説明

多孔質膜

【課題】本発明は、ナノメートルサイズの細孔を有し、該細孔内壁面上に所望の機能性高分子が存在する多孔質膜、および該多孔質膜を大面積で簡便に作製できる製造方法を提供する。
【解決手段】水不溶性ポリマーAを主成分とする連続相と、水不溶性ポリマーAと非相溶である水溶性ポリマーBを主成分とし、前記連続相中に分布し膜表面に対して垂直方向に配向するシリンダー状ミクロドメインとからなるミクロ相分離構造を有し、前記シリンダー状ミクロドメイン内に平均孔径1〜200nmのシリンダー状構造の細孔が存在する多孔質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜およびその製造方法に関するものであり、詳しくは膜中の細孔内壁面上に所定のポリマー層が存在する多孔質膜、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノメートルレベル程度の微細なサイズ(細孔径、幅や膜厚など)で構造制御された構造体への関心が高まっている。こうした構造体の中でも、ナノメーターサイズの細孔を有する構造体、特に細孔が規則正しく配列した構造体(例えば、多孔質膜)は、磁気記録媒体、太陽電池、発光素子、分離膜などに応用可能であると考えられている。さらに、これらの構造体の細孔内を機能化することにより、従来にない機能を有する材料の創製が可能と期待され、エネルギー・環境・生命科学などの先端分野において重要な材料の一つと位置づけられている。
【0003】
100nm程度以下の均一な細孔を有する構造体の作製方法としては、例えば、界面活性剤を鋳型として合成したメソポーラスシリカ(非特許文献1)や、陽極酸化アルミナ(非特許文献2)などが挙げられる。特に、陽極酸化アルミナの場合、細孔が非常に均一な孔径を持つという特徴を有している。しかし、いずれも得られる構造体は無機化合物であるため硬くて脆く、可撓性がなく、実用上の用途が限られる。また、作製の際に、無欠陥で大面積化することが本質的に困難であった。さらに、細孔の孔径が非常に小さいため、化学的手法により細孔内壁面などを特定の機能性化合物で被覆することは困難であった。
【0004】
一方、ポリマー成分Aとポリマー成分Bとが結合したブロック共重合体は、自己組織化によって規則的なナノパターンを有するミクロ相分離構造を形成することが知られている。ブロック共重合体を適当な溶媒に溶かして被加工体上に塗布すると、規則配列したパターンを有する膜を簡便に、かつ大面積で形成することが可能であり、様々な試みがなされている。
例えば、液晶性側鎖を有するメタクリル酸エステルからなるポリマーとポリエチレングリコールとからなるブロック共重合体を用いると、膜表面に対して垂直方向に配向したシリンダー構造が形成されることが報告されている(特許文献1)。また、ポリスチレン−ポリメタクリル酸メチルからなるブロック共重合体に、ポリメタクリル酸メチルホモポリマーを加えることにより、広い範囲にわたってシリンダー状のミクロドメインが基板に対して垂直方向に配向することが報告されている(非特許文献3および4)。また、非特許文献5では、ポリスチレンとポリエチレンオキサイドとからなる両親媒性のブロック共重合体を用いたミクロ相分離構造の形成について開示されている。特に、非特許文献4においては、得られた膜からポリメタクリル酸メチルホモポリマーを酢酸によって除去することにより、ナノメートルレベルの細孔を有する多孔質膜が得られることが開示されている。
【0005】
【非特許文献1】C. T. Kresge, et. al. “Ordered mesoporous molecular sieves synthesized by a liquid crystal template mechanism” Nature 1992, 359, 710.
【非特許文献2】H. Masuda, et. al. “Ordered metal nanohole arrays made by a two-step replication of honeycomb structures of anodic alumina" Science, 1995, 268, 1466.
【非特許文献3】U. Jeong, et. al. “Enhancement in the orientation of the microdomain in block copolymer thin films upon the addition of homopolymer” Adv. Mater., 2004, 16, 533.
【非特許文献4】S. Y. Yang, et. al. “Nanoporous membranes with ultrahigh selectivity and flux for the filtration of virus” Adv. Mater., 2006, 18, 709.
【非特許文献5】L. Huang, et. al. “Controlled microphase separated morphology of block polymer thin film and an approach to prepare inorganic nanoparticles” Applied Surface Science, 2004, 225, 39.
【特許文献1】特許第3979470号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、用いられるブロック共重合体が液晶性という特殊な構造を有する必要があり、手法の汎用性に乏しく、他のポリマーへの応用が制限される。また、非特許文献3および4では、細孔を有する多孔質膜が得られているものの、使用されているブロック共重合体は疎水性ポリマー同士からなる特定の種類のものだけである。例えば、両親媒性のブロック共重合体を使用した非特許文献5では、水溶性ポリマー部のエチレングリコール部分のみが選択的に基板に吸着してしまい、規則的な配列パターンを有するミクロ相分離構造が得られていない。
このように、水溶性(親水性)ポリマーと水不溶性(疎水性)ポリマーからなるブロック共重合体を用いた場合は、ポリマー中の構成成分の性質が全く異なるため配向制御されたミクロ相分離構造が得られにくく、未だ十分な知見は得られていないのが現状である。
【0007】
また、ナノメートルサイズの細孔を有する構造体を得るために、ブロック共重合体から得られるシリンダー構造のシリンダー部のみをイオンビームエッチングなどを用いて除去する試みがなされている。しかし、これらの方法では、シリンダー部のみではなく構造体全体がダメージを受けるため、細孔の大きさにばらつきが生じると共に、細孔の配列の規則性が失われるという問題があった。さらに、得られた細孔内壁面を親水性化など表面修飾しようとしても、細孔のサイズが非常に小さいため表面修飾が十分には進行せず、かつ、修飾できても表面修飾層が容易に剥離してしまうという問題もあった。
【0008】
そこで、本発明は、水溶性ポリマーと水不溶性ポリマーとからなるブロック共重合体を用いて形成され、ナノメートルサイズの細孔を有し、該細孔内壁面上に所望の機能性高分子、特に水溶性ポリマーが存在する多孔質膜、および該多孔質膜を大面積で簡便に作製できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ブロック共重合体を構成する水溶性ポリマーおよび水不溶性ポリマーと基板との親和性に着目し、水溶性ポリマーと水不溶性ポリマーから構成されるブロック共重合体と水溶性ホモポリマーの混合物から薄膜を作製し、表面自由エネルギーの異なる種々の基板上で相分離挙動の詳細な検討を行った結果、特定の表面自由エネルギーを有する基板、つまり比較的疎水性の高い基板を用いた場合に、基板に対して垂直に配向したシリンダー状ミクロドメインが選択的に形成されることを見出した。さらにこの薄膜を水洗することで、水溶性ホモポリマーのみが除去され、膜面を貫通したシリンダー状構造の細孔が形成されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
つまり、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題が下記の<1>〜<10>の構成により解決されることを見出した。
【0011】
<1> 水不溶性ポリマーAを主成分とする連続相と、水不溶性ポリマーAと非相溶である水溶性ポリマーBを主成分とし、前記連続相中に分布し膜表面に対して垂直方向に配向するシリンダー状ミクロドメインとからなるミクロ相分離構造を有し、前記シリンダー状ミクロドメイン内に平均孔径1〜200nmのシリンダー状構造の細孔が存在する多孔質膜。
<2> 前記細孔の細孔密度が、2〜2500個/μmである<1>に記載の多孔質膜。
<3> 前記水溶性ポリマーBが、生体適合性ポリマーである<1>または<2>に記載の多孔質膜。
<4> 前記水不溶性ポリマーAが、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリレート類、ポリブタジエン類、またはポリイソプレン類である<1>〜<3>のいずれかに記載の多孔質膜。
<5> 基板をエッチング加工する際に、マスクとして用いられる<1>〜<4>のいずれかに記載の多孔質膜。
<6> 下記式(1)および式(2)を満足する、互いに非相溶な水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBとからなるブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液を、水に対する接触角が40°〜110°である基板表面に塗布して膜を形成する工程(工程1)と、該膜中の水溶性ホモポリマーBを水を用いて除去する工程(工程2)とを備える、<1>〜<5>のいずれかに記載の多孔質膜を製造する多孔質膜の製造方法。
5<M(b1)/M(b2)<250 式(1)
0.60≦a1/(a1+b1+b2)≦0.90 式(2)
(式(1)中、M(b1)はブロック共重合体の水溶性ポリマーBの重量平均分子量を表す。M(b2)は、水溶性ホモポリマーBの重量平均分子量を表す。
式(2)中、a1は膜中におけるブロック共重合体の水不溶性ポリマーAの体積を表す。b1は、膜中におけるブロック共重合体の水溶性ポリマーBの体積を表す。b2は、膜中における水溶性ホモポリマーBの体積を表す。)
<7> 前記溶液中における前記ブロック共重合体と前記水溶性ホモポリマーBとの合計濃度が、前記溶液全量に対して、0.1〜20質量%である<6>に記載の多孔質膜の製造方法。
<8> 下記式(1)および式(2)を満足する、互いに非相溶な水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBとからなるブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液を、水に対する接触角が40°〜110°である基板表面に塗布して膜を形成する工程(工程1)と、該膜中の水溶性ホモポリマーBを水を用いて除去する工程(工程2)とを含む方法により得られる多孔質膜。
5<M(b1)/M(b2)<250 式(1)
0.60≦a1/(a1+b1+b2)≦0.90 式(2)
(式(1)中、M(b1)はブロック共重合体の水溶性ポリマーBの分子量を表す。M(b2)は、水溶性ホモポリマーBの分子量を表す。
式(2)中、a1は膜中におけるブロック共重合体の水不溶性ポリマーAの体積を表す。b1は、膜中におけるブロック共重合体の水溶性ポリマーBの体積を表す。b2は、膜中における水溶性ホモポリマーBの体積を表す。)
<9> 基板上に<1>〜<5>のいずれかに記載の多孔質膜を形成する多孔質膜形成工程と、
前記多孔質膜形成工程後、前記多孔質膜をマスクとして用い、前記基板をエッチングして、前記基板表面上に凹部を形成するエッチング工程と、
前記エッチング工程後、残存する前記多孔質膜を除去する除去工程とを備える、表面上に凹部を有する基板の製造方法。
<10> 前記基板が、石英基板または半導体基板である<9>に記載の表面上に凹部を有する基板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水溶性ポリマーと水不溶性ポリマーとからなるブロック共重合体を用いて形成され、ナノメートルサイズの細孔を有し、該細孔内壁面上に所望の機能性高分子、特に水溶性ポリマーが存在する多孔質膜、および該多孔質膜を大面積で簡便に作製できる製造方法を提供することができる。
さらには、この多孔質膜をエッチング処理の際のマスクとして用いる、凹部を有する基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の具体的態様について説明する。
本発明にかかる多孔質膜は、水不溶性ポリマーAを主成分とする連続相と、水不溶性ポリマーAと非相溶である水溶性ポリマーBを主成分とし、連続相中に分布し膜表面に対して垂直方向に配向するシリンダー状ミクロドメインとからなるミクロ相分離構造を有する。さらに、分散相であるシリンダー状ミクロドメイン内に平均孔径1〜200nmのシリンダー状構造の細孔が存在する。
まず、本発明の多孔質膜を製造するために使用される材料(ブロック共重合体、水溶性ホモポリマー)について説明し、その後、製造方法および多孔質膜について説明する。
【0014】
<ブロック共重合体>
本発明に係るブロック共重合体は、水不溶性ポリマーAと該水不溶性ポリマーAと非相溶である水溶性ポリマーBとが化学結合して形成されたポリマーをいう。ブロック共重合体は、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体またはマルチブロック共重合体のいずれの態様であってもよい。具体的には、水不溶性ポリマーAからなる部分および水溶性ポリマーBからなる部分をそれぞれAブロックおよびBブロックとすると、−A−B−という構造を有する一つのAブロックと一つのBブロックとが結合したA−B型ブロック共重合体や、−A−B−A−という構造を有するBブロックの両端にAブロックが結合したA−B−A型ブロック共重合体や、−B−A−B−という構造を有するAブロックの両端にBブロックが結合したB−A−B型ブロック共重合体などが挙げられる。さらに、−(A−B)n−という構造を有する複数のAブロックとBブロックからなるブロック共重合体を用いてもよい。なかでも、入手のしやすさ、合成のしやすさの観点から、A−B型ブロック共重合体(ジブロック共重合体)が好ましい。なお、ポリマー同士を接続する化学結合は、共有結合が好ましく、特に炭素―炭素結合がより好ましい。
【0015】
ブロックコポリマー(ブロック共重合体)は、ランダムコポリマーと異なり、Aポリマー鎖が凝集したA相とBポリマー鎖が凝集したB相とが空間的に分離した構造(ミクロ相分離構造)を形成することが知られている。一般のポリマーブレンドで得られる相分離(マクロ相分離)では、2種のポリマー鎖が完全に分離できるため最終的に完全に2相に分かれ、その単位セルの大きさは1μm以上である。これに対して、ブロックコポリマーで得られるミクロ相分離構造における単位セルの大きさは、数nm〜数十nmのオーダーである。なお、ミクロ相分離構造は、構成成分の組成によって、球状ミセル構造、シリンダー構造、ラメラ構造などの構造を示すことが知られている。
【0016】
本発明における水不溶性ポリマーAとは、25℃において100gの蒸留水に対するポリマーの溶解度が1g以下であるポリマーとして定義される。具体的には、特開平11−15091号公報の段落番号[0061]〜[0069]や、POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITION Volume 1&2 (J.Brandrup, E.H.Immergut, E.A.Grulkeら著 INTERSCIENCE発行)
VII章499〜532頁に記載のポリマーから、25℃において100gの蒸留水に対するポリマーの溶解度が1g以下であるポリマーを選択し、使用できる。
なかでも、分子量の揃ったポリマーの合成が容易であるという観点から、ポリアルキレン類、ポリビニルエステル類、ポリビニルハロゲン化物類、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリレート類、ポリシロキサン類、ポリエステル類、ポリブタジエン類、ポリイソプレン類が好ましい。なかでも、室温より高いガラス転移温度を有するという観点から、ポリスチレン類(例えば、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリジメチルスチレン、ポリトリメチルスチレン、ポリエチルスチレン、ポリイソプロピルスチレン、ポリクロルメチルスチレン、ポリメトキシスチレン、ポリアセトキシスチレン、ポリクロルスチレン、ポリジクロルスチレン、ポリブロムスチレン、ポリトリフルオロメチルスチレン等)、ポリ(メタ)アクリレート類(例えば、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリヘキシル(メタ)アクリレート、ポリ−2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ポリフェニル(メタ)アクリレート、ポリメトキシエチル(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート等)、ポリブタジエン類(例えば、1,2−ポリブタジエン、1,4−ポリブタジエン等)、ポリイソプレン類(例えば、ポリイソプレン等)がさらに好ましく、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、1,4−ポリブタジエン、ポリイソプレンが特に好ましい。
【0017】
ブロック共重合体中の水不溶性ポリマーAの重量平均分子量(Mw)は、得られる多孔質膜の細孔の大きさや、後述する水溶性ホモポリマーBの分子量との関係で適宜選択されるが、1.0×10〜1.0×10が好ましく、5.0×10〜5.0×10がより好ましい。上記範囲内であれば、多孔質膜製造の際に溶媒に溶解しやすく、かつ得られる細孔の配列がより規則正しくなる。
なお、上記重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。
【0018】
本発明における水溶性ポリマーBとは、25℃において100gの蒸留水に対するポリマーの溶解度が1gを超えるポリマーとして定義される。例えば、特開2005−10752号公報の段落番号[0038]〜[0053]や、POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITION Volume 1&2 (J.Brandrup, E.H.Immergut, E.A.Grulkeら著 INTERSCIENCE発行) VII章499〜532に記載のポリマーから、25℃において100gの蒸留水に対するポリマーの溶解度が1gを超えるポリマーを選択し、使用できる。
なかでも、分子量の揃ったポリマーの合成が容易であるという観点から、カルボキシル基を有するポリマーおよびその塩、スルホン酸基を有するポリマーおよびその塩、リン酸基を有するポリマーおよびその塩、ホスホリルコリン基を有するポリマー、アミノ基を有するポリマー(ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン等)、アミド基を有するポリマー、エーテル基を有するポリマーなどが挙げられる。
なかでも、エーテル基を有するポリマー(例えば、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート等)、ホスホリルコリン基を有するポリマー(例えば、ポリ−2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリン、ポリ−4−(メタ)アクリルオキシブチルホスホリルコリン、ポリ−6−(メタ)アクリルオキシヘキシルホスホリルコリン等)がより好ましい。タンパク質吸着抑制能に優れ、タンパク質の分離膜として好適に利用できる点からは、生体適合性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、またはホスホリルコリン基を有するポリマー(MPCポリマーとも称する)が好ましく挙げられる。特に、原料の入手性の観点から、ポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0019】
ブロック共重合体中の水溶性ポリマーBの重量平均分子量(Mw)は、得られる多孔質膜の細孔の大きさや、後述する水溶性ホモポリマーBの分子量との関係で適宜選択されるが、1.0×10〜1.0×10が好ましく、5.0×10〜5.0×10がより好ましい。上記範囲内であれば、多孔質膜製造の際に溶媒に溶解しやすく、かつ得られる細孔の配列がより規則正しくなる。
なお、上記重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。
【0020】
本発明にかかるブロック共重合体は、互いに非相溶である水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBとから構成され、上述の各ポリマーを組み合わせて合成される。ブロック共重合体の好ましい態様としては、水不溶性ポリマーAがポリスチレンであり、水溶性ポリマーBがポリエチレングリコールであるブロック共重合体や、水不溶性ポリマーAがポリブタジエンであり、水溶性ポリマーBがポリエチレングリコールであるブロック共重合体や、水不溶性ポリマーAがポリメチルメタクリル酸であり、水溶性ポリマーBがポリ(2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリン)であるブロック共重合体などが挙げられる。中でも、タンパク質吸着抑制能に優れ、タンパク質の分離膜として好適に利用できる点から、ポリスチレンとポリエチレングリコールのブロック共重合体が挙げられる。
【0021】
本発明にかかるブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、得られる多孔質膜の細孔の大きさや、後述する水溶性ホモポリマーBの分子量との関係で適宜選択されるが、1.1×10〜1.1×10が好ましく、5.5×10〜5.5×10がより好ましい。上記範囲内であれば、多孔質膜製造の際に溶媒に溶解しやすく、かつ得られる細孔の配列がより規則正しくなる。
なお、上記重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。
【0022】
本発明にかかるブロック共重合体は、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的には、重量平均分子量(Mw)と数重量平均分子量(Mn)とで表される分子量分布(Mw/Mn)が、1.00〜1.30であることが好ましく、1.00〜1.15であることがより好ましい。Mw/Mnの値が上記範囲内であれば、より均一なサイズを有するミクロ相分離構造を形成することができる。
【0023】
本発明にかかるブロック共重合体の共重合比率は、後述する式(1)および(2)を満たし、シリンダー状のミクロ相分離構造が得られるように適宜選択されるが、好ましくは水不溶性ポリマーA/水溶性ポリマーB=0.9/0.1〜0.65/0.35(体積比)であり、より好ましくは0.8/0.2〜0.7/0.3(体積比)である。上記範囲内であれば、より配列の整ったシリンダー状のミクロ相分離構造が得られる。
【0024】
本発明にかかるブロック共重合体は、公知の方法で合成することができる。例えば、アニオンリビング重合、カチオンリビング重合、リビングラジカル重合、グループトランスファー重合、開環メタセシス重合等の手法を利用することが可能である(Nikos Hadjichristidisら著, "Block Copolymers : Synthetic Strategies, Physical Properties, and Applications", Wiley-Interscience (2002))。また、Polymer Source社(Canada)等が製造している市販品を使用することも可能である。
【0025】
<水溶性ホモポリマーB>
本発明にかかる水溶性ホモポリマーBは、上述のブロック共重合体中の水溶性ポリマーBと構成成分(モノマー)が同じポリマーをさす。水溶性ホモポリマーBの定義は、上述のブロック共重合体中の水溶性ポリマーBと同一である。
【0026】
本発明にかかる水溶性ホモポリマーBの重量平均分子量(Mw)は、得られる多孔質膜の細孔の大きさや、上述のブロック共重合体の分子量との関係で適宜選択されるが、50〜1.0×10が好ましく、50〜5.0×10がより好ましい。
なお、上記重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。
【0027】
本発明にかかる水溶性ホモポリマーBは、分子量分布が狭いことが好ましい。具体的には、重量平均分子量(Mw)と数重量平均分子量(Mn)とで表される分子量分布(Mw/Mn)が、1.0〜3.0であることが好ましく、1.0〜1.5であることがより好ましい。Mw/Mnの値が上記範囲内であれば、より均一なサイズを有するミクロ相分離構造を形成することができる。
【0028】
<式(1)>
次に、本発明で用いられる水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBとからなるブロック共重合体と、水溶性ホモポリマーBとの分子量の関係について説明する。本発明においてブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとは、上述したブロック共重合体中の水溶性ポリマーBの重量平均分子量をM(b1)、水溶性ホモポリマーBの重量平均分子量をM(b2)とした場合、下記式(1)の関係を満たす。
5<M(b1)/M(b2)<250 式(1)
(式(1)中、M(b1)はブロック共重合体の水溶性ポリマーBの重量平均分子量を表す。M(b2)は、水溶性ホモポリマーBの重量平均分子量を表す。)
【0029】
上記M(b1)/M(b2)の値が5以下の場合は、ブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとがマイクロメートルレベルで相分離し、目的とする規則性のあるミクロ相分離構造が得られない場合がある。また、この値が250以上の場合は、水溶性ホモポリマーBの分子量が小さすぎて、もはやポリマーとしては機能せず水溶性低分子化合物として振舞うため、得られる多孔質膜の細孔サイズの制御が困難になる。
なお、得られるミクロ相分離構造の規則性がより向上する点で、M(b1)/M(b2)の好適な範囲としては、10<M(b1)/M(b2)<200がより好ましい。
【0030】
<式(2)>
次に、本発明に用いられる、水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBとからなるブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとの混合比について説明する。本発明においてブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとは、薄膜中におけるブロック共重合体中の水不溶性ポリマーAが占める体積をa1、ブロック共重合体中の水溶性ポリマーBが占める体積をb1、水溶性ホモポリマーBが占める体積をb2とした場合、下記式(2)の関係を満たす。
0.60≦a1/(a1+b1+b2)≦0.90 式(2)
(式(2)中、a1は膜中におけるブロック共重合体の水不溶性ポリマーAの体積を表す。b1は、膜中におけるブロック共重合体の水溶性ポリマーBの体積を表す。b2は、膜中における水溶性ホモポリマーBの体積を表す。)
【0031】
上記a1/(a1+b1+b2)の値が0.60より小さい場合、ミクロ相分離構造がラメラ構造となり目的とするシリンダー構造を得ることができない。また、a1/(a1+b1+b2)の値が0.90より大きいと、水不溶性ポリマーA成分の中で水溶性ポリマーBが球状構造をとり、目的とするシリンダー構造を得ることができない。なお、体積はそれぞれのポリマーの密度と質量を用いて導かれる。それぞれのポリマーの密度は、Polymer Handbook Fourth Edition Volume2(A John Wiley & Sons,Inc.,Publication)、J.BRANDRUP、E.H.IMMERGUT、and E.A.GRULKE(1999)などに記載される数値を用いることができる。
【0032】
上記a1/(a1+b1+b2)の値が0.60〜0.90の場合、ブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとによりシリンダー構造のミクロ相分離が形成される。より詳細には、ブロック共重合体中の水溶性ポリマーBと水溶性ホモポリマーBとにより、ミクロ相分離中の棒状領域であるシリンダー部が構成され、膜表面に対して垂直方向に配向する。後述する水洗処理を経ることにより、水溶性ホモポリマーBが選択的に除去され、目的とする膜表面に対して垂直方向に配列した複数のシリンダー状構造の細孔を有する多孔質膜が得られる。
なお、得られるミクロ相分離構造の規則性がより向上する点で、上記a1/(a1+b1+b2)の好適範囲としては、0.70≦a1/(a1+b1+b2)≦0.85がより好ましい。
【0033】
<基板>
次に、ブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとの混合薄膜が堆積される基板について説明する。本発明で使用される基板としては、基板表面の水に対する接触角が40°〜110°を示す基板であり、好ましく水に対する接触角が50°〜105°を示す基板である。例えば、表面修飾された石英、ポリマー、ガラス、セラミックなどが挙げられる。なお、接触角は、静的な接触角をいい、液滴法による接触角測定装置を使用して23℃において測定する。ここで「静的な接触角」とは、流動等による時間に伴う状態変化が生じない条件における接触角をいう。
水溶性ポリマーと水不溶性ポリマーとからなるブロック共重合体は、その構成成分の性質が全く異なるため、ミクロ相分離構造の配向制御が非常に困難であった。本発明においては、基板とポリマーとの親和性に着目し、上述のように基板表面の表面エネルギーを特定の範囲に制御することにより、より規則性が向上するという知見を見出している。
【0034】
上記基板のなかで好適な実施態様の一つとして、膜表面に対してミクロドメインが垂直に配向して得られるシリンダー構造の規則性がより良い点で、表面上にシランカップリング剤層を備える基板(特に、石英基板)が好ましい。シランカップリング剤層を備える基板は、シランカップリング剤で基板を表面処理することにより得られる。
より具体的には、基板上にシランカップリング剤を塗布、加熱することによりシランカップリング剤の層が形成される。シランカップリング剤の塗布は、シランカップリング剤単独の液体あるいはシランカップリング剤を有機溶媒に溶解させた溶液を用い、浸漬法、スピンコーティング、スプレー塗布、気相蒸着などで行うことができる。本発明では、浸漬またはスピンコーティングが好ましい。なお、塗布後、適宜溶媒などで得られた基板の洗浄を行ってもよい。また、シランカップリング剤の塗布の後、適宜加熱してもよい。加熱は、ホットプレート、熱風乾燥機などの加熱手段を用い、20〜200℃で行うことが好ましく、より好ましくは20〜150℃である。
【0035】
<シランカップリング剤>
本発明で使用されるシランカップリング剤の種類としては、適宜選択されるが、ブロック共重合体層のミクロ相分離構造の規則性がより高まるという点で、以下一般式(1)で表されるシランカップリング剤が好適に用いられる。
【0036】
【化1】

【0037】
(一般式(1)中、Xは官能基を表す。Lは、連結基または単なる結合手を表す。Rは、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。Yは加水分解基を表す。mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、n+m=3の関係を満たす。)
【0038】
一般式(1)中、Xは官能基を表し、具体的には、水素原子、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、シアノ基、ヒドラジノ基、ヒドラジド基、ビニルスルホン基、ビニル基、アルキル基(炭素数1〜20が好ましく、炭素数6〜18がより好ましい)などが挙げられる。なかでも、アルキル基が好ましい。
【0039】
一般式(1)中、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。なかでも、メチル基、エチル基が好ましい。一般式(1)中、Rが複数ある場合は、同一であっても異なっていてもよい。
【0040】
一般式(1)中、Lは連結基を表し、具体的には、アルキレン基(炭素数1〜20が好ましく、炭素数2〜10がより好ましい)、−O−、−S−、アリーレン基、−CO−、−NH−、−SO2−、−COO−、−CONH−、またはこれらを組み合わせた基が挙げられる。なかでも、アルキレン基が好ましい。Lが単なる結合手の場合、一般式(1)のXがSiと直接結合することをさす。
【0041】
一般式(1)中、Yは加水分解基を表す。具体的には、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アシロキシ基(アセトキシ基、プロパノイルオキシ基など)などが挙げられ、なかでも反応性が良好な点で、メトキシ基、エトキシ基、塩素原子が好ましい。
【0042】
一般式(1)中、mは0〜2の整数を表し、nは1〜3の整数を表し、n+m=3の関係を満たす。なかでも、mは1〜2が好ましい。nは、1〜2が好ましい。
【0043】
本発明で使用されるシランカップリング剤としては、オクタデシルトリメトキシシラン、エチルジメチルクロロシラン、ジメチルアミノプロピルトリメトキシシラン、ジエチルアミノプロピルトリメトキシシラン、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、フェニルジメチルクロロシラン、ペルフルオロデシルトリエトキシシラン、p−メトキシフェニルプロピルメチルジクロロシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0044】
上記基板のなかで他の好適な実施態様の一つとして、膜表面に対してミクロドメインが垂直に配向して得られるシリンダー構造の規則性がより良い点で、表面上にポリヒドロキシスチレンなどの層を備える基板(特に、石英基板)が好ましい。該層は、スピンコートなど公知の方法により形成される。
なお、このようなポリヒドロキシスチレンなどの層は、剥離層として作用する。ここで剥離層とは、多孔質膜と基板との間に設けられる層であり、例えば、該剥離層が溶解する特定の溶媒と接触させることにより、基板から容易に多孔質膜を剥離することができる。
【0045】
本発明の好ましい実施態様の一つとして、上記の一般式(1)で表されるシランカップリグ剤層を備える基板(好ましくは、一般式(1)中、Xがメチル基で、Lがアルキレン基の場合)と、水不溶性ポリマーAがポリスチレン類(好ましくは、ポリスチレン)で水溶性ポリマーBがポリアルキレングリコール(好ましくは、ポリエチレングリコール)とを使用する場合が挙げられる。上記組み合わせの場合、得られるシリンダー構造のミクロ相分離の規則性がより向上し、シリンダー部が膜表面に対してほぼ垂直に配向する。
【0046】
<多孔質膜の製造方法>
本発明の多孔質膜の製造方法は特に制限されないが、主に、以下の2つの工程を備える製造方法が好ましい。
<1> 上記の式(1)および式(2)を満足する、互い非相溶な水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBとからなるブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液を、水に対する接触角が40°〜110°である基板表面に塗布して膜を形成する工程(工程1)
<2> 工程1で得られた膜中の水溶性ホモポリマーBを水を用いて除去する工程(工程2)
以下、各工程について詳細に説明する。
【0047】
<工程1>
工程1は、上述のブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液を基板表面に塗布して膜を形成する工程である。この工程により、ミクロ相分離構造を有する膜を基板上に形成することができる。
【0048】
ブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液を作製する際に使用される溶媒は、ブロック共重合体が溶解すればよく、両者のポリマーの種類により適宜選択される。例えば、POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITION Volume 1&2 (J.Brandrup, E.H.Immergut, E.A.Grulkeら著 INTERSCIENCE発行) VII章266〜285に記載の溶剤から、ブロック共重合体が溶解するものを適宜選択すればよい。
より具体的には、アルコール類、多価アルコール類、多価アルコールエーテル類、アミン類、アミド類、複素環類、スルホキシド類、スルホン類、エステル類、エーテル類、ケトン類、脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、ニトリル類、ハロゲン類などが挙げられる。なかでも、芳香族炭化水素類(例えば、トルエン、キシレン、クメン等)、ハロゲン類(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロエタン、四塩化炭素等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルドデカンアミド等)、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等)、ケトン類(例えば、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンジルメチルケトン、ベンジルアセトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、アセトン、尿素等)が好ましく、トルエン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンがより好ましい。
溶液中のブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとの合計濃度は、溶液全量に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.25〜15質量%がより好ましい。上記範囲内であれば、後述する塗布の際に取り扱いやすく、均一な膜が得られやすい。なお、上記溶媒は、単独で使用してもよく、併用してもよい。
【0049】
上記溶媒とブロック共重合体、水溶性ポリマーBとの好ましい組み合わせとしては、水不溶性ポリマーAがポリスチレンで、水溶性ポリマーBがポリエチレングリコールである場合、トルエン、クロロホルムなどが特に好ましい。
【0050】
ブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の成分(例えば、UV吸収剤や酸化防止剤など)を加えることもできる。
【0051】
上述の溶液の塗布方法としては、厚みが均一でかつ表面が平滑になるものであれば特に限定されず、例えば、スピンコート法、スプレー法、ロールコート法、インクジェット法などの方法を採用することができる。中でも、生産性の観点から、スピンコート法が好ましい。
スピンコート法の条件は、使用するブロック共重合体などにより適宜選択される。塗布後に、必要に応じて、乾燥工程を設けてもよい。溶媒を除去するための乾燥条件としては、適用される基板、および使用するブロック共重合体などに応じて適宜選択されるが、20〜200℃の温度で、0.5〜336時間の処理を行うことが好ましい。特に好ましい温度としては、20〜180℃であり、さらに好ましくは20〜160℃である。乾燥処理は数回に分けて行ってもよい。この乾燥処理は、窒素雰囲気下、低濃度酸素下または大気圧10トール以下で行うことが特に好ましい。
【0052】
工程1後、必要に応じて、工程1で得られた塗膜を加熱する処理(加熱工程)を施してもよい。加熱工程により、得られるミクロ相分離構造の規則性がより向上する。加熱温度および時間は、使用するブロック共重合体や膜厚などにより適宜選択されるが、上述の水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBのガラス転移温度以上であることが好ましい。例えば、60〜300℃が好ましく、80〜270℃がより好ましい。温度が低すぎると、本工程の効果が小さく、温度が高すぎるとポリマーの分解などが誘発され好ましくない。加熱時間は、10秒以上が適当であり、0.5〜1440分が好ましく、1〜60分がさらに好ましい。時間が短すぎると、本工程の効果が小さく、時間が長すぎると、本工程の効果が飽和しているため、不経済である。
また、本工程は、真空中、不活性ガス雰囲気下、または、有機溶媒の蒸気雰囲気下の、いずれの条件下で行ってもよい。
【0053】
工程1により得られる塗膜の斜視断面図を図1に示す。図1に示すように、連続相10と、シリンダー状ミクロドメイン12とからなるミクロ層分離構造を有し、基板16の表面に配置されている。上述のように、本発明において、連続相10はブロック共重合体の水不溶性ポリマーAを主成分として構成され、シリンダー状ミクロドメイン12はブロック共重合体の水溶性ポリマーBと水溶性ホモポリマーBとを主成分として構成されている。シリンダー状ミクロドメイン12は、連続相10中に分布するとともに、図1(a)中のZ軸方向である基板16に対して垂直方向(略垂直)に配向している。そして、図1(b)に示すようにシリンダー状ミクロドメイン12は、塗膜の水平面(図中XY平面)において、千鳥配置をなすことが好ましく、特に六方格子状となるように規則配列パターンを形成していることが好ましい。ここで、六方格子状とは、ミクロドメインの一つと、これに隣接する2つのミクロドメインがなす角度θが略60度(略60度とは、50〜70度、好ましくは55〜65度をさす)となるような構造をさす。なお、規則配列パターンは、六方格子状をとるものを例示したが、これに限定されることなく、例えば、正方配列をとる場合もある。また、規則配列パターンを有している場合に限定されるわけでなく、不規則配列パターンである場合も含まれる。
【0054】
シリンダー状ミクロドメイン12の大きさ(平均直径)は、使用するブロック共重合体や水溶性ホモポリマーBなどの分子量などにより適宜制御することができ、1〜250nmが好ましく、10〜100nmがより好ましい。楕円などの場合は、長径が上記範囲内であればよい。隣り合うミクロドメイン間の距離(中心軸間の距離)は、使用するブロック共重合体や水溶性ホモポリマーBなどの分子量などにより適宜制御することができ、1〜300nmが好ましく、10〜150nmがより好ましい。ミクロドメインの大きさやミクロドメイン間の距離は、顕微鏡による観察、例えば原子間力顕微鏡観察などによって測定することができる。
なお、ミクロドメインという用語はマルチブロックコポリマー中のドメインを表すのに一般に使用されており、ドメインのサイズを規定するものではない。
【0055】
シリンダー状ミクロドメインは、膜表面に対して垂直方向に配向しており、好ましくは略垂直である。より具体的に略垂直とは、膜表面に対する法線に対するシリンダー状ミクロドメインの中心軸の傾斜角度が±45度以内、好ましくは±30度以内であることを指す。傾斜角度は、超薄切片のTEM解析や、小角X線散乱解析などによって測定することができる。
【0056】
膜14において、連続相10はブロック共重合体の水不溶性ポリマーAを主成分として構成されている。ここで主成分とは、具体的には、連続相10中における水不溶性ポリマーAの占める比率が、連続相10の全質量に対して、80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。上限としては、100質量%である。
一方、連続相中に分布しているシリンダー状ミクロドメイン12はブロック共重合体の水溶性ポリマーBと水溶性ホモポリマーBとを主成分として構成されている。ここで主成分とは、具体的には、シリンダー状ミクロドメイン中におけるブロック共重合体の水溶性ポリマーBと水溶性ホモポリマーBの占める比率が、シリンダー状ミクロドメインの全質量に対して、80質量%以上、より好ましくは90質量%以上である。上限としては、100質量%である。
【0057】
<工程2>
工程2は、工程1で得られた膜(塗膜)中の水溶性ホモポリマーBを水を用いて除去する工程である。本工程により、工程1で得られた塗膜から水溶性ホモポリマーBのみが除去されることにより、膜表面に対して垂直方向に配向した複数のシリンダー状構造の細孔をもつ多孔質膜が得られる。
【0058】
水溶性ホモポリマーBを取り除くための水による洗浄方法としては、水溶性ホモポリマーBが除去できれば特に限定されない。例えば、工程1で得られた塗膜の上からシャワーにより水をふりかける方法や、水中に工程1で得られた塗膜を浸漬させる方法などが挙げられる。洗浄工程は、複数回行ってもよい。洗浄時間に関しては、使用する材料などにより適宜最適な条件が選択される。なお、工程2後に、得られた多孔質膜を適宜基板から取り外してもよい。
【0059】
<多孔質膜>
上述の製造工程を経て、水不溶性ポリマーAを主成分とする連続相と、水溶性ポリマーBを主成分として、連続相中に分布し、膜表面に対して垂直方向に配向するシリンダー状ミクロドメインとからなるミクロ相分離構造を有する多孔質膜が得られる。この多孔質膜のシリンダー状ミクロドメイン内には、平均孔径1〜200nmのシリンダー状構造の細孔が存在する。図2に、本発明で得られる多孔質膜の模式図が示され、より詳細には基板16と上記多孔質膜14aとを備える積層体が記載されている。水不溶性ポリマーAを主成分とする連続相10と、シリンダー状ミクロドメイン12とのミクロ相分離構造において、シリンダー状ミクロドメイン12内に細孔18がある。図2より分かるように、細孔18の壁面にはシリンダー状ミクロドメイン12を形成する水溶性ポリマーBが存在する。なお、図2では、細孔は貫通孔として記載されているが、これに限定されない。
【0060】
多孔質膜は、水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBとから構成されているが、細孔内壁面には主成分として水溶性ポリマーBが存在する。つまり、多孔質膜の連続相を構成する水不溶性ポリマーAとは機能の異なる水溶性ポリマーBにより細孔内壁面が被覆されており、細孔内壁面が水溶性ポリマーBにより機能化されている。
従来使用されていたイオンエッチングなどにより一方のミクロドメイン部を分解して多孔質膜を得る方法では、ミクロドメインを構成する成分がすべて分解・除去されてしまい、連続相を構成する成分のみが残ることになる。つまり、細孔内壁面上には連続相を構成する成分が存在することになる。そのため、連続相を構成する成分が有する性質と異なる性質・機能を壁面内に持たせる場合には、新たに細孔内壁面を化学修飾する手間を伴う。また、細孔が非常に小さいため、壁面全体を完全に化学修飾することは非常に困難である。一方、本発明にかかる方法によれば、機械的強度に優れる水不溶性ポリマーAを多孔質膜の連続相(支持部)として使用し、かつ、用いるブロック共重合体の水溶性ポリマーBに所望の機能性分子を担持させることにより、細孔内壁面を容易に、かつ任意に機能化することが可能となる。
【0061】
上記のように本発明は、膜表面に対して垂直方向に配列した複数の柱状構造の細孔を有し、互いに非相溶である水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBより構成される多孔質膜であって、細孔内壁面に水溶性ポリマーBを主成分として含む層が存在する多孔質膜である。水溶性ポリマーBを主成分として含む層の厚さは、ミクロドメインの大きさと後述する細孔の大きさにより適宜制御することができる。
【0062】
<細孔の大きさ>
本発明にかかる多孔質膜中の細孔の平均孔径(平面形状が円の場合は直径)は、ブロック共重合体と水溶性ポリマーBとの割合などにより適宜制御することができるが、通常1〜200nmであり、5〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。上記範囲内であれば、タンパク質の分離膜や、エッチング用のマスクとして使用するのにより好適である。楕円などの場合は、長径部が上記範囲内であればよい。
なお、通常、細孔の平均孔径は、上述したミクロドメインの大きさ(平均直径)より小さく、細孔内壁面上には水溶性ポリマーBが存在する。両者(細孔とミクロドメイン)の大きさの差は、10〜200nmであるのが好ましい。平均孔径とは、SEM(走査型電子顕微鏡)写真(約1000nm×1000nmの範囲)で観察される多孔質膜表面上の少なくとも2個以上、好ましくは10個以上の任意の細孔の直径を測定して、数平均して求めた値である。コンピューターによる画像処理して、導入される値でも構わない。
【0063】
<細孔密度>
本発明にかかる多孔質膜の細孔密度は、使用するブロック共重合体、水溶性ポリマーBなどの量を変えることにより適宜制御することができるが、2〜2500個/μmが好ましく、10〜1500個/μmがより好ましい。上記範囲内であれば、得られる細孔の規則性がより向上する。
本発明で規定する多孔質膜における細孔密度とは、多孔質膜の表面を細孔が明瞭に確認できる倍率で走査型電子顕微鏡等を用いて写真を撮り、その写真の中の細孔を数えて、1μm当たりの細孔数に換算したものを細孔密度と定義する。複数の領域など、出来るだけ広域について数えて平均することが好ましい。なお、ミクロドメイン内にある細孔の数は特に限定されないが、各ミクロドメイン内にひとつの細孔が存在するのが好ましい。
【0064】
<細孔の深さ>
本発明にかかる多孔質膜の細孔の深さ(膜表面からの深さ)は、上述の水洗する工程での水洗方法により適宜制御することができるが、1nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、上限は多孔質膜の膜厚であり、細孔が貫通孔の場合がもっとも好ましい。ここで細孔の深さとは、多孔質膜表面からの深さを指し、断面のSEM解析などによって測定することができる。
【0065】
<配向>
本発明にかかる多孔質膜の細孔は、分離膜やエッチング用マスクなどの応用の観点からは、膜表面に対して垂直方向に配向していることが好ましく、より好ましくは略垂直である。より具体的に略垂直とは、細孔の中心軸の膜表面に対する法線に対する傾斜角度が±45度以内、好ましくは±30度以内であることを指す。傾斜角度は、超薄切片のTEM解析や、小角X線散乱解析によって測定することができる。
【0066】
<膜厚>
本発明にかかる多孔質膜の平均膜厚は、使用するブロック共重合体、水溶性ホモポリマーBなどの量を変えることにより適宜制御することができるが、10〜1000nmが好ましく、50〜500nmがより好ましい。上記範囲内であれば、得られる細孔の規則性がより向上する。膜厚の測定方法としては、プロファイラ装置(KLA−Tecnor社製)により、膜表面上の任意の点を3ヵ所以上測定して数平均して求めた値である。
【0067】
<配置>
本発明にかかる多孔質膜の細孔の配置は、使用するブロック共重合体や水溶性ホモポリマーBの種類や分子量などにより適宜制御することが可能であるが、それぞれ隣り合う細孔と千鳥配置をなすことが好ましい。千鳥配置としては、なかでも、細孔の一つと、これに隣接する二つの細孔がなす角度θ(図2参照)を略60度になるよう配置されるのが好ましい。ここで、略60度とは、50〜70度をさし、好ましくは55〜65度である。なお、多孔質膜において細孔が上述の規則的な配列構造をとっている場合は、細孔の全てがこれらの規則的な配列構造である必要はない。すなわち、細孔は、ヘキサゴナル(六角格子状)等の規則的な細孔配列構造と不規則な細孔配列構造の両方を有していてもよい。全ての細孔のうち50%以上、好ましくは60%以上が規則的な細孔配列構造となっていることが好ましい。
隣り合う細孔間の平均間隔(細孔中心軸間の距離)は、使用するブロック共重合体や水溶性ホモポリマーBの種類や分子量などにより適宜制御することが可能であるが、1〜300nmが好ましく、10〜150nmがより好ましい。平均間隔は、SEM(走査型電子顕微鏡)写真(約約1000nm×1000nmの範囲)で観察される多孔質膜表面上の少なくとも2個以上、好ましくは10個以上の任意の細孔から隣り合う細孔までの間隔を測定して、数平均して求めた値である。
【0068】
<用途>
本発明にかかる多孔質膜は、多様な用途に応用することが可能である。例えば、電子情報記録媒体、吸着剤、ナノ反応場膜、分離膜、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの偏光板保護フィルムなどが挙げられる。
なかでも、本発明により得られた多孔質膜は、表面が水溶性(親水性)ポリマーで被覆された貫通孔を有するという特徴を持つため、水溶媒中の物質を分離するための機能性分離膜として好適に使用することが出来る。特に、タンパク質等に対する吸着抑制能を有するポリマーを水溶性ポリマー成分として用いた場合、タンパク質等の生体高分子や細胞等に対する吸着抑制能を有する分離膜として、好ましく用いることが可能となる。タンパク質等に対する吸着抑制能を有するポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリン)などのリン脂質類似構造を有するリン酸基含有ポリメタクリレートが好適に挙げられる。
【0069】
タンパク質の分離法としては、従来からゲル電気泳動法が知られている(「タンパク質ハンドブック」G.Walsh著、平山ら訳(丸善)p167)。しかしこの手法では、タンパク質が変性してしまう場合が多く、また、ゲルからタンパク質を取り出すことも容易ではない。
その他の方法としては中空糸膜を用いて、タンパク質を分離する手法も報告されている(特開2006−89468号公報)。この手法を用いることにより、マーカータンパク質として有用な分子量60kDa以下のタンパク質を選択的に濃縮可能であることが報告されている。しかしこの手法では大掛かりな装置を必要とするため、コスト・工業性の点から好ましくなく、また、タンパク質を簡便に分離することが出来ない。さらに、この手法で使用されている中空糸膜表面は、タンパク質の吸着抑制能に関しては特に考慮されておらず、使用とともにタンパク質が吸着してしまう。
【0070】
タンパク質のような生体高分子を、そのサイズの違いにより分離しようとする場合、分離膜の孔径はナノメートルサイズ(具体的には、200nm以下程度が好ましく、特に100nm以下がより好ましい)であり、かつ、細孔表面はタンパク質等の吸着抑制能を有する化合物で被覆されていることが望ましい。しかしながら、現在までこのような分離膜は得られていない。上述の本発明にかかる多孔質膜の製造方法を用いることにより、ナノメートルサイズの細孔内壁面はタンパク質等の吸着抑制能を有する化合物(例えば、生体適合性ポリマー、より具体的には、ポリエチレングリコール、ポリ(2−メタクリルオキシエチルホスホリルコリン)などのリン脂質類似構造を有するリン酸基含有ポリメタクリレート)で被覆された多孔質膜を容易に得ることができる。多孔質膜の連続相(支持部)には、医療用材料としての好適な機械的特性を付与するために機械的強度に優れたポリマー(例えば、ポリスチレン)などを使用することができる。
従来の手法においては、多孔質膜を作製後、特定の機能を有した化合物で細孔を被覆するという工程が必要であった。また、細孔の開口部の大きさが小さいため、化学修飾を完全に進行させるのは困難であった。さらに、一旦被覆されたとして分離膜として使用中に細孔内の被膜が剥がれてくる場合もあった。本発明においては、上述のように細孔内を所望の機能性化合物で被覆することができ、該化合物は多孔質膜の連続相と共有結合されているため使用に際しても剥離などが起こることはほとんどない。
【0071】
また、本発明の多孔質膜の他の好適な用途として、基板に所定のパターンを形成するためのエッチング加工の際のマスク(エッチング用マスク)としての使用が挙げられる。本発明の多孔質膜をエッチング用マスクとして使用することにより、基板表面上にナノレベルで制御された所定のパターン状の凹凸構造を形成することができる。
【0072】
より詳細には、本発明の多孔質膜を用いた凹部を表面上に有する基板の製造方法としては、特に制限はされないが、主に、以下の3つの工程を含むことが好ましい。
<工程1> 基板上に本発明の多孔質膜を形成する多孔質膜形成工程
<工程2> 多孔質膜形成工程後、多孔質膜をマスクとして用い、基板をエッチングして、基板表面上に凹部を形成するエッチング工程
<工程3> エッチング工程後、残存する多孔質膜を除去する除去工程
上記の各工程について、図14に従って、以下に説明する。
【0073】
(多孔質膜形成工程)
多孔質膜形成工程は、基板上に上述したナノサイズの細孔を有する多孔質膜を形成する工程である。この工程により、図14(a)に示すように、基板22上に細孔26を有する多孔質膜24が形成される。なお、細孔26の大きさは、上述のように1〜200nm程度である。多孔質膜24の厚みは特に制限されないが、除去が容易で、基板のエッチング量を制御しやすい点から、30〜1000nmが好ましく、50〜750nmがより好ましい。
基板上に多孔質膜を形成する方法は特に限定されず、上記の多孔質膜の製造方法で説明したように、ブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液を基板上へ塗布し、その後水溶性ホモポリマーBを水で取り除くことにより形成することができる。また、他の形成方法としては、作製した多孔質膜を基板上へ直接堆積させてもよい。
【0074】
エッチング処理される基板は特に限定されず、使用目的に応じて適宜最適な基板が選択される。具体的には、ポリマー基板、ガラス基板、石英基板、半導体基板(例えば、GaAs、GaP、GaN、AlN、InN、InP、InAs、AlAs、GaSb、GaInNAsなどのIII-V族化合物半導体基板、シリコン、ドープシリコンなど)などが挙げられる。なかでも、石英基板、半導体基板が好ましい。
なお、ブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液を基板上に塗布して多孔質膜を作製する場合は、基板表面の水に対する接触角は40°〜110°を示す。
基板の形状は特に限定されないが、寸度的に安定な板状物であることが好ましい。板状物である場合の厚みは、特に制限されない。
【0075】
(エッチング工程)
多孔質膜形成工程後に実施されるエッチング工程では、多孔質膜をマスクとして用い、基板を選択的にエッチングして、基板表面上に凹部を形成する。この工程により、図14(b)に示すように、細孔部に位置する基板がエッチングされ、凹部28を複数有する基板22aが得られる。
凹部28の開口部の形状は、特に限定されないが、細孔の開口部の形状と同じく円形状であることが好ましい。図14(b)において、凹部28の形状は円柱状(シリンダー状)に記載されているが、これに限定されず、円錐状であってもよい。
【0076】
凹部28の開口部の平均直径は、エッチング処理条件を制御することにより適宜調整されるが、得られる基板(例えば、半導体基板)からの光取り出し効率向上の点からは、50〜200nmが好ましく、75〜200nmがより好ましい。凹部28においては、凹部28の側壁(内壁)は、基板22の厚さ方向に対して略平行に形成されることが好ましい。凹部28の深さ(高さ)hは、エッチング処理条件を制御することにより適宜調整されるが、各種用途などの応用の点からは、10〜1000nmが好ましく、30〜750nmがより好ましい。
凹部28の数は、特に限定されないが、通常、多孔質膜24の細孔26の数に対応しており、2〜2500個/μmが好ましく、10〜1500個/μmがより好ましい。
【0077】
エッチング条件としては、基板をエッチングできれば特に限定されず、基板の種類に応じて最適な処理が実施される。例えば、硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸などの薬液で腐食を行うウェットエッチング、または、反応性イオンエッチングや反応性ガスエッチングなどのドライエッチングなどが挙げられる。なかでも、エッチング量の制御が容易という点から、ドライエッチングが好ましい。なお、エッチングガスは、基板に応じて適宜選択すればよく、CF4、NF3、SF6などのフッ素系、Cl2、BCl3などの塩素系のエッチングガスを用いて行うことができる。
エッチングの処理時間は、基板の用途などに応じて適宜調整することができるが、エッチング量の制御がよりし易い点で、5〜300秒が好ましく、10〜200秒がより好ましい。
なお、エッチングの際に基板を選択的にエッチングするためには、基板と多孔質膜とのドライエッチング速度の差、エネルギー線に対する分解性の差、または、熱分解性の差を利用する。また、エッチングの際に多孔質膜の一部がエッチングされてもよい。
【0078】
(除去工程)
エッチング工程後に実施される除去工程では、マスクとして使用され、残存する多孔質膜が除去され、凹部を有する基板が得られる。図14(c)に示すように、多孔質膜が除去され、凹部28を複数有する基板22aが得られる。
多孔質膜の除去の方法は、特に限定されないが、多孔質膜が溶解する溶媒で処理する方法やエッチングにより除去する方法などが挙げられる。
【0079】
上述の方法により得られた表面に凹部を有する基板は、種々の用途に応用することができる。例えば、基板として半導体基板を用いた場合は、凹部が設けられた基板側(光取り出し面)からの光取り出し効率が向上し、各種照明部材などへ応用することができる。
【実施例】
【0080】
以下に本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されない。
【0081】
後述する原子間力顕微鏡(AFMとも称する)観察は、セイコーインスツルメンツ社製SPA−400装置のタッピングモードを用いて実施した。走査型電子顕微鏡(SEMとも称する)観察は、日立ハイテク社製S5200装置を用いて実施した。得られる多孔質膜の膜厚は、プロファイラ装置(KLA−Tecnor社製)により測定した。
【0082】
<実施例1>
本実施例は、基板の接触角と、シリンダー状構造の細孔を有する多孔質膜作製可否の関係を示すものである。
<サンプル1の作製>
ブロック共重合体として、Polymer Source社より購入したポリスチレン(水不溶性ポリマーA)とポリエチレングリコール(水溶性ポリマーB)からなるブロック共重合体(A−B型)、P3799−SEOを用いて検討した。P3799−SEOでは、ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が225,000、ポリエチレングリコール部分の重量平均分子量(Mw)が26,000、Mw/Mn=1.12であった。水溶性ホモポリマーBとして、ポリエチレングリコールのホモポリマー(重量平均分子量(Mw):600)(以下、PEG600と記載)を、東京化成社より購入した。
エチルジメチルクロロシラン(Gelest社)の1質量%トルエン溶液に、石英基板を24時間浸漬した後、得られた石英基板をトルエン2mLで3回洗浄、乾燥(圧縮空気吹き付けによる)して本実験に用いた。シランカップリング処理前後の基板表面の水に対する接触角を測定することで、表面修飾ができているかどうかの評価を行った。未修飾石英基板の接触角が18±7°であるのに対し、シランカップリング処理後の接触角は93±6°であり、アルキル化後の標準的な接触角値であることから、表面修飾ができていることを確認した。
P3799−SEO(250mg)とPEG600(80mg)をトルエン(9.67g)に溶解した混合溶液(200μL)を、上記基板上に滴下し、slope:5秒、3000rpm:90秒の条件でスピンコートすることにより塗膜を得た。なお、「slope 5秒」とは、回転数が3000rpmになるまでの時間を意味する。この塗膜に対し、室温、飽和トルエン条件下で72時間エージングを行った。AFM測定などを実施したところ、シリンダー状ミクロドメインが膜表面に対して垂直方向に配向したミクロ相分離構造が得られていることが確認された。その後、塗膜を2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル1を得た。式1および式2の定義により、サンプル1のM(b1)/M(b2)(以後、rと称する)値は43であり、a1/(a1+b1+b2)(以後、f(a)と称する)値は0.71であった。
サンプル1の表面構造を確認するために、AFM観察を行った(図3(a))。平均孔径50nmの細孔が、ヘキサゴナル状(六角形状)に分布しているのが観察された。さらに、3次元構造を確認するために液体窒素中でサンプル1を割断し、SEM観察を行ったところ、石英基板まで到達する貫通孔が得られていることが確認された(図3(b))。細孔密度は84個/μmであり、隣接する細孔間の平均間隔は106nmであった。サンプル1の平均膜厚は、280nmであった。
【0083】
<サンプル2の作製>
オクタデシルトリメトキシシラン(Gelest社)の1質量%トルエン溶液に、石英基板を24時間浸漬した後、トルエン2mLで3回洗浄、乾燥(乾燥条件 圧縮空気を用いた)し、得られた基板を本実験に用いた。未修飾石英基板の接触角が18±7°で、シランカップリング後の接触角は103±6°であり、アルキル化後の標準的な接触角値であることから、表面修飾ができていることを確認した。上記基板を用いる以外は、サンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル2を得た。
サンプル2のAFM観察結果などから、シリンダー状ミクロドメインが膜表面に対して垂直方向に配向したミクロ相分離構造が確認された。さらに、平均孔径61nmの細孔が、ヘキサゴナル状に配置されていることが観察された(図4)。
【0084】
<サンプル3の作製>
スライドガラス基板上にポリヒドロキシスチレン(200mg(以下、PHSとも記載))をエタノール(9.8g)に溶解した溶液を、200μL滴下し、slope:5秒、3000rpm:90秒の条件でスピンコートした。なお、得られた基板の接触角は、60±7°であった。上記基板を用いる以外は、サンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル3を得た。
サンプル3のAFM観察結果などから、シリンダー状ミクロドメインが膜表面に対して垂直方向に配向したミクロ相分離構造が確認された。さらに、平均孔径80nmの細孔が、ヘキサゴナル状に配置されていることが観察された(図5)。
【0085】
<サンプル4の作製>
未修飾石英基板(接触角:18±5°)を用いる以外は、サンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル4を得た。液体窒素中でサンプル4を割断し、SEM観察を行った結果、マクロスケールの孔が存在し、目的とする多孔質膜は得られなかった(図6)。
【0086】
<サンプル5の作製>
ペルフルオロデシルトリエトキシシラン(Gelest社)の1質量%トルエン溶液に、石英基板を24時間浸漬した後、トルエン2mLで3回洗浄、乾燥(乾燥条件 圧縮空気を用いた)し、得られた基板を本実験に用いた。未修飾石英基板の接触角が18±7°で、シランカップリング後の接触角は112°であり、フッ素化後の標準的な接触角値であることから、表面修飾ができていることを確認した。上記基板を用いる以外は、サンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル5の作製を行った。塗布時に、溶液がはじいてしまい、均一に塗布できず、目的とする多孔質膜は得られなかった。
【0087】
サンプル1〜3の接触角依存性に関する結果を下記表1に示す。
【0088】
【表1】

所望のシリンダー状構造の細孔を有する多孔質膜が作製できている場合は○、そうでない場合は×とした。
以上の結果より、基板の水に対する接触角が一定の範囲内であれば、細孔がヘキサゴナル状にパッキングし、膜表面に対して垂直方向に配向している多孔質膜を作製できた。
【0089】
<実施例2>
本実施例は、r値とシリンダー状構造の細孔を有する多孔質膜の作製可否との関係を示すものである。
【0090】
<サンプル6の作製>
PEG600を、ポリエチレングリコールのホモポリマー(重量平均分子量(Mw):400)(以下、PEG400と記載)に変更にした以外はサンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル6を得た。式1および式2の定義により、rの値は65であり、f(a)の値は0.71であった。
サンプル6のAFM観察結果などから、シリンダー状ミクロドメインが膜表面に対して垂直方向に配向したミクロ相分離構造が確認された。さらに、平均孔径42nmの細孔が、ヘキサゴナル状に配置されていることが観察された(図7)。
【0091】
<サンプル7の作製>
PEG600を、ポリエチレングリコールのホモポリマー(重量平均分子量(Mw):200)(以下、PEG200と記載)に変更にした以外はサンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル7を得た。式1および式2の定義により、rの値は130であり、f(a)の値は0.71であった。
サンプル7のAFM観察結果などから、シリンダー状ミクロドメインが膜表面に対して垂直方向に配向したミクロ相分離構造が確認された。さらに、平均孔径38nmの細孔が、ヘキサゴナル状に配置されていることが観察された(図8)。
【0092】
<サンプル8の作製>
PEG600を、ポリエチレングリコールのモノマーであるジメトキシエタン(和光純薬)に変更した以外はサンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル8を得た。式1および式2の定義により、rの値は289であり、f(a)の値は0.69であった。
サンプル8のAFM観察を行った結果、目的とする多孔質膜は得られなかった(図9)。
【0093】
<サンプル9の作製>
P3799−SEOを、P123−2SEO1(ポリスチレン部分の重量平均分子量(Mw)が36,000、ポリエチレングリコール部分の重量平均分子量(Mw)が1,400、Mw/Mn=1.12)に変更した以外はサンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル9の作製を行った。式1および式2の定義により、rの値は2.3であり、f(a)の値は0.75であった。
サンプル9のAFM観察を行った結果、サンプル4のように、マクロスケールの相分離が起こり、目的とする多孔質膜は得られなかった。
【0094】
サンプル1、6〜9のr値依存性に関する結果を下記表2に示す。
【0095】
【表2】

所望のシリンダー状構造の細孔を有する多孔質膜が作製できている場合は○、そうでない場合は×とした。
以上の結果から、r値が、所定の範囲内であれば、細孔がヘキサゴナル状にパッキングし、膜表面に対して垂直方向に配向している多孔質膜を作製できた。
【0096】
<実施例3>
本実施例は、f(a)値とシリンダー状構造の細孔を有する多孔質膜の作製可否との関係を示すものである。
【0097】
<サンプル10の作製>
PEG600の量を40mgにした以外はサンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル10を得た。式1および式2の定義により、サンプル10のr値は43であり、f(a)値は0.80であった。
サンプル10のAFM観察結果などから、シリンダー状ミクロドメインが膜表面に対して垂直方向に配向したミクロ相分離構造が確認された。さらに、平均孔径42nmの細孔が、ヘキサゴナル状に配置されていることが観察された(図10)。さらに、3次元構造を確認するために、液体窒素中でサンプル10を割断し、SEM観察を行った。SEM観察より、石英基板まで到達する貫通孔が得られていることが確認された。本発明の範囲内でホモポリマーの添加量を制御することで、貫通孔の孔径制御が可能であることが証明された。細孔密度は156個/μmであり、隣接する細孔間の平均間隔は92nmであった。サンプル10の平均膜厚は、271nmであった。
【0098】
<サンプル11の作製>
PEG600の量を20mgにした以外はサンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル11を得た。式1および式2の定義により、サンプル11のr値は43であり、f(a)値は0.85であった。
サンプル11のAFM観察結果などから、シリンダー状ミクロドメインが膜表面に対して垂直方向に配向したミクロ相分離構造が確認された。さらに、平均孔径35nmの細孔が、ヘキサゴナル状に配置されていることが観察された(図11)。さらに、3次元構造を確認するために、液体窒素中でサンプル11を割断し、SEM観察を行った。SEM観察より、石英基板まで到達する貫通孔の生成が確認された。本発明の範囲内でホモポリマーの添加量を制御することで、貫通孔の孔径制御が可能であることが証明された。細孔密度は225個/μmであり、隣接する細孔間の平均間隔は82nmであった。サンプル11の平均膜厚は、260nmであった。
【0099】
<サンプル12の作製>
PEG600の量を500mgにした以外はサンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル12を得た。式1および式2の定義により、サンプル12のr値は43であり、f(a)値は0.32であった。
サンプル12のAFM観察結果などからは、サンプル1、2などで観察された比較的揃った直径を有する孔のヘキサゴナルパッキングではなく、平均孔径300nm程度の細孔が不規則に存在する表面が観察され、目的とする多孔質膜は得られなかった(図12)。
【0100】
<サンプル13の作製>
PEG600の量を0.5mgにした以外はサンプル1の作製方法と同様の操作を行い、サンプル13を得た。式1および式2の定義により、サンプル13のr値は43であり、f(a)値は0.91であった。
サンプル13のSEM観察結果などから、孔が観察されず、目的とする多孔質膜は得られなかった。
【0101】
サンプル1、10〜13のf(a)値依存性に関する結果を下記表3に示す。
【0102】
【表3】

所望のシリンダー状構造の細孔を有する多孔質膜が作製できている場合は○、そうでない場合は×とした。
以上の結果から、f(a)値が所定の範囲内であれば、細孔がヘキサゴナル状にパッキングし、膜表面に対して垂直方向に配向している多孔質膜を作製できた。
【0103】
<実施例4>
本実施例は、サンプル3を、エタノール中に浸漬することで、PHSを溶かし、多孔質膜を基板から剥離した例を示すものである。
剥離後の表面(大気面側)、裏面(基板側)のAFM像を、図13(a)、図13(b)に示す。AFM観察結果からは、表面・裏面とも同程度の平均孔径(78nm)の細孔が、ヘキサゴナル状に配置されていることが観察された。
以上の結果から、表面(大気面側)から裏面(基板側)まで孔が貫通していることが分かった。
【0104】
<実施例5>
実施例5では、本発明の多孔質膜を基板のエッチングの際のマスクとして使用した例を示す。
【0105】
<サンプル14および基板1の作製>
PS−r−PMMA(Polymer Source社製、P3437−SMMAranOHT)の1質量%トルエン溶液をシリコンウエハ上にスピンコート塗布して、140℃で1日アニールすることで、修飾シリコンウエハを作製した。修飾シリコンウエハの水に対する接触角は82±8°であった。
P3799−SEOを0.5質量%とPEG600を0.16質量%含むトルエン溶液(200μL)を、上記基板上に滴下し、slope:5秒、3000rpm:90秒の条件でスピンコートすることにより塗膜を得た。この塗膜に対し、室温、飽和トルエン条件下で72時間エージングを行った。AFM測定などを実施したところ、シリンダー状のミクロドメインが膜表面に対して垂直方向に配向したミクロ相分離構造が得られていることが確認された。その後、塗膜を2mLの脱イオン水で5回洗浄することにより、サンプル14を得た。式1および式2の定義により、サンプル14のr値は43であり、f(a)値は0.71であった。
サンプル14の表面構造を確認するためにAFM観察を行ったところ、平均孔径70nmの細孔が観察された(図15)。さらに、3次元構造を確認するために、SEM観察を行ったところ、シリコンウエハ表面まで到達する貫通孔が得られていることが確認された(図16)。細孔密度は約83個/μmであり、隣接する細孔間の平均間隔は130nmであった。サンプル14の平均膜厚は、80nmであった。
得られたサンプル14をRIEドライエッチング装置にてエッチング処理した。処理条件としては、エッチングガス:SF、出力:150W、エッチング時間:32秒であった。処理後に、トルエンに得られたサンプルを浸漬し超音波洗浄を行うことで、多孔質膜を除去して、表面上に凹部を有する基板1を作製した。得られた基板1のAFM観察(図17)を行ったところ、基板表面上に、穴の深さ65nm、開口部の平均孔径80nmの凹部が80個/μm形成されていることが確認された。
【0106】
<基板2の作製>
エッチング時間を16秒に変更した以外は、基板1の製造方法と同じ手順で、表面に凹部を有する基板2を作製した。得られた基板2のAFM観察(図18)を行ったところ、基板表面上に、穴の深さ42nm、開口部の平均孔径150nmの凹部が20個/μm形成されていることが確認された。
【0107】
<基板3の作製>
エッチング時間を65秒に変更した以外は、基板1の製造方法と同じ手順で、表面に凹部を有する基板3を作製した。得られた基板3のAFM観察(図19)を行ったところ、基板表面上に、穴の深さ35nm、開口部の平均孔径176nmの凹部が33個/μm形成されていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0108】
【図1】図1(a)は本発明の実施形態に係る塗膜を示す斜視断面図であり、(b)はその上面図である。
【図2】図2(a)は本発明に係る多孔質膜を示す斜視断面図であり、(b)はその上面図である。
【図3】図3(a)は、サンプル1の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。(b)は、サンプル1の割断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】図4は、サンプル2の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図5】図5は、サンプル3の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図6】図6は、サンプル4の割断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】図7は、サンプル6の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図8】図8は、サンプル7の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図9】図9は、サンプル8上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図10】図10は、サンプル10の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図11】図11は、サンプル11の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図12】図12は、サンプル12の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図13】図13(a)は、基板から剥離されたサンプル3の大気面側の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。(b)は、基板から剥離されたサンプル3の基板側の原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図14】図14(a)〜(c)は、表面上に凹部を有する基板の製造方法を工程順に示す基板および多孔質膜の模式的断面図である。
【図15】図15は、サンプル14の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図16】図16は、サンプル14の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図17】図17は、基板1の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図18】図18は、基板2の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【図19】図19は、基板3の上面からの原子間力顕微鏡(AFM)写真である。
【符号の説明】
【0109】
10 連続相
12 シリンダー状ミクロドメイン
14 膜
14a、24 多孔質膜
16、22 基板
22a 表面上に凹部を有する基板
18、26 細孔
28 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水不溶性ポリマーAを主成分とする連続相と、水不溶性ポリマーAと非相溶である水溶性ポリマーBを主成分とし、前記連続相中に分布し膜表面に対して垂直方向に配向するシリンダー状ミクロドメインとからなるミクロ相分離構造を有し、前記シリンダー状ミクロドメイン内に平均孔径1〜200nmのシリンダー状構造の細孔が存在する多孔質膜。
【請求項2】
前記細孔の細孔密度が、2〜2500個/μmである請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
前記水溶性ポリマーBが、生体適合性ポリマーである請求項1または2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記水不溶性ポリマーAが、ポリスチレン類、ポリ(メタ)アクリレート類、ポリブタジエン類、またはポリイソプレン類である請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項5】
基板をエッチング加工する際に、マスクとして用いられる請求項1〜4のいずれかに記載の多孔質膜。
【請求項6】
下記式(1)および式(2)を満足する、互いに非相溶な水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBとからなるブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液を、水に対する接触角が40°〜110°である基板表面に塗布して膜を形成する工程(工程1)と、該膜中の水溶性ホモポリマーBを水を用いて除去する工程(工程2)とを備える、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質膜を製造する多孔質膜の製造方法。
5<M(b1)/M(b2)<250 式(1)
0.60≦a1/(a1+b1+b2)≦0.90 式(2)
(式(1)中、M(b1)はブロック共重合体の水溶性ポリマーBの重量平均分子量を表す。M(b2)は、水溶性ホモポリマーBの重量平均分子量を表す。
式(2)中、a1は膜中におけるブロック共重合体の水不溶性ポリマーAの体積を表す。b1は、膜中におけるブロック共重合体の水溶性ポリマーBの体積を表す。b2は、膜中における水溶性ホモポリマーBの体積を表す。)
【請求項7】
前記溶液中における前記ブロック共重合体と前記水溶性ホモポリマーBとの合計濃度が、前記溶液全量に対して、0.1〜20質量%である請求項6に記載の多孔質膜の製造方法。
【請求項8】
下記式(1)および式(2)を満足する、互いに非相溶な水不溶性ポリマーAと水溶性ポリマーBとからなるブロック共重合体と水溶性ホモポリマーBとを含む溶液を、水に対する接触角が40°〜110°である基板表面に塗布して膜を形成する工程(工程1)と、該膜中の水溶性ホモポリマーBを水を用いて除去する工程(工程2)とを含む方法により得られる多孔質膜。
5<M(b1)/M(b2)<250 式(1)
0.60≦a1/(a1+b1+b2)≦0.90 式(2)
(式(1)中、M(b1)はブロック共重合体の水溶性ポリマーBの分子量を表す。M(b2)は、水溶性ホモポリマーBの分子量を表す。
式(2)中、a1は膜中におけるブロック共重合体の水不溶性ポリマーAの体積を表す。b1は、膜中におけるブロック共重合体の水溶性ポリマーBの体積を表す。b2は、膜中における水溶性ホモポリマーBの体積を表す。)
【請求項9】
基板上に請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質膜を形成する多孔質膜形成工程と、
前記多孔質膜形成工程後、前記多孔質膜をマスクとして用い、前記基板をエッチングして、前記基板表面上に凹部を形成するエッチング工程と、
前記エッチング工程後、残存する前記多孔質膜を除去する除去工程とを備える、表面上に凹部を有する基板の製造方法。
【請求項10】
前記基板が、石英基板または半導体基板である請求項9に記載の表面上に凹部を有する基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図14】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−256592(P2009−256592A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315964(P2008−315964)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】