説明

大動脈内バルーンの収縮タイミングを選択するための方法及び装置

本発明は、大動脈内バルーン(IAB)を収縮させるのに必要な時間と、ECGR波と心収縮期上昇行程との間の時間との比較に基づいて、大動脈内バルーン(IAB)についての出力タイミングモードを選択するための方法及び装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2006年1月5日に出願された米国仮特許出願第60/756,651号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、大動脈内バルーン(IAB)用の出力タイミングモードを、IABを収縮させるのに必要な時間と、対象/患者(subject)のECGR波と動脈圧の心収縮期上昇行程との間の時間との比較に基づいて、大動脈内バルーンポンプ(IABP)によって選択するための方法及び装置に関する。本発明は、R波によって開始されるか或いは前の心拍からの情報に基づいて予測される最も適当なIAB出力タイミングモードを先を見越して(proactively)選択する。
【背景技術】
【0003】
本件出願に亘り、様々な公開文献を括弧付きで言及する。これらの文献の詳細は、本明細書の末尾に記載してある。これらの公開文献の開示は、出典を明示することにより、開示された全ての内容が本明細書の開示の一部とされる。
【0004】
心機能が損なわれている対象/患者(subject)は、生体臓器への血液の供給がうまくいっていない場合がある。心臓の圧送作用及び全身の血液の供給は、大動脈内バルーンポンプ(IABP)を使用して大動脈内バルーン(IAB)を制御することによって改善できる。IABPは、心臓病の患者及び心臓手術の患者で使用される(バスケット等の2002年の文献及びメールホーン等の1999年の文献を参照されたい)。
【0005】
各心周期において、心臓の左心室の拍出期の終了時にIABをポンプデバイスで膨張させ、続いて起る拍出期の開始前に収縮させる。バルーン収縮を左心室の拍出に近付けるか或いは拍出と同時に行うことによって、全身の血行動態及び心筋の効率を改善できると教示されている(カーン等の1999年の文献を参照されたい)。IABPを最適に機能させるために、IABを心周期の正しい時間に膨張させ、収縮することが重要である。
【0006】
IABの膨張を制御するための方法及び装置は、例えば、サカモト等の1995年の米国特許第4,692,148号、米国特許第6,258,035号、米国特許第6,569,103号、及び米国特許第6,887,206号、及び米国特許出願第2004/0059183号及び米国特許出願第2005/0148812号に記載されている。
【0007】
IABの収縮は、対象の心臓の心電図(ECG)を使用してトリガーできる(TAオーレー等の2002年の米国特許第4,692,148号、米国特許第4,809,681号、米国特許第6,290,641号、及び米国特許第6,679,829号を参照されたい)。代表的には、IABの収縮のタイミングは、ECGトリガーに基づき、一般的には、R波の前に発生する。IABを収縮するための時間は、熟練者が心周期の所定時間に手動で設定できる。この手動による方法は、予測可能であり、前のECGトリガーに関連して行われる。このシステムの欠点は、心周期の加速又は減速毎に設定収縮時間が所望の収縮時間から外れてしまい、そのため、収縮時間を常に調節することが必要とされるということである。更に、収縮時間を所定の点で手作業で設定するため、心周期の予期せぬ加速又は減速が生じる心不整脈中に時間を適正に調節するのは困難である。不整脈は、多くの場合、IABPを必要とする対象で発生する。心周期のこれらの予測不能の加速又は減速により、多くの場合、心不整脈中にIABのR波収縮が使用される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
様々なIAB収縮モードの結果として生じ易い血行動態を評価し、この評価に基づいて収縮モードを選択し、臨床医が手作業で介入する必要なしにIABP治療の有効性を改善する、IABPに対する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、大動脈内バルーン(IAB)についての収縮タイミングを大動脈内バルーンポンプ(IABP)によって選択するための改良された方法を提供することによって上記必要を満たす。本発明の方法は、
a)前駆出期間(PEP)時間(T1)を決定する工程であって、T1は、対象の心電図(ECG)のR波と対象の動脈圧の心収縮期の上昇行程との間の時間である、工程と、b)IAB収縮時間(T2)から(PEP)時間(T1)を差し引く工程であって、T2は、収縮コマンドが出されたときからIABが収縮されるまでの時間である、工程と、c)T2−T1を閾値時間と比較する工程であって、閾値時間により、IABを心収縮期前に少なくとも部分的に収縮させることができる、工程と、d)T2−T1が閾値時間よりも短い場合、ECGのR波でトリガーされるIABの収縮モードを選択し、T2−T1が閾値時間と等しいか或いはそれよりも長い場合には、IABの収縮モードを、収縮時間を予測するため、前の心拍からの情報を使用し、これによりR波収縮の時間よりも収縮時間を早期にするように選択する工程とを含む。
【0010】
本発明は、IABについての収縮タイミングモードを選択するための装置を提供する。本発明の装置は、プロセッシングユニットを含み、このプロセッシングユニットは、a)前駆出期間(PEP)時間(T1)を決定する工程であって、T1は、対象の心電図(ECG)のR波と対象の動脈圧の心収縮期の上昇行程との間の時間である、工程と、b)IAB収縮時間(T2)から(PEP)時間(T1)を差し引く工程であって、T2は、収縮コマンドが出された時間からIABが収縮するまでの時間である、工程と、c)T2−T1を閾値時間と比較する工程であって、閾値時間により、IABを心収縮期前に少なくとも部分的に収縮させることができる、工程とを実施し、T2−T1が閾値時間よりも短い場合には、プロセッシングユニットは、ECGのR波でトリガーされるIABの収縮モードを選択し、T2−T1が閾値時間と等しいか或いはそれよりも長い場合には、プロセッシングユニットは、収縮時間を予測するために前の心拍からの情報を使用する収縮モードを選択する。
【0011】
本発明の方法及び装置は、最も適当な収縮タイミング方法及びトリガーモードを選択するために多数のパラメータを先を見越して表示することによってIABPタイミングの状態を進め、これによって、使用者の介在なしに不正確な即ち不適当なタイミングの危険を低減し、IABP治療の有効性を向上する。本発明は、対象の現在の状態を連続的に計測し、IABPトリガー及びタイミング決定を利用可能な新たな情報として更新するという点で動的である。
【0012】
本発明のこの他の目的は、以下の説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、大動脈内バルーン(LAB)についての収縮タイミングモードを大動脈内バルーンポンプ(LABP)によって選択するための方法及び装置に関する。本発明は、心拍の律動が正常な対象で使用できる。しかしながら、本発明は、心不整脈の対象で特に有用である。本発明は、人間を対象とする治療で使用してもよいし、獣医学で使用してもよい。
【0014】
本発明の方法は、以下の工程a)乃至d)を含む。
【0015】
工程a)は、前駆出期間(PEP)時間(T1)を決定する工程を含む。ここで、T1は、対象の心電図(ECG)のR波と対象の動脈圧の心収縮期の上昇行程との間の時間である。
【0016】
工程b)は、IAB収縮時間(T2)から(PEP)時間(T1)を差し引く工程を含む。ここで、T2は、収縮コマンドが出された時間からIABが収縮するまでの時間である。好ましくは、本明細書中で使用したように、IABは、90%乃至100%収縮させたときに収縮されたものと考えられる。
【0017】
工程c)は、T2−T1を閾値時間と比較する工程を含む。閾値時間により、IABを心収縮期前に少なくとも部分的に収縮させることができる。閾値時間は、次の心収縮期の上昇行程の前にIABから除去されるべき容積のパーセンテージを定めるように選択できる。好ましくは、選択された閾値時間により、IABを心収縮期前に約50%乃至70%収縮させることができる。IABの残りの容積は、心拡張期の最終圧力の上昇の可能性を表す。IABの残りの容積が大きい場合には、左心室は再び高い圧力を圧送しなければならず、好ましくは、閾値時間は60ms乃至90msである。最も好ましくは、閾値時間は76msである。選択された閾値時間の値は、IABを利用可能な時間の量(PEP)で特定容積の少なくとも50%まで収縮できるという信頼性を提供する。閾値時間の値が小さい場合には、IABが心収縮期前に大部分が収縮するという信頼性の程度が高い。逆に、閾値が大きい場合には、IABを心収縮期の開始時に50%まで収縮させる上での信頼性がほとんど又は全くない。収縮が血行動態的に遅れる可能性が高い
工程d)は、IABの収縮モードを選択する工程を含む。T2−T1が閾値時間よりも短い場合には、IABの収縮モードを、ECGのR波で開始するように選択する。T2−T1が閾値時間と等しいか或いはそれよりも長い場合には、IABの収縮モードを、収縮時間を予測するために、前の心拍からの情報を使用するように選択する。好ましくは、前の心拍からの予測情報を使用する収縮モードの場合、収縮モード時間がR波収縮の収縮時間よりも早期に生じる。前の心拍からの情報を使用して収縮時間を予測する収縮モードは、例えば、前の心拍から例えば8個の心拍までの心拍間時間を使用できる。心拍間時間は、平均できる。より早期の心拍(earlier heartbeat) からの情報よりも最近の心拍(recent heartbeat)からの情報を加重する場合、加重平均を使用してもよい。
【0018】
本発明は、更に、大動脈内バルーン(IAB)についての収縮タイミングモードを大動脈内バルーンポンプ(IABP)によって選択するための装置を提供する。この場合、装置は、以下の工程を実施するためのプロセッシングユニットを含む。即ち、
a)前駆出期間(PEP)時間(T1)を決定する工程、ここで、T1は、対象の心電図(ECG)のR波と、対象の動脈圧の心収縮期の上昇行程との間の時間であり、
b)(PEP)時間(T1)をIAB収縮時間(T2)から差し引く工程、ここで、T2は収縮コマンドの発生から、IABが収縮する、好ましくは90%乃至100%収縮するまでの時間であり、
c)T2−T1を閾値時間と比較する工程、ここで、閾値時間により、IABを心収縮期前に少なくとも部分的に収縮させることができ、
T2−T1は、閾値時間よりも短く、プロセッシングユニットは、ECGのR波によってトリガーされたIABの収縮モードを選択し、T2−T1が閾値時間と等しいか或いはそれよりも長い場合には、プロセッシングユニットは、収縮時間を予測するために、前の心拍からの情報を使用する収縮モードを選択し、これにより、好ましくは、収縮時間をR波収縮の収縮時間よりも早期にする。
【0019】
好ましくは、装置は、対象の心電図(ECG)からの入力及び対象の動脈圧(AP)からの入力、IAB収縮時間(T2)及び閾値時間を入力するための入力、及び対象の心電図(ECG)及び/又は対象の動脈圧から対象の心不整脈を検出するためのプロセッシングユニットを含む。好ましくは、装置は、IABの収縮をトリガーする出力を更に含む。装置は、大動脈内バルーンポンプコンソールシステムに組み込まれていてもよい。
【0020】
方法又はプロセッシングユニットは、更に、数回の心拍、例えば20回の心拍の期間についてのT2−T1の値を計算した後、T2−T1が20回の心拍の期間についての、又は幾つかの例えば三つの連続した20回の心拍期間についての閾値時間よりも大きいか、これよりも小さいか、又は等しいかに基づいてトリガーモードを選択する。
【0021】
方法又はプロセッシングユニットは、収縮タイミング評価期間中、R波について生じる収縮の回数を決定する工程を更に含んでいてもよく、R波について生じる収縮の回数が閾値を越えた場合には、収縮トリガーを予測するために前の心拍からの情報を使用する収縮モードを選択する。収縮トリガーは、次の心収縮期上昇行程前にIABから除去されるべき容積のパーセンテージをターゲットする。閾値は、例えば、20回の心拍の期間中、R波について収縮が14回生じる値であってもよい。
【0022】
方法又はプロセッシングユニットは、例えば、収縮タイミング評価期間中、T2−T1が76msよりも短い場合、及びR波についての収縮の発生数が20回の心拍毎に15回よりも少ない場合、ECGのR波によってトリガーされるIABの収縮のモードを選択する。
【0023】
本発明を、本発明の理解を促すために記載した以下の実験の詳細な説明に例示する。この説明は、特許請求の範囲に定義した本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0024】
実験の詳細な説明
序説
現在のIABPシステムは、二つの方法のうちの一方の方法で、収縮タイミングを、予測により又は実時間で設定する。予測収縮タイミングを使用する場合には、ポンプは前の拍動からの情報(経時平均(historical average))を使用し、次の心収縮期上昇行程前に除去しなければならない容積のパーセンテージをターゲットする。第2の方法は、R波で収縮を開始する(実時間)。この方法は、多くの場合、不整脈期間中に使用される。
【0025】
これらの場合の両方において、タイミング方法に対する唯一の刺激は、不整脈が存在するかどうかであり、現在の情況に関して一方の方法又は他方の方法が臨床的により適しているかどうかを決定する積極的評価はなされない。幾つかのポンプは、収縮タイミングの設定を積極的に移動し、最終的な心拡張期圧力に及ぼされる結果を評価し、その圧力を大幅に減少する。しかしながら、これらのポンプは、収縮タイミングの有効性を決定する状態を先を見越して評価はしない。更に、それらは、タイミングの設定後に行われる唯一の評価展開でもあり、現在の患者及びポンプ状態に対して適切な収縮方法を評価し設定する上で先を見越して行うものではない。
【0026】
本発明の例
本発明では、収縮タイミング評価は、例えば、不整脈がIABPによって検出された場合に実施できる比較方法である。この方法は、前駆出期間時間(T1)を、バルーン収縮速度(T2)と、T2−T1=計算した閾値の方程式で比較する。
【0027】
T2は、IABからヘリウムの90%乃至100%を除去するための総時間を表す。T1は、R波収縮を実施する場合にIABの収縮に利用可能な時間を表す。
【0028】
計算した閾値即ちΔ値は、利用可能な時間の量(PEP)でIABを少なくとも50%値まで収縮できる信頼性を提供する。計算したΔ値が小さい場合には、信頼性が高く、IABは心収縮拍出期前にほとんど収縮される。逆に、計算したΔ値が大きい場合には、信頼性がほとんど又は全くなく、心収縮拍出の開始時のIABの収縮は50%程度である。この場合、収縮が血行動態的に遅れる可能性が高い。
【0029】
閾値は、50%収縮の最小値と一致する計算したΔ値の限度を表す。実際、現在の方法は、保存的であろうとし、心収縮拍出前のIABの収縮が70%に近いことを必要とする。閾値が小さければ小さい程、心収縮拍出の開始前にIABから除去されるヘリウムの量が大きい。これは、PEPが長いため、又はIABの収縮速度が速いためである。逆に、容積が大きければ大きい程、ヘリウムをIABから除去するための時間が短い。これは、PEPが短いためであり、又はIABの収縮速度がゆっくりとしているためである。
【0030】
この情報に基づき、及び心収縮拍出の開始前にヘリウムの少なくとも50%を除去するという目的により、閾値を決定するために一連の実験を行った。
【0031】
これらの実験は、様々な収縮速度の幾つかの様々なIABカテーテルを試験した。収縮タイミングが最終的な心拡張期圧力に及ぼされる効果を、様々な閾値及び様々なIABを使用して評価した。適合する判断基準は、最終的な心拡張期圧力が最終的な心拡張期圧力よりも僅かに高いということであったが、心収縮期上昇行程を維持しなければならない。この試験に基づき、76msの閾値の値が広範な状態についての適合する値であったと結論付けられた。
【0032】
シミュレーション手順
様々な心拍数及び心拍律動を含む様々なECG信号を発生する一連の患者シミュレーターを使用した。これらの信号は、IABP用の及びシミュレートが行われる大動脈についての入力として使用される。シミュレートがなされた大動脈は、チューブ、調節自在の柔軟なチャンバ、及び生理学的シミュレーターからのECG信号によって駆動され、患者と同様の動脈圧を発生するバルブで形成されている。大動脈は、その大動脈にIABカテーテルを挿入できる開口部を有する。更に、PEP値、心収縮期パルスの振幅及び持続時間、及び心拡張期圧力レベルを変化させることができる。これにより、臨床的に見られる様々な条件で試験を行うことができる。
【0033】
大動脈の圧力は、トランスジューサーを使用して計測される。これは、従来の流体トランスジューサー(ホイートストンブリッジ)又は光ファイバ圧力センサのいずれかを使用して行われる。圧力は、IABPに連結される。IABPデータ出力を、使用されたパラメータを監視し、アルゴリズムの評価結果を示すための特別の診断ソフトウェアが入ったコンピュータに連結する。
【0034】
ポンプを作動させ、ポンプの補助が存在する状態にしたとき、シミュレートされる大動脈の圧力変化は、実際の患者の圧力変化と同様である。ECGの入力及び大動脈の状態を変化させることによって、アルゴリズムの性能及び決定を観察できる。
【0035】
IABP収縮モードの選択例
不整脈が検出されたとき、ポンプは、収縮タイミング評価期間を開始し、いずれの収縮モードを使用するのかを決定する。
【0036】
87%でなく105%のIAB収縮速度を使用し、収縮タイミングを早期に移動する。その結果、ECGR波と動脈圧上昇行程との間の時間期間の計測が正確になる。この期間は、前駆出期間即ちPEP(図1参照)として知られている。PEPは、IAB収縮タイミングの有効性における重要なファクタである。この情報をT1として記録する。
【0037】
IABPの収縮タイミングを計測し、ソフトウェアによってT2としてセーブする(図2参照)。
【0038】
不整脈は、不規則な律動を発生するため、収縮点がR波で発生する可能性が高い。R波収縮が生じた回数を記録し、セーブする。
【0039】
上文中に説明したように記録した情報により、以下の比較を行う。即ち
1)20回の拍動期間に亘り、各拍動についてT2−T1を計算する。
2)この値を、心収縮期拍出の開始時に収縮が約50%完了していなければならないことを示す臨床的情報を使用して得られた閾値(76ms)と比較する。様々な制御下の条件で様々なデバイスを使用して実験を行い、適当な閾値を決定する。
3)連続した20回の拍動セグメントのうちの3つの拍動セグメントの各々についてのT2−T1の値が<76msである場合には、R波収縮は適合し、R波収縮モードがIABPによって選択される。
4)連続した20回の拍動セグメントのうちの3つの拍動セグメントの各々についてのT2−T1の値が≧76msである場合には、R波収縮は適合せず、遅延収縮を発生しやすく、IABPによって予測収縮モードが選択される。
5)収縮タイミング評価期間中にR波で生じる収縮の回数を記録する。「ヒット」回数が>14である場合には、優勢な律動は非常に不規則であり、予測収縮モードが選択される。
【0040】
この情報の評価を連続的に更新し、タイミング方法及びトリガーモードを現在の条件に基づいて更新する。
【0041】
図3は、R波収縮と関連したECG、AP、及びバルーン速度の間の関係を概略に示す。T2−T1値の計算を示す。
【0042】
計算したT2−T1の値を閾値と比較することによって、収縮タイミングの適合した方法を決定でき、その方法を使用するトリガーモードを選択できる。図4は、収縮タイミングモードの選択の概略図を示す。
【0043】
T2−T1に対する閾値は、大動脈を様々な条件で実験すること、並びにIABPシステムの算術的モデル化によって決定される。最終的な心拡張期圧力の上昇を小さくでき、次の心収縮期上昇行程前にIABを約70%収縮させることができることが目的である。様々なIABカテーテルを使用し、大動脈の条件を変化させることにより、適当な閾値が76msであると決定された。このことは、R波収縮を使用する場合、IAB収縮時間がPEPよりも少なくとも76ms長くなければならないということを意味する。IABは、R波で20回の拍動で収縮できる回数が14回又はそれ以下であり、時間の約70%である。これらの値を閾値として設定した。以下のように実施される。
【0044】
T2−T1<76msであり且つR波ヒット<15回である場合には、R波収縮が許容され、IABPによって選択される。
【0045】
この他の全ての場合において、ポンプは予測収縮(R波前に収縮が生じる)を選択する。
【0046】
シミュレートした大動脈を使用し、心拍数、心拍律動、バルーン速度、及びPEP値の値を変化させ、その結果を観察する。全ての場合において、IABPが適切に応答し、最終的な心拡張期圧力を臨床的に適合したレベルよりも高い値まで上昇させることはない。
【0047】
参考文献
「心臓手術における大動脈内バルーンポンプ」胸郭手術年鑑74(4):1276−87(2002年)バスケットRJ、ジャリWA、メイトランドA、ヒルシュGM、
「患者における新規な大動脈内バルーンカウンタパルスタイミング法の血行動態的効果(多センタ評価)」米国心臓学会誌137:1129−6(1999年)カーンM、アグレF、カラッシオーロE、バッハR、デノヒューT、ラソーダD、オーマンM、シュニッツラーR、キングD、オーレーW、グレイゼルJ、
「30年臨床大動脈内バルーンポンプ詳細」胸郭心臓手術47補遺2:298−303(1999年)、メールホーンU、クローナーA、デヴィヴィエER
「不整脈に応答する大動脈内バルーンポンプ(アルゴリズムの開発及び実行)」心臓血管学51(5)483−7(2002年)オーレーWJ、ニグローニP、ウィリアムスJ、ハミルトンR、
「心房細動の患者における大動脈内バルーンポンプの新規なアルゴリズム」ASAIO誌41:79−83(1995年)サカモトT、アライH、トシユキM、スズキA
1987年9月8日にカントロヴィッツ等に付与された「大動脈内バルーンポンプ装置及びその使用方法」という表題の米国特許第4,692,148号、
1989年3月7日にカントロヴィッツ等に付与された「大動脈内バルーンポンプを制御するための心電図計測方法」という表題の米国特許第4,809,681号、
2001年7月10日にホクセル等に付与された「心周期における特徴点を決定するためのデバイス」という表題の米国特許第6,258,035号、
2001年9月18日にニグローニ等に付与された「大動脈内バルーン収縮タイミングを心電図に基づいて自動的に変化させる大動脈内バルーンポンプ」という表題の米国特許第6,290,641号、
2003年5月27日にホクセル等に付与された「心周期における特徴点を決定するためのデバイス」という表題の米国特許第6,569,103号、
2004年1月20日にニグローニ等に付与された「大動脈内バルーン収縮タイミングを心電図に基づいて自動的に変化させる大動脈内バルーンポンプ」という表題の米国特許第6,678,829号、
2005年3月3日にホクセル等に付与された「心周期における特徴点を決定するためのデバイス」という表題の米国特許第6,887,206号、
2004年3月25日にヤンセン等に付与された「心臓補助デバイスを制御するための装置」という表題の米国特許公開第2004/0059183号、
2005年7月7日にニグローニ等に付与された「大動脈内バルーンポンプ治療のタイミング」という表題の米国特許公開第2005/0148812号。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、PEP(前駆出期間)T1計測のグラフである。PEPは、ECG(上側の曲線)で検出されたトリガー点から、動脈圧(下側の曲線)上昇行程が検出された点まで計測される。ECGのQRSコンプレックスのR波は、矢印及び斜めの線によって表示された大きなピークである。T波がQRSコンプレックスの後に発生する場合、P波がQRSコンプレックスに先行する。
【図2】図2は、収縮時間T2を示す。T2は、収縮開始から収縮終了までの時間である。ECGを上側の曲線に示す。R波収縮を使用する場合には、トリガー点が検出されたときに収縮を開始する。収縮は、バルーン圧力波形(下側の曲線)が基準線に戻ったときに終了する。これは、ヘリウムの少なくとも90%がIAB(バルーン)からIABP(ポンプ)に戻されたことを示す。
【図3】図3は、心電図(ECG)、動脈圧(AP)、及び大動脈内バルーン(バルーン)速度の間の関係をR波収縮に関して示す概略図である。T2−T1値の計算を示す。IABに残るヘリウム(He)の量を示す。グラフの左側が100%であり、右側が<10%である。グラフの残留Heの%の上方に閾値の値が示してある。この図では、閾値の値は、Heの約70%がIABから除去された点を表す。この点を、He残留%の30%に示す。
【図4】図4は、収縮タイミングのモードの選択の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大動脈内バルーン(IAB)についての収縮タイミングモードを大動脈内バルーンポンプ(IABP)によって選択する方法において、
a)前駆出期間(PEP)時間(T1)を決定する工程であって、T1は、測定対象の心電図(ECG)のR波と前記対象の動脈圧の心収縮期の上昇行程との間の時間である、工程と、
b)IAB収縮時間(T2)から(PEP)時間(T1)を差し引く工程であって、T2は、収縮コマンドが出されたときから前記IABが収縮されるまでの時間である、工程と、
c)T2−T1を閾値時間と比較する工程であって、前記閾値時間は、前記IABが心収縮期前に少なくとも部分的に収縮されることを許容する、工程と、
d)T2−T1が前記閾値時間よりも短い場合、前記ECGの前記R波によってトリガーされる前記IABの収縮モードを選択し、T2−T1が前記閾値時間と等しいか或いはそれよりも長い場合には、収縮時間を予測するために前の心拍からの情報を使用する前記IABの収縮モードを選択する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、
前記対象は、心不整脈を患っている、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、
前記閾値時間は、次の心収縮期上昇行程の前に前記IABから除去されるべき容積の%をターゲットとする、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、
前記閾値時間により、前記IABを心収縮期前に約50%乃至70%収縮させることができる、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、
前記閾値時間は60ms乃至90msである、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、
前記閾値時間は70ms乃至80msである、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、
前記閾値時間は約76msである、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、
前の心拍からの予測情報を使用する収縮モードにより、収縮時間が、R波収縮の収縮時間よりも早期に生じる、方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法において、更に、
20回の心拍の期間についてのT2−T1の値を計算する工程と、
T2−T1が、三つの連続した20回心拍期間の各々についての前記閾値時間よりも大きいか、小さいか、或いは等しいかに基づいてトリガーモードを選択する工程と、を含む、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法において、更に、
収縮タイミング評価期間中に、前記R波で生じる収縮回数を決定する工程を含み、
前記R波で生じる収縮回数が閾値を越えた場合、次の心収縮期上昇行程の前に前記IABから除去されるべき容積のパーセンテージをターゲットとする収縮トリガーを予測するために、前の心拍からの情報を使用する収縮モードを選択する、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、
前記閾値は、20回心拍期間中に前記R波で収縮が14回生じることである、方法。
【請求項12】
請求項9に記載の方法において、
収縮タイミング評価期間中、T2−T1が76msよりも小さい場合、及び前記R波での収縮の発生回数が、20回の心拍で15回よりも少ない場合、前記ECGの前記R波によってトリガーされる前記IABの収縮モードを選択する工程を含む、方法。
【請求項13】
大動脈内バルーン(IAB)についての収縮タイミングモードを大動脈内バルーンポンプ(IABP)によって選択するための装置において、該装置はプロセッシングユニットを含み、このプロセッシングユニットは、
a)前駆出期間(PEP)時間(T1)を決定する工程であって、T1は、測定対象の心電図(ECG)のR波と前記対象の動脈圧の心収縮期の上昇行程との間の時間である、工程と、
b)IAB収縮時間(T2)から(PEP)時間(T1)を差し引く工程であって、T2は、収縮コマンドが出されたときからIABが収縮されるまでの時間である、工程と、
c)T2−T1を閾値時間と比較する工程であって、前記閾値時間は、前記IABが心収縮期前に少なくとも部分的に収縮されることを許容する、工程と、を実施し、
T2−T1が前記閾値時間よりも短い場合には、前記プロセッシングユニットは、前記ECGの前記R波によってトリガーされる前記IABの収縮モードを選択し、T2−T1が前記閾値時間と等しいか或いはそれよりも長い場合には、前記プロセッシングユニットは、収縮時間を予測するために前の心拍からの情報を使用する収縮モードを選択する、装置。
【請求項14】
請求項13に記載の装置において、
前記装置は、前記対象の心電図(ECG)からの入力を含む、装置。
【請求項15】
請求項13に記載の装置において、
前記装置は、前記対象の動脈圧からの入力を含む、装置。
【請求項16】
請求項13に記載の装置において、
前記装置は、前記対象の心電図(ECG)及び/又は前記対象の動脈圧から前記対象の心不整脈を検出するためのプロセッシングユニットを含む、装置。
【請求項17】
請求項13に記載の装置において、
前記閾値時間は、次の心収縮期上昇行程の前に前記IABから除去されるべき容積のパーセンテージをターゲットとする、装置。
【請求項18】
請求項17に記載の装置において、
前記閾値時間により、前記IABを心収縮期前に約50%乃至70%収縮させることができる、装置。
【請求項19】
請求項13に記載の装置において、
前記閾値時間は60ms乃至90msである、装置。
【請求項20】
請求項13に記載の装置において、
前記閾値時間は70ms乃至80msである、装置。
【請求項21】
請求項13に記載の装置において、
前記閾値時間は76msである、装置。
【請求項22】
請求項13に記載の装置において、
前の心拍からの予測情報を使用する収縮モードにより、収縮時間が、R波収縮の収縮時間よりも早期に生じる、装置。
【請求項23】
請求項13に記載の装置において、
前記プロセッシングユニットは、20回の心拍の期間についてのT2−T1の値を計算し、T2−T1が、三つの連続した20回心拍期間の各々についての前記閾値時間よりも大きいか、小さいか、或いは等しいかに基づいてトリガーモードを選択する、装置。
【請求項24】
請求項13に記載の装置において、
前記プロセッシングユニットは、収縮タイミング評価期間中に、前記R波で生じる収縮回数を決定し、前記R波で生じる収縮回数が閾値を越えた場合、前記プロセッシングユニットは、次の心収縮期上昇行程の前に前記IABから除去されるべき容積のパーセンテージをターゲットとする収縮トリガーを予測するために、前の心拍からの情報を使用する収縮モードを選択する、装置。
【請求項25】
請求項24に記載の装置において、
前記閾値は、20回心拍期間中に前記R波で収縮が14回生じることである、装置。
【請求項26】
請求項23に記載の装置において、
前記プロセッシングユニットは、収縮タイミング評価期間中、T2−T1が76msよりも小さい場合、及び前記R波での収縮の発生回数が、20回の心拍で15回よりも少ない場合、前記ECGの前記R波によってトリガーされる前記IABの収縮モードを選択する、装置。
【請求項27】
請求項13に記載の装置において、
前記装置は、前記IABの収縮をトリガーする出力を含む、装置。
【請求項28】
請求項13に記載の装置において、
前記装置は、大動脈内バルーンポンプコンソールシステムに組み込まれている、装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−522046(P2009−522046A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549476(P2008−549476)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2006/046299
【国際公開番号】WO2007/081454
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(502047224)アロウ・インターナショナル・インコーポレイテッド (14)
【氏名又は名称原語表記】ARROW INTERNATIONAL, INC.
【住所又は居所原語表記】2400 Bernville Road, Reading, PA 19605, U.S.A.
【Fターム(参考)】