説明

多発性骨髄腫細胞からの抗原ペプチドの同定

多発性骨髄腫(MM)はクローンB細胞腫瘍であり、従来の抗腫瘍療法では本質的に不治のままである。MM患者の生存期間中央値はたった3年である。MMは、骨髄(BM)中の成熟形質細胞が増殖かつ蓄積され、骨破壊、BM不全、貧血症、及び免疫機能の低下に至ることを特徴とする。多発性骨髄腫細胞上に提示されるMHCクラスI、HLA−A2関連ペプチドの同定は、MMに対する免疫療法の開発における重要な工程である。本明細書に示されるのは、ペプチド負荷T2標的細胞及び多発性骨髄腫細胞株の両方に細胞傷害性である活性化Tリンパ球を作製する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全体的に、生物学的、免疫学的、かつ新規な抗原ペプチドに関する。より詳細には、本発明は、ペプチド負荷標的細胞及び多発性骨髄腫細胞に対して細胞傷害性である、活性化Tリンパ球を再現性よく産生する多発性骨髄腫細胞株から同定された抗原ペプチドに関する。本発明は更に、多発性骨髄腫の治療における、活性化Tリンパ球の抗原特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)としての利用に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書を通して、特許、公開された出願、技術論文、及び学術論文を包含し得る種々の出版物は括弧内に引用され、各々の完全な引用は本明細書の末尾に見出され得る。それらの引用された各出版物はその全体が、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0003】
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)は、異物に対する哺乳類の免疫反応において重要な役割を担い、インビボで腫瘍細胞の死を誘発することができる。CTLはナイーブCD8+ T細胞由来であり、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI細胞表面レセプターにより提示される抗原ペプチドを認識し、ヒト白血球抗原(HLA)とも呼ばれる。ナイーブT細胞は、抗原又は他の活性化に必要なシグナルに未だ遭遇していないという点で、活性化T細胞と区別される。ナイーブT細胞の誘導には2つのシグナルが必要であると一般に認識されている。シグナル1は、T細胞レセプター(TCR)とMHC/抗原ペプチド複合体との間の相互作用により誘導され、MHCクラスI分子の非多型部位へのCD8コレセプターの結合により促進される。シグナル2はシグナル1と質的に異なり、MHCクラスII分子及び共刺激分子を発現する抗原提示細胞(APC)上の相補的リガンドと相互作用するT細胞共刺激分子を介して伝達される。シグナル1及び2は相乗的に機能し、最終的にT細胞を誘導して増殖し、サイトカインを産生し、かつ抗原特異的CTL(後に全身を移動して他の特異的抗原陽性細胞を探索しかつ破壊できる)へ分化するという一連のシグナル伝達現象を引き起こす。
【0004】
加えて、細胞性抗原に対する応答は、CD4+ T細胞、すなわちヘルパーTリンパ球(HTL)により届けられる支援に依存することが証明されている。この支援の本質とは、CTLの増幅に必要とするIL−2の産生のために、活性化HTLを要すると解釈されている。また、最近の研究では、この支援が、HTLによる樹状細胞の活性化に由来するものであり、CD40とそのリガンドの相互作用により媒介されることも示している。樹状細胞は、CTL応答の極めて強力な誘導因子であると証明されており、CTLのプライミングに関与する主要APCであると考えられている。一般にAPCは、これらの細胞に特有のメカニズムから、シャペロン分子を伴う可溶性抗原の形態で、又は食作用により抗原を取り込むと考えられている。
【0005】
最近では、CTLにより認識される腫瘍関連抗原(TAA)をコードする多くの遺伝子が、様々なヒト腫瘍細胞のcDNAから同定されている。例えば、黒色腫におけるTAAの同定は、強力なT細胞応答をインビボで誘導する試みにおいて、抗原が免疫原的な状況で送達されるワクチン接種戦略を用いて癌細胞を標的とする治療を試験する臨床試験に導いた。これらのTAAによるワクチン接種戦略により、新たな癌免疫療法の開発が期待できる。
【0006】
養子免疫療法は、新たな癌免疫療法として期待される別の戦略である。養子免疫療法には、1つ以上の腫瘍抗原に特異的なT細胞のインビトロ活性化と増幅、それに続く活性化T細胞による患者の治療が含まれる。TAAを用いるワクチン接種療法と比較して、養子T細胞療法には、寛容原性機構が免疫原性応答に影響し得る宿主環境からのT細胞除去が含まれるため利点がある。更に、マウス腫瘍モデルにおける試験では、養子免疫療法が、最小限の毒性で有効性を示し得ることが証明された。過去における、ヒト腫瘍の治療に対してこの戦略を適用する上での障害の1つは、CTL媒介型破壊を受けやすい腫瘍細胞の状態にする免疫原性抗原に関する情報の欠如であった。しかし最近になって癌患者から腫瘍反応性T細胞が単離され、CTLが対象とするTAAの同定につながった。これらの一部には、チロシナーゼ、MART−1/Melan A、gp100、及びMAGEが挙げられる。これらのうち、チロシナーゼ及びMART−1は、黒色腫細胞でほぼ普遍的に発現しており、そのため黒色腫患者の養子免疫療法に対する所望の標的選択を表す。
【0007】
初期の養子免疫療法の取り組みとしてはリンホカイン活性化キラー細胞(LAK)を用いた後、腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を用い、双方ともIL−2を用いてエクスビボで活性化された。しかし、効果ははっきりと証明されず、したがってこれらの初期の比較臨床試験は、黒色腫患者に対するIL−2の直接投与に優る、エクスビボ活性化細胞使用の利点を示すことができなかった。更に最近の試験では、特定の養子T細胞治療の取り組みについての可能性が明確に示された(Yeeら、PNAS,Vol.99,pp.16168〜16173,(2002);Dudley et al.,Science,Vol.298,pp.850〜854,(2002))。これらの試験には、MART−1若しくはgp100に特異的なT細胞クローン及び低用量IL−2、又は、同種異系の支持細胞を用いてエクスビボで増幅したTIL及び高用量IL−2のいずれかの使用が含まれる。これらの試験により、養子免疫療法が癌の治療に期待できることが確認された。
【0008】
人工抗原提示細胞(aAPC)の利用は、治療的数の抗原特異的CD8+ T細胞を再現性よく生成するエクスビボ法である。というのは、天然のAPCをインビトロでT細胞の活性化に使用することは可能であるが(例えば、樹状細胞、マクロファージ、B細胞、又は自己腫瘍細胞)、天然APCのMHC分子が多くの他のペプチドエピトープを含むため、活性化の効力は低くなることがあるからである。その結果、これにより選択したエピトープの提示は最少となり得る。加えて、これら提示されたペプチドの多くは、正常で無害な内因性タンパク質を表す。この問題に対するより直接的な取り組みは、疾患の治療に関与するエピトープのみに対して、CD8+ T細胞を特異的に活性化することである。この取り組みはaAPCを用いて達成できる(例えば、米国特許第6,225,042号、同第6,355,479号、同第6,362,001号、及び同第6,790,662号、米国特許公開第2009/0017000号、及び同第2009/0004142号、並びに国際公開第2007/103009号を参照されたい)。
【0009】
そのようなaAPCの1つが、キイロショウジョウバエ(ミバエ)の胚細胞株を使用して開発されており、これは主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子を発現する。ショウジョウバエは、ヒトMHC分子へのペプチドエピトープ負荷に関与するヒトTAP1及びTAP2ペプチドトランスポーターに相同するものを欠いている。その結果、形質移入したクラスI分子及びクラスII分子は、中身がない容器としてショウジョウバエ細胞の表面上に現れる。MHCクラスI又はMHCクラスIIをコードする発現ベクターで形質移入したショウジョウバエの細胞を、特異的MHC分子に結合する1つ以上の外因性合成ペプチド(すなわち、T細胞ペプチドエピトープとして提示するためのTAA)とインキュベートすることにより、利用できる全てのMHC分子がMHC拘束性特異的ペプチドエピトープに占有され得る。特に、単一又は複数のペプチドエピトープを提示しているHLA−A2.1 MHCクラスI分子の高密度発現、及び、これらショウジョウバエaAPCへの主要補助分子B7−1(CD80)、LFA−3(CD58)、ICAM−1(CD54)、及びCD70の追加は、選択したペプチドに特異的でありかつ細胞療法としての利用に好適である、強力な自己細胞傷害性CD8+ T細胞のインビトロ生成を可能にする。
【0010】
このような細胞療法の1つは、黒色腫関連抗原由来の選択されたHLA−A2.1拘束性ペプチドにペプチド特異性を示すエクスビボ活性化自己CD8+CTLを用いて調製された、自己免疫療法生成物を含む。細胞療法生成物の活性成分は患者自身のCD8+細胞であり、それら細胞は選択されたHLA−A2.1拘束性ペプチドに対する特異性を有する選択したペプチドを負荷したaAPCに対して曝露することによりエクスビボで活性化されている。細胞療法生成物を生成するために、CTLは、1)治験受託施設で採取されたリンパ球フェレーシスサンプルから単離された自己ナイーブT細胞から取り出され、2)aAPCとしてショウジョウバエ細胞を用いて黒色腫抗原ペプチドエピトープに対してエクスビボで感作(primed)され、3)好ましくはインターロイキン−2(IL−2)及びインターロイキン−7(IL−7)の両方の存在下で、黒色腫抗原性エピトープを負荷した自己単核細胞を用いた再刺激により増幅され、続いて、OKT(登録商標)3を用いて非特異的に増幅され、4)採取され、洗浄され、かつ注入用の最終製剤に再懸濁され、5)CD8+細胞が取出された患者に注入される。再注入用の最終細胞療法生成物は、乳酸リンゲル注射液(76%(容積/容積))、生理食塩水(D5NS)中の5%デキストロース(4%(容積/容積))、及びヒト血清アルブミン(HSA)(20%(容積/容積))の入った300mL中に、1〜10×109個のCTL細胞を含むことが好ましい。
【0011】
自己CD8+CTLのエクスビボ活性化に特異的な抗原を利用するこれらの有望な新規免疫療法は、癌治療に有望な戦略を提供する。これは、現在の治療法では不治である癌に対して、特に興味深い進歩である。多発性骨髄腫(MM)は、米国において年間約15,000人が新たに発症するクローナルB細胞の悪性腫瘍である。MMの生存期間中央値はたった3年であり、骨髄(BM)中の成熟形質細胞(PC)が増殖かつ蓄積され、骨破壊、BM不全、貧血症、及び免疫機能の低下に至ることを特徴とする。MMは、従来の抗腫瘍療法では本質的に不治のままである(Kyle及びRajkumar、N Engl J Med.2004 Oct 28;351(18):1860〜73)。多発性骨髄腫細胞上に唯一提示される骨髄腫特異的抗原ペプチドの同定は、MMに対する有効な免疫療法治療の開発における重要な工程である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、本明細書において、添付の独立及び従属クレームにより定義される実施形態を対象とする。本発明の様々な態様の実施形態、特徴、及び長所は、添付の図面に関連づけられる以下の発明を実施するための形態から明らかになるであろう。
【0013】
一実施形態では、本発明は、Tリンパ球を活性化可能な合成ペプチドを含み、この合成ペプチドは、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、活性化Tリンパ球は多発性骨髄腫癌細胞に対して細胞傷害性である。
【0014】
第2の実施形態では、本発明は、Tリンパ球を活性化可能な少なくとも1つの抗原ペプチドを含む組成物を含み、この抗原ペプチドは、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、その活性化Tリンパ球は多発性骨髄腫癌細胞に対して細胞傷害性である。
【0015】
第3の実施形態では、本発明は、多発性骨髄腫と診断された患者に投与するための活性化Tリンパ球を作製する方法を含み、この方法は、(a)抗原ペプチド負荷ショウジョウバエ人工抗原提示細胞(aAPC)を、少なくとも1つの抗原ペプチドをショウジョウバエaAPCに負荷することにより調製する工程であって、この抗原ペプチドが、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む工程と、(b)その患者からTリンパ球を単離する工程と、(c)かかるTリンパ球をかかる抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCと接触させる工程と、(d)活性化Tリンパ球を生成する工程であって、この活性化Tリンパ球が多発性骨髄腫癌細胞に対して細胞傷害性である工程と、(e)その患者に戻し投与するためにその活性化Tリンパ球を回収する工程と、を含む。
【0016】
第4の実施形態では、本発明は、(f)かかる回収工程で回収された有効量の活性化Tリンパ球をかかる患者に投与する工程を更に含む、上記方法を含む。
【0017】
第5の実施形態では、本発明は、多発性骨髄腫と診断された患者に投与するための活性化Tリンパ球を作製する方法を含み、この方法は、(a)抗原ペプチド負荷ショウジョウバエ人工抗原提示細胞(aAPC)を、2つ以上の抗原ペプチドの混合物をショウジョウバエaAPCに負荷することにより調製する工程であって、この抗原ペプチドが、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む工程と、(b)その患者からTリンパ球を単離する工程と、(c)かかるTリンパ球をかかる抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCと接触させる工程と、(d)活性化Tリンパ球を生成する工程であって、この活性化Tリンパ球が多発性骨髄腫癌細胞に対して細胞傷害性である工程と、(e)その患者に戻し投与するためにその活性化Tリンパ球を回収する工程と、を含む。
【0018】
第6の実施形態では、本発明は、この2つ以上の抗原ペプチドの混合物が配列番号:3、配列番号:13、及び配列番号:14を含有する組成物を含む、上記方法を含む。
【0019】
第7の実施形態では、本発明は、多発性骨髄腫と診断された患者に投与するための活性化Tリンパ球を作製するエクスビボ法を含み、この方法は、(a)抗原ペプチド負荷ショウジョウバエ人工抗原提示細胞(aAPC)を、少なくとも1つの抗原ペプチドをショウジョウバエaAPCに負荷することにより調製する工程であって、この抗原ペプチドが、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む工程と、(b)その患者からTリンパ球を単離する工程と、(c)かかるTリンパ球をかかる抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCと接触させる工程と、(d)活性化Tリンパ球を生成する工程であって、この活性化Tリンパ球が多発性骨髄腫癌細胞に対して細胞傷害性である工程と、(e)その患者に戻し投与するためのその活性化Tリンパ球を回収する工程と、(f)かかる活性化Tリンパ球を再刺激する工程であって、かかる再刺激手順が、(i)その活性化Tリンパ球を、IL−2、IL−4、IL−7、IL−12、IL−15、IL−17、IL−21、IFN−g、及びTNF−αからなる群から選択される少なくとも1つのサイトカインと接触させ、これにより活性化T細胞の成長、増殖、及び/又は分化を促進する工程と、(ii)その活性化T細胞を、照射した自己非CD8+細胞、接着性非CD8+細胞、又は抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCとインキュベートし、これにより再刺激された活性化Tリンパ球を生成する工程とを含む工程と、を含む。
【0020】
第8の実施形態では、本発明は、かかる再刺激手順が、(i)その活性化Tリンパ球を、IL−2と、IL−7、IL−15又はIL−21からなる群から選択される少なくとも1つのその他サイトカインとの組み合わせと接触させ、これにより活性化T細胞の成長、増殖、及び/又は分化を促進する工程と、(ii)その活性化T細胞を、照射した自己非CD8+細胞、接着性非CD8+細胞、又は抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCとインキュベートし、これにより再刺激された活性化Tリンパ球を生成する工程とを含む、上記方法を含む。
【0021】
第9の実施形態では、本発明は、かかる再刺激手順が、濃度1〜100U/mLのIL−2;濃度1〜100U/mLのIL−7、濃度1〜100ng/mLのIL−15及び濃度1〜100ng/mLのIL−21の存在下で、その活性化Tリンパ球を抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCと接触させる工程を含む、上記方法を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
ここで本発明の実施形態を、添付の図面を参照し、例示のみの目的で説明する。
【図1】ペプチドを同定するLC/MS/MSピークの選択、HLA−A2安定化検定法でのペプチド結合に対するペプチドの試験、及び51Cr遊離アッセイでのCTL活性の試験を含む、ペプチド同定プロセスの略図を示す。
【図2】合成され、T2細胞におけるHLA−A2分子への結合及び安定化能について評価された24種類の選択したペプチドに関する、ペプチド濃度に対する蛍光強度中央値(MFI)のグラフを示す。HBC(B型肝炎コアタンパク質)のペプチドを陽性対照として用いた。
【図2A】HBC対照ペプチド及びペプチド1〜6(P1〜P6)の結果を示しており、記号は以下の通りである。HBC(黒丸)、P1(白丸)、P2(黒三角)、P3(白三角)、P4(黒四角)、P5(白四角)、及びP6(黒菱形)。
【図2B】対照ペプチド(HBC)及びペプチド7〜12(P7〜P12)の結果を示しており、記号は以下の通りである。HBC(黒丸)、P7(白丸)、P8(黒三角)、P9(白三角)、P10(黒四角)、P11(白四角)、及びP12(黒菱形)。
【図2C】対照ペプチド(HBC)及びペプチド13〜18(P13〜P18)の結果を示しており、記号は以下の通りである。HBC(黒丸)、P13(白丸)、P14(黒三角)、P15(白三角)、P16(黒四角)、P17(白四角)、及びP18(黒菱形)。
【図2D】対照ペプチド(HBC)及びペプチド19〜24(P19〜P24)の結果を示しており、記号は以下の通りである。HBC(黒丸)、P19(白丸)、P20(黒三角)、P21(白三角)、P22(黒四角)、P23(白四角)、及びP24(黒菱形)。
【図3】51Cr遊離アッセイで測定したCTL活性のグラフを示す。5種の異なるCTLのバッチを1人のHLA−A2陽性ドナー(ドナー1)から生成した。CTL生成及びT2細胞への負荷の両方のために、24種類の選択したペプチドを混合して又は個々に用いて、異なる組み合わせのペプチド混合物(PM)、又は個々のペプチド(P)を作製した。個々のペプチド、又は各CTLを生成するのに用いたのと同じペプチド混合物を負荷したT2細胞により、51Cr遊離アッセイにおいて異なるCTLの活性を測定した。データを、エフェクター(E)標的(T)比(E/T)に対する特異的致死率(%)として示す。
【図3A】ペプチド混合物1(PM1)を用いて生成したCTLの結果を示しており、この混合物はペプチドP1、P7、P9、及びP12を含む。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、個々のペプチドP1、P7、P9、若しくはP12、又はペプチドP1、P7、P9、及びP12を含むペプチド混合物PM1を負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P1(黒丸)、P7(白丸)、P9(黒三角)、P12(白三角)、PM1(黒四角)、HBC(白四角)、及びペプチドなし(黒菱形)。
【図3B】ペプチド混合物2(PM2)を用いて生成したCTLの結果を示しており、この混合物はペプチドP13、P17、及びP21を含む。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、個々のペプチドP13、P17、若しくは21、又はペプチドP13、P17、及びP21を含むペプチド混合物PM2を負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P13(黒丸)、P17(白丸)、P21(黒三角)、PM2(白三角)、HBC(黒四角)、ペプチドなし(白四角)。
【図3C】ペプチド混合物3(PM3)を用いて生成したCTLの結果を示しており、この混合物はペプチドP5、P6、P8、及びP10を含む。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、個々のペプチドP5、P6、P8、若しくはP10、又はペプチドP5、P6、P8、及びP10を含むペプチド混合物PM3を負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P5(黒丸)、P6(白丸)、P8(黒三角)、P10(白三角)、PM3(黒四角)、HBC(白四角)、及びペプチドなし(黒菱形)。
【図3D】ペプチド混合物4(PM4)を用いて生成したCTLの結果を示しており、この混合物はペプチドP14、P15、及びP20を含む。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、個々のペプチドP14、P15、若しくはP20、又はペプチドP14、P15、及びP20を含むペプチド混合物PM4を負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P14(黒丸)、P15(白丸)、P20(黒三角)、PM4(白三角)、HBC(黒四角)、ペプチドなし(白四角)。
【図3E】ペプチド14を用いて生成したCTLの結果を示す。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、又は個々のP14ペプチドを負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチドを負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P14(黒丸)、HBC(白丸)、及びペプチドなし(黒三角)。
【図4】51Cr遊離アッセイで測定したCTL活性のグラフを示す。6種の異なるCTLのバッチを1人のHLA−A2陽性ドナー(ドナー2)から生成した。CTL生成及びT2細胞への負荷の両方に対し、24種類の選択したペプチドを混合して、又は個々に用いて、異なる組み合わせのペプチド混合物(PM)、又は個々のペプチド(P)を作製した。個々のペプチド、又は各CTLを生成するのに用いたのと同じペプチド混合物を負荷したT2細胞により、51Cr遊離アッセイにおいて異なるCTLの活性を測定した。データを、エフェクター(E)標的(T)比(E/T)に対する特異的致死率(%)として示す。
【図4A】ペプチド混合物1(PM1)を用いて生成したCTLの結果を示しており、この混合物はペプチドP5、P6、P8、P10、及びP13を含む。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、個々のペプチドP5、P6、P8、P10、若しくはP13、又はペプチドP5、P6、P8、P10、及びP13を含むペプチド混合物PM1を負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P5(黒丸)、P6(白丸)、P8(黒三角)、P10(白三角)、P13(黒四角)、PM1(白四角)、HBC(黒菱形)、及びペプチドなし(白菱形)。
【図4B】ペプチド混合物2(PM2)を用いて生成したCTLの結果を示しており、この混合物はペプチドP14、P15、P17、P20、及びP21を含む。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、個々のペプチドP14、P15、P17、P20、若しくはP21、又はペプチドP14、P15、P17、P20、及びP21を含むペプチド混合物PM2を負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P14(黒丸)、P15(白丸)、P17(黒三角)、P20(白三角)、P21(黒四角)、PM2(白四角)、HBC(黒菱形)、ペプチドなし(白菱形)。
【図4C】ペプチド混合物3(PM3)を用いて生成したCTLの結果を示しており、この混合物はペプチドP1、P3、P7、P9、及びP11を含む。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、個々のペプチドP1、P3、P7、P9、若しくはP11、又はペプチドP1、P3、P7、P9、及びP11を含むペプチド混合物PM3を負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P1(黒丸)、P3(白丸)、P7(黒三角)、P9(白三角)、P11(黒四角)、PM3(白四角)、HBC(黒菱形)、及びペプチドなし(白菱形)。
【図4D】ペプチド混合物4(PM4)を用いて生成したCTLの結果を示しており、この混合物はペプチドP12、P16、P22、及びP23を含む。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、個々のペプチドP12、P16、P22、若しくはP23、又はペプチドP12、P16、P22、及びP23を含むペプチド混合物PM4を負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P12(黒丸)、P16(白丸)、P22(黒三角)、P23(白三角)、PM4(黒四角)、HBC(白四角)、及びペプチドなし(黒三角)。
【図4E】ペプチド5を用いて生成したCTLの結果を示す。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、又は個々のP5ペプチドを負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチドを負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P5(黒丸)、HBC(白丸)、及びペプチドなし(黒三角)。
【図4F】ペプチド14を用いて生成したCTLの結果を示す。ペプチドなし、HBC対照ペプチド、又は個々のP14ペプチドを負荷したT2細胞について、CTL活性を測定した。各ペプチドを負荷したT2細胞の特異的致死率(%)のグラフにおいて、記号は以下の通りである。P14(黒丸)、HBC(白丸)、及びペプチドなし(黒三角)。
【図5】51Cr遊離アッセイで測定したCTL活性のグラフを示す。3種の選択したペプチドP3、P13、及びP14の混合物(PM)を用いて、1人のHLA−A2陽性ドナー(ドナー16)からCTLを生成した。個々のペプチド、又はCTLを生成するのに用いたのと同じペプチド混合物を負荷したT2細胞により、51Cr遊離アッセイにおいてCTL活性を測定した。データを、エフェクター(E)標的(T)比(E/T)に対する特異的致死率(%)として示す。各ペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞の特異的致死率(%)において、記号は以下の通りである。P3(黒丸)、P13(白丸)、P14(黒三角)、PM(白三角)、及びペプチドなし(黒四角)。
【図6】3種のペプチド(P3、P13、及びP14)の混合物を使用して1人のHLA−A2陽性ドナー(ドナー16)から生成されたCTLを用いる、4種の異なる腫瘍細胞株に対するCTL溶解活性のグラフを示す。4種の細胞株は、U266(ATCC番号TIB−196)、IFN−α処理したU266、ATCC番号CCL−8083、及びATCC番号CCL−1484であった。データを、エフェクター(E)標的(T)比(E/T)に対する特異的致死率(%)として示す。
【図6A】IFN−α処理したU266細胞(黒丸)及びU266細胞(白丸)の特異的致死率(%)の結果を示す。
【図6B】IFN−α処理したCCL−8083細胞(黒丸)及びCCL−1484細胞(白丸)の特異的致死率(%)の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を説明するため、様々な代表的実施形態を以下に記載する。
【0024】
本発明では、HLA−A2分子の免疫親和性精製により、多発性骨髄腫(MM)細胞株(U266)からHLA−A2関連ペプチドを精製した。液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC/MS/MS)によるピークの系統的同定、及びLC/MS/MSを用いるデノボシーケンス解析の後に、ペプチドのアミノ酸配列を決定した。本発明の抗原ペプチドはCD8+ T細胞を活性化し、活性化T細胞はペプチド負荷T2標的細胞及び多発性骨髄腫細胞株の両方を死滅させた。
【0025】
ペプチド
本発明は、少なくとも1つの抗原ペプチドを含む組成物に関し、この抗原ペプチドは、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、FQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、この抗原ペプチドはTリンパ球を活性化でき、その活性化Tリンパ球は多発性骨髄腫癌細胞に対して細胞傷害性である。
【0026】
上記参照組成物は、2つ以上の抗原ペプチドの混合物を含むことができる。
【0027】
本発明はまた、2つ以上の抗原ペプチドの混合物を含む組成物にも関し、この混合物の少なくとも1つの抗原ペプチドは、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、FQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択され、かつこの混合物の少なくとも1つの別の抗原ペプチドは、癌への関与が知られているその他抗原ペプチドから選択され、又は癌細胞に対するCTL応答の誘導能によって選択される。代表的なその他抗原ペプチドについては、例えば、米国特許第7,402,314号及び米国特許公開第2009/0017000号を参照されたい。
【0028】
自然に処理され、クラスIのMHC分子に結合されるペプチドは、腫瘍特異的CTLによって認識され、CTL応答を刺激するのに必ずしも最適なペプチドではない(例えば、Parkhurst,M.R.ら、J.Immunol.,157:2539〜2548,1996;Rosenberg,S.A.ら、Nat.Med.,4:321〜327,1998を参照されたい)。したがって、より容易にCTL応答を誘導するように、ペプチドを修飾することが有用であり得る。一般には、2種類の位置でペプチドを修飾できる。クラスIのMHC分子との相互作用が予測されるアミノ酸残基においてペプチドを修飾でき、この場合、元のペプチドよりもクラスIのMHC分子に対する親和性が高いペプチドを作製するのが目的である。また、CTL上のT細胞レセプターとの相互作用が予測されるアミノ酸残基においてペプチドを修飾することもでき、この場合、元のペプチドよりもT細胞レセプターに対する親和性が高いペプチドを作製するのが目的である。これら両タイプの修飾により、元のペプチドに関連するが、元のペプチドよりも良好なCTL応答誘導が可能な変異型ペプチドを得ることができる。本明細書で用いるとき、用語「元のペプチド」は、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、FQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するペプチドを意味する。
【0029】
天然の相同タンパク質又はペプチドのファミリーの配列変化における研究において、特定のアミノ酸置換は他のものよりも許容される場合が多い。これらの置換を有するタンパク質又はペプチドは、元のタンパク質又は元のペプチドの特定の性質を維持する。このような変化は「保存的置換」と呼ばれる。ペプチド鎖内で異なっている、場合によっては選択的な部位における1つ以上の残基の「保存的置換」により、本明細書で開示される抗原ペプチドを修飾することもできる。保存的置換として、元のペプチド中のアミノ酸を、大きさ又は電荷、極性、若しくは疎水性などの化学的性質について元のペプチド中のアミノ酸と比較して類似している別のアミノ酸で置き換えることを挙げてよい。例えば、元のペプチドのある疎水性アミノ酸を、別の疎水性アミノ酸で置き換えてよい。更により保存的な置換は、ロイシンをイソロイシンで置き換えるような、同一又は類似する大きさ及び化学的性質のアミノ酸の置き換えである。
【0030】
本明細書では、保存的置換を、次の5つのグループ、すなわち、小型の脂肪族非極性又はわずかに極性の残基(Ala、Ser、Thr、Pro、Gly)を含むグループ1、極性で負に帯電した残基とそのアミド(Asp、Asn、Glu、Gln)を含むグループ2、極性で正に帯電した残基(His、Arg、Lys)を含むグループ3、大型の脂肪族非極性残基(Met、Leu、lie、Val、Cys)を含むグループ4、大型の芳香族残基(Phe、Tyr、Trp)を含むグループ5のうちの、1つのグループ内での交換であると定義する。その他の保存的置換として、アラニンをイソロイシン残基で置き換えるように、あるアミノ酸を、類似する性質を有するが大きさが若干異なる別のもので置き換えることを含み得る。
【0031】
当然のことながら、このような置換基には、一般的なL−アミノ酸以外の構造を含んでもよい。したがって、本発明の抗原ペプチドに通常見出されるL−アミノ酸に対してD−アミノ酸が置換されてもよく、これもまた本明細書の開示により包含される。加えて、非標準的R基(すなわち、天然タンパク質の一般的な20種のアミノ酸で見出されるもの以外であるR基)を有するアミノ酸もまた置換目的で用い、本発明による抗原ペプチドを作製してもよい。
【0032】
2か所以上の位置で置換が見出され、元のペプチドと実質的に同等の又はより高い活性を有する抗原ペプチドが得られる場合、これらの置換の組み合わせを検証し、組み合わされた置換が、ペプチドの抗原性に対して相加効果又は相乗(syngeneic)効果をもたらすのかどうかを確認することになる。ペプチド内で多くても4か所以下の位置が、同時に置換され得る。
【0033】
置換されたペプチドのCTL応答刺激能で規定されるように、抗原活性が元のペプチドの大体10倍である場合には、修飾された又は置換されたペプチドは、細胞傷害性評価法に基づいて、元のペプチドと実質的に同一であると見なされる。したがって、例えば、元のペプチド及び置換されたペプチドを等モル濃度使用したエフェクター:標的曲線の直線部分において溶解活性を比較するとき、置換されたペプチドと共にインキュベートした標的細胞で観察される特異的致死率パーセントは、比較が行われる点における元のペプチドのエフェクター:標的比よりわずか10倍上回る、又は10倍下回るエフェクター:標的比において、元のペプチドのそれと同等でなければならない。
【0034】
本発明の抗原ペプチドを合成的に調製してよく、又はこれらを元のタンパク質生成物を発現している腫瘍細胞などの天然源から単離してもよい。合成的に調製される抗原ペプチドに関して、本明細書で想到される抗原ペプチドは、従来技術に従って溶液中又は固体支持体上で合成できる。様々な自動ペプチド合成機が市販されており、既知の手順に従って使用できる。例えば、Grant,G.A.、Synthetic Peptides:A User’s Guide,1992,W.H.Freeman and Company,New York;Coligan,J.E.ら、Current Protocols in Protein Science,1999,John Wiley & Sons,Inc.,New Yorkを参照されたい。より大きなペプチド合成の中間体として、本発明の抗原ペプチドフラグメントを合成することもできる。
【0035】
人工抗原提示細胞(aAPC)
本発明の抗原ペプチドは、ナイーブT細胞を活性化し、選択したペプチドに特異的な活性化T細胞(例えば、活性化した表面抗原分類(CD)CD4+ T細胞、又は活性化したCD8+ T細胞のいずれかであり、それぞれ活性化ヘルパーT細胞、又はCTLである)になり得る、1つ以上の抗原ペプチドを負荷した人工抗原提示細胞(aAPC)の生成に有用である。aAPCは、ペプチド負荷aAPCを接触させることにより生成される活性化T細胞を含む、治療用組成物及び細胞療法生成物の調製に有用である。抗原提示系の調製及び利用に関する一般的指針については、例えば、米国特許第6,225,042号、同第6,355,479号、同第6,362,001号、及び同第6,790,662号、米国特許公開第2009/0017000号、及び同第2009/0004142号、並びに国際公開第2007/103009号を参照されたい。
【0036】
活性化Tリンパ球を生成し、CTL応答を刺激するのに用いられるaAPCは、一般的には、追加のプロセシングなしでペプチドのMHC分子への直接結合を可能にする最適長のペプチドと共にインキュベートされる。MHCクラスI分子は、一般に長さが8〜12アミノ酸のペプチドに結合する。最も一般的な大きさはノナペプチド(nonopaptide)である。より大きいペプチド、例えば15アミノ酸より大きいものは、クラスIのMHC分子への結合効果が低いことが知られている。加えて、aAPCにより活性化される特異的T細胞系譜は、aAPCの表面上に発現されるMHC分子の性質に依存する。よって、MHCクラスI分子のみを発現しているaAPCは、選択された1つ以上の抗原ペプチドを提示してCD8+ T細胞を活性化でき、MHCクラスII分子を発現しているaAPCは、選択された1つ以上の抗原ペプチドを提示してCD4+ T細胞を活性化できる。同様に、MHCクラスI及びMHCクラスII分子の両方を発現しているaAPCは、選択された1つ以上の抗原ペプチドを提示して、CD8+ T細胞及びCD4+ T細胞の両方を活性化できる。当該技術分野において現在既知の、又は利用できるようになる様々な手段及び手技により、選択された抗原ペプチドを細胞に提示し、aAPCに負荷してよい。好ましくは、ペプチドはaAPC系培地に添加される。
【0037】
本発明の活性化T細胞を含む治療用組成物及び細胞療法生成物の調製に利用されるaAPCは、外因性分子をその表面上に発現可能なヒト以外の種由来の修飾細胞を含む。MHCクラスI分子及びMHCクラスII分子から選択される外因性MHC分子を発現させるためにaAPCが作製される。代表的なMHCクラスI分子はHLA−A2.1である。
【0038】
外因性MHC分子に加えて、本発明のaAPC系はまた、少なくとも1つの外因性補助分子も含んでよい。任意の好適な数及び組み合わせの補助分子を利用してよい。ナイーブT細胞が、MHCクラスI又はクラスII分子に結合される抗原ペプチド又はその他免疫原を提示されるとき、補助分子はかかるナイーブT細胞の活性化を促進する。補助分子は、共刺激分子及び接着分子などの補助分子から選択されてよい。代表的な共刺激分子として、CD70及びB7.1(B7.1は、以前はB7として知られており、CD80としても知られる)が挙げられ、特にT細胞表面上のCD28及び/又はCTLA−4分子に結合し、これにより、例えば、T細胞増幅、Th1分化、T細胞短期間生存、及びインターロイキン(IL)−2などのサイトカイン分泌に作用する(Kimら、2004,Nature,Vol.22(4),pp.403〜410を参照されたい)。接着分子として、セレクチンなどの炭水化物結合糖タンパク質、インテグリンなどの膜貫通型結合糖タンパク質、カドヘリンなどのカルシウム依存性タンパク質、及び細胞間接着分子(ICAM)などの単回膜貫通型免疫グロブリン(Ig)スーパーファミリータンパク質などを挙げることができ、これらは、例えば細胞対細胞、又は細胞対マトリックスの接触を促進する。代表的な接着分子として、LFA−3及びICAM−1などのICAMが挙げられる。共刺激分子及び接着分子を包含する代表的な補助分子の選択、クローニング、調製、及び発現に有用な手技、方法、及び試薬は、例えば、米国特許第6,225,042号、同第6,355,479号、及び同第6,362,001号に例示されている。
【0039】
aAPCになるように選択された細胞は、好ましくは細胞内抗原プロセシング、細胞内ペプチド輸送、及び/又は細胞内MHCクラスI若しくはクラスII分子−ペプチド負荷が欠失しているか、又は変温性(すなわち温度攻撃に対して哺乳類細胞株よりも感受性が低い)であるか、又はこれら欠失と変温性特性の両方を保有している。好ましくは、aAPCになるように選択された細胞はまた、外因性MHCクラスI又はクラスII分子、及び細胞内に導入される補助分子要素に対して、少なくとも1つの内因性対応物(例えば、内因性MHCクラスI若しくはクラスII分子、及び/又は上記内因性補助分子)を発現する能力をも欠失している。更に、aAPCは好ましくは、aAPC生成のためのそれらの修飾以前に細胞が保有していた欠失及び変温性特性を保持する。代表的なaAPCは、昆虫細胞株などの抗原プロセシング関連トランスポーター(TAP)−欠失細胞株を構成するか、もしくはその細胞株由来である。代表的な変温性昆虫細胞株は、Schneider 2細胞株などのショウジョウバエ細胞株である(例えば、Schneider、J.Embryol.Exp.Morph.1972 Vol.27,pp.353〜365を参照されたい)。Schneider 2細胞の調製、増殖、培養に関する実例となる方法は、米国特許第6,225,042号、同第6,355,479号、及び同第6,362,001号に記載されている。
【0040】
一実施形態では、aAPCは凍結解凍サイクルにも曝される。代表的な凍結解凍サイクルにおいて、aAPCを収容する好適な容器を、適量の液体窒素、固体二酸化炭素(すなわちドライアイス)、又は急速に凍結を起こすような同様の低温材料と接触させることにより、aAPCを凍結してよい。続いて、低温材料をaAPCから除去して周囲室温条件に曝すことにより、又は、微温湯浴若しくは温かい手を用いて解凍時間の短縮を促進する促進化解凍プロセスのいずれかにより、凍結したaAPCを解凍する。更には、aAPCを凍結し、解凍まで長期間保存してもよい。また、凍結したaAPCを解凍し、続いて更に用いるまで凍結乾燥してもよい。好ましくは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ポリエチレングリコール(PEG)、及びその他防腐剤などの凍結解凍手順に悪影響を及ぼし得る防腐剤は、本質的にそのような防腐剤を欠く培地にaAPCを移すことなどにより、凍結解凍サイクルを受けるaAPCを含む培地には含まれず、又は本質的に除去される。
【0041】
他の好ましい実施形態では、不活化後に、細胞増殖、核酸の複製又は発現が本質的に起こらないように、異種核酸及びaAPC内因性の核酸を架橋により不活化してよい。一実施形態では、外因性MHC及び補助分子の発現、このような分子のaAPC表面上への提示、並びに選択された単一のペプチド又は複数のペプチドによる提示されたMHC分子の負荷に続く点で、aAPCが不活化される。よって、このような不活化されて選択したペプチド負荷aAPCは、本質的に増殖不能又は複製不能にされているものの、選択したペプチド提示機能を保持しており、好ましくはナイーブT細胞活性化機能をも保持している。好ましくは、架橋によっても、aAPCの抗原提示細胞機能を実質的に低下させることなく、細菌及びウイルス(viruse)などの微生物汚染が本質的にないaAPCがもたらされる。したがって、架橋は、aAPCの重要なAPC機能を維持する一方で、aAPCを用いて開発された細胞療法生成物の安全性に関する懸念を軽減するのに役立つ。架橋及びaAPCに関する方法については、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2009/0017000号を参照されたい。
【0042】
上記のように調製され不活化されたaAPCは、外因性空MHC分子を提示するため、高密度の選択したペプチド−MHC複合体がaAPC表面上に実現され、かつこの高密度が野生型哺乳類APCで観察される密度よりも実質的に高くなるように、十分量の選択したペプチドを有利にaAPCに加えることができる。その後、ナイーブT細胞/不活化aAPC培養を、治療的に有効なCTL集団を活性化し、濃縮するために適切な時間まで長期に維持できる。例えば、ナイーブT細胞/不活化aAPCの培養持続時間は、約1日〜約10日、例えば2〜9日、3〜8日、又は4〜6日であってよい。
【0043】
本発明のaAPCでは、MHC分子は空分子として発現される。そのような空分子は、任意の結合した抗原ペプチド、又はそのようなペプチドの抗原ペプチドフラグメントを本質的に欠いている。そのため、空MHC分子を有するaAPCは、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるペプチドを含む、1つ以上の抗原ペプチドを負荷することができ、この単数のペプチド又は複数のペプチドがaAPC表面上に発現されるMHC分子の抗原結合部位を占有し、この結合部位には選択された1つ以上の抗原ペプチドへの曝露前に結合しているペプチドはなかった。いったん負荷されれば、選択された1つ以上の抗原ペプチドはナイーブT細胞の活性化を引き起こす様式でナイーブT細胞に提示されることができる。
【0044】
1つのペプチド種が、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択される実施形態では、選択したペプチド種は複数のペプチド分子を含み、そのそれぞれのアミノ酸組成及び配列が他と同一である。2つ以上のペプチド種が、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択される実施形態では、2つ以上の選択したペプチド種のそれぞれが複数のペプチド分子を独立して含み、そのそれぞれのアミノ酸組成及び配列が他と同一である。これらの2つ以上の種は、それぞれがaAPCと同時に、または異なる段階のいずれかで接触させるために使用される。これらの実施形態のそれぞれにおいて、多抗原性又は多免疫原性MHC−ペプチド複合体がaAPC上に生成される。空MHC分子への選択したペプチドの負荷は、好ましくは、インビトロ、エクスビボ又はインビボに近似し得るほぼ生物学的結合条件下で起こる。
【0045】
更に別の実施形態では、aAPCは、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるペプチドを含む、1つ以上の抗原ペプチド、並びに1つ以上のその他抗原ペプチドを負荷されてよい。代表的なその他抗原ペプチドについては、例えば、米国特許第7,402,314号及び米国特許公開第2009/0017000号を参照されたい。
【0046】
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)
本発明は更に、患者への投与用の治療用組成物及び細胞療法生成物として用いられる、活性化Tリンパ球をエクスビボで産生する方法に関する。活性化Tリンパ球をエクスビボで産生するために、被験者から採取されたフェレーシスサンプルからナイーブT細胞を得て、それを選択された1つ以上の本発明の抗原ペプチドを負荷したaAPCと接触させる。その結果、接触されたナイーブT細胞は活性化され、その場合、ナイーブT細胞を活性化するのに使用した、選択された1つ以上の抗原ペプチドに対応する少なくとも1つのエピトープを発現する「標的細胞」に対して感作される。活性化T細胞に遭遇すると、このような標的細胞は、特異的な標的細胞傷害性を示す活性化T細胞の能力に基づく活性化T細胞によって死滅され得る(すなわち、特異的殺細胞)。したがって、その活性化T細胞は細胞傷害性Tリンパ球(CTL)となる。活性化Tリンパ球のCTL活性を測定するのに使用し得る評価法に関しては当該技術分野において多くの例があり、例えば、CTL活性は標準的なクロム(51Cr)遊離アッセイを用いて測定できる(Brunnerら、Immunology.1968 Feb;14(2):181〜96)。
【0047】
ナイーブT細胞を含むフェレーシスサンプルは、治療を必要とする被験者から得ることができる。好ましくは、被験者は、癌治療を必要とするヒト患者である。より好ましくは、被験者は、多発性骨髄腫治療を必要とするヒト患者である。あるいは、適切な条件下において、治療を受ける被験者由来ではなく、免疫細胞ドナーとしての健康な個人などのその他の適合性供給源から得られるナイーブT細胞などの免疫細胞を用いることができる(Sadovnikovaら、Eur J Immunol.28(1):193〜200(1998);Munzら、J Immunol.162(1):25〜34(1999);Luら、Cancer Immunol Immunother.58(4):629〜38(2009))。また、不死化した又は形質転換した免疫細胞株を使用し、本発明による治療用組成物及び細胞療法生成物として用いる活性化T細胞を調製することもできる。
【0048】
フェレーシスサンプルは、当該技術分野において現在既知の、又は利用できるようになる多くの好適なリンパ球除去(lymphocytapheresis)、リムファフェレーシス(lymphapheresis)、及び白血球除去(leukaphoresis)手順のいずれかにより被験者から採取でき、これにより採取した末梢血からPBLの回収をもたらし、更に白血球をサンプルの他の血漿成分から分離し得る。代表的な手順は、例えば、米国特許第4,690,915号、同第5,126,132号、同第6,255,073号、同第5,846,827号、同第6,251,385号、同第6,194,207号、同第5,443,983号、同第6,040,177号、及び同第5,766,920号、並びに米国特許公開第2009/0010950号、及び同第2007/0258959号に例示されている。
【0049】
ナイーブT細胞は、細胞成長及び増殖状態、細胞表現型、並びに細胞活性に関連するような日常的に選択される1つ以上の適切な特性に基づいて実験的に同定することができる。細胞成長及び増殖状態に関して、ナイーブT細胞は、好ましくは静止しているT細胞(つまり、細胞周期のG0部分に属する傾向がある)集団を含む。活性化T細胞は、多くの場合細胞周期のG1期又はS期にある。記憶T細胞は、一時ナイーブであったが、活性化され、続いて再度静止状態に入ったT細胞を含むか、又は恒常性増幅の結果として記憶表現型を獲得したナイーブT細胞を含む(例えば、Opfermanら、Science,Vol.283,pp.1745〜1748(1999);Wherryら、Nat.Immunol.,Vol.4,pp.225〜234(2003);Kaechら、Cell,Vol.111,pp.837〜851(2002);Kieperら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.96,pp.13306〜13311(1999);Goldrathら、J.Exp.Med.,Vol.192,pp.557〜564(2000);Murali−Krishnaら、J.Immunol.,Vol.165,pp.1733〜1737(2000)を参照されたい)。このような記憶T細胞は、例えば感作抗原への再暴露、CD4+ Tヘルパー細胞からの補助、及び/又は適切なサイトカインへの曝露で再活性化され得る。したがって、ナイーブT細胞は、ナイーブT細胞プールの枯渇(抗原に対する応答においてT細胞の強力な活性化中に起こるような)により、ナイーブT細胞の数を再び満たすために比較的ゆっくりとした恒常性増殖の期間を必要としない限り、記憶T細胞及び活性化Tに比べてインビボで比較的非増殖的である(例えば、Kieperら、J.Immunol.,Vol.174,pp.3157〜3163(2005),及びBaccalaら、J.Immunol.,Vol.174,pp.4606〜4612(2005)を参照されたい)。表現型について、ナイーブT細胞は、非ナイーブT細胞で観察される発現レベルと比較して、CD11alow/LFA−1low(又はdim)、CD25low、CD27+(又はhi)、CD44low又はCD44int、CD45RA+(又はpos)、CD45RO-(又はneg)、CD95low(又はdim)、CD57-(又はneg)、及びCD62Lhi(又はbright)を含み得るナイーブT細胞関連CD分子の特性の存在及び相対的発現レベルによって、非ナイーブT細胞(例えば、CD4+ヘルパーT細胞、記憶T細胞、及びエフェクターT細胞(例えばCTL))と識別され得る。ナイーブT細胞は、非ナイーブT細胞で観察される発現レベルと比較して、比較的高レベルのケモカインレセプターCCR7(CCR7hi)の発現により識別することもできる(例えば、McFarlandら、PNAS,Vol.97(8),pp.4215〜4220(2000);Ishimaruら、Nature Immunol.,Vol.7(7),pp.763〜772(2006);及びKernら、Eur.J.Immunol.,Vol.29,pp.2908〜2915(1999)を参照されたい)。対照的に、例えば記憶細胞は、CD27low、CD44hi、CD45RA-、CD45RO+、CD57+(又はhi)、CD62Llow、及び/又はCCR7low表現型により特徴付けることができる(例えば、Kernら、Eur.J.Immunol.,Vol.29,pp.2908〜2915(1999)及びBaccalaら、J.Immunol.,Vol.174:4606〜4612(2005)を参照されたい)。細胞活性に関して、ナイーブT細胞は、インターフェロンα、インターフェロンγ、インターロイキン(IL)1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−12、腫瘍壊死因子α(TNF−α)、及び/又は顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子GM−CSFを効率的に産生又は分泌できないことにより特徴付けることができる(例えば、Cerwenkaら、J.Immunol.,Vol.,161,pp.97〜105(1998);Walzerら、Cell.Immunol.,Vol.206,pp.16〜25(2000);米国特許公開第2002/0119121を参照されたい)。また、ナイーブT細胞は仮定の標的細胞に対して実質的な細胞傷害性又は特異的殺細胞活性を示さない。
【0050】
好ましくは、ナイーブCD4+ T細胞、ナイーブCD8+ T細胞、又はナイーブCD4+ T細胞及びナイーブCD8+ T細胞であってよいこれらのナイーブT細胞は、他の末梢血白血球(PBL)、例えば非T細胞から実質的に分離され、次いで活性化T細胞を含有する治療用組成物又は細胞療法生成物の製造に用いられる。PBLの選択法として、Ficoll勾配、免疫精製を利用する技術(例えばCD分子などの細胞表面マーカーに対するモノクローナル抗体、並びに抗体が吸着できるセファロース−、プロテインA−、及びプロテインG−結合ビーズなどのビーズ、並びに抗体が吸着できる磁気ビーズ)、フローサイトメトリー、及び蛍光活性化細胞ソーター(FACS)分析が挙げられる。好ましくは、選択されたナイーブT細胞は、当該技術分野で利用できるような磁気ビーズ精製システム、例えばFACSに基づく手法などの細胞ソーティング法と組み合わせたMiltenyiビーズ(Myltenyi Biotec)及びDynabeadシステム(Dynal Biotech)、又は他の適切な細胞ソーティングデバイス及び方法により実質的に精製される。次いで、実質的に精製されたナイーブT細胞を、選択したペプチド負荷aAPCと混合し、活性化ヘルパーT細胞、好ましくはCTL又はCD8+記憶T細胞などの、活性化T細胞の所望の集団に活性化し、濃縮するために十分な時間インキュベートする。このような活性化T細胞は、好ましくはペプチド特異的な様式で活性化される。
【0051】
実質的に分離されたナイーブT細胞とaAPCの比率はまた、例えば、個体のリンパ球の培養条件に対する適用性、及び治療される疾患又はその他状態の性質及び重篤度などの個体の特性を考慮して、特定の個体について最適化することもできる。代表的な分離されたナイーブT細胞と不活化aAPCの比は、約30:1〜300:1である。例えば、3×107個のヒトナイーブT細胞及び1×106個のaAPCを混合し、RPMI 1640培地を含む培地で維持することができる。
【0052】
活性化T細胞は、ナイーブCD8+ T細胞、ナイーブCD4+ T細胞、又はCD8+ T細胞とCD4+ T細胞の組み合わせを含んでよく、これらは感作され、かつ刺激され、したがって上記のように活性化され、所望により再刺激及び/又は増幅されて、所望の表現型及び数の活性化T細胞を含む治療用組成物及び細胞療法生成物を製造することができる。代表的な再刺激手順には、活性化T細胞の成長、増殖、及び/又は分化を促進する1つ以上の選択されたサイトカインを添加する工程と、活性化T細胞を選択したペプチド負荷非CD8+細胞、例えばCD14+細胞とインキュベートする工程と、を含む。適切なサイトカインの選択は、治療用組成物又は細胞療法生成物を最終的に含むことになる活性化T細胞の所望の表現型に依存する。したがって、ナイーブCD4+ T細胞は、活性化され所望により再刺激及び/又は増幅されてCD4+ Tヘルパー(Th)細胞、例えばCD4+ Th1細胞又はCD4+ Th2細胞になり得、そしてナイーブCD8+ T細胞は、活性化され所望により再刺激及び/又は増幅されてT細胞傷害性(Tc)様の表現型を有するCTL、例えば当該技術分野の指針を考慮する技術者により所望されるように、Tc1様表現型を有するCTL、Tc2様表現型を有するCTL、記憶T細胞、又はこのような組み合わせになり得る(例えば、Cerwenkaら、J.Immunol.,Vol.163(10),pp.5535〜5543(1999);Mosmannら、Immunol.Today,Vol.17(3),pp.138〜146(1996);Carterら、Curr.Opin.Immunol.,Vol.8(3),pp.336〜342(1996);Croftら、J.Exp.Med.,Vol.180,pp.1715〜1728(1994);Fujihashiら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.93,pp.3613〜3618(1996);及び米国特許第6,355,479号を参照されたい)。代表的なサイトカインとして、IL−1、IL−2、IL−7、IL−4、IL−5、IL−6、IL−12、IFN−γ、及びTNF−αが挙げられる。代表的なT細胞増幅手順は、活性化T細胞を、照射した非CD8+細胞と共に、選択されたサイトカイン及びOKT(登録商標)3などの抗CD3抗体調製物の存在下でインキュベートし、非特異的活性化T細胞増幅を促進する工程を含む。使用されるこのような再刺激及び増幅プロトコールの数、順序、及び組み合わせの選択は、技術者の関心の範囲内にあり、当該技術分野の指針により容易になり得る。例えば、Cerwenkaら、J.Immunol.,Vol.161,pp.97〜105(1998);Livingstonら、Immunol.Invest.,Vol.24(4),pp.619〜629(1995);及びSadら、Immunity,Vol.2,pp.271〜279(1995)を参照されたい。
【0053】
好ましい実施形態では、刺激されたT細胞は引き続き、刺激されたT細胞を、活性化T細胞の成長、増殖、及び/又は分化を促進するために十分な量のIL−2及びIL−7と接触させる工程と、続いてそのように接触させたT細胞を、照射した自己由来接着性非CD8+細胞(例えばCD14+細胞)並びに追加の十分量のIL−2及びIL−7とインキュベートする工程と、を含む、少なくとも1回繰り返す再刺激手順にかけられる。再刺激手順が2回以上行われる実施形態では、活性化T細胞を、各再刺激手順の繰り返しの間に追加量のIL−2及びIL−7と接触させる。他の好ましい実施形態では、活性化T細胞は、少なくとも1回の再刺激手順の繰り返しに引き続いて少なくとも1回の増幅手順にかけられ、ここで増幅手順は、活性化T細胞を、照射した非CD8+細胞と、そのように接触させたT細胞の成長、増殖、及び/又は分化を促進するために十分な量のIL−2、並びに抗CD3抗体調製物、好ましくはOKT(登録商標)3の存在下でインキュベートする工程を含む。
【0054】
好ましい実施形態では、ナイーブT細胞はCD8+ T細胞を含み、活性化され所望により再刺激及び/又は増幅される際に、例えば、それらが標的とする細胞に対する細胞傷害性活性を示すことができ、又は免疫賦活性(immunostimlatory)若しくは細胞傷害性関連のサイトカインを産生することがでる。好ましくは、これらの特徴の組み合わせを示す。感作され活性化されたナイーブCD8+ T細胞を、上述の再刺激手順及び/又は増幅プロトコールにかけることができ、このことは特異的CTL細胞系譜の表現型への活性化CD8+ T細胞の分化を推進する。ペプチド負荷aAPC−活性化CD8+ T細胞もまた、選択したペプチド単独と、又は特定のサイトカイン、例えばIL−2、IL−7、及びIL−12、並びにインターフェロンγと共に、又は活性化T細胞表面上のT細胞レセプター(TCR)及び共刺激分子に対するものなどの抗体と共に、インビボ又はインビトロでの再刺激手順に数回かけることができる。好ましい実施形態では、活性化CD8+ T細胞は、このような方法で更に再刺激され、少なくとも約4世代又は5世代にわたり標的細胞に関する免疫原性及び細胞傷害性を維持し、記憶CD8+ T細胞を生じる。記憶CD8+ T細胞の同定、特性決定、免疫原性維持、及び増幅の方法は、例えば、Cerwenkaら、J.Immunol.,Vol.,161,pp.97〜105(1998);Cerwenkaら、J.Immunol.,Vol.163,pp.5535〜5543(1999);米国特許公開第2002/0119121号に見出すことができる。
【0055】
活性化T細胞は、当該技術分野において既知又は利用可能な好適な技術を用いてaAPCから分離することができる。例えば、aAPC、aAPC上に負荷されたペプチド、又は活性化T細胞(若しくはその一部)に特異的なモノクローナル抗体を使用して、適切な相補的リガンドを結合できる。続いて、免疫沈降又は免疫評価法などの好適な技術により、aAPC/活性化T細胞混合物から抗体標識した細胞を抽出できる。あるいは、分離工程を完全に省略し、不活化aAPCを活性化T細胞と共に培養中に残してもよい。
【0056】
好適な実施形態では、ナイーブCD8+ T細胞が活性化のために選択され、所望量の得られたCTLを使用して治療的投与のための細胞療法生成物を調製する。好ましくは投与前に、活性化Tリンパ球又は細胞療法生成物について1種以上の品質保証試験を行う。好ましい実施形態では、品質保証試験は、1種以上の試験を実施し、患者とTリンパ球との間のHLAマッチ;フローサイトメトリー分析(CD8+、TCR+);無菌性(細菌又は真菌の成長がない);細菌についてグラム染色陰性;PCR/ELISAについてマイコプラズマ陰性;残存ショウジョウバエDNAがない;昆虫ウイルスcDNAの不在;生存率(>72%生存);及びCTL評価による細胞溶解活性を確認することを含む。
【0057】
被験者を治療するために、本発明による有効量の細胞療法生成物が、疾患、傷害、又は状態を患っているか、又はこれらを有すると診断された被験者に対して投与される。「有効量」は、かかる治療を必要とする患者において、所望の治療的又は予防的効果を一般的にもたらすのに十分な量又は十分な投与量である。本発明の細胞療法生成物の有効量又は有効投与量は、モデリング、用量増加試験又は臨床試験などの常法により、並びに、例えば投与の態様や経路又は薬剤送達、細胞療法生成物の薬物動態、疾患、傷害又は状態の重篤度及び経過、被験者の過去又は現在の治療法、被験者の健康状態及び薬物への応答、及び治療に携わる医師の判断などの所定の因子を考慮することにより決定することができる。代表的な投与量として、細胞集団は、成人のヒトに対して、約1×106〜約1×1012個の活性化T細胞、例えば1×108〜1×1011、又は1×109〜1×1010個の活性化T細胞を含むことができる。
【0058】
細胞療法生成物は、活性化T細胞と、被験者に注入されるまで活性化T細胞を維持するのに好適な賦形剤、例えば製薬上許容できる希釈剤又は溶媒とを含む治療用組成物として調製される。好適な実施形態では、細胞療法生成物は、乳酸リンゲル注射液USP(76%(容積/容積))、5%デキストロース生理食塩液(D5NS;4%(容積/容積))、及び25%ヒト血清アルブミン(HSA;20%(容積/容積))を含む溶液に、約1×109〜約10×109個のCTLを含む。
【0059】
細胞成分を含む組成物を被験者に投与するための任意の好適な技術を使用できる。例えば、静脈内注入による活性化CTLの投与を採用できる。複数回の注入を必要とする、又は指示される場合があり、これらの注入を数週間、又はそれ以上の期間にわたり行うことができる。代表的な技術は、例えば、米国特許第4,844,893号、及び同第4,690,915号に記載される。
【0060】
所望により、細胞療法生成物又は調製物は、選択したペプチドを負荷したaAPCに加えて、その他免疫調整成分、好ましくは免疫刺激成分を含むように補充してよい。このような追加成分を、ナイーブT細胞のペプチド負荷aAPCとの接触前、それと同時、又はその後に加えてよい。このような補助的免疫調整成分、好ましくは免疫刺激成分が加えられる所望の時点、投与濃度、及び頻度の選択は、所望の増殖速度、増幅率、細胞数、寿命、又は免疫原性などの関連する検討事項に従って選択できる。補助的成分又は免疫刺激成分は、例えば、非ナイーブT細胞以外の1つ以上の白血球、サイトカイン、リンホカイン、ケモカイン、及び抗体であってよい。選択できる代表的な白血球として、非CD8接着細胞、CD14+接着細胞などの接着細胞、単核細胞、マクロファージ、ヘルパーT細胞、記憶T細胞、及び免疫調整性、好ましくは免疫刺激性の効果又は刺激を付与できるその他白血球が挙げられる。このような白血球は、自己由来又は異種起源であってよい。代表的なサイトカインとして、インターロイキン、例えばIL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−11、IL−12、IL−15、IL−17、IL−21、インターフェロン、例えばg−インターフェロン、及び腫瘍壊死因子(TNF)、例えばTNF−αが挙げられる(例えば、Tizard I.,Immunology:An Introduction,3rd Edition,pp.129〜143,(1992);米国特許公開第2002/0119121号を参照されたい)。サイトカインは組換え型又は天然起源であってよい。代表的な抗体として、モノクローナル抗CD3抗体、例えばORTHOCLONE OKT(登録商標)3(muromonab−CD3)として示されるものが挙げられる。
【0061】
本発明の一実施形態では、自己非CD8、CD14+接着細胞、IL−2、IL−7、及びモノクローナル抗CD3抗体調製物(OKT(登録商標)3)が、細胞療法用調製法における追加の免疫刺激成分として使用される。このような実施形態では、選択したペプチドを負荷したaAPCで初回刺激を受けたナイーブT細胞を、有効量の組換えIL−2及び組換えIL−7(例えば、約1〜100単位/mLのIL−2、好ましくは1、10、15、20、50、又は100単位/mLのIL−2、及び約1〜100単位/mLのIL−7、好ましくは1、10、15、20、又は50単位/mLのIL−7)と接触させる工程と、次いで有効量の自己由来の選択したペプチド負荷非CD8、CD14+接着細胞(例えば、初回刺激を行ったナイーブT細胞4個ごとに、非CD8、CD14+接着細胞を約1個)と接触させる工程と、を含む再刺激手順にかける。IL−2/IL−7及びCD14+接着細胞と接触させる期間は、それぞれ約2日、及び約3〜約4日であり、各再刺激手順を少なくとも1回続けて繰り返してよい。少なくとも2回の再刺激手順の後、非特異的T細胞増幅レジメンとして、細胞をIL−2及び抗CD3(例えば、OKT(登録商標)3)と約2〜約5日接触させる工程を含む。
【0062】
別の実施形態では、自己CD4+ヘルパーT細胞及びIL−2、IL−7、IL−12、IL−15、IL−17、又はIL−21を、初回刺激又は再刺激手順の前、それと同時、又はその後にナイーブT細胞と接触させる。また、IL−2を、IL−7、IL−15又はIL−21のうち少なくとも1つと組み合わせて使用してもよい。IL−15が使用される場合、IL−15の有効量は、約1〜100ng/mL、例えば1、10、20、25、40、又は50ng/mLの量のIL−15である。同様に、IL−21が使用される場合、IL−21の有効量は、約1〜100ng/mL、例えば1、10、20、25、40、又は50ng/mLのIL−21である。このような実施形態では、ナイーブCD4+ヘルパーT細胞が記憶T細胞になることを目的としてよい。かかるCD4+ヘルパーT細胞レジメンを、上記再刺激手順又は非特異的T細胞増幅手順のいずれかに加えて、又はこれら手順の代わりに使用し、エクスビボでの複数回の再刺激手順を許容できる記憶T細胞とする。更には、次いでこのような記憶T細胞を含む細胞療法生成物は、被験者に投与されると、選択したペプチド及びその他活性化の合図と遭遇した際に、インビボで増幅されかつ刺激されてよい。ヘルパーT細胞の調製に、並びに記憶T細胞又はCTLになるためのIL−2、IL−7、IL−12、IL−15、IL−17、及び/又はIL−21への取り込みが補助するナイーブT細胞の刺激又は増幅に全体的に関連する方法は、例えば、米国特許公開第2002/0119121号に見出すことができる。
【0063】
被験者の治療のために、細胞療法生成物を、細胞療法生成物の調製に用いたフェレーシス生成物を元々得た被験者に投与することが好ましくい。したがって、細胞療法生成物で治療される被験者に、好ましくは自己由来の活性化T細胞を含む、及びより好ましくはCTLを含む、細胞療法生成物が投与される。活性化T細胞を取出すのに用いたフェレーシスサンプルを得た被験者に、活性化T細胞を再注入、つまり戻し注入してよい。使用できる再注入手順として、例えば、米国特許第4,844,893号、及び同第4,690,915号に開示される手順が挙げられる。
【0064】
本発明による細胞療法生成物で治療され得る代表的な疾患、傷害、又は状態として、例えば、多発性骨髄腫などの癌が挙げられる。別の治療用生成物又はレジメンでの異なる治療前に、それと同時に、又はその後に、本発明による細胞療法生成物を用いた疾患、傷害、又は状態の治療を行ってよい。本発明の細胞療法生成物の投与と共に使用できる代表的な追加レジメン、構成成分、又はモダリティとして、例えば、サイトカイン、リンホカイン、ケモカイン、インターロイキン、又はインターフェロン投与などの免疫刺激、免疫抑制、及びその他の免疫療法レジメン;デニロイキンジフチトクス(DAB−IL2)又はクラドリビン投与などのリンパ球枯渇及び骨髄破壊的(myeloblative)レジメン;並びに、従来の化学療法及び放射線療法が挙げられる。好適な実施形態では、国際公開第2007/103009号に開示されるものなどのリンパ球枯渇療法レジメンが、細胞療法生成物による治療と共に利用される。
【0065】
よって、ナイーブT細胞は、本発明の細胞療法生成物で治療可能な状態又は疾患に罹患している被験者から有利に得ることができ、その後ナイーブT細胞の活性化を妨害、減弱、又は制限し得る他の治療又は療法を開始する。例えば、異常増殖又は腫瘍を有する個体の治療において、化学療法又は放射線療法の開始前にナイーブT細胞を含むリムファフェレーシス(lympapheresis)生成物を得て、培養液中に維持する、又は後で使用するために凍らせておくことができる。次いで、ナイーブT細胞を本発明に従って活性化することにより細胞療法生成物が提供され、他の治療レジメンの前、これらと同時、又はこれらの後に被験者に注入することができる。
【0066】
本発明のその他の実施形態、特徴、及び利点は以下の実施例を参照することにより更に例示される。
【実施例】
【0067】
更に説明しなくても、当業者は、上記の記述及び下記の例示的な実施例を用いて、本発明の化合物を作製及び使用し、特許請求する方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実際的な実施例は、本発明の実施形態を特異的に指摘するものであって、本開示の残部をいかようにも限定するものと解釈されない。
【0068】
U266細胞株の細胞培養
抗原同定に用いた細胞株であるU266(ATCC番号TIB−196)を、10%ウシ胎児血清(FCS)(Invitrogen)を補完したRPMI培地(Invitrogen)中で、細胞培養用フラスコ及び攪拌ボトル内で増幅した。1日目に、通常は0.5×106個細胞/mLで細胞を播種し、細胞密度が2×106個細胞/mLになったとき、典型的には3日目又は4日目に細胞を分割した。
【0069】
U266細胞株の細胞採取
細胞懸濁液を4000rpmで20分間遠心分離して培養した細胞を集め、50mLのコニカルチューブ内で氷冷1×リン酸緩衝生理食塩液(PBS)(Invitrogen)を用いて3回洗浄し、その後カウントした。約1×109個の細胞に相当する細胞ペレットのアリコートを液体窒素で急速に凍らせ、使用まで−80℃で保存した。
【0070】
HLA−A2抗体のDynabeads(登録商標)への結合
ATCC(登録商標)番号:HB−82(商標)(Parham及びBrodsky、Hum Immunol.3(4):277〜99(1981))であるハイブリドーマ細胞株の細胞培養上清から、BB7.2 HLA−A2抗体を精製した。BB7.2抗体は、Santa Cruz Biotechnology,Inc.(Product# sc−32236)及びAbcam(Product# ab74674)から入手することもできる。BB7.2抗体はマウスモノクローナル抗HLA−A2抗体であり、IgG2bアイソタイプである。この抗体は、ヒトHLA−A2組織適合抗原内の、α−2ヘリックスのC末端にあるエピトープ、及び下部βストランドの1つ上のターンを認識する。BB7.2は全てのHLA−A2サブタイプを認識するであろう。HLA−A2.1は、90%がA2サブタイプを示し、残りの10%には主にA2.2、A2.3、A2.5及びA2.7が含まれることを意味する。BB7.2 HLA−A2抗体の結合前に、0.5mLのDynabeads(登録商標)MyOne(商標)トシル活性化(Tosylactivated)ビーズ(Dynal(登録商標)Biotech、カタログ番号655.01)を集め、pH9.5の0.1Mホウ酸ナトリウム緩衝液を含むコーティング緩衝液を用いて4回洗浄した。次いで、0.42mLの4.8mg/mL BB7.2 HLA−A2抗体、コーティング緩衝液3.26mL中、2.08mLの3M(NH42SO4を用いて、室温(RT)で72時間ビーズをインキュベートした。Dynal(登録商標)MPC(商標)−1磁気粒子濃縮器(Dynal Biotech ASA,OSLO,Norway)で上清を除去した。続いて、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.05% Tween 20を含む総容積が同じPBSをビーズに添加し、このビーズをRTで更に48時間インキュベートした。次いで、0.1% BSA及び0.05% Tween 20を含むPBSでビーズを3回洗浄し、0.02%アジ化ナトリウムを含むPBS 2mLに再懸濁した。
【0071】
Dynabeads(登録商標)MyOne(商標)トシル活性化ビーズへの結合前及び後における、溶液中のBB7.2 HLA−A2抗体量を比較して、BB7.2 HLA−A2抗体結合効率を評価した。総タンパク質2μgを含有するサンプルをサンプル緩衝液に加え、100℃で15分間沸騰させた。サンプルを10〜20% SDS−PAGE(SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法),で分析した(データ示さず)。90%を超える結合が確認された。
【0072】
HLA−A2関連ペプチドの単離
U266細胞ペレットのアリコート(1×109個細胞より)を、2.5×107個細胞/mL(50mM Tris(pH8.0)、150mM NaCl、1% CHAPS(Aldrich、カタログ番号226947)、5μM EDTA、0.2%アジ化ナトリウム、17.4μg/mL PMSF(Calbiochem−Novabiochem)、及び2錠のComplete Proteases Inhibitor Cocktail Tablets(Roche、カタログ番号1697498)の濃度で含有する溶解用緩衝液40mL中、回転装置を用いて1時間4℃にて再懸濁した。可溶化液を100,000×gで1時間遠心分離した。沈殿物を捨て、上清を0.22μmのフィルターに通した。続いて、上清をBB7.2 HLA−A2抗体を結合したDynabeads(登録商標)(1mg BB7.2 HLA−A2抗体/25mg Dynabeads(登録商標)、4℃で24時間、回転装置使用)と共にインキュベートした。ビーズペレットをDynal(登録商標)MPC(商標)−1を用いて回収し、以下の4種類の洗浄緩衝液を用いて、一連の50mL洗浄液で洗浄した。
洗浄緩衝液1:50mM Tris(pH8.0)、150mM NaCl、0.05% CHAPS、5μM EDTA、0.2%アジ化ナトリウム、17.4μg/mL PMSF
洗浄緩衝液2:50mM Tris(pH8.0)、150mM NaCl
洗浄緩衝液3:50mM Tris(pH8.0)、450mM NaCl
洗浄緩衝液4:50mM Tris(pH8.0)
【0073】
一連の4回の洗浄工程後、RTで5分間、2mLの10% HAC(pH2.5)と共にビーズをインキュベートし、Dynal(登録商標)MPC(商標)−1を5分間使用して、BB7.2 HLA−A2抗体を結合したDynabeads(登録商標)からペプチドを溶出した。ビーズから溶出された物質を1.5mL容のEppendorf製プラスチックチューブに入れ、5分間ボイルして、MHCクラスI、HLA−A2重鎖から任意の結合したペプチドを更に解離させた。続いて、公称の分子量カットオフが5000ダルトンであるUltrafree−CL膜(Amicon、カタログ番号UFC4LCC25、Millipore Corporation,Bedford,MA)を用い、遠心分離により同時精製される重鎖及びβ2−ミクログロブリンからペプチドを分離した。使用前に、Ultrafree−CL膜ユニットを1mLの10%酢酸で予め濡らし、1時間回転させ、両リザーバ中の全ての液体を捨てた。次いで、ビーズから溶出された物質を予め濡らしたUltrafree−CL膜ユニットに移し、これを4℃で約5時間、3500×gで遠心分離した。ろ液及び残余物の両方を回収した。MHCクラスI、HLA−A2分子(残余物)を含むペプチドを含まない画分のアリコートを、SDS−PAGEで分析した。ペプチドを含まない画分は、それぞれMHCクラスI重鎖及びβ2−ミクログロブリンに対応する44kDa及び12kDaの予想されるバンドを有し、その純度は95%であった(データ示さず)。ペプチド溶液(ろ液)を液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC/MS/MS)で分析し、その後デノボペプチドシーケンス解析によりペプチドのアミノ酸配列を決定した。
【0074】
液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法(LC/MS/MS)
ペプチド溶液(HLA−A2関連ペプチドを単離したろ液)を、1%トリフルオロ酢酸(TFA)を添加することにより酸性化した。各サンプルについて脱塩/トラップを目的に10μLをEksigent nanoLC(Eksigent Technologies,Inc.)に次の設定で注入した:トラップカラム=LC PackingsのC18 Pepmap 100、粒径5μm、ポア径100Å、カラム内径300μm×5mm;トラップ用移動相=水、2%メタノール、0.05% TFA;トラップ用流速=5μL/分;分析カラム=Vydac Everest C18、粒径5μm、ポア径300Å、カラム内径75μm×150mm;分析移動相:A=水、2%メタノール、0.1%ギ酸;B=10%水、90%アセトニトリル、0.1%ギ酸;流速=0.2μL/分;分析勾配=0〜80分10〜30% B、80〜120分30〜60% B。Masslynx 4.0を備えるMicromass qTOF Ultima及びESI+モードのnanoSourceにおいて、データ依存MS/MS取り込みを実施した。デノボペプチドシーケンス解析にはProteinLynx 2.0を使用した。
【0075】
抗原ペプチドの配列決定
LC/MS/MSを用いたデノボシーケンス解析で得られるペプチド配列は、不完全なペプチド断片化により通常は曖昧である。ペプチドがアルゴンガスと衝突するとき、全ての可能性があるフラグメントが必ず発生するわけではない。実際に、ペプチド結合の一部は、変わらずに無傷である場合がある。加えて、様々な理由(例えば、共溶出、イオン抑制、又はフラグメントが正電荷を持たない場合)により、質量分析計で全てのペプチドフラグメントを検出できるわけではない。したがって、特定のペプチドのLC/MS/MSスペクトルは、完全ではない場合があり、すなわち、ラダー中に欠落段階があり得る。本発明では、ProteinLynx 2.0シーケンス解析ツールを用い、続いて5回の反復評価のうち少なくとも3回から得られた類似する大きさのLC/MS/MSピーク配列を比較することにより、及び、ペプチド配列をヒトタンパク質配列データベースと比較することにより、ペプチド配列の曖昧さを低減した。この方法で、21個のLC/MS/MSピークについて、9〜12個のアミノ酸長を有する24種類のペプチド配列を選択した。24種類のペプチド配列のうち19種を既知のヒト完全長タンパク質にマッピングした(表1)。その後、完全長タンパク質中のHLA結合モチーフの探索により、コンピュータ予測された更なるペプチドを得た(Parkerら、J Immunol.1992 Dec 1;149(11):3580〜7)。24種類の実験的に同定されたペプチド、ペプチドの一部の切断部、及びコンピュータ予測されたペプチドを合成し(ProImmune Inc.,Bradenton,FL)、HLA−A2安定化評価法で試験し、CTLを生成してそれらの活性を標準的な51Cr遊離アッセイで試験した。ペプチド同定方法の略図は図1に示される。表1は、更なる特性評価のために合成された24種類の選択したペプチドのリスト、及び同定された場合はその各ペプチドの関連タンパク質を示す。
【0076】
表1
配列決定され、HLA−A2安定化及びCTL活性に対する更なる特性評価のために合成するよう選択された24種類のペプチド。完全長タンパク質が同定されなかったペプチド配列は、遺伝子記号、タンパク質受入番号、及び完全長タンパク質のアミノ酸残基の数について空欄である。
【0077】
【表1】

【0078】
HLA−A2安定化評価法
クラスI主要組織適合遺伝子複合体(MHC/HLA−A2)分子へのペプチド結合の評価は、抗原プロセシング関連トランスポーター(TAP)欠失細胞株、T2(ATCC(登録商標)番号:CRL−1992)内で合成されるMHCクラスI、HLA−A2分子に対するペプチドの安定化能力に基づく。MHCクラスI分子の安定化の程度は、添加されたペプチドの結合親和性に直接関連する(Townsendら、Cell.1990 Jul 27;62(2):285〜95;Andersenら、Tissue Antigens.1999 Aug;54(2):185〜90)。
【0079】
評価において、T2細胞を、1×106個細胞/mLの密度で、最終ペプチド濃度200μM、20μM、2μM、200nM、20nM、2nM、ペプチドなし(陰性対照として)を含むRPMI培地(100μL/ウェル)の96ウェルV底プレートにまいた。ペプチドを含む細胞を、26℃、5%CO2で18時間インキュベートした。18時間後、プレートを37℃、5%CO2に移し、更に3時間インキュベートした。プレート内の細胞をFACS緩衝液(PBS、2.5%FCS、1%NaN3)で1回洗浄し、続いて1μL/ウェルのFITC標識したマウス抗ヒトHLA−A2抗体(BD Pharmingen,カタログ番号551285)、1μL/ウェルのPlを添加して染色し、更に4℃で30分間インキュベートした。染色後、細胞を200μLのFACS緩衝液に再懸濁し、96ウェルプレートから96本のマイクロチューブのラックに移した。サンプルをFACScanフローサイトメーターにかけ、CellQuestソフトウェアを用いてデータを分析した。
【0080】
図2は、合成され、T2細胞におけるHLA−A2分子への結合及び安定化能について評価された24種類の選択したペプチドに関する、ペプチド濃度に対する蛍光強度中央値(MFI)のグラフを示す。B型肝炎コアタンパク質(HBC)のペプチドを陽性対照として用いた。B型肝炎コアペプチドは強力なHLA−A2.1エピトープであり、残基数18〜27のコア配列である、アミノ酸FLPSDFFPSV(配列番号:73)からなる(Zhangら、Immunology.2007,121(1):105〜12)。ペプチドの結合親和性を強(S)、中(M)、弱(W)、なし(N)と特徴付けし、表2にまとめる。
【0081】
表2
24種類の選択したペプチドの相対結合親和性。
【0082】
結合親和性は強(S)、中(M)、弱(W)、なし(N)と特徴付けられた。
【0083】
【表2】

【0084】
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の生成
ショウジョウバエaAPCをSchneider S2細胞(S2細胞)から生成した。この細胞は数百のOregon−R(野生型)キイロショウジョウバエ(Oregon−R)の胚(American Type Culture Collection(ATCC)CRL−1963)から、発表された手順(Schneider,J.Embryol.Exp.Morph.1972 Vol 27,pp.353〜365)に従って、元々は1969年に確立され、ATCCに寄託されたものである(CRL10974)。S2細胞を10%加熱不活化ウシ胎児血清を補充した市販のSchneiderショウジョウバエ用培地で増殖した。aAPCを生成させるため、HLA−A2.1、B7.1、LFA−3、ICAM−1、及びCD70に対するヒト相補的DNA(cDNA)をpRmHa−3ベクターに別々に挿入し、HLA−A2.1、B7.1、LFA−3、ICAM−1、及びCD70のプラスミドDNAの混合物(aAPCクローン1120について)及びphshneoプラスミドを用いて、リン酸カルシウム沈降法によりS2細胞を形質転換した(pRMHaプラスミドベクターの構築及び使用法については米国特許第6,225,042号を参照されたい)。K562細胞からのHLA−A2.1、K562細胞からのB7.1、HL60細胞からのLFA−3、K562細胞からのICAM−1、及びHLA−A2.1+LCL細胞からのCD70について既報の配列から誘導されたプライマーを使用する、逆転写PCRによる標準的な手法を用いてヒトcDNAを調製した。K562細胞はヒト赤白血病細胞株であり、HL60細胞は前骨髄球性白血病ヒト細胞株であり、かつHLA−A2.1+LCL細胞はエプスタイン・バールウィルス(EBV)形質転換リンパ芽球様細胞株(LCL)である。ジェネテシンを含むSchneider培地で培養し、安定的に形質転換された細胞を選択した。細胞のスケールアップ前に、CuSO4を添加して形質転換遺伝子の発現を誘導する。抗HLA−A2.1、抗B7.1、抗LFA−3、抗ICAM−1、及びCD70抗体を用いるフローサイトメトリーにより発現レベルを評価する。CD8+リンパ球の効率的なインビトロ活性化には、30%超のショウジョウバエ細胞がHLA−A2.1分子を発現しなくてはならない。ショウジョウバエ細胞は、70〜90%のレベルで各分子を恒常的に発現している。ショウジョウバエaAPCを洗浄し、続いて10μMの異なる組み合わせの混合ペプチド、又は個々のペプチドと共にRTで4時間インキュベートした(例えば、米国特許第6,225,042号、同第6,355,479号、同第6,362,001号、及び同第6,790,662号、米国特許公開第2009/0017000号、及び同第2009/0004142号、並びに国際公開第WO2007/103009号、を参照されたい)。続いて、HLA−A2陽性ドナー由来の精製されたヒトCD8+ T細胞を、ペプチド負荷ショウジョウバエAPCと共に、37℃、5%CO2で5日間インキュベートした。5日目にヒトIL−2(20U/mL、R&D Systems)及びIL−7(30U/mL、R&D Systems)を添加し、ペプチド存在下における同一ドナー由来の総末梢血単核球細胞(PBMC)調製物中の非CD8接着細胞を用いて、7日目及び15日目に活性化CD8+ T細胞(CTL)を2回再刺激した。
【0085】
異なるドナー由来のCD8+ T細胞、及び異なる組み合わせの混合ペプチド(1つのペプチドのみを含む組み合わせを含む)を用いて、様々なCTLを生成した。例えば、24種類の選択したペプチドを混合して、又は個々に用いて、異なる組み合わせのペプチド混合物(PM)又は個々のペプチド(P5及びP14)を作製し、ペプチド負荷ショウジョウバエAPCを産生した。得られたペプチド負荷ショウジョウバエAPCを異なる2人のドナー(ドナー1及びドナー2)由来のCD8+ T細胞とインキュベートし、11種の異なるCTLバッチ(ドナー1:PM1、PM2、PM3、PM4、及びP14、ドナー2:PM1、PM2、PM3、PM4、P5、及びP14)を産生した(表3)。
【0086】
表3
11種の異なるCTLバッチ(ドナー1:PM1、PM2、PM3、PM4、及びP14、ドナー2:PM1、PM2、PM3、PM4、P5、及びP14)の産生に用いた混合ペプチドの組み合わせを含む組成物、及びペプチド1種のみを含む組成物。
【0087】
【表3】

【0088】
その後、3種のペプチド(P3、P13、及びP14)を用いて、別のHLA−A2陽性ドナー(ドナー16、図5)由来のCTLを生成し、混合ペプチドの組み合わせ又は個々のペプチドを用いて更なるHLA−A2陽性ドナー由来のCD8+ T細胞でより多くのCTLを生成した(表4)。
【0089】
表4
多くの更なるHLA−A2陽性ドナー由来のCTL産生に用いた混合ペプチドの組み合わせを含む組成物、及びペプチド1種のみを含む組成物。
【0090】
【表4】

【0091】
CTL活性に対するクロム(51Cr)遊離アッセイ
CTL(エフェクター)活性を、個々のペプチドを負荷したT2細胞(標的)、及び標的細胞として多くの腫瘍細胞株も用いた標準的なクロム(51Cr)遊離アッセイにより測定した(Brunnerら、Immunology.1968 Feb;14(2):181〜96)。用量反応を起こすために、1:5で連続希釈したCTL(エフェクター)を用いると、エフェクター(E)標的(T)比(E/T)の最高値は50:1であった。評価の前に、標的細胞(3×106個細胞/4% FCSを含む1×PBS 100μLにおけるT2細胞)を、100μLの51Cr(Perkin Elmer)を添加し、37℃で1時間インキュベートすることにより、標識した。インキュベート後、2.5%ウマ血清(Invitrogen)を含む1×Hank’s Balanced Salt Solution(Invitrogen)で標識標的細胞を4回洗浄し、4℃において1200〜1500rpmで8分間回転し、15mLの新しいMLR培地(10%FCS、1%グルタミン(Glutamin)、1%ペニシリン−ストレプトマイシン、1% HEPES、及び1% MEM非必須アミノ酸溶液を含むRPMI−1640)に再懸濁した。標識T2細胞の最終濃度は0.2×106個細胞/mLであった。評価前に、10μMの個々のペプチドを用いて室温(R.T.)で30分間標識T2細胞を負荷した。評価を開始するため、100μLのCTL(開始時濃度5×106個細胞/mL)を、丸底96ウェルプレート内でMLR培地を用いて1:5に段階的に希釈し、各エフェクター細胞濃度について2回反復とした。100μLの異なる希釈段階のCTLを含む各ウェルに、50μLのK−562細胞(4×106個細胞/mL)(ATCC(登録商標)番号:CCL−243(商標))及び50μLのペプチド負荷51Cr標識T2標的細胞(0.2×106個細胞/mL)を加えた。プレートを37℃、5% CO2で4時間インキュベートし、次いで900rpmで5分間回転し、各ウェルの上清100μLを51Cr計数用チューブに移し、カウントした。
【0092】
51Cr遊離アッセイにより、9種のペプチド(P1、P3、P5、P10、P13、P14、P15、P17、及びP23)が2人の正常ドナー(ドナー1及びドナー2)においてCTLを誘導することが示された(それぞれ図3及び図4)。3種のペプチド(P3、P13、及びP14)の組み合わせ1種を用いて別のドナー(ドナー16)由来のCTLを生成し、個々のペプチド又はペプチド混合物を負荷したT2細胞に対する殺細胞能を試験した(図5)。
【0093】
続いて24種のペプチドを用いて更なるドナー由来のCTLを生成し、各ペプチドから生成されたCTLの相対活性を、強(S)、中(M)、弱(W)、なし(N)、又は未測定(n.d.)として特徴付けた。各ペプチドのCTL生成に用いたドナーの総数に対する各レベルの活性を引き起こしたドナーの数の割合として、CTL活性を決定した(表5)。
【0094】
表5
標的細胞として個々のペプチドを負荷したT2細胞を用いた51Cr遊離アッセイにおけるCTL活性CTL活性を強(S)、中(M)、弱(W)、なし(N)、又は未測定(n.d.)として特徴付け、各ペプチドのCTL生成に用いたドナーの総数に対する各レベルの活性を引き起こしたドナーの数の割合として、CTL活性を決定した。
【0095】
【表5】

【0096】
更なるCTLも産生し、かつP3、P13、及びP14ペプチドの切断バージョン(表6)、及び完全長タンパク質により同定される元のペプチド配列中のHLA結合モチーフ(Parkerら、J Immunol.1992 Dec 1;149(11):3580〜7)の探索により得られた、コンピュータ予測されたペプチド(表7)を用いて試験した。切断されたペプチド及びコンピュータ予測されたペプチドを合成し、HLA−A2安定化評価法で試験し、CTLを生成して51Cr遊離アッセイで試験した。HLA−A2安定化評価法における結合活性は、強(S)、中(M)、弱(W)、なし(N)、又は未測定(n.d.)と特徴付けし、また51Cr遊離アッセイにおけるCTL活性も、強(S)、中(M)、弱(W)、なし(N)、又は未測定(n.d.)と特徴付けた。P3の切断ペプチド(P3−8)(図4A)、P13の切断ペプチド(P13−13)(表6B)、P14の切断ペプチド(P14−14及びP14−15)(表6C)、及びコンピュータ予測されたペプチド(P3−9、P3−11、P13−17、P13−18、及びP14−19)(表7)は、正常なドナーにおいてCTLの誘導が可能であった。
【0097】
表6
ペプチドの切断バージョン、P3(A)、P13(B)、及びP14(C)で生成されたCTLに対する、標的細胞として個々のペプチドを負荷したT2細胞を用いる51Cr遊離アッセイにおけるHLA−A2結合親和性及びCTL活性。HLA−A2結合親和性及びCTL活性を強(S)、中(M)、弱(W)、なし(N)、又は未測定(n.d.)として特徴付けた。
【0098】
【表6】

【0099】
表7
標的細胞として、完全長タンパク質により同定される元のペプチド配列中のHLA結合モチーフの探索により得られたコンピュータ予測されたペプチドを負荷したT2細胞を用いる51Cr遊離アッセイにおけるHLA−A2結合親和性及びCTL活性。HLA−A2結合親和性及びCTL活性を強(S)、中(M)、弱(W)、なし(N)、又は未測定(n.d.)として特徴付けた。
【0100】
【表7】

【0101】
更に、4種の異なる腫瘍細胞株、U266(ATCC番号TIB−196)、IFN−α処理したU266、ATCC番号CCL−8083、及びATCC番号CCL−1484(図6)に対する殺細胞能について、3種の異なるペプチド(P3、P13、及びP14)の組み合わせにより生成したCTLを試験した。3種の異なるペプチドの組み合わせにより生成されたCTLは、細胞株U266、IFN−α処理したU266、及びCCL−8083を死滅させたが、CCL−1484を死滅させなかった。細胞株CCL−1484はMX−1及びDNML−1を発現しているが、MHCクラスIを発現しておらず、これによりCTLによる殺細胞はMHC依存性であることが示される。
【0102】
細胞可溶化物のウェスタンブロッティング
ウェスタンブロッティングを用い、それぞれ2種の同定されたペプチドP14及びP13に対応する、2種のタンパク質、インターフェロン誘導型MXタンパク質(MX1)及びダイナミン1様タンパク質(DNM1L)の発現を定量した。ヤギ抗ヒトMX1ポリクローナル抗体(カタログ番号sc−34128)及びロバ抗ヤギAp結合抗体をSanta Cruz Biotechnologyから購入した。マウス抗ヒトDNM1Lポリクローナル抗体(カタログ番号NB110−55237)及び抗マウスAP結合抗体をNovus Biologicalから購入した。細胞可溶化物を新たに培養された細胞から作製した。簡潔に言うと、細胞を採取して1×PBSで3回洗浄し、細胞ペレットを溶解用緩衝液(CelLytic(商標)M細胞溶解試薬、Sigma、C2978−50、1×108個細胞/mL)に再懸濁し、4℃で1時間回転した。可溶化物を遠心分離により澄明にし、細胞可溶化物中のタンパク質濃度をBCA法で測定した。3μgの細胞可溶化物を10〜20% SDS−PAGEにかけ、ニトロセルロース膜に転写した。抗MX1及び抗DNM1L抗体を用いてブロットを精査し、WesternBreeze Kit(Invitrogen、WB7104)を用いて検出した。ウェスタンブロッティングの結果により、MX1はほとんどの腫瘍細胞で発現しており、細胞のIFNα処理後に発現が上昇することが示された。正常なヒトドナー由来のPBMCでは、MX1の発現は検出されなかった。ウェスタンブロッティングにより、DNM1Lが全ての細胞種で発現していることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tリンパ球を活性化可能な合成ペプチドであって、該合成ペプチドが、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、該活性化Tリンパ球が多発性骨髄腫癌細胞に対して細胞傷害性である、合成ペプチド。
【請求項2】
Tリンパ球を活性化可能な少なくとも1つの抗原ペプチドを含む組成物であって、該抗原ペプチドが、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、該活性化Tリンパ球が多発性骨髄腫癌細胞に対して細胞傷害性である、組成物。
【請求項3】
多発性骨髄腫と診断された患者に投与するための活性化Tリンパ球を作製する方法であって、該方法が、
(a)抗原ペプチド負荷ショウジョウバエ人工抗原提示細胞(aAPC)を、少なくとも1つの抗原ペプチドをショウジョウバエaAPCに負荷することにより調製する工程であって、該抗原ペプチドが、SLVLNLLEL(配列番号:3)、KNPVLLKIL(配列番号:7)、NLLPKLHVV(配列番号:9)、FLLPHPGLQV(配列番号:10)、LLNMPPAHLK(配列番号:11)、TLVDLPGMTKV(配列番号:13)、TLIDLPGITRV(配列番号:14)、LSLDSSLSSLL(配列番号:17)、LLLDVAYGAVQA(配列番号:22)、FLASESLLKGAL(配列番号:23)、LVLNLLE(配列番号:32)、TLVDLPGM(配列番号:40)、IDLPGITR(配列番号:61)、WLTVLFIFRI(配列番号:66)、LVYLGHVIYL(配列番号:67)、FVPEVSFEL(配列番号:70)、及びFQMEQIVYC(配列番号:72)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む工程と、
(b)前記患者からTリンパ球を単離する工程と、
(c)該Tリンパ球を該抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCと接触させる工程と、
(d)活性化Tリンパ球を生成する工程であって、該活性化Tリンパ球が多発性骨髄腫癌細胞に対して細胞傷害性である工程と、
(e)前記患者に戻し投与するために該活性化Tリンパ球を回収する工程とを含む、方法。
【請求項4】
前記回収工程で回収された有効量の活性化Tリンパ球を前記患者に投与する工程を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの抗原ペプチドが2つ以上の抗原ペプチドの混合物である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記2つ以上の抗原ペプチドの混合物が、配列番号:3、配列番号:13、及び配列番号:14を含有する組成物を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記活性化Tリンパ球を再刺激する工程を更に含み、前記再刺激手順が、
(a)前記活性化Tリンパ球を、IL−2、IL−4、IL−7、IL−12、IL−15、IL−17、IL−21、IFN−g、及びTNF−αからなる群から選択される少なくとも1つのサイトカインと接触させ、これにより活性化T細胞の成長、増殖、及び/又は分化を促進する工程と、
(b)前記活性化T細胞を、照射した自己非CD8+細胞、接着性非CD8+細胞、又は抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCとインキュベートし、これにより再刺激された活性化Tリンパ球を生成する工程とを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記再刺激手順が、
(a)前記活性化Tリンパ球を、IL−2と、IL−7、IL−15又はIL−21からなる群から選択される少なくとも1つの別のサイトカインとの組み合わせと接触させ、これにより活性化T細胞の成長、増殖、及び/又は分化を促進する工程と、
(b)前記活性化T細胞を、照射した自己非CD8+細胞、接着性非CD8+細胞、又は抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCとインキュベートし、これにより再刺激された活性化Tリンパ球を生成する工程とを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記再刺激手順が、濃度1〜100U/mLのIL−2;濃度1〜100U/mLのIL−7、濃度1〜100ng/mLのIL−15及び濃度1〜100ng/mLのIL−21の存在下で、前記活性化Tリンパ球を抗原ペプチド負荷ショウジョウバエaAPCと接触させる工程を含む、請求項8に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公表番号】特表2013−505296(P2013−505296A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530955(P2012−530955)
【出願日】平成22年9月20日(2010.9.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/049466
【国際公開番号】WO2011/037859
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(397060175)ヤンセン ファーマシューティカ エヌ.ベー. (28)
【Fターム(参考)】