説明

多色油性化粧料およびその製造方法

【課題】化粧料表面の平坦性に優れた多色油性化粧料を提供する。
【解決手段】側立させた容器4の開口部をカバー部材7で塞いで、容器4内に充填空間Bを形成する。つぎに、容器4の側部に設けられた注入口5を上方に向けて、加熱によって流動化した状態の複数色の油性化粧料2,3を注入口5より順次注入する。これにより、充填空間B内に複数色の油性化粧料2,3が積層状に充填される。そして、充填空間B内の油性化粧料2,3が固化した状態で、カバー部材7を容器4から取り除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色油性化粧料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、色の組み合わせやグラデーションによる面白さを演出することを目的とした多色化粧料が知られている。また、この種の化粧料として、温度によって流動性が大きく変化する油性化粧料を用いたものも知られている。例えば、特許文献1には、容器の底部側に充填された下層化粧料と、この下層化粧料の上に積層された透光性の上層化粧料とを有し、上層化粧料の表面に対して下層化粧料の表面が傾斜した化粧料が開示されている。この化粧料を製造工程では、まず、容器を斜めに傾けた状態で、加熱によって流動化した下層の化粧料を容器内に充填する。つぎに、下層の化粧料が冷却によって固化した後に容器を水平にして、加熱によって流動化した上層の化粧料を容器内を充填する。このような積層構成によれば、各層の化粧料の厚みが連続的に変化するため、化粧料表面にグラデーション模様が形成される。また、特許文献2には、スティック状の透明容器内に複数色の油性化粧料を積層し、この縦方向の積層に起因したグラデーションを容器側面に露出させた化粧料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−320268号公報
【特許文献2】特開2007−261949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、容器の縦方向に油性化粧料を積層した場合、グラデーションのような単純な表面模様は形成できても、ストライプのような複雑な表面模様を形成することは困難である。なぜなら、油性化粧料の充填は加温によって流動化した状態で行われるため、縦方向の充填では、流動化した油性化粧料が容器の横全体に行き渡ってしまうからである。このような横方向の行き渡りは、容器内に仕切りを設ければ一応解消でき、仕切りに応じた色模様を形成できる。しかしながら、この場合には各色の表面にヒケ、すなわち油性化粧料の成型収縮によって表面が湾曲状に窪む現象が生じて、見栄えの低下を招く。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、化粧料表面の平坦性に優れた多色油性化粧料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決すべく、第1の発明は、容器の開口部をカバー部材で塞いで、容器内に充填空間を形成する第1のステップと、容器の側部に設けられ、かつ、充填空間と連通した注入口を上方に向けて、加熱によって流動化した状態の複数色の油性化粧料を注入口より順次注入することによって、充填空間内に複数色の油性化粧料を積層状に充填する第2のステップと、充填空間内に充填された複数色の油性化粧料が固化した状態で、カバー部材を容器から取り除く第3のステップとを有する多色油性化粧料の製造方法を提供する。
【0007】
第1の発明の第2のステップにおいて、上層の化粧料の注入は、先に注入された下層の化粧料が固化した後に行うことが好ましい。また、第2のステップにおいて、上層の化粧料の注入は、下層の化粧料の注入と注入口の向きを変えて行ってもよい。また、充填空間内に充填された複数色の油性化粧料が固化した状態で、注入口を塞ぐ第4のステップを追加してもよい。さらに、カバー部材を取り除いた後に、容器より露出した化粧料表面にフレーミング処理を施す第5のステップを追加してもよい。
【0008】
第2の発明は、容器と、容器の側部に設けられ、かつ、容器内の充填空間と連通した注入口と、容器内に収容されているとともに、加熱によって流動化する複数色の油性化粧料とを有する多色油性化粧料を提供する。ここで、複数色の油性化粧料は、それぞれの色の境界面が互いに接触した状態で容器の横方向に並んでいる。また、境界面は、注入口と対向して、化粧料表面から容器の底部に至るまで略平面状に延在している。
【0009】
第2の発明において、複数色の油性化粧料は、延在する方向が異なる複数の境界面を有していてもよい。また、注入口を塞ぐシール部材をさらに設けてもよい。
【発明の効果】
【0010】
第1の発明によれば、油性化粧料の注入は、容器を横にして容器の側部に設けられた注入口を上方に向けた状態で行われる。この状態で形成された油性化粧料の縦方向の並びは、容器を本来の状態に戻すと横方向の並びとなり、これによって、ストライプ状の表面模様が形成される。各色の表面は、そこを覆っていたカバー部材の面によって均一に形成される。これにより、化粧料表面のヒケを生じさせることなく、平坦性に優れた多色油性化粧料を実現できる。
【0011】
第2の発明によれば、容器の横方向に並んだ複数色の油性化粧料は、容器の底部に至るまでの厚みを有しているため、化粧料の使用によって厚みが減少しても、表面加飾を変わることなく維持できる。これにより、色の組み合わせによる面白さを長きに亘って演出し続けることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】多色油性化粧料の外観斜視図
【図2】充填空間の形成工程の説明図
【図3】第1の化粧料の充填工程の説明図
【図4】第2の化粧料の充填工程の説明図
【図5】注入口の閉塞工程の説明図
【図6】フレーミング工程の説明図
【図7】斜め上方からの充填例を示す図
【図8】多色油性化粧料の変形例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態に係る多色油性化粧料の外観斜視図である。この多色油性化粧料1は、各色を構成する複数種の油性化粧料によって構成されている。油性化粧料は、キャンデリラロウ等の固体脂、炭化水素等の液状油等に必要に応じ顔料等を配合したものであり、皮膚に対する親和性等より、例えば、グロス、口紅、アイシャドウ、アイライナー、油性ファンデーションといったメークアップ化粧料に多用されている。また、その剤形としては、固形、液状、ペースト状、乳液状といったように種々のものがあるが、本実施形態では、常温では形状を保持できる程度の固形性を保っているが、加熱によって溶融して流動性が生じるものが用いられる。
【0014】
油性化粧料2,3は、容器の一例として上方が開口した皿状容器4内に収容されており、皿状容器4の横方向に交互に並んでいる。色の組み合わせによる演出効果を与えるために、油性化粧料2,3の色は互いに異なっている。本明細書では、「異なる色」という用語を、両者の違いをユーザが視覚的に認識できれば足りる程度の意味合いで用いている。したがって、明度、彩度、色相の違いはもとより、同一色であっても、パール等を加えたものと、そうでないものといったように質感が異なるものも、ここでいう「異なる色」の範疇に含まれる。本実施形態では、上記演出効果を更に高めるために、油性化粧料2,3および皿状容器4として透光性のあるものを用いている。複数色の油性化粧料2,3は、仕切り板等で仕切られることなく、それぞれの色の境界面Aが互いに接触している。油性化粧料2,3は、皿状容器4の底部に至る均一な厚みを有するので、それぞれの境界面Aも、化粧料表面から皿状容器4の底部に至るまで略平面状に延在している。なお、境界面Aにおいて、色の区切りが明確である必要は必ずしもなく、ある色から別の色に徐々に変化するグラデーション状であってもよい。
【0015】
皿状容器4の側部には、皿状容器4の充填空間、換言すれば、油性化粧料2,3の収容空間と連通した注入口5が設けられている。この注入口5は、油性化粧料2,3を充填空間内に注入する際に用いられ、油性化粧料2,3の各境界面Aと対向している。注入口5は、そこから油性化粧料2,3が漏れることを防止するために、シール部材6で塞がれている。
【0016】
なお、同図は、2色のストライプを例示しているが、より多くの色の油性化粧料を用いて3色以上のストライプとしてもよい。また、ストライプは、同図に示したように、全ての境界面Aの延在方向が同一であってもよいが、境界面A毎またはそのグループ毎に延在方向が異なっていてもよい。
【0017】
以下、図2から図6を参照しつつ、上述した構成を有する多色油性化粧料1の製造方法について説明する。まず、図2に示すように、皿状容器4の側部に設けられた注入口5が上方に向くように、皿状容器4を側立させる。つぎに、この側立で横に向いた皿状容器4の開口部に平面状のカバー部材7を対向させ、カバー部材7で開口部を隙間なく塞ぐ。これによって、注入口5以外は密閉された充填空間Bが皿状容器4内に形成される。隙間なく塞ぐ理由は、後の工程で充填された油性化粧料2,3の漏れが生じないようにするためである。カバー部材7は、油性化粧料2,3の剥離性に優れたものであることが好ましく、例えば金属プレートやシリコンシート等を用いることができる。また、予め80〜130℃程度に加熱したカバー部材4を用いてもよい。さらに、皿状容器4が蓋付き場合、上記充填空間Bの密閉性と油性化粧料2,3の剥離性の双方を満たすことを条件に、蓋自体をカバー部材7として用いてもよい。
【0018】
つぎに、図2に示した皿状容器4の側立状態を維持しながら、図3に示すように、加熱によって流動化した状態になっている第1の油性化粧料2を注入口5より注入する。この油性化粧料2の加熱温度は、例えば、それ自体の融点以上の70〜130℃程度とすることができる。注入された油性化粧料2は、自重によって落下して充填空間Bの底部に充填され、その表面(上面)は注入口5と対向する。油性化粧料2の注入量は、充填空間Bの容積と、作成しようとするストライプの本数とに依存し、充填された油性化粧料2の高さが最終的な製品におけるストライプの幅に相当する。
【0019】
つぎに、図4に示すように、充填空間B内に充填された第1の油性化粧料2が冷却されて固化した後、加熱によって流動化した状態になっている第2の油性化粧料3を注入口5より注入する。この油性化粧料3の加熱温度も、例えば、それ自体の融点以上の70〜130℃程度とすることができる。注入された油性化粧料3は、自重によって落下して、充填空間B内に先に充填された第1の油性化粧料3の上に充填・積層され、その表面(上面)は注入口5と対向する。油性化粧料3の注入量も、充填空間Bの容積と、作成しようとするストライプの本数とに依存し、充填された油性化粧料3の高さが最終的な製品におけるストライプの幅に相当する。なお、第1の油性化粧料2の固化が十分に進んだ状態で、第2の油性化粧料3を比較的低温で注入した場合には、油性化粧料2,3の境界における色の区切りが明確になる。逆に、第1の油性化粧料2の固化が十分ではない状態で、第2の油性化粧料3を比較的高温で注入した場合には、油性化粧料2,3の境界における色合いがグラデーション状になる。境界の色の状態をどのようにするかは、油性化粧料2,3の温度調整次第である。
【0020】
以下、充填空間Bの上部が完全に充填されるまで、油性化粧料2,3の注入を交互に順次行う。これによって、図5に示すように、充填空間B内において複数色の油性化粧料2,3が交互に積層された積層構造が得られる。そして、油性化粧料2,3の不要な漏れを防止するために、油性化粧料2,3が固化した状態で注入口5をシール部材6で塞ぐ。
【0021】
つぎに、図6に示すように、充填空間B内の油性化粧料2,3が固化した状態で、側立した皿状容器4を本来の向き(皿状容器4の開口部が上を向いた状態)に戻し、カバー部材7を容器4から取り除く。これにより、カバー部材7によって覆われていた化粧料表面が露出する。皿状容器4より露出した化粧料表面には、上述した油性化粧料2,3の繰り返し充填に起因したストライプ模様が形成されており、カバー部材7との接触により平坦面になっている。最後に、つや出しのために化粧料表面を加熱するフレーミング処理を必要に応じて行って、最終的な製品である多色油性化粧料1が完成する。
【0022】
このように、本実施形態によれば、皿状容器4を横にして注入口5を上方に向けた状態で油性化粧料2,3の注入が行われる。この状態で形成された油性化粧料2,3の縦方向の並びは、皿状容器4を本来の状態に戻すと横方向の並びとなり、これによって、ストライプ状の表面模様が形成される。各色の表面は、そこを覆っていたカバー部材7の平坦面によって平坦に形成される。これにより、化粧料表面にヒケを生じさせることなく、平坦性に優れた多色油性化粧料1を実現できる。また、大掛かりな製造装置や治具を必要とすることなく、多色ストライプのような複雑な表面模様の形成が可能になる。
【0023】
また、本実施形態によれば、皿状容器4の横方向に並んだ複数色の油性化粧料2,3は、皿状容器4の底部に至るまでの厚みを有しているため、化粧料の使用によって厚みが減少しても、表面加飾を変わることなく維持できる。これにより、色の組み合わせによる面白さを長きに亘って演出し続けることが可能になる。
【0024】
なお、上述した実施形態において、油性化粧料2,3の注入は、注入口5が真上を向いた状態で行っているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば図7に示すように、注入口5が斜め上方を向いた状態で行ってもよい。この場合、化粧料表面に形成されるストライプは、皿状容器4の対角線方向に延在する形状となる。
【0025】
また、複数色の油性化粧料の注入を注入口5の向きを変えながら行ってもよい。これにより、図8に示すように、延在方向がグループによって異なる多方向(この場合は2方向)のストライプを形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上のように、本発明に係る多色油性化粧料の製造方法は、化粧料表面の平坦性を確保しながら油性化粧料の多色化を図る用途に対して広く適用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 多色油性化粧料
2 第1の油性化粧料
3 第2の油性化粧料
4 皿状容器
5 注入口
6 シール部材
7 カバー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多色油性化粧料の製造方法において、
容器の開口部をカバー部材で塞いで、前記容器内に充填空間を形成する第1のステップと、
前記容器の側部に設けられ、かつ、前記充填空間と連通した注入口を上方に向けて、加熱によって流動化した状態の複数色の油性化粧料を前記注入口より順次注入することによって、前記充填空間内に前記複数色の油性化粧料を積層状に充填する第2のステップと、
前記充填空間内に充填された前記複数色の油性化粧料が固化した状態で、前記カバー部材を前記容器から取り除く第3のステップと
を有することを特徴とする多色油性化粧料の製造方法。
【請求項2】
前記第2のステップにおいて、
上層の化粧料の注入は、先に注入された下層の化粧料が固化した後に行うことを特徴とする請求項1に記載された多色油性化粧料の製造方法。
【請求項3】
前記第2のステップにおいて、
上層の化粧料の注入は、下層の化粧料の注入と前記注入口の向きを変えて行うことを特徴とする請求項1または2に記載された多色油性化粧料の製造方法。
【請求項4】
前記充填空間内に充填された前記複数色の油性化粧料が固化した状態で、前記注入口を塞ぐ第4のステップをさらに有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載された多色油性化粧料。
【請求項5】
前記カバー部材を取り除いた後に、前記容器より露出した化粧料表面にフレーミング処理を施す第5のステップをさらに有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載された多色油性化粧料の製造方法。
【請求項6】
多色油性化粧料において、
容器と、
前記容器の側部に設けられ、かつ、前記容器内の充填空間と連通した注入口と、
前記容器内に収容されているとともに、加熱によって流動化する複数色の油性化粧料とを有し、
前記複数色の油性化粧料は、それぞれの色の境界面が互いに接触した状態で前記容器の横方向に並んでおり、
前記境界面は、前記注入口と対向して、化粧料表面から前記容器の底部に至るまで略平面状に延在していることを特徴とする多色油性化粧料。
【請求項7】
前記複数色の油性化粧料は、延在する方向が異なる複数の境界面を有することを特徴とする請求項6に記載された多色油性化粧料。
【請求項8】
前記注入口を塞ぐシール部材をさらに有することを特徴とする請求項6または7に記載された多色油性化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−121927(P2011−121927A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282777(P2009−282777)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000158781)紀伊産業株式会社 (327)
【Fターム(参考)】