説明

天然のシアリルラクトースを濃縮した、乳製品由来の濃縮物及び、その調製方法

本発明は、乳又は乳製品から得られる濃縮物であって、乳又は乳製品に見られる通常の量よりも高い量のシアリルラクトースを含む濃縮物、及び薄膜ポリアミドをベースとする膜を使用する限外濾過とディアフィルトレーションによってそのような濃縮物を調製する方法に関する。当該濃縮物は栄養製品で用いるのに適する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、特に乳児、子供、又は高齢者向けの食品、並びに医療及びダイエット用食品及びその他の食品用途のための乳由来のシアリルラクトース濃縮物に関する。本発明はまた、シアリルラクトース濃縮物の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
人体において細胞間コミュニケーションは中心的かつ普遍的な重要性を有する。このプロセスの主役プレーヤーは、特異的な物質、例えば、いろいろな細胞膜分子、サイトカイン、又は病原体と結合した細胞外炭水化物部分である。このような炭水化物部分のひとつの重要な成分はシアル酸であり、これはほとんどの人及び動物組織に存在する9炭素原子の単糖類である。シアル酸の濃度は、処理や相互作用が高い速度で行われる脳などの組織において高くなる。シアル酸はすべての人体体液に存在し、その含有量は乳で特に高い。シアル酸は人体が合成できる。
【0003】
シアル酸は、最近の20年間、科学的に注目されてきた、Wang B and Brand-Miller I, 人の栄養におけるシアル酸の役割と可能性、Eur J Cli Nutr 2003:57:1351-1369、及びSchnauer R., シアル酸研究の成果と課題、Glycoconjugate J 2000:17:485499を参照のこと。細胞間コミュニケーションにおけるその役割は、分子相互作用の調節、例えば、細胞と感染物質の間のコミュニケーションにおける分子相互作用の調節を含む。シアル酸は、ガングリオシドや糖蛋白質などの細胞膜分子の構造的部分である。
【0004】
人体におけるシアル酸の機能について浮かび上がってきた知見の栄養側面も研究されている。シアル酸は人の乳のオリゴ等の主要部分であり、栄養学的な役割が考えられる。さらに、母乳哺育の乳児の脳と唾液が微量のシアル酸しか含まない調製乳哺育の乳児に比べて有意に多量のシアル酸を含むことが見出され、この炭水化物部分を効果的に吸収することが示唆されている(Tram, T.H., et al., 乳児唾液のシアル酸含有量;母乳哺育の乳児と調製乳哺育の乳児の比較、Arch Dis Childh 1997; 77:315-8; Wang, B., et al., 早期児の唾液シアル酸の縦断研究;母乳哺育の乳児と調製乳哺育の乳児の比較、J Pediatr 2001; 138:914-6; 及びWang, B. et al., 母乳哺育の乳児における脳ガングリオシドと糖蛋白質シアル酸の調製乳哺育の乳児との比較、AmJClin Nutr 2003; 78:1024-9を参照のこと)。
【0005】
シアル酸は天然にはいくつかの化学的形態で存在する。体組織中では、シアル酸は蛋白質又は脂質に結合したオリゴ糖鎖の一部として見出され、遊離シアル酸としてはごくわずかしか存在しない。乳中では、シアル酸は主に糖蛋白質又は遊離オリゴ糖と結合している。しかし、少量は遊離シアル酸又は脂質に結合したシアル酸として見出される。
【0006】
人の乳においては、シアル酸の多くがオリゴ糖と結合している。シアル酸を含むオリゴ糖の濃度は、授乳段階によって大きく変化し、個人差も大きい。何人かの研究者が全授乳期にわたる人の乳におけるシアル酸含有量を測定して、含有量は第一週の1 g/L超から成熟乳における約90-450 mg/Lまでに及ぶことを見出した(Martin-Sosa, S., et al., 授乳時の全授乳期乳児のスペイン人母親の母乳におけるシアル酸の分布、J Pediatr Gastroenterol Nutr 2004; 39:499-503; Carlson, S.E., 授乳時の母乳のオリゴ糖と糖蛋白質におけるN-アセチルノイラミン酸濃度、Am J Clin Nutr 1985; 41:720-6; Martin-Sosa, S., et al., 母乳とウシの乳における、及び調製乳におけるシアリルオリゴ糖濃度;授乳の進行による変化、J Diary Sci 2003; 86:52-59; 及びWang, S., et al., 母乳と調製乳におけるシアル酸の濃度と分布、Am J Clin Nutr 2001; 74:510-5を参照のこと)。
【0007】
対照的に、ウシの乳におけるシアル酸の多くは蛋白質と結合している。ウシの成熟乳はオリゴ糖と結合したシアル酸をほとんど含まない。初乳では、その含有量は約230 mg/Lであるが、ウシ成熟乳では含有量は25-54 mg/Lである(Martin, M.J., et al., 授乳の間のウシ乳のシアロ糖結合体の分布、J Diary Sci 2001; 84:995-1000; 及びMartin-Sosa, S., et al., 人とウシの母乳及び調製乳におけるシアリルオリゴ糖濃度;授乳の進行による変化、J Diary Sci 2003; 86:52-59を参照のこと)。
【0008】
ウシ成熟乳からウシ・ベース乳児用及びフォローオン調製乳が生産されており、それらの製品におけるオリゴ糖と結合したシアル酸の含有量は15-35 mg/Lであることが見出されたが、これに対し早期乳児用調製乳(preterm formula)は80 mg/Lで少し高かった。ダイズ調製乳はオリゴ糖と結合したシアル酸を含まない。Wang, B., et al., 母乳と調製乳におけるシアル酸の濃度と分布、Am J Clin Nutr 2000; 74:510-5及びMartin-Sosa, S., et al., 人とウシの母乳及び調製乳におけるシアリルオリゴ糖濃度;授乳の進行による変化、J Diary Sci 2003; 86:52-59を参照のこと。
【0009】
本発明のシアリルラクトース濃縮物によって、乳児用調製乳におけるオリゴ糖と結合したシアル酸の濃度を母乳に相当する濃度まで高めることができる、すなわち、オリゴ糖と結合したシアル酸の全濃度をいろいろな授乳段階における母乳の濃度に相当する100-1500mg/Lにまで高めることができる。しかし、母乳の組成には大きなばらつきがあり、他の食品用途ではオリゴ糖と結合したシアル酸として他の濃度が必要になる可能性があるので、本発明の範囲はこの濃縮範囲に限定されない。
【0010】
食品に使用するためのシアル酸を含む素材が商業的に入手できる。そのような素材のひとつは、蛋白質κ-カゼインと結合したウシのシアル酸であり、特にArla Foods (Denmark)から市販されている。合成されたシアル酸の源もある。例えば、MoBiTech, Germany, から市販されている合成シアリルラクトース、並びに、シアル酸を含む組み換えヒトκ-カゼイン(米国特許No. 6,270,827を参照のこと)がある。
【0011】
このように、現在市販されているシアル酸を含む製品は、天然の源から得られたものでない、すなわち、合成されたものであるか又は組み換え技術を用いたものである、あるいは母乳におけるシアル酸のようにオリゴ糖と結合したものでなく、主に蛋白質と結合したシアル酸を含むものである。本発明の製品は、我々が知る限り、天然の反芻動物に由来するシアル酸を含むオリゴ糖の濃縮物を高濃度で含む最初の製品である。
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
本発明は、シアリルラクトース含有量が乾燥物質ベースで0.32〜25重量%となるように、乳製品中の天然のシアリルラクトースを濃縮した乳製品由来の濃縮物に関する。この濃縮物は乾燥させることができる。天然の反芻動物に由来する乳源から得られるこのようなシアリルラクトース濃縮物粉末は、例えば乳児用調製乳、その他の乳児用栄養食品、子供用栄養食品、機能性食品、及び医療用及びダイエット用食品などを非制限的に含むいろいろな種類の食品に、組み込むことを意図している。
【0013】
本発明によれば,このような濃縮物は、天然のシアリルラクトースを含む乳製品を限外濾過した後、限外濾過の保持物を同じ限外濾過膜を用いてディアフィルトレーションし、場合によりその後で逆浸透及び/又は乾燥して調製することができ、膜は薄膜ポリアミドをベースとする膜である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明の濃縮物は、乾燥物質ベースで0.32〜25重量%まで、好ましくは0.4〜25重量%まで、1〜25重量%まで、5〜25重量%まで、10〜15重量%までのシアリルラクトース含有量を有する。
【0015】
前記乳製品は、反芻動物又はその他の乳生産動物に由来する乳又は乳製品である。当該乳製品は、例えば、ウシのホエー(whey)製品、例えば、ホエー保持物やホエー透過物、であってもよい。またホエーからラクトースを調製するときの母液であってもよい。また、乳透過物、乳保持物、又はその他のシアリルラクトースを含む任意の乳製品を用いることも可能である。
【0016】
本発明の濃縮物はそのまま用いることもできるが、さらに、例えば逆浸透、結晶化、アフィニティー・クロマトグラフィー又はそれらの組み合わせによって処理して水を除去することも、単独で、あるいは1又は複数のキャリアと共に乾燥させることもできる。任意のキャリア、例えば、オイル、油脂、ホエー、脱ミネラル・ホエー、ホエー蛋白質濃縮物、ホエー蛋白質単離物、その他のホエー分画、ホエー又は乳透過物又は濃縮物、スキムミルク、全乳、セミスキムキルク、ミルク分画、マルトデキストリン、ショ糖、ラクトース、天然及びゼラチン化前でんぷん、グルコース・シロップ、カゼイン及びカゼイン分画、などを用いることができる。
【0017】
本発明の濃縮物は、乾燥濃縮物を含めて、任意の栄養組成物、例えば、乳児用栄養物、プロテインバー、スポーツ栄養物、ドリンク、健康サプリメント、医療用食品及び臨床栄養物などに用いることができる。乳児用栄養物は、非制限的に、乳児用調製乳、フォローオン調製乳、乳児用シリアル製品又はグローイングアップミルク、すなわち、1-3歳児に適当な改質ミルク又はミルク粉末などである。
【0018】
もちろん、この方法は、同じ又は異なるメーカーが製造した二枚の異なる薄膜ポリアミドをベースとする膜の内1つの膜をUFに、もう1つの膜をDIAに用いてもうまくゆく。あるいはまた、同じ又は異なるメーカーが製造した複数の異なる薄膜ポリアミドをベースとする膜をUF及びDIA濾過に同時に用いることもできよう。異なる膜は、この特許に記載されているような適当なMWCOカットオフ値を有することが必要である。
【0019】
本発明の方法のある好ましい実施形態では、0.5-4k ダルトン、最も好ましくは2.5k ダルトンという適当な分子量カットオフ(MWCO)を有する膜が用いられる。1,1.5,2,3,3.5k ダルトンも有効である。
【0020】
前記膜は、GE Osmonics GHシリーズの膜などの薄膜ポリアミドをベースとする膜、又は限外濾過に通常用いられる対応膜である。温度は決定的に重要ではないが、通常は4-50℃、例えば、5,6,7,8,9又は10℃という温度が用いられるが、より高い温度、例えば、11,12,13,14,15又は20,25,30,35,40,45又は50℃という温度も用いることができる。
【0021】
圧力は決定的に重要ではないが、通常は1-40barという圧力が用いられる。膜のメーカーの勧告を用いることができる。最良の結果は、通常1-10bar、例えば2,3,4,5,6,7,8,9又は10barという圧力で得られるが、より高い圧力、例えば11,12,13,14,15又は20,25,30,35又は40barという圧力を用いることもできる。供給圧力は、1barという低い圧力も、50barという高い圧力もあり得る。通常、供給圧力は5-6bar又は10barである。最良の結果は通常1-10barという圧力で得られるが、より高い供給圧力でも、効果的でないとしても正常に作動する。
【0022】
本発明は、クロスフロー・スパイラル型の膜を用いたが、代わりに他の膜や形態を用いることもできる。別の膜及び形態としては、クロスフロー濾過、デッドエンド濾過、プレート・アンド・フレーム方式、カートリッジ方式、振動方式、フラットシート膜、スパイラル膜、及びチューブ状膜などがあるが、それだけに限定されない。当該膜は適当なプロセス・ユニットに収容して、非制限的に温度、圧力、流量、pHなどの如きプロセス・パラメーターを制御しながら送給液と膜が接触できるようにする。膜は送給液を、透過物と保持物のプロセス・ストリームに分離する。プロセス・ストリームはプロセス・ユニットから完全に取り出すことも、何らかの仕方で完全に又は部分的にプロセス・ユニットと関連供給システム内で再循環させることもある(タンクとプロセス・ストリーム)。使用前に、膜とプロセス・ユニットは、膜メーカーが承認する洗剤とプロセス・パラメーターを用いてメーカーの指示に従って洗浄される。
【0023】
定義、及び特別な装備
本発明では、シアリルラクトース濃度は、UV検出システムとShodexカラムを備えた高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定されたが、許容される精度を有する任意の技術を用いることができる。
【0024】
典型的な本分野の技術は、非制限的に、分光法、クロマトグラフィー法、酵素分析、ELISA、その他の湿式化学分析などを含む。
【0025】
本発明は、プロセス・ストリームのラクトース濃度をATAGO(登録商標)(Tokyo,Japan)モデルN1-E及びN1-α屈折計とRoche(Boehringer Mannheim)の酵素ラクトース分析キットを用いて測定したが、許容される精度を有するどんな技術を用いてもよい。プロセス・ストリームの屈折率と、対応するプロセス・ストリームのラクトース濃度との間には直線的相関があった(校正曲線)。この校正曲線によって、屈折率測定をプロセス・ストリーム中のラクトース濃度の“実時間”推定のために用いることが可能になった。
【0026】
限外濾過(UF)とは、本発明では、0.5-500k ダルトンのMWCOの膜を用いる膜分離プロセスと定義されるが、0.5k ダルトンの膜を用いる濾過はナノ濾過プロセスという方が正しいかもしれない。
【0027】
ディアフィルトレーション(DIA)とは、本発明では、バッチ又は連続添加によって保持物に水を加えて、水で膜を透過する物質の除去を続ける膜分離プロセスと定義される。
【0028】
逆浸透(RO)とは、本質的には脱水技術であって、RO膜を通して水と水性溶質を除去する方法と定義される。
【0029】
適当な限外濾過膜及びディアフィルトレーション膜の例としては、GE Osmotics (Minnetonka,MN,USA)GHシリーズの膜があげられる。
【0030】
GH膜の典型的な工業的応用としては、繊維染料の脱塩と濃縮、廃水の脱色、及び化学的精製があげられる。GH膜は普通、乳業では用いられておらず、本特許は乳由来の原料からのシアリルラクトース精製にGH膜が用いられる知られる限り最初の使用例である。
【0031】
反芻動物の乳のシアリルラクトース含有量は炭水化物の全量に比べて低いが、驚いたことにシアリルラクトースを濃縮する試みはうまくゆくことが見出された。以下に記載されるいくつかの膜濾過方法によって、シアリルラクトース含有量が1wt/wt%〜40wt/wt%、好ましくは5wt/wt%〜20wt/wt%、ラクトース含有量が1wt/wt%〜95wt/wt%、そして蛋白質含有量が0wt/wt%〜95wt/wt%の栄養化合物を製造することが可能になった。
【0032】
この方法は、GHシリーズの膜に関してメーカーが勧告する最高温度50℃を超えない限り、どんな温度でも作動する。
【0033】
送給原料のpHは、膜メーカーが勧告する最大限度、通常、1-13を超えてはならない。本発明は、乳由来の物質を送給ストリームとして用いる。そのpHは、通常、6-7であるが、それだけに限定されない。乳由来の送給原料は、酸、塩基、緩衝剤、又はpHを標準化するためによく用いられるその他の物質を添加することなくプロセスに直接送給される。
【0034】
膜の圧力差は、膜メーカーが勧告する最大限度、普通は膜エレメントあたり0.5-1.5barを超えてはならない。送給圧力は最適な膜透過性が得られる用に調整することができ、それより高い圧力は普通、膜の孔を圧縮して透過性に影響する。本発明は、1-40barという送給圧力を用いるが、それだけに限定されない。1-20barという送給圧力が好ましく、5-10barという送給圧力がOsmonicsのGHシリーズの膜に最適である。pHは2〜11までという勧告された範囲内であれば決定的に重要ではない。
【0035】
きわめて高濃度のシアリルラクトースを含む本発明の濃縮物は、ホエー、ミルク、バターミルク又はそれらの分画などの乳由来の原料の膜濾過によって製造できる。乳由来の原料を限外濾過してシアリルラクトースに富みラクトースと灰分含有量が顕著に減少した保持液が得られる。このシアリルラクトースに富む保持液をさらにディアフィルトレーションで濾過してラクトースと灰分含有量をさらに減らす。
【0036】
場合により、限外濾過とディアフィルトレーションによって得られた濃縮物を逆浸透又はその他のステップによって乾燥物質の量に基づくシアリルラクトースの含有量を変えずに液体を除去してさらに濃縮することが可能である。すなわち、限外濾過/ディアフィルトレーション濃縮物を逆浸透によって約1-40%シアリルラクトース(乾燥質量のwt/wt)という逆浸透濃縮物までさらに濃縮できる。この方法の送給原料は、シアリルラクトースの限外濾過又はディアフィルトレーション濃縮物、シアリルラクトースの限外濾過又はディアフィルトレーション濃縮物の混合物、新しい原料とシアリルラクトースの限外濾過又はディアフィルトレーション濃縮物の混合物、又は前記原料のいずれかの希釈形態である。当該方法は、濃縮物に所望のレベルのシアリルラクトースの濃縮が得られるまで続けられる。
【0037】
結晶化又はアフィニティ・クロマトグラフィー又はその両方の方法を上述した濾過法と組み合わせることもできる。
【0038】
本発明の別の実施形態では、濃縮物は単独で、又は例えばホエー、脱ミネラル・ホエー、ホエー/WPI、その他のホエー分画、ホエー又はミルクの透過物又は濃縮物、スキムミルク、全乳、半スキムミルク、マルトデキストリン、ショ糖、ラクトース、あるいは天然又はプレゲル化でんぷんの如き適当なキャリア物質と共に乾燥され、シアリルラクトースの量を増やす必要がある物質に組み込むのに適した素材成分が得られる。生成物をスプレー乾燥又は冷凍乾燥することができる。
【0039】
シアリルラクトース濃縮物は、非制限的に乳児栄養物、プロテインバー、スポーツ栄養物、ドリンク、健康サプリメント、医療用食品又は臨床栄養物の如き食品に用いるのに適しており、日々の生理的に好適な用量のシアリルラクトースを供給する。しかし、それを他の種類の食品用途に取り入れることも技術的及び栄養学的に可能である。
【0040】
本発明をさらに以下の非限定的な実施例によって説明する。
【実施例】
【0041】
実施例1
【0042】
3500kgの分画されたミルク保持物を、12GH8040C1566限外濾過膜(GE Osmotics,物質nr.1207118)を用いて、送給温度10℃、圧力5-7barで、限外濾過した。
【0043】
限外濾過によって送給原料の量を500kgまで減らした後、バッチ・ディアフィルトレーション(12×GH8040C1566限外濾過膜、GE Osmotics、物質nr.1207118)を、送給温度10℃、圧力5-7barで適用した。ディアフィルトレーション水(3回、全部で1430kg)をバッチ方式で濾過プラントに加えた。ディアフィルトレーションはディアフィルトレーション透過物の屈折率が≦0.1brixとなるまで行われた。
【0044】
ディアフィルトレーションによって106kgの保持物が得られ、それが送給温度5-10℃、圧力25barでの逆浸透(1×SF3840逆浸透膜、GE Osmotics)によって濃縮された。
【0045】
逆浸透濾過によって106 kgのディアフィルトレーション保持物が14.5kgの濃縮物にまで減らされ、それを乾燥して以下(乾燥物質のwt/wt)を含有する最終粉末を得た:
シアリルラクトース 14%
ラクトース 44%
蛋白質 8%
脂肪 0.1%
ミネラル 8%
この生成物を以下の実施例でシアリルラクトース濃縮物という。
【0046】
実施例2
1600kgの分画されたホエー透過物を、18 GH3840-30D限外濾過膜(GE Osmotics)を用いて、送給温度10℃、圧力5-7barで限外濾過した。
【0047】
限外濾過によって送給原料の量を170kgまで減らした後、ディアフィルトレーション(18×GH3840-30D限外濾過膜、GE Osmotics)を送給温度10℃、圧力5-7barで適用した。ディアフィルトレーション水(全部で904kg)を連続的に加えて濾過プラントにおける保持物の量を一定に維持した。ディアフィルトレーションはディアフィルトレーション透過物の屈折率が≦0.2brixとなるまで行われた。
【0048】
ディアフィルトレーションによって170kgのディアフィルトレーション保持物:0.4%乾燥重量、0.030%シアリルラクトース、及び0.22%ラクトースを得た。これは、7.5%シアリルラクトース(乾燥重量のwt/wt)を含むシアリルラクトース濃縮物に対応する。
【0049】
実施例3
3000kgの分画されたホエー保持物を、18 GH3840-30D限外濾過膜(GE Osmotics)を用いて、送給温度10℃、圧力5-7barで限外濾過した。
【0050】
限外濾過によって送給原料の量を170kgまで減らした後、ディアフィルトレーション(18×GH3840-30D限外濾過膜を送給温度10℃、圧力5-7barで適用した。ディアフィルトレーション水(全部で1241kg)を連続的に加えて、濾過プラントにおける保持物の量を一定に維持した。ディアフィルトレーションは、ディアフィルトレーション透過物の屈折率が≦0.5brixとなるまで行われた。
【0051】
ディアフィルトレーションによって170 kgのディアフィルトレーション保持物が得られ、それを、送給温度5-10℃、圧力25barでの逆浸透(1×SF3840逆浸透膜、GE Osmotics)によって21.29kgに濃縮した。
【0052】
8.63Lの逆浸透濃縮物を、送給温度10℃、圧力5-7barでバッチ・ディアフィルトレーション(1×GH3840-30Dディアフィルトレーション膜、GE Osmotics)した。ディアフィルトレーション水(3回、全部で69.5 kg)をバッチ方式で濾過プラントに加えた。ディアフィルトレーション保持物を乾燥し、7.17%のシアリルラクトース(乾燥物質のwt/wt)を含むシアリルラクトース濃縮物を得た。
【0053】
実施例4
実施例1で調製されたシアリルラクトース濃縮物を、混合バット中で、80wt/wt%の蛋白質を含むホエー蛋白質濃縮物(Lacprodan 80,Arla Foods,Denmark)と、完全に溶解するまで混合する。ホエー蛋白質濃縮物を、シアリルラクトース濃縮物の再循環の流れと結合された粉末添加漏斗を通して加える。シアリルラクトース濃縮物とホエー蛋白質濃縮物は33%のシアリルラクトース濃縮物と66%のホエー蛋白質濃縮物という組み合わせで混合される。
【0054】
混合濃縮物はインライン・ミキサーを通って導かれた後、混合バットに戻り、そこで攪拌される。混合後、濃縮物を新しいバットにポンプで送り、そこからポンプでプレート・プレヒーター(予熱温度75℃)を通してスプレー・タワーに送る。高圧ポンプによって、当該混合物をNiroスプレー・タワーに送り、次の条件でスプレーする:
スプレー圧力 195bar
ノズル Delawan 4×28/54
ホットエア温度 200℃
排気温度 92℃
【0055】
このようなプロセスによって、最終的に次の組成(乾燥物質のwt/wt)のシアリルラクトース濃縮物蛋白質粉末を得た:
シアリルラクトース 5%
ラクトース 21%
蛋白質 60%
脂肪 6%
ミネラル 8%
【0056】
実施例5
本発明の実施例において、ミルクをベースとする開始乳児用調製乳がシアリルラクトース濃縮物で強化されるが、他の調製乳、例えば、フォローオン調製乳、グローイングアップ調製乳、早期調製乳、又はダイズ・ベース調製乳も、同様の仕方で強化できると思われ、それ故、本実施例に含まれる。本実施例は、脂肪、蛋白質、炭水化物、及び灰分の濃度に関するEU規制(乳児用調製乳及びフォローオン調製乳に関する欧州委員会指令91/321/EEC)を満たすために作成される。
【0057】
本発明の本実施例の計算では、牛乳をベースとする乳児用調製乳におけるオリゴ糖と結合したシアル酸の自然の濃度は30mg/Lと仮定される。強化後の目標濃度は260mg/Lであり、これは人の成熟乳の含有量の範囲内にある。
【0058】
表1では、開始乳児用調製乳で用いられた典型的素材成分、並びに最終調整乳の栄養分布が示されている。表2の例では同じ乳児用調製乳が、100gの粉末あたり2.369gのシアリルラクトース濃縮物で強化されており、これは100gの粉末あたり354mgのシアリルラクトース又は173mgのオリゴ糖結合シアル酸に相当する。1Lあたり133gの粉末添加によって、調製乳は1Lあたり230mgのオリゴ糖結合シアル酸で強化される。さらに、ほぼ30mg/Lの天然のオリゴ糖結合シアル酸含有量も調製乳に存在するので、オリゴ糖結合シアル酸の全含有量は260mg/Lになる。
【0059】
表3に示された例の乳児用調製乳は、100gの調製乳あたり7.080gのシアリルラクトース濃縮物蛋白質粉末で強化されており、これは100gの粉末あたり354mgのシアリルラクトース又は173mgのオリゴ糖結合シアル酸に相当する。上記のように、粉末添加は1Lあたり133gであり、調製乳はほぼ30mg/Lの天然のオリゴ糖結合シアル酸含有量の上に1Lあたり230mgのオリゴ糖結合シアル酸で強化され、オリゴ糖結合シアル酸の全含有量は最終調整乳で260mg/Lになった。
【0060】
表1.典型的な開始乳児用調製乳の素材成分の栄養分布、並びに最終調整乳の栄養分布、カゼイン対ホエー蛋白質比40/60
【表1】

【0061】
表2.開始乳児用調製乳の素材成分の栄養分布、並びに最終調整乳の栄養分布、カゼイン対ホエー蛋白質比40/60、本発明の実施例1のシアリルラクトース濃縮物によって強化されたもの
【表2】

【0062】
表3.開始乳児用調製乳の素材成分の栄養分布、並びに最終調整乳の栄養分布、カゼイン対ホエー蛋白質比40/60、本発明の実施例2のシアリルラクトース濃縮物蛋白質粉末によって強化されたもの
【表3】

【0063】
簡単にするために、いろいろなミネラル及びビタミンは特定されていないが、ミネラル及びビタミンの添加はシアリルラクトース濃縮物及びシアリルラクトース濃縮物蛋白質粉末からの寄与に応じて調整されなければならないことは明らかである。また、40/60のカゼイン/ホエー蛋白質比の計算では、シアリルラクトース濃縮物及びシアリルラクトース濃縮物蛋白質粉末の蛋白質はホエー蛋白質と見なされ、さらにこれら二つの素材成分のシアリルラクトースは炭水化物と見なされる。シアリルラクトース濃縮物及びシアリルラクトース濃縮物蛋白質粉末の窒素の一部は真の蛋白質ではなく、蛋白質レベルはそれに応じて調整すべきであるが、この実施例では簡単にするためにそれを含めない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアリルラクトース含有量が乾燥物質ベースで0.32〜25重量%となるように乳製品に天然に含まれるシアリルラクトースを濃縮した、当該乳製品由来の濃縮物。
【請求項2】
前記シアリルラクトース含有量が、乾燥物質ベースで0.4〜25重量%である、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項3】
前記シアリルラクトースの含有量が、乾燥物質ベースで1〜25重量%である、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項4】
前記シアリルラクトースの含有量が、乾燥物質ベースで5〜20重量%である、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項5】
前記シアリルラクトースの含有量が、乾燥物質ベースで10〜15重量%である、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項6】
前記乳製品がホエー製品である、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項7】
前記乳製品がホエー保持物である、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項8】
前記乳製品がホエー透過物である、請求項1に記載の濃縮物。
【請求項9】
単独で、あるいは1又は複数のキャリアと共に乾燥された、請求項1に記載の濃縮物を含む組成物。
【請求項10】
油脂、ホエー、脱ミネラル・ホエー、ホエー蛋白質濃縮物、ホエー蛋白質単離物、その他のホエー分画、ホエー又はミルク透過物又は濃縮物、スキムミルク、全乳、半スキムミルク、ミルク分画、マルトデキストリン、ショ糖、ラクトース、天然及びゼラチン化前でんぷん、グルコース・シロップ、カゼイン及びカゼイン分画から成る群から選択される1又は複数のキャリアと共に乾燥された、請求項1に記載の濃縮物を含む組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の濃縮物又は請求項9に記載の組成物を含む、乳児用栄養物、プロテインバー、スポーツ栄養物、ドリンク、健康サプリメント、医療用食品及び臨床栄養物から成る群から選択される栄養組成物。
【請求項12】
乳児用調製乳、フォローオン調製乳、乳児用シリアル製品、又はグローイングアップ・ミルクから成る群から選択される、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
天然発生のシアリルラクトースを含む乳製品の限外濾過、その後、同じ限外濾過膜を用いる限外濾過保持物のディアフィルトレーション、場合によりその後、逆浸透、及び又は/乾燥を含み、ここで前記膜は薄膜ポリアミドをベースとする膜である、請求項1に記載の濃縮物の調製方法。
【請求項14】
分子量カットオフ(MWCO)値が0.5-4 k ダルトンである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
分子量カットオフ(MWCO)値が2.5 kDである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記限外濾過、及びディアフィルトレーションが、2℃〜50℃の温度、及び1〜50barの送給圧力で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記限外濾過、及びディアフィルトレーションが、4℃〜15℃の温度、及び5〜20barの送給圧力で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記限外濾過、及びディアフィルトレーションが、約10℃の温度、及び約5〜7barの送給圧力で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が、逆浸透、結晶化、クロマトグラフィー、乾燥又はそれらの組み合わせ、あるいは1又は複数のキャリアと一緒の乾燥によってさらに処理される、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記乳製品がホエー製品である、請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記乳製品が、ホエー透過物、ホエー保持物、分画された乳保持物又は乳透過物から成る群から選ばれた製品である、請求項13に記載の方法。
【請求項22】
前記乳製品がラクトース製品からの母液である、請求項13に記載の方法。
【請求項23】
請求項13に記載の方法によって得られる濃縮物。

【公表番号】特表2009−514511(P2009−514511A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538258(P2008−538258)
【出願日】平成18年11月3日(2006.11.3)
【国際出願番号】PCT/DK2006/000607
【国際公開番号】WO2007/051475
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(508104282)
【Fターム(参考)】