説明

大気腐食促進試験装置

【課題】
従来の大気腐食促進試験装置は、自然環境で飛来する塩粒子の付着による腐食を再現できないのと同時に噴霧のバラツキが未だ大きく、試験槽内における塩粒子付着量のバラツキを制御できない課題がある。
【解決手段】
被試験体に付着させる塩水液滴の直径と液滴の付着位置を制御し、被試験体に付着した塩水液滴を凝集させずに均一に付着させることができる大気腐食促進試験装置により達成される。具体的には恒温恒湿槽と、被腐食試験体を載せる被腐食試験体架台と、水洗洗浄機構と、被腐食試験体に塩水を噴霧する塩水吐出機構とから構成される大気腐食促進試験装置であって、塩水の液滴直径(r)と塩水吐出機構で制御された液滴の直径との関係がr≦1.1Rであり、かつ、被腐食試験体表面に付着した液滴の間隔と塩水吐出機構で制御された液滴の直径との関係がL≧1.2R以上の間隔で被腐食試験体表面に単位面積あたり所定量の塩水を付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中で使用される金属材料の腐食形態を再現できる腐食促進試験装置に係り、特に腐食を促進させる化学物質を被試験体に均一に付着させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気腐食の促進試験法としては、JIS Z 2371で規定されている塩水噴霧試験方法やJIS K 5600-7-9で規定されているサイクル腐食試験方法が知られており、規格に準拠した試験装置が用いられている。従来の試験装置では、腐食を促進させる化学物質として所定の濃度に調整された塩水を用い、この塩水を噴霧塔からミスト状に噴霧して被試験体に付着させる方法を採用していた。この塩水の噴霧量に関しては、試験槽内の塩水の採取位置によるバラツキが少ないことが、試験装置の精度として要求されている。塩水噴霧のバラツキを小さくする方法として、例えば、噴霧塔を二重構造とすることにより改善する方法が特許として公開されている。
【0003】
一方、霧状された噴霧された塩水が試験体に付着すると、噴霧された液滴が凝集して表面でぬれた状態になり、自然環境で飛来する海塩粒子のサイズが数10μm程度であるのと大きく異なる。その結果、実際の自然環境中に置かれている材料の腐食状態とはかけ離れているものであった。自然環境で飛来する塩粒子の付着状況を再現する方法としては、発生させた塩粒子を一定の緩衝空間を飛来させた後に被試験体に付着させることにより再現する方法が特許として公開されている。
【0004】
【特許文献1】特許第2031365号公報
【特許文献2】特許第3668743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記、塩水を噴霧することにより塩粒子を付着させる方法では、自然環境で飛来する塩粒子の付着による腐食を再現できないのと同時に、噴霧のバラツキが未だ大きく、試験装置内での被試験体の設置位置によるバラツキが十分に解消できていない課題がある。また、塩粒子を一定空間飛来させて付着させる方法では、自然環境で飛来する塩粒子を再現できても、試験槽内における塩粒子付着量のバラツキを制御できない課題がある。
【0006】
本発明の目的は、自然環境で飛来する塩粒子を再現すると同時に試験槽内での被試験体の設置位置によるバラツキを小さくできる試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成する発明の要旨は次の通りである。
【0008】
大気腐食促進試験装置は、恒温恒湿槽,被試験体を保持する架台,被試験体に付着した塩粒子を洗浄する機構,塩水を付着させる機構から構成され、被試験体に付着させる塩水液滴の直径と液滴の付着位置を制御し、被試験体に付着した塩水液滴を凝集させずに均一に付着させることにより達成される。ここで、付着させる塩水液滴の目標直径(R)と被試験体に実際に付着した塩水液滴の直径(r)との関係は、r≦1.1Rであり、かつ、付着した液滴間隔(L)と付着させる塩水液滴の目標直径との関係が、L≧1.2R以上の等間隔で付着させることにより、達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の大気腐食促進試験装置では、自然環境を模擬できる塩水液滴を付着でき、かつ、試験槽内で均一に塩水液滴を付着できるため、大気腐食環境を再現するとともに試験槽内の被試験体の設置位置によるバラツキが小さくなり、試験精度を向上できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の詳細について実施例を用い説明する。
【実施例1】
【0011】
図1に、本実施例の大気腐食促進試験装置の構成図を示す。大気腐食促進試験装置は、温度と湿度が独立に制御でき、かつ、恒温恒湿槽内の温度と湿度の複数の組み合わせ条件を連続的に変化させて保持できる温湿度設定機能を有するプログラム制御可能な恒温恒湿槽1,塩分を付着させるために塩水を吐出するための塩水吐出機構2,試験体に付着した塩分を洗浄除去するための洗浄機構を備えた塩分洗浄・乾燥室3,被腐食試験体を保持するための被腐食試験体架台4から構成されており、図中では板状試験材5が架台上に設置されている。
【0012】
次に、この大気腐食促進試験装置における試験手順を示す。先ず、板状試験材を洗浄および乾燥させた後に、被腐食試験体架台の全面に並べる。被腐食試験体架台に設置された板状試験材が塩分洗浄・乾燥室内に設置された塩水吐出機構の下を通過する際に塩水吐出機構から、板状試験材に向けて塩水が吐出されることにより、板状試験材の表面に所定量の塩水が付着される。この試験材をプログラム制御された恒温恒湿槽内に挿入して腐食試験を開始する。塩水が付着した板状試験材は、恒温恒湿槽内で所定の温湿度が組み合わせられた温湿度サイクルの環境で腐食試験される。今回、板状試験材の挿入後の温湿度サイクルとして、先ず、60℃相対湿度35%RHの乾燥環境で3時間板状試験材を乾燥させた後に40℃相対湿度95%RHの湿潤環境に3時間保持するサイクルを12回繰り返した。ここで、乾燥環境から湿潤環境、あるいは、湿潤環境から乾燥環境への移行時間は、各々1時間とし、一連のサイクルを8時間に設定した。乾燥と湿潤の組み合わせ環境に板状試験材を12サイクル計96時間暴露した後、被腐食試験架台に設置された板状試験材は、塩分洗浄・乾燥室を通じて、取り出される。塩分洗浄・乾燥室内には、水洗用のノズルと温風乾燥ノズルが設置されており、先ず水洗ノズルから清浄な水が板状試験材に所定量放水されて板状試験材に付着していた塩分が洗い流される。続いて、温風乾燥ノズルから温風が板状試験材に吹き付けられて乾燥する。ここで、水洗水の温度を30℃,温風の温度を50℃に設定した。この一連の塩水付着,温湿度サイクルと洗浄乾燥工程を繰り返すことにより腐食試験を継続した。温湿度サイクルでの乾燥・湿潤を4週間、または8週間繰り返し、その中で、週に二回、塩分付着工程及び洗浄工程を行った。
【0013】
図2は本実施例における塩水吐出機構を示した図である。塩水吐出機構は、塩水を供給する塩水口6,吐出機構内の塩水を排出するための排水口7,塩水吐出機構内を洗浄する清浄水を供給する吸水口8の給排気口があり、塩水吐出機構内の塩水を塩水吐出口9の直上に設置されているピストン10を駆動することにより、塩水吐出口から板状試験材に向けて塩水が吐出される。吐出された塩水が液滴11となり板状試験材に付着した状態を図3に示す。塩水吐出機構の吐出口直径やピストンの駆動条件と被腐食試験体架台の移動速度を制御することにより、板状試験材に付着する塩水液滴の量を制御することができる。先ず、塩水吐出口の直径とピストンの駆動条件を詳細に検討し、液滴直径を60μmに制御することを試みた結果、板状試験材に付着した塩水の直径を60±5μm、すなわち、吐出機構の制御で設定した液滴直径(R)が板状試験材に実際に付着した液滴直径(r)の1.1倍以内に制御できた。さらに、ピストンの駆動条件と被腐食試験体架台の移動速度の関係から、吐出した液滴が凝集せずに実際の環境に近い状態の塩分付着を再現するためには、液滴の間隔(L)が吐出機構の制御で設定した液滴直径(R)の1.2倍以上必要なことが判明した。
【0014】
繰り返し再現性は、所定の面積内に一定量の塩水が付着しているか、所定の面積のうち、任意の単位面積にそれぞれ一定量の塩水が付着しているか、さらに複数回の塗布で、毎回一定量の塩水が付着するかどうかで判断される。
【0015】
以上から、実際の環境に近い状態で塩分を付着させる条件は、被腐食試験体表面に付着した塩水の液滴直径(r)と塩水吐出機構で制御された液滴の直径(R)との関係がr≦1.1Rであり、かつ、被腐食試験体表面に付着した液滴の間隔(L)と塩水吐出機構で制御された液滴の直径との関係がL≧1.2R以上の等間隔で被腐食試験体表面に塩水を付着させることである。
【0016】
さらに、吐出させる塩水中の塩分濃度を制御することにより、板状試験材に付着する付着塩分量を制御できる範囲を検討した。図4は図3の付着形態において、塩分付着量と塩水液滴の直径あるいは液滴中の塩分濃度との関係を検討した図である。ここでは、塩分としてNaClを用い、0.0035mass%から35mass%まで変化させて塩付着量を検討した。検討結果から、板状試験材に付着した塩水液滴の直径を10〜300μmに制御し塩水中のNaCl濃度を制御することにより、塩分付着量を0.1〜10000mg/m2に制御でき、実際の環境で飛来する塩分の付着状態を広範囲の付着量で再現できることが確認できた。
【0017】
本実施例に示した大気腐食促進試験装置を用いて、被腐食試験体架台の面内における塩分付着量のバラツキを検討した。600mm×900mmの面積を有する被腐食試験体架台に100mm×100mmの試験材計40枚並べた。ここでは、試験材としてチタンを用いた。前記と同様の方法で、塩水吐出機構から塩分付着量として1g/m2付着するように制御して、試験材に塩分を付着させた。恒温恒湿槽内で乾燥させた後にそのそのまま試験材を取り出し、試験材表面に付着した塩分量を電子天秤で計測したところ、試験材一枚当たりに付着していた塩分量は、最大0.0110g(1.1g/m2),最小0.0092g(0.92g/m2)であった。すなわち、試験片表面任意の1cm2の面において、試験片表面に付着した塩の質量(m)と制御した塩分付着量(M)とが、m≦1.1Mの関係で試験片表面に塩分が均一に付着したことになる。
【0018】
上記実施例が示すように、塩水吐出機構から吐出し試験材表面に付着する塩水液滴の直径とその液滴の間隔、および、吐出する塩水中の塩分濃度が制御された大気腐食促進試験装置を用いることにより、実際の環境中で飛来する塩分状態を再現することができると同時に、試験材の設置位置による塩分付着量のバラツキを少なくすることができ、大気腐食促進試験の繰り返し再現性を向上することができる。
【実施例2】
【0019】
図5は、本発明の他の実施例である大気腐食促進試験装置の構成図である。大気腐食促進試験装置は、温度と湿度が独立に制御でき、かつ、恒温恒湿槽内の温度と湿度の複数の組み合わせ条件を連続的に変化させて保持できる温湿度設定機能を有するプログラム制御可能な恒温恒湿槽1,塩分を付着させるために塩水を吐出するための塩水吐出機構2,塩水吐出機構を洗浄し保管する塩水吐出機構洗浄・保管室12,被腐食試験体を保持するための被腐食試験体架台4から構成されており、図中では板状試験材5が架台上に設置されている。
【0020】
次に、この大気腐食促進試験装置における試験手順を示す。先ず、板状試験材を洗浄および乾燥させた後に、プログラム制御恒温恒湿槽内に設置された被腐食試験体架台の全面に並べる。腐食試験を開始する際、被腐食試験体架台に設置された板状試験材上部を塩水吐出機構が塩水を吐出しながら移動し、板状試験材の表面に所定量の塩水が付着される。塩水が付着した板状試験材は、恒温恒湿槽内で所定の温湿度が組み合わせられた温湿度サイクルの環境で腐食試験される。塩水吐出機構には、板状試験材を洗浄するための水洗用のノズルと送風ノズルが設置されており、板状試験材が所定の期間暴露された後の塩分洗浄と乾燥工程では、再び塩水吐出機構が被腐食試験体架台に設置された板状試験材上部を移動する。この時、塩水吐出機構から塩水は吐出しない状態で併設された水洗ノズルからから清浄な水が板状試験材に所定量放水されて、板状試験材に付着していた塩分が洗い流される。引き続き、塩水は吐出しない状態で併設された冷風送風ノズルから冷風が板状試験材に吹き付けられて板状試験材に付着している清浄水の液滴を除去する。次に、塩水吐出機構を塩水吐出機構洗浄・保管室に保管した後に、恒温恒湿槽を加湿しない40℃一定温度で運転して板状試験材を乾燥させる。板状試験材が乾燥した後に再び、塩水吐出機構を移動させて塩分を付着させる。この一連の塩水付着,温湿度サイクルと洗浄乾燥工程を繰り返すことにより腐食試験を継続した。
【0021】
この一連の工程で、塩水吐出機構が塩水吐出機構洗浄・保管室に保管されている間に塩水から析出した塩分が固着し、以降の塩分付着工程における塩分付着精度のバラツキが大きくなる可能性がある。そこで、塩水吐出機構が保管されている間に、塩水吐出機構に併設されている給水口から清浄水を供給して塩水吐出口から吐出することにより塩水吐出機構内に残存している塩水を洗浄した。その結果、実施例1に示した塩分付着精度を維持して腐食試験が継続できた。
【0022】
上記実施例の大気腐食促進試験装置を用いることにより、実際の環境中で飛来する塩分状態を再現することができると同時に、試験材の設置位置による塩分付着量のバラツキを少なくすることができ、大気腐食促進試験の繰り返し再現性を向上することができる。
【実施例3】
【0023】
図6は、本発明の他の実施例である大気腐食促進試験装置の構成図である。大気腐食促進試験装置は、温度と湿度が独立に制御でき、かつ、恒温恒湿槽内の温度と湿度の複数の組み合わせ条件を連続的に変化させて保持できる温湿度設定機能を有するプログラム制御可能な恒温恒湿槽1,塩分を付着させるために塩水を吐出するための塩水吐出機構2,塩水吐出機構を洗浄し保管する塩水吐出機構洗浄・保管室12,被腐食試験体を保持するための可動式被腐食試験体架台13,被腐食試験材を洗浄するための水洗槽14から構成されている。
【0024】
次に、この大気腐食促進試験装置における試験手順を示す。先ず、板状試験材を洗浄および乾燥させた後に、プログラム制御恒温恒湿槽内に設置された可動式被腐食試験体架台の全面に並べる。腐食試験を開始する際、被腐食試験体架台に設置された板状試験材上部を塩水吐出機構が塩水を吐出しながら移動し、板状試験材の表面に所定量の塩水が付着される。塩水が付着した板状試験材は、恒温恒湿槽内で所定の温湿度が組み合わせられた温湿度サイクルの環境で腐食試験される。
【0025】
板状試験材が所定の期間暴露された後の塩分洗浄と乾燥工程では、可動式被腐食試験体架台ごと被腐食試験体が水洗槽に浸漬されて水洗槽内を循環していす清浄水により板状試験材に付着していた塩分が洗い流される。塩分が洗い流された後、可動式被腐食試験体架台は水洗槽から引き出された後、恒温恒湿槽を加湿しない50℃一定温度で運転して板状試験材を乾燥させる。板状試験材が乾燥した後に再び、塩水吐出機構を移動させて塩分を付着させて、腐食試験を継続した。
【0026】
図7は本実施例における塩水吐出機構を示した図である。塩水吐出機構は、塩水を供給する塩水口6,吐出機構内の塩水を排出するための排水口7,塩水吐出機構内を洗浄する清浄水を供給する吸水口8の給排気口があり、塩水吐出機構内の塩水を塩水吐出口9の直上に設置されているピストン10を駆動することにより、塩水吐出口から板状試験材に向けて塩水が吐出される。ここでは、吐出口が二列千鳥格子上に配置されている。この吐出口配列で吐出された塩水が液滴11となり板状試験材に付着した状態を図8に示す。図3と比較すると板状試験材の面積に対する液滴の占める面積割合が多くなっていることがわかる。
【0027】
実際に、塩水吐出口の直径とピストンの駆動条件を詳細に検討し、液滴直径を50μmに制御することを試みた結果、板状試験材に付着した塩水の直径を50±5μm以内、すなわち、吐出機構の制御で設定した液滴直径(R)が板状試験材に実際に付着した液滴直径(r)の1.1倍以内に制御できた。さらに、ピストンの駆動条件と被腐食試験体架台の移動速度の関係から、吐出した液滴が凝集せずに実際の環境に近い状態の塩分付着を再現するためには、液滴の間隔(L)が吐出機構の制御で設定した液滴直径(R)の1.2倍以上必要なことが判明した。以上から、実際の環境に近い状態で塩分を付着させる条件は、被腐食試験体表面に付着した塩水の液滴直径(r)と塩水吐出機構で制御された液滴の直径(R)との関係がr≦1.1Rであり、かつ、被腐食試験体表面に付着した液滴の間隔(L)と塩水吐出機構で制御された液滴の直径との関係がL≧1.2R以上の等間隔で被腐食試験体表面に塩水を付着させることである。
【0028】
さらに、吐出させる塩水中の塩分濃度を制御することにより、板状試験材に付着する付着塩分量を制御できる範囲を検討した。図9は図8の付着形態において、塩分付着量と塩水液滴の直径あるいは液滴中の塩分濃度との関係を検討した図である。図4と同様に、塩分としてNaClを用い、0.0035mass%から35mass%まで変化させて塩付着量を検討した。この吐出口配列の方が、一列で吐出口を配置した図2の吐出口配列よりも付着塩分量の制御範囲が広くなり、実際の環境で飛来する塩分の付着量をより広範囲で再現できることが確認できた。
【0029】
さらに板状試験材の設置位置による塩分付着量のバラツキを調べたところ、試験材表面任意の1cm2の面において、試験材表面に付着した塩の質量(m)と制御した塩分付着量(M)とが、m≦1.1Mの関係で試験片表面に塩分が均一に付着することが確認できた。
【0030】
上記実施例が示すように、塩水吐出機構から吐出し試験材表面に付着する塩水液滴の直径とその液滴の間隔、および、吐出する塩水中の塩分濃度が制御された大気腐食促進試験装置を用いることにより、実際の環境中で飛来する塩分状態をより広範囲に再現することができると同時に、試験材の設置位置による塩分付着量のバラツキを少なくすることができ、大気腐食促進試験の繰り返し再現性を向上することができる。
【実施例4】
【0031】
図10は、本発明の他の実施例である大気腐食促進試験装置の構成図である。大気腐食促進試験装置は、温度と湿度が独立に制御でき、かつ、恒温恒湿槽内の温度と湿度の複数の組み合わせ条件を設定する機能を有するプログラム制御可能な恒温恒湿槽1,塩分を付着させるために塩水を吐出するための塩水吐出機構2,塩水吐出機構を洗浄し保管する塩水吐出機構洗浄・保管室12,被腐食試験体を保持するための可動式被腐食試験体架台13,被腐食試験材を洗浄するための水洗槽14から構成されている。
【0032】
次に、この大気腐食促進試験装置における試験手順を示す。先ず、板状試験材を洗浄および乾燥させた後に、被腐食試験体架台の全面に並べる。この試験材をプログラム制御恒温恒湿槽内に挿入して腐食試験を開始する際、被腐食試験体架台に設置された板状試験材が塩分洗浄・乾燥室内に設置された塩水吐出機構の下を通過する際に塩水吐出機構から、板状試験材に向けて塩水が吐出されることにより、板状試験材の表面に所定量の塩水が付着される。塩水が付着した板状試験材は、恒温恒湿槽内で所定の温湿度が組み合わせられた温湿度サイクルの環境で腐食試験される。乾燥と湿潤の組み合わせ環境に板状試験材を所定の期間暴露した。
【0033】
板状試験材が所定の期間暴露された後の塩分洗浄と乾燥工程では、可動式被腐食試験体架台ごと被腐食試験体が水洗槽に浸漬されて水洗槽内を循環していす清浄水により板状試験材に付着していた塩分が洗い流される。塩分が洗い流された後、可動式被腐食試験体架台は水洗槽から引き出され、塩水吐出機構洗浄・保管室を通じて、取り出される。塩水吐出機構洗浄・保管室内には、温風乾燥ノズルが設置されており、温風乾燥ノズルから温風が板状試験材に吹き付けられて乾燥する。この一連の塩水付着,温湿度サイクルと洗浄乾燥工程を繰り返すことにより腐食試験を継続した。
【0034】
本実施例の大気腐食促進試験装置の性能を調べたところ、実施例3と同様に、実際の環境で飛来する塩分の付着状態を広範囲の付着量で再現できることが確認でき、塩分付着量のバラツキも、試験片表面任意の1cm2の面において、試験片表面に付着した塩の質量(m)と制御した塩分付着量(M)とが、m≦1.1Mの関係で試験片表面に塩分が均一に付着することを確認した。
【0035】
上記実施例が示すように、塩水吐出機構から吐出し試験材表面に付着する塩水液滴の直径とその液滴の間隔、および、吐出する塩水中の塩分濃度が制御された大気腐食促進試験装置を用いることにより、実際の環境中で飛来する塩分状態を再現することができると同時に、試験材の設置位置による塩分付着量のバラツキを少なくすることができ、大気腐食促進試験の繰り返し再現性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例である大気腐食促進試験装置の構成図。
【図2】本発明の一実施例である塩水吐出機構を示した図。
【図3】吐出された塩水が液滴となり板状試験材に付着した状態を示す図。
【図4】塩分付着量と塩水液滴の直径あるいは液滴中の塩分濃度との関係を示す図。
【図5】本発明の他の実施例である大気腐食促進試験装置の構成図。
【図6】本発明の他の実施例である大気腐食促進試験装置の構成図。
【図7】本発明の他の実施例である塩水吐出機構を示した図。
【図8】吐出された塩水が液滴となり板状試験材に付着した状態を示す他の実施例の図。
【図9】塩分付着量と塩水液滴の直径あるいは液滴中の塩分濃度との関係を示す他の実施例の図。
【図10】本発明の他の実施例である大気腐食促進試験装置の構成図。
【符号の説明】
【0037】
1 プログラム制御恒温恒湿槽
2 塩水吐出機構
3 塩分洗浄・乾燥室
4 被腐食試験体架台
5 板状試験材
6 塩水口
7 排水口
8 吸水口
9 塩水吐出口
10 ピストン
11 塩水液滴
12 塩水吐出機構洗浄・保管室
13 可動式被腐食試験体架台
14 水洗槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温恒湿槽と、被腐食試験体を載せる被腐食試験体架台と、水洗洗浄機構と、被腐食試験体に塩水を噴霧する塩水吐出機構とから構成される大気腐食促進試験装置であって、
前記塩水吐出機構から吐出され、前記被腐食試験体表面に付着した塩水の液滴直径(r)と塩水吐出機構で制御された液滴の直径(R)との関係がr≦1.1Rであり、かつ、被腐食試験体表面に付着した液滴の間隔(L)と塩水吐出機構で制御された液滴の直径との関係がL≧1.2R以上の間隔で被腐食試験体表面に単位面積あたり所定量の塩水を付着させることを特徴とする大気腐食促進試験装置。
【請求項2】
被腐食試験体表面に付着した塩水の液滴直径が10〜300μmであり、かつ、被腐食試験体表面に付着した塩水が蒸発乾固して付着析出した塩の質量が0.1〜10000mg/m2であることを特徴とする請求項1に記載の大気腐食促進試験装置。
【請求項3】
被試験腐食体表面に塩を付着させるために用いる塩水吐出機構を走査することにより、被腐食試験体表面に塩水を付着させることを特徴とする請求項2記載の大気腐食促進試験装置。
【請求項4】
被腐食試験体を設置した架台を移動させることにより、被腐食試験体表面に塩水を付着させることを特徴とする請求項2記載の大気腐食促進試験装置。
【請求項5】
恒温恒湿槽,被腐食試験体架台,水洗洗浄槽,塩水吐出機構から構成され、塩水吐出機構から吐出され、可動式被腐食試験体架台とともに被試験体を水洗洗浄槽内に浸漬させることにより、被試験体表面に付着した塩を除去して乾燥した後に、被腐食試験体表面に塩を付着させ、ここで、被腐食試験体表面に付着した塩水の液滴直径(r)と塩水吐出機構で制御された液滴の直径(R)との関係がr≦1.1Rであり、かつ、被腐食試験体表面に付着した液滴の間隔(L)と塩水吐出機構で制御された液滴の直径との関係がL≧1.2R以上の間隔で被腐食試験体表面に塩水を付着させることを特徴とする大気腐食促進試験装置。
【請求項6】
被腐食試験体表面に付着した塩水の液滴直径が10〜300μmであり、かつ、被腐食試験体表面に付着した塩水が蒸発乾固して付着析出した塩の質量が0.1〜10000mg/m2であることを特徴とする請求項5に記載の大気腐食促進試験装置。
【請求項7】
被試験腐食体表面に塩を付着させるために用いる塩水吐出機構を走査することにより、被腐食試験体表面に塩水を付着させることを特徴とする請求項6記載の大気腐食促進試験装置。
【請求項8】
被腐食試験体を設置した架台を移動させることにより、被腐食試験体表面に塩水を付着させることを特徴とする請求項6記載の大気腐食促進試験装置。
【請求項9】
塩水吐出機構に洗浄水導入口および塩水導入口を具備し、塩水の吐出後に洗浄水を吐出することを特徴とする請求項1乃至9に記載の大気腐食促進試験装置。
【請求項10】
恒温恒湿槽,被腐食試験体架台,水洗洗浄機構,塩分機構から構成され、塩分付着機構から被腐食試験体表面に付着した塩の質量(m)が、試験体表面任意の1cm2の面で、塩分付着機構で制御された塩の質量(M)とが、m≦1.1Mの関係で被腐食試験体表面に均一に付着させることを特徴とする大気腐食促進試験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2010−85144(P2010−85144A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252155(P2008−252155)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】