説明

多孔質複層フィルター

【課題】精密濾過用のフィルターにおいて、処理時間の増大および大型化することなく、捕集率を向上させる。
【解決手段】複数の濾過膜(2A、2B)と、該濾過膜の間に介在させる多孔質膜からなる中間貯溜膜(4)を備え、前記複数の濾過膜の平均孔径は同等とすると共に、前記中間貯溜膜の平均孔径は前記濾過膜の平均孔径の1.2倍以上5μm以下としていることを特徴とする多孔質複層フィルターを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質複層フィルターに関し、特に、超微粒子を高流量で濾過できる微小孔径フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体関連分野、液晶関連分野、食品分野、医療分野等の多種の分野で、高性能な精密濾過フィルターが要望されている。具体的には、半導体製造においては年々集積度が高まり、0.1μm以下の領域まで回路間隔が微細化されている。また、液晶製造においても同様に感光性材料による微細加工が施される。以上からより小さな領域の微細粒子を確実に捕捉できる精密濾過フィルターが必要となってきている。これらの精密濾過フィルターは主にクリーンルームの外気処理用フィルター、薬液の濾過フィルターとして使用され、その濾過性能は製品の歩留まりにも影響する。
また、食品・医療関連分野においては、近年の安全意識の高まりから、微小異物に対する濾過の完全性(絶対除去性)が強く要望されている。
【0003】
捕集する粒子の微細化に伴い濾過層の孔径を小さくする必要がある。濾過層の孔径を小さくすると当然のことながら流量は低下する。具体的には、濾過層を透過する処理液の流量は「(孔径の2乗×気孔率)/膜厚」となり、孔径が小さくなると著しく流量が低下する。よって、処理液の流量低下を抑制するために、濾過膜を薄くすることが有効である。
【0004】
そのため、本出願人は、特許第4371176号公報で、平滑な箔(あるいは板やフィルム)上に、フッ素樹脂粉末を分散媒中に分散したフッ素樹脂ディスパージョンを塗布した後、前記分散媒の乾燥及びフッ素樹脂粉末の融点以上に加熱して形成される、膜厚20μm以下でガーレー秒が300秒以上である実質的に欠陥の無いフッ素樹脂膜を延伸して得られる微小孔径膜を提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4371176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1で提供した多孔質のフッ素樹脂膜は、その膜厚を20μm以下、さらには10μm以下と薄くでき、該フッ素樹脂膜の孔径をナノ単位の微粒子捕集用の濾過膜として用いると、薄膜化により処理液の流量低下を抑制できる。
しかしながら、微粒子の捕集率を高めて処理時間の短縮化を図るためには、濾過膜を薄膜化することだけで対応するには限界がある。
【0007】
よって、本発明は、ナノ単位の微粒子を捕集できる濾過膜として薄膜化した濾過膜を用いて処理流量の低下を抑制しながら、捕集率を飛躍的に高め、濾過処理効率(濾過性)が優れたフィルターを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、複数の濾過膜と、該濾過膜の間に介在させる多孔質膜からなる中間貯溜膜を備え、
前記複数の濾過膜の平均孔径は同等とすると共に、前記中間貯溜膜の平均孔径は前記濾過膜の平均孔径の1.2倍以上で5μm以下としていることを特徴とする多孔質複層フィルターを提供している。
【0009】
本発明の前記中間貯溜膜は、結節部により柔軟な繊維が網目状に連結されてなる繊維状骨格を備え、該繊維状骨格で略スリット形状の孔を囲んだ多孔質膜からなる。
前記各濾過膜の厚さは0.25〜15μm、平均孔径は0.1μm以下とすることが好ましい。特に、該濾過膜は、フッ素樹脂を融点以上に加熱して得られた膜厚が10μm未満のフッ素樹脂膜を延伸して製造した微小孔径膜からなることが好ましい。
前記濾過膜の平均孔径の下限は1nm以上、更には0.1nm以上にすることが好ましい。また。前記中間貯溜膜の平均孔径は濾過膜の平均孔径の2倍以上とすることがより好ましい。
【0010】
[平均孔径の測定方法]
前記平均孔径(平均流量孔径とも称す)は細孔分布測定器(パームポロメータ:CFP−1500A:Porous Materials,Inc製)により、液体として、GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸(Porous Materials,Inc製)を用いて測定した。
具体的には、次のようにして求めた。
先ず、膜に加えられる差圧と膜を透過する空気流量との関係を、膜が乾燥している場合と膜が液体で濡れている場合について測定し、得られたグラフをそれぞれ、乾き曲線及び濡れ曲線とする。乾き曲線の流量を1/2とした曲線と、濡れ曲線との交点における差圧をP(Pa)とする。次の式により、平均流量孔径を求める。
平均孔径d(μm)=cγ/P
ここで、cは定数で2860であり、γは液体の表面張力(dynes/cm)である。
【0011】
前記のように、濾過膜を薄膜としているため、平均孔径を0.1μm以下としてナノ単位の微粒子の捕集用としても流量低下を発生させず、特に、多段で配置する濾過膜の孔径を同一範囲としているため、濾過膜を多段に積層配置した複層フィルターとしても流量低下を発生させない。
また、濾過膜を複数段で配置することで、流入側に配置する濾過膜で捕集できなかった微粒子を流出側の後段に配置する濾過膜で捕集できるため、捕集率を高めることができる。単純には、1つの濾過膜で捕集率が20%であれば、2つの濾過膜を備えた複層フィルターとすることで、捕集率を20%×濾過膜数として、処理時間当たりの捕集率を飛躍的に高めることができる。なお、捕集率は正確には、捕集率=(1−0.8膜数)×100%となる。
【0012】
特に、本発明では、濾過膜の間に中間貯溜膜を介在させ、該中間貯溜膜の孔径を濾過膜の孔径の1.2倍以上、好ましくは2倍以上で5μm以下としている。これにより、流入側の濾過膜を透過した処理液を次ぎの濾過膜に流入する前に流速を低下させずに一旦集めるように機能させ、ここで濾過膜の捕集できなかった捕集目標より大きな粒子を予め捕集して流出側の濾過膜の目詰まりを低減して透過速度を高めると共に微粒子の捕集率も高めている。
かつ、濾過膜を該中間貯溜膜を介して連続させることで全体を薄くでき、複層フィルターの処理液の透過時間の短縮化と捕集率向上を図ることができる。
【0013】
前記濾過膜は支持膜と一体的に設けて1組とし、該支持膜の平均孔径は前記濾過膜の平均孔径より大きいと共に厚さは該濾過膜より厚くし、
第1組の前記支持膜を、第1組の濾過膜と第2組の濾過膜の間に介在させて前記中間貯溜膜とし、
または、前記支持膜と前記中間貯溜膜とは別体とし、各組の間に前記中間貯溜膜を介在させて積層してもよい。
【0014】
平均孔径を小さくした濾過膜は流量低下を抑制するため薄くしている。しかしながら、薄膜化すると濾過膜の強度が低下し取り扱いにくいものとなる。よって、厚さを大とした支持膜とペアで組み立てて製造上で取り扱いやすいものとしている。かつ、該支持膜で流量低下を発生しないように濾過膜の孔径より支持膜の孔径を大きくしている。
【0015】
前記支持膜および前記中間貯溜膜を構成する多孔質膜の厚さは2〜100μm、平均孔径は前記濾過膜の平均孔径の1.2倍以上が好ましい。
前記支持膜を前記中間貯溜膜と別体とすると、前記範囲内で支持膜は中間貯溜膜より厚さは同等以上で且つ平均孔径は大とし、10μm以下とすることが好ましい。
【0016】
前記濾過膜の層をA層、支持膜の層をB層、中間貯溜膜の層をC層とすると、積層構成は以下のように構成できる。
A層/B層(C層を兼ねる)/A層/B層、B層/A層/C層/A層/B層、B層/A層/C層/A層/C層/A層/B層等。
濾過膜のA層の間に中間貯溜膜のC層を介在させ、両外側層は支持膜のB層とすると濾過膜を保護できるため好ましい。一方、露出面をA層とするとバクテリアの層間での繁殖等を防止できる。
【0017】
前記濾過膜の気孔率は30〜90%、前記支持膜および中間貯溜膜の気孔率は前記濾過膜の気孔率より多いことが好ましく、50〜90%である。
濾過膜の気孔率が30%未満であると流量が低下しすぎ、90%を超えると強度が低下しすぎる恐れがあることに因る。
気孔率はガーレー秒からも推定できる。ASTM−D−792に記載の方法や、膜の体積と真比重より計算して算出してもよい。この数値が高い程透過性に優れていることを示す。
【0018】
[透気度(ガーレー秒)の測定方法]
JIS P 8117(紙及び板紙の透気度試験方法)に規定のガーレー透気度試験機と同一構造の王研式透気度測定装置(旭精工(株)製)を用いて測定した。測定結果はガーレー秒で表す。
【0019】
前記積層する濾過膜、支持膜あるいは/および中間貯溜膜は、隣接する多孔質膜の界面は溶着または接着して密接一体化することが好ましい。
加熱により溶着する場合は溶融温度以上に加熱して界面を接触固着している。なお、濾過膜の厚さを1μm以下等と薄くすると加熱溶融により変形して空孔が閉鎖する恐れがあるため、溶剤可溶性の樹脂の接着剤を部分的あるいは全面に塗布して接着して一体化することが好ましい。
なお、積層する多孔質膜の界面は接着せず、積層体の外周をフレームで挟持して一体化してもよい。この場合、多孔質膜の界面に隙間が生じる場合があるが、該隙間は捕集する微粒子の溜まり部分として機能させることができる。
【0020】
本発明の多孔質複層フィルターは、その全体厚みを1.6μm〜300μmとし、1つのフィルターカートリッジに収容することが好ましい。
これは、1枚の中間貯溜膜の両面に濾過膜を積層した構成とした場合の最小厚みが、現在の製造条件上で1.6μmであり、濾過膜を3〜7枚等と多数積層すると100μm〜300μmと厚さが大となることによる。なお、300μmを越えると、フィルターカートリッジに収容する際にかさばり、膜面積を得られないことによる。
【0021】
前記積層する濾過膜、中間貯溜膜、支持膜を構成する多孔質膜はフッ素樹脂膜からなることが好ましい。フッ素樹脂薄膜は耐薬品性、耐熱性が優れる等の特徴を有していることに因る。
フッ素樹脂としては、PTFE、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリクロロ・トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、及びポリビニルフルオライドからなる群から選択される1種類、又は2種類以上の混合物が挙げられる。
【0022】
前記フッ素樹脂薄膜の中でも、PTFEを主体とする多孔質PTFEシートを前記濾過膜、中間貯溜膜あるいは/および支持膜として用いることが好ましい。
ここで、主体とするとは、少なくとも50体積%以上含まれることを意味する。又、PTFEを主体とするフッ素樹脂の中には、全てPTFEからなる樹脂も含まれる。
前記多孔質PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シートは、PTFE自体のもつ高い耐熱性、化学安定性、耐候性、不燃性、高強度、非粘着性、低摩擦係数等の特性に加えて、多孔質体のもつ可撓性、液体透過性、粒子捕捉性、低誘電率等の特性を有する。
該PTFE多孔質フィルターはその高い化学安定性等の優れた特性により、特に半導体関連分野、液晶関連分野、及び食品・医療関連分野における液体・気体の精密濾過フィルター(メンブランフィルター)として好適に用いられる。
【0023】
本発明で用いる多孔質PTFEシートからなる濾過膜は、平滑な箔またはフィルム上に、PTFEを主体とするフッ素樹脂粉末を分散媒中に分散したフッ素樹脂ディスパージョンを塗布して膜状に成形した後、該分散媒を乾燥し、フッ素樹脂を融点以上で加熱して焼結したフッ素樹脂膜を、延伸して多孔質化として形成されたものであることが好ましい。
【0024】
即ち、前記多孔質PTFEシートからなる濾過膜は本出願人の出願に係わる前記特許文献1に開示されているフッ素樹脂膜である。該フッ素樹脂膜を用いると、濾過膜の微細孔径と薄膜を両立することができる。つまり、フッ素樹脂薄膜を形成する工程、及び、前記フッ素樹脂薄膜を形成した後、前記フッ素樹脂薄膜と前記支持膜あるいは/および前記中間貯溜膜とする多孔質基体の片面、或いは両面に前記濾過膜を接着させることが容易にできる。
前記フッ素樹脂薄膜からなる濾過膜と多孔質基体からなる中間貯溜膜あるいは/および支持膜との接着は、前記のように接着剤を用いることが好ましい。該接着剤としては、溶剤可溶性あるいは熱可塑性のフッ素樹脂、フッ素ゴムを使用すれば、フッ素樹脂薄膜の素材そのものの耐熱性や耐薬品性を生かせる用途に使用することができるのでより好ましい。
【0025】
PTFEを主体とするフッ素樹脂の中でも、さらに好ましくは、熱可塑性フッ素樹脂を含む場合、又は/及び、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール等のノニオン性で分子量1万以上の水溶性ポリマーを含む場合である。これらは前記フッ素樹脂ディスパージョンの分散に影響しないとともに水分乾燥時にゲル化して膜を形成するので、欠陥がさらに少なく、ガーレー秒がより大きいフッ素樹脂薄膜が得られる。
【0026】
熱可塑性フッ素樹脂としては、溶融時の表面張力が低く、又溶融粘度の低い樹脂が、前記欠陥を抑制する効果が大きいので好ましい。具体的には、メルトフローレートが5g/10分以上のものが好ましく、10g/10分以上であればより好ましく、20g/10分以上であればさらに好ましい。
【0027】
PTFEと併用される熱可塑性フッ素樹脂として、より具体的には、PFA、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(EPA)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)等が挙げられ、これらの複数種類を混合して用いることもできる。中でもPFAは、PTFEの融点(327℃)以上で、熱分解が最も進みにくいので好ましい。特に、前記熱可塑性フッ素樹脂が、PFAであり、PFAの体積比率(固形分)が、PTFEとPFAの混合物の体積に対し20%未満である場合、欠陥が特に少なくなるので好ましい。
【0028】
フッ素樹脂ディスパージョンに用いるPTFEの分子量としては100万〜500万であることが好ましく、100万〜350万であればより好ましく、120万〜180万であればさらに好ましい。分子量が高すぎると気孔率が低下する傾向があり、分子量が低すぎると、ピンホールを生じる、延伸時に破れ易くなる等の傾向がある。PTFEの分子量の調整はPTFEの重合時に行っても良いし、高い分子量のPTFEを原料として用い、その原料に対して又はその原料から得られた成形品に対して電離放射線照射や加熱等を行い、高分子鎖を分解する方法で調整してもよい。
【0029】
また、フッ素樹脂の融解熱量は、32J/g以上が好ましい。ここで、融解熱量の測定は、熱流束示差走査熱量計(島津製作所製熱流束示差走査熱量計DSC−50)を用いて行われる。
【0030】
本発明は前記多孔質複層フィルターを分離膜として使用することを特徴とする分離膜エレメントを提供している。
本発明の中間貯溜膜を濾過膜の間に含む積層フィルターは、非常に柔軟性に富み、多孔質体の基体により機械的強度等にも優れるので、ハンドリングが容易である。従って、公知の各種の分離膜エレメントの製造に用いることができる。例えば、平膜をそのまま加工した、プリーツモジュール型分離膜エレメント、スパイラルモジュール型分離膜エレメント、又、多孔質フッ素樹脂複合体薄膜を多孔質支持体に巻き付けて管状に成形した後複数束ねた管状モジュール型分離膜エレメント等、大きな膜面積をコンパクトな容器に装填して分離膜エレメント(モジュール)を製造することができる。
この本発明の多孔質複層フィルターを、分離膜エレメントのフィルターとして使用すれば、濾過効率や保全性が高く、且つ目詰まりによる濾過効率の低下が少ない分離膜エレメントを提供することができる。そして、この分離膜エレメントで構成されたろ過システムは、半導体、食品、その他の分野等で、気液吸収、脱気、濾過用として好適に用いられる。
【発明の効果】
【0031】
以上の説明から明らかなように、本発明は、孔径を同等とした複数の濾過膜を中間貯溜膜を介在させて積層し、多段ふるいのメカニズムを利用して粒子を捕集する構成とするため、微粒子の捕集率を飛躍的に高めることができる。かつ、各濾過膜および中間貯溜膜は薄膜としているため透過する流量、流速が低下することなく複数の濾過膜に処理液を透過させて微粒子の捕集率を飛躍的に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態の多孔質複層フィルターを示す概略断面図である。
【図2】(A)〜(E)は製造工程を示す概略図である。
【図3】(A)(B)(C)は他の実施形態の多孔質複層フィルターを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の多孔質複層フィルターの実施形態を図面を参照して説明する。
図1および図2に第1実施形態の多孔質複層フィルター1(以下、フィルター1と略す)を示す。
第1実施形態のフィルター1は、濾過膜2と支持膜3とを一体化した組を2組(第1組Iと第2組II)設け、第1組Iと第2組IIとを中間貯溜膜4を介して積層している。即ち、図1に示すように、処理液流入側Aから流出側Bにかけて、第1組Iの支持膜3A、濾過膜2A、中間貯溜膜4、第2組IIの濾過膜2B、支持膜3Bを積層し、両側外面に支持膜3A、3Bを配置し、濾過膜2Aと2Bの間に中間貯溜膜4を介在させている。
【0034】
前記濾過膜2、支持膜3、中間貯溜膜4はいずれも多孔質延伸PTFEシートからなり、結節部により柔軟な繊維が網目状に連結されてなる繊維状骨格を備え、該繊維状骨格で略スリット形状の孔2h、3h、4hを囲んだ多孔質膜からなり、平均孔径および厚さは下記の設定としている。
【0035】
前記濾過膜2(2A、2B)は同一の微小孔径膜からなる。該濾過膜2は平均孔径は0.1nm〜0.1μm、好ましくは1nm〜70nm、より好ましくは10nm〜50nmとしている。厚さは0.25μm〜3μm、好ましくは1.6〜2.0μmとし、気孔率は20〜90%、好ましくは50〜80%としている。
【0036】
前記支持膜3(3A、3B)も同一の多孔質膜で形成し、平均孔径を濾過膜2の平均孔径の5〜1000倍とし、0.1μm〜10μm程度とすることが好ましい。厚さは3μm〜100μm、気孔率は20〜90%、好ましくは50〜80%としている。
【0037】
前記中間貯溜膜4は、平均孔径を濾過膜2の平均孔径の1.2倍以上5μm以下、好ましくは2倍以上とし、具体的には平均孔径を0.1μm〜5μm、好ましくは0.1〜1μmとしている。厚さは濾過膜2と支持膜3の略中間の大きさとし、具体的な厚さは3μm〜100μmとしている
【0038】
前記濾過膜2、支持膜3および中間貯溜膜4の平均孔径は前述した細孔分布測定器(パームポロメータ:CFP−1500A)で測定している。
【0039】
前記のように、本発明のフィルター1では、処理液の流入側に配置する第1組Iの濾過膜2Aと流出側に配置する第2組IIの濾過膜2Bとは、それらの孔径を同等とし、流出側の濾過膜2Bの孔径を流入側の濾過膜2Aの孔径より実質的に小さくしていない点と、この濾過膜2Aと2Bの間に平均孔径を濾過膜2A、2Bより大きくした中間貯溜膜4を介在させている点が重要である。
【0040】
前記濾過膜2Aと2Bの間に中間貯溜膜4を介在させると、濾過膜2Aで捕集できなかった目標サイズの微粒子より大きい微粒子を該中間貯溜膜4で捕集して濾過膜2Bでの目詰まり発生を抑制できる。かつ、フィルター全体の捕集率を多段ふるいのメカニズムを利用して、各濾過膜における微粒子の捕集率に濾過膜の枚数(本実施形態では2枚)を乗じた捕集率(捕集率=1ー(1−1枚の濾過膜の捕集率)濾過膜数とすることができる。
【0041】
本実施形態の濾過膜と支持膜の組が2組と中間貯溜膜から5層構造のフィルター1は、全体厚さを100〜250μmとしている。
なお、中間貯溜膜4の両面に濾過膜2A、2Bを積層した3層構造とした場合は1.6μmまで薄くでき、濾過膜を3枚とする7層構造では300μm程度まで厚くなる。
【0042】
前記第1組と第2組の濾過膜2と支持膜3は、それぞれ後述する工程で説明するように、前記予め一体化して形成し、その後、第1組の濾過膜2Aと第2組の濾過膜2Bの間に中間貯溜膜4を挟み接着剤を用いて接着してフィルター1としている。
【0043】
以下に、製造工程を図2を参照して説明する。
第1工程で、フッ素樹脂ディスパージョンを調整し、図2(A)に示す平滑な箔10上に調整したフッ素樹脂ディスパージョンを滴下し、箔10上に均一になるように伸ばす。その後、乾燥した後に焼結して、箔10上に固定されたフッ素樹脂薄膜20を形成する。 第2工程で、接着剤とするPFAディスパージョンを調整し、該接着剤23を前記箔10に固定されたフッ素樹脂薄膜20の表面に滴下し、均一に伸ばし、水分が乾燥しない間に前記支持膜とする延伸PTFE多孔質体30(住友電工ファインポリマー社製、商品名:ポアフロン)を被せる。
この状態で、所要時間、所要温度で加熱し、その後、自然冷却する。これにより延伸PTFE多孔質体30にPFAからなる接着剤23でフッ素樹脂薄膜20が接着され、さらに該フッ素樹脂薄膜20に箔10が固定された複合体を得る。
第3工程で、箔10を塩酸により溶解除去して、無孔質のフッ素樹脂薄膜20と延伸PTFE多孔質体30がPFAの接着剤23で一体に接着されたフッ素樹脂複合体25を取得する。
第4工程で、前記フッ素樹脂複合体25を延伸機にて所要倍率(本実施形態では3倍)で延伸を行い、図2(D)に示すように、無孔質のフッ素樹脂薄膜20に孔をあけて多孔質とした濾過膜2とすると共に、前記延伸PTFE多孔質体30の孔を広げて支持膜3とし、濾過膜2と支持膜3とが一体した一組の複合体5を得る。
第5工程で、図2(E)に示すように、前記取得した濾過膜2(2B)と支持膜3(3B)とからなる第2組の複合体5Bを濾過膜2Bを上層とし、その上面に前記中間貯溜膜4となる延伸PTFE多孔質膜(商品名:ポアフロン)を1枚積層し、さらにその表面に、濾過膜2(2A)と支持膜3(3A)とからなる第1組の複合体5Aを積層する。
第6工程で、積層体全体をIPAでぬらして半透明化し、肉眼で界面に空隙がないことを確認した後、乾燥させ、前記実施形態の濾過膜の間に中間貯溜膜を有する多孔質複層フィルター1を取得する。
【0044】
前記第1工程で用いるフッ素樹脂ディスパージョンを構成する分散媒としては、通常、水等の水性媒体が用いられる。フッ素樹脂ディスパージョン中のフッ素樹脂粉末の含有量は、20重量%〜70重量%の範囲が好ましい。
前記平滑な箔へのフッ素樹脂ディスパージョンの塗布は、キャピラリー方式、グラビア方式、ロール方式、ダイ(リップ)方式、スリット方式やバー方式等の塗工機を塗布装置として利用できる。特に薄膜を形成するためには、キャピラリー方式、ダイ方式、スリット方式とバー方式が好ましい。
【0045】
フッ素樹脂を塗布する方法や平滑な箔の膜厚のバラツキや撓みによっては、塗布装置の塗工治具が箔の表面に直接接触して箔表面を傷つけ、結果的にフッ素樹脂薄膜に傷が転写されて表面凹凸の発生や、酷いときはピンホールなどの欠陥が発生することがある。そこで、潤滑剤として陰イオン性界面活性剤を0.5mg/ml以上、より好ましく2.5mg/ml以上加えると摩擦係数を低くできるので、表面凹凸やピンホールなどの欠陥の発生を抑制することができる。又、陰イオン性界面活性剤の添加は、30mg/ml以下が好ましく、より好ましくは10mg/ml以下である。陰イオン性界面活性剤の量がこの上限を超えると、粘度が高くなりすぎる、樹脂の凝集が生じやすくなる等の問題が生じる傾向がある。又分解残渣が残って変色も起きやすくなる。よって、陰イオン性の界面活性剤を0.5〜30mg/ml含有するフッ素樹脂ディスパージョンを利用するのが好適である。
前記陰イオン性の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸エステル塩などのカルボン酸型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホン酸エステル塩などの硫酸エステル型、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩などのリン酸エステル型等の界面活性剤を挙げることができる。ただ、陰イオン性の界面活性剤の添加によりフッ素樹脂粉末の分散性が落ちるので、界面活性剤を配合した場合は配合後、沈降、分離等が生じない時間内に生産を完了させるか、常に超音波などの撹拌を加え続けながら生産する方法が好ましい。
塗布の後、分散媒の乾燥が行われる。乾燥は、分散媒の沸点に近い温度又は沸点以上に加熱することにより行うことができる。乾燥によりフッ素樹脂粉末からなる皮膜が形成されるが、この皮膜を、フッ素樹脂の融点以上に加熱して焼結することにより、フッ素樹脂の薄膜を得ることができる。
【0046】
前記取得するフッ素樹脂の薄膜にボイドやクラック等の欠陥を低減する効果は、PTFEを主体とするフッ素樹脂粉末に、高濃度条件でゲル化する水溶性ポリマーを添加することによっても得られる。前記熱可塑性フッ素樹脂とこの水溶性ポリマーをともに添加することにより、前記効果はより顕著になる。
この水溶性ポリマーがノニオン性であれば、フッ素樹脂の分散性への影響がないか少ない。従って、水溶性ポリマーとしては、アニオン性、カチオン性よりもノニオン性のものが好ましい。又、このノニオン性の水溶性ポリマーの分子量は1万以上が好ましい。分子量を1万以上とすることにより、乾燥の際、水が完全に除去される前にゲル化して膜を形成するので、水の表面張力に起因するクラックの発生を抑制することができる。
前記水溶性ポリマーとしては、具体的には、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、デンプン、アガロース等を挙げることができる。
又、フッ素樹脂ディスパージョン中の水溶性ポリマー含有量は、1mg/ml以上で、34mg/ml以下が好ましい。1mg/ml未満の場合は、水溶性ポリマーを含有させる効果が充分発揮されない場合があり、一方34mg/mlを越えるとフッ素樹脂ディスパージョンの粘度が高くなりすぎ、取り扱いにくくなる場合がある。
【0047】
前記延伸工程前で、フッ素樹脂薄膜20は、ガーレー秒が1000秒以上であるものが好ましい。ガーレー秒が1000秒以上であるものは、ボイドやクラック等の欠陥がより少ないものであり、又膜厚が20μm以下であるので、フィルターとして高い処理速度が得られる。特に、ガーレー秒が5000秒以上であると、欠陥がさらに少ないものとなり、さらに好ましい。
【0048】
ここでガーレー秒とは、JIS−P8117等に記載されている透気度(空気の透過量)を表す数値で、具体的には、100mlの空気が645cmの面積を通過する時間(秒)を表す。薄膜が欠陥を有する場合は、その欠陥を通って空気が透過するので、ガーレー秒は小さくなるが、欠陥が少なくなるに従って空気が透過しにくくなり、ガーレー秒は増大する。
【0049】
前記第4工程の延伸工程における延伸条件は、フッ素樹脂複合体25を延伸する温度は、フッ素樹脂の融点よりも低い100℃以下が好ましく、更には50℃以下が好ましい。得られる多孔質フッ素樹脂複合体は、孔径が微小均一で高気孔率であるとともに、欠陥の少ない多孔質フッ素樹脂薄膜により形成される。この膜は、膜厚が薄いので処理速度が高く優れたろ過性を示す。又、多孔質フッ素樹脂薄膜と多孔質体の基体を複合したものであるので、耐薬品性や耐熱性、機械的強度も優れている。従って、本発明の多孔質フッ素樹脂複合体は、優れたろ過性を示すとともに、耐薬品性や耐熱性、機械的強度にも優れ、フィルターとして好適である。
【0050】
以下、本発明の実施例1、2、比較例1、2および参考例1、2の膜を試作し、前記した測定方法で平均孔径、透気度(ガーレー秒)を測定し、30nm粒子の捕集率は以下の方法で測定した。
【0051】
[捕集率の測定方法]
外径0.030μmの真球状ポリスチレン粒子ラテックス(Bangs Laboratories,Inc製カタログコード:DS02R)をポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル0.1%水溶液で50倍に希釈し、この液を試験液とする。試作したサンプルをφ47mmのディスク状に打ち抜いて、イソプロパノールを含浸した後、濾過ホルダー(有効面積9.61cm)に固定し、差圧0.42kgf/cmで試験液5mlを濾過した。試験液と濾過液の標準粒子濃度は、分光光度計((株)島津製作所製 UV−160)を用いて300nmの吸光度から粒子濃度を測定し、以下の式より捕集率を求めた。
捕集率=〈1−(濾過液の標準粒子濃度)/(試験液の標準粒子濃度)〉×100[%]
【0052】
「参考例1」
融解熱量が50J/gのPTFEディスパージョン34JR(三井・デュボンフロロケミカル社製)とMFAラテックスD5010(ソルベイソレクシス社製)、およびPFAディスパージョン920HP(三井・デュボンフロロケミカル社製)とを用い、MFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)及びPFA/(PTFE+MFA+PFA)(体積比)が各2%であるフッ素樹脂ディスパージョンを調整した。さらに、分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度0.003g/ml、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミン(花王社製20T)を10mg/mlとなるように添加してフッ素樹脂ディスパージョンを調整した。
次に、厚さ50nmのアルミ箔をガラス平板の上に雛がないように広げて固定し、前記で調整したフッ素樹脂ディスパージョンを滴下した後、日本ベアリング社製のステンレス製のスライドシャフト(ステンレスファインシャフトSNSF型、外径20mm)を滑らすようにしてフッ素樹脂ディスパージョンをアルミ箔一面に均一になるように伸ばした。この箔を80℃で60分乾燥、250℃で1時間加熱、340℃で1時間加熱の各工程を経た後、自然冷却し、アルミ箔上に国定されたフッ素樹脂薄膜を形成させた。
フッ素樹脂薄膜が形成される前後のアルミ箔の単位面積当たりの重量差とフッ素樹脂の真比重(2.25g/cm)から算出したフッ素樹脂薄膜の平均厚さは約1.6μmであった。
次に、920HPを蒸留水で4倍の容積に薄めたPFAディスパージョンに、さらに、分子量200万のポリエチレンオキサイドを濃度0.003g/ml、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルトリエタノールアミン(花王社製20T)を10mg/mlとなるように添加した4倍希釈のPFAディスパージョンを調整した。
前記アルミ箔上に固定されたフッ素樹脂薄膜を、ガラス平板の上に、皺がないように広げて固定し、4倍希釈のPFAディスパージョンを滴下した。その後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス製のスライドシャフトを滑らすようにして4倍希釈のPFAディスパージョンをフッ素樹脂薄膜一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、公称孔径0.45μm、厚さ80μmの延伸PTFE多孔質体(住友電工ファインポリマー社製、商品名:ポアフロンFP−045−80(平均流量孔径0.173μm、気孔率:74%、がーレー秒=10.7秒)を被せた。
その後、80℃で60分乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で3時間加熱した。この各工程を経た後、自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上にPTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAでフッ素樹脂薄膜が接着され、さらにその上にアルミ箔が固定された複合体を得た。
次いで、アルミ箔を塩酸により溶解除去して、試験体を得た。この試験体のガーレー秒は5000秒以上で、フッ素樹脂薄膜側から室温でエタノールを接触させてみたが、浸透するような穴は無かった。エタノールが浸透しない実質的に無孔質のフッ素樹脂薄膜を含むフッ素樹脂複合体であることが示された。
次に、特別製の横軸延伸機にて、入口チャック幅230mm、出口690mm、延伸ゾーンの長さ1m、ライン速度6m/分、25℃で、3倍の延伸を行い、試作膜を得た。
【0053】
前記参考例1の試作膜は、試薬GALWICK(プロピレン,1,1,2,3,3,3酸化ヘキサフッ酸:Porous Materials社製)で測定した平均流量孔径は69nm、ガーレー秒は24秒であった。30nm粒子捕集率は25%であった。
【0054】
「参考例2」
住友電工ファインポリマー(株)製の公称孔径0.10μmの延伸PTFE多孔質体(商品名:ポアフロンHP−010−30)を参考例2とした。
参考例2の膜の平均流量孔径は0.114μm、厚み30μm、気孔率63%、ガーレー秒は17秒、30nm粒子捕集率は0%だった。
【0055】
「実施例1」
前記参考例1の濾過膜(1.6μm薄膜)が上になるように結晶化ガラス平板の上に広げ、濾過膜に密着するように、住友電工ファインポリマー(株)製の公称孔径0.10μmの延伸PTFE多孔質膜(商品名:ポアフロンHP−010−30)を一枚積層した。更にその上に参考例1の濾過膜(1.6μm薄膜)側がHP−010−30に接して密着するように積層した。
次に積層体全体をIPAでぬらして半透明化し、肉眼で界面に空隙がないことを確認した後、乾燥させ、中間貯溜膜を濾過膜の間に有する積層膜を得た。
実施例1の膜の平均孔径は69nm、ガーレー秒は55秒、30nm粒子捕集率は40%だった。
【0056】
「実施例2」
前記参考例1の濾過膜(1.6μm薄膜)が上になるように耐熱性の結晶化ガラス平板の上に広げて固定し、前述と同じ4倍希釈のPFAディスパージョンを滴下した。その後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス製のスライドシャフトを滑らすようにして4倍希釈のPFAディスパージョンを濾過膜表面一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、濾過膜に密着するように、貯溜膜となる住友電工ファインポリマー(株)製の公称孔径0.10μmの延伸PTFE多孔質膜 商品名:ポアフロンHP−010−30を一枚積層した。更にその上に、4倍希釈のPFAディスパージョンを滴下した後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス製のスライドシャフトを滑らすようにして4倍希釈のPFAディスパージョンを貯溜膜表面一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、参考例1の濾過膜(1.6μm薄膜)側を下にしてHP−010−30に接して密着するように積層した。その後80℃で60分乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で3時間加熱の各工程を経た後自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上にPTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAでフッ素樹脂薄膜が接着した後、結晶化ガラス板から取り外し、中間貯溜膜を濾過膜の間に有する一体積層品を得た。
実施例2の膜の平均孔径は69nm、でガーレー秒は58秒、30nm粒子捕集率は45%だった。
【0057】
「比較例1」
前記参考例1の濾過膜(1.6μm薄膜)が上になるように耐熱性の結晶化ガラス平板の上に広げて固定した。その上に参考例1の濾過膜(1.6μm薄膜)側を下にして、濾過膜同士が接して密着するように積層した。次に積層体全体をIPAでぬらして半透明化し、肉眼で界面に空隙がないことを確認した後、乾燥させ、結晶化ガラスから取り外した。
比較例1の膜の平均孔径は69nm、ガーレー秒は50秒、30nm粒子捕集率は23%だった。
【0058】
「比較例2」
参考例1の濾過膜(1.6μm薄膜)が上になるようにガラス平板の上に広げて固定した。この上に前述と同じ4倍希釈のPFAディスパージョンを滴下した後、前記と同じ日本ベアリング社製のステンレス製のスライドシャフトを滑らすようにして4倍希釈のPFAディスパージョンを濾過膜表面一面に均一になるように伸ばしながら、水分が乾燥しない間に、その上に参考例1の濾過膜(1.6μm薄膜)側を下にして、濾過膜同士が接して密着するように積層した。その後80℃で60分乾燥、250℃で1時間加熱、320℃で1時間加熱、317.5℃で3時間加熱の各工程を経た後自然冷却して、延伸PTFE多孔質体上にPTFEよりも融点の低い熱可塑性のPFAでフッ素樹脂薄膜が接着した後、結晶化ガラス平板から取り外し、一体積層品を得た。
比較例2の膜の平均孔径は69nm、ガーレー秒は55秒、30nm粒子捕集率は20%だった。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すとおり、中間貯溜膜が存在する場合において多段ふるいの効果が発現した。また透過性をガ−レー秒にみると、重ねた分の圧力損失しか生じないことが確認できた。
【0061】
本発明の多孔質複層フィルター1は第1実施形態に限定されず、図3(A)(B)(C)に示す第2、第3、第4実施形態の積層構造としてもよい。
図3(A)の第2実施形態では、中間貯溜膜4の両面に濾過膜2A、2Bを接着剤で接着した3層構造としている。他の構成は第1実施形態と同様であるため同一符号を付して説明を省略する。
図3(B)の第3実施形態は、濾過膜2と一体に製造した支持膜3を中間貯溜膜として用いている。即ち、第1組の濾過膜2A、支持膜3A、第2組の濾過膜2B、支持膜3Bを積層し、第1膜の支持膜3Aと第2組の濾過膜2Bとは接着剤で接着している。
図3(C)の第4実施形態では、第1組の支持膜3A、濾過膜2A、中間貯溜膜4、濾過膜2、中間貯溜膜4、第2組の濾過膜2B、支持膜3Bと積層している。
この第4実施形態のように、同等の平均孔径を有する濾過膜を3層配置すると、捕集率は1層の場合の約3倍になり、処理時間の増大を抑制しながら捕集率を飛躍的に高めることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 多孔質複層フィルター
2(2A、2B) 濾過膜
3(3A、3B) 支持膜
4 中間貯溜膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の濾過膜と、該濾過膜の間に介在させる多孔質膜からなる中間貯溜膜を備え、
前記複数の濾過膜の平均孔径は同等とすると共に、前記中間貯溜膜の平均孔径は前記濾過膜の平均孔径の1.2倍以上5μm以下としていることを特徴とする多孔質複層フィルター。
【請求項2】
前記中間貯溜膜は、結節部により柔軟な繊維が網目状に連結されてなる繊維状骨格を備え、該繊維状骨格で略スリット形状の孔を囲んだ多孔質膜からなり、
前記各濾過膜の厚さは0.25〜15μm、平均孔径は0.1μm以下である請求項1に記載の多孔質複層フィルター。
【請求項3】
前記濾過膜は支持膜と一体的に設けて1組とし、該支持膜の平均孔径は前記濾過膜の平均孔径より大きいと共に厚さは該濾過膜より厚くし、
第1組の前記支持膜を、第1組の濾過膜と第2組の濾過膜の間に介在させて前記中間貯溜膜とし、
または、前記支持膜と前記中間貯溜膜とは別体とし、各組の間に前記中間貯溜膜を介在させて積層している請求項1または請求項2に記載の多孔質複層フィルター。
【請求項4】
前記支持膜および中間貯溜膜の厚さは2〜100μm、平均孔径は0.1μmを越えて10μm以下であり、前記中間貯溜膜と別体とする前記支持膜は、前記範囲で厚さ及び平均孔径を大としている請求項3に記載の多孔質複層フィルター。
【請求項5】
積層する前記濾過膜、前記中間貯溜膜あるいは/および前記支持膜の隣接する境界面は密着または接着して一体としている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の多孔質複層フィルター。
【請求項6】
全体厚みが1.6μm〜300μmである請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の多孔質複層フィルター。
【請求項7】
前記濾過膜、中間貯溜膜あるいは/および支持膜とする多孔質膜はフッ素樹脂製である請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の多孔質複層フィルター。
【請求項8】
前記多孔質膜は多孔質延伸PTFEからなる請求項7に記載の多孔質複層フィルター。
【請求項9】
前記多孔質延伸PTFE製の濾過膜は、膜状に成形した後にフッ素樹脂を融点以上で加熱して焼結したフッ素樹脂膜を、延伸して多孔質化として形成されたものである請求項8に記載の多孔質複層フィルター。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の多孔質複層フィルターを分離膜として使用することを特徴とする分離膜エレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−120969(P2012−120969A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272978(P2010−272978)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】