説明

多孔質膜の製造方法

【課題】乾湿式法を用いて、親水性ポリマーを膜基材ポリマーに比べて過剰使用すること無く、三次元網目構造を有する多孔質膜を得るための製造方法を提供すること。
【解決手段】乾湿式法を用いて疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを溶媒に溶解させた製膜原液を用いた多孔質膜の製造方法であって、前記疎水性ポリマーが、232℃、100sec−1における溶融粘度が45KPoise以上のポリフッ化ビニリデンであり、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)の値が、22g/m・sec以上500g/m以下である多孔質膜の製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過流量と分画特性に優れた3次元網目構造を有する多孔質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染に対する関心の高まりと規制の強化により、分離の完全性やコンパクト性などに優れたろ過膜を用いた膜法による水処理が注目を集めている。
【0003】
多孔質膜を製造する方法としては、高分子溶液を、非溶媒により相分離させ多孔化する非溶媒相分離現象を利用した非溶媒相分離法(例えば、非特許文献1〜2参照)が知られている。
さらに、非溶媒相分離法のひとつの方法として、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む多孔質膜の製膜原液を気相中に吐出する(空走区間を走らせる)ことにより相分離構造を形成したのち、そのまま凝固液中に浸漬することを特徴とする乾湿式法が知られており、高い濾過流量と良好な分画層が得られることから、多量の水処理には好適である。
【0004】
乾湿式法による多孔質膜の製造においては、製膜原液や凝固浴の組成、温度などの製膜条件を変更することによって多孔質構造が調整されている。この際、製膜時における原液粘度を適正な範囲に調整し、製膜状態の安定化を図ると共に、多孔体を形成させる相分離を起こすために親水性ポリマーを用いる。親水性ポリマーとしては、ポリエチレングリコールなどのグリコール系ポリマーやポリビニルピロリドンなどのピロリドン系のポリマーを用いることが多い。
【0005】
乾湿式法により製造される多孔質膜は、凝固浴を通過して凝固が完了した段階では、膜中に親水性ポリマーが多量に残存しているため、このままでは高透水性の膜としての機能を発揮できない場合がある。このため、凝固が完了した後、膜中に残存している親水性ポリマーを除去する。
【0006】
親水性ポリマーを除去する方法としては、水を用いて洗浄する方法が知られているが、用いた親水性ポリマーが高分子量の場合は、水のみでは完全に洗浄・除去されない場合があるため、酸化剤又は加水分解剤を用いて親水性ポリマーをほぼ完全に分解・除去する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、酸化剤などを用いると、装置の材質によっては腐食されるおそれがあるため、耐食性の高い材質の装置を用いる必要があるなど、コストが高くなりがちであった。
【0008】
これに対し、特許文献2には、粘度平均分子量500,000の以下の親水性ポリマーを用いると共に、製膜原液中の親水性ポリマーの質量濃度を、疎水性ポリマーの質量濃度よりも高くする多孔質膜の製造方法が示されている。この方法によれば、三次元網目構造を形成させ、透水性能の高い多孔質膜を製造することができ、さらに、酸化剤や加水分解剤を用いずに、親水性ポリマーを容易に除去することができる。しかしながら透水性の高い三次元網目構造を形成するには親水性ポリマーを疎水性ポリマーに対し多量に使用する必要がありコストが高くなりがちであった。
【0009】
非特許文献3には、ポリフッ化ビニリデン/エチレングリコール/N−メチルピロリドンからなる製膜原液において、三重管ノズルを用い内部凝固液及び製膜原液と溶剤を共流延することにより、網目構造かつマクロボイドが少ない膜を得られることが示されている。
【0010】
しかしながら、この製膜方法では、膜表面に100μm程度のパターン状の凹凸が生じ、平滑性に劣るため、ろ過時の汚れ物質の吸着量の増加とその洗浄性の低下が懸念される。
【0011】
また、非特許文献3及び非特許文献4に示される通り、ポリフッ化ビニリデン/エチレングリコール/N−メチルピロリドンからなる製膜原液を用いた場合、ろ過膜製造に汎用される非溶媒相分離法で製膜を行った場合、欠陥点の原因となるマクロボイドの発生が顕著であった。
【0012】
特許文献3および4では、溶融粘度3300Pa・s以上のポリフッ化ビニリデン系樹脂を含有し、三次元網目構造を有する分離膜が示されているが、マクロボイドの発生抑制方法については明確に示されていない。ポリフッ化ビニリデンに非水溶性のメタクリル酸メチル系ポリマーを4質量%以上混合した膜でのみマクロボイドが発生しない傾向が見られるが、混合されたメタクリル酸メチル系ポリマーは非水溶性のため、製膜後も除去されず、膜中に残存する。メタクリル酸メチル系ポリマーはポリフッ化ビニリデン系ポリマーと比べ、酸化剤、酸・アルカリ等に対する耐久性が低く、実使用時に劣化し膜強度の低下、分画性能の変化が懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3196029号公報
【特許文献2】特開2005−296849公報
【特許文献3】国際公開第2010/32808号パンフレット
【特許文献4】特開2011−036848公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】ジャーナル オブ メンブレン サイエンス 150(1998) 75−82ページ
【非特許文献2】ジャーナル オブ メンブレン サイエンス 163(1999) 211−220ページ
【非特許文献3】ジャーナル オブ メンブレン サイエンス 331(2009) 66−74ページ
【非特許文献4】ケミカル エンジニアリング サイエンス 63(2008) 2587−2594ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は水洗により洗浄が容易な親水性ポリマーを膜基材ポリマーに比べて過剰使用すること無く、三次元網目構造を有する多孔質膜を得るための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
即ち本発明の要旨は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを溶媒に溶解させた製膜原液を用いて乾湿式法により多孔質膜を製造する方法であって、前記疎水性ポリマーが、232℃、100sec−1における溶融粘度が45KPoise以上のポリフッ化ビニリデンであり、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)の値が、22g/m・sec以上500g/m以下である多孔質膜の製造方法にある。
【発明の効果】
【0017】
本願発明によれば、洗浄が容易な親水性ポリマーを疎水性ポリマーに対し過剰に用いることなく、透水性能が高く、かつ表面が平滑な多孔質膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(5000倍)である。
【図2】実施例1の製造方法により得られた多孔質膜の表面拡大図(1000倍)である。
【図3】比較例1の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(1000倍)である。
【図4】実施例2の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(1000倍)である。
【図5】実施例2の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(5000倍)である。
【図6】実施例3の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(1000倍)である。
【図7】実施例3の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(5000倍)である。
【図8】比較例2の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(1000倍)である。
【図9】比較例3の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(5000倍)である。
【図10】比較例4の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(5000倍)である。
【図11】比較例5の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(5000倍)である。
【図12】実施例4の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(1000倍)である。
【図13】実施例5の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(1000倍)である。
【図14】比較例6の製造方法により得られた多孔質膜の断面拡大図(20000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の多孔質膜の製造方法について詳しく説明する。本発明で言う三次元網目構造とは、多孔質膜を形成するポリマーが、三次元的に相互に連通した網目構造のことである。多孔質膜の形態は、平膜や中空糸膜であっても構わないが、乾湿式法として乾湿式紡糸法を簡便に用いることができることから、中空糸膜についてより好適に適用できる。以下、本発明の製造方法を、中空糸膜を例に説明する。
【0020】
乾湿式法による多孔質膜の製造について概説する。
まず、膜基材となる疎水性ポリマーと、相分離を制御するための親水性ポリマーを、それぞれのポリマーを溶解することができる共通の良溶媒を用いて溶解させ、製膜原液とする。
疎水性ポリマーと親水性ポリマーを共通の良溶媒に溶かした原液を、一定の疎水性ポリマーの非溶媒を含む凝固液に吐出すると、原液中に非溶媒が拡散するに従い、疎水性ポリマーと親水性ポリマーが相分離を起こす。相分離が進行する過程で、構造を固定させることで、疎水性ポリマーと親水性ポリマーが相互に連通した構造となる。この時、形成される膜構造は、疎水性ポリマーと親水性ポリマーの分子量、質量濃度比によって大きな影響を受ける。これは両ポリマーの分子量、質量濃度比がそれぞれのポリマーの相分離する速度に影響を及ぼすからである。
【0021】
疎水性ポリマーの分子量に対して、親水性ポリマーの分子量が極端に小さい場合は、親水性ポリマーの相分離する速度が早くなるため、多孔質膜の構造は3次元網目構造とならず、親水性ポリマーが凝集し、独立気泡型の構造となる傾向にある。このような構造では、高いろ過性能は得られない。
【0022】
一方、疎水性ポリマーの分子量に対して、親水性ポリマーの分子量が極端に大きい場合は、親水性ポリマーの相分離する速度が遅くなるため、多孔質膜の構造は、3次元網目構造とはならず、疎水性ポリマーが球状に集合し、空隙部があまりない構造、即ち粒子凝集型の構造となる傾向にある。このような構造では、高いろ過性能は得られない。
【0023】
したがって、良好な3次元網目構造を得るためには、疎水性ポリマーと親水性ポリマーそれぞれの相分離する速度が略同一になるような分子量を選択することが好ましい。そのため、従来では疎水性ポリマーに高分子量ポリマーを用いた場合には、親水性ポリマーにも高分子量ポリマーが用いられていた。
【0024】
これに対し本発明者らは、疎水性ポリマーとして高分子量のポリフッ化ビニリデンを用いることで、疎水性ポリマーと比べて低分子量で洗浄性の高い親水性高分子を用いた場合においても、ろ過流量と分画特性に優れた3次元網目構造を有する多孔質膜を形成させることができることを見出した。
【0025】
具体的には、本発明においては、232℃、100sec−1における溶融粘度が45KPoise以上のポリフッ化ビニリデンを用いた際にその効果が得られる。より好ましくは48KPoise以上である。232℃、100sec−1における溶融粘度が45KPoise未満の場合、透水性の低い独立気泡構造が形成されやすくなる傾向にあり、親水性ポリマーを過剰に添加する必要が生じる。
【0026】
本特許においては、親水性ポリマーとして、ポリビニルピロリドンを用いた場合により好適にその効果が得られる。さらに、分子量などが異なる同種ポリマーをブレンドして用いても構わないが、粘度平均分子量が100,000以下のポリマーを使用することがさらに好ましい。粘度平均分子量が100,000を超えるポリマーを使用すると製膜後のポリビニルピロリドンの水洗除去性が著しく低下する傾向にある。また、製膜原液が極端に高粘度化し、製膜が困難になる。
【0027】
本特許においては、孔構造の形成手法として、乾湿式法を用いた場合にその効果が得られる。空走区間による吸湿を伴わない湿式法を用いた場合は表面にスキン層が形成され透水性が低下し、かつマクロボイドが発生する傾向にあり好ましくない。また、三重管ノズルを用い内部凝固液及び製膜原液と溶剤を共流延する方法では膜表面に100μm程度のパターン状の凹凸が生じ、平滑性に劣るため好ましくない。
【0028】
ポリフッ化ビニリデンとポリビニルピロリドンを用いる場合、共通の良溶媒としてはジメチルアセトアミド(以下DMAcという)または、N−メチルピロリドン(以下NMPという)が好適である。
【0029】
ポリフッ化ビニリデンの非溶媒及びポリビニルピロリドンの良溶媒としては、水が挙げられる。凝固液としては、調製が容易であるなどの理由から、水と良溶媒の混合液が好適である。凝固液における、水と良溶媒の混合比としては、質量比として99/1〜50/50の範囲が望ましい。さらに好ましくは97/3〜70/30の範囲である。良溶媒の質量比が1質量%以下とした場合、製膜時に原液から溶出する良溶媒のため、製造時に良溶媒の濃度を一定にすることが難しい。良溶媒の質量比が50質量%以上の場合、凝固による構造形成に時間を要するため望ましく無い。
【0030】
乾湿式法においては、吐出から凝固槽に至るまでの間に原液を気相中を通過させる空走区間を設けるが、この空走区間の湿度と滞在時間を制御することにより、膜構造を制御できる。すなわち、 (空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)の値により、空走区間中での吸湿量を概算でき、本発明においては (空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)を22g/m・sec以上500g/m・sec以下とすることが必要であることを見出した。(空走区間容量絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)が22g/m・sec以下の場合、膜の欠陥点の要因となるマクロボイドが発生しやすくなる傾向にある。一方、500g/m・sec以上の場合、表面孔径が1μmを超え過剰に粗大となりろ過膜として不適となる。
さらに、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)は、400g/m・sec以上であることが表面孔径を制御しやすいと言う点でより好ましい。
【0031】
次に添加剤である親水性ポリマーを薬剤を用いて除去する。この際、疎水性ポリマーが酸化に強い材料であれば、次亜塩素酸ナトリウム、オゾン水、硫酸等の酸化剤により添加剤ポリマーを分解させた後に、水洗浄を行うこともできるが、製造コストや装置の腐食性の問題から、水或いはアルコール等の腐食性が低い薬剤を用いて親水性ポリマーを除去することが好ましい。特にコスト面、安全面の観点から水を用いて親水性ポリマーを除去することが最適である。
【0032】
高分子量の親水性高分子を用いた場合、膜の孔構造に補足され水洗のみでは親水性高分子を十分に洗浄できなくなる傾向にあり、本発明においては、親水性高分子として粘度平均分子量100,000以下のポリビニルピロリドンを用いることが好ましい。より好ましくは50,000以下である。
【0033】
製膜後の膜表面の平滑性は走査型電子顕微鏡観察を用いて膜断面を1000倍で観察すること、もしくは走査型レーザー顕微鏡で算術平均表面粗さを求めることにより確認することができる。膜表面の算術平均粗さは10μm以下が望ましい。算術平均表面粗さの算出は、走査型レーザー顕微鏡で膜表面を測定した粗さ曲線から、その平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値として求めることができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を基に本発明を更に詳しく説明する。
【0035】
(算術平均粗さの測定方法)
多孔質膜の表面構造を、オリンパス社株式会社製ナノサーチ顕微鏡LEXTOLS3500で100倍の対物レンズを用い観察を行い得られた粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけ抜き取り、この抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値を算術平均表面粗さとして算出した。
【0036】
<実施例1>
疎水性ポリマーとして、アルケマ社製ポリフッ化ビリニデン、商品名:カイナーHSV900(232℃、100sec−1における溶融粘度50KPoise)を用い、親水性ポリマーとして、日本触媒社製ポリビニルピロリドン、商品名:K30(粘度平均分子量40,000)を用いた。これらのポリマーを、疎水性ポリマー:親水性ポリマー:ジメチルアセトアミド=19:10:71(質量比)となるような組成で、ジメチルアセトアミドに40℃で溶解させ、製膜原液を調整した。
【0037】
そして、スライドガラス上に固定された厚さ1mmのシリコンゴムプレートに設けられた直径8mmの孔に、この製膜原液を40℃の温度でシリコンゴムの高さより高くなるように流しこんだ。スライドガラスを用い、シリコンゴムの高さより高い部分の製膜原液を除去し、23℃、相対湿度55%の環境下に2秒静置した後、スライドガラス、シリコンゴムプレートとともに5%DMAc水溶液からなる凝固液に10分間浸漬し、多孔質膜を得た。23℃における飽和水蒸気量は21g/mであったことから、絶対湿度は(飽和水蒸気量)×(相対湿度)から11g/mであり、空走区間の滞在時間は2secであり、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)は22g/m・secとなる。
この多孔質膜をスライドガラスから取り出した後、約8%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、40℃で3時間浸漬し、さらに40℃で3時間水洗した。
【0038】
洗浄後の多孔質膜の断面構造を、走査型電子顕微鏡:(株)日立ハイテクノロジー社製S−3400N(以下SEMという)で5000倍の倍率で観察した。
観察は、得られた多孔質膜を液体窒素中に約5分間浸漬させ、凍結させた後に、カミソリで切断したものについて行った。結果を図1に示した。得られた多孔質膜は3次元網目構造を有し、かつマクロボイドは観察されなかった。
【0039】
次いで、得られた多孔質膜の表面構造を、走査型電子顕微鏡で1,000倍の倍率で観察した。結果を図2に示した。得られた表面構造は平滑で顕著な凹凸は観察されなかった。
【0040】
<比較例1>
23℃、相対湿度55%の環境下における静置時間を実質設けなかった以外(23℃における飽和水蒸気量は21g/m絶対湿度は、(飽和水蒸気量)×(相対湿度)から11g/m3であり、空走区間の滞在時間は1sec未満であり、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)の値は11g/m・sec未満となる。)は、実施例1と同様の方法で多孔質膜を作製し、SEM観察を行ったところ、得られた膜は図3に示したように網目構造が形成されたが、マクロボイドの発生がみられた。
【0041】
<実施例2>
溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(以下NMP)、凝固液として8%NMP水溶液を用いた以外は実施例1と同様の方法で多孔質膜を作成・洗浄し、洗浄後の多孔質膜の断面構造を、SEMで1000倍及び5000倍の倍率で観察した。
観察は、得られた多孔質膜を液体窒素中に約5分間浸漬させ、凍結させた後に、カミソリで切断したものについて行った。結果を図4及び図5に示した。得られた多孔質膜は3次元網目構造を有し、かつマクロボイドは観察されなかった。
【0042】
次いで、得られた多孔質膜の表面構造を、SEMで1,000倍の倍率で観察した。得られた膜の表面構造は平滑で顕著な凹凸は観察されなかった。
【0043】
<実施例3>
疎水性ポリマーとして、アルケマ社製ポリフッ化ビリニデン、商品名:カイナーHSV900(232℃、100sec−1における溶融粘度50KPoise)を用い、親水性ポリマーとして、第一工業製薬社製ポリビニルピロリドンK50(粘度平均分子量94,000)を用いた。これらのポリマーを、疎水性ポリマー:親水性ポリマー:NMP=16:4:80(質量比)となるような組成で、NMPに40℃で溶解させ、製膜原液を調整した。
【0044】
そして、スライドガラス上に固定された厚さ1mmのシリコンゴムプレートに設けられた直径8mmの孔に、この製膜原液を40℃の温度でシリコンゴムの高さより高くなるように流しこんだ。スライドガラスを用い、シリコンゴムの高さより高い部分の製膜原液を除去し、25℃、相対湿度60%の環境下に3秒静置した後、スライドガラス、シリコンゴムプレートとともに8質量%NMP水溶液からなる凝固液に1分間浸漬し、多孔質膜を得た。25℃における飽和水蒸気量は32g/m(飽和水蒸気量)×(相対湿度)から絶対湿度25g/m3)、空走区間の滞在時間は3secであり、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間滞の在時間)の値は58g/m・secとなる。
【0045】
この多孔質膜をスライドガラスから取り出した後、約8%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液に、40℃で3時間浸漬し、さらに40℃で3時間水洗した。
【0046】
洗浄後の多孔質膜の断面構造を、SEMで1000倍及び5000倍の倍率の倍率で観察した。
観察は、得られた多孔質膜を液体窒素中に約5分間浸漬させ、凍結させた後に、カミソリで切断したものについて行った。結果を図6及び図7に示した。得られた多孔質膜は3次元網目構造を有し、かつ、マクロボイドは観察されなかった。
【0047】
<比較例2>
25℃、相対湿度60%の環境下における静置時間を1秒以下と実質設けなかった以外(25℃における飽和水蒸気量は23g/m(飽和水蒸気量)×(相対湿度)から絶対湿度25g/m)、空走区間の滞在時間は1sec以下として計算し、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)は14g/m・sec以下となる。)は、実施例3と同様の方法で多孔質膜を作製し、1000倍でSEM観察を行ったところ、得られた膜は図8に示したように網目構造が形成されたが、マクロボイドの発生がみられた。
【0048】
<比較例3>
膜基材を形成するポリマーとして、アルケマ社製ポリフッ化ビリニデン、商品名:カイナー761A(232℃、100sec−1における溶融粘度:34KPoise)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で多孔質膜を作製し、SEM観察を行ったところ、得られた膜は図9に示した様に、膜表面近傍に3次元網目構造は有しているものの、マクロボイドの発生が顕著であった。
【0049】
<比較例4>
疎水性ポリマーとして、アルケマ社製ポリフッ化ビリニデン、商品名:カイナーHSV900(232℃、100sec−1における溶融粘度50KPoise)を、HSV900:N−メチルー2−ピロリドン=12:88(質量比)となるような組成で、N−メチルー2−ピロリドンに40℃で溶解させ、製膜原液を調整した以外は実施例1と同様の方法で多孔質膜を作製し、SEM観察を行ったところ、得られた膜は図10に示したように膜表面近傍に3次元網目構造は有しているものの、マクロボイドの発生が顕著であった。
【0050】
<実施例4>
アルケマ社製ポリフッ化ビリニデン、商品名:カイナーHSV900(232℃、100sec−1における溶融粘度56KPoise)とを18.3質量%と日本触媒社製ポリビニルピロリドン、商品名:K30(粘度平均分子量40,000)を8.3質量%と溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン73.4質量%を常温にて攪拌混合して、製膜原液を得た。
【0051】
5μmフィルタを介して2重管紡糸ノズルの外層部へ7.2cc/分の速度で送液した。また、原液の送液と同時に支持体となる中空編紐を167mm/secの速度で2重管紡糸ノズルの中心部へ導いた。支持体を第1のノズルの上部から下部へ向けて通しながら製膜原液を支持体外周部に塗布し、その後ノズルから63mm離れた位置に水面を有し65℃の温度を有し、N-メチルピロリドン30質量%水溶液で満たされている凝固浴へ導き固化させて、167mm/secの速度で引き取って中空糸状多孔質膜を得た。
65℃における飽和水蒸気量は161g/m、空走区間の滞在時間は0.4secであり、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)は63g/m・secとなる。
【0052】
得られた中空糸状多孔質膜を、70℃の温水中に35秒間浸漬した後、次に13質量%で常温の次亜塩素酸ナトリウム溶液に2分間浸漬し、その次に100℃の水蒸気雰囲気中に4分間滞在し、その次に90℃の温水中に40秒間浸漬し、その次に70℃の温水中に15秒間浸漬する、というこれら一連の工程を3回繰り返し洗浄した。
【0053】
得られた中空糸状多孔質膜の純水透過係数は20m/m・hr・MPaであった。
純水透過係数は、濾過有効長が4cmとなる1本の中空糸分離膜からなるミニモジュールを作製し、エタノールに浸漬し親水化処理を行なった後、加圧100kPaの条件で膜の外側から内側へ純水を送液して一定時間の透水量(m)を測定して得られた値から単位有効膜面積(m)、単位時間(hr)、単位圧力(MPa)における値に換算して算出した。
【0054】
得られた中空糸状多質膜の多孔質膜部分を中空編紐から剥離した部分について、液体窒素中に約5分間浸漬させ、凍結させた後に、カミソリで切断したものについて1000倍でSEM観察を行った。結果を図11に示した。得られた多孔質膜は3次元網目構造を有し、かつマクロボイドは観察されなかった。
【0055】
得られた多孔質膜の表面構造を、オリンパス社株式会社製ナノサーチ顕微鏡LEXTOLS3500で100倍の対物レンズを用い、観察を行った。
観察面の算術平均粗さを求めたところ1μm以下と平滑な表面であった。
【0056】
<実施例5>
25℃、相対湿度70%の環境下に20秒静置した(25℃における飽和水蒸気量は23g/m(飽和水蒸気量)×(相対湿度)から絶対湿度16g/m)、空走区間の滞在時間は20secであり、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)は322g/m・secとなる。)以外は、実施例1と同様の方法で多孔質膜を作製し、1000倍でSEM観察を行った。結果を図12に示した。得られた多孔質膜は3次元網目構造を有し、かつマクロボイドは観察されなかった。
【0057】
次いで、得られた多孔質膜の表面構造を、走査型電子顕微鏡で1,000倍の倍率で観察した。結果を図13に示した。得られた表面構造は平滑で顕著な凹凸は観察されなかった。
【0058】
<比較例5>
40℃、相対湿度100%の環境下に15秒静置した以外(40℃における飽和水蒸気量は51g/m(飽和水蒸気量)×(相対湿度)から絶対湿度51g/m)、空走区間の滞在時間は15secであり、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)は766g/m・secとなる。)は、実施例1と同様の方法で多孔質膜を作製し、SEM観察を行った。得られた膜の表面は図14に示したように1μmを超える粗大な孔が形成されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを溶媒に溶解させた製膜原液を用いて乾湿式法により多孔質膜を製造する方法であって、前記疎水性ポリマーが、232℃、100sec−1における溶融粘度が45KPoise以上のポリフッ化ビニリデンであり、(空走区間の絶対湿度)×(空走区間の滞在時間)の値が、22g/m・sec以上500g/m以下である多孔質膜の製造方法。
【請求項2】
原液中の親水性ポリマーの前記ポリフッ化ビニリデンに対する重量比が1未満である請求項1に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項3】
親水性ポリマーが、ポリピニルピロリドンである請求項1または2に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項4】
ポリピニルピロリドンの粘度平均分子量が100,000以下である請求項3記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項5】
前記乾湿式法において、紡糸原液を凝固液に浸漬後に、薬剤を用いて親水性ポリマーを除去する請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔質膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−82396(P2012−82396A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195798(P2011−195798)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】