説明

多眼撮像装置

【課題】広角レンズを用いて撮影するのと同様に、水平方向と垂直方向にともに広範囲を撮影することができる薄型の多眼撮像装置を提供する。
【解決手段】多眼撮像装置10は、水平方向に2以上かつ垂直方向に2以上の2次元に配列され、各々にレンズ16及び撮像素子17を有し、隣接するユニットの撮影範囲の一部が重複する複数の撮像ユニット15a〜15iと、撮像ユニット15a〜15iの各々の光軸L15a〜L15iを水平方向または垂直方向傾斜させることにより、各々の撮像ユニットが撮影する方向を変化させる手段であり、通常時には、各光軸L15a〜L15iを正面方向に向け平行にし、広角撮影時に光軸L15a〜L15iを放射状に傾斜させる傾斜制御部13と、撮像ユニット15a〜15iで得られた画像を合成し、各々の撮像ユニット15a〜15iで得られる画像よりも撮影範囲が広い合成画像を生成する画像合成部12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像ユニットを複数有する多眼撮像装置に関するものであり、さらに詳しくは、広角撮影機能を有する多眼撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2個の撮像ユニットを横並びに備え、これらの撮像ユニットによって視差のある2枚画像を撮像することにより、いわゆる立体画像が得られる複眼撮像装置が知られている。複眼撮像装置のなかには、単に2個の撮像ユニットを所定距離離して設置したものだけでなく、各々の撮像ユニットの水平方向への回転や移動を可能とすることにより、輻輳角や基線長を調節するものが知られている(特許文献1)。また、各撮像ユニットの回転を利用することにより、立体画像を得るだけでなく、水平方向に撮影範囲を広げた通常の画像(いわゆるパノラマ画像)を得られるようにした複眼撮像装置も知られている(特許文献2)。
【0003】
また、近年、撮像ユニットを構成する小型のレンズや撮像素子が従来よりも比較的安価に作製できるようになってきたため、2個の撮像ユニットを搭載する複眼撮像装置よりも多数(例えば3以上)の撮像ユニットを備えた多眼撮像装置が検討されている。多眼撮像装置は、複数の撮像ユニットで撮影した画像を繋ぎ合わせることにより、各々の撮像ユニットの撮影範囲よりも広範囲を撮影した画像が得られる。また、各撮像ユニットで撮像した画像のうち水平方向(または垂直方向)の1対の画像を用いることにより、立体画像を得ることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−217410号公報
【特許文献2】特開2011−048283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンパクトデジタルカメラ等の小型かつ薄型のデジタルカメラと同様に、多眼撮像装置も当然に小型かつ薄型であることが望ましい。また、多眼撮像装置においても、通常のデジタルカメラのように撮影範囲を自在に変更するズーム機能があることが好ましい。しかしながら、各撮像ユニットのレンズをズームレンズとすると、撮像ユニット内でレンズを移動させるためのスペースを確保しなければならないので、撮像ユニットの厚みが増し、結果として多眼撮像装置の薄型化を妨げてしまう原因となる。
【0006】
また、前述のように、2個の撮像ユニットを水平方向に回転させて撮影範囲を拡張する特許文献2の複眼撮像装置はいわゆるパノラマ画像を撮影するものであり、広角レンズで撮影するのと同様の水平方向と垂直方向にともに撮影範囲を拡大することができないという問題がある。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、広角レンズを用いて撮影するのと同様に、水平方向と垂直方向にともに広範囲を撮影することができる薄型の多眼撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多眼撮像装置は、水平方向に2以上かつ垂直方向に2以上の2次元に配列され、各々にレンズ及び撮像素子を有し、隣接するユニットの撮影範囲の一部が重複する複数の撮像ユニットと、前記撮像ユニットの各々の光軸を前記水平方向または垂直方向傾斜させることにより、各々の前記撮像ユニットが撮影する方向を変化させる手段であり、通常時には、複数の前記撮像ユニットの各光軸を正面方向に向け平行にし、広角撮影時に複数の前記撮像ユニットの光軸を放射状に傾斜させる撮像ユニット傾斜手段と、複数の前記撮像ユニットで得られた画像を合成し、各々の前記撮像ユニットで得られる画像よりも撮影範囲が広い合成画像を生成する画像合成部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
複数の前記撮像ユニットの総数は奇数個であり、前記撮像ユニットの配列の中央に、広角撮影時に前記撮像ユニット傾斜手段によって光軸が傾斜されない前記撮像ユニットを備えることが好ましい。
【0010】
複数の前記撮像ユニットの各々の水平方向の半画角をθ、広角撮影時に前記撮像ユニット傾斜手段によって光軸が傾斜されない前記撮像ユニットの光軸を基準とした水平方向の傾斜角度を|α|、垂直方向の半画角をθ、垂直方向の傾斜角度を|α|、隣接する前記撮像ユニットの撮影範囲の重複率をRとするときに、前記撮像ユニット傾斜手段は、広角撮影時に、|α|≦θ−atan{(2R−1)tanθ}かつ|α|≦θ−atan{(2R−1)tanθ}を満たす範囲内で前記撮像ユニットを傾斜させることが好ましい。
【0011】
複数の前記撮像ユニットの総数が偶数個であることが好ましい。
【0012】
複数の前記撮像ユニットの各々の水平方向の半画角をθ、水平方向の傾斜角度を|α|、垂直方向の半画角をθ、垂直方向の傾斜角度を|α|、隣接する前記撮像ユニットの撮影範囲の重複率をRとするときに、前記撮像ユニット傾斜手段は、広角撮影時に、|α|≦θ−atan(Rtanθ)かつ|α|≦θ−atan(Rtanθ)を満たす範囲内で前記撮像ユニットを傾斜させることが好ましい。
【0013】
前記重複率Rが0.1以上であることが好ましい。
【0014】
複数の前記撮像ユニットは正方形状に配列され、前記重複率Rが水平方向と垂直方向とで異なり、前記撮像ユニットの傾斜角度を|α|が垂直方向の傾斜角度を|α|よりも大きいことが好ましい。
【0015】
複数の前記撮像ユニットの撮影範囲に重複範囲がない近距離に被写体を置いた接写を行うときに、前記撮像ユニット傾斜手段は、複数の前記撮像ユニットの光軸を内向きに傾斜させることが好ましい。
【0016】
複数の前記撮像ユニットの配列間隔が10mm以下であることが好ましい。
【0017】
複数の前記撮像ユニットは、全て同じレンズ及び撮像素子を有することが好ましい。
【0018】
前記撮像ユニットは、撮像ユニット傾斜手段によって前記撮像ユニット全体として傾斜されることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、広角レンズを用いて撮影するのと同様に、水平方向と垂直方向にともに広範囲を撮影することができる薄型の多眼撮像装置を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】多眼撮像装置の概略的構成を示すブロック図である。
【図2】撮像ユニットの配列及び配置間隔を示す説明図である。
【図3】撮像ユニットの光軸を正面に向けて撮影した場合に得られる合成画像の幅Thと実効的な画角ΩTHを示す説明図である。
【図4】広角撮影時に撮像ユニットが傾斜される態様を示す説明図である。
【図5】撮像ユニットの光軸を放射状に傾けて撮影した場合に得られる合成画像の幅Whと実行的な画角ΩWHを示す説明図である。
【図6】撮像ユニットの傾斜角度が満たす条件を説明するための図である。
【図7】偶数個の撮像ユニットの配列を示す説明図である。
【図8】偶数個の撮像ユニットを用い、撮像ユニットの光軸を正面に向けて撮影した場合に得られる合成画像の幅Thと実効的な画角ΩTHを示す説明図である。
【図9】偶数個の撮像ユニットを用いて広角撮影をする場合の例を示す説明図である。
【図10】偶数個の撮像ユニットを用い、撮像ユニットの光軸を放射状に傾けて撮影した場合に得られる合成画像の幅Whと実行的な画角ΩWHを示す説明図である。
【図11】偶数個の撮像ユニットを用いる場合に、撮像ユニットの傾斜角度が満たす条件を説明するための図である。
【図12】接写を行う場合の例を示す説明図である。
【図13】接写を行う場合に、撮像ユニットを内向きに傾斜させる例を示す説明図である。
【図14】測距部を備える例を示す説明図である。
【図15】レンズを傾斜させる例を示す説明図である。
【図16】プリズムを挿入して光軸を傾斜させる例を示す説明図である。
【図17】水平方向にパノラマ画像を撮影する場合の動作態様を示す説明図である。
【図18】垂直方向にパノラマ画像を撮影する場合の動作態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
図1に示すように、多眼撮像装置10は、複数の撮像ユニットを有する撮像部11、複数の撮像ユニットで得られた画像を繋ぎ合わせるように合成して1枚の画像を生成する画像合成部12、各々の撮像ユニットの向きを制御する傾斜制御部13、ユーザがズーム操作等の操作を入力するための操作部14等を備える。
【0022】
撮像部11は、撮像ユニット15a〜15iの合計9個の撮像ユニットを備える。撮像ユニット15a〜15iは各々に同様のレンズ16と撮像素子17を備えている。レンズ16は、撮像素子17に対して所定の位置に固定して配置された単焦点レンズであり、撮像素子17は例えばCCDやCMOS等のエリアイメージセンサである。また、撮像ユニット15a〜15iは、それぞれ傾斜機構18a〜18i上に設けられている。傾斜機構18a〜18iは、撮像ユニット15a〜15iを水平方向及び垂直方向に各々傾斜させる。傾斜機構18a〜18iによって撮像ユニット15a〜15iを傾斜することにより、各撮像ユニット15a〜15iの光軸L15a〜L15iが傾斜され、各撮像ユニット15a〜15iによって撮影される方向が変化する。
【0023】
なお、水平方向とは、多眼撮像装置10を操作部14の配置等に合わせて通常に把持した場合の水平方向であり、多眼撮像装置10の横方向である。また、垂直方向とは、通常に多眼撮像装置10を把持した場合の鉛直方向であり、多眼撮像装置10の縦方向である。また、傾斜機構18a〜18iによる撮像ユニット15a〜15i(光軸L15a〜L15i)の傾斜角度は、多眼撮像装置10の正面方向を基準とした所定角度の範囲内であり、最大傾斜角度は、撮像ユニット15a〜15iの厚さや配置間隔等に応じて、撮影範囲内に他の撮像ユニットが入り込む等の不具合がない範囲内(例えば45度程度)に定められる。
【0024】
画像合成部12は、撮像ユニット15a〜15iからそれぞれ得られた画像をつなぎあわせるように合成することにより、各々の撮像ユニット15a〜15iで得られる画像よりも撮影範囲が大きい合成画像を生成する。画像合成部12で生成された合成画像は、ディスプレイ(図示しない)に表示されたり、メモリ等の記憶装置(図示しない)に記憶される。
【0025】
傾斜制御部13は、操作部14によってズーム操作がなされたときに、入力されたズームの度合いに応じて、傾斜角度及び傾斜方向を表す傾斜信号を傾斜機構18a〜18iに入力する。これにより、傾斜制御部13は、各々の撮像ユニット15a〜15i(光軸L15a〜L15i)の傾斜角度及び傾斜方向を制御する。
【0026】
図2に示すように、9個の撮像ユニット15a〜15iは、3行3列(3×3)に配列されている。より具体的には、下行右列に撮像ユニット15a、下行中央列に撮像ユニット15b、下行左列に撮像ユニット15c、中央行右列に撮像ユニット15d、中央行中央列(配列の中央)に撮像ユニット15e、中央行左列に撮像ユニット15f、上行右列に撮像ユニット15g、上行中央列に撮像ユニット15h、上行左列に撮像ユニット15iがそれぞれ配置される。また、撮像ユニット15a〜15iの水平方向(X方向)の配置間隔Dhは、垂直方向(Y方向)の配置間隔Dvと等しく(Dh=Dv)、約10mm程度の間隔で縦横に等間隔に配置されている。傾斜制御部13及び傾斜機構18a〜18iによって撮像ユニット15a〜15iを傾斜させない場合、全ての撮像ユニット15a〜15iの光軸L15a〜15iは多眼撮像装置10の正面方向(Z方向)に向けられる。多眼撮像装置10では、撮像ユニット15a〜15iの光軸L15a〜15iがZ方向を向き平行な状態で行う撮影が、ズームレンズでいうところのテレ端での撮影に相当する。
【0027】
例えば、図3に示すように、中央行の撮像ユニット15d,15e,15fに着目すると、撮像ユニット15d,15e,15fは何れも同じ構成であるので、各撮像ユニット15d,15e,15fの半画角θ(水平方向の半画角θh,垂直方向の半画角θv)や各々の撮影範囲(破線で示す)の広さは等しい。また、撮像ユニット15d,15e,15fは、配置間隔Dhをあけて配列されているので、各撮像ユニット15d,15e,15fの撮影範囲は異なるが、被写体Hがある程度離れている場合には、各撮像ユニット15d,15e,15fの撮影範囲は一部重複する。こうした重複部分の像に基づいて、撮像ユニット15d,15e,15fで得られた画像を画像合成部12で合成すると、合成画像における水平方向の撮影範囲Thは、撮像ユニット15dの撮影範囲の端から撮像ユニット15fの撮影範囲の端までの幅になり、各撮像ユニット15d,15e,15fで得られる各画像における水平方向の撮影範囲Ahよりも広い(Th>Ah)。したがって、多眼撮像装置10(撮像部11)全体としての実効的な水平画角ΩTHは、撮像ユニット15d,15e,15fの各々の画角2θよりも広い(ΩTH>2θ)。
【0028】
ここでは、中央行の水平方向に並ぶ3個の撮像ユニット15d,15e,15fに着目したが、垂直方向の各列に着目しても同様である。すなわち、合成画像における垂直方向の撮影範囲Tvは、各撮像ユニット15a〜15iの垂直方向の撮影範囲Avよりも広い(Tv>Av)。また、多眼撮像装置10全体としての実効的な垂直画角ΩTVは、各撮像ユニット15a〜15iの画角2θよりも広い(ΩTV>2θ)。
【0029】
広角撮影をする場合には、図4に示すように、中央の撮像ユニット15eを除く8個の撮像ユニット15a〜15d,15f〜15iが傾けられ、矢印で示すように撮像ユニット15a〜15iの各光軸L15a〜L15iが放射状に広げられる。このとき、撮像ユニット15a〜15d,15f〜15i(光軸L15a〜L15d,L15f〜L15i)の傾斜方向は各々に異なる。
【0030】
具体的には、下行右列の撮像ユニット15aは、Z方向を基準として、X方向のマイナス側かつY方向のマイナス側に傾けられ、下行中央のX方向には傾斜せずY方向のマイナス側にだけ傾けられる。下行右列の撮像ユニット15cはX方向のプラス側かつY方向のマイナス側に傾けられる。また、中央行右列の撮像ユニット15dは、Y方向には傾斜されずX方向のマイナス側にだけ傾けられ、中央行左列の撮像ユニット15fはY方向には傾斜されずX方向のプラス側だけ傾けられる。配列中央の撮像ユニット15eは、広角撮影をする場合にも傾けられず、光軸L15eはZ方向に向けられたままである。さらに、上行右列の撮像ユニット15gは、Y方向のプラス側かつX方向のマイナス側に傾けられ、上行中央列の撮像ユニット15hはX方向には傾斜せずY方向のプラス側に傾けられる。上行左列の撮像ユニット15iはX方向のプラス側かつY方向のプラス側に傾けられる。傾斜機構18a〜18d,18f〜18iによる傾斜角度の上限まで、上述の各方向に撮像ユニット15a〜15d,15f〜15iを傾斜させた状態での撮影が、ズームレンズでいうところのワイド端での撮影に相当する。
【0031】
例えば、図5に示すように、中央行の撮像ユニット15d,15e,15fに着目すると、広角撮影をする場合、撮像ユニット15dは左に、撮像ユニット15fは右にそれぞれ傾けられる。このとき、撮像ユニット15d及び撮像ユニット15fの画角2θ(半画角θ)に変化はないが、被写体Hに対する角度が変化するので、撮像ユニット15d及び撮像ユニット15fで得られる画像における水平方向の撮影範囲Ah’は、傾斜されない中央の撮像ユニット15eの撮影範囲Ahよりも広がる(Ah’>Ah)。このため、各撮像ユニット15d,15e,15fで撮像された画像を画像合成部12で合成すると、合成画像の水平方向の幅Whは、光軸L15a〜15iを全て正面に向けて撮影した場合の合成画像の水平方向の幅Th(図3参照)よりもさらに広がる(Wh>Th)。同時に、広角撮影をした場合の実効的な水平方向の画角ΩWHは、光軸L15a〜15iを全て正面に向けて撮影した場合の実効的な水平方向の画角ΩTHよりもさらに広がる(ΩWH>ΩTH)。
【0032】
ここでは、中央行の水平方向に並ぶ3個の撮像ユニット15d,15e,15fに着目したが、垂直方向の各列に着目しても同様である。すなわち、合成画像における垂直方向の撮影範囲Wvは、各撮像ユニット15a〜15iの垂直方向の撮影範囲Avよりも広く、さらに、光軸L15a〜15iを全て正面に向けて撮影した場合の垂直方向の撮影範囲Tvよりも広い(Wv>Tv>Av)。また、多眼撮像装置10全体としての実効的な垂直画角ΩTVは、各撮像ユニット15a〜15iの画角2θよりも広く、さらに、光軸L15a〜15iを全て正面に向けて撮影した場合の垂直方向の撮影範囲Tvよりも広い(ΩWV>ΩTV>2θ)。
【0033】
したがって、上述のように光軸L15a〜15iを放射状に傾斜させた状態で撮影した画像を画像合成部12で合成して得られる広角の合成画像は、光軸L15a〜L15iを正面(Z方向)に向けたまま撮影した画像を画像合成部12で合成して得られる合成画像を基準として、X方向及びY方向にともに撮影範囲が拡張された画像になる。また、上述のように光軸L15a〜L15iを放射状に傾斜させて撮影した場合に得られる合成画像は、水平方向及び垂直方向にともに撮影範囲が拡張された画像であるから、水平方向または垂直方向の一方にだけ撮影範囲が拡張されたパノラマ画像とは異なり、広角レンズを用いて撮影するのとほぼ同等に撮影範囲が拡張された画像である。さらに、広角レンズで撮影した画像と比較すると、広角レンズで撮影した画像は、広角レンズは周辺部分の収差が残りやすいので、これに応じて画像の周辺部分に歪み等が生じやすいが、多眼撮像装置10で得られる合成画像の周辺部分は、傾斜した撮像ユニットの中央近傍での撮影画像になるので、広角レンズで撮影した画像のような収差による周辺部分の歪み等が生じにくい。また、多眼撮像装置10は、上述のように撮像ユニット15a〜15iの傾斜によって撮影範囲を切り替える(いわゆるズーム操作)を行うので、撮像ユニット15a〜15iにズームレンズを搭載する必要はなく、多眼撮像装置10を薄型に構成することができる。
【0034】
なお、上述のように、広角撮影のために撮像ユニット15a〜15iを傾斜する場合、以下に説明する条件を満たすように撮像ユニット15a〜15iの各傾斜角度を決定することが好ましい。
【0035】
なお、多眼撮像装置10は、前述のように各撮像ユニット15a〜15iで得た画像を画像合成部12によって繋ぎ合わせるように合成することによって、撮像ユニット15a〜15iの各々の撮影範囲よりも広い範囲を撮影した合成画像を生成する。単に各撮像ユニット15a〜15iで得た画像の端を継ぎ足すだけでは、各撮像ユニット15a〜15iの撮影範囲が重複する箇所の像が複数現れ、不自然な画像になる。このため、画像合成部12は、各撮像ユニット15a〜15iの撮影範囲が重複する箇所の像が継ぎ目なく重なるように、各撮像ユニット15a〜15iで得た画像を合成する。したがって、多眼撮像装置10で自然に撮影範囲を拡大した合成画像を得るためには、各撮像ユニット15a〜15iの撮影範囲がある程度重複していることが前提となる。より具体的には、各撮像ユニット15a〜15iの撮影範囲に、光軸を正面に向けた場合の撮影範囲(図3及び図5における撮影範囲A)を基準として、概ね10%以上の重複範囲があることが好ましく、20%以上の重複範囲があることが特に好ましい。
【0036】
このことは、広角撮影のために撮像ユニット15a〜15iを傾斜する場合にも同様であるため、操作部14を通じて撮影範囲を変える操作が行われた場合、傾斜制御部13は、以下に説明する条件を満たす範囲内で撮像ユニット15a〜15iを傾斜させる。
【0037】
図6に示すように、傾斜されない撮像ユニット15eの光軸L15eと、広角撮影のために傾斜された撮像ユニット15d及び撮像ユニット15fの光軸L15d,L15fが水平方向になす角(以下、水平方向の傾斜角度という)をαとする。また、被写体Hまでの距離をd、光軸を正面に向けた撮像ユニット15eの基準となる撮影範囲をA、撮像ユニット15eの撮影範囲Ahと撮像ユニット15d及び撮像ユニット15fの撮影範囲の重複部分をBhとする。また、撮像ユニット15eと、撮像ユニット15d及び撮像ユニット15f間の間隔(撮像ユニットの中心間距離)はDhであり、各撮像ユニット15d,15e,15fの半画角はθである。このとき、基準の撮影範囲AhはAh=2dtanθであり、重複部分BhはBh=Ztanα+Ztan(θ−α)+Ztanθ−(Dh+Ztanα)である。したがって、撮影範囲の重複率Rは、R=Bh/Ah={tan(θ−α)+tanθ−Dh/Z}/2tanθと表される。これにより、水平方向の傾斜角度αは重複率Rを用いてα=θ−atan{(2R−1)tanθ+Dh/d}と表される。
【0038】
また、被写体Hまでの距離dが撮像ユニット15a〜15iの水平方向の配置間隔Dhに比べて大きい場合には、Dh/d≒0とみなすことができる。極端な接写をする場合を除けば、被写体Hまでの距離は例えば200mm以上であり、撮像ユニット15a〜15iの水平方向の配置間隔Dhは前述のように約10mmなので、多眼撮像装置10を普通に使用する場合、被写体Hまでの距離dが撮像ユニット15a〜15iの水平方向の配置間隔Dhに比べて大きいという条件はほぼ常に満たされる。このため、被写体Hまでの距離dが十分に遠い場合には、重複率RはR={tan(θ−α)+tanθ}/2tanθであり、水平方向の傾斜角度αは重複率Rを用いてα=θ−atan{(2R−1)tanθ}と表される。
【0039】
こうしたことから、傾斜制御部10は、予め定められた重複率Rに基づき、傾斜角度αが|α|≦θ−atan{(2R−1)tanθ}を満たす範囲内で撮像ユニット15d及び撮像ユニット15fを傾斜させる。また、合成画像における水平方向の撮影範囲Whは、水平方向の傾斜角度αを用いてWh=2dtan(θ−α)+2Dhで表されるので、傾斜角度αを決定することにより、撮影範囲Whは一義的に決まる。したがって、操作部14によるズーム操作は、傾斜角度αを指定するものであり、最も広角の撮影範囲Whmaxは、重複率Rと撮像ユニット15a〜15iの半画角θによって、Whmax=2d(2R−1)tanθ+2Dhとなる。
【0040】
なお、水平方向を例に説明したが、垂直方向についても同様である。すなわち、垂直方向の傾斜角度αは、重複率R,撮像ユニット15a〜15iの垂直方向の配置間隔Dv,被写体Hまでの距離d,撮像ユニット15a〜15iの半画角θを用いてα=θ−atan{(2R−1)tanθ+Dv/d}で表される。このため、傾斜制御部10は、予め定められた重複率Rに基づき、垂直方向の傾斜角度αが|α|≦θ−atan{(2R−1)tanθ}を満たす範囲内で撮像ユニット15a〜15iを垂直方向に傾斜させる。また、合成画像における垂直方向の撮影範囲Wvは、垂直方向の傾斜角度αを用いてWv=2dtan(θ−α)+2Dvで表され、最も広角の撮影範囲Wvmaxは、Wvmax=2d(2R−1)tanθ+2Dvとなる。
【0041】
[第2実施形態]
なお、上述の第1実施形態では、3×3の配列で奇数個の撮像ユニット15a〜15iが配列され、撮像部11の中央に、広角撮影時にも傾斜されない撮像ユニット15eがある例を説明したが、偶数個の撮像ユニットを配列し、撮像部11の中央に広角撮影時に傾斜されない撮像ユニットがない場合にも本発明は好適である。以下、その一例として2×2の配列で撮像ユニットが配列された場合の例を説明する。
【0042】
図7に示すように、撮像部11として、2×2の配列で、合計4個の撮像ユニット25a〜25dを配列する。また、簡単のため、水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔Dhは等しいとする。この場合、撮像部11の中央には撮像ユニットがないので、中央に撮像部11全体としての光軸L0を定める。
【0043】
図8に示すように、撮像ユニット25a〜25dの光軸L25a〜L25dを正面(Z方向)に向けて撮影する場合、合成画像の水平方向の撮影範囲Thは、各撮像ユニット25a〜25dの撮影範囲Ahよりも大きい(Th>Ah)。また、光軸L0を基準に測った撮像部11全体としての画角ΩTHも、各撮像ユニット25a〜25dの画角2θよりも大きい(ΩTH>2θ)。
【0044】
ここでは、水平方向を例に挙げたが、垂直方向についても同様であり、撮像ユニット25a〜25dの光軸L25a〜L25dを正面(Z方向)に向けて撮影する場合、合成画像の垂直方向の撮影範囲Tvは、各撮像ユニット25a〜25dの撮影範囲Avよりも大きい(Tv>Av)。また、光軸L0を基準に測った撮像部11全体としての垂直方向の画角ΩTVも、各撮像ユニット25a〜25dの画角2θよりも大きい(ΩTV>2θ)。
【0045】
一方、図9に示すように、広角撮影をする場合、撮像ユニット25a〜25dは全て傾斜される。このとき、撮像ユニット25a〜25dの傾斜方向は、各々に異なる。具体的には、撮像ユニット25aはX方向のマイナス側かつY方向のマイナス側に傾けられ、撮像ユニット25bはX方向のプラス側かつY方向のマイナス側に傾けられる。同様に、撮像ユニット25cはX方向のマイナス側かつY方向のプラス側に、撮像ユニット25dはX方向のプラス側かつY方向のプラス側に傾けられる。これにより、撮像ユニット25a〜25dの光軸L25a〜L25dは、撮像部11全体としての光軸L0を基準に、放射状に広げられる。
【0046】
このように、光軸L25a〜L25dを放射状に傾斜させると、図10に示すように、各撮像ユニット25a〜25dの撮影範囲Ah’は、光軸L25a〜L25dを正面に向けて撮影する場合の撮影範囲Ahよりも広がる(Ah’>Ah)。このため、撮像部11全体としての画角ΩWHは、光軸L25a〜L25dを全て正面に向けて撮影する場合の画角ΩTHよりも大きくなる(ΩWH>ΩTH)。
【0047】
ここでは、水平方向を例に挙げたが、垂直方向についても同様である。すなわち、各撮像ユニット25a〜25dの垂直方向の撮影範囲Av’は、光軸L25a〜L25dを正面に向けて撮影する場合の撮影範囲Avよりも広がり(Av’>Av)、撮像部11全体としての垂直方向の画角ΩWVは、光軸L25a〜L25dを全て正面に向けて撮影する場合の画角ΩTVよりも大きくなる(ΩWV>ΩTV)。
【0048】
したがって、撮像部11を2×2の偶数個の撮像ユニット25a〜25dで構成する場合にも、光軸L25a〜L25dを放射状に傾斜させた状態で得られる合成画像は、光軸L25a〜L25dを正面に向けたまま撮影して得られる合成画像を基準として、X方向及びY方向にともに撮影範囲が拡張された画像になる。こうして多眼撮像装置10で広角撮影をすることにより得られる合成画像がパノラマ画像と異なることは前述の第1実施形態で説明したとおりである。
【0049】
なお、前述の第1実施形態では自然な合成画像を得るために、各撮像ユニット15a〜15iの撮影範囲に重複があることが好ましい旨説明したが、これは、上述の第2実施形態のように、偶数個の撮像ユニットを配列し、撮像部11の中央に広角撮影時にも傾斜されない撮像ユニットがない場合も同様である。上述の第2実施形態の場合、図11に示すように、撮像部11全体としての光軸L0上に、光軸が正面を向いた仮想撮像ユニット26を考え、その撮影範囲Ahを基準とする。また、光軸L0を基準として測った撮像ユニット25a及び撮像ユニット25bの水平方向の傾斜角度をαとする。そして、撮像ユニット25aの撮影範囲と撮像ユニット25bの撮影範囲の重複範囲Bhとし、重複率RをR=Bh/Ahで定める。こうすると、基準の撮影範囲Ahは、Ah=2dtanθであり、重複範囲BhはBh=2dtan(θ−α)−Dhで表され、重複率RはR={2dtan(θ−α)−Dh}/2dtanθである。このため水平方向の傾斜角度αhは、α=θ−atan(Rtanθ+Dh/2d)である。
【0050】
また、被写体Hまでの距離dが撮像ユニット25a〜25dの水平方向の配置間隔Dhに比べて大きい場合には、Dh/2d≒0とみなすことができるので、傾斜角度αhはα=θ−atan(Rtanθ)である。このため、傾斜制御部10は、予め定められた重複率Rに基づき、水平方向の傾斜角度αが|αh|≦θ−atan(Rtanθ)を満たす範囲内で撮像ユニット25a〜25dを傾斜させる。また、合成画像における水平方向の撮影範囲Whは、水平方向の傾斜角度αを用いて、Wh=2dtan(θ+α)+Dhで表されるので、傾斜角度αを決定することにより、撮影範囲Whは一義的に決まる。
【0051】
なお、主要な被写体は撮影範囲の中央付近にあることが多い。しかし、上述の第2実施形態のように、撮影範囲の中央に広角撮影時にも傾斜されない撮像ユニットがない場合、合成画像の中央部分で各撮像ユニット25a〜25dで得た画像が継ぎ合わされることになる。このため、上述の第1実施形態と第2実施形態とを比較すると、画像の継ぎ目が主要な被写体を含む中央部分にないので、第1実施形態のように、広角撮影時にも傾斜されない撮像ユニット15eがある態様が特に好ましい。
【0052】
なお、上述の第1,第2実施形態では、被写体Hまでの距離dが撮像ユニットの配置間隔Dh,Dvと比較して十分に大きく、Dh/d,Dv/d(第2実施形態ではDh/2d,Dv/2d)が0と見なせる例を説明したが、多眼撮像装置10を用いて接写をする場合には、以下のようにすることが好ましい。
【0053】
図12に示すように、多眼撮像装置10に極めて近い被写体H’を撮影する場合、撮像ユニット15d,15e,15fの撮影範囲Ahが重複せず、撮像ユニット15d,15e,15fの撮影範囲Ahの間に被写体H’の一部に撮影されない部分Kが生じる。撮影されない部分Kがある場合に、撮像ユニット15d,15e,15fで撮影した画像を画像合成部12によって合成すると、上手く合成されずにエラーが生じたり、合成画像が生成されても実際の被写体H’とは異なる不自然な画像となってしまう。このため、図13に示すように、撮影されない部分Kが生じないように、撮像ユニット15d及び撮像ユニット15fを内向き(各光軸L15d,L15fを撮像ユニット15eの光軸L15eに近づける向き)に傾斜させることが好ましい。このように、接写をする場合に、撮像ユニット15d及び撮像ユニット15fを内向きに傾斜させる場合、合成画像の撮影範囲Wh’は撮像ユニット15d,15e,15fの撮影範囲Ahよりも広い。また、撮像ユニット15d,15e,15fの内向きの傾斜角度βhは、中央の撮像ユニット15eの撮影範囲Ahを基準として、重複率Rに応じて幾何学的に定まる所定の範囲内で決定されることが好ましい。なお、ここでは、水平方向を例に挙げたが、垂直方向についても同様である。また、ここでは第1実施形態の多眼撮像装置10で接写をする場合を例に説明したが、第2実施形態の多眼撮像装置31の場合も同様である。
【0054】
また、上述のように、接写に対応して、撮像ユニットを内向きに傾斜することがある場合には、被写体が多眼撮像装置に近いか否かを算出する必要がある。このため、図14に示す多眼撮像装置31のように、測距部32を設けておくことが好ましい。測距部32は、例えば、中央の撮像ユニット15eから画像を取得した画像に基づいて、被写体H(H’)までの距離dを算出する。測距部32は、算出した被写体H(H’)までの距離dは、傾斜制御部13に入力し、傾斜制御部13は、入力された距離dが所定値d0以上の場合に撮像ユニット15a〜15iを外向きに放射状に傾斜させ、入力された距離dが所定値d0よりも近い場合に撮像ユニット15a〜15iを内向きに傾斜させるようにする。所定値d0は、例えば、各撮像ユニット15a〜15iの撮影範囲に必ず十分な重複が生じる距離に予め定めれば良い(図12参照)。
【0055】
なお、ここでは、測距部32が中央の撮像ユニット15eから得た画像に基づいて被写体H(H’)までの距離を算出するが、測距部32は赤外線センサ等により直接的に被写体H(H’)と多眼撮像装置31の距離を算出するものでも良い。第2実施形態のように、偶数個の撮像ユニット25a〜25dを用いる場合、中央に傾斜しない撮像ユニットがないので、直接的に被写体H(H’)と多眼撮像装置31の距離を算出する態様が好ましい。
【0056】
また、多眼撮像装置31が備える測距部32は、被写体Hが十分に遠い場合にも有用である。例えば、上述の第1,第2実施形態では、Dh/d,Dv/d(第2実施形態ではDh/2d,Dv/2d)が0と見なせるものとして、傾斜角度α,αの範囲を定めたが、測距部32がある場合には、この項を近似しない式(第1実施形態:α=θ−atan{(2R−1)tanθ+Dh/d},第2実施形態:α=θ−atan(Rtanθ+Dh/2d))に基づいて傾斜角度αの範囲を定めることができる。垂直方向の傾斜角度αも同様である。Dh/d,Dv/d,Dh/2d,Dv/2dが小さいが、0とはみなせない程度の中距離的な場合にも同様である。
【0057】
なお、ここでは測距部32で算出した被写体H(H’)までの距離dが所定値d0よりも近い場合に撮像ユニット15a〜15iを内向きに傾斜させるようにする例を説明したが、被写体までの距離dが所定値d0よりも遠い場合に撮像ユニット15a〜15iを内向きに放射状に傾斜させるようにしても良い。すなわち、上述の第1実施形態では、遠い被写体Hを広角撮影するときに、撮像ユニット15a〜15iを外向き(各光軸が開く向き)に放射状に各光軸L15a〜L15iを傾斜させる例を説明したが、上述の変形例のように内向き(各光軸が閉じる向き)に放射状に撮像ユニット15a〜15iを傾斜させるようにしても良い。第2実施形態の多眼撮像装置31の場合も同様である。
【0058】
距離dが所定値d0よりも遠い被写体Hを撮影する場合に撮像ユニットを内向きに放射状に傾斜させると、上下、左右の各撮像ユニットによる主な被写体Hの撮影範囲が逆転する。例えば、図12に示すように撮像ユニットを傾斜させない場合には、中央の撮像ユニット15eの撮影範囲を基準として、左側の撮像ユニット15dは主に被写体Hの左側を、右側の撮像ユニット15fは主に被写体Hの右側をそれぞれ撮影するが、図13に示すように撮像ユニット15d,15fを内向きに傾斜させると、左側の撮像ユニット15dは主に被写体Hの右側を、右側の撮像ユニット15fは主に被写体Hの左側を撮影する。撮像ユニット15eの上側(上行)の撮像ユニット15hと下側(下行)の撮像ユニット15b等についても同様である。
【0059】
また、内向きに撮像ユニット15a〜15iを傾斜させると(図13参照)、撮像ユニットを外向きに傾斜させる場合(図5参照)と同等か、それ以上に撮影範囲は広角になる。
【0060】
したがって、撮像ユニット15a〜15iを内向きに放射状に傾けて遠い被写体Hを撮影する場合には、各撮像ユニット15a〜15iで得られた画像の上下左右の配置を逆転して合成することにより、外向きに傾斜させる場合と同程度かそれ以上の広角の合成画像を得ることができる。
【0061】
上述のように、近い被写体H’も遠い被写体Hも、内向きに撮像ユニット15a〜15iを傾斜させて撮影する場合、前述の変形例で説明した測距、及び被写体の距離に応じて撮像ユニットの傾斜方向を切り替える必要がなくなるという利点がある。また、外向きに撮像ユニット15a〜15iを傾斜させる場合よりも、隣接する各撮像ユニット15a〜15iの撮影範囲の重複部分を確保し易くなるという利点もある。
【0062】
また、撮像ユニット15a〜15iを内向きに傾斜させて遠い被写体Hを撮影して得た合成画像では、撮像ユニット15a〜15d,15f〜15iの傾斜角度が大きいために、周辺部分の像が伸びる傾向にあるため、単に広角の撮影画像というだけでなく、魚眼レンズで撮影した画像のように臨場感がある画像が得られる。
【0063】
このため、周辺部分の像が伸びていな自然な広角の撮影画像が得られるように、各光軸L15a〜L15iを外向きに放射状に傾斜させる第1撮影モードと、より臨場感のある画像が得られるように、各光軸L15a〜L15iを内向きに放射状に傾斜させる第2撮像モードの2つの撮影モードを遠景撮影用に設けておいても良い。また、こうして撮影モードの切り替えを行う場合、接写用には、第2撮像モードと同様に各光軸L15a〜L15iを内向きに放射状に傾斜させる第3撮像モードを設けておけば良い。
【0064】
なお、上述の第1,第2実施形態では、撮像ユニット15a〜15i,25a〜25d自体を各々に傾斜させる例を説明したがこれに限らない。例えば、図15に示すように、撮像ユニット内のレンズ16だけを傾斜させることにより、各撮像ユニットの光軸を傾斜させるようにしても良い。また、図16に示すように、プリズムP15d,P15f等の光学部材を撮像ユニットの前に挿抜自在に設け、これを撮像ユニットの前面に挿抜することにより、各撮像ユニットの光軸を傾斜させても良い。
【0065】
なお、上述の第1,第2実施形態では、広角撮影をするために放射状に撮像ユニット15a〜15i,25a〜25dを傾斜させる例を説明したが、多眼撮像装置10でパノラマ画像を得ることもできる。例えば、図17に示すように、右列の撮像ユニット15a,15d,15gを、Y方向には傾斜させずにX方向のマイナス側に傾け、中央列の撮像ユニット15b,15e,15hを傾斜させず、左列の撮像ユニット15c,15f,15iを、Y方向には傾斜させずにX方向のプラス側にだけ傾ける。こうすることにより、水平方向(X方向)にだけ撮影範囲が拡張されたパノラマ画像を撮影することができる。同様に、図18に示すように、下行の撮像ユニット15a,15b,15cをX方向には傾斜させずにY方向のマイナス側に傾け、中央行の撮像ユニット15d,15e,15fを傾斜させず、上行の撮像ユニット15g,15h,15iをX方向には傾斜させずにY方向のプラス側にだけ傾斜させれば、垂直方向(Y方向)にだけ撮影範囲が拡張されたパノラマ画像を撮影することができる。これは第2実施形態のように、偶数個の撮像ユニットを用いる場合も同様である。
【0066】
なお、上述の第1,第2実施形態では、水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔Dvが等しく、正方形状に撮像ユニット15a〜15i,25a〜25dを配列する例を説明したが、水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔Dvは異なっていても良い。例えば、撮像素子17の撮像面は、多くの場合、正方形ではなく、水平方向に長い長方形である。このため、水平方向の配置間隔Dhは垂直方向の配置間隔Dvよりも大きいことが好ましい(Dh>Dv)。具体的には、撮像素子17が縦(Y方向):横(X方向)=3:4の長方形の場合、水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔DvもDh:Dv=3:4とすることが好ましい。こうして、撮像素子17の撮像面の形状に合わせて撮像ユニットを配列すると、各撮像ユニットの垂直方向の撮影範囲の重複部分を確保するために、水平方向の撮影範囲が過剰に重複する等の無駄が生じない。また、水平方向の撮影範囲を適切な重複範囲としたために、垂直方向の撮影範囲が重複しなくなる等の不具合も生じない。
【0067】
なお、ここでは水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔Dvを調節する例を説明したが、水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔Dvを調節する代わりに水平方向の傾斜角度αと垂直方向の傾斜角度αが異なるようにしても良い。これは、水平方向と垂直方向とで重複率Rを変え、水平方向の重複率をR、垂直方向の重複率をRとすれば良い。より具体的には、撮像素子17が縦(Y方向):横(X方向)=3:4の長方形の場合、水平方向の重複率R、垂直方向の重複率RがR:R=3:4になるようにすれば良い。こうすると、撮像ユニット15a〜15i,25a〜25dが正方形状に配列されている場合でも、各撮像ユニットの垂直方向の撮影範囲の重複部分を確保するために、水平方向の撮影範囲が過剰に重複する等の無駄が生じない。また、水平方向の撮影範囲を適切な重複範囲としたために、垂直方向の撮影範囲が重複しなくなる等の不具合も生じない。但し、水平方向の重複率R、垂直方向の重複率Rはいずれも10%以上であることが好ましく、20%以上であることが特に好ましい。
【0068】
また、上述の第1,第2実施形態では3×3や2×2と、正方形状に撮像ユニット15a〜15i,25a〜25dを配列する例を説明したが、撮像ユニットの配列はこれに限らない。例えば、撮像素子17の撮像面の形状に合わせて、3(垂直方向)×4(水平方向)の12個の撮像ユニットを長方形に配列しても良い。この場合、撮像ユニットは偶数個なので、第2実施形態と同様の態様になる。また、3×5等の奇数個の撮像ユニットを用いる場合には、第1実施形態と同様の態様となる。このとき、撮像ユニットの総数は任意であるが、水平方向,垂直方向にともに撮影範囲を拡大するためには、水平方向,垂直方向にともに2以上の撮像ユニットが配列されるようにしなければならない。水平方向または垂直方向に4以上の撮像ユニットを配置する場合の各撮像ユニットの傾斜角度の決定方法は、上述の第1,第2実施形態に準じる。すなわち、水平方向または垂直方向に4以上の撮像ユニットを配置する場合、隣接する撮像ユニットの撮影範囲が予め定めた重複率R以上に重複するように、各撮像ユニットの傾斜角度を幾何学的に決定すれば良い。
【0069】
なお、上述の第1,第2実施形態では、撮像ユニットの水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔Dvが約10mmの例を説明したが、撮像ユニットの水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔Dvは各々任意である。但し、撮像ユニットの水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔Dvは、いずれも約10mm以下であることが好ましい。これは、撮像ユニットの配置間隔が広がると、各撮像ユニットの撮影範囲が重複する被写体距離が遠くになり、撮影可能な被写体距離が制限されるからである。撮像ユニットの水平方向の配置間隔Dhと垂直方向の配置間隔Dvが約10mm以下であれば、例えば、紙面上の文字列、人物、風景等の日常的な被写体を概ね問題なく撮影することができる。
【0070】
なお、上述の第1,第2実施形態では、撮像ユニット15a〜15i,25a〜25dのレンズ16は固定焦点レンズである例を説明したが、多眼撮像装置10,31が厚型化しない範囲内で、レンズ16をズームレンズとしても良い。このように、撮像ユニット15a〜15i,25a〜25dのレンズ16をズームレンズにし、撮像ユニット15a〜15i,25a〜25dの傾斜とレンズ16のズーミングにより、合成画像の撮影範囲をより拡大したり、主要被写体を拡大しつつ広範囲に撮影したりすることができるようになる。
【0071】
なお、上述の第1,第2実施形態では、撮像ユニット15a〜15i,25a〜25dは、全て同じ構成(レンズ16,撮像素子17が同じもの)である例を説明したが、各撮像ユニットでレンズ16や撮像素子17を異なるものとしても良い。また、各撮像ユニットで、レンズ16や撮像素子17を異なるものとする場合には、各撮像ユニットのレンズや撮像素子の態様に合わせて、配置間隔等を決定しても良い。また、例えば、第1実施形態の場合には、中央の撮像ユニット15eに大面積のレンズ及び撮像素子を用い、周辺の他の撮像ユニット15a〜15d,15f〜15iには小面積のレンズ及び撮像素子を用いることにより、中央に写されやすい主要被写体を撮像ユニット15eだけで安定して撮影されやすく、主要被写体に画像合成による継ぎ目等の不具合がより生じ難くなるようにしても良い。但し、コストを低減するためには、撮像ユニットは全部同じ構成のものであることが好ましい。
【0072】
なお、上述の第1,第2実施形態では、撮像ユニット15a〜15iがレンズ16及び撮像素子17を備える例を説明したが、これらは撮像ユニット15a〜15iの構成を代表する一部の部材であり、各々絞りや実質的にパワーを有さないレンズ、カバーガラス等のレンズ以外の光学要素、レンズフランジ、レンズバレル、撮像素子、手ぶれ補正機構、焦点調節機構等の機構部分、等を備えていても良い。また、図1等では簡単のためにレンズ16を1枚のレンズであるかのように図示したが、レンズ16は2以上から構成されていても良い。
【符号の説明】
【0073】
10,31 多眼撮像装置
15a〜15i,25a〜25d 撮像ユニット
16 レンズ
17 撮像素子
18a〜18i 傾斜機構
26 仮想撮像ユニット
32 測距部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平方向に2以上かつ垂直方向に2以上の2次元に配列され、各々にレンズ及び撮像素子を有し、隣接するユニットの撮影範囲の一部が重複する複数の撮像ユニットと、
前記撮像ユニットの各々の光軸を前記水平方向または垂直方向傾斜させることにより、各々の前記撮像ユニットが撮影する方向を変化させる手段であり、通常時には、複数の前記撮像ユニットの各光軸を正面方向に向け平行にし、広角撮影時に複数の前記撮像ユニットの光軸を放射状に傾斜させる撮像ユニット傾斜手段と、
複数の前記撮像ユニットで得られた画像を合成し、各々の前記撮像ユニットで得られる画像よりも撮影範囲が広い合成画像を生成する画像合成手段と、
を備えることを特徴とする多眼撮像装置。
【請求項2】
複数の前記撮像ユニットの総数は奇数個であり、
前記撮像ユニットの配列の中央に、広角撮影時に前記撮像ユニット傾斜手段によって光軸が傾斜されない前記撮像ユニットを備えることを特徴とする請求項1記載の多眼撮像装置。
【請求項3】
複数の前記撮像ユニットの各々の水平方向の半画角をθ、広角撮影時に前記撮像ユニット傾斜手段によって光軸が傾斜されない前記撮像ユニットの光軸を基準とした水平方向の傾斜角度を|α|、垂直方向の半画角をθ、垂直方向の傾斜角度を|α|、隣接する前記撮像ユニットの撮影範囲の重複率をRとするときに、前記撮像ユニット傾斜手段は、広角撮影時に、|α|≦θ−atan{(2R−1)tanθ}かつ|α|≦θ−atan{(2R−1)tanθ}を満たす範囲内で前記撮像ユニットを傾斜させることを特徴とする請求項2記載の多眼撮像装置。
【請求項4】
複数の前記撮像ユニットの総数が偶数個であることを特徴とする請求項1記載の多眼撮像装置。
【請求項5】
複数の前記撮像ユニットの各々の水平方向の半画角をθ、水平方向の傾斜角度を|α|、垂直方向の半画角をθ、垂直方向の傾斜角度を|α|、隣接する前記撮像ユニットの撮影範囲の重複率をRとするときに、前記撮像ユニット傾斜手段は、広角撮影時に、|α|≦θ−atan(Rtanθ)かつ|α|≦θ−atan(Rtanθ)を満たす範囲内で前記撮像ユニットを傾斜させることを特徴とする請求項4記載の多眼撮像装置。
【請求項6】
前記重複率Rが0.1以上であることを特徴とする請求項3または5に記載の多眼撮像装置。
【請求項7】
複数の前記撮像ユニットは正方形状に配列され、
前記重複率Rが水平方向と垂直方向とで異なり、前記撮像ユニットの傾斜角度を|α|が垂直方向の傾斜角度を|α|よりも大きいことを特徴とする請求項3または5に記載の多眼撮像装置。
【請求項8】
複数の前記撮像ユニットの撮影範囲に重複範囲がない近距離に被写体を置いた接写を行うときに、前記撮像ユニット傾斜手段は、複数の前記撮像ユニットの光軸を内向きに傾斜させることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の多眼撮像装置。
【請求項9】
複数の前記撮像ユニットの配列間隔が10mm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の多眼撮像装置。
【請求項10】
複数の前記撮像ユニットは、全て同じレンズ及び撮像素子を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の多眼撮像装置。
【請求項11】
前記撮像ユニットは、撮像ユニット傾斜手段によって前記撮像ユニット全体として傾斜されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の多眼撮像装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate


【公開番号】特開2013−45032(P2013−45032A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184304(P2011−184304)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】