説明

大口径レンズ

【課題】 Fナンバの小さい大口径レンズであっても絞りに対応したレンズ部の位置を補正することによりレンズ部における球面収差の影響を最小にして、撮影画質をより高めるとともに、大口径レンズ全体の小型コンパクト化及び軽量化、更にはコストダウンに寄与する。
【解決手段】 絞り調整を行うマニュアル操作用の絞りリング3及びフォーカス調整を行うマニュアル操作用のフォーカスリング4を備える大口径レンズ1を構成するに際して、絞りリング3の回動変位量を、軸方向Daの変位量に運動変換することにより内蔵するレンズ部2に伝達し、当該レンズ部2を軸方向Daへ変位させることにより、少なくとも絞りに対応してレンズ部2の位置を補正するレンズ位置補正機構Msを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも、絞り調整を行うマニュアル操作用の絞りリング及びフォーカス調整を行うマニュアル操作用のフォーカスリングを備える大口径レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フィルムカメラ等のカメラボディに着脱する交換レンズであって、絞り調整を行うマニュアル操作用の絞りリング及びフォーカス調整を行うマニュアル操作用のフォーカスリングを備えるFナンバが1.4以下の大口径レンズでは、最前部に位置するレンズに入射する軸上光線高が大きいため、球面収差の補正が容易でない問題がある。
【0003】
このため、従来、このような大口径レンズにおける球面収差を良好に補正できるようにした大口径レンズも提案されており、例えば、特許文献1には、基本構成として、物体側から順に、正の屈折力を有する前群レンズ、絞り、及び正の屈折力を有する後群レンズとからなり、前群レンズは物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ、正の屈折力を有する第2レンズ、正の屈折力を有する第3レンズ、及び負の屈折力を有する第4レンズにより構成され、レンズの焦点距離を一定の条件式(0.7<f1/f3<7.0)を満足するようにした大口径レンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−160615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した特許文献1の大口径レンズをはじめ、従来の大口径レンズは次のような問題点があった。
【0006】
第一に、球面収差に対する補正は、内蔵するレンズ自体の変更、即ち、レンズの形状変更(非球面化)やレンズの組合わせ等の構成変更により行っていたため、補正できる範囲(補正量)には限界を生じる。特に、Fナンバが小さくなるに従って大きな補正量を必要とするため、高性能の大口径レンズに対して十分な補正を行うことができず、結局、撮影画質の低下を強いられるなど、大口径レンズの性能を十分に生かすことができない。
【0007】
第二に、レンズの形状変更やレンズの組合わせ等の構成変更により球面収差を補正するため、非球面レンズを含むレンズ枚数の増加を招く傾向がある。したがって、大口径レンズ全体のサイズアップ及び重量アップを生じやすいとともに、全体のコストアップも無視できない。
【0008】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した大口径レンズの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述した課題を解決するため、少なくとも、絞り調整を行うマニュアル操作用の絞りリング3及びフォーカス調整を行うマニュアル操作用のフォーカスリング4を備える大口径レンズ1を構成するに際して、絞りリング3の回動変位量を、軸方向Daの変位量に運動変換することにより内蔵するレンズ部2に伝達し、当該レンズ部2を軸方向Daへ変位させることにより、少なくとも絞りに対応してレンズ部2の位置を補正するレンズ位置補正機構Msを備えることを特徴とする。
【0010】
この場合、発明の好適な態様により、フォーカスリング4の回動変位に対応して軸方向Daに変位する中間筒5の外周面5eに、絞りリング3を支持し、かつ中間筒5の内周面5iに、レンズ部2を保持するレンズ保持筒6を支持するとともに、絞りリング3とレンズ保持筒6間に、カム機構Mscを用いたレンズ位置補正機構Msを配設することができる。この際、カム機構Mscは、絞りリング3の内周面の螺旋方向Dsに設けた少なくとも一つのカム溝3c…と、中間筒5に貫通形成し、かつ軸方向Daに設けた少なくとも一つの規制孔5h…と、レンズ保持筒6の外周面から径方向に突出し、かつ規制孔5h…及びカム溝3c…に同時に係合する従動子7…を備えて構成できる。なお、絞りリング3及び中間筒5には、絞りリング3の回動変位をレンズ保持筒6に備える絞り機構8に伝達する伝達部材9の軸方向Da変位を許容する変位許容部11,12を設ける。また、レンズ保持筒6は、レンズ部2の全部又は一部を保持することができる。
【発明の効果】
【0011】
このような構成を有する本発明に係る大口径レンズ1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0012】
(1) レンズ位置補正機構Msにより、絞りリング3の回動変位量を、軸方向Daの変位量に運動変換することにより内蔵するレンズ部2に伝達し、当該レンズ部2を軸方向Daへ変位させることにより、少なくとも絞りに対応してレンズ部2の位置を補正するようにしたため、レンズ位置補正機構Msの単独又はレンズ形状等の他の補正手段と組合わせることにより、Fナンバの小さい大口径レンズ1であっても、レンズ部2における球面収差の影響を最小にして、撮影画質をより高めることができるなど、大口径レンズ1の性能を十分に生かすことができる。
【0013】
(2) レンズ位置補正機構Msによりレンズ部2の位置を補正するため、基本的には内蔵するレンズ部2自体の形状変更や構成変更等を排除できるとともに、レンズ部2自体の形状変更や構成変更等を伴う場合であっても、より小さい変更で足りる。したがって、レンズ自体のコストダウンや使用枚数の削減が可能となり、大口径レンズ1全体の小型コンパクト化及び軽量化、更にはコストダウンに寄与することができる。
【0014】
(3) 好適な態様により、フォーカスリング4の回動変位に対応して軸方向Daに変位する中間筒5の外周面5eに、絞りリング3を支持し、かつ中間筒5の内周面5iに、レンズ部2を保持するレンズ保持筒6を支持するとともに、絞りリング3とレンズ保持筒6間に、カム機構Mscを用いたレンズ位置補正機構Msを配設するようにすれば、既存の構成部品を直接利用可能となるため、小型コンパクト化に寄与できる。
【0015】
(4) 好適な態様により、カム機構Mscを、絞りリング3の内周面の螺旋方向Dsに設けた少なくとも一つのカム溝3c…と、中間筒5に貫通形成し、かつ軸方向Daに設けた少なくとも一つの規制孔5h…と、レンズ保持筒6の外周面から径方向に突出し、かつ規制孔5h…及びカム溝3c…に同時に係合する従動子7…により構成するようにすれば、少ない追加部品により目的のレンズ位置補正機構Msを容易かつ低コストに実現することができる。
【0016】
(5) 好適な態様により、絞りリング3及び中間筒5に、絞りリング3の回動変位をレンズ保持筒6に備える絞り機構8に伝達する伝達部材9の軸方向変位を許容する変位許容部11,12を設ければ、レンズ位置補正機構Msを配設した場合であっても、当該レンズ位置補正機構Msの影響を受けることなく、本来の絞り機構8をそのまま機能させることができる。
【0017】
(6) 好適な態様により、レンズ保持筒6により、レンズ部2の全部又は一部を保持するようにすれば、補正に使用するレンズ部2を選択するなどにより、より的確かつ緻密な補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適実施形態に係る大口径レンズの上半部を示す図3中X−X線を含む断面側面図、
【図2】同大口径レンズに用いる中間筒及び絞りリング補助筒(仮想線)を平面上に展開した状態を示す模式図、
【図3】同大口径レンズに用いる中間筒及び絞りリング補助筒の一部構成図、
【図4】同大口径レンズの一部を破断した外観側面図、
【図5】同大口径レンズに備えるレンズ位置補正機構により補正されるレンズ部の位置を含む球面収差特性図、
【図6】同大口径レンズにレンズ位置補正機構を設けた場合の被写体の距離(逆数)に対する被写体深度特性図、
【図7】同大口径レンズからレンズ位置補正機構を除いた場合の被写体の距離(逆数)に対する被写体深度特性図、
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
まず、本実施形態に係る大口径レンズ1の構成について、図1〜図4を参照して説明する。
【0021】
例示の大口径レンズ1は、交換レンズであり、フィルムカメラ又はデジタルカメラ等のカメラボディ100(図4)に着脱することができる。51は、大口径レンズ1における実質的なレンズ鏡筒を構成する固定筒部であり、この固定筒部51は、外筒部52,内筒部53及びバヨネット結合部54を備え、当該バヨネット結合部54がカメラボディ100の前面に設けたレンズマウント部に着脱する。
【0022】
4は、フォーカス調整を行うマニュアル操作用のフォーカスリングであり、このフォーカスリング4の外周面後部は外筒部52の内周面前部に螺合する。さらに、フォーカスリング4の内側には、中間筒5を配し、この中間筒5の外周面後部に設けた雄ネジ部5s(ヘリコイドネジ)はフォーカスリング4の内周面後部に設けた雌ネジ部4n(ヘリコイドネジ)に螺合する。この場合、中間筒5の外周面後部に、径方向に突出し、かつ周方向に等間隔で配した三つの凸部5m…を設け、この凸部5m…の径方向先端面にそれぞれ雄ネジ部5s…を形成する(図2参照)。そして、各凸部5m…間に、上述した内筒部53における前方に突出形成した三つの前部53f…を位置させるとともに、各前部53f…に軸方向Daに沿った第一規制孔53s…を形成し、この第一規制孔53s…に、中間筒5の外周面後部から径方向に突出させた従動子55…を係合させる。なお、従動子55…は、ローラ状に構成し、軸部により回動自在に支持される。図2中、21…は、従動子55…の軸部を構成する取付ネジ55s…が螺着するネジ孔部を示す。これにより、中間筒5は回動方向の変位が規制され、軸方向Daの変位のみが許容される。
【0023】
また、フォーカスリング4の後端には内部伝達筒56の前端を結合する。この内部伝達筒56は内筒部53の後部の外周面に支持され、さらに、内筒部53の後部の内周面には外部伝達筒57が支持される。この場合、内部伝達筒56の周面には、周方向に等間隔で配した三つのカム溝56s…を形成するとともに、内筒部53の後部には、軸方向Daに沿った三つの第二規制孔53t…を各カム溝56s…に対応させて形成し、外部伝達筒57の外周面から径方向に突出させた三つの従動子58…を、対応する各第二規制孔53t…及びカム溝56s…に同時に係合させる。なお、従動子58…はローラ状に構成し、軸部により回動自在に支持される。これにより、フォーカスリング4をマニュアル操作により回動変位させれば、外部伝達筒57が軸方向Daに変位する。即ち、フォーカスリング4の回動変位量は運動変換され、外部伝達筒57の軸方向Daの変位量として外部に機械的に出力する。したがって、外部伝達筒57の後端をカメラボディ100に備えるレンジファインダにリンクする被伝達部に係合させれば、大口径レンズ1からカメラボディ100側にフォーカシングに係わる情報を機械的に伝達することができる。
【0024】
一方、3は、絞り調整を行うマニュアル操作用の絞りリングであり、中間筒5の前部の外周面5eに支持される。さらに、中間筒5の前部の内周面5iには、レンズ部2を保持するレンズ保持筒6が支持される。この場合、レンズ保持筒6は前レンズ枠61と後レンズ枠62を備え、前レンズ枠61により第一レンズLaと第二レンズLbが保持されるとともに、後レンズ枠62により第三レンズLcが保持される。なお、各レンズLa,Lb,Lcには、単レンズのみならずレンズ群や複合レンズなども含まれる。
【0025】
そして、絞りリング3とレンズ保持筒6間には、本実施形態に係る大口径レンズ1の要部を構成するレンズ位置補正機構Msを配設する。レンズ位置補正機構Msは、絞りリング3の内周面に設けた螺旋方向Dsに沿った三つのカム溝3c…と、中間筒5に貫通形成し、かつ軸方向Daに沿った三つの規制孔5h…と、レンズ保持筒6の外周面から径方向に突出し、かつ規制孔5h…及びカム溝3c…に同時に係合する三つの従動子7…を備えるカム機構Mscにより構成する。この場合、各カム溝3c…は周方向に等間隔で配するとともに、各規制孔5h…及び各従動子7…は、各カム溝3c…に対応させて設ける。また、絞りリング3は、外側に配するリング本体22と内側に配することによりリング本体22の内周面に固定したリング補助筒23からなり、各カム溝3c…はリング補助筒23に貫通形成する。さらに、一つのカム溝3c(他のカム溝3c…も同じ)は、図3に示すように軸方向Daに対する直角方向Dxに対して角度Rsだけ傾斜する螺旋方向Dsに設ける。なお、従動子7…は、ローラ状に構成し、軸部により回動自在に支持される。
【0026】
このようなレンズ位置補正機構Msの構成により、絞りリング3をマニュアル操作により回動変位させれば、中間筒5は回動方向の変位が規制されているため、レンズ保持筒6に保持されるレンズ部2は軸方向Daへ変位する。この際、絞りリング3の回動変位量は、カム機構Mscにより軸方向Daの変位量に運動変換されるため、カム溝3c…を形成するに際しては、少なくともレンズ部2による球面収差の影響が最も小さくなるように、角度Rs及び形状を選定する。即ち、Fナンバが1.4以下の大口径レンズの場合、絞り(F値)の大きさはレンズの球面収差に大きく影響するため、レンズはフィルムに対して、より前方に位置させれば、球面収差の影響は小さくなる。したがって、絞りリング3の回動変位量、即ち、F値に対応して最適なレンズ位置が得られるように、カム溝3cの角度Rs及び形状を選定する。この場合、カム溝3cは、螺旋方向Dsに沿って直線であってもよいし、球面収差に対応させた任意のカーブ(経路)であってもよい。なお、図2中、24…は、リング本体22とリング補助筒23を固定するための固定ネジが螺着するリング補助筒23に設けたネジ孔部を示すとともに、25は、中間筒5の外周面5eの前端部に螺着してリング補助筒23を規制する規制リングを示す。
【0027】
このように、フォーカスリング4の回動変位に対応して軸方向Daに変位する中間筒5の外周面5eに、絞りリング3を支持し、かつ中間筒5の内周面5iに、レンズ部2を保持するレンズ保持筒6を支持するとともに、絞りリング3とレンズ保持筒6間に、カム機構Mscを用いたレンズ位置補正機構Msを配設するようにすれば、既存の構成部品を直接利用可能となるため、小型コンパクト化に寄与できる利点がある。また、絞りリング3の内周面の螺旋方向Dsに設けた三つのカム溝3c…と、中間筒5に貫通形成し、かつ軸方向Daに設けた三つの規制孔5h…と、レンズ保持筒6の外周面から径方向に突出し、かつ規制孔5h…及びカム溝3c…に同時に係合する従動子7…により、カム機構Mscを構成すれば、少ない追加部品により目的のレンズ位置補正機構Msを容易かつ低コストに実現できる。
【0028】
他方、レンズ保持筒6の内部であって、第二レンズLbと第三レンズLc間には絞り機構8を配設するとともに、この絞り機構8の入力操作部には伝達部材9の内端を結合する。これにより、伝達部材9を周方向一方へ回動変位(旋回変位)させれば、絞りを大きく(開度を小さく)することができるとともに、伝達部材9を周方向他方へ回動変位させれば、絞りを小さく(開度を大きく)することができる。また、伝達部材9は径方向に延設した係合シャフト31を有し、この係合シャフト31は、レンズ保持筒6及び中間筒5を貫通してリング補助筒23に至る。このため、リング補助筒23には、係合シャフト31が係合する係合孔32を形成するとともに、中間筒5及びレンズ保持筒6には、それぞれ挿通孔33及び34を形成する。
【0029】
この場合、レンズ保持筒6に形成する挿通孔34は、絞りリング3の回動変位により一体に変位する係合シャフト31の変位を許容できるように、周方向に沿った長孔状に形成する。一方、リング補助筒23に形成する係合孔32は、絞りリング3の回動変位を係合シャフト31を介して絞り機構8に伝達するため、図2及び図3に示すように、係合シャフト31の周方向変位を規制する形状に形成するとともに、絞りリング3の回動変位により、レンズ保持筒6、更には係合シャフト31が軸方向Daに変位するため、この係合シャフト31の軸方向Da変位を許容できるように、軸方向Daに長い長孔状に形成する。したがって、この係合孔32は係合シャフト31の変位を許容する変位許容部11を構成する。また、中間筒5に形成する挿通孔33は、中間筒5の周方向変位が規制されているため、図2及び図3に示すように、絞りリング3の回動変位により変位する係合シャフト31の変位を許容できるように、周方向に沿った長孔状に形成するとともに、係合孔32と同様に、係合シャフト31の軸方向Daの変位を許容する必要があるため、軸方向Daに広い形状に形成する。したがって、この挿通孔33は、係合シャフト31の変位を許容する変位許容部12を構成する。
【0030】
このように、絞りリング3及び中間筒5に、絞りリング3の回動変位をレンズ保持筒6の絞り機構8に伝達する伝達部材9の軸方向変位を許容する変位許容部11,12を設ければ、レンズ位置補正機構Msを配設した場合であっても、当該レンズ位置補正機構Msの影響を受けることなく、本来の絞り機構8をそのまま機能させることができる。
【0031】
次に、本実施形態に係る大口径レンズ1の機能について、図1〜図7を参照して説明する。
【0032】
まず、大口径レンズ1は交換レンズとして構成されるため、使用時には、バヨネット結合部54を、フィルムカメラ又はデジタルカメラ等のカメラボディ100のレンズマウント部に装着する。
【0033】
一方、撮影時には、フォーカスリング4をマニュアル操作により回動変位させれば、フォーカス調整(ピント合わせ)を行うことができる。この際、フォーカスリング4が回動変位すれば、一体の内部伝達筒56が回動変位し、内部伝達筒56に形成したカム溝56s…及び第二規制孔53t…に係合する従動子58…は第二規制孔53t…に沿って軸方向Daに変位する。これにより、従動子58…に一体の外部伝達筒57が軸方向Daに変位し、外部に機械的に出力される。即ち、フォーカスリング4の回動変位量は、外部伝達筒57の軸方向Daの変位量に変換されるため、外部伝達筒57の後端に、カメラボディ100に備える被伝達部を係合させれば、フォーカスリング4のフォーカシング情報をカメラボディ100に備えるレンジファインダに反映させることができる。また、フォーカスリング4が回動変位すれば、当該フォーカスリング4の雌ネジ部4nに雄ネジ部5sが螺合する中間筒5が軸方向Daに変位する。この中間筒5にはレンズ保持筒6が支持されるため、レンズ保持筒6に保持されるレンズ部2も軸方向Daに変位する。したがって、フォーカスリング4のマニュアル操作により、フォーカス調整(ピント合わせ)を行うことができる。
【0034】
他方、絞りリング3を、マニュアル操作により回動変位させれば、絞り調整を行うことができる。この際、絞りリング3が回動変位すれば、この回動変位に伴って係合シャフト31(伝達部材9)の先端が周方向に変位し、この周方向の変位が絞り機構8の入力操作部に伝達されるため、絞りリング3が周方向一方に回動変位すれば、絞りが大きく(開度が小さく)なり、かつ絞りリング3が周方向他方に回動変位すれば、絞りが小さく(開度が大きく)なる。したがって、絞りリング3のマニュアル操作により、絞り調整を行うことができる。
【0035】
また、絞りリング3が回動変位すれば、リング補助筒23に形成したカム溝3c…及び中間筒5に形成した規制孔5h…に係合する従動子7は、規制孔5h…に沿って軸方向Daに変位する。これにより、従動子7に一体のレンズ保持筒6、更にはレンズ部2が軸方向Daに変位し、レンズ部2は、絞りリング3の回動変位量、即ち、F値に対応して、最適なレンズ位置に変位する。図5は、本実施形態に係る大口径レンズ1の球面収差を示すとともに、絞り(F値)に対応して補正されたレンズ部2の位置〔mm〕を示している。例示する位置のF値は、「F1.1」,「F2」,「F2.8」,「F4」,「F8」である。したがって、カム溝3c…の角度Rs及び形状は、このような最適な補正特性が得られるように選定する。
【0036】
さらに、図6及び図7は、被写体までの距離(逆数)に対する被写体深度特性を示し、図6はレンズ位置補正機構Msを設けた本実施形態に係る大口径レンズ1、図7はレンズ位置補正機構Msを設けない従来タイプの大口径レンズである。図6及び図7のいずれの場合も100〔%〕は、被写体深度の最大において、いわばピントが合った状態であり、100〔%〕以下の場合は良好、100〔%〕を越えた場合はいわばボケが生じることになる。図6及び図7から明らかなように、レンズ位置補正機構Msを設けない場合、F2.0よりも大きいときは、主要距離領域において100〔%〕を越えてしまうが、レンズ位置補正機構Msを設けることにより、ほぼ全てのF値において100〔%〕以下にすることができる。
【0037】
このように、本実施形態に係る大口径レンズ1によれば、レンズ位置補正機構Msにより、絞りリング3の回動変位量を、軸方向Daの変位量に運動変換することにより内蔵するレンズ部2に伝達し、当該レンズ部2を軸方向Daへ変位させることにより、少なくとも絞りに対応してレンズ部2の位置を補正するようにしたため、レンズ位置補正機構Msの単独又はレンズ形状等の他の補正手段と組合わせることにより、Fナンバの小さい大口径レンズ1であっても、レンズ部2における球面収差の影響を最小にして、撮影画質をより高めることができるなど、大口径レンズ1の性能を十分に生かすことができる。また、レンズ位置補正機構Msによりレンズ部2の位置を補正するため、基本的には内蔵するレンズ部2自体の形状変更や構成変更等を排除できるとともに、レンズ部2自体の形状変更や構成変更等を伴う場合であっても、より小さい変更で足りる。したがって、レンズ自体のコストダウンや使用枚数の削減が可能となり、大口径レンズ1全体の小型コンパクト化及び軽量化、更にはコストダウンに寄与することができる。
【0038】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0039】
例えば、レンズ位置補正機構Msとしてカム機構Mscを用いた場合を示したが、同様の機能を備える他の構成により置換可能である。また、レンズ保持筒6は、レンズ部2の全部を保持する構成を例示したが、レンズ部2の一部を保持する構成であってもよい。したがって、レンズ部2の一部を補正対象として選択するなどにより、より的確かつ緻密な補正を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る大口径レンズ1は、交換レンズをはじめカメラ一体型のレンズにも利用できるとともに、標準レンズをはじめズームレンズやマクロレンズ等の各種タイプのレンズに利用できる。また、使用の対象となるカメラも、フィルムカメラ,デジタルカメラ,ビデオカメラ等の各種タイプのカメラに利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1:大口径レンズ,2:レンズ部,3:絞りリング,3c…:カム溝,4:フォーカスリング,5:中間筒,5e:中間筒の外周面,5i:中間筒の内周面,5h…:規制孔,6:レンズ保持筒,7…:従動子,8:絞り機構,9:伝達部材,11:変位許容部,12:変位許容部,Da:軸方向,Ds:螺旋方向,Ms:レンズ位置補正機構,Msc:カム機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、絞り調整を行うマニュアル操作用の絞りリング及びフォーカス調整を行うマニュアル操作用のフォーカスリングを備える大口径レンズにおいて、前記絞りリングの回動変位量を、軸方向の変位量に運動変換することにより内蔵するレンズ部に伝達し、当該レンズ部を軸方向へ変位させることにより、少なくともF値に対応して前記レンズ部の位置を補正するレンズ位置補正機構を備えることを特徴とする大口径レンズ。
【請求項2】
前記フォーカスリングの回動変位に対応して軸方向に変位する中間筒の外周面に、前記絞りリングを支持し、かつ前記中間筒の内周面に、前記レンズ部を保持するレンズ保持筒を支持するとともに、前記絞りリングと前記レンズ保持筒間に、カム機構を用いた前記レンズ位置補正機構を配設してなることを特徴とする請求項1記載の大口径レンズ。
【請求項3】
前記カム機構は、前記絞りリングの内周面の螺旋方向に設けた少なくとも一つのカム溝と、前記中間筒に貫通形成し、かつ軸方向に設けた少なくとも一つの規制孔と、前記レンズ保持筒の外周面から径方向に突出し、かつ前記規制孔及び前記カム溝に同時に係合する従動子を備えることを特徴とする請求項2記載の大口径レンズ。
【請求項4】
前記絞りリング及び前記中間筒には、前記絞りリングの回動変位を前記レンズ保持筒に備える絞り機構に伝達する伝達部材の軸方向変位を許容する変位許容部を有することを特徴とする請求項2又は3記載の大口径レンズ。
【請求項5】
前記レンズ保持筒は、前記レンズ部の全部又は一部を保持することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の大口径レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−224405(P2010−224405A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−73889(P2009−73889)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(391044915)株式会社コシナ (37)
【Fターム(参考)】