説明

多層フィルム

【課題】遅延回復性を有し、高速包装時に破れなく包装でき、且つ得られた包装体の押し込み回復性にも優れた多層フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物からなる少なくとも一つの内層とエチレン系重合体を含む第1及び第2の表面層を有し、以下の条件を満たすことを特徴とする少なくとも3層の多層フィルム。
1)役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物の動的粘弾性測定において、tan(δ)が−20〜20℃の測定温度範囲全域に渡って0.1〜0.6
2)共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物中のビニル芳香族含有量が65〜75wt%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物からなる内層を含む、少なくとも3層を有する多層フィルムに関する。本発明は、特に食品包装に有効に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
多層フィルムを用いた包装方法には、それぞれ多層フィルムの特徴を生かして、例えば、オーバーラップ包装、ひねり包装、袋詰め包装、スキン包装、シュリンク包装、ストレッチ包装等、各種の包装方法が採用されている。中でもシュリンク包装は、その特徴として外観が美しく、ディスプレイ効果をもたせ、商品価値を高めること、また、内容物を衛生的に保ち、視覚により品質確認が容易なこと、さらには異形物でも多数個の製品でも迅速かつタイトに包装出来ることから食品、雑貨等の包装に使用されている。
被包装物をシュリンク包装により多層フィルムで覆う方式には、ピローシュリンク包装、ストレッチシュリンク包装あるいはL型包装等様々存在するが、フィルムの使用量の観点から、少量のフィルムで包装できるピローシュリンク包装、L型包装が優れている。ここでは、代表的なピローシュリンク包装を包装機によって連続的に行う方法について説明する。
【0003】
包装機中を被包装物が進んで行く方向をMD方向とし、それに直交する方向をTD方向とする。まず、被包装物のMD方向の長さに対して10〜50%の余裕率を持たせて、多層フィルムで被包装物をMD方向に空洞ができるように筒状に覆い、次にセンターシール装置にて被包装物の裏面で合掌ヒートシールする。続いて被包装物のTD方向の長さに対して10〜50%の余裕率を持たせて被包装物のMD方向の前後両端を閉じるようにヒートシールすると同時に、エンドシール装置を用いて、カッター刃により多層フィルムをカットして包装体を得る。次に、これらを予めシュリンク温度に設定されている熱風シュリンクトンネルに通して、多層フィルムを熱シュリンクさせ、タイトに包装された包装体を得る。
【0004】
この際のシール方法としては、1)バーシール法、熱ローラー法等のヒートシール法、2)溶断シール法、等があり、これらのシール方法が適宜組み合わされて用いられている。1)は基本的に面シールであり、通常、シールとカットが別であって、シールのすぐそばでほぼ同時にカットが行われる、いわゆるシールアンドカット方式が採用されている。2)は、カッター刃を必要とせず、熱刃により、溶融シールと溶融切断を瞬間的に同時に行う方法(溶断シール方式)であり、簡便な方法として多層フィルムに広く用いられている。
【0005】
また、多層フィルムの熱シュリンク工程においては、針や熱針あるいはレーザー等によって多層フィルムに予め空気抜きの小孔を開けておき、熱シュリンク時にはここから包装体内部の空気を抜くことによってタイトに仕上がったピローシュリンク包装体を得る方法が知られている。
熱シュリンク時の加熱方法には、熱風、蒸気等が使用できるが、通常、熱風がよく用いられる。
このように、ピローシュリンク包装は、通常、フィルムに少し余裕をもたせて、ヒートシール、溶断シール等により内容物を一次包装したのち、シュリンクトンネルの熱風等によりフィルムを熱シュリンクさせる方法が一般的であり、タイトで美しい仕上がりが得られる。
この包装方法において多層フィルムに求められる特性としては、強度、シュリンク性、シール性、ホットタック強度、更に、内容物が食品である場合には、透明性、防曇性、また、電子レンジ使用に耐えられる耐熱性といったような包装特性が総合的に要求される。
【0006】
一方、近年、自動包装機による包装速度の高速化や被包装物の多様化が進み、更には商品としての包装体への要求も高度化しており、フィルムに対する要求は、高性能化、高機能化している。ピローシュリンク包装においては、包装体を早く且つ大量に作製するために、特に高速化が求められている。高速化にあたっては、ピローシュリンク包装後にシール部が開くという、いわゆるシール破れが問題となるため、ホットタック強度、シール後すぐにシール部に応力がかからないようにするための遅延回復性が必要となる。さらに、押し込み回復性をも有していることが強く望まれる。
【0007】
特許文献1には、共役ジエンとビニル芳香族化合物からなる共重合体の水素添加物を含有した多層熱収縮性フィルムが開示されており、機械強度、透明性、延伸性、結束性、弾性回復性に優れていると記載されている。
特許文献2には、内層に共役ジエンとビニル芳香族化合物からなるブロック共重合体の水素添加物を含有したシュリンク包装用多層フィルムが開示されており、優れたストレッチ性や熱シュリンク率を持つことにより多種多様な包装機械で綺麗な包装体が得られると記載されている。
特許文献3には、モノビニル置換芳香族炭化水素の重合体ブロックと共役ジエンのエラストマー性重合体ブロックとのブロック共重合体またはこの水素添加誘導体を含有したシュリンク包装用多層フィルムが開示されており、外観に優れ、かつ引裂伝播強度、押し込み回復性に優れていると記載されている。
更に特許文献4には、ビニル芳香族化合物と共役ジエンとの共重合体、またはその水素添加誘導体を主成分とする層を含有した多層フィルムが開示されており、自動包装機適性、底シール性が良好で、フィルムの張りがよい包装体を得ることができると記載されている。
【特許文献1】特開2003−246021号公報
【特許文献2】特開2001−150600号公報
【特許文献3】特開平9−109330号公報
【特許文献4】特開平8−11927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1乃至3に開示されている技術では、得られたフィルムはゴムのような弾性回復性を有しているため、種々の変形に対して生じる歪みが、負荷を取り除いた瞬間に元の状態に回復する。
従って、多層フィルムをある程度の緊張状態で引っ張ったままヒートシールするピローシュリンク包装にこれらのフィルムを使用した場合、多層フィルムがヒートシール部もしくはその近傍でカットされる際にヒートシール部に過度の負担がかかり、シール破れの問題が生じることとなる。
また、特許文献4に開示されている技術では、得られる包装体の、押し込み回復性が十分ではない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
1.共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物からなる少なくとも一つの内層と、エチレン系重合体を含む第1及び第2の表面層を有し、以下の条件を満たすことを特徴とする少なくとも3層のピロー包装用多層フィルム。
1)共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物の、動的粘弾性測定におけるtan(δ)が、−20〜20℃の測定温度範囲全域に渡って0.1〜0.6
2)共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物中のビニル芳香族含有量が65〜75wt%
2.内層と表面層の間に、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルメタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体の金属部分中和物、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・エチルアクリル酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・エチレンアクリレート・無水マレイン酸共重合体、エチレン・マレイン酸変性樹脂から選ばれる1種又は2種以上の混合物とポリエチレン及び/又は、エチレン・αオレフィン共重合体の混合物からなり、ポリエチレン及び/又はエチレン・αオレフィン共重合体が重量比10〜30wt%である中間層を少なくとも1層含むことを特徴とする1.に記載の多層フィルム。
3.第1、第2の表面層のうち少なくとも1つの表面層が、シングルサイト触媒を用いたエチレン・αオレフィン共重合体と低密度ポリエチレンを重量比95:5〜70:30で混合させた混合物からなることを特徴とする1.又は2.に記載の多層フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本件発明は、適度な遅延回復性、押込み回復性、ホットタック強度を有し、高速包装時に破れ、しわが生じない多層フィルムを提供する。これらに加えて引裂伝播強度やホットタック強度をさらに向上させたフィルムも提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明について以下詳細に説明する。
本発明の多層フィルムは、共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物からなる少なくとも一つの内層とエチレン系重合体からなる第1及び第2の表面層を有する多層フィルムである。
本発明の構成要件に基づく効果は、従来技術の多層フィルムにおいて、多層フィルムに加わる種々の変形に対して生じる歪みが、負荷等を取り除いた瞬間に元の状態に回復してしまうことによる不都合を回避するものである。例えば、被包装物がピローシュリンク包装機により包装される場合、ヒートシール部もしくはその近傍をカットする際に、ヒートシール部に過度の負担がかかってシール破れを生じるといった問題が解決できる。具体的には、軟質塩ビフィルムのような遅延回復性を付与することで、ヒートシール部に負担を掛けずに包装できるといった優れた効果を発現させることが可能となる。
【0012】
本発明の多層フィルムは、上記の一般的なピローシュリンク包装に加え、フィルムをMD方向、TD方向の両方或いは、一つの方向にフィルムの元の状態に比べ0.5%以上引き伸ばされ、フィルムが緊張した状態でシール、カットされるようなタイプのピローシュリンク包装にも使用できる。
本発明で内層に用いる共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物中のビニル芳香族の割合は、65〜75wt%であることが好ましい。65wt%以下の場合はフィルムの剛性が不足し、また押し込み回復性も劣る。75wt%を超えると剛性が高すぎて引裂き強度を損なう恐れがある。
【0013】
更にフィルムの遅延回復性は、本発明に使用する共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物によって決まり、動的粘弾性測定において、周波数が1Hz、昇温速度5℃/分で−20℃から20℃の測定温度範囲全域において、使用する共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物のtan(δ)が0.1〜0.6であることが必要である。更に好ましくは、0.1〜0.55で、最も好ましくは、0.1〜0.5である。tan(δ)が0.1より低い場合であると遅延回復性が不足し、高速包装時に破れが生じることとなる。また、tan(δ)が0.6を超える場合があると遅延回復性が過剰となり、フィルムの押し込み回復性にまで悪影響が及ぶこととなる。
【0014】
本発明は、共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物として、上述した特定のビニル芳香族含有量と特定のtan(δ)を有するものを内層に使用し、かつ、その他の層として、本件明細書に記載の樹脂を用いて多層フィルムとしたものであり、このような構成をとることで初めて本件発明特有の効果が得られることを見出したものである。共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物は種々存在し、市販もされているが、本件明細書に記載の方法に従えば、上記の要件を満たす共重合体を容易に選択することができる。
フィルムの全層に対して共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物からなる内層の層比率としては、10〜50%であることが、高速包装時の破れがなく、優れた押し込み回復性を得るために好ましい。更に好ましくは、20〜50%。最も好ましくは、30〜50%である。
【0015】
ここで、本発明の共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物に用いられるビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、o−、p−、m−、α―メチルスチレン、エチルスチレン、α―メチル―p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、p−tert−ブチルスチレン、α―エチルスチレン等が挙げられる。これらは1種もしくは2種以上を混合して使用してもよい。中でもスチレンが好ましく用いられる。
共役ジエンとしては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン等が挙げられる。これらは、1種もしくは2種以上を混合して使用してもよい。中でも1,3−ブタジエンが好ましく用いられる。
【0016】
本発明の多層フィルムを構成するエチレン系重合体としては、チーグラー系マルチサイト触媒を用いた中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、更にはシングルサイト触媒を用いたエチレン・αオレフィン共重合体のようなエチレン系共重合体等が挙げられる。中でも、チーグラー系マルチサイト触媒を用いた超低密度ポリエチレン、シングルサイト触媒を用いたエチレン・αオレフィン共重合体が好ましく用いられる。
ここで、エチレン・αオレフィン共重合体としては、エチレンと炭素数が3〜8のαオレフィンから選ばれる少なくとも1種類の単量体との共重合体が好ましく、αオレフィンとしては、1−プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が好ましく用いられる。
【0017】
本発明の多層フィルムの第1、第2の表面層としては、上記のエチレン系樹脂の中でも、密度0.890〜0.918g/cmのシングルサイト触媒を用いたエチレン・αオレフィン共重合体と密度0.913〜0.940g/cmの低密度ポリエチレンを重量比95:5〜70:30で混合した混合物を使用することが好ましい。この混合物を第1、第2の表層に使用することで、ホットタック強度をさらに向上させることができる。
【0018】
連続包装機を用いて食品包装などを行う場合に、内容物の突起部等、鋭利な部分によりフィルムに破れが生じ、その破れが後方の包装体にまで伝播するという問題があった。そこで、本発明の多層フィルムは、フィルム破れの伝播を防ぐために表面層と内層の間に少なくとも1層の中間層を設けることもできる。この層に使用される樹脂は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルメタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体の金属部分中和物、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・エチルアクリル酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸変性樹脂及びエチレン・αオレフィン共重合体から選ばれる1種又は2種以上の混合物とポリエチレン及び/又は、エチレン・αオレフィン共重合体の混合物であって、ポリエチレン又はエチレン・αオレフィン共重合体が重量比10〜30wt%である中間層を用いることが好ましい。中間層に上記のような混合物を用いることで、内層と表層との接着性を調整し、フィルムが傷つきにより破れても内層と中間層との界面で剥離を起こさせることにより、破れが伝播することを防ぐことができる。
【0019】
該中間層には、必要に応じてスリップ剤を添加しても良い。スリップ剤としては、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘニン酸アミドなどの各種の飽和或いは、不飽和の脂肪酸アミド系スリップ剤などが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上併用しても良い。添加量としては、0.1〜3.0wt%が好ましい。更に好ましくは、0.1〜2.0wt%である。上記のようなスリップ剤の添加により、適度な滑り性が付与できる。また、本発明の多層フィルムの各層には、必要に応じてスリップ剤以外の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、グリセリン脂肪酸エステル系界面活性剤などの防曇剤、帯電防止剤、造核剤、などを添加させることができる。
【0020】
なお、本発明の多層フィルムの厚みは、フィルムの柔軟性、しわのない包装体を得るという観点から5〜30μmが好ましい。
本発明の多層フィルムのホットタック強度は、ASTM F−1921−98に基づいて、Thellere社Hot Tack測定器を用いて、ヒートシールダイの温度を140℃にして測定した。ピローシュリンク包装でのシール破れ抑制の観点から、得られるホットタック強度は1.5〜10.0Nであることが好ましい。更に好ましくは、2.5〜10Nであり、最も好ましくは、5.0〜10.0Nである。ホットタック強度が1.5Nを下回るとシールの破れが発生する場合があり、10.0Nを超えるとシール部が硬くなり過ぎ輸送などの際に他の包装体を傷つける可能性がある。
【0021】
本発明の多層フィルムの押し込み回復性は、フィルムを押し込みジグで押し込み、ジグがフィルムから離れた時点から、フィルムに残るジグの跡が完全に消えるまでの時間を測定することで評価した。具体的には、縦横12.5cm、深さ5cmの木枠にサンプルとなるフィルムを皺のない状態で貼り付け、島津製作所社製、商品名、オートグラフAG−1Sを用いて、押し込みジグ(直径1.5cm、ステンレス製の円筒状の棒)を速度1000mm/分でフィルムを2.5cm押し込み、ジグがフィルムから離れた時点からジグの跡が完全に消えるまでの時間を測定した。押し込みジグがフィルムから離れた時点でフィルムに押し込み跡が見られないものは0秒とした。時間が5秒以下であれば押込み回復性は良好といえる。
【0022】
本発明の多層フィルムの遅延回復性は、フィルムが130%引き伸ばされてから、元の長さに戻るまでの時間を測定して評価した。具体的には、多層フィルムをMD方向、TD方向に各々160mm、10mmのサイズで切り出し、島津製作所社製、商品名、オートグラフAG−1Sに、該切り出したサンプルをチャック間100mmとしてMD方向を縦にしてセットし、20℃、50%RHの条件下で1000mm/分の速度でチャック間が130mmになるまで引っ張った後、上側はチャックしたままの状態で、下側のチャックのみをはずし、多層フィルムが元の長さに戻るまでの時間を測定した。遅延回復性の観点から、この時間は5〜10秒であることが好ましい。5秒未満では、シール破れが発生し、10秒を超えると、フィルムの押し込み回復性に悪影響が生じる。
【0023】
本発明の多層フィルムの引裂伝播強度は、JIS−K−7128に基いて、東洋精機社製軽荷重引裂強度試験機を用い、フィルムのMD方向について測定した。引裂伝播強度は、6g以上であることが好ましい。更に好ましくは、11g以上である。引裂伝播強度が6g未満では、フィルムの破れが伝播し、連続包装では包装不能となる。
本発明の多層フィルムには、α線、β線、γ線、中性子線、電子線などの電離性放射線を照射したり、パーオキサイドの利用によって架橋を生じさせてもよい。本発明では、架橋が無くても本件発明の効果は発現するが、架橋を行うことで安定した製造が可能となる。
【0024】
架橋を行う場合は、α線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離性放射線を用いるのが好ましい。フィルムの架橋度の尺度としてはゲル分率を用いる。本発明のフィルムのゲル分率としては、0.5〜25wt%が好ましい。0.5〜25wt%にすることによって延伸温度と倍率の調整が容易になり、製膜安定性が良好となる。
ゲル分率の測定は次のような方法で行った。即ち、あらかじめ重量を測定したサンプルフィルムを150メッシュの金網で挟み、フィルムが外に出ないように両端を折り曲げて止め、これを沸騰p−キシレン中に浸漬し、12時間還流を行った後、再度サンプルフィルムの重量を測定した。測定値をもとに下記式を計算し、得られた値をゲル分率とした。
ゲル分率(wt%)
=(抽出後のサンプルフィルムの重量/抽出前のサンプルフィルムの重量)×100
【0025】
本発明の多層フィルムの製造方法としては、シングルバブルインフレーション法、ダブルバブルインフレーション法、トリプルバブルインフレーション法、テンター法等が挙げられるが、得られるフィルムの諸物性のバランスから、ダブルバブルインフレーション法、トリプルバブルインフレーション法を用いることが好ましい。ここでは、本発明の多層フィルムをダブルバブルインフレーション法によって製造する方法について説明する。
まず、各層を構成する樹脂をそれぞれの押出機で溶融して、多層のサーキュラーダイで共押出、急冷固化して多層延伸用原反を得る。得られた多層延伸用原反を、熱風による伝熱加熱あるいはインフラヒーター等の輻射過熱により加熱した後、延伸を行う。延伸は、多層延伸用原反を2組のニップロールの間で回転速度に勾配をつけ、流れ方向に延伸しつつ、多層延伸用原反内にエアーを注入して横方向にも延伸する。
【0026】
上記のようなインフレーション法は同時二軸延伸で延伸は面積延伸倍率を変化することによって種々の厚さの多層フィルムを製膜することが可能で、また必要に応じ得られたフィルムにコロナ処理やプラズマ処理などの表面処理、印刷処理、他種の多層フィルムなどとのラミネーションなどが行われてもよい。
【実施例】
【0027】
以下に実施例、比較例に基づき、本件発明を更に詳細に説明する。なお、実施例1〜6、比較例1〜6で製造したフィルムの評価結果は表1に纏めた。
<tanδの測定>
理化工業株式会社製の、型番MS−2−315S圧縮成型機を用いて、200℃、圧力5kg/cmでの条件下で、評価する樹脂200gを厚さ100μmのシートに成形した。これを、長さ4.5cm、幅0.5cmに切り出し、Rheometrics社製、商品名、RSA―IIにチャック間2.25cmとしてセットし、振動周波数1Hz、昇温速度5℃/分で、−20℃から20℃まで測定を行った。
<高速包装適性評価>
ピローシュリンク包装機である株式会社フジキカイ社製シュリンク包装機、商品名、FW3451A―αVを使用して自動包装を行い、シールの破れが発生するか評価を行った。包装速度は50パック/分、被包装物として200gの粘土を中央化学社製SK20Fのトレーに載せサンプルとしたものを使用した。50パックを作製し、シールの破れがなく包装できたものは高速包装適性が○、1つでもシールの破れが起きたものは×とした。
【0028】
<実施例及び比較例にて使用した樹脂>
VL1:エチレン・αオレフィン共重合体(シングルサイト触媒にて重合されたもの、αオレフィン=1−ヘキセン)。商品名:宇部丸善ポリエチレン株式会社製、ユメリット0540F。
VL2:エチレン・αオレフィン共重合体(シングルサイト触媒にて重合されたもの、αオレフィン=1−ヘキセン)。商品名:東ソー株式会社製、ニポロンZ04P70A。
LL:エチレンαオレフィン共重合体(シングルサイト触媒にて重合されたもの、αオレフィン=1−ヘキセン)。商品名:宇部丸善ポリエチレン株式会社製、ユメリット1520F。
LD:低密度ポリエチレン、商品名:旭化成ケミカルズ社製、サンテックLDM2004。
EVA:エチレン・酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量=15wt%)商品名:日本ユニカー株式会社製、NUC8453D。
【0029】
SB1:ブタジエンとスチレンからなる共重合体(BASFジャパン社製:2G66)。スチレン含有量は65wt%。tan(δ)の値は−20〜20℃の範囲で0.19〜0.30。
SB2:ブタジエンとスチレンからなる共重合体(クレイトンポリマージャパン社製:クレイトンD−1431P)。スチレン含有量は75wt%。tan(δ)の値は、−20〜20℃の範囲で0.15〜0.58。
SB3:ブタジエンとスチレンからなる共重合体(旭化成ケミカルズ社製:タフプレンA)。スチレン含有量は40wt%。tan(δ)の値は、−20〜20℃の範囲で0.08〜0.14。
SB4:ブタジエンとスチレンからなる共重合体の水素添加物(旭化成ケミカルズ社製:タフテックH1043)。スチレン含有量は67wt%。tan(δ)の値は−20℃〜20℃の範囲で0.06〜0.13。
SB5:ブタジエンとスチレンからなる共重合体(旭化成ケミカルズ社製:アサフレックス825)。スチレン含有量は77wt%。tan(δ)の値は−20〜20℃の範囲で0.06〜0.19。
SB6:ブタジエンとスチレンからなる共重合体の水素添加物(旭化成ケミカルズ社製:タフテックH1221)。スチレン含有量は12wt%。tan(δ)の値は、−20〜20℃の範囲で0.11〜0.58。
SIS:イソプレンとスチレンからなる共重合体(クラレ社製:ハイブラー5127)。スチレン含有量は20wt%。tan(δ)の値は、−20〜20℃の範囲で0.06〜1.11。
【0030】
[実施例1]
5台の押出し機を使用し、ダブルバブルインフレーション法により多層フィルムを得た。内層用の押出し機にはSB1の樹脂を投入し、第1、第2の表面層用の押出し機には、VL1の樹脂を投入した。中間層用の2つの押出し機には、EVAとLLの混合比70:30の混合物を投入した。
【0031】
ダイ内接着型環状ダイを用いて層比率15/20/30/20/15%の3種5層パリソンを押出し、冷却媒体を水として、外側から冷却固化し,幅180mm、厚み250μmのチューブ状パリソンを作製した。作製したチューブ状パリソンを電子線照射装置に誘導し、チューブ状パリソンの両側から、70kGyの線量にて電子線を照射した。これを延伸機内に誘導して105℃に再加熱を行ない、2組の差動ニップロール間に通して、エアー注入によりバブルを形成し、MD方向に4.0倍、TD方向に4.0倍の倍率でそれぞれ延伸を行い、厚さ約13μmのフィルムを得た。
【0032】
[実施例2]
作成したチューブ状パリソンを電子線照射装置に誘導しなかった以外は実施例1と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。
【0033】
[実施例3]
内層用の押出し機にSB2の樹脂を投入した以外は実施例1と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。
【0034】
[実施例4]
第1、第2両表面層用押出し機にVL2:LD=90:10の混合物を投入した以外は実施例1と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。
【0035】
[実施例5]
中間層を設けず、層比率を35/30/35とした以外は実施例2と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。
【0036】
[実施例6]
内層用の押出し機にSB2の樹脂を投入した以外は実施例5と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。
【0037】
[比較例1]
中間層を設けず、第1、第2両表面層用押出し機にVL2を投入し、内層用押出し機にSISを投入し、層比率を35/30/35とした以外は実施例2と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。得られたフィルムは、軟らかすぎるために押し込み回復性に劣った。
【0038】
[比較例2]
中間層を設けず、第1、第2両表面層用押出し機にVL2を投入し、内層用押出し機にSB3を投入し、層比率を35/30/35とした以外は実施例2と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。得られたフィルムは、遅延回復性がないために包装試験を行うとシールの破れが起こった。
【0039】
[比較例3]
中間層を設けず、第1、第2両表面層用押出し機にVL2を投入し、内層用押出し機にSB4を投入し、層比率を35/30/35とした以外は実施例2と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。得られたフィルムは、遅延回復性がないために包装試験を行うとシールの破れが起こった。
【0040】
[比較例4]
中間層を設けず、第1、第2両表面層用押出し機にVL2を投入し、内層用押出し機にSB5を投入し、層比率を35/30/35とした以外は実施例2と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。得られたフィルムは、押し込み回復性がなく完全に元の状態には戻らなかった。
【0041】
[比較例5]
中間層を設けず、第1、第2両表面層用押出し機にVL2を投入し、内層用押出し機にSB6を投入し、層比率を35/30/35とした以外は実施例2と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。得られたフィルムは、柔らかすぎて押し込み回復性がなく完全に元の状態には戻らなかった
【0042】
[比較例6]
中間層を設けず、第1、第2両表面層用押出し機にVL2を投入し、内層用押出し機にEVAを投入し、層比率を35/30/35とした以外は実施例2と同様の操作を行ない、厚さ13μmのフィルムを得た。得られたフィルムは、遅延回復性がないために包装試験を行うとシールの破れが起こった。
【0043】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の多層フィルムは、遅延回復性を有するためにシュリンク包装に適している。特に、食品包装用として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物からなる少なくとも一つの内層と、エチレン系重合体を含む第1及び第2の表面層とを有し、以下の条件を満たすことを特徴とする少なくとも3層を有する多層フィルム。
1)共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物の、動的粘弾性測定
におけるtan(δ)が、−20〜20℃の測定温度範囲全域に渡って0.1〜0.6
2)共役ジエンとビニル芳香族の共重合体及び/又はその水素添加物中のビニル芳香族含有量が65〜75wt%
【請求項2】
該内層と表面層との間に、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルメタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体の金属部分中和物、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・エチルアクリル酸共重合体、エチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・エチレンアクリレート・無水マレイン酸共重合体、エチレン・マレイン酸変性樹脂から選ばれる1種又は2種以上の混合物と、ポリエチレン及び/又はエチレン・αオレフィン共重合体の混合物からなり、ポリエチレン及び/又はエチレン・αオレフィン共重合体が重量比10〜30wt%である中間層を少なくとも1層含むことを特徴とする請求項1記載の多層フィルム。
【請求項3】
第1、第2の表面層のうち少なくとも1つの表面層が、シングルサイト触媒を用いたエチレン・αオレフィン共重合体と低密度ポリエチレンを重量比95:5〜70:30で混合させた混合物からなることを特徴とする請求項1又は2記載の多層フィルム。

【公開番号】特開2008−188890(P2008−188890A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26028(P2007−26028)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】