説明

多色感熱媒体と印刷装置

【課題】混色が抑えられ、輪郭や文字がくっきりとしたシャープな印字も可能な多色感熱媒体と印刷装置を提供すること。
【解決手段】印刷装置のサーマルヘッドの熱エネルギーが多色感熱媒体1が有するブラックの発色層6上にあるオーバーコート層9側から与えられることにより、多色感熱媒体1内における熱エネルギーの拡散状態が僅かなうちに、印刷装置のサーマルヘッドの熱エネルギーがブラックの発色層6に与えられる。熱エネルギーが与えられたブラックの発色層6は、多色感熱媒体1が有するブラックの発色層6下にあるシアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5よりも発色部分に高い隠蔽性があることに加え、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5よりも高い温度で発色する。そこで、多色感熱媒体1のブラックの発色層6を印刷装置のサーマルヘッドで高い温度で発色させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の発色層を有する多色感熱媒体と印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複数の発色層を有する多色感熱媒体と印刷装置に関する技術としては、例えば、下記特許文献1において、ブラック発色層を形成して4層構造としたカラー感熱記録紙が記載されている。また、下記特許文献2において、基材上に融点の異なるイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色の熱溶融性インクを層状に塗布した感熱層を有する多色感熱紙を用いた感熱記録式の多色感熱プリント装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−1841号公報
【特許文献2】特開10−166632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この点、上記特許文献2に記載された図4等によると、多色感熱媒体が有する複数の発色層の中でブラックの発色層を印刷装置で発色させる場合は、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層を発色させる場合と比べて、大きな印加エネルギーを必要とする。つまり、ブラックの発色層を発色させるのに必要な印加エネルギーは、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層を発色させるのに十分な印加エネルギーでもある。そのため、多色感熱媒体が有するブラックの発色層を印刷装置で発色させようしても、その多色感熱媒体の構造やその印刷装置の印加制御によっては、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層も発色して混色が目立つことがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上述した点を鑑みてなされたものであり、混色が抑えられ、輪郭や文字がくっきりとしたシャープな印字も可能な多色感熱媒体と印刷装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するためになされた請求項1に係る発明は、多色感熱媒体と印刷装置であって、前記多色感熱媒体は、基材と、前記基材上に積層され、基本色を発色する下側発色層が1以上積層された積層群と、前記積層群上に積層され前記下側発色層の色とは異なる色に発色する発色層であって前記下側発色層よりも発色部分に高い隠蔽性のある上側発色層と、を備え、前記各発色層は、発色するために必要な発熱温度範囲がそれぞれ異なる発色特性を持っており、前記上側発色層は前記積層群の下側発色層よりも高い温度で発色し、前記印刷装置は、前記多色感熱媒体に対して前記上側発色層側から熱エネルギーを与えるためのサーマルヘッドと、前記サーマルヘッドを駆動するための制御手段と、を備え、前記制御手段は、一印字周期の中で、発色させようとする上側発色層および下側発色層の発色特性に応じて前記サーマルヘッドの発熱温度を制御すること、を特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、前記上側発色層の色が黒色であること、を特徴とする。
【0008】
また、請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、前記制御手段は、一印字周期の中で、サーマルヘッドへの駆動電圧の印加時間と印加タイミングを制御することで、発熱させようとする各発色層の発熱特性に応じた発熱温度と発熱時間を制御することを特徴とする。
【0009】
また、請求項4に係る発明は、請求項3に記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、前記多色感熱媒体の前記積層群は2以上の下側発色層を有し、全ての下側発色層は、発色するために必要な発熱時間の許容範囲がそれぞれ異なる発色特性を持っていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項5に係る発明は、請求項3に記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、前記多色感熱媒体の前記各発色層は、発色するための発熱時間の許容範囲がそれぞれ異なる発色特性を持っていることを特徴とする。
【0011】
また、請求項6に係る発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、前記多色感熱媒体の前記積層群は2以上の下側発色層を有し、2以上の下側発色層がそれぞれ発色することで各下側発色層が発色する色とは視覚的に異なる色に見掛け上発色することを特徴とする。
【0012】
また、請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、前記多色感熱媒体が備えた各発色層の間に中間層がそれぞれ積層されていること、を特徴とする。
【0013】
また、請求項8に係る発明は、請求項1乃至請求項7のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、前記多色感熱媒体が備えた上側発色層上にオーバーコート層が積層されていること、を特徴とする。
【0014】
また、請求項9に係る発明は、請求項1乃至請求項8のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、前記積層群は3つの下側発色層からなり、各下側発色層の色は、イエロー、シアン、マゼンタであること、を特徴とする。
【0015】
また、請求項10に係る発明は、請求項3乃至請求項9のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、前記多色感熱媒体を構成する下側発色層は、発色するために必要な発熱時間が、最下層の発色層が一番長く、積層された順に上側向かって順次短くなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
すなわち、本発明の多色感熱媒体と印刷装置では、印刷装置のサーマルヘッドの熱エネルギーが多色感熱媒体に上側発色層側から与えられることにより、多色感熱媒体内における熱エネルギーの拡散状態が僅かなうちに、印刷装置のサーマルヘッドの熱エネルギーが上側発色層に与えられ、しかも、熱エネルギーが与えられた上側発色層は、下側発色層よりも発色部分に高い隠蔽性があることに加え、下側発色層よりも高い温度で発色することから、多色感熱媒体の上側発色層を印刷装置のサーマルヘッドで高い温度で発色させれば、下側発色層の発色による混色が抑えられるとともに、輪郭や文字がくっきりとしたシャープな印字も可能となる。
【0017】
さらに、本発明の多色感熱媒体と印刷装置では、印刷装置のサーマルヘッドの熱エネルギーを多色感熱媒体に上側発色層側から高い温度で短時間で与えれば、多色感熱媒体の上側発色層を単独で発色させることが可能となることから、この技術によっても、輪郭や文字がくっきりとしたシャープな印字が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】多色感熱媒体の断面図である。
【図2】多色感熱媒体のシアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層の発色特性を表した図である。
【図3】多色感熱媒体のシアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層の発色特性を表した図である。
【図4】印刷装置のサーマルヘッドにより連続する2つの一印字周期で多色感熱媒体を発色させたイメージを表した図である。
【図5】印刷装置のサーマルヘッドに対する駆動電圧の印加時間を連続する2つの一印字周期の中で表した波形図である。
【図6】印刷装置のサーマルヘッドにより連続する2つの一印字周期で多色感熱媒体を発色させたイメージを表した図である。
【図7】印刷装置のサーマルヘッドに対する駆動電圧の印加時間を連続する2つの一印字周期の中で表した波形図である。
【図8】印刷装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1.多色感熱媒体]
図1は、多色感熱媒体1の断面図である。図1に表されたように、多色感熱媒体1は、基材2を有する。基材2上には、シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの順で各発色層3,4,5,6が積層されている。シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5は、「基本色を発色する下側発色層」に相当し、基材2上に積層された積層群7を構成する。一方、ブラックの発色層6は、「上側発色層」に相当し、積層群7上に積層され、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5の色とは異なる色であるブラックに発色する発色層であることから、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5よりも発色部分に高い隠蔽性を有する。
【0020】
さらに、シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層3,4,5,6の間には、中間層8がそれぞれ積層されている。ブラックの発色層6上にはオーバーコート層9が積層されている。
【0021】
尚、図1に表した多色感熱媒体1の断面図では、多色感熱媒体1の断面が煩雑になって見辛くなることを回避するため、基材2や、シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層3,4,5,6、中間層8、オーバーコート層9の各断面を表すそれぞれの平行斜線を省略している。この点は、後述する図4や図6でも同様であるが、図4や図6では、中間層8やオーバーコート層9の各断面は実線で表される。
【0022】
図2や図3に表されたように、シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層3,4,5,6は、発色するために必要な発熱温度範囲と時間範囲(発熱時間の許容範囲)がそれぞれ異なる発色特性を持っている。
【0023】
図2や図3において、「B」はブラックの発色層6を示し、「Y」はイエローの発色層5を示し、「M」はマゼンタの発色層4を示し、「C」はシアンの発色層3を示す。この点は、後述する図4乃至図7の各図でも同様である。
【0024】
図2や図3に表されたように、積層群7を構成するシアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5よりも、ブラックの発色層6は高い温度で発色する。
【0025】
さらに、図2に表された発色特性では、シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層3,4,5,6は、発色するために必要な発熱温度範囲に加え、発色するために必要な時間範囲がそれぞれ異なる発色特性を持っている。具体的に言えば、ブラックの発色層6は190℃・1msの加熱で発色し、イエローの発色層5は160℃・3msの加熱で発色し、マゼンタの発色層4は130℃・5msの加熱で発色し、シアンの発色層3は100℃・8msの加熱で発色する。
【0026】
一方、図3に表された発色特性では、積層群7を構成するシアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5は、発色するために必要な発熱温度範囲に加え、発色するために必要な時間範囲がそれぞれ異なる発色特性を持っている。これに対し、ブラックの発色層6も、発色するために必要な発熱温度範囲に加え、発色するために必要な時間範囲の発色特性を持っているが、ブラックの発色層6を発色するために必要な温度範囲は、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5を発色するために必要な温度範囲のいずれよりも高く、ブラックの発色層6を発色するために必要な時間範囲は、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5を発色するために必要な時間範囲のいずれをも含んでいる。具体的に言えば、イエローの発色層5は160℃・3msの加熱で発色し、マゼンタの発色層4は130℃・5msの加熱で発色し、シアンの発色層3は100℃・8msの加熱で発色し、ブラックの発色層6は190℃・10msの加熱でも発色する。ブラックの発色層6については、10ms未満でも発色する。
【0027】
また、図2や図3に表されたように、「下側発色層」であるシアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5は、発色するために必要な時間が、最下層の発色層が一番長く、積層された順に上側向かって順次短くなる。すなわち、発色するために必要な時間は、最下層であるシアンの発色層3が一番長く、積層された順に上側向かって、マゼンタ・イエローの各発色層4,5の順で短くなる。
【0028】
さらに、「基本色を発色する下側発色層」に相当するシアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5については、2以上の発色層がそれぞれ発色すると、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5が発色する色とは視覚的に異なる色に見掛け上発色する。
【0029】
[2.印刷装置]
図8は、印刷装置101のブロック図である。印刷装置101は、図8に表されたように、サーマルヘッド102や、プラテンローラ103、制御部111、ヘッド駆動回路117、搬送モーター駆動回路118、媒体搬送モーター119を有する。尚、サーマルヘッド102とプラテンローラ103との間に挟まれた多色感熱媒体1は、プラテンローラ103の回転により搬送される。
【0030】
制御部111は、CPU112や、CG−ROM113、EEPROM114、ROM115、RAM116により構成される。CPU112は、印刷装置101における各種制御の中枢を担う中央演算処理装置である。従って、CPU112は、各種制御プログラム等に基づいて、印刷装置101そのものを制御する。
【0031】
CG−ROM113は、印字される文字や記号の画像データがコードデータと対応させてドットパターンで記憶されるキャラクタージェネレータ用メモリである。EEPROM114は、記憶内容の書込・消去ができる不揮発性メモリである。ROM115には、印刷装置101における各種制御プログラムやデータが記憶される。RAM116は、CPU112での演算結果等が一時的に記憶される記憶装置である。さらに、RAM116には、例えば、編集された印字データ等が記憶される。
【0032】
制御部111には、ヘッド駆動回路117や搬送モーター駆動回路118が接続される。ヘッド駆動回路117は、CPU112からの制御信号に基づいてサーマルヘッド102に駆動信号を供給し、サーマルヘッド102の駆動状態を制御する回路である。従って、「制御手段」は、制御部111及びヘッド駆動回路117で構成される。搬送モーター駆動回路118は、CPU112からの制御信号に基づいて媒体搬送モーター119に駆動信号を供給し、媒体搬送モーター119の駆動制御を介してプラテンローラ103の回転を制御する回路である。
【0033】
サーマルヘッド102とプラテンローラ103との間に挟まれた多色感熱媒体1は、プラテンローラ103の回転により搬送される際には、プラテンローラ103によってサーマルヘッド102に押し付けられる。このとき、多色感熱媒体1は、ブラックの発色層6上にあるオーバーコート層9の側(上記図1参照)がサーマルヘッド102に押し付けられる。
【0034】
サーマルヘッド102は、多色感熱媒体1を発色させるための熱エネルギーを与えるものである。上述したように、多色感熱媒体1が有するブラックの発色層6上にあるオーバーコート層9がサーマルヘッド102に対して押し付けられることから、サーマルヘッド102の熱エネルギーは、多色感熱媒体1が有するブラックの発色層6上にあるオーバーコート層9の側から与えられる。
【0035】
このとき、サーマルヘッド102の発熱温度と発熱時間は、制御部111及びヘッド駆動回路117によって、一印字周期の中で、多色感熱媒体1で発色させようとするシアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層3,4,5,6の発色特性に応じて制御される。
【0036】
すなわち、制御部111及びヘッド駆動回路117は、一印字周期の中で、サーマルヘッド102への駆動電圧の印加時間と印加タイミングを制御することで、多色感熱媒体1で発色させようとするシアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層3,4,5,6の発色特性に応じたサーマルヘッド102の発熱温度と発熱時間を制御する。
【0037】
[2−1.発色制御その1]
図5は、印刷装置101のサーマルヘッド102に対する駆動電圧の印加時間を連続する2つの一印字周期の中で表した波形図である。図5の波形図に表された駆動制御は、図2に表された発色特性を有する多色感熱媒体1を発色させるのに適したものの一例である。
【0038】
上述したように、図2に表された発色特性では、シアン・マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層3,4,5,6は、発色するために必要な時間範囲と温度時間(発熱時間の許容範囲)がそれぞれ異なる発色特性を持っている。さらに、発色するために必要な時間範囲は、最下層であるシアンの発色層3が一番長く、積層された順に上側向かって、マゼンタ・イエロー・ブラックの各発色層4,5,6の順で短くなる。
【0039】
この点、図5の波形図に表された駆動制御では、多色感熱媒体1を発色させるためのサーマルヘッド102に対する駆動電圧の印加時間が、連続する2つの一印字周期の中で、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3の順で個別に設定されている。
【0040】
図5に表された波形図のように、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3を発色させるために駆動電圧の印加時間がサーマルヘッド102に対して制御されると、例えば、図4に表された多色感熱媒体1の断面図のように、その駆動制御によってサーマルヘッド102で発色させた多色感熱媒体1では、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3が帯状に発色される。
【0041】
尚、図4において、「B」はブラックの色を示し、「Y」はイエローの色を示し、「M」はマゼンタの色を示し、「C」はシアンの色を示す。尚、図4と図8とでは、説明の便宜上、多色感熱媒体1や、サーマルヘッド102、プラテンローラ103の位置が上下に反転して表されている。これらの点は、後述する図6でも同様である。
【0042】
すなわち、図5の波形図に表された駆動制御によれば、図5の左側に表された一印字周期の駆動制御によって、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層5,4,3を発色させるために駆動電圧の印加時間がサーマルヘッド102に対して制御されると、サーマルヘッド102で発色された多色感熱媒体1では、例えば、図4に表された多色感熱媒体1内の左側のように、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層5,4,3が発色し、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層5,4,3が発色する色とは視覚的に異なる色に見掛け上発色する。
尚、図4に表された多色感熱媒体1では、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3の順でサーマルヘッド102との距離が長くなるので、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3の順でサーマルヘッド102の熱エネルギーが拡散していく。従って、図5の波形図に表された駆動制御のように、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3を発色させるためのサーマルヘッド102に対する駆動電圧の印加時間が同じであっても、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3で発色された帯状の領域も、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3の順で幅広くなっていく。
【0043】
一方、図5の右側に表された一印字周期の駆動制御によって、ブラックの発色層6のみを発色させるために駆動電圧の印加時間がサーマルヘッド102に対して制御されると、サーマルヘッド102で発色された多色感熱媒体1では、図4に表された多色感熱媒体1内の右側のように、ブラックの発色層6のみが発色する色となる。
尚、図4で二点鎖線で表された帯状の領域は、図5に表された連続する2つの一印字周期の中で駆動電圧がOFFからONに変更されると、発色する領域を示している。
【0044】
[2−2.発色制御その2]
図7は、印刷装置101のサーマルヘッド102に対する駆動電圧の印加時間を連続する2つの一印字周期の中で表した波形図である。図7の波形図に表された駆動制御は、図3に表された発色特性を有する多色感熱媒体1を発色させるのに適したものの一例である。
【0045】
上述したように、図3に表された発色特性では、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5は、発色するために必要な時間範囲と温度範囲(発熱温度の許容範囲)がそれぞれ異なる発色特性を持っている。さらに、発色するために必要な時間範囲は、最下層であるシアンの発色層3が一番長く、積層された順に上側向かって、マゼンタ・イエローの各発色層4,5の順で短くなる。これに対し、ブラックの発色層6を発色するために必要な時間範囲は、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5を発色するために必要な時間範囲のいずれをも含み、ブラックの発色層6を発色するために必要な温度範囲は、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5を発色するために必要な温度範囲のいずれよりも高い。
【0046】
この点、図7の波形図に表された駆動制御では、多色感熱媒体1を発色させるためのサーマルヘッド102に対する駆動電圧の印加時間が、連続する2つの一印字周期の中で、イエロー・マゼンタ・シアンを発色する場合は各発色層5,4,3の順で個別に設定され、ブラックを発色する場合は、ブラックの発色層6のみが設定されている。
【0047】
図7に表された波形図のように、イエロー・マゼンタ・シアン・ブラックの各発色層5,4,3,6を発色させるために駆動電圧の印加時間がサーマルヘッド102に対して制御されると、例えば、図6に表された多色感熱媒体1の断面図のように、その駆動制御によってサーマルヘッド102で発色された多色感熱媒体1では、イエロー・マゼンタ・シアン・ブラックの各色が帯状に発色される。
【0048】
すなわち、図7の波形図に表された駆動制御によれば、その駆動制御によってサーマルヘッド102で発色された多色感熱媒体1では、例えば、図6に表された多色感熱媒体1内の左側のように、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層5,4,3が発色し、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層5,4,3が発色する色とは視覚的に異なる色に見掛け上発色する。
尚、図6に表された多色感熱媒体1では、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3の順でサーマルヘッド102との距離が長くなるので、ブラック・イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層6,5,4,3の順でサーマルヘッド102の熱エネルギーが拡散していく。従って、図7の波形図に表された駆動制御のように、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層5,4,3を発色させるためのサーマルヘッド102に対する駆動電圧の印加時間が同じであっても、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層5,4,3で発色された帯状の領域も、イエロー・マゼンタ・シアンの各発色層5,4,3の順で幅広くなっていく。
【0049】
尚、図7に表された波形図のように、ブラックの発色層6を発色させるための駆動電圧の印加時間がイエロー・マゼンタ・シアンの各発色層5,4,3を発色させるための駆動電圧の印加時間の合計程度にサーマルヘッド102に対して制御されると、その駆動制御によってサーマルヘッド102で発色された多色感熱媒体1では、図6に表されたように、ブラックの発色層6がべた状に発色される。
【0050】
[3.まとめ]
すなわち、本実施の形態では、印刷装置101のサーマルヘッド102の熱エネルギーが多色感熱媒体1が有するブラックの発色層6上にあるオーバーコート層9側から与えられることにより、多色感熱媒体1内における熱エネルギーの拡散状態が僅かなうちに、印刷装置101のサーマルヘッド102の熱エネルギーがブラックの発色層6に与えられる(図1、図8参照)。しかも、熱エネルギーが与えられたブラックの発色層6は、多色感熱媒体1が有するブラックの発色層6下にあるシアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5よりも発色部分に高い隠蔽性があることに加え、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5よりも高い温度で発色することから(図2,図3参照)、例えば、ブラックの発色層6を発色させるための駆動電圧のみが印加される駆動制御を印刷装置101のサーマルヘッド102に対して行うことによって、多色感熱媒体1のブラックの発色層6を印刷装置101のサーマルヘッド102で高い温度で発色させれば、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5の発色による混色が抑えられるとともに、輪郭や文字がくっきりとしたシャープな印字も可能となる。
【0051】
また、ブラックの発色層6のみを発色させるための駆動電圧が比較的長時間に印加される駆動制御を印刷装置101のサーマルヘッド102に対して行った際には、例えば、図6に表された多色感熱媒体1内の右側のようにブラックの発色層6がべた状に発色される。このとき、図6に表された多色感熱媒体1内の右側の二点鎖線で示された箇所に、仮にシアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5が発色したとしても、シアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5上にあるブラックの発色層6が発色しており、ブラックの発色は最も濃い(高い隠蔽性がある)ので、多色感熱媒体1でシアン・マゼンタ・イエローの各発色がオーバーコート層9側から透けて見えることはない。つまり、図7の波形図に表された駆動制御では、ブラックの発色層6を発色させるためのサーマルヘッド102に対する駆動電圧の印加時間が比較的長時間に設定されており、その駆動制御によってサーマルヘッド102で発色させた多色感熱媒体1では、図6に表された多色感熱媒体1内の右側のように、ブラックの色がべた状に発色されるため、シアン・マゼンタ・イエローの各色が仮に発色しても透けて見えることはない。
【0052】
さらに、本実施の形態では、印刷装置101のサーマルヘッド102の熱エネルギーを多色感熱媒体1にブラックの発色層6上にあるオーバーコート層9側から高い温度で短時間で与えれば(図1、図2、図5右側参照)、多色感熱媒体1のブラックの発色層6を単独で発色させることが可能となることから、この技術によっても、輪郭や文字がくっきりとしたシャープな印字が可能となる。
【0053】
また、本実施の形態では、印刷装置101のサーマルヘッド102の熱エネルギーによって、図2に表された発色特性に基づき、多色感熱媒体1が有するブラックの発色層6を高温・短時間で発色させ、多色感熱媒体1が有するシアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5をブラックの発色層6と比べて低温・長時間で発色させる。そのため、シアン・マゼンタ・イエローのような背景色がなくブラックのような輪郭・文字だけを多色感熱媒体1で発色させる場合には、印刷装置101での印刷スピードが速くなる。
【0054】
[4.その他]
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0055】
例えば、多色感熱媒体1の基材2上に積層された積層群7は、「基本色を発色する下側発色層」に相当するシアン・マゼンタ・イエローの各発色層3,4,5で構成されていたが、上述した発色特性を満たす基本色の発色層であれば、シアン・マゼンタ・イエローの組合せ以外でも各発色層が構成されてもよく、また、1個、2個、又は4個以上の発色層で構成されてもよい。
【0056】
また、多色感熱媒体1が有する各中間層8が柔軟性のある断熱性素材であれば、多色感熱媒体1を小巻にすることができるので、多色感熱媒体1の収容量を増やすことができる。
【0057】
また、多色感熱媒体1が有するブラックの発色層6下の中間層8が一定の厚みを持った熱伝導性の良い断熱層であれば、ブラックの発色層6の発色をより目立たせることができ、多色感熱媒体1上でブラックの輪郭や文字を浮き上がらせるように見せることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 多色感熱媒体
2 基材
3 シアンの発色層
4 マゼンタの発色層
5 イエローの発色層
6 ブラックの発色層
7 積層群
8 中間層
9 オーバーコート層
101 印刷装置
102 サーマルヘッド
110 制御部
117 ヘッド駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記多色感熱媒体は、
基材と、
前記基材上に積層され、基本色を発色する下側発色層が1以上積層された積層群と、
前記積層群上に積層され前記下側発色層の色とは異なる色に発色する発色層であって前記下側発色層よりも発色部分に高い隠蔽性のある上側発色層と、を備え、
前記各発色層は、発色するために必要な発熱温度範囲がそれぞれ異なる発色特性を持っており、
前記上側発色層は前記積層群の下側発色層よりも高い温度で発色し、
前記印刷装置は、
前記多色感熱媒体に対して前記上側発色層側から熱エネルギーを与えるためのサーマルヘッドと、
前記サーマルヘッドを駆動するための制御手段と、を備え、
前記制御手段は、一印字周期の中で、発色させようとする上側発色層および下側発色層の発色特性に応じて前記サーマルヘッドの発熱温度を制御すること、
を特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記上側発色層の色が黒色であること、を特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記制御手段は、一印字周期の中で、サーマルヘッドへの駆動電圧の印加時間と印加タイミングを制御することで、発熱させようとする各発色層の発熱特性に応じた発熱温度と発熱時間を制御することを特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。
【請求項4】
請求項3に記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記多色感熱媒体の前記積層群は2以上の下側発色層を有し、全ての下側発色層は、発色するために必要な発熱時間の許容範囲がそれぞれ異なる発色特性を持っていることを特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。
【請求項5】
請求項3に記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記多色感熱媒体の前記各発色層は、発色するための発熱時間の許容範囲がそれぞれ異なる発色特性を持っていることを特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記多色感熱媒体の前記積層群は2以上の下側発色層を有し、2以上の下側発色層がそれぞれ発色することで各下側発色層が発色する色とは視覚的に異なる色に見掛け上発色することを特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記多色感熱媒体が備えた各発色層の間に中間層がそれぞれ積層されていること、を特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記多色感熱媒体が備えた上側発色層上にオーバーコート層が積層されていること、を特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記積層群は3つの下側発色層からなり、各下側発色層の色は、イエロー、シアン、マゼンタであること、を特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。
【請求項10】
請求項3乃至請求項9のいずれか一つに記載する多色感熱媒体と印刷装置であって、
前記多色感熱媒体を構成する下側発色層は、発色するために必要な発熱時間が、最下層の発色層が一番長く、積層された順に上側向かって順次短くなることを特徴とする多色感熱媒体と印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−76312(P2012−76312A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222141(P2010−222141)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】