説明

大きな比表面積を有する規則正しいメソポーラスフラーレン、及びその作製方法

【課題】 本発明の目的は、様々な電気化学用途に利用可能である、非常に規則正しいメソ構造とモルホロジーと大きな比表面積と球形状の寸法とを有する、新規の極めてメソポーラスなフラーレンを提供することである。
【解決手段】 本発明の規則正しいメソポーラスフラーレンは、次のようにして作製される。
(1)所定量のフラーレンを有機溶媒に溶解する;
(2)立方的Ia3d対称性を有する三次元の大きなポアのメソポーラスシリカ(KIT−6)の所定量を、有機溶媒に溶解した前記フラーレンに添加し、混合する;
(3)前記混合物を窒素雰囲気下で加熱して、約900℃に維持することで複合体を得る;
(4)前記複合体をHFで洗浄してシリカを除去する;そして、
(5)得られた複合体を乾燥させる。
こうして得られる規則正しいメソポーラスフラーレンは、大きな比表面積(200m/g超)を有し、その構造はフラーレン凝集体から構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な電気化学用途に利用可能な、大きな比表面積を有する規則正しいメソポーラスフラーレンに関する。本発明はまた、前記メソポーラスフラーレンの作製方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
規則正しいメソポーラス材料類は、それらの好ましい構造特性に起因して多くの分野で特に注目されており、そしてそれらのポアサイズは、幾つかの適用要件を満たすように制御されなければならない(非特許文献1参照)。メソポアサイズは、多くの方法で調整可能であるが、それらの方法では、ポアを大きくすることのみが可能であった。
より大きな又はより小さなサイズで独立に制御された多重スケールのポアや、巧みにつながったポアは、幾つかの用途、例えば触媒に有益であろう。現代化学物理学の別の最も急速に発展している傾向は、フラーレンの発見及び研究と関連しており、それは新規の炭素同素体である(非特許文献2〜7参照)。フラーレン分子中の炭素原子は、正六角形及び正五角形の頂点に位置しており、規則的な様式で球体又は回転楕円体の表面を覆っている。フラーレン系統に属する分子のうち最も広がってかつ複雑なものはC60であり、この構造は、切頂正二十面体である。この分子の表面は、各五角形が六角形とのみ隣接するように20個の正六角形と12個の正五角形とから構成されているのに対し、各六角形は、交互に3個ずつの五角形及び六角形と隣接している。フラーレン系統にはまた、C60の他に、C70、C78、C84などの分子も包含されており、これらはより乏しい対称性や、表面により多くの数の六角形があることで区別される。従って、フラーレンは、閉鎖した二次元構造を有する独特の分子種を形成している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、非常に規則正しいモルホロジーと、大きな比表面積(200m/g超)と、球形状の寸法(約70nm)とを有し、様々な電気化学用途に利用可能な、新規の極めてメソポーラスなフラーレンを提供することである。本発明のもう一つの目的は、前記メソポーラスなフラーレンの作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、我々は非常に規則正しいKIT−6メソポーラス材料をテンプレートとして利用することに思い付き、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、構造がフラーレン凝集体から構成されている大きな表面積を有する規則正しいメソポーラスフラーレンを提供する。
なお、本明細書中の「メソ」の用語は、2nmから50nmの間の大きさを意味する。
【0005】
本発明は、また、構造がフラーレン凝集体から構成されている大きな比表面積を有する規則正しいメソポーラスフラーレンを作製する方法も提供する。この作製方法は、次の工程から成る:
(1)所定量のフラーレンを有機溶媒に溶解する工程、
(2)立方的Ia3d対称性を有する三次元の大きなポアのメソポーラスシリカ(KIT−6)の所定量を、有機溶媒に溶解した前記フラーレンに添加し、混合する工程、
(3)前記混合物を窒素雰囲気下で加熱して、約900℃に維持することで複合体を得る工程、
(4)前記複合体をHFで洗浄してシリカを除去する工程、及び
(5)得られた複合体を乾燥させる工程。
【発明の効果】
【0006】
大きな比表面積を有する本発明の規則正しいメソポーラスフラーレンは、新規材料であって、様々な電気化学用途、例えば、燃料電池、充電式電池、及び電鋳に利用可能である。
前記本発明の作製法を用いることにより、構造がフラーレン凝集体から構成されている大きな比表面積を有する本発明のメソポーラスフラーレンを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1で得られたMF−1の低角での粉末XRDパターンである。
【図2】実施例1で得られたMF−1の広角での粉末XRDパターンである。
【図3】MF−1の窒素吸着等温線である。
【図4】MF−1のHRSEM画像である。
【図5】MF−1のHRTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
先ず、規則正しいメソポーラスフラーレンの作製法を説明する。
上述のように、本発明の規則正しいメソポーラスフラーレンは、以下のようにして作製する。
(1)所定量のフラーレンを有機溶媒に溶解する;
(2)立方的Ia3d対称性を有する三次元の大きなポアのメソポーラスシリカ(KIT
−6)の所定量を、有機溶媒に溶解した前記フラーレンに添加し、混合する;
(3)前記混合物を窒素雰囲気下で加熱して、約900℃に維持することで複合体を得る;
(4)前記複合体をHFで洗浄してシリカを除去する;そして、
(5)得られた複合体を乾燥する。
【0009】
ここで、KIT−6は、立方的Ia3d対称性を有する三次元の大きなポアのメソポーラスシリカであり、大きな比表面積と、大きなポア容積と、調整可能な大きなポア直径とを有する非常に規則正しいポア構造を有している。この材料は、大きなポア直径の三次元構造を有するので、極めて注目されており、それらは、参考文献(T.−W.キム(T.-W. Kim)、F.クライツ(F. Kleitz)、B.ポール(B. Paul)、R.リュウ(R. Ryoo)、米国化学会誌(J. Am. Chem. Soc.)、第127巻、7601〜7610頁(2005年))に従って作製することができる。
【0010】
使用されるフラーレンの量は、KIT−6 1gに対して、好ましくは30〜100mgである。このフラーレン量の変化におけるキーポイントは、メソ構造秩序と結晶性とを改良することである。
使用される有機溶媒の量は、KIT−6 1gに対して、好ましくは2.5〜10mlである。有機溶媒量の変化におけるキーポイントは、フラーレンの溶解性を、最終材料のメソ構造秩序及び結晶性に対応させることによって改良することである。
【0011】
フラーレンの溶媒として、高いフラーレン溶解性を有している、例えば、1,2,4−トリメチルベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1−メチルナフタレン、1−フェニルナフタレン、又はキシレンのような様々な有機溶媒を使用することができる。
【0012】
前記作製方法で得られるフラーレンは、「非常に規則正しい」メソポーラス構造を有し、またテンプレートとしてのKIT−6を反映して、大きな比表面積を有する。本明細書において、「非常に規則正しい」とは、材料が、規則正しい経路接続性と均一なポアサイズ分布とを有することを意味する。
メソポーラスフラーレンの比表面積は、好ましくは、200m/g超、より好ましくは300m/g超であって、これらは窒素吸着法で求めたものである。窒素吸着法に関しては、参考文献(P.I.ラビコビッチ(P.I. Ravikovitch)、A.V.ナイマーク(A.V.
Neimark)、物理化学会誌B(J. Phys. Chem.
B.)、第105巻、6817〜6823頁(2001年))を参照のこと。
【実施例】
【0013】
実施例1
<KIT−6の作製>
様々なポア直径を有するKIT−6は、P123(トリブロック共重合体であるポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(プロピレングリコール)−ブロック−ポリ(エチレングリコール)(プルロニック(Pluronic)P123、分子量5800、EO20PO70EO20)(シグマ(Sigma)-アルドリッチ(Aldrich)社製)と、構造指向剤としてのn−ブタノール混合物とを用い、強酸性媒体中で様々な合成温度において合成した。典型的な合成では、P123 4gを蒸留水144g及び35重量%HCl溶液7.9gに溶解した。この混合物を35℃で3時間攪拌した。更に、n−ブタノール4.0gを前記混合物に速やかに添加し、引き続き35℃で1時間攪拌した。続いて、この均質な透明溶液に、TEOS(テトラエチル オルソシリケート) 8.6gを速やかに添加し、35℃で24時間攪拌し続けた。その後、この混合物をポリプロピレン製の瓶に移して、空気炉中に静置条件下で150℃において24時間保持した。この試料をKIT−6−150と名づけた。得られた生成物を、洗浄せずに高温条件下でろ過して、空気中で100℃において24時間乾燥させた。最後に、この材料を大気中550℃で焼成した。
【0014】
<大きな比表面積を有する非常に規則正しいメソポーラスフラーレンの作製>
メソポーラスフラーレンは、得られたメソポーラスKIT−6−150とフラーレンとの適切な化学量論的な量を用いて固相反応で作製した。フラーレン60mgを先ず1,2,4−トリメチルベンゼン5gに溶解し、KIT−6−150 1gと完全に混合した後、この試料を炭素化室に移して、900℃で5時間、窒素雰囲気の存在下で保持した。この複合体試料をMF−1と名づけた。メソポーラスフラーレンは、前記複合体(MF−1)をHFで洗浄してシリカを除去することによって得られ、そして100℃で24時間乾燥させた。
【0015】
<得られたメソポーラスフラーレンの評価>
前記試料を粉末XRDで分析した(図1及び図2)。XRD試験は、リガク・マルチサンプラー回折計(Rigaku Multisampler Diffractometer)装置を40kV及び40mA、CuKα=1.54オングストロームで作動させて行った。MF−1は、三次元立方格子(Ia3d)で指標され得る低角において2つのピークを示すことが分かったが、これは、前記試料が非常に規則正しいメソポーラス構造を有していたことを表している。前記材料の構造は、Ia3d対称性を有する三次元の立方体構造を有しているテンプレート(KIT−6−150)の構造とほぼ同じである。これにより、MF−1の構造は、その合成に用いたメソポーラスシリカテンプレートの完全な複製であることが明らかである。前記試料は更に、高角でも幾つかのピークを示しており、これらは非多孔質フラーレン分子の高角XRパターンと類似していた(図示せず)。ただし、2θ=約26及び2θ=約44でのピークは、実際のフラーレンでの900℃での炭化中の橋かけ結合に起因するピークの重なりによるものかも知れない。このことは、前記材料が中央にメソポア空間を残すことによって規則正しい様式で並んでいる球状のフラーレン粒子から確かに構成されていることを裏付けている。このメソポアは、前記低角XRDパターンで確認されたように非常に規則正しい。
【0016】
モルホロジーと、構造秩序と、優れた組織パラメータとを更に確かめるために、前記材料を、HRTEM、HRSEM及び窒素吸着等温線によって特性評価した。図3はMF−1の窒素吸着等温線を示し、図4は得られたMF−1のHRSEM画像(日立(Hitachi)−S 4800で観察したもの)を示している。
SEM写真(図4)からは、MF−1(メソポーラスフラーレン)が、この紙面に対してZ−方向に配向していることが非常に明白であり、またメソポーラスフラーレンの粒径が約70nmであることも明らかである。この材料は、球形状を有する優れたモルホロジーを示している。メソポーラスフラーレン粒子の寸法はいずれも均一である。メソポーラスフラーレンの利点は、ナノ寸法の粒径を有することだけでなく、また、元のフラーレン分子の比表面積0.9m/g[Y.イー(Y. Ye)ら、アプライド・フィジクス・レターズ(Appl. Phys. Lett.)、第77巻(14)、2117〜2173頁(2000年)]に比べて非常に大きな比表面積を有することである。前記材料の組織パラメータ、例えば、比表面積、ポア容積及びポア直径は、窒素吸着測定法から得られた。この等温線(図3)には、シャープな毛管凝縮段階が、より高い相対圧で幅のあるH1−ヒステリシスループによって表されており、これは前記材料が、大きくて非常に規則正しい均一なメソポアを有していることを示している。この材料の比表面積は310.5m/gに達し、これは非多孔質フラーレンの比表面積よりも300倍大きい。他方、この材料のポア直径は、約3.53nmである。フラーレン分子間の共役は、非常に大きな比表面積を有するのみならず、非常に高い伝導性をも示しており、このことは、フラーレン分子中に存在するπ軌道間の相互作用に起因している。
【0017】
構造秩序及びモルホロジーを更に、HRTEM画像でも確認した。前記試料は、非多孔質フラーレンと同様の球状のモルホロジーを示している。これにより、ポアが、蜂の巣状の構造と均一なメソポーラス経路とを有する規則正しい様式で並んでいることが分かる(図5)。HRTEM画像は、JEOL−3000F装置で撮影した。粒径は非常に小さく、このことは様々な電気化学用途に極めて必要不可欠なことである。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明のメソポーラスフラーレンは、様々な電気化学用途に利用可能である。更に、本発明のメソポーラスフラーレンは、非常に強いπ−π相互作用を有することから、燃料電池用の支持体として利用することも可能であろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Martin Hartman: Chem. Mater., vol. 17, 4577-4593 (2005).
【非特許文献2】Kroto HW et al. :Nature(London), vol. 318, 162 (1985).
【非特許文献3】KraE tschmer W et al.: Nature (London), vol.347, 354 (1990).
【非特許文献4】Taylor R et al.: J. Chem. Soc. Chem. Commun. 1423 (1990).
【非特許文献5】Haufler R E et al. :J. Phys. Chem., vol.94, 8634 (1990).
【非特許文献6】Eletskii A V, Smirnov B M :Usp.Fiz. Nauk 163 (2) 33 (1993) [Phys.Usp. 36202 (1993)].
【非特許文献7】Eletskii A V, Smirnov B M :Usp.Fiz. Nauk, vol. 165, 977 (1995) [Phys.Usp., vol. 38, 935 (1995).].

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造がフラーレン凝集体から構成されている大きな比表面積を有する規則正しいメソポーラスフラーレン。
【請求項2】
前記メソポーラスフラーレンの比表面積が200m/gよりも大きい請求項1に記載のメソポーラスフラーレン。
【請求項3】
前記200m/gは窒素吸着法で測定したものである請求項2に記載のメソポーラスフラーレン。
【請求項4】
構造がフラーレン凝集体から構成されている大きな比表面積を有する規則正しいメソポーラスフラーレンを作製する方法であって、
(1)所定量のフラーレンを有機溶媒に溶解する工程、
(2)立方的Ia3d対称性を有する三次元の大きなポアのメソポーラスシリカ(KIT−6)の所定量を、前記有機溶媒に溶解した前記フラーレンに添加し、混合する工程、
(3)前記混合物を窒素雰囲気下で加熱して、約900℃に維持することで複合体を得る工程、
(4)前記複合体をHFで洗浄してシリカを除去する工程、及び
(5)得られた複合体を乾燥させる工程
を含むことを特徴とする作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−173924(P2010−173924A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−21407(P2009−21407)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】