説明

大細孔径多孔質シリカゲルの細孔物性の調整方法及び得られた大細孔径多孔質シリカゲル

【課題】 従来の大細孔径シリカゲルを原体とし、その細孔径をきわめて狭い範囲で、増加させ、また、細孔容積及び比表面積についても、減少させることなく、いずれも増加させるように処理する。
【解決手段】 大細孔径を有する多孔質シリカゲル原体を、フッ化水素水溶液又はアルカリ水溶液に接触させ、当該粒子形状を維持したまま、その細孔径、細孔容積、及び比表面積をいずれも増加させるように処理する。フッ化水素の前記シリカゲル原体に対する質量比は、0.1/1〜1.8/1であり、アルカリのシリカゲル原体に対する質量比は0.02/1〜0.2/1であることが好ましい。調整されたシリカゲルの細孔物性はそのシリカゲル原体に対し、細孔径の増加率が50%以下、細孔容積の増加率が5倍以下、比表面積の増加率は4倍以下である。また、細孔物性測定を水銀圧入法で行った時の水銀残留率が20容量%以下の大細孔径多孔質シリカゲルが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大細孔径を有する多孔質シリカゲルの細孔物性の調整方法に関し、より詳しくは、当該粒子形態を実質的に保持したまま、その細孔径、細孔容積、及び比表面積を制御した状態で増加させる調整方法に関する。
本発明により得られる大細孔径多孔質シリカゲルは、好ましくは30〜3500nmの大細孔径を有し、かつ、細孔物性測定を水銀圧入法で行った時の水銀残留率が20容量%以下であり、例えば細孔容積(P.V.)が0.5〜3.0ml/gである大細孔径多孔質シリカゲルである。
【背景技術】
【0002】
大細孔径を有する多孔質シリカゲル(以下、「大細孔径多孔質シリカゲル」または単に「大細孔径シリカゲル」という。)とは、細孔径が30〜3500nm、好ましくは50〜1000nm程度のシリカゲルであって、ゲルクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー用カラム充填剤、抗体医薬品やタンパク質などの分離用、精製用、及び分析用基材、触媒や薬剤担体等の用途分野に好適に使用されている。具体的には、例えば液体クロマトグラフィーカラム充填剤としては、生命化学の分野、一般有機化合物、医薬品、農薬、化粧品、食品、タンパク質、糖質、低分子ペプチド、核酸、生薬、天然物中の有効成分などの広範な対象成分の分離、分析、精製用としての用途に広範囲に使用されている。
【0003】
また、特に細孔容積の大きな大細孔径シリカゲルは、当該細孔内により多量のタンパク質や糖質等の目的成分を取り入れることができるため、分離速度が大きくなり、分離装置のコンパクト化にも資することが期待される。
【0004】
なお、さらに目的成分が当該細孔内にスムーズに拡散することも分離を良くする要因の一つであるが、従来はこの細孔内の拡散性を評価する指標として明確にしたものはなかった。
【0005】
従来、このような大細孔径シリカゲルの製造方法としてはいくつかの方法が知られている。
たとえば、通常のシリカゲル(細孔径が30nm未満で数nm〜十数nmのものをいう。普通細孔径シリカゲルともいう。)を2〜50%のリン酸に含浸し、100〜700℃で加熱処理することにより大細孔径化することは公知であり、具体的には、例えば6.9nmのシリカゲルを15%リン酸で処理し、300℃で10時間加熱処理することにより、細孔径223.9nmの大細孔径シリカゲルが得られる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0006】
また、細孔径10nm程度のシリカゲルを270〜350℃で水熱処理することにより、基本的に細孔径950〜1350nmの大細孔径シリカゲルが得られることも公知である(例えば、特許文献2を参照。)。
【0007】
さらに、通常のシリカゲルの細孔内を、NaCl等の無機塩水溶液で充填し、乾燥後、350〜1500℃で焼成する方法も知られており、例えば、細孔径5nmのシリカゲル(NaClを10質量%充填したもの。)を900℃で焼成することにより、860nmの大細孔径シリカゲルとすることができる。さらには、1000℃の焼成により細孔径1200nmのものが、1100℃焼成では1430nmのものが、1300℃焼成で2320nmの大細孔径シリカゲルが得られることも知られている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0008】
しかしながら、これら従来の方法においては、水熱処理や無機塩を添加して焼成する操作により、シリカゲルの当該細孔径を増大せしめること(以下「大細孔化処理」という。)はきわめて容易であるが、むしろ細孔径が大きくなりすぎて、これを所望の狭い範囲の細孔径等となるように当該大細孔化処理工程における焼成温度や水熱反応温度を制御することは困難である。たとえば、目標細孔径100nm、120nm、150nmのシリカゲル、さらには100nm+5nm、100+10nm、100+20nm、・・・等のごとき所望の、すなわち特定の狭い範囲に制御された細孔径のシリカゲルを、水熱反応温度等の因子のコントロールによって、再現性よく製造することは困難である。
【0009】
また、大細孔径化処理した場合、細孔容積や比表面積が、逆に低下してしまうという問題もある。例えば特許文献1の実施例においては、細孔径6.9nmのシリカゲルをリン酸処理後加熱処理して、細孔径223.9nmの大細孔径ゲルとした場合、当該大細孔径シリカゲルの細孔容積は、もとのシリカゲルの1.02ml/gから0.72ml/gへ、比表面積は423m3/gから37m3/gへとむしろ減少してしまう。
【0010】
【特許文献1】特開平3−23211号公報(特許請求の範囲(請求項1〜4)、〔実施例1〕)
【特許文献2】特公昭和61−20487号公報(〔実施例〕、第1表)
【特許文献3】特開昭47−5817号公報(特許請求の範囲)、〔例1〕、表)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来の大細孔径シリカゲルを原体とし、その細孔径(以下「P.D.」ともいう。)、をきわめて狭い範囲で、増加させるように調整する手段を提供すること、及び、当該細孔径(P.D.)を増加させた大細孔径シリカゲルとする場合、細孔容積(以下「P.V.」ともいう。)、及び比表面積(以下「S.A.」ともいう。)についても、減少させることなく、いずれも増加させるように処理調整する手段を提供することである。そして、さらに好ましくは、細孔物性測定を水銀圧入法で行った時の水銀残留率(以下「HgEn」ともいう。)を20容量%以下とした大細孔径を有する多孔質シリカゲルであるように調整する手段を提供することである。
【0012】
また、本発明の他の目的は、原体である大細孔径シリカゲルの細孔径をわずかに増加または実質的に保持したまま、当該細孔容積(P.V.)や比表面積(S.A.)の方を大幅に増加せしめる手段を提供することであり、好ましくはさらにHgEnを20容量%以下とした大細孔径を有する多孔質シリカゲルであるように処理する手段を提供することである。
【0013】
本発明者らは、かかる観点から鋭意検討した結果、大細孔径シリカゲルを、シリカ(SiO2)自体を容易に溶解させることが知られているフッ化水素(HF)の水溶液(フッ化水素酸)やアルカリ水溶液と、特定の条件で接触させた場合、意外なことに、通常のシリカゲルと異なり、大細孔径シリカゲルの場合は、当該シリカゲルの粒子形状自体を実質的に保持しながら、当該シリカゲルの大細孔径等の細孔物性を好適に増加せしめうることを見いだし本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に従えば、以下の大細孔径多孔質シリカゲルの細孔物性の調整方法が提供される。
〔1〕
30〜3500nmの大細孔径を有する多孔質シリカゲル原体を、フッ化水素水溶液又はアルカリ水溶液に接触させ、当該粒子形状を維持したまま、その細孔径(P.D.)、細孔容積(P.V.)、及び比表面積(S.A.)をいずれも増加させるように処理することを特徴とする大細孔径多孔質シリカゲルの細孔物性の調整方法。
【0015】
〔2〕
前記フッ化水素の前記シリカゲル原体に対する質量比(フッ化水素質量/シリカゲル原体質量)が0.1/1〜1.8/1である〔1〕に記載の方法。
【0016】
〔3〕
前記アルカリの前記シリカゲル原体に対する質量比(アルカリ(OH)質量/シリカゲル原体質量)が0.02/1〜0.2/1である〔1〕に記載の方法。
【0017】
〔4〕
フッ化水素水溶液又はアルカリ水溶液に接触・処理後のシリカゲルの細孔物性が、そのシリカゲル原体に対し、細孔径(P.D.)の増加率が50%以下、0.5%以上であって、かつ、細孔容積(P.V.)の増加率が5倍以下、0.2倍以上、比表面積(S.A.)の増加率が4倍以下、0.1倍以上である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
【0018】
〔5〕
前記シリカゲル原体が球状又は不定形シリカゲルである〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法。
【0019】
また、本発明に従えば、以下の大細孔径多孔質シリカゲルが提供される。
〔6〕
細孔物性測定を水銀圧入法で行った時の水銀残留率が20容量%以下である〔1〕〜〔5〕のいずれかの方法によって得られた大細孔径多孔質シリカゲル。
【発明の効果】
【0020】
本発明の大細孔径多孔質シリカゲルの細孔物性の調整方法によれば、従来の大細孔径シリカゲルを原体とし、その細孔径(P.D.)、をきわめて狭い範囲で、増加させるように調整することができる。また、本発明によれば、当該細孔径を増加させた大細孔径シリカゲルとする場合、細孔容積(P.V.)、及び比表面積(S.A.)を、減少させることなく、いずれも増加させるように処理調整することができ、好ましくは、細孔物性測定を水銀圧入法で行った時のHgEnを20容量%以下にすることができる。
【0021】
さらにまた、本発明によれば、原体である大細孔径シリカゲルの細孔径をわずかに増加または実質的に保持したまま、当該細孔容積(P.V.)や比表面積(S.A.)の方をより大幅に増加せしめることができ、好ましくは、細孔物性測定を水銀圧入法で行ったときのHgEnを20容量%以下にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明においては、大細孔径を有する多孔質シリカゲル原体を、フッ化水素水溶液又はアルカリ水溶液に接触させ、その細孔物性を増加させる。
この大細孔径シリカゲル原体は、通常の細孔径分布のシリカゲルを出発原料としてこれを公知方法によって大細孔径化することにより容易に得られる。
【0023】
(出発原料シリカゲル(普通細孔径シリカゲル))
本発明において、出発原料であるシリカゲルとしては、特に限定するものではないが、通常、平均粒径が0.5〜10,000μm、好ましくは1〜500μmであり、平均細孔径が30nm未満で数nm〜十数nm、例えば0.5〜25nm、好ましくは5nm〜15nm程度であり、比表面積が50〜10,000m2/g、好ましくは100〜1,000m2/g程度のものが望ましい。
【0024】
粒子形状は、破砕したものでもよいが、球状のものがより好ましい。かかる原料としてのシリカゲルは、市販のものが容易に入手可能であり、また、所望のものを、公知の手段により、合成することも可能である。なお、本発明においては、「平均細孔径」を、単に「細孔径」と称する。
【0025】
球状シリカゲルの代表的な製造方法は、液/液の界面張力を利用して粒子を球形化する方法であって、例えば、特開平6−64915号や特開2001−146416号に記載されているように、界面活性剤を含む非極性有機ハロゲン化物溶媒中、又は炭素数9−12程度の飽和炭化水素溶媒中で、ケイ酸アルカリ(アルカリ金属ケイ酸塩)水溶液を乳化・分散させ、生成した微小分散液滴の液/液界面における界面張力を利用して、個々の液滴を球形化せしめ、次いで、その状態で硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸や炭酸ガス等のゲル化剤と反応せしめてゲル化・固化せしめる方法である。
【0026】
得られたゲル粒子は、溶媒と分離し、熟成槽でpH1〜5、温度30〜100℃程度の条件下、0.5〜5時間程度熟成処理を行い、熟成停止後、濾過・水洗することにより、微小球状のシリカヒドロゲル粒子が得られ、これを50〜180℃程度で1〜8時間乾燥し、微小球状のシリカゲル粒子が得られる。なお、不定形破砕品は、この球形粒子を破砕処理することにより容易に得ることが出来る。
【0027】
また、気/液の表面張力を利用して、球形シリカゲルを得る方法を採用することも可能である。例えば、特公昭48−13834号に記載されているごとく、ケイ酸アルカリ水溶液と鉱酸水溶液を混合してシリカゾルを短時間で生成させると同時に、気体中に放出し、当該気体中で球形粒子としてゲル化させる方法を採用することができる。不定形破砕品は、同様に、この球形粒子を破砕処理することにより容易に得られる。
【0028】
(大細孔径シリカゲル原体)
本発明で使用する大細孔径を有する多孔質シリカゲル原体は、上記した普通細孔径シリカゲルを、公知方法により、大細孔径化したものである。
【0029】
たとえば、当該普通細孔径シリカゲル(細孔径が30nm未満の数で数nm〜十数nmのもの。)を2〜50%のリン酸に含浸し、100〜700℃で加熱処理するか(リン酸浸漬−加熱処理法、特許文献1)、270〜350℃で水熱処理する方法(水熱処理法、特許文献2)、シリカゲルの細孔内をNaCl等の無機塩水溶液で充填し、乾燥後、350〜1500℃で焼成する方法(無機塩充填−焼成法、特許文献3)のいずれの方法を適用することによっても、本発明で使用するのに好ましい大細孔径シリカゲルが得られる。
【0030】
大細孔径シリカゲル原体として特に好ましいシリカゲルは、細孔径(P.D.)30〜3500nm、好ましくは50〜1000nm、さらに好ましくは80〜500nm程度のものである。また、当該細孔容積(P.V.)は、0.2〜2.0ml/g、好ましくは0.4〜1.5ml/g、比表面積(S.A.)は、10〜1000m2/g、好ましくは50〜800m2/g程度のものである。なお、粒径としては、2〜200μm、好ましくは5〜100μm、さらに好ましくは10〜70μmである。当該シリカゲル原体は、球状又は不定形シリカゲルのいずれであってもよい。
【0031】
(大細孔径シリカゲル原体のフッ化水素及びアルカリ処理)
本発明においては、上記のようにして調製した大細孔径多孔質シリカゲル原体をフッ化水素水溶液又はアルカリ水溶液に接触させ、粒子形状を維持したまま、その細孔径(P.D.)、細孔容積(P.V.)、及び比表面積(S.A.)をいずれも増加させるように処理する。
【0032】
本発明のフッ化水素水溶液またはアルカリ水溶液による処理を実施するための装置としては、撹拌手段を備えた撹拌槽型容器で、フッ化水素水溶液またはアルカリ水溶液を収容し、液中に投入した大細孔径シリカゲル原体を浮遊・分散せしめながらスラリー状態で固−液接触処理しうるものが好ましい。さらに加熱手段、温度制御手段を備えることもできる。
【0033】
(フッ化水素による処理)
使用するフッ化水素のシリカゲル原体に対する質量比(フッ化水素質量/シリカゲル原体質量)は、0.1/1〜1.8/1、好ましくは0.2/1〜1.6/1程度である。フッ化水素の比率がこれ未満であるとシリカゲル原体の細孔物性を調整する反応を充分奏することができず、比率がこれを超えると細孔物性を制御しながら調整することが困難になる。
【0034】
フッ化水素水溶液(フッ酸ともいう。)の濃度は0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜15質量%、さらに好ましくは1〜10質量%である。濃度がこれ未満であるとシリカゲル原体の細孔物性を増加させるフッ化水素の作用が充分奏されず、また濃度がこれを超えると反応が進行しすぎて細孔物性を制御することが困難になる。なお、フッ化水素水溶液中のシリカゲル原体のスラリー濃度は1〜60質量%、好ましくは2〜50質量%、さらに好ましくは3〜40質量%である。
【0035】
反応温度は、5〜100℃、好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは20〜50℃程度である。また、特に加温又は冷却を行うことなく室温で反応を行ってもよい。
【0036】
処理時間(反応時間)はフッ化水素水溶液の濃度、反応温度、フッ化水素質量とシリカゲル原体質量比、スラリー濃度等の因子によって変わりうるが、通常0.1〜30時間、好ましくは1〜20時間程度である。
【0037】
処理工程が終了後のスラリーを濾過や遠心分離により固液分離し、分離したシリカゲルケーキを水洗、乾燥して細孔物性を調整した大細孔径シリカゲルが得られる。
【0038】
本発明においては、上記のように大細孔径多孔質シリカゲル原体をフッ化水素水溶液に接触させることにより、シリカゲル粒子の外表面の不均一な溶解が起こってその表面に凹凸が形成されて比表面積が増加し、同様に、大細孔内に侵入したフッ化水素水溶液との接触により、細孔内部の壁面が溶解するので細孔径が増大するとともに細孔内部がより大きくなって、細孔内容積が増大すると考えられる。
【0039】
(アルカリによる処理)
本発明においては、フッ化水素水溶液のかわりにアルカリ水溶液を用いてもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属の水酸化物等の強アルカリが好ましい。そして最も好ましくは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムである。
【0040】
使用するアルカリのシリカゲル原体に対する質量比(アルカリ(OH)質量/シリカゲル原体質量)は0.02/1〜0.2/1、好ましくは0.05/1〜0.15/1程度である。アルカリの比率がこれ未満であるとシリカゲル原体の細孔物性を調整する反応を充分奏することができず、比率がこれを超えると細孔物性を制御しながら調整することが困難になる。
【0041】
アルカリ水溶液の濃度は0.1〜40質量%、好ましくは0.5〜30質量%、さらに好ましくは1〜20質量%である。濃度がこれ未満であるとシリカゲル原体の細孔物性を増加させるアルカリの作用が充分奏されず、また濃度がこれを超えると反応が進行しすぎて細孔物性を制御することが困難になる。なお、アルカリ水溶液中のシリカゲル原体のスラリー濃度は1〜60質量%、好ましくは2〜50質量%、さらに好ましくは3〜40質量%である。
【0042】
反応温度は、5〜100℃、好ましくは10〜80℃、さらに好ましくは20〜50℃程度である。また、特に加温又は冷却を行うことなく室温で反応を行ってもよい。
【0043】
処理時間(反応時間)はアルカリ水溶液の濃度、反応温度、アルカリ質量とシリカゲル原体質量比、スラリー濃度等の因子によって変わりうるが、通常1分〜50時間、好ましくは10分〜40時間、さらに好ましくは30分〜30時間、最も好ましくは1〜20時間程度である。
【0044】
処理工程が終了後のスラリーを濾過や遠心分離により固液分離し、分離したシリカゲルのケーキを撹拌槽において、再度水に分散せしめ、硫酸、塩酸、硝酸等の適当な酸を添加してpHを1〜3程度とし、0.1〜2時間スラリー状態で撹拌してアルカリを充分洗浄する。所望によりさらにこれを濾過、洗浄、乾燥することにより細孔物性を調整した大細孔径シリカゲルが得られる。
【0045】
本発明においては、上記のように大細孔径多孔質シリカゲル原体をアルカリ水溶液に接触させることにより、フッ化水素水溶液の場合と類似のメカニズムにより、シリカゲル粒子の外表面の不均一な溶解が起こってその表面に凹凸が形成されて比表面積が増加し、同様に、大細孔内に侵入したアルカリ水溶液との接触により、細孔内部の壁面が溶解するので細孔径が増大するとともに細孔内部がより大きくなって、細孔内容積が増大すると考えられる。
【0046】
(細孔物性を調整した大細孔径シリカゲル)
以上のごとくして、シリカゲル原体をフッ化水素水溶液又はアルカリ水溶液に接触・処理せしめて得られた細孔物性調整大細孔径シリカゲルにおいては、以下に述べる実施例に示されているように、そのシリカゲルの細孔物性が、シリカゲル原体に対し、細孔径(P.D.)の増加率が50%以下、0.5%以上であって、かつ、細孔容積(P.V.)の増加率が5倍以下、0.2倍以上、比表面積(S.A.)の増加率が4倍以下、0.1倍以上であるような細孔物性の微調整が可能なものである。例えば具体的には、細孔径(P.D.)は、40〜4500nm、細孔容積(P.V.)は0.5〜3.0ml/g、比表面積(S.A.)は、15〜2000m2/gのものである。
【0047】
すなわち、本発明においては、シリカゲル原体に対し、細孔径(P.D.)の増加率が50%以下、0.5%以上、細孔容積(P.V.)の増加率が5倍以下、0.2倍以上、及び比表面積(S.A.)の増加率が4倍以下、0.1倍以上としたのは、この範囲が本発明による細孔物性の微調整操作が制御可能な状態で好適に実施できる範囲であって、これを超える増加率のものを得ようとする場合は、制御しうる範囲を超えて細孔物性が大きくなりすぎ、当該細孔物性の微調整を行うという本発明の目的を達成することができなくなる。また、増加率が上記範囲の下限は、微調整のうち細孔特性の測定機器の測定限界付近の超微調整の範囲であり、これ未満の場合は、微調整を行う意味がないことになる。
【0048】
(水銀残留率)
また、好ましくは、本発明により細孔物性を調整した当該大細孔径シリカゲルは、その細孔物性測定を後記のごとくして水銀圧入法で行ったときの水銀残留率(HgEn)を20容量%以下、好ましくは18容量%以下、さらに好ましくは15容量%以下、最も好ましくは13容量%以下、1容量%以上とすることができるものである。水銀残留率とは、当該シリカゲルをクロマトグラフィー用カラム充填剤として使用した場合の分析対象各成分の分離容易性の指標となる値であって、加圧下に細孔内に圧入された水銀のうち、圧力を常圧に戻したときに、当該細孔内に残留している水銀の割合である。水銀残留率が低いほど、当該シリカゲルの細孔の形状、すなわち空隙が三次元的にあまり複雑に入り組んでおらず、圧入された水銀が再び細孔外に戻ってくる割合が大きいと考えられる。
【0049】
すなわち、実際に水銀の代わりに、分子の大きさに幅または分布があるタンパク質、糖質、低分子ペプチド等をシリカゲルカラムで分離処理する場合においても、水銀残留率の低い細孔特性を有するシリカゲルカラムを使用すると、これらの各成分が当該シリカゲルの細孔内にスムーズに出入りできるので、これらを溶離液で分離した場合、各成分の分離ピークがテーリングを伴わず、シャープな分離性のよいピークとなる。
【0050】
水銀残留率は、このようにシリカゲルカラムによる分離性を示すものであるから、低ければ低いほどよいと思われるが、残留率をゼロにすることは実用上必ずしも必要ではなく、本発明者らの知見によると、後記実施例に示すように、本発明によって水銀残留率(HgEn)20容量%以下のシリカゲルが得られるものであり、また、当該水銀残留率(HgEn)20容量%以下のシリカゲルは、各成分の分離ピークの形状から、実用上十分満足すべき、分離性を示すことが確認された。
【0051】
図4及び図5は、後記実施例における大細孔径シリカゲルの水銀残留率の変化を示すグラフであるが、これに基づいて水銀残留率の測定原理を説明する。
【0052】
図4は、アルカリ処理前のシリカゲルを水銀圧入法により、測定した場合であって、カーブAは加圧するに従い、(すなわち、細孔径を示す横軸の右端(細孔径30000Å)から左へ(細孔径70Å付近へ)進むにつれて)圧入される水銀量を示し、これが細孔径2000Åから立ち上がって、800Å付近で飽和して一定(高さ=a)になることを示す。この状態から圧力を下げていった場合の水銀量の変化がカーブBであって、左から右へと一種のヒステリシス状に変化し、800Å付近で急激に低下し、最後(大気圧に戻した時点)は高さbまで下がって一定になる。
【0053】
図においてaは細孔内に圧入される最大水銀量(容量)であり、bは減圧し大気圧に戻した時点での細孔内にトラップ(捕捉)されて残留する水銀量(容量)である。したがって、水銀残留率(HgEn)は次式(1)(〔数1〕)で算出される。
【0054】
〔数1〕
水銀残留率(HgEn)=(b/a)×100(容量%) (1)
【0055】
図4においては、細孔径30000Åにおいて、水銀残留率(HgEn)=23.1容量%と算出される。
また、図5はアルカリ処理後のシリカゲルを水銀圧入法により測定した場合のグラフであって、同様にして、細孔径30000Åにおいて、水銀残留率(HgEn)=12.3容量%と算出される。詳しくは、実施例において具体的に説明する。
【0056】
なお、処理後の大細孔径シリカゲルの粒子形状や粒径は、実質的に原体である大細孔径シリカゲルと同一であり、外形的な変化は認められない。
【実施例】
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
(大細孔径シリカゲル原体)
大細孔径シリカゲル原体は、特許文献3に記載の方法(無機塩充填−焼成法)に従い合成した。すなわち、細孔径約18nm、細孔容積約0.76ml/g、比表面積約130m2/gの球状シリカキセロゲルを4%NaCl水溶液に浸し、濾過、乾燥後、650〜730℃で、18〜20時間焼成し、大細孔径化して調製した。この平均粒径は約50μmであった。
【0058】
(細孔物性の測定)
シリカゲルの細孔分布特性は自動水銀ポロシメータ(島津製作所、Auto Pore IV (micromeritics社製造))によって測定した。測定圧力は大気圧(14.7psia
(0.101MPa)から最大60000psia(400MPa)まで変化させた。
【0059】
〔実施例1〕(アルカリによる処理)
(1)アルカリとしてNaOHを使用し、NaOH50.6gを水4lに溶解しアルカリ水溶液を作成した。撹拌翼を備えた撹拌槽型容器に、このアルカリ水溶液及び上記調製した大細孔径シリカゲル原体960gを装入して混合し、撹拌下スラリー状態で、室温において16時間処理した。なお、シリカゲル原体の細孔物性は、細孔径(P.D.)=111.0nm、細孔容積(P.V.)=0.56ml/g、比表面積(S.A.)=19.5m2/gであった。
シリカゲルに対するアルカリの質量比は、OH/シリカゲル=0.022g/gである。
【0060】
(2)処理後に、スラリーを濾過し、分離したシリカゲルケーキを再度水に分散させ、硫酸を加えてpH2.5として1時間撹拌し、余分なアルカリ分を除去した。さらに濾過、水洗、乾燥して細孔物性を調整した球状の大細孔径シリカゲルを得た。調整後の細孔物性は、細孔径(P.D.)=111.6nm、細孔容積(P.V.)=0.67ml/g、比表面積(S.A.)=23m2/gであった。また、当該大細孔径シリカゲルの平均粒径は約50μmであり、アルカリ処理により形状の変化は実質的に認められなかった。
【0061】
結果を表1及び図1〜3に示した。この結果、細孔容積(P.V.)は処理前の約1.20倍、比表面積(S.A.)は約1.18倍に増加したことが確認された。
【0062】
また、水銀残留率(HgEn)は、図4及び図5に示したように、b/aであらわされるが、アルカリ処理前の23.1容量%(図4)から、アルカリ処理後の12.3容量%(図5)まで、10.8容量%低下した。HgEnは、細孔内に入ったタンパク質、ペプチドなどの成分がカラム充填剤としてのシリカゲル細孔内に入った場合、溶離液により溶離せしめる際に各成分が細孔内にトラップされずに、スムーズに溶離し易さを表すと考えられので、当該大細孔径シリカゲルは、その分離性が相当に改善されることが期待される。
【0063】
〔実施例2〕(アルカリによる処理)
(1)アルカリとしてNaOHを使用し、NaOH151gを水4lに溶解しアルカリ水溶液を作成した。撹拌翼を備えた撹拌槽型容器に、このアルカリ水溶液及び上記調製した大細孔径シリカゲル原体960gを装入して混合し、撹拌下スラリー状態で、室温において、16時間処理した。なお、シリカゲル原体の細孔物性は、細孔径(P.D.)=110.0nm、細孔容積(P.V.)=0.57ml/g、比表面積(S.A.)=20m2/gであった。
シリカゲルに対するアルカリの質量比は、OH/シリカゲル=0.069g/gである。
【0064】
(2)処理後に、スラリーを濾過し、分離したシリカゲルケーキを再度水に分散させ、硫酸を加えてpH2.5として1時間撹拌し、余分なアルカリ分を除去した。さらに濾過、水洗、乾燥して細孔物性を調整した球状の大細孔径シリカゲルを得た。調整後の細孔物性は、細孔径(P.D.)=119.8nm、細孔容積(P.V.)=0.94ml/g、比表面積(S.A.)=30m2/gであった。また、当該大細孔径シリカゲルの平均粒径は約50μmであり、アルカリ処理により形状の変化は実質的に認められなかった。
【0065】
結果を表1及び図1〜3に示した。この結果、細孔容積(P.V.)は処理前の約1.65倍、比表面積(S.A.)は約1.5倍に増加したことが確認された。
【0066】
また、水銀残留率(HgEn)は、アルカリ処理前の22.0容量%から、アルカリ処理後の10.5容量%まで、11.5容量%低下し、当該大細孔径シリカゲルは、その分離性が相当に改善されることが期待される。
【0067】
〔実施例3〕(アルカリによる処理)
(1)アルカリとしてNaOHを使用し、NaOH38gを水500mlに溶解しアルカリ水溶液を作成した。撹拌翼を備えた撹拌槽型容器に、このアルカリ水溶液及び上記調製した大細孔径シリカゲル原体120gを装入して混合し、撹拌下スラリー状態で、室温において、16時間処理した。なお、シリカゲル原体の細孔物性は、細孔径(P.D.)=88.0nm、細孔容積(P.V.)=0.56ml/g、比表面積(S.A.)=25m2/gであった。
シリカゲルに対するアルカリの質量比は、OH/シリカゲル=0.135g/gである。
【0068】
(2)処理後に、スラリーを濾過し、分離したシリカゲルケーキを再度水に分散させ、硫酸を加えてpH2.5として1時間撹拌し、余分なアルカリ分を除去した。さらに濾過、水洗、乾燥して細孔物性を調整した球状の大細孔径シリカゲルを得た。調整後の細孔物性は、細孔径(P.D.)=100.0nm、細孔容積(P.V.)=1.08ml/g、比表面積(S.A.)=41.7m2/gであった。また、当該大細孔径シリカゲルの平均粒径は約50μmであり、アルカリ処理により形状の変化は実質的に認められなかった。
【0069】
結果を表1及び図1〜3に示した。この結果、細孔容積(P.V.)は処理前の約1.93倍、比表面積(S.A.)は約1.7倍に増加したことが確認された。
【0070】
また、水銀残留率(HgEn)は、アルカリ処理前の22.4容量%から、アルカリ処理後の9.9容量%まで、12.5容量%低下し、当該大細孔径シリカゲルは、その分離性が相当に改善されることが期待される。
【0071】
【表1】

【0072】
〔実施例4〕(フッ化水素による処理)
(1)撹拌翼を備えた撹拌槽型容器に、上記調製した大細孔径シリカゲル原体470g及び水1.5lを装入して混合分散し、10分間撹拌を行い均一化させた。当該スラリー溶液に50%フッ化水素105mlを混合し、撹拌下スラリー状態で、室温、5分間処理した。なお、シリカゲル原体の細孔物性は、細孔径(P.D.)=94.8nm、細孔容積(P.V.)=0.56ml/g、比表面積(S.A.)=23m2/gであった。
シリカゲルに対するフッ化水素の質量比は、HF/シリカゲル=0.13g/gである。
【0073】
(2)処理後に、スラリーを濾過し、分離したシリカゲルケーキを水洗、乾燥して細孔物性を調整した球状の大細孔径シリカゲルを得た。調整後の細孔物性は、細孔径(P.D.)=95.3nm、細孔容積(P.V.)=0.66ml/g、比表面積(S.A.)=27m2/gであった。また、当該大細孔径シリカゲルの平均粒径は約50μmであり、フッ化水素処理により形状の変化は実質的に認められなかった。
【0074】
結果を表2及び図6〜8に示した。この結果、細孔容積(P.V.)は処理前の約1.18倍、比表面積(S.A.)は約1.17倍に増加したことが確認された。
【0075】
〔実施例5〕(フッ化水素による処理)
(1)撹拌翼を備えた撹拌槽型容器に、上記調製した大細孔径シリカゲル原体200g及び水600mlを装入して混合分散し、10分間撹拌を行い均一化させた。当該スラリー溶液に50%フッ化水素82.4mlを混合し、撹拌下スラリー状態で、室温、5分間処理した。なお、シリカゲル原体の細孔物性は、細孔径(P.D.)=88.0nm、細孔容積(P.V.)=0.56ml/g、比表面積(S.A.)=25m2/gであった。
シリカゲルに対するフッ化水素の質量比は、HF/シリカゲル=0.25g/gである。
【0076】
(2)処理後に、スラリーを濾過し、分離したシリカゲルケーキを水洗、乾燥して細孔物性を調整した球状の大細孔径シリカゲルを得た。調整後の細孔物性は、細孔径(P.D.)=93.0nm、細孔容積(P.V.)=0.75ml/g、比表面積(S.A.)=31m2/gであった。また、当該大細孔径シリカゲルの平均粒径は約50μmであり、フッ化水素処理により形状の変化は実質的に認められなかった。
【0077】
結果を表2及び図6〜8に示した。この結果、細孔容積(P.V.)は処理前の約1.34倍、比表面積(S.A.)は約1.2倍に増加したことが確認された。
【0078】
〔実施例6〕(フッ化水素による処理)
(1)撹拌翼を備えた撹拌槽型容器に、上記調製した大細孔径シリカゲル原体20g及び水300mlを装入して混合分散し、10分間撹拌を行い均一化させた。当該スラリー溶液に50%フッ化水素20.6mlを混合し、撹拌下スラリー状態で、室温、5分間処理した。なお、シリカゲル原体の細孔物性は、細孔径(P.D.)=105.2nm、細孔容積(P.V.)=0.56ml/g、比表面積(S.A.)=20m2/gであった。
シリカゲルに対するフッ化水素の質量比は、HF/シリカゲル=0.62g/gである。
【0079】
(2)処理後に、スラリーを濾過し、分離したシリカゲルケーキを水洗、乾燥して細孔物性を調整した球状の大細孔径シリカゲルを得た。調整後の細孔物性は、細孔径(P.D.)=122.6nm、細孔容積(P.V.)=1.13ml/g、比表面積(S.A.)=35m2/gであった。また、当該大細孔径シリカゲルの平均粒径は約50μmであり、フッ化水素処理により形状の変化は実質的に認められなかった。
【0080】
結果を表2及び図6〜8に示した。この結果、細孔容積(P.V.)は処理前の約2.02倍、比表面積(S.A.)は約1.75倍に増加したことが確認された。
【0081】
〔実施例7〕(フッ化水素による処理)
(1)撹拌翼を備えた撹拌槽型容器に、上記調製した大細孔径シリカゲル原体50g及び水500mlを装入して混合分散し、10分間撹拌を行い均一化させた。当該スラリー溶液に50%フッ化水素100mlを混合し、撹拌下スラリー状態で、室温、5分間処理した。なお、シリカゲル原体の細孔物性は、細孔径(P.D.)=88nm、細孔容積(P.V.)=0.56ml/g、比表面積(S.A.)=25m2/gであった。
シリカゲルに対するフッ化水素の質量比は、HF/シリカゲル=1.19g/gである。
【0082】
(2)処理後に、スラリーを濾過し、分離したシリカゲルケーキを水洗、乾燥して細孔物性を調整した球状の大細孔径シリカゲルを得た。調整後の細孔物性は、細孔径(P.D.)=122.6nm、細孔容積(P.V.)=2.41ml/g、比表面積(S.A.)=74m2/gであった。また、当該大細孔径シリカゲルの平均粒径は約50μmであり、フッ化水素処理により形状の変化は実質的に認められなかった。
【0083】
結果を表2及び図6〜8に示した。この結果、細孔容積(P.V.)は処理前の約4.3倍、比表面積(S.A.)は約2.96倍に増加したことが確認された。
【0084】
〔実施例8〕(フッ化水素による処理)
(1)撹拌翼を備えた撹拌槽型容器に、上記調製した大細孔径シリカゲル原体50g及び水500mlを装入して混合分散し、10分間撹拌を行い均一化させた。当該スラリー溶液に50%フッ化水素130mlを混合し、撹拌下スラリー状態で、室温、5分間処理した。なお、シリカゲル原体の細孔物性は、細孔径(P.D.)=88.0nm、細孔容積(P.V.)=0.56ml/g、比表面積(S.A.)=25m2/gであった。
シリカゲルに対するフッ化水素の質量比は、HF/シリカゲル=1.55g/gである。
【0085】
(2)処理後に、スラリーを濾過し、分離したシリカゲルケーキを水洗、乾燥して細孔物性を調整した球状の大細孔径シリカゲルを得た。調整後の細孔物性は、細孔径(P.D.)=122.8nm、細孔容積(P.V.)=2.54ml/g、比表面積(S.A.)=79m2/gであった。また、当該大細孔径シリカゲルの平均粒径は約50μmであり、フッ化水素処理により形状の変化は実質的に認められなかった。
【0086】
結果を表2及び図6〜8に示した。この結果、細孔容積(P.V.)は処理前の約4.54倍、比表面積(S.A.)は約3.16倍に増加したことが確認された。
【0087】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明に従えば、従来の大細孔径シリカゲルを原体とし、その細孔径(P.D.)、をきわめて狭い範囲で、増加させるように調整することができ、また、当該細孔径を増加させた大細孔径シリカゲルとする場合、細孔容積(P.V.)、及び比表面積(S.A.)を、減少させることなく、いずれも増加させるように処理調整することができる。
【0089】
また、本発明に従えば、原体である大細孔径シリカゲルの細孔径をわずかに増加または実質的に保持したまま、当該細孔容積(P.V.)や比表面積(S.A.)の方をより大幅に増加せしめることができる。
さらに本発明に従えば、水銀残留率が20容量%以下である大細孔径シリカゲルを得ることができる。
【0090】
本発明により得られたその細孔物性を調整した大細孔径シリカゲルは、例えば、液体クロマトグラフィーカラム充填剤として、生命化学の分野、一般有機化合物、医薬品、農薬、化粧品、食品、タンパク質、糖質、低分子ペプチド、核酸、生薬、天然物中の有効成分などの広範な対象成分の分離、分析、精製用としての好適に用いることができる。
【0091】
また、本発明により、特に細孔容積を増加させた、大細孔径シリカゲルは、当該細孔内により多量のタンパク質や糖質等の目的成分を取り入れることができるため、分離速度が大きくなり、分離装置をコンパクト化することができるので、産業上の利用可能性はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】OH/シリカゲル質量比と細孔容積(P.V.)増加量との関係を示すグラフである。
【図2】OH/シリカゲル質量比と比表面積(S.A.)増加量との関係を示すグラフである。
【図3】OH/シリカゲル質量比と細孔径(P.D.)増加量との関係を示すグラフである。
【図4】アルカリ処理前の水銀残留率の測定結果を示すグラフであり、横軸は細孔径(Å)、縦軸は水銀の微分圧入量(mL/g/Å)を示す。
【図5】アルカリ処理後の水銀残留率の測定結果を示すグラフであり、横軸は細孔径(Å)、縦軸は水銀の微分圧入量(mL/g/Å)を示す。
【図6】HF/シリカゲル質量比と細孔容積(P.V.)増加量との関係を示すグラフである。
【図7】HF/シリカゲル質量比と比表面積(S.A.)増加量との関係を示すグラフである。
【図8】HF/シリカゲル質量比と細孔径(P.D.)増加量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜3500nmの大細孔径を有する多孔質シリカゲル原体を、フッ化水素水溶液又はアルカリ水溶液に接触させ、当該粒子形状を維持したまま、その細孔径(P.D.)、細孔容積(P.V.)、及び比表面積(S.A.)をいずれも増加させるように処理することを特徴とする大細孔径多孔質シリカゲルの細孔物性の調整方法。
【請求項2】
前記フッ化水素の前記シリカゲル原体に対する質量比(フッ化水素質量/シリカゲル原体質量)が0.1/1〜1.8/1である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリの前記シリカゲル原体に対する質量比(アルカリ(OH)質量/シリカゲル原体質量)が0.02/1〜0.2/1である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
フッ化水素水溶液又はアルカリ水溶液に接触・処理後のシリカゲルの細孔物性が、そのシリカゲル原体に対し、細孔径(P.D.)の増加率が50%以下、0.5%以上であって、かつ、細孔容積(P.V.)の増加率が5倍以下、0.2倍以上、比表面積(S.A.)の増加率が4倍以下、0.1倍以上である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記シリカゲル原体が球状又は不定形シリカゲルである請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
細孔物性測定を水銀圧入法で行った時の水銀残留率が20容量%以下である請求項1〜5のいずれかの方法によって得られた大細孔径多孔質シリカゲル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−238426(P2007−238426A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−299143(P2006−299143)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(390005728)旭硝子エスアイテック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】