0016】
上記の製造方法において、延伸処理する樹脂材料がポリテトラフルオロエチレンであり、浸漬する溶液に分散している微粒子がポリテトラフルオロエチレン微粒子であることは、望ましい一実施の形態であり、製造される多孔質膜は、例えば燃料電池の電解質膜用の多孔質補強膜として有効に用いられる。
【0017】
本発明の方法により得られた多孔質膜をさらに延伸処理することもできる。それにより、分散溶液中の微粒子により縮小した膜表面の開口率や開口径を向上させることができる。さらに、延伸効果により分子の配向や繊維化を促進させることで、強度の更なる向上を期待することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い膜強度でありながら所望の気孔率を備えることのできる多孔質膜を得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例と比較例により本発明を説明するが、本発明がこの実施例に限られないことは当然である。
【0020】
[実施例]
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜の製膜方法として一般的に知られている延伸法により、PTFE多孔質膜を作成した。具体的には、PTFEのファインパウダーに液状潤滑剤のナフサを均一に分散させ、その混合物を、予備成形しペースト押し出しすることで丸棒状物のビードを作成した。次ぎに、ビードを一対の金属製圧延ロール間を通し、長尺の未焼成テープを作成した。
【0021】
図1に示すように、このテープを延伸前のテープの寸法に対し加工(延伸)倍率500%で2軸延伸することでフィブリル状のPTFE多孔質膜Aとした。延伸直後に熱処理を行い膜収縮抑制のための固定化処理を行った。これにより作成した多孔質膜Aの気孔率は85%であった。この多孔質膜Aを以下の方法で処理し、低気孔率化を行った後、比較評価を行った。
【0022】
まず、市販のPTFE樹脂分散液を純水で希釈し、1wt%のPTFE分散液Bを作成した。作成した1wt%のPTFE分散液に上記多孔質膜Aを充分に真空含浸させ、延伸により繊維化した部分を含む膜の細孔内にPTFEを分散付着させた後、多孔質膜A1を引き上げ、溶媒を揮発乾燥させPTFE微粒子を安定化させた。この処理を3回反復した後、この膜A1をPTFE微粒子の融点以上の温度(350℃)で熱処理することで、PTFE微粒子を溶融させて膜に融着固定化し、低気孔率化した多孔質膜A2とした。
【0023】
[比較例1]
実施例と同様にして長尺の未焼成テープを作成し、実施例と同様にしてこのテープを加工(延伸)倍率300%で2軸延伸することでフィブリル状のPTFE多孔質膜とした。この多孔質膜の気孔率は65%であった。
【0024】
[比較例2]
実施例と同様にして長尺の未焼成テープを作成し、同様に延伸法を用い、実施例と同様にしてこのテープを加工(延伸)倍率500%で2軸延伸することでフィブリル状のPTFE多孔質膜とした。この多孔質膜の気孔率は85%であった。
【0025】
[評価法]
a.評価1(多孔構造):実施例の多孔質膜A2と比較例1,2の多孔質膜の多孔構造(繊維状態)を比較するために、電子顕微鏡により多孔質膜の表面構造を観察した。そのSEM像を図2に示した。
【0026】
b.評価2(気孔率):多孔構造を比較するために、多孔質膜の体積(寸法×膜厚)と重量を測定し、次式1を用いて各多孔質膜の気孔率を算出した。それを表1に示した。
式1:気孔率(%)=[1−膜重量/(PTFE真密度×膜体積)]×100
【0027】
c.評価3(機械強度):各多孔質膜の物性を比較するために、多孔質膜の引張試験を行いその降伏応力を測定した。得られた引張応力から、多孔質膜としての膜強度を算出し、それを次式2に示すように、気孔率で補正することにより、多孔質膜を構成する樹脂自体の機械的強度を算出した。それを表1に示した。
式2:樹脂強度(MPa)=膜強度/(1−気孔率/100)
【0028】
【表1】

【0029】
[結果]
図2の膜表面SEM像に示ように、比較例1では、延伸倍率が低いために繊維同士を繋ぐ未延伸部(結節部)が大きく低気孔率であり、分子の配向性が低く樹脂の強度が低いことが予想される。比較例2では、比較例1よりも延伸倍率が大きいため気孔率も高くなっており、未延伸部が小さく分子が高配向していることが予想される。実施例では比較例2の膜を用いて低気孔率化しているため、気孔率が低くても比較例1のように未延伸部は大きくなく、分子が高配向していることが予想される。また、比較例2に示した多孔質繊維よりも樹脂径が大きいことが分かり(繊維化した部分の太化)、相対的な繊維強度が高くなっていることが予想される。
【0030】
事実、表1に示すように、比較例1と実施例の気孔率がほぼ等しく、かつ実施例の機械強度は比較例1と大きく異なっている。延伸倍率を高くした後に気孔率を低下させることにより、分子の配向性が促進されており、また、溶液に分散したPTFE微粒子の溶融処理により多孔質膜の構成繊維径を太くする(太化する)ことが可能となるため、多孔質膜の膜強度も高くなっていることがわかる。これにより、本発明の優位性が示される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の多孔質膜の製造方法を説明するための模式図。
【図2】実施例と比較例による多孔質膜の表面SEM像を示す図。
【符号の説明】
【0032】
A…延伸直後の多孔質膜、A1…膜の細孔内にPTFEを分散付着させた状態の多孔質膜、A2…低気孔率化および繊維が太化した多孔質膜、B…PTFEの分散溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料を延伸製膜して形成される多孔質膜であって、少なくとも延伸により樹脂が繊維化した部分に多孔質膜と同じ材料が融着することにより繊維の太化がなされていることを特徴とする多孔質膜。
【請求項2】
多孔質膜を構成する樹脂材料がポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
請求項2に記載の多孔質膜を補強膜として持つ燃料電池用補強型電解質膜。
【請求項4】
樹脂材料からなる多孔質膜の製造方法であって、樹脂材料を延伸して多孔質化する工程と、多孔質化した膜を膜と同じ材料の微粒子が分散している溶液中に浸漬する工程と、浸漬後の多孔質膜を乾燥させる工程と、乾燥した多孔質膜を加熱処理する工程、とを少なくとも含むことを特徴とする多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
加熱処理を溶液中に分散している多孔質化した膜と同じ材料の融点以上の温度で行うことを特徴とする請求項4に記載の多孔質膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−24812(P2008−24812A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198515(P2006−198515)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】