説明

多孔質部材製造方法

【課題】ナノミクロンオーダーの孔径で相互に連通する孔を備える多孔質部材の製造。
【解決手段】第一原料液300を空間中に流出させる流出工程と、第一原料液300を帯電させる帯電工程と、原料液300が静電爆発することにより製造されるナノファイバ301を所定の場所に誘引する誘引工程と、ナノファイバ301を受け止めて堆積対象部材101に堆積させ堆積体142を形成する堆積工程と、堆積体142に第二原料液310を含浸させる含浸工程と、第二原料液310を固化させて中間部材143を形成する固化工程と、中間部材143から堆積体142を溶媒で溶解して除去する除去工程とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は多孔質部材の製造方法に関し、特にナノオーダーの孔径を備え、三次元的に連通した孔を備える多孔質部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質部材を製造する方法は種々提案されている。例えば、特許文献1には、ポリエステル系熱可塑性樹脂からなる多孔質部材の製造方法が開示されている。具体的には、熱可塑性樹脂と、水溶性気泡形成材と、滑材として作用する水溶性高分子化合物とを加熱状態下で混合して得られる混合物から、前記水溶性気泡形成材および水溶性高分子化合物を水で抽出除去して、3次元連通気泡構造を備えた多孔質部材を製造している。
【特許文献1】特開2003−342410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、気泡を熱可塑性樹脂の中に形成する場合、気泡径が50μm以上となり、それ以下の微細な孔を有する多孔質部材を製造することは困難であった。また、孔径がナノオーダであり、かつ、連続した孔を備える多孔質部材を製造することはさらに困難であった。
【0004】
本願発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ナノオーダーの孔径であり、かつ、三次元的に連通している孔を備える多孔質部材の製造法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本願発明にかかる多孔質部材製造方法は、ナノファイバの原料となる第一原料液を空間中に流出させる流出工程と、前記第一原料液を帯電させる帯電工程と、前記原料液が静電爆発することにより製造されるナノファイバを所定の場所に誘引する誘引工程と、前記誘引工程により誘引されるナノファイバを受け止めて堆積対象部材に堆積させ、堆積体を形成する堆積工程と、形成された前記堆積体に多孔質部材の原料となる第二原料液を含浸させる含浸工程と、前記堆積体に含浸された第二原料液を固化させて中間部材を形成する固化工程と、前記中間部材から前記堆積体を溶媒で溶解して除去する除去工程とを含むことを特徴とする。
【0006】
これにより、ナノオーダーの孔径であり、かつ、三次元的に連通している孔を備える多孔質部材を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次に、本願発明にかかる実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本願発明の実施の形態である多孔質部材製造装置を模式的に示す断面図である。
【0008】
同図に示すように、多孔質部材製造装置100は、放出手段200と、誘引手段110と、堆積対象部材101と、含浸手段120と、除去手段130とを備えている。
【0009】
放出手段200は、帯電した第一原料液300や製造されるナノファイバ301を気体流に乗せて放出することができるユニットであり、流出手段201と、帯電手段202と、風洞体209と、気体流発生手段203と、案内体206とを備えている。
【0010】
ここで、ナノファイバを製造するための原料液については、第一原料液300と記し、製造されたナノファイバについてはナノファイバ301と記すが、ナノファイバ301の製造に際しては第一原料液300が静電爆発しながらナノファイバ301に変化していくため、第一原料液300とナノファイバ301との境界は曖昧であり、明確に区別できるものではない。
【0011】
図2は、放出手段を示す断面図である。
図3は、放出手段を示す斜視図である。
【0012】
これらの図に示すように、流出手段201は、第一原料液300を空間中に流出させる装置であり、本実施の形態では、第一原料液300を遠心力により放射状に流出させ、風洞体209の内包に原料液を流出させる装置である。流出手段201は、流出体211と、回転軸体212と、モータ213とを備えている。
【0013】
流出体211は、第一原料液300を空間中に流出させる装置である。本実施の形態の場合、流出体211は、第一原料液300が内方に注入されながら、自身の回転による遠心力により空間中に第一原料液300を流出させることのできる容器であり、一端が閉塞された円筒形状となされ、周壁には流出孔216を多数備えている。流出体211は、貯留する第一原料液300に電荷を付与するため、導電体で形成されている。流出体211は支持体(図示せず)に設けられるベアリング215により回転可能に支持されている。
【0014】
具体的には、流出体211の直径は、10mm以上、300mm以下の範囲から採用されることが好適である。あまり大きすぎると後述の気体流により第一原料液300やナノファイバ301を集中させることが困難になるからであり、また、流出体211の回転軸が偏心するなど、重量バランスが少しでも偏ると大きな振動が発生してしまい、当該振動を抑制するために流出体211を強固に支持する構造が必要となるからである。一方、小さすぎると遠心力により第一原料液300を流出させるための回転を高めなければならず、駆動源の負荷や振動など問題が発生するためである。さらに流出体211の直径は、20mm以上、100mm以下の範囲から採用することが好ましい。
【0015】
また、流出孔216の形状は円形が好ましく、その直径は、流出体211の肉厚にもよるが、おおよそ0.01mm以上、3mm以下の範囲から採用することが好適である。これは、流出孔216があまりに小さすぎると第一原料液300を流出体211の外方に流出させることが困難となるからであり、あまりに大きすぎると一つの流出孔216から流出する第一原料液300の単位時間当たりの量が多くなりすぎ(つまり、流出する第一原料液300が形成する線の太さが太くなりすぎ)て所望の径のナノファイバ301を製造することが困難となるからである。
【0016】
なお、流出体211の形状は、円筒形状に限定するものではなく、断面が多角形状の多角筒形状のようなものや円錐形状のようなものでもよい。流出孔216が回転することにより、流出孔216から第一原料液300が遠心力で流出可能な形状であればよい。また、流出孔216の形状は、円形に限定することなく、多角形状や星形形状などであってもよい。
【0017】
回転軸体212は、流出体211を回転させ、遠心力により第一原料液300を流出させるための駆動力を伝達するための軸体であり、流出体211の他端から流出体211の内部に挿通され、流出体211の閉塞部と一端部が接合される棒状体である。また、他端はモータ213の回転軸と接合されている。
【0018】
モータ213は、遠心力により第一原料液300を流出孔216から流出させるために、回転軸体212を介して流出体211に回転駆動力を付与する装置である。なお、流出体211の回転数は、流出孔216の口径や使用する第一原料液300の粘度や原料液内の高分子物質の種類などとの関係により、数rpm以上、10000rpm以下の範囲から採用することが好ましく、本実施の形態のようにモータ213と流出体211とが直動の時はモータ213の回転数は、流出体211の回転数と一致する。
【0019】
帯電手段202は、第一原料液300に電荷を付与して帯電させる装置である。本実施の形態の場合、帯電手段202は、誘導電極221と、誘導電源222と、接地手段223とを備えている。また、流出体211も帯電手段202の一部として機能している。
【0020】
誘導電極221は、自身がアースに対し高い電圧となることで、近傍に配置され接地されている流出体211に電荷を誘導するための部材であり、流出体211の先端部分を取り囲むように配置される円環状の部材である。また、誘導電極221は、気体流発生手段203からの気体流を案内体206に案内する風洞体209としても機能している。
【0021】
誘導電極221の大きさは、流出体211の直径よりも大きい必要があるが、その直径は、200mm以上、800mm以下の範囲から採用されることが好適である。
【0022】
誘導電源222は、誘導電極221に高電圧を印加することのできる電源である。なお、誘導電源222は、一般には、直流電源が好ましい。特に、発生させるナノファイバ301の帯電極性に影響受けないような場合、生成したナノファイバ301の帯電を利用して、電極上に回収するような場合には、直流電源が好ましい。また、誘導電源222が直流電源である場合、誘導電源222が誘導電極221に印加する電圧は、10KV以上、200KV以下の範囲の値から設定されるのが好適である。特に、流出体211と誘導電極との間の電界強度が重要であり、1KV/cm以上の電界強度になるように印加電圧や誘導電極221の配置を行うことが好ましい。なお、誘導電極221の形状は、円環状に限ったものではなく、多角形状を有する多角形環状の部材であってもよい。
【0023】
接地手段223は、流出体211と電気的に接続され、流出体211を接地電位に維持することができる部材である。接地手段223の一端は、流出体211が回転状態であっても電気的な接続状態を維持することができるようにブラシとして機能するものであり、他端は大地と接続されている。
【0024】
本実施の形態のように帯電手段202に誘導方式を採用すれば、流出体211を接地電位に維持したまま第一原料液300に電荷を付与することができる。流出体211が接地電位の状態であれば、流出体211に接続される回転軸体212やモータ213などの部材を流出体211から電気的に絶縁する必要が無くなり、流出手段201として簡単な構造を採用しうることになり好ましい。なお、実施例では、誘導電極221は、自身がアースに対し高い電圧となるようにしたが、低い電圧になるように誘導電源222の極性を逆にしてもよい。このようにすることで、流出孔216から流出する第一原料液300は正の電荷を有することになる。
【0025】
なお、帯電手段202として、流出体211に電源を接続し、流出体211を高電圧に維持し、誘導電極221を接地することで第一原料液300に電荷を付与してもよい。また、流出体211を絶縁体で形成すると共に、流出体211に貯留される第一原料液300に直接接触する電極を流出体211内部に配置し、当該電極を用いて第一原料液300に電荷を付与するものでもよい。
【0026】
気体流発生手段203は、流出体211から流出される第一原料液300の飛行方向を案内体206で案内される方向に変更するための気体流を発生させる装置である。気体流発生手段203は、モータ213の背部に備えられ、モータ213から流出体211の先端に向かう気体流を発生させる。気体流発生手段203は、流出体211から径方向に流出される第一原料液300が誘導電極221に到達するまでに前記第一原料液300を軸方向に変更することができる風力を発生させることができるものとなっている。図2において、気体流は矢印で示している。本実施の形態の場合、気体流発生手段203として、放出手段200の周囲にある雰囲気を強制的に送風する軸流ファンを備える送風機が採用されている。
【0027】
なお、気体流発生手段203は、シロッコファンなど他の送風機により構成してもかまわない。また、高圧ガスを導入することにより流出された第一原料液300の方向を変更するものでもかまわない。また、吸引手段102などにより案内体206内方に気体流を発生させるものでもかまわない。この場合、気体流発生手段203は積極的に気体流を発生させる装置を有しないこととなるが、本願発明の場合、案内体206の内方に気体流が発生していることをもって気体流発生手段203が存在しているものとする。また、気体流発生手段203を有しない状態で、吸引手段102により吸引することで、風洞体209や案内体206の内方に気体流を発生させるようにすることも気体流発生手段が存在しているものとする。また、気体流発生手段203を有しない状態で、吸引手段102により吸引することで、風洞体209や案内体206の内方に気体流が発生する場合、吸引手段102が気体流発生手段として機能しているとみなす。
【0028】
風洞体209は、気体流発生手段203で発生した気体流を流出体211の近傍に案内する導管である。風洞体209により案内された気体流が流出体211から流出された第一原料液300と交差し、第一原料液300の飛行方向を変更する。
【0029】
さらにまた、放出手段200は、気体流制御手段204と、加熱手段205とを備えている。
【0030】
気体流制御手段204は、気体流発生手段203により発生する気体流が流出孔216に当たらないよう気体流を制御する機能を有するものであり、本実施の形態の場合、気体流制御手段204として、気体流を所定の領域に流れるように案内する風路体が採用されている。気体流制御手段204により、気体流が直接流出孔216に当たらないため、流出孔216から流出される第一原料液300が早期に蒸発して流出孔216を塞ぐことを可及的に防止し、第一原料液300を安定させて流出させ続けることが可能となる。なお、気体流制御手段204は、流出孔216の風上に配置され気体流が流出孔216近傍に到達するのを防止する壁状の防風壁でもかまわない。
【0031】
加熱手段205は、気体流発生手段203が発生させる気体流を構成する気体を加熱する加熱源である。本実施の形態の場合、加熱手段205は、案内体206の内方に配置される円環状のヒータであり、加熱手段205を通過する気体を加熱することができるものとなっている。加熱手段205により気体流を加熱することにより、空間中に流出される第一原料液300は、蒸発が促進され効率よくナノファイバを製造することが可能となる。
【0032】
案内体206は、製造されるナノファイバ301を所定の場所に案内する風洞を形成する円筒体である。
【0033】
また、案内体206と誘導電極221との間には隙間208が設けられている。当該隙間を設けることにより、ベンチュリ効果が発生し、案内体206内方の気体流の流量を増加させ、ナノファイバ301が案内体206内壁に付着するのを防止することができる。
【0034】
誘引手段110(図1参照)は、案内体206から放出されるナノファイバ301を収集するための装置であり、誘引電極112と、誘引電源113と、吸引手段102とを備えている。
【0035】
誘引電極112は、帯電しているナノファイバ301を電界(電場)により吸引する部材であり、矩形の板状の電極である。また、気体流を通過させることができる孔を多数備えている。
【0036】
誘引電源113は、誘引電極112に電位を付与するための電源であり、本実施の形態の場合は直流電源が採用されている。
【0037】
吸引手段102は、誘引電極112の背部に配置され、ナノファイバ301と分離状態となり誘引電極112を通過して流出する気体流を強制的に吸引する装置である。本実施の形態では、吸引手段102として、シロッコファンや軸流ファンなどの送風機が採用されている。
【0038】
堆積対象部材101は、静電爆発により製造され飛来するナノファイバ301が堆積される対象となる部材であり、堆積体142が形成される基礎となる部材である。堆積対象部材101は、堆積したナノファイバ301などと容易に分離可能な材質で構成された薄く柔軟性のある長尺のシート状の部材である。具体的には、堆積対象部材101として、アラミド繊維からなる長尺の布を例示することができる。さらに、堆積対象部材101の表面にテフロン(登録商標)コートを行うと、堆積したナノファイバ301を堆積対象部材101から剥ぎ取る際の剥離性が向上するため好ましい。堆積対象部材101は、ナノファイバ301を堆積可能で、かつ、気体流を通過可能なメッシュ構造となっている。
【0039】
含浸手段120は、堆積対象部材101上に形成された堆積体142に多孔質部材144の原料となる第二原料液310を含浸させ、中間部材143を形成する装置である。本実施の形態の場合、含浸手段120は、第二原料液310を堆積体142に対し塗布することのできる装置である。
【0040】
除去手段130は、中間部材143から堆積体142を溶媒で溶解して除去する装置である。本実施の形態の場合、除去手段130は、溶媒を貯留する貯留槽131と、中間部材143を溶媒に浸漬するための軌道を形成するローラ133と、溶媒に浸漬された中間部材143に対し超音波振動を付加する、超音波発生装置132とを備えている。
【0041】
次に、上記構成の多孔質部材製造装置100を用いた多孔質部材144の製造方法を説明する。
【0042】
まず、堆積対象部材101に対し、含浸手段120と同様の塗布装置121を用い、第二原料液310を塗布し、堆積対象部材101表面に下地141を形成する(下塗り工程)。堆積対象部材101は、放出手段200から除去手段130に向かう方向にゆっくりと移動している。
【0043】
以上のように、ナノファイバ301を堆積させる前の堆積対象部材101の表面に第二原料液310を塗布し、下地141を形成することで、後述の中間部材143の表面にナノファイバ301が露出することが無くなる。従って、表面に孔や溝が存在しない多孔質部材144を製造することが可能となる。
【0044】
次に、放出手段200からナノファイバ301を堆積対象部材101に対して放出し、第二原料液310が下塗りされた堆積対象部材101上にナノファイバ301を堆積させていく。
【0045】
ここで、ナノファイバ301の放出方法を説明する。
まず、気体流発生手段203により、案内体206や風洞体209の内部に気体流を発生させる。一方、吸引手段102により、案内体206内に発生する気体流を吸引する。案内体206内を通過する気体流により、案内体206の内方は案内体206外方よりも圧力が低くなっているため、隙間208から案内体206外方の雰囲気(本実施の形態の場合は空気)が流入する。いわゆるベンチュリ効果である。
【0046】
次に、流出手段201の流出体211に第一原料液300を供給する。第一原料液300は、別途タンク(図示せず)に蓄えられており、供給路217(図2参照)を通過して流出体211の他端部から流出体211内部に供給される。
【0047】
次に、誘導電源222により流出体211に貯留される第一原料液300に電荷を供給しつつ(帯電工程)、流出体211をモータ213により回転させて、遠心力により流出孔216から帯電した第一原料液300を流出する(流出工程)。
【0048】
流出体211の径方向放射状に流出された第一原料液300は、気体流により飛行方向が変更され、気体流に乗り風洞体209により案内される。第一原料液300は静電爆発によりナノファイバ301を製造しつつ(ナノファイバ製造工程)案内体206に搬送される。また、前記気体流は、加熱手段205により加熱されており、第一原料液300の飛行を案内しつつ、第一原料液300に熱を与えて溶媒の蒸発を促進している。
【0049】
ここで、案内体206の端部に配置される隙間208からは空気が流入しているため、ナノファイバ301は、案内体206の軸心方向に押し付けられながら搬送される(搬送工程)。従って、ナノファイバ301は案内体206の内壁に付着することなく案内体206の軸心に沿って案内される。
【0050】
この状態において、案内体206の開口部に配置されている誘引電極112は、ナノファイバ301の帯電極性とは逆極性に帯電しているため、ナノファイバ301を引きつける。さらに、吸引手段102により気体流を吸引するため、ナノファイバ301は、堆積対象部材101上に誘引され堆積していく(誘引工程、堆積工程)。そして、堆積対象部材101上に堆積体142が形成される。
【0051】
ここで、ナノファイバ301や多孔質部材144を構成する高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記高分子物質に限定されるものではない。
【0052】
ただし、ナノファイバ301を構成する高分子物質と多孔質部材144を構成する高分子物質とは異なる。具体的には、ナノファイバ301を構成する高分子物質を溶解することができる溶液がAである場合、多孔質部材144を構成する高分子物質は、溶液Aに対しては難溶、または、溶解しない性質を備える必要がある。
【0053】
第一原料液300に使用される溶媒や第二原料液310に使用される溶媒、除去手段130に用いられる溶液としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記溶媒に限定されるものではない。
【0054】
次に、堆積体142に第二原料液310を含浸させる(含浸工程)。本実施の形態の場合、含浸工程は、堆積体142に対し、含浸手段120を用い第二原料液310を塗布することにより、第二原料液310を堆積体142に含浸させる。この段階で、下地141と含浸した第二原料液310は一体となる。
【0055】
なお、図4に示すように、堆積体142を第二原料液310に浸漬することにより、第二原料液310を堆積体142に含浸させるものでも良い。
【0056】
次に、含浸させた第二原料液310を固化させ中間部材143を形成する(固化工程)。第二原料液310は、放置により固化させてもかまわないが、本実施の形態の場合、固化手段122により第二原料液310を強制的に固化し、中間部材143を形成している。
【0057】
ここで、固化手段122とは、例えば、熱風を照射して第二原料液310を固化させるドライヤーや、赤外線などの光を当てて第二原料液310を固化させるもの、電気ヒータなどにより加熱して固化させるものなどを例示することができる。
【0058】
次に中間部材143から、堆積体142を除去する(除去工程)。すなわち、中間部材143からナノファイバ301を除去する。本実施の形態の場合、中間部材143をヒータにより温度が調整された溶媒に浸漬し、超音波発生装置132により中間部材143に超音波を付加することで中間部材143から、堆積体142を除去している。
【0059】
以上により、多孔質部材144が製造される。この多孔質部材144は、ナノファイバ301が三次元的に絡まって形成される堆積体142に、第二原料液310が含浸され固化して中間部材143が形成され、当該中間部材143から堆積体142が除去されて製造されるものである。従って、多孔質部材144は、孔径がナノオーダーでかつ三次元的に絡まった状態の孔が形成されている。また、当該孔は連続しており、多孔質部材144は連続多孔質となっている。
【0060】
次に、他の堆積工程を説明する。
図5は、他の堆積工程に用いられる放出手段と、誘引手段(帯電手段)と、堆積対象部材とを示す斜視図である。
【0061】
放出手段200を構成する流出手段201は、固定された複数本のノズルが斜めに並んで配置された流出体211を備えている。前記ノズルは第一原料液300が供給される供給路217に接続され、圧力により第一原料液300を噴射することができるものである。また、流出体211は、導電体で形成されており、接地されている。従って、流出体211は、帯電手段202としても機能している。
【0062】
以下、誘引手段110として装置の態様を説明するが、本実施の形態の場合、下記装置は同時に帯電手段202としても機能するものである。
【0063】
誘引手段110は、円周上に配置された複数の導電円筒117と、誘引電極112とを備えている。
【0064】
導電円筒117は、軸心を中心として自転自在で有ると共に、配置された円周上を公転可能となっている。なお、導電円筒117の公転は、図示しない駆動源により行われる。
【0065】
誘引電極112は、流出体211と対向する位置に配置されており、導電円筒117の内側から導電円筒117に接触するように配置されている。このように、誘引電極112と接触する導電円筒117は、公転により流出体211と対向する位置に部分のみ誘引電極112として機能する。従って、回転体の径が大きな場合であっても不必要な部分に電場が形成されることが回避され、必要な部分にナノファイバ301を誘引することが可能となる。
【0066】
また、誘引電極112とこれに接触する導電円筒117は、誘導電極221としても機能している。つまり、接地電位である流出体211と、誘引電極112等との間には誘引電源113(誘導電源222)により高電圧が印加される。従って、流出体211には電荷が誘導され、当該電荷により第一原料液300が帯電する。
【0067】
堆積対象部材101は、導電円筒117が配置される円周上に配置されており、導電円筒117の公転に従って堆積対象部材101も公転するものとなっている。また、堆積対象部材101は、導電円筒117が配置される円周の内方に配置され、導電円筒117の公転と同期し、導電円筒117の公転軸と同じ位置を軸として公転する供給ロール118から供給され、同様に公転する回収ロール119で回収されるものとなっている。
【0068】
以上により、堆積対象部材101を高速で公転させることが可能となる。
堆積工程においては、導電円筒117と堆積対象部材101とを高速に公転させることで、ナノファイバ301の到達速度と同等、またはそれ以上の速さで堆積対象部材101を移動させる。このような状態でナノファイバ301を堆積させることによって、図6に示すように、公転方向(図中矢印)に沿ってナノファイバ301が堆積し、配向性を備える堆積体142を製造することが可能となる。
【0069】
ここで、ナノファイバ301の到達速度とは、空間中で製造されたナノファイバ301が、堆積対象部材101に到達する単位時間当たりの長さである。例えば、10cmの長さのナノファイバ301が堆積対象部材101に対し垂直に飛行してきた場合において、ナノファイバ301の一端が堆積対象部材101に到達してから、ナノファイバ301の他端が到達するまでの時間が1秒であった場合、到達速度は秒速10cmとなる。
【0070】
そして、当該堆積体142に第二原料液310を含浸させ、第二原料液310を固化させて中間部材143を製造した後、堆積体142を除去すれば、同一方向に沿って配置される孔を備えた多孔質部材144を製造することが可能となる。
【0071】
なお、図6は、配向性を備えた堆積体142を模式的に示した図であり、実際の状態を示すものではない。
【実施例】
【0072】
次に、本願発明の実施例を説明する。
以下の実験を行った。
【0073】
第一原料液は、PVA(ポリビニルアルコール)の10重量%水溶液とした。
第二原料液は、PMMA(メタクリル酸メチル樹脂)を溶媒であるメチルエチルケトンで溶解させて5%溶液とした。
【0074】
前記第一原料液を60kVの電圧で帯電させ、モータ213を1500rpmで回転させ孔径0.3mmの流出孔から遠心力で流出させてナノファイバを製造した。
【0075】
上記ナノファイバを5分間堆積させて、厚さ20μmのシート状の堆積体を製造した。ナノファイバの繊維径は500nm〜1500nmであった。
【0076】
その後、前記堆積体に第二原料液を含浸させて、中間部材を製造した。
最後に、中間部材を水中に浸漬し、180分間超音波を付加した。
【0077】
その結果、図7に示す多孔質部材が製造された。
多孔質部材の孔及び溝の径は400nm〜1000nmであった。
【0078】
また、図7に示すように、孔は長孔であり、三次元的に絡まり合って相互に連通している状態であった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本願発明は、フィルターや触媒用担持体など多孔質部材の製造に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本願発明の実施の形態である多孔質部材製造装置を模式的に示す断面図である。
【図2】放出手段を示す断面図である。
【図3】放出手段を示す斜視図である。
【図4】本願発明の他の実施の形態である多孔質部材製造装置を模式的に示す断面図である。
【図5】、他の堆積工程に用いられる放出手段と、誘引手段(帯電手段)と、堆積対象部材とを示す斜視図である。
【図6】配向性のある堆積体を示す斜視図である。
【図7】多孔質部材の断面を斜視的に示す電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0081】
100 多孔質部材製造装置
101 堆積対象部材
102 吸引手段
110 誘引手段
112 誘引電極
113 誘引電源
117 導電円筒
118 供給ロール
119 回収ロール
120 含浸手段
121 塗布装置
122 固化手段
130 除去手段
131 貯留槽
132 超音波発生装置
133 ローラ
141 下地
142 堆積体
143 中間部材
144 多孔質部材
200 放出手段
201 流出手段
202 帯電手段
203 気体流発生手段
204 気体流制御手段
205 加熱手段
206 案内体
208 隙間
209 風洞体
211 流出体
212 回転軸体
213 モータ
215 ベアリング
216 流出孔
217 供給路
221 誘導電極
222 誘導電源
223 接地手段
300 第一原料液
301 ナノファイバ
310 第二原料液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバの原料となる第一原料液を空間中に流出させる流出工程と、
前記第一原料液を帯電させる帯電工程と、
前記原料液が静電爆発することにより製造されるナノファイバを所定の場所に誘引す誘引工程と、
前記誘引工程により誘引されるナノファイバを受け止めて堆積対象部材に堆積させ、堆積体を形成する堆積工程と、
形成された前記堆積体に多孔質部材の原料となる第二原料液を含浸させる含浸工程と、
前記堆積体に含浸された第二原料液を固化させて中間部材を形成する固化工程と、
前記中間部材から前記堆積体を溶媒で溶解して除去する除去工程と
を含む多孔質部材製造方法。
【請求項2】
さらに、
ナノファイバが堆積する前の前記堆積対象部材表面に、第二原料液を塗布する塗布工程を含む請求項1に記載の多孔質部材製造方法。
【請求項3】
前記除去工程において、中間部材を溶媒に浸漬し、超音波で前記堆積体の溶解を促進させる請求項1に記載の多孔質部材製造方法。
【請求項4】
前記含浸工程において、第二原料液を前記堆積体に塗布することにより前記堆積体に第二原料液を含浸させる請求項1に記載の多孔質部材製造方法。
【請求項5】
前記含浸工程において、第二原料液を溶融温度以上、ガラス転移温度以下に加熱し、第二原料液に前記堆積体を浸漬することにより前記堆積体に第二原料液を含浸させる請求項1に記載の多孔質部材製造方法。
【請求項6】
前記堆積工程において、前記ナノファイバが前記堆積対象部材に到達する到達速度と同等、または、それ以上の速度で前記堆積対象部材を移動させる請求項1に記載の多孔質部材製造方法。
【請求項7】
ナノファイバの原料となる第一原料液を空間中に流出させる流出手段と、
前記第一原料液を帯電させる帯電手段と、
前記原料液が静電爆発することにより製造されるナノファイバを所定の場所に誘引する誘引手段と、
前記誘引手段により誘引されるナノファイバを受け止めて堆積させ、堆積体を形成させる堆積対象部材と、
形成された前記堆積体に多孔質部材の原料となる第二原料液を含浸させる含浸手段と、
前記中間部材から前記堆積体を溶媒で溶解して除去する除去手段と
を含む多孔質部材製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−13612(P2010−13612A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177252(P2008−177252)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】