説明

多波長構成を使用する光励起のための装置

本発明は、光励起、具体的には、流体サンプル中の生体分子(40)のルミネッセンス励起のための装置に関し、装置の少なくとも1つの所定地域に、異なる波長を備えるスポット(60)の少なくとも1つの配列を生成する多波長発生器を含む。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起の検出のための装置、具体的には、エバネッセント場励起のための装置に向けられている。
【背景技術】
【0002】
励起の検出のための装置、特に、例えば、バイオセンサとして使用されるエバネッセント場励起のための装置の分野において、サンプル(普通、水性媒体又は他の流体)との界面を有するプリズムを使用することは一般的な技法である。プリズム内に、特定の波長の光の単一スポット又は平行ビームが、全反射角よりも大きい(プリズムとサンプルとの間の界面に対する)角度の下で向けられる。これはサンプルとの界面にエバネッセント場をもたらす。サンプル内に存在する種によるエバネッセント場の吸収の場合には、これは励起状態の励起をもたらし得る。励起状態は、例えば、ルミネッセンス放射線をもたらすルミネッセンスによって基底状態に緩和し得る。普通、ルミネッセンスは、タンパク質又はDNA若しくはRNA鎖のような、発光、主として、蛍光標識生体分子によって引き起こされる。次に、ルミネッセンスが測定され、生体分子が特定される。
【0003】
しかしながら、特に、異なる標識生体分子が分析されるべきサンプル内に存在する場合には、従来技術の解決策は、精巧な配置及び時間のかかる分析技法を必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、特に、異なる標識検体が存在する場合に、サンプルのためのより迅速な検出を可能にする装置を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は本発明の請求項1に従った装置によって解決される。
【0006】
従って、多波長発生器を含む、励起、特に、流体サンプル中のルミネッセンス励起を検出するための装置が提供され、多波長発生器は、少なくとも1つの配列のスポットを生成し、スポットの異なる配列は、装置の少なくとも1つの所定地域に異なる波長を有する。
【0007】
そうすることによって、殆どの用途のために以下の利点が達成され得る。
− 検出装置のために異なる蛍光体が使用される場合には、これらの蛍光体は、より高い解像度を伴って、より効率的に、特に、時間効率的に検出され得る。
− 本発明に従った装置は、特に標識生体分子のために、迅速な高スループットスクリーニングを可能にする。
− 本発明に従った装置は、改良された柔軟性を可能にする。何故ならば、多波長発生器が励起波長のコーム(必ずしも一定の波長間隔にある必要はない)を生成するからである。蛍光のために、励起スペクトル(励起波長の関数としての蛍光信号)は、典型的には、10〜50nmのスペクトル波長を有する。これは、多波長発生器が蛍光体の励起スペクトルのスペクトル幅よりも適切に小さく動作する後続波長の間の波長間隔を備える多波長発生器が、(十分に広い励起スペクトル、即ち、後続波長間の間隔よりも大きい帯域幅を備える)如何なる発光体の励起のために使用されることができ、その励起波長は、多波長発生器が適切に動作するための最小及びサイダ波長内にあることを暗示する。
【0008】
本発明の好適実施態様によれば、装置は、透明スラブ又はスラブ−サンプル界面を有するスラブ基板をさらに含み、スポットの配列は、スラブ−サンプル界面上或いはその近傍に設けられる。
【0009】
そのような装置を使用することによって、実際の用途に依存して、以下の利点の1つ又はそれよりも多くが達成され得る。
− 励起電力のエバネッセント波への変換は、従来技術における解決策よりも効率的である。即ち、ブロックを備えるマスクを備える構成と比較してより多くのスポット当たり電力、並びに、そのスポット当たり最大有用電力は飽和効果によって制限されるので、電力を複数スポットに亘って分割し、全電力のより効率的な使用が得られる。
− (スラブに入る光である)励起光及び(サンプルによって放射される光である)ルミネッセンスの光路は、より良好に分離される。
− 装置は、普通、従来技術のそれよりも単純である。
− 装置は、複数スポット構成を(遮断のために使用されるマスクのような)他の光学素子と同期することを必要としない。
【0010】
本発明の意味における「スラブ」の用語は、具体的には、立方体状又はプリズム形状の装置を意味し、それは複数スポット構成がスラブとサンプルとの間の界面に形成されることを可能にする。好適実施態様によれば、スラブはプリズムである。しかしながら、他の用途のために、スラブが立方体形状であることが好ましくあり得る。
【0011】
本発明の意味における「透明」という用語は、具体的には、材料が励起波長及び/又はルミネッセンス波長を有する光のために本質的に透明(十分に低損失)であることを意味する。
【0012】
本発明の意味における「スラブ−サンプル界面」という用語は、具体的には、スラブの少なくとも一方の側が励起光に晒され、或いは、サンプルに向かって方向付けられることを意味する。その場合には、この側は界面と呼ばれる。(以下に記載されるように)表面プラズモン共振が使用される場合、スラブとサンプルとの間に設けられる表面プラズモン層があり得る。その場合には、「スラブサンプル界面」は、サンプルに向かって突出する表面プラズモン層の側を備える。
【0013】
本発明の好適実施態様によれば、少なくとも1つの配列のスポットの波長は、≧200nm〜≦2000nmであり、本発明の実施態様によれば、少なくとも1つの配列のスポットの波長は、≧300nm〜≦800nmである。
【0014】
本発明の好適実施態様によれば、(波長の意味において)隣接する配列内の波長の平均差は、≧5nmと≦150nmとの間であり、本発明の好適実施態様によれば、(波長の意味において)隣接するスポットの配列の間の波長の平均差は、≧10nmと≦100nmとの間であり、本発明の好適実施態様によれば、波長の平均差は、≧50nmから≦75nmである。
【0015】
本発明の好適実施態様によれば、(波長の意味において)隣接する配列の間内の波長の平均差における平均偏差は、≧0nmであり且つ≦20nmであり、本発明の好適実施態様によれば、(波長の意味において)隣接する配列の間内の波長の平均差における平均偏差は、≧3nmであり且つ≦15nmであり、本発明の好適実施態様によれば、(波長の意味において)隣接する配列間の波長における平均差における平均偏差は、≧5nmであり且つ≦10nmである。
【0016】
本発明の実施態様によれば、多波長発生器は、少なくとも1つの配列のスポットのうちのスポットの少なくとも1つが偏光を含むよう、多波長発生器は、少なくとも1つの偏光装置を含む。後に記載されるように、殆どの用途にとって、これは反射光が遮断手段によって遮断され得るという利点を有する。
【0017】
本発明の実施態様によれば、多波長発生器は、1つの偏光状態(ps1)を透過し且つ他の(直交する)偏光状態(ps2)を透過せず或いは反射する少なくとも1つの偏光フィルタを含む。
【0018】
本発明の実施態様によれば、多波長発生器は、δφ1度の角度の回転によって偏光状態を回転する少なくとも1つの偏光回転子を含む。
【0019】
本発明の好適実施態様によれば、多波長発生器は、多波長発生器によって生成される光又はその一部を遮断する遮断手段を含む。
【0020】
本発明の好適実施態様によれば、多波長発生器は、多波長発生器によって生成される光の1つの偏光成分(偏光状態2;ps2)を遮断し且つ他の偏光成分(偏光状態1;ps1)を透過する第一遮断手段と、スラブ−サンプル界面で反射される光を遮断する第二遮断手段とを含む。
【0021】
本発明の実施態様によれば、遮断手段は、偏光フィルタ及び/又は偏光回転子を含む。
【0022】
本発明の実施態様によれば、遮断手段は、|δφ1+δφ2|=90度が満足されるよう、δφ1だけ偏光状態を回転する少なくとも1つの偏光回転子を含む。
【0023】
本発明の実施態様によれば、偏光装置は装置をp/s偏光に偏光し、遮断手段はp/s偏光を遮断し、且つ/或いは、偏光装置は装置をs/p偏光に偏光し、遮断手段はs/p偏光を遮断する。
【0024】
本発明の実施態様によれば、装置は、偏光状態ps2を遮断する偏光フィルタ及び/又は偏光角をδφ1度だけ回転する偏光回転子を含む第一遮断手段と、偏光フィルタ及び/又は偏光角をδφ2度だけ回転する偏光回転子を含む第二遮断手段とを含む。本発明の実施態様によれば、偏光回転子は、|δφ1+δφ2|=90度が満足されるよう構成される。
【0025】
本発明の実施態様によれば、異なる波長のスポットの配列の空間分布は本質的に重なり合う、即ち、異なる波長の隣接するスポットのための中心位置は、同一波長の後続スポット間の平均ピッチの+/−15%より多くは逸脱せず、本発明の1つの実施態様によれば、+/−10%より多くない。
【0026】
本発明の好適実施態様によれば、スラブは、プリズム−サンプル界面を有するプリズムであり、入射励起光がプリズム−サンプル界面上で全反射されるような角度を備え、プリズムの角度φは、好ましくは、
【数4】

であるよう選択され、
ここで、θTIRは、界面の法線に対する最小角度のような全反射角であり、以下の全反射がもたらされる。
【数5】

【0027】
本発明の好適実施態様によれば、スラブの全反射円錐φは、
【数6】

である
【0028】
本発明に従った装置は、広範なシステム及び/又は用途において、とりわけ、以下の1つ又はそれよりも多くにおいて有用であり得る。
− 分子診断のために使用されるバイオセンサ、
− 例えば、血液、唾液のような複合生物学的混合物中のタンパク質及び核酸の迅速且つ感応的な検出、
− 化学、医薬品、又は、分子生物学のための高スループットスクリーニング装置、
− 例えば、犯罪学における、例えば、DNA又はタンパク質のための、(病院内の)現場試験のための、集中試験室内の或いは科学研究における診断のための試験装置、
− 心臓学、感染症、腫瘍学、食物、及び、環境診断学のためのDNA又はタンパク質診断のための工具、
− 組み合わせ化学のための工具、
− 分析装置。
【0029】
前述の構成素子並びに請求される構成素子及び実施態様は、関連分野において既知の選択基準が制限なしに適用され得るよう、それらのサイズ、形状、材料選択、及び、技術的着想についての如何なる特別な例外にも制約されない。
【0030】
本発明の目的の追加的な詳細、機能、特徴、利点は、従属項、図面、並びに、それぞれの図面及び実施例の以下の記載に開示され、図面及び実施例は、例示的な方法で、本発明に従った装置の幾つかの好適実施態様を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1は、本発明の第一実施態様に従った装置1の極めて概略的な断面図を示している。装置は、プリズムの形態のスラブ10を含み、それはサンプル30との界面20を有する。サンプル30は、発光、好ましくは、蛍光標識生体分子40が存在する水性又は流体媒体である。
【0032】
装置は、さらに、2つの回折素子50a及び50bの形態の多波長発生器を含む。回折素子50aは、波長λ1を有するスポット60の配列を生成する位相板である。回折素子50bは、波長λ2を有するスポットの配列を生成する位相板である。図1中には、波長λ1を備える光100の道(左から右への)のみが示されており、波長λ2を備える光の道は類似するが(右から左)、明瞭性の理由のために図1中に示されていないことが留意されるべきである。
【0033】
光100は、回折素子50を通過した後、偏光フィルタの形態の遮断手段70bを通り、遮断手段は、1つの偏光状態(ps1)を透過するが、他の(直交する)偏光状態(ps2)を透過或いは反射せず、偏光状態ps2を有する光は、偏光フィルタによって吸収される。次に、光は偏光回転子に入り、偏光回転子は、δφ1度の回転角だけ偏光状態を回転する。
【0034】
生体分子40が多スポット構成のエバネッセント部分内に存在する場合には、(点線200によって表示されるような)蛍光が放射され、検出され得ることによって、サンプル30内の生体分子40の存在が表示する。
【0035】
しかしながら、光100の殆どは、第二回折素子50a及び第二遮断手段70bの方向に反射(数字110)される。この第二遮断手段70bは、偏光回転子も含み、偏光回転子は、|δφ1+δφ2δφ2|=90度であるよう、δφ2だけ偏光状態を回転する。その結果、偏光回転子を通った後、光は偏光状態ps2を有する。次に、光は、ps1を透過し且つps2を吸収する偏光フィルタに入る。
【0036】
蛍光200を入射光100と遮断手段70bによって遮断されない反射光110とから区別するために、スラブ10の角度φ及び反射の全円錐は、上述のように選択される。
【0037】
第二回折素子50bは、波長λ2を備えるスポットの配列を生成する(図示せず)。遮断手段70bを通過後、光はps1n対してδφ2度の偏光角を有するので、スラブ10によって反射される光は、(反射光の偏光状態をδφ1度だけ回転し且つ偏光状態ps2を遮断する)遮断手段70aによって遮断される。
【0038】
従って、遮断手段70aは、回折素子50bからの光を遮断し、逆に、遮断手段70bは、回折手段50aからの光を遮断する。よって、遮断手段70aは、遮断手段70bのための偏光手段として作用し、逆も同様である。
【0039】
図2a及びbは、y−z軸及びx−z軸から見られた本発明の第二実施態様に従った装置の極めて概略的な図面を示している。この装置には、4つの波長発生器80が存在し、各波長発生器は、図1と同様に、異なる波長を備えるスポット60の配列を生成する。これらの波長発生器80は、図2a及び2b中にそれぞれY−Z軸及びX−Z軸によって表示されるような幾分「三次元」をもたらす。
【0040】
本発明は、エバネッセント場を使用する装置において有用であるのみならず、伝搬波を使用する装置においても有用であるのは言うまでもない。このような装置はEP04106680.4に示されており、それはここに参照として全体的に引用される。
【0041】
上記の詳細な実施態様中の素子及び機能の具体的な組み合わせは例示的であるに過ぎない。これらの教示と本願及び参照として引用される特許/出願中の他の教示との交換及び置換も明示的に考えられる。当業者が認識するであろうように、請求されるような発明の精神及び範囲から逸脱することなしに、ここに記載されるものの変形、修正、及び、他の実施が当業者に思い浮かび得る。従って、前記の記載は一例であり、制限的であることは意図されない。本発明の範囲は、以下の請求項及びそれらの均等物に定められる。さらに、明細書及び請求項中で使用される参照記号は、請求されるような発明の範囲を制限しない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第一実施態様に従った装置を極めて概略的に示す断面図である。
【図2a】y−z軸から見られる本発明の第二実施態様に従った装置を示す概略図である。
【図2b】x−z軸から見られる本発明の第二実施態様に従った装置を示す概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起、特に、流体サンプル中のルミネッセンス励起を検出するための装置であって、
多波長発生器を含み、該多波長発生器は、少なくとも1つの配列のスポットを生成し、スポットの異なる配列は、当該装置の少なくとも1つの所定地域に異なる波長を有する、装置。
【請求項2】
スラブ−サンプル界面を有する透明スラブをさらに含み、スポットの配列は、前記スラブ−サンプル界面上に或いはその近傍に設けられる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの配列のスポットの波長は、≧200nm〜≦2000nmである、請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
(波長に関して)隣接するスポットの配列間の波長の平均差は、≧5nmと≦150nmとの間である、請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
少なくとも1つの配列のスポットのうちのスポットの少なくとも1つが偏光を含むよう、前記多波長発生器は、少なくとも1つの偏光装置を含む、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記多波長発生器は、前記多波長発生器によって生成されるその部分の光を遮断する少なくとも1つの遮断手段を含む、請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
第一遮断手段が、偏光状態ps2を遮断する偏光フィルタ、及び/又は、偏光角をδφ1度だけ回転する偏光回転子を含み、第二遮断手段が、偏光フィルタ、及び/又は、偏光角をδφ2度だけ回転する偏光回転子を含む、請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記スラブは、プリズム−サンプル界面を有するプリズムであり、入射励起光が前記プリズム−サンプル界面上で全反射されるような角度を備え、前記プリズムの角度φは、好ましくは、
【数1】

であるよう選択され、
ここで、θTIRは、前記界面の法線に対する最小角度のような全反射角であり、以下の全反射がもたらされる、
【数2】

請求項1乃至7のうちのいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記スラブの全反射円錐φは、
【数3】

である、請求項1乃至8のうちのいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のうちのいずれか1項に記載の装置を組み込むシステムであって、
− 分子診断のために使用されるバイオセンサ、
− 例えば、血液、唾液のような複合生物学的混合物中のタンパク質及び核酸の迅速且つ感応的な検出、
− 化学、医薬品、又は、分子生物学のための高スループットスクリーニング装置、
− 例えば、犯罪学における、例えば、DNA又はタンパク質のための、(病院内の)現場試験のための、集中試験室内の或いは科学研究における診断のための試験装置、
− 心臓学、感染症、腫瘍学、食物、及び、環境診断学のためのDNA又はタンパク質診断のための工具、
− 組み合わせ化学のための工具、
− 分析装置
の用途の1つ又はそれよりも多くに使用される、
バイオセンサ。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【公表番号】特表2009−516846(P2009−516846A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541856(P2008−541856)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【国際出願番号】PCT/IB2006/054223
【国際公開番号】WO2007/060569
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】