説明

大気圧中における固体表面変化の観察・分析方法およびその装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は大気圧中の固体表面変化の観察・分析方法およびその装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術およびその課題】従来、固体表面の変化の観察は、一般的に真空中の固体表面観察・分析装置を用いて行われてきた。例えば、真空中の固体表面観察・分析機構を有する真空装置中に活性ガスを導入して固体表面を変化させ、その表面変化を固体表面観察・分析機構によって調べる方法がとられた( F.M. Leibsk et al.,Physical Review B,38巻,5780ページ,1988年)。しかしこれらの方法では真空中表面分析手法を用いるため、活性ガス成分による大気圧中での表面変化をその場で観察することができなかった。一方、大気圧中の固体表面観察・分析方法による固体表面観察・分析においては、通常の大気中で表面観察・分析が行われるために、固体表面の変化を十分に制御することができなかった。このために大気圧中、固体表面観察・分析装置は変化の少ない一定の表面状態の観察・分析にのみ用いられて、表面変化の観察・分析用には用いられることが少なかった。このように、従来は固体表面の大気圧中での変化を制御性良く直接的に観察・分析する手法はなかった。本発明の目的は、このような従来の表面変化観察・分析方法の欠点を除去し、大気圧中での活性ガス成分による固体表面変化を直接的にその場で観察・分析する方法およびその装置を提供することにある。
【0003】
【課題を解決するための手段】本発明は、不活性ガス中の表面観察・分析装置中に、大気を混入させることなく不活性ガス中で固体表面を導入し、次いで不活性ガスに活性ガスを混入させ、この混合ガス雰囲気中で固体表面観察・分析を行って活性ガスによる固体表面の変化を観察することを特徴とする大気圧中における固体表面変化の観察・分析方法である。またその方法を実施するための装置は、不活性ガスで満たされた連結した複数の箱状体からなり、各箱状体は該箱状体間に不活性ガス中で固体を移動させる移送機構を備え、かつ前記箱状体のうちのいずれかが、不活性ガスに活性ガスを混合させる機構、該混合ガス中で固体表面を観察・分析する機構および単数または複数の固体表面の前処理機構を備え、少なくとも一個の箱状体は不活性ガス充填前の真空排気機構を備えてなることを特徴とするか、あるいは不活性ガスで満たされた連結した複数の箱状体からなり、各箱状体は該箱状体間に不活性ガス中で固体を移動させる移送機構を備え、かつ前記箱状体のうちのいずれかが、不活性ガス中でプロセス装置から固体を導入する機構、不活性ガスに活性ガスを混合させる機構および該混合ガス中で固体表面を観察・分析する機構を備えてなることを特徴とする。
【0004】本発明の方法においては、固体表面変化の観察・分析前に固体表面の処理を不活性ガス中で行うこと、あるいは固体表面変化の観察・分析前に不活性ガス中でプロセス装置から固体表面を導入すること、あるいは固体表面変化の観察・分析の際に光照射を行って活性ガスと光照射の両方による固体表面の変化を観察することを含めることができる。また、固体表面変化の観察・分析後に、不活性ガス雰囲気中で真空中表面分析装置内に固体表面を導入することを含めることができる。また、本発明の装置には、不活性ガスと活性ガスとの混合ガス中で固体表面に光照射する機構、あるいは少なくとも1個の不活性ガス中で表面分析用真空装置中に試料を搬出入する機構を1個もしくは複数の箱状体が備えたものを含めることができる。
【0005】本発明における表面観察・分析方法としては、走査型トンネル顕微鏡(STM)、原子間力顕微鏡(AFM)、フ―リエ変換赤外吸収(FTIR)のATR(Attenuated Total Reflection)法などが挙げられるが、このほかにも大気圧中での観察・測定が可能な表面観察・分析手法であればその方法は問わない。本発明における表面処理方法としては、表面の化学洗浄、希釈フッ酸による酸化膜除去、水洗等が挙げられる。また、本発明の装置内に次のプロセスを行うことのできる装置を設置するならば、フッ酸蒸気による酸化膜除去、塩素ガスやラジカル、フッ素ガスやラジカルによる表面ドライ洗浄なども可能となる。
【0006】
【作用】本発明によれば、まず、不活性ガス中で、大気を混入させることなく、不活性ガス中の固体表面観察・分析装置内に固体表面を導入する。このような固体表面の導入により、固体表面変化の観察・分析や、表面処理を行う装置中への、意図しない大気混入を回避することができる。次に装置内の不活性ガスに活性ガスを混入させ、この混合ガス雰囲気中で固体表面変化の観察・分析を行う。これにより、活性ガスによる固体表面の変化過程を大気圧中で観察することができる。場合によってはこのガス雰囲気中で固体表面に光照射を行うが、これにより光照射による固体表面変化および活性ガスと光照射とによる固体表面変化を観察・分析することができる。その結果、大気圧中での、活性ガス成分による固体表面変化を直接的にその場で観察・分析することが可能となる。
【0007】
【実施例】以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の大気圧中の固体表面変化の観察・分析装置の一実施例を示す概略構成図である。図中、11,12,13は連結した箱状体で、それぞれ窒素導入口14,15,16、窒素排気口17,18,19を有する。11は試料導入室で、真空ポンプ20により真空排気が可能である。12は表面処理室で、希釈フッ酸容器21、純水容器22が設置されており、試料表面の酸化膜除去処理を行うことができる。13はAFM観察室で、AFM観察用ヘッド23、試料−測定針位置合わせ用顕微鏡ヘッド24、顕微鏡用CCDカメラ25が設置されている。AFM観察室13の外部にはAFM制御系26、CCDカメラモニタ27が設置されている。AFM観察室13は酸素ガス導入口28、水蒸気導入口29を有する。またAFM観察室13は光透過窓30を有し、窓の外部には光照射装置31が設置されている。
【0008】次に、上記の装置を用いた本発明の方法による処理について説明する。表面処理室12、AFM観察室13には常時、窒素ガスを窒素導入口15,16より導入、窒素排出口18,19より排出しており、室内は大気圧の窒素ガスで満たされ、湿度は十分低く保たれている。表面凹凸の変化をAFMによって観察しようとする試料32を試料導入室11に入れ、この室内の空気をポンプ20によって排気する。真空排気の後、窒素導入口14より窒素ガスを導入し、試料導入室11内を大気圧の窒素ガスで満たす。次に、試料導入室11と表面処理室の間の扉33を開け、試料32を表面処理室12に導入する。希釈フッ酸容器21、純水容器22中の希釈フッ酸、純水によって試料表面の酸化膜を除去する処理を行った後、表面処理室12とAFM観察室13の間の扉34を開けて試料32をSTM、AFM観察室13に導入する。この室内で、位置合わせ用顕微鏡ヘッド24、顕微鏡用CCD25を用いて試料−針の位置合わせを行った後、AFM観察用ヘッド23によりAFMの測定を開始する。次に酸素ガス導入口28または水蒸気導入口29よりAFM観察室13に酸素ガスまたは水蒸気を導入し、さらに場合によっては光照射装置31から照射された光35を光透過窓30を通して試料表面に照射する。これによって活性ガスや光照射が表面変化に及ぼす効果をAFMによって観察することができる。試料の搬送、表面処理、測定の際の取り扱いは、表面処理室12に取り付けられた大気遮断手袋36、AFM観察室13に取り付けられた大気遮断手袋37を通して、装置外から作業者が行う。手袋を用いない機械的な搬送装置を設置しても本発明の装置の効果には変わりがない。AFM観察室に導入する活性ガスは、装置の損傷が少ないものであれば上記実施例に示した酸素ガス、水蒸気以外のガスであってもかまわない。表面処理室内の表面処理方法は、本実施例のような湿式方法のほか、表面処理室内に乾式の表面処理装置を設置してもよい。また、不活性ガス導入前の真空排気は、試料導入室に限らず、表面処理室や分析室においても行えるようにしてもよい。
【0009】図2は、上記方法を用いて酸素ガスによる酸化を行ったSi表面のAFM像(b)を、酸化前のAFM像(a)と比較して示したものである。本発明の方法を用いることにより、装置外の大気の影響なく、酸素ガスによるSi表面酸化に伴う表面凹凸の変化を、大気圧中で簡便に観察できている。
【0010】図3は、本発明の別の一実施例を示す概略構成図である。図中、211,212,213,214は連結した箱で、それぞれ窒素導入口215,216,217,218、窒素排気口219,220,221,222を有する。211は試料導入室で、真空を用いるプロセス装置223の試料搬出口224と密着して接続されている。212は一番目の表面処理室で、この中にはフッ酸蒸気、純水蒸気を用いた表面処理装置225が設置されており、試料表面の酸化膜除去処理行うことができる。213は2番目の表面処理室で、この中には塩素ラジカルを用いた表面処理装置226が設置されており、試料表面の表面汚染除去を行うことができる。214は表面分析室で、AFM測定装置227、FTIR−ATR測定装置228が設置されており、さらに真空を用いる表面分析装置229の試料導入口230が設置されている。表面分析室214は酸素ガス導入口231、水蒸気導入口232、エタノ―ル蒸気導入口233を有する。また表面分析室214は光透過窓234を有し、窓の外部には光照射装置235が設置されている。
【0011】次に、上記の装置を用いた本発明の方法による処理について説明する。試料導入室211、表面処理室212,213、表面分析室214には常時、窒素ガスを窒素導入口215,216,217,218より導入し、窒素排気口219,220,221,222より排出しており、各室内は大気圧の窒素ガスで満たされ、湿度は十分低く保たれている。真空を用いるプロセス装置223でプロセスを施した試料236を、プロセス装置の試料搬出口224から出して試料導入室211に入れる。次に試料導入室211と第一の表面処理室212との間の扉237を開けて試料236を第一の表面処理室212に入れ、表面処理装置225を用いて酸化膜除去の表面処理を行う。次に第一の表面処理室212と第二の表面処理室213の間の扉238を開けて試料236を第二の表面処理室213に入れ、表面処理装置226を用いて試料表面の汚染除去処理を行う。
【0012】次に第二の表面処理室213と表面分析室214の間の扉239を開けて試料236を表面分析室214に導入する。この室内でAFM測定装置227によりAFMの測定を、またFTIR−ATR測定装置228によりFTIR−ATRの測定を開始する。次に酸素ガス導入口231または水蒸気導入口232またはエタノ―ル蒸気導入口233より表面分析室214に酸素ガスまたは水蒸気またはエタノ―ル蒸気を導入し、さらに場合によっては光照射装置235から照射された光240を光透過窓234を通して試料表面に照射する。これによって活性ガスや光照射が表面変化に及ぼす効果をAFMによって観察することができる。さらに、変化後の試料表面を真空を用いる表面分析手法によって分析する場合には、試料導入口230より試料236を真空を用いる表面分析装置229に導入し、真空中での表面分析を行うこともできる。試料の搬送、表面処理、測定の際の取り扱いは、試料導入室211、第一の表面処理室212、第二の表面処理室213、表面分析室214に取り付けられた大気遮断手袋241,242,243,244を通して、装置外から作業者が行う。手袋を用いない機械的な搬送装置を設置しても本発明の装置の効果には変わりがない。表面分析室に導入する活性ガスは、装置の損傷が少ないものであれば上記実施例に示した酸素ガス、水蒸気、エタノ―ル蒸気以外のガスであってもかまわない。
【0013】第一、第二の実施例に関し、装置内に導入する不活性ガスは実施例で述べた窒素ガスに限るものではなく、乾燥したガスであれば他の不活性ガスであってもよい。また、図1、図3で示した大気圧中での表面分析方法は、AFM,FTIR−ATRに限らず、大気圧中で行う表面分析装置であればそれ以外の表面分析方法であってもよい。また、第二の実施例で図3に示した真空を用いる表面分析方法としては、例えばXPS、オ−ジェ電子分光、電子線回折などが挙げられるが、真空を用いる表面分析手法であれば他のものでもよい。第二の実施例に関し、図3で示したプロセス装置としては、例えば真空を用いる蒸着装置、エッチング装置、エピタキシャル成長装置などが挙げられるが、他の真空を用いるプロセス装置、あるいは真空を用いない酸化炉などのプロセス装置であってもよい。第一、第二の実施例共に、表面処理室は一つ、または第一、第二の二つに限るものではなく、処理する表面に応じて三つ以上の複数であってもよい。また表面処理室内の表面処理方法は、フッ酸蒸気を用いる方法、塩素ラジカルを用いる方法、希釈フッ酸を用いる方法に限らず、いかなる乾式、湿式の表面処理方法であってもよい。
【0014】
【発明の効果】以上詳細に述べたように、本発明によれば、大気圧中での活性ガス成分による固体表面変化を、直接的にその場で簡便に観察・分析することが可能となる。従って、本発明の方法を固体表面変化の観察・分析手法に用いることにより、従来にない固体表面変化の観察が可能になり、表面観察・分析技術の向上に大きく寄与できる効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による装置の一実施例の概略構成図である。
【図2】上記装置による固体表面のAFM像を示す図である。
【図3】本発明による装置の別の一実施例の概略構成図である。
【符号の説明】
11,211 試料導入室
12,212,213 表面処理室
13 AFM観察室
14,15,16,215,216,217,218 窒素導入口
17,18,19,219,220,221,222 窒素排気口
20 真空ポンプ 21 希釈フッ酸容器
22 純水容器 23 観察用ヘッド
24 試料−測定針位置合わせ用顕微鏡ヘッド
25 顕微鏡用CCDカメラ 26 制御系
27 CCDカメラモニタ 28,231 酸素導入口
29,232 水蒸気導入口 30,234 光透過窓
31,235 光照射装置 32,236 試料
33,34,237,238,239 扉
35,240 光
36,37,241,242,243,244 大気遮断手袋
225,226 表面処理装置 227 STM・AFM測定装置
228 FTIR−ATR測定装置 229 真空を用いる表面分析装置
230 試料導入口 233 エタノ―ル蒸気導入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】 不活性ガス中の表面観察・分析装置中に、大気を混入させることなく不活性ガス中で固体表面を導入し、次いで不活性ガスに活性ガスを混入させ、この混合ガス雰囲気中で固体表面観察・分析を行って活性ガスによる固体表面の変化を観察することを特徴とする大気圧中における固体表面変化の観察・分析方法。
【請求項2】 不活性ガスで満たされた連結した複数の箱状体からなり、各箱状体は該箱状体間に不活性ガス中で固体を移動させる移送機構を備え、かつ前記箱状体のうちのいずれかが、不活性ガスに活性ガスを混合させる機構、該混合ガス中で固体表面を観察・分析する機構および単数または複数の固体表面の前処理機構を備え、少なくとも一個の箱状体は不活性ガス充填前の真空排気機構を備えてなることを特徴とする大気圧中における固体表面変化の観察・分析装置。
【請求項3】 不活性ガスで満たされた連結した複数の箱状体からなり、各箱状体は該箱状体間に不活性ガス中で固体を移動させる移送機構を備え、かつ前記箱状体のうちのいずれかが、不活性ガス中でプロセス装置から固体を導入する機構、不活性ガスに活性ガスを混合させる機構および該混合ガス中で固体表面を観察・分析する機構を備えてなることを特徴とする大気圧中における固体表面変化の観察・分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】第2964697号
【登録日】平成11年(1999)8月13日
【発行日】平成11年(1999)10月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−121837
【出願日】平成3年(1991)4月25日
【公開番号】特開平4−326007
【公開日】平成4年(1992)11月16日
【審査請求日】平成9年(1997)12月15日
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【参考文献】
【文献】特開 昭52−60061(JP,A)
【文献】特開 平5−113308(JP,A)
【文献】特開 平4−220504(JP,A)
【文献】特開 平4−216619(JP,A)
【文献】特開 平3−191804(JP,A)
【文献】特開 平3−24406(JP,A)
【文献】特開 昭64−59750(JP,A)