説明

多芯フェルール

【課題】 最薄部を生じない構造で、光ファイバへの機械歪みの低減、光ファイバの高精度固定および等長化固定を図ることができる多芯フェルールを実現することを目的とする。
【解決手段】 フェルール1の貫通孔2に複数の光ファイバ3a,3bを挿入し、接着剤4で固定した多芯フェルールにおいて、貫通孔2は、光ファイバ3a,3bの半径に対応した半径Rの仮想円7が互いに直角の方向に移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光ファイバを挿入固定してなる多芯のフェルールに関し、フェルールに形成された貫通孔の断面形状の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トランスポンダの受信部等、光ファイバを使用した光入出力部において、光ファイバを保持、固定するために、セラミック等で作られたフェルールと呼ばれる部品が使用されている。フェルールは、通常、複数の光ファイバが挿入される貫通孔がフェルールの中に設けられた多芯のフェルール構造となっており、貫通孔と光ファイバとは接着剤で固定されている。
【0003】
図6は特開平10−62653号公報(図2)に示された、従来のフェルールの一構成例を示す横断面図である。フェルール21に貫通孔22が形成されている。2個の貫通孔22は非常に近く隣接している。
【0004】
図7は特開2000−81536号公報(図1)に示された、従来のフェルールの第2の構成例を示す横断面図である。図6の場合とは異なり、フェルール31に形成されている貫通孔32は大きさの異なる2つの貫通孔からなっている。
【0005】
図8は特開2002−107576号公報(図1)に示された、従来のフェルールの第3の構成例を示す横断面図である。図6、図7の構造と異なり最薄部(後述)が存在せず、2つの貫通孔の大きさも同一である。
【0006】
フェルールの先行技術としては下記のような特許文献が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−62653号公報
【0008】
【特許文献2】特開2000−81536号公報
【0009】
【特許文献3】特開2002−107576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図6の構造では、図9の部分拡大図に示すように、フェルール21の隔壁が薄くなる部分である最薄部23が発生するため、加工時に欠け叉は破損が生じ易いという課題があった。
【0011】
また、図6の構造では、光ファイバ同士が隣接して発生した応力歪を逃がすことができないので、機械歪みを発生させてしまい、これを低減することは難しかった。時には、光ファイバを貫通孔22に挿入する際に光ファイバに加わる応力で、光ファイバが破断することがある。
【0012】
図7の構造では、図6の場合と同様、フェルール31の隔壁に最薄部が発生するので、加工時に欠けまたは破損が生じ易いという課題があった。
【0013】
また、径の大きい方の貫通孔では、接着固定する際、接着剤量が多いため、隣接して固定することが難しく、光ファイバの位置精度を出すことが難しいという課題もあった。接着剤の表面張力により光ファイバを平行保持する作用が、接着剤を加熱固化する際に不均等な温度分布によって乱され、その結果貫通孔32内で光ファイバの位置が偏ってしまい、高精度位置固定が困難となる点も課題となる。
【0014】
図8の構造では。光ファイバ位置固定に課題はないが、光ファイバ同士が互いに隣接固定される構造であるため、図6の場合と同様、互いに機械歪みを発生させてしまうことが課題である。
【0015】
また、図6、7、8の構造はフェルールと光ファイバの接触面が多いため等長化(ファイバ配線長を所定の長さに揃えること)するための位置固定が難しいという共通の課題があった。
【0016】
本発明は上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、最薄部を生じない構造で、光ファイバへの機械歪みの低減、光ファイバの高精度固定および等長化固定を図ることができる多芯フェルールを実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
フェルールの貫通孔に複数の光ファイバを挿入し、接着剤で固定した多芯フェルールにおいて、
前記貫通孔は、前記光ファイバの半径に対応した半径Rの仮想円が互いに直角の方向に移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることを特徴とする。
【0018】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項2記載の発明は、
請求項1記載の多芯フェルールにおいて、
前記貫通孔は、前記光ファイバの半径に対応した半径Rの仮想円が互いに直角の方向に(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることを特徴とする。
【0019】
請求項3記載の発明は、
請求項1記載の多芯フェルールにおいて、
前記貫通孔は前記半径Rの仮想円が互いに直角の方向に±(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることを特徴とする。
【0020】
請求項4記載の発明は、
請求項1記載の多芯フェルールにおいて、
前記貫通孔は前記半径Rの仮想円が互いに直角の方向の一方に±(√2)・R 移動し、他方に(√2)・R または−(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることを特徴とする。
【0021】
請求項5記載の発明は、
請求項1−4のいずれかに記載の多芯フェルールにおいて、
前記貫通孔は、前記半径Rの仮想円が前記移動の各終端の位置にあるときに各仮想円の中心から等距離にある最短の点が前記フェルールの中心となるように形成されたことを特徴とする。
【0022】
請求項6記載の発明は、
請求項1−4のいずれかに記載の多芯フェルールにおいて、
前記貫通孔は、前記半径Rの仮想円が前記移動の各終端の位置にあるときにそれら複数の仮想円の点を合成した重心位置が前記フェルールの中心となるように形成されたことを特徴とする。
【0023】
請求項7記載の発明は、
請求項1−6のいずれかに記載の多芯フェルールにおいて、
前記複数の光ファイバは前記移動の各終端の位置に挿入されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば以下のような効果がある。
【0025】
すなわち、フェルール内に最薄部が存在しないため、欠けや、破損が少ない。
【0026】
また、機械歪を分散し易い構造を有するので、光ファイバ同士やフェルールとの接触により光ファイバに発生した機械歪を低減させることができる。
【0027】
また、光ファイバ外周とフェルールとの接触面が少なく低減させる構造であるため、光ファイバの高精度位置固定を行うことができる。
【0028】
また、高精度で光ファイバ同士を隣接、等長化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に係る多芯フェルールの一実施例を示す構成横断面図である。
【図2】図1の貫通孔2の拡大図である。
【図3】図1の多芯フェルールに光ファイバを挿入した状態を示す構成横断面説明図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る多芯フェルールの第2の実施例を示す構成横断面図である。
【図5】図4の多芯フェルールに光ファイバを挿入した状態を示す構成横断面図である。
【図6】従来の多芯フェルールの一構成例を示す横断面図である。
【図7】従来の多芯フェルールの第2の構成例を示す横断面図である。
【図8】従来の多芯フェルールの第3の構成例を示す横断面図である。
【図9】図6の貫通孔22の拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0031】
図1は本発明の実施の形態に係る多芯フェルールの一実施例で、2芯のフェルールを構成した場合を示す構成横断面図である。
【0032】
図1において、2本の光ファイバを保持、固定するために、セラミック等で形成されているフェルール1には軸方向に光ファイバが挿入できる貫通孔2が形成されている。
【0033】
図2は貫通孔2の拡大図、図3は貫通孔2の形状の形成方法と光ファイバ3a、3bを挿入した状態を示す構成横断面説明図である
【0034】
光ファイバ3a、3bと貫通孔2との間は、接着剤4の充填により固定されている。光ファイバ3a、3bのそれぞれの中心付近にはコア31a、31bが形成されている。貫通孔2の形状は、図3に示すように、貫通孔2の中心軸に垂直な断面内で、光ファイバ3a、3bの半径に対応した(ここではほぼ等しくしている)半径Rの仮想円7(点線の円)が移動の始点5から互いに直角なX軸、Y軸の方向に(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状としている。移動の各終端の位置では、2つの仮想円7はその中心を結ぶ線が移動方向に対して45度をなして互いに接しており、この2つの仮想円7が接する点6がフェルールの中心となるような断面内の位置に貫通孔2は形成される。貫通孔2において、光ファイバ3a、3bは仮想円7の始点5から(√2)・R移動した各終端の位置に挿入される。
【0035】
上記のような構成の多芯フェルールによれば、前述した貫通孔2の形状により、貫通孔2の隔壁が90度より小さな鋭角をなす部分が生じない。したがって、フェルール内に最薄部が存在しないので、フェルールに欠けや、破損が少ないという利点がある。
【0036】
また、仮想円7の互いに直角な移動方向に対し、フェルールの中心を通り互いの移動の終端における2つの仮想円7の中心を結ぶ線が45度傾いた構造であり、始点5近傍に広い隙間ができるので、光ファイバ(3a、3b)同士が隣接して発生した応力歪を逃がすことができる。すなわち、機械歪を分散できる構造を有するので、光ファイバ同士やフェルールとの接触により光ファイバに発生した機械歪を低減させることができる。
【0037】
また、光ファイバ外周とフェルール内壁との接触面が断面形状の半円の部分のみと小さいので、貫通孔内で光ファイバの高精度位置固定を行うことができる。
【0038】
また、等長化の妨げとなる機械歪が低減されるので、高精度(μmオーダ)で光ファイバ同士を隣接させつつ等長化することができる。
【0039】
なお、図3ではX軸の負方向に(√2)・R、Y軸の正方向に(√2)・R移動しているので、X軸方向に−(√2)・R、Y軸の正方向に(√2)・R移動したと表現することもできる。この表現に従えば、X軸方向に±(√2)・R、Y軸方向に±(√2)・R移動する場合の4通りの組合せで2芯フェルールを実現することができる。
【0040】
また、貫通孔2は、移動の終端にある各仮想円7の中心から等距離にある最短の点が前記フェルールの中心となるような位置に形成してもよい。
【0041】
また、貫通孔2は、移動の終端にある各仮想円7の点を合成した重心位置が前記フェルールの中心となるような位置に形成してもよい。
【0042】
また、上記の実施例では仮想円7の半径を光ファイバ3a、3bの半径にほぼ等しくしたが、接着剤充填のスペースをとるため、実際には光ファイバ3a、3bの半径より若干大きくとることが好ましい。
【0043】
図4は本発明の実施の形態に係る多芯フェルールの第2の実施例で、4芯のフェルールを構成した場合を示す構成横断面図である。
【0044】
図4において、4本の光ファイバを保持、固定するために、セラミック等で形成されているフェルール11には軸方向に光ファイバが挿入できる貫通孔12が形成されている。
【0045】
図5は貫通孔12に光ファイバ13を4本挿入した状態を示す構成横断面図である。図3の場合と同様、光ファイバ13と貫通孔12との間は接着剤(図示せず)の充填により固定されている。
【0046】
貫通孔12の形状は、図2の貫通孔2の形状を上下左右対称に拡張したもので、貫通孔12の中心軸に垂直な断面内で、光ファイバ13の半径に対応した(ここではほぼ等しい)半径Rの仮想円が移動の始点15(X軸、Y軸の交点)から互いに直角なX軸、Y軸の方向に±(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状としている。すなわち、言い換えると、半径Rの仮想円が、移動の始点15からX軸の正方向、X軸の負方向、Y軸の正方向、Y軸の負方向にそれぞれ(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状としている。
【0047】
貫通孔12は、半径Rの仮想円が始点15から互いに直角な方向に(√2)・R移動して各終端の位置にあるときに各仮想円の中心を結ぶ点、すなわち、各仮想円の中心から等距離にある最短の点が前記フェルール11の中心となるような位置に形成される。4本の光ファイバ13は貫通孔12において上述の仮想円の移動の各終端の位置に挿入される。
【0048】
上記のような構成の多芯フェルールによれば、図3の場合と同様な優れた特長を持つ4芯フェルールを実現することができる。
【0049】
なお、前記貫通孔12は、半径Rの仮想円が移動の始点15から(√2)・R移動した各終端の位置にあるときにそれら複数の仮想円の点を合成した重心位置がフェルール11の中心となるような位置に形成してもよい。
【0050】
また、上記の実施例では仮想円の半径を光ファイバ13の半径にほぼ等しくしたが、接着剤充填のスペースをとるため、実際には光ファイバ13の半径より若干大きくとったほうがよいことは図3の場合と同様である。
【0051】
また、図示しないが、貫通孔が、前記半径Rの仮想円が始点15から互いに直角の方向の一方に±(√2)・R 移動し、他方に(√2)・R または−(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることにより、3芯フェルールを実現してもよい。3本の光ファイバは貫通孔において仮想円の移動の各終端の位置に挿入される。貫通孔は、半径Rの仮想円が移動の各終端の位置にあるときに各仮想円の中心から等距離にある最短の点が前記フェルールの中心となるような位置に形成されるが、複数の仮想円の点を合成した重心位置が前記フェルールの中心となるように形成してもよい。
【0052】
また、上記の各実施例では仮想円が互いに直角の方向に移動する距離を(√2)・Rとしており、このときに光ファイバ同士の隣接状態は理想的となり、光ファイバのコア同士の位置精度が高精度に保たれるという利点がある。しかし、仮想円の移動距離の値が2R付近までは光ファイバ同士の隣接状態は比較的良好に保たれると考えられるので、実際の貫通孔形成の難易度や接着剤の分量の多少などを考慮して適切な移動距離を選ぶことができる。
【0053】
また、本発明は、上記実施例や変形例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0054】
1,11 フェルール
2,12 貫通孔
3a,3b,13 光ファイバ
4 接着剤
5、15 始点
6 フェルールの中心点
7 仮想円
R 仮想円の半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルールの貫通孔に複数の光ファイバを挿入し、接着剤で固定した多芯フェルールにおいて、
前記貫通孔は、前記光ファイバの半径に対応した半径Rの仮想円が互いに直角の方向に移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることを特徴とする多芯フェルール。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記光ファイバの半径に対応した半径Rの仮想円が互いに直角の方向に(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることを特徴とする請求項1記載の多芯フェルール。
【請求項3】
前記貫通孔は前記半径Rの仮想円が互いに直角の方向に±(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることを特徴とする請求項1記載の多芯フェルール。
【請求項4】
前記貫通孔は前記半径Rの仮想円が互いに直角の方向の一方に±(√2)・R 移動し、他方に(√2)・R または−(√2)・R 移動したときに生じる軌跡の包絡線を断面形状とすることを特徴とする請求項1記載の多芯フェルール。
【請求項5】
前記貫通孔は、前記半径Rの仮想円が前記移動の各終端の位置にあるときに各仮想円の中心から等距離にある最短の点が前記フェルールの中心となるように形成されたことを特徴とする請求項1−4のいずれかに記載の多芯フェルール。
【請求項6】
前記貫通孔は、前記半径Rの仮想円が前記移動の各終端の位置にあるときにそれら複数の仮想円の点を合成した重心位置が前記フェルールの中心となるように形成されたことを特徴とする請求項1−4のいずれかに記載の多芯フェルール。
【請求項7】
前記複数の光ファイバは前記移動の各終端の位置に挿入されることを特徴とする請求項1−6のいずれかに記載の多芯フェルール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−63672(P2012−63672A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209144(P2010−209144)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】