説明

多結晶シリコンロッドの破砕装置及び破砕方法

【課題】多結晶シリコンロッドを効率的に加熱してクラックを全体に生じさせて破砕する。
【解決手段】支持台に載置した状態で多結晶シリコンロッドRを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させて破砕する装置であって、支持台は、内部を冷却水が流れるパイプ部材11と、このパイプ部材11と多結晶シリコンロッドRとの間に介在させられるシリコン製のレール部材3とを有し、パイプ部材11の上に、シリコンに対して低熱拡散材料によりレール部材3を支持可能な補助部材14を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶シリコンロッドを塊状に破砕する多結晶シリコンロッドの破砕装置及び破砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体用の単結晶シリコンを製造する方法として、いわゆるチョクラルスキー法(CZ法)がある。このチョクラルスキー法は、多結晶シリコンをるつぼ内に入れて溶解し、その溶液から単結晶シリコンを引き上げる方法である。
この多結晶シリコンの製造方法としてシーメンス法があるが、このシーメンス法によって多結晶シリコンを製造する場合、ロッド状に形成されるため、チョクラルスキー法においてこの多結晶シリコンを材料として使用するためには、るつぼ内に効率よく装填できるよう適宜の大きさに破砕する必要がある。脆性材料である多結晶シリコンロッドは、ハンマー等で適宜の大きさに破砕されるが、その前処理として、加熱した多結晶シリコンロッドを純水に浸して急冷し、ロッドに生じる熱ひずみによってクラックを生じさせる技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1においては、多結晶シリコンを加熱する加熱炉を有する多結晶シリコンロッドの破砕装置が記載されている。この破砕装置は、加熱炉内に多結晶シリコンロッドを載せるための支持台を備えており、この支持台に多結晶シリコンロッドを載せた状態で加熱し、加熱後の多結晶シリコンロッドを水槽に投入してクラックを発生させるようにしている。
この種の破砕装置における支持台は、例えば、ステンレス(SUS)製のパイプ部材からなり、このパイプ部材内に冷却水を流すことでパイプ部材の温度上昇を抑えるようにしている。また、このパイプ部材は、シリコンに対して低熱拡散性材料であるチタンによってコーティングされており、ステンレスのパイプ部材に多結晶シリコンロッドが直接接触しないようにして、汚染を防止している。
【特許文献1】特開2005−288332号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に示されるような破砕装置は、冷却されているパイプ部材が多結晶シリコンロッドに近接しているため、パイプ部材の付近で多結晶シリコンロッドが部分的に冷却される。このため、多結晶シリコンロッドの熱がパイプ部材に奪われて全体が十分に加熱できなくなることがあった。このため、純水で急冷したときにこの部分だけ熱ひずみが生じにくくなり、多結晶シリコンロッド全体にクラックを生じさせることができず、十分な生産性が得られないという問題があった。さらに、多結晶シリコンロッドに接触している材料がシリコンに対して低拡散材料であるチタン等を用いているが、より高品質な多結晶シリコンを得るためには、十分な汚染防止対策とは言えないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、多結晶シリコンロッドを効率的に加熱してクラックを全体に生じさせて破砕することができる多結晶シリコンロッドの破砕装置及び破砕方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る破砕装置は、支持台に載置した状態で多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させて破砕する装置であって、前記支持台は、内部を冷却水が流れるパイプ部材と、このパイプ部材と多結晶シリコンロッドとの間に介在させられるシリコン製のレール部材とを有することを特徴とする。
【0007】
この破砕装置では、冷却水によって冷却されているパイプ部材と多結晶シリコンロッドとの間にレール部材が介在するので、パイプ部材から多結晶シリコンロッドまでの距離を長くすることができ、パイプ部材によって多結晶シリコンロッドが部分的に冷却されることを防ぐことができる。しかも、レール部材は多結晶シリコンロッドと同一部材であるため、このレール部材により多結晶シリコンロッドを汚染することがない。また、このレール部材は、シリコン製であるため、例えば、シード材の製造工程で発生する端材をそのまま利用することが可能である。
【0008】
また、本発明の破砕装置において、前記パイプ部材の上に、シリコンに対して低熱拡散材料により前記レール部材を支持可能な補助部材を設けたことを特徴とする。
この補助部材により、パイプ部材とレール部材が直接接触することを防ぎ、しかも、この補助部材が低熱拡散材料であることにより、多結晶シリコンロッドの汚染をさらに抑えることができる。
【0009】
さらに、本発明の破砕装置において、前記補助部材の上面側に前記レール部材を収納可能な凹部を設けたことを特徴とする。
この構成としたことにより、レール部材を補助部材に対して簡単に設置でき、設置後にはレール部材が外れたりすることが防止され、多結晶シリコンロッドを安定した状態で載置することができる。
【0010】
また、本発明に係る破砕方法は、支持台に載置した状態で多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させて破砕する方法において、前記支持台の上にシリコン製のレール部材を敷いて多結晶シリコンロッドを載置し、この状態で加熱して、その後急冷することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る破砕装置及び破砕方法によれば、シリコン製のレール部材を設けたことにより、パイプ部材によって多結晶シリコンロッドが部分的に冷却されることが防止され、多結晶シリコンロッド全体を十分に加熱でき、純水による急冷時には、熱ひずみを効率的に生じさせて全体にクラックを発生させることができ、均一に破砕することができる。
また、シリコン製のレール部材としたことにより、多結晶シリコンロッドの汚染を最小限に抑えることができるとともに、多結晶シリコンロッドの製造過程でレール部材を製作することが可能であり、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る多結晶シリコンロッドの破砕装置及び破砕方法の実施形態を図面を参照しながら説明する。
この実施形態の破砕装置1は、多結晶シリコンロッドRを載置状態に支持するための支持台2と、この支持台2上で多結晶シリコンロッドRの下に敷かれるレール部材3と、該レール部材3を介して支持台2上に載置した状態の多結晶シリコンロッドRを加熱するための加熱器4と、支持台2に載置したまま多結晶シリコンロッドRを純水に浸漬させて冷却するための冷却手段としての水槽5とを備えている。
【0013】
支持台2は、複数本のパイプ部材11を相互に間隔をあけて並べて一体化してなり、これらパイプ部材11の両端に、各パイプ部材11に連通するヘッダ部材12が配設され、これらヘッダ部材12が図示略の吊り下げ機から吊下げ部材13を介して吊下げられた構成とされている。また、各パイプ部材11の上にはレール部材3を支持可能な補助部材14が設けられている。
【0014】
パイプ部材11は、例えば、ステンレス(SUS)を材料として多結晶シリコンロッドRよりも長尺状に設けられ、その内側には給排管15を経由して外部から送られる冷却水が流れている。この給排管15にパイプ部材11を接続するためのヘッダ部材12は、各パイプ部材11の両端を一括して保持するように設けられており、各ヘッダ部材12の外側に設けた吊下げ部材13によって吊下げ機から支持されている。そして、その吊下げ機によって支持台2を加熱器4と水槽5との間で往復移動させることができるようになっている。
【0015】
この場合、多結晶シリコンロッドRは、2本のパイプ部材11に対して1本が載置され、本実施形態においては、パイプ部材11が4本並べられていることにより、これら4本のパイプ部材11の上に2本の多結晶シリコンロッドRと、この2本の多結晶シリコンロッドRの上に更に1本の多結晶シリコンロッドRを載置して、合わせて3本の多結晶シリコンロッドRを一度に載置した状態とすることができるようになっている。ただし、この実施形態の構造に限るものではなく、パイプ部材11は、4本以外に設定することで一度に取り扱う多結晶シリコンロッドRの本数を変えてもよい。
【0016】
レール部材3は、シリコン製からなるものであり、この実施形態では、多結晶シリコン製造用のシード材をエッチング洗浄したものが用いられる。このシード材は、シーメンス法によって多結晶シリコンロッドRを製造する際に、最初に反応炉内に設けられ、そのシード材の周囲に多結晶シリコンをロッド状に析出させるものであり、多結晶シリコンロッドRを切断して形成される。したがって、このレール部材3は、多結晶シリコンロッドRと同一材料になっている。また、その形状は、断面略矩形状で適宜の長さに形成され、本実施形態においては、後述する補助部材14の凹部14aに収納可能な幅寸法で、また、パイプ部材11と略同じ長さに形成されている。このレール部材3は、パイプ部材11と多結晶シリコンロッドRとの間に介在した状態でパイプ部材11に載置可能に設けられているため、パイプ部材11と多結晶シリコンロッドRとの間の距離L(図3参照)を長くできるようになっている。
【0017】
補助部材14は、例えば、チタン(Ti)等のシリコンに対する低熱拡散材料からなり、図3に示すように断面略H形状の棒状に形成されている。補助部材14の上面側には、レール部材3を収納可能な凹部14aが長さ方向に沿って形成され、また、補助部材14の底面側にも凹状部14bが長さ方向に沿って形成されている。そして、この補助部材14は、底面側の凹状部14bにパイプ部材11を嵌合させ、上面側の凹部14aを上方に向けた状態としてパイプ部材11に固定されている。
【0018】
一方、加熱器4は、パイプ部材11よりも長尺状の2つの半円筒部材21a,21bがヒンジ部を介して開閉自在に繋げられ、横向き姿勢で装置本体(図示略)に支持されており、これら半円筒部材21a,21bの内周面には適宜数のヒータ22が設けられている。そして、これら半円筒部材21a,21bを閉じ合わせて円筒状とし、その内部空間に支持台2を配置することにより、該支持台2の周囲を囲った状態とすることができるようになっている。この場合、下側の半円筒部材21aは装置本体に上方を開放した状態で固定され、図示略の駆動手段によって上側の半円筒部材21bを開閉する構成である。そして、支持台12は、上側の半円筒部材21bを開いて下側の半円筒部材21aの上方が開放状態とされているときに、図1に示すように下側の半円筒部材21aの上に配置された位置と、その前側下方に配置された水槽5との間で往復移動させられるようになっている。
【0019】
水槽5は、加熱した多結晶シリコンロッドRを急冷するための冷却手段として設けられ、純水が満たされており、支持台2に載置された状態の多結晶シリコンロッドRを支持台12ごと水没させ得る大きさに形成されている。
【0020】
次に、このように構成した破砕装置1によって多結晶シリコンロッドRを破砕する方法について説明する。
多結晶シリコンロッドRは、予め純水により洗浄しておく。そして、加熱器4の半円筒部材21a,21bを開いた状態とするとともに、その下側の半円筒部材21aに支持台12を配置し、その支持台12のパイプ部材11に対して前述のように3本の多結晶シリコンロッドRを載置する。このとき、図1及び図3に示すように、支持台2におけるパイプ部材11の上には、補助部材14を介してレール部材3が設けられているため、多結晶シリコンロッドRを載置したときに、レール部材3がこの多結晶シリコンロッドRの下側に敷かれた状態になる。
【0021】
そして、この支持台2のパイプ部材11の上に載置した状態で多結晶シリコンロッドRの上方から半円筒部材21bを被せて両半円筒部材21a,21bを円筒状に閉じ合わせることにより、多結晶シリコンロッドRをこれら半円筒部材21a,21bにより囲った状態とし、ヒータ22により多結晶シリコンロッドRを表面温度が例えば600〜800℃となるように加熱する。このとき、パイプ部材11の内側には冷却水を流しておく。
【0022】
本実施形態の破砕装置1は、シリコン製のレール部材3をパイプ部材11と多結晶シリコンロッドRとの間に介在させているので、そのレール部材3の厚さ分、パイプ部材11と多結晶シリコンロッドRとを離間させた状態とし、その間の距離L(図3参照)を長くすることができ、冷却水により冷却されたパイプ部材11によって多結晶シリコンロッドRが部分的に冷却されることを防止することができる。従って、多結晶シリコンロッドRは、部分的な温度差が生じることなく全体が均一に加熱される。また、レール部材3は、多結晶シリコンロッドRと同一部材であるため、多結晶シリコンロッドRを汚染することがない。
【0023】
なお、補助部材14として用いられているチタン(Ti)は、400℃以上の高温では強度が低下するが、パイプ部材11に接触して冷却されるとともに、そのパイプ部材11が凹状部14b内に嵌合して、補助部材14を内側から支持しているので、高温時でも形状が保持される。
【0024】
そして、この多結晶シリコンロッドRの加熱後には、吊下げ機を駆動して図2の矢印で示すように支持台2を移動し、パイプ部材11やレール部材3、補助部材14ごと多結晶シリコンロッドRを水槽5の純水中に浸漬させて急冷する。この急冷時の熱衝撃によって多結晶シリコンロッドRに熱ひずみが生じ、クラックが発生して、その一部は破砕する。このとき、多結晶シリコンロッドR全体が高温に加熱されていることにより、このクラックを多結晶シリコンロッドR全体に生じさせることができる。
【0025】
また、レール部材3は、多結晶シリコンロッドRと比較して極めて細長い形状であるため、急冷時に外部と内部との間に温度差が生じ難く、クラックが生じることは少ない。したがってこのレール部材3を再度利用することができるが、仮にクラックが生じて破砕したとしても、細長い棒状であったため、その破砕品は、大径の多結晶シリコンロッドRの破砕品とは区別することが可能である。
そして、多結晶シリコンロッドRにクラックを生じさせた後には、図示しないプレス機やハンマー等の破砕機により機械的に衝撃を加えて破砕する。これにより、多結晶シリコンロッドRを適当な大きさの塊状に破砕することができる。
【0026】
このように、この破砕装置1では、冷却水によって冷却されているパイプ部材11と多結晶シリコンロッドRとの間にレール部材3が介在するので、パイプ部材11によって多結晶シリコンロッドRが部分的に冷却されることが防止され、多結晶シリコンロッドR全体に均等にクラックを生じさせることができ、その後の機械的衝撃による破砕作業を容易にすることができる。しかも、レール部材3は多結晶シリコンロッドRと同一部材であるため、このレール部材3により多結晶シリコンロッドRを汚染することがない。また、このレール部材3は、シリコン製であるため、シード材の製造工程で発生する端材をそのまま利用することが可能であり、経済的である。
【0027】
なお、本実施形態においては、長尺状に設けたレール部材3、及び補助部材14をパイプ部材11の長さ方向に沿って設けて、多結晶シリコンロッドRの全長にわたってレール部材3が接触するように介在させているが、このレール部材は、多結晶シリコンロッドRを支持台2に載置したときに、パイプ部材11との間に介在させられて多結晶シリコンロッドRをパイプ部材11から離間できる構成となっているものであれば、その形状や大きさは前記実施形態のものに限るものではない。例えば、レール部材及び補助部材をパイプ部材11の長さ方向の複数個所に部分的に設けるものでもよい。
【0028】
また、補助部材もチタン以外の各種の低熱拡散材料を用いることができる。また、冷却手段についても、実施形態では水槽5に水没させる構成としたが、例えば、シャワー等によって多結晶シリコンロッドRに上方から水をかける手段としてもよい。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る多結晶シリコンロッドの破砕装置の一実施形態を示した一部を破断した斜視図である。
【図2】図1の破砕装置における支持台に多結晶シリコンロッドを載置した状態を示した斜視図である。
【図3】図1の破砕装置における支持台への多結晶シリコンロッドの載置状態を示した要部の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 破砕装置
2 支持台
3 レール部材
4 加熱器
5 水槽
11 パイプ部材
12 ヘッダ部材
13 吊下げ部材
14 補助部材
14a 凹部
14b 凹状部
R 多結晶シリコンロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持台に載置した状態で多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させて破砕する装置であって、前記支持台は、内部を冷却水が流れるパイプ部材と、このパイプ部材と多結晶シリコンロッドとの間に介在させられるシリコン製のレール部材とを有することを特徴とする多結晶シリコンロッドの破砕装置。
【請求項2】
前記パイプ部材の上に、シリコンに対して低熱拡散材料により前記レール部材を支持可能な補助部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の多結晶シリコンロッドの破砕装置。
【請求項3】
前記補助部材の上面側に前記レール部材を収納可能な凹部を設けたことを特徴とする請求項2に記載の多結晶シリコンロッドの破砕装置。
【請求項4】
支持台に載置した状態で多結晶シリコンロッドを加熱した後に急冷することによりクラックを発生させて破砕する方法において、前記支持台の上にシリコン製のレール部材を敷いて多結晶シリコンロッドを載置し、この状態で加熱して、その後急冷することを特徴とする多結晶シリコンロッドの破砕方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−190001(P2009−190001A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36063(P2008−36063)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】