説明

多芯筆記具

【課題】 4本のレフィールが軸筒に収容されているにもかかわらず、指先で作動子を前方にスライドするときに、指先がクリップとほとんど干渉せず、スライドが容易な多芯筆記具を提供する。
【解決手段】 クリップを有する軸筒内に複数本のレフィールが前後動可能に収容され、各レフィールに連結された作動子が軸筒の縦長孔から径方向に突出し、1つの作動子を前方にスライドさせることによりレフィールのペン先部を選択的に突出させるスライド式の多芯筆記具において、軸筒内に4本のレフィールを収容して4個の作動子を90°の等間隔に配置し、その2個の作動子の中間に位置するクリップの少なくとも作動子近傍の側面を軸筒側に向けて傾斜させ、軸筒に対面するクリップの裏面の幅を狭して作動子とクリップの間の空間を大きく確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本のレフィールが収容され、1つのレフィールのペン先部を選択的に突出させる多芯筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
複数本のレフィール、例えば黒色と赤色などのようにインキ色の異なる複数本のボールペンレフィール、あるいはボールペンレフィールおよびシャープペンシルの中芯(本明細書ではシャープペンシルの中芯もレフィールに含める)を組み合わせたものを軸筒に収容し、1つのレフィールのペン先部を選択的に突出させる多芯筆記具は、1本の筆記具で複数本の筆記具の機能を果たし、極めて便利であるので、数多く実用化されている。多芯筆記具は、前軸に対しカムを内蔵した後軸を相対的に回転させることにより1つのレフィールのペン先部を選択的に突出させるものもあるが、各レフィールに作動子を連結し、軸筒の縦長孔から径方向に突出した作動子を指先で前方にスライドさせることによりレフィールのペン先部を選択的に突出させるスライド式の多芯筆記具は構造が簡単であり、特に3本ないしそれ以上のレフィールを収容した普及型のものに多用されている。
【特許文献1】特開2004−358725公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
3本のレフィールを収容したスライド式の多芯筆記具は、3個の作動子が120°の等間隔で軸筒から径方向に突出するので、その間隔は広く、したがって、2個の作動子の中間にクリップが存在しても、作動子とクリップの間隔も比較的広い。このため、指先でクリップと隣接する作動子を前方にスライドするときに、指先がクリップと干渉してスライドしにくい、と言う問題はほとんど生じない。しかし最近では、インキの多色化が進み、4本のレフィールを軸筒に収容した多芯筆記具が要求されることがあるが、この場合は4個の作動子が90°の等間隔で軸筒から径方向に突出するので、その間隔は比較的狭くなる。また、クリップは、外観上や強度上の理由から、その幅や厚みはある程度の大きさが必要である。このため、90°間隔の2個の作動子の中間にクリップが存在すると、クリップと作動子の間の間隔が狭く、指先でクリップに隣接する作動子を前方にスライドするときに、指先がクリップと干渉してスライドしにくい不具合がある。
【0004】
そこで本発明は、4本のレフィールが軸筒に収容されているにもかかわらず、指先でクリップに隣接する作動子を前方にスライドするときに、指先がクリップとほとんど干渉せず、スライドが容易な多芯筆記具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的を達成するために、本発明は、クリップを有する軸筒内に複数本のレフィールが前後動可能に収容され、各レフィールに連結された作動子が軸筒の縦長孔から径方向に突出し、1つの作動子を前方にスライドさせることによりレフィールのペン先部を選択的に突出させるスライド式の多芯筆記具において、軸筒内に4本のレフィールを収容して4個の作動子を90°の等間隔に配置し、その2個の作動子の中間に位置するクリップの少なくとも作動子近傍の側面を軸筒側に向けて傾斜させ、軸筒に対面するクリップの裏面の幅を狭して作動子とクリップの間の空間を大きく確保する。
【発明の効果】
【0006】
クリップの少なくとも作動子近傍の側面を軸筒側に向けて傾斜させ、軸筒に対面するクリップの裏面の幅を狭くして作動子とクリップの間の空間を大きく確保するので、4本のレフィールが軸筒に収容されているにもかかわらず、指先でクリップに隣接する作動子を前方にスライドするときに、指先がクリップとほとんど干渉せず、スライドが容易な多芯筆記具とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。図1および図2において、合成樹脂で成形された軸10の先端に同じく合成樹脂で成形された大先13が接続されており、軸10と大先13で軸筒を構成している。軸10の尾端側には、4個の縦長孔11が、図3や図4に示すように、90°の等間隔で形成されている。また、縦長孔11の内側には係止段12が形成されている。軸10の先端側内部には、4個の孔を有するシリンダー15が固着されている。
【0008】
2個の縦長孔11の中間にクリップ20が軸10と一体に形成されている。クリップ20の表面21は、図3や図4に示すように、通常のクリップと同等の幅であるが、側面22は軸10に向けて傾斜しており、軸10に対面する裏面23は表面21に比べて幅が狭くなっている。なお、側面22の傾斜は図例では直線状であるが、凹状の円弧であってもよい。
【0009】
先端にペン先部31を有する4本のボールペンレフィール30がシリンダー15の孔に挿入された状態で軸10と大先13からなる軸筒内に前後動可能に収容されており、これらのレフィール30はスプリング32により尾端側に弾発されている。1本のボールペンレフィール30がシャープペンシルの中芯であってもよい。そして、4個の作動子40が縦長孔11から径方向にそれぞれ突出している。ここで、軸10に対面する裏面23は表面21に比べて幅が狭くなっているので、クリップ20に隣接する作動子40とクリップ20の間には、通常の断面が略長方形のクリップの場合に比べて大きな空間が確保されている。作動子40の裏面には、被押圧突起41と押圧突起42が形成されている。そして、作動子40先端の連結部43がそれぞれのレフィール30の尾端開口に圧入されて連結されている。
【0010】
しかして、1つの作動子40を指先で前方にスライドさせると、作動子40には径方向の分力が作用するので、図1に示すように、作動子40が係止段12に係止するとともに、ペン先部31が大先13の先端開口14から突出し、筆記可能になる。このとき、クリップ20に隣接する作動子40とクリップ20の間に大きな空間が確保されているので、クリップ20に隣接する作動子40をスライドさせるときも指先がクリップ20と干渉しにくく、容易にスライドすることができる。
次に、他のレフィール30のペン先部31で筆記するときは、図1に示す状態から、そのレフィール40に接続された作動子40をスライドさせると、この作動子40の押圧突起42が、ペン先部31が突出しているレフィール30に連結された作動子40の被押圧突起41を径方向に押圧するので作動子40と係止段12の係止が解除され、スプリング32の弾発力によりレフィール30が後退してペン先部31が大先13内に没入する。そして、スライドさせた作動子40が係止段12に係止するとともに、この作動子40に連結されたレフィール30のペン先部31が大先13の先端開口14から突出し、筆記可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明実施例の断面図である。
【図2】同じく要部の正面図である。
【図3】図2のA−A線における断面図である。
【図4】図2のB−B線における断面図である。
【符号の説明】
【0012】
10 軸
11 縦長孔
12 係止段
13 大先
14 先端開口
15 シリンダー
20 クリップ
21 クリップの表面
22 クリップの側面
23 クリップの裏面
30 レフィール
31 ペン先部
32 スプリング
40 作動子
41 被押圧突起
42 押圧突起
43 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリップを有する軸筒内に複数本のレフィールが前後動可能に収容され、各レフィールに連結された作動子が軸筒の縦長孔から径方向に突出し、1つの作動子を前方にスライドさせることによりレフィールのペン先部を選択的に突出させるスライド式の多芯筆記具において、
前記軸筒内に4本のレフィールが収容されて4個の作動子が90°の等間隔に配置され、その2個の作動子の中間に位置するクリップは、少なくとも作動子近傍の側面が軸筒側に向けて傾斜し、軸筒に対面するクリップの裏面の幅が狭くなって作動子とクリップの間の空間が大きく確保されていることを特徴とする多芯筆記具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−326955(P2006−326955A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151964(P2005−151964)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【出願人】(000002314)セーラー万年筆株式会社 (49)
【Fターム(参考)】