説明

多目的防災用品

【課題】防寒着として着用することができるとともに、コンパクトに収納可能で、かつ災害時の避難先等で必要とされる各種用具の機能を備えた多目的防災用品を提供する。
【解決手段】防寒着、寝袋およびクッションに兼用され、防寒着として利用される際の身頃部と袖部との間および身頃部とフード部との間で着脱可能に形成され、身頃部、袖部およびフード部が、充填物を表地と裏地の間に介在させた多層構造を備えていることを特徴とする多目的防災用品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、災害等の非常時に持ち出し可能で、かつ避難先で必要とされる各種用具の機能を備えた多目的防災用品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、衣料本来の機能以外の各種機能を備えた多機能衣料が多数知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、リュック部を備えた多機能上衣が開示されており、この多機能上衣は、リュック部を上衣部の裾部に取り付けることによって寝袋として機能するように形成されている。
【0004】
また、特許文献2には、クッションを筒状に連結して内外に多重に配した収納形態を備える多機能防寒具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−279506号公報
【特許文献2】特開2011−047071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される多機能上衣は、リュック部に上衣部を収容することにより手軽な搬送形態を形成できるが、当該搬送形態のまま防災用品として多数を自治体等の倉庫に格納すると嵩張ってしまい、災害時に必要となる数を格納するためには大きな格納スペースが必要となる。
【0007】
また、特許文献2に開示される多機能防寒具は、レッグウォーマやケープのような単純な形状を有する防寒具に使用できるものの、袖のある防寒着としての機能を兼ね備えていない。
【0008】
そこで本発明の課題は、防寒着として着用することができるとともに、コンパクトに収納可能で、かつ災害時の避難先等で必要とされる各種用具の機能を備えた多目的防災用品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る多目的防災用品は、防寒着、寝袋およびクッションに兼用され、防寒着として利用される際の身頃部と袖部との間および前記身頃部とフード部との間で着脱可能に形成され、前記身頃部、前記袖部および前記フード部が、充填物を表地と裏地の間に介在させた多層構造を備えていることを特徴とするものからなる。
【0010】
本発明の多目的防災用品によれば、充填物を介在させた多層構造を備える身頃部、袖部およびフード部を目的に合わせて連結することにより、防寒着、寝袋またはクッションとして利用することが可能となる。
【0011】
本発明の多目的防災用品は、前記袖部または前記フード部が前記身頃部の裾側に装着されることにより、寝袋として利用されることが好ましい。このように、身頃部の裾側に袖部またはフード部が装着されることにより、寝袋として利用される際に必要な長さを確保することが可能となる。また、複数の袖部またはフード部が、身丈方向に連結された状態にて前記身頃部の裾側に装着されることによって十分な寝袋の長さを確保するようにしてもよい。
【0012】
本発明の多目的防災用品は、前記袖部および前記フード部が積層されることにより、クッションとして利用されることが好ましい。積層される袖部とフード部は充填物を介在させた多層構造を備えているので、クッションとして利用される際に高い弾力性を確保することができる。
【0013】
本発明の多目的防災用品は、前記身頃部の後身頃部側および前記フード部が、弁を通して空気を出し入れ可能な空気袋を表地と裏地の間に介在させてなることが好ましい。このような空気袋が介在することにより、寝袋やクッションとして利用する際には適当なクッション性が確保されるとともに、収納時には薄く嵩張らない形態を取ることが可能となる。また、空気袋内の空気量を調整することにより保温性を調整することも可能である。
【0014】
また、本発明の多目的防災用品は、前記身頃部の前身頃部側および前記袖部が、中綿を表地と裏地の間に介在させてなることが好ましい。保温性のある素材からなる中綿を前身頃部側および袖部に介在させることにより、防寒着または寝袋として利用される際に身体を十分に保温することが可能となる。
【0015】
本発明の多目的防災用品において、前記表地または裏地が、繊維織編物、フィルムまたは不織布からなることが好ましい。これらの素材を用いて表地や裏地を形成することにより、軽量であって収納時にも嵩張らない多目的防災用品を実現することが可能となり、使用時の強度および製造時の生産性も確保される。
【0016】
本発明の多目的防災用品において、前記身頃部、前記袖部および前記フード部が、流体を封入した状態にて閉止可能な開口部を備えた収納袋に収納されることが好ましい。このような収納袋に収納されることにより、災害等の非常時に持ち出し容易な形態を確保することができるとともに、避難場所等において収納袋を水汲みバケツ代わりに利用することが可能となる。また、収納時には内部から空気を排出した状態にて開口部を閉止することにより、収納場所の省スペース化が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る多目的防災用品は、防寒着、寝袋またはクッションとして利用可能であるとともに、コンパクトな形態にて収納可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る多目的防災用品(防寒着形態)の例を示す平面図である。
【図2】図1の多目的防災用品(寝袋形態)の例を示す平面図である。
【図3】図1の多目的防災用品の各パーツの断面を示す部分斜視図である。
【図4】図1の多目的防災用品の各パーツを分離した状態を示す平面図である。
【図5】本発明の一実施態様に係る多目的防災用品の収納袋を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る防災用品本体1の防寒着としての形態例を示す平面図である。防災用品本体1は、身頃該当パーツ2、フード該当パーツ4と、2つの袖該当パーツ3から構成されており、各パーツ2〜4は連結部5(斜線部)を介して互いに連結されている。また、連結部5は異種のパーツ同士を連結するばかりでなく、平面形状をなす個々のパーツを筒状に形成する際に当該パーツの一部分と他の部分とを連結する機能も備えている。図1においては、身頃該当パーツ2の前身頃側中央に上下に延びるように連結部が設けられているので、防寒着の着用と脱衣をスムーズに行うことができる。
【0020】
各パーツ2〜4の表地および裏地は、例えば繊維織編物、フィルムまたは不織布等の素材から形成される。とくに薄手でありながら適当な強度と生産性を有する素材を採用することにより、防災用品の製造時における生産効率、収納時における収納容易性および使用時における耐久性が確保される。なお、表地および裏地に対し、必要に応じて消臭加工や抗菌防臭加工、制菌加工や帯電防止加工などを行ってもよい。
【0021】
各パーツ2〜4の表地および裏地は、防風性および保温性の観点から少なくとも一方の通気性が0.0〜1.0cc/cm/sec(より好ましくは0.1〜0.8cc/cm/sec)の範囲に設定されることが好ましい。通気性をこのような範囲に設定することにより、風を通しやすくなったり屋外での着用時に保温性が悪化しやすくなるのを防止することができる。
【0022】
各パーツ2〜4の表地および裏地は、厚さおよび目付(目方向6は図1に示す通り)を、それぞれ0.04〜0.60mm(より好ましくは0.05〜0.10mm)、20〜100g/m(より好ましくは40〜60g/m)の範囲に設定されることが好ましい。厚さおよび目付がこれら数値範囲内に設定されることにより、必要な引張強度や破裂強度を確保しつつ、厚さおよび目付が大きくなり過ぎて収納時に嵩張ったり収納性が悪化するのを防止することができる。
【0023】
さらに、各パーツ2〜4には必要に応じてホイッスルやコンパス、ミラー、ポケット、電池などを取り付けてもよい。
【0024】
身頃該当パーツ2の大きさは、身丈寸法2aが60〜200cm(より好ましくは100〜160cm)、身幅寸法2bが30〜100cm(より好ましくは50〜80cm)程度である。また、袖該当パーツ3の大きさは、袖丈寸法3a、袖幅寸法3bともに30〜100cm(より好ましくは50〜80cm)程度である。さらに、フード該当パーツ4の大きさは、フード丈寸法4a、フード幅寸法4bともに30〜100cm(より好ましくは50〜80cm)程度である。それぞれの上限を上回ると、だぶりが出て防寒着として着用した際に動作性に劣る恐れがあり、また嵩張るため収納性が悪くなる。それぞれの下限を下回ると、防寒着として着用した際に人体をカバーしきれない恐れがあり、また部分的に締め付けのきつい部位が出るため着用感が悪化する恐れがある。
【0025】
上記の各寸法(2a,2b,3a,3b,4a,4b)は、アジャスタ等の採用により長さ調整可能とすることができるが、とくに、身頃該当パーツ2の寸法比[身丈寸法/身幅寸法]を2/1に設定するとともに、袖該当パーツ3およびフード該当パーツ4の寸法(袖丈寸法3a,袖幅寸法3b,フード丈寸法4a,フード幅寸法4b)を身頃該当パーツ2の身幅寸法2bに一致させることにより、各パーツ2〜4をあらゆる方向に組み合わせて連結することができる。
【0026】
図2は、本発明に係る防災用品本体1の寝袋としての形態例を示す平面図である。身頃該当パーツ2およびフード該当パーツ4の連結状態は図1と同様であるが、2つの袖該当パーツ3が身頃該当パーツ2の袖側から取り外され、うち1つが裾側に再装着されることにより、寝袋の長さが下半身部分において延長されている。身頃該当パーツ2に関し、図1で袖該当パーツ3が装着されていた開口部は、連結部5(斜線部)を封止することにより塞がれる。なお、2つの袖該当パーツ3が身丈方向に連結された状態にて身頃該当パーツ2の裾側に装着されることにより、より長いサイズの寝袋を形成することができる。
【0027】
図3は、図1の防災用品本体1を構成する各パーツ2〜4の断面を示す部分斜視図である。図3において、パーツ表地7の目方向6端部近傍には連結部5が設けられており、連結部5を自身または他のパーツの連結部5と連結することができるようになっている。連結部5は、例えばマジックテープ(登録商標)と称される面ファスナーや、ジッパーと称される線ファスナー、あるいはドットボタン等で形成することができる。
【0028】
図3において、パーツ表地(裏地)7の間にはパーツ充填物8が充填されている。パーツ充填物8としては、充填する部位に応じて中綿や空気袋を採用することができる。例えば、袖該当パーツ3と身頃該当パーツ2の前身頃側には、保温性を確保すべく中綿を充填することが好ましい。また、フード該当パーツ4と身頃該当パーツ2の後身頃側には、クッション性を確保すべく空気袋を充填することが好ましい。
【0029】
中綿は、ポリエステル繊維や、高収縮成分と低収縮成分を複合紡糸したバイメタル構造を備える繊維を用いて形成することが好ましい。このような繊維を用いることにより、繊維がコイル状となり、優れた圧縮弾性を達成することが可能となる。また、中綿に関し、目付の好ましい範囲は保温性、軽量性および収納性の観点から20〜100g/m(より好ましくは40〜60g/m)であり、圧縮弾性率の好ましい範囲は耐へたり性の観点から80〜100%(より好ましくは90〜100%)である。
【0030】
空気袋は、弁を通して空気を出し入れ可能に形成されていることが好ましい。空気の出し入れにより、収納性を確保しつつ、空気量を調整することで保温性を適切な範囲に調整することが可能となる。また、空気袋は少なくとも繊維織編物、フィルム、不織布より選ばれた素材からなることが好ましく、使用時に空気の放出が早くなり過ぎないためには素材の通気性は0.0〜0.1cc/cm/secであることが好ましい。
【0031】
図4は、図1の防災用品本体1の各パーツ2〜4を分離した状態を示す平面図である。身頃該当パーツ2の身丈寸法2aと身幅寸法2bの比は2:1に設定されており、同様に、袖該当パーツ3の袖丈寸法3aと袖幅寸法の比も2:1であり、さらにフード該当パーツ4のフード丈寸法4aおよびフード幅寸法4bも2:1である。このような寸法比にて各パーツ2〜4のサイズがデザインされることにより、クッションとして利用される際にも各パーツ2〜4を適宜折り畳んで積層することが容易となり、またコンパクトな収納形態を形成することが容易となる。
【0032】
図5は、本発明の一実施態様に係る防災用品本体1を収納可能な本体収納袋10を示す斜視図である。本体収納袋10は、空気を封入した状態にて密閉可能な開口部11を有している。開口部11は、水密・気密ファスナー(例えばYKK社製“PROSEAL”(“プロシール”))や圧縮袋用ジッパーなどを使用して形成することができる。圧縮袋用ジッパーを使用する際は、長期保管時に空気が流入することがないよう、開口部11近傍の端部一辺を溶着または接着により一体化した後、開口部11を切開することが好ましい。さらに、本体収納袋10側面部の少なくとも一方の余り代に空気の逆流防止弁を設けることにより、防災用品本体1の収納時に開口部11を先に閉じ、逆流防止弁から空気を抜いて圧縮することができ、収納操作における作業性の向上が図られる。
【0033】
図5において、本体収納袋10の底部に底部マチ12が設けられている。このような底部マチが設けられることにより、災害時等に本体収納袋10を水汲みバケツとして使用する際の内容積を拡大することができる。また、水汲みバケツとしての使用時や、防災用品本体1の収納時に、底部マチ12を床や地面に沿わせて配置することにより本体収納袋10を自立させることができる。なお、自治体の倉庫等に多数の防災用品を格納する際には、底部マチ12を折り畳んだ上で本体収納袋10を真空圧縮することにより嵩張らずに格納することができる。
【0034】
図5においては、本体収納袋10の袋丈方向両端に設けられた取付け穴14を介して、袋幅方向両端にそれぞれ背負いひも13が取り付けられている。このような背負いひも13(あるいは背負いベルト)を設けることにより、災害時等の避難の際に個々の避難者が防災用品を運搬する際の携帯性を向上できる。背負いひも(あるいは背負いベルト)には、反射剤や文字などを付与してもよい。また、取付け穴14を利用して吊下げ形態にて倉庫等に格納することも可能である。
【0035】
本体収納袋10は、防水性および圧縮収納容易性の観点から、繊維織編物、フィルム、不織布より選ばれた素材からなることが好ましい。必要に応じて、素材に消臭加工や抗菌防臭加工、制菌加工や帯電防止加工などを行ってもよい。
【0036】
本体収納袋10の通気性は、防水性および圧縮収納容易性の観点から、0.0〜0.1cc/cm/secであることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明に係る多目的防災用品は、災害等の非常時に持ち出して避難先で各種用具(防寒着、寝袋およびクッション)として使用される防災用品に利用可能である。
【符号の説明】
【0038】
1:防災用品本体
2:身頃該当パーツ
2a:身丈寸法
2b:身幅寸法
3:袖該当パーツ
3a:袖丈寸法
3b:袖口幅寸法
4:フード該当パーツ
4a:フード丈寸法
4b:フード幅寸法
5:連結部
6:パーツ地の目方向
7:パーツ表地(裏地)
8:パーツ充填物
9:パーツ厚さ
10:本体収納袋
10a:袋丈寸法
10b:袋幅寸法
11:開口部
12:底部マチ
13:背負いひも
14:取付け穴


【特許請求の範囲】
【請求項1】
防寒着、寝袋およびクッションに兼用され、防寒着として利用される際の身頃部と袖部との間および前記身頃部とフード部との間で着脱可能に形成され、前記身頃部、前記袖部および前記フード部が、充填物を表地と裏地の間に介在させた多層構造を備えていることを特徴とする多目的防災用品。
【請求項2】
前記袖部または前記フード部が前記身頃部の裾側に装着されることにより、寝袋として利用される、請求項1に記載の多目的防災用品。
【請求項3】
複数の袖部またはフード部が、身丈方向に連結された状態にて前記身頃部の裾側に装着される、請求項2に記載の多目的防災用品。
【請求項4】
前記袖部および前記フード部が積層されることにより、クッションとして利用される、請求項1〜3のいずれかに記載の多目的防災用品。
【請求項5】
前記身頃部の後身頃部側および前記フード部が、弁を通して空気を出し入れ可能な空気袋を表地と裏地の間に介在させてなる、請求項1〜4のいずれかに記載の多目的防災用品。
【請求項6】
前記身頃部の前身頃部側および前記袖部が、中綿を表地と裏地の間に介在させてなる、請求項1〜5のいずれかに記載の多目的防災用品。
【請求項7】
前記表地または裏地が、繊維織編物、フィルムまたは不織布からなる、請求項1〜6のいずれかに記載の多目的防災用品。
【請求項8】
前記身頃部、前記袖部および前記フード部が、流体を封入した状態にて閉止可能な開口部を備えた収納袋に収納される、請求項1〜7のいずれかに記載の多目的防災用品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−76184(P2013−76184A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216528(P2011−216528)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(591176649)ギャレックス株式会社 (2)
【出願人】(511237542)株式会社アサヒゴウセン (1)
【出願人】(591086407)東レコーテックス株式会社 (29)
【出願人】(397022391)株式会社サカイナゴヤ (7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】