説明

多年生コンブの栽培方法

【課題】 ガゴメなどの褐藻類の栽培に要する期間と手間を低減することが可能な褐藻類の栽培方法を提供する。
【解決手段】 採苗器に付着させたガゴメなどの褐藻類の卵を発生させ、水槽10の海水11中において、所定の光条件下で培養して藻体を成長させる第1育苗ステップと、第1育苗ステップで得られた藻体を培養して褐藻類の苗に成長させる第2育苗ステップとによって栽培方法を構成する。第2育苗ステップにおいては、450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の光を促成用光として単色光源30から水槽10へと照射する。これにより、育苗段階で褐藻類の成長ステージを1年分進めることができ、再生葉が形成された状態の褐藻類の苗が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガゴメやサガラメ、ホンダワラ、ヒジキなどの褐藻類の栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、表面に凹凸紋様を持ち粘質(ぬめり)に富むガゴメが、健康に良い成分を含むコンブとして注目されている。ガゴメの特徴である「ぬめり」の主成分は、アルギン酸、ラミナラン、フコイダンなどの水溶性粘性多糖類、水溶性食物繊維である。これらのうち、特にフコイダンは、ガン細胞の死滅・抑制、組織再生の促進、免疫機能の向上などの作用が認められている成分である。また、その他のアルギン酸、ラミナラン等の成分についても、例えば、アルギン酸によるダイエット効果など、様々な効果があることが知られている。また、ガゴメと同様の有用成分を含有するサガラメにおいても、絶滅が危惧されており、資源回復が望まれている。
【特許文献1】特開平10−178947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記したガゴメやサガラメはマコンブなどと同様に多年生コンブであり、2年、3年と年齢が高いほど葉状部が大型、幅広となる。ガゴメやサガラメを収穫する場合、通常は2年目以降で充分に成長した藻体を収穫する必要がある。このため、ガゴメやサガラメの栽培においては、その栽培と収穫に多くの期間と手間を要するという問題がある。このような問題は、ガゴメやサガラメに限らず、多年生で大型の褐藻類において一般に生じるものである。
【0004】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、ガゴメやサガラメなどの多年生褐藻類の栽培に要する期間と手間を低減することが可能な褐藻類の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的を達成するために、本発明による褐藻類の栽培方法は、(1)採苗器に付着させた褐藻類の卵を発生させ、所定の光条件下で培養して藻体へ成長させる第1育苗ステップと、(2)第1育苗ステップで得られた藻体を450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の促成用光を照射する光条件下で培養して、褐藻類の苗に成長させる第2育苗ステップとを備えることを特徴とする。
【0006】
上記した栽培方法では、第1育苗ステップにおいて、褐藻類をある程度の藻体まで成長させた後、第2育苗ステップにおいて、450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の促成用光を照射して育苗を行っている。このような2段階の育苗ステップを経るとともに、上記波長の促成用光を用いた光条件下で藻体を成長させることにより、育苗段階でその成長ステージを1年分進めることができる。これにより、褐藻類の栽培に要する期間と手間を低減することが可能となる。
【0007】
ここで、上記栽培方法は、第2育苗ステップで得られた褐藻類の苗を海中で栽培する海中栽培ステップをさらに備えることが好ましい。このように、上記した育苗過程と、海中での栽培過程とを組み合わせることにより、充分に成長した褐藻類の藻体を短期間で収穫することが可能となる。
【0008】
また、上記栽培方法において、第1育苗ステップは、採苗器に付着させた褐藻類の卵を発生させて藻体とする発生ステップと、発生ステップで得られた藻体を、所定の光条件下で培養して成長させる第1培養ステップと、第1培養ステップで成長された藻体を、その生育が停滞するように設定された条件下に保持する第2培養ステップとを含むことが好ましい。
【0009】
また、第2育苗ステップにおいて用いられる促成用光としては、さらに460nm〜525nmの範囲内で設定された波長の光を用いることが好ましく、特に、波長500nmの単色光(青緑色の光)を促成用光として用いることが好ましい。これにより、第2育苗ステップでの藻体の成長を好適に実現することができる。
【0010】
また、光条件以外の成長条件については、第2育苗ステップにおいて、藻体の培養に用いられる海水の温度を10℃〜15℃の範囲内に設定することが好ましい。このような成長条件は、特にガゴメ等の栽培において好適な条件となる。一般には、光条件以外の成長条件については、栽培対象となる褐藻類の成長過程や特性等に応じて設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の褐藻類の栽培方法によれば、第1育苗ステップにおいて、褐藻類をある程度の藻体まで成長させた後、第2育苗ステップにおいて、450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の促成用光を照射して育苗を行うことにより、育苗段階で褐藻類の成長ステージを1年分進めることができ、褐藻類の栽培に要する期間と手間を低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面とともに本発明による褐藻類の栽培方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0013】
ここで、以下においては、本発明による栽培方法での栽培対象となる褐藻類として、多年生大型褐藻類の1つであるガゴメについて説明する。ガゴメは、上述したように、健康に良い成分を含むコンブとして近年、注目されているものである。また、成長したガゴメの藻体は、その葉の全面に大小の龍紋状の凹凸紋様を持つ。
【0014】
ただし、本発明による栽培方法は、ガゴメ以外の褐藻類に一般に適用可能である。そのような褐藻類の例としては、マコンブ、リシリコンブ、オニコンブ、エナガコンブ、ミツイシコンブ、ナガコンブ、チヂミコンブ、カラフトトロロコンブ、ガッガラコンブ、ガゴメ、アツバスジコンブ、ネコアシコンブ、ゴヘイコンブ、サガラメ、アラメ、カジメ、ツルアラメ、ホンダワラ、ヒジキ、チガイソ、ウガノモク、ラッパモク、ヤバネモク、ノコギリモク、イソモク、ウミトラノオなどがある。
【0015】
まず、ガゴメの成長過程について説明する。図1は、ガゴメ藻体の成長過程について示す模式図である。図1において、その横軸は、1月〜12月の1年間の時間軸を示している。また、図中の過程(a)は1年目藻体の成長過程を示し、過程(b)は2年目藻体の成長過程を示し、過程(c)は3年目藻体の成長過程を示している。
【0016】
1年目の成長過程において、ガゴメの幼体は冬から春にかけて伸長する(生長期)。そして、夏には葉状部の先端部から枯れて短くなる(末枯れ期)。秋から冬になると、葉状部下部付近から、新葉が旧葉をつきあげるように成長を始め(再生期)、2年目の成長過程に入る。また、再生葉において、ガゴメの特徴である凹凸紋様はより複雑になる。
【0017】
2年目の成長過程では、ガゴメ藻体は春から初夏にかけて著しく成長し、さらに、晩秋には成熟して子嚢斑(遊走子嚢)が形成される。3年目の成長過程も2年目と同様であるが、2年、3年と年齢が高いほど得られるガゴメの葉状部が大型、幅広となる。その後、ガゴメの藻体は枯死して流失する。図1に示した成長過程から理解されるように、ガゴメの栽培においては、充分に大型に成長した2年目の藻体を収穫するには1回目の新葉再生ステージを経る必要があるため、海中で2年と長期の栽培期間を要することとなる。
【0018】
ここで、ガゴメの成長ステージについて、図1中に1年目藻体についてステージS0、S0.5、S1.0を、2年目藻体についてステージS1.1、S1.5、S2.0を、また、3年目藻体についてステージS2.1、S2.5、S3.0を例示したように、1〜3年目の成長過程に対応して成長ステージS0〜S3.0を定義しておく。これらの成長ステージは、説明の便宜のために定義するものである。
【0019】
次に、本発明による褐藻類の栽培方法を適用したガゴメの栽培方法について説明する。図2〜図4は、ガゴメの栽培方法の一実施形態における各栽培過程を模式的に示す図である。
【0020】
本栽培方法では、褐藻類であるガゴメの育苗段階において、採苗器に付着させたガゴメの遊走子を発芽させ配偶体とし、成熟した配偶体から得られた受精卵(卵)を所定の光条件下で培養して藻体を成長させる(第1育苗ステップ)。そして、第1培養ステップで得られた藻体を450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の促成用光を照射する光条件下で培養して、再生葉が形成されたコンブの苗に成長させる(第2育苗ステップ)。さらに、本実施形態においては、第1育苗ステップを発生ステップ、第1培養ステップ、第2培養ステップの3つのステップから構成し、上記した促成用光を用いる第2育苗ステップを第1、第2培養ステップに続く第3培養ステップとしてガゴメの栽培過程を構成している。
【0021】
まず、図2(a)に示すように、成熟したガゴメの藻体の遊走子嚢から海水中に放出された遊走子(胞子)を採苗器の種糸に付着させる(採苗ステップ)。そして、図2(b)に示すように、温度等の環境条件が管理された室内水槽10の海水11中において、採苗器15の種糸16に付着させた遊走子を発芽させて藻体(芽胞体、小さなコンブ)とする(発芽ステップ、発生ステップ)。採苗器15は、種糸16に光を均一に当てるために1日に10回程度回転させる。この過程は、例えば、白色光源20からの白色光を水槽10に照射する光条件下で40日〜50日程度行う。
【0022】
続いて、発生ステップで得られた藻体の促成培養過程(第1〜第3培養ステップ)を開始する。最初に、図3(a)に示すように、水槽10において、養分添加の海水11を用いるとともに、光、温度などの環境条件を調整し、所定の成長条件下で藻体を培養して成長させる(第1培養ステップ)。この過程は、例えば、白色光源20からの白色光を水槽10に照射する光条件下で、海水11中に空気を供給しながら約20日間行い、藻体を例えば10mm程度になるまで成長させる。
【0023】
次に、図3(b)に示すように、第1培養ステップを経て、ある程度まで成長した藻体を、その生育が停滞するように設定された条件下(ストレス条件下)で、一定期間にわたって保持する(第2培養ステップ)。このストレス条件下での藻体の保持過程は、例えば約1週間行う。なお、このストレス条件については、具体的には後述する。
【0024】
次に、図4(a)に示すように、ストレス条件下に保持されていた藻体を、所定の条件下でさらに培養する(第3培養ステップ)。ここでは、水槽10において、養分添加の海水11を用い、450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の単色光を促成用光として照射する光条件下で藻体を培養する。以上のステップにより、ガゴメの育苗段階を終了し、得られた藻体をガゴメの苗とする。
【0025】
この第3培養ステップ(第2育苗ステップ)での藻体の培養条件については、具体的には例えば、海水11の温度を10℃に設定し、単色光源30からの波長500nmの単色光(青緑色の光)を水槽10に照射する光条件下で、海水11中に空気を供給しながら所定期間、藻体の促成培養を行う。また、藻体への促成用光の照射条件については、例えば24時間明期/0時間暗期、または12時間明期/12時間暗期の光周期で、単色光を照射する。このような成長条件下において、本培養ステップでの培養開始から3〜4週間後に、凹凸紋様があらわれた再生葉が藻体に形成される。このことは、上記第1〜第3培養ステップを経ることによって、ガゴメの藻体の成長ステージが1年分進み、図1に関して上述した新葉再生ステージに入ったことを示している。
【0026】
本実施形態においては、以上のガゴメの育苗段階に加えて、さらに、図4(b)に示す栽培過程によって最終的に収穫されるガゴメの藻体を成長させる。すなわち、第1〜第3培養ステップを経て得られたガゴメの苗を海に出し、海中で所定期間にわたって栽培し、充分に大型になった段階で収穫する(海中栽培ステップ)。本栽培方法では、上記したように育苗段階において既に再生葉が形成されているため、この海中栽培ステップでは、藻体は著しい成長を示して、1年という短期間で大きく成長したガゴメを収穫することができる。
【0027】
上記実施形態による褐藻類の栽培方法の効果について説明する。
【0028】
図2〜図4に示した栽培方法では、第1、第2培養ステップ(図3(a)、(b))を含む第1育苗ステップにおいて、ガゴメなどの褐藻類をある程度の大きさの藻体まで成長させた後、第3培養ステップ(図4(a))を含む第2育苗ステップにおいて、通常の白色光を照射するのではなく、450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の促成用光を照射して育苗を行っている。
【0029】
このような2段階の育苗ステップを経るとともに、上記波長の促成用光を用いた光条件下で藻体を成長させることにより、育苗段階で褐藻類の成長ステージを1年分進めて、1年目の状態から2年目の状態へと促成的にステップアップさせることができる。これにより、通常であれば複数年かかる褐藻類の栽培に要する期間と手間を低減することが可能となる。また、このような育苗過程と、海中での栽培過程とを組み合わせることにより、充分に成長した褐藻類の藻体を短期間で収穫することが可能となる。
【0030】
このような栽培方法は、自然状態の海中で成長に2年かかるマコンブ、あるいは自然状態の海中で成長に3年かかるガゴメなど、様々な褐藻類に適用可能であるが、特にガゴメなどの栽培が難しいものに対して有効である。例えば、マコンブの場合、育苗段階で通常の白色光を照射する方法でも促成培養が可能である。しかしながら、ガゴメの栽培については、このような栽培方法では1年での栽培、収穫を行うことはできない。
【0031】
これに対して、上記のように450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の促成用光を用いて育苗を行うことにより、ガゴメ等の褐藻類についても1年という短期間での栽培、収穫が可能となる。なお、発生ステップ(図2(b))、及び第1、第2培養ステップ(図3(a)、(b))において水槽10に照射する光については、上記した白色光源20からの白色光に限らず、例えば第3培養ステップ(図4(a))と同様の単色光源30からの光を照射しても良い。
【0032】
また、第2育苗ステップ(第3培養ステップ)において用いられる促成用光の波長については、さらに460nm〜525nmの範囲内で設定された波長の光を用いることが好ましく、特に、青緑色の光である波長500nmの単色光を促成用光として用いることが好ましい。これにより、第2育苗ステップでの藻体の促成培養を充分な速さで好適に実現することができる。また、促成用光の照射の光周期については、上記実施形態では12時間明期/12時間暗期の光周期を例示したが、これに限られるものではなく、具体的な成長条件に応じて適宜、好適な光周期を設定すれば良い。
【0033】
また、光条件以外の褐藻類の成長条件については、上記した促成用光を用いる第2育苗ステップにおいて、藻体の培養に用いられる海水の温度を10℃〜15℃の範囲内の温度に設定することが好ましい。このような成長条件は、特にガゴメ等の栽培において好適な条件となる。
【0034】
一般には、光条件以外の成長条件については、栽培対象の褐藻類の成長過程や特性等に応じて設定することが好ましい。例えば、多年生大型褐藻類としてマコンブ、リシリコンブ、オニコンブ、エナガコンブ、ミツイシコンブ、ナガコンブ、チヂミコンブ、カラフトトロロコンブ、ガッガラコンブ、ガゴメ、アツバスジコンブ、ネコアシコンブ、ゴヘイコンブ、チガイソ、ウガノモク等を栽培対象とする場合、上記のように海水の温度を10℃〜15℃の範囲内の温度に設定することが好ましい。また、サガラメ、アラメ、カジメ、ツルアラメ、ホンダワラ、ヒジキ、ラッパモク、ヤバネモク、ノコギリモク、イソモク、ウミトラノオ等を栽培対象とする場合、海水の温度を15℃〜20℃の範囲内の温度に設定することが好ましい。
【0035】
また、上記実施形態においては、促成用光を照射する第2育苗ステップの前段階となる第1育苗ステップを、発生ステップ、第1培養ステップ、及び第2培養ステップから構成しているが、この育苗ステップについては、このような方法に限られない。
【0036】
例えば、ある程度まで成長した藻体をその生育が停滞するように設定されたストレス条件下で保持する第2培養ステップについては、培養期間の短縮、あるいは成長ステージのステップアップを確実にするために効果があると考えられる。ただし、第1育苗ステップにおいて、このような藻体へのストレス付与を行わなくても、新葉再生ステージへのステップアップを実現することは可能である。
【0037】
ここで、第2培養ステップを行う場合のストレス条件については、上記したように藻体の生育が停滞するような成長条件が必要であるが、具体的には、(1)高水温(18℃〜19℃)、(2)低水温(1〜3℃)、(3)高照度(50μmol/m/s以上)、(4)低照度(2.5μmol/m/s以下)、(5)過栄養、(6)貧栄養、(7)連続照明(24時間明期/0時間暗期)のいずれかの条件、あるいはそれらの組合せをストレス条件とすることができる。ただし、上記の条件(1)〜(7)のうち、(1)及び(2)についてはガゴメを栽培対象とした場合のストレス条件である。
【0038】
高水温の条件では、生育が抑制、停滞される条件で数時間〜2日間程度の処理を行うことが好ましい。長時間の処理を行った場合、藻体の白化の可能性があり、注意が必要である。上記したストレス条件において、最も強いストレスとなるのは、高水温・低照度の条件下とした場合である。
【0039】
また、低水温・低照度の条件下で藻体を4ヶ月以上保持することにより、適温(例えば10℃)にて培養を開始した際に再生葉が形成されることがわかった。したがって、種苗の保持条件も褐藻類の成長に関わるポイントとなっていることがわかる。また、高濃度プロパゾリ栄養塩(PES)添加(生育が止まるPES濃度、硝酸イオンで500ppm程度)の条件、波長500nmの単色光または白色光で24時間連続照明、生育適温で1週間以上保持、という条件によっても、再生葉の形成を認めた。
【0040】
また、高照度下では、退色の後に白化がおこって生育が抑制されることがわかった。同様に、低照度下においても生育が抑制され、低水温での培養を除いて藻体の白化がおこることがわかった。また、24時間明期/0時間暗期での連続照明の条件下においても、12時間明期/12時間暗期での照明の条件下に比べて、褐藻類の成長、及び再生葉の形成が早められる効果があることが確認された。
【0041】
なお、藻体への光の照射については、特許文献1:特開平10−178947号公報に、ワカメなどの養殖において光を照射することが記載されている。しかしながら、この文献に記載された方法は、赤色系と青色系の複数の特定波長の光を混合して養殖に用いるものである。これに対して、本発明の栽培方法では、ガゴメなどの褐藻類を栽培対象とし、波長500nmで青緑色の単色光、あるいはその近傍で上記波長範囲にある光を用いることにより、褐藻類の成長ステージを1年分進めることを可能とするものである。
【0042】
上記した栽培方法における褐藻類の成長の促進、新葉再生ステージへのステップアップ等の効果について、具体的な実験例とともにさらに説明する。
【0043】
図5は、褐藻類であるガゴメの培養例を示す図である。この図5において培養例(a)は、藻体培養時の光条件について、白色光照射の条件下で培養した場合のガゴメの状態変化を示している。また、培養例(b)は、波長500nmの単色光照射の条件下で培養した場合のガゴメの状態変化を示している。ここでは、培養例(a)、(b)のいずれについても、培養1日目、13日目、25日目、34日目、44日目の藻体の状態を示すとともに、それぞれの状態に対応するガゴメの成長ステージ(図1参照)を付記している。また、図中において、各状態図の下部に示す横線は、長さ1cmのスケール・バーを示している。
【0044】
また、具体的なガゴメの成長条件については、いずれの培養例も光周期を12時間明期/12時間暗期として、光量50μmol/m/sで光を照射した。また、海水の温度は10℃に設定し、培養34日目以降は15℃に設定した。また、培養例(b)では、培養34日目以降は照射光を波長500nmの単色光から蛍光灯の白色光へと切り換えた。また、藻体へのストレス付与は行っていない。
【0045】
図5の培養例(a)をみると、白色光照射の条件下ではガゴメの藻体の成長は遅く、培養44日目でようやく凹凸紋様が形成されている。これに対して、波長500nmの単色光照射の条件下の培養例(b)では、培養25日目において、既にその成長ステージがS1.5に達し、再生葉の特徴である凹凸紋様がはっきりと形成されている。このような結果から、上記した栽培方法による多年生コンブの成長の促進効果が確認できる。
【0046】
図6は、照射する光の波長を変えて培養した場合のガゴメの成長状態の違いを示す図である。図6において、状態(a)は白色光、状態(b)は波長466nmの青色光、状態(c)は波長500nmの青緑色光、状態(d)は波長576nmの緑色光、状態(e)は波長613nmの橙色光、状態(f)は波長644nmの赤色光をそれぞれ照射して培養した場合のガゴメ幼体の成長状態を示している。
【0047】
具体的には、約10mmまで成長したガゴメの藻体を、白色蛍光灯からの白色光、または各波長のLEDからの光を照射する条件下で10日間培養し、それぞれの成長状態を比較した。また、藻体の培養においては、滅菌海水にプロパゾリ栄養塩(PES)を添加したものを培養液として、エアレーションを行いながら、温度10℃〜15℃、光周期12時間明期/12時間暗期(図5)または24時間明期/0時間暗期(図6)、光量10〜50μmol/m/sの条件下で培養を行った。
【0048】
図6の状態(a)〜(f)に示すように、波長500nmの青緑色光を用いた場合が最もガゴメの藻体の成長が速く、再生葉の形成も認められた。また、波長466nmの青色光を用いた場合にも藻体の成長が認められた。一方、緑色光、橙色光、赤色光を用いた培養例では、いずれも藻体の成長はほとんど見られなかった。この結果から、上記のように450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の促成用光を用いて育苗を行うことにより、多年生コンブの成長が促進されることがわかる。また、光周期については、12時間明期/12時間暗期の照射条件よりも、24時間明期/0時間暗期の連続照射の条件の方が藻体の速い成長が認められた。
【0049】
本発明による褐藻類の栽培方法は、上記実施形態及び実施例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、第1育苗ステップにおける藻体の培養については、ストレス付与を含む上記した方法に限られるものではなく、第2育苗ステップの前段階として藻体を充分な大きさまで成長可能であれば、様々な方法を用いて良い。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、ガゴメなどの褐藻類の栽培に要する期間と手間を低減することが可能な褐藻類の栽培方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ガゴメの成長過程について示す模式図である。
【図2】ガゴメの栽培方法における各栽培過程を模式的に示す図である。
【図3】ガゴメの栽培方法における各栽培過程を模式的に示す図である。
【図4】ガゴメの栽培方法における各栽培過程を模式的に示す図である。
【図5】ガゴメの培養例を示す図である。
【図6】照射する光の波長を変えて培養した場合のガゴメの成長状態の違いを示す図である。
【符号の説明】
【0052】
10…室内水槽、11…海水、15…採苗器、16…種糸、20…白色光源、30…単色光源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
褐藻類の栽培方法であって、
採苗器に付着させた褐藻類の卵を発生させ、所定の光条件下で培養して藻体へ成長させる第1育苗ステップと、
前記第1育苗ステップで得られた前記藻体を450nm〜550nmの範囲内で設定された波長の促成用光を照射する光条件下で培養して、褐藻類の苗に成長させる第2育苗ステップと
を備えることを特徴とする栽培方法。
【請求項2】
前記第2育苗ステップで得られた前記褐藻類の苗を海中で栽培する海中栽培ステップをさらに備えることを特徴とする請求項1記載の栽培方法。
【請求項3】
前記第1育苗ステップは、
前記採苗器に付着させた前記褐藻類の卵を発生させて前記藻体とする発生ステップと、
前記発生ステップで得られた前記藻体を所定の光条件下で培養して成長させる第1培養ステップと、
前記第1培養ステップで成長された前記藻体をその生育が停滞するように設定された条件下に保持する第2培養ステップと
を含むことを特徴とする請求項1または2記載の栽培方法。
【請求項4】
前記第2育苗ステップにおいて、前記促成用光として波長500nmの単色光を用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の栽培方法。
【請求項5】
前記第2育苗ステップにおいて、前記藻体の培養に用いられる海水の温度を10℃〜15℃の範囲内の温度に設定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−54530(P2008−54530A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−232685(P2006−232685)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(301028901)株式会社鉄組潜水工業所 (6)
【出願人】(505125945)学校法人光産業創成大学院大学 (49)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】