説明

多重通信装置および多重通信方法

【課題】専用メッセージボックスにおいて固着が発生した場合においても、ロバスト性、または高速性に問題が発生しない多重通信装置および通信制御方法を提供する。
【解決手段】CANプロトコルを用いたLANに接続され表示部D1、D2に情報表示を行わせる電子制御装置1内において、1フレーム毎の通信内容となるメッセージを収容する複数の専用メッセージボックスch1、ch2、ch3と、複数の専用メッセージボックスの代替手段となる複数の空きのメッセージボックスと、通信の前段階で前記専用メッセージボックスの固着チェックを行う手段と、専用メッセージボックスが固着すると、空きのメッセージボックスを、ディスエーブル(D)からイネーブル(E)に書き換え、固着した専用メッセージボックスの代替のメッセージボックスとする手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重通信においてフレーム毎に分割された通信の内容(メッセージ)のデータが収容されるメッセージボックスがハード故障により固着した場合でも、正確な通信が実現される多重通信装置および多重通信方法に関するものである。特に、車両内において車両の状態を運転者に表示する計器を含む車両用情報提供装置に適用する多重通信装置および多重通信方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、自動車用のCAN通信において、以下の技術が実施されている。CANマクロ内のメッセージの送信、受信にメッセージボックスが使用される。このメッセージボックスは、レジスタからなり、01の集合からなる情報が格納される。
【0003】
ところが、書き込んだデータを読み出すと、1のはずが0に読み出されるとか、0のはずが1に読み出されるという固着(信号レベルが固まってしまう故障)が発生することがある。
【0004】
従って、一般には、ハード不良により固着したかどうかを、メッセージ通信開始前にチェックしている。そして、固着が発生した場合は、異常データを送受信しないためのフェールセーフ制御として、該当のメッセージボックスを使用しない。もしくは、CAN通信そのものの機能を停止するなどの制御を実施している。
【0005】
例えば、特許文献1においては、受信側のECU(電子制御ユニット)では、通信コントローラが多重通信バスからデータを受信し、受信した1パケット毎のデータを、CRCチェックコードやサムチェックデータ等によって伝送上の異常がないか否かをチェックしている。そして、正常な通信で伝送上の誤りが無ければ、通信コントローラ内の受信用データメモリに格納し、異常であれば、再度、送信を要求する等の処理を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3639455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような対応を行うと、通信そのものが実施できなくなるとか通信処理が遅れる等、ロバスト性、または高速性が不十分であるとの問題が生じる点に、発明者は着目した。また、固着が発生している状況において、再送信を要求しても、事態が改善しないこともある。
【0008】
特に、車両内において車両の状態を運転者に表示する速度計や、重要故障や警告事項を表示するインジケータを含む車両用情報提供装置においては、このような通信不能や遅延が生じることは好ましくない。
【0009】
車速計、燃料計、エンジン水温計、燃料残量警告灯、シートベルト警告灯、半ドア警告灯、エンジン警告灯、充電警告灯、油圧警告灯、ブレーキ警告灯、SRSエアバック/プリテンショナー警告灯、ABS&ブレーキアシスト警告灯等からなるインジケータ表示は、正確で高速な情報を運転者に提供することが望まれる。
【0010】
例えば、車速計が動かなくなるとか、危険状態を表示するインジケータが即座に表示できない状況は、回避することが好ましい。このような場合は、上記従来の制御では、例えばインジケータの場合は、アクティブ側に表示され、フェールセーフの考え方が適用される。しかし、危険でもないのに、インジケータがアクティブ側に危険表示するのは、実際は好ましいことではない。
【0011】
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的は、送信されてきたデータを収容するメッセージボックスにおいて、データの固着が発生した場合においても、通信そのものが実施できなくなるとか通信処理が遅れる等のロバスト性の問題、または高速性の問題が発生しない多重通信装置および多重通信方法を提供することにある。
【0012】
従来技術として列挙された特許文献の記載内容は、この明細書に記載された技術的要素の説明として、参照によって導入ないし援用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用する。すなわち、請求項1に記載の発明では、フレーム毎に受信する内容を分割して多重通信する多重通信ラインと、該多重通信ラインに接続された機器の状態を表示する情報提供装置に情報表示を行わせ、多重通信ラインに接続される電子制御装置とを備え、電子制御装置は、送信側から受信側に向かう通信の内容となるフレーム毎の複数のメッセージがそれぞれ割り当てられ、該割り当てられたメッセージのデータを収容する複数のレジスタからなる専用メッセージボックスと、フレーム毎の通信の内容となるメッセージが割り当てられていないレジスタからなる空のメッセージボックスと、通信を行う前に専用メッセージボックスに収容されるデータが固着しないかどうかの固着チェックを行う固着チェック手段と、固着チェック手段による固着チェックの結果、専用メッセージボックス内のデータが固着すると判定すると、空きのメッセージボックスを、データが固着する専用メッセージボックスの代替メッセージボックスとして設定する設定手段とを有することを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、メッセージボックスにおけるデータの固着が発生しても、フレーム毎の通信の内容となるメッセージが割り当てられていない空のメッセージボックスを、データが固着した専用メッセージボックスの代替メッセージボックスとして設定するから、通信が遮断されたり、受信誤りが発生したりすることが無いため、確実に情報の受信がなされる多重通信装置を得ることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明では、電子制御装置において、複数のメッセージのうち、それぞれ異なる専用メッセージボックスが割り当てられた第1メッセージと第2メッセージとは、送信側と受信側とで同期が取れていない非同期のタイミングで受信されることを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、第1メッセージと第2メッセージとは、非同期のタイミングで受信される、従って、受信時の第1メッセージと次に来る第1メッセージの間、第2メッセージと次に来る第2メッセージの間には充分な時間が設定できても、第1メッセージと第2メッセージの間の時間は、ほとんど0秒に近い場合がある。しかし、この発明の受信においては、1フレームの第1メッセージと、1フレームの第2メッセージとで異なるメッセージボックスを割り当てているため、第1メッセージと第2メッセージの間の時間は、ほとんど0秒に近い場合があっても、それぞれの異なるメッセージボックスにおいて、高速でのメッセージのデータの収容が可能である。
【0017】
請求項3に記載の発明では、電子制御装置は、情報提供装置をなす車両用情報提供装置を制御するメータ用電子制御ユニットからなり、車両内の機器の操作情報および機器の作動情報を含む車両の状況を車両内において車両用情報提供装置に表示させることを特徴としている。
【0018】
この発明によれば、電子制御装置は、車両用情報提供装置を制御するメータ用電子制御ユニット(メータ用ECU)であるため、次の効果が得られる。メータ用ECUは、高級なマイクロコンピュータを使用していない割に、車両内に分散された多くの機器からの通信処理を高速で実行しなければならない。しかし、この発明によれば、1フレームのメッセージに1つのメッセージボックスが割り当てられ、かつ、データの固着がメールボックスに発生した場合に、代替のメッセージボックスが割り当てられるから、多くのデータの受信を高速で誤り無く受信でき、受信データが化けたり、受信が不可能になったりすることが少ない。よって、車両の運転者に対して、正しい車両の状況を高速で表示することができ安全運転につながる。
【0019】
請求項4に記載の発明では、電子制御装置は、輸送機械の状況を表示する輸送機械用情報提供装置と、工場内の装置の状況を表示する工場監視用情報提供装置と、工作機械の状況を表示する工作機械用情報提供装置とのいずれかのための電子制御ユニットからなることを特徴としている。
【0020】
この発明によれば、輸送用機械用情報提供装置と、工場の監視用情報提供装置と、工作機械用情報提供装置とのいずれかのための電子制御ユニット内の多重通信に、この発明を適用しているため、次の効果が得られる。この種の電子制御ユニットは、高級なマイクロコンピュータを使用していない割に、多くの処理を高速で実行しなければならない。しかし、この発明のように、1フレームのメッセージに1つのメッセージボックスが割り当てられ、かつ、データの固着がメールボックスに発生した場合に、代替のメッセージボックスが割り当てられるから、多くのデータの受信を高速で誤り無く受信でき、受信データが化けたり、受信が不可能になったりすることが少ない。よって、装置の運転者に対して、正しい装置の情報を高速で表示することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明では、電子制御装置は、空きのメッセージボックスとなるレジスタの位置情報を、予め格納する記憶手段を有し、該記憶手段は、空きのメッセージボックスを、データの固着が発生した専用メッセージボックスの代替メッセージボックスとして設定手段が設定する毎に、位置情報を更新することを特徴としている。
【0022】
この発明によれば、代替メッセージボックスを設定する毎に、空きのメッセージボックスとなるレジスタの位置情報を記憶手段が更新するから、空きのメッセージボックスを、データが固着した専用メッセージボックスの代替メッセージボックスとして設定する場合に、空きのメッセージボックスを探す必要がないため、高速で通信処理が可能である。
【0023】
請求項6に記載の発明では、電子制御装置には、各フレームに対応する個別の受容マスクが設定されており、電子制御装置は、専用メッセージボックスに対して割り当てられた受容マスクに応じて、専用メッセージボックスに、対応する各フレームのメッセージのデータを収容させ、固着チェック手段に、順番に各専用メッセージボックスとなるレジスタ内をチェックさせ、固着チェックの結果、データが固着する専用メッセージボックスのレジスタがあると判定すると、固着が発生したレジスタに関わる専用メッセージボックスに対する受容マスクを、空きのメッセージボックスに対して設定し、データが固着する専用メッセージボックスが無いと判定すると、受容マスクを、予め定めた専用メッセージボックスに対して設定することを特徴としている。
【0024】
この発明によれば、データが固着するメッセージボックスが発見されると、該データが固着するメッセージボックスに対する受容マスクの設定を、空きのメッセージボックスに対して行い、データが固着するメッセージボックスが無いと判定されると、受容マスクの設定を、予め定めた専用のメッセージボックスに対して行うから、データが固着するメッセージボックスが存在しても、高速で通信が可能になる。
【0025】
請求項7に記載の発明では、電子制御装置は、全ての空きのメッセージボックスを専用メッセージボックスの代替メッセージボックスとして設定した場合に、データが固着する専用メッセージボックスが発見される前に、空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示信号を発することを特徴としている。
【0026】
この発明によれば、通信不能に陥る前に、専用メッセージボックスを修理する等の対策を促すことができ、機器の状態を正確に情報提供装置に表示させて、一層の安全性を確保することができる。
【0027】
請求項8に記載の発明では、電子制御装置は、全ての空きのメッセージボックスを専用メッセージボックスの代替とした場合に、新たに専用メッセージボックスに関わるデータの固着が生じたときに、空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示信号を発することを特徴としている。
【0028】
この発明によれば、最終的に全ての空きのメッセージボックスを専用メッセージボックスの代替とした後の、新たに専用メッセージボックスの固着が生じたときに、空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示を出しているから、通信不良に陥るが、故障状況を表示できるため、早めにメッセージボックスを修理する等の対策を行うことができ、機器の状態を正確に情報提供装置に表示させて、一層の安全性を確保することができる。また、データの固着が発生する度合いが少ない場合に、ぎりぎりまで警告表示信号を出すのを遅らせることができる。
【0029】
請求項9に記載の発明では、機器の状態を表示する情報提供装置に情報表示を行わせ、フレーム毎に受信する内容を分割して多重通信する多重通信ラインに接続される電子制御装置内において、フレーム毎の送信側から受信側に向かう通信の内容となる複数のメッセージがそれぞれ割り当てられ、該割り当てられたメッセージのデータを収納する複数のレジスタからなる専用メッセージボックスに対して、代替手段となる複数の空きのメッセージボックスを予め設定しておき、専用メッセージボックスに収容されるデータが固着しないかどうかの固着チェックを行ない、データが固着すると、代替手段となる複数の空きのメッセージボックスの一つを、データの固着が発生した専用メッセージボックスの代替メッセージボックスとして設定することを特徴としている。
【0030】
この発明によれば、レジスタからなるメッセージボックスにデータの固着が発生しても、代替メッセージボックスが設定されるため、通信が遮断されたり、受信誤りが発生したりすることが無いため、確実に情報の受信がなされる多重通信方法を提供することができる。
【0031】
請求項10に記載の発明では、電子制御装置は、該電子制御装置内にマイクロコンピュータを有し、該マイクロコンピュータの電源をONにすると、マイクロコンピュータが第1遷移状態になり、該第1遷移状態において初期化処理を行い、該初期化処理内において、固着チェックを行い、初期化処理が完了すると、マイクロコンピュータが、通常の通信の状態である第2遷移状態となり、該第2遷移状態において、通信の必要がないときは、マイクロコンピュータが、第3遷移状態のバススリープ状態となり、該第3遷移状態において、電子制御装置に多重通信ラインを介して接続された機器に対する操作が行われると、マイクロコンピュータが、第1遷移状態に戻り、第3遷移状態において、マイクロコンピュータがスリープする場合は、マイクロコンピュータが、第4遷移状態に移行してスリープ状態となることを特徴としている。
【0032】
この発明によれば、先ず初期化処理を行い、その後、通信を開始するので、通信を開始する準備段階で、メッセージボックスに関するデータの固着チェックを行うことが可能になり、確実に良好な通信が行われる。また、第3遷移状態において、機器に対する操作が行われると、第1遷移状態に戻るから、例えば、運転者がキースイッチを入れて運転を始めるときと、その後の、ドアを開けたような場合等の装置に対するアクションがあったときの、通信を開始する準備段階で、メッセージボックスに関するデータの固着チェックを行うことが可能になる。
【0033】
請求項11に記載の発明では、各フレームに対応する個別の受容マスクが電子制御装置内に設定されており、専用メッセージボックスに対して割り当てられた受容マスクに応じて専用メッセージボックスに対応する各フレームのメッセージのデータを専用メッセージボックスが収容し、固着チェックは、順番に各専用メッセージボックスとなるレジスタ内をチェックし、固着チェックの結果、データが固着する専用メッセージボックスのレジスタがあると判定されると、固着が発生したレジスタに関わる専用メッセージボックスに対する受容マスクの設定を、空きのメッセージボックスに対して行い、データが固着する専用メッセージボックスが無いと判定されると、受容マスクの設定を、予め定めた専用メッセージボックスに対して行うことを特徴としている。
【0034】
この発明によれば、データが固着するメッセージボックスが発見されると、該データが固着するメッセージボックスに対する受容マスクの設定を、空きのメッセージボックスに対して行い、データが固着するメッセージボックスが無いと判定されると、受容マスクの設定を、予め定めた専用のメッセージボックスに対して行うから、データが固着するメッセージボックスが存在しても、高速で通信が可能になる。
【0035】
請求項12に記載の発明では、全ての空きのメッセージボックスを専用メッセージボックスの代替メッセージボックスとして設定した後において、データが固着する専用メッセージボックスが発見される前に、空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示信号を電子制御装置が発することを特徴としている。
【0036】
この発明によれば、通信不能に陥る前に、専用メッセージボックスを修理する等の対策を促すことができ、機器の状態を正確に情報提供装置に表示させて、一層の安全性を確保することができる。
【0037】
請求項13に記載の発明では、全ての空きのメッセージボックスを専用メッセージボックスの代替とした後において、新たに専用メッセージボックスに関わるデータの固着が生じた場合に、空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示信号を電子制御装置が発することを特徴としている。
【0038】
この発明によれば、最終的に全ての空きのメッセージボックスを専用メッセージボックスの代替とした後の、新たに専用メッセージボックスの固着が生じたときに、空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示を出しているから、通信不良に陥るが、故障状況を表示できるため、早めにメッセージボックスを修理する等の対策を行うことができ、機器の状態を正確に情報提供装置に表示させて、一層の安全性を確保することができる。また、データの固着が発生する度合いが少ない場合に、ぎりぎりまで警告表示信号を出すのを遅らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施形態におけるCANを適用した多重通信を採用した車両用情報提供装置の概要を示す正面図である。
【図2】上記実施形態における、図1の車両用情報提供装置のブロック構成図である。
【図3】上記実施形態に使用し、かつCANを適用した多重通信を採用したメータ用電子制御ユニット内のCANに関わる概略構成図である。
【図4】上記実施形態における図3のメータ用ECU内の制御手段におけるソフト状態遷移図である。
【図5】上記実施形態における初期化処理での一連の処理の一つである、メッセージボックスの固着チェック処理を含むフローチャートである。
【図6】上記実施形態における読み出し/書き込みチェックの概要を示す説明図である。
【図7】上記実施形態における、専用メッセージボックスを空きのメッセージボックスに代替させる状態を説明する説明図である。
【図8】上記実施形態において、メッセージの受信タイミングを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。
【0041】
各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0042】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1ないし図8を用いて詳細に説明する。この第1実施形態は、Controller Area Network(コントローラー・エリア・ネットワーク:CAN)において、マイクロコンピュータに内蔵されたCANハードマクロ(CANマクロ)のメッセージボックスがレジスタからなるハード故障により固着した場合でも、他の空の(未使用の)メッセージボックスを使用して正常なメッセージの送受信を実現する多重通信装置および多重通信方法に関するものである。
【0043】
特に、車両内において車両の状態を運転者に表示する計器を含む車両用情報提供装置に適用する多重通信装置および多重通信方法に関するものである。図1は、本実施形態におけるCANを適用した多重通信装置を採用した車両用情報提供装置の概要を示す正面図である。
【0044】
図1において、車両内の運転者前方の計器板に設けられた車両用情報提供装置100は、第1、第2の表示手段(表示部)D1、D2と、警報表示装置(インジケータ)20とからなる。
【0045】
第1の表示手段D1は、TFT等の液晶表示パネルや有機ELパネル等からなり、車速等を表示するマルチディスプレイである。このマルチディスプレイ内にも本発明にいう計器板内の警報表示装置の一部分が構成され、他の部分は、複数の警報表示装置(インジケータ)20で構成される。
【0046】
第2の表示手段D2は、後述する指針と指標板とを備えた指針式表示部(計器)からなる。30は、エンジン回転計からなる第1の指針式表示部、320は発音体、40は、燃料計からなる第2の指針式表示部、50は、温度計からなる第3の指針式表示部である。
【0047】
図2は、図1の車両用情報提供装置100のブロック構成図である。その構成としては、車両情報の入出力を行う車両情報端子200及び多重通信入出力端子210と、車両インターフェース(車両I/F)手段230とを備える。
【0048】
更に、車両用情報提供装置100の制御を行う制御手段250と、処理プログラム等を格納するROM等からなる記憶手段26と、表示手段D1の表示制御、各指針式表示部30、40、50および警報表示装置(インジケータ)20に制御出力を送信して制御を行う制御出力手段270と、各種情報の聴覚的表示を行う聴覚情報提供手段290とを有している。
【0049】
また、聴覚情報提供手段290の構成としては、音/音声を再生する音/音声合成手段300と、この音/音声合成手段300からの出力信号(音/音声出力信号)を増幅するアンプ310と、このアンプ310からの増幅信号を警報音として出力する発音体(スピーカ)320と、この発音体320から発せられる音を導く導音部330とを有している。
【0050】
更に、車両用情報提供装置100は、多重通信装置のCANバス等の信号線をなす多重通信ライン400を介してエンジン制御装置等の他のECU(電子制御ユニット)からなる走行制御装置410と、各種操作スイッチ等からなる操作手段420等とに接続されている。
【0051】
次に、図2の車両用情報提供装置100の動作について説明する。制御手段250は、車両情報の入出力を行う車両情報端子200及び多重通信入出力端子210から、走行制御に関する車両状態、アラーム情報、および操作に関する情報を入手する。
【0052】
この入手した情報に基づいて、車両状態報知、アラーム出力、および操作に関するガイダンス、およびアンサーバックを、聴覚情報提供手段290の発音体320を介して効果音と音声で報知する。また同時に、表示手段D1(図1)の画像で表示する。また、必要な警報表示を、警報表示装置(インジケータ)20で行う。
【0053】
ここで、アラーム情報を例に挙げて、制御手段250の入出力時の動作について説明する。制御手段250は、車両情報の入出力を行う車両情報端子200及び多重通信入出力端子210から、車両に関する情報を入手し、この情報に基づいて、警告の発生条件があるか否かを判定する。
【0054】
ここで警告の発生条件を検出すると、警告情報を聴覚情報提供手段290で効果音と音声とで報知するとともに、警告情報に関係する表示形態を表示部D1または警報表示装置(インジケータ)20によって表示する。
【0055】
例えば、制御手段250は、シートベルトが未装着であることを示す検出信号が車両情報端子200または多重通信入出力端子210を介して入力されると、効果音「ポーン」の後、画像と音声にて「シートベルトを着用してください」を出力するように表示部D1および聴覚情報提供手段290を制御する。
【0056】
計器用制御装置内の制御手段250は、車両が停止したことを判断するために、制御手段250内に多重通信ライン400で入力されている車速信号SSgを活用する。つまり、車速信号SSgから車両停止信号が作られる。この車速信号SSgは、走行制御装置410から制御手段250に入力されて、第1の表示手段(表示部)D1を使用した車速表示に使用する信号である。
【0057】
また、計器用制御装置内の制御手段250は、エンジンが停止したことを判断するために、制御手段250内に多重通信ライン400から入力されている「エンジン停止信号ESSg、またはエンジン回転数信号ERSgからなる」エンジン制御信号を活用する。
【0058】
このうち、エンジン回転数信号ERSgは、走行制御装置410から制御手段250に入力されて、表示部D1、または指針式表示部30(図1)のエンジン回転数表示に使用している既存の信号である。
【0059】
また、エンジン停止信号ESSgは、表示部D1の液晶画面内に「アイドリングストップ中です」のように表示するところのエンジン停止表示に使用している信号である。このエンジン停止信号ESSgにより、エンストしているのか意図的にエンジンをとめているのか(アイドリングストップしているのか)が判明するように表示されている。
【0060】
次に、図2の車両用情報提示装置100に用いられるCANを適用した多重通信について説明する。先ず、詳細な説明の前に、概要について説明する。発明者は次の点に着目した。車両用のメータ表示(図1の30、40、50、D1、20部分に対する表示)に関するCAN通信においては、メッセージボックスが、通常、単一で用いられることはなく、複数(例えば16個、62個、64個等)存在し、多くの場合は、複数のメッセージボックスの1/3とか半分位しか使用していないという事実がある。
【0061】
一つのメッセージボックスには、1フレームの内容しか格納されないように制御している。換言すれば、メッセージボックスの(ch1)が、内容(X)を格納するのであれば、内容(X)の専用メッセージボックスとして設定される。内容(Y)は、内容(Y)の専用メッセージボックスである(ch2)に格納される。また、内容(Z)は、内容(Z)の専用メッセージボックスである(ch3)に格納される。
【0062】
このような状態において、内容(Z)の専用メッセージボックス(ch3)が固着すると、空きのメッセージボックスがあるため、その空きのメッセージボックスを、内容(Z)の専用メッセージボックスとして新たに使用するように設定し、次からは、この新しい専用メッセージボックスを使用することにしたものである。
【0063】
以下、上記第1実施形態について、図3ないし図8を用いて更に詳細に説明する。図3は、この第1実施形態に使用し、かつCANプロトコルを用いたLANに接続されるメータ用ECU(車両内の計器板内に格納された計器やインジケータのための電子制御ユニット)1内の概略構成図である。
【0064】
なお、メータ用ECU1は、図2の車両インターフェース(車両I/F)手段230、制御手段250、制御出力手段270、記憶手段26で構成され、特に制御手段250に主要部がある。
【0065】
このメータ用ECU1は、マイクロコンピュータ(マイコン)2に内蔵されたCANコントローラ3と、CANコントローラ3が生成するフレームを、CANバス10を介して送受信するためのCANトランシーバ4を備えている。
【0066】
CANコントローラ3は、メータ用ECU1と他のECU(図2の走行制御装置410等)と間で送受信されるメッセージを格納するメッセージボックス5を複数備えている。なお、図3では便宜上1つしか図示していないが、メッセージボックス5は、複数の専用メッセージボックスと空いている(不使用の)メッセージボックスとの集合体である。
【0067】
また、メッセージボックス5の設定値を基に、メッセージをフレーム化し、CANトランシーバ4を介してCANバス10へ送信する送信制御部6を有している。また、CANトランシーバ4を介してフレームを受信してメッセージの抽出等を行う受信制御部7を有している。これらの送信制御部および受信制御部は、まとめて送信/受信制御部6、7として図示されている。
【0068】
CANバス10上で、フレームが衝突した際のバス権の調停制御(ビット単位非破壊アービトレーション)と、フレームの送受信に関連して生じるエラーの検出と、通知等と、CANプロトコルに従った通信制御とを実行する通信制御手段としてのCANプロトコル制御部8を備えている。
【0069】
なお、通知等とは、「今受信した」「今送信が終了した」という通知をソフトウェア側に通知することを言う。この「今受信した」という通知を基に、受信した内容をメッセージボックス5に取りに行く等の処理を行うものである。
【0070】
図4は、上記図3のメータ用ECU1内の制御手段250におけるソフト状態遷移図である。図4において、制御手段250内のマイクロコンピュータの電源をONにすると第1遷移状態T1になる。この第1遷移状態T1において、初期化処理状態になり、初期化処理(イニシャライズ処理)を行う。
【0071】
この初期化処理には、ソフトウェアで使用しているRAMを初期化したり、マイクロコンピュータ内のリソース(ハード)のイニシャライズを行ったりする。このマイクロコンピュータのリソースのイニシャライズの中にCANハードマクロ(CANマクロ)のイニシャライズが含まれる。このCANハードマクロ(CANマクロ)のイニシャライズの中で、レジスタの中のメッセージボックス5が固着していないかのチェックも行う。
【0072】
図5は、この第1実施形態における初期化処理での一連の処理のひとつである、レジスタの中のメッセージボックス5の固着チェック処理を含むフローチャートである。図5において、初期化処理がスタートすると、ステップS401において、レジスタの中のメッセージボックス5の固着チェックを行う。
【0073】
この固着チェックは、順番にメッセージボックス5内をチェックしていく。その結果、固着している「レジスタの中の専用メッセージボックス」が発見されると、つまり、固着チェックNGの専用メッセージボックスがあると、ステップS402において判定されると、ステップS403に移行する。
【0074】
ステップS403において、固着チェックNG時の専用メッセージボックスに対する受容マスク(情報の行き先、住所または表札に相当)の設定を、空いているレジスタの中のメッセージボックスに対して行う。
【0075】
ステップS402において、固着している専用メッセージボックスが無いと判定されると、ステップS405に進み、固着チェックOK(GO)時の専用メッセージボックスに対する受容マスクの設定を、予め定めた本来の専用メッセージボックスに対して行う。
【0076】
ついで、ステップS404において、その他の初期化処理を行い、一連の初期化処理を終了する。つまり、このステップS404においては、図5の第1遷移状態T1における、一連の初期化処理の中でも、レジスタの中の専用メッセージボックスに対する固着チェックと受容マスクの設定を行った後の、その他の初期化処理を行っている。
【0077】
このステップS404の処理の順番は、逆でも良い。つまり、ステップS404の初期化処理を、ステップS401の前に行っても良い。なお、受容マスクはIDマスクとも呼ばれ、周知である。
【0078】
初期化処理が完了すると、図4において、通信の通常状態である第2遷移状態T2となる。この第2遷移状態T2において、通信の必要がないときは、Bus Sleep(バススリーブ)条件が成立し、第3遷移状態T3のBus Sleep(バススリーブ)状態となる。
【0079】
この遷移状態3において、車両のドアを開ける等の車両内でのアクションがあると、CAN起動条件が成立し、第1遷移状態T1に戻る。なお、第3遷移状態T3において、いよいよマイクロコンピュータがSleepする時は、マイクロコンピュータSleep(スリープ)条件が成立して第4遷移状態T4に移行してSleep状態となる。
【0080】
なお、専用メッセージボックスは、受信設定でも送信設定でも使用できる。専用メッセージボックスを受信設定で使用する場合は、特定のメッセージのみ受信するために、メッセージ中のメッセージID毎に、受容マスクを専用メッセージボックスの設定値として設定する。
【0081】
例えば、メッセージIDが「600」のフレームのみ受信するには、専用メッセージボックスの受容マスクの設定として、「600」を設定しておく。これにより、設定した専用メッセージボックスには、メッセージIDが「600」のメッセージしか格納されないこととなる。
【0082】
なお、専用メッセージボックスは、送信用にも使用することができ、各専用メッセージボックスに対して、送信用と割り当てたり(送信設定でしか使用できない)、受信用と割り当てたり(受信設定でしか使用できない)することができる。
【0083】
また、CAN通信の動作開始前には、上述のとおり、専用メッセージボックスのハード不良(固着)をチェックする。なお、この固着チェックは、公知の方法を採用できる。また、固着チェックは、始終実施するのではなく、基本的には、運転者がキースイッチを入れて運転を始めるときや、車両のドアを開けたような場合等のアクションがあったときに、通信を開始するので、そのときの通信を開始する準備段階で、専用メッセージボックスの固着チェックを行う。
【0084】
この固着チェックにおいては、例えば、「AA55、55AA」等の値を書き込み、次に、その値を読み出すことで、読み出し/書き込みチェックを実施する。そして、書き込み値と一致した値を読み出せない場合は、ハード不良として該当の専用メッセージボックスを使用禁止とする制御を行う。
【0085】
この場合、使用禁止となった専用メッセージボックスで受信するメッセージの正しい受信ができなくなる。なお、「AA55、55AA」等の値(「A」と「5」の値)を書き込み、次に、読み出すことで、読み出し/書き込みチェックを実施すること自体は、既に実施されている。
【0086】
図6は、この第1実施形態での読み出し/書き込みチェックの概要を示す説明図である。図6において、8ビットのレジスタに対して「A5」と書き込んで読み取りを行い、次に、「5A」と書き込んで読み取りを行なう。「A」と「5」の値のビットの01の配置からして、これらの読み取りが正常に行われれば、全てのビット位置に対して固着が無いことをチェックすることができる。
【0087】
そこで、もし、専用メッセージボックスの書き込み/読み出しチェックで問題有り(NG)と判断された場合は、空いている(未使用の)メッセージボックスに、該当の受容マスクを設定し、そのメッセージボックスで受信するための設定を行う。これにより、本来ならば受信できなくなるメッセージを、代替の専用メッセージボックスで受信することが可能となる。以下これについて詳述する。
【0088】
図7は、第1実施形態における専用メッセージボックスを空きのメッセージボックスに代替させる状態を説明する説明図である。この図7において、例えば、16個存在する専用メッセージボックスを、仮に、ch(チャンネル)1、ch2、ch3と呼称する。この場合において、CANバス10から流れてきたメッセージM0は、メッセージM0の内容に応じて、1フレーム毎に各チャンネルに格納される。例えば、内容(X)のフレームは、チャンネル1(ch1)に、格納され、別の内容(Y)や内容(Z)のフレームは、ch2、ch3に格納される。
【0089】
ここで、複数のフレームの内容を、一つのチャンネル内に格納することも可能である。しかし、高速で送信されてくる複数のフレームを、1つのチャンネル内に格納すると、最初に入ったフレームの内容を引き抜こうとする間に、次の内容が入ってしまい、その結果、最初に入ったフレームの内容に、次のフレームが上書きされてしまうことが発生する。
【0090】
従って、一つのチャンネル、つまり専用メッセージボックスには、1フレームの内容しか格納されないように制御している。換言すれば、専用メッセージボックスのch1が、内容(X)を格納するのであれば、内容(X)の専用メッセージボックスとして設定される。また、内容(Y)等は、内容(Y)の専用メッセージボックス等であるch2等に格納される。
【0091】
このような状態において、内容(Z)の専用メッセージボックスであるch3が固着すると、空きのメッセージボックスがあるため、その空きのメッセージボックスを、内容(Z)の専用メッセージボックスとして新たに使用するように受容マスク設定し、次からは、この新しい専用メッセージボックスを使用することにしたものである。
【0092】
なお、専用メッセージボックスの固着がないかどうかの固着チェックを行うタイミングは、前述したように、これから通信を開始すると判明したときである。この固着チェックは、所定の値を書きこんだ後に、正確に書き込んだ値が読み取れるかどうかで行われる。
【0093】
また、空きのメッセージボックスを探す必要はなく、空きのメッセージボックスの情報は、予め格納されていて、事後更新される。換言すれば、最初に、ソフトウェアを作るときに、例えば、「内容(X)は、ch1」、「内容(Y)は、ch2」、「内容(Z)等は、ch3等」であり、それ以外のメッセージボックスは空いているというような設定を、予め設定している。
【0094】
従って、空きのメッセージボックスを探す必要はないため、高速で通信処理が可能である。この場合、空いているメールボックスを採択する優先順位は、それほど重要ではない。
【0095】
固着チェックの結果、ch1が有効であることを示すイネーブル(E)、ch2がイネーブル(E)、ch3が固着発生状態であれば、ch3をイネーブル(E)から無効であることを示すディスエーブル(D)に書き換える。かつ、空いているチャンネルをディスエーブル(D)からイネーブル(E)に書き換える。
【0096】
図8は、第1実施形態においてメッセージの受信タイミングを説明する説明図である。多重通信ライン400(図2)を介して、メータ用ECU1には、車速信号、エンジン回転数信号、エンジン停止信号、各種操作信号、各種センシング信号、各種警報信号が送信されてくるが、これらの信号が、図8において、一例として、第1メッセージM1と第2メッセージM2とで送信されてくるとする。
【0097】
図8において、第1メッセージM1と第2メッセージM2とは、非同期のタイミングで受信される、従って、受信時の第1メッセージM1と第1メッセージM1の間、第2メッセージM2と第2メッセージM2の間には充分な時間TLがあっても、第1メッセージM1と第2メッセージM2の間の時間TSは、ほとんど0秒に近い場合がある。
【0098】
従って、受信においては、通信速度を高めるため、1フレームの第1メッセージM1と、1フレームの第2メッセージM2とで異なるメッセージボックスを使用しなければならない。つまり、1つのIDに対して一つの専用メッセージボックスを割り当てる必要がある。
【0099】
この第1実施形態のように、特に、車両用情報提供装置100が設けられた計器板内のメータ用ECU1内のCANを使用した通信に、本発明を適用すれば、次の効果が得られる。メータ用ECU1は、高級なマイクロコンピュータを使用していない割に、多くの処理を高速で実行しなければならない。
【0100】
本発明のように、1フレームに1つの専用メッセージボックスが割り当てられ、かつ、固着発生時に代替の専用メッセージボックスが割り当てられれば、多くのデータの受信を高速で誤り無く受信でき、受信データが化けたり、受信が不可能になったりすることが少ないから、運転者に対して、正しい車両の情報を高速で表示することができ安全運転につながる。
【0101】
(その他の実施形態)
本発明は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。例えば、上述の第1実施形態では、受信用に専用メッセージボックスを使用している例を説明したが、送信用に専用メッセージボックスを使用している場合においても、本発明の考え方を採用することができる。
【0102】
すなわち、送信用に使用している専用メッセージボックスの中に固着が発生した場合に、空きのメッセージボックスに代替させることができる。勿論、送信時と受信時との双方において、本発明の考え方を採用することができる。
【0103】
しかし、車両の計器板に設けられた計器や表示器を含む車両用情報提供装置の制御においては、受信側に本発明を適用することの方が、大きな効果をもたらす。その理由は、車両用情報提供装置において、車両内の状況を遅延無く表示することができるからである。
【0104】
なお、図8を用いて説明したように、多重通信ライン400を介して、メータ用ECU1には、第1メッセージM1と第2メッセージM2とで送信されてくる。受信時の第1メッセージM1と第2メッセージM2の間の時間TSは、ほとんど0秒に近い場合がある。
【0105】
従って、受信においては、1フレームの第1メッセージM1と、1フレームの第2メッセージM2とで異なる専用メッセージボックスを使用しなければならない。つまり1つのIDに対して一つの専用メッセージボックスを割り当てる必要がある。
【0106】
一方、送信時には、ランダムに送信することは少なく、時系列に送信することが多いので、送信用の一つの専用メッセージボックスに、空きのメッセージボックスを一つ用意しておけばよい場合がほとんどである。なお、送信時にも固着チェックは必要であり、固着した専用メッセージボックスを使用すると、データが化けた状態で送信されることになる。
【0107】
また、CANは、車両の通信ネットワークとして、ISOの標準プロトコルの一つであり、耐ノイズ性の強化を考慮して設計され、相互接続された機器間のデータ転送に使われる規格であるが、機器の制御情報の転送用として普及しており、輸送用機械、工場、工作機械等の特にロボット分野においても利用されている。
【0108】
従って、車両以外の、これらの分野に、本発明を適用することができる。特に、輸送機械用情報提供装置、工場の監視用情報提供装置、工作機械用情報提供装置等のデータの受信に適用することで、最大限に効果を発揮する。
【符号の説明】
【0109】
1 メータ用電子制御ユニット(メータ用ECU)(電子制御装置)
2 マイクロコンピュータ(マイコン)
3 メッセージボックスを複数有するCANコントローラ
4 CANバスを介して送受信するためのCANトランシーバ
5 メッセージボックス(集合体)
6 メッセージをフレーム化し、CANバスへ送信する送信制御部
7 フレームを受信してメッセージの抽出を行う受信制御部
8 調停制御と、エラーの検出と、通信制御とを実行するCANプロトコル制御部
10 CANバス
20 警報表示装置(インジケータ)
26 空きのメッセージボックスの情報等を予め格納する記憶手段
30、40、50 各指針式表示部
100 車両用情報提供装置
200 車両情報端子
210 多重通信入出力端子
230 車両インターフェース(車両I/F)手段
250 制御手段
270 制御出力手段
290 聴覚情報提供手段
400 多重通信ライン
410 車両内の他の電子制御ユニットとなる走行制御装置
420 各種操作スイッチ等からなる操作手段
ch1、ch2、ch3 専用メッセージボックス
(D) ディスエーブル(無効)
D1、D2 第1、第2の表示手段(表示部)
(E) イネーブル(有効)
M0 1フレーム毎の通信内容となるメッセージ
M1 第1メッセージ
M2 第2メッセージ
S402 通信の前段階で専用メッセージボックスの固着チェックを行う手段
S403 空きのメッセージボックスを代替のメッセージボックスとする手段
T1 第1遷移状態
T2 第2遷移状態
T3 第3遷移状態
T4 第4遷移状態
(X)、(Y)、(Z) 内容

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーム毎に受信する内容を分割して多重通信する多重通信ラインと、該多重通信ラインに接続された機器の状態を表示する情報提供装置に情報表示を行わせ、前記多重通信ラインに接続される電子制御装置とを備え、
前記電子制御装置は、送信側から受信側に向かう通信の内容となる前記フレーム毎の複数のメッセージがそれぞれ割り当てられ、該割り当てられた前記メッセージのデータを収容する複数のレジスタからなる専用メッセージボックスと、
前記フレーム毎の前記通信の内容となる前記メッセージが割り当てられていないレジスタからなる空のメッセージボックスと、
前記通信を行う前に前記専用メッセージボックスに収容されるデータが固着しないかどうかの固着チェックを行う固着チェック手段と、
前記固着チェック手段による前記固着チェックの結果、前記専用メッセージボックス内の前記データが固着すると判定すると、前記空きのメッセージボックスを、前記データが固着する前記専用メッセージボックスの代替メッセージボックスとして設定する設定手段とを有することを特徴とする多重通信装置。
【請求項2】
前記電子制御装置において、前記複数のメッセージのうち、それぞれ異なる前記専用メッセージボックスが割り当てられた第1メッセージと第2メッセージとは、前記送信側と前記受信側とで同期が取れていない非同期のタイミングで受信されることを特徴とする請求項1に記載の多重通信装置。
【請求項3】
前記電子制御装置は、前記情報提供装置をなす車両用情報提供装置を制御するメータ用電子制御ユニットからなり、車両内の前記機器の操作情報および前記機器の作動情報を含む前記車両の状況を前記車両内において前記車両用情報提供装置に表示させることを特徴とする請求項1または2に記載の多重通信装置。
【請求項4】
前記電子制御装置は、輸送機械の状況を表示する輸送機械用情報提供装置と、工場内の装置の状況を表示する工場監視用情報提供装置と、工作機械の状況を表示する工作機械用情報提供装置とのいずれかのための電子制御ユニットからなることを特徴とする請求項1または2に記載の多重通信装置。
【請求項5】
前記電子制御装置は、前記空きのメッセージボックスとなる前記レジスタの位置情報を、予め格納する記憶手段を有し、該記憶手段は、前記空きのメッセージボックスを、前記データの固着が発生した前記専用メッセージボックスの前記代替メッセージボックスとして前記設定手段が設定する毎に、前記位置情報を更新することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の多重通信装置。
【請求項6】
前記電子制御装置には、前記各フレームに対応する個別の受容マスクが設定されており、
前記電子制御装置は、前記専用メッセージボックスに対して割り当てられた前記受容マスクに応じて、前記専用メッセージボックスに、対応する前記各フレームのメッセージのデータを収容させ、
前記固着チェック手段に、順番に前記各専用メッセージボックスとなる前記レジスタ内をチェックさせ、
前記固着チェックの結果、前記データが固着する前記専用メッセージボックスの前記レジスタがあると判定すると、前記固着が発生した前記レジスタに関わる前記専用メッセージボックスに対する前記受容マスクを、前記空きのメッセージボックスに対して設定し、
前記データが固着する前記専用メッセージボックスが無いと判定すると、前記受容マスクを、予め定めた前記専用メッセージボックスに対して設定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の多重通信装置。
【請求項7】
前記電子制御装置は、全ての前記空きのメッセージボックスを前記専用メッセージボックスの前記代替メッセージボックスとして設定した場合に、前記データが固着する前記専用メッセージボックスが発見される前に、前記空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示信号を発することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の多重通信装置。
【請求項8】
前記電子制御装置は、全ての前記空きのメッセージボックスを前記専用メッセージボックスの代替とした場合に、新たに前記専用メッセージボックスに関わる前記データの固着が生じたときに、前記空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示信号を発することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載の多重通信装置。
【請求項9】
機器の状態を表示する情報提供装置に情報表示を行わせ、フレーム毎に受信する内容を分割して多重通信する多重通信ラインに接続される電子制御装置内において、フレーム毎の送信側から受信側に向かう通信の内容となる複数のメッセージがそれぞれ割り当てられ、該割り当てられた前記メッセージのデータを収納する複数のレジスタからなる専用メッセージボックスに対して、代替手段となる複数の空きのメッセージボックスを予め設定しておき、
前記専用メッセージボックスに収容される前記データが固着しないかどうかの固着チェックを行ない、前記データが固着すると、前記代替手段となる複数の空きのメッセージボックスの一つを、前記データの固着が発生した前記専用メッセージボックスの代替メッセージボックスとして設定することを特徴とする多重通信方法。
【請求項10】
前記電子制御装置は、該電子制御装置内にマイクロコンピュータを有し、該マイクロコンピュータの電源をONにすると、前記マイクロコンピュータが第1遷移状態になり、該第1遷移状態において初期化処理を行い、該初期化処理内において、前記固着チェックを行い、
前記初期化処理が完了すると、前記マイクロコンピュータが、通常の前記通信の状態である第2遷移状態となり、該第2遷移状態において、前記通信の必要がないときは、前記マイクロコンピュータが、第3遷移状態のバススリープ状態となり、
該第3遷移状態において、前記電子制御装置に前記多重通信ラインを介して接続された前記機器に対する操作が行われると、前記マイクロコンピュータが、前記第1遷移状態に戻り、
前記第3遷移状態において、前記マイクロコンピュータがスリープする場合は、前記マイクロコンピュータが、第4遷移状態に移行してスリープ状態となることを特徴とする請求項9に記載の多重通信方法。
【請求項11】
前記各フレームに対応する個別の受容マスクが前記電子制御装置内に設定されており、
前記専用メッセージボックスに対して割り当てられた前記受容マスクに応じて前記専用メッセージボックスに対応する前記各フレームのメッセージのデータを前記専用メッセージボックスが収容し、
前記固着チェックは、順番に前記各専用メッセージボックスとなる前記レジスタ内をチェックし、前記固着チェックの結果、前記データが固着する前記専用メッセージボックスの前記レジスタがあると判定されると、前記固着が発生した前記レジスタに関わる前記専用メッセージボックスに対する前記受容マスクの設定を、前記空きのメッセージボックスに対して行い、
前記データが固着する前記専用メッセージボックスが無いと判定されると、前記受容マスクの設定を、予め定めた前記専用メッセージボックスに対して行うことを特徴とする請求項9または10に記載の多重通信方法。
【請求項12】
全ての前記空きのメッセージボックスを前記専用メッセージボックスの前記代替メッセージボックスとして設定した後において、前記データが固着する前記専用メッセージボックスが発見される前に、前記空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示信号を前記電子制御装置が発することを特徴とする請求項9ないし11のいずれか一項に記載の多重通信方法。
【請求項13】
全ての前記空きのメッセージボックスを前記専用メッセージボックスの代替とした後において、新たに前記専用メッセージボックスに関わる前記データの固着が生じた場合に、前記空きのメッセージボックスが無い旨の警告表示信号を前記電子制御装置が発することを特徴とする請求項9ないし11のいずれか一項に記載の多重通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−222466(P2012−222466A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84001(P2011−84001)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】