説明

多重信号読み出し回路

【課題】 複数素子からの発する信号を同時読み出しための多重信号読み出し回路に関して、配線数の少なく、冷却手段の負担を軽減させ、かつ、各チャンネル間のクロストークの少ない多重信号読み出し回路を提供すること。
【解決手段】 複数の信号入力用コイルと、複数の信号入力用コイルとモジュレーションコイルが磁気結合され超伝導量子干渉素子と、超伝導量子干渉素子に電力を供給し、前期モジュレーションコイルに帰還電流を帰還することで電流信号に対して線形化された出力電圧を得るための駆動回路からなる多入力信号読み出し回路において、超伝導量子干渉素子を構成する超伝導ループを同一形状の複数の分割コイルで構成し、信号入力用コイルを、分割コイルに磁気結合された分割コイルと同じ数の分割入力コイルで構成し、分割コイルに磁気結合された分割コイルと同じ数の分割モジュレーションコイルで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の信号源から発せられる信号を同時に読み出すための多重信号読み出し回路に関し、詳しくは撮像型・超高波長分解能のX線検出器などの放射線計測、及び撮像型・高感度赤外線検出器などの熱計測などの分野において好適に用いることのできる多重信号読み出し回路に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導体の超伝導転移端における急峻な抵抗値の温度変化を利用した熱量計(マイクロカロリメータ)は、超高波長分解能のX線検出器や高感度の赤外線検出器として重要な検出器である。しかしながら、マイクロカロリメータを、例えば天文衛星に取り付けたX線検出器などの撮像素子として実際に用いる場合には、マイクロカロリメータを多数配列し、各マイクロカロリメータからの信号を独立して読み出す必要があった。マイクロカロリメータは0.1K程度の極低温で動作させるものであり、このような応用では、多数の信号源から発生せられる電流信号を極低温中で増幅し、室温領域まで取り出すことができる低雑音な多重信号読み出し回路が求められていた。
【0003】
極低音中で電流信号を検出する方法として、極低温中に設置された超伝導量子干渉素子(以下SQUIDと称する)を使って電流信号を電圧信号に変換する手段がある。従来、SQUIDを用いて多数の信号を検出する手段として、以下に示されるものが知られている(例えば特許文献1参照。)。複数のピックアップコイルを備え、各ピックアップコイルに鎖交する磁束を測定するため、各ピックアップコイルに対応した数のSQUIDおよび室温に設置された駆動回路を備えている。各ピックアップコイルは、2つのジョセフソン接合を含む超伝導ループに磁気結合されている入力コイルに接続されている。ピックアップコイルに鎖交した磁束は入力コイルを介して、超伝導ループのインダクタンスに伝達される。また、駆動回路から供給される帰還電流を超伝導ループに入力するためのモジュレーションコイルが設置されている。
【0004】
駆動回路は主にSQUID用バイアス電流源、増幅器、積分器から構成される。SQUID用バイアス電流源からSQUIDに直流電流を供給することにより、SQUIDは入力コイルに入力される電流信号に対して電圧信号を出力する電流―電圧変換素子として機能する。
【0005】
次に、駆動回路による磁束ロックループ動作について説明する。SQUIDから出力される電圧信号は増幅器および積分器を通り、出力電圧として取り出される。出力電圧は電流に変換され、帰還電流としてモジュレーションコイルに印加される。磁束ロックループ駆動時には、駆動回路は超伝導ループ内の磁束が常に一定になるように帰還電流を制御する。その結果、駆動回路の出力電圧は、入力コイルに入力される電流値に比例した値をとる。各信号源に対して、個別のSQUIDと個別の駆動回路を設けることで、各信号源から発する信号を精度良く読み出すことが出来る。
【0006】
複数の信号源により発せられる複数の信号を1つのSQUIDで検出する手段として、以下に示されるものが知られている(例えば特許文献2参照。)。4つの入力信号を検出するSQUIDの構成であり、SQUIDの超伝導ループを構成するSQUIDインダクタンスは分割された4つのコイル(以下分割コイルと称する)で構成されている。各分割コイルには、各チャンネルに相当する個別の信号入力用コイルが磁気結合されている。また、駆動回路から供給される帰還電流を入力するモジュレーションコイルは分割された4つのコイル(以下分割モジュレーションコイルと称する)で構成され、各分割モジュレーションコイルは分割コイルに磁気結合されている。また、全ての分割モジュレーションコイルを直列接続することで、1つの駆動回路で超伝導ループ全体に帰還電流を印加することができる。
【0007】
このようにSQUIDを構成することで、4つの信号源から発せられる信号を1つのSQUIDと1つの駆動回路で読み出すことが出来るため、配線数の少ない多重信号読み出し回路を提供できる。また、超伝導ループを構成するSQUIDインダクタンスを入力信号源と同じ数に分割することにより、各入力信号用コイルは個別の分割ループに設置できるため、対称性の良い素子構造となる。
【特許文献1】特開平5−172918号公報
【特許文献2】特開2000−323761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マイクロカロリメータを実際の撮像素子に応用する場合、マイクロカロリメータ毎に、このマイクロカロリメータを動作させるためのバイアス電流印加用の配線、並びに読み出し用の配線など、多数の配線が必要とされていた。従って、従来技術をそのまま適用する場合、極低温中の多数の配線を読み出し用の回路が設置された室温の計測領域に取り出さなければならず、配線が多くなり回路が複雑になるといった万台があった。また、配線が多くなることから室温から熱侵入が大きくなり、回路を冷却するため、大規模な冷却手段が必要となるといった問題があった。
【0009】
また、複数の信号源による信号を同時に、かつ、信号強度を精度良く読み出すためには、チャンネル間による信号のクロストークを減らすことも重要な課題となる。特許文献2によるSQUIDは、入力信号用コイルは個別に分割コイルに結合しているが、モジュレーションコイルは全ての分割コイルに結合されている。そのため、チャンネル間でモジュレーションコイルを介したクロストークが発生する。その結果、複数の信号源から同時に信号が入力された場合、その信号が入力信号によるものかクロストークによるものかを識別することは困難であった。
【0010】
そこで、本発明では、配線数の少なく、冷却手段の負担を軽減させ、かつ、各チャンネル間のクロストークの少ない多重信号読み出し回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0012】
複数の信号源から発せられる複数の電流信号を入力するための複数の信号入力用コイルと、2つのジョセフソン接合を含む超伝導ループからなり、複数の信号入力用コイルとモジュレーションコイルが磁気結合された超伝導量子干渉素子と、超伝導量子干渉素子に電力を供給し、モジュレーションコイルに帰還電流を帰還することで電流信号に対して線形化された出力電圧を得るための駆動回路と、を有し、超伝導ループを同一形状の複数の分割コイルに分割し、分割コイルを並列または直列接続することにより構成し、また、信号入力用コイルを分割コイルと同じ数の分割入力コイルに分割し、分割入力コイルを並列または直列接続することにより構成し、モジュレーションコイルを、分割コイルと同じ数の分割モジュレーションコイルコイルに分割し、分割モジュレーションコイルコイルを並列または直列接続することにより構成する。
【0013】
本発明によれば、複数の信号を1つのSQUIDで検出することができるため、配線数の少ない多重信号読み出し回路を提供できる。
【0014】
また、本発明によれば、超伝導ループ内には各信号入力用コイルに入力された電流信号による磁束とともに、駆動回路にから供給される帰還電流による同じ大きさの磁束が印加されるため、超伝導ループ内の磁束は常に一定に保たれる。従って、ある信号入力端子から電流信号が入力された場合でも、全ての信号入力用コイル内の磁束変化は等価的に0となる。その結果、入力された電流信号が他の信号入力用コイルに磁束として結合することがなく、各チャンネル間のクロストークを軽減することができる。
【0015】
また、全ての信号入力用コイル内の磁束変化は等価的に0となるため、帰還磁束を考慮した入力信号用コイルの等価的なインダクタンスは0となる。その結果、高速信号の読み出しに有効な回路を提供できる。
【0016】
本発明においては、信号入力用コイルを構成する分割入力コイル、および、モジュレーションコイルを構成する分割モジュレーションコイルの数を分割コイルの数以下としても良い。
【0017】
本発明によれば、複数の信号を1つのSQUIDで検出することができるため、配線数の少ない多重信号読み出し回路を提供できるほか、各チャンネル間のクロストーク軽減および入力信号用コイルの等価的なインダクタンス低減に有効である。
【0018】
また、本発明においては、信号入力用コイルおよびモジュレーションコイルを分割せず、複数の信号入力用コイルおよびモジュレーションコイルの両方を分割コイルのひとつに磁気結合する。
【0019】
本発明によれば、複数の信号を1つのSQUIDで検出することができるため、配線数の少ない多重信号読み出し回路を提供できるほか、各チャンネル間のクロストーク軽減および入力信号用コイルのインダクタンス低減に有効である。
【0020】
また、本発明において、複数の信号源に対してそれぞれ異なる周波数の交流バイアスで駆動するための交流バイアス電源と、駆動回路の出力電圧を交流バイアスの周波数を参照信号として信号入力用コイルに入力された電流信号に対応する電圧信号に分別する機能を有する制御回路を備える。
【0021】
本発明によれば、相異なる素子群に属する素子からの信号に、各素子群に印加された異なる周波数の交流バイアスがキャリアとして重畳されている。従って、これらの信号を加算することにより、周波数空間で多重化された加算信号を得ることができる。そして、本発明によれば、この多重化された加算信号が1つの信号線上に取り出される。すなわち、1つの信号線で複数の信号が多重化された加算信号を得ることができる。したがって、各素子毎の配線を要することなく、複数素子からの信号を読み出すことができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、複数の信号源から入力された信号を多重化された加算信号として、1つの信号線で取り出すことができるため、配線数を減らすことが出来る。また、各チャンネル間のクロストークを低減できることから、各素子の信号を精度良く読み出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を発明の実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
図1に本発明の実施例1を示す多重信号読み出し回路の構成図を、また、図2に本実施形態に用いられる超伝導量子干渉素子(以下SQUIDと称する)の模式図を示す。図1は2つの素子で発生する電流信号Iin#A、Iin#Bを読み出すための回路である。図1には、電流信号Iin#A、Iin#Bを入力するための2つの信号入力端子TA、TBが設置されている。信号入力端子TAには、2つに分割された分割入力コイル31A、32Aから構成された信号入力用コイルが接続さている。2つの分割入力コイル31A、32Aは直列接続されている。同様に、信号入力端子TBにも、2つに分割された分割入力コイル31B、32Bから構成された信号入力用コイルが接続さている。2つの分割入力コイル31B、32Bは直列接続されている。本実施形態では、図1、図2からわかるとおり、2チャンネル分の信号入力端子TA、TBを分割コイルごとに分けて設置している。
【0025】
SQUID10は、2つのジョセフソン接合1と2つに分割された分割コイル21、22からなる。2つ分割コイル21、22は鎖交する磁束に対して分割コイル中を流れる遮蔽電流の向きが互いに逆向きになるように並列接続されている。この構造により、SQUIDに一様磁場が加わったとき、超伝導ループ内の磁束は両方の分割コイル間でキャンセルされ、検出されない。分割コイル21および分割コイル22は、2つのジョセフソン接合1を共有する形で2つの超伝導ループを構成している。
【0026】
片方の分割コイル21には、信号入力端子TAに対応する入力コイル31Aと、信号入力端子TBに対応する31Bと、分割モジュレーションコイル41がそれぞれ相互インダクタンスMin、Min、Mfで磁気結合されている。もう一方の分割コイル22には、信号入力端子TAに対応する分割入力コイル32Aと、信号入力端子TBに対応する32Bと、分割モジュレーションコイル42がそれぞれ相互インダクタンスMin、Min、Mfで磁気結合されている。駆動回路から供給される帰還電流を入力するモジュレーションコイルは分割され2つの分割モジュレーションコイル41、42で構成され、直列接続することで、1つの駆動回路20で超伝導ループ全体に帰還電流を印加することができる。
【0027】
駆動回路20は、SQUID用バイアス電流源11、増幅器12、積分器13、電圧―電流変換器14で構成される。SQUID用バイアス電流源11からSQUID10に直流電流を供給することにより、SQUID10は信号入力用コイルに入力される電流信号に対して電圧信号を出力する電流―電圧変換素子として機能する。モジュレーションコイルに信号が入力されていない状態では、SQUIDの超伝導ループ内の全磁束Φsは等価的に、電流信号Iin#Aによる磁束Φin#A(=Min In#A)と電流信号Iin#Bによる磁束Φin#B(=Min In#B)が加算され、多重化された値Φs=Φin#A+Φin#Bをとる。SQUID10は電圧信号Vs(=VΦ(Φin#A+Φin#B))を出力する。ここで、VΦはSQUID10の磁束―電圧変換係数を表す。
【0028】
次に、駆動回路20により、SQUID10が磁束ロックループ駆動動作について説明する。SQUID10から出力される電圧信号Vsは増幅器12で増幅され、電圧信号Vaに変換される。電圧信号Vaは積分器13により積分され、出力電圧Voutに変換される。出力電圧Voutは電圧―電流変換器14で電流に変換され、帰還電流Ifとして2つの分割モジュレーションコイル41、42に印加される。そして、超伝導ループ内に帰還磁束Φf(=Mf If)が入力される。磁束ロックループ駆動時の駆動回路10は、超伝導ループ内の磁束Φs(=Φin#A+Φin#B+Φf)が常に一定となるように制御する。駆動回路20の出力電圧Voutは、帰還磁束Φfと電圧―電流変換器14の変換係数Zfを使ってVout=Zf Φf/Mfで表され、入力電流信号Iin#AとIin#Bを加算した値に比例した値を与える。
【0029】
本実施形態によれば、2つの信号源が発生する電流信号を1つのSQUIDで検出することができるため、配線数の少ない多重信号読み出し回路を提供できる。
【0030】
磁束ロックループ動作時は、両方の分割コイル21、22内の磁束は常に一定となる。その結果、図2から分かるとおり、入力電流Iin#Aが入力される分割入力コイル31A、32A、および入力電流Iin#Bが入力される分割入力コイル31B、32Bを貫く磁束も常に一定となるとなる。その結果、各チャンネル間のクロストークが軽減され、より高い精度で2つの信号を読み出すことが出来る。
【0031】
また、分割入力コイル31A、32A、31B、32Bを貫く磁束は変化しないため、信号入力用コイルの等価的なインダクタンスは0となる。その結果、本実施形態における多重信号読み出し回路は広帯域計測に有効である。特に、読み出し回路の感度を大きくするため、信号入力用コイルをスパイラル形状に巻かれた多数の巻き線で構成する手段が用いられる。その場合、周波数帯域に影響を与える自己インダクタンスが非常に大きくなる。本実施形態では、磁束ロックループ動作時の信号入力用コイルの帰還電流を考慮した等価的なインダクタンスを0にできるため、大きな感度による高精度計測と広帯域計測を両立させることができる。
【0032】
また、本実施形態のSQUIDの構造は一様な磁場を検出しない。信号入力端子から入力される電流信号による超伝導ループへの磁気結合のうち、分割コイル上での分割入力コイルと分割コイル間の磁気結合以外の磁気結合を軽減できるため、超伝導ループと信号入力用コイルとの相互インダクタンスを使って、入力電流信号を正確に測定することができる。
【0033】
また、本実施形態のSQUIDは超伝導ループを分割し、並列接続された構造をもつ。自己インダクタンスがLである分割コイルをm個並列接続した場合、超伝導ループ全体の自己インダクタンスはL/m2で表される。SQUIDのノイズは自己インダクタンスの0.5乗に比例するため、並列接続されたマルチループ構造にすることにより、ノイズを低減でき、信号を高い精度で読み出すことができる。
【0034】
また、本実施形態では、信号入力用コイルを分割し、それぞれの分割入力コイルを2つの分割コイルに磁気結合することにより、信号入力端子TA、TBを分割コイルごとに分けて設置している。その結果、図2に示すように、対称性の良い多入力信号検出用SQUIDを構成することができる。良好な対称性は、各チャンネルに印加される入力電流に対するSQUIDへの磁気結合を均一にすることが出来るため、測定精度を向上させることが出来る。特許文献2の図5に示されているSQUIDも、分割コイルごとに信号入力端子を配置しており、対称性の良い構造となっている。しかし、各チャンネルに対応する入力信号用コイルが個別の分割コイルごとに磁気結合され、かつ、モジュレーションコイルが全ての分割コイルに磁気結合されているため、駆動回路から供給される帰還電流を介してチャンネル間のクロストークが発生する。
【0035】
また、駆動回路はモジュレーションコイルを介して超伝導ループ全体に帰還磁束を帰還する。その超伝導ループ全体に帰還される帰還磁束は、信号入力用コイルに入力される電流信号によって1つの分割コイルに印加される磁束に等しい。そのため、入力磁束ロックループ動作時においても、入力電流の変化による信号入力用コイル内の磁束変化を0にはできず、入力信号用コイルの等価的なインダクタンスを0にすることは出来ない。
【0036】
一方、本実施形態では、配線数の軽減の他、均一な入力感度を与えるSQUIDの対称性の優れた素子構造と、測定精度向上に必要なチャンネル間のクロストーク軽減と、広帯域計測に要求される信号入力用コイルのインダクタンス軽減の全ての課題を解決することが出来る。
【0037】
図3に、図1の変形として、2つの分割コイルを直列接続した多重信号読み出し回路を示す。超伝導ループの自己インダクタンスが大きくなるため、図1の多重信号読み出し回路に比べ、ノイズは大きくなるが、配線数の減少、各チャンネル間のクロストークの減少、信号入力用コイルの等価的なインダクタンスの減少といった効果を有する。
【0038】
本実施形態では、信号入力用コイルの数は2つであったが、その数増やすことにより、さらに多くの信号を読み出すことができる。
【実施例2】
【0039】
図4に本発明の実施例1を示す多重信号読み出し回路の構成図を、また、図5に本実施形態に用いられるSQUIDの模式図を示す。図4は、2つの素子で発生する電流信号Iin#A、Iin#Bを読み出す回路である。図4には、電流信号Iin#A、Iin#Bを入力するための2つの信号入力端子TA、TBが設置されている。信号入力端子TA、TBには、信号入力用コイル3A、3Bが接続さている。
【0040】
SQUID10は、2つのジョセフソン接合1と2つに分割された分割コイル21、22からなる。分割コイル21、22は、鎖交する磁束に対して分割コイル中を流れる遮蔽電流の向きが互いに逆向きになるように並列接続されている。この構造により、SQUIDに一様磁場が加わったとき、超伝導ループ内の磁束は両方の分割コイル間でキャンセルされ、検出されない。2つのジョセフソン接合1と2つの分割コイル21、22によって1つの超伝導ループが構成されている。
【0041】
片方の分割コイル22のみに、信号入力端子TAに対応する信号入力用コイル3Aと、信号入力端子TBAに対応する信号入力用コイル3Bと、モジュレーションコイル4がそれぞれ相互インダクタンスMin、Min、Mfで磁気結合されている。
【0042】
駆動回路20は、SQUID用バイアス電流源11、増幅器12、積分器13、電圧―電流変換器14で構成される。駆動回路20は実施例1と同じ機能を有する。モジュレーションコイル4に信号が入力されていない状態では、SQUIDの超伝導ループ内の全磁束Φsは等価的に、電流信号Iin#Aによる磁束Φin#A(=Min In#A/2)と電流信号Iin#Bによる磁束Φin#B(=Min In#B/2)が加算され、多重化された値Φs=Φin#A+Φin#Bをとる。SQUID10は電圧信号Vs(=VΦ(Φin#A+Φin#B))を出力する。ここで、VΦはSQUID10の磁束―電圧変換係数を表す。Φin#AおよびΦin#Bが、Min In#AおよびMin In#Bの半分となる理由は、分割コイルが並列接続されており、かつ、入力コイルが片側の分割コイルのみに磁気結合されているからである。
【0043】
本実施形態では、入力電流信号に対する感度が実施例1に示した読み出し回路に比べ、半分となる。しかし、実施例1同様、配線数の少ない多重信号読み出し回路を提供できる。また、測定精度向上に必要なチャンネル間のクロストーク軽減と、広帯域計測に要求される信号入力用コイルのインダクタンス軽減といった課題を解決することが出来る。
【0044】
図6に、図4の変形として、2つの分割コイル21、22を直列接続した多重信号読み出し回路を示す。超伝導ループの自己インダクタンスは大きくなるため、図4の多重信号読み出し回路に比べ、ノイズは大きくなるが、配線数の減少、各チャンネル間のクロストークの減少、信号入力用コイルの等価的なインダクタンスの減少といった効果を有する。
【0045】
本実施形態では、信号入力用コイルの数は2つであったが、その数増やすことにより、さらに多くの信号を読み出すことができる。
【実施例3】
【0046】
図7は本発明の実施例3を示す多入力信号読み出し回路の構成図である。
【0047】
図7においては、受動素子としてのマイクロカロリメータ5が2個用いられる。また、マイクロカロリメータ5には信号加算として機能するSQUID10が接続されており、マイクロカロリメータ5からの出力電流信号Iin#AおよびIin#Bが加算されて、1つの加算信号が得られるように構成されている。SQUID10の加算信号Vsは駆動回路20で処理され、電流信号Iin#AおよびIin#Bに応じた出力電圧Voutが出力される。
【0048】
2つのカロリメータ5には、交流バイアス電源15からそれぞれ異なる周波数Vac#A、Vac#Bの交流バイアスが印加される。これによって、各マイクロカロリメータ5は動作状態となり、例えばX線などの外部情報を受像した場合において、この外部情報に基づいた各マイクロカロリメータ5からの情報信号がキャリアとしての交流バイアスに重畳され、その結果、各マイクロメータ5から所定の周波数を伴った出力信号が発せられる。
【0049】
各マイクロカロリメータ5からの出力信号は、SQUID10によって加算され、その結果、周波数空間で多重化された加算信号を得ることができる。すなわち、各マイクロカロリメータ毎の配線を必要とすることなく、各行毎に配置された複数のマイクロカロリメータ5からの信号を、周波数空間で多重化された加算信号として1つの信号線で取り出し、読み出すことができる。
【0050】
周波数区間で多重化された出力電圧Voutは演算処理回路16に送られ、キャリア信号の周波数Vac#A、Vac#Bを用いて、各マイクロカロリメータのもつ個別の信号に識別される。
【0051】
したがって、本発明の複数素子からの同時信号読み出し方法は、多数の配線を設けることが困難な、マイクロカロリメータを用いた撮像素子などに好適に用いることができる。
【0052】
なお、素子群5に印加する交流バイアスの周波数は、マイクロカロリメータの信号帯域(通常は10kHz)に比べて十分に大きくし、かつ各周波数の間隔も信号帯域よりも十分に大きくする。
【0053】
また、上記においては受動素子としてマイクロカロリメータを用いた場合を示しているが、このようなマイクロカロリメータの代わりに、バイアス電流/電圧を印加し、電圧あるいは電流を読み出すような受動素子に用いることが可能である。例えば、サーミスタや半導体温度計などの受動素子に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施例1に係る多重信号読み出し回路の構成図である。
【図2】本発明の実施例1に用いられる超伝導量子干渉素子の模式図である。
【図3】図1の変形であって、分割コイルが直列接続された多重信号読み出し回路の構成図である。
【図4】本発明の実施例2に係る多重信号読み出し回路の構成図である。
【図5】本発明の実施例2に用いられる超伝導量子干渉素子の模式図である。
【図6】図4の変形であって、分割コイルが直列接続された多重信号読み出し回路の構成図である。
【図7】本発明の実施例3に係る多重信号読み出し回路の構成図である。
【符号の説明】
【0055】
1 ジョセフソン接合
21、22 分割コイル(分割SQUIDインダクタンス)
3A、3B 信号入力用コイル
4 モジュレーションコイル
5 マイクロカロリメータ
10 超伝導量子干渉素子(SQUID)
11 SQUID用バイアス電流源
12 増幅器
13 積分器
14 電圧―電流変換器
15 交流バイアス電流源
16 演算処理回路
20 駆動回路
31A、31B、32A、32B 分割入力コイル
41、42 分割モジュレーションコイル
TA、TB 信号入力端子
TM モジュレーションコイル用入力端子
TS SQUIDバイアス電流および電圧モニタ端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の信号源から発せられる複数の電流信号を入力するための複数の信号入力用コイルと、
2つのジョセフソン接合を含む超伝導ループと、
前記超伝導ループのインダクタンスと、前記複数の信号入力用コイルとモジュレーションコイルが磁気結合された超伝導量子干渉素子と、
前記超伝導量子干渉素子に電力を供給し、前記モジュレーションコイルに帰還電流を帰還することで前記電流信号に対して線形化された出力電圧を得るための駆動回路と、
を有し、
前記超伝導ループのインダクタンスが、同一形状をもつ複数の分割コイルに分割され、前記分割コイルを並列または直列接続することにより構成されており、
前記信号入力用コイルが、前記分割コイルと同じ数の分割入力コイルに分割され、前記分割入力コイルを並列または直列接続することにより構成されており、
前記モジュレーションコイルが、前記分割コイルと同じ数の分割モジュレーションコイルに分割され、前記分割モジュレーションコイルを並列または直列接続することにより構成されている多入力信号読み出し回路。
【請求項2】
前記分割コイルが、鎖交する磁束に対して分割コイル中を流れる遮蔽電流の向きが互いに逆向きになるように並列または直列接続されている請求項1に記載の多入力信号読み出し回路。
【請求項3】
複数の信号源から発せられる複数の電流信号を入力するための複数の信号入力用コイルと、
2つのジョセフソン接合を含む超伝導ループループと、
前記超伝導ループのインダクタンスと、前記複数の信号入力用コイルとモジュレーションコイルが磁気結合された超伝導量子干渉素子と、
前記超伝導量子干渉素子に電力を供給し、前記モジュレーションコイルに帰還電流を帰還することで前記電流信号に対して線形化された出力電圧を得るための駆動回路と、
を有し、
前記超伝導ループのインダクタンが、同一形状をもつ複数の分割コイルに分割され、前記分割コイルを並列または直列接続することにより構成されており、
前記信号入力用コイルが、前記分割コイルの数以下の分割入力コイルに分割され、前記分割入力コイルを並列または直列接続することにより構成されており、
前記モジュレーションコイルが、前記分割コイルの数以下の分割モジュレーションコイルに分割され、前記分割モジュレーションコイルを並列または直列接続することにより構成されている多入力信号読み出し回路。
【請求項4】
前記分割コイルが、鎖交する磁束に対して分割コイル中を流れる遮蔽電流の向きが互いに逆向きになるように並列または直列接続されている請求項3に記載の多入力信号読み出し回路。
【請求項5】
複数の信号源から発せられる複数の電流信号を入力するための複数の信号入力用コイルと、
2つのジョセフソン接合を含む超伝導ループと、
前記超伝導ループのインダクタンスと前記複数の信号入力用コイルとモジュレーションコイルが磁気結合された超伝導量子干渉素子と、
前記超伝導量子干渉素子に電力を供給し、前記モジュレーションコイルに帰還電流を帰還することで前記電流信号に対して線形化された出力電圧を得るための駆動回路と、
を有し、
前記超伝導ループのインダクタンスが、同一形状をもつ複数の分割コイルに分割され、
前記分割コイルを並列または直列接続することにより構成されており、
前記複数の信号入力用コイルおよび前記モジュレーションコイルの両方が、前記分割コイルの一つに磁気結合されている多入力信号読み出し回路。
【請求項6】
前記分割コイルが、鎖交する磁束に対して分割コイル中を流れる遮蔽電流の向きが互いに逆向きになるように並列または直列接続されている請求項5に記載の多入力信号読み出し回路。
【請求項7】
複数の信号源に対してそれぞれ異なる周波数の交流バイアスで駆動するための交流バイアス電源と、前記駆動回路の出力電圧を前記交流バイアスの周波数を参照信号として前記信号入力用コイルに入力された電流信号に対応する電圧信号に分別する機能を有する演算処理回路を備えている請求項1から6のいずれか一項に記載の多入力信号読み出し回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−194292(P2007−194292A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9152(P2006−9152)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】