説明

多糸条用交絡装置

【課題】複数の糸条に対して交絡を付与する多糸条用交絡装置であって、部品点数が少なく、糸道のピッチを狭くすることができ、更には、簡素な構成のものを提供する。
【解決手段】各マルチフィラメント糸Yが走行する空間としての糸走行空間1が複数、形成される第1部材2と、各糸走行空間1へ噴射される流体が流通する流体噴射孔3が複数、形成される第2部材4と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の糸条に対して交絡を付与する多糸条用交絡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、特許文献1(特開平9−250043号公報)は、多糸条流体処理装置を開示する。この多糸条流体処理装置は、間隔をおいて列状に配置された複数の糸道部材を備える。隣り合う糸道部材によって流体処理部を構成する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記特許文献1の構成では、流体処理の対象たる糸条の数に応じて糸道部材を増やさなければならず、部品点数の多さから、現場では敬遠される傾向にある。また、糸道部材を並べる構成であるから、その構成の複雑さより、糸道のピッチを狭めるのが困難である。
【0004】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、複数の糸条に対して交絡を付与する多糸条用交絡装置であって、部品点数が少なく、糸道のピッチを狭くすることができ、更には、簡素な構成のものを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0005】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0006】
本発明の観点によれば、複数の糸条に対して交絡を付与する多糸条用交絡装置は、以下のように構成される。即ち、各糸条が走行する空間としての糸走行空間の少なくとも一部が複数、形成される第1の部材と、各糸走行空間へ噴射される流体が流通する流路の少なくとも一部が複数、形成される第2の部材と、を備える。以上の構成によれば、前記複数の糸条に対して交絡を付与する構成が、少ない部品点数で安価に実現される。また、特許文献1の構成と比較して、前記複数の糸条の糸道のピッチを狭くすることができる。
【0007】
上記の多糸条用交絡装置は、更に、以下のように構成される。即ち、各糸走行空間は、前記第1の部材に形成される溝と、前記第2の部材に形成される面と、の組み合わせにより構成される。以上の構成によれば、各糸走行空間が溝と溝との組み合わせにより構成される場合と比較して、加工コストを低減できる。
【0008】
上記の多糸条用交絡装置は、更に、以下のように構成される。即ち、各糸走行空間は、該糸走行空間へ噴射される流体の流れの方向において奥広がりである。以上の構成によれば、各糸走行空間内で流体の旋回流が効率よく形成される。
【0009】
上記の多糸条用交絡装置は、更に、以下のように構成される。即ち、各糸走行空間は、該糸走行空間へ噴射される流体の流れの方向に関して線対称である。以上の構成によれば、各糸走行空間へ噴射された流体の流れの態様が線対称となる。
【0010】
上記の多糸条用交絡装置は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第1の部材と前記第2の部材は、各糸条を挿入可能な糸挿入隙間を隔てて相互に固定される。各糸条は、この糸挿入隙間を介して各糸走行空間へ挿入される。以上の構成によれば、各糸条を各糸走行空間に挿入可能とする構成が、可動部を含むことなく実現される。
【0011】
上記の多糸条用交絡装置は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第1の部材と前記第2の部材は、相互に当接・離反できるように構成される。以上の構成によれば、(a)相互の当接により、各糸走行空間に噴射された流体の前記の第1の部材と第2の部材の間からの吹き抜けと、各糸条の飛び出しと、を防止できると共に、(b)相互の離反により、各糸条を各糸走行空間に挿入する作業が容易となる。
【0012】
上記の多糸条用交絡装置は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第1の部材は前記複数の糸条の糸道に対して相対的に固定される。前記第2の部材は前記第1の部材に対して相対的に移動可能とされる。以上の構成によれば、前記第1の部材と前記第2の部材を相互に当接・離反させたとしても、各糸条の糸道と各糸走行空間との相対的な位置関係は変わらないので、この意味で、各糸条の品質を低下させることを回避できる。
【0013】
上記の多糸条用交絡装置は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第2の部材は、前記第1の部材に対して枢設される。以上の構成によれば、簡素な構成で、前記第1の部材と前記第2の部材の相互の当接・離反が実現される。
【0014】
上記の多糸条用交絡装置は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第2の部材は、前記第1の部材に対して摺動可能とされる。以上の構成によれば、簡素な構成で、前記第1の部材と前記第2の部材の相互の当接・離反が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の第一実施形態を説明する。図1は、本発明の第一実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面図である。図2は、本発明の第一実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面断面図である。図3は、本発明の第一実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面部分拡大断面図である。
【0016】
本実施形態に係る多糸条用交絡装置100は、複数のマルチフィラメント糸Yに対して交絡を付与するものである。図1及び図2に示されるように、多糸条用交絡装置100は、各マルチフィラメント糸Yが走行する空間としての糸走行空間1が形成される第1部材2(第1の部材)と、各糸走行空間1へ噴射される流体が流通する流路としての流体噴射孔3が形成される第2部材4(第2の部材)と、を備える。第1部材2と第2部材4は、各マルチフィラメント糸Yを挿入可能な糸挿入隙間5を隔てて相互に固定される。本図に示されるように糸走行空間1は、所定の間隔で複数、並設される。
【0017】
以降、単に「並設方向」というときは、糸走行空間1の並設方向を指すものとする。同様に、単に「対向方向」というときは第1部材2と第2部材4が対向する方向を指すものとする。並設方向と対向方向の双方に対して直交する方向は、「糸走行方向」と定義する。この糸走行方向は、図1の紙面に対して垂直な方向であって、糸走行空間1の延在方向と同一の方向であり、更に、この糸走行空間1内を走行するマルチフィラメント糸Yの走行方向とも同一の方向である。
【0018】
第1部材2と第2部材4との相互の固定は、第2部材4と第1部材2を挟んで反対側に設けられ、第1部材2を支持する第3部材6と、第1部材2と第2部材4を挟んで反対側に設けられ、第2部材4を支持する第4部材7と、が担う。第3部材6は、並設方向に延びる第1部材2に沿って同様に延在する。第4部材7は、並設方向に延びる第2部材4に沿って延在する支持部7aと、この支持部7aの一端から第3部材6に向かって垂直に延びる連結部7bと、から構成される。第3部材6は、第4部材7の連結部7bに対して例えばボルト締結などの固定手段により連結され、この第3部材6と第4部材7の相互の固定によって、前述したように、第1部材2と第2部材4とが相互に固定される。
【0019】
以上の構成で、複数のマルチフィラメント糸Yは、図1において太線矢印で示す如く並設方向に沿って動かし、第1部材2と第2部材4の間に形成される糸挿入隙間5を介して各糸走行空間1に挿入される。簡単に言えば、各マルチフィラメント糸Yは、前記第2部材4側から各糸走行空間1へ挿入される。この挿入作業を容易とするために、第1部材2と第2部材4には、マルチフィラメント糸Yを糸挿入隙間5へ案内する若干のテーパ面が形成される。
【0020】
図2を参照されたい。本図は前述の通り図1の正面断面図であって、詳しくは、多糸条用交絡装置100を糸走行方向の中央において糸走行方向に対して垂直に切断して得られる図である。本図に示されるように、各糸走行空間1に対して一対一の関係となるように、第2部材4には流体噴射孔3が、糸走行方向においては中央の位置に、並設方向に並べて形成される。そして、これら複数の流体噴射孔3に対して一様に流体を供給するために、第2部材4の内部にはすべての流体噴射孔3と連通する第1流路8が形成されると共に、支持部7aには外部と連通する第2流路9が形成される。この構成で、図略のコンプレッサを第2流路9に接続し、第2流路9に対して例えば圧縮空気などの流体を供給すると、その流体は第1流路8と各流体噴射孔3とを順に介して、各糸走行空間1に所定の流量で供給される。そして、糸走行空間1に供給された流体は、糸走行方向において二つに分岐され、糸走行空間1の延在方向に沿って糸走行空間1内を流動し、やがて、糸走行空間1の両端から外部へ吹き抜ける。
【0021】
次に、糸走行空間1の形状について詳細に説明する。図3を参照されたい。図3の(a)は、図2の部分拡大図に相当する。図3(b)は、切断面内に流体噴射孔3を含まない他の断面を示す。
【0022】
図3(b)に示されるように、第2部材4に対向する第1部材2の面としての第1面10と、第1部材2に対向する第2部材4の面としての第2面11と、の間にはマルチフィラメント糸Yが挿入できる程度の僅かな糸挿入隙間5が形成される。第1部材2の第1面10には糸走行方向に沿って延びる溝12が形成され、糸走行空間1は、この第1部材2に形成される溝12と、第2部材4の第2面11と、の組み合わせにより構成される。また、図3(a)に示されるように、糸走行空間1は、該糸走行空間1に噴射される流体の流れの方向を示す線C(ラージC)において奥広がりに、かつ、この線Cに関して線対称に、形成される。
【0023】
本実施形態において溝12の断面輪郭は、第2面11から離れる方向へ第1面10から垂直に延びる直線部aと、この直線部aの先端に接続し、線Cから離れる方向に向かって膨出するように半円を描く円弧部bと、この円弧部bの先端に接続し、線Cと垂直な方向において、断面円形の流体噴射孔3の孔径よりも長く延びる、底部cと、底部cの先端に接続し、円弧部bと線Cに関して線対称となる半円を描く円弧部dと、この円弧部dの先端と第1面10との双方に接続し、直線部aと線Cに関して線対称となる直線となる直線部eと、から構成される。よって、溝12の断面形状は、並設方向において流体噴射孔3の孔径よりも幅広な矩形と、この矩形よりも更に幅広な、円弧と直線の組み合わせから成る長円形と、の結合した奥広がりなものと言うことができる。
【0024】
以上の構成で、複数のマルチフィラメント糸Yに対する交絡の付与を開始するには、(1)先ず、複数のマルチフィラメント糸Yを相互に所定間隔を維持したまま吸引して捕捉している図略の所謂サクションガンを用いて、図1の太線矢印で示す方向へ向かって、複数のマルチフィラメント糸Yを糸挿入隙間5内に一度に挿入する。(2)次に、糸挿入隙間5内へ挿入された各マルチフィラメント糸Yが第1部材2に形成されている各溝12の開口と対向していることを確認した上で、上記のサクションガンを用いて、多糸条用交絡装置100の下流側に設けられる図略のガイドローラへ複数のマルチフィラメント糸Yを同時に糸掛けする。なお、この糸掛け後に各マルチフィラメント糸Yが図3(a)において糸走行空間1の略中心を走行するように、多糸条用交絡装置100の上流側及び下流側の図略のガイドローラの多糸条用交絡装置100に対する相対位置が予め調整されている。(3)そして、前述のコンプレッサを用いて図2に示される第2流路9に圧縮空気を導入することで、図3(a)に示されるように、流体噴射孔3から糸走行空間1への流体の噴射が開始し、マルチフィラメント糸Yに対する交絡の付与が開始する。
【0025】
次に、以上のように糸走行空間1へ噴射された流体の流れについて、図3(a)及び図3(b)を参照しつつ、詳細に説明する。即ち、図3(a)に示されるように、流体噴射孔3から糸走行空間1へ噴射された流体は、線Cに沿って符号cで示される溝12の溝底13に衝突し、並設方向において二つの流れとして分岐する。並設方向に分岐された流体の流れは、輪郭が符号b及び符号dで示される湾曲面14に沿って流動することで円弧を描く。そして、図3(b)に示されるように、並設方向に分岐された流体は、主として湾曲面14に沿った螺旋を描く旋回流となって、溝12の両端から吹き抜ける。なお、図3において糸挿入隙間5は、多糸条用交絡装置100の構造の容易な理解を図るために実際よりも厚く描いているが、この糸挿入隙間5の機能はマルチフィラメント糸Yを外部から糸走行空間1へ導入するためのみであり、そのため、糸挿入隙間5の厚みは非常に薄く設定される。例えば約0.1mmである。従って、糸走行空間1に噴射された流体の大部分は、糸挿入隙間5を介して外部へ吹き抜けることなく、溝12の両端から吹き抜けることができるようになっている。更に言えば、複数の糸走行空間1が隣接する構成であるから、隣接する糸走行空間1の間では圧力差がほとんどなく、隣接する糸走行空間1の間の糸挿入隙間5を行き来するような流体の流れはほとんど発生しない。この意味でも、糸走行空間1に噴射された流体の大部分は、糸挿入隙間5を介して外部へ吹き抜けることなく、溝12の両端から吹き抜けることができるようになっていると言える。
【0026】
以上説明したように本実施形態において、複数のマルチフィラメント糸Yに対して交絡を付与する多糸条用交絡装置100は、以下のように構成される。各マルチフィラメント糸Yが走行する空間としての糸走行空間1が複数、形成される第1部材2と、各糸走行空間1へ噴射される流体が流通する流体噴射孔3が複数、形成される第2部材4と、を備える。以上の構成によれば、複数のマルチフィラメント糸Yに対して交絡を付与する構成が、少ない部品点数で安価に実現される。また、特許文献1の構成と比較して、前記複数のマルチフィラメント糸Yの糸道のピッチを狭くすることができる。
【0027】
上記の多糸条用交絡装置100は、更に、以下のように構成される。即ち、各糸走行空間1は、前記第1部材2に形成される溝12と、前記第2部材4に形成される第2面11と、の組み合わせにより構成される。以上の構成によれば、各糸走行空間1が溝と溝との組み合わせにより構成される場合と比較して、加工コストを低減できる。
【0028】
上記の多糸条用交絡装置100は、更に、以下のように構成される。即ち、各糸走行空間1は、該糸走行空間1へ噴射される流体の流れの方向において奥広がりである。以上の構成によれば、各糸走行空間1内で流体の旋回流が効率よく形成される。本願発明の発明者らは、この旋回流が、マルチフィラメント糸Yに対する交絡の付与に大きく貢献すると考える。
【0029】
上記の多糸条用交絡装置100は、更に、以下のように構成される。即ち、各糸走行空間1は、該糸走行空間1へ噴射される流体の流れの方向に関して線対称である。以上の構成によれば、各糸走行空間1へ噴射された流体の流れの態様が線対称となる。同様に本願の発明者らは、この線対称性が、マルチフィラメント糸Yに対する交絡の付与に大きく貢献すると考える。
【0030】
上記の多糸条用交絡装置100は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第1部材2と前記第2部材4は、各マルチフィラメント糸Yを挿入可能な糸挿入隙間5を隔てて相互に固定される。各マルチフィラメント糸Yは、この糸挿入隙間5を介して各糸走行空間1へ挿入される。以上の構成によれば、各マルチフィラメント糸Yを各糸走行空間1に挿入可能とする構成が、可動部を含むことなく実現できる。
【0031】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0032】
<第一変形例>
先ず、図4に基づいて、上記の実施形態の第一変形例を説明する。上記第一実施形態と重複する説明については、適宜割愛する。図4は、図3に類似する図であって、本発明の第一実施形態の第一変形例に係るものである。本変形例に係る多糸条用交絡装置100は、以下のように構成される。即ち、第1部材2の第1面10には断面半円の溝15aが形成され、この溝15aに対向するように、第2部材4の第2面11に同じく断面半円の溝15bが形成される。そして、これらの溝15a及び溝15bが対向することで、断面形状が略円形の糸走行空間1が形成される。換言すれば、糸走行空間1の一部のみが第1部材2に形成される型である。
【0033】
<第二変形例>
次に、図5に基づいて、上記の実施形態の第二変形例を説明する。上記第一実施形態と重複する説明については、適宜割愛する。図5は、図3に類似する図であって、本発明の第一実施形態の第二変形例に係るものである。本変形例に係る多糸条用交絡装置100は、以下のように構成される。即ち、第1部材2には、第1面10とは交差しない円柱状の貫通孔16が内部に穿孔され、この貫通孔16を第1面10と連通させるスリット17が形成される。このスリット17は、マルチフィラメント糸Yを外部から貫通孔16へ糸走行方向と垂直な方向から導入するものであり、それ故、スリット17の厚みは非常に薄く設定される。例えば0.1mmである。上記の貫通孔16が、第一実施形態における糸走行空間1に相当する。一方、流体が流通する流体噴射孔3の一部が、符号18で示されるように第1部材2に穿設される。換言すれば、流体噴射孔3の一部のみが第2部材4に形成される型である。
【0034】
次に、図面を参照しつつ、本発明の第二実施形態を説明する。図6は、本発明の第二実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面図である。図7は、本発明の第二実施形態に係る多糸条用交絡装置の平面図である。図6においては、本実施形態の特長の円滑な理解を図るべく、第1部材2と第3部材6との組み合わせと、第2部材4と第4部材7との組み合わせと、の相対的な位置関係を紙面において上下逆さまに描いている。以下、上記第一実施形態と重複する説明は、適宜割愛する。
【0035】
本実施形態に係る多糸条用交絡装置100においては、図3に示される糸挿入隙間5に相当する隙間は存在せず、第1部材2の第1面10と第2部材4の第2面11は略保密状に当接しており、この第1部材2と第2部材4は相互に当接・離反を切り替えられるように構成される。具体的には、第1部材2は図7で示される複数のマルチフィラメント糸Yの糸道に対して相対的に固定され、一方で、第2部材4は第1部材2に対して相対的に移動可能とされる。第4部材7(第2部材4)は、第3部材6の並設方向一端に設けられ対向方向に延びる軸18を介して第3部材6(第1部材2)に対し枢設される。
【0036】
図7に示されるように、第1部材2の、軸18と糸走行空間1を挟んで反対側の端部には若干の突起19が形成され、この突起19と係合可能な窪み20が第2部材4に形成される。この構成で、第4部材7(第2部材4)を軸18回りで紙面時計回りに回動し、突起19と窪み20とを係合させると、それ以上の第4部材7の回動が制限される。この突起19と窪み20との係合は、オペレータが容易に解除できるように構成される。
【0037】
以上の構成で、複数のマルチフィラメント糸Yに対する交絡の付与を開始するには、(1)先ず、図6に示されるような第1部材2と第2部材4が相互に当接した状態、即ち閉の状態から、図7に示されるような第1部材2と第2部材4が相互に離反した状態、即ち開の状態となるように第4部材7を軸18回りに90度以上、回動させる。これにより、複数の糸走行空間1は外部に大きく露出した状態となる。(2)次に、複数のマルチフィラメント糸Yを相互に所定間隔を維持したまま吸引して捕捉している図略のサクションガンを用いて、各マルチフィラメント糸Yを各糸走行空間1内へ一度に挿入し、走行する各マルチフィラメント糸Yが糸走行空間1内に収容された状態で正常に走行していることを確認した上で、各マルチフィラメント糸Yを多糸条用交絡装置100の下流側に設けられる図略のガイドローラへ同時に糸掛けする。(3)そして、図7に示される開の状態から、図6に示される閉の状態となるように第4部材7を軸18回りに再度、90度以上、回動させて、窪み20を突起19に対して係合させる。このとき、上記(2)の段階で、各マルチフィラメント糸Yが糸走行空間1内に収容されているのを既に確認しているので、第4部材7を回動させて図7に示される閉の状態とする際に、第2部材4が第1部材2との間でマルチフィラメント糸Yを挟んでしまうといった問題が発生する余地がない。以上の動作により、突起19と窪み20との係合によって第1部材2に対する第2部材4の回動が制限されると共に、第1部材2に対する第2部材4の略保密状な当接が実現される。(4)次いで、図略のコンプレッサを第2流路9に接続し、第2流路9に対して例えば圧縮空気などの流体を供給する。
【0038】
以上説明したように、本実施形態において多糸条用交絡装置100は、以下のように構成される。即ち、前記第1部材2と前記第2部材4は、相互に当接・離反できるように構成される。以上の構成によれば、(a)相互の当接により、各糸走行空間1に噴射された流体の前記の第1部材2と第2部材4の間からの吹き抜けと、各マルチフィラメント糸Yの飛び出しと、を防止できると共に、(b)相互の離反により、各マルチフィラメント糸Yを各糸走行空間1に挿入する作業が容易となる。更には、前記マルチフィラメント糸Yが前記糸走行空間1から飛び出るのを防止できる。
【0039】
また、上記の多糸条用交絡装置100は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第1部材2は複数のマルチフィラメント糸Yの糸道に対して相対的に固定される。前記第2部材4は前記第1部材2に対して相対的に移動可能とされる。以上の構成によれば、前記第1部材2と前記第2部材4を相互に当接・離反させたとしても、各マルチフィラメント糸Yの糸道と各糸走行空間1との相対的な位置関係は変わらないので、この意味で、各マルチフィラメント糸Yの品質を低下させることを回避できる。
【0040】
また、上記の多糸条用交絡装置100は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第2部材4は、前記第1部材2に対して枢設される。以上の構成によれば、簡素な構成で、前記第1部材2と前記第2部材4の相互の当接・離反が実現される。
【0041】
次に、図面を参照しつつ、本発明の第三実施形態を説明する。図8は、本発明の第三実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面図である。以下、上記第二実施形態と重複する説明は、適宜割愛する。
【0042】
本実施形態に係る多糸条用交絡装置100において、前述の軸18は、上記第二実施形態と異なり、糸走行方向に延びる。そして、この糸走行方向に延びる軸18を介して、第4部材7(第2部材4)は、第3部材6(第1部材2)に対して枢設される。また、前述の突起19が形成される箇所に相当する箇所に略示の永久磁石21が埋設され、同様に、前述の窪み20が形成される箇所に相当する箇所に略示の永久磁石22が埋設される。この永久磁石21と永久磁石22の磁気的な作用により第1部材2と第2部材4の略保密状の当接状態が実現されると共に、この当接状態を適宜に解除可能に構成される。
【0043】
次に、図面を参照しつつ、本発明の第四実施形態を説明する。図9は、本発明の第四実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面図である。以下、上記第二実施形態と重複する説明は、適宜割愛する。
【0044】
図9に示されるように、本実施形態に係る第3部材6は、並設方向において長尺に延在し、その延在長さは概ね第1部材2の倍とされる。そして、第3部材6のうち第1部材2と重複しない部分である延在部6aには、第4部材7の並設方向一端から延在部6aに向かって垂直に延びる連結部7cを摺動可能に保持するガイドレール23が設けられる。このガイドレール23によって第3部材6と第4部材7とが連結されることにより、第4部材7が並設方向において、第3部材6に対して相対的に移動可能に構成される。なお、実線で示す開の状態と、二点鎖線で示す閉の状態と、を確実に切り替えるための構成としては、例えば、図7において示した突起19と窪み20の組み合わせや、図8において示した永久磁石21と永久磁石22の組み合わせを、図9に示す第3部材6及び第4部材7に同様に適用したものが考えられる。
【0045】
以上説明したように、上記の多糸条用交絡装置100は、更に、以下のように構成される。即ち、前記第2部材4は、前記第1部材2に対して摺動可能とされる。以上の構成によれば、簡素な構成で、前記第1部材2と前記第2部材4の相互の当接・離反が実現される。
【0046】
以上、本発明の好適な第二〜第四実施形態について説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。即ち、例えば、第2部材4を第1部材2に対して単に着脱可能とする構成も考えられる。この着脱可能とする構成は、例えばボルト締結などの機械的な結合力や、永久磁石などを用いた磁気的な結合力などを利用することで実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第一実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面図
【図2】本発明の第一実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面断面図
【図3】本発明の第一実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面部分拡大断面図
【図4】図3に類似する図であって、本発明の第一実施形態の第一変形例に係る図
【図5】図3に類似する図であって、本発明の第一実施形態の第二変形例に係る図
【図6】本発明の第二実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面図
【図7】本発明の第二実施形態に係る多糸条用交絡装置の平面図
【図8】本発明の第三実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面図
【図9】本発明の第四実施形態に係る多糸条用交絡装置の正面図
【符号の説明】
【0048】
1 糸走行空間
2 第1部材
3 流体噴射孔
4 第2部材
5 糸挿入隙間
Y マルチフィラメント糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の糸条に対して交絡を付与する多糸条用交絡装置において、
各糸条が走行する空間としての糸走行空間の少なくとも一部が複数、形成される第1の部材と、
各糸走行空間へ噴射される流体が流通する流路の少なくとも一部が複数、形成される第2の部材と、
を備える、ことを特徴とする多糸条用交絡装置
【請求項2】
請求項1に記載の多糸条用交絡装置において、
各糸走行空間は、前記第1の部材に形成される溝と、前記第2の部材に形成される面と、の組み合わせにより構成される、
ことを特徴とする多糸条用交絡装置
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多糸条用交絡装置において、
各糸走行空間は、該糸走行空間へ噴射される流体の流れの方向において奥広がりである、
ことを特徴とする多糸条用交絡装置
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一に記載の多糸条用交絡装置において、
各糸走行空間は、該糸走行空間へ噴射される流体の流れの方向に関して線対称である、
ことを特徴とする多糸条用交絡装置
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一に記載の多糸条用交絡装置において、
前記第1の部材と前記第2の部材は、各糸条を挿入可能な糸挿入隙間を隔てて相互に固定され、
各糸条は、この糸挿入隙間を介して各糸走行空間へ挿入される、
ことを特徴とする多糸条用交絡装置
【請求項6】
請求項1〜4の何れか一に記載の多糸条用交絡装置において、
前記第1の部材と前記第2の部材は、相互に当接・離反できるように構成される、
ことを特徴とする多糸条用交絡装置
【請求項7】
請求項6に記載の多糸条用交絡装置において、
前記第1の部材は前記複数の糸条の糸道に対して相対的に固定され、
前記第2の部材は前記第1の部材に対して相対的に移動可能とされる、
ことを特徴とする多糸条用交絡装置
【請求項8】
請求項6又は7に記載の多糸条用交絡装置において、
前記第2の部材は、前記第1の部材に対して枢設される、
ことを特徴とする多糸条用交絡装置
【請求項9】
請求項6又は7に記載の多糸条用交絡装置において、
前記第2の部材は、前記第1の部材に対して摺動可能とされる、
ことを特徴とする多糸条用交絡装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−133018(P2009−133018A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−308383(P2007−308383)
【出願日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】