説明

多糖類誘導体

【課題】水と混合後に高圧蒸気滅菌しても高い粘弾性を保持するハイドロゲルとなり、癒着防止材として有用な多糖類誘導体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】側鎖にβ−アラニン誘導体と、−CHCONHY(Yは炭素数70以下の置換されていてもよいアルキル基)の両方が結合した多糖類およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類に側鎖としてβ−アラニン誘導体とホスファチジルエタノールアミンの両方が結合した多糖類誘導体、その製造方法、およびそのハイドロゲルである。本発明の多糖類誘導体は水と混合すると、高圧蒸気滅菌後も高い粘弾性を保持するゲルとなり、医療材料などに利用される。
【背景技術】
【0002】
化学的に修飾された多糖類は、そのハイドロゲル特性・生体親和性から、食品用途、日用品用途、化粧品用途などで広く利用されており、その用途は医療分野にも及んでいる。例えば、特許文献1、特許文献2を基に開発されたヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースを架橋した化合物からなる組成物で、フィルム状の癒着防止材「セプラフィルム」(登録商標、Genzyme社製)が市販されている。
【0003】
なかでも、多糖類誘導体のハイドロゲルであって流動性があるものは、体内に注射器などを用いて注入することが可能であり、内視鏡手術時でも低侵襲な条件下で使用できる医療材料となりうる。また、創傷部位を湿潤状態に保つ創傷被覆剤や、組織修復のための充填材、細胞培養の培地、薬物輸送システムの担体などの医療分野への幅広い応用が期待される。
【0004】
医療材料としてゲルを用いる場合、必ず滅菌処理を施さなければならない。滅菌方法としては、乾熱法、高圧蒸気法(オートクレーブ法)、流通蒸気法、煮沸法、間けつ法、ろ過法、γ線法、電子線法、紫外線法、高周波法、ガス法(エチレンオキサイド法、ホルムアルデヒド法)等が知られており、日本薬局方にも記載されている。この中でも、最終形態のゲルに直接適用でき、かつ、化学変化を引き起こさない滅菌方法として、高圧蒸気法が優れている。例えば、特許文献3にはアルギン酸ナトリウムと水とからなる組成物を高圧蒸気滅菌し、癒着防止材として用いることが記載されている。しかし、高圧蒸気滅菌後の組成物の粘度は低く、高圧蒸気滅菌後の粘度が1Pa・s以上になるためには、アルギン酸ナトリウムの重量濃度を5%まで上げなければならなかった。このため、低重量濃度の多糖類誘導体から、体内での十分な滞留性をもったゲルを作り出すことが課題であった。
【0005】
特許文献4にはカルボキシメチルセルロースとホスファチジルエタノールアミンとを1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドを縮合剤として縮合させる反応が記載されている。しかし、特許文献4では多糖類に導入された側鎖はホスファチジルエタノールアミン部位だけであり、また、そのハイドロゲルの粘弾性については全く記載がない。
【0006】
非特許文献1にはセファロースまたはトリスアクリルにジシクロヘキシルカルボジイミドとN−ヒドロキシスクシンイミドを加え、ロッセン転位反応により側鎖としてβ−アラニン誘導体を導入する反応が記載されている。しかし、この反応では疎水基は同時には導入されておらず、また多糖類誘導体のハイドロゲルの粘弾性については全く記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表平5−508161号公報
【特許文献2】特表平6−508169号公報
【特許文献3】特開2003−24431号公報
【特許文献4】米国特許第5064817号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biochemistry,1987;26:2155−2161.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、水と混合後に高圧蒸気滅菌しても高い粘弾性を保持するハイドロゲルとなる多糖類誘導体を提供することである。
さらに、かかる多糖類誘導体の効率的な製造方法を提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記目的のもとで鋭意研究した結果、特定の多糖類誘導体であれば、高圧蒸気滅菌後も高い粘弾性を有するハイドロゲルを形成することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は下記式(1)で表される繰り返し単位からなる多糖類誘導体ならびにそのハイドロゲルである。
【0012】
【化1】

式(1)中、R、R、およびRは、それぞれ独立に、下記式(1−a)、(1−b)、(1−c)、および(1−d)からなる群より選ばれる基を表す。ただし、多糖類誘導体中には、式(1−c)で表される基、および式(1−d)で表される基がいずれも存在する。
【0013】
【化2】

式(1−b)および(1−d)中、Xは水素またはアルカリ金属を表し、式(1−c)中、Yは炭素数70以下の置換されていてもよいアルキル基を表す。
【0014】
また、本発明は下記式(2)で表される繰り返し単位からなるカルボキシメチルセルロースと下記式(3)で表されるアミンとを、下記式(4)で表される縮合剤、およびN−ヒドロキシスクシンイミドまたはその誘導体の存在下で反応させることを特徴とする、上記多糖類誘導体の製造方法である。
【0015】
【化3】

式(2)中、R11、R21、およびR31はそれぞれ独立に、下記式(2−a)および(2−b)からなる群より選ばれる。
【0016】
【化4】

式(2−b)中、Xは水素またはアルカリ金属を表す。
【0017】
【化5】

式(3)中、Yは炭素数70以下の置換されていてもよいアルキル基を表す。
【0018】
【化6】

式(4)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数が20以下の炭化水素基を表し、互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の多糖類誘導体のハイドロゲルは、高圧蒸気滅菌後も高い粘弾性を保持している。
【0020】
また、本発明の製造方法によれば、多糖類の主鎖にβ−アラニン誘導体が他の置換基と同時に導入される。すなわち、従来の方法では二段階以上の合成工程を経なければならなかったのに対し、本発明の製造方法では一段階で行なうことができ、置換基の導入率も他の触媒を用いた場合と比べて高い。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は下記式(1)で表される繰り返し単位からなる多糖類誘導体ならびにそのハイドロゲルである。
【0022】
【化7】

【0023】
かかる多糖類誘導体の分子量は、目的とする効果を奏する限り、特に限定されない。
上記式(1)中、R、R、およびRは、それぞれ独立に、下記式(1−a)、(1−b)、(1−c)、および(1−d)からなる群より選ばれる基を表す。
【0024】
【化8】

【0025】
上記式(1−b)および(1−d)中、Xは水素またはアルカリ金属を表し、式(1−c)中、Yは炭素数70以下の置換されていてもよいアルキル基を表す。
かかるXのアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、特にナトリウムが好ましい。
Yの炭素数70以下の置換されていてもよいアルキル基には、分岐しているもの、環構造を形成しているものを含む。かかるYのアルキル基の置換基としては、a)ヒドロキシル基、b)カルボキシル基、c)アミノ基、d)チオール基、e)リン酸基、f)芳香族基などが挙げられる。この中でもヒドロキシル基、カルボキシル基、リン酸基が好ましく、リン酸基が特に好ましい。Yのアルキル基の置換基がイオン性の場合は、その塩もYの定義に含まれる。
かかるYとしては、下記式(1−e)で表される基が好ましい。
【0026】
【化9】

【0027】
上記式(1−e)中、Xは水素またはアルカリ金属を表し、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数10〜28のアルキル基またはアルケニル基を表す。
かかるXのアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、特にナトリウムが好ましい。
また、RおよびRとしては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が好ましく、特にRおよびRが−CH(CHCH=CH(CHCHであるものが好ましい。
【0028】
また、上記式(1−d)で表される基の当量は1.0〜20.0[mol%/糖残基]であるものが好ましく、上記式(1−c)で表される基の当量は0.5〜5.0[mol%/糖残基]であるものが好ましい。
【0029】
また、本発明は、下記式(2)で表される繰り返し単位からなるカルボキシメチルセルロースと下記式(3)で表されるアミンとを、下記式(4)で表される縮合剤、およびN−ヒドロキシスクシンイミドまたはその誘導体の存在下で反応させることを特徴とする、上記多糖類誘導体の製造方法である。
【0030】
【化10】

式(2)中、R11、R21、およびR31は、それぞれ独立に、下記式(2−a)および(2−b)からなる群より選ばれる。
【0031】
【化11】

式(2−b)中、Xは水素またはアルカリ金属を表す。
【0032】
【化12】

式(3)中、Yは炭素数70以下の置換されていてもよいアルキル基を表す。
【0033】
【化13】

式(4)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数が20以下の炭化水素基を表し、互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【0034】
上記式(2)における好ましいXとしては、上記式(1)のXについて前述したものと同じものが好ましく挙げられる。
上記式(2)における好ましいYとしては、下記式(5)で表される基が好ましい。
【0035】
【化14】

【0036】
式(5)中、Xは水素またはアルカリ金属を表し、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数10〜28のアルキル基またはアルケニル基を表す。
式(5)における好ましいX、R、およびRとしては、上記式(1−e)のX、R、およびRについて前述したものと同じものが挙げられる。
【0037】
上記式(3)で表されるアミンは、カルボキシメチルセルロースの糖残基100当量に対し、0.5〜20当量の割合にて反応させることが好ましい。
上記式(4)で表される縮合剤としては、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびその塩、ジイソプロピルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジトリルカルボジイミド、1−t−ブチル−3−エチルカルボジイミド、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミドおよびその塩などが挙げられる。この中でも、水溶性、反応性、および医療材料合成の実績の点から、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩が好ましい。
【0038】
本発明の製造方法で用いられるN−ヒドロキシスクシンイミドまたはその誘導体としては、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−ヒドロキシスルホスクシンイミドなどが挙げられる。この中でも、溶解性、反応性の点から、N−ヒドロキシスクシンイミドが好ましい。
【0039】
上記式(4)で表される縮合剤は、カルボキシメチルセルロースの糖残基100当量に対し、1〜50当量用いるのが好ましい。一方、N−ヒドロキシスクシンイミドまたはその誘導体は、カルボキシメチルセルロースの糖残基100当量に対し、1〜50当量用いるのが好ましい。
【0040】
カルボキシメチルセルロースと上記式(3)で表されるアミンとの反応は、水および水と相溶する有機溶媒を混合した溶媒系、もしくは水単独を溶媒として行なうことができる。その中でも、カルボキシメチルセルロース、上記式(3)で表されるアミン、上記式(4)で表される縮合剤、N−ヒドロキシスクシンイミドまたはその誘導体のすべてが溶解する溶媒系が望ましい。
【0041】
上記反応の生成物を精製する方法は特に限定されないが、以下の方法により効率よく精製され、高純度の多糖類誘導体を製造することができる。すなわち、カルボキシメチルセルロースと上記式(3)で表されるアミンとの反応後、溶媒を減圧留去し、その残渣を多糖類の溶解度が大きくない有機溶媒に加えることにより、多糖類誘導体を析出させる。有機溶媒としては、具体的にはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、t−ブタノールなどの1価アルコール類、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、アセトンなどのケトン類、フェノールなどの芳香族アルコール類を挙げることができる。これらの中でも、生体内での安全性の点から、エタノールが好ましい。
【0042】
<多糖類誘導体によるハイドロゲル>
上記方法によって得られる多糖類誘導体は、ハイドロゲルを形成することができる(かかるハイドロゲルを、以下、単に「ハイドロゲル」と略記することがある)。このとき、水100重量部に対し、本発明の多糖類誘導体を0.1〜5.0重量部、好ましくは0.5〜5.0重量部含むことにより、適度な粘弾性を有するハイドロゲルを得ることができる。
【0043】
通常、いずれのハイドロゲルも、ポリマーの濃度を高めることにより所望のゲル強度を得ることができるが、本発明のハイドロゲルは、水に対して5重量%以下の低いポリマー濃度においても、十分なゲル粘弾性を得ることができる。具体的に好ましいハイドロゲルの物性としては、ハイドロゲルの入った容器を傾けても流れ落ちない程度の粘弾性を有するものであり、スパーテルなどの金属へらで触ると容易に変形することが可能で、患部に塗布することが容易な状態である。また、かかるハイドロゲルは注射器など細管を有する器具で注入することが可能である。また、かかるハイドロゲルは無色透明であり、製造の過程でごみなどの異物が混入した場合、これを検知することが可能であり、工業生産する上でのメリットを有する。
【0044】
ハイドロゲルの好ましい粘弾性としては、温度37℃の条件で、レオメーターとよばれる動的粘弾性測定装置を用い、角速度10rad/secで測定したときの絶対粘度が、0.2〜100Pa・sが好ましく、さらに好ましくは2〜30Pa・sであり、この範囲が注入型ゲルとしての取扱性の良さと体内での滞留性を同時に満足させられる範囲であるが、使用目的により適宜変更させることができる。
【0045】
本発明の多糖類誘導体およびそのハイドロゲルの用途としては、癒着防止材、癒着防止材以外の医療用途(創傷被覆剤・充填材・細胞培養培地・薬物輸送システムの担体など)、ヘアケア製品や肌の保湿剤などの日用品用途、化粧品用途などがある。
【実施例】
【0046】
以下の実施例・比較例により本発明の実施態様をより具体的に説明する。しかし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
(1)実施例・比較例に使用した材料は以下の通りである。
(i)CMCNa:カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)製、PM250−L、ヒドロキシル基のカルボキシメチル基への置換度0.7、粘度平均分子量600000)、
(ii)CMCNa:カルボキシメチルセルロースナトリウム(第一工業製薬(株)製、P−603A、ヒドロキシル基のカルボキシメチル基への置換度0.7、粘度平均分子量120000)、
(iii)テトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)、
(iv)1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩 (WSC・HCl、大阪有機合成(株)製)、
(v)N−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu、大阪有機合成(株)製)、
(vi)1−ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(HOBt・HO、大阪有機合成(株)製)、
(vii)1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt、和光純薬工業(株)製)、
(viii)L−α−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE、日本油脂(株)製)。
【0048】
(2)多糖類誘導体中のホスファチジルエタノールアミン含量の測定
多糖類誘導体中のホスファチジルエタノールアミン含量は、バナドモリブデン酸吸光光度法による全リン含量の分析またはH−NMRスペクトルのピークの積分比から求めた。
【0049】
(3)多糖類誘導体中のβ−アラニン誘導体含量の測定
多糖類誘導体中のβ−アラニン誘導体の割合は、H−NMRスペクトルのピークの積分比から求めた。
【0050】
(4)ハイドロゲルの粘弾性の測定
ハイドロゲルの粘弾性は、動的粘弾性測定装置であるRheometer RFIII(TA Instrument)を使用し、37℃、角速度10rad/secで測定した。
【0051】
[実施例1]
CMCNa(PM250−L、置換度0.7、粘度平均分子量600000)3000mgを水とテトラヒドロフランの混合溶媒に溶解させた。この溶液に、L−α−ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)144mg(0.194mmol)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC・HCl)798 mg(4.16 mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(HOSu)478mg(4.16mmol)を加えた。反応終了後、反応溶液をエタノールに加えることにより多糖類誘導体を析出させ、ろ取した。得られた固体をエタノールで洗浄し、減圧乾燥した。得られた多糖類誘導体のDOPEの置換度は1.5mol%/糖残基、β−アラニン誘導体の置換度は10.5mol%/糖残基であった。
得られたセルロース誘導体20mgを注射用蒸留水1980mgに溶解し、濃度1重量%のハイドロゲルを調製した。このハイドロゲルを高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した後の貯蔵弾性率は106.2Pa、損失弾性率は18.2Pa、絶対粘度は10.8Pa・sであった。
【0052】
[実施例2]
DOPE144mg(0.194mmol)、WSC・HCl 798 mg(4.16 mmol)およびHOSu478mg(4.16mmol)の代わりにDOPE351mg(0.472mmol)、WSC・HCl 399 mg(2.08 mmol)およびHOSu 239 mg(2.08 mmol)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、多糖類誘導体を得た。得られた多糖類誘導体のDOPEの置換度は2.8mol%/糖残基、β−アラニン誘導体の置換度は2.7mol%/糖残基であった。
得られた多糖類誘導体20mgを注射用蒸留水1980mgに溶解し、濃度1重量%のハイドロゲルを調製した。このハイドロゲルを高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した後の貯蔵弾性率は213.0Pa、損失弾性率は26.9Pa、絶対粘度は、21.5Pa・sであった。
【0053】
[比較例1]
CMCNa(PM250−L、置換度0.7、粘度平均分子量600000)750mgを水とテトラヒドロフランの混合溶媒に溶解させた。この溶液に、DOPE351mg(0.472mmol)、WSC・HCl 100 mg(0.52 mmol)および1−ヒドロキシベンゾトリアゾール一水和物(HOBt・HO)80 mg(0.52 mmol)を加えた。反応終了後、反応溶液をエタノールに加えることにより多糖類誘導体を析出させ、ろ取した。得られた固体をエタノールで洗浄し、減圧乾燥した。得られた多糖類誘導体のDOPEの置換度は1.5mol%/糖残基であった。
得られた多糖類誘導体20mgを注射用蒸留水1980mgに溶解し、濃度1重量%のハイドロゲルを調製した。このハイドロゲルを高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した後の、貯蔵弾性率は10.1Pa、損失弾性率は3.6Pa、絶対粘度は1.1Pa・sであった。
【0054】
[実施例3]
CMCNa(P−603A、置換度0.7、粘度平均分子量120000)3000mgを水とテトラヒドロフランの混合溶媒に溶解させた。この溶液に、DOPE349mg(0.468mmol)、WSC・HCl 395 mg(2.06 mmol)およびHOSu237mg(2.06mmol)を加えた。反応終了後、反応溶液をエタノールに加えることにより多糖類誘導体を析出させ、ろ取した。得られた固体をエタノールで洗浄し、減圧乾燥した。得られた多糖類誘導体のDOPEの置換度は2.8mol%/糖残基、β−アラニン誘導体の置換度は2.1mol%/糖残基であった。
得られた多糖類誘導体20mgを注射用蒸留水1980mgに溶解し、濃度1重量%のハイドロゲルを調製した。このハイドロゲルを高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した後の貯蔵弾性率は22.6Pa、損失弾性率は6.7Pa、絶対粘度は、2.4Pa・sであった。
【0055】
[比較例2]
DOPEを加えなかったこと以外は実施例3と同様の操作を行い、多糖類誘導体を得た。得られた多糖類誘導体のβ−アラニン誘導体の置換度は4.6mol%/糖残基であった。
得られた多糖類誘導体20mgを注射用蒸留水1980mgに溶解し、濃度1重量%のハイドロゲルを調製した。このハイドロゲルを高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した後の、貯蔵弾性率は1.0Pa以下、損失弾性率は1.0Pa以下、絶対粘度は、0.1Pa・s以下であった。
【0056】
[比較例3]
HOSu237mg(2.06mmol)の代わりにHOBt・HO 315 mg(2.06 mmol)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行い、多糖類誘導体を得た。得られた多糖類誘導体のDOPEの置換度は1.5mol%/糖残基であった。
得られた多糖類誘導体20mgを注射用蒸留水1980mgに溶解し、濃度1重量%のハイドロゲルを調製した。このハイドロゲルを高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した後の貯蔵弾性率は1.0Pa以下、損失弾性率は1.0Pa以下、絶対粘度は、0.1Pa・s以下であった。
【0057】
[比較例4]
HOSu237mg(2.06mmol)の代わりに1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)280mg(2.06mmol)を用いたこと以外は実施例3と同様の操作を行い、多糖類誘導体を得た。得られた多糖類誘導体のDOPEの置換度は1.2mol%/糖残基であった。
得られた多糖類誘導体20mgを注射用蒸留水1980mgに溶解し、濃度1重量%のハイドロゲルを調製した。このハイドロゲルを高圧蒸気滅菌(121℃、20分間)した後の貯蔵弾性率は1.0Pa以下、損失弾性率は1.0Pa以下、絶対粘度は、0.1Pa・s以下であった。
【0058】
実施例1〜3および比較例1〜4の、反応に用いた試薬量、生成物の側鎖の置換度、および高圧蒸気滅菌後のハイドロゲルの粘弾性のデータを表1にまとめた。
【0059】
【表1】

【0060】
実施例1と比較例1の比較により、同じ多糖類主鎖に同じ量のDOPE側鎖が導入された多糖類誘導体でも、β−アラニン誘導体が導入されているものの方が、β−アラニン誘導体が導入されていないものよりも高圧蒸気滅菌後のハイドロゲルの粘弾性が高いことが分かった。
【0061】
また、実施例3と比較例2の比較により、多糖類にβ−アラニン誘導体のみが結合していても高圧蒸気滅菌後のハイドロゲルの粘弾性は低く、高圧蒸気滅菌後のハイドロゲルの粘弾性を高くするには多糖類主鎖に−CHCONHY(Yは炭素数70以下の置換されていてもよいアルキル基)とβ−アラニン誘導体の両方を導入する必要があることが分かった。
【0062】
さらに、実施例3と比較例3および比較例4の比較により、反応に同じ量のCMCNaとDOPEを原料として用いた場合、触媒としてHOSuを用いる方が、HOBt・HOやHOAtを用いるよりも多糖類主鎖により多くのDOPEを導入でき、またβ−アラニン誘導体も同時に多糖類主鎖に導入されるため、高圧蒸気滅菌後のハイドロゲルの粘弾性が高くなることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の多糖類誘導体およびそのハイドロゲルは、例えば癒着防止材、創傷被覆剤、充填材、細胞培養培地、薬物輸送システムの担体、ヘアケア製品、肌の保湿剤、化粧品などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位からなる多糖類誘導体。
【化1】

式(1)中、R、R、およびRは、それぞれ独立に、下記式(1−a)、(1−b)、(1−c)、および(1−d)からなる群より選ばれる基を表す。ただし、多糖類誘導体中には、式(1−c)で表される基、および式(1−d)で表される基がいずれも存在する。
【化2】

式(1−b)および(1−d)中、Xは水素またはアルカリ金属を表し、式(1−c)中、Yは炭素数70以下の置換されていてもよいアルキル基を表す。
【請求項2】
Yが下記式(1−e)で表される基である請求項1に記載の多糖類誘導体。
【化3】

式(1−e)中、Xは水素またはアルカリ金属を表し、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数10〜28のアルキル基またはアルケニル基を表す。
【請求項3】
およびRが−CH(CHCH=CH(CHCHである請求項2に記載の多糖類誘導体。
【請求項4】
式(1−d)で表される基の当量が1.0〜20.0[mol%/糖残基]である請求項1〜3のいずれかに記載の多糖類誘導体。
【請求項5】
式(1−c)で表される基の当量が0.5〜5.0[mol%/糖残基]である請求項1〜4のいずれかに記載の多糖類誘導体。
【請求項6】
下記式(2)で表される繰り返し単位からなるカルボキシメチルセルロースと下記式(3)で表されるアミンとを、下記式(4)で表される縮合剤、およびN−ヒドロキシスクシンイミドまたはその誘導体の存在下で反応させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の多糖類誘導体の製造方法。
【化4】

式(2)中、R11、R21、およびR31はそれぞれ独立に、下記式(2−a)および(2−b)からなる群より選ばれる。
【化5】

式(2−b)中、Xは水素またはアルカリ金属を表す。
【化6】

式(3)中、Yは炭素数70以下の置換されていてもよいアルキル基を表す。
【化7】

式(4)中、RおよびRは、それぞれ独立に、炭素数が20以下の炭化水素基を表し、互いに結合して環構造を形成していてもよい。
【請求項7】
Yが下記式(5)で表される基である請求項6に記載の製造方法。
【化8】

式(5)中、Xは水素またはアルカリ金属を表し、RおよびRは、それぞれ独立に炭素数10〜28のアルキル基またはアルケニル基を表す。
【請求項8】
およびRが−CH(CHCH=CH(CHCHである請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
N−ヒドロキシスクシンイミドまたはその誘導体が、N−ヒドロキシスクシンイミドである請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
式(4)で表される縮合剤が、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびその塩、ジイソプロピルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジトリルカルボジイミド、1−t−ブチル−3−エチルカルボジイミド、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリノエチル)カルボジイミドおよびその塩のうちのいずれかである請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
式(4)で表される縮合剤が、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドまたはその塩である請求項6〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれかに記載の多糖類誘導体と水とを含むハイドロゲル。
【請求項13】
多糖類誘導体の重量比が0.5〜5.0wt%である請求項12に記載のハイドロゲル。

【公開番号】特開2011−99029(P2011−99029A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254077(P2009−254077)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】