説明

多重オーディオチャンネル群の再現の向上

【課題】前方ラウドスピーカの上方に配されるラウドスピーカへの印加に適したオーディオチャンネル群を提供する方法に関し、聴取エリアの前方への再生用のチャンネル群と聴取エリアの側方群および/または後方への再生用のチャンネル群とを含む多重オーディオチャンネル群の再現を向上させる。
【解決手段】聴取エリアの側方群への再生用チャンネル群の対Ls,Rsから、位相ずれ音声情報を抽出し、この位相ずれ音声情報を、聴取エリアの前方への再生用チャンネル群を再生するラウドスピーカの上方に配される1台以上のラウドスピーカLvh,Rvhに印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
本願は、2008年9月3日に出願され、その全体が本願明細書において参照により組み込まれて米国特許仮出願第61/190,963号に対する優先権を主張する。
【0002】
[発明の分野]
本発明は多重チャンネルオーディオの分野に関する。より具体的には、本発明は、従来の前方ラウドスピーカの上方に配されるラウドスピーカへの印加に適したオーディオチャンネル群を提供する方法に関する。本発明は、その方法を遂行するための装置およびその方法を遂行するためのコンピュータプログラムにも関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明の態様によれば、聴取エリアの前方への再生用のチャンネル群と聴取エリアの側方群および/または後方への再生用のチャンネル群とを含む多重オーディオチャンネル群の再現を向上させる方法は、聴取エリアの側方群または後側方群への再生用のチャンネル群の対から、位相ずれ音声情報を抽出することと、位相ずれ音声情報を、聴取エリアの前方への再生用のチャンネル群を再生するラウドスピーカの上方に配される1台以上のラウドスピーカに印加することと、を含む。
【0004】
抽出は位相ずれ情報の2つのセットを抽出すればよく、印加は、位相ずれ情報の第1のセットを、聴取エリアの左前方への再生用のチャンネルまたはチャンネル群を再生する1台以上の左ラウドスピーカの上方に配される1台以上の左垂直高さラウドスピーカに印加すればよく、位相ずれ情報の第2のセットを、聴取エリアの右前方への再生用のチャンネルまたはチャンネル群を再生する1台以上の右ラウドスピーカの上方に配される1台以上の右垂直高さラウドスピーカに印加すればよい。第1の代替例によれば、抽出は、チャンネル群の対内の位相ずれ成分を含む単一チャンネルモノラルオーディオ信号を抽出し、モノラルオーディオ信号を、左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つの信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、に分離すればよい。第2の代替例によれば、抽出は、左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つのオーディオ信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、を抽出すればよく、垂直高さ信号の各々はチャンネル群の対内の位相ずれ成分を含み、左垂直高さ信号はチャンネル群の対内の左側方および/または左後側方チャンネルに重み付けされ、右垂直高さ信号はチャンネル群の対内の右側方および/または右後側方チャンネルに重み付けされる。
【0005】
左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカに印加される信号は、聴取エリア内の特定の場所における位相ずれ信号の相殺を最小限に抑えるために互いに位相が合っているのが望ましい。
【0006】
3つの代替例のうちの第1の代替例によれば、聴取エリアの側方群および/または後側方群への再生用の1対のチャンネル群、左サラウンドチャンネルおよび右サラウンドチャンネル、がある。3つの代替例のうちの第2の代替例によれば、聴取エリアの側方群および/または後側方群への再生用の1対のチャンネル群、左後方サラウンドチャンネルおよび右後方サラウンドチャンネル、がある。3つの代替例のうちの第3の代替例によれば、聴取エリアの側方群および/または後側方群への再生用の2対のチャンネル群、側方サラウンドチャンネルの対および後方サラウンドチャンネルの対、があり、側方サラウンドチャンネル群の対は左サラウンドおよび右サラウンドチャンネル群であり、後方サラウンドチャンネル群の対は左後方サラウンドおよび右後方サラウンドチャンネル群である。
【0007】
抽出は位相ずれ音声情報を、パッシブマトリクスを用いて抽出してよい。位相ずれ音声情報の抽出元のチャンネル群の対がLsおよびRsと指定され、抽出される位相ずれ音声情報がLvhおよびRvhと指定されるものとすれば、Lvh、Rvh、LsおよびRsの間の関係は次式によって特徴付けられることになる:
Lvh=[(0.871×Ls)−(0.49×Rs)]、および
Rvh=[(−0.49×Ls)+(0.871×Rs)]。
代替的に、抽出は位相ずれ音声情報を、アクティブマトリクスを用いて抽出してもよい。
【0008】
多重オーディオチャンネル群はオーディオ源信号の対から導出されてよい。オーディオ信号の対は、方向情報がエンコードされているオーディオ信号のステレオ対であればよい。代替的に、多重オーディオチャンネル群は、聴取エリアの前方ならびに聴取エリアの側方群および/または後方への再生用のそれぞれのチャンネル群を表す独立した信号を含む2つを超えるオーディオ源信号から導出されてもよい。聴取エリアの側方群および/または後方への再生用のそれぞれのチャンネル群を表す独立した信号の対が、位相ずれ垂直高さ情報とともにエンコードされてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】聴取エリアの前方への再生用の左(left、L)、中央(center、C)および右(right、R)オーディオチャンネル群、ならびに聴取エリアの側方群への再生用の左サラウンド(left surround、Ls)および右サラウンド(right surround、Rs)オーディオチャンネル群を再現するための理想的なラウドスピーカ位置を示す環境の概略平面図である。
【図2】聴取エリアの前方への再生用の左(L)、中央(C)および右(R)オーディオチャンネル群、ならびに聴取エリアの側方群および後側方群への再生用の左サラウンド(Ls)、右サラウンド(Rs)、左後方サラウンド(left rear surround、Lrs)および右後方サラウンド(right rear surround、Rrs)オーディオチャンネル群を再現するための理想的なラウドスピーカ位置を示す環境の概略平面図である。
【図3】本発明の態様による垂直高さラウドスピーカ位置が追加された、図1の例を示す図である。
【図4】小部屋の環境における図3の例を示す図である。
【図5】本発明の態様による垂直高さラウドスピーカ位置が追加された、図1の例を示す図である。
【図6】小部屋の環境における図5の例を示す図である。図1〜図6はいずれも原寸に比例していない。
【図7】LvhおよびRvhラウドスピーカ位置にあるラウドスピーカに印加するための信号が得られる、本発明の態様による種々の方法の例を示す図である。
【図8】LvhおよびRvhラウドスピーカ位置にあるラウドスピーカに印加するための信号が得られる、本発明の態様による種々の方法の例を示す図である。
【図9】LvhおよびRvhラウドスピーカ位置にあるラウドスピーカに印加するための信号が得られる、本発明の態様による種々の方法の例を示す図である。
【図10】LvhおよびRvhラウドスピーカ位置にあるラウドスピーカに印加するための信号が得られる、本発明の態様による種々の方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、聴取エリアの前方への再生用の左(L)、中央(C)および右(R)オーディオチャンネル群、ならびに聴取エリアの側方群への再生用の左サラウンド(Ls)および右サラウンド(Rs)オーディオチャンネル群を再現するための理想的なラウドスピーカ位置を示す環境の概略平面図である。このような配置は通例、「LFE」(low frequency effects、低周波数効果)ラウドスピーカ(サブウーファ等)も含み、「5.1」チャンネル再生配置(5つの主チャンネル群・プラス・LFEチャンネル)としばしば呼ばれる。LFEチャンネルは本発明の解説または理解に必要ないので、説明を簡潔にするために、LFEチャンネルへのさらなる言及はなされない。
【0011】
5つの理想的なラウドスピーカ位置に囲まれた、中心4を有する概念的な聴取エリア2が示されている。中央ラウドスピーカ位置を聴取エリアの中心に対して0度に設定すると、他のラウドスピーカ位置は、示されているような相対角度位置のレンジ−右ラウドスピーカ位置は22ないし30度(左はその鏡像位置のレンジ)、右サラウンドラウドスピーカ位置は90ないし110度(左サラウンドはその鏡像位置のレンジ)−を有すればよい。
【0012】
図2は、聴取エリアの前方への再生用の左(L)、中央(C)および右(R)オーディオチャンネル群、ならびに聴取エリアの側方群および後側方群への再生用の左サラウンド(Ls)、右サラウンド(Rs)、左後方サラウンド(Lrs)および右後方サラウンド(Rrs)オーディオチャンネル群を再現するための理想的なラウドスピーカ位置を示す環境の概略平面図である。このような配置は通例、「7.1」チャンネル再生配置(7つの主チャンネル群・プラス・LFEチャンネル)としばしば呼ばれる。
【0013】
7つの理想的なラウドスピーカ位置に囲まれた、中心8を有する概念的な聴取エリア6が示されている。中央ラウドスピーカ位置を聴取エリアの中心に対して0度に設定すると、他のラウドスピーカ位置は、示されているような相対角度位置のレンジ−右ラウドスピーカ位置は22ないし30度(左はその鏡像位置のレンジ)、右サラウンドラウドスピーカ位置は90ないし110度(左サラウンドはその鏡像位置のレンジ)、右後方サラウンドラウドスピーカ位置(左後方サラウンドはその鏡像位置のレンジ)−を有すればよい。
【0014】
図3は、本発明の態様による垂直高さラウドスピーカ位置が追加された、図1の例を示す。聴取エリアの中心4に対して22ないし45度の角度レンジ内に右垂直高さ(right vertical height、Rvh)ラウドスピーカ位置が点線で(それが右(R)ラウドスピーカ位置の上方にあることを示すため)示されている。聴取エリアの中心4に対して上記の22ないし45度の角度レンジの鏡像内に左垂直高さ(left vertical height、Lvh)ラウドスピーカ位置が点線で(それが左(L)ラウドスピーカ位置の上方にあることを示すため)示されている。
【0015】
図4は小部屋の環境における図3の例を示す。聴取エリア2内にソファ10が配されている。L、LFE、C、R、Lvh、Rvh、LsおよびRsラウドスピーカ位置にラウドスピーカ群が配されている。12に、多重オーディオチャンネル群に関連付けられる設備が概略的に示されている。中央ラウドスピーカ位置の上方にビデオ画面13が配されている。
【0016】
LvhおよびRvhラウドスピーカ位置は前方オーディオチャンネル群のラウドスピーカ位置の上方にあることに留意されたい。例えば、適切なLvhおよびRvhラウドスピーカ位置は、LおよびRラウドスピーカ位置の少なくとも1メートル上方で、できるだけ高い位置となることが見いだされている。同様に、LvhおよびRvhラウドスピーカ位置は、LおよびRラウドスピーカ位置よりも広い角度にあってよいことが見いだされているが(例えば30度ではなく45度まで)、LvhおよびRvhラウドスピーカ位置はLおよびRラウドスピーカ位置の実質的に直上にあるのが望ましい。LvhおよびRvhラウドスピーカ位置はLsおよびRsラウドスピーカ位置の上方にあることにも留意されたい。
【0017】
図5は、本発明の態様による垂直高さラウドスピーカ位置が追加された、図1の例を示す。聴取エリアの中心4に対して22ないし45度の角度レンジ内に右垂直高さ(Rvh)ラウドスピーカ位置が点線で(それが右(R)ラウドスピーカ位置の上方にあることを示すため)示されている。聴取エリアの中心8に対して上記の22ないし45度の角度レンジの鏡像内に左垂直高さ(Lvh)ラウドスピーカ位置が点線で(それが左(L)ラウドスピーカ位置の上方にあることを示すため)示されている。
【0018】
図6は小部屋の環境における図5の例を示す。聴取エリア2内にソファ10が配されている。L、LFE、C、R、Lvh、Rvh、Ls、Rs、RrsおよびLrsラウドスピーカ位置にラウドスピーカ群が配されている。12に、多重オーディオチャンネル群に関連付けられる設備が概略的に示されている。中央ラウドスピーカ位置の上方にビデオ画面13が配されている。
【0019】
LvhおよびRvhラウドスピーカ位置は前方オーディオチャンネル群のラウドスピーカ位置の上方にあることに留意されたい。例えば、適切なLvhおよびRvhラウドスピーカ位置は、LおよびRラウドスピーカ位置の少なくとも1メートル上方で、できるだけ高い位置となることが見いだされている。同様に、LvhおよびRvhラウドスピーカ位置は、LおよびRラウドスピーカ位置よりも広い角度にあってよいことが見いだされているが(例えば30度ではなく45度まで)、LvhおよびRvhラウドスピーカ位置はLおよびRラウドスピーカ位置の実質的に直上にあるのが望ましい。LvhおよびRvhラウドスピーカ位置はLs、Rs、LrsおよびRrsラウドスピーカ位置の上方にあることにも留意されたい。
【0020】
図7〜図10は、LvhおよびRvhラウドスピーカ位置にあるラウドスピーカに印加するための信号が得られる、本発明の態様による種々の方法の例を示す。
【0021】
まず図7を参照すると、図1、図3および図4の例に共通の5つのラウドスピーカ位置にあるそれぞれのラウドスピーカに印加するための5つのオーディオチャンネル群(L、C、R、LsおよびRs)が示されている。LvhおよびRvhラウドスピーカ位置(図3および図4)にあるラウドスピーカに印加する信号を提供するために、聴取エリアの側方群にあるラウドスピーカ位置(Ls、Rs)からの再生用のチャンネル群の対内の位相ずれ音声情報が、抽出器または抽出プロセス(「位相ずれ音声情報の抽出」)16によって抽出される。デバイスまたはプロセス16は、例えば、パッシブまたはアクティブマトリクスであればよい。適切なパッシブマトリクスは次式で特徴付けられてもよい:
Lvh=[(0.871×Ls)−(0.49×Rs)]、および
Rvh=[(−0.49×Ls)+(0.871×Rs)]。
適切なアクティブマトリクスの静止時のマトリクス条件も同様に特徴付けられてもよい。
【0022】
従って、抽出デバイスまたはプロセス16は、左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つのオーディオ信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、を抽出する。垂直高さ信号の各々は、LsおよびRsチャンネル群内の位相ずれ成分を含み、マトリクス係数(例では0.871および0.49)によって、左垂直高さ信号はチャンネル群の対内の左側方および/または左後側方チャンネルに重み付けされ、右垂直高さ信号はチャンネル群の対内の右側方および/または右後側方チャンネルに重み付けされる。垂直高さ信号は互いに対して位相が合っているのが望ましい。
【0023】
図8の例では、図2、図5および図6の例に共通の7つのラウドスピーカ位置にあるそれぞれのラウドスピーカに印加するための7つのオーディオチャンネル群(L、C、R、Ls、Rs、LrsおよびRrs)が示されている。LvhおよびRvhラウドスピーカ位置(図5および図6)にあるラウドスピーカに印加する信号を提供するために、聴取エリアの側方群にあるラウドスピーカ位置(Ls、Rs)からの再生用のチャンネル群の対内の位相ずれ音声情報が、抽出器または抽出プロセス(「位相ずれ音声情報の抽出」)16によって抽出される。デバイスまたはプロセス16は、例えば、パッシブまたはアクティブマトリクスであればよい。適切なパッシブマトリクスは次式で特徴付けられてもよい:
Lvh=[(0.871×Lrs)−(0.49×Rrs)]、および
Rvh=[(−0.49×Lrs)+(0.871×Rrs)]。
適切なアクティブマトリクスの静止時のマトリクス条件も同様に特徴付けられてもよい。
【0024】
従って、抽出デバイスまたはプロセス16は、左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つのオーディオ信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、を抽出する。垂直高さ信号の各々は、LsおよびRsチャンネル群内の位相ずれ成分を含み、マトリクス係数(例では0.871および0.49)によって、左垂直高さ信号はチャンネル群の対内の左側方および/または左後側方チャンネルに重み付けされ、右垂直高さ信号はチャンネル群の対内の右側方および/または右後側方チャンネルに重み付けされる。垂直高さ信号は互いに対して位相が合っているのが望ましい。
【0025】
左垂直高さ信号および右垂直高さ信号はLsおよびRsチャンネル対から抽出するのが適切であることが見いだされているが、垂直高さ信号はLrsおよびRrsチャンネル対から抽出されてもよい。
【0026】
図9の例では、図1、図3および図4の例に共通の5つのラウドスピーカ位置にあるそれぞれのラウドスピーカに印加するための5つのオーディオチャンネル群(L、C、R、LsおよびRs)が示されている。LvhおよびRvhラウドスピーカ位置(図3および図4)にあるラウドスピーカに印加する信号を提供するために、聴取エリアの側方群にあるラウドスピーカ位置(Ls、Rs)からの再生用のチャンネル群の対内の位相ずれ音声情報が、抽出器または抽出プロセス(「位相ずれ音声情報の抽出」)18ならびに信号分割器または信号分割プロセス(「信号の分割」)20によって抽出される。本例では、抽出デバイスまたはプロセスは、図7および図8の例におけるような2つのステレオ的な信号ではなく、単一のモノラル信号を導出する。デバイスまたはプロセス18は、例えば、パッシブまたはアクティブマトリクスであってもよい。適切なパッシブマトリクスは次式で特徴付けられる:
Lvh=Rvh=(Ls−Rs)。
適切なアクティブマトリクスの静止時のマトリクス条件も同様に特徴付けられる。信号分割デバイスまたはプロセス20は抽出デバイスまたはプロセス18の一部と見なされてもよい。
【0027】
単一のモノラル信号は同じ信号の2つの複製に分割されてもよい。代替的に、モノラル信号に何らかの形式の擬似ステレオの導出が適用されてもよい。
【0028】
従って、抽出デバイスまたはプロセス18は、左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つのオーディオ信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、を抽出する。垂直高さ信号の各々は、LsおよびRsチャンネル群内の位相ずれ成分を含む。垂直高さ信号は互いに対して位相が合っているのが望ましい。
【0029】
図10の例では、図2、図5および図6の例に共通の7つのラウドスピーカ位置にあるそれぞれのラウドスピーカに印加するための7つのオーディオチャンネル群(L、C、R、Ls、Rs、LrsおよびRrs)が示されている。LvhおよびRvhラウドスピーカ位置(図3および図4)にあるラウドスピーカに印加する信号を提供するために、聴取エリアの側方群にあるラウドスピーカ位置(Ls、Rs)からの再生用のチャンネル群の対内の位相ずれ音声情報が、抽出器または抽出プロセス(「位相ずれ音声情報の抽出」)18ならびに信号分割器または信号分割プロセス(「信号の分割」)20によって抽出される。本例では、抽出デバイスまたはプロセスは、図7および図8の例におけるような2つのステレオ的な信号ではなく、単一のモノラル信号を導出する。デバイスまたはプロセス18は、例えば、パッシブまたはアクティブマトリクスであってもよい。適切なパッシブマトリクスは次式で特徴付けられてもよい:
Lvh=Rvh=(Lrs−Rrs)。
適切なアクティブマトリクスの静止時のマトリクス条件も同様に特徴付けられてもよい。信号分割デバイスまたはプロセス20は抽出デバイスまたはプロセス18の一部と見なされてもよい。
【0030】
単一のモノラル信号は同じ信号の2つの複製に分割されてもよい。代替的に、モノラル信号に何らかの形式の擬似ステレオの導出が適用されてもよい。
【0031】
従って、抽出デバイスまたはプロセス18は、左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つのオーディオ信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、を抽出する。垂直高さ信号の各々は、LsおよびRsチャンネル群内の位相ずれ成分を含む。垂直高さ信号は互いに対して位相が合っているのが望ましい。
【0032】
左垂直高さ信号および右垂直高さ信号はLsおよびRsチャンネル対から抽出するのが適切であることが見いだされているが、垂直高さ信号はLrsおよびRrsチャンネル対から抽出されてもよい。
【0033】
図3〜図10の種々の例示的な実施形態では、多重オーディオチャンネル群(L、C、R、Ls、Rs、Lvh、Rvh;L、C、R、Ls、Rs、Lrs、Rrs、Lvh、Rvh)は、オーディオ源信号の対から導出されるオーディオチャンネル群であればよい。オーディオ信号のこのような対は、オーディオ信号のステレオ対であればよく、そこには方向情報がエンコードされている。聴取エリアの側方群および/または後方への再生用のそれぞれのチャンネル群を表す独立した信号の対が、位相ずれ垂直高さ情報とともにエンコードされてもよい。こうしたエンコーディングは実装が難しい場合があり、それを欠くときは、得られる垂直高さ信号は擬似高さ信号と見なされてもよい。それらの導出方法を考慮すれば、このような擬似高さ信号は、LvhおよびRvhの場所内にあるラウドスピーカによって再現されても無意味または場にそぐわない音声を含むことはなさそうであるというのが本発明の一側面である。このような擬似高さ信号は、側方または後側方チャンネル群内に存在する周囲または拡散音を主に含むことになる。
【0034】
代替的に、多重オーディオチャンネル群は、聴取エリアの前方への再生ならびに聴取エリアの側方群および/または後方への再生用のそれぞれのチャンネル群を表す独立した(または別個の)信号を含む2つを超えるオーディオ源信号から導出されてもよい。聴取エリアの側方群および/または後方への再生用のそれぞれのチャンネル群を表す独立した信号の対が、位相ずれ垂直高さ情報とともにエンコードされてもよい。その場合は、LvhおよびRvhラウドスピーカ位置にあるラウドスピーカによる再生のために音声が明確に配されてもよい。
【0035】
簡潔にするために、個々の図面は、実際の音声再現配置の実装において必要となる可能性があるような相対時間遅延および利得調整を示していない。このような時間遅延および利得調整を実装する方法は当技術分野において周知であり、本発明の一部を構成するものではない。
【0036】
多重オーディオチャンネル群を再現するための図1〜図6の配置は本発明の態様のための環境の例であることは理解されよう。例えば、図1および図2の例におけるラウドスピーカ位置の角度位置は本発明に不可欠というものではない。同様に、ラウドスピーカ位置にまたはその近傍に1台を超えるラウドスピーカが配されてよいことも理解されたい。
【0037】
実装
本発明はハードウェアまたはソフトウェア、あるいは両者の組み合わせ(例えばプログラマブルロジックアレイ)の形で実装されてもよい。特に指定されない限り、本発明の一部として含まれるアルゴリズムはいずれの特定のコンピュータまたは他の装置にも本質的に関連するものではない。特に、本願明細書における教示に従って書かれたプログラムを利用して種々の汎用機械が用いられる場合もあるし、または必要な方法のステップの遂行により特化した装置(例えば集積回路)を構築する方が都合よい場合もある。従って、本発明は、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つのデータ記憶システム(揮発性および不揮発性メモリおよび/または記憶要素など)、少なくとも1つの入力デバイスまたはポート、ならびに少なくとも1つの出力デバイスまたはポートを各々含む1つ以上のプログラム可能なコンピュータシステム上で実行する1つ以上のコンピュータプログラム内に実装されてもよい。プログラムコードが入力データに適用され、本願明細書において記載されている機能を遂行し出力情報を生成する。出力情報は周知の方法で1つ以上の出力デバイスに印加される。
【0038】
このようなプログラムは各々、任意の所望のコンピュータ言語(機械、アセンブリ、あるいは高水準手続き型、論理またはオブジェクト指向プログラミング言語など)内に実装されてコンピュータシステムと通信すればよい。いずれの場合でも、言語はコンパイラ型またはインタプリタ型言語であってもよい。
【0039】
このようなコンピュータプログラムは各々、本願明細書に記載の手順を遂行するべく記憶媒体またはデバイスがコンピュータシステムによって読み出されると、コンピュータを設定し操作するために、汎用または専用のプログラム可能コンピュータによって読み出し可能な記憶媒体またはデバイス(例えば、固体メモリまたは媒体、あるいは磁気的または光学的媒体)上に記憶されるかまたはそれにダウンロードされるのが望ましい。本発明のシステムはコンピュータプログラムで構成されたコンピュータ可読記憶媒体として実装されるものと見なされてもよく、かように構成された記憶媒体が、コンピュータシステムを、本願明細書に記載の機能を遂行するべく特定且つ既定の様式で動作させる。本発明の多数の実施形態が記載されている。しかし、本発明の思想および範囲から逸脱することなく種々の変更がなされてよいことは理解されよう。例えば、本願明細書に記載のステップのいくつかは順序に依存しなくてもよいものであり、従って、記載されているものとは異なる順序で遂行されることができる。
【0040】
本願の原出願の出願当初の特許請求の範囲を記載しておく。
〔請求項1〕
聴取エリアの前方への再生用のチャンネル群と前記聴取エリアの側方群および/または後側方への再生用のチャンネル群とを含む多重オーディオチャンネル群の再現を向上させる方法であって、
前記聴取エリアの側方群または後側方群への再生用の前記チャンネル群の対から、位相ずれ音声情報を抽出することと、
前記位相ずれ音声情報を、前記聴取エリアの前方への再生用のチャンネル群を再生するラウドスピーカの上方に配される1台以上のラウドスピーカに印加することと、
を含む方法。
〔請求項2〕
前記抽出は位相ずれ情報の2つのセットを抽出し、
前記印加は、位相ずれ情報の前記第1のセットを、前記聴取エリアの左前方への再生用のチャンネルまたはチャンネル群を再生する1台以上の左ラウドスピーカの上方に配される1台以上の左垂直高さラウドスピーカに印加し、位相ずれ情報の前記第2のセットを、前記聴取エリアの右前方への再生用のチャンネルまたはチャンネル群を再生する1台以上の右ラウドスピーカの上方に配される1台以上の右垂直高さラウドスピーカに印加する、
請求項1に記載の方法。
〔請求項3〕
前記抽出は、チャンネル群の前記対内の位相ずれ成分を含む単一チャンネルモノラルオーディオ信号を抽出し、前記モノラルオーディオ信号を、前記左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つの信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、に分離する、請求項2に記載の方法。
〔請求項4〕
前記抽出は、前記左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つのオーディオ信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、を抽出し、前記垂直高さ信号の各々はチャンネル群の前記対内の位相ずれ成分を含み、前記左垂直高さ信号はチャンネル群の前記対内の前記左側方および/または左後側方チャンネルに重み付けされ、前記右垂直高さ信号はチャンネル群の前記対内の前記右側方および/または右後側方チャンネルに重み付けされる、請求項2に記載の方法。
〔請求項5〕
前記左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカに印加される前記信号は互いに位相が合っている、請求項3または請求項4に記載の方法。
〔請求項6〕
前記聴取エリアの側方群および/または後側方群への再生用の1対のチャンネル群、左サラウンドチャンネルおよび右サラウンドチャンネル、がある、請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の方法。
〔請求項7〕
前記聴取エリアの側方群および/または後側方群への再生用の1対のチャンネル群、左後方サラウンドチャンネルおよび右後方サラウンドチャンネル、がある、請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の方法。
〔請求項8〕
前記聴取エリアの側方群および/または後側方群への再生用の2対のチャンネル群、側方サラウンドチャンネル群の対および後方サラウンドチャンネル群の対、があり、側方サラウンドチャンネル群の前記対は左サラウンドおよび右サラウンドチャンネル群であり、後方サラウンドチャンネル群の前記対は左後方サラウンドおよび右後方サラウンドチャンネル群である、請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の方法。
〔請求項9〕
前記抽出は前記位相ずれ音声情報を、パッシブマトリクスを用いて抽出する、請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載の方法。
〔請求項10〕
前記位相ずれ音声情報の抽出元のチャンネル群の前記対がLsおよびRsと指定され、前記抽出される位相ずれ音声情報がLvhおよびRvhと指定されるものとすれば、Lvh、Rvh、LsおよびRsの間の関係は、
Lvh=[(0.871×Ls)−(0.49×Rs)]、および
Rvh=[(−0.49×Ls)+(0.871×Rs)]
によって特徴付けられることになる、請求項9に記載の方法。
〔請求項11〕
前記抽出は前記位相ずれ音声情報を、アクティブマトリクスを用いて抽出する、請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載の方法。
〔請求項12〕
前記多重オーディオチャンネル群はオーディオ源信号の対から導出される、請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載の方法。
〔請求項13〕
オーディオ信号の前記対は、オーディオ信号のステレオ対であり、そこには方向情報がエンコードされている、請求項12に記載の方法。
〔請求項14〕
前記多重オーディオチャンネル群は、前記聴取エリアの前方ならびに前記聴取エリアの側方群および/または後側方への再生用のそれぞれのチャンネル群を表す独立した信号を含む2つを超えるオーディオ源信号から導出される、請求項1ないし11のうちいずれか1項に記載の方法。
〔請求項15〕
前記聴取エリアの側方群および/または後側方への再生用のそれぞれのチャンネル群を表す独立した信号の対が、位相ずれ垂直高さ情報とともにエンコードされる、請求項14に記載の方法。
〔請求項16〕
請求項1ないし15のうちいずれか1項に記載の方法を実施するように構成された装置。
〔請求項17〕
請求項1ないし15のうちいずれか1項に記載の方法を実装するように構成されたコンピュータプログラム。
【0041】
いくつかの態様を記載しておく。
〔態様1〕
聴取エリアの前方への再生用のチャンネル群と前記聴取エリアの側方群への再生用のチャンネル群の対および/または前記聴取エリアの後側方への再生用のチャンネル群の対とを含む多重オーディオチャンネル群の再現を向上させる方法であって、
前記聴取エリアの側方群への再生用の前記チャンネル群の対または前記聴取エリアの後側方群への再生用の前記チャンネル群の対である抽出チャンネル群の対から、位相ずれ音声情報を抽出するステップと、
前記位相ずれ音声情報を、前記聴取エリアの前方への再生用の前記チャンネル群を再生するラウドスピーカの上方に配されるラウドスピーカに印加するステップとを含み、
前記抽出は位相ずれ情報の第1および第2のセットを抽出し、
前記印加は、位相ずれ情報の前記第1のセットを、前記聴取エリアの左前方への再生用のチャンネル群のうちのチャンネルを再生する1台以上の左ラウドスピーカの上方に配される1台以上の左垂直高さラウドスピーカに印加し、位相ずれ情報の前記第2のセットを、前記聴取エリアの右前方への再生用のチャンネル群のうちのチャンネルを再生する1台以上の右ラウドスピーカの上方に配される1台以上の右垂直高さラウドスピーカに印加する、方法。
〔態様2〕
前記抽出は、抽出チャンネル群の前記対内の位相ずれ成分を含む単一チャンネルモノラルオーディオ信号を抽出し、前記モノラルオーディオ信号を、前記左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つの信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、に分離する、態様1に記載の方法。
〔態様3〕
前記抽出は、前記左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカにそれぞれ結合するための2つのオーディオ信号、左垂直高さ信号および右垂直高さ信号、を抽出し、前記垂直高さ信号の各々は抽出チャンネル群の前記対内の位相ずれ成分を含み、前記左垂直高さ信号は抽出チャンネル群の前記対内の前記左側方または左後側方チャンネルに重み付けされ、前記右垂直高さ信号は抽出チャンネル群の前記対内の前記右側方または右後側方チャンネルに重み付けされる、態様1に記載の方法。
〔態様4〕
前記左垂直高さおよび右垂直高さラウドスピーカに印加される前記信号は互いに位相が合っている、態様2または態様3に記載の方法。
〔態様5〕
前記聴取エリアの側方群への再生用の1対のチャンネル群、左サラウンドチャンネルおよび右サラウンドチャンネルだけがある、態様1ないし4のうちいずれか1項に記載の方法。
〔態様6〕
前記聴取エリアの後側方群への再生用の1対のチャンネル群、左後方サラウンドチャンネルおよび右後方サラウンドチャンネルだけがある、態様1ないし4のうちいずれか1項に記載の方法。
〔態様7〕
側方サラウンドチャンネル群の対と称される、前記聴取エリアの側方群への再生用のチャンネル群の対および後方サラウンドチャンネル群の対と称される、前記聴取エリアの後側方群への再生用のチャンネル群の対があり、側方サラウンドチャンネル群の前記対は左サラウンドおよび右サラウンドチャンネル群であり、後方サラウンドチャンネル群の前記対は左後方サラウンドおよび右後方サラウンドチャンネル群である、態様1ないし4のうちいずれか1項に記載の方法。
〔態様8〕
前記抽出は前記位相ずれ音声情報を、パッシブマトリクスを用いて抽出する、態様1ないし7のうちいずれか1項に記載の方法。
〔態様9〕
前記位相ずれ音声情報の抽出元の抽出チャンネル群の前記対がLsおよびRsと表され、前記抽出される位相ずれ音声情報がLvhおよびRvhと表されるものとして、Lvh、Rvh、LsおよびRsの間の関係は、
Lvh=[(0.871×Ls)−(0.49×Rs)]、および
Rvh=[(−0.49×Ls)+(0.871xRs)]
によって特徴付けられる、態様8に記載の方法。
〔態様10〕
前記多重オーディオチャンネル群はオーディオ源信号の対から導出される、態様1ないし9のうちいずれか1項に記載の方法。
〔態様11〕
オーディオ信号の前記対は、オーディオ信号のステレオ対であり、そこには方向情報がエンコードされている、態様10に記載の方法。
〔態様12〕
前記多重オーディオチャンネル群は、前記聴取エリアの前方ならびに前記聴取エリアの側方群および/または後側方への再生用のそれぞれのチャンネルを表す独立した信号を含む2つを超えるオーディオ源信号から導出される、態様1ないし9のうちいずれか1項に記載の方法。
〔態様13〕
前記聴取エリアの側方群および/または後側方への再生用のそれぞれのチャンネル群を表す独立した信号の対が、位相ずれ垂直高さ情報とともにエンコードされる、態様12に記載の方法。
〔態様14〕
態様1ないし13のうちいずれか1項に記載の方法のステップを実施するように構成された装置。
〔態様15〕
コンピュータに態様1ないし13のうちいずれか1項に記載の方法のステップを実行させるためのコンピュータプログラム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
聴取エリアの前方への再生用のチャンネル群と前記聴取エリアの側方群および/または後側方への再生用のチャンネル群とを含む多重オーディオチャンネル群の再現を向上させる方法であって、
前記聴取エリアの側方群または後側方群への再生用の前記チャンネル群の対から、位相ずれ音声情報を抽出することと、
前記位相ずれ音声情報を、前記聴取エリアの前方への再生用のチャンネル群を再生するラウドスピーカの上方に配される1台以上のラウドスピーカに印加することと、
を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−147461(P2012−147461A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−50702(P2012−50702)
【出願日】平成24年3月7日(2012.3.7)
【分割の表示】特願2011−526110(P2011−526110)の分割
【原出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(507236292)ドルビー ラボラトリーズ ライセンシング コーポレイション (82)
【Fターム(参考)】