説明

多条刈コンバインの刈取搬送装置

【課題】多条刈りの刈取搬送装置を備えたコンバインをコンパクトに構成し、刈取作業の能率を高める。
【解決手段】刈取装置(2)の右側部に搬送始端部を位置させて刈取穀稈を前側から順次合流させながら車体(3)の後部上方に搬送する合流用穀稈搬送装置(4)を刈幅の中央左側に向けて傾斜させて設け、該合流用穀稈搬送装置(4)に対して刈取穀稈を基部側に合流する中搬送装置(6)と中間位置に合流する右搬送装置(7)とを設け、中搬送装置(6)を前後方向に沿わせて略直線状に設け、右搬送装置(7)を前記合流用穀稈搬送装置(4)の穀稈搬送方向側に傾斜させて設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多条刈のコンバインにおいて、多条の刈取穀稈を安定よく合流させる刈取搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から多条刈のコンバインに関する公知技術は、公開公報上にも多数公開されており、例えば、特開2008−99707号の公開特許公報がその一例である。
該公開特許公報に開示されている公知技術は、明細書と図面によれば、本件出願の前提となる多条刈の刈取部が、図4、及び図5に示され、明細書にその構成が説明されている。該公報の刈取部は、6条刈であるが、記載によると、前部に刈取穀稈条ごとに分草杆(公報の記載は分草板)が配置され、その後方に、各刈取条ごとに引起しケース、突起付きベルト、掻込みスターホイールが順次設けられ、下部位置には、広幅の刈刃が、更に、後方には左右の掻込み合流搬送チエンがそれぞれ設けられ、6条の穀稈条列の刈り取りと合流搬送ができる構成となっている。
【0003】
そして、該公報に記載された発明は、伝動ケースの下側に空間部を形成することによって、搬送途中の刈取穀稈株元部の引掛りや、藁草・泥土などの堆積を防止できる効果があると記載されている。
【特許文献1】特開2008−99707号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各穀稈条ごとの刈取穀稈を合流させながら後部上方まで搬送する合流用穀稈搬送装置に対して、その前側に配置して各条の刈取穀稈を合流位置まで搬送して合流させる搬送装置を有する多条刈の刈取搬送装置は、合流用穀稈搬送装置の搬送穀稈が比較的少量の搬送行程前半位置では、搬送方向に沿うように同じ方向に傾斜させて、流れの方向に自然に合流すると円滑な合流搬送が可能となり、前記合流用穀稈搬送装置の中間部から後半に達して搬送穀稈の量が増加してくると、該合流用穀稈搬送装置に対する搬送装置の角度を大きく取って、合流部分のスペースを広くすることにより、搬送穀稈の適確な受継・合流搬送が可能となることが知られている。
【0005】
しかしながら、従来公知の多条刈の刈取搬送装置には全くその例はなく、前項で説明した特許文献1(該発明は、6条刈であるために、中間部に2条の穀稈条列を刈り取って集めて1条とした搬送装置がある。)に示されているように、前側から刈取穀稈を搬送して合流用の穀稈搬送装置に合流させる搬送装置は、合流搬送装置に対して常に直角に近い大きな角度で接し、両方の搬送装置の間に大きな合流空間部ができる構成となっている。
【0006】
したがって、従来装置は、合流用穀稈搬送装置が搬送する穀稈の量に応じて、前側から搬送して受継ぎ供給する搬送装置の角度に配慮する等の工夫がなく、常に、前記合流用穀稈搬送装置に対する搬送装置の角度を大きく取って、合流部分のスペースを広くするもので、円滑な穀稈の受継ぎ合流が出来ない課題がある。
【0007】
更に、従来の合流用穀稈搬送装置(前記特許文献1の右株元合流搬送チエン33Rが相当する。)は、キャビンの前側に配置しているにもかかわらず、直線状に形成され、キャビンを後方にずらして装置せざるを得ない構成となっており、必然的にコンバインの全長が長くなる課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、刈取装置(2)の右側部に搬送始端部を位置させて刈取穀稈を前側から順次合流させながら車体(3)の後部上方に搬送する合流用穀稈搬送装置(4)を刈幅の中央左側に向けて傾斜させて設け、該合流用穀稈搬送装置(4)の搬送終端部分に、前記刈取装置(2)の左側部に搬送始端部を位置させて複数条の刈取穀稈をまとめて合流させる穀稈搬送装置(5)の搬送終端部を臨ませて設け、前記合流用穀稈搬送装置(4)に対して刈取穀稈を基部側に合流する中搬送装置(6)と中間位置に合流する右搬送装置(7)とを設け、前記中搬送装置(6)を前後方向に沿わせて略直線状に設け、右搬送装置(7)を前記合流用穀稈搬送装置(4)の穀稈搬送方向側に傾斜させて設けたことを特徴とする多条刈コンバインの刈取搬送装置とした。
【0009】
合流用穀稈搬送装置(4)に対して、搬送の途中位置に刈取穀稈を合流する中搬送装置(6)と右搬送装置(7)との2つの搬送装置(6,7)から、合流位置における合流用穀稈搬送装置(4)が搬送している穀稈層(量)に応じて合流角度を変えて設け、刈取穀稈を安定よく整然と合流させることができるものとしている。
【0010】
つぎに、請求項2に記載した発明は、前記合流用穀稈搬送装置(4)は、車体(3)の前部右側に寄せて配置された運転席(8)の前側を経由して側方に向かう搬送経路を形成する構成とし、該合流用穀稈搬送装置(4)は、少なくとも前記運転席(8)の左側に達した部分から後側の部位を平面視でへ字状に近い形状に屈曲させて後方に向けて前記運転席(8)を迂回させたことを特徴とする請求項1記載の多条刈コンバインの刈取搬送装置とした。
【0011】
合流用穀稈搬送装置(4)は、搬送始端部分から順次供給される多条の刈取穀稈条列を整然と合流させながら搬送して、最終的に1つの流れにまとめて後部の搬送装置に受け継ぎ搬送するものでありながら、運転席(8)を極力前寄りに配置して搭載できるものとしている。
【0012】
この構成によって、コンバインは、多条刈にかかわらず全長を長くすることなく構成できて、運転席(8)からの前方視界を確保できるものとなった。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の発明によると、合流用穀稈搬送装置(4)に対して、中搬送装置(6)と右搬送装置(7)とから刈取穀稈を合流するにあたり、合流用穀稈搬送装置(4)が搬送している穀稈の量に応じて、中搬送装置(6)及び右搬送装置(7)の合流角度を変えて設け、刈取穀稈を安定よく整然と合流させることができ、刈取作業を能率よく行うことができる。
【0014】
請求項2記載の発明によると、上記請求項1記載の発明の効果に加えて、刈取搬送装置を運転席(8)に接近させることによって多条刈の大型コンバインにかかわらず全長を短くして機体をコンパクトに構成でき、運転席(8)からの前方視界を良好に確保でき、刈取作業の能率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施例を図面に基づいて具体的に説明する。
まず、コンバインは、図5に示すように、左右一対のクローラ10,10を装備した車体3上に、穀稈供給口11を前側に位置させて脱穀装置12を搭載し、その前側に刈取搬送装置1を昇降自由に連結した構成としている。
【0016】
そして、刈取搬送装置1を支持する機枠構成は、上記脱穀装置12の前側、車体3の前部に刈取懸架台が装置され、その刈取懸架台上に基部を枢着状態に支持した後部フレーム13を、前部下方に延長してその前端部に、横向きの伝動ケース14を連結して平面視T型の伝動機構を内装した刈取支持フレーム15を構成している。そして、刈取搬送装置1は、前記刈取支持フレーム15上に各部材を取り付けて支持するが、図1に平面視で示した実施例の場合、前部低位置に8個の分草杆17を、略等間隔を保持して横方向に順次配置し、前記伝動ケース14の前側機枠に固着して設けている。そして、刈取装置2は、前記横向きの伝動ケース14の前側機枠から前方側に支持して設け、前記した各分草杆17の後方位置に横方向の全幅に渡って配置しており、各穀稈条列ごとに掻込まれる穀稈の根元を刈り取る構成としている。
【0017】
そして、穀稈掻込み装置は、図1、乃至図4に示すように、掻込みラグベルト18と掻込みスターホイール19とからなり、前側を広くV字型にして圃場に植えられている穀稈列を掻込み、前記刈取装置2に案内する左右一対を1組として、全部で3組を横方向に配置した構成としている。
【0018】
そして、一つの穀稈掻込み装置は、図面から明らかなように、一つの掻込みラグベルト18と掻込みスターホイール19とからなり、対向側には案内杆20を設けて1条の穀稈列を掻込んで前記刈取装置2に案内する構成としている。
【0019】
このように、実施例に係る多条刈の刈取搬送装置1を構成する前記穀稈掻込み装置は、刈取支持フレーム15上に、3組の2条用の左右一対の掻込みラグベルト18,18、掻込みスターホイール19,19と、1条用の掻込みラグベルト18、掻込みスターホイール19とによって、全部で7条の植え付け穀稈列を同時に刈取る7条刈りの構成としている。21は穀稈引起し装置を示し、各刈取条ごとに設けている。
【0020】
そして、合流用穀稈搬送装置4は、図1、乃至図4に示すように、根元チエン22と穂先搬送ラグ23とから構成するが、搬送始端部を前記刈取装置2の右側に位置させて、右側チエン24に接続させて配置し2条の刈取穀稈を引き継ぐ位置に設け、搬送途中で前側から順次合流させながら車体3の後部上方に搬送するように中央から更に、左寄りに向けて傾斜させて配置した構成としている。そして、穀稈搬送装置5は、図面に示すように、搬送始端部を前記刈取装置2の左端側に位置させ、左2条の刈取穀稈をまとめて搬送し、その終端部分を前記合流用穀稈搬送装置4の搬送終端部分に供給して合流させる構成としている。
【0021】
そして、中搬送装置6は、2条の刈取穀稈を集めて、前記合流用穀稈搬送装置4の基部側(搬送方向の下手側)に合流する位置に設けているが、この場合、車体3の前後方向に沿わせて略直線状に配置した構成としている。そして、右搬送装置7は、図1から解るように、前記中搬送装置6の右側にあって、前記合流用穀稈搬送装置4の中間位置に合流する配置とするが、この場合、該合流用穀稈搬送装置4の穀稈搬送方向側に傾斜させて搬送方向に沿わせながら合流する構成としている。
【0022】
このように、右搬送装置7は、前記合流用穀稈搬送装置4が搬送している穀稈量が比較的少ない部分での合流であるから、合流部分のスペースをできる限り狭くして搬送方向に沿わせながら合流させる構成とし、一方、中搬送装置6は、合流位置において、合流用穀稈搬送装置4の搬送穀稈量が増加して層が厚くなって搬送されて来るから、合流角度を大きく取って広い合流スペースを確保する構成としている。
【0023】
そして、前記合流用穀稈搬送装置4は、平面視において、前記車体3の前部右側に寄せて配置された運転席8の前側を横切って配置し、その運転席8の左側にまで延長して車体3の左側に搬送する構成としている。そして、合流用穀稈搬送装置4は、図1から解るように、前記運転席8の左側に達した部分から平面視でへ字状に近い形状に屈曲させて後方に向けて設けており、前記運転席8を迂回させた構成としている。この場合、合流用穀稈搬送装置4を構成している根元チエン22は、図1に示す実施例では、非搬送側を後側から押圧ローラ25を押し当てて前側にへ字状に近い形状に屈曲させた構成としている。
【0024】
そして、前記合流用穀稈搬送装置4、前記穀稈搬送装置5、前記中搬送装置6、及び前記右搬送装置7は、具体的な記載を省略している部分もあるが、それぞれ根元チエンと穂先ラグとによって、穀稈の株元側を挟持して穂先側をラグに係合しながら搬送する構成で、従来公知の技術を採用して構成している。
【0025】
以上述べたように、この発明の実施例は、合流用穀稈搬送装置4の搬送行程の中間部分に、中搬送装置6と右搬送装置7とを前側に配置して、それぞれ刈取穀稈を合流するにあたり、合流用穀稈搬送装置4が搬送している穀稈の量に応じて、2つの搬送装置6,7の合流角度を変えて設け、刈取穀稈を安定よく整然と合流させることができるものとしている。
【0026】
そして、実施例の合流用穀稈搬送装置4は、上述の通り、搬送始端部分、更に搬送途中において、順次供給される多条の刈取穀稈条列を整然と合流させながら搬送して、最終的に1条にまとめて後部の搬送装置に受け継ぎ搬送するものでありながら、運転席8を極力前寄りに配置して搭載できる利点を備えている。
【0027】
すなわち、実施例は、多条刈の大型コンバインにもかかわらず全長を長くすることなく製作できて、運転席8からの前方視界を良好に確保できるから、安全で効率よく作業ができるものとなっている。
【0028】
つぎに、刈取搬送装置1について、他の具体的な実施例を説明する。
まず、既に、図1に基づいて説明した右搬送装置7は、一つの掻込みラグベルト18と一個の掻込みスターホイール19とからなる穀稈掻込装置と、これらに後続させて設けた根元チエン7aと、更に、対向側には案内杆20を設けて圃場の1条の穀稈列を掻込んで刈取装置2に案内し、刈取後、株元位置を挟持して搬送する構成としている。そして、前記案内杆20は、図6に示すように、根元チエン7a側に張圧する挟持スプリング27を、穀稈を挟持して搬送する経路の略中央位置(挟持搬送区間の中心位置)に配置して設け、挟持搬送の全工程における挟持力の安定を図るものとしている。
【0029】
つぎに、合流用穀稈搬送装置4は、図3、及び図4に示すように、根元チエン22と穂先搬送ラグ23とから構成していることは、既に説明したが、実施例の構成では、穂先搬送ラグ23のすぐ上側から穀稈の搬送通路に沿わせて後側に穀稈上部をガイドする案内板28を後方に傾斜させて配置し、搬送穀稈の上部を載せた状態でガイドできる構成としている。そして、上部穂先搬送ラグ30a,30bは、図3、及び図4に示すように、前記穂先搬送ラグ23の上方位置において、搬送径路の前部と後部とに2分割して配置し、前側から後側に向けてラグを突出させながら穀稈の上部を、前記案内板28上にガイドしながら搬送する構成としている。この場合、上部穂先搬送ラグ30aは、右端2条の刈取穀稈の上部を円滑に搬送誘導する位置にあり、一方の上部穂先搬送ラグ30bは、左隣の1条の刈取穀稈条列を合流搬送させる位置に配置した構成にして、穀稈合流の円滑化を図っている。更に、特徴的な構成は、図4の側断面視で示すように、一方の上部穂先搬送ラグ30bを、対向側に配置した案内板28の板面に対して、直角に近い角度を保ちながら穀稈穂部を係合搬送する構成にしている。
【0030】
このように、上部穂先搬送ラグ30a,30bは、運転席8のすぐ前方位置において、右側2条の合流位置と、その搬送下手側で合流した3条の刈取穀稈穂先側部分をより安定した姿勢で搬送することが可能となり、更に、合流用穀稈搬送装置4を、運転席8の左側に達した部分で平面視へ字状に近い形状に屈曲させる構成にする場合にも、上部穂先搬送ラグ30bに影響を与えることなく構成できる利点がある。
【0031】
そして、合流用穀稈搬送装置4は、図1、乃至図4に基づいて既に説明したように、根元チエン22の搬送始端部を、前記刈取装置2の右側に位置させて、右側チエン24の上側に位置させて接続させ、2条の刈取穀稈を引き継ぐ位置に設けている。そして、合流用穀稈搬送装置4を構成する根元チエン22は、図面に示すように、斜め後方に延長するが、搬送途中で前側から順次穀稈を合流させながら車体3の後部上方に搬送するように中央から更に、左寄りに向けて傾斜させて配置した構成としている。そして、根元チエン22は、図1、又は図2から解るように、右搬送装置7の根元チエン7aより搬送方向の下手側位置で、中搬送装置6より前方位置において、非搬送側を後側から押圧ローラ25を押し当てて前側にへ字状に近い形状に屈曲させた構成としているのである。
【0032】
つぎに、既に説明した構成と重複する部分もあるが、穀稈穂部の搬送について、実施例を説明する。
まず、穀稈穂部の搬送装置、すなわち、穂先ラグは、特に、搬送始端部にあっては、後述する穀稈引起し装置21の引起し作用との関連において、穀稈上部の受継ぎ位置での円滑な搬送を行うために重要になってくる。そして、実施例の如く多条刈の刈取搬送装置1は、進行方向左側の穀稈引起し装置21の引起し終端部分(上部)と、後続する穀稈搬送装置(穀稈上部)との関係位置が課題となっている。
【0033】
図3に示した実施例において、一番左側にある穀稈搬送装置5は、2条の穀稈条列を刈り取った後、まとめて合流用穀稈搬送装置4まで搬送するが、根元チエン5aの上方に、搬送工程の長い一段目の穂先ラグ31を配置し、その更に上方に、搬送工程を短くした二段目の穂先ラグ32を配置した二段穂先搬送の構成としている。そして、中搬送装置6は、図面に示すように、根元チエン6aの上方に比較的長い穂先ラグ33と、その上方に、短い穂先ラグ34を搬送径路に沿わせて二段搬送構成としている。
【0034】
このように構成することによって、多条刈の刈取搬送装置1は、2条の穀稈条列をまとめてそれぞれ搬送する左側の2つの搬送装置5,6の穀稈穂部の搬送が確実に出来るものとなっている。すなわち、各穂先ラグ31,32,33,34は、穀稈引起し装置21からの穀稈上部の受け継ぎ(穂先部分の取り込み)の不良を未然に防止して、円滑な受け継ぎ搬送を行うことができるものとしている。
【0035】
そして、刈取搬送装置1は、図3に示し、既に説明したように、右側の3条の搬送装置については、それぞれ上部穂先搬送ラグ30a,30bを一段構成にして穂先部分の搬送を行う構成としている。実施例の構成では、刈取搬送装置1の右側の穀稈引起し装置21から合流用穀稈搬送装置4側には穀稈上部が抜け易く、停滞が少ないから一段構成にしている。
【0036】
このように、実施例に係る刈取搬送装置1は、右側3条の搬送装置に二段の穂先ラグを設けないで、一段構成の上部穂先搬送ラグ30a,30bを設けることにより軽量化が図られ、前後方向の後部フレーム13を中心とした左右の重量バランスが確保できる特徴と、併せて、コスト低減の効果もある。
【0037】
そして、刈取搬送装置1は、図8に示すように、最も右側に位置した上部穂先搬送ラグ30aを外した構成とすれば、穀稈穂部の搬送機能が若干後退するが、重量軽減とコスト低減では大きな効果が発揮できる。
【0038】
つぎに、運転席8の右前側から左側を経由し、後方の脱穀装置12側にまで延長した合流用穀稈搬送装置4とこれに接続する供給搬送装置38の穂先搬送に関し、図9、及び図10に示す実施例を説明する。
【0039】
まず、実施例は、既に説明している図1、及び図3の刈取搬送装置1と同一の7条刈であるが、合流用穀稈搬送装置4と、該合流穀稈搬送装置4の終端部から搬送穀稈を受け継いで後方の脱穀装置12まで搬送して供給する供給搬送装置38との上方に配置して穂先部分を係合しながら搬送する穂先搬送装置39に関する。なお、この場合、穂先搬送装置39は、既に説明した穂先ラグと同様に、図10の如く、搬送ケース40に従来公知の起立、倒伏しながら移動する穂先ラグ42を有する穂先チエン41を、内装、巻回して構成している。
【0040】
そして、穂先搬送装置39は、図面に示すように、合流用の根元チエン22の上方に沿わせて、穂先搬送装置39a,39bに2分割して前後に接続して配置し、受継ぎ搬送を可能とし、更に、供給搬送装置38の上方に穂先搬送装置39cを配置して受継ぎ搬送ができるように、3分割した構成としている。そして、中間の穂先搬送装置39bは、図10に示すように、搬送ケース40の後部を刈取支持フレーム15の後部フレーム13から上方に延長した伝動支持筒43の上部に伝動可能に支持して設け、その前部上側に、右側の穂先搬送装置39aを重ね合わせて伝動可能に連結して支持した構成としている。そして、供給搬送装置38の上方に配置した後部の穂先搬送装置39cは、前側2つの穂先搬送装置39a,39bとは別の伝動支持装置によって支持され伝動されながら、前側から搬送されてくる穀稈層の穂部を受け継ぎながら脱穀装置12に供給できる体勢に順次倒伏させるように搬送する構成としている。
【0041】
このように、実施例に係る穂先搬送装置39a,39b,39cは、3分割して順次受け継いで連続搬送が可能に配置した構成としているから穀稈上部の搬送を円滑に行うことができるのは勿論であるが、各搬送ケース40の接続部位が、平面視で折り曲げして接続が可能であるから、運転席8との干渉を避けながら運転席8を前寄せに配置できる。そのため、コンバインは、運転席8からの前方視界を確保できる特徴と、併せて、車体全長を短く出来て、多条刈型で大型になりがちである構成をコンパクトにできる特徴がある。そして、合流用穀粒搬送装置4上の2つの穂先搬送装置39a,39bは、連続した一体構成にして、支持と伝動とを一体化して構成を合理的にした利点もある。
【0042】
つぎに、7条の穀稈引起し装置21について、その伝動機構の実施例を図面に基づき説明する。
まず、引起し伝動筒45は、図11に示すように、下方の地面側に沿って横向きに配設している伝動ケース14の上方に略平行状態に配置し、該伝動ケース14の端部に下部を連結した縦型伝動筒46の上部を連結して正面視コ字型に枠組みした構成としている。そして、引起し伝動軸47は、前記引起し伝動筒45に内装して軸架され、前記伝動ケース14内の刈取伝動軸48からベベルギヤ49,49、縦型伝動筒46内の縦軸50、引起し変速装置51を経由して伝動する構成となっている。
【0043】
そして、前記引起し伝動筒45は、図面に示すように、適宜間隔を隔てた位置に5個の引起し動力の取出しケース53を配置して取り付け、その各ケース53に内装した伝動軸54には、前記引起し伝動軸47から2個のベベルギヤ55,55を介して動力を分岐して取り出し、伝動できる構成としている。そして、伝動ギヤケース56は、前記取出しケース53の先端部(下端部)に連結して引起し動力伝動軸57を設け、前記伝動軸54の動力を引起しケースに入力する構成とするが、実施例の場合、引起し動力伝動軸57が右側(図11の右側であって、コンバインでは左側)から1本(1条)、2本(2条)、2本(2条)と設けられ、つぎの1本(1条)は、伝動ギヤケース56が取出しケース53からオフセットされた位置に設けられ、最も右に1本(1条)が設けられた構成としている。
【0044】
このように、7条刈りの刈取搬送装置1は、7条の穀稈引起し装置21を刈取条間に対応させて配置するために、伝動ギヤケース56を取出しケース53からオフセットして配置し、穀稈の引起し作用が円滑にでき引起し姿勢の安定を図る構成としている。
【0045】
つぎに、車体フレーム60の前端部と刈取搬送装置1との間に設けた振れ止め装置61について、図12、乃至図14に示した実施例を説明する。
まず、多条刈の刈取搬送装置1は、既に説明し図12にも示すように、後部フレーム13とその前に固着した横向きの伝動ケース14とからなる刈取支持フレーム15に刈取装置2や各般送装置を伝動可能に支持し、広幅にして7条の穀稈列を刈取できる構成としている。実施例の場合、刈取搬送装置1は、進行方向に向かって後部フレーム13より左側に3条の刈取搬送通路を配置し、右側に4条の刈取搬送通路を配置して若干右側が長く形成されている。そして、振れ止め装置61は、図面に示すように、2枚の振れ止め板61a,61bを枢着連結し、一方の振れ止め板61aの端部を車体フレーム60の前端に設けたブラケット62に枢着連結し、他方の振れ止め板61bの端部を伝動ケース14に枢着連結して、刈取搬送装置1の振れ止め作用を可能に構成している。そして、振れ止め装置61は、図面に示した実施例の場合、合流用搬送装置4の搬送始端部、すなわち、根元チエン22の下方位置に配置して横向きの伝動ケース14と車体フレーム60とを連結した構成としている。
【0046】
そして、前記振れ止め装置61は、図13に示すように、側部に垂れ下がり防止用の張圧スプリング63を配置し、前記2枚の振れ止め板61a,61bの上端部位と下端部位とをスプリングで引き合うように連結して余分の垂れ下がりを防止できる構成としている。そして、65は雑草溜りを防止する排除板を示している。
【0047】
以上述べたように、振れ止め装置61は、多条刈のため刈幅が広くなった刈取搬送装置1の後部フレーム13を中心とした左右部分の上下方向の振れを未然に防止し、安定した走行、刈取作用を行うことができるものとなった。そして、実施例の場合、振れ止め装置61は、穀稈の搬送通路を避けて低い位置に設けたから、搬送穀稈の障害になることはない。そして、張圧スプリング63は、2枚の振れ止め板61a,61bの上端部位と下端部位とが弾性的に引き合うように連結したから、振れ止め装置61の必要以上の伸び(下がり)を抑制して刈取搬送装置1の一方側の垂れ下がりをなくして、極力水平に保持できるものとしている。
【0048】
また、雑草溜りを防止する排除板65は、伝動ケース14の上側に取り付けているから、作業中に雑草が溜まって搬送に障害となることを防止し、刈取搬送装置を上昇すると、反転して雑草を地面に排出ができものとなっている。
【0049】
つぎに、図15、乃至図17に示した搬送ラグ67について、実施例を説明する。
従来から、この種の搬送ラグ67は、合成樹脂を素材として成形加工によって製作するが、使用頻度によって強度上の課題があった。
【0050】
実施例の搬送ラグ67は、図面に示すように、内面を空洞にしてその横断面がU字型の長い形状で、背の面で穀稈を係合して搬送する構成としている。そして、搬送ラグ67は、図16に示したように、外周縁に縁肉厚部68を内空側の周囲に形成し、基部側から中間部位に至る間に、内側肉厚部69を形成して、長さ方向の基部側の肉厚を、従来型の縁肉厚部68のみの厚みに対比して2倍程度の厚みに形成している。そして、搬送ラグ67は、図16、及び図17に示すように、前記内側肉厚部69内に、基部側と中間部位に隔たった位置とに最低2箇所の横肉厚部70を設けて前記左右の内側肉厚部69を一体に連結した構成としている。
【0051】
このように、実施例に係る搬送ラグ67は、成形加工時において、外周縁に形成している縁肉厚部68の内側に内側肉厚部69を形成して基部側から半分程度の先端に至る間の肉厚を厚く形成して大幅に強度を増し、更に、基部と中間部との2箇所に横肉厚部70を形成して、左右の縁肉厚部68と内側肉厚部69とを連結して強固な一体構成に成形している。
【0052】
71はラグチエンへの取付け用の孔、72は摺動案内部を示している。
以上述べたように、搬送ラグ67は、従来の縁肉厚部68に沿わせて基部側に内側肉厚部69を設け、更に、横肉厚部70によって左右を一体に連結して強度アップを図った構成にしているから、従来の搬送ラグに比較して大幅に強度が増して耐久性に富む搬送ラグを提供できるものとなった。
【0053】
つぎに、藁屑溜まり防止カバー75の実施例を、図18、乃至図21に基づいて説明する。
まず、穂部搬送装置76は、穂先ラグ77を有する搬送ケース78を脱穀装置12の穀稈供給口11のすぐ前側に配置し、搬送穀稈を最終段階で横向きに倒伏させて供給体勢に誘導できる構成としている。そして、後フレーム13と伝動ケース79とは略T字状に連結され、伝動ケース79の右端に刈取入力プーリ80が軸架され、刈取りと搬送との動力が入力される構成としている。そして、藁屑溜まり防止カバー75は、図面に示すように、上部の前後方向の端縁部fを前記搬送ケース78の下側端に沿わせて連結し、後部フレーム13の上方を覆うように斜め下方に向けて左側まで延長して補強パイプ81に連結している。そして、補強パイプ80は、下端部を後部フレーム13の左側に固着し、上端部を後左上側に延長し、前記伝動ケース79の前側に沿わせて連結固着し、前記後部フレーム13と前記伝動ケース79とを強固に一体化する構成としている。
【0054】
82は供給チエン、83は受継ぎチエン、84はフィードチエンを示している。
以上のように構成した、藁屑溜まり防止カバー75は、図18、及び図20に示すように、刈取脱穀作業中に、上側からカバー75上に落下してくる藁屑を、後部フレーム13の上方で、傾斜面に沿わせて前進方向の左側に案内し、その後部フレーム13より左側から地上に排出することができる。したがって、後部フレーム13や伝動ケース79は、落下してくる藁屑が溜まることはほとんどなくなって地上に滑り落ちるから、溜まった藁屑によって障害を受けることがない。
【0055】
このようにして、実施例は、藁屑溜まり防止カバー75によって、穀稈の搬送障害等をなくし、搬送穀稈を供給チエン82から受け継ぎチエン83を経由してフィードチエン84に受け継がせて脱穀装置12に供給できる特徴がある。
【0056】
つぎに、刈取支持フレーム15を構成する伝動ケース14上に設けた雑草除去装置85について、図22、乃至図24に示す実施例を説明する。
まず、刈取支持フレーム15は、図22に示す実施例のように、後部フレーム13の前部に横向きの伝動ケース14を連結して刈取装置や搬送装置等を取り付けて伝動可能に支持した刈取搬送装置1を構成している。そして、雑草除去装置85は、図22、及び図24に示すように、伝動ケース14の背後に沿わせて設けてリードカム軸86によって左右に往復駆動されて雑草等の除去ができる構成としている。
【0057】
具体的に説明すると、リードカム軸86は、図面に示すように、前記伝動ケース14の背後に平行に沿わせて軸架し、一方側に装備したモーター87に連結して正・逆転可能に設けられ、雑草除去装置85の駆動部85bを螺装して左右に往復摺動する構成としている。そして、雑草除去装置85は、リードカム軸86上の前記駆動部85bと、伝動ケース14上を覆わせて清掃可能に設けた清掃部87aとをアーム85cによって連結して一体に左右移動できる構成としている。
【0058】
なお、88,88は前記リードカム軸86の左右両端あるリミットスイッチ
89は減速ケース、90は案内杆である。
以上の構成によって、雑草除去装置85は、モータ87の駆動により正転されるリードカム軸86上を駆動部85bが左方向に移動して左端に達し、リミットスイッチ88に接触すると、スイッチONとなってモータ87を停止した後、逆転を開始してリードカム軸86を逆転し、駆動部85bを右方向に移動する構成となっている。このようにして、雑草除去装置85は、伝動ケース14上の清掃部87aと、リードカム軸86上の駆動部85bとが一体に左右往復移動しながら、清掃部87aが伝動ケース14上の雑草等の清掃ができる構成としている。
【0059】
そして、実施例は、図22に示すように、後部フレーム13の前端に連結した横向きの伝動ケース14上において、後部フレーム13を中心にして左右両側にそれぞれ雑草除去装置85,85を配置して左右の装置が単独で往復摺動して除去作業が出来る構成としている。
【0060】
このように、実施例の雑草除去装置85は、刈取搬送装置1の前部低位置にある伝動ケース14上に蓄積しようとする雑草を除去できるから、搬送通路上の障害を事前に排除できる特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】刈取搬送装置の平面図
【図2】刈取搬送装置の側面図
【図3】刈取搬送装置の平面図
【図4】刈取搬送装置の一部の側断面図
【図5】多条刈コンバインの側面図
【図6】右搬送装置の案内杆の平面図
【図7】根元チエンと右側チエンとの関係位置を示す側面図
【図8】刈取搬送装置の平面図
【図9】刈取搬送装置の平面図
【図10】前図9の側面図
【図11】穀稈引起し装置の伝動装置を展開して示す断面図
【図12】刈取搬送装置の平面図
【図13】刈取搬送装置の一部の側面図
【図14】刈取搬送装置の上昇位置の側面図
【図15】搬送ラグの側面図
【図16】搬送ラグの平面図
【図17】搬送ラグの側断面図
【図18】コンバインの前部の側面図
【図19】前図18の要部を拡大して示す正面図
【図20】刈取搬送装置の平面図
【図21】雑草溜まり防止カバーの平面図
【図22】刈取搬送装置の背面図
【図23】前図22の要部の背面図
【図24】雑草除去装置の側面図
【符号の説明】
【0062】
1 刈取搬送装置 2 刈取装置
3 車体 4 合流用穀稈搬送装置
5 穀稈搬送装置 6 中搬送装置
7 右搬送装置 8 運転席

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刈取装置(2)の右側部に搬送始端部を位置させて刈取穀稈を前側から順次合流させながら車体(3)の後部上方に搬送する合流用穀稈搬送装置(4)を刈幅の中央左側に向けて傾斜させて設け、該合流用穀稈搬送装置(4)の搬送終端部分に、前記刈取装置(2)の左側部に搬送始端部を位置させて複数条の刈取穀稈をまとめて合流させる穀稈搬送装置(5)の搬送終端部を臨ませて設け、前記合流用穀稈搬送装置(4)に対して刈取穀稈を基部側に合流する中搬送装置(6)と中間位置に合流する右搬送装置(7)とを設け、前記中搬送装置(6)を前後方向に沿わせて略直線状に設け、右搬送装置(7)を前記合流用穀稈搬送装置(4)の穀稈搬送方向側に傾斜させて設けたことを特徴とする多条刈コンバインの刈取搬送装置。
【請求項2】
前記合流用穀稈搬送装置(4)は、車体(3)の前部右側に寄せて配置された運転席(8)の前側を経由して側方に向かう搬送経路を形成する構成とし、該合流用穀稈搬送装置(4)は、少なくとも前記運転席(8)の左側に達した部分から後側の部位を平面視でへ字状に近い形状に屈曲させて後方に向けて前記運転席(8)を迂回させたことを特徴とする請求項1記載の多条刈コンバインの刈取搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2010−4841(P2010−4841A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170788(P2008−170788)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】