説明

大型精密基板収納容器

【課題】大型精密基板収納容器内の大型精密基板に与える応力を低減し、大型精密基板の変形や破損を防止する。
【解決手段】大型精密基板を収納し、その全体を覆って嵌合するトレイ20とカバー10とを備える大型精密基板収納容器であって、その内部に、大型精密基板の各辺において、大型精密基板の両面の周縁と接して固定する固定具40,60と、トレイ20およびカバー10の少なくともいずれか一方と固定具40,60との間に配置され、固定具40,60より弾力性に富む緩衝板50,70とを備える大型精密基板収納容器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型精密基板、特に、フラットパネルディスプレイの製造におけるフォトリソグラフ工程で使用されるフォトマスク基板を収納するための容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フォトマスク用のガラス基板は、半導体およびフラットパネルディスプレイの製造工程の一つであるフォトリソグラフ工程にて使用されている。フォトマスク用のガラス基板は、半導体用ウェーハ上およびフラットパネルディスプレイ用ガラス基板上に1若しくは2以上のパターンを転写するための基板であり、欠陥や汚れが無く、かつ高い平滑度を要求されている。半導体用途のマスクガラス基板は、より微細なパターンを形成する傾向にあるが、フラットパネルディスプレイ用途のマスクガラス基板は、ディスプレイの大型化に伴い、益々大型化する傾向にある。
【0003】
フラットパネルディスプレイ用途の最新(第8世代)のフォトマスク基板は、短辺1220mm、長辺1400mm、厚さ13mmの大きさであり、重量も50kgを超える。これが、次世代(第10世代)のフォトマスク基板になると、短辺1600〜1800mm、長辺2000mm、厚さ17mmを超える大きさに達し、重量も120kgを超えると予想される。このような大型かつ大重量のフォトマスク基板を搬送するため、その容器の剛性を高めるのみならず、フォトマスク基板に撓みやひねりの外力をなるべく加えないように容器内に固定でき、しかもフォトマスク基板の両面と非接触状態で固定する固定支持具が開発されてきている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−170507(特に、段落0035、図11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の従来技術には、次のような問題がある。特許文献1に開示されている固定支持具は、トレイ側に複数個固定されており、それによってフォトマスク基板の各辺を複数箇所で固定するものである。フォトマスク基板を収納する容器が大型化してくると、トレイやカバーの僅かな撓みも無視できなくなる。当該撓みは、各固定支持具におけるフォトマスク基板を固定する高さ位置のバラツキに直結する。この結果、フォトマスク基板に対して応力を加える危険性が高くなる。特に、静置時のトレイやカバーに撓みが無くても、搬送時にトレイやカバーが変形して撓み、あるいはひねりが加わる可能性があるため、容器内のフォトマスク基板に応力が加わりやすくなる。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みなされたものであり、容器内の基板に与える応力を低減し、当該基板の変形や破損を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を解決するため、本発明の一形態は、大型精密基板を収納し、その全体を覆って嵌合するトレイとカバーとを備える大型精密基板収納容器であって、その内部に、大型精密基板の各辺において、大型精密基板の両面の周縁と接して固定する固定具と、トレイおよびカバーの少なくともいずれか一方と固定具との間に配置され、固定具より弾力性に富む緩衝板と、を備える大型精密基板収納容器である。
【0008】
本発明の別の一形態は、固定具がトレイおよびカバーの両方に固定され、緩衝板が、トレイと固定具との間、およびカバーと固定具との間にそれぞれ配置されている大型精密基板収納容器である。
【0009】
本発明の別の一形態は、緩衝板がシリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム若しくはイソプレンゴムから構成される大型精密基板収納容器である。
【0010】
本発明の別の一形態は、固定具が大型精密基板の両面の周縁を挟むように、大型精密基板の厚さ方向に分離する第一固定具および第二固定具をそれぞれ有し、第一固定具と第二固定具は、互いに対向する面に凹凸を有し、大型精密基板を固定した状態において大型精密基板の厚さ方向に噛み合う大型精密基板収納容器である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、大型精密基板収納容器内の大型精密基板に与える応力を低減し、大型精密基板の変形や破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる大型精密基板収納容器の斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す大型精密基板収納容器の分解斜視図である。
【図3】図3は、図1に示す大型精密基板収納容器内にフォトマスク基板を入れる状態を示す斜視図である。
【図4】図4は、図3に示すトレイ側にフォトマスク基板をセットした状態を示す斜視図である。
【図5】図5は、図1に示す大型精密基板収納容器をA−A線で切断し、カバーとトレイを分離した時の各周端部近傍を拡大して示す斜視図であり、(5A)はカバー側を、(5B)はトレイ側を、それぞれ示す。
【図6】図6は、図1に示す大型精密基板収納容器をA−A線で切断したときの周端部近傍を拡大して示す斜視図である。
【図7】図7は、図6に示す周端部近傍を矢印Bの方向から見たときの図である。
【図8】図8は、本発明の変形的な実施の形態であって、第一固定具を第二固定具に固定することにより、フォトマスク基板をトレイ上にて固定した状態を示す一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の大型精密基板収納容器の好適な実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態にかかる大型精密基板収納容器の斜視図である。
【0015】
図1に示すように、この実施の形態にかかる大型精密基板収納容器1は、略箱型の容器であり、通常の使用状態において上側のカバー10と下側のトレイ20を備える。カバー10とトレイ20は開閉可能であり、それらを嵌合して閉めた状態では大型精密基板収納容器1の内部に空間が存在する。大型精密基板の一例であるフォトマスク基板はその空間内に収納可能である。カバー10およびトレイ20は、この実施の形態において、アルミニウム合金の鋳造物から構成されているが、カバー10およびトレイ20の少なくともいずれか一方を、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PET樹脂などのポリエステル系樹脂、PE、PPなどのポリオレフィン樹脂、あるいはポリスチレン樹脂等から構成することもできる。また、カバー10およびトレイ20の少なくともいずれか一方を、カーボンファイバー強化型の樹脂(CFRP)を成形したもの、あるいはアルミニウム等の金属板を金型にて成形したものとしても良い。
【0016】
カバー10およびトレイ20は、互いに対向する側に凹部をそれぞれ有し、それらを嵌合して閉めたときに各外周側面が略平面になるように、ほぼ同一の開口面積を有する。カバー10とトレイ20は、バックル30にて、容易に開かないように締結することができる。ただし、バックル30以外に、テープやクリップ等の他の締結手段を用いても良い。
【0017】
図2は、図1に示す大型精密基板収納容器の分解斜視図である。
【0018】
カバー10は、その最外周において上方に向かって延出するフランジ部11と、そのフランジ部11の内側においてトレイ20側に向かって窪む溝部12と、その溝部12よりも内側にあって溝部12から上方に向かって立ち上がりその立ち上がった箇所からさらに内側に所定幅だけ水平に延出する水平部13と、その水平部13によって囲まれた領域であってカバー10のほぼ中央の領域にて水平部13より上方に突出する天面部14とを備えている。
【0019】
トレイ20は、カバー10より深さ方向により厚い形状となっている点で異なるものの、ほぼ同じような凹凸を有する構造を持つ。トレイ20を、その開口側から見た構造で説明すると、その最外周には、カバー10と接合する接合面21が形成されている。接合面21は、カバー10の溝部12と接する位置にある。また、当該接合面21には、後述のガスケットを嵌め込むための溝22が形成されている。接合面21から下方であって接合面21より内側には、所定幅の水平な部分を構成する段部23が形成されている。段部23は、カバー10の水平部13と対向する位置にある。さらに、段部23より内側であってトレイ20のほぼ中央の領域には、段部23より下方に窪む凹部24が形成されている。凹部24は、カバー10の天面部14の裏側に形成される凹部と対向する位置にある。トレイ20の長辺側にある段部23は、2本の分離溝25によって分離されている。段部23の上面にあるフォトマスク基板をトレイ20から取り出す際に、分離溝25の部分にロボットアームを差し込む必要があるからである。ただし、分離溝25は、トレイ20の短辺側にも設けても良く、その数も2本に限定されない。
【0020】
カバー10およびトレイ20を鋳造、特に砂型鋳造にて製造する場合、鋳造したままの表面は、その表面粗さが大きい鋳肌となる。鋳肌のままでは、その表面に異物が溜りやすいため、清浄度の高い製品を収納するのに適していない。また、凝固時にガスの抜けた跡であるピンホール等が多数存在するため、清浄に洗浄することが難しい。このため、鋳造後のカバー10およびトレイ20の表面を、研磨あるいはサンドブラストによる平滑化処理などを施すのが好ましく、さらには、その平滑化後に塗装を行い、その表面粗さがRa10μm以下となるようにするのが特に好ましい。この場合、必然的に塗膜を厚くすることになるため、鋳肌の下地処理は不要となり、生産性をより向上できる。さらに、その塗膜に、導電性物質を含めるのが好ましい。塗膜に導電性を付与すると、帯電した異物がフォトマスク基板に付着するのを効果的に防止することができると共に、収納されるフォトマスク基板を取り出す際の帯電や静電破壊を効果的に防止することができる。
【0021】
カバー10の水平部13の裏面には、短辺側および長辺側にそれぞれ3個ずつの合計12個の第一固定具(固定具の一例)40が備えられている。第一固定具40は、フォトマスク基板の外縁部分に接して、フォトマスク基板を固定するための部材であり、容易に変形しない樹脂で構成されるのが好ましい。第一固定具40の構成材料としては、ポリテトラフオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリアセタール樹脂(POM)などを好適に用いることができる。
【0022】
各第一固定具40と水平部13の裏面との間には、緩衝板50が配置されている。緩衝板50は、第一固定具40と水平部13との接触面積とほぼ同じ面積を有する薄い板状の材料である。緩衝板50は、カバー10あるいはトレイ20に元々存在する撓み若しくは搬送中に生じる撓みによって各第一固定具40の位置が高さ方向にずれるような場合に、フォトマスク基板に外部応力を加えないように、その厚さ方向に変形可能な材料から構成される。緩衝板50は、例えば、厚さ3〜10mmで、JIS K 6253にて測定される硬度が30〜70の範囲にあるのが望ましい。当該厚さと硬度は、カバー10、トレイ20、フォトマスク基板の大きさによって変更するのが好ましい。また、比較的厚さの大きな緩衝板50を用いる場合には、低い硬度の材料で構成し、逆に、比較的厚さの小さな緩衝板50を用いる場合には、高い硬度の材料で構成するのが好ましい。緩衝板50は、第一固定具40よりも弾力性に富む材料から構成される限り、どのような材料でも良いが、特に、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム若しくはイソプレンゴムで構成されるのが好ましい。
【0023】
緩衝板50には、第一固定具40に設けられた2個の貫通孔41と同じ位置に2個の貫通孔51が設けられており、第一固定具40をカバー10の水平部13の裏面にねじ留めする際に、緩衝板50も同時にねじ留めにて固定できるようにしている。緩衝板50と第一固定具40とは、接着してもあるいは接着しなくても良い。なお、貫通孔51は必須の構成ではなく、ねじ留め以外の手法(例えば、接着)で緩衝板50を水平部13の裏面に固定する場合には、不要である。なお、ねじ以外にボルトを用いても良い。以後説明する他のねじ留めについても同様である。
【0024】
トレイ20の段部23には、短辺側および長辺側にそれぞれ3個ずつの合計12個の第二固定具(固定具の一例)60が備えられている。各第二固定具60の段部23における固定位置は、先に説明した各第一固定具40と対向する位置である。第二固定具60も、第一固定具40と同様、フォトマスク基板の外縁部分に接して、これを固定するための部材であり、容易に変形しない樹脂で構成されるのが好ましく、第一固定具40と同様の樹脂を好適に用いることができる。第二固定具60には、第一固定具40と同様、段部23にねじ留めするための2個の貫通孔61が設けられている。
【0025】
各第二固定具60と段部23との間には、緩衝板70が配置されている。緩衝板70は、第二固定具60における段部23との接触面積とほぼ同じ面積を有する薄い板状の材料である。緩衝板70は、先に説明したカバー10側の緩衝板50と同様、フォトマスク基板に外部応力を加えないように、その厚さ方向に変形可能な材料から構成される。緩衝板70も、緩衝板50と同様、例えば、厚さ3〜10mmで、JIS K 6253にて測定される硬度が30〜70の範囲にあるのが望ましい。当該厚さと硬度は、カバー10、トレイ20、フォトマスク基板の大きさによって変更するのが好ましい。また、比較的厚さの大きな緩衝板70を用いる場合には、低い硬度の材料で構成し、逆に、比較的厚さの小さな緩衝板70を用いる場合には、高い硬度の材料で構成するのが好ましい。緩衝板70は、特に、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム若しくはイソプレンゴムで構成されるのが好ましい。
【0026】
緩衝板70には、第二固定具60に設けられた2個の貫通孔61と同じ位置に2個の貫通孔71が設けられている。第二固定具60をトレイ20の段部23にねじ留めする際に、緩衝板70も同時にねじ留めにて固定できるようにするためである。緩衝板70と第二固定具60とは、接着してもあるいは接着しなくても良い。なお、緩衝板70に設けられる貫通孔71は必須の構成ではなく、ねじ留め以外の手法(例えば、接着)で緩衝板70を段部23に固定する場合には、不要である。
【0027】
トレイ20の接合面21に形成される溝22には、溝22とほぼ同じ大きさの矩形環状のガスケット80が嵌め込まれている。ガスケット80は、カバー10とトレイ20の密着性を高め、微細な塵や埃が大型精密基板収納容器1内に入らないようにするためのものである。ガスケット80の材料としては、例えば、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を好適に用いることができる。
【0028】
図3は、図1に示す大型精密基板収納容器内にフォトマスク基板を入れる状態を示す斜視図である。図4は、図3に示すトレイ側にフォトマスク基板をセットした状態を示す斜視図である。
【0029】
図3に示すように、トレイ20の段部23には各辺3個ずつの第二固定具60が固定されており、トレイ20の最外周にある溝22にはガスケット80が嵌め込まれている。この状態のトレイ20に、フォトマスク基板Gを入れて、その上からカバー10をかぶせて、カバー10とトレイ20とを締結する。図4に示すように、カバー10をかぶせる前には、フォトマスク基板Gは、第二固定具60の内側の斜面上に載置された状態となっており、第二固定具60がフォトマスク基板Gに面接触しないようにしている。フォトマスク基板Gと第一固定具40および第二固定具60との各接触箇所については、後述する。
【0030】
図5は、図1に示す大型精密基板収納容器をA−A線で切断し、カバーとトレイを分離した時の各周端部近傍を拡大して示す斜視図であり、(5A)はカバー側を、(5B)はトレイ側を、それぞれ示す。
【0031】
カバー10の水平部13の裏面には、緩衝板50を挟んで第一固定具40が固定されている。第一固定具40における緩衝板50との接触面は平面である。一方、第一固定具40における第二固定具60との対向面は凹凸形状を有する面である。同様に、第二固定具60における緩衝板70との接触面は平面である一方で、第二固定具60における第一固定具40との対向面は凹凸形状を有する面である。
【0032】
第一固定具40における第二固定具60との対向面は、カバー10の内部から外に向かって順に、緩やかに下方傾斜する緩斜面42、その緩斜面42から連続してより急角度で下方傾斜する第一急斜面43、その第一急斜面43から連続して略水平に延びる第一水平面44、その第一水平面44から連続して急角度で上方傾斜する第二急斜面45、その第二急斜面45から連続して略水平に延びる第二水平面46、その第二水平面46から連続して急角度で下方傾斜する第三急斜面47、およびその第三急斜面47から連続して略水平に延びる第三水平面48を有する。緩斜面42は、第一急斜面43よりも緩やかな斜面であれば、水平に対して1〜89度の範囲内で設定可能であり、特に1〜20度、さらには3〜10度の範囲で設定するのが好ましい。第一急斜面43は、緩斜面42よりも急な斜面であれば、水平に対して2〜90度の範囲内で設定可能であり、特に30〜80度、さらには45〜70度の範囲で設定するのが好ましい。第一水平面44、第二水平面46および第三水平面48は、厳密に水平である必要は無く、隣接する面との境界が明確である限り、カバー10の内部から外に向かって上方あるいは下方に傾斜していても良い。また、第二急斜面45および第三急斜面47は、隣接する面との境界が明確である限り、1〜90度の範囲内で設定可能である。
【0033】
第二固定具60における第一固定具40との対向面は、トレイ20の内部から外に向かって順に、緩やかに上方傾斜する緩斜面62、その緩斜面62から連続してより急角度で上方傾斜する第一急斜面63、その第一急斜面63から連続して略水平に延びる第一水平面64、その第一水平面64から連続して急角度で上方傾斜する第二急斜面65、その第二急斜面65から連続して略水平に延びる第二水平面66、その第二水平面66から連続して急角度で下方傾斜する第三急斜面67、およびその第三急斜面67から連続して略水平に延びる第三水平面68を有する。緩斜面62は、第一急斜面63よりも緩やかな斜面であれば、水平に対して1〜89度の範囲内で設定可能であり、特に1〜20度、さらには3〜10度の範囲で設定するのが好ましい。第一急斜面63は、緩斜面62よりも急な斜面であれば、水平に対して2〜90度の範囲内で設定可能であり、特に30〜80度、さらには45〜70度の範囲で設定するのが好ましい。第一水平面64、第二水平面66および第三水平面68は、厳密に水平である必要は無く、隣接する面との境界が明確である限り、トレイ20の内部から外に向かって上方あるいは下方に傾斜していても良い。また、第二急斜面65および第三急斜面67は、隣接する面との境界が明確である限り、1〜90度の範囲内で設定可能である。
【0034】
図5(5B)に示すように、フォトマスク基板Gは、第二固定具60の緩斜面62の上で支持される。この状態で、カバー10をトレイ20と締結すると、カバー10側の第一固定具40の緩斜面42は、フォトマスク基板Gを、その外縁部の上から支持する。この結果、フォトマスク基板Gは、上下方向から第一固定具40の緩斜面42と第二固定具の60の緩斜面60によって挟まれた状態で、大型精密基板収納容器1内にて固定される。
【0035】
図6は、図1に示す大型精密基板収納容器をA−A線で切断したときの周端部近傍を拡大して示す斜視図であり、図5(5A)に示すカバーと図5(5B)に示すトレイとを締結した状態を示す図である。また、図7は、図6に示す周端部近傍を矢印Bの方向から見たときの図である。
【0036】
図6および図7に示すように、フォトマスク基板Gは、その端面の上下両外縁部が、第一固定具40の緩斜面42と第一急斜面43との角部と、第二固定具60の緩斜面62と第一急斜面63との角部によって支持された状態にて固定される。このため、フォトマスク基板Gは、大型精密基板収納容器1内において、トレイ20の面内で動くことなく固定される。さらに、カバー10とトレイ20とを締結した状態では、第一固定具40側の第一水平面44、第二急斜面45、第二水平面46、第三急斜面47および第三水平面48は、第二固定具60側の第一水平面64、第二急斜面65、第二水平面66、第三急斜面67および第三水平面68とそれぞれ対向して近接した状態となる。この状態では、第二固定具60の第二急斜面65、第二水平面66および第三急斜面67で形成される凸部が、第一固定具40の第二急斜面45、第二水平面46および第三急斜面47で形成される凹部に嵌まり込んでいる。このため、第一固定具40と第二固定具60とはフォトマスク基板Gの面内方向においてずれにくい。したがって、フォトマスク基板Gを確実に固定でき、搬送中にフォトマスク基板Gが動く危険性を低減できる。
【0037】
また、フォトマスク基板Gは、カバー10側に固定される第一固定具40と、トレイ20側に固定される第二固定具60によって挟持された状態で、大型精密基板収納容器1内に固定されるため、カバー10とトレイ20とを開くと、自動的に、フォトマスク基板Gの固定を解除することができる。したがって、フォトマスク基板Gの固定およびその解除を、カバー10とトレイ20の締結およびその解除によって容易に実現できる。
【0038】
以上、本発明の大型精密基板収納装置の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、上述の実施の形態に限定されることなく、種々の変形を施して実施することができる。
【0039】
例えば、上述の実施の形態にて説明した緩衝板50,70の両面は平滑な面であるが、少なくとも片面に多数の凹凸を形成した緩衝板50,70を用いることもできる。特に、緩衝板50,70が比較的硬度の大きな材料で構成される場合には、その凹凸を有する部分で緩衝板50,70の厚さを小さくする方向に容易に圧縮可能であるからである。また、緩衝板50,70は、平板以外に、その中央に穴を有する環状や、第一固定具40および第二固定具60の裏面の両側にのみ配置する2本のライン形状にすることもできる。さらに、緩衝板50をカバー10の水平部13の裏側全面に取り付ける大きさにし、あるいは緩衝板70をトレイ20の段部23の上側全面に取り付ける大きさにしても良い。さらに、緩衝板50,70のいずれか一方のみを用いて、カバー10あるいはトレイ20のいずれかの側にのみ緩衝板を取り付けるようにしても良い。
【0040】
第一固定具40は、カバー10側に固定せずに、トレイ20側にて第二固定具60に対して固定できる構造の固定具としても良い。図8は、第一固定具40と第二固定具60により、フォトマスク基板Gをトレイ20上にて固定した状態を示す一部拡大図である。図8に示すように、第一固定具40の上面には緩衝板50が配置されている。緩衝板50から第一固定具40を貫通して第二固定具60に達するねじ穴55を設け、そのねじ穴55にねじを入れて緩衝板50および第一固定具40を第二固定具60に固定することができる。トレイ20の上からカバー10をかぶせると、カバー10側の水平部13の裏面が緩衝板50に接することが可能となっている。図8に示す変形例の場合には、第一固定具40をカバー10に固定していないので、カバー10とトレイ20との締結を解除しただけでは、フォトマスク基板Gの固定を解除できず、トレイ20上にて第一固定具40と第二固定具60との固定を解除しなければ、フォトマスク基板Gを取り外すことができない。しかし、フォトマスク基板Gの取り出しの容易性よりも、より安全にフォトマスク基板Gを取り出すことを重要視する場合には、図8に示すようなトレイ20側にてフォトマスク基板Gを固定する構造を選択することもできる。
【0041】
また、フォトマスク基板Gの固定具は、第一固定具40と第二固定具60とに分離していなくても良い。第一固定具40の緩斜面42および第一急斜面43と第二固定具60の緩斜面62および第一急斜面63とを備えるのみの一体型の固定具を用いることもできる。この場合、フォトマスク基板Gをトレイ20から取り出す際に、当該一体型の固定具を2つに分割することができないため、外方向に固定具をスライドする等の方法を採用するのが好ましい。
【0042】
また、上述の実施の形態では、第一固定具40をカバー10側に固定し、第二固定具60をトレイ20側に固定しているが、これを逆にして、第一固定具40をトレイ20側に固定し、第二固定具60をカバー10側に固定しても良い。また、第一固定具40および第二固定具60の互いに対向する側の面に形成される凹凸は、必須の構成ではなく、緩斜面42,62より外方向あるいは第一急斜面43,63より外方向の領域を平滑な面にしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、大型の精密基板、例えばガラス製フォトマスク基板等を収納し、あるいはこれを運搬するのに利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 大型精密基板収納容器
10 カバー
20 トレイ
40 第一固定具(固定具)
50 緩衝板
60 第二固定具(固定具)
70 緩衝板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型精密基板を収納し、その全体を覆って嵌合するトレイとカバーとを備える大型精密基板収納容器であって、
その内部に、
上記大型精密基板の各辺において、上記大型精密基板の両面の周縁と接して固定する固定具と、
上記トレイおよび上記カバーの少なくともいずれか一方と上記固定具との間に配置され、上記固定具より弾力性に富む緩衝板と、
を備えることを特徴とする大型精密基板収納容器。
【請求項2】
前記固定具は、前記トレイおよび前記カバーの両方に固定され、
前記緩衝板は、前記トレイと前記固定具との間、および前記カバーと前記固定具との間にそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1に記載の大型精密基板収納容器。
【請求項3】
前記緩衝板は、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム若しくはイソプレンゴムから構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の大型精密基板収納容器。
【請求項4】
前記固定具は、前記大型精密基板の両面の周縁を挟むように、前記大型精密基板の厚さ方向に分離する第一固定具および第二固定具をそれぞれ有し、
上記第一固定具と上記第二固定具は、互いに対向する面に凹凸を有し、前記大型精密基板を固定した状態において上記厚さ方向に噛み合うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の大型精密基板収納容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−31978(P2011−31978A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182493(P2009−182493)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】