説明

多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物およびその製造方法

【課題】ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の中和により簡便に得られるイオン液体を用いて多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を効率よく製造する方法、およびその製造方法により得られる耐熱性や色調に優れた多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を提供する。
【解決手段】イオン液体中で多糖またはその誘導体とエステル化剤を反応させ、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を製造する方法において、該イオン液体がブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法、およびその製造方法により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物に関するものである。より詳しくは、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の中和により簡便に得られるイオン液体を用いて多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を効率よく製造する方法、およびその製造方法により得られる耐熱性や色調に優れた多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物に関する。
【背景技術】
【0002】
化石資源の枯渇を回避し、二酸化炭素の排出量を削減するためには、化学工業において化石原料をバイオマスへ代替することが非常に重要な課題である。なかでも、多糖の一種であるセルロースは、地球上で最も大量に存在するバイオマスであり、その有効活用は循環型社会の実現のために不可欠である。セルロースは吸放湿性、発色性、生分解性などの特長を有しており、古くから繊維、フィルム、プラスチックなど幅広い分野において活用されている。
【0003】
セルロースなどの多糖は、分子内に多数の水酸基を有しており、それらの水酸基を介して分子内や分子間で水素結合を形成する。そのため、セルロースなどの多糖を均一に溶解する溶媒は限られたものになる。従来より、セルロースを溶解する溶媒として、銅アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム/二硫化炭素、塩化リチウム/ジメチルアセトアミド、ホルムアルデヒド/ジメチルスルホキシドなどが提案されている(非特許文献1)。しかしながら、これらの溶媒は、毒性の高いものや爆発性があるものなどその取り扱いに注意を要したり、セルロースを誘導体化して溶解させるため、その利用は限定されるものであった。
【0004】
近年、セルロースなどの多糖を溶解する新しい溶媒として、イオン液体が提案されている(特許文献1)。イオン液体は、カチオンとアニオンの組み合わせからなる化合物である。また、不揮発性であるため取り扱いやすく、セルロースを誘導体化せずにそのまま溶解させることができるという特長を有している。
【0005】
イオン液体の一般的な合成法として、アルキル化法、アニオン交換法、酸エステル化法が提案されている(非特許文献2)。アルキル化法は、窒素化合物やリン化合物などへハロゲン化アルキルを作用させて、窒素やリンを4級化することでイオン液体を得る方法である。通常、窒素化合物やリン化合物などと、ハロゲン化アルキルのいずれか一方の原料を過剰に用いるため、目的のイオン液体中へ未反応の原料や過剰に用いた原料が残留する懸念がある。アニオン交換法は、アルキル化法によって得られたイオン液体へ所望のアニオンを有する無機塩を作用させ、イオン液体のアニオンを交換することで目的のイオン液体を得る方法である。しかしながら、アニオン交換によって生成する無機塩を分離除去することが難しく、目的のイオン液体中へ無機塩が残留する懸念がある。また、酸エステル化法は、窒素化合物やリン化合物へ酸エステルを作用させて、窒素やリンを4級化することでイオン液体を得る方法である。しかしながら、酸エステルの種類は限られているため、得られるイオン液体の種類は限定されるものであった。
【0006】
簡便なイオン液体の合成法として、中和法が提案されている(非特許文献3)。中和法は、等モルのブレンステッド酸とブレンステッド塩基を混合するのみで目的のイオン液体を得ることができ、無機塩などの副生成物の生成がない。また、ブレンステッド酸、ブレンステッド塩基の種類を変更することで、多様なイオン液体を簡便に得ることが可能である。
【0007】
イオン液体を用いた多糖誘導体の合成法として、イオン液体へ溶解させたセルロースなどの多糖へエステル化剤やエーテル化剤を作用させる方法が提案されている(特許文献2)。しかしながら、多糖誘導体の合成に用いられるイオン液体は、アルキル化法、アニオン交換法、酸エステル化法によって合成されたものであり、中和法によって簡便に得られるイオン液体を用いた多糖誘導体の合成はなされていない。
【0008】
このように、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との中和法により簡便に得られるイオン液体を用いて多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を効率よく製造する方法、および耐熱性や色調に優れた多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物については従来提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2005−506401号公報
【特許文献2】特開2008−303319号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】セルロース学会編集、「セルロースの事典」、朝倉書店、2000、P113〜131
【非特許文献2】大野弘幸監修、「イオン液体の開発と展望」、シーエムシー出版、2003、P4〜17
【非特許文献3】大野弘幸監修、「イオン液体の開発と展望」、シーエムシー出版、2003、P18〜24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点を解決し、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との中和により簡便に得られるイオン液体を用いて多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を効率よく製造する方法、およびその製造方法により得られる耐熱性や色調に優れた多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決する本発明の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法は、イオン液体中で多糖またはその誘導体とエステル化剤を反応させ、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を製造する方法において、前記イオン液体がブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなることを特徴とする。
【0013】
また、ブレンステッド酸が、カルボン酸、スルホン酸、無機酸の群から選択される少なくとも一種からなること、ブレンステッド塩基が、有機窒素化合物、有機リン化合物、有機硫黄化合物の群から選択される少なくとも一種からなることが好ましい。
【0014】
さらには、多糖またはその誘導体が、セルロースまたはセルロース誘導体であること、エステル化剤が、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸の群から選択される少なくとも一種からなることが好適に採用できる。
【0015】
また、上記の課題を解決する本発明の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、前述の製造方法によって製造され、少なくとも一部のアシル基の炭素数が3〜18であることを特徴とする。
【0016】
また、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物が、セルロース混合エステルであることが好ましく、なかでも、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのいずれかであることが好適に採用できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法によれば、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との中和により簡便に得られるイオン液体を用いて多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を効率よく製造することができる。また、その製造方法により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は耐熱性や色調に優れる。この多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、繊維、フィルム、プラスチックなど幅広い分野において好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における多糖とは、その構成単位である単糖がグリコシド結合によって複数結合した化合物である。また、本発明における多糖誘導体とは、多糖に存在する水酸基の少なくとも一部が他の官能基へ誘導体化された化合物である。本発明における多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、多糖またはその誘導体に存在する水酸基をエステル化することで得られる。
【0019】
多糖の具体例として、セルロース、デンプン、アミロース、アミロペクチン、デキストラン、プルラン、アルギン酸、グリコーゲン、キチン、キトサン、アガロース、ガラクタン、キシラン、アラビナン、カラギーナン、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、キシログルカン、寒天、カードラン、ザンタンガム、グアーガム、アラビアガム、シゾフィラン、イヌリン、マンナンなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、セルロース、デンプン、アミロース、デキストラン、プルラン、キチン、キトサンが、原料として入手しやすく、また、材料としての物理的特性に優れるため好適に採用できる。より好ましくは、セルロースである。
【0020】
本発明におけるセルロースは、木材、綿、麻、亜麻、ラミー、ジュート、ケナフなどの植物由来、ホヤ類などの動物由来、海藻などの藻類由来、酢酸菌などの微生物由来などいずれを起源とするものであってもよい。なかでも、精製パルプ、再生セルロース、綿由来のコットンリンターおよびコットンリント、酢酸菌由来のバクテリアセルロースは、セルロース純度が高いため好適に採用できる。セルロース純度の指標であるαセルロース含有率は、90重量%以上であることが好ましい。αセルロース含有率が90重量%以上であれば、セルロースを誘導体化する際に重合度低下などの副反応を抑制することができ、誘導体化によって得られるセルロース誘導体の機械的特性、熱流動性、色調が良好になるため好ましい。αセルロース含有率は92重量%以上であることがより好ましく、95重量%以上であることが更に好ましい。
【0021】
多糖誘導体の具体例として、上記の多糖に存在する水酸基の少なくとも一部が他の官能基へ誘導体化された化合物であれば特に限定されない。なかでも、セルロース誘導体、デンプン誘導体、アミロース誘導体、デキストラン誘導体、プルラン誘導体、キチン誘導体、キトサン誘導体が、材料としての物理的特性に優れるため好適に採用できる。より好ましくは、セルロース誘導体である。
【0022】
セルロース誘導体の具体例として、セルロースに存在する水酸基の少なくとも一部が他の官能基へ誘導体化された化合物であれば特に限定されない。なかでも、セルロースエステル、セルロースエーテル、セルロースエーテルエステルが、材料としての物理的特性に優れるため好適に採用できる。より好ましくは、セルロースエステルである。
【0023】
セルロースエステルには、セルロースへ1種のエステル基が結合したセルロース単独エステルと、2種以上のエステル基が結合したセルロース混合エステルがある。セルロース単独エステルの具体例として、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースバレレート、セルロースステアレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。セルロース混合エステルの具体例として、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートバレレート、セルロースアセテートカプロエート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが、機械的特性や熱流動性に優れるため好適に採用できる。
【0024】
セルロースエーテルには、セルロースへ1種のエーテル基が結合したセルロース単独エーテルと、2種以上のエーテル基が結合したセルロース混合エーテルがある。セルロース単独エーテルの具体例として、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられるが、これらに限定されない。セルロース混合エーテルの具体例として、メチルエチルセルロース、メチルプロピルセルロース、エチルプロピルセルロース、ヒドロキシメチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
セルロースエーテルエステルは、セルロースへエーテル基およびエステル基がそれぞれ1種または2種以上結合したセルロース誘導体である。セルロースエーテルエステルの具体例として、メチルセルロースアセテート、メチルセルロースプロピオネート、エチルセルロースアセテート、エチルセルロースプロピオネート、プロピルセルロースアセテート、プロピルセルロースプロピオネート、ヒドロキシメチルセルロースアセテート、ヒドロキシメチルセルロースプロピオネート、ヒドロキシエチルセルロースアセテート、ヒドロキシエチルセルロースプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロースアセテート、ヒドロキシプロピルセルロースプロピオネート、カルボキシメチルセルロースアセテート、カルボキシメチルセルロースプロピオネートなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本発明における多糖またはその誘導体の全置換度は、多糖またはその誘導体のエステル化によって得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の使用目的に応じて適宜選択することができるが、2.9以下であることが好ましい。全置換度とは、多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に存在する水酸基に結合している各置換基の平均置換度の総和のことである。多糖またはその誘導体の全置換度が2.9以下であれば、多糖またはその誘導体に残存する水酸基のエステル化によって多糖またはその誘導体の物性を変えることができるため好ましい。多糖またはその誘導体の全置換度は2.7以下であることがより好ましく、2.5以下であることが更に好ましい。
【0027】
本発明における多糖またはその誘導体の重量平均重合度は、3以上であれば上限は特に限定されないが、材料としての取り扱い性や物理的特性の観点から100〜2000であることが好ましい。重量平均重合度とは、多糖またはその誘導体の重量平均分子量を多糖またはその誘導体の構成単位である単糖当たりの分子量で除することによって算出される値のことである。多糖またはその誘導体の重量平均重合度が100以上であれば、多糖またはその誘導体のエステル化によって得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の物理的特性が良好となるため好ましい。多糖またはその誘導体の重量平均重合度は200以上であることがより好ましく、300以上であることが更に好ましい。一方、多糖またはその誘導体の重量平均重合度が2000以下であれば、多糖またはその誘導体のエステル化によって多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を合成する際に、反応液の粘性が高くなり過ぎず、取り扱いやすいため好ましい。多糖またはその誘導体の重量平均重合度は1700以下であることがより好ましく、1500以下であることが更に好ましい。
【0028】
本発明における多糖またはその誘導体は、形態に関して特に制限がなく、粉状、粒状、綿状、糸状、布状、紙状、シート状、フィルム状などいずれでもよい。また、粉砕処理などの処理を施してもよい。粉砕処理の方法としては、ボールミルなどの乾式粉砕器が挙げられるが、これに限定されない。粉砕処理によって、多糖またはその誘導体の表面積が増加すると、多糖またはその誘導体をエステル化する際に反応性が向上するため好ましい。
【0029】
本発明におけるイオン液体は、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基からなる混合物である。
【0030】
本発明におけるブレンステッド酸とは、他の化合物へプロトンを与える化合物であり、ブレンステッド塩基とは、他の化合物からプロトンを受け取る化合物である。本発明におけるイオン液体は、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の中和のみでイオン液体を得ることができる。そのため、多糖またはその誘導体の種類やエステル化の反応温度や反応時間などのエステル化反応条件に応じて、ブレンステッド酸やブレンステッド塩基の種類を変更することでイオン液体を適宜選択することが可能である。
【0031】
本発明におけるブレンステッド酸として、カルボン酸、スルホン酸、無機酸などが挙げられるが、これらに限定されない。これらのブレンステッド酸は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0032】
カルボン酸として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、ナフトエ酸、および、これらのカルボン酸の置換体などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、酢酸、プロピオン酸が、原料として入手しやすく、取り扱いやすいため好適に採用できる。
【0033】
スルホン酸として、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ラウリルベンゼンスルホン酸、オクタデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、および、これらのスルホン酸の置換体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
無機酸として、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ヘキサフルオロリン酸、ホウ酸、テトラフルオロホウ酸、フッ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
本発明におけるブレンステッド塩基として、有機窒素化合物、有機リン化合物、有機硫黄化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。これらのブレンステッド塩基は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0036】
有機窒素化合物として、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミン、ヒドラジン、イミダゾール、ピリジン、ピロリン、ピラゾール、カルバゾール、インドール、ルチジン、ピロール、ピラゾール、ピペリジン、ピロリジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、および、これらの有機窒素化合物の置換体などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、イミダゾール、ピリジン、および、これらの有機窒素化合物の置換体が、多糖またはその誘導体との親和性に優れるため好適に採用できる。
【0037】
有機リン化合物として、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、および、これらの有機リン化合物の置換体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
有機硫黄化合物として、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、メチルフェニルスルフィド、および、これらの有機硫黄化合物の置換体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
これらのブレンステッド酸とブレンステッド塩基の組み合わせにより、多様なイオン液体を得ることが可能である。イオン液体の具体例として、イミダゾリウムアセテート、イミダゾリウムプロピオネート、イミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート、イミダゾリウムクロライド、イミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、イミダゾリウムテトラフルオロボレート、1−メチルイミダゾリウムアセテート、1−メチルイミダゾリウムプロピオネート、1−メチルイミダゾリウムクロライド、1−エチルイミダゾリウムアセテート、1−エチルイミダゾリウムクロライド、1−ブチルイミダゾリウムアセテート、1−ブチルイミダゾリウムクロライド、ピリジニウムアセテート、ピリジニウムプロピオネート、ピリジニウムトリフルオロメタンスルホネート、ピリジニウムクロライド、ピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、ピリジニウムテトラフルオロボレート、3−メチルピリジニウムアセテート、3−エチルピリジニウムクロライド、4−エチルピリジニウムテトラフルオロボレート、4−ブチルピリジニウムアセテート、4−ブチルピリジニウムクロライド、4−ブチルピリジニウムテトラフルオロボレート、ピペリジニウムアセテート、ピペリジニウムクロライド、ピペリジニウムヘキサフルオロホスフェート、ピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−メチルピペリジニウムアセテート、1−メチルピペリジニウムクロライド、ピロリジニウムアセテート、ピロリジニウムクロライド、1−メチルピロリジニウムクロライド、トリブチルアンモニウムアセテート、トリブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホネート、トリブチルアンモニウムクロライド、トリブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、トリブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリブチルホスホニウムアセテート、トリブチルホスホニウムクロライド、トリブチルホスホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリブチルホスホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルホスホニウムアセテート、トリフェニルホスホニウムクロライド、ジエチルスルホニウムアセテート、ジエチルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ジエチルスルホニウムクロライド、ジエチルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジエチルスルホニウムテトラフルオロボレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、イミダゾリウムアセテート、イミダゾリウムクロライド、1−ブチルイミダゾリウムアセテート、1−ブチルイミダゾリウムクロライド、ピリジニウムアセテート、ピリジニウムクロライドが、多糖またはその誘導体との親和性に優れるため好適に採用できる。
【0040】
本発明におけるブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなるイオン液体の融点は多糖またはその誘導体をエステル化する際の反応温度以下であれば特に制限はないが、10〜100℃であることが好ましい。ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなるイオン液体の融点が10℃以上であれば、例えば25℃の室温において液体となり、操作性が良好であるため好ましい。ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなるイオン液体の融点は15℃以上であることがより好ましく、20℃以上であることが更に好ましい。ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなるイオン液体の融点が100℃以下であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応において多糖またはその誘導体の分子量低下を抑制できるため好ましい。ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなるイオン液体の融点は80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることが更に好ましい。
【0041】
本発明においては、イオン液体は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0042】
本発明においては、イオン液体とともに有機溶媒を使用してもよい。有機溶媒は、イオン液体との相溶性、多糖またはその誘導体、ならびに多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物との親和性、反応液の粘度などに応じて適宜選択することができる。有機溶媒の具体例として、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、アセトニトリルなどが挙げられるが、これらに限定されない。イオン液体とともに、これら有機溶媒は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0043】
本発明におけるエステル化剤は、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸から選択される化合物を単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。また、多糖誘導体に結合しているエステル基と同様のエステル基が導入されるエステル化剤を使用してもよい。
【0044】
カルボン酸無水物の具体例として、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水吉草酸、無水カプロン酸、無水エナント酸、無水カプリル酸、無水ペラルゴン酸、無水カプリン酸、無水ラウリン酸、無水ミリスチン酸、無水パルミチン酸、無水ステアリン酸、無水安息香酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸は反応性が高いため好適に採用できる。
【0045】
カルボン酸ハロゲン化物として、カルボン酸フッ化物、カルボン酸塩化物、カルボン酸臭化物、カルボン酸ヨウ化物が挙げられる。カルボン酸ハロゲン化物の具体例として、フッ化アセチル、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、フッ化プロピオニル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、フッ化ブチリル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、フッ化ベンゾイル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイルなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、カルボン酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。
【0046】
カルボン酸の具体例として、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、コハク酸などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、酢酸、プロピオン酸、酪酸は反応性が高いため好適に採用できる。
【0047】
本発明においては、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応を促進するために触媒を使用してもよい。触媒の具体例として、硫酸、塩酸、臭化水素酸、過塩素酸、次亜塩素酸、硝酸、塩化亜鉛などが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、硫酸は反応性の点から好適に採用できる。これらの触媒は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。
【0048】
次に、本発明の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法について説明する。
【0049】
本発明の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の混合物からなるイオン液体中において、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応によって得られる。
【0050】
イオン液体の一般的な合成法であるアルキル化法、アニオン交換法、酸エステル化法などによって得られるイオン液体を用いる従来の方法では、得られるイオン液体中にイオン液体の原料や副生成物である無機塩が残留する懸念がある。そのため、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応に用いた場合、残留するイオン液体の原料や無機塩の影響によって、得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の分子量低下や着色という問題が生じる。また、酸エステル化法によって得られるイオン液体は、酸エステルの種類が限られているため、限定されたものとなり、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化の反応条件に応じてイオン液体の種類を選択することができない。一方、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の混合物からなるイオン液体は、混合するのみで目的のイオン液体を得ることができ、無機塩などの副生成物の生成がない。また、ブレンステッド酸、ブレンステッド塩基の種類を変更することで、多様なイオン液体を得ることが可能であるため、多糖またはその誘導体やエステル化剤の種類や添加量、エステル化の反応温度や反応時間などの反応条件に応じて、イオン液体の種類を適宜選択することが可能である。
【0051】
本発明の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、イオン液体を構成するブレンステッド酸およびブレンステッド塩基、多糖またはその誘導体、エステル化剤の4成分を含む混合物によって得られる。これら4成分の添加順序は、各成分の種類や添加量、エステル化の反応温度や反応時間、反応装置などの反応条件に応じて適宜選択することができるが、事前にブレンステッド酸とブレンステッド塩基を混合してイオン液体とし、イオン液体、多糖またはその誘導体、エステル化剤の3成分とすることが好ましい。また、いずれの成分を混合する場合においても、混合物を加熱または冷却してよく、加熱温度または冷却温度、加熱時間または冷却時間をそれぞれ適宜選択することができる。
【0052】
本発明のブレンステッド酸およびブレンステッド塩基の混合物からなるイオン液体、多糖またはその誘導体、エステル化剤の3成分の添加順序は、各成分の種類や添加量、エステル化の反応温度や反応時間、反応装置などの反応条件に応じて適宜選択することができ、3成分を同時に添加して混合してもよいし、いずれか2成分を事前に混合した後に残りの1成分を添加して混合してもよい。また、いずれの成分を混合する場合においても、混合物を加熱または冷却してよく、加熱温度または冷却温度、加熱時間または冷却時間をそれぞれ適宜選択することができる。
【0053】
本発明の多糖またはその誘導体は、あらかじめ真空乾燥または加熱乾燥により低水分率としておくことが好ましく、水分率を3重量%以下としておくことが好ましい。水分率が3重量%以下であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応において、多糖またはその誘導体の加水分解による分子量低下やエステル化剤の加水分解によるエステル化剤の消費を抑制することができるため好ましい。水分率は2重量%以下であることがより好ましく、1重量%以下であることが更に好ましい。
【0054】
本発明におけるイオン液体のブレンステッド酸に対するブレンステッド塩基のモル比は、1.0であることが好ましい。ブレンステッド酸に対するブレンステッド塩基のモル比が1.0であれば、過剰のブレンステッド酸による多糖またはその誘導体の分子量低下を抑制することができ、また、過剰のブレンステッド塩基によってエステル化剤が消費されないため好ましい。本発明におけるイオン液体のブレンステッド酸に対するブレンステッド塩基のモル比は、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の組み合わせ、エステル化剤の種類や添加量、触媒の種類や添加量、反応温度や反応時間などの反応条件に応じて、0.5〜1.0としてもよい。ブレンステッド酸に対するブレンステッド塩基のモル比が0.5以上であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応において、過剰のブレンステッド酸による多糖またはその誘導体の分子量低下を抑制できるため好ましい。ブレンステッド酸に対するブレンステッド塩基のモル比は0.7以上であることがより好ましく、0.9以上であることが更に好ましい。
【0055】
イオン液体の重量に対する多糖またはその誘導体の重量は、イオン液体の種類に応じてイオン液体の粘度や多糖またはその誘導体との親和性が異なるため適宜選択することができるが、1〜40重量%であることが好ましい。イオン液体の重量に対する多糖またはその誘導体の重量が1重量%以上であれば、反応効率や経済的な効率が良いため好ましい。イオン液体の重量に対する多糖またはその誘導体の重量は3重量%以上であることがより好ましく、5重量%以上であることが更に好ましい。一方、イオン液体の重量に対する多糖またはその誘導体の重量が40重量%以下であれば、反応液が高粘度になり過ぎず、取り扱いやすいため好ましい。イオン液体の重量に対する多糖またはその誘導体の重量は30重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることが更に好ましい。
【0056】
エステル化剤の当量は、エステル化剤の種類やエステル化の反応温度や反応時間などの反応条件に応じて適宜選択することができるが、多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対して1〜3当量であることが好ましい。また、多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の一部のみをエステル化剤と反応させて、得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物に水酸基を残してもよい。多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対するエステル化剤の当量が1当量以上であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤が十分に反応するため好ましい。多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対するエステル化剤の当量は1.2当量以上であることがより好ましく、1.5当量以上であることが更に好ましい。一方、多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対するエステル化剤の当量が3当量以下であれば、反応液中の多糖またはその誘導体の濃度を高くすることができ、また、経済的な効率が良いため好ましい。多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対するエステル化剤の当量は2.8当量以下であることがより好ましく、2.5当量以下であることが更に好ましい。
【0057】
多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応を促進するために触媒を添加する場合、多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対する触媒の当量は、0.001〜0.3当量であることが好ましい。多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対する触媒の当量が0.001当量以上であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応を促進することができるため好ましい。多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対する触媒の当量は0.005当量以上であることがより好ましく、0.01当量以上であることが更に好ましい。一方、多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対する触媒の当量が0.3当量以下であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応において、多糖またはその誘導体の分子量低下を抑制することができるため好ましい。多糖またはその誘導体の構成単位である単糖に残存する水酸基の当量に対する触媒の当量は0.2当量以下であることがより好ましく、0.1当量以下であることが更に好ましい。
【0058】
ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなるイオン液体中での多糖またはその誘導体とエステル化剤によるエステル化の反応温度は、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の組み合わせ、エステル化剤の種類や添加量、触媒の種類や添加量などの反応条件に応じて適宜選択することができるが、30〜100℃であることが好ましい。反応温度が30℃以上であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応を促進することができるため好ましい。反応温度は40℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることが更に好ましい。一方、反応温度が100℃以下であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応において、多糖またはその誘導体の分子量低下を抑制することができるため好ましい。反応温度は90℃以下であることがより好ましく、80℃以下であることが更に好ましい。
【0059】
ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなるイオン液体中での多糖またはその誘導体とエステル化剤によるエステル化の反応時間は、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の組み合わせ、エステル化剤の種類や添加量、触媒の種類や添加量、エステル化の反応温度などの反応条件に応じて適宜選択することができるが、0.5〜10時間であることが好ましい。反応時間が0.5時間以上であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化を促進することができるため好ましい。反応時間は1時間以上であることがより好ましく、2時間以上であることが更に好ましい。一方、反応時間が10時間以下であれば、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応において、多糖またはその誘導体の分子量低下を抑制することができるため好ましい。反応時間は8時間以下であることがより好ましく、5時間以下であることが更に好ましい。
【0060】
ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなるイオン液体中での多糖またはその誘導体とエステル化剤によるエステル化反応の加熱手段は、公知の方法に従い、水浴や油浴による加熱、オーブンによる加熱、マイクロウェーブによる加熱などの一般的な加熱手段が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
ブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなるイオン液体中での多糖またはその誘導体とエステル化剤によるエステル化反応の加熱においては、多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応を促進するために、撹拌することが好ましい。撹拌手段は、公知の方法に従い、撹拌子や撹拌羽根による機械的撹拌、容器の振盪による撹拌、超音波照射による撹拌などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
多糖またはその誘導体とエステル化剤とのエステル化反応は、メタノールやエタノールなどのアルコールや水などの反応停止剤により停止することができる。反応停止剤は、多糖またはその誘導体のエステル化反応に関与しなかった過剰量のエステル化剤を加水分解するとともに、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を不溶化して沈殿させる役割がある。反応液へ反応停止剤を添加してもよいし、反応停止剤へ反応液を添加してもよい。
【0063】
沈殿した多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、公知の方法に従い、濾過または遠心分離などにより分離することができる。分離した多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、メタノールやエタノールなどのアルコールや水などによって1回または複数回洗浄した後、必要に応じて真空乾燥または加熱乾燥してもよい。
【0064】
次に、本発明の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物について説明する。
【0065】
本発明により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の全置換度は、使用目的に応じて適宜選択することができるが、1.0〜3.0であることが好ましい。全置換度とは、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の構成単位である単糖に存在する水酸基に結合している各置換基の平均置換度の総和のことである。多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の全置換度が1.0以上であれば、溶剤や加熱による成形加工がしやすいため好ましい。多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の全置換度は1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが更に好ましい。一方、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の全置換度が3.0以下であれば、熱流動性や溶剤溶解性が良好であるため好ましい。多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の全置換度は2.9以下であることがより好ましく、2.7以下であることが更に好ましい。
【0066】
本発明により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均分子量は、5〜25万であることが好ましい。多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均分子量が5万以上であれば、成形加工した際に強度や弾性率、耐熱性などが良好であるため好ましい。多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均分子量は6万以上であることがより好ましく、8万以上であることが更に好ましい。一方、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均分子量が25万以下であれば、溶剤や加熱によって成形加工する際に粘性が高くなり過ぎず、取り扱いやすいため好ましい。多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均分子量は22万以下であることがより好ましく、20万以下であることが更に好ましい。
【0067】
本発明により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均重合度は、100〜2000であることが好ましい。重量平均重合度とは、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均分子量を多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の構成単位である単糖当たりの分子量で除することによって算出される値のことである。多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均重合度が100以上であれば、成形加工した際に強度や弾性率、耐熱性などが良好であるため好ましい。多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均重合度は200以上であることがより好ましく、300以上であることが更に好ましい。一方、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均重合度が2000以下であれば、溶剤や加熱によって成形加工する際に粘性が高くなり過ぎず、取り扱いやすいため好ましい。多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の重量平均重合度は1700以下であることがより好ましく、1500以下であることが更に好ましい。
【0068】
本発明により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、少なくとも一部のアシル基の炭素数が3〜18であることが好ましい。少なくとも一部のアシル基の炭素数が3〜18であれば、成形加工する際の溶剤溶解性や熱流動性が良好であるため好ましく、また、成形加工した際に強度や弾性率などの機械的強度が良好な多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を得ることができるため好ましい。
【0069】
本発明により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、セルロース混合エステルであることが好ましい。セルロース混合エステルの具体例として、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートバレレート、セルロースアセテートヘキサノエート、セルロースアセテートオクタノエート、セルロースアセテートデカノエート、セルロースアセテートラウリレート、セルロースアセテートミリスチレート、セルロースアセテートパルミテート、セルロースアセテートステアレート、セルロースアセテートオレート、セルロースアセテートリノレート、セルロースアセテートリノレネート、セルロースアセテートカプロエート、セルロースプロピオネートブチレート、セルロースプロピオネートバレレート、セルロースブチレートバレレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート、セルロースアセテートブチレートバレレートなどが挙げられるが、これらに限定されない。なかでも、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートが、溶剤溶解性、熱流動性、機械的特性に優れているため好適に採用できる。
【0070】
本発明により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、副次的添加物を加えて種々の改質を行ってもよい。副次的添加剤の具体例として、可塑剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、離型剤、抗菌剤、核形成剤、酸化防止剤、帯電防止剤、着色防止剤、調整剤、艶消し剤、消泡剤、防腐剤、ゲル化剤、ラテックス、フィラー、インク、着色料、染料、顔料、香料などが挙げられるが、これらに限定されない。これらの副次的添加物は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。また、本発明により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物に残存する水酸基に対して、他の化合物を反応させて使用してもよい。
【0071】
本発明により得られる多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、従来の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物と異なり、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の中和により簡便に得られるイオン液体を用いて効率よく製造することができ、耐熱性や色調に優れているため幅広い分野に利用できる。例えば、繊維、ロープ、網、織編物、フェルト、フリース、繊維複合材料、フロック、詰綿などの繊維分野、偏光板保護フィルム、光学フィルムなどのフィルム分野、医療用器具、電子部品材料、包装材料、眼鏡枠、パイプ、棒、工具類、食器類、玩具などのプラスチック分野などに利用できる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は、以下の方法で求めたものである。
【0073】
A.置換基、平均置換度
多糖誘導体、多糖のエステル化物、または多糖誘導体のエステル化物の濃度が5重量%となるように重ジメチルスルホキシドまたは重クロロホルムに完全に溶解させ、NMR測定用試料とした。この試料を用いて、以下の条件にてNMR装置(Bruker社製DRX−500)で1H−NMR測定を行い、化学シフトから置換基を特定し、積分値から各置換基の平均置換度を算出した。
共鳴周波数 :500MHz
積算回数 :64回
測定温度 :25℃(298K)
【0074】
B.全置換度
上記Aにより算出された各置換基の平均置換度の総和を全置換度とした。
【0075】
C.単糖当たり分子量
上記Aにより算出された各置換基の平均置換度を用いて、下記式により単糖当たり分子量を算出した。
単糖当たり分子量=無置換の単糖当たり分子量−1.01×(置換基Xの平均置換度の総和)+(置換基Xの分子量×置換基Xの平均置換度)の総和
1.01 :水素の原子量
置換基Xの分子量:単糖の水酸基由来の酸素に結合している置換基Xの分子量
一例として、アセチル置換度1.5、プロピオニル置換度1.0のセルロースアセテートプロピオネートの場合について計算式を以下に示す。
単糖当たり分子量=162.14−1.01×(1.5+1.0)+(43×1.5+57×1.0)=281.12
【0076】
D.重量平均分子量(Mw)
多糖誘導体、多糖のエステル化物、または多糖誘導体のエステル化物の濃度が0.15重量%となるようにテトラヒドロフランまたはジメチルスルホキシドに完全に溶解させ、GPC測定用試料とした。この試料を用い、以下の条件にてGPC装置(Waters社製Waters2690)でGPC測定を行い、移動層溶媒がテトラヒドロフランの場合にはポリスチレン換算、移動層溶媒がジメチルスルホキシドの場合にはプルラン換算により重量平均分子量(Mw)を算出した。なお、測定は1試料につき3回行い、その平均値を重量平均分子量(Mw)とした。
カラム :東ソー製TSK gel GMHHR−Hを2本連結
検出器 :Waters2410 示差屈折計RI
移動層溶媒 :テトラヒドロフランまたはジメチルスルホキシド
標準物質 :ポリスチレンまたはプルラン
流速 :1.0ml/分
注入量 :200μl
【0077】
E.重量平均重合度
上記C、Dにより算出された単糖当たり分子量および重量平均分子量を用いて、下記式により重量平均重合度を算出した。
重量平均重合度=重量平均分子量/単糖当たり分子量
【0078】
F.金属含有量
80℃で4時間真空乾燥した多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物1gをプレス圧2MPa、240℃で1分間熱圧プレスして作製したシート状フィルムについて、理学電機工業製蛍光X線分析装置(ZSX100e)を用いて金属含有量の測定を行い、純度を評価した。検出された各金属の含有量の総和について、「50ppm未満」を◎、「50ppm以上100ppm未満」を○、「100ppm以上150ppm未満」を△、「150ppm以上」を×とし、「50ppm未満」の◎および「50ppm以上100ppm未満」の○以上を合格とした。
【0079】
G.耐熱性
多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物について、セイコーインスツルメント製TG−DTAを用いて加熱減量率の測定を行い、耐熱性を評価した。加熱減量率の測定は、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の試料10mgを窒素雰囲気下において10℃/分の昇温速度で室温から400℃まで加熱することで行い、200℃における試料の重量減少率を加熱減量率とした。なお、加熱前の試料重量をW0、200℃における試料重量をW1として、下記式により加熱減量率(単位%)を算出した。算出された加熱減量率について、「2%未満」を◎、「2%以上4%未満」を○、「4%以上5%未満」を△、「5%以上」を×とし、「2%未満」の◎および「2%以上4%未満」の○以上を合格とした。
加熱減量率=(W0−W1)/W0×100
【0080】
H.色調
80℃で4時間真空乾燥した多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物1gをプレス圧2MPa、240℃で1分間熱圧プレスして作製したシート状フィルムについて、スガ試験機製SMカラーコンピューターを用いてD65光源でYI(黄色度)の測定を行い、色調を評価した。なお、YIはJIS K7373:2006(プラスチック−黄色度及び黄変度の求め方)に基づいて算出した。算出されたYIについて、「5未満」を◎、「5以上10未満」を○、「10以上15未満」を△、「15以上」を×とし、「5未満」の◎および「5以上10未満」の○以上を合格とした。
【0081】
合成例1
内部撹拌型オートクレーブにセルロース(日本製紙社製溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)100重量部、50重量%水酸化ナトリウム水溶液120重量部を加えて、窒素雰囲気下30℃で15分撹拌してアルカリ化を行った。その後、セルロースの単糖当たりに残存する水酸基に対して塩化メチル1.0当量を加えて、窒素雰囲気下90℃で4時間撹拌してエーテル化反応を行った。反応終了後、揮発性化合物である塩化メチルを除去し、80℃の熱水1000重量部へ反応混合物の残りを投入し、メチルセルロースを析出させた。析出したメチルセルロースを濾別し、メタノール500重量部を用いた洗浄および濾別を3回繰り返した後、80℃で4時間真空乾燥した。
【0082】
得られたメチルセルロースはメトキシ置換度が1.8、単糖当たり分子量が187.39、重量平均分子量が5.4万、重量平均重合度が289であった。
【0083】
合成例2
1−メチルイミダゾール100重量部に1−クロロブタン125重量部を加え、窒素雰囲気下70℃で20時間撹拌して、アルキル化反応を行った。反応終了後、反応混合物へ酢酸エチル500重量部を加えて撹拌混合した後、上層である酢酸エチル層を除去した。酢酸エチル500重量部を用いた洗浄および酢酸エチル層の除去を5回繰り返した後、90℃で8時間真空乾燥し、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライドを95%の収率で得た。
【0084】
合成例3
合成例2で得られた1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド100重量部へ水200重量部とビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム200重量部を加え、窒素雰囲気下25℃で24時間撹拌して、アニオン交換反応を行った。反応終了後、反応混合物へジクロロメタン200重量部を加えて、生成物を抽出した。ジクロロメタンによる抽出を3回繰り返した後、全ての抽出液を統合し、硫酸マグネシウム5重量部を加えて乾燥した。その後、硫酸マグネシウムを濾過し、エバポレーターを用いて濾液からジクロロメタンを留去した後、50℃で8時間真空乾燥し、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを90%の収率で得た。
【0085】
合成例4
氷冷した1−メチルイミダゾール100重量部へトリフルオロメタンスルホン酸エチル220重量部を滴下し、窒素雰囲気下25℃で24時間撹拌して、酸エステルによる反応を行った。反応終了後、反応混合物を70℃で4時間真空乾燥し、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートを95%の収率で得た。
【0086】
実施例1
酢酸とイミダゾールを1:1のモル比で撹拌混合して調製したイオン液体100重量部へ、90℃で12時間真空乾燥したセルロース(日本製紙社製溶解パルプ、重合度750、約3mm角シート状)5重量部を加えた。続いて、エステル化剤として無水酢酸をセルロースの単糖当たりに残存する水酸基に対して1.5当量加えて、窒素雰囲気下において80℃で2時間撹拌してエステル化反応を行った。反応終了後、反応混合液を水1500重量部に投入し、セルロースアセテートを析出させた。析出したセルロースアセテートを濾別し、水100重量部を用いた水洗および濾別を3回繰り返した後、90℃で8時間真空乾燥した。
【0087】
得られた多糖のエステル化物の置換基、平均置換度、重量平均分子量、重量平均重合度、金属含有量、加熱減量率、YI(黄色度)の評価結果を表1に示す。得られた多糖のエステル化物は、金属含有量が検出限界以下であり、純度について合格レベルであった。また、耐熱性、色調についても合格レベルであった。
【0088】
実施例2〜4
エステル化剤の種類および当量、エステル化条件をそれぞれ表1に示した通り変更した以外は、実施例1と同様に多糖のエステル化物を合成した。
【0089】
得られた多糖のエステル化物の置換基、平均置換度、重量平均分子量、重量平均重合度、金属含有量、加熱減量率、YI(黄色度)の評価結果を表1に示す。エステル化剤の種類や当量を変更した場合も、エステル化反応が進行した。実施例4では2種類のエステル化剤を併用したため、多糖のエステル化物には2種類のエステル基が導入されていた。また、いずれの多糖のエステル化物も純度、耐熱性、色調ともに合格レベルであった。
【0090】
実施例5、6
ブレンステッド酸に対するブレンステッド塩基のモル比をそれぞれ表2に示した通り変更した以外は、実施例1と同様に多糖のエステル化物を合成した。
【0091】
得られた多糖のエステル化物の置換基、平均置換度、重量平均分子量、重量平均重合度、金属含有量、加熱減量率、YI(黄色度)の評価結果を表2に示す。ブレンステッド酸に対するブレンステッド塩基のモル比が小さくなるにつれ、すなわち、ブレンステッド塩基とのイオン液体の形成に用いられない余剰のブレンステッド酸が多くなるにつれ、重量平均重合度は小さくなり、耐熱性および色調が不良となる傾向が見られたものの、いずれの多糖のエステル化物も純度、耐熱性、色調ともに合格レベルであった。
【0092】
実施例7〜12
ブレンステッド酸およびブレンステッド塩基の種類、イオン液体に対する多糖の重量、エステル化条件をそれぞれ表2,3に示した通り変更した以外は、実施例1と同様に多糖のエステル化物を合成した。
【0093】
得られた多糖のエステル化物の置換基、平均置換度、重量平均分子量、重量平均重合度、金属含有量、加熱減量率、YI(黄色度)の評価結果を表2,3に示す。イオン液体を構成するブレンステッド酸やブレンステッド塩基の種類によって、イオン液体に対する多糖の重量やエステル化の反応性へ与える影響に差異はあるものの、いずれの多糖のエステル化物も純度、耐熱性、色調ともに合格レベルであった。
【0094】
実施例13〜16
多糖誘導体として、実施例13では実施例1で得られたセルロースアセテート、実施例14では実施例2で得られたセルロースプロピオネート、実施例15では実施例4で得られたセルロースアセテートプロピオネート、実施例16では合成例1のメチルセルロースをそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様に多糖誘導体のエステル化物を合成した。
【0095】
得られた多糖誘導体のエステル化物の置換基、平均置換度、重量平均分子量、重量平均重合度、金属含有量、加熱減量率、YI(黄色度)の評価結果を表4に示す。原料として多糖ではなく、多糖誘導体であるセルロース単独エステル、セルロース混合エステル、セルロース単独エーテルのいずれを用いた場合も、エステル化反応が進行した。また、いずれの多糖誘導体のエステル化物も純度、耐熱性、色調ともに合格レベルであった。
【0096】
実施例17、18
多糖として、実施例17ではアミロース(東京化成工業製、重合度1000)、実施例18ではキチン(生化学工業製、分子量156.5万、重合度7700)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様に多糖のエステル化物を合成した。
【0097】
得られた多糖のエステル化物の置換基、平均置換度、重量平均分子量、重量平均重合度、金属含有量、加熱減量率、YI(黄色度)の評価結果を表5に示す。原料としてセルロースとは異なる多糖であるアミロース、キチンのいずれを用いた場合も、エステル化反応が進行した。また、いずれの多糖のエステル化物も純度、耐熱性、色調ともに合格レベルであった。
【0098】
比較例1〜3
イオン液体として、比較例1では合成例2の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムクロライド、比較例2では合成例3の1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、比較例3では合成例4の1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネートをそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様に多糖のエステル化物を合成した。
【0099】
得られた多糖のエステル化物の置換基、平均置換度、重量平均分子量、重量平均重合度、金属含有量、加熱減量率、YI(黄色度)の評価結果を表6に示す。比較例1〜3で用いたイオン液体はそれぞれ「アルキル化法」、「アニオン交換法」、「酸エステル法」によってあらかじめ合成されたものであり、本発明のブレンステッド酸とブレンステッド塩基を混合するのみで調製可能なイオン液体と異なり、多糖のエステル化物の合成における簡便性に欠けるものであった。比較例1、3の多糖のエステル化物は金属含有量が検出限界以下であるものの、耐熱性および色調については合格レベルではなかった。比較例2の多糖のエステル化物は、イオン液体の合成の際に生じた無機塩に起因して金属含有量が多く、純度は合格レベルではなかった。また、金属含有量が多いため、耐熱性、色調についても合格レベルではなかった。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物は、ブレンステッド酸とブレンステッド塩基の中和により簡便に得られるイオン液体を用いて効率よく製造することができ、耐熱性や色調に優れている。そのため、繊維、フィルム、プラスチックなど幅広い分野において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン液体中で多糖またはその誘導体とエステル化剤を反応させ、多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物を製造する方法において、前記イオン液体がブレンステッド酸とブレンステッド塩基との混合物からなることを特徴とする多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法。
【請求項2】
前記ブレンステッド酸が、カルボン酸、スルホン酸、無機酸の群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1記載の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法。
【請求項3】
前記ブレンステッド塩基が、有機窒素化合物、有機リン化合物、有機硫黄化合物の群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1または2記載の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法。
【請求項4】
前記多糖またはその誘導体が、セルロースまたはセルロース誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法。
【請求項5】
前記エステル化剤が、カルボン酸無水物、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸の群から選択される少なくとも一種からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載の製造方法により製造された多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物であって、少なくとも一部のアシル基の炭素数が3〜18であることを特徴とする多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物。
【請求項7】
前記多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物が、セルロース混合エステルであることを特徴とする請求項6記載の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物。
【請求項8】
前記多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物が、セルロースアセテートプロピオネートまたはセルロースアセテートブチレートのいずれかであることを特徴とする請求項6または7記載の多糖のエステル化物または多糖誘導体のエステル化物。

【公開番号】特開2012−207136(P2012−207136A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74056(P2011−74056)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】