説明

天然ゴムマスターバッチの製造方法

【課題】カーボンブラックの分散性に優れ、ゴム組成物に配合したときに、加工性、低発熱性及び耐疲労性を向上させることができる天然ゴムマスターバッチの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】天然ゴムラテックスと、カーボンブラックを水に分散させたスラリーとを混合し、得られた混合液に超音波を付与して天然ゴムマスターバッチを製造する方法において、照射する超音波の振幅を100μm以上で、好ましくは超音波の振幅を260μm以下とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムラテックスと、カーボンブラックとを用いた天然ゴムのウェットマスターバッチの製造方法及びそれを用いたゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より分散性や加工性に優れたゴムの製造方法として、特許文献1に示すように、天然ゴムラテックスとカーボンブラック等の充填剤スラリーとを混合し、凝固剤により天然ゴムと充填剤の混合物を凝固させ、得られた凝固物を水から分離する天然ゴムのマスターバッチの製造方法が知られている。
【0003】
上記製造方法においては、凝固物を得るために、酸や金属塩などの凝固剤を使用するため、最終ゴム製品中に凝固剤が残留し、ゴム特性に影響を与える可能性があった。このような不都合を解消する方法として、特許文献2に示すように、天然ゴムラテックスとカーボンブラックスラリーの混合物に超音波を付与して凝固物を得る方法が知られている。
【0004】
上記方法によれば、凝固剤を使用しないため、ゴム特性の低下を防ぎつつ、天然ゴムとカーボンブラックの分散性が良好な天然ゴムマスターバッチを得ることが可能となる。
【特許文献1】特許登録第2633913号公報
【特許文献2】特開2004−66204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2において、超音波の照射は専ら凝固剤の代りに凝固物を得るための使用にとどまっており、超音波の照射条件によって最終ゴム製品の特性がどのように変化するかについては全く検討されていない。
【0006】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、超音波照射条件を変化させることで、カーボンブラックの分散性に優れ、ゴム組成物に配合したときに、加工性、低発熱性及び耐疲労性を向上させることができる天然ゴムマスターバッチの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、天然ゴムラテックスと、カーボンブラックスラリーとを混合した混合液(以下、混合液と略する)に、振幅が100μm以上の超音波を照射して得られた凝固物を用いてゴム製品を作製した場合、振幅が100μm未満の超音波を照射して得られた凝固物を用いて作製したゴム製品に比べてゴム特性が著しく向上することを見いだして本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明にかかる天然ゴムマスターバッチの製造方法は、天然ゴムラテックスと、カーボンブラックを水に分散させたスラリーとを混合し、得られた混合液に振幅100μm以上の超音波を照射して天然ゴムとカーボンブラックの混合物を凝固させる工程を含むことを特徴とする。
【0009】
上記工程により得られた凝固物(マスターバッチ)は、ゴム組成物に配合したときに、加工性、低発熱性及び耐疲労性を向上させることが可能となる。照射する超音波の振動数は、20kHz〜100kHzが好ましく、20kHz〜28kHzがより好ましい。超音波の振幅は100μm以上であればよいが、振幅が大きくなりすぎると超音波のエネルギーにより混合液の温度が高くなりすぎ、天然ゴムとカーボンブラックとが不均一に凝固するおそれが生じる。したがって、照射する超音波の振幅は260μm以下であることが好ましい。不均一な凝固を抑制するには混合液の温度は30℃〜80℃に維持するのが好ましい。
【0010】
本発明に係る天然ゴムマスターバッチの製造方法においては、混合液を凝固させるために超音波照射に凝固剤を併用することも可能であるが、超音波照射だけでも天然ゴムとカーボンブラックとを効率よく凝固させることができる。したがって、上記工程を凝固剤の不存在下に行うことができ、これにより、凝固剤によるゴム製品の特性低下を防ぐことが可能となる。
【0011】
前述のごとく、振幅が100μm以上の超音波を照射することで得られた天然ゴムマスターバッチを用いたゴム組成物は、加工性、低発熱性及び耐疲労性に優れる。これらの特性が向上する要因としては、超音波のエネルギーは振幅の2乗に比例するため、振幅を100μm以上にすることで、カーボンブラックの凝集粒子の破壊が生じ、ミクロ的に天然ゴム粒子とカーボンブラック粒子との分散性がより向上するためと考えられる。
【0012】
以上説明したように、本発明により得られた天然ゴムマスターバッチを用いたゴム組成物は、加工性、耐疲労性及び低発熱性に優れるため、タイヤのドレッドゴム、サイドウォールゴムなどのタイヤ用ゴム組成物を始め、各種ゴム組成物に好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、天然ゴムラテックスと、カーボンブラックを水中に分散させたスラリーとを混合した混合液に振幅100μm以上の超音波を照射して天然ゴムとカーボンブラックの凝固物(マスターバッチ)を水から分離することで、このマスターバッチを用いたゴム組成物の加工性、低発熱性及び耐疲労性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明では、天然ゴムラテックスと、カーボンブラックを水中に分散させたスラリー(以下、カーボンブラックスラリーという)を混合する前に、先ず、天然ゴムラテックスと混合するカーボンブラックスラリーを調製することが必要となる。
【0015】
カーボンブラックスラリーは、カーボンブラックと水とを混合し、ホモジナイザー等の撹拌装置を使ってカーボンブラックの凝集粒子を粉砕しつつ水に分散させることにより調製される。スラリー中のカーボンブラック濃度としては、1重量%〜20重量%が好ましく、3重量%〜15重量%であることがより好ましい。なお、カーボンブラックとしては、ゴム配合用として知られているSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF等を使用することができるがこれに限定されるものではない。
【0016】
カーボンブラックスラリーと、天然ゴムラテックスとを混合するには、例えば、両者を混合した液にホモジナイザー等の撹拌装置を入れて撹拌分散させればよい。この混合液中の天然ゴム及びカーボンブラックの混合物を凝固させるには、混合液に振幅100μm以上、好ましくは100μm〜260μmで、振動数が20kHz〜100kHz、好ましくは20kHz〜28kHzの超音波を照射する。このとき、凝固剤として、蟻酸などの酸や、硫酸アルミニウムなどの金属塩を併用してもよい。
【0017】
以上のようにして得られた凝固物は、乾燥処理を行うことにより含有する水分を蒸発させることで最終的に天然ゴムマスターバッチが得られる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明するが、本発明をその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0019】
本実施例においては、4種類のカーボンブラックを用いて、それぞれカーボンブラックスラリーを調製し、これらを天然ゴムラテックスと混合した後、種々の振幅にて超音波を照射して天然ゴムマスターバッチを得た。また、比較のために、凝固剤として蟻酸又は硫酸アルミニウムを用いた場合について同様にマスターバッチを作製した。
【0020】
作製したマスターバッチに所定の他の成分を加えてゴム組成物を調製し、各ゴム組成物について分散性、加工性、耐疲労性及び発熱性の評価試験を行った。以下にその詳細を記す。
【0021】
[天然ゴムマスターバッチの作製]
使用したカーボンブラックは、東海カーボン製シースト9(N110)、シースト6(N220)、シースト300(N326)、シーストV(N660)の4種類である。カーボンブラックスラリーは、スラリー中のカーボンブラック量が5重量%になるように、予め計量したカーボンブラックと水とを混合し、みずほ工業社製卓上クイックホモミキサー:LR−1を用いて撹拌(11300rpm×2min)することにより調製した。
【0022】
天然ゴムラテックスとしては、レヂテックス社製濃縮ラテックス(DRC:Dry Rubber Content=60%)と、Golden Hope社製フィールドラテックス(DRC=30%)の2種類を使用した。これらの天然ゴムラテックスは、DRCが25%になるように調整したものを使用した。
【0023】
本実施例においては、各種類のカーボンブラックごとに、上記天然ゴムラテックス400重量部(うちゴム成分量100重量部)に対し、カーボンブラックスラリー1000重量部(うちカーボンブラック量50重量部)を、攪拌機を用いて混合し、こうして得た混合液を種々の条件で超音波照射を行った。超音波照射装置としては、照射する超音波の振幅に応じて、低振幅超音波装置:カイジョー製Phenix Legend75105型(100kHz)及び高振幅超音波装置:日本シイベルヘグナー製UP−400S,UP−200S(24kHz)を選択して使用した。超音波照射により得られた凝固物は120℃×120minで乾燥処理を行い、これにより天然ゴムマスターバッチを得た。
【0024】
上述のように、1種類のカーボンブラックに対して、超音波照射条件を変化させた複数の試料を1シリーズとして計4シリーズ作製し、超音波の振幅と、ゴム組成物の特性の関係を調べた。結果を図1〜図4に示す。また、図1〜図4においてプロットした評価結果のうちの一部を表1〜表4に掲載する。
【0025】
なお、比較のために、超音波を照射せずに混合液をホモミキサーによって撹拌して凝固させたもの(シリーズ1〜4の試料番号1)及び混合液に凝固剤を添加して撹拌することによって凝固物を作製したもの(シリーズ1〜4の試料番号2及び3)からも天然ゴムマスターバッチを作製した。
【0026】
具体的に、各シリーズにおいて、試料番号1は、みずほ工業社製卓上クイックホモミキサー:LR−1を用いて混合液を撹拌(11300rpm×2min)することで、凝固物を得た。また、試料番号2は凝固剤としてギ酸を使用し、試料番号3は凝固剤として硫酸アルミニウムを使用することで凝固物を得た。
【0027】
得られた各天然ゴムマスターバッチを用いて、ゴム組成物を調製した。ゴム組成物の配合は、天然ゴムマスターバッチ150重量部(うちゴム成分100重量部)に対し、ステアリン酸(日本油脂製)1重量部、老化防止剤(モンサント製6PPD)1重量部、亜鉛華(三井金属製亜鉛華1号)3重量部、ワックス(日本精蝋製)1重量部、硫黄(鶴見化学工業製)2重量部、促進剤(三新化学製CBS)1重量部を配合した。
【0028】
ゴム組成物は、用いたカーボンブラックの種類ごとにシリーズ1〜シリーズ4に分類して評価した。具体的に、シリーズ1では、カーボンブラックとしてN110を使用し、シリーズ2ではN220を、シリーズ3ではN326を、シリーズ4ではN660をそれぞれ使用した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
[評価試験]
各シリーズごとにゴム組成物の分散性、加工性、耐疲労性及び発熱性について評価を行った。なお、ゴム組成物の加硫条件は150℃×30minとした。
(1)分散性
ASTM D2663−69(B法)に準拠して測定した。なお、ASTM D2663−69(B法)によるゴム組成物中のカーボンブラックの分散性とは別に、表1〜表4には、天然ゴムマスターバッチ中の天然ゴムとカーボンブラックの分散性をフィリップス法により測定した結果を併記した。フィリップス法による分散性は、ディスパグレーター(Tech Pro社製)を用いてRCBメソッドのX値からカーボンブラックの分散性を評価した。この値が大きいほど分散性に優れていることを示す。
(2)耐疲労性
JIS K6270に準拠して測定し、後述する表1〜表4に示す各シリーズの試料番号1の特性値を100とした指数で表示した。指数が大きいほど耐疲労性が良好であることを示す。
(3)発熱性
JIS K6265に準拠して測定し、後述する表1〜表4に示す各シリーズの試料番号1の特性値を100とした指数で表示した。指数が小さいほど発熱温度が低く、低発熱性であることを示す。
(4)加工性
JIS K6300−1に準拠して測定し、後述する表1〜表4に示す各シリーズの試料番号1の特性値を100とした指数で表示した。指数が小さいほどムーニー粘度が低く、加工性が良好であることを示す。
【0034】
[評価結果]
図1〜図4及び表1〜表4によれば、カーボンブラックの種類にかかわらず、超音波の振幅が100μm以上になると、ゴム組成物の加工性、耐疲労性及び低発熱性が大幅に向上していることがわかる。なお、ASTM D2663−69(B法)による分散性については、超音波の振幅が100μm以上でも微増にとどまっているが、これはもともと振幅100μm未満のものでも分散性はすでに100に近い値を示しており、相対的な差が出にくいためと思われる。
【0035】
一方、フィリップス法による天然ゴムマスターバッチの分散性では、照射する超音波の振幅が100μm以上と、それ未満とでは値に大きな差が生じている。このことから、照射する超音波の振幅が100μm以上になるとゴム組成物の諸特性が向上するのは、超音波による凝固物生成時に、その大きなエネルギーによって、カーボンブラック凝集体の破壊が同時に進行するためと考えられる。
【0036】
また、シリーズ1〜4において、試料番号13及び14に示すように、カーボンブラックスラリーに分散剤等の添加物を配合してもよいし、また、用いる天然ゴムラテックスの種類は特に限定されず、濃縮ラテックスのほかにもフィールドラテックスを用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】超音波照射により得られたマスターバッチを用いたゴム組成物の物性と、超音波の振幅の関係を示すグラフ(カーボンブラックN110使用時)
【図2】超音波照射により得られたマスターバッチを用いたゴム組成物の物性と、超音波の振幅の関係を示すグラフ(カーボンブラックN220使用時)
【図3】超音波照射により得られたマスターバッチを用いたゴム組成物の物性と、超音波の振幅の関係を示すグラフ(カーボンブラックN326使用時)
【図4】超音波照射により得られたマスターバッチを用いたゴム組成物の物性と、超音波の振幅の関係を示すグラフ(カーボンブラックN660使用時)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスと、カーボンブラックを水に分散させたスラリーとを混合し、得られた混合液に振幅100μm以上の超音波を照射して天然ゴムとカーボンブラックの混合物を凝固させる工程を含むことを特徴とする天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記超音波の振幅が260μm以下であることを特徴とする請求項1記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記混合液の温度を30℃〜80℃に維持することを特徴とする請求項1又は2記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項4】
前記工程を凝固剤の不存在下に行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の天然ゴムマスターバッチの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により製造された天然ゴムマスターバッチ。
【請求項6】
請求項5記載の天然ゴムマスターバッチを用いたゴム組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−150486(P2010−150486A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333143(P2008−333143)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】