説明

大根の漬物の製造方法および漬物

【課題】食べやすく美味しく栄養食品として広範に食される大根の漬物およびその製造方法が望まれていた。
【解決手段】本発明は、大根に塩、砂糖、調味料などを加えて漬けた大根の漬物およびその製造方法に関するものである。そして、本発明に係る大根の漬物の製造方法は、皮をむいた生の大根に、塩、酢、および砂糖を加えて漬けて大根の漬物を得る方法であって、酢として柿酢を用いたことを特徴とするものである。また、前記構成において、砂糖としてザラメを用いたものも、本発明の製造方法に含まれる。そして、本発明に係る大根の漬物は、前記に記載された各製造方法により得られるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大根に塩、砂糖、調味料などを加えて漬けた大根の漬物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の大根の漬物としては干し大根を原料にしたものが知られている。この漬物は、干し大根に塩、ヌカ、砂糖、およびたくあんの素を加えて混ぜ合わせ、樽の底に敷いたヌカに干し大根を並べ、並べた干し大根の間に細かく刻んだ赤唐辛子を入れたのち、樽に中蓋をし、重石を載せて1カ月〜2カ月漬け込んで得られていた。このようにして得られた大根の漬物は、干し大根を使用しているためにタクアン様の硬さで歯切れが悪く、大根内に漬液が回りにくいために味が不均一になって、漬物特有の不快臭を発するという不具合があった。また、干し大根自体は白色であるが、たくあんの素の使用により黄色の漬物とならざるを得ず、見た目に美しい大根本来の白色を損なうという不具合があり、漬け日数も長くかかっていた。
【0003】
そこで、本発明者は、干し大根の代わりに、皮をむいた生の大根を原料として用い、塩、砂糖、ヌカ、赤唐辛子、およびたくあんの素の代わりに、塩、砂糖、米酢、およびみりんを用いて漬け込むという大根の漬物を得る製造方法を完成し、特許出願(下記の特許文献1)に至ったのである。この漬物は、皮をむいた生の大根を使用したことで、漬け込み日数が短く漬物特有の臭気がなく、大根特有の美しい白色を残して良好な歯触りを有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−14260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献1記載の大根の漬物は米酢を用いているので、漬けあがった漬物は酸味が強くなることから、酸味の苦手な人が手をつけられる食品ではない。また、この強い酸味が、生の大根自体や砂糖およびみりんによる甘味と旨みを抑制するという不具合もあった。そのために、上記の漬物は折角の栄養食品でありながら、広範に食される食品になり得なかったのである。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、食べやすく美味しく栄養食品として広範に食される大根の漬物およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る大根の漬物の製造方法は、皮をむいた生の大根に、塩、酢、および砂糖を加えて漬けて大根の漬物を得る方法であって、酢として柿酢を用いたことを特徴とするものである。
【0008】
また、前記構成において、砂糖としてザラメを用いたものである。
【0009】
本発明に係る大根の漬物は、請求項1または請求項2に記載の製造方法により得られたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る大根の漬物は、柿酢を用いて製造されており、砂糖と柿酢との相性がよいことから、柿酢の酸っぱさが砂糖の甘みに抑えられ甘い食品として得られた。そのうえ、柿酢に起因する旨みと香りも加わって、極めて食べやすくしかも美味しい食品として得られた。また、カリウムとポリフェノールを多く含有する柿酢を含むこの漬物は広範に食される栄養食品となり得、食が進みやすくなることも相まって、食する人の健康増進に大きく寄与することができる。このように優れた本発明の漬物は、本発明に係る製造方法により実現される。
【0011】
また、砂糖としてザラメを用いた場合、ザラメと柿酢との相性が非常によく、ザラメ以外の精製糖を用いた場合と比べて、ザラメの甘みと柿酢の旨みをいっそう引き立たせるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
本発明において、漬物の原料として用いる大根の品種は特に限定されないが、例えば宮重大根、練馬大根、三浦大根、浅尾大根、和歌山大根などが挙げられる。なかでも、果肉の歯触りがよく美しい白色を有している点で、宮重大根などの青首大根を用いることが好ましい。また、青首大根のうちでは、肌が滑らかでツヤがあり果肉が比較的甘く肉質が最高級とされる「YRくらま(タキイ種苗社製の製品名)」がもっとも好ましい。
これら原料の大根は、乾燥させて水分含有量を一定以下にした干し大根ではなく生の大根を用いる。この生の大根は表面の皮が手剥きまたは剥皮機で剥かれる。尚、大根の表面全体の皮を剥くことが漬液が浸透しやすい点で好ましいが、一部の皮を残しても構わない。
【0013】
本発明に用いる砂糖としては特に限定されないが、大根の白さを売り物にする場合は、精製糖を用いることが望ましい。かかる精製糖としては、例えばザラメ、車糖、加工糖、液糖が挙げられる。なかでも、ザラメは、白双糖、中双糖、グラニュー糖に分類される。
本発明に用いる塩は、海水や岩塩から得られた自然塩でも、精製や合成により得られた食塩でもよいが、安価で入手容易な食塩を用いると便利である。
【0014】
本発明に用いる柿酢は柿の実由来の酢であり、市販のものでも自家製のものでも構わない。
自家製の柿酢は、柿の実を嫌気的発酵(アルコール発酵)させる段階と、その後に好気的発酵(酢酸発酵)させる段階を経て得られる。柿酢の原料となる柿は富有柿などの甘柿でも刀根柿などの渋柿でもよいが、いずれの柿も完熟に近いものが望ましい。熟して自然におちた柿であれば尚更好ましい。すなわち、発酵を速やかに進ませるためには、糖分および水分を多く含み直ちにジャム状に潰せるものがよい。このように柿を漬け込む際に潰すのは、表面をできるだけなめらかにしてカビが生えにくくするためと、柿の水分を滲出させて発酵を進みやすくするためである。かかる柿の実はミネラルを多く含むことで知られているが、なかでもカリウムは最も多く実100g当り170mg含まれている。
【0015】
上記した嫌気的発酵段階では、潰した柿の実が空気に触れないように注意して密閉容器に入れて発酵させる。発酵物の甘味が全くなくなったところで、このアルコール発酵が終了し、柿由来のアルコールが得られる。この場合、イースト菌を添加して発酵させると発酵を早く終了させることができるが、発酵終了までに長時間要しても構わない場合はイースト菌を加えなくてよい。
上記した好気的発酵段階では、柿由来アルコールを広口のカメなどに入れて空気との接触面積を広くするとともに、ハエなどがたからないように通気性シートで広口を塞いで2〜3ヶ月発酵させると、本発明の柿酢が得られる。
【0016】
この場合、柿に付着していた酢酸菌が、柿由来アルコールに含まれている酵母をエサにして柿由来アルコールを酢に変えていく。そして、ときどき、ハエが入らぬように注意しながら、被っていた通気性シートを開けてカメ内に新鮮な空気を入れてやるとよい。尚、前記よりも発酵終了までに時間がかかるが、冷暗所でジックリと酢酸発酵させるようにしても構わない。
ところで、元来、柿の実はカリウムとポリフェノールを多く含むことで知られている。カリウムは、ナトリウムの排泄を促して血圧を下げる作用と、筋肉の働きを良くする作用と、食欲を増進する作用を有することで知られている。また、ポリフェノールはガン細胞の発生および成長を抑制することで知られている。当然に、柿の実由来の柿酢にはカリウムとポリフェノールが多く含まれている。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例によっていっそう詳しく説明する。この実施例では、柿酢の製造態様と漬物の製造態様を説明する。
「柿酢の製造態様」:
[柿由来アルコール];
よく熟した柿(刀根早生)10kgを洗って農薬や汚れを除去し、へたをとってポリバケツなどの容器に入れ、上から突棒などで潰してジャム状にする。更に柿1kgに対し2.5gの割合でドライイーストを加えてかき混ぜる。潰した柿の表面をラップシートなどで被って空気を遮断する。そのうち、嫌気的発酵による発泡が始まり、この発泡が数日間続く。この場合、 暖かいところで発酵させると、発酵が迅速に進む。発泡が終わったら、表面のラップシートを取り外して味見をする。発酵が終了したら甘味がなくなっている。そこで、布で濾して皮や種を濾し取ると、アルコール度6〜7の柿由来アルコール3.2リットルが得られた。
【0018】
[柿酢];
露出面積を大きくするために口の広いカメに、上記の柿由来アルコール全量を入れ、カメの口を布で被ってハエの侵入を防ぐ。このカメを直射日光の当たらない場所に置いて、2カ月間好気的発酵に供すると、2.5リットルの柿酢が得られた。得られた柿酢の酸度は5.16であった。この場合、20℃以下になる時間を極力少なくするようにカメを置く位置に配慮すると、好気的発酵をいっそう進めることができる。
【0019】
「漬物の製造態様」:
表面全体の皮をむいた生の大根(品種:YRくらま)10kg、塩280g、およびザラメ1kgを用意し、漬物用樽(内容量40リットル入り)に大根をきれいに一列に並べ、前記の塩とザラメを少しずつ振りかける。その上にまた大根を並べ、更に塩とザラメを振りかける。すべての大根を並べ終え、更に塩とザラメを振りかける。その上からみりん180mLを全体に万遍なく振りかけたのち、柿酢500mLを全体に万遍なく振りかける。最後に落し蓋をし、大根の変形を避けるため、大根と同じ重さの重石10kgを落し蓋の上に載せて漬ける。漬け込み後3日日に、味を均一にするために上下の大根を入れ替える。大根を上下に入れ替えたのち更に10日間漬け込むと、漬けた大根とほぼ等しい体積の水、すなわち漬液が上がる。この漬液は別に調味料として利用できるので、別の容器に移しかえる。上層の漬液を樽から取り出したのち、更に3日間漬け込むと、本実施例に係る大根の漬物が得られた。得られた大根の外径は生のときとほとんど変わっていない。また、肉質の色も、生のときとほとんど変わらぬ美しい白色であった。この実施例による漬け込み日数はトータル14日間であった。
【0020】
得られた漬物について、財団法人日本食品分析センターに、水分、たんばく質、脂質、灰分、炭水化物、エネルギー、酢酸、ナトリウム、およびカリウムの各含有量を分析させた。その分析結果を下記の表1に示す。表1中で、注の1は水分を乾燥減量−酢酸量で算出した。注の2は窒素のたんぱく質係数を6.25としてタンパク質を計算した。注の3は100−(水分+たんばく質+脂質+灰分+酢酸)で炭水化物を算出した。注の4はエネルギー換算係数をたんばく質=4、脂質=9、炭水化物=4、酢酸=3としてエネルギーを算出したことをそれぞれ示している。
また、同じく財団法人日本食品分析センターに、この漬物中の一般細菌数(生菌数)と酵母数を分析させた。その分析結果を下記の表2に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
表1の分析結果から明らかなように、この漬物に含まれるカリウムの量は非常に多いことが判る。また、酢酸の量も比較的多い。反面、エネルギーは比較的低い。また、ここでは分析していないが、別の分析機関での分析結果においてポリフェノールの含有量が比較的多かったことも判っている。
【0024】
一方、表2から明らかなように、一般細菌数は1.0×103/gであり酵母数も陰性であるから、この漬物は食品衛生法上、問題なく食用に供することができる。
【0025】
以上、説明したように、この実施例に係る大根の漬物は、柿酢を含む漬液で漬けられているので、米酢(酸度=4.2)と比べて柿酢の酸度(=5.16)の方が高く、且つ、漬物中の酢酸含有量(=0.2g/100g)が比較的多いにも拘わらず、柿酢と、ザラメおよびみりんとの相性がよいことから、柿酢の酸っぱさはザラメの甘みにマスキングされてほとんど感じられずむしろ甘い漬物となっていた。更に、柿酢やみりんに起因する旨みも加わって、極めて食べやすくしかも美味しい食品を得ることができたのである。
また、カリウムとポリフェノールを多く含有する柿酢を含むこの漬物はエネルギーも低いこと併せて、栄養食品およびダイエット食品として好適である。そして、前記したように食しやすく美味しいことにより食が進みやすくなることも、食する人の健康増進に大きく寄与するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮をむいた生の大根に、塩、酢、および砂糖を加えて漬けて大根の漬物を得る方法であって、酢として柿酢を用いたことを特徴とする大根の漬物の製造方法。
【請求項2】
砂糖としてザラメを用いたことを特徴とする請求項1に記載の大根の漬物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造方法により得られた大根の漬物。

【公開番号】特開2010−213651(P2010−213651A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66098(P2009−66098)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(591023594)和歌山県 (62)
【Fターム(参考)】