説明

天然ガスの地上湧出抑制システム

【課題】 かん水に溶存している天然ガスを分離採取し、その上部層に分離したかん水を還元しシール層を形成することで、地表への天然ガスの湧出を防止する。
【解決手段】生産対象となる地層の上位層である天然ガスを溶存したかん水を含む深部帯水層7へ延長されて地中に埋設されてなる揚水井2と、揚水井2により汲み上げられたかん水から天然ガスを分離するガス−水分離器16と、ガス−水分離器16により天然ガスが分離された還元水を深部帯水層7に還元する還元井3とを備え、揚水井2は、150〜500mの深さであり、還元井3は、揚水井2よりも浅く構成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
地下に賦存する天然ガスが地上に湧出することを抑制するための天然ガスの地上湧出抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガスは、炭化水素を主成分とする天然に産する可燃性のガスであり、新たなエネルギー源として注目を集めている。特に、この天然ガスは、大気を汚染する硫黄酸化物や煤塵を発生せず、酸性雨や人体への影響が問題とされる窒素酸化物の発生も少ない。また、特に地球温暖化の原因とされる燃焼による二酸化炭素の発生量は、石炭や石油等の他の化石燃料と比較して格段に少ない。このため、天然ガスは、環境汚染を防止する観点においても、より有効な地下資源といえる。
【0003】
国内において生産される天然ガスは、水溶性天然ガスも含まれる。この水溶性天然ガスは、水溶性天然ガス鉱床としての帯水層から地下水(かん水)と共に産出する天然ガスである。水溶性天然ガス鉱床において、天然ガスは、高い圧力によってかん水に溶存しているが、これを地上に汲み上げると、天然ガスとかん水が分離する。
【0004】
このため、従来における水溶性天然ガスの採取システムでは、例えば特許文献1、2に示すように、帯水層に含まれるかん水を地上へ揚水し、これから天然ガスを分離採取し、その後これを帯水層に戻すことを行っていた。
【特許文献1】特開平6−146257号公報
【特許文献2】特開平6−50080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、水溶性天然ガス鉱床では、しばしば地表から天然ガスが湧出する。このような湧出するガスは上ガスとも呼ばれ、地下のガス貯留層から地層中の断層及びその周囲の割れ目を経由して地表へと上昇することになる。天然ガスの主成分は炭化水素であることから、地表から湧出した天然ガスにより農作物に悪影響を及ぼしたり、建物に進入し蓄積して火災や爆発事故などを引き起こす事例があるほか温室効果ガスであることから大気への放散を押さえる必要が生じている。このため、このような水溶性天然ガスが地下に賦存する地域においては、地表への天然ガスの湧出を防止する必要があるが、上述した特許文献1、2の開示技術では、かかる点について何ら考慮されていないという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、上述した課題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、地表への天然ガスの湧出による経済的被害を防止することが可能な天然ガスの地上湧出抑制システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1に係る発明は、上述した課題を解決するために、天然ガスを溶存したかん水を含む帯水層へ延長されて地中に埋設されてなる揚水井と、上記揚水井により汲み上げられたかん水から天然ガスを分離するガス分離手段と、上記ガス分離手段により天然ガスが分離された還元水を上記帯水層に還元する還元井とを備え、上記揚水井は、150〜500mの深さであり、上記還元井は、上記揚水井よりも浅く構成されてなることを特徴とする。
【0008】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の発明において、上記還元井は、上記揚水井よりも浅い地層に注入することを特徴とする。
【0009】
本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の発明において、上記還元井は、上記揚水井のストレーナーケーシング部上端の直上において、上記還元水によるシーリング層を形成させ、この形成させたシーリング層を介して地下からの天然ガスの浮上を抑制することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上述した構成からなる本発明では、かん水に含まれている天然ガスを分離除去することができる。また、上述した構成からなる本発明では、還元水によるシーリング層を地中において形成させることも可能となる。その結果、地下のガス貯留層から地層中の断層及びその周囲の割れ目から生じた天然ガスが地上へ浮上するのを、このシーリング層により抑制することが可能となる。特に天然ガスの主成分は炭化水素であることから、地表から湧出した天然ガスによる農作物に対する悪影響や、建物の火災・爆発事故の事例もあるが、本発明は、このような漏れ出る天然ガスをシーリング層でブロックすることができることから、このような弊害を除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、かん水に溶存している天然ガスを分離採取可能な分離採取システム1について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明を適用した分離採取システム1の全体図を示している。この分離採取システム1は、それぞれ天然ガスを溶存した地下水(かん水)を含む浅部帯水層6、深部帯水層7、さらにその下層の天然ガス貯留層8が地中に形成されている地盤に構築される。浅部帯水層6並びに深部帯水層7は、いわゆる水溶性天然ガス鉱床の最上層に位置する。ガス採取対象貯留層はかん水がほぼ海水と同程度の塩分濃度となる深度である。浅部帯水層6は深部帯水層7と比較して浅い深度において形成されている。これら浅部帯水層6並びに深部帯水層7に満たされているかん水に含まれている天然ガスは、メタンを主成分としているが、極めて少量のエタンやプロパンを含む場合もある。天然ガス貯留層8には、稼業対象の天然ガスが貯留されている。
【0013】
また、この図1に示すように、塩分濃度は、浅部帯水層6において最も低い。即ち、この浅部帯水層6は、ほぼ淡水で構成されている。これに対して深部帯水層7では、深度が深くなるにつれて徐々に塩分濃度が高くなる。そして、深部帯水層7よりも更に深度が深くなると、ほぼ海水と同程度の塩分濃度となり採取対象貯留層になる。
【0014】
浅部帯水層6の深度は、地表から150mに至るまでを、深部帯水層7の深度は、150m以下である。しかしながら、この浅部帯水層6、深部帯水層7の深度は、掘削地域によって差がある。特にこの深部帯水層7の深度は、250〜500mの深さである場合が多い。
【0015】
分離採取システム1は、揚水井2と、還元井3を備えている。揚水井2は、その下端2aが深部帯水層6へ延長されて地中に埋設されている。また、還元井3は、地上において天然ガスが分離された還元水を深部帯水層6へ還元する。揚水井2と還元井3を互いに近傍に構築し、これらを同時に動作させることにより、浅部帯水層6、深部帯水層7それぞれに含まれているかん水のトータル量を不変とすることが可能となる。その結果、地盤沈下を小さくすることが可能となる。
【0016】
この揚水井2には、圧入管11が接続されている。いわゆる揚水ポンプとしての役割を担う圧縮機12による動力に基づいてこの圧入管11を介して揚水井2からかん水を汲み上げる。揚水井2の上端並びに枝管の先端にはそれぞれバルブ13、14が配設されており、流量の調整自在とされている。また、この揚水井2により汲み上げられたかん水は、ガス−水分離器16へと送出される。ガス−水分離器16はいわゆる気液分離タンク等で構成され、分離されたガスは、ガス管20を介して抽出される。このガス管20への流量調整はバルブ15を介して実行される。また分離されたかん水は、還元井3へと送出されるが、この流量はバルブ18、19により制御される。そして、この天然ガスが分離されたかん水は、還元井3を介して地下へと送られることになる。
【0017】
また揚水井2の下部、並びに還元井3の下部には、それぞれストレーナーケーシング23、24が形成されている。ストレーナーケーシング23、24は、外側から内側へかけて貫通する多数の孔部で構成されたパイプである。このストレーナーケーシング23、24を介してかん水が流入、流出されることになる。またこのストレーナーケーシング23、24を介すことなく、管の底からかん水が流入、流出する場合もある。
【0018】
このような構成からなる分離採取システム1において、揚水井2は、150〜500mの深さで構成している。これは、深部帯水層7の深度に対応させたものとしている。また、還元井3は、揚水井2よりも浅く構成されてなる。即ち、この還元井3の下端3aは、揚水井2の下端2aよりも浅い位置になるように埋設されている。
【0019】
揚水井2は、150〜500mの深さで構成した理由は、当該深さにおいて滞留しているかん水において炭化水素が多く含まれており、これを揚水井2を介して汲み上げ、ガス−水分離器16において炭化水素を分離することでより高い収率を以って天然ガスを分離採取することが可能となる。
【0020】
また、揚水井2よりも浅く構成している還元井3から還元される還元水により、図1に示すように、還元水によるシーリング層31が地中において形成されることになる。この還元水によるシーリング層31は、主として還元水が高い密度を持って含まれた層であり、他の層と比較してより水圧が高くなっている。
【0021】
このような還元水に基づくシーリング層31を形成させることにより、以下に説明するような効果を奏する。
【0022】
図2に示すように、天然ガス35は、かん水に含まれている以外に、地下のガス貯留層から地層中の断層及びその周囲の割れ目から地表へと上昇することになる。この上昇してきた天然ガス35は、シーリング層31により地表への浮上が抑制されることになる。特にこのシーリング層31は、他の層と比較してより水圧が高くなっていることから、天然ガス35のような気体が浮上していくのを効果的にブロックすることが可能となる。特に天然ガスの主成分は炭化水素であることから、地表から沸出した天然ガスにより農作物に悪影響を及ぼす場合もあるが、本発明は、このような漏れ出る天然ガスをシーリング層31でブロックすることができることから、このような弊害を除去することが可能となる。
【0023】
なお、還元井3は、揚水井2の直上の深度に構成されてなることが望ましい。即ち、還元井3の下端3aは、揚水井2の下端3bよりも上に構成されてなることが望ましい。その理由として上位の貯留層の圧力を高くすることによりガスの遊離、上昇を抑えることがあげられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を適用した分離採取システムの全体図である。
【図2】還元水によるシーリング層を地中において形成させることによる効果について説明するための図である。
【符号の説明】
【0025】
1 分離採取システム
2 揚水井
3 還元井
6 浅部帯水層
7 深部帯水層
8 天然ガス貯留層
11 圧入管
12 圧縮機
13、14、15、18、19 バルブ
16 ガス−水分離器
23、24 ストレーナーケーシング
31 シーリング層
35 天然ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ガスを溶存したかん水を含む帯水層へ延長されて地中に埋設されてなる揚水井と、
上記揚水井により汲み上げられたかん水から天然ガスを分離するガス分離手段と、
上記ガス分離手段により天然ガスが分離された還元水を上記帯水層に還元する還元井とを備え、
上記揚水井は、150〜500mの深さであり、
上記還元井は、上記揚水井よりも浅く構成されてなること
を特徴とする天然ガスの地上湧出抑制システム。
【請求項2】
上記還元井は、上記揚水井よりも浅い地層に注入すること
を特徴とする請求項1記載の天然ガスの地上湧出抑制システム。
【請求項3】
上記還元井は、上記揚水井のストレーナーケーシング部上端の直上において、上記還元水によるシーリング層を形成させ、この形成させたシーリング層を介して地下からの天然ガスの浮上を抑制すること
を特徴とする請求項1又は2に記載の天然ガスの地上湧出抑制システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−293292(P2009−293292A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148517(P2008−148517)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(392000888)合同資源産業株式会社 (16)