説明

多重型培養容器および培養方法

【課題】
本発明は、医薬品、化粧品の薬効試験、安全性試験を研究するための有用な細胞培養容器に関する。
【解決手段】
組織または細胞を培養するための培養容器であって、井戸状形状を持つ第1容器と、該第1容器に装着させることの可能な細胞親和性の高い第2容器からなる。該第2容器底面は、液性因子透過が可能であり、増殖因子徐放担体との併用培養、2種類以上の細胞の共培養、および細胞を用いた物質透過性試験等に用いることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織または細胞を生体外で培養する培養容器に関する。
【背景技術】
【0002】
組織または細胞を生体外で培養する代表的な方法は、ガラスまたはプラスチックのシャーレ、プレート又はフラスコの底面に組織、細胞を接着させ、上方に組織または細胞生存に必要な栄養素を含む培養液に浸す方法である。この方法では、組織または細胞の栄養補給、老廃物の排出が、細胞上面、1箇所でのみ行われることとなる。
本来、生体内では細胞は頂点側と基底部側の極性を持ち、各々の側で各々の機能を果たしている場合が多い。例えば、上皮系細胞であれば、基底部側で結合組織と結合し強度を保つとともに液性因子などの栄養補給し、反対側の頂点側から分泌性タンパク質を分泌したり、柔毛突起構造を構成したりなどしている。
【0003】
こうした細胞機能を観察する目的で、特許文献1においては、透析膜上に細胞を培養し、その透析膜上で細胞を培養することが示されている。こうすることで、培養細胞の、上下の極性を生みだすことができた。これより生体に近い培養環境を構築することが可能となる。
【0004】
さらに、特許文献2においては、多種類の細胞を、細胞同士を直接接触させることなくその相互作用を研究するために、底部にメンブレンフィルターを持つ培養容器、下部培養容器および培養プレートから構成される培養容器が記載されている。これによりメンブレンフィルターで区画された各々に細胞を培養し、その液性因子のやり取りによる細胞機能を観察することが可能となった。
【0005】
また、特許文献3においては、ウェルインサート部の培養面を取り外し可能とすることことが記載されており、さらに独立した二膜を用いた三室構造を取り得ることも記載されている。
しかしながら、従来のものは、細胞培養に供する透析膜部分は、物質透過の性能を主として開発されているため、多孔質不活性フィルムなどが記載されており、セルロースエステルフィルムや親水性フッ化ビニリデンフィルムが良く使用されている。
【0006】
上記のように、細胞極性を活かした、または異種細胞を接触させることなく同一培養中でその相互作用を見るための方法が確立されたかに見えるが、せっかく細胞極性を生かした培養システムであるにもかかわらず、培養基材そのものが、細胞の機能性維持のための構造体でないことから、接着伸展した細胞が本来の形状に程遠く、その細胞本来の特性も、培養機能も十分活かすことができなかった。
【0007】
また、細胞を培養する際に、増殖因子を持続的に供給するための徐放担体を一緒に培養系に入れる場合があるが、この場合、培養面に細胞と徐放担体が共存すると、徐放担体に培養スペースが奪われ培養可能細胞数が減る、また、徐放担体により細胞形態観察が困難である、などの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平2−36226号公報
【特許文献2】特許第2772656号公報
【特許文献3】特許第3081241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、1ウェルで2種類以上の細胞、または細胞と増殖因子徐放担体を同時培養するにあたり、細胞親和性に富んだ培養環境を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的は、下記(1)〜(18)に記載の本発明により達成される。
(1)生体材料を培養するのに用いる培養容器であって、
側壁および底部を有し、一端側が開口している第1容器と、
前記第1容器内に配置され、側壁および底部を有する第2容器とを有し、
前記第2容器が、該第2容器の側壁の底部と反対側の部位に、前記第1容器の側壁に係止可能な係止部を有し、
前記係止部により前記第2容器との底部と前記第1容器の底部とが一定距離を保ち離隔され配置されることを特徴とする培養容器。
(2)前記係止部は、前記第2容器の側壁の底部と反対側の部位に設けられた拡径部である(1)に記載の培養容器。
(3)前記係止部は、前記第2容器の側壁の底部と反対側の部位に設けられた突起部である(1)に記載の培養容器。
(4)前記離隔距離が、10mm以下である(1)ないし(3)のいずれかに記載の培養容器。
(5)前記第2容器の底部には、フィルム状のフィルター部が設けられているものである(1)ないし(3)のいずれかに記載の培養容器。
(6)前記フィルター部の孔径が、0.2〜5μmである(1)ないし(5)のいずれかに記載の培養容器。
(7)前記フィルター部は、その少なくとも片面に接着処理を施したものである(1)〜(6)いずれかに記載の培養容器。
(8)前記細胞接着処理が、細胞外マトリックスまたは細胞接着関連ププチドを表面に塗布、固定したものである(7)に記載の培養容器。
(9)前記フィルター部が、細胞外マトリックスをゲル状またはフィルム状にしたものであることを特徴とする(8)に記載の培養容器。
(10)前記細胞接着処理が、細胞外マトリックスをフィルター表面にゲル状またはフィルム状に固定化することを特徴とする(8)に記載の培養容器。
(11)前記第2容器が、容器本体、フィルターおよびフィルター保持具で構成されているものである(5)ないし(10)のいずれかに記載の培養容器。
(12)前記第2容器が、タンパク質の非特異吸着を抑制する表面親水化処理がされたものである(1)〜(11)のいずれかに記載の培養容器。
(13)前記第1容器が、プラスチック樹脂で成形されたものである(1)記載の培養容器。
(14)(1)ないし(13)のいずれかに記載の培養容器を用いた培養方法であって、
前記第1容器内側底面に増殖因子徐放担体を固定し、前記第2容器フィルター上部に細胞を培養し、
第1容器に第2容器を係止して、第2容器との底部と第1容器の底部とを離隔させて培養することを特徴とする機能細胞培養方法。
(15)前記細胞が、機能細胞単独および機能細胞と結合組織細胞との組み合わせの少なくとも一方である(14)記載の細胞培養方法。
(16)(1)ないし(13)のいずれかに記載の培養容器を用いた培養方法であって、
前記第1容器に結合組織細胞を、前記第2容器に機能細胞を培養し、
第1容器に第2容器を係止して、共培養することを特徴とする機能細胞培養方法。
(17)前記結合組織細胞が、線維芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、マクロファージ、象牙芽細胞、間質細胞から選ばれる1種類以上の細胞である(16)記載の培養方法。
(18)前記機能細胞が、上皮系細胞、表皮系細胞、血管内皮細胞、神経細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞から選ばれる1種類以上の細胞である(16)または(17)に記載の培養方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、、細胞と増殖因子徐放担体を同時培養、または1ウェルで2種類以上の細胞を培養するにあたり、細胞親和性に富んだ培養環境を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1容器に装着した第2容器の断面形状
【図2】第2容器形状
【図3】第2容器分解図
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、図1に示すように、組織または細胞を培養するための第1容器11と、該培養器に装着させることの可能な第2容器10からなる。
【0014】
本発明における第2容器10は、図1に示す形状で、内部に細胞を培養し、下部からの栄養補給に対応するためのものである。また、増殖因子等の徐放担体を収め、さらに培養に供した際に培養液中に増殖因子を徐放し、液中拡散により細胞に因子を供給するためのものである。そのためには、徐放される増殖因子等の因子が第2容器10より第1容器11へ、または第1容器11から第2容器内へ拡散により移動することが必要である。
【0015】
第2容器10は、第1容器11に装着して使用するが、その際に、第2容器10が第1容器内面、特に底部の培養面に接触すると、その接触により、下部底面の培養面上に接着し培養している組織または細胞に接触することになり、それにより組織または細胞の剥離を生じる事となる。それを防ぐために、第2容器10は第1容器底部から浮かした状態で保持することが必要となり、そのための第2容器10を係止することが必要である。
また、第2容器下部に突起を設けそれを脚として第1容器内に自立させることも可能であるが、この場合は、前述のように、脚の接地箇所において組織および細胞の剥離を少量ながらも発生させるのでできれば避けるべきである。
最も簡単で効果的な係止方法は、第2容器上部に突起となるような係止部を設け、それにより第1容器11の上端に引っ掛けて保持することである(図1)。係止部は、第2容器外側に円周状に張り出した拡径部16を持つものでもも良いし(図2)、第2容器側壁から外側に飛び出した突起部17を持つものでも良い(図2)。
拡径部16の直径は、第1容器11に係止するためには、第1容器11の直径より大きくなければならない。
また、突起部17の形状は図2B−1の形状に限定されるものではなく、第2容器10が第1容器に係止できるものであればどのような形でも良い。
突起部17の数は、図2B−2に4個を示しているが、第2容器が確実に保持できれば良く、2〜8個、好ましくは3〜6個、より好ましくは3〜4個である。
【0016】
第2容器底面部の細胞の有無を問わず、第2容器底面部は培養液中に存在する必要がある。従って、第2容器底面位置が第1容器内側底部に対して高すぎると、その分だけ培養液が必要になり、必要以上に培養液を要し、その分のロスを生じることとなる。それだけでなく細胞と培養液表面との距離があると、培養液の表面を介した酸素の供給に不利であり細胞が窒息する可能性もある。特に、初代細胞培養においては、酸素要求特性の高い細胞が多いため、培養液/気相界面と細胞との距離があると細胞が酸素不足に陥りやすく、細胞機能の発現、分化において支障をきたすことは明白である。従って、前述の第1容器11と第2容器10の最下部の間を規定する必要がある。
従って、係止された第2容器10の最下部と、第1容器11の内側底部最上部との距離は10mm以下が好ましく、より好ましくは5mm以下である。この距離は、第1容器11に細胞を接着培養した際に細胞を安定して培養するために必要考えられる距離である。
【0017】
第2容器の備えるフィルター13は、物質を透過するものであることが必要な条件であるが、該フィルター上で細胞を培養するためにフィルター13に細胞培養用の処理をするか、細胞培養に適した素材で構成することが本発明にとっての肝要部分である。
まず、第一にフィルター13に細胞培養に適した表面処理することが考えられる。
フィルター13の素材としては特に限定するものではないが、通常良く用いられる多孔性フィルムや、不織布などがあげられる。
材質としては、セルロースエステルフィルムや親水性フッ化ビニリデンフィルムなどがあげられる。
前記の素材のフィルター13に細胞培養用の処理をする必要がある。一般的に細胞培養用の処理は基材表面が親水性になるように処理をするが、もっとも一般的な方法は、低温プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線照射処理、放射線照射処理などにより、基材表面を酸化させることである。株化細胞など接着性の高い細胞ではこの方法でもある程度の効果が得られる。
さらに細胞との親和性を高めるには、上記処理だけでは十分でなく、細胞に対して親和性の高い細胞外マトリックスを基材表面に固定化することで細胞との親和性を高める方法を取ることができる。使用する細胞外マトリックスには、1型コラーゲン、4型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、フィブリン等が使用できる。
【0018】
基材表面への細胞外マトリックスの固定方法は、フィルター13を細胞外マトリックス溶液に浸漬させてコーティングする方法が最も簡便である。
例えば、1型コラーゲンの3%溶液(pH3塩酸酸性溶液)をリン酸緩衝液(PBS)(pH7.4)で10〜100倍希釈した溶液を準備し、そのコラーゲン希釈溶液にフィルターを1〜4時間浸漬し、その後、PBSで3回洗浄し、基材表面をコラーゲンコーティングができる。
また、100〜1000倍希釈したコラーゲン溶液にフィルターを浸漬した後、水分を蒸発させ、十分に乾燥させた後(乾燥時間:1時間〜一晩)にPBSに短時間浸漬して洗浄する方法でコーティングできる。
4型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン等も同じ方法でコーティングすることが可能である。
【0019】
また、基材表面に水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基やアミノ基官能基を導入し架橋剤を用いて共有結合によって細胞外マトリックスを固定化する方法が使用できる。
例えば、低温酸素プラズマ処理により基材表面にカルボキシル基を導入、水溶性カルボジイミドやヒドロキシスクシンイミド等の活性エステル剤、グルタルアルデヒドなどの二官能性カップリング剤を用いて細胞外マトリックスを共有結合にて基材表面に固定化することが可能である。
【0020】
また、細胞外マトリックスそのものでなく、細胞外マトリックス中の細胞との相互作用部分のペプチド分子を使用することもできる。例えば細胞接着に関連するRGDSペプチドや該ペプチドを含有するペプチド分子を、前述の共有結合方法で基材表面に固定化することが可能である。
また、細胞接着にかかわるペプチドを側鎖に有する水溶性ポリマーを基材にコーティングすることも可能である。
【0021】
より細胞との親和性を高める方法としては、フィルター13上に細胞外マトリックスの層を構築する方法がある。具体的には、細胞培養に適した素材で透過膜フィルムを形成することである。
フィルムの形成させるための材質としては、先にも示したように細胞外マトリックス成分が好適である。例えば細胞外マトリックスでゲルを作製し、そのまま蒸発乾固させキャスティングによるフィルムを作製することが可能である。
この場合、フィルムに強度を持たせるために、フィルムの中に強度補強ためのメッシュ構造体を入れてもよい。中に入れるメッシュ構造体のものは特に限定するものではないが、例えば、繊維を格子状に編んだものや、格子状のプラスチック成形品を使用することができる。
また、市販のコラーゲン膜やビトリゲル膜を使用することも可能である。この際に、コラーゲン膜、ビトリゲル膜下にメッシュ構造体を補強のために配位してもよい。
【0022】
フィルターを第2容器に保持する方法としては、一般的には第2容器底面に熱や超音波振動による溶着、有機溶媒等の各種溶剤を用いた固着など種々の方法が考えられる。これらの方法は、フィルター基材がプラスチック製のもので有効な手段である。通常、物の接着では、接着剤を用いる場合が多く、本構造体においても使用可能であるが、本発明の培養容器の使用目的が細胞培養であるので、極力、接着剤や有機溶剤等の使用は避けることが望ましい。
また、細胞外マトリックスを主成分とするフィルターでは同じ細胞外マトリックスを接着剤として用いることができる。例えば、ゼラチンや1型コラーゲンなどが好適に用いることができる。
本発明においては、図3に示すように第2容器本体12にフィルター13をセットした後、フィルター保持具14をはめ込むことによりフィルターを保持可能とした。また第2容器本体の側壁内側にフィルター保持具の高さに相当する箇所にリブ15を立てておくとフィルター保持具を第2容器本体12にはめ込んだ際にリブ15がストッパーとなりフィルター保持具14、ならびにフィルター13が外れなくするようにしても良い。
また、第2容器本体12とフィルター13、フィルター保持具14を熱溶着や、有機溶剤または接着剤を用いて接着して固定化することも可能である。
【0023】
第2容器本体12、フィルター保持具14の材質は、特に限定するものではないが、培養液中に浸漬しておくことになるので、溶出物が少ないものが好ましい。また、形状に関しては、加工性の高いものが使いやすく、その点で最も優れているのはプラスチックである。使用するプラスチックには、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂または環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等のメタクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル系樹脂、プロピオネート樹脂等の繊維素系樹脂等が挙げられる。
【0024】
これらのプラスチックを求める形状にするには射出成形や、ブロー成形を用いることができる。また、プラスチック樹脂を切削加工して成形することも可能である。
また、第2容器10は、培養液中に浸漬しておくので蛋白質などの吸着性が低いものが良いが、ポリエチレングリコールやホスホリルコリン基を有する親水性ポリマーを容器に塗布することによよって基材の親水性化し、積極的な吸着抑制処理を行うことが好ましい。
吸着抑制処理としては、特に限定するものではなく、基材表面の親水性処理や疎水性処理が利用できるが、特に親水性処理が好ましい。
【0025】
例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン−ブチルメタクリレートからなるMPCポリマーのエタノール溶液を調製し、その溶液でコーティングする方法がある。この方法による表面処理方法が、最も簡便で効果が高い。
その他の方法としては、ポリ−2−ヒドロシキエチルメタクリレート(HEMA)のエタノール溶液を用いた浸漬によるコーティングが簡単である。ポリ−HEMAの2%エタノール溶液を調製し、基材を浸漬した後、引き上げて風乾しポリ−HEMAコーティングすることができる。
【0026】
本発明の第1容器11の形態としては、例えば、マルチウェルプレートおよびシャーレ(ディッシュ)等の容器類が挙げられる。これらの中でも、細胞形態観察や機能測定においてある程度の細胞数を確保し、測定のn数も併せて確保することが可能な6〜96穴のマルチウェルプレートの形状が好ましく、特に好ましくは24〜96穴のマルチウェルプレートである。これにより、一般的な培養装置や測定装置の使用が可能となり、研究の効率、精度を向上させることができる。
【0027】
また、通常培養容器は、培養器内面を落下生菌などから保護するためにカバーを付けているが、本発明においても、同様のカバーは必要である。カバーに関しては特に形状、材質を限定するものではないが、第1容器本体との間にガス交換が可能な空間を有し、かつ、培養液の蒸発を極力押さえるように設計することが通常である。
【0028】
本発明の第1容器およびカバーは、樹脂製の材料で成形することができる。この樹脂材料は、上記培養容器をディスポーザルタイプにすることができるのに加え、種々の形状を容易に成形することができる。
また、培養中の組織、細胞を観察する必要もあるので、透明樹脂で成形することが好ましい。
【0029】
培養容器の必須条件である滅菌に関しては、例えば、エチレンオキサイドガス滅菌、感熱滅菌、蒸気滅菌、放射線滅菌等が挙げられるが、γ線あるいは電子線を用いた放射線滅菌が好ましく、大量生産を行う場合は放射線透過性の点でγ線滅菌が特に好ましい。
放射線の吸収線量については特に限定するものではないが、吸収線量が低すぎると滅菌性は確保されず、高すぎると細胞培養容器が劣化してしまう場合がある。
【0030】
培養容器の使用方法としては、以下の方法がある。
(1)前期第1容器に増殖因子徐放担体を固定し、前記第2容器に細胞を培養し、第1容器に第2容器を係止して、培養する。
(2)前期第1容器に結合組織細胞を、前記第2容器に機能細胞を培養し、第1容器に第2容器を係止して、共培養する。
【0031】
前記(1)の方法で、増殖因子徐放担体を用いた培養において、増殖因子徐放担体の固定化容器と細胞培養の容器を分けて培養する方法であり、第1容器に増殖因子徐放化担体を固定し、第2容器に細胞を培養する方法である。
第2容器に細胞を培養する理由として、該細胞が、上皮細胞、表皮細胞、神経細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞からなる機能細胞の場合、容器側である基底部と培養液側である頭頂部で細胞極性を持こととなり、基底部側からの栄養補給が細胞本来の形態であるので、好ましい培養方法となり、培養表面の細胞親和性と相まって、機能細胞がより生体に近い機能を発揮できることとなる。
【0032】
増殖因子徐放担体は、特に限定するものではなく、市販の生体吸収性ゼラチンスキャホールドMedGel(株式会社メドジェル製)を使用しても良いし、コラーゲン、ゼラチン、寒天、アルギン酸でゲルを作製する際に増殖因子を含有する溶液でもってゲル内に増殖因子を封入して担体を自作することも可能である。
【0033】
前記(2)の方法は、従前の2種類以上の細胞の混合培養であるが、前期と同様に、機能細胞の培養には、第2容器を用いることが好ましく、また、第2容器フィルター部分の細胞親和性を高めているので、より高度な細胞機能の発現が可能である。
特に、腸管上皮細胞を用いた物質透過性試験や、表皮細胞を用いた皮膚浸透性試験においては、(2)の培養方法でないと本来の機能を測定することができない。
【符号の説明】
【0034】
10 第2容器
11 第1容器
12 第2容器本体
13 フィルター
14 フィルター保持具
15 リブ
16 係止部(拡径部)
17 係止部(突起部)
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、本発明は、医薬品、化粧品の薬効試験、安全性試験を研究するための有用な細胞培養容器を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体材料を培養するのに用いる培養容器であって、
側壁および底部を有し、一端側が開口している第1容器と、
前記第1容器内に配置され、側壁および底部を有する第2容器とを有し、
前記第2容器が、該第2容器の側壁の底部と反対側の部位に、前記第1容器の側壁に係止可能な係止部を有し、
前記係止部により前記第2容器との底部と前記第1容器の底部とが一定距離を保ち離隔され配置されることを特徴とする培養容器。
【請求項2】
前記係止部は、前記第2容器の側壁の底部と反対側の部位に設けられた拡径部である請求項1に記載の培養容器。
【請求項3】
前記係止部は、前記第2容器の側壁の底部と反対側の部位に設けられた突起部である請求項1に記載の培養容器。
【請求項4】
前記離隔距離が、10mm以下である請求項1ないし3のいずれかに記載の培養容器。
【請求項5】
前記第2容器の底部には、フィルム状のフィルター部が設けられているものである請求項1ないし3のいずれかに記載の培養容器。
【請求項6】
前記フィルター部の孔径が、0.2〜5μmである請求項1ないし5のいずれかに記載の培養容器。
【請求項7】
前記フィルター部は、その少なくとも片面に接着処理を施したものである請求項1〜6いずれかに記載の培養容器。
【請求項8】
前記細胞接着処理が、細胞外マトリックスまたは細胞接着関連ププチドを表面に塗布、固定したものである請求項7に記載の培養容器。
【請求項9】
前記フィルター部が、細胞外マトリックスをゲル状またはフィルム状にしたものであることを特徴とする請求項8に記載の培養容器。
【請求項10】
前記細胞接着処理が、細胞外マトリックスをフィルター表面にゲル状またはフィルム状に固定化することを特徴とする請求項8に記載の培養容器。
【請求項11】
前記第2容器が、容器本体、フィルターおよびフィルター保持具で構成されているものである請求項5ないし10のいずれかに記載の培養容器。
【請求項12】
前記第2容器が、タンパク質の非特異吸着を抑制する表面親水化処理がされたものである請求項1〜11のいずれかに記載の培養容器。
【請求項13】
前記第1容器が、プラスチック樹脂で成形されたものである請求項1記載の培養容器。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の培養容器を用いた培養方法であって、
前記第1容器内側底面に増殖因子徐放担体を固定し、前記第2容器フィルター上部に細胞を培養し、
第1容器に第2容器を係止して、第2容器との底部と第1容器の底部とを離隔させて培養することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項15】
前記細胞が、機能細胞単独および機能細胞と結合組織細胞との組み合わせの少なくとも一方である請求項14記載の細胞培養方法。
【請求項16】
請求項1ないし13のいずれかに記載の培養容器を用いた培養方法であって、
前記第1容器に結合組織細胞を、前記第2容器に機能細胞を培養し、
第1容器に第2容器を係止して、第2容器との底部と第1容器の底部とを離隔させて、共培養することを特徴とする細胞培養方法。
【請求項17】
前記結合組織細胞が、線維芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、マクロファージ、象牙芽細胞、間質細胞から選ばれる1種類以上の細胞である請求項16記載の細胞培養方法。
【請求項18】
前記機能細胞が、上皮系細胞、表皮系細胞、血管内皮細胞、神経細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、造血幹細胞から選ばれる1種類以上の細胞である請求項16または17に記載の細胞培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−120504(P2011−120504A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279537(P2009−279537)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】