説明

多能性幹細胞を未分化状態で培養する培地、細胞培養および方法

塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β−3、および少なくとも約50マイクログラム/mlの濃度でのアスコルビン酸(または、約400〜600マイクログラム/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約50〜200ng/mlの濃度範囲でのbFGF)、異種成分不含血清代替物および脂質混合物;約50〜200ピコグラム/ミリリットル(pg/ml)の濃度範囲でのIL6RIL6キメラ;または少なくとも2000単位/mlの濃度での白血病阻害因子(LIF)、を含み、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、新規の無血清培地が提供される。また、ヒト胚性幹細胞および人工多能性幹(iPS)細胞などの多能性幹細胞を含む細胞培養物、また、多能性幹細胞を、二次元または三次元培養系を使用し、未分化状態で増殖するためにそれを使用する新規の培地、方法、ならびに、iPS細胞を、基質接着および細胞カプセル化を有しない浮遊培養下で増殖する方法、が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その一部の実施形態では、幹細胞を多能性および未分化状態で維持するのに使用可能な異種成分不含培地、また限定された培地に対する一部の実施形態では、多能性幹細胞を浮遊培養下で培養するための、それを含む細胞培養物およびそれを使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト胚性幹細胞(hESC)の特異的分化能は、それらを、初期ヒト発生、系統関与、分化プロセスを試験し、かつ工業目的および細胞に基づく治療として使用されるべき最適モデルの1つとして明らかである。
【0003】
人工多能性(iPS)細胞は、インビトロおよびインビボの双方で3つの胚性胚葉の代表的組織に分化する能力を有するESC様細胞に再プログラム化される体細胞である。マウスまたはヒトiPS細胞は、体細胞における4つの転写因子、c−Myc、Oct4、Klf4およびSox2の過剰発現によって生成された。iPS細胞は、ESCと同じコロニー形態を形成し、かつ、Dnmt3a、Dnmt3b、Utf1、Tel1およびLIF受容体遺伝子などのあまり重要でないマーカー以外の、Myb、Kit、Dgf3およびZic3などの数種の典型的なESCマーカーを発現することが示され、それにより、iPS細胞がES細胞に類似するが同一でないことが確認された[TakahashiおよびYamanaka、2006年;Takahashiら、2007年;Meissnerら、2007年;Okitaら、2007年]。Yu Junyingら(Science 318:1917−1920頁、2007年)は、線維芽細胞由来iPS細胞およびhESCに共通の遺伝子発現パターンを見出した。
【0004】
さらなる試験によると、iPS細胞が、体細胞をOct4、Sox2、NanogおよびLin28で形質転換する一方、腫瘍遺伝子C−Mycの使用を省くことによって取得可能であることが示された[Yuら、2007年;Nakagawaら、2008年]。iPS細胞誘導方法の改善には、ウイルスベクターの代わりとしてのプラスミドの使用またはゲノムへの組込みを全く伴わない誘導が含まれ、その場合、臨床用途におけるiPS細胞の将来の使用が簡素化されうる[Yu J.ら、Science.2009年、324:797−801頁]。
【0005】
現在利用可能なiPS細胞は、胚性線維芽細胞[TakahashiおよびYamanaka、2006年;Meissnerら、2007年]、hESCから形成される線維芽細胞[Parkら、2008年]、胎児線維芽細胞[Yuら、2007年;Parkら、2008年]、包皮線維芽細胞[Yuら、2007年;Parkら、2008年]、成体皮膚および皮膚組織[Hannaら、2007年;Lowryら、2008年]、b−リンパ球[Hannaら、2007年]、ならびに成体肝および胃細胞[Aoiら、2008年]、に由来するものである。
【0006】
iPS細胞は、hESCと同様、従来から二次元培養下で支持層を用いて培養され、それは未分化状態でのその連続的成長を可能にする。例えば、iPS細胞は、ウシ胎仔血清(FBS)が補充された培地の存在下で、不活性化マウス胚性線維芽細胞(MEF)または包皮線維芽細胞からなるフィーダー層上で培養された[TakahashiおよびYamanaka、2006年、Meisnnerら(at al)、2007年]。培養方法のさらなる改善には、iPS細胞を、血清代替物および10ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含有するより限定された培地の存在下、MEFフィーダー層上で培養することが含まれる(Parkら、2008年)。しかし、臨床用途(例えば細胞に基づく治療)または工業目的としては、iPS細胞は、制御プロセスを伴う、限定された異種成分不含(例えば動物フリー)およびスケーラブルな培養系下で培養される必要がある。
【0007】
PCT公開の国際公開第2007/026353号パンフレットでは、ヒト胚性幹細胞を二次元培養系下、未分化状態で維持することを目的とした、TGFβアイソフォーム、またはIL6および可溶性IL6受容体の間で形成されるキメラ(IL6RIL6)を含む、十分に限定された異種成分不含培地が開示されている。
【0008】
米国特許出願公開第2005/0233446号明細書では、hESCを、未分化状態で、Matrigel(商標)上で培養される場合に維持するため、bFGF、インスリンおよびアスコルビン酸を含む限定培地が開示されている。
【0009】
Ludwig T.E.ら、2006年(Nature Biotechnology,24:185−7頁)では、hESCを、コラーゲンIV、フィブロネクチン、ラミニンおよびビトロネクチンからなるマトリックス上で培養するためのTeSR1限定培地が開示されている。
【0010】
米国特許出願公開第2009/0029462号明細書では、多能性幹細胞を、微小担体または細胞カプセル化を用いて懸濁液中で増殖する方法が開示されている。
【0011】
PCT公開の国際公開第2008/015682号パンフレットでは、ヒト胚性幹細胞を、基質接着を有しない培養条件下の浮遊培養下で増殖・維持する方法が開示されている。
【0012】
米国特許出願公開第2007/0155013号明細書では、多能性幹細胞を、多能性幹細胞に接着する担体を使用し、懸濁液中で成長させる方法が開示されている。
【0013】
米国特許出願公開第2008/0241919号明細書(Parsonsら)では、多能性幹細胞を、無細胞マトリックスを含む細胞培養容器内の、bFGF、インスリンおよびアスコルビン酸を含む培地中で、浮遊培養下で培養する方法が開示されている。
【0014】
米国特許出願公開第2008/0159994号明細書(Mantalarisら)では、アルギン酸ビーズ内部にカプセル化された多能性ES細胞を、血清代替物およびbFGFを含む培地中の三次元培養下で培養する方法が開示されている。
【0015】
米国特許出願公開第2007/0264713号明細書では、未分化幹細胞を、ならし培地を使用する容器内、微小担体上で浮遊培養する方法が開示されている。
【発明の概要】
【0016】
本発明の一部の実施形態の態様によると、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β−3(TGFβ3)およびアスコルビン酸を含む、無血清および異種成分不含培地であって、ここで培地中のアスコルビン酸の濃度は、少なくとも約50μg/mlであり、またここで培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持(feeder cell support)の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、培地が提供される。
【0017】
本発明の一部の実施形態の態様によると、約400〜600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、異種成分不含血清代替物および脂質混合物を含む、無血清および異種成分不含培地であって、ここで培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、培地が提供される。
【0018】
本発明の一部の実施形態の態様によると、約50〜200ピコグラム/ミリリットル(pg/ml)の濃度範囲でのIL6RIL6キメラを含む、無血清の培地であって、ここで培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、培地が提供される。
【0019】
本発明の一部の実施形態の態様によると、少なくとも2000単位/mlの濃度での白血病阻害因子(LIF)を含む、無血清の培地であって、ここで培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、培地が提供される。
【0020】
本発明の一部の実施形態の態様によると、約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)および血清代替物を含む培地であって、ここで培地は、多能性幹細胞を、浮遊培養下で、未分化状態で維持する能力を有する、培地が提供される。
【0021】
本発明の一部の実施形態の態様によると、塩基性媒体、約50μg/ml〜約500μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約2ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲でのbFGF、L−グルタミン、および血清代替物からなる培地が提供される。
【0022】
本発明の一部の実施形態の態様によると、塩基性媒体、約50μg/ml〜約500μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約2ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲でのbFGF、L−グルタミン、血清代替物および脂質混合物からなる培地が提供される。
【0023】
本発明の一部の実施形態の態様によると、多能性幹細胞および本発明の培地を含む細胞培養物が提供される。
【0024】
本発明の一部の実施形態の態様によると、胚性幹細胞系を誘導する方法であって、(a)胚性幹細胞を、胎児の着床前期胚盤胞、着床後期胚盤胞および/または生殖器組織から得るステップと、(b)胚性幹細胞を本発明の培地中で培養するステップと、を含み、それによって胚性幹細胞系を誘導する、方法が提供される。
【0025】
本発明の一部の実施形態の態様によると、人工多能性幹細胞系を誘導する方法であって、(a)体細胞を多能性幹細胞に誘導するステップと、(b)多能性幹細胞を本発明の培地中で培養するステップと、を含み、それによって人工多能性幹細胞系を誘導する、方法が提供される。
【0026】
本発明の一部の実施形態の態様によると、多能性幹細胞を未分化状態で増殖・維持する方法であって、多能性幹細胞を本発明の培地中で培養するステップを含み、それによって多能性幹細胞を未分化状態で増殖・維持する、方法が提供される。
【0027】
本発明の一部の実施形態の態様によると、多能性幹細胞を未分化状態で増殖・維持する方法であって、多能性幹細胞を、無血清、無フィーダー、マトリックス不含およびタンパク質担体不含であり、かつ約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む培地中で培養するステップを含み、ここで培地は多能性幹細胞を未分化状態で維持する能力を有する、方法が提供される。
【0028】
本発明の一部の実施形態の態様によると、多能性幹細胞を増殖し、かつ多能性幹細胞を未分化状態で維持する方法であって、多能性幹細胞を、無血清および異種成分不含培地中、フィーダー細胞層上で培養するステップを含み、ここで培地は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β−3(TGFβ3)およびアスコルビン酸を含み、ここで培地中のアスコルビン酸の濃度は、少なくとも50μg/mlであり、またここで培地は、多能性幹細胞を未分化状態で維持する能力を有し、それによって幹細胞を未分化状態で増殖・維持する、方法が提供される。
【0029】
本発明の一部の実施形態の態様によると、多能性幹細胞を増殖し、かつ多能性幹細胞を未分化状態で維持する方法であって、多能性幹細胞を、無血清および異種成分不含培地中、フィーダー細胞層上で培養するステップを含み、ここで培地は、約400〜600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、異種成分不含血清代替物および脂質混合物を含み、ここで培地は、多能性幹細胞を未分化状態で維持する能力を有し、それによって幹細胞を未分化状態で増殖・維持する、方法が提供される。
【0030】
本発明の一部の実施形態の態様によると、人工多能性幹(iPS)細胞を増殖し、かつiPS細胞を未分化状態で維持する方法であって、iPS細胞を、基質接着を有せず細胞カプセル化を有しないでかつiPS細胞の未分化状態での増殖を可能にする培養条件下の浮遊培養下で培養するステップを含み、それによってiPS細胞を未分化状態で増殖・維持する、方法が提供される。
【0031】
本発明の一部の実施形態の態様によると、系統特異的細胞を多能性幹細胞から生成する方法であって、(a)多能性幹細胞を本発明の方法に従って培養し、それによって増殖された未分化幹細胞を得るステップと、(b)増殖された未分化幹細胞を、系統特異的細胞の分化および/または増殖に適した培養条件下に置くステップと、を含み、それによって系統特異的細胞を多能性幹細胞から生成する、方法が提供される。
【0032】
本発明の一部の実施形態の態様によると、胚様体を多能性幹細胞から生成する方法であって、(a)多能性幹細胞を本発明の方法に従って培養し、それによって増殖された未分化多能性幹細胞を得るステップと、(b)増殖された未分化多能性幹細胞を、幹細胞の胚様体への分化に適した培養条件下に置くステップと、を含み、それによって胚様体を多能性幹細胞から生成する、方法が提供される。
【0033】
本発明の一部の実施形態の態様によると、系統特異的細胞を多能性幹細胞から生成する方法であって、(a)多能性幹細胞を本発明の方法に従って培養し、それによって増殖された未分化多能性幹細胞を得るステップと、(b)増殖された未分化多能性幹細胞を、増殖された未分化幹細胞の胚様体への分化に適した培養条件下に置くステップと、(c)胚様体の細胞を系統特異的細胞の分化および/または増殖に適した培養条件下に置くステップと、を含み、それによって系統特異的細胞を多能性幹細胞から生成する、方法が提供される。
【0034】
本発明の一部の実施形態によると、細胞培養物は、フィーダー細胞を含まない。
【0035】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、多能性幹細胞を、浮遊培養下で培養される場合、未分化状態で増殖する能力を有する。
【0036】
本発明の一部の実施形態によると、幹細胞は、胚性幹細胞である。
【0037】
本発明の一部の実施形態によると、幹細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞である。
【0038】
本発明の一部の実施形態によると、胚性幹細胞は、ヒト胚性幹細胞である。
【0039】
本発明の一部の実施形態によると、人工多能性幹細胞は、ヒト人工多能性幹細胞である。
【0040】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、多能性幹細胞を未分化状態で増殖する能力を有する。
【0041】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)をさらに含む。
【0042】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、血清代替物をさらに含む。
【0043】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のTGFβ3の濃度は、少なくとも約0.5ng/mlである。
【0044】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のTGFβ3の濃度は、約2ng/mlである。
【0045】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のbFGFの濃度は、少なくとも約5ng/mlである。
【0046】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のbFGFの濃度は、約5ng/ml〜約200ng/mlの範囲内である。
【0047】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のアスコルビン酸の濃度は、約400マイクログラム/ミリリットル(μg/ml)〜約600μg/mlの範囲内である。
【0048】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のアスコルビン酸の濃度は、約500μg/ml(マイクログラム/ミリリットル)である。
【0049】
本発明の一部の実施形態によると、培養は、マトリックス上で行われる。
【0050】
本発明の一部の実施形態によると、マトリックスは、細胞外マトリックスを含む。
【0051】
本発明の一部の実施形態によると、細胞外マトリックスは、フィブロネクチンマトリックス、ラミニンマトリックス、および包皮線維芽細胞マトリックスからなる群から選択される。
【0052】
本発明の一部の実施形態によると、マトリックスは、異種成分を含まない。
【0053】
本発明の一部の実施形態によると、フィーダー細胞層は、異種成分を含まない。
【0054】
本発明の一部の実施形態によると、フィーダー細胞層は、包皮線維芽細胞を含む。
【0055】
本発明の一部の実施形態によると、bFGFは、約0.1ng/ml〜約500ng/mlの濃度範囲であり、TGFβ3は、約0.1ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲であり、アスコルビン酸は、約50μg/ml〜約5000μg/mlの濃度範囲である。
【0056】
本発明の一部の実施形態によると、bFGFは、約5ng/ml〜約150ng/mlの濃度範囲であり、TGFβ3は、約0.5ng/ml〜約5ng/mlの濃度範囲であり、アスコルビン酸は、約400μg/ml〜約600μg/mlの濃度範囲である。
【0057】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、血清代替物をさらに含む。
【0058】
本発明の一部の実施形態によると、血清代替物は、異種成分を含まない。
【0059】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、脂質混合物をさらに含む。
【0060】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約5%〜約10%の濃度での重炭酸ナトリウムをさらに含む。
【0061】
本発明の一部の実施形態によると、脂質混合物は、約1%の濃度である。
【0062】
本発明の一部の実施形態によると、IL6RIL6キメラの濃度は、約100pg/mlである。
【0063】
本発明の一部の実施形態によると、LIFの濃度は、約2000〜4000単位/mlの範囲内である。
【0064】
本発明の一部の実施形態によると、培養は、浮遊培養下で行われる。
【0065】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、TGFβ3を含まない。
【0066】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、0.1ng/ml以下のTGFβ3を含む。
【0067】
本発明の一部の実施形態によると、浮遊培養の培地は、無血清および無フィーダー細胞である。
【0068】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、無血清であり、かつ動物汚染物質を含まない。
【0069】
本発明の一部の実施形態によると、前記bFGFの濃度は、約100ng/mlである。
【0070】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約50〜200ピコグラム/ミリリットル(pg/ml)の濃度範囲でのIL6RIL6キメラを含み、ここで培地は、iPS細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する。
【0071】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、少なくとも2000単位/mlの濃度での白血病阻害因子(LIF)を含み、ここで培地は、iPS細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する。
【0072】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む。
【0073】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約50〜200ナノグラム/ミリリットル(ng/ml)の濃度範囲でのIL6RIL6キメラを含む。
【0074】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)をさらに含む。
【0075】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、タンパク質担体を含まない。
【0076】
本発明の一部の実施形態によると、増殖するステップは、約1か月後に、少なくとも約8×10個の細胞を単一の多能性幹細胞から得るステップを含む。
【0077】
本発明の一部の実施形態によると、培地中で培養された多能性幹細胞は、少なくとも2継代後、正常な染色体核型を示す。本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞は、少なくとも20時間の倍加時間を示す。
【0078】
本発明の一部の実施形態によると、維持するステップは、少なくとも5継代にわたる。
【0079】
特に規定されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術および/または科学用語は、本発明に関係する当業者によって共通に理解される場合と同じ意味を有する。本明細書中に記載の場合に類似するかまたは等しい方法および材料は、本発明の実施形態を実行または試験する上で使用しうるが、典型的な方法および/または材料は、下記の通りである。内容的な不一致が生じる場合には、定義を含む特許明細書が優先されることになる。さらに、材料、方法、および例は、あくまで例示されるものであり、必ずしも限定することを意図していない。
【0080】
本発明の一部の実施形態は、添付の図面を参照して、あくまで例示として本明細書中に記載される。ここで特に図面を詳細に参照することで、示される詳細内容が、例示であり、本発明の実施形態の例示的考察を目的とすることが強調される。これに関連し、当業者は、本発明の実施形態を実行可能にする方法を、図面に付けられる説明を通じて理解することになる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1A−C】本発明の一部の実施形態に従い、新規の異種成分不含(例えば、動物フリー、動物汚染を有しない)培地の存在下、異種成分不含二次元培養系上で培養されたiPS細胞のコロニー形態を表す写真である。J1.2−3は、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)支持層とともに、次の動物血清を含まない培地、すなわち、図1A−培地HA70(6継代);図1B−培地HA40/4(6継代);および図1C−培地D2(16継代)を使用し、培養された。
【図2A−C】iPS細胞の多能性のマーカーによる免疫蛍光染色を表す写真である。J1.2−3およびiF4 iPS細胞は、動物血清を含まない培地HA77の存在下、異種成分不含二次元培養系(HFF)上で少なくとも10継代培養され、次いで未分化マーカーとして次のマーカーで染色された。すなわち、図2A−J1.2−3 iPS細胞はOct4で染色され、図2B−iF4 iPS細胞はSSEA4で染色され、また図2C−iF4 iPS細胞はTRA−1−81で染色された。
【図3A−C】HFF由来のJ1.2−3 iPS細胞系の、次の異種成分不含培地中で指定される継代にわたり浮遊培養される場合での形態を表す写真である。図3A−J1.2−3 iPS細胞はyFL3培地中で16継代培養され、図3B−J1.2−3 iPS細胞はCM100F培地中で13継代培養され、図3C−J1.2−3 iPS細胞はyF100培地中で8継代培養された。iPS細胞は、浮遊培養される間、未分化細胞を有する球状構造をつくることに注目すること。
【図4】J1.2−3 iPS細胞の、浮遊培養下で長期培養期間後、マウス胚性線維芽細胞(MEF)上で培養される場合での形態を表す写真である。J1.2−3細胞は、CM100F培地中で37継代浮遊培養され、その後、それらはMEFとともに再培養され、それらのMEFとの培養の24時間後、典型的なiPSコロニー形態を形成する。
【図5A−C】iPS細胞の多能性のマーカーによる免疫蛍光染色を表す写真である。J1.2−3細胞は、培地CM100Fを使用し、20継代超にわたり浮遊培養され、次いで未分化幹細胞のマーカーで染色された。図5A−TRA−1−81;図5B−TRA−1−60;図5C−SSEA4。
【図6A−D】iPS細胞の多能性のマーカーによる免疫染色を表す写真である。J1.2−3細胞は、CM100F培地を使用し、少なくとも30継代浮遊培養され、次いでスピナーフラスコに移され、さらに30日間培養され、その後、細胞は未分化幹細胞のマーカーで染色された。図6A−Oct4;図6B−TRA−1−81;図6C−TRA−1−60;および図6D−SSEA4。
【発明を実施するための形態】
【0082】
その一部の実施形態では、本発明は、新規の培地、それを含む細胞培養物、ならびに多能性幹細胞を増殖性、多能性および未分化状態で維持する上でそれを使用する方法、またより詳細には、限定はされないが、hESCおよび人工多能性幹(iPS)細胞を、浮遊培養または二次元培養系で、増殖性、多能性および未分化状態で維持しながら、増殖する方法、に関する。
【0083】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明が、その適用において、以下の説明中に示されるかまたは実施例によって例示される詳述内容に必ずしも限定されないことは理解されるべきである。本発明は、他の実施形態で実施するかあるいは様々な方法で実行または実施することが可能である。
【0084】
本発明者らは、骨の折れる(laborious)実験の後に、限定される培地を設計しており、それは、無血清および異種成分不含であり(例えば動物汚染物質を含まない)、かつ、ヒトiPSおよびESCなどの多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する一方、全部で3つの胚性胚葉に分化させるその多能性能を保持することが可能である。
【0085】
したがって、以下の実施例セクションで示されるように、hESCおよびiPS細胞は、無血清、異種成分不含および限定培地(例えば、mHA40/4、HA75、HA76、HA77、HA78またはHA74)の存在下で、フィーダー層を含まない(例えば、合成マトリックス上;実施例1)かまたは異種成分を含まないフィーダー層に基づく(例えば、包皮線維芽細胞;図1A〜Cおよび2A〜C、実施例2)二次元培養系上で、未分化状態で培養された。培養下で、多能性幹細胞は、未分化形態を示すとともに、iPSまたはhESCに典型的な形態学的および分子特性、例えば正常な核型、多能性のマーカー(例えば、Oct4、SSEA4、TRA−1−81、TRA−1−60)の発現、および3つ胚性胚葉全部への分化能(インビトロ(少なくとも28継代後の胚様体の形成による)およびインビボ(少なくとも31継代後の奇形腫の形成による)の双方で)を示す。
【0086】
本明細書で使用される表現「多能性幹細胞」は、細胞を3つの胚性胚葉(すなわち、内胚葉、外胚葉および中胚葉)全部に分化する能力を有する細胞を示す。本発明の一部の実施形態によると、表現「多能性幹細胞」は、胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPS細胞)を包含する。
【0087】
表現「胚性幹細胞」は、妊娠後に形成される胚性組織から得られる細胞(例えば胚盤胞)(着床前(すなわち着床前胚盤胞))、着床後期/原腸形成前期の胚盤胞から得られる拡張胚盤胞細胞(EBC)(国際公開第2006/040763号パンフレットを参照)、および妊娠期間中の任意の時期、好ましくは妊娠の10週以前に胎児の生殖器組織から得られる胚性生殖(EG)細胞を含みうる。
【0088】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の多能性幹細胞は、例えばヒトまたは霊長動物(例えばサル)由来の胚性幹細胞である。
【0089】
本発明の胚性幹細胞は、周知の細胞培養方法を用いて入手可能である。例えば、ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚盤胞から単離しうる。ヒト胚盤胞は、典型的には、ヒト体内着床前胚または体外受精(IVF)胚から得られる。あるいは、単細胞ヒト胚は、胚盤胞期まで増殖しうる。ヒトES細胞の単離においては、透明帯が胚盤胞から除去され、内部細胞塊(ICM)が免疫手術によって単離され、ここでは栄養外胚葉細胞が溶解され、穏やかなピペッティングによって無傷ICMから除去される。次いで、ICMは、その増殖(outgrowth)を可能にする適切な培地を有する組織培養フラスコ内にプレーティングされる。9〜15日後、ICMから誘導された増殖物は、機械的解離または酵素的分解のいずれかによって塊に解離され、次いで細胞は、新しい組織培地上に再プレーティングされる。未分化形態を示すコロニーは、マイクロピペットによって個別に選択され、塊に機械的に解離され、再プレーティングされる。次いで、得られたES細胞は、4〜7日ごとに定期的に分割される。ヒトES細胞の調製方法に関するさらなる詳細については、Thomsonら、[米国特許第5,843,780号明細書;Science 282:1145頁、1998年;Curr.Top.Dev.Biol.38:133頁、1998年;Proc.Natl.Acad.Sci.USA92:7844頁、1995年];Bongsoら[Hum Reprod 4:706頁、1989年];およびGardnerら[Fertil.Steril.69:84頁、1998年]を参照のこと。
【0090】
市販の幹細胞が本発明のこの態様でも使用可能であることは理解されるであろう。ヒトES細胞は、NIHヒト胚性幹細胞レジストリー(NIH human embryonic stem cells registry)(www.escr.nih.gov)から購入することができる。市販の胚性幹細胞系の非限定例として、BG01、BG02、BG03、BG04、CY12、CY30、CY92、CY10、TE03、TE04およびTE06が挙げられる。
【0091】
拡張胚盤胞細胞(EBC)は、受精の少なくとも9日後の原腸形成前期の胚盤胞から入手可能である。胚盤胞を培養する前、内部細胞塊を露出させるため、透明帯は[例えばタイロード酸性溶液(Sigma Aldrich(St Louis,MO,USA))により]消化される。次いで、胚盤胞は、標準の胚性幹細胞培養方法を用い、受精後少なくとも9日から14日以下にわたり(すなわち原腸形成事象前)、インビトロで全胚として培養される。
【0092】
胚性生殖(EG)細胞は、当業者に既知の実験技術を用い、(ヒト胎児の場合)妊娠から約8〜11週目の胎児から得られる始原生殖細胞から調製される。生殖隆起は、解離され、小塊に切断され、その後、機械的解離により、細胞に分離される。次いで、EG細胞は、適切な培地を有する組織培養フラスコ内で成長される。細胞は、EG細胞に一致した細胞形態が認められるまで、典型的には7〜30日または1〜4継代にわたり、毎日交換される培地で培養される。ヒトEG細胞の調製方法に関するさらなる詳細については、Shamblottら、[Proc.Natl.Acad.Sci.USA95:13726頁、1998年]および米国特許第6,090,622号明細書を参照のこと。
【0093】
本明細書で使用される表現「人工多能性幹(iPS)細胞」(または胚性様幹細胞)は、体細胞(例えば成体体細胞)の脱分化によって得られる増殖性および多能性幹細胞を示す。
【0094】
本発明の一部の実施形態によると、iPS細胞は、ESCの場合と同様の増殖能によって特徴づけられ、それ故、ほぼ無限の時間、培養下で維持・増殖されうる。
【0095】
IPS細胞は、細胞を再プログラム化し、胚性幹細胞特性を得る遺伝子操作により、多能性を与えることが可能である。例えば、本発明のiPS細胞は、TakahashiおよびYamanaka、2006年、Takahashiら、2007年、Meissnerら、2007年、およびOkitaら、2007年)において本質的に記載のように、体細胞内でのOct−4、Sox2、Kfl4およびc−Mycの発現の誘発により、体細胞から生成しうる。それに加え、またはそれに代わり、本発明のiPS細胞は、Yuら、2007年およびNakagawaら、2008年において本質的に記載のように、Oct4、Sox2、NanogおよびLin28の発現の誘発により、体細胞から生成しうる。体細胞の遺伝子操作(再プログラミング)は、プラスミドまたはウイルスベクターの使用などの任意の既知の方法を用いるか、またはゲノムへの組込みを全く伴わない誘導により、実施可能であることは注目されるべきである[Yu J.ら、Science.2009年、324:797−801頁]。
【0096】
本発明のiPS細胞は、胚性線維芽細胞[TakahashiおよびYamanaka、2006年;Meissnerら、2007年]、hESCから形成される線維芽細胞[Parkら、2008年]、胎児線維芽細胞[Yuら、2007年;Parkら、2008年]、包皮線維芽細胞[Yuら、2007年;Parkら、2008年]、成体皮膚および皮膚組織[Hannaら、2007年;Lowryら、2008年]、b−リンパ球[Hannaら、2007年]、ならびに成体肝および胃細胞[Aoiら、2008年]の脱分化を誘発することによって入手可能である。
【0097】
IPS細胞系はまた、WiCellバンクなどの細胞バンクを介して入手可能である。市販のiPS細胞系の非限定例として、iPS包皮クローン1[WiCellカタログ番号:iPS(包皮)−1−DL−1]、iPSIMR90クローン1[WiCellカタログ番号:iPS(IMR90)−1−DL−1]、およびiPSIMR90クローン4[WiCellカタログ番号:iPS(IMR90)−4−DL−1]が挙げられる。
【0098】
本発明の一部の実施形態によると、人工多能性幹細胞は、ヒト人工多能性幹細胞である。
【0099】
本明細書で使用される表現「培地」は、多能性幹細胞の成長を支持し、それらを未分化状態で維持するのに使用される液体物質を示す。一部の実施形態に従う本発明によって使用される培地は、水に基づく培地であることができるが、それは、塩、栄養素、ミネラル、ビタミン、アミノ酸、核酸、タンパク質、例えば、サイトカイン、成長因子およびホルモンなどの物質の組み合わせを含み、それらのすべては、細胞増殖にとって必要であり、多能性幹細胞を未分化状態で維持する能力を有する。例えば、本発明の一部の実施形態の態様に従う培地は、合成組織培地、例えば、以下にさらに記載のように、必要な添加物が補充された、Ko−DMEM(Gibco−Invitrogen corporation製品(Grand Island,NY,USA))、DMEM/F12(Biological Industries(Biet Haemek,Israel))、Mab ADCB培地(HyClone(Utah,USA))でありうる。
【0100】
本明細書で使用される表現「フィーダー細胞支持」は、フィーダー細胞(例えば線維芽細胞)が、多能性幹細胞がフィーダー細胞上で共培養される場合、または多能性幹細胞が、フィーダー細胞によって生成されるならし培地の存在下でマトリックス(例えば、細胞外マトリックス、合成マトリックス)上で培養される場合に、多能性幹細胞を増殖性および未分化状態で維持する能力を示す。フィーダー細胞の支持は、培養下でありながらのフィーダー細胞の構造(例えば、フィーダー細胞を組織培養プレート内で培養することによって形成される三次元マトリックス)、フィーダー細胞の機能(例えば、フィーダー細胞による成長因子、栄養素およびホルモンの分泌、フィーダー細胞の成長速度、フィーダー細胞の老化前の増殖能)、および/または多能性幹細胞のフィーダー細胞層への付着、に依存する。
【0101】
本明細書で使用される表現「フィーダー細胞支持の不在」は、フィーダー細胞を含まない培地および/または細胞培養物、ならびに/あるいはそれによって生成されるならし培地を示す。
【0102】
本明細書で使用される表現「無血清」は、ヒトまたは動物血清を含まないことを示す。
【0103】
培養プロトコル上での血清の機能が、培養細胞を、インビボで存在する場合と同様の環境(すなわち、細胞が由来する生物の内部、例えば胚の胚盤胞)に提供することであることは注目されるべきである。しかし、動物源(例えばウシ血清)またはヒト源(ヒト血清)のいずれかに由来する血清の使用は、ドナー個体間(それらから血清が得られる)での血清成分中の有意な差異と異種成分汚染物質を有するリスク(動物血清が使用される場合)とによる制限を受ける。
【0104】
本発明の一部の実施形態によると、無血清培地は、血清またはその一部を含まない。
【0105】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の無血清培地は、血清アルブミン(例えば、ヒト血清または動物血清から精製されたアルブミン)を含まない。
【0106】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、血清代替物を含む。
【0107】
本明細書で使用される表現「血清代替物」は、血清の機能を、多能性幹細胞に成長および生存度にとって必要とされる成分を提供することによって代替する、限定された製剤を示す。
【0108】
様々な血清代替物製剤(serum replacement formulation)は、当該技術分野で既知であり、市販されている。
【0109】
例えば、GIBCO(商標)Knockout(商標)Serum Replacement(Gibco−Invitrogen Corporation(Grand Island,NY,USA)、カタログ番号10828028)は、培養下で未分化ES細胞を成長および維持するように最適化された、限定された無血清製剤である。GIBCO(商標)Knockout(商標)Serum Replacementの製剤が、動物源に由来するAlbumax(脂質を豊富に含有するウシ血清アルブミン)を含むことは注目されるべきである(国際特許公開番号、国際公開第98/30679号パンフレット(Price P.J.らに付与))。しかし、Crookら、2007年による最近の出版物(Crook J.M.ら、2007年、Cell Stem Cell,1:490−494頁)は、cGMPに基づいて作製されたKnockout(商標)Serum Replacement(Invitrogen Corporation,USA、カタログ番号04−0095)中のFDAで承認された臨床グレードの包皮線維芽細胞を使用して生成された6つの臨床グレードのhESC系について記載している。
【0110】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のGIBCO(商標)Knockout(商標)Serum Replacementの濃度は、約1%[容量/容量(v/v)]〜約50%(v/v)の範囲内、例えば約5%(v/v)〜約40%(v/v)、例えば約5%(v/v)〜約30%(v/v)、例えば約10%(v/v)〜約30%(v/v)、例えば約10%(v/v)〜約25%(v/v)、例えば約10%(v/v)〜約20%(v/v)、例えば約10%(v/v)、例えば約15%(v/v)、例えば約20%(v/v)、例えば約30%(v/v)である。
【0111】
別の市販されている血清代替物は、Gibco−Invitrogen Corporation,Grand Island,NY USA、カタログ番号12587−010から入手可能である、ビタミンAを有しないB27補給物である。B27補給物は、d−ビオチン、脂肪酸遊離画分Vウシ血清アルブミン(BSA)、カタラーゼ、L−カルニチンHCl、コルチコステロン、エタノールアミンHC1、D−ガラクトース(Anhyd.)、グルタチオン(還元)、組換えヒトインスリン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレッシン−2−HCl、亜セレン酸ナトリウム、超過酸化物不均化酵素、T−3/アルブミン複合体、DLα−トコフェロール、および酢酸DLαトコフェロールを含む無血清製剤である。しかし、B27補給物の使用は、それが動物源由来のアルブミンを含むことから、限定される。
【0112】
本発明の一部の実施形態によると、血清代替物は、異種成分を含まない。
【0113】
用語「異種(xeno)」は、ギリシャ語「クセノス(Xenos)」、すなわちストレンジャー(stranger)に基づく接頭辞である。本明細書で使用される表現「異種成分不含(xeno−free)」は、クセノス(すなわち同一でない、外来)種に由来する一切の成分を含有しないことを示す。かかる成分は、異種、異種の細胞成分または異種の一細胞成分(例えば流体)に関連した(例えば感染性の)病原体などの汚染物質でありうる。
【0114】
例えば、異種成分不含血清代替物は、インスリン、トランスフェリンおよびセレンの組み合わせを含みうる。それに加え、またはそれに代わり、異種成分不含血清代替物は、ヒトまたは組換え生成アルブミン、トランスフェリンおよびインスリンを含みうる。
【0115】
市販の異種成分不含血清代替物組成物の非限定例として、Invitrogen corporationから入手可能なITS(インスリン、トランスフェリンおよびセレン)の予混合物(ITS,Invitrogen、カタログ番号51500−056);ヒト血清アルブミン、ヒトトランスフェリング(transferring)およびヒト組換えインスリンを含み、かつ、成長因子、ステロイドホルモン、グルココルチコイド、細胞接着因子、検出可能なIgおよびマイトジェンを含有しないSerum replacement 3(Sigma、カタログ番号S2640)が挙げられる。
【0116】
本発明の一部の実施形態によると、異種成分不含血清代替製剤ITS(Invitrogen corporation)およびSR3(Sigma)は、×1の作用濃度に達するように、1:100比に希釈される。
【0117】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、多能性幹細胞を増殖性、多能性および未分化状態で、少なくとも約5継代、少なくとも約10継代、少なくとも約15継代、少なくとも約20継代、少なくとも約22継代、少なくとも約25継代、少なくとも約30継代、少なくとも約35継代、少なくとも約40継代、少なくとも約45継代、少なくとも約50継代、およびそれより長い継代、維持する能力を有する。
【0118】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、多能性幹細胞を未分化状態で増殖する能力を有する。
【0119】
本明細書で使用される用語「増殖する」は、培養期間にわたり、多能性幹細胞の数を(少なくとも約5%、10%、15%、20%、30%、50%、100%、200%、500%、1000%、およびそれより大きい%)増加させることを示す。単一の多能性幹細胞から得ることができる多能性幹細胞の数が、多能性幹細胞の増殖能に依存することは理解されるであろう。多能性幹細胞の増殖能は、細胞の倍加時間(すなわち、細胞が培養下での有糸分裂を経るのに必要な時間)によって計算可能であり、また多能性幹細胞培養物は、未分化状態で維持されうる(それは継代数×各継代間日数に相当する)。
【0120】
例えば、以下の実施例セクションの実施例1に記載のように、hESCまたはヒトiPS細胞は、無フィーダーマトリックス上で培養される場合、mHA40/4、HA75、HA76、HA78およびHA74/1培地の存在下、増殖性、多能性および未分化状態で、少なくとも22継代維持されうる。各継代が4〜7日毎に行われると仮定すると、hESCまたはヒトiPS細胞は、110日間(すなわち2640時間)維持された。hESCまたはヒトiPSの倍加時間が36時間であると仮定すると、これらの条件下で培養される単一のhESCまたはヒトiPS細胞であれば、増殖により、273(すなわち9.4×1021)個のhESCまたはヒトiPS細胞が生成されうる。
【0121】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の一部の実施形態の培地は、単一の多能性幹細胞(例えばhESCまたはヒトiPS細胞)または多能性幹細胞の集団の、約1か月以内で少なくとも223(すなわち8×10)倍、例えば約1か月以内で少なくとも224(すなわち、16.7×10)倍の増殖を支持する能力を有する。
【0122】
本発明の一部の実施形態によると、無血清および異種成分不含培地は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β−3(TGFβ3)およびアスコルビン酸を含み、ここで培地中のアスコルビン酸の濃度は、少なくとも50μg/mlであり、またここで培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する。
【0123】
アスコルビン酸(ビタミンCとしても知られる)は、抗酸化剤特性を有する糖酸(C;分子量176.12グラム/モル)である。本発明の一部の実施形態の培地によって使用されるアスコルビン酸は、天然アスコルビン酸、合成アスコルビン酸、アスコルビン酸塩(例えば、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カリウム)、アスコルビン酸のエステル形態(例えば、パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル)、それらの機能誘導体(本発明の培地中で使用される場合、同じ活性/機能を示すアスコルビン酸に由来する分子)、またはそれらの類似体(例えば、本発明の培地中で使用される場合にアスコルビン酸において認められる活性に類似した活性を示すアスコルビン酸の機能的等価物)でありうる。本発明の一部の実施形態の培地中で使用可能なアスコルビン酸製剤の非限定例として、L−アスコルビン酸およびアスコルビン酸3−リン酸が挙げられる。
【0124】
アスコルビン酸は、Sigma(St Louis,MO,USA)などの様々な製造業者から入手しうる(例えば、カタログ番号:A2218、A5960、A7506、A0278、A4403、A4544、A2174、A2343、95209、33034、05878、95210、95212、47863、01−6730、01−6739、255564、A92902、W210901)。
【0125】
上記のように、培地中のアスコルビン酸の濃度は、少なくとも約50μg/mlである。 本発明の一部の実施形態によると、アスコルビン酸は、約50μg/ml〜約50mg/ml、例えば約50μg/ml〜約5mg/ml、例えば約50μg/ml〜約1mg/ml、例えば約100μg/ml〜約800μg/ml、例えば約200μg/ml〜約800μg/ml、例えば約300μg/ml〜約700μg/ml、例えば約400μg/ml〜約600μg/ml、例えば約450μg/ml〜約550μg/mlなどの濃度の範囲内で使用しうる。
【0126】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のアスコルビン酸の濃度は、少なくとも約75μg/ml、例えば少なくとも約100μg/ml、例えば少なくとも約150μg/ml、例えば少なくとも約200μg/ml、例えば少なくとも約250μg/ml)、例えば少なくとも約300μg/ml、例えば少なくとも約350μg/ml、例えば少なくとも約400μg/ml、例えば少なくとも約450μg/ml、例えば約500μg/mlである。
【0127】
以下の実施例セクションの実施例1に示されるように、本発明者らは、少なくとも50μg/mlの濃度でのアスコルビン酸を含む様々な培地(例えば、mHA40/4、HA75、HA76、HA77、HA78およびHA74/1培地)を使用し、hESCおよびiPS細胞を培養し、それらを、フィーダー細胞支持の不在下、増殖性、多能性および未分化状態で少なくとも15継代維持することに成功している。
【0128】
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF、FGF2またはFGF−βとしても既知)は、線維芽細胞成長因子ファミリーのメンバーである。本発明の一部の実施形態の培地中で使用されるbFGFが、精製、合成または組換え発現されたbFGFタンパク質[(例えば、ヒトbFGFポリペプチドGenBank登録番号NP_001997.5(配列番号31);ヒトbFGFポリヌクレオチドGenBank登録番号NM_002006.4(配列番号32)でありうる。異種成分不含培地の調製においては、bFGFが、好ましくはヒト源から精製されるか、または以下にさらに記載されるように組換え発現されることは注目されるべきである。bFGFは、Cell Sciences(登録商標)(Canton,MA,USA)(例えば、カタログ番号CRF001AおよびCRF001B)、Invitrogen Corporation製品(Grand Island NY,USA)(例えば、カタログ番号:PHG0261、PHG0263、PHG0266およびPHG0264)、ProSpec−Tany TechnoGene Ltd.(Rehovot,Israel)(例えば、カタログ番号:CYT−218)、およびSigma(St Louis,MO,USA)(例えば、カタログ番号:F0291)などの様々な市販源から入手しうる。
【0129】
一部の実施形態によると、培地中のbFGFの濃度は、約1ng/ml〜約10μg/mlの範囲内、例えば約2ng/ml〜約1μg/ml、例えば約1ng/ml〜約500ng/ml、例えば約2ng/ml〜約500ng/ml、例えば約5ng/ml〜約250ng/ml、例えば約5ng/ml〜約200ng/ml、例えば約5ng/ml〜約150ng/ml、例えば約10ng/ml、例えば約20ng/ml、例えば約30ng/ml、例えば約40ng/ml、例えば約50ng/ml、例えば約60ng/ml、例えば約70ng/ml、例えば約80ng/ml、例えば約90ng/ml、例えば約100ng/ml、例えば約110ng/ml、例えば約120ng/ml、例えば約130ng/ml、例えば約140ng/ml、例えば約150ng/ml、である。
【0130】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のbFGFの濃度は、少なくとも約1ng/ml、少なくとも約2ng/ml、少なくとも約3ng、少なくとも約4ng/ml、少なくとも約5ng/ml、少なくとも約6ng/ml、少なくとも約7ng、少なくとも約8ng/ml、少なくとも約9ng/ml、少なくとも約10ng/ml、少なくとも約15ng/ml、少なくとも約20ng/ml、少なくとも約25ng/ml、少なくとも約30ng/ml、少なくとも約35ng/ml、少なくとも約40ng/ml、少なくとも約45ng/ml、少なくとも約50ng/ml、少なくとも約55ng/ml、少なくとも約60ng/ml、少なくとも約70ng/ml、少なくとも約80ng/ml、少なくとも約90ng/ml、少なくとも約95ng/ml、例えば約100ng/mlである。
【0131】
以下の実施例セクションの実施例1に示されるように、本発明者らは、5〜200ng/mlの範囲内のbFGFを含む様々な培地(例えば、10ng/mlのbFGFを含むmHA40/4、HA75およびHA78培地;100ng/mlのbFGFを含むHA76およびHA77培地;ならびに、50ng/mlのbFGFを含むHA74/1培地)を使用し、hESCおよびiPS細胞を培養し、またそれらを、フィーダー細胞支持の不在下、増殖性、多能性および未分化状態で少なくとも15継代維持することに成功している。
【0132】
トランスフォーミング増殖因子β−3(TGFβ3)は、多数の細胞種における増殖、分化、および他の機能の制御に関与し、形質転換を誘発する場合や、負の自己分泌成長因子として作用する。TGFβ3は、R&D Systems(Minneapolis MN,USA)などの様々な市販源から入手しうる。
【0133】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のTGFβ3の濃度は、約0.05ng/ml〜約1μg/mlの範囲内、例えば0.1ng/ml〜約1μg/ml、例えば約0.5ng/ml〜約100ng/mlである。
【0134】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のTGFβ3の濃度は、少なくとも約0.5ng/ml、例えば少なくとも約0.6ng/ml、例えば少なくとも約0.8ng/ml、例えば少なくとも約0.9ng/ml、例えば少なくとも約1ng/ml、例えば少なくとも約1.2ng/ml、例えば少なくとも約1.4ng/ml、例えば少なくとも約1.6ng/ml、例えば少なくとも約1.8ng/ml、例えば約2ng/mlである。
【0135】
以下の実施例セクションの実施例1に示されるように、本発明者らは、約2ng/mlの濃度でTGFβ3を含む様々な培地(例えば、mHA40/4、HA75、HA76、HA78およびHA74/1培地)を使用し、hESCおよびiPS細胞を培養し、またそれらを、フィーダー細胞支持の不在下、増殖性、多能性および未分化状態で少なくとも22継代維持することに成功している。
【0136】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約0.1ng/ml〜約500ng/mlの濃度範囲でのbFGF、約0.1ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲でのTGFβ3、および約50g/ml〜約5000μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸を含む。
【0137】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の一部の実施形態の培地は、約5ng/ml〜約150ng/mlの濃度範囲でのbFGF、約0.5ng/ml〜約5ng/mlの濃度範囲でのTGFβ3、および約400μg/ml〜約600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸を含む。
【0138】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、脂質混合物をさらに含む。
【0139】
本明細書で使用される表現「脂質混合物」は、多能性幹細胞を培養するのに必要とされる、規定された(例えば化学的に規定された)脂質組成物である。脂質混合物は、通常、血清または血清代替物を含有しない培地に添加され、それにより、通常は血清または血清代替物の調合物に添加される脂質を代替することは注目されるべきである。
【0140】
本発明の一部の実施形態の培地中で使用可能である、市販の脂質混合物の非限定例として、Invitrogenから入手可能なChemically Define Lipid Concentrate(カタログ番号11905−031)が挙げられる。
【0141】
本発明の一部の実施形態によると、培地中の脂質混合物の濃度は、約0.5%[容量/容量(v/v)]〜約3% v/v、例えば約0.5% v/v〜約2% v/v、例えば約0.5% v/v〜約1% v/v、例えば約1% v/vである。
【0142】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の一部の実施形態の培地は、約0.1ng/ml〜約500ng/mlの濃度範囲でのbFGF、約0.1ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲でのTGFβ3、約50μg/ml〜約5000μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、異種成分不含血清代替物および脂質混合物を含む。
【0143】
TGFβ3、bFGFおよびアスコルビン酸を少なくとも50μg/mlの濃度で含み、かつ多能性幹細胞を増殖性および未分化状態で維持するように使用可能である、異種成分不含および無血清培地の非限定例として、HA75およびHA78培地が挙げられる。
【0144】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、重炭酸ナトリウムをさらに含む。重炭酸ナトリウムは、Biological Industries(BeitHaEmek,Israel)から入手しうる。
【0145】
本発明の一部の実施形態によると、培地中の重炭酸ナトリウムの濃度は、約5%〜約10%、例えば約6%〜約9%、例えば約7%〜約8%、例えば約7.5%である。
【0146】
本発明者らは、多能性幹細胞が、bFGFおよびアスコルビン酸を含むがTGFβアイソフォームを含まない無血清および異種成分不含培地中で培養される場合、増殖性、多能性および未分化状態で、少なくとも15継代維持可能であることを見出した。
【0147】
本明細書で使用される表現「TGFβアイソフォーム」は、多数の細胞種における増殖、分化、および他の機能の制御において同じ受容体シグナル伝達系を介して機能する、TGFβ1(例えば、ホモサピエンスTGFβ1、GenBank登録番号NP_000651)、TGFβ2(例えば、ホモサピエンスTGFβ2、GenBank登録番号NP_003229)およびTGFβ3(例えば、ホモサピエンスTGFβ3、GenBank登録番号NP_003230)を含むトランスフォーミング増殖因子ベータ(β)の任意のアイソフォームを示す。TGFβは、形質転換を誘発する場合に作用し、負の自己分泌成長因子としても作用する。
【0148】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、1ng/ml以下のTGFβアイソフォーム、例えば0.5ng/ml以下、例えば0.1ng/ml以下、例えば0.05ng/ml以下、例えば0.01ng/ml以下のTGFβアイソフォームを含む。
【0149】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、完全にTGFβアイソフォームを有しない(すなわちTGFβアイソフォーム不含)。
【0150】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約400〜600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸および約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む。
【0151】
本発明の一部の実施形態によると、約400〜600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸および約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する.
【0152】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のアスコルビン酸の濃度は、約410μg/ml〜約590μg/ml、約420μg/ml〜約580μg/ml、約450μg/ml〜約550μg/ml、約460μg/ml〜約540μg/ml、約470μg/ml〜約530μg/ml、約490μg/ml〜約520μg/ml、例えば約490μg/ml〜約510g/ml、例えば約500μg/mlである。
【0153】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のbFGFの濃度は、約50ng/ml〜約200ng/ml、約60ng/ml〜約190ng/ml、約70ng/ml〜約180ng/ml、約80ng/ml〜約170ng/ml、約90ng/ml〜約160ng/ml、約90ng/ml〜約150ng/ml、約90ng/ml〜約130ng/ml、約90ng/ml〜約120ng/ml、例えば約100ng/mlである。
【0154】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のbFGFの濃度は、約50、約55、約60、約65、約70、約80、約85、約90、約95、約100、約105、約110、約115、約120、約125、約130、約135、約140、約145、約150、約160、約165、約170、約175、約180、約185、約190、約195、約200ng/mlである。
【0155】
本発明の一部の実施形態によると、約400〜600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸および約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む培地は、異種成分不含血清代替物をさらに含む。
【0156】
本発明の一部の実施形態によると、約400〜600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸および約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む培地は、脂質混合物をさらに含む。
【0157】
本発明の一部の実施形態によると、約50〜200ng/mlの濃度でのbFGFおよび約400〜600μg/mlの濃度でのアスコルビン酸を含む培地は、重炭酸ナトリウムを含有しない。
【0158】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約50〜200ng/mlの濃度でのbFGFおよび約400〜600μg/mlの濃度でのアスコルビン酸、約1%の濃度での異種成分不含血清代替物および約1%の濃度での脂質混合物を含む。
【0159】
約400〜600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約50〜200ng/mlの濃度範囲でのbFGF、異種成分不含血清代替物および脂質混合物を含み、かつ、hESCおよびヒトiPS細胞などの多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、増殖性および未分化状態で少なくとも21継代維持する能力を有する、異種成分不含、無血清、およびTGFβアイソフォーム不含培地の非限定例として、HA77培地(以下の実施例セクションの実施例1)、または、HA77培地に類似するが、重炭酸ナトリウムを含有しない培地、例えば、DMEM/F12(94%)(Biological Industries,Israel,Sigma,Israel)、L−グルタミン2mM(Invitrogen corporation,Sigma,Israel)、アスコルビン酸500μg/ml(Sigma,Israel)、bFGF−100ng(Invitrogen corporation)、SR3〜1%(Sigma,Israel)、および限定された脂質混合物1%(Invitrogen corporation,Sigma,Israel)からなる培地、が挙げられる。本発明者らは、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下の二次元および三次元(すなわち浮遊培養)系で、増殖性、多能性および未分化状態で維持しうる、新規の無血清かつ非常に限定された培地を見出している。
【0160】
本明細書で使用される表現「浮遊培養」は、多能性幹細胞が、表面に付着するのではなく、培地中に懸濁される場合の培養である。
【0161】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下の二次元および三次元培養系で、増殖性、多能性および未分化状態で維持しうる無血清培地は、約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む。
【0162】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約55〜190ng/ml、例えば約60〜190ng/ml、例えば約70〜180ng/ml、例えば約80〜160ng/ml、例えば約90〜150ng/ml、例えば約90〜140ng/ml、例えば約90〜130ng/ml、例えば約90〜120ng/ml、例えば約90〜110ng/ml、例えば約95〜105ng/ml、例えば約100ng/mlを含む。
【0163】
本発明の一部の実施形態によると、約50〜200ng/mlのbFGFを含む培地は、血清代替物をさらに含む。
【0164】
約50〜200ng/mlの濃度でのbFGFを含む培地の非限定例として、塩基性媒体(例えばDMEM/F12、85%)、血清代替物(15%)、bFGF(100ng/ml)、L−グルタミン(2mM)、p−メルカプトエタノール(0.1mM)および非必須アミノ酸ストック(1%)を含むYF100培地が挙げられる。
【0165】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下の二次元および三次元培養系で、増殖性、多能性および未分化状態で維持しうる無血清培地は、塩基性媒体、約50μg/ml〜約500μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約2ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲でのbFGF、L−グルタミン、および血清代替物からなる。
【0166】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下の二次元および三次元培養系で、増殖性、多能性および未分化状態で維持しうる無血清培地は、塩基性媒体、約50μg/ml〜約500μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約2ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲でのbFGF、L−グルタミン、血清代替物および脂質混合物からなる。
【0167】
本発明の一部の実施形態によると、アスコルビン酸の濃度は、約50μg/mlである。
【0168】
本発明の一部の実施形態によると、アスコルビン酸の濃度は、約500μg/mlである。
【0169】
本発明の一部の実施形態によると、bFGFの濃度は、約4ng/mlである。
【0170】
塩基性媒体は、DMEM/F12(Biological Industries,Israel、またはSigma Israel)、Ko−DMEM(Invitrogen)などの任意の既知の組織培地でありうる。塩基性媒体の濃度は、血清代替物などの他の培地成分の濃度に依存する。
【0171】
血清代替物は、使用される血清代替物に基づく1〜20%の濃度範囲での(動物汚染物質を含有しない)任意の異種成分不含血清代替物でありうる。例えば、SR3血清代替物が使用される場合、その培地中の濃度は、約1%である。
【0172】
本発明の一部の実施形態によると、L−グルタミンの濃度は、約2mMである。
【0173】
本発明の一部の実施形態によると、脂質混合物(Sigma,Israel;またはInvitrogen,Israel)の濃度は、約1%である。
【0174】
かかる培地の非限定例として、修飾HA13(a)培地[DMEM/F12(95%)、L−グルタミン2mM、アスコルビン酸500μg/ml、bFGF−4ng、およびSR3−1%];修飾HA13(b)培地[DMEM/F12(95%)、L−グルタミン2mM、アスコルビン酸500μg/ml、bFGF−4ng、SR3〜1%および脂質混合物(1%)];修飾HA13(c)培地[DMEM/F12(95%)、L−グルタミン2mM、アスコルビン酸50μg/ml、bFGF−4ng、およびSR3〜1%];ならびに修飾HA13(d)培地[DMEM/F12(95%)、L−グルタミン2mM、アスコルビン酸50μg/ml、bFGF−4ng、SR3〜1%および脂質混合物(1%)]が挙げられる。これらの培地は、多能性幹細胞(例えばhESCおよびhips細胞)を、増殖性、多能性および未分化状態で、二次元(例えば、無フィーダー層培養系上;データは示さない)下で培養される場合に少なくとも20継代、また三次元培養系(例えば、外部基質への接着、細胞カプセル化またはタンパク質担体への接着を伴わない浮遊培養;データは示さない)下で培養される場合に少なくとも20継代維持する能力を有した。
【0175】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下の二次元および三次元培養系で、増殖性、多能性および未分化状態で維持しうる無血清培地は、約50〜200ピコグラム/ミリリットル(pg/ml)の濃度範囲でのIL6RIL6キメラを含む。
【0176】
本明細書で使用される表現「IL6RIL6キメラ」は、インターロイキン−6受容体の可溶性部分[IL−6−R、例えば、GenBank登録番号AAH89410(配列番号33)によって示されるヒトIL−6−R;例えば、GenBank登録番号AAH89410のアミノ酸112〜355(配列番号34)によって示される可溶性IL6受容体の一部]およびインターロイキン−6(IL6;例えば、GenBank登録番号CAG29292(配列番号35)によって示されるヒトIL−6)またはその生物活性画分(例えば受容体結合ドメイン)を含むキメラポリペプチドを示す。
【0177】
IL6RIL6キメラを作成する場合、2つの機能的部分(すなわちIL6およびその受容体)が、互いに直接融合されうる(例えば結合されるかまたは翻訳的に融合される、すなわち単一のオープンリーディングフレームによってコードされる)か、あるいは好適なリンカー(例えばポリペプチドリンカー)を介して複合されうる(結合されるかまたは翻訳的に融合される)ことは注目されるべきである。 本発明の一部の実施形態によると、IL6RIL6キメラポリペプチドは、天然IL6およびIL6受容体と同様のグリコシル化の量およびパターンを示す。例えば、好適なIL6RIL6キメラは、配列番号36および国際公開第99/02552号パンフレット(Revel M.らに付与)の図11(全体として参照により本明細書中に援用される)に示される。
【0178】
本発明の培地中で使用されるタンパク性因子のいずれか(例えば、IL6RIL6キメラ、bFGF、TGFβ3)が、組換え的に発現されうるかまたは生化学的に合成されうることは理解されるであろう。さらに、bFGFおよびTGFβなどの天然タンパク性因子は、当該技術分野で周知の方法を用い、生物学的試料から(例えば、ヒト血清、細胞培養物から)精製しうる。
【0179】
本発明のタンパク性因子(例えばIL6RIL6キメラ)の生化学的合成は、標準の固相技術を用いて行いうる。これらの方法は、排他的固相合成法、部分固相合成法、断片縮合および古典的溶液合成を含む。
【0180】
本発明のタンパク性因子(例えばIL6RIL6キメラ)の組換え発現は、Bitterら(1987年) Methods in Enzymol.153:516−544頁、Studierら(1990年) Methods in Enzymol.185:60−89頁、Brissonら(1984年) Nature 310:511−514頁、Takamatsuら(1987年) EMBO J.6:307−311頁、Coruzziら(1984年) EMBO J.3:1671−1680頁、Brogliら(1984年) Science 224:838−843頁、Gurleyら(1986年) Mol.Cell.Biol.6:559−565頁およびWeissbachおよびWeissbach、1988年、「Methods for Plant Molecular Biology」、Academic Press,NY,Section VIII、421−463頁によって記載の組換え技術を用いて行いうる。詳細には、IL6RIL6キメラは、PCT公開の国際公開第99/02552号パンフレット(Revel M.らおよびChebath J.らに付与、1997年)(全体として参照により本明細書中に援用される)中に記載のように生成しうる。
【0181】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のIL6RIL6キメラの濃度は、約55pg/ml〜約195pg/mlの範囲内、例えば約60pg/ml〜約190pg/ml、例えば約65pg/ml〜約185pg/ml、例えば約70pg/ml〜約180pg/ml、例えば約75pg/ml〜約175pg/ml、例えば約80pg/ml〜約170pg/ml、例えば約85pg/ml〜約165pg/ml、例えば約90pg/ml〜約150pg/ml、例えば約90pg/ml〜約140pg/ml、例えば約90pg/ml〜約130pg/ml、例えば約90pg/ml〜約120pg/ml、例えば約90pg/ml〜約110pg/ml、例えば約95pg/ml〜約105pg/ml、例えば約98pg/ml〜約102pg/ml、例えば約100pg/mlである。
【0182】
本発明の一部の実施形態によると、IL6RIL6キメラ含有培地は、bFGFをさらに含む。
【0183】
本発明の一部の実施形態によると、IL6RIL6キメラ含有培地中のbFGFの濃度は、約1ng/ml〜約10μg/mlの範囲内、例えば約2ng/ml〜約1μg/ml、例えば約2ng/ml〜約500ng/ml、例えば約5ng/ml〜約150ng/ml、例えば約5ng/ml〜約100ng/ml、例えば約5ng/ml〜約80ng/ml、例えば約5ng/ml〜約50ng/ml、例えば約5ng/ml〜約30ng/ml、例えば約5ng/ml、例えば約10ng/ml、例えば約15ng/ml、例えば約20ng/mlである。
【0184】
本発明の一部の実施形態によると、IL6RIL6キメラ含有培地は、血清代替物をさらに含む。
【0185】
本発明の一部の実施形態によると、IL6RIL6キメラ含有培地中のKnockout(商標)Serum Replacementの濃度は、約1%(v/v)〜約50%(v/v)の範囲内、例えば約5%(v/v)〜約40%(v/v)、例えば約5%(v/v)〜約30%(v/v)、例えば約10%(v/v)〜約30%(v/v)、例えば約10%(v/v)〜約25%(v/v)、例えば約10%(v/v)〜約20%(v/v)、例えば約15%(v/v)である。
【0186】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約50〜200pg/mlの濃度範囲でのIL6RIL6キメラ、約5〜50ng/mlの濃度範囲でのbFGF、および約5〜40%の濃度での血清代替物を含む。
【0187】
例えば、以下の実施例セクションの実施例4に示されるように、CM100Fp培地は、hESCおよびヒトiPS細胞などの多能性幹細胞を、基質接着を有しない浮遊培養下で、増殖性、多能性および未分化状態で少なくとも50継代維持する能力を有することが示された。
【0188】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下の二次元および三次元培養系で、増殖性、多能性および未分化状態で維持しうる無血清培地は、少なくとも2000単位/mlの濃度でのLIFを含む。
【0189】
白血病阻害因子(LIF)は、造血分化の誘導、神経細胞分化の誘導、腎臓発生の間での間葉−上皮転換の調節物質に関与する多面的サイトカインであり、また、母体−胎児境界での免疫寛容における役割を有しうる。本発明の一部の実施形態の培地中で使用されるLIFは、精製、合成または組換え発現されたLIFタンパク質[例えば、ヒトLIFポリペプチドGenBank登録番号NP_002300.1(配列番号37);ヒトLIFポリヌクレオチドGenBank登録番号NM_002309.3(配列番号38)でありうる。異種成分不含培地の調製においては、LIFが、好ましくはヒト源から精製されるか、または組換え発現されることは注目されるべきである。組換えヒトLIFは、Chemicon,USA(カタログ番号LIF10100)およびAbD Serotec(MorphoSys US Inc(Raleigh,NC27604,USA))などの様々な供給源から入手可能である。マウスLIF ESGRO(登録商標)(LIF)は、Millipore,USA(カタログ番号ESG1107)から入手可能である。
【0190】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のLIFの濃度は、約2000単位/ml〜約10,000単位/ml、例えば約2000単位/ml〜約8,000単位/ml、例えば約2000単位/ml〜約6,000単位/ml、例えば約2000単位/ml〜約5,000単位/ml、例えば約2000単位/ml〜約4,000単位/mlである。
【0191】
本発明の一部の実施形態によると、培地中のLIFの濃度は、少なくとも約2000単位/ml、例えば少なくとも約2100単位/ml、例えば少なくとも約2200単位/ml、例えば少なくとも約2300単位/ml、例えば少なくとも約2400単位/ml、例えば少なくとも約2500単位/ml、例えば少なくとも約2600単位/ml、例えば少なくとも約2700単位/ml、例えば少なくとも約2800単位/ml、例えば少なくとも約2900単位/ml、例えば少なくとも約2950単位/ml、例えば約3000単位/mlである。
【0192】
本発明の一部の実施形態によると、LIF含有培地は、bFGFをさらに含む。
【0193】
LIF含有培地中のbFGFの濃度は、約0.1ng/ml〜約10μg/mlの範囲内、例えば約2ng/ml〜約1μg/ml、例えば約2ng/ml〜約500ng/ml、例えば約5ng/ml〜約150ng/ml、例えば約5ng/ml〜約100ng/ml、例えば約5ng/ml〜約80ng/ml、例えば約5ng/ml〜約50ng/ml、例えば約5ng/ml〜約30ng/ml、例えば約5ng/ml、例えば約10ng/ml、例えば約15ng/ml、例えば約20ng/mlである。
【0194】
本発明の一部の実施形態によると、LIF含有培地は、血清代替物をさらに含む。
【0195】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約2000〜10,000単位/mlの濃度でのLIF、約0.1ng/ml〜約10μg/mlの濃度範囲でのbFGF、および約1%(v/v)〜約50%(v/v)の濃度範囲でのKnockout(商標)Serum Replacementを含む。
【0196】
本発明の一部の実施形態によると、培地は、約2000〜5,000単位/mlの濃度でのLIF、約5〜50ng/mlの濃度でのbFGF、および約5〜30%の濃度での血清代替物を含む。
【0197】
例えば、以下の実施例セクションの実施例4に示されるように、yFL3培地は、ヒトESCおよびヒトiPS細胞などの多能性幹細胞を、浮遊培養下で培養される場合、増殖性、多能性および未分化状態で少なくとも10継代維持する能力を有することが示された。
【0198】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の一部の実施形態の培地中に含まれる成分は、組織培養および/または臨床グレードで、実質的に純粋である。
【0199】
本発明の一部の実施形態の態様によると、本発明の一部の実施形態の多能性幹細胞および本発明の一部の実施形態の培地を含む細胞培養物が提供される。
【0200】
本発明の一部の実施形態の態様によると、細胞培養物は、フィーダー細胞を含まない(例えば、フィーダー細胞またはフィーダー細胞ならし培地を有しない)。
【0201】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の一部の実施形態の細胞培養物中に含まれる多能性幹細胞は、培養期間中、例えば少なくとも2継代、例えば少なくとも4継代、例えば少なくとも8継代、例えば少なくとも15継代、例えば少なくとも20継代、例えば少なくとも25継代、例えば少なくとも30継代、例えば少なくとも35継代、例えば少なくとも40継代、例えば少なくとも45継代、例えば少なくとも50継代にわたり、安定な核型(染色体安定性)を示す。
【0202】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の細胞培養物は、少なくとも20時間の倍加時間、例えば20〜40時間の間(例えば約36時間)の倍加時間を示すことから、非腫瘍形成性の遺伝的に安定な多能性幹細胞(例えばhESCおよびiPS細胞)を示す。
【0203】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の細胞培養物は、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%の未分化多能性幹細胞によって特徴づけられる。
【0204】
本発明の一部の実施形態の態様によると、多能性幹細胞を多能性および未分化状態で増殖・維持する方法が提供される。
【0205】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞を未分化状態で増殖・維持する方法は、多能性幹細胞を(本明細書中に記載の)本発明の新規の培地のいずれかの中で培養することによって行われる。
【0206】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞を未分化状態で増殖・維持する方法は、多能性幹細胞を、無血清、無フィーダー、マトリックス不含およびタンパク質担体不含であり、かつ約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む培地中で培養することによって行われる。
【0207】
本発明の一部の実施形態によると、培養は、マトリックスまたはフィーダー細胞層などの二次元培養系上で行われる。
【0208】
例えば、二次元培養系上での培養は、多能性幹細胞をマトリックスまたはフィーダー細胞層上に、細胞の生存および増殖を促進するが、分化を制限する細胞密度でプレーティングすることによって行いうる。典型的には、約15,000細胞/cm〜約3,000,000細胞/cmの間のプレーティング密度が使用される。
【0209】
多能性幹細胞の単細胞懸濁液が通常播種されるが、小塊も使用可能であることは理解されるであろう。このため、塊の破壊に使用される(例えばIV型コラゲナーゼによる)酵素的消化(以下の実施例セクションにおける「General Materials and Experimental Methods」を参照)は、幹細胞が完全にばらばらになる前に終了し、細胞は、塊(すなわち10〜200個の細胞)が形成される程度にピペットで粉砕される。しかし、細胞分化を誘発しうる大塊を回避するための手段がとられる。
【0210】
本明細書で使用される用語「マトリックス」は、多能性幹細胞が、付着可能であり、それ故にフィーダー細胞の細胞付着機能を代替しうる任意の物質を示す。かかるマトリックスは、典型的には、多能性幹細胞が付着可能な細胞外成分を含有し、それ故、好適な培養基質を提供する。
【0211】
本発明の一部の実施形態によると、マトリックスは、細胞外マトリックスを含む。
【0212】
細胞外マトリックスは、基底膜に由来する成分または接着分子受容体−リガンドカップリングの一部を形成する細胞外マトリックス成分からなりうる。MATRIGEL(登録商標)(Becton Dickinson,USA)は、本発明での使用に適した市販のマトリックスの一例である。MATRIGEL(登録商標)は、室温でゲル化し、再構成基底膜を形成するEngelbreth−Holm−Swarm腫瘍細胞に由来する可溶性調製物である一方、MATRIGEL(登録商標)はまた、成長因子低下調製物として使用可能である。本発明での使用に適した他の細胞外マトリックス成分および成分混合物は、包皮マトリックス、ラミニンマトリックス、フィブロネクチンマトリックス、プロテオグリカンマトリックス、エンタクチンマトリックス、ヘパラン硫酸マトリックス、コラーゲンマトリックスなどを、単独でまたはそれらの様々な組み合わせで、含む。
【0213】
本発明の一部の実施形態によると、マトリックス異種成分を含まない。
【0214】
完全な動物フリーの培養条件が所望される場合、マトリックスは、好ましくは、ヒト源に由来するか、または上記のような組換え技術を用いて合成される。かかるマトリックスとして、例えば、ヒト由来フィブロネクチン、組換えフィブロネクチン、ヒト由来ラミニン、包皮線維芽細胞マトリックスまたは合成フィブロネクチンマトリックス、が挙げられる。ヒト由来フィブロネクチンは、血漿フィブロネクチンまたは細胞フィブロネクチンに由来することができ、それらの双方は、Sigma(St.Louis,MO,USA)から入手可能である。ヒト由来ラミニンおよび包皮線維芽細胞マトリックスは、Sigma(St.Louis,MO,USA)から入手可能である。合成フィブロネクチンマトリックスは、Sigma(St.Louis,MO,USA)から入手可能である。
【0215】
本発明の一部の実施形態によると、培養は、フィーダー細胞層上で行われる。
【0216】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞を未分化状態で増殖・維持する方法は、多能性幹細胞を、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β−3(TGFβ3)およびアスコルビン酸(ここで培地中のアスコルビン酸の濃度は、少なくとも50μg/mlである)を含む無血清および異種成分不含培地中、フィーダー細胞層上で培養することによって実施される。
【0217】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞を未分化状態で増殖・維持する方法は、多能性幹細胞を、約400〜600μg/mIの濃度範囲でのアスコルビン酸、約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、異種成分不含血清代替物および脂質混合物を含む無血清および異種成分不含培地中、フィーダー細胞層上で培養することによって実施される。
【0218】
本発明の一部の実施形態によると、フィーダー細胞層は、異種成分を含まない。
【0219】
本発明の一部の実施形態によると、フィーダー細胞層は、包皮線維芽細胞のフィーダー細胞層である。
【0220】
本発明の一部の実施形態によると、発明の一部の実施形態に従う培養は、浮遊培養下で行われる。
【0221】
本発明の一部の実施形態によると、浮遊培養は、基質接着を有しない、例えば、細胞外マトリックス、ガラスマイクロキャリアまたはビーズの成分などの外部基質への接着を伴わない。
【0222】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞の浮遊培養下での培養は、タンパク質担体を含まない培地中で行われる。
【0223】
本明細書で使用される表現「タンパク質担体」は、培養下でのタンパク質または栄養素(例えば亜鉛などのミネラル)を細胞に移す役割を果たすタンパク質を示す。かかるタンパク質担体は、例えば、アルブミン(例えばウシ血清アルブミン)、Albumax(脂質に富むアルブミン)またはプラスマネート(ヒト血漿単離タンパク質)でありうる。これらの担体はヒトまたは動物源のいずれかに由来することから、ヒトiPS細胞培養物のhESCにおけるその使用は、バッチに特異的な差異および/または病原体への暴露による制限を受ける。したがって、タンパク質担体(例えばアルブミン)を有しない培地は、組換えまたは合成材料から作製可能な真に限定された培地を可能にすることから、非常に有利である。
【0224】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞の浮遊培養下での培養は、無血清および無フィーダー細胞培地中で行われる。
【0225】
hESCおよびiPS細胞などの多能性幹細胞を培養する一部のプロトコルが、半透性ヒドロゲル膜内部での細胞のマイクロカプセル化を含み、それにより、栄養素、ガス、および代謝産物とカプセルを取り囲むバルク培地との交換が可能になることは注目されるべきである(詳細については、例えば米国特許出願公開第2009/0029462号明細書(Beardsleyらに付与)を参照)。
【0226】
本発明の一部の実施形態によると、浮遊培養下で培養される多能性幹細胞は、細胞カプセル化を有しない。
【0227】
本発明の一部の実施形態の態様によると、人工多能性幹(iPS)細胞を増殖し、かつiPS細胞を未分化状態で維持する方法が提供される。本方法は、iPS細胞を、基質接着を有せず細胞カプセル化を有しないでかつiPS細胞の未分化状態での増殖を可能にする培養条件下の浮遊培養下で培養することにより、実施される。
【0228】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞の浮遊培養下での培養は、IL6RIL6キメラの濃度が約50〜200ピコグラム/ミリリットル(pg/ml)の範囲内である場合のIL6RIL6キメラ含有培地の存在下で行われる。
【0229】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞の浮遊培養下での培養は、白血病阻害因子(LIF)含有培地(ここでLIFの濃度は少なくとも約2000単位/mlである)の存在下で行われる。
【0230】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞の浮遊培養下での培養は、約50ng/ml〜約200ng/ml、例えば約60ng/ml〜約190ng/ml、例えば約70ng/ml〜約180ng/ml、例えば約80ng/ml〜約170ng/ml、例えば約90ng/ml〜約160ng/ml、例えば約90ng/ml〜約150ng/ml、例えば約90ng/ml〜約130ng/ml、例えば約90ng/ml〜約120ng/ml、例えば約100ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む培地の存在下で行われる。
【0231】
例えば、hESCおよびヒトiPS細胞を、基質接着および細胞カプセル化を有しない浮遊培養下で培養する場合に適することが見出された培地の非限定例として、血清代替物および100ng/mlのbFGFを含むyF100培地が挙げられる。
【0232】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞の浮遊培養下での培養は、約50〜200ナノグラム/ミリリットル(ng/ml)の濃度範囲でのIL6RIL6キメラおよび1〜50ng/mlの範囲内の濃度でのbFGFを含む培地の存在下で行われる。
【0233】
例えば、hESCおよびヒトiPS細胞を、基質接着および細胞カプセル化を有しない浮遊培養下で培養する場合に適することが見出された培地の非限定例として、血清代替物、100ng/mlの濃度でのIL6RIL6キメラおよび10ng/mlの濃度でのbFGFを含むCM100F培地が挙げられる。
【0234】
例えば、本発明者らは、CM100Fp、CM100F、yF100またはyFL3培地を使用し、多能性幹細胞を、浮遊培養下で、増殖性、多能性および未分化状態で、少なくとも50継代増殖した(例えば、図3A〜C、4、5A〜Cおよび6A〜Dを参照、また以下の実施例セクションの実施例4および5に記載される)。
【0235】
本発明の一部の実施形態の方法に従う浮遊培養下での培養は、多能性幹細胞を、培養容器内に、細胞の生存および増殖を促進するが、分化を制限する細胞密度でプレーティングすることによって行われる。典型的には、約5×10〜2×10個の細胞/mlのプレーティング密度が使用される。幹細胞の単細胞懸濁液が通常播種されるが、10〜200個の細胞などの小塊も使用可能であることは理解されるであろう。
【0236】
多能性幹細胞に、浮遊培養下でありながら、栄養素および成長因子の十分かつ定常的な供給を提供するため、培地は、毎日、または所定のスケジュールで(例えば2〜3日ごとに)、交換しうる。例えば、培地の交換は、多能性幹細胞の浮遊培養物に80gで約3分間の遠心分離を施すことと、形成された多能性幹細胞ペレットを新しい培地に再懸濁することにより、行いうる。それに加え、またはそれに代わり、多能性幹細胞に栄養素または成長因子の定常的な供給を提供するように、培地に定常的な濾過または透析が施される培養系を使用しうる。
【0237】
大塊状の多能性幹細胞が細胞分化を誘発しうることから、大きい多能性幹細胞集合体を回避するための手段がとられる。本発明の一部の実施形態によると、形成された多能性幹細胞塊は、5〜7日ごとに解離され、単細胞または小塊状の細胞は、追加的な培養容器に分割される(すなわち通過される)か、またはさらに追加的な培地を有する同じ培養容器内で維持される。大きい多能性幹細胞塊の解離においては、(上記のような遠心分離によって得られうる)多能性幹細胞のペレットまたは単離された多能性幹細胞塊に、酵素的消化および/または機械的解離を施しうる。
【0238】
多能性幹細胞塊の酵素的消化は、塊に、IV型コラゲナーゼ(Worthington biochemical corporation(Lakewood,NJ,USA))および/またはディスパーゼ(Invitrogen Corporation製品(Grand Island NY,USA))などの酵素を施すことによって行いうる。酵素とのインキュベーションの時間は、浮遊培養下に存在する細胞塊のサイズに依存する。典型的には、多能性幹細胞の細胞塊が、浮遊培養下でありながら、5〜7日ごとに解離される場合、1.5mg/mlのIV型コラゲナーゼとの20〜60分間のインキュベーションの結果、小細胞塊が得られるが、それは未分化状態でさらに培養しうる。あるいは、多能性幹細胞塊に対し、1.5mg/mlのIV型コラゲナーゼとの約25分間のインキュベーション後、1mg/mlのディスパーゼとの5分間のインキュベーションを行いうる。トリプシンを用いたヒトESCの継代の結果、染色体の不安定性および異常がもたらされうることは注目されるべきである(例えば、Mitalipova M.M.ら、Nature Biotechnology,23:19−20頁、2005年およびCowan C.A.ら、N.Engl.J.of Med.350:1353−1356頁、2004年を参照)。本発明の一部の実施形態によると、トリプシンを用いたhESCまたはiPS細胞の継代は避けるべきである。
【0239】
大きい多能性幹細胞塊の機械的解離は、塊を所定のサイズまで破壊するように設計されたデバイスを使用して行いうる。かかるデバイスは、CellArtis Goteborg(Sweden)から入手可能である。それに加え、またはそれに代わり、機械的解離は、塊を倒立顕微鏡下で観察しながら、27gの針(BD Microlance(Drogheda,Ireland))などの針を使用してマニュアルで行いうる。
【0240】
本発明の一部の実施形態によると、大細胞塊の酵素的または機械的解離後、解離された多能性幹細胞塊は、200μlのGilsonピペットチップを使用し(例えば細胞を上下にピペッティングすることにより)、小塊にさらに破壊される。
【0241】
本発明の一部の実施形態の方法に従い、多能性幹細胞を浮遊培養するために使用される培養容器は、(例えば多能性幹細胞の培養に適した純度グレードを有する)任意の組織培養容器であって、その中で培養される多能性幹細胞が内部表面に接着または付着できない(例えば、非組織培養処理された細胞の、表面への付着または接着を阻止する)ように設計された内部表面を有する、容器でありうる。好ましくは、スケーラブルな培養を得るため、発明の一部の実施形態に従う培養は、温度、撹拌、pH、およびpOなどの培養パラメータが、好適なデバイスを使用して自動的に実行される、制御された培養系(好ましくはコンピュータ制御された培養系)を使用して行われる。一旦培養パラメータが記録されると、システムは、培養パラメータを、多能性幹細胞の増殖に対する必要性に応じて自動調節するようにセットされる。
【0242】
以下の実施例セクションに記載のように、多能性幹細胞は、動的条件下(すなわち、多能性幹細胞が浮遊培養下でありながら一定の運動を受ける条件下;例えば、図6A〜D;実施例5を参照)、または、その増殖性、多能性能および核型安定性を少なくとも30継代保持しながら非動的条件(すなわち、静的培養;例えば、図3A〜C、4および5A〜C;実施例4を参照)下で培養された。
【0243】
多能性幹細胞の非動的培養においては、多能性幹細胞は、コーティングされていない58mmのペトリ皿(Greiner(Frickenhausen,Germany))内で培養しうる。
【0244】
多能性幹細胞の動的培養においては、多能性幹細胞は、スピナーフラスコ[例えば、Integra BiosciencesのCellPin(Fernwald,Germany)から入手可能な200ml〜1000ml、例えば250ml;Bellco(Vineland,NJ)から入手可能な100ml;または125mlのErlenmeyer(Corning Incorporated(Corning NY,USA))]内で培養することができ、それは、制御ユニットに接続できることから、制御された培養系を提示する。培養容器(例えば、スピナーフラスコ、Erlenmeyer)は、連続的に振とうされる。本発明の一部の実施形態によると、培養容器は、振とう器(S3.02.10L,ELMI ltd(Riga,Latvia))を使用し、90回転毎分(rpm)で振とうされる。本発明の一部の実施形態によると、培地は、毎日変更される。
【0245】
本発明の一部の実施形態によると、本発明の教示に従って培養される場合、多能性幹細胞の成長はモニタリングされ、その分化状態が判定される。分化状態は、例えば、形態学的評価(例えば、図1A〜C、3A〜Cに示される場合)、ならびに/あるいは、膜結合マーカーに対するフローサイトメトリー、細胞外および細胞内マーカーに対する免疫組織化学または免疫蛍光、および分泌される分子マーカーに対する酵素イムノアッセイなどの免疫学的技術を用いた、未分化状態の典型的なマーカーの発現パターンの検出、を含む様々なアプローチを用いて判定しうる。例えば、本発明の一部の実施形態の方法に従って培養されるhESCまたはヒトiPS細胞に対して用いられる免疫蛍光によると、Oct4、ステージ特異的胚抗原(SSEA)4、腫瘍拒絶抗原(TRA)−L−60およびTRA−1−81の発現が示された(図2A〜C、5A〜Cおよび6A〜D)。さらに、特異的な未分化マーカー(例えば、Oct4、Nanog、Sox2、Rex1、Cx43、FGF4)または分化マーカー(例えば、アルブミン、グルカゴン、α−心臓アクチン(cardiac actin)、β−グロブリン、Flkl、AC133およびニューロフィラメント)の転写産物のレベルは、RT−PCR分析および/またはcDNAマイクロアレイ分析などのRNAに基づく技術を用いて検出可能である。
【0246】
ES細胞分化の判定はまた、アルカリホスファターゼ活性の測定を介して行いうる。未分化ヒトES細胞は、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、Vector Red基質キット(Vector Laboratories(Burlingame,California,USA))で製造業者の使用説明書に従って展開することによって検出可能なアルカリホスファターゼ活性を有する。
【0247】
本発明者らは、本発明の新規の異種成分不含および無血清培地を使用し、新しい多能性幹細胞系を誘導可能であることを見出している。
【0248】
したがって、以下の実施例セクションにさらに示されるように、本発明者らは、HA40/4培地を使用し、「WC1」と称される新しいhESC系を、ヒト包皮線維芽細胞のフィーダー層上で培養される全胚盤胞から誘導することができた(以下の実施例セクションの実施例3)。
【0249】
本明細書で使用される用語「誘導する」は、胚性幹細胞系または人工多能性幹細胞系を少なくとも1つの胚性幹または人工多能性細胞から生成することを示す。
【0250】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞系は、胚性幹細胞系であり、胚性幹細胞系を誘導する方法は、(a)胚性幹細胞を胎児の着床前期胚盤胞、着床後期胚盤胞および/または生殖器組織から取るステップ、および(b)胚性幹細胞を本発明の一部の実施形態の培地中で培養するステップによって実施され、それによって胚性幹細胞系を誘導する。
【0251】
本明細書で使用される表現「胚性幹細胞系」は、単一の生物の単一または一群の胚性幹細胞(例えば単一のヒト胚盤胞)に由来し、かつ培養下で未分化状態および多能性能を維持しながら増殖する能力によって特徴づけられる胚性幹細胞を示す。
【0252】
胚性幹細胞の、胎児の着床前期胚盤胞、着床後期胚盤胞および/または生殖器組織からの取得は、上記および以下の実施例セクションの実施例3に記載のように、当該技術分野で既知の方法を用いて行いうる。要するに、透明帯が、タイロード酸性溶液(Sigma(St LouisMO,USA))を使用し、5〜7日齢胚盤胞から除去され、栄養芽層は、免疫手術により、または27gの針を使用して機械的に特異的に除去され、露出したICMは、上記の培地のいずれかの存在下で、好適な培養系(例えば、フィーダー層、無フィーダーマトリックスまたは浮遊培養)下で4〜10日間直接培養されるか(着床前胚盤胞が使用される場合)、あるいは、胚盤胞の表面への着床を可能にするフィーダー層または無フィーダー培養系上で、(着床後/原腸形成前胚盤胞が使用される場合に13日齢胚盤胞の細胞を得るため)ICMを6〜8日間培養することにより、インビトロ着床がなされ、その後、着床された細胞は、単離され、下記のように、上記の培地のいずれかの存在下で、フィーダー層、無フィーダーマトリックスまたは浮遊培養系上でさらに培養しうる。胎児の生殖器組織を使用する場合、生殖隆起は、解離され、小塊に切断され、その後、機械的解離により、細胞に分離される。次いで、単細胞のEG細胞は、上記の培地のいずれかの中で4〜10日間培養される。
【0253】
本発明の一部の実施形態によると、多能性幹細胞系は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)系であり、iPS細胞系を誘導する方法は、(a)体細胞を多能性幹細胞に誘導するステップ、および(b)多能性幹細胞を、本発明の一部の実施形態の培地中で培養するステップによって実施され、それによって人工多能性幹細胞系を誘導する。
【0254】
本明細書で使用される表現「人工多能性幹細胞系」は、単一の人工多能性幹細胞に由来し、かつ培養下で未分化状態および多能性能を維持しながら増殖する能力によって特徴づけられる多能性幹細胞を示す。
【0255】
多能性幹細胞を誘導する方法は、当該技術分野で周知であり、例が、TakahashiおよびYamanaka、2006年;Takahashiら、2007年;Meissnerら、2007年;Okitaら、2007年、Yuら、2007年;Nakagawaら、2008年、Yu J.ら、Science.2009年、324:797−801頁;Parkら、2008年;Hannaら、2007年;Lowryら、2008年;Aoiら、2008年(これらの全部が全体として参照により本明細書中に援用される)の中に示される。
【0256】
iPS細胞のESCは、一旦得られると、本質的に上記のように、多能性幹細胞の未分化状態での増殖を可能にする上記の培地のいずれかの中でさらに培養される。
【0257】
確立された多能性幹細胞系(例えば胚性幹細胞系または人工多能性幹細胞系)に対し、未分化状態での細胞の増殖性能を阻害することなく、その多能性能を維持するように凍結/解凍サイクルを実施可能であることは理解されるであろう。例えば、以下の実施例セクションに示されるように、hESCまたはヒトiPS細胞は、15%血清代替物および10%DMSOを使用し、凍結および解凍が成功した。
【0258】
以下の実施例セクションの実施例1、2、4および5に記載のように、上記の培地のいずれかの中で増殖・維持されたhESCおよびヒトiPS細胞は、二次元(例えば、無フィーダーマトリックスまたは包皮フィーダー)または三次元(例えば、静的または動的浮遊培養)培養系下で、(例えば少なくとも20または30継代の)長期の培養期間後、インビトロ(EBの形成による)およびインビボ(奇形腫の形成による)で明らかなように、多能性を示す(すなわち、3つの胚性胚葉、外胚葉、内胚葉および中胚葉のすべての細胞種に分化する能力を有する)。したがって、本発明の教示に従って培養されたhESCまたはヒトiPS細胞は、分化した系統特異的細胞を生成するための供給源として使用しうる。かかる細胞は、ESCが様々な分化シグナル(例えば、サイトカイン、ホルモン、成長因子)を受けることによってESCから直接的に得るか、または胚様体の形成およびそれに続くEBの細胞の系統特異的細胞への分化を介して間接的に得ることが可能である。
【0259】
したがって、本発明の一部の実施形態の態様によると、胚様体を多能性幹細胞から生成する方法が提供される。本方法は、(a)多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って培養し、それによって増殖された未分化多能性幹細胞を得るステップ、および(b)増殖された未分化多能性幹細胞を、幹細胞の胚様体への分化に適した培養条件下に置くステップによって実施され、それによって胚様体を多能性幹細胞から生成する。
【0260】
本明細書で使用される表現「胚様体」は、分化を経ている、ESC、拡張胚盤胞細胞(EBC)、胚性生殖細胞(EGC)および/または人工多能性幹細胞の集団からなる形態学的構造を示す。EBの形成は、多能性幹細胞培養物からの分化遮断因子(differentiation blocking factor)の除去後に開始される。EBの形成の第1ステップにおいては、多能性幹細胞が、小細胞塊に増殖し、次いで分化を進める。分化の第1相においては、ヒトESCまたはヒトiPS細胞のいずれかに対する培養下で1〜4日後、内胚葉細胞層が小塊の外部層上に形成される結果、「単純な(simple)EB」が得られる。第2相においては、分化後の3〜20日後、「複雑な(complex)EB」が形成される。複雑なEBは、外胚葉および中胚葉細胞および誘導組織(derivative tissue)の広範な分化によって特徴づけられる。
【0261】
したがって、本発明の一部の実施形態に従う方法は、増殖された未分化多能性幹細胞を得るための上記の培地のいずれかの中で多能性幹細胞を培養することと、それに続き、増殖された未分化多能性幹細胞(例えば、ESCまたはiPS細胞)を、多能性幹細胞の胚様体への分化に適した培養条件下に置くこととを含む。かかる培養条件は、多能性幹細胞が未分化状態で増殖されるべきである場合に使用される分化阻害因子、例えば、TGFβ3、少なくとも50μg/mlの濃度でのアスコルビン酸、bFGFおよび/またはIL6RIL6キメラを実質的に有しない。
【0262】
EBの形成においては、多能性幹細胞(ESCまたはiPS細胞)は、そのフィーダー細胞層、無フィーダー培養系または浮遊培養物から取り出され、血清または血清代替物を含有しかつ分化阻害因子を含有しない培地の存在下で浮遊培養に移される(例えば、以下の実施例セクションの実施例1、2、4および5を参照)。例えば、EBの形成に適した培地は、20%FBSd(HyClone(Utah,USA))、1mM L−グルタミン、0.1mM β−メルカプトエタノール、および1%非必須アミノ酸ストックが補充された塩基性培地(例えば、Ko−DMEMまたはDMEM/F12)を含みうる。
【0263】
EBの形成のモニタリングは、当業者の能力の範囲内であり、形態学的評価(例えば組織学的染色)および分化特異的マーカーの発現の判定[例えば、免疫学的技術またはRNAに基づく分析(例えば、RT−PCR、cDNAマイクロアレイ)を使用]により、実施できる。
【0264】
系統特異的細胞をEBから得るため、EBの細胞は、さらに系統特異的細胞に適した培養条件下に置くことが可能であることは理解されるであろう。
【0265】
好ましくは、本発明のこの態様の方法は、(c)胚様体の細胞を系統特異的細胞の分化および/または増殖に適した培養条件下に置くステップをさらに含み、それにより、系統特異的細胞が胚性幹細胞から生成される。
【0266】
本明細書で使用される表現「系統特異的細胞の分化および/または増殖に適した培養条件」は、培養系、例えば、フィーダー細胞層、無フィーダーマトリックスまたは浮遊培養物と、EBの細胞に由来する特異的細胞系の分化および/または増殖に適した培地との組み合わせを示す。さらに、かかる培養条件の非限定例が、以下に記載される。
【0267】
本発明の一部の実施形態によると、本発明のこの態様の方法は、ステップ(b)後に系統特異的細胞を単離するステップをさらに含む。
【0268】
本明細書で使用される表現「系統特異的細胞を単離する」は、主に特異的系統表現型に関連した少なくとも1つの特性を示す細胞を有する培養下での細胞の混合集団の集積を示す。すべての細胞系が、3つの胚性胚葉から誘導されることは理解されるであろう。したがって、例えば、肝細胞および膵臓細胞は、内胚葉、骨、軟骨、弾性繊維結合組織、筋細胞、心筋細胞、骨髄細胞、血管細胞(すなわち内皮および平滑筋細胞)から誘導され、また造血細胞は、胚性中胚葉から分化され、神経、網膜および表皮細胞は、胚性外胚葉から誘導される。
【0269】
本発明の一部の好ましい実施形態によると、系統特異的細胞の単離は、蛍光活性化セルソーター(FACS)によるEBの細胞のソーティングによって行われる。
【0270】
FACS分析によるEB由来の分化細胞を単離する方法は、当該技術分野で既知である。一方法によると、EBは、トリプシンおよびEDTAの溶液(それぞれ0.025%および0.01%)を用いて分離され、リン酸塩緩衝化生理食塩水(PBS)中の5%ウシ胎仔血清(FBS)で洗浄され、特異的細胞系に対する細胞表面抗原特性に特異的な蛍光標識抗体とともに氷上で30分間インキュベートされる。例えば、内皮細胞は、Levenberg S.ら(「Endothelial cells derived from human embryonic stem cells.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.2002年、99:4391−4396頁)に記載のように、PharMingen(PharMingen,Becton Dickinson Bio Sciences(San Jose,CA,USA))から入手可能な蛍光標識PECAM1抗体(30884X)など、血小板内皮細胞接着分子−1(PECAM1)に特異的な抗体に付着させることによって単離される。造血細胞は、蛍光標識抗体、例えば、CD34−FITC、CD45−PE、CD31−PE、CD38−PE、CD90−FITC、CD117−PE、CD15−FTTC、クラスI−FITC(それら全部におけるIgG1はPharMingenから入手可能)、CD133/1−PE(IgG1)(Miltenyi Biotec(Auburn,CA)から入手可能)、およびグリコホリンA−PE(IgG1)(Immunotech(Miami,FL)から入手可能)を使用して単離される。生細胞(すなわち固定を伴わない)が、ヨウ化プロピジウムの使用によるFACScan(Becton Dickinson Bio Sciences)上で分析され、死細胞が、PC−LYSISまたはCELLQUESTソフトウェアのいずれかを用いて除去される。単離細胞は、Kaufman D.S.ら、(「Hematopoietic colony−forming cells derived from human embryonic stem cells.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.2001年、98:10716−10721頁)によって記載のように、磁気標識二次抗体および磁気分離カラム(MACS,Miltenyi)を使用し、さらに集積されうることは理解されるであろう。
【0271】
本発明の一部の実施形態によると、系統特異的細胞の単離は、EB内部に含まれる細胞、組織および/または組織様構造の機械的分離によって行われる。
【0272】
例えば、拍動する心筋細胞は、米国特許出願公開第2003/0022367号明細書(Xuらに付与)中に開示のように、EBから単離されうる。本発明の4日齢EBは、ゼラチンコートされたプレートまたはチャンバースライドに移され、結合および分化が可能になる。分化の8日目に認められる自発的収縮細胞は、機械的に分離され、低カルシウム媒体またはPBSを有する15mLのチューブに回収される。細胞は、コラゲナーゼ活性に依存し、コラゲナーゼBによる消化を用いて、37℃で60〜120分間解離される。次いで、解離された細胞は、分化用KB培地(differentiation KB meduium)(85mM KCl、30mM KHPO、5mM MgSO、1mM EGTA、5mMクレアチン、20mMグルコース、2mM NaATP、5mMピルビン酸塩、および20mMタウリン、pH7.2に緩衝化、Maltsevら、Circ.Res.75:233頁、1994年)に再懸濁され、37℃で15〜30分間インキュベートされる。解離後、細胞がチャンバースライドに播種され、分化培地中で培養され、拍動可能な単一の心筋細胞が生成される。
【0273】
本発明の一部の実施形態によると、系統特異的細胞の単離は、EBに分化因子を施し、それにより、EBの系統特異的分化細胞への分化を誘発することによって行われる。
【0274】
以下は、EBの系統特異的細胞への分化を誘発するための多数の手順およびアプローチの非限定的説明である。
【0275】
本発明の一部の実施形態のEBを神経前駆体に分化させるため、4日齢EBは、5mg/mlのインスリン、50mg/mlのトランスフェリン、30nMの塩化セレン、および5mg/mlのフィブロネクチンを有するDMEM/F−12培地(ITSFn培地、Okabe S.ら、1996年、Mech.Dev.59:89−102頁)を含む組織培養皿内で5〜12日間培養される。さらに、得られた神経前駆体は、移植され、神経細胞がインビボで生成されうる(Bruestle O.ら、1997年、「In vitro−generated neural precursors participate in mammalian brain development.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.94:14809−14814頁)。神経前駆体は、その移植前、0.1%DNaseの存在下で、トリプシン処理され、単細胞懸濁液に粉砕されることは理解されるであろう
【0276】
本発明の一部の実施形態のEBは、オリゴデンドロサイトに分化し、細胞を、修飾SATO培地、すなわち、ウシ血清アルブミン(BSA)、ピルビン酸塩、プロゲステロン、プトレッシン、チロキシン、トリヨードチロニン、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、アミノ酸、ニューロトロフィン3、毛様体神経栄養因子およびヘペスを有するDMEM中で培養することにより、細胞を有髄化しうる(Bottenstein J.E.およびSato G.H.、1979年、Proc.Natl.Acad.Sci.USA76、514−517頁;Raff M.C.、Miller R.H.、およびNoble M.、1983年、Nature 303:390−396頁]。要するに、EBは、0.25%トリプシン/EDTAを使用して解離され(37℃で5分間)、単一の細胞懸濁液に粉砕される。懸濁された細胞は、5%ウマ血清および5%ウシ胎仔血清(FCS)が補充されたSATO培地を有するフラスコ内にプレーティングされる。培養下で4日後、フラスコは穏やかに振とうされ、接着が弱い細胞(主にオリゴデンドロサイト)が懸濁される一方、星状細胞は、フラスコに接着し、さらにならし培地を生成する状態が維持される。一次オリゴデンドロサイトは、SATO培地を有する新しいフラスコにさらに2日間移される。培養下で全体で6日経過後、オリゴスフェアー(oligosphere)は、細胞移植のため、部分的に解離され、SATO培地に再懸濁されるか、または完全に解離され、先行する振とうステップから得られるオリゴスフェアーならし培地中にプレーティングされる[Liu S.ら、(2000年) 「Embryonic stem cells differentiate into oligodendrocytes and myelinate in culture and after spinal cord transplantation.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.97:6126−6131頁]。
【0277】
肥満細胞の分化においては、本発明の一部の実施形態の2週齢EBは、10%FCS、2mMのL−グルタミン、100単位/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン、20%(v/v)のWEHI−3細胞ならし培地および50ng/mlの組換えラット幹細胞因子が補充されたDMEM培地を含む組織培養皿に移される(rrSCF、Tsai M.ら、2000年、「In vivo immunological function of mast cells derived from embryonic stem cells:An approach for the rapid analysis of even embryonic lethal mutations in adult mice in vivo.」 Proc Natl Acad Sci USA.97:9186−9190頁)。培養物は、週に1回、細胞を新しいフラスコに移し、かつ培地の半分を交換することにより、増殖される。
【0278】
血液−リンパ系細胞を本発明の一部の実施形態のEBから生成するため、2〜3日齢EBは、調節可能な酸素含量を有するインキュベーターを使用し、7.5%COおよび5%Oの存在下で、ガス透過性培養皿に移される。分化の15日後、細胞は採取され、コラゲナーゼ(0.1単位/mg)およびディスパーゼ(0.8単位/mg)(双方はF.Hoffman−La Roche Ltd(Basel,Switzerland)から入手可能)での穏やかな消化によって解離される。CD45陽性細胞は、Potocnik A.J.ら、(「Immunology Hemato−lymphoid in vivo reconstruction potential of subpopulations derived from in vitro differentiated embryonic stem cell.」 Proc.Natl.Acad.Sci.USA.1997年、94:10295−10300頁)に記載のように、ヤギ抗ラット免疫グロブリンに複合された抗CD45モノクローナル抗体(mAb)M1/9.3.4.HL.2および常磁性マイクロビーズ(Miltenyi)を使用し、単離される。単離CD45陽性細胞は、MACSカラム(Miltenyi)全体にわたる単回通過を用いて、さらに集積しうる。
【0279】
単離系統特異的細胞の分化および増殖に適した培養条件は、様々な組織培地、成長因子、抗生物質、アミノ酸などを含み、また、特定の細胞種および/または細胞系を増殖しかつ分化させるため、いずれの条件が適用されるべきかを判定することが当業者の能力の範囲内にあることは理解されるであろう。
【0280】
それに加え、またはそれに代わり、系統特異的細胞は、ESCまたはiPS細胞などの増殖された未分化多能性幹細胞を特異的細胞系の分化に適した培養条件に直接誘発することによって得ることができる。
【0281】
本発明の一部の実施形態の態様によると、系統特異的細胞を多能性幹細胞から生成する方法が提供される。本方法は、(a)多能性幹細胞を本発明の一部の実施形態の方法に従って培養し、それによって増殖された未分化幹細胞を得るステップと、(b)増殖された未分化幹細胞を、系統特異的細胞の分化および/または増殖に適した培養条件下に置くステップと、によって実施され、それにより、系統特異的細胞が多能性幹細胞から生成される。
【0282】
以下は、系統特異的細胞の多能性幹細胞(例えばESCおよびiPS細胞)からの分化および/または増殖に適した培養条件の非限定例である。
【0283】
CD73陽性およびSSEA−4陰性である間葉間質細胞は、Trivedi PおよびHematti P.Exp Hematol.2008年、36(3):350−9頁に本質的に記載のように、hESCの培養物中に形成された線維芽細胞様分化細胞の画分を機械的に増大させることにより、hESCから生成されうる。要するに、hESCの分化を誘発するため、培地の変更の間隔は、3〜5日に延長され、ESCコロニーの周辺部の細胞は、紡錘状の線維芽細胞様細胞になる。これらの条件下で9〜10日後、培養下の約40〜50%の細胞が線維芽細胞様の外見を得る場合、ESCコロニーの未分化部分は、物理的に除去され、残りの分化細胞は、同じ条件下で新しい培養プレートを通過される。
【0284】
hESCのドーパミン作動性(DA)ニューロンへの分化を誘発するため、Vazin T.ら、PLoS One.2009年8月12日;4(8):e6606;およびElkabetz Y.ら、Genes Dev.2008年1月15日;22:152−165頁に本質的に記載のように、細胞は、マウス間質細胞系PA6またはMS5とともに共培養するか、あるいは、間質細胞由来因子1(SDF−1/CXCL12)、プレイオトロフィン(PTN)、インスリン様成長因子2(IGF2)およびエフリンBl(EFNB1)の組み合わせとともに培養しうる。
【0285】
中脳ドーパミン(mesDA)ニューロンを生成するため、Friling S.ら、Proc Natl Acad Sci USA.2009年、106:7613−7618頁に本質的に記載のように、hESCは、遺伝子組換えにより、転写因子Lmx1aを発現しうる(例えば、PGKプロモーターおよびLmx1aを有するレンチウイルスベクターを使用)。
【0286】
肺上皮(II型肺胞上皮)をhESCから生成するため、ESCは、Rippon H.J.ら、Proc Am Thorac Soc.2008年;5:717−722頁に記載のように、市販の細胞培地(Small Airway Growth Medium;Cambrex(College Park,MD))の存在下、またはその代わり、肺細胞の細胞系(例えばA549ヒト肺腺癌細胞系)から採取されたならし培地の存在下で培養しうる。
【0287】
hESCまたはヒトiPS細胞の神経細胞への分化を誘発するため、多能性幹細胞は、Chambers S.M.ら、Nat Biotechnol.2009年、27:275−280頁に本質的に記載のように、TGF−b阻害剤(SB431542、Tocris;例えば10nM)およびNoggin(R&D;例えば500ng/ml)が補充された血清代替培地の存在下で約5日間培養することができ、その後、細胞は、500ng/mLのNogginの存在下で、漸増量(例えば、25%、50%、75%、2日ごとに変更)のN2培地(Li X.J.ら、Nat Biotechnol.2005年、23:215−21頁)とともに培養される。
【0288】
系統特異的一次培養物に加え、本発明のEBを使用し、培養下で無限の増殖能を有する系統特異的細胞系を生成しうる。
【0289】
本発明の細胞系は、例えば、細胞内でのテロメラーゼ遺伝子の発現(Wei W.ら、2003年、Mol Cell Biol.23:2859−2870頁)または同細胞とNIH3T3 hph−HOXllレトロウイルス産生細胞との共培養(Hawley R.G.ら、1994年、Oncogene 9:1−12頁)を含む当該技術分野で既知の方法によってEB由来細胞を不死化することにより、生成されうる。
【0290】
本発明の教示に従って得られる系統特異的細胞または細胞系が、ヒト胚における天然の場合と同様の分化プロセスによって発生されることから、それらがさらに、ヒト細胞に基づく治療および組織再生のために使用可能であることは理解されるであろう。
【0291】
したがって、本発明では、細胞補充療法を必要とする疾患を処置することを目的とした、本発明の一部の実施形態の増殖および/または分化された系統特異的細胞または細胞系の使用が想定される。
【0292】
例えば、オリゴデンドロサイト前駆体はミエリン疾患の処置に使用可能であり(「Repair of myelin disease:Strategies and progress in animal models.」 Molecular Medicine Today.1997年、554−561頁)、軟骨細胞または間葉細胞は、骨および軟骨欠損の処置に使用可能であり(米国特許第4,642,120号明細書)、また上皮系統の細胞は、創傷またはやけどの皮膚再生において使用可能である(米国特許第5,716,411号明細書)。
【0293】
特定の疾患、例えば特定の遺伝子産物が欠損している遺伝子疾患においては[例えば、嚢胞性線維症患者におけるCFTR遺伝子産物の欠損(Davies J.C.、2002年.「New therapeutic approaches for cystic fibrosis lung disease.」 J.R.Soc.Med.95 Suppl 41:58−67頁)]、ESC由来細胞またはiPS細胞由来細胞は、好ましくは、その個体への投与前に突然変異遺伝子を過剰発現するように操作される。他の疾患においては、ESC由来細胞またはiPS由来細胞が、特定の遺伝子を除外するように操作されるべきであることは理解されるであろう。
【0294】
遺伝子の過剰発現または除外は、ノックインおよび/またはノックアウトコンストラクト[例えば、Fukushige S.およびIkeda J.E.:「Trapping of mammalian promoters by Cre−lox site−specific recombination.」 DNA Res 3(1996年) 73−50頁;Bedell M.A.、Jerkins N.A.およびCopeland N.G.:「Mouse models of human disease. Part I:Techniques and resources for genetic analysis in mice.」 Genes and Development 11(1997年) 1−11;Bermingham J.J.、Scherer S.S.、O’Connell S.、Arroyo E.、Kalla K.A.、Powell F.L.およびRosenfeld M.G.:「Tst−l/Oct−6/SCIP regulates a unique step in peripheral myelination and is required for normal respiration.」 Genes Dev 10(1996年) 1751−62頁を参照のこと]を使用して行われる。
【0295】
細胞補充療法に加え、本発明の一部の実施形態の系統特異的細胞はまた、cDNAライブラリーを調製するのに使用しうる。mRNAは、標準的技術により、系統特異的細胞から調製され、さらに逆転写され、cDNAを形成する。cDNA調製物は、望ましくない特異性を有する胚性線維芽細胞および他の細胞に由来するヌクレオチドがサブトラクションされ、当該技術分野で既知の技術により、サブトラクションcDNAライブラリーを生成することが可能である。
【0296】
本発明の一部の実施形態の系統特異的細胞を使用し、系統前駆体の最終分化細胞への分化に作用する因子(例えば、小分子薬、ペプチド、ポリヌクレオチドなど)または条件(例えば、培養条件または操作)についてスクリーニングすることが可能である。例えば、成長作用物質、毒素または潜在的な分化因子は、その培地への添加により、試験することが可能である。
【0297】
本明細書で使用される用語「約」は、±10%を示す。
【0298】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」およびそれらの複合は、「限定はされないが〜を含む」を意味する。
【0299】
用語「〜からなる(consisting of)」は、「含みかつ限定される」を意味する。
【0300】
用語「本質的に〜からなる(consisting essentially of)」は、組成物、方法または構造は、追加的な成分、ステップおよび/または部分を含むことができるが、それは、追加的な成分、ステップおよび/または部分が、特許請求される組成物、方法または構造の基本的かつ新規な特性を物質的に変更しない場合に限られる。
【0301】
本明細書で使用される単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上特に明示されない限り、複数の参照を含む。例えば、用語「化合物(a compound)」または「少なくとも1つの化合物(at least one compound)」は、複数の化合物(その混合物を含む)を含みうる。
【0302】
本願全体を通じて、本発明の様々な実施形態は、範囲形式で提示されうる。範囲形式での記述は、あくまで便益性および簡潔性を意図したものであり、本発明の範囲に対する確固たる限定として解釈されるべきではないことは理解される必要がある。したがって、範囲の記述は、すべての考えられる部分範囲、ならびにその範囲内の個別の数値を詳細に開示しているものと考慮されるべきである。例えば、1〜6などの範囲の記述は、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6などの部分範囲、ならびにその範囲内の個別の数、例えば、1、2、3、4、5、および6を詳細に開示しているものと考慮されるべきである。これは、範囲の幅と無関係に適用される。
【0303】
数値範囲が本明細書中で示される場合、常に、指示範囲内の任意の言及される数字(分数または整数)を含むことを意味する。第1の指定数(indicate number)と第2の指定数「の間の範囲を有する/範囲」および第1の指定数「から」第2の指定数「の範囲を有する/範囲」という表現は、本明細書中で交換可能に使用され、第1および第2の指定数、ならびにそれらの間のすべての分数および整数を含むことを意味する。
【0304】
本明細書で使用される用語「方法」は、限定はされないが、化学、薬理学、生物学、生化学および医学分野の当業者に既知であるか、または彼らにより、既知の様式、手段、技術および手順から容易に開発される、様式、手段、技術および手順を含む、所与のタスクを実施するための様式、手段、技術および手順を示す。
【0305】
本明細書で使用される用語「処置する」は、状態の進行を無効化する(abrogating)か、実質的に阻害するか、遅延させるか、または食い止める(reversing)、状態の臨床または美容症状を実質的に改善するか、あるいは状態の臨床または美容症状の出現を実質的に阻止することを含む。
【0306】
明確化のため、別々の実施形態との関連で説明される本発明の特定の特徴がまた、単一の実施形態と組み合わせて提供されうると理解されている。逆に、簡素化のため、単一の実施形態との関連で説明される本発明の様々な特徴はまた、別々にまたは任意の好適な小結合でまたは本発明の任意の他の説明される実施形態に適するものとして提供されうる。様々な実施形態との関連で説明される特定の特徴は、実施形態がそれらの要素なしに機能を果たさないのでない限り、それら実施形態の本質的な特徴として考えられるべきではない。
【0307】
上記に詳述されかつ下記の特許請求の範囲の請求項で主張される、本発明の様々な実施形態および態様は、以下の実施例において、実験的サポートが見出される。
【実施例】
【0308】
ここでは、本発明の一部の実施形態を上記の説明とともに非限定的に例示する以下の実施例について言及される。
【0309】
一般に、本明細書で使用される命名および本発明で使用される実験法は、分子、生化学、微生物学および組換えDNA技術を含む。かかる技術は、文献において徹底的に説明されている。例えば、「Molecular Cloning:A laboratory Manual」 Sambrookら、(1989年);「Current Protocols in Molecular Biology」 第I−III巻、Ausubel R.M.編(1994年);Ausubelら、「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley and Sons、Baltimore,Maryland(1989年);Perbal、「A Practical Guide to Molecular Cloning」、John Wiley & Sons、New York(1988年);Watsonら、「Recombinant DNA」、Scientific American Books、New York;Birrenら(編) 「Genome Analysis:A Laboratory Manual Series」、第1−4巻、Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1998年);米国特許第4,666,828号明細書;米国特許第4,683,202号明細書;米国特許第4,801,531号明細書;米国特許第5,192,659号明細書および米国特許第5,272,057号明細書に記載の方法;「Cell Biology:A Laboratory Handbook」、第I−III巻、Cellis J.E.編(1994年);「Current Protocols in Immunology」、第I−III巻、Coligan J.E.編(1994年);Stitesら(編)、「Basic and Clinical Immunology」(第8版)、Appleton & Lange、Norwalk,CT(1994年);MishellおよびShiigi(編)、「Selected Methods in Cellular Immunology」、W.H.Freeman and Co.、New York(1980年)を参照のこと。また、利用可能なイムノアッセイは、特許および科学文献に詳述され、例えば、米国特許第3,791,932号明細書;米国特許第3,839,153号明細書;米国特許第3,850,752号明細書;米国特許第3,850,578号明細書;米国特許第3,853,987号明細書;米国特許第3,867,517号明細書;米国特許第3,879,262号明細書;米国特許第3,901,654号明細書;米国特許第3,935,074号明細書;米国特許第3,984,533号明細書;米国特許第3,996,345号明細書;米国特許第4,034,074号明細書;米国特許第4,098,876号明細書;米国特許第4,879,219号明細書;米国特許第5,011,771号明細書および米国特許第5,281,521号明細書;「Oligonucleotide Synthesis」 Gait M.J.編(1984年);「Nucleic Acid Hybridization」 Hames B.D.、およびHiggins S.J.編(1985年);「Transcription and Translation」 Hames B.D.およびHiggins S.J.編(1984年);「Animal Cell Culture」 Freshney R.I.編(1986年);「Immobilized Cells and Enzymes」 IRL Press、(1986年);「A Practical Guide to Molecular Cloning」 Perbal B.、(1984年)および「Methods in Enzymology」、第1−317巻、Academic Press;「PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications」、Academic Press,San Diego、CA(1990年);Marshakら、「Strategies for Protein Purification and Characterization−A Laboratory Course Manual」 CSHL Press(1996年)を参照のこと。これらの全部は、あたかも本明細書中に完全に説明されるように、参照により援用される。他の一般的な参考文献は、本文書全体を通じて提供される。それらの中の手順は、当該技術分野で周知であると考えられ、読者の便益性のために提供される。それらに含まれるすべての情報は、参照により本明細書中に援用される。
【0310】
一般的な材料および実験方法
細胞系
iPS細胞培養物−人工多能性幹(iPS)細胞系J1.2−3およびiF4[Parkら、2008年](それぞれ、包皮線維芽細胞および成体線維芽細胞に由来)を、過去に記載されたように、不活性化マウス胚性線維芽細胞(MEF)とともに培養した。次の培地の組み合わせを、付着された[二次元(2D)]培養物中でのiPS細胞の成長を支持するそれらの能力について試験した。
hESC培養物−ヒトESC系I4、I3、I6およびH9.2を、本試験において使用した。
【0311】
二次元の培養条件:hESC系またはヒトiPS細胞系を、試験培地の存在下で、MEFとともに、または合成マトリックス上で培養した。細胞は、1mg/mlのIV型コラゲナーゼ(Gibco Invitrogen Corporation(Grand Island NY,USA))を使用し、4〜6日ごとに継代し、1×10〜3×10個の細胞/cmの密度でプレーティングした。
【0312】
二次元培養に使用される培地−
(i)85%DMEM/F12(Biological Industries(Beit Haemek,Israel))、15%ノックアウト血清代替物(SR;Invitrogen)、2mM L−グルタミン、0.1mM β−メルカプトエタノール、1%非必須アミノ酸ストック、および10ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(すべては、特に指定されない限り、Invitrogen Corporation製品(Grand Island NY,USA)から入手)からなるyF10塩基性培地。この塩基性培地は、対照として、また、二次元培養下のフィーダー層としての不活性化MEFまたは包皮線維芽細胞とともに、iPS細胞またはhESCのルーチン成長のために使用した。
(ii)mHA40/4 DMEM/F12(94%)(Biological Industries,Israel)、ITS1%[Invitrogen corporation;ITS予混合物は、1.25mgのインスリン、1.25mgのトランスフェリンおよび1.25mgの亜セレン酸(Selenius acid)からなるX100ストック溶液である]、2ng/mlのTGFβ3(R&D Systems(Minneapoli,MN,USA)製)、L−グルタミン2mM(Invitrogen corporation)、アスコルビン酸500μg/ml(Sigma,Israel)、bFGF−10ng(Invitrogen corporation)、ヒト血清アルブミン−0.5%(Sigma、カタログ番号A1653)、重炭酸Na(7.5%)(Biological Industries,Israel)、限定された脂質混合物1%(Invitrogen corporation)。
(iii)HA75 DMEM/F12(94%)(Biological Industries,Israel)、L−グルタミン2mM(Invitrogen corporation)、アスコルビン酸500μg/ml(Sigma)、bFGF−10ng(Invitrogen Corporation)、TGFβ3 2ng/ml(R&D Systems(Minneapoli,MN,USA))、SR3(血清代替物)−1%(Sigma,Israel)、限定された脂質混合物1%(Invitrogen corporation)。
(iv)HA76 DMEM/F12(94%)(Biological Industries(Beit HaEmek,Israel))、ITS1%(Invitrogen corporation)、L−グルタミン2mM(Invitrogen corporation)、アスコルビン酸500μg/ml(Sigma,Israel)、bFGF−100ng(Invitrogen corporation)、TGFβ3 2ng/ml(R&D Systems(Minneapoli,MN,USA))、ヒト血清アルブミン血清−1%(Sigma、カタログ番号A1653)、重炭酸Na(7.5%)(Biological Industries,Israel)、限定された脂質混合物1%(Invitrogen corporation)。
(v)HA77 DMEM/F12(94%)(Biological Industries,Israel,Sigma Israel)、L−グルタミン2mM(Invitrogen corporation,Sigma,Israel)、アスコルビン酸500μg/ml(Sigma,Israel)、bFGF−100ng(Invitrogen corporation)、重炭酸Na(7.5%)(Biological Industries,Israel)、SR3〜1%(Sigma,Israel)、限定された脂質混合物1%(Invitrogen corporation,Sigma,Israel)。HA77 DMEM/F12(94%)がまた、重炭酸Naを全く含まずに使用されるだけでなく、多能性幹細胞(例えばhESCおよびiPSC)の増殖性、多能性および未分化状態での培養を少なくとも10継代(passges)にわたり支持しうることは注目されるべきである。
(vi)HA78 DMEM/F12(94%)(Biological Industries,Israel)、L−グルタミン2mM(Invitrogen corporation)、アスコルビン酸500μg/ml(Sigma,Israel)、bFGF−10ng/ml(Invitrogen corporation)、TGFβ3 2ng/ml(R&D Systems(Minneapoli,MN,USA))、SR3(商標)−1%(Sigma,Israel)、重炭酸Na(7.5%)(Biological Industries,Israel)、限定された脂質混合物1%(Invitrogen corporation)。
(v)HA74/1 DMEM/F12(94%)(Biological Industries,Israel)、ITS1%(Invitrogen corporation)、L−グルタミン2mM(Invitrogen corporation)、アスコルビン酸500μg/ml(Sigma,Israel)、bFGF−50ng/ml(Invitrogen corporation)、TGFβ3 2ng/ml(R&D Systems(Minneapoli,MN,USA))、ヒト血清アルブミン−0.5%(Sigma,Israel、カタログ番号A1653)、重炭酸Na(7.5%)(Biological Industries,Israel)、限定された脂質混合物1%(Invitrogen Corporation)。
【0313】
組換えヒトアルブミン(SIGMA、カタログ番号A7223)を、mHA40/4、HA76、HA74/1培地中でヒト血清アルブミン(SIGMA、カタログ番号A1653)の代わりに使用したとき、これらの培地が、hESCおよびiPS細胞の多能性および未分化状態での成長を長い培養期間にわたり支持することが見出されたことは注目されるべきである。したがって、これらの結果によると、組換えヒトアルブミンが、本発明の一部の実施形態の培地中でヒト血清アルブミンの代わりに使用することにより、限定された異種成分不含条件を提供しうることが示される。
【0314】
三次元培養系(浮遊培養)下での培養条件:
浮遊培養に使用される培地−
(i)100pg/mlのIL6RIL6キメラを補充した塩基性培地(yF10塩基性培地)からなるCM100Fp培地。85−KdaのIL6RIL6は、上記のように生成・精製され、InterPharm,Merck−Serono group(Nes−Ziona,IsraelおよびGeneva,Switzerland)により提供された。
(ii)100ng/mlのIL6RIL6キメラを補充した塩基性培地(yF10塩基性培地)からなるCM100F培地。85−KdaのIL6RIL6は、上記のように生成・精製され、InterPharm,Merck−Serono group(Nes−Ziona,IsraelおよびGeneva,Switzerland)により提供された。
(iii)10ng/mlのbFGFの代わりに100ng/mlのbFGFを使用したyF100塩基性培地(yF10塩基性培地)。この培地は、hESCのCM100Fと同じ効率での浮遊培養を支持することが見出された。
(iv)yFL3培地は、10ng/mlのbFGFの代わりに4ng/mlのbFGFを有しかつ3000単位/mlの白血病阻害因子(LIF)を補充したyF10塩基性培地からなる。iPS細胞が、4または10ng/mlのbFGFを含むyFL3培地で同じ効率で培養されたことは注目されるべきである。
(v)修飾HA13(a)培地は、DMEM/F12(95%)、L−グルタミン2mM、アスコルビン酸500μg/ml、bFGF−4ng、およびSR3〜1%からなり、二次元および三次元培養系下でhESCおよびiPSCを支持することが見出された。
(vi)修飾HA13(b)培地は、DMEM/F12(95%)、L−グルタミン2mM、アスコルビン酸500μg/ml、bFGF−4ng、SR3〜1%および脂質混合物(1%)からなり、二次元および三次元培養系下でhESCおよびiPSCを支持することが見出された。
(vii)修飾HA13(c)培地は、DMEM/F12(95%)、L−グルタミン2mM、アスコルビン酸50μg/ml、bFGF−4ng、およびSR3〜1%からなり、二次元および三次元培養系下でhESCおよびiPSCを支持することが見出された。
(viii)修飾HA13(d)培地は、DMEM/F12(95%)、L−グルタミン2mM、アスコルビン酸50μg/ml、bFGF−4ng、SR3〜1%および脂質混合物(1%)からなり、二次元および三次元培養系下でhESCおよびiPSCを支持することが見出された。
【0315】
静的浮遊(三次元)培養下での培養−浮遊培養を開始するため、iPS細胞またはhESCを、1.5mg/mlのIV型コラゲナーゼ(Worthington biochemical corporation(Lakewood,NJ,USA))を使用し、それらの培養皿から取り出し、さらに200μlのGilsonピペットチップを使用して小塊に破壊し、58mmのペトリ皿(Greiner(Frickenhausen,Germany))内、1×10〜5×10個の細胞/皿の細胞密度で浮遊培養した(58mmの皿内に5〜8mlの媒体)。ペトリ皿を、5%CO中、37℃でのインキュベーター内で静的に保存した。必要があれば、最初から3継代の間、分化する塊を培養物から取り出す一方、細胞を新しい培養条件に適合させた。浮遊培養下での培地は、毎日変更し、細胞を、(1〜3継代に限り)27gの針を使用する塊のマニュアル切断または200mlのGilsonピペットチップを使用する穏やかなピペッティングのいすれかにより、5〜7日ごとに継代した。あるいは、細胞を、トリプシンEDTA(0.25、Biological Industries(Beit Haemek,Israel))を、トリプシンとのインキュベーション前の10M ROCK阻害剤(EMD Biosciences,Inc.(La Jolla,CA,USA))での1時間処理と組み合わせて使用し、継代した。細胞の倍加時間の計算においては、I3、I4およびH9.2 hESCおよびJ1.2−3およびiF4 iPS細胞を計数し、CM100FまたはCM100Fp培地で懸濁して8日間成長させた。細胞を、一日おきに計数した。4つの生物学的反復の平均倍加時間を計算した。
【0316】
スピナーフラスコ内での培養(三次元)−iPS細胞またはhESC塊を、静的なペトリ皿内で少なくとも1継代培養し、次いで250mlのスピナーフラスコ(Cell Spin 250または100、Integra BioSciences)の試験培地に移し、磁気プレートを使用し、90回転毎分(rpm)で連続的に振とうし、5%CO中、37℃でのインキュベーター内に置いた。培地を、一日おきに変更した。5〜7日ごとに、塊を1:2の比で分割した。
【0317】
二次元(2D)または三次元培養系上で培養された細胞の免疫蛍光−蛍光免疫染色においては、試験培地の存在下、二次元または三次元培養系下で成長されるかまたはMEF上で再培養された未分化hESCまたはiPSを、4%パラホルムアルデヒドで固定し、一次抗体に4℃で一晩暴露した。Cys3複合抗体(Chemicon International(Temecula,CA,USA))を、二次抗体(1:200)として使用した。一次抗体(1:50)は、SSEA1、3および4(Hybridoma Bank(Iowa,USA))、TRA1−60およびTRA1−81(Chemicon International(Temecula,CA,USA))、およびOct4(Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA,USA))を含む。
【0318】
二次元または三次元培養系上で培養されたiPS細胞またはhESCの免疫組織化学−組織切片は、脱パラフィン後、外胚葉(β−3−チューブリン1:500、Chemicon International(Temecula,CA,USA))、中胚葉(CD31 1:20)、および内胚葉(α−フェトプロテイン1:20)(双方はDakoCytomation(Glostrup,Denmark)から入手)のマーカーの存在に対して、Dako LSAB+染色キットを使用して染色した。対照として、IgGアイソタイプおよび二次抗体の双方の染色を行った。二次抗体を、ペルオキシダーゼに複合させた。
【0319】
二次元または三次元培養系上で培養された細胞の核型分析−核型分析(G−バンディング)を、過去に記載のように[Amitら、2003年]、1試験あたり2つの試料、各試料から少なくとも10個の細胞に対して行った。核型を、分析し、「International System for Human Cytogenetic Nomenclature」(ISCN)に準じて報告した。
【0320】
二次元または三次元培養系上で培養された細胞の胚様体(EB)形成−EBの形成においては、hESCまたはiPSを、上記のように継代し、58mmのペトリ皿(Greiner(Frickenhausen,Germany))に移した。EBを、10%ウシ胎仔血清(FBS)(HyClone(Utah,USA))、10%ノックアウト血清代替物(SR;Invitrogen)、2mM L−グルタミン、0.1mM β−メルカプトエタノール、および1%非必須アミノ酸ストック(Invitrogen Corporation(Grand Island,NY,USA))を補充した80%DMEM/F12(Biological Industries(Beit Haemek,Israel))からなる培地中で成長させた。10〜14日齢EBを、RNA単離および組織学的検査のために採取した。組織学的分析のため、EBを、10%中性緩衝化ホルマリンで固定し、段階的アルコール(70%〜100%)で脱水し、パラフィンで包埋した。1〜5μmの切片を、脱パラフィン化し、ヘマトキシリン/エオシン(H&E)で染色した。
【0321】
二次元または三次元培養系上で培養された細胞のRT−PCR−全RNAを、Tri−Reagent(Sigma(St.Louis,MO,USA))を使用し、製造業者の使用説明書に従い、試験培地中、異種成分不含二次元または三次元培養系上で10、15および20継代成長させたhESCまたはiPS、および(試験培地の存在下、二次元、三次元で成長させた細胞、またはMEF上で培養した細胞から形成した)10〜14日齢EBから単離した。cDNAを、MMLV逆転写酵素RNアーゼHマイナス(Promega(Madison,WI,USA))を使用し、1μgの全RNAから合成した。PCR反応は、94℃で5分間の変性、その後、94℃で30秒間の反復サイクル、30秒間の表1(下記)に示されるアニーリング温度、および72℃で30秒間の伸長を含んだ。PCRプライマーおよび反応条件を、表1(下記)中に記載する。PCR産物を、2%アガロースゲル電気泳動を用いてサイズ分画した。DNAマーカーを使用し、得られた断片のサイズを確認した。定量PCR(Q−PCR)においては、試験遺伝子の濃度測定を、GAPDHに正規化した。3回の反復を、各試験系について行った。
【0322】
【表1】

【0323】
【表2】

【0324】
二次元で培養された細胞からの奇形腫の形成−6ウェルプレートの4〜6個のウェル(各ウェルは10cmの全表面積を有し、1.5〜2.5×10個の細胞を含む)に由来するhESC(H9.2およびI3)およびiPS(iF4およびJ1.2−3)細胞を、採取し、4週齢雄の重症複合型免疫不全(SCID)ベージュマウスの後肢筋に注射した。注射の10週間後、得られた奇形腫を、採取し、EBについて記述した場合と同じ方法を用い、組織学的分析のために調製した。
【0325】
浮遊培養された(三次元培養系)細胞からの奇形腫の形成−4〜6つの58mmの皿(浮遊培養から、各皿は1.5〜2.5×10個の細胞を含む)に由来するhESC(H9.2およびI3)およびiPS(iF4およびJ1.2−3)細胞を、採取し、4週齢雄の重症複合型免疫不全(SCID)ベージュマウスの後肢筋に注射した。注射の10週間後、得られた奇形腫を、採取し、EBについて記述した場合と同じ方法を用い、組織学的分析のために調製した。
【0326】
実施例1
人工多能性幹細胞および胚性幹細胞は、異種成分不含、無フィーダー層の二次元培養系上で培養される場合、未分化および多能性状態で維持されうる
下記の実験は、上の「一般的な材料および実験方法」セクションに記載の方法、培養条件および培地に従って培養したiPS細胞またはhESCを使用して行った。
【0327】
実験結果
異種成分不含、無血清培地および支持層を含まない系を使用する二次元培養系上で培養されたiPS細胞およびヒトESCは、iPSまたはhESCに典型的な未分化形態および特性を示す−いくつかの考えられる培地の組み合わせ(HA74/1、HA75、HA76、HA77、HA78、HA40/4)における、iPS細胞またはhESCの無フィーダー層および異種成分不含(動物汚染物質を全く含まない)培養を支持する能力について試験した。すべての試験培地(すなわち、HA74/1、HA75、HA76、HA77、HA78、HA40/4)は、iPSまたはhESCの培養を少なくとも15継代支持するのに適することが見出された。MATRIGEL(商標)合成マトリックスを使用する無フィーダー層条件下で試験培地を使用し、iPS細胞またはhESCを、未分化増殖、核型安定性および多能性を含むそれらのiPSまたは(of)hESCの特徴を維持しながら、少なくとも15継代連続培養した(データは示さない)。形態学的差異は、試験培養系で成長させたコロニーと、yF10培地の存在下、MEF上で成長させたコロニーの間で、全く認めることができず、それに応じて、形態学的特徴は、単細胞レベルで不変のままであり、細胞を小さく丸い状態にし、高い核対細胞質比を示し、そこでは1〜3つの核小体の存在が顕著であり、典型的な細胞間間隔が認められた(データは示さない)。試験培地(HA74/1、HA75、HA76、HA77、HA78、HA40/4)のすべての存在下、MATRIGEL(商標)(BD Biosceince)合成マトリックス上で培養したiPS細胞またはhESCを、対照培地(yF10塩基性培地)の存在下、MEF上で成長させた細胞と同様、(対照培地、MEF上で成長させたiPSまたはhESCと同様の集団倍加時間を示す)1対2、2対3、または1対3に相当する比で、5〜7日ごとに定期的に継代した。iPS細胞またはhESCを、90%超に相当する生存速度で、約100万個の細胞/10cmに相当する播種効率で継代した。15%の血清代替物(SR)および10%のDMSOを使用し、iPS細胞またはhESCの凍結および解凍に成功した。
【0328】
動物フリー培地中の二次元培養系で支持層を含まない系上で培養されたiPS細胞またはhESCは多能性のマーカーを発現する−霊長動物の未分化ESCおよびiPS細胞に典型的ないくつかの表面マーカーを、[Thomsonら、1995年、1996年、1998年に記載のように]免疫蛍光染色を用いて試験した。試験培地で少なくとも15継代培養された細胞は、表面マーカーSSEA4、TRA−1−60、TRA−1−81およびOct4に対して強い陽性を示すことが見出された(データは示さない)。他の霊長動物のESCなどの場合、SSEA3での染色は弱く、SSEA1における染色は陰性であった(データは示さない)。
【0329】
動物フリー培地中の二次元培養系で支持層を含まない系上で培養されたiPS細胞またはhESCは、インビトロでEBおよびインビボで奇形腫を形成する−試験条件下での長期培養後における細胞の発生能を、胚様体(EB)の形成により、インビトロで試験した。試験培地(HA74/1、HA75、HA76、HA77、HA78、HA40/4)の存在下、フィーダー層を含まない培養系下で培養したiPSまたはhESC細胞は、MEF上で成長させたESCによって生成されるEBと同様のEBを形成した(データは示さない)。例えば、iPS細胞がEBを形成する能力は、HA40/4培地中で28継代後、またHA77培地中で20継代後に示された。これらのEB内部で、iPS細胞またはhESCは、3つの胚性胚葉に代表的な細胞種に分化した[Itskovitz−eldorら、2000年]。それらのSCIDベージュマウスへの注射後、試験条件下で培養したiPS細胞またはhESCは、3つの胚性胚葉に代表的な細胞種を有する奇形腫を形成したことから(データは示さない)、それらの完全な多能性が示された。例えば、iPS細胞が奇形腫を形成する能力は、mHA40/4培地中で31継代後、HA74/1培地中で24継代後、またHA77培地中で16継代後に示された。
【0330】
実施例2
人工多能性幹細胞および胚性幹細胞は、異種成分不含および無血清培地の存在下、異種成分不含フィーダー層上で培養される場合、未分化および多能性状態で維持されうる
下記の実験は、上の「一般的な材料および実験方法」セクションに記載の方法、培養条件および培地に従って培養したiPS細胞またはhESCを使用して行った。
【0331】
実験結果
異種成分不含、無血清培地および異種成分不含フィーダー細胞層を使用する二次元培養系上で培養されたiPS細胞またはhESCは、iPSまたはhESCに典型的な未分化形態および特性を示す−いくつかの考えられる培地の組み合わせ(HA74/1、HA75、HA76、HA77、HA78、HA40/4)における、iPSまたはhESCの、フィーダー細胞層として包皮線維芽細胞を使用する異種成分不含(動物汚染物質を全く含まない)培養を支持する能力について試験した。すべての試験培地は、iPSまたはhESCの培養を支持するのに適することが見出された。支持層として包皮線維芽細胞を用いる異種成分不含条件下で試験培地を使用し、iPS細胞またはhESCを、未分化増殖(図1A〜C、データは示さない)、核型安定性および多能性を含むそれらのiPSまたはhESCの特徴を維持しながら、少なくとも22継代連続培養した。形態学的差異は、試験培養系で成長させたコロニーと、対照yF10培地の存在下、MEF上で成長させたコロニーの間で、全く認めることができず、それに応じて、形態学的特徴は、単細胞レベルで不変のままであり、細胞を小さく丸い状態にし、高い核対細胞質比を示し、そこでは1〜3つの核小体の存在が顕著であり、典型的な細胞間間隔が認められた(データは示さない)。試験培地(HA74/1、HA75、HA76、HA77、HA78、HA40/4)のすべての存在下、包皮線維芽細胞フィーダー細胞上で培養したiPS細胞またはhESCを、MEF上で成長させた細胞と同様、(対照yF10培地の存在下、MEF上で成長させたiPSまたはhESCと同様の集団倍加時間を示す)1対2、2対3、または1対3に相当する比で、5〜7日ごとに定期的に継代した。iPS細胞またはhESCを、90%超に相当する生存速度とともに、約100万個の細胞/10cmに相当する播種効率で継代した。15%の血清代替物(SR)および10%のDMSOを使用し、iPS細胞またはhESCの凍結および解凍に成功した。
【0332】
動物フリー培地および異種成分不含支持層の二次元培養系上で培養されたiPS細胞またはhESCは多能性のマーカーを発現する−霊長動物の未分化ESCおよびiPS細胞に典型的ないくつかの表面マーカーを、[Thomsonら、1995年、1996年、1998年に記載のように]免疫蛍光染色を用いて試験した。試験培地で少なくとも15継代培養された細胞は、表面マーカーSSEA4、TRA−1−60、TRA−1−81およびOct4に対して強い陽性を示すことが見出された(図2A〜C)。他の霊長動物のESCなどの場合、SSEA3での染色は弱く、SSEA1における染色は陰性であった(データは示さない)。
【0333】
動物フリー培地および異種成分不含フィーダー層の二次元培養系上で培養されたiPS細胞またはhESCは、インビトロでEBおよびインビボで奇形腫を形成する−試験条件下での長期培養後における細胞の発生能を、胚様体(EB)の形成により、インビトロで試験した。試験培地(HA74/1、HA75、HA76、HA77、HA78、HA40/4)の存在下、異種成分不含フィーダー細胞層(包皮線維芽細胞)下で培養したiPS細胞またはhESCは、yF10対照培地の存在下、MEF上で成長させたESCによって生成されるEBと同様のEBを形成した(データは示さない)。これらのEB内部で、iPS細胞またはhESCは、3つの胚性胚葉に代表的な細胞種に分化した[Itskovitz−eldorら、2000年]。それらのSCIDベージュマウスへの注射後、試験条件下で培養したiPS細胞またはhESCは、3つの胚性胚葉に代表的な細胞種を有する奇形腫を形成する(データは示さない)ことから、それらの完全な多能性が示される。
【0334】
実施例3
本発明の異種成分不含培地上での胚性幹細胞系の誘導
透明帯のタイロード酸性溶液(Sigma(St Louis,MO,USA))による消化後、全胚盤胞を、(重炭酸ナトリウムを含有しない以外では)HA40/4培地の存在下の、有糸分裂的に不活性化されたヒト包皮線維芽細胞(HFF)上に置く。最初に、細胞を、インスリン注射器(BD plastipak、カタログ番号300013)を使用し、機械的に継代し、4継代後、細胞を、1mg/mlのIV型コラゲナーゼ(Gibco Invitrogen corporation製品(San Diago,CA,USA))を使用し、4〜6日ごとに継代した。得られたヒトESC系を、「WC1」と称した。
【0335】
実施例4
人工多能性幹細胞および胚性幹細胞は、静的浮遊培養下、未分化および多能性状態で維持されうる
iPS細胞の浮遊培養は、特に、細胞および組織移植のため、大量の細胞を得ることを意図する場合、従来の培養よりも有意な利点を有する。
【0336】
下記の実験は、上の「一般的な材料および実験方法」セクションに記載の方法、培養条件および培地に従って培養したiPS細胞またはhESCを使用して行った。
【0337】
実験結果
iPS細胞は浮遊培養下、未分化状態で維持されうる−MEFまたは無フィーダー層条件下[Amitら、2004年]で成長させたiPS細胞(J1.2−3およびiF4細胞系)を、浮遊培養下で置いた。iPS細胞は、(4ng/mlもしくは10ng/mlのbFGFを含み、かつ3000単位/mlのLIFを補充した)試験培地CM100F、CM100Fp、yFL3、またはyF100での浮遊培養下で24時間後、球状塊または皿様構造をもたらし、それを少なくとも20継代維持した(図3A〜C、データは示さない)。少なくとも10継代浮遊培養したiPSの組織学的評価によると、大きい核を有する小細胞の均質集団が示された。球状物が、成長し、5〜7日ごとにその形態を維持しながら機械的に分割され、浮遊培養物の増殖が可能になった。あるいは、浮遊細胞は、トリプシン−EDTAおよびROCK阻害剤治療を用いることにより、単細胞に解離でき、さらに同じ形態および特徴の球状物を形成し、それによって効率的な細胞増殖が可能になった。一部の培養は、50継代を超える期間(1年にわたる連続培養)行った。本明細書中に記載のように試験培地で浮遊培養した2つの異なるiPS細胞系J1.2−3およびiF4は、同様の挙動と球状の形態および組織を示した。
【0338】
yF100培地(10ng/mlではなく100ng/mlのbFGFを含むyF10塩基性培地)、CM100FpおよびyFL3(10ng/mlではなく4ng/mlのbFGFを含み、3000単位/mlのLIFを補充したyF10塩基性培地)は、浮遊培養下で、ヒトESCの増殖性、未分化および多能性状態での成長を支持することが見出された。
【0339】
浮遊培養し、二次元培養系上で再培養したiPS細胞は、典型的なiPS細胞コロニー形態を維持する−懸濁液中で少なくとも10継代後、MEFまたはフィブロネクチン表面での二次元培養に戻した時、球状塊全部がMEFまたはフィブロネクチン表面に接着し、24〜48時間後、典型的なiPS細胞コロニー形態を示し、高い核対細胞質比を示し、そこでは1〜3つの核小体の存在が顕著であり、典型的な細胞間間隔が認められた(図4)。
【0340】
iPS細胞は、浮遊培養(三次元培養)下で培養されながら、その未分化幹細胞表現型を維持する−霊長動物の未分化ESCおよびiPS細胞に典型的ないくつかの表面マーカーを、[Thomsonら、1998年;Bhattacharyaら、2004年;Kristensenら、2005年に記載のように]免疫蛍光染色を用いて試験した。試験培地で少なくとも30継代浮遊培養したヒトiPS細胞は、SSEA4、TRA−1−60、TRA−1−81およびOct4に対して強い陽性を示すことが見出された(図5A〜C)。他の霊長動物のESC[Thomsonら、1995年および1996年]およびMEFとともに培養したESCと同様、SSEA3での染色は弱く、SSEA1に対して陰性であった(データは示さない)。幹細胞マーカーに対する染色は、浮遊培養した細胞を、MEFを有する二次元培養に戻した時、高いままであった(データは示さない)。RT−PCR分析によると、MEFとともに培養した細胞と同様、少なくとも10継代浮遊培養したiPS細胞が、Oct4、Nanog、Sox2、Rex1、およびFGF4を含む、多能性の遺伝子マーカーを発現する[Kingら、2006年]ことが示された(データは示さない)。浮遊培養したiPS細胞間で、Oct4、Nanog、Sox2、Rex1、およびFGF4の遺伝子発現において検出された差異は、MEF上で培養したiPS細胞の場合に比べて、全く有意でなく、また、連続的な浮遊培養後、MEFとともに再培養したiPS細胞の場合でも、同じ条件下のhESCと同様、全く有意でなかった。
【0341】
浮遊培養されたiPS細胞は正常な核型を維持する−Giemsaバンディングによる核型分析を、懸濁液中で30継代後の細胞上で行い、細胞は、正常な46、XY核型を示すことが見出された(データは示さない)。したがって、懸濁細胞培養物の核型は、安定なままであった。
【0342】
浮遊培養されたiPS細胞またはhESCは、インビトロでその多能性を維持する−iPS細胞またはhESCは、試験培地での浮遊培養下で長期増殖後、インビトロでのEBの形成によって示されたように、その多能性分化能力を維持した。20継代を超える期間、浮遊培養したhESCまたはiPS細胞を、成長因子の添加を伴わない血清含有培地に移した時、嚢胞性EBの形成が7〜10日後に認められ、それは培養下で10日後にhESCから形成される空洞化された(cavitated)EB[Itskovitzら、2000年]、および14〜20日後の嚢胞性EBと同様であった。iPS細胞またはhESCから形成されたEB内部に、iPS細胞分化に典型的な3つの胚性胚葉に代表的な細胞種が認められた(データは示さない)。
【0343】
例えば、iPS細胞がEBを形成する能力は、浮遊培養下、CM100p培地の存在下で22継代後に示され、EBを形成する能力は、浮遊培養下、yF100培地の存在下で23継代後に示され、EBを形成する能力は、浮遊培養下、yFL3培地の存在下で8継代後に示された。
【0344】
浮遊培養したiPS細胞はインビボでその多能性を維持する−懸濁したiPS細胞の多能性は、インビボで奇形腫の形成によってさらに示された。少なくとも20継代浮遊培養した細胞を、SCIDベージュマウスに注射し、10週間後、腫瘍が形成された(データは示さない)。これらの奇形腫内部に、3つの胚葉に代表的な組織が認められた。
【0345】
例えば、iPS細胞が奇形腫を形成する能力は、浮遊培養下、CM100中で20継代後に示され、奇形腫を形成する能力は、浮遊培養下、yFL3中で10継代後に示された。
【0346】
実施例5
人工多能性幹細胞および胚性幹細胞は、動的浮遊培養下、未分化および多能性状態で維持されうる
下記の実験は、上の「一般的な材料および実験方法」セクションに記載の方法、培養条件および培地に従って培養したiPS細胞またはhESCを使用して行った。
【0347】
実験結果
振とう浮遊培養下で培養されるiPS細胞は、その未分化状態を維持する−系J1.2−3由来のiPS細胞またはhESCを、試験培地を使用し、スピナーフラスコ内で少なくとも1か月間浮遊培養した。1か月後の実験によると、細胞によって形成された球状塊の形態学的特性が、iPS細胞がペトリ皿内で静的に培養される場合に認められる場合と同様のままであることが示された(データは示さない)。さらに、iPS細胞は、Oct−4、TRA−1−81、TRA−1−60およびSSEA4などの未分化hESCのマーカーを高度に発現した(図6A〜D)。塊中のiPS細胞は、MEF上での再培養時、再付着し、iPS細胞に典型的なコロニーを再び形成した(データは示さない)。スピナーフラスコ内で1か月培養した細胞の核型は、正常であることが見出された(データは示さない)。
【0348】
動的浮遊培養下で培養されるiPS細胞は正常な核型を維持する−(試験培地の存在下で)静的浮遊培養下で30継代、次いで(試験培地の存在下で)動的(スピナー)浮遊培養下で3継代培養したIPS細胞またはhESCは、正常な46、XY核型を示すことが見出された。したがって、懸濁したiPS細胞培養物の核型は、安定なままであった。
【0349】
動的浮遊培養下で培養されるiPS細胞または(of)hESCは、インビトロでその多能性を維持する−動的浮遊培養下で培養したiPS細胞またはhESCの発生能を、インビトロでEBの形成によって試験した。hESCまたはiPSを、静的浮遊培養下で20継代を超える期間、次いで動的浮遊培養下で少なくともさらに10継代培養し、次いで成長因子の添加を伴わない血清含有培地に移すことで、嚢胞性EBの形成が7〜10日後に認められ、それは培養下で10日後にhESCから形成される空洞化されたEB[Itskovitzら、2000年]、および14〜20日後の嚢胞性EBと同様であった。hESCまたはiPS細胞から形成されたEB内部に、iPS細胞分化に典型的な3つの胚性胚葉に代表的な細胞種が認められた(データは示さない)。
【0350】
動的浮遊培養下で培養されるiPS細胞またはhESCは、インビボでその多能性を維持する−動的浮遊培養下で培養したiPS細胞またはhESCの多能性を、インビボで奇形腫の形成によって実証した。細胞を、静的浮遊培養下で少なくとも20継代、次いで動的浮遊培養下でさらに10継代培養し、次いでSCIDベージュマウスに注射した。マウスへの注射の10週間後、腫瘍が形成された。これらの奇形腫内部に、3つの胚葉に代表的な組織が認められた(データは示さない)。
【0351】
この試験は、限定された二次元培養系または浮遊培養系のいずれかを使用し、未分化iPS細胞またはヒトESCを培養するための新規のアプローチを提示する。本発明者らは、これらの条件下で、2つのiPS細胞系(成体線維芽細胞由来のものと包皮線維芽細胞由来のもの)が、多能性および安定な核型を含むそれらの特徴を維持しながら、多くの継代を通じて成長・増殖されうることを示している。iPS細胞を、分化培地(例えば、10%ウシ胎仔血清(FBS)、10%ノックアウト血清代替物、2mM L−グルタミン、0.1mM β−メルカプトエタノール、および1%非必須アミノ酸ストックを補充したDMEM/F12)の存在下で懸濁液に移す場合、それらは胚様体(EB)を自発的に形成する。他方では、(例えば、CM100F、CM100Fp、yF100またはyFL3培地の存在下での)試験培養系を使用すると、iPS細胞は、未分化細胞からなる球状物を自発的に形成する。
【0352】
これは、三次元の振とう浮遊培養下での、未分化iPSの連続増殖のための方法の第1の説明であり、大規模な細胞生成に十分に適用可能であると思われる。
【0353】
本発明者らは、無血清培地および限定された成長因子に基づく、未分化iPSの増殖のための浮遊培養系を初めて提示している。この浮遊培養系では、ペトリ皿、Erlenmeyer振とうフラスコ、またはスピナーフラスコのいずれかを使用する。成体皮膚および新生児包皮線維芽細胞に由来する2つのiPS細胞系を、本発明の新規の方法に従い、25継代(86倍加)を超える長期培養後に、安定な核型および多能性を含む、あらゆる典型的なESC/iPS細胞の特徴を維持する小球状物として培養した。これらの結果は、iPS細胞を、三次元培養を用いてフィーダー層を有しない限定培地中で培養することが可能であることを示している。
【0354】
さらに、動的系上に1か月適用される場合、hESCおよびヒトiPS細胞の双方の細胞塊の数は、細胞に固有の特性を維持しながら、数倍に増加した。これらの結果によると、iPS細胞またはhESCの双方の三次元でのルーチン培養、および治療目的でのiPS細胞およびhESCの大量作製に適した提示される浮遊培養系が示される。
【0355】
本発明の教示により、スケーラブルで再現可能な制御される培養系が示される。これらの結果によると、臨床および工業用途の双方にとって必要とされる未分化iPS細胞およびhESCの大規模培養に対する促進者の(facilitator)方法を得るという所望された最終目標に向けての著しい進歩が示される。
【0356】
本発明は、その特定の実施形態との関連で記載されているが、多くの代替、修飾および変形が、当業者に理解されることは自明である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および広い範囲の範囲内に含まれるあらゆるかかる代替、修飾および変形を包含することが意図される。
【0357】
本願中に記述されるすべての出版物、特許および特許出願は、あたかも、各個別の出版物、特許または特許出願が、参照により本明細書中に援用されるべきものとして特別かつ個別に示される場合と同程度に、それらの全体が参照により本明細書中に援用される。さらに、本願中での一切の参考文献の言及または確認は、かかる参考文献が本発明に対する先行技術として利用可能であることの承認として解釈されるべきではない。それらは、セクション見出しが使用される程度まで、必ずしも限定するものとして解釈されるべきではない。
【0358】
参考文献
(追加的な参考文献が本文中で言及される)
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【配列表フリーテキスト】
【0359】
配列番号1〜30は、一本鎖DNAオリゴヌクレオチドの配列である。
配列番号36は、IL6R/IL6キメラタンパク質の配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約400〜600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、異種成分不含血清代替物および脂質混合物を含む、無血清および異種成分不含の培地であって、ここで前記培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、培地。
【請求項2】
塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β−3(TGFβ3)およびアスコルビン酸を含む、無血清および異種成分不含の培地であって、ここで前記培地中の前記アスコルビン酸の濃度は、少なくとも約50μg/mlであり、かつここで前記培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、培地。
【請求項3】
約50〜200ピコグラム/ミリリットル(pg/ml)の濃度範囲でIL6RIL6キメラを含む、無血清の培地であって、ここで前記培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、培地。
【請求項4】
少なくとも2000単位/mlの濃度で白血病阻害因子(LIF)を含む無血清の培地であって、ここで前記培地は、多能性幹細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、培地。
【請求項5】
約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)および血清代替物を含む培地であって、ここで前記培地は、多能性幹細胞を、浮遊培養下、未分化状態で維持する能力を有する、培地。
【請求項6】
塩基性培地、約50μg/ml〜約500μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約2ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲でのbFGF、L−グルタミン、および血清代替物からなる培地。
【請求項7】
塩基性培地、約50μg/ml〜約500μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約2ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲でのbFGF、L−グルタミン、血清代替物および脂質混合物からなる培地。
【請求項8】
多能性幹細胞および請求項1〜7のいずれか一項に記載の培地を含む細胞培養物。
【請求項9】
前記細胞培養物は、フィーダー細胞を含まない、請求項8に記載の細胞培養物。
【請求項10】
胚性幹細胞系を誘導する方法であって、
(a)胎児の着床前期胚盤胞、着床後期胚盤胞および/または生殖器組織に由来する胚性幹細胞を得るステップと、
(b)前記胚性幹細胞を請求項1〜7のいずれか一項に記載の培地中で培養するステップと、
を含み、それによって前記胚性幹細胞系を誘導する、方法。
【請求項11】
人工多能性幹細胞系を誘導する方法であって、
(a)体細胞を多能性幹細胞に誘導するステップと、
(b)前記多能性幹細胞を請求項1〜7のいずれか一項に記載の培地中で培養するステップと、
を含み、それによって前記人工多能性幹細胞系を誘導する、方法。
【請求項12】
多能性幹細胞を未分化状態で増殖・維持する方法であって、前記多能性幹細胞を請求項1〜7のいずれか一項に記載の培地中で培養するステップを含み、それによって前記多能性幹細胞を前記未分化状態で増殖・維持する、方法。
【請求項13】
多能性幹細胞を未分化状態で増殖・維持する方法であって、前記多能性幹細胞を、無血清、無フィーダー、マトリックス不含およびタンパク質担体不含であり、かつ約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む培地中で培養するステップを含み、ここで前記培地は、多能性幹細胞を未分化状態で維持する能力を有する、方法。
【請求項14】
前記培地は、前記多能性幹細胞を、浮遊培養下で培養される場合、未分化状態で増殖する能力を有する、請求項3または4に記載の培地、請求項8または9に記載の細胞培養物、あるいは請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
多能性幹細胞を増殖し、かつ前記多能性幹細胞を未分化状態で維持する方法であって、前記多能性幹細胞を、無血清および異種成分不含培地中、フィーダー細胞層上で培養するステップを含み、ここで前記培地は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、トランスフォーミング増殖因子β−3(TGFβ3)およびアスコルビン酸を含み、ここで前記培地中の前記アスコルビン酸の濃度は、少なくとも50μg/mlであり、またここで前記培地は、多能性幹細胞を未分化状態で維持する能力を有し、それによって前記幹細胞を前記未分化状態で増殖・維持する、方法。
【請求項16】
多能性幹細胞を増殖し、かつ前記多能性幹細胞を未分化状態で維持する方法であって、前記多能性幹細胞を、無血清および異種成分不含培地中、フィーダー細胞層上で培養するステップを含み、ここで前記培地は、約400〜600μg/mlの濃度範囲でのアスコルビン酸、約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、異種成分不含血清代替物および脂質混合物を含み、ここで前記培地は、多能性幹細胞を未分化状態で維持する能力を有し、それによって前記幹細胞を前記未分化状態で増殖・維持する、方法。
【請求項17】
人工多能性幹(iPS)細胞を増殖し、かつ前記iPS細胞を未分化状態で維持する方法であって、前記iPS細胞を、基質接着を有せず細胞カプセル化を有しないでかつ前記iPS細胞の前記未分化状態での増殖を可能にする培養条件下での浮遊培養下で培養するステップを含み、それによって前記iPS細胞を前記未分化状態で増殖・維持する、方法。
【請求項18】
系統特異的細胞を多能性幹細胞から生成する方法であって、
(a)前記多能性幹細胞を、請求項10〜17のいずれか一項に記載の方法に従って培養し、それによって増殖された未分化幹細胞を得るステップと、
(b)前記増殖された未分化幹細胞を、系統特異的細胞の分化および/または増殖に適した培養条件下に置くステップと、
を含み、それによって前記系統特異的細胞を前記多能性幹細胞から生成する、方法。
【請求項19】
胚様体を多能性幹細胞から生成する方法であって、
(a)前記多能性幹細胞を、請求項10〜17のいずれか一項に記載の方法に従って培養し、それによって増殖された未分化多能性幹細胞を得るステップと、
(b)前記増殖された未分化多能性幹細胞を、前記幹細胞の胚様体への分化に適した培養条件下に置くステップと、
を含み、それによって前記胚様体を前記多能性幹細胞から生成する、方法。
【請求項20】
系統特異的細胞を多能性幹細胞から生成する方法であって、
(a)前記多能性幹細胞を、請求項10〜17のいずれか一項に記載の方法に従って培養し、それによって増殖された未分化多能性幹細胞を得るステップと、
(b)前記増殖された未分化多能性幹細胞を、前記増殖された未分化幹細胞の胚様体への分化に適した培養条件下に置くステップと、
(c)前記胚様体の細胞を、系統特異的細胞の分化および/または増殖に適した培養条件下に置くステップと、
を含み、それによって前記系統特異的細胞を前記多能性幹細胞から生成する、方法。
【請求項21】
前記幹細胞は、胚性幹細胞である、請求項8または9に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記幹細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項8または9に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記胚性幹細胞は、ヒト胚性幹細胞である、請求項21に記載の細胞培養物または方法。
【請求項24】
前記人工多能性幹細胞は、ヒト人工多能性幹細胞である、請求項22に記載の細胞培養物または方法。
【請求項25】
前記培地は、前記多能性幹細胞を未分化状態で維持しかつ増殖する能力を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の培地、請求項8、9、および21〜24のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜16、および18〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記培地は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)をさらに含む、請求項3、4または25のいずれか一項に記載の培地、請求項8、9、および21〜25のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14および17〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記培地は、血清代替物をさらに含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の培地、請求項8、9、および21〜26のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜15および17〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記培地中の前記TGFβ3の濃度は、少なくとも約0.5ng/mlである、請求項2に記載の培地、請求項8、9、および21〜27のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14、15および17〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記培地中の前記TGFβ3の濃度は、約2ng/mlである、請求項28に記載の培地、細胞培養物または方法。
【請求項30】
前記培地中の前記bFGFの濃度は、少なくとも約5ng/mlである、請求項2に記載の培地、請求項8、9、および21〜29のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項9〜12、14、15および17〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記培地中の前記bFGFの濃度は、約5ng/ml〜約200ng/mlの範囲内である、請求項2に記載の培地、請求項8、9、および21〜25のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項9〜11、14、15および17〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記培地中の前記アスコルビン酸の濃度は、約400マイクログラム/ミリリットル(μg/ml)〜約600μg/mlの範囲内である、請求項2に記載の培地、請求項8、9、および21〜25のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、15および18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記培地中の前記アスコルビン酸の濃度は、約500μg/ml(マイクログラム/ミリリットル)である、請求項1または2に記載の培地、請求項8、9、および21〜25のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、および15〜16、18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記培養するステップは、マトリックス上で行われる、請求項10〜12および18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記マトリックスは、細胞外マトリックスを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞外マトリックスは、フィブロネクチンマトリックス、ラミニンマトリックス、および包皮線維芽細胞マトリックスからなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記マトリックスは、異種成分を含まない、請求項34〜36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記フィーダー細胞層は、異種成分を含まない、請求項15〜16、18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記フィーダー細胞層は、包皮線維芽細胞を含む、請求項15〜16、18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記bFGFは、約0.1ng/ml〜約500ng/mlの濃度範囲であり、前記TGFβ3は、約0.1ng/ml〜約20ng/mlの濃度範囲であり、前記アスコルビン酸は、約50μg/ml〜約5000μg/mlの濃度範囲である、請求項2に記載の培地、請求項8または9に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14、15、および18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記bFGFは、約5ng/ml〜約150ng/mlの濃度範囲であり、前記TGFβ3は、約0.5ng/ml〜約5ng/mlの濃度範囲であり、前記アスコルビン酸は、約400μg/ml〜約600μg/mlの濃度範囲である、請求項2に記載の培地、請求項8または9に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14、15、および18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記培地は、血清代替物をさらに含む、請求項1、2、40または41のいずれか一項に記載の培地、請求項8、9、40または41のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14〜16、18〜25、40および41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記血清代替物は、異種成分を含まない、請求項42に記載の培地、細胞培養物または方法。
【請求項44】
前記培地は、脂質混合物をさらに含む、請求項1、2、40または41に記載の培地、請求項8、9、40から43のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14〜16、18〜25、40〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記培地は、約5%〜約10%の濃度での重炭酸ナトリウムをさらに含む、請求項1、2、39、41〜43のいずれか一項に記載の培地、請求項8、9、40〜43のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14〜16、18〜25、40〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記脂質混合物は、約1%の濃度である、請求項44に記載の培地、細胞培養物または方法。
【請求項47】
前記IL6RIL6キメラの前記濃度は、約100pg/mlである、請求項3に記載の培地、請求項8または9に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14および18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記LIFの前記濃度は、約2000〜4000単位/mlの範囲内である、請求項4に記載の培地、請求項8または9に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14および18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記培養するステップは、浮遊培養下で行われる、請求項10〜13、および18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記培地は、TGFβ3を含まない、請求項1に記載の培地、請求項8または9に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14および18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記培地は、0.1ng/ml以下のTGFβ3を含む、請求項1に記載の培地、請求項8または9に記載の細胞培養物、あるいは請求項10〜12、14および18〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
無血清であり、かつ動物汚染物質を含まない、請求項5に記載の培地。
【請求項53】
前記bFGFの前記濃度は、約100ng/mlである、請求項5または52のいずれか一項に記載の培地。
【請求項54】
前記浮遊培養の培地は、無血清および無フィーダー細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項55】
前記培地は、約50〜200ピコグラム/ミリリットル(pg/ml)の濃度範囲でのIL6RIL6キメラを含み、ここで前記培地は、前記iPS細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記培地は、少なくとも2000単位/mlの濃度での白血病阻害因子(LIF)を含み、ここで前記培地は、前記iPS細胞を、フィーダー細胞支持の不在下、未分化状態で維持する能力を有する、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記培地は、約50〜200ng/mlの濃度範囲での塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を含む、請求項54に記載の方法。
【請求項58】
前記培地は、約50〜200ナノグラム/ミリリットル(ng/ml)の濃度範囲でのIL6RIL6キメラを含む、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
前記培地は、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)をさらに含む、請求項54に記載の方法。
【請求項60】
前記培地は、タンパク質担体を含まない、請求項17、54〜59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記増殖するステップは、約1か月後、少なくとも約8×10個の細胞を単一の多能性幹細胞から得るステップを含む、請求項12〜51および54〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記培地中で培養される前記多能性幹細胞は、少なくとも2継代後、正常な染色体核型を示す、請求項12〜51および54〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記多能性幹細胞は、少なくとも20時間の倍加時間を示す、請求項12〜51および54〜60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
前記維持するステップは、少なくとも5継代にわたる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の培地、請求項8または25のいずれか一項に記載の細胞培養物、あるいは請求項12〜17、および55〜56のいずれか一項に記載の方法。

【図1A−C】
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【図2A−C】
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【図3A−C】
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【図4】
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【図5A−C】
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【図6A−D】
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【公表番号】特表2013−510567(P2013−510567A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538468(P2012−538468)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際出願番号】PCT/IL2010/000937
【国際公開番号】WO2011/058558
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(504127647)テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファウンデーション リミテッド (20)
【Fターム(参考)】